説明

強度、耐食性及び耐酸化特性に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金及び一方向凝固ニッケル基超合金の製造方法

【課題】高温でのクリ−プ破断強度が単結晶材とほぼ同等であり、高温耐酸化性および高温耐食性が従来の一方向凝固材と同等ないしは優れている一方向凝固用ニッケル基超合金を提供する。
【解決手段】重量でCr:3.0〜8.0%、Co:3.0〜18.0%、W:4.5〜10.0%、Re:0.5〜6.0%、Ta:4.0〜10.0%、Ti:0.8〜4.0%、Al:2.5〜6.5%、Hf:0.1〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温における強度、靭性、耐食性及び耐酸化特性に優れていることが要求される部品および製品の素材として利用するのに適したニッケル基超合金とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジェットエンジンやガスタービンなどの動力機関においては、その高性能化および高効率化などのために、タービン入口温度の高温化が必要不可欠となっており、1500℃或いはそれ以上の高温化に耐え得るタービン動翼材料の開発が重要課題とされている。
【0003】
タービン動翼材料に要求される主な特性は、高温での遠心力に耐えるための優れたクリープ破断強度、靭性および高温燃焼ガス雰囲気に対する優れた耐酸化性及び耐食性である。これらの要求特性を満たすために、現在ではニッケル基超合金の一方向凝固材や単結晶材が実用化されている。
【0004】
ニッケル基超合金の単結晶材は、従来の等軸晶を有する普通鋳造材や柱状晶を有する一方向凝固材と異なり、粒界がないために融点直下で溶体化熱処理を施すことが可能である。このため、固溶強化度の高いWやTaを多量に添加して、凝固偏析を完全に除去した均質組織を得ることができる。これにより、普通鋳造材や一方向凝固材に比べて、クリープ破断強度と靭性を高くできるという特徴を有する。
【0005】
一方、一方向凝固材は、単結晶材ほどクリープ破断強度は高く無いが、普通鋳造材に比べるとクリープ破断強度と靭性が著しく高い。また、鋳造も単結晶材に比べると非常に容易であり、コスト的にも安くなることから、単結晶材ほどの強度を必要としない部分に数多く使用されている。一方向凝固ニッケル基超合金について記載された公知例としては、例えば特許文献1及び2がある。
【0006】
【特許文献1】特開平3−97822号公報
【特許文献2】特開平6−57359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように単結晶ニッケル基超合金は優れた特徴を有しているが、鋳造が難しくコストが高い。このため、特に発電用の大型ガスタービンの動翼を単結晶化することは非常に困難であり、この点が各種特性に優れた単結晶翼が普及しない大きな要因となっている。
【0008】
これに対し、一方向凝固ニッケル基超合金は鋳造が容易であり、発電用大型ガスタービンの動翼の鋳造も容易であり、現有の発電用大型ガスタービンの動翼として数多く使用されている。しかしながら、現在使用されている一方向凝固材は、クリープ破断強度が単結晶材ほど高くないために、ガスタービンの燃焼温度を高温化し熱効率の向上を図るには、もはや限界に達しているのが実情である。
【0009】
このようなことから、クリープ強度に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金を開発することは、燃焼ガス温度の上昇による発電用ガスタービンの更なる熱効率向上を図るために、きわめて重要である。
【0010】
本発明は、上述の背景に鑑みてなされたものであり、その目的は高温でのクリ−プ破断強度が単結晶材と同等であり、高温における耐酸化性及び耐食性が従来の一方向凝固材と同等ないしは優れている一方向凝固用ニッケル基超合金及び一方向凝固ニッケル基超合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、重量でCr:3.0〜8.0%、Co:3.0〜18.0%、W:4.5〜10.0%、Re:0.5〜6.0%、Ta:4.0〜10.0%、Ti:0.8〜4.0%、Al:2.5〜6.5%、Hf:0.1〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したことを特徴とする一方向凝固用ニッケル基超合金にある。
【0012】
本発明に係る一方向凝固用ニッケル基超合金の好ましい成分組成は、重量でCr:3.0〜7.0%、Co:3.0〜18.0%、W:4.5〜8.0%、Re:1.0〜6.0%、Ta:4.0〜10.0%、Ti:0.8〜2.0%、Al:4.5〜6.5%、Hf:0.1〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したものである。
【0013】
また、本発明に係る一方向凝固用ニッケル基超合金のより好ましい成分組成は、重量でCr:3.8〜7.0%、Co:3.0〜18.0%、W:5.5〜8.0%、Re:3.3〜5.2%、Ta:5.0〜10.0%、Ti:0.8〜2.0%、Al:5.0〜6.0%、Hf:1.0〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSI,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したものである。
【0014】
また、最も好ましい成分組成は、重量でCr:5.0〜7.0%、Co:10.0〜18.0%、W:5.5〜7.6%、Re:3.5〜5.2%、Ta:5.8〜10.0%、Ti:1.2〜2.0%、Al:5.0〜6.0%、Hf:1.0〜1.8%、C:0.05〜0.10%、B:0.01〜0.02%、Zr:0.001〜0.02%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,0及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したものである。
【0015】
本発明は、上述の成分組成を有するニッケル基超合金を一方向凝固鋳造し、真空中または不活性ガス中で、1250℃から1280℃の温度範囲で溶体化熱処理を行った後急冷し、次いで、1100℃から1200℃の温度範囲で1段時効熱処理を行い、更に前記1段時効熱処理よりも低い温度で2段時効熱処理を施すことを特徴とする一方向凝固ニッケル基超合金の製造方法にある。
【0016】
次に、本発明に係る一方向凝固用ニッケル基超合金の成分範囲の限定理由について説明する。
[Cr:3.0〜8.0重量%]
Crはニッケル基超合金の高温における耐食性を改善するのに有効な元素であり、その効果がより顕著に現れるのは3.0重量%以上の含有からである。Cr含有量の増加に伴って、耐食性改善の効果は大きくなるが、含有量が多くなると固溶強化元素の固溶限度を下げるとともに、脆化相であるTCP相が析出して高温強度や高温耐食性を害するため、その上限は8.0重量%とする必要がある。この組成範囲に於いて、強度と耐食性のバランスを考慮した場合、より好ましくは3.8〜7.0重量%の範囲、更に好ましくは5.0〜7.0重量%の範囲である。
[Co:3.0〜18.0重量%]
Coは、金属間化合物NiAlよりなるγ’相の固溶温度を低下させて溶体化処理を容易にするほか、γ相を固溶強化すると共に高温耐食性を向上させる効果を有する。そのような効果が現れるのは、3.0重量%以上の含有からである。一方、Coの含有量が18.0%を超えると、γ’相の固溶温度を著しく低下させて、析出強化相であるγ’相の析出量を少なくし、高温強度を低下させてしまうため、18.0重量%以下にする必要がある。この組成範囲に於いて、溶体化熱処理の容易性と強度とのバランスを考慮した場合、より好ましくは10.0〜18.0重量%の範囲である。
[W:4.5〜10.0重量%]
Wはマトリックスであるγ相と析出相であるγ’相に固溶し、固溶強化によりクリープ強度を高めるのに有効な元素である。このような効果を十分に得るためには4.5重量%以上の含有量が必要である。しかし、Wは比重が大きく、合金の重量を増大するばかりでなく、合金の高温における耐食性を低下させる。また、10.0重量%を超えると針状のα−Wが析出し、クリープ強度、高温耐食性および靭性を低下させるため、その上限を10.0重量%とする必要がある。この組成範囲に於いて、高温における強度、耐食性及び高温での組織安定性のバランスを考慮した場合、好ましくは5.5〜8.0重量%の範囲、より好ましくは5.5〜7.6重量%の範囲である。
[Re:0.5〜6.0重量%]
Reはマトリックスであるγ相にほとんど固溶し、固溶強化によってクリープ強度を高めるとともに、ニッケル基超合金の耐食性を改善するのに有効な元素である。このような効果を十分に得るためには0.5重量%以上の含有量が必要である。しかし、Reは高価であり、比重が大きく、合金の重量を増大する。また、6.0重量%を超えると針状のα−Wまたはα−Reが析出し、クリープ強度および靭性を低下させるため、その上限を6.0重量%とする必要がある。この組成範囲に於いて、高温における強度、耐食性及び高温での組織安定性のバランスを考慮した場合、好ましい範囲は1.0〜6.0重量%、より好ましい範囲は3.3〜5.2重量%、更により好ましい範囲は3.5〜5.2重量%である。
[Ta:4.0〜10.0重量%]
Taはγ’相にNi(Al,Ta)の形で固溶し、固溶強化する。これによりクリープ強度が向上する。この効果を十分に得るためには、4.0重量%以上の含有量が必要であり、10.0重量%を超えると過飽和になって針状のδ相すなわちNiTaが析出し、クリープ強度を低下させる。したがって、その上限を10.0重量%とする必要がある。この組成範囲に於いて、高温における強度と組織安定性のバランスを考慮した場合、好ましくは5.0〜10.0重量%の範囲、より好ましくは5.8〜10.0重量%の範囲である。
[Ti:0.8〜4.0重量%]
TiはTaと同様にγ’相にNi(Al,Ta,Ti)の形で固溶し、固溶強化するが、Taほどの効果はない。むしろ、Tiは合金の高温における耐食性を改善する効果があるので0.8重量%以上の含有量とする。しかし、4.0重量%を超えて含有すると、耐酸化特性が劣化するため、その上限を4.0重量%とする必要がある。この組成範囲に於いて、高温における強度と耐食性、耐酸化特性のバランスを考慮した場合、好ましくは0.8〜2.0重量%の範囲、より好ましくは1.2〜2.0重量%の範囲である。
[Al:2.5〜6.5重量%]
Alは析出強化相であるγ’相の構成元素であり、これによりクリープ強度が向上する。また、耐酸化特性の向上にも大きく寄与する。それらの効果が十分に得られるようにするためには、2.5重量%以上の含有量が必要であるが、6.5重量%を超えると、γ’相が過大に析出し、かえって強度を低下させることから、2.5〜6.5重量%の範囲とすることが必要である。この組成範囲に於いて、高温における強度と耐酸化特性のバランスを考慮した場合、好ましくは4.5〜6.0重量%の範囲、より好ましくは5.0〜6.0重量%の範囲である。
[Ru:0〜6.0%]
Ruは、必ずしも含有する必要はないが、含有するとγ’相の固溶できる領域を広げて溶体化処理を容易にするほか、γ相を固溶強化すると共に高温耐食性を向上させる効果を有する。しかし、Ruは高価であり、含有量を多くすると素材の価格が上昇する。また、Ruの含有量が6.0重量%を超えると、析出強化相であるγ’相の析出を減少させて、高温強度を低下させてしまうため、6.0重量%以下にする必要がある。
[Hf:0.1〜2.0重量%]
Hfは高温での耐食、耐酸化性を向上させる効果がある。Hfの含有により、合金表面に形成される保護皮膜、例えばCr,Alの密着性が向上する。また、結晶粒界に共晶のNiHfを形成し、結晶粒界の強度を向上させる。保護皮膜の密着性を向上させるためには、0.1重量%以上の含有量が必要である。Hfの含有量が多くなると保護皮膜の密着性は著しく向上し、更に結晶粒界強度も向上するが、2.0重量%を超えるとNi基超合金の融点を著しく下げて、溶体化熱処理を困難にする。また、鋳造時に雰囲気中の酸素とHfOを形成し、鋳造品の表面欠陥となって鋳造歩留りを低下させることから、2.0重量%以下にすることが必要である。この組成範囲に於いて、耐食性、耐酸化特性及び結晶粒界強度と合金の熱処理温度範囲のバランスを考慮した場合、好ましくは1.0〜2.0重量%の範囲であり、より好ましくは1.0〜1.8重量%の範囲である。
[Mo:0〜0.5重量%未満]
MoはWと同様の効果を有するため、必要に応じてWの一部と代替することが可能である。また、γ’相の固溶温度を上げるので、クリープ強度を向上させる効果がある。MoはWに比べて比重が小さいため合金の軽量化が図れる。しかし、Moは合金の耐酸化特性および耐食性を低下させるため、含有するにしてもその上限を0.5重量%未満とする必要がある。この組成範囲に於いて、高温における強度、耐食性及び高温での耐酸化特性のバランスを考慮した場合、好ましくは0.1重量%未満であり、より好ましくは実質的に含有しないことである。
[C:0.01〜0.15重量%]
Cは強化元素として必要である。Cは合金中に一部固溶するが、大部分は結晶粒界にTiC,TaC等の炭化物を形成し、塊状に析出することで、結晶粒界の強度を向上させる。TiC,TaC等の炭化物を形成し、結晶粒界の強度を向上させるためには0.01%以上の含有量が必要である。しかし、0.15重量%を超えると、固溶強化元素であるTaと炭化物を形成することにより、固溶強化Taのみかけの含有量が少なくなり、高温でのクリープ強度を低下させる。そこで、Cの上限を0.15重量%とした。この組成範囲に於いて、結晶粒界強度と高温でのクリープ強度とのバランスを考慮した場合、より好ましくは0.05〜0.10重量%の範囲である。
[B:0.001〜0.05重量%]
BはCと同じく強化元素として必要である。Bは合金中に殆んど固溶せず、結晶粒界に偏析することで結晶粒界の強度を向上させる。結晶粒界に偏析させて結晶粒界の強度を向上させるためには0.001%以上の含有量が必要であるが、0.05重量%を超えると、結晶粒界で(Cr,Ni,Ti,Mo)よりなるホウ化物を形成する。ホウ化物は、合金の融点に比べ著しく低融点であるため、合金の溶体化熱処理を困難にすることから、上限を0.05重量%とした。この組成範囲に於いて、結晶粒界強度と溶体化熱処理のバランスを考慮した場合、より好ましくは0.01〜0.02重量%の範囲である。
[Zr:0.001〜0.05重量%]
ZrはBと同じく強化元素として必要である。Zrの一部は合金中に固溶するが、大部分は固溶せずに結晶粒界に偏析することで結晶粒界の強度を向上させる。結晶粒界に偏析させて結晶粒界の強度を向上させるためには0.001%以上の含有量が必要であるが、含有量が0.05重量%を超えると、結晶粒界でNiZrに代表されるNiとの金属間化合物が形成される。NiとZrの金属間化合物は、合金の融点に比べて著しく低融点であるため、合金の溶体化熱処理を困難にすることから、上限を0.05重量%とした。この組成範囲に於いて、結晶粒界強度と溶体化熱処理のバランスを考慮した場合、より好ましくは0.01〜0.02重量%の範囲である。
【0017】
次に、溶解製造時に坩堝から混入或いは合金原料から持ち込まれる不可避不純物のうち、Si,P.S,O及びNの許容量を限定した理由について説明する。
[Si:0.1%重量%以下]
Siは合金原料から持ち込まれ、不純物として存在する。Siは耐酸化特性向上の効果は認められるが、Hfほどの効果は無く、過剰に存在するとMo等の耐火合金元素と金属間化合物を形成する。これら金属間化合物が合金中に存在すると、クリープ変形中にこれらがクラックの起点となり、クリープ破断寿命が低下する。そこで上限を0.1重量%とした。
[P:0.01重量%%以下]
[S:0.005重量%以下]
これらの元素はいずれも合金原料から持ち込まれ、不純物として存在する。これらの元素は合金の耐食性を低下させることから、可能な限り少ないことが望まれる。しかし、これらの元素が少ない原料は素材コストが高くなることから、耐食性とのバランスで、Pを0.01重量%以下、Sを0.005重量%以下とした。
[O:0.005重量%以下]
[N:0.005重量%以下]
これらの元素も合金原料から持ち込まれることが多く、Oは坩堝からも入る。これらの元素は合金中に酸化物例えばAl、窒化物例えばTiNあるいはAlNとして塊状に存在する。合金中にこれらの酸化物或いは窒化物が存在すると、クリープ変形中にこれらがクラックの起点となり、クリープ破断寿命が低下する。そこで両元素の上限をいずれも0.005重量%とした。
【0018】
次に、一方向凝固ニッケル基超合金の製造工程と熱処理温度を限定した理由について説明する。
【0019】
本発明では、γ’相の析出量を多くして高温クリープ強度の増大を図ることにした。このために、まず、鋳造材を溶体化熱処理し、母相のγ相中にγ’相を再固溶させて組織を均一化した。次いで、時効熱処理を施して、溶体化熱処理で再固溶した組織からγ’相を析出させた。時効熱処理は2段階で行い、1段時効ではγ’相の大きさと形状を整え、2段時効において、1段時効で析出したγ’相の組成を安定化させると共にγ相に過飽和に固溶解しているγ’相形成元素を析出させて、γ’相の析出量増加を図った。
【0020】
溶体化熱処理は、温度が低すぎると溶体化が不十分となり、クリープ強度がでなくなる。温度が高すぎると、合金の一部が溶融を開始し、やはり強度が出なくなる。溶体化がある程度可能で、且つ、溶融を生じない温度範囲として1250℃〜1280℃を選定した。
【0021】
γ’相の大きさと形は、時効熱処理の温度によって大きく異なり、温度が低いと球形になり、温度が高すぎると塊状になる。クリープ強度を高めるためには、γ’相の形状は立方体にすることが望ましく、本発明の合金組成では1120℃〜1180℃の温度範囲で1段時効熱処理を施すことによって達成される。
【0022】
2段時効熱処理は、γ’相の組成を安定させることが主要な狙いであることから、γ相に固溶している元素が、ある程度の時間内で拡散できるようにするために、1段時効よりも低い温度に設定した。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る一方向凝固用ニッケル基超合金は、高温でのクリープ破断強度、耐食性及び耐酸化特性が優れている。このため、例えばジェットエンジンやガスタービンなどの動力機関における高性能化及び高効率化のためにタービン入口温度を高める場合にも十分対応しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、具体的実施例について説明するが、本発明は以下に示す例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
表1に、本発明実施例合金(No.A1〜A18)及び比較例の既存合金(No.B1〜B2、No.C1〜C5)の化学組成を示す。既存合金No.B1〜B2は単結晶材であり、No.C1〜C4は一方向凝固材である。
【0026】
最初に各合金の素材を配合後、容量15kgの耐火坩堝を用い,真空誘導炉で直径70mm、長さ200mmのインゴットを溶製した。表2に溶製したインゴットの不純物量を示す。このインゴットの状態では、等軸晶の組織を有する。
【0027】
一方向凝固試験片の鋳造は、上記インゴットを用いて、鋳型引き出し式一方向凝固法で行った。具体的には、アルミナ質のセラミック鋳型を用い、鋳型加熱温度:1500℃、鋳型引き出し速度:20cm/hにて、直径15mm、長さ100mmの一方向凝固試験片を鋳造した。鋳造は、全て真空中で行った。
【0028】
単結晶試験片も、鋳型の形状が異なる点を除いて、一方向凝固試験片とほぼ同様の方法で鋳造した。
【0029】
鋳造した一方向凝固試験片及び単結晶試験片には、表3に示す条件で溶体化熱処理および時効熱処理を施した。これらの熱処理条件は別途予備試験を行い,マクロ組織及びミクロ組織から決定した。表3中にGFCとあるのはガスフロークーリングのことであり、ガス冷却を行ったことを示している。
【0030】
熱処理した一方向凝固試験片及び単結晶試験片から、それぞれ、機械加工により、平行部直径6.0mm、平行部長さ30mmのクリープ試験片と、長さ25mm、幅10mm、厚さ1.5mmの高温酸化試験片および直径8mm、長さ40mmの高温腐食試験片を切り出した。
【0031】
表4に特性評価試験条件を示す。クリープ破断試験は、982℃−206MPa、920℃−314MPaの二つの条件で行った。酸化試験は、1040℃で600時間加熱保持したのち、室温まで冷却し、再び1040℃で600時間加熱する操作を5回繰り返して、合計3000時間の酸化試験を行い、3000時間酸化後の重量変化を測定した。耐食性試験は、燃焼ガス中にNaClを80ppm添加し、900℃の条件で7時間加熱保持したのち室温まで冷却し、再び900℃で7時間加熱する試験を5回繰り返して、合計35時間試験を行い、35時間腐食試験後の重量変化を測定した。
【0032】
これらの試験結果をまとめて表5に示した。なお、表5の酸化試験及び腐食試験後の試料には、重量増或いは重量減が見られるが、重量増は試験時に形成された酸化物皮膜が試料表面に密着していることを示し、重量減は酸化物皮膜が試料表面から剥がれたことを示している。重量増が少ないものほど特性が優れていることを示している。また、クリープ破談試験の結果は、破断寿命で示した。破断寿命が長いほど、クリープ強度が高いことを意味する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表5より明らかなように、本発明の実施例合金No.A1〜A18は、既存の単結晶材No.B1に比べてもクリープ破断寿命は見劣りせず、高温耐酸化性はかえって優れている。No.B2に比べると、982℃のクリープ破断寿命は短いが、920℃のクリープ破断寿命はほぼ同等であり、高温耐酸化性は優れている。また、既存の一方向凝固材No.C1〜C4に比べると、クリープ破断寿命、高温耐酸化性の点でいずれも優れており、高温耐食性でも同等ないしは優れている。すなわち、本発明合金は、高温強度と高温耐食性及び高温耐酸化特性のいずれも優れたバランスのとれた合金であることが認められた。このように上述の各特性がいずれも優れていることから、本発明合金は1500℃或いはそれ以上の高温に耐え得るタービン動翼材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量でCr:3.0〜8.0%、Co:3.0〜18.0%、W:4.5〜10.0%、Re:0.5〜6.0%、Ta:4.0〜10.0%、Ti:0.8〜4.0%、Al:2.5〜6.5%、Hf:0.1〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したことを特徴とする強度、耐食性、耐酸化特性に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金。
【請求項2】
重量でCr:3.0〜7.0%、Co:3.0〜18.0%、W:4.5〜8.0%、Re:1.0〜6.0%、Ta:4.0〜10.0%、Ti:0.8〜2.0%、Al:4.5〜6.5%、Hf:0.1〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したことを特徴とする強度、耐食性、耐酸化特性に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金。
【請求項3】
重量でCr:3.8〜7.0%、Co:3.0〜18.0%、W:5.5〜8.0%、Re:3.3〜5.2%、Ta:5.0〜10.0%、Ti:0.8〜2.0%、Al:5.0〜6.0%、Hf:1.0〜2.0%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.05%、Zr:0.001〜0.05%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したことを特徴とする強度、耐食性、耐酸化特性に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金。
【請求項4】
重量でCr:5.0〜7.0%、Co:10.0〜18.0%、W:5.5〜7.6%、Re:3.5〜5.2%、Ta:5.8〜10.0%、Ti:1.2〜2.0%、Al:5.0〜6.0%、Hf:1.0〜1.8%、C:0.05〜0.10%、B:0.01〜0.02%、Zr:0.001〜0.02%、Mo:0〜0.5%未満、Ru:0〜6.0%以下、残部Ni及び不可避不純物よりなり、
不純物中のSi,P,S,O及びNの量を、それぞれ、Si:0.1%以下、P:0.01%以下、S:0.005以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下に規制したことを特徴とする強度、耐食性、耐酸化特性に優れた一方向凝固用ニッケル基超合金。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の成分組成を有するニッケル基超合金よりなる一方向凝固した素材を、真空中または不活性ガス中で、1250℃から1280℃の温度範囲で溶体化熱処理を行った後急冷し、次いで、1100℃から1200℃の温度範囲で1段時効熱処理を行った後、前記1段時効熱処理よりも低い温度で2段時効熱処理を施すことを特徴とする一方向凝固ニッケル基超合金の製造方法。

【公開番号】特開2007−211273(P2007−211273A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30583(P2006−30583)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000191652)
【出願人】(594114101)
【Fターム(参考)】