説明

引張試験機

【課題】人手による様々な角度での引っ張りに近似する方法により、引裂帯の引張荷重を客観的に正確に計測できる引張試験機を提供し、開封性と強度のバランスに優れた段ボール箱等を製造できるようにする。
【解決手段】紙材から成る試験体を所定の位置に保持する保持部2と、紙材に形成された引裂帯Tの始端部を折り返して把持するチャック4と、チャック4で把持された引裂帯Tをその折り返し方向へ引っ張る引張装置3と、引裂帯Tの引っ張りによる紙材の切断に必要な荷重を測定する計測器5とを備え、引張装置3を揺動させることにより、引裂帯Tの紙材に対する引張角度を変更できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙箱の開封性等の評価のため、引裂帯の引っ張りによる紙材の切断に必要な荷重を測定する引張試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図13に示すように、ビール等の飲料缶の集合包装に使用される段ボール製ラップラウンドケースCの周壁には、開封用の引裂帯Tが設けられ、その始端部tが切込により形成されている。引裂帯Tとしては、段ボールの裏ライナのみを切断したライナカットの切目線tを2本平行に入れて形成するものが多用されている。
【0003】
この引裂帯Tを引っ張り切目線tに沿って段ボールを切断する際に必要な荷重は、開封のしやすさを考慮すると、小さいほうが好ましいが、流通過程での落下に伴う破断や積上荷重による胴膨れを防止するためには、あまり小さくすることはできない。
【0004】
このため、ラップラウンドケースの設計に際しては、開封性と強度の良好なバランスを得るべく、段ボールのライナ及び中しん原紙やその接着剤に種々のものを選択し、切目線の間隔等を調整して、引裂帯の引張試験を行う必要がある。
【0005】
このような引張試験は、従来、機械を使用することなく、人手で引裂帯を引っ張って段ボールを切断し、その際の抵抗を人の感覚で判断することにより行なわれている。
【0006】
なお、下記特許文献1には、ライナカットの切断試験装置が示されているが、この装置は、引裂帯を引っ張る引張具を移動させる際、その移動量と同じ長さだけ引裂帯をローラで引き込んで、常時同一の条件を保つように、引張角度を維持しながら、引裂帯を引っ張り、切断部分の良否を判断しようとするものであり、引張荷重を測定するものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−249212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、引張荷重を人の感覚で判断すると、作業者によってばらつきが大きく、定量的に数値化することができず、製品設計の適確化を図ることが難しい。
【0009】
その対策として、引裂帯の引張荷重を計測器を備えた機械により測定することが検討されているが、この試験には、例えば、JISP8113に規定されたような紙材自体の引張強度を計測する引張試験機を適用することはできない。
【0010】
そこで、この発明は、人手による様々な角度での引っ張りに近似する方法により、引裂帯の引張荷重を客観的に正確に計測できる引張試験機を提供し、開封性と強度のバランスに優れた段ボール箱等を製造できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明に係る引張試験機は、紙材から成る試験体を所定の位置に保持する保持部と、紙材に形成された引裂帯の始端部を把持するチャックと、チャックで把持された引裂帯を引っ張る引張装置と、引裂帯の引っ張りによる紙材の切断に必要な荷重を測定する計測器とを備え、引裂帯の紙材に対する引張角度を変更できるようにしたのである。
【0012】
そして、引裂帯の紙材に対する引張角度として、引裂帯の未切断部とこれに対し折り返された既切断部とがなす振れ角を変更できるようにしたのである。
【0013】
また、引裂帯の未切断部とこれに対し折り返された既切断部とがなす仰角を変更できるようにしたのである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る引張試験機では、実際に人手で箱を開封する場合等と同様に、引裂帯を紙材に対し様々な角度で引っ張って、紙材の切断に必要な荷重を測定することができるので、箱の開封時の実情に即したデータを数値化して得ることができ、開封性と強度のバランスに優れた段ボール箱等の製品設計に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、この発明の第1実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。
【0016】
この引張試験機は、図1及び図4に示すように、ラップラウンドケース等の段ボール箱のブランクの一部を切り取った段ボール紙片Sを試験体とするものである。段ボール紙片Sには、ライナカットの切目線tを2本平行に入れて引裂帯Tが形成され、その始端部tが切込により設けられている。
【0017】
この引張試験機の筐体1には、段ボール紙片Sを所定の位置に保持する保持部2が設けられ、その上方に引裂帯Tを引っ張る引張装置3が設けられている。引張装置3には、図3に示すように、引裂帯Tの始端部tを把持するチャック4と、引裂帯Tの引っ張りによる段ボール紙片Sの切断に必要な荷重を測定する計測器5とが設けられている。
【0018】
保持部2は、図4に示すように、段ボール紙片Sを挿入して締付ねじで固定するものであり、筐体1の一側に設けられたハンドル21を回して、筐体1の幅方向に延びるねじ軸22を回転させると、ねじ軸22に平行なガイド軸23に沿って左右方向に移動し、上端部から斜め後下方へ延びる支持ロッド24の下端部を筐体1の奥行方向に延びるガイド軸25に沿ってスライドさせると、前後方向に起伏する。保持部2の角度は、支持ロッド24の下端部が連結されたスライダ部分のクランプレバー26で固定される。
【0019】
引張装置3は、図1〜図3に示すように、ボールねじ、サーボモータ及びリニアガイドがボディに内蔵された一軸ロボットであり、筐体1に垂直に固定された固定板11に、支持軸31を介して垂直面内で左右に揺動自在に支持され、ボディの両側の溝に嵌合するスライダ38がサーボモータの駆動により上下方向に移動する構成とされている。
【0020】
そして、筐体1の一側に設けられたハンドル32を回して、筐体1の幅方向に延びるねじ軸33を回転させると、ねじ軸33に螺合する移動体34がねじ軸33に沿って筐体1の幅方向に移動し、移動体34の移動に伴い、ボディの背面から突出して移動体34に係合する係合軸35が牽引されて、ボディの背面に固定された背板36が固定板11の前面に摺接しつつ支持軸31を中心に揺動し、背板36に形成された一対の上下方向に延びる弧状ガイド溝37に沿って、固定板11に固設された制動軸12が移動可能な範囲で、引張装置3は垂直面内において左右に揺動する。
【0021】
引張装置3のスライダ38には、前方に突出するアーム39が設けられ、このアーム39に計測器5とチャック4とが吊下支持されている。アーム39とチャック4とを繋ぐ計測器5のロッドの上下両端には可動継手6が設けられ、チャック4の向きは、引張装置3とは独立して自由に変化する。
【0022】
チャック4は、図5に示すように、引裂帯Tの始端部tを捲って挟み、締付ねじを締め付けると、始端部tを把持できる構造とされている。計測器5には、ひずみゲージにより荷重を電圧の変化として測定するロードセルが使用されている。
【0023】
また、筐体1には、図1に示すように、引張装置3の引張速度の設定や計測器5の測定結果の表示に使用する液晶パネルを備えた制御盤13と、引張装置3を作動させ、又は停止させるボタンを備えたスイッチ盤14とが設けられている。また、筐体1の前面には、紙片の飛散を防止し、閉じても内部が観察できる透明なドア15が設けられている。
【0024】
いま、このような引張試験機で引裂帯Tの引っ張りによる段ボール紙片Sの切断に必要な荷重を測定する際、図5(a)に示すように、引裂帯Tの始端部tを折り返してチャック4で把持した状態で、引張装置3のスライダ38を上方へ移動させると、これに伴って、図5(b)に示すように、アーム39が上昇して、引裂帯Tの既切断部Tが未切断部Tに対して折返側である上方向へ引っ張られ、段ボール紙片Sが切断される。
【0025】
このとき、段ボール紙片Sは、2本の切目線tに沿って中しん及び表ライナが引き裂かれるのが理想的であるが、実際には、中しん及び表ライナの引裂位置は切目線tから外側へ逸れ、中しんが幅をもって表裏いずれかのライナから接着剤の接着力に抗して引き剥がされるので、相当な抵抗が作用する。そして、この抵抗に打ち勝って引裂帯Tを引っ張る引張荷重が計測器5により測定される。
【0026】
この測定に際し、図6(a)に示すように、保持部2を直立させた状態では、引裂帯Tの折り返された既切断部Tが未切断部Tに沿って垂直上方へ引っ張られながら、段ボール紙片Sが切断されるが、図6(b)及び図8(b)に示すように、支持ロッド24の下端部をガイド軸25に沿って後方へ移動させることによって、保持部2を下端から上端へかけて後方へ傾斜させると、引裂帯Tの折り返された既切断部Tが未切断部Tに対し仰角βをなして斜め上方へ引っ張られながら、段ボール紙片Sが切断される。
【0027】
また、図7(a)に示すように、引張装置3を垂直面内で左右いずれか一方へ揺動させた状態で、引裂帯Tの始端部tを折り返してチャック4で把持し、図7(b)及び図8(a)に示すように、引張装置3のスライダ38を斜め上方へ移動させると、アーム39とチャック4とを繋ぐ計測器5のロッドの傾動に伴い、引裂帯Tの折り返された既切断部Tが未切断部Tに対し振れ角αをなして斜め上方へ引っ張られながら、段ボール紙片Sが切断される。
【0028】
このように、上述の引張試験機では、図6、図7及び図8に示すように、保持部2を傾け、引張装置3を揺動させて、実際に人手で箱を開封する場合等と同様に、引裂帯Tを、その未切断部Tとこれに対し折り返された既切断部Tとがなす振れ角α及び仰角βが様々な角度となるように設定した状態で引っ張って、段ボール紙片Sの切断に必要な荷重を測定することができるので、段ボール箱の開封時の実情に即したデータを得ることができ、開封性と強度のバランスに優れた段ボール箱の製品設計に寄与することができる。
【0029】
次に、この発明の第2実施形態を図9〜図12に基づいて説明する。なお、ここでは、上記第1実施形態と異なる部分について言及し、第1実施形態の各部分と対応する部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
この引張試験機は、図9及び図10に示すように、ブランクの一部を切り取った紙片ではなく、ブランクを組み立てて内容物を包装したラップラウンドケースCのような段ボール箱を試験体とするものである。
【0031】
この引張試験機では、保持部2に、段ボール箱を載せるテーブル27と、段ボール箱の周壁の一側面を押し当てる押当板28と、これに対し直角をなして周壁の一端面を押し当てるストッパ片29とが設けられている。そして、段ボール箱の大きさに応じて、テーブル27は、ハンドル21を回して高さを調整でき、押当板28は、押し当てる段ボール箱の周壁の一側面に対して、前後方向の位置を調整できるようになっている。
【0032】
また、引張装置3は、基準方向が水平とされ、長尺の背板36の一端部に位置する支持軸31を介して、固定板11に上下に揺動自在に支持されている。ねじ軸33は、支持軸31から引張装置3の方向へ離れた位置で筐体1の基台から垂直に立ち上がり、その上部のハンドル32を回すことにより、引張装置3が背板36と共に揺動する。
【0033】
このような引張試験機を使用して、ラップラウンドケースCの引裂帯Tの引張荷重を測定するには、図11(a)に示すように、チャック4で引裂帯Tの始端部tを折り返して把持した状態で、図11(b)に示すように、引張装置3のスライダ38と共にチャック4を引裂帯Tの折返側へ移動させて、引裂帯Tを引っ張る。
【0034】
これにより、ラップラウンドケースCの周壁の一部を切り取って段ボール紙片の試験体を用意することなく、内容物を収容した状態のラップラウンドケースCについて、引裂帯Tにより周壁を切断する際に必要な荷重を測定することができる。
【0035】
また、引張装置3を揺動させて、実際に人手で箱を開封する場合等と同様、図12に示すように、水平に置いたラップラウンドケースCの引裂帯Tを、その未切断部Tとこれに対し折り返された既切断部Tとがなす振れ角αが斜め上方へ様々な角度となるように設定した状態で引っ張って、周壁の切断に必要な荷重を測定することができるので、上記第1実施形態に係る試験装置に比較して、さらに開封時の実情に即したデータを得ることができる。
【0036】
なお、上記各実施形態では、段ボール紙片又は段ボール箱を試験体とするものを例示したが、この発明に係る引張試験機は、板紙等の段ボール以外の紙材についても、引裂帯の引っ張りにより紙材を切断する際に必要な荷重を測定することができる。
【0037】
また、引裂帯Tの切目線tとして、段ボールの製造時に裏ライナのみを連続的に切断したライナカット線を例示したが、切目線tは、ブランクの打抜時に表裏いずれかのライナから中しんにかけて連続的に切目を入れた半切線や、ミシン目状に切目が断続するものとしてもよく、断続的に切目を入れる場合、表裏のライナに亘って切目が貫通する全切線としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の第1実施形態に係る引張試験機を示す斜視図
【図2】同上の引張装置、チャック及び計測器周辺の斜視図
【図3】同上の引張装置の揺動を示す正面図
【図4】同上の保持部周辺の斜視図
【図5】同上の引裂帯の引張による段ボール紙片の切断過程を示す斜視図
【図6】同上の保持部の揺動を示す側面図
【図7】同上の引張装置を揺動させた状態での段ボール紙片の切断過程を示す正面図
【図8】同上の段ボール紙片の切断過程を示す拡大正面図及び側面図
【図9】この発明の第2実施形態に係る引張試験機を示す斜視図
【図10】同上の引張装置の揺動を示す正面図
【図11】同上の引裂帯の引張によるラップラウンドケースの開封過程を示す斜視図
【図12】同上のラップラウンドケースの開封過程を示す拡大正面図
【図13】試験体となるラップラウンドケースの斜視図
【符号の説明】
【0039】
1 筐体
2 保持部
3 引張装置
4 チャック
5 計測器
6 可動継手
11 固定板
12 制動軸
13 制御盤
14 スイッチ盤
15 ドア
21 ハンドル
22 ねじ軸
23 ガイド軸
24 支持ロッド
25 ガイド軸
26 クランクレバー
27 テーブル
28 押当板
29 ストッパ片
31 支持軸
32 ハンドル
33 ねじ軸
34 移動体
35 係合軸
36 背板
37 ガイド溝
38 スライダ
39 アーム
C ラップラウンドケース
S 段ボール紙片
T 引裂帯
未切断部
既切断部
始端部
切目線
α 振れ角
β 仰角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材から成る試験体を所定の位置に保持する保持部(2)と、紙材に形成された引裂帯(T)の始端部を把持するチャック(4)と、チャック(4)で把持された引裂帯(T)を引っ張る引張装置(3)と、引裂帯(T)の引っ張りによる紙材の切断に必要な荷重を測定する計測器(5)とを備え、引裂帯(T)の紙材に対する引張角度を変更できるようにした引張試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の引張試験機において、引裂帯(T)の紙材に対する引張角度として、引裂帯(T)の未切断部(T1)とこれに対し折り返された既切断部(T2)とがなす振れ角(α)を変更できるようにしたことを特徴とする引張試験機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の引張試験機において、引裂帯(T)の紙材に対する引張角度として、引裂帯(T)の未切断部(T1)とこれに対し折り返された既切断部(T2)とがなす仰角(β)を変更できるようにしたことを特徴とする引張試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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