説明

強化板ガラス及びその製造方法

【課題】複数の板ガラスを積層させて強化板ガラスを作製するに際して、低温状態で簡単な手法により各板ガラスを適切に位置決め及び仮止めしておくことを可能として、以後の高温加熱処理を適正に行えるようにし、もって生産コストの低廉化や設備費の削減を図る。
【解決手段】熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラス2aと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラス3aとを、それぞれの合わせ面2x、3xが密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、両板ガラス2a、3aを直接接着させた後、面接触部の温度が、両板ガラス2a、3aにおける低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、その低い方の歪点未満に冷却することにより、表層板ガラス3aに対応する表層部3に圧縮応力を形成し且つコア板ガラス2aに対応するコア部2に引張応力を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やPDAに代表される各種携帯情報端末や液晶ディスプレイに代表される電子機器の画像表示部又は画像入力部或いは太陽電池の太陽光取入れ部等に搭載される基板材やカバーガラス部材などに用いられる強化板ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、携帯電話、デジタルカメラやPDA等の携帯機器、或いは液晶テレビ等の画像表示装置等、各種の情報関連端末に関する技術革新は、近年において留まることなく拡がりの一途を辿っている。このような情報関連端末には、画像や文字等の情報を表示したり、或いは情報をタッチパネルディスプレイなどで入力したりするための基板材やカバー部材として透明基板が搭載されている。また、これら情報関連端末の当該部位以外であっても、例えば太陽電池の太陽光取入れ部などに透明基板が搭載されている。これらの透明基板は、環境負荷低減や高信頼性を確保する必要があることから、その素材としてガラスが採用されている。
【0003】
この種の用途に用いられるガラス基板は、高い機械的強度が求められると共に、薄型で軽量であることが求められる。そこで、このような要求を満たすガラス基板として、特許文献1によれば、板ガラスの表面をイオン交換等で化学強化してなる所謂強化板ガラスが開示されている。しかしながら、この種の強化板ガラス上にTFT素子を形成する場合などにおいては、当該ガラスがアルカリを含有していないことが望ましいが、この要請に応じるべく無アルカリガラスであると、上記の化学強化ができないという問題がある。
【0004】
一方、特許文献2によれば、複数の板ガラスを積層してなる積層基板が、高熱膨張係数を有する透明ガラスコアと、その板厚方向両側の最外層に配置されて低熱膨張係数を有する一対の透明ガラススキン層とを備え、透明ガラススキン層に圧縮応力を形成し、透明ガラスコアに引張応力を形成することが開示されている。
【0005】
この積層基板によれば、板ガラスの材質に関する制約を受けることなく、透明ガラススキン層の圧縮応力及び透明ガラスコアの引張応力により、傷の発生や伝播に対する耐性を高めるための蓄積エネルギーを当該基板に生じさせ得ることから、当該基板の破損防止や汚染ガラス片の発生抑止に寄与することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【特許文献2】特表2008−522950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献2に開示された強化板ガラスを構成する積層基板は、表層部に圧縮応力を形成し且つコア部に引張応力を形成する必要があることから、同文献の段落[0062]にも記載されているように、隣接層間で十分な接合を達成するには、溶融ガラスをシート形態にする間に積層を行うことが有利とされている。
【0008】
しかしながら、このような積層手法によれば、溶融ガラスをシート形態にするという板ガラスの成形工程の途中で積層のための作業を行わねばならなくなり、連続的に送られる高温のガラスシートに対する積層作業は極めて面倒且つ煩雑となり、作業性の悪化を余儀なくされる。しかも、このような積層作業では、作業領域(作業場所)が限られた場所となるため、作業に必要なスペースを十分に確保できなくなったり、或いは作業領域の温度や雰囲気によって厳格な制約を受けたりし、作業の自由度が極めて小さくなるという致命的な問題を有している。
【0009】
この場合、上記の問題に対しては、成形後の板ガラスを利用して強化板ガラスを製作することが考えられるが、そのためには、複数の板ガラスをそれぞれの合わせ面で融着することが必要となる。しかしながら、各板ガラスを各々の合わせ面で単に融着させるという手法を採用したのでは、以下に示すような不具合を招く。
【0010】
すなわち、板ガラスの合わせ面を融着に必要な高温状態にするためには、板ガラスの合わせ面のみならず板ガラス全体を高温状態にせねばならず、特に薄肉の板ガラスの場合には、外表面の面性状が悪化したり、撓みや反りが生じたり等の事態を招き、製作された強化板ガラスの高品質化が阻害される。
【0011】
加えて、各板ガラスの合わせ面には、融着に必要な大きな押し付け力を作用させる必要があると共に、融着時にそれらの合わせ面が相互に位置ずれを生じないように適切な位置決めや仮止めをしておく必要がある。然るに、高温状態にある板ガラスを位置決め及び仮止めした上で大きな押し付け力を作用させるには、複雑且つ高精度な装置が必要となることが必至であるため、生産コストが高くなるばかりでなく設備費の高騰をも招く。また、このような手法では、加熱に要する時間の長期化が懸念され、作業能率の悪化ひいては生産性の低下をも招く。
【0012】
従って、複数の板ガラスを積層させて強化板ガラスを製作する過程においては、各板ガラスが相互に位置ずれを生じないように適切に位置決め及び仮止めすることができれば有利であるが、高温加熱を必須の要件とするこの種の手法の下で、簡単な手段により各板ガラスを適切に位置決めや仮止めをしておくことは、極めて困難な事であって、そのための具体的手法は何ら見出されていないのが実情である。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、複数の板ガラスを積層させて強化板ガラスを作製するに際して、低温状態で簡単な手法により各板ガラスを適切に位置決め及び仮止めしておくことを可能として、以後の高温加熱処理を適正に行えるようにし、もって生産コストの低廉化や設備費の削減を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る強化板ガラスの製造方法は、熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラスと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラスとを、それぞれの合わせ面が密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点のうち、低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、前記低い方の歪点未満に冷却することにより、前記表層板ガラスに対応する表層部に圧縮応力を形成し且つ前記コア板ガラスに対応するコア部に引張応力を形成することに特徴づけられる。ここで、上記の「直接接着」とは、コア板ガラスと表層板ガラスとの両合わせ面の相互間に、接着剤やガラスフリット等の他の層を介在させることなく、当該両合わせ面が直接接着していることを意味する。
【0015】
このような構成によれば、先ず、コア板ガラスと表層板ガラスとの両合わせ面を密接した状態に面接触させて加熱処理を施すことにより、両板ガラスにおける低い方の歪点未満で、該両板ガラスが直接接着する。この両板ガラスの直接接着は、上述の歪点未満という低温状態の下で実現することから、当然の事ながら融着ではない。このような状態が得られるのは、本発明者等が鋭意研究を行った結果、両板ガラスのそれぞれの合わせ面を適正に密接した状態となるように面接触させて加熱をすれば、上述の歪点未満であっても直接接着して、両合わせ面が、通常作用し得る外部応力に対しては剥離しないようになることを知見したことに由来する。そして、このように両板ガラスを直接接着させて固着した状態とすることにより、両者が位置決めされた状態を維持して仮止めがなされることになるため、両板ガラスを低温状態の下で簡単に位置決めないしは仮止めした上で、両者の相対的位置ずれを防止しつつ以後の高温加熱を行うことが可能となる。すなわち、低温状態で両板ガラスが直接接着されて仮止めがなされた後に、当該面接触部が両板ガラスにおける低い方の歪点以上に加熱されることにより、両板ガラスの積層体が一体化された状態で両者の内部応力差が実質的に消失する。そして、両板ガラスの面接触部は既に固着されていることから、この面接触部に高温状態下で大きな押し付け力を作用させる必要がなくなると共に、当該面接触部に相対的位置ずれや形崩れ等が生じることを可及的に抑制することができる。そして、この後に両板ガラスの積層体が上述の低い方の歪点未満に冷却されることによって、両者間に内部応力差が生じて、当該積層体における表層板ガラスに対応する表層部に圧縮応力が形成されると共に、コア板ガラスに対応するコア部に引張応力が形成され、これにより高品質の強化板ガラスが得られる。
【0016】
このような過程を経て強化板ガラスを製造すれば、両板ガラス(それらの面接触部)が歪点以上の高温状態になるまで、或いは強化板ガラスが製作されるまで、両板ガラスを治具や専用の装置で正確に位置決めして外部から仮止めしておくための手段が省略または簡略化されると共に、両板ガラスが接着もしくは融着するまで面接触部に比較的大きい押し付け力を外部から作用させておく手段も省略または簡略化される。換言すれば、この製造方法では、両板ガラスを接着もしくは融着させたい面接触部自体が当該歪点未満の低温状態で仮止めされることになるので、外部から仮止めするための治具や装置は必ずしも必要ではなくなると共に、両板ガラスを正確に位置決めした状態を最後まで維持することができ、しかも既に仮止めにより固着されている面接触部に外部から大きい押し付け力を作用させる必要もなくなる。これにより、設備費の削減や生産コストの低廉化が図られると共に、作業性や生産性の向上にも寄与することができ、更には高品質の強化板ガラスを得る上で極めて有利となる。尚、以上のような手順で強化板ガラスを得るためには、単に両板ガラスに加熱処理を施すという手法(例えば炉内での加熱手法)以外に、リドロー法を採用することもできる。
【0017】
このような構成においては、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点及び軟化点のうち、低い方の歪点以上で且つ低い方の軟化点未満となるように前記加熱処理を施すことが好ましい。
【0018】
このようにすれば、両板ガラスが軟化点以上となることはないため、両者が溶融状態とはならず、加熱に要する設備が簡略化されると共に、両板ガラスの外表面の面性状が悪化したり、両者に歪みや曲げが生じたり等の事態を回避することができ、高品位の強化板ガラスを製作する上でより一層有利となる。
【0019】
以上の構成において、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの徐冷点のうち、低い方の徐冷点以上となるように前記加熱処理を施すようにしてもよい。
【0020】
このようにすれば、ガラスの徐冷点は歪み点よりも高温であるため、より一層確実に両板ガラスの内部応力差を消失させることができ、両板ガラスに対する引張応力及び圧縮応力の形成がより確実化される。なお、ガラスの徐冷点は、ガラス転移点であっても、実質的に同様の作用効果が得られる。
【0021】
以上のような構成において、前記表層板ガラス及び前記コア板ガラスの合わせ面の表面粗さRaは、2.0nm以下であることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、表層板ガラスとコア板ガラスとの両合わせ面を密着もしくはこれに近似する程度まで確実に密接した状態で面接触させることが可能となるため、両板ガラスの低い方の歪点未満での直接接着がより確実に実現する。このように、両板ガラスのそれぞれの合わせ面の表面粗さRaが2.0nm以下であると上記の直接接着がより確実化されるのは、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、加熱により歪点に達する以前の低温状態で上記の直接接着を確実化させるには、両板ガラスの合わせ面の表面粗さRaに依拠するところが大きいことを知見したことに由来する。そして、当該合わせ面の表面粗さRaが2.0nm以下であるばかりでなく、より好ましくは1.0nm以下、更に好ましくは0.5nm以下、最も好ましくは0.2nm以下と小さい値になるに連れて、両板ガラスの直接接着がより一層確実化されることも本発明者等は知得している。
【0023】
以上の構成において、前記表層板ガラスが、一の板ガラスまたは複数の積層された板ガラスからなると共に、前記コア板ガラスが、一の板ガラスまたは複数の積層された板ガラスからなり、前記コア板ガラスの板厚方向両側に、前記表層板ガラスをそれぞれ配置するようにしてもよい。
【0024】
すなわち、強化板ガラスとしては、一の板ガラスからなる表層板ガラスが、コア板ガラスの板厚方向両側に配置される構成であってもよく、複数の積層された板ガラスからなる表層板ガラスが、コア板ガラスの板厚方向両側に配置される構成であってもよく、もしくは、一の板ガラスからなるコア板ガラスの板厚方向両側に、表層板ガラスが配置される構成であってもよく、複数の積層された板ガラスからなるコア板ガラスの板厚方向両側に、表層板ガラスが配置される構成であってもよい。この場合、表層板ガラス及びコア板ガラスの各々に関して、複数の板ガラスを積層させる手法は、上述の本発明におけると同様の直接接着を利用したものであることが好ましい。
【0025】
以上の構成において、前記表層板ガラスの板厚は、前記コア板ガラスの板厚の1/3以下であることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、表層板ガラスに対応する表層部に形成される圧縮応力と、コア板ガラスに対応するコア部に形成される引張応力とが、不当にバランスを損なうという事態を回避し得ることになり、歪みや曲げを生じることなく適正な強化処理が施された強化板ガラスを得ることができる。
【0027】
以上の構成において、前記表層板ガラスの板厚は、200μm以下であることが好適である。
【0028】
このようにすれば、板厚が200μm以下の薄肉の表層板ガラスであっても、低温状態でコア板ガラスに直接接着できるため、薄肉の表層板ガラスが容易に溶融状態となって強化板ガラスの製作に支障を来たすという不具合が効果的に回避される。なお、この表層板ガラスは、板厚の上限値を、300μm或いは100μmとすることができ、またその下限値を、10μm或いは20μmとすることができる。
【0029】
以上の構成において、前記表層板ガラス及び前記コア板ガラスの合わせ面のGI値は、1000pcs/m2以下であることが好ましい。
【0030】
このようにすれば、両板ガラスの合わせ面は清浄であることから、それらの表面の活性度が損なわれておらず、両板ガラスを確実に直接接着させ且つその直接接着を適正に維持しておくことが可能となる。
【0031】
以上の構成において、前記コア板ガラス及び前記表層板ガラスは、オーバーフローダウンドロー法によって成形されていることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、研磨工程を必要とすることなく、前記両板ガラスのそれぞれの合わせ面を、鏡面もしくはこれに準じる面からなる高精度な面性状とすることができるため、両板ガラスをより確実に直接接着させることが可能となる。これにより、両板ガラスが直接接着するに至るまでの温度をより低温にして作業性や生産性の向上を図り得ることになると共に、両板ガラスをより強固に接着することが可能となる。
【0033】
この[課題を解決するための手段]の欄の冒頭で述べた強化板ガラスの製造方法において、前記低い方の歪点以上となるように加熱処理を施す前工程であって前記両板ガラスを直接接着させた後工程で、前記コア板ガラスに対応するコア部に圧縮応力を形成する工程を経ることにより、強化板ガラスの製造過程における既述の利点を確実に享受できる。
【0034】
すなわち、両板ガラスの合わせ面が、低い方の歪点未満(例えば、200℃〜400℃の範囲内における300℃程度)で直接接着されると、その温度から当該歪点まで加熱することによって、高熱膨張係数のコア板ガラスに圧縮応力が形成され、低熱膨張係数の表層板ガラスに引張応力が形成される。この事は、当該歪点未満の低温状態で両板ガラスが確実に直接接着されていることを意味している。したがって、この後に当該歪点以上に加熱されることにより、両板ガラスの引張及び圧縮応力が消失し、然る後、当該歪点未満まで冷却することにより、引張及び圧縮応力が表層部とコア部とで逆となって形成されてなる強化板ガラスが得られる。そして、このような一連の処理が行われる間に、両板ガラスが一旦直接接着されれば、剥離することはないので、適正且つ好都合な仮止めが行われた上で後続の処理が円滑に行われると共に、両板ガラスは最後まで直接接着された状態に維持される。
【0035】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る強化板ガラスは、熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラスと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラスとを、それぞれの合わせ面が密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点のうち、低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、前記低い方の歪点未満に冷却することにより、前記表層板ガラスに対応する表層部に圧縮応力を形成し且つ前記コア板ガラスに対応するコア部に引張応力を形成してなることに特徴づけられる。
【0036】
この構成を備えた強化板ガラスについての作用効果を含む説明事項は、この強化板ガラスと実質的に構成要素が同一である上述の本発明に係る方法について説明した事項と実質的に同一である。
【発明の効果】
【0037】
以上のように本発明によれば、コア板ガラスと表層板ガラスとの両合わせ面を密接した状態に面接触させて加熱処理を施すことにより、両板ガラスにおける低い方の歪点未満で該両板ガラスを直接接着させて両者の位置決め及び仮止めをすることができるため、両者の相対的位置ずれを防止しつつ以後の高温加熱処理を施すと共にその後の冷却を行うことにより、強化板ガラスを得ることが可能となる。これにより、両板ガラスを高温状態下で位置決め及び仮止めするための手段が省略または簡略化され、設備費の削減や生産コストの低廉化が図られると共に、作業性及び生産性の向上にも寄与することができ、更には高品質の強化板ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る強化板ガラスを示す断面図である。
【図2】図2(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、本発明の実施形態に係る強化板ガラスの製造過程を順々に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0040】
図1は、本実施形態に係る強化板ガラス1を例示している。この強化板ガラス1は、例えば、タッチパネルやディスプレイ或いは太陽電池等の電子デバイスに搭載されるものであって、特に屋外設置用に必要とされるものである。
【0041】
同図に示すように、強化板ガラス1は、コア板ガラス2aに対応するコア部2と、その板厚方向の両表面側に配置された表層板ガラス3aに対応する表層部3とからなる三層構造のガラス積層体である。すなわち、コア部2を構成するコア板ガラス2aと、表層部3を構成する表層板ガラス3aとを、例えばオーバーフローダウンドロー法などで作製し、コア部2を構成する一枚のコア板ガラス2aを、表層部3を構成する二枚の表層板ガラス3aにより挟んだ状態で、これらの板ガラス2a、3aを直接接着により密着固定したものである。
【0042】
この強化板ガラス1は、表層部3の方がコア部2よりも相対的に薄肉であり、表層部3がコア部2の1/3以下の厚みであることが好ましく、1/10以下であればより好ましく、1/50以下であればさらに好ましい。また、コア部2の熱膨張係数は、表層部3の熱膨脹係数よりも大きく、30〜380℃における熱膨脹係数差は、5×10-7/℃〜50〜10-7/℃とされている。そして、図2(d)にも示すように、表層部3には、50〜350MPaの圧縮応力Pcが形成されると共に、コア部2には、1〜100MPaの引張応力Ptが形成されている。
【0043】
また、表層部3は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラスからなると共に、コア部2は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラスまたは実質的にアルカリ金属酸化物を含有するガラスからなる。アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、具体的には、アルカリ金属酸化物が1000ppm以下を指す。表層部3及びコア部2におけるアルカリ金属酸化物の含有量は、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下である。
【0044】
そして、この強化板ガラス1は、概ね、以下のように構成されている。すなわち、熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラス2aと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラス3aとを、それぞれの合わせ面が密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、両板ガラス2a、3aを直接接着させた後、面接触部の温度が、両板ガラス2a、3aにおける低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、その低い方の歪点未満に冷却することにより、表層板ガラス3aに対応する表層部3に圧縮応力を形成し且つコア板ガラス2aに対応するコア部2に引張応力を形成してなるものである。
【0045】
次に、この強化板ガラス1の製造方法を、模式的に示す図2(a)〜(d)に則して、順を追って説明する。
【0046】
先ず、図2(a)に示すように、一枚のコア板ガラス2aの合わせ面2xと、二枚の表層板ガラス3aの合わせ面3xとを、例えば室温20℃で、それぞれの合わせ面2x、3xが密接状態となるように面接触させて、これらの板ガラス2a、3aを三層に積み重ねると共に、これらの板ガラス2a、3aの相対位置を正確に調整しておく。この場合、コア板ガラス2aの合わせ面2xの表面粗さRa及び表層板ガラス3aの合わせ面3xの表面粗さRaは、両者共に、2.0nm以下、より好ましくは1.0nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下、最も好ましくは0.2nm以下、この実施形態では0.2nm以下である。また、表層板ガラス3aとコア板ガラス2aとの合わせ面2x、3xのGI値は、1000pcs/m2以下である。
【0047】
上記のコア板ガラス2a及び表層板ガラス3aは何れも、オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスを、未研磨の状態でそのまま合わせ面2x、3xとして使用した。尚、これらの両板ガラス2a、3aにおける合わせ面2x、3xの表面粗さRaは、Veeco社製AFM(Nanoscope III a)を用いて測定したものである。一方、コア板ガラス2a及び表層板ガラス3aについては、洗浄、及び室内空調の制御によって、水中、及び空気中の塵埃の量を調節し、両板ガラス2a、3aの合わせ面2x、3xに付着する塵埃の量を調整を行うことによって、GI値の制御を行った。GI値は、日立ハイテク電子エンジニアリング株式会社製のG17000を用いて測定したものである。
【0048】
次に、このようにコア板ガラス2aと表層板ガラス3aとを三層に積み重ねたガラス板積層体1aに対して、炉内で加熱処理を施していくことにより、これらの板ガラス2a、3aの面接触部が300℃程度になった時点で、これらの板ガラス2a、3aの合わせ面2x、3x同士が直接接着して固着された状態となる。これにより、300℃程度の低温状態であるにも拘わらず、これらの板ガラス2a、3aは、当初に正確に位置決めされた状態を維持して仮止めされる。このような状態から、炉内の温度が更に上昇することによって、図2(b)に示すように、表層板ガラス3aに引張応力Ptが形成されると共に、コア板ガラス2aに圧縮応力Pcが形成される。
【0049】
このような状態から、炉内の温度が更に上昇して、これらの板ガラス2a、3aの各面接触部の温度が、これらの板ガラス2a、3aにおける低い方の歪点以上となることにより、図2(c)に示すように、表層板ガラス3a及びコア板ガラス2aにそれぞれ形成されていた引張応力及び圧縮応力が消失する。この時点では、表層板ガラス3aとコア板ガラス2aとが直接接触して密着固定された状態を維持しつつ熱膨張差をもって膨張する。そして、炉内で、これらの板ガラス2a、3aにおける低い方の軟化点未満の範囲内で加熱が行われ、その後に上述の低い方の歪点未満となるように冷却が行われる。
【0050】
この結果、図2(d)に示すように、コア板ガラス2aに対応するコア部2に引張応力Ptが形成され、且つ、表層板ガラス3aに対応する表層部3に圧縮応力Pcが形成されてなる強化板ガラス1が得られる。この場合、上述の炉内での加熱時には、表層板ガラス3aとコア板ガラス2aとの面接触部が、低い方の軟化点以上となることはないので、当該面接触部が溶融状態にならずに固化されている。尚、当該面接触部の温度は、上記の低い方の軟化点以上または高い方の軟化点以上に加熱されていてもよい。
【0051】
このような製造方法によれば、上記の図2(a)から図2(b)に移行する途中の300℃程度で、コア板ガラス2aと表層板ガラス3aとが直接接着して密着固定することになるので、歪点以上の高温状態になる前段階の低温状態下でこれらの板ガラス2a、3aの仮止めが行われる。そして、この仮止めがされた以後は、それらの板ガラス2a、3aが歪点以上の高温状態となっても、各板ガラス2a、3aは位置ずれを生じることなく、仮止めされた正規の相対位置関係を維持しつつ、加熱されていくことにより、正確に位置決めされた状態で各板ガラス2a、3aが強固に直接接着(軟化点以上に加熱された場合には融着)され、高品位の強化板ガラス1が得られる。
【0052】
すなわち、従来の製造方法では、各板ガラス(それらの面接触部)が歪点以上の高温状態になるまで、或いは強化板ガラスが製作されるまで、各板ガラスを治具や専用の装置で正確に位置決めして外部から仮止めしておく必要があり、且つ、各板ガラスが接着もしくは融着するまで各面接触部に比較的大きい押し付け力を外部から作用させておく必要があった。これに対して、本実施形態に係る上記の製造方法では、各板ガラス2a、3aを接着もしくは融着させたい各面接触部自体が低温状態で仮止めされることになるので、外部から仮止めするための治具や装置は必ずしも必要ではなくなると共に、正確な位置決めがなされた状態を最後まで維持することができ、しかも仮止め部である各面接触部に外部から大きい押し付け力を作用させる必要もなくなる。これにより、設備費の削減や生産コストの低廉化が図られると共に、作業性や生産性の向上をも図り得る。
【0053】
尚、上記実施形態では、強化板ガラス1のコア部2を一枚のコア板ガラス2aで構成したが、二枚以上のコア板ガラス2aで複数層のコア部2を形成してもよく、これに代えて又はこれと共に、二つの表層部3についてもそれぞれ、二枚以上の表層板ガラス3aで複数層の表層部3を形成してもよい。
【0054】
更に、上記実施形態では、コア板ガラス2aと表層板ガラス3aとを面接触させて積層させたガラス積層体に対して、炉内で加熱処理を施すことにより強化板ガラス1を作製したが、これと同様の理論構成の下で、リドロー法を採用することにより同様の強化板ガラスを作製することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 強化板ガラス
1a ガラス板積層体
2 コア部
2a コア板ガラス
2x コア板ガラスの合わせ面
3 表層部
3a 表層板ガラス
3x 表層板ガラスの合わせ面
Pc 圧縮応力
Pt 引張応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラスと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラスとを、それぞれの合わせ面が密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点のうち、低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、前記低い方の歪点未満に冷却することにより、前記表層板ガラスに対応する表層部に圧縮応力を形成し且つ前記コア板ガラスに対応するコア部に引張応力を形成することを特徴とする強化板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点及び軟化点のうち、低い方の歪点以上で且つ低い方の軟化点未満となるように前記加熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの徐冷点のうち、低い方の徐冷点以上となるように前記加熱処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記表層板ガラス及び前記コア板ガラスの合わせ面の表面粗さRaが、2.0nm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記表層板ガラスが、一の板ガラスまたは複数の積層された板ガラスからなると共に、前記コア板ガラスが、一の板ガラスまたは複数の積層された板ガラスからなり、前記コア板ガラスの板厚方向両側に、前記表層板ガラスをそれぞれ配置することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記表層板ガラスの板厚が、前記コア板ガラスの板厚の1/3以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記表層板ガラス及び前記コア板ガラスの合わせ面のGI値が、1000pcs/m2以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の強化板ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記コア板ガラス及び前記表層板ガラスが、オーバーフローダウンドロー法によって成形されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の強化板状ガラスの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の強化板ガラスの製造方法において、前記低い方の歪点以上となるように加熱処理を施す前工程であって前記両板ガラスを直接接着させた後工程で、前記コア板ガラスに対応するコア部に圧縮応力を形成することを特徴とする強化板ガラスの製造方法。
【請求項10】
熱膨脹係数が高い厚肉のコア板ガラスと、熱膨脹係数が低い薄肉の表層板ガラスとを、それぞれの合わせ面が密接状態となるように面接触させて加熱処理を施すことにより、前記両板ガラスを直接接着させた後、前記面接触部の温度が、前記両板ガラスのそれぞれの歪点のうち、低い方の歪点以上となるように更に加熱処理を施し、然る後、前記低い方の歪点未満に冷却することにより、前記表層板ガラスに対応する表層部に圧縮応力を形成し且つ前記コア板ガラスに対応するコア部に引張応力を形成してなることを特徴とする強化板ガラス。

【図1】
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【図2】
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