説明

弁装置

【課題】容易な手段の採用により、部品点数の増加、コスト増大を抑制しつつ、作動中において圧力ヒステリシス発生、球体および弁座の磨耗発生、球体弁座間のシール性低下を防止することができる弁装置を提供する。
【解決手段】コイルばね6を、オープンエンド等ピッチコイルばねとして形成し、且つその巻き数を(n+0.5)巻き(nは整数)とした。これにより、荷重・変位特性を常に線形に保てるので、燃料圧力ヒステリシスの発生を抑制できる。また、巻き数を(n+0.5)巻きとすることで、コイルばねの軸方向における剛性のコイルの周方向における分布状態をより均一なものにできるので、コイルばね6単体の荷重偏心およびプレッシャレギュレータ1に組み付けた時の偏心を抑制して、バルブ3および弁座21の磨耗発生、両者間のシール性低下を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の圧力による流体力と弾性部材による付勢力との差によって弁の開閉を行うように構成された弁装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の弁装置としては、たとえば、燃料通路途中に設けられ、燃料通路に臨む弁座と、弁座と協働して燃料通路を開閉する球状の弁体と、調圧ばねの付勢力を弁座に向かう方向に弁体へ伝達するキャップと、を備え、弁体に作用する流体の圧力による流体力と調圧ばねによる付勢力との差によって弁の開閉を行うように構成された弁装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
別の従来の弁装置としては、流体通路途中に設けられ、流体通路に臨む円錐状の弁座と、弁座の円錐面に当接可能な球体と、球体を保持するとともに、球体が弁座へ着座および離間する方向に移動可能な軸部材と、球体を弁座に当接させる方向に軸部材に当接付勢する圧縮コイルばねと、を備え、軸部材を動かして球体と弁座との距離を変えて、弁座の球体と反対側の流体圧力を予め設定された低い圧力に制御する減圧弁において、球体を軸部材に、球体と弁座の着座・離間方向と直交する全方向に移動可能に係合させたものがある(特許文献2)。
【0004】
特許文献2に記載される弁装置では、圧縮コイルばね単体において荷重偏心が有る、あるいは圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じて球体と弁座との同軸度が低下しても、球体と弁座との良好な同軸度を維持するように保持部が移動するという、いわゆる調心機能を果たすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−138785号公報
【特許文献2】特開2001−208239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、従来の弁装置である特許文献1に記載された弁装置では、球状の弁体は、キャップに設けられた球面状の凹部に密着し位置決めされている。このため、ばね単体で荷重に偏りがある場合、あるいは組み付け時に偏心が生じた場合には、弁体が弁座に着座する際に弁座に対して偏荷重が生じる。そうすると、弁体の低リフト時、つまり弁体の移動方向において弁体と弁座が重なっているときに、流量調節作動において圧力ヒステリシスが生じる可能性がある。また、弁体が弁座に対して着座・離間を繰り返す際に、弁体は弁座の径方向へも移動するため、弁体および弁座が磨耗して、弁体・弁座間のシール性が損なわれる可能性もある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、その目的は、容易な手段の採用により、部品点数の増加、コスト増大を抑制しつつ、作動中において圧力ヒステリシス発生、球体および弁座の磨耗発生、球体弁座間のシール性低下を防止することができる弁装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の弁装置は、流体が流れる通路の途中に設けられる円環状の弁座と、通路内且つ弁座よりも下流側に弁座に当接可能に配置される弁体と、弁体を弁座に当接する方向へ付勢するコイルばねと、を備え、弁体が通路内を流れる流体から受ける力である流体力は弁体に対して弁座から離れる方向に作用し、流体力の大きさがコイルばねによる付勢力の大きさを上回ると弁体が弁座から離れる方向へ移動し、流体力の大きさがコイルばねによる付勢力の大きさを下回ると弁体が弁座に当接する方向へ移動するように構成された弁装置であって、コイルばねはオープンエンド等ピッチばねであり、且つその有効巻き数は(n+0.5)巻き(nは整数)であり、コイルばねの両端部にはコイルばねと同軸上にキャップが嵌合装着され、キャップはその外周にコイルばねを支持するためのオープンエンド等ピッチばねと同一ピッチの螺旋状突起または螺旋状溝を備え、キャップは弁体と嵌合可能に且つコイルばねと同軸上に形成された孔を備え、弁体はキャップの弁座側の端部に嵌合保持され、弁体は孔内において孔の径方向に移動可能であることを特徴としている。
【0009】
従来の弁装置に用いられるコイルばねは、端部の略一巻きを隣接する一巻き側に折り曲げ、コイルばねの端面が研削によりコイルばねの軸方向に直交する平面を成すように形成されてなる、いわゆるクローズエンドタイプのコイルばねが用いられている。このようなコイルばねは、コイルの両端部においてコイルピッチが小さくなっているために、コイルばねに作用する荷重の増大に連れてコイルばねが撓むと、ばねとして作用する有効巻き数が減少する。そうすると、荷重・変位特性が非線形となり、弁装置の作動中において圧力ヒステリシスが生じやすくなる。また、有効巻き数が整数の場合、有効巻き部の始点と有効巻き部の終点とは、コイルばねの周方向において同一角度位置にある。言い換えると、コイルの軸方向から見たときに、有効巻き数部の始点と有効巻き部の終点とは、コイルの軸方向において重なっている。このため、コイルの軸方向からコイルばねを見ると、コイルの周方向における有効巻き部の両端では、コイルを形成する素線が(有効巻き数+1)本重なっている。一方、コイルの周方向における有効巻き部の両端を除いた部分では、コイル素線が(有効巻き数)本だけ重なっている。すなわち、コイル素線の重なり本数が、コイルの周方向において有効巻き部の両端部である一点のみにおいて、他の部分よりも1本多くなっている。このため、有効巻き数が整数の場合、コイルばねの軸方向における剛性がコイルの周方向各部において不均一になり、コイルばね単体において荷重偏心が生じたり、あるいは圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じたりして、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を招く恐れがある。しかるに、従来の弁装置では、コイルばねの有効巻き数を特に規定していない。したがって、従来の弁装置では、上述した問題が発生する、つまり、コイルばね単体において荷重偏心が生じたり、あるいは圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じたりして、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を招く可能性がある。
【0010】
ここで、コイルばねの「有効巻き数」の定義について説明する。コイルばねの「有効巻き数」とは、コイルばねが弁装置に組みつけられた状態において、弾性変形可能且つばねとして作用可能な部分の巻き数である。一般に、オープンエンドタイプのコイルばねが弁装置に組み込まれる場合、コイルばねを保持する部材であるキャップ等が、コイルばねの両端に装着される。このとき、コイルばねの端部のたとえば一巻きはキャップと密着しており、コイルばね両端のキャップと密着しているこれら各一巻きは、弁装置の作動時において、弾性変形せず、ばねとして機能していない。コイルばね両端のキャップと密着しているこれら各一巻きを除いた部分が有効巻き部であり、有効巻き部の巻き数が「有効巻き数」である。
【0011】
本発明の請求項1に記載の弁装置は、オープンエンド等ピッチコイルばねを用いるとともに、その有効巻き数を(n+0.5)巻き(nは整数)としている。
【0012】
このような構成においては、コイルの軸方向からコイルばねを見たとき、コイルの周方向において有効巻き数部の始点から有効巻きの終点までの180度の間では、コイル素線の重なり本数が(有効巻き数+1)本となっている。一方、上述した180度部分を除いた残りの部分では、コイル素線の重なり本数が(有効巻き数)本となっている。これにより、コイルばねの軸方向における剛性のコイルの周方向における分布状態は、有効巻き数が整数である場合と比べて、より均一なものとなる。したがって、コイルばね単体において荷重偏心が生じ難くなるとともに、圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じ難くなるので、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を防止することができる。
【0013】
さらに、本発明の請求項1に記載の弁装置では、弁体は孔内において孔の径方向に移動可能な構成としているので、万が一、圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生る、あるいは各部品寸法精度や組付け時の位置ずれ等の影響で、それにより弁体と弁座の同軸度がくずれても、弁体がキャップの孔内において孔の径方向に移動して弁座と同軸上となるように位置を修正することができる。これにより、弁体と弁座の同軸度を良好に維持して弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を防止することができる。
【0014】
以上により、本発明の請求項1に記載の弁装置によれば、コイルばねとして、オープンエンド等ピッチコイルばねを用い、且つその有効巻き数を(n+0.5)巻き(nは整数)とする、という容易な手段の採用により、部品点数の増加、コスト増大を抑制しつつ、作動中において圧力ヒステリシス発生、球体および弁座の磨耗発生、球体弁座間のシール性低下を防止することができる弁装置を提供することができる。さらに、弁体は孔内において孔の径方向に移動可能な構成とすることにより、弁体と弁座の同軸度を常に良好に維持できるので、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を防止することが可能な弁装置を提供できる。
【0015】
本発明の請求項2に記載の弁装置は、弁体は球体と球体の外周に固定された環状板とを備え、環状板の弁座と反対側の面がキャップの端面と当接し、球体における環状板よりも弁座側の部分が弁座に当接し、球体における弁座と反対側の部分が孔内に嵌合することを特徴としている。
【0016】
上述した構成によれば、キャップの孔内において孔の径方向に移動可能な弁体・弁座構造を容易に形成することができる。
【0017】
本発明の請求項3に記載の弁装置は、環状板においてキャップの端面と当接する面であるガイド面の輪郭線であるガイド面輪郭線は端面の輪郭線である端面輪郭線の外側にあることを特徴としている。
【0018】
弁装置を構成する各部品の寸法精度や組付け時の位置ずれ等の影響で、弁体と弁座との同軸度が低下した場合、本発明に係る弁装置では、弁体がキャップの孔内において孔の径方向に移動して、弁体が弁座と同軸上となるように位置を修正する。この弁体の姿勢修正は、弁体の環状板がキャップの端面上を摺動することにより行われる。この、弁体の環状板とキャップの端面との摺動について考える。先ず、環状板においてキャップの端面と当接する面であるガイド面の輪郭線であるガイド面輪郭線が、キャップの端面の輪郭線である端面輪郭線の内側にある場合を考える。この場合、環状板が端面に対して傾斜すると、環状板の角が端面に当たる。そうすると、環状板の角が端面に食い込むような状態、言い換えると環状板の角が端面に引っかかるような状態となり、環状板が滑らかに摺動することが妨げられてしまう。これに対して、本発明の請求項3に記載の弁装置のように、環状板においてキャップの端面と当接する面であるガイド面の輪郭線であるガイド面輪郭線が、キャップの端面の輪郭線である端面輪郭線の外側にあるような構成とすれば、環状板が端面に対して傾斜すると端面の角が環状板のガイド面に当たるが、環状板はそのまま摺動し続けることができる。
【0019】
なお、キャップの端面の外周に面取り加工が施されている場合は、端面輪郭線は、キャップの外周線ではなく、端面においてガイド面と直接接する面である平面部の輪郭線、言い換えると、端面と面取り面(円錐面等)との交線となる。
【0020】
したがって、本発明の請求項3に記載の弁装置の構成によれば、部品点数の増加、コスト増大を抑制しつつ、作動中において圧力ヒステリシス発生、球体および弁座の磨耗発生、球体弁座間のシール性低下を防止することができる弁装置を提供することができると同時に、万が一弁体と弁座との同軸度が低下した場合でも、弁体がキャップに対して滑らかに移動して速やかに両者の同軸度を良好に維持することができる。
【0021】
本発明の請求項4に記載の弁装置は、球体と環状板とは球体を環状板の内周に圧入することにより固定されることを特徴としている。
【0022】
これにより、弁体を容易に且つ高精度な形状に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による弁装置であるプレッシャレギュレータ1が装着された燃料供給モジュール100の部分断面図である。
【図2】プレッシャレギュレータ1の拡大断面図である。
【図3】図2中のIII矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による弁装置の一実施形態を、自動車の燃料タンク内に設置されて燃料タンク内の燃料を加圧してエンジンへ供給する役割を果たしている燃料供給モジュールに取り付けられた弁装置であるプレッシャレギュレータ1に適用した場合を例に、図面に基づいて説明する。
【0025】
燃料供給モジュール100は、図示しない電動式燃料ポンプおよび図示しない燃料フィルタをハウジング101内に一体的に保持して形成され、自動車の燃料タンク102に取り付けられている。燃料供給モジュール100において、図示しない電動式燃料ポンプおよび燃料フィルタは、燃料タンク102の開口孔102aを介して燃料タンク102内に配置され、燃料供給モジュール100は、ハウジング101のフランジ101cを介して燃料タンク102に固定されている。電動式燃料ポンプ(図示せず)により吸入・加圧された燃料は、図示しない燃料フィルタを通過して濾過された後、燃料通路101aを送出口103へ向かって流れる。燃料供給モジュール100の送出口103には、図示しない燃料配管が接続され、燃料供給モジュール100から送出された燃料をエンジン(図示せず)へ導いている。
【0026】
本発明の一実施形態による弁装置としてのプレッシャレギュレータ1は、図1に示すように、燃料供給モジュール100のハウジング101が備える燃料通路101aの途中に設置されている。詳しくは、図1に示すように、ハウジング101に燃料通路101aと燃料タンク102内部空間とを連通するように設けられている貫通孔101bに圧入固定されている。
【0027】
プレッシャレギュレータ1は、図1に示すように、ケーシング5、弁座部材2、弁体であるバルブ3、コイルばね6、キャップ4およびカバー7を備えている。
【0028】
ケーシング5は、たとえば、鋼板にプレス加工を施して形成されている。ケーシング5は、図1に示すように、その底部側に形成された小径部51、および小径部51と同軸上に形成された大径部52を備えている。ケーシング5の底部には、貫通孔53が小径部51と同軸上に形成されている。プレッシャレギュレータ1は、ケーシング5の小径部51が燃料供給モジュール100のハウジング101の貫通孔101bに圧入されて、燃料供給モジュール100に固定されている。また、ケーシング5の大径部52の外周面とハウジング101の貫通孔101bの内周面との間には、図1に示すように、O−リング9が装着されている。これにより、燃料通路101a内を流れる燃料がプレッシャレギュレータ1のケーシング5とハウジング101の貫通孔101bとの間を通って燃料タンク102内へ流出することを阻止している。ケーシング5の大径部52の外周には、図1に示すように、バックアップリング8が嵌合装着されている。このバックアップリング8は、大径部52を貫通孔101b内の適正位置に保持するとともに、O−リングの移動を規制してシール機能を維持する役目を果たしている。
【0029】
ケーシング5の小径部51の内周には、図1に示すように、弁座としての弁座部材2が圧入固定されている。弁座部材2は、たとえば金属材料から円環状に形成され、内周孔である貫通孔22は、図1に示すように、ケーシング5の貫通孔53と連通している。弁座部材2において、貫通孔53と反対側の貫通孔22の周縁部には、後述する弁体であるバルブ3と当接可能な弁座としての弁座21が形成されている。
【0030】
弁体であるバルブ3は、図1に示すように、球体であるボール31と環状板であるリングプレート32とから構成されている。ボール31は、たとえば金属材料から球状に形成されている。リングプレート32も、たとえば金属材料から平座金状に形成されている。リングプレート32の内周孔である貫通孔32bは、その直径寸法がボール31の直径寸法よりもわずかに小さく形成されている。これにより、ボール31をリングプレート32の貫通孔32bに圧入する、詳しくは、ボール31の直径部分がリングプレート32の板厚方向(図1中における上下方向)範囲内にあるように圧入すると、ボール31とリングプレート32とは強固に固定されてバルブ3を形成する。プレッシャレギュレータ1の完成状態において、リングプレート32において弁座部材2とは反対側の面は、後述するキャップ4の端面41と密着するガイド面32aとなる。このガイド面32aとボール31とが交わって形成される円の直径は、図2に示すように、直径Dである。
【0031】
コイルばね6は、金属材料、たとえば、ばね鋼線等から、オープンエンドの等ピッチコイルばねとして形成されている。
【0032】
コイルばね6の両端には、それぞれに、図1に示すようにキャップ4が装着されている。キャップ4は、たとえば樹脂材料から形成されている。キャップ4は、略円筒状に形成され、中央には、孔である貫通孔42がキャップ4と同軸上に形成されている。貫通孔42の直径寸法は、図2に示すように、直径dである。ここで、貫通孔42の直径dは、バルブ3におけるガイド面32aとボール31との交線である円の直径Dよりも、わずかに大きく形成されている。また、キャップ4は、図2に示すように、コイルばね6のコイル内周に隙間を有して嵌合可能に形成された円筒面44の外周側に、コイルばね6のピッチと等しいピッチで設けられた螺旋状面43を備えている。この螺旋状面43はキャップ4の周方向において360度に亘って設けられている。これにより、コイルばね6の両端にキャップ4が装着されると、コイルばね6は、その巻き始め端から360度において、言い換えるとコイル一巻き分だけ螺旋状面43に当接し、且つ巻き終わり端から360度において、言い換えるとコイル一巻き分だけ螺旋状面43に当接している。したがって、コイルばね6の有効巻き数Neとしての、コイルばね6がプレッシャレギュレータ1に装着された状態においてコイルばねとして作用可能な巻き数は、言い換えると弾性変形可能巻き数は、コイルばね6の総巻き数Naから両端それぞれの一巻きを引いた数となる。すなわち、Ne=Na−2、である。また、キャップ4のコイルばね6側と反対側の端部には、図2に示すように、面取り面45が形成されている。
【0033】
本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1においては、コイルばね6の有効巻き数Neを、[n+0.5]巻きとしている。ここで、nは整数である。つまり、コイルばね6をその軸方向から見ると、巻き始め端および巻き終わり端であるコイルの両端は、コイルの周方向において180度ずれた位置にある。プレッシャレギュレータ1の完成状態においては、コイルばね6は圧縮状態となっている。
【0034】
コイルばね6の両端にキャップ4が装着された状態で、弁座部材2側のキャップ4には、図1に示すように、バルブ3が装着されている。すなわち、図2に示すように、キャップ4の貫通孔42内にバルブ3のボール31の一部、つまり、リングプレート32よりも図2において下方に突き出している部分、が貫通孔42内に嵌合している。一方、コイルばね6の両端にキャップ4が装着された状態で、弁座部材2側とは反対側のキャップ4は、図1に示すように、カバー7に保持されている。カバー7は、たとえば、鋼板にプレス加工を施して形成されている。カバー7は、図1に示すように中央部に凹部を備え、この凹部内にキャップ4が嵌合保持されている。同時に、カバー7は、その外周部がケーシング5の大径部52内に圧入されてケーシング5に固定されている。
【0035】
次に、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1の組立方法について説明する。
【0036】
先ず、ケーシング5の小径部51内に弁座部材2を圧入し固定する。
【0037】
次に、コイルばね6の両端それぞれにキャップ4を装着する。このとき、コイルスプリング43の端部が螺旋状突起43の終端に完全に到達するまで、コイルばね6とキャップ4の螺旋状突起43とを螺合させる。そうすると、コイルばね6はその両端部それぞれにおいて、コイルの周方向において360度だけ、言い換えるとコイル一巻きだけキャップ4の螺旋状突起43とコイルの軸方向において密着する。
【0038】
次に、両端にキャップ4が装着されたコイルばね6において、一方のキャップ4にバルブ3を嵌合する。このとき、バルブ3のリングプレート32のガイド面32aとキャップ4の端面とを密着させる。
【0039】
次に、両端にキャップ4が装着され且つバルブ3が嵌合されたコイルばね6において、バルブ3が嵌合去れないほうのキャップ4をカバー7の凹部に嵌合する。続いて、この状態で、バルブ3をケーシング5内へ挿入し、バルブ3のボール31を弁座部材2の弁座21に密着させ、続いて、コイルばね6を圧縮しつつ、カバー7をケーシング5の大径部52内に圧入する。以上で、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1の組立が完了する。
【0040】
次に、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1の各特徴的構成の作用効果について説明する。
【0041】
第一に、コイルばね6を、オープンエンド等ピッチコイルばねとして形成し、且つその有効巻き数Neを(n+0.5)巻き(nは整数)としたことの作用効果について説明する。
【0042】
従来の弁装置に用いられるコイルばねは、端部の略一巻きを隣接する一巻き側に折り曲げ、コイルばねの端面が研削によりコイルばねの軸方向に直交する平面を成すように形成されてなる、いわゆるクローズエンドタイプのコイルばねが用いられている。このようなコイルばねは、コイルの両端部においてコイルピッチが小さくなっているために、コイルばねに作用する荷重の増大に連れてコイルばねが撓むと、ばねとして作用する有効巻き数が減少する。そうすると、荷重・変位特性が非線形となり、弁装置の作動中において圧力ヒステリシスが生じやすくなる。また、有効巻き数が整数の場合、有効巻き部の始点と有効巻き部の終点とは、コイルばねの周方向において同一角度位置にある。言い換えると、コイルの軸方向から見たときに、有効巻き数部の始点と有効巻き部の終点とは、コイルの軸方向において重なっている。このため、コイルの軸方向からコイルばねを見ると、コイルの周方向における有効巻き部の両端では、コイルを形成する素線が(有効巻き数+1)本重なっている。一方、コイルの周方向における有効巻き部の両端を除いた部分では、コイル素線が(有効巻き数)本だけ重なっている。すなわち、コイル素線の重なり本数が、コイルの周方向において有効巻き部の両端部である一点のみにおいて、他の部分よりも1本多くなっている。このため、有効巻き数が整数の場合、コイルばねの軸方向における剛性がコイルの周方向各部において不均一になり、コイルばね単体において荷重偏心が生じたり、あるいは圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じたりして、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を招く恐れがある。しかるに、従来の弁装置では、コイルばねの有効巻き数を特に規定していない。したがって、従来の弁装置では、上述した問題が発生する、つまり、コイルばね単体において荷重偏心が生じたり、あるいは圧縮コイルばね組み付け時に偏心が生じたりして、弁体および弁座の磨耗発生、弁体・弁座間のシール性低下を招く可能性があった。
【0043】
これに対して、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1では、コイルばね6として、オープンエンドの等ピッチコイルばねを用いるとともに、その有効巻き数Neを(n+0.5)巻き(nは整数)としている。
【0044】
オープンエンド等ピッチコイルばねを用いると、コイルばねが撓んでも、ばねとして作用する有効巻き数が変化しない。これにより、荷重・変位特性を常に線形に保つことができ、プレッシャレギュレータ1の作動中における燃料圧力ヒステリシスの発生を抑制することができる。
【0045】
次に、有効巻き数Neを(n+0.5)巻き(nは整数)としたことの効果を説明する。
【0046】
このような構成においては、コイルの軸方向からコイルばねを見たとき、コイルの周方向において有効巻き数部の始点からコイル巻き方向において有効巻き数部の終点までの180度の間では、コイルの軸方向におけるコイル素線の重なり本数は、(n+1)本である。一方、上述した180度から360度までの部分では、コイル素線の重なり本数は、n本となっている。これにより、コイルばねの軸方向における剛性のコイルの周方向における分布状態は、有効巻き数が整数である場合と比べて、より均一なものとなる。したがって、コイルばね6単体において荷重偏心が生じ難くなるとともに、コイルばね6をプレッシャレギュレータ1に組み付けた時に径方向への偏心が生じ難くなるので、バルブ3および弁座21の磨耗発生、両者間のシール性低下を防止することができる。
【0047】
次に、バルブ3が、キャップ4の貫通孔42内に嵌合した状態で貫通孔42の径方向に移動可能としたことの作用効果について説明する。プレッシャレギュレータ1の組立工程において、各部品の寸法精度や組付け時の位置ずれ等により、バルブ3と弁座21との同軸度が低下する可能性がある。このような事態が発生しても、バルブ3がキャップ4の貫通孔42内において貫通孔42の径方向に移動可能であれば、プレッシャレギュレータ1の作動中にバルブ3が貫通孔42の径方向に移動し、それにより、バルブ3と弁座21との同軸度を高めることができる。このようにして、バルブ3と弁座21との同軸度を常に良好に維持できるので、バルブ3と弁座21の磨耗発生、バルブ3と弁座21間のシール性低下を防止することができる。
【0048】
第2に、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1では、バルブ3と弁座21の装着状態において、バルブ3のリングプレート32においてキャップ4の端面41と当接する面であるガイド面32aの輪郭線であるガイド面輪郭線32aaが、図2に示すように、端面41の輪郭線である端面輪郭線41aの外側にあるように設定されている。ここで、キャップ4のコイルばね6と反対側の端部には、図2に示すように、面取り面45が設けられている。この場合、端面41の輪郭線である端面輪郭線41aは、端面41と面取り面45との交線である。以下に、このような構成の作用効果について説明する。
【0049】
プレッシャレギュレータ1を構成する各部品の寸法精度や組付け時の位置ずれ等の影響で、バルブ3と弁座21との同軸度が低下した場合、本発明に係るプレッシャレギュレータ1では、バルブ3がキャップ4の貫通孔42内において貫通孔42の径方向に移動可能なので、バルブ3と弁座21との同軸度が良好な位置関係が得られるまで、バルブ3のリングプレート32がキャップ4の端面41上を摺動する。この場合、ガイド面輪郭線32aaが、端面輪郭線41aの内側にある場合を考える。このような状態においては、バルブ3がキャップ4に対して傾斜する、つまりバルブ3の軸線とキャップ4の軸線とが平行ではなく交差するように傾斜すると、リングプレート32の角、すなわちガイド面輪郭線32aa、が端面41に当たる。そうすると、リングプレート32の角が端面41に食い込む、言い換えるとリングプレート32の角が端面41に引っかかるような状態となり、リングプレート32が滑らかに端面41上を摺動することが妨げられてしまう。このため、バルブ3と弁座21との同軸度が良好に維持することが困難となる。これに対して、本発明の一実施形態によるプレッシャレギュレータ1のように、ガイド面輪郭線32aaが端面輪郭線41aの外側にあるように設定すれば、リングプレート32が端面41に対して傾斜した場合、端面41の角がガイド面32aに当たるものの、リングプレート32はそのまま摺動し続けることができる。したがって、バルブ3と弁座21との同軸度が低下した場合に、確実にバルブ3を、バルブ3と弁座21との同軸度が良好な位置関係が得られるまで、端面41上を摺動することができる。これにより、バルブ3と弁座21との同軸度を常に良好に維持できるので、バルブ3と弁座21の磨耗発生、バルブ3と弁座21間のシール性低下を防止することができる。
【0050】
なお、上述した実施形態は、本発明による弁装置を、自動車の燃料タンク内に設置されて燃料ポンプから吐出された燃料の圧力を調整するプレッシャレギュレータ1に適用したものであるが、適用対象流体を自動車用燃料に限定する必要はなく、他の種類の流体を扱う装置に適用してもよい。さらには、弁装置が搭載される対象を自動車に限定する必要はなく、他の種類の機器に搭載される弁装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 プレッシャレギュレータ(弁装置)
2 弁座部材
21 弁座
22 貫通孔
3 バルブ(弁体)
31 ボール(球体)
32 リングプレート(環状板)
32a ガイド面
32aa ガイド面輪郭線
32b 貫通孔(内周)
4 キャップ
41 端面
41a 端面輪郭線
42 貫通孔(孔)
43 螺旋状面
44 円筒面
45 面取り面
5 ケーシング
51 小径部
52 大径部
53 貫通孔
6 コイルばね
7 カバー
71 貫通孔
8 バックアップリング
9 O−リング
100 燃料供給モジュール
101 ハウジング
101a 燃料通路(通路)
101b 貫通孔
101c フランジ
102 燃料タンク
102a 開口孔
103 送出口
D 外径
d 内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる通路の途中に設けられる円環状の弁座と、
前記通路内且つ前記弁座よりも下流側に前記弁座に当接可能に配置される弁体と、
前記弁体を前記弁座に当接する方向へ付勢するコイルばねと、を備え、
前記弁体が前記通路内を流れる流体から受ける力である流体力は前記弁体に対して前記弁座から離れる方向に作用し、
前記流体力の大きさが前記コイルばねによる付勢力の大きさを上回ると前記弁体が前記弁座から離れる方向へ移動し、前記流体力の大きさが前記コイルばねによる付勢力の大きさを下回ると前記弁体が前記弁座に当接する方向へ移動するように構成された弁装置であって、
前記コイルばねはオープンエンド等ピッチばねであり、且つその巻き数は(n+0.5)巻き(nは整数)であり、
前記コイルばねの両端部には前記コイルばねと同軸上にキャップが嵌合装着され、
前記キャップはその外周に前記コイルばねを支持するための前記オープンエンド等ピッチばねと同一ピッチの螺旋状突起または螺旋状溝を備え、
前記キャップは前記弁体と嵌合可能に且つ前記コイルばねと同軸上に形成された孔を備え、
前記弁体は前記キャップの前記弁座側の端部に嵌合保持され、
前記弁体は前記孔内において前記孔の径方向に移動可能であることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弁体は球体と前記球体の外周に固定された環状板とを備え、
前記環状板の前記弁座と反対側の面が前記キャップの端面と当接し、
前記球体における前記環状板よりも弁座側の部分が前記弁座に当接し、
前記球体における前記弁座と反対側の部分が前記孔内に嵌合することを特徴とする請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記環状板において前記キャップの前記端面と当接する面であるガイド面の輪郭線であるガイド面輪郭線は前記端面の輪郭線である端面輪郭線の外側にあることを特徴とする請求項2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記球体と前記環状板とは前記球体を前記環状板の内周に圧入することにより固定されることを特徴とする請求項2または請求項3のどちらか一方に記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38566(P2011−38566A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184967(P2009−184967)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000161840)京三電機株式会社 (99)
【Fターム(参考)】