説明

引火点計

【課題】高い分解能と正確な測定を両立可能な引火点計を提供する。
【解決手段】予期引火点Tより低い第1点火開始温度Ts1から所定温度t毎に点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第1検出温度Tを取得した後、前記試料容器内の試料を入れ替えてから第(n−1)検出温度Tn−1(nは2以上の整数)よりt(t<t)低い温度で点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第n検出温度Tを取得することを繰り返し、第(n−1)検出温度Tn−1よりt低い温度で前記検出器による引火の検知がされなかったとき、Tn−1を引火点Tとして取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油や石油製品の引火点測定に利用できる引火点計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原油及び揮発油や軽油等の石油製品の引火点を求める分析計として、試料容器内の試料の温度を加熱しながら所定温度毎に点火し、引火が生じた温度から引火点を自動的に求める引火点計が知られている。
例えば、特許文献1には、密閉された測定室内で加熱した被検物質を放電電極で点火し、燃焼による圧力上昇により前記被検物質の引火を検知する引火点測定装置が記載されている。特許文献1では、被検物質の温度が引火点に近い所定の温度に達したら、温度が所定値だけ上昇する毎に、放電電極に高電圧を与えて火花を発生させている。
【特許文献1】特開平8−271458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、石油製品のより厳格な品質管理の観点から、引火点測定の分解能を高めることが求められている。所定温度毎に点火する従来の引火点計で分解能を高めるためには、当該所定温度(以下「点火温度幅」という場合がある。)を小さくすることが考えられる。
しかし、点火温度幅を徒に小さくすると、引火点に達する前に、試料中の軽い成分だけに着火して引火には至らない現象(早期着火)が生じてしまう。早期着火が生じると、試料の蒸気中の軽い成分だけが失われた状態となるので、その後に引火したときの温度は、真の引火点よりも高めになってしまい、正確な測定値が得られないという問題がある。
そのため、点火温度幅を小さくすることには限界があり、従来は0.5℃が限界であって、通常1.0℃の点火温度幅とされていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い分解能と正確な測定を両立可能な引火点計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]試料を収容する試料容器と、該試料容器内の試料の温度を上昇させるヒータと、試料の温度を検知する温度計と、試料から発生する蒸気に点火する点火装置と、前記点火装置の点火により生じた引火を検知する検出器と、引火を検知したときの前記温度計の検知温度を検出温度として取得する演算制御装置を備え、
前記演算制御装置が、予期引火点Tより低い第1点火開始温度Ts1から所定温度t毎に点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第1検出温度Tを取得した後、前記試料容器内の試料を入れ替えてから第(n−1)検出温度Tn−1(nは2以上の整数)よりt(t<t)低い温度で点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第n検出温度Tを取得することを繰り返し、第(n−1)検出温度Tn−1よりt低い温度で前記検出器による引火の検知がされなかったとき、Tn−1を引火点Tとして取得することを特徴とする引火点計。
【0005】
[2]第n検出温度Tの検知に先立ち、前記点火装置が第1点火開始温度Ts1より[t×(n−1)]低い第n点火開始温度Tsnから所定温度t毎に点火するように点火装置を制御する[1]に記載の引火点計。
【0006】
[3]前記試料容器が密閉式容器である[1]または[2]に記載の引火点計。
[4]前記検出器が引火による圧力上昇を検知する圧力計である[3]に記載の引火点計。
【発明の効果】
【0007】
本発明の引火点計によれば、高い分解能で正確な測定を行うことができ、石油製品のより厳格な品質管理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る引火点計の構成を、図1を参照して説明する。図1に示すように、本発明の引火点計は、試料Pを収容する試料容器1と、試料容器1中の試料Pの温度を上昇させるヒータ2と、試料Pの温度を検知する温度計3と、試料Pから発生する蒸気に点火するための放電電極4a、4bと、引火による圧力上昇を検知する圧力計5と、引火点計全体を制御する演算制御装置6とから概略構成されている。
【0009】
試料容器1は、下側が縮径された円筒状の密閉式容器である。試料容器1の側面下方には、試料導入管11と、逆流防止バルブ12aが設けられた空気供給管12とが接続されている。また、試料容器1の側面上方には、余剰の試料Pをオーバーフローさせる試料排出管13が接続され、一定量(例えば50mL)の試料Pを試料容器内に計量できるようになっている。また、試料排出管13の接続位置より上方において、余剰の気体を排出する気体排出管14が接続されている。この気体排出管14は、圧力上昇による引火の検知が可能となるよう、高い流路抵抗を有している。また、試料容器1の上方には、バルブ15aが設けられた洗浄空気供給管15が接続されている。
【0010】
ヒータ2は、試料容器1に、その下面側から上方に向けて挿入配置されている。温度計3は熱電対等から構成され、ヒータ2の加熱が直接及ばない位置において試料P中に挿入されている。放電電極4a、4bは、発火装置16から高電圧を付与されることにより、両電極間に火花を発生(点火)するようになっている。放電電極4a、4bと、試料Pの液面(試料排出管13の位置)との間には、邪魔板17が設けられ、放電電極4a、4bから発生する火花が、試料Pに直接飛び移らないようになっている。圧力計5は、導圧管18を通じて、試料容器1内の圧力を検知できるようになっている。演算制御装置6には、温度計3、圧力計5の出力信号が入力されるようになっている。また、演算制御装置6は、ヒータ2、発火装置16、バルブ12a、15a、その他装置全体の動作を制御するようになっている。
【0011】
次に、本実施形態の引火点計の動作について説明する。試料容器1に古い試料Pが収納されている状態で、引火点計を起動すると、引火点計は試料交換動作を行う。試料交換動作は、試料導入管11から試料容器1へ新しい試料Pを導入し、これにより、古い試料Pを、試料排出管13からオーバーフローさせることにより行う。
なお、古い試料が加熱された状態の場合、試料交換動作によって加熱されていない新たな試料が導入されることにより、試料温度が低下する。試料交換動作後の試料温度は、予期引火点Tより5℃以上低下していることが好ましく、10℃以上低下していることがより好ましい。
この試料交換動作中、空気供給管12および空気供給管15から空気を供給する。これにより、前回の測定時の引火により発生した燃焼ガスが、気体排出管14を通って大気に開放される。
【0012】
試料交換動作終了後、測定動作を開始する。測定動作では、ヒータ2をオンとする。この測定動作の間にも、空気供給管12から空気の供給を継続する。試料Pは、ヒータ2による温度上昇と空気によるバブリングの結果、試料容器1の上層部に蒸気を放出する。
測定動作では、加熱により試料Pの温度が点火開始温度近くに達したら、温度上昇の速度を一定(本実施形態では1.0℃/分)にコントロールする。そして、所定の点火開始温度から、温度が所定温度t(本実施形態では1.0℃)だけ上昇する毎に、放電電極4a、4bに高電圧を印加して点火する。試料Pの温度が引火点以上のときに点火すると引火が生じ、試料Pの蒸気が瞬間的に燃焼する。この燃焼は、試料容器1内の急激な圧力上昇として圧力計5により検知される。演算制御装置6は、この引火を検知したときの温度計3の検知温度を検出温度として取得する。
【0013】
本実施形態では、測定動作から試料交換動作までを1ステップとして5つのステップ(S1〜S5)を繰り返し、第1検出温度から第5検出温度までの5つの検出温度を取得する。ただし、各ステップにおける昇温パターンと点火温度は互いに相違している。そして、これら5つの検出温度から引火点Tを求め、求めた引火点Tの表示や出力等を行う。
図2は、本実施形態の引火点計の第1ステップS1から第5ステップS2における試料Pの温度(縦軸)を時間経過(横軸)に対して示したものである。以下、図2を参照しつつ各ステップについて詳述する。
【0014】
(第1ステップS1)
測定動作として試料Pの加熱を開始し、第1点火開始温度Ts1に近い温度まで速やかに加熱する。その後昇温スピードを一定(本実施形態では1.0℃/分、以後のステップでも同じ)にコントロールする。そして、第1点火開始温度Ts1から所定温度t(本実施形態では1.0℃、以後のステップでも同じ)毎に点火する。第1点火開始温度Ts1としては、予期引火点Tより3℃近く(本実施形態では2.8℃)低い温度を選択する。本実施形態の第1ステップS1では、4回目の点火で引火を検知し、第1検出温度Tを取得している。
第1検出温度Tを取得した後、洗浄動作、試料交換動作を行い、試料温度が低下した状態で第1ステップS1を終了する。
【0015】
(第2ステップS2)
測定動作として試料Pの加熱を開始し、第2点火開始温度Ts2に近い温度まで速やかに加熱する。その後昇温スピードを一定にコントロールする。そして、第2点火開始温度Ts2から所定温度t毎に点火する。
第2点火開始温度Ts2としては、第1検出温度Tより(t×3+t)低い温度を選択する。すなわち、第2点火開始温度Ts2は、第1点火開始温度Ts1より、t(本実施形態では0.2℃、以後のステップでも同じ)低い温度である。また、4回目に点火する際の温度は、第1検出温度Tよりt低い温度である。
本実施形態の第2ステップS2でも、4回目の点火で引火を検知し、第2検出温度Tを取得している。
第2検出温度Tを取得した後、洗浄動作、試料交換動作を行い、試料温度が低下した状態で第2ステップS2を終了する。
【0016】
(第3ステップS3)
測定動作として試料Pの加熱を開始し、第3点火開始温度Ts3に近い温度まで速やかに加熱する。その後昇温スピードを一定にコントロールする。そして、第3点火開始温度Ts3から所定温度t毎に点火する。
第3点火開始温度Ts3としては、第2検出温度Tより(t×3+t)低い温度を選択する。すなわち、第3点火開始温度Ts3は、第2点火開始温度Ts2より、t低い温度である。また、4回目に点火する際の温度は、第2検出温度Tよりt低い温度である。
本実施形態の第3ステップS3でも、4回目の点火で引火を検知し、第3検出温度Tを取得している。
第3検出温度Tを取得した後、洗浄動作、試料交換動作を行い、試料温度が低下した状態で第3ステップS3を終了する。
【0017】
(第4ステップS4)
測定動作として試料Pの加熱を開始し、第4点火開始温度Ts4に近い温度まで速やかに加熱する。その後昇温スピードを一定にコントロールする。そして、第4点火開始温度Ts4から所定温度t毎に点火する。
第4点火開始温度Ts4としては、第3検出温度Tより(t×3+t)低い温度を選択する。すなわち、第4点火開始温度Ts4は、第3点火開始温度Ts3より、t低い温度である。また、4回目に点火する際の温度は、第3検出温度Tよりt低い温度である。
本実施形態の第4ステップS4では、4回目の点火で引火を検知せず、5回目の点火で第4検出温度Tを検知している。これにより、4回目の点火時の温度(第3検出温度Tよりt低い温度)が引火点Tより低いことが判明するので、第3検出温度Tを引火点Tと判断する。
第4検出温度Tを取得した後、洗浄動作、試料交換動作を行い、試料温度が低下した状態で第4ステップS4を終了する。
【0018】
(第5ステップS5)
測定動作として試料Pの加熱を開始し、第5点火開始温度Ts5に近い温度まで速やかに加熱する。その後昇温スピードを一定にコントロールする。そして、第5点火開始温度Ts5から所定温度t毎に点火する。
第5点火開始温度Ts5としては、第4検出温度Tより(t×3+t)低い温度を選択する。第5点火開始温度Ts5は、第4ステップS4で5回目の点火により引火を検知した関係で、第4点火開始温度Ts4より(t−t)高い温度となる。また、第5ステップS5において4回目に点火する際の温度は、第4検出温度Tよりt低い温度である。
本実施形態の第5ステップS5では、4回目の点火で引火を検知し、第5検出温度Tを取得している。
第5検出温度Tを取得した後、洗浄動作、試料交換動作を行い、試料温度が低下した状態で第5ステップS5を終了する。
【0019】
本実施形態では、tがtの1/5なので、5ステップを行うことにより、引火点Tの前後において、間隔t毎の総ての温度にて点火を試みることになる。したがって、分解能tで引火点Tを求めることができる。
なお、本実施形態の第5ステップは、既に第4ステップで引火点Tを判断済みなので引火点の判断には寄与しない。すなわち、引火点Tを判断した以降のステップは本発明の必須のステップではなく、省略することができる。しかしながら、どのステップで引火点Tを判断するかにかかわらず第5ステップまで行うことにより、引火点T取得までの全行程の時間を略同一にできる。したがって、本実施形態によれば、一定時間毎の引火点T測定を容易に行うことができる。
【0020】
また、本実施形態では、引火点Tを検出するステップ(第4ステップ)まで、前ステップの点火開始温度よりt低い温度から点火を開始している。そのため、引火点Tを検出するまでの各ステップにおける昇温や点火条件が近似したものとなり、各検出温度取得の条件を揃えることができる。したがって、前ステップの検出温度よりt低い温度のみで点火するよりも、再現性の高い測定ができる。
【0021】
なお、本実施形態ではtを1.0℃としたが、tの値は、早期着火の問題が生じない範囲で、種々変更することができ、例えば0.5℃や2.0℃とすることができる。また、本実施形態ではtを0.2℃としたが、tの値は、求められる分解能や測定効率に応じて、t<tの範囲で種々変更することができ、例えば0.1℃とすることができる。
とtとの関係はt<tでありさえすればよいが、tがtのm(但しmは2以上の整数)分の1であることが好ましい。この場合、ステップ数をmとすれば、m個の検出温度の何れかが必ず引火点となり、分解能tにて結果が得られるようになる。
なお、本実施形態において、引火点を検知した後のステップ(本実施形態では5ステップ)を省略可能な旨説明したが、上記tがtのm分の1の場合にも、常にmステップ行うことは必須でなく、引火点を検知した後のステップが省略可能である。
昇温スピードや第1点火開始温度Ts1と予期引火点Tとの差は、予期引火点Tや、求められる測定精度や測定効率等に応じて任意に変更できる。
【0022】
また、本実施形態では、試料容器1を密閉式とし、圧力計で引火を検知する構成としたが、本発明の検出器は圧力計に限られず、例えば、温度計を検出器として、引火時の急激な温度変化を検出してもよい。また、引火時の閃光を検出する光学センサを検出器としてもよい。また、引火時の炎イオン電流を検出する炎イオン電流検出器を用いてもよい。
また、本実施形態では、点火装置として放電電極とこの放電電極に高電圧を付与する発火装置を用いたが、例えば、所定温度以上に加熱される引火用熱源を用いてもよい。
さらに、密閉式だけでなく、解放式の容器を用いた引火点計としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の引火点計の概略構成図である。
【図2】本発明の引火点計の試料温度の変化パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1…試料容器、2…ヒータ、3…温度計、4a、4b…放電電極、5…圧力計、
6…演算制御装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する試料容器と、該試料容器内の試料の温度を上昇させるヒータと、試料の温度を検知する温度計と、試料から発生する蒸気に点火する点火装置と、前記点火装置の点火により生じた引火を検知する検出器と、引火を検知したときの前記温度計の検知温度を検出温度として取得する演算制御装置を備え、
前記演算制御装置が、予期引火点Tより低い第1点火開始温度Ts1から所定温度t毎に点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第1検出温度Tを取得した後、前記試料容器内の試料を入れ替えてから第(n−1)検出温度Tn−1(nは2以上の整数)よりt(t<t)低い温度で点火するように点火装置を制御し、前記検出器による引火の検知により第n検出温度Tを取得することを繰り返し、第(n−1)検出温度Tn−1よりt低い温度で前記検出器による引火の検知がされなかったとき、Tn−1を引火点Tとして取得することを特徴とする引火点計。
【請求項2】
第n検出温度Tの検知に先立ち、前記点火装置が第1点火開始温度Ts1より[t×(n−1)]低い第n点火開始温度Tsnから所定温度t毎に点火するように点火装置を制御する請求項1に記載の引火点計。
【請求項3】
前記試料容器が密閉式容器である請求項1または2に記載の引火点計。
【請求項4】
前記検出器が引火による圧力上昇を検知する圧力計である請求項3に記載の引火点計。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−39569(P2008−39569A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213503(P2006−213503)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】