説明

強磁性共鳴を用いる磁気記録方法及び該方法に用いる薄膜磁気ヘッド

【課題】加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができ、しかもコンパクト化及び低コスト化が可能な薄膜磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】データ信号の書き込み時に書き込み磁界が発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分がこの主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも主磁極及び補助磁極の間を通過するように形成されており、書き込み磁界を発生させるための書き込みコイルとを備えた電磁コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドであって、書き込みコイルの一部が、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル層と書き込みコイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっている薄膜磁気ヘッドが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化を熱的に安定させるために大きな保磁力を有する磁気記録媒体に、データ信号を書き込むための薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気記録再生装置に関する。また、本発明は、このような大きな保磁力を有する磁気記録媒体に、データ信号を書き込む磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に代表される磁気記録再生装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッド及び磁気記録媒体のさらなる性能及び特性の向上が要求されている。薄膜磁気ヘッドとしては、データ信号の読み出し用の読み出しヘッド素子としての磁気抵抗(MR)効果素子と、データ信号の書き込み用の書き込みヘッド素子としての電磁コイル素子とを積層した構造である複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられている。現在、このヘッドにおいて、両ヘッド素子それぞれの、微細加工の適用による小型化及び新材料系の適用による特性の向上が図られている。
【0003】
一方、磁気記録媒体は、磁性粒子の集合体となっている。ここで一般に、1つの記録ビットは、複数の磁性粒子から構成されているが、従来、記録ビットの境界の磁気的なゆらぎを減少させて記録密度を高めるために、磁性粒子の微細化が図られてきた。しかし、磁性粒子の微細化を進めると、体積減少に伴って磁性粒子内の磁化の熱揺らぎが大きくなり、磁化の熱安定性の低下が問題となる。
【0004】
この問題への1つの対処として、現在、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式への移行が検討されており、実際、製品化も実現している。垂直磁気記録用の媒体においては、磁性粒子を微細化しても所定の磁気記録層厚を確保すること等によって、長手磁気記録用の媒体と比較して熱揺らぎをより抑えることが容易となる。これにより面記録密度の大幅な向上が可能となる。
【0005】
しかしながら、さらなる記録密度の向上を図るためには、垂直磁気記録用の媒体を構成する磁性粒子のさらなる微細化とともに、熱揺らぎをより確実に抑制することが求められる。このために、磁性粒子の磁気異方性エネルギーKを大きくすることが考えられるが、この磁気異方性エネルギーKの増加は、磁気記録層の保磁力の増加をもたらす。実際、熱揺らぎの抑制を図った磁気記録層の保磁力は、例えば5kOe(400kA/m)以上の値となる。これに対して、磁気ヘッドによる書き込み磁界強度は、ヘッド内の磁極を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度でほぼ決定されてしまい、一般に保磁力の2倍程度の書き込み磁界が必要とされている飽和磁気記録を行うことが非常に困難な状況となる。
【0006】
ここでさらなる対策として、保磁力の大きな(磁気異方性エネルギーKの大きな)磁気記録層を用いる一方で、書き込み磁界印加の直前に磁気記録媒体を加熱することによって保磁力を小さくして書き込みを行う、いわゆる熱アシスト磁気記録方式が提案されている。
【0007】
この熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体の加熱方法として、現在、電子線、又は近接場光を磁気記録媒体に照射する方法が主に提案されている。例えば、特許文献1においては、電子放出源を用いて磁気記録媒体に電子を照射し、磁気記録媒体の記録部を加熱昇温させて保磁力を低下させた上で、磁気記録ヘッドによる磁気的情報の記録を可能としている。また、特許文献2においては、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極に接して設けられた近接場光プローブを構成する散乱体に、ヘッド内に設けられた半導体レーザ素子を用いてレーザ光を照射して近接場光を発生させ、この近接場光を磁気記録媒体に及ぼして磁気記録媒体の加熱昇温を図る技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−250201号公報
【特許文献2】特開2004−158067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの熱アシスト磁気記録方式にも、技術上、種々の困難が生じており、問題となっている。
【0010】
実際、上述したような熱アシスト磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを実現するためには、一般に、高い位置精度及び寸法精度の要求される微細な電子放出源、レーザ光源又は光学系部品をヘッド内部に形成する必要があり、製造工程上の大きな負担となる。その結果、製造コストの増大の原因となり得る。また、電子放出源、レーザ光源又は光学系部品といった新たな素子を設けることによって構造が複雑化し、製品上大きな要請となっているヘッドのコンパクト化が困難となってしまう。
【0011】
また、素子形成面と媒体対向面とが垂直である一般的な薄膜磁気ヘッドの構成において、媒体対向面から電子が放出されるように電子放出源を配置したり、素子形成面に平行な光を得ることができるようにレーザ光の供給源を配置したりすることが、設計上相当に難しい。そのため、磁気記録層の記録対象位置に正確に電子又は近接場光を照射し、その上で書き込み磁界を印加することが困難となっている。
【0012】
さらに、熱アシスト磁気記録方式においては、記録対象位置だけでなく、熱伝導によってその近傍も加熱される。そのため、かえって磁性粒子の熱揺らぎを助長してしまう可能性が生じる。また、被加熱部分の温度分布や、磁気ヘッドの書き込み磁界の分布は一様ではないため、所望の記録対象位置だけを確実に磁化反転させたり消磁させたりすることが難しい。その結果、高精度かつ高品質なデータ信号の書き込みが困難となっている。
【0013】
さらにまた、加熱により保磁力を一時的に低減するためには、磁気記録層の材料として温度の上昇に伴う保磁力の減少率が大きな材料を用いることが好ましいが、このような新材料の開発が大きな負担となるとともに、開発された新材料において、使用環境温度の上昇に伴って熱揺らぎが増大してしまう可能性がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができる薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気記録再生装置を提供することにある。
【0015】
また、本発明の目的は、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができ、しかもコンパクト化及び低コスト化が可能な薄膜磁気ヘッドを提供することにある。
【0016】
さらにまた、本発明の目的は、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができる磁気記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明について説明する前に、明細書において用いられる用語の定義を行う。基板の素子形成面に形成された構成要素の層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。例えば、「絶縁層上に下部磁極層がある」とは、下部磁極層が、絶縁層よりも積層される方向側にあることを意味する。
【0018】
本発明によれば、媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、データ信号の書き込み時に自身の媒体対向面側の端部から書き込み磁界が発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分がこの主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも主磁極及び補助磁極の間を通過するように形成されており、書き込み磁界を発生させるための書き込みコイルとを備えた電磁コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドであって、
書き込みコイルの一部が、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル層と、書き込みコイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっている薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0019】
この本発明による薄膜磁気ヘッドにおいては、書き込みコイルの一部が共鳴コイル層となっており、この共鳴コイル層に磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用電流を印加すると、主磁極の端部と補助磁極の端部との間に強磁性共鳴用の共鳴用磁界が発生する。書き込み時に、この共鳴用磁界を磁気記録媒体に印加することによって、書き込みに必要となる書き込み磁界強度を大幅に低減することができる。これにより、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことが可能となる。
【0020】
また、共鳴コイル層が書き込みコイルの一部であるので、共鳴コイル部の巻数が制限されて、マイクロ波帯域における実効インダクタンスの増大をより少なくすることができる。また、共鳴コイル部を書き込みコイルと独立して設ける場合に比べて、駆動電流の干渉を大幅に低減することがきる。
【0021】
この本発明による薄膜磁気ヘッドにおいて、共鳴コイル部が、トレーリングギャップに近い書き込みコイルの最外周に及んでいることが好ましい。また、書き込みコイルの途中であって共鳴コイル層の端部にタップが設けられていることも好ましい。
【0022】
また、補助磁極が、主磁極のトレーリング側に位置しており、主磁極のリーディング側に補助シールドが設けられていることが好ましい。この場合、補助シールドの媒体対向面側の端部から離隔した部分が、主磁極と磁気的に接続されていることも好ましい。さらに、少なくとも主磁極及び補助シールドの間を通過するように形成されており、書き込みコイルと電気的に直列に接続されていて、書き込みコイルとは逆向きに巻かれたリーディング側書き込みコイルが設けられていることも好ましい。
【0023】
また、このリーディング側書き込みコイルが設けられている場合において、リーディング側書き込みコイルの一部が、書き込みコイル層とリーディング側共鳴コイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっており、書き込みコイルの途中である共鳴コイル層の端部とリーディング側書き込みコイルの途中であるリーディング側共鳴コイル層の端部とが、接続部によって電気的に接続されていることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、さらに、媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、データ信号の書き込み時に自身の媒体対向面側の端部から書き込み磁界が発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分が主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも主磁極及び補助磁極の間を通過するように形成されており、書き込み磁界を発生させるための書き込みコイルとを備えた電磁コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドであって、
書き込みコイルの一部が、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル部となっている薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0025】
この本発明による薄膜磁気ヘッドにおいては、書き込みコイルの一部が共鳴コイル部となっており、この共鳴コイル部に磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用電流を印加すると、主磁極の端部と補助磁極の端部との間に強磁性共鳴用の共鳴用磁界が発生する。書き込み時に、この共鳴用磁界を磁気記録媒体に印加することによって、書き込みに必要となる書き込み磁界強度を大幅に低減することができる。これにより、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことが可能となる。
【0026】
また、共鳴コイル部が書き込みコイルの一部であるので、共鳴コイル部の巻数が制限されて、マイクロ波帯域における実効インダクタンスの増大をより少なくすることができる。また、共鳴コイル部を書き込みコイルと独立して設ける場合に比べて、駆動電流の干渉を大幅に低減することがきる。
【0027】
この本発明による薄膜磁気ヘッドにおいて、共鳴コイル部が、トレーリングギャップに近い書き込みコイルの最外周の電流路を含む部分となっていることが好ましい。また、書き込みコイルの途中にタップが設けられており、共鳴コイル部が、このタップと書き込みコイルの外周端との間の部分となっていることも好ましい。さらに、補助磁極が、主磁極のトレーリング側に位置しており、この主磁極のリーディング側に補助シールドが設けられていることも好ましい。
【0028】
また、以上に述べた本発明による薄膜磁気ヘッドにおいて、磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、書き込み磁界が磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、共鳴用磁界が磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることが好ましい。さらに、磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、共鳴用磁界の最大値が、書き込み磁界の最大値よりも小さくなるように設定されていることが好ましい。
【0029】
本発明によれば、また、以上に述べた薄膜磁気ヘッドと、この薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、書き込みコイルに印加される書き込み電流と共鳴コイル層又は共鳴コイル層及びリーディング側共鳴コイル層に印加される共鳴用電流を伝送するための複数の伝送路を有する伝送部とを備えているHGAが提供される。この場合、薄膜磁気ヘッドと伝送部との間に、薄膜磁気ヘッドと複数の伝送路とのインピーダンスを整合させるためのインピーダンス調整手段を備えていることが好ましい。さらに、このインピーダンス調整手段が、調整用抵抗部と調整用コンデンサ部とを備えていることが好ましい。
【0030】
本発明によれば、さらにまた、上述したHGAを少なくとも1つ備えており、薄膜磁気ヘッドが書き込み及び読み出しを行う対象である少なくとも1つの磁気記録媒体と、上述した複数の伝送路の少なくとも2つと接続されており、書き込みコイルに書き込み電流を供給するための書き込み電流源と、上述した複数の伝送路の少なくとも2つと接続されており、共鳴コイル層又は共鳴コイル層及びリーディング側共鳴コイル層に共鳴用磁界を発生させるための共鳴用電流を供給するための共鳴用電流源とを備えている磁気記録再生装置が提供される。
【0031】
この本発明による磁気記録再生装置において、共鳴用電流源の出力インピーダンスと、共鳴用電流源に接続されている複数の伝送路の少なくとも2つの特性インピーダンスの和との間で整合がとられていることが好ましい。さらに、書き込み電流源の出力インピーダンスと、書き込み電流源に接続されている複数の伝送路の少なくとも2つの特性インピーダンスの和との間で整合がとられていることが好ましい。
【0032】
また、この本発明による磁気記録再生装置において、少なくとも1つの磁気記録媒体が、磁気記録層と、この磁気記録層の媒体基板側に位置する軟磁性裏打ち層とを備えていることが好ましい。さらに、この少なくとも1つの磁気記録媒体が、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアであることも好ましい。
【0033】
本発明によれば、さらにまた、書き込みコイルの一部に、マイクロ波帯域の周波数を有する電流を印加して、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させ、この共鳴用磁界を磁気記録層に印加しながら、書き込みコイルに書き込み電流を印加して、書き込み磁界を発生させ、この書き込み磁界を磁気記録層に印加して書き込みを行う磁気記録方法が提供される。
【0034】
この本発明による磁気記録方法において、書き込みコイルが、共鳴コイル層と書き込みコイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっている部分を備えており、書き込みコイルの一部として、共鳴コイル層を用いることも好ましい。また、書き込みコイルの一部として、書き込みコイルの最外周の電流路を含む部分を用いることも好ましい。また、共鳴用磁界を、磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向に印加し、書き込み磁界を、磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向に印加することが好ましい。さらに、磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、共鳴用磁界の最大値を、書き込み磁界の最大値よりも小さくすることが好ましい。
【0035】
さらに、この本発明による磁気記録方法において、共鳴用磁界を印加しながら書き込み磁界を磁気記録層に印加して書き込みを行う前に、磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する事前共鳴用磁界を、磁気記録層に前もって印加することも好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができる。また、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができる薄膜磁気ヘッドが提供される。また、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書き込みを行うことができ、しかもコンパクト化及び低コスト化が可能な薄膜磁気ヘッドが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0038】
図1は、本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【0039】
図1においては、磁気記録再生装置としての磁気ディスク装置が示されており、40は、スピンドルモータ11の回転軸110の回りを回転する複数の磁気記録媒体としての磁気ディスク、12は、磁気ディスク40に対してデータ信号の書き込み及び読み出しを行うための薄膜磁気ヘッド(スライダ)21を、各磁気ディスク40の表面に適切に対向させるためのHGA、15は、薄膜磁気ヘッド21を磁気ディスク40のトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、19は、薄膜磁気ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに後述する(リーディング側)共鳴コイル層又は共鳴コイル部に印加される共鳴用の高周波電流である共鳴用電流を制御するための記録再生及び共鳴制御回路をそれぞれ示している。
【0040】
アセンブリキャリッジ装置15には、ボイスコイルモータ(VCM)150が設けられており、複数の駆動アーム16が、このVCM150に取り付けられている。これらの駆動アーム16は、VCM150によってピボットベアリング軸17を中心にして角揺動可能となっており、この軸に沿った方向にスタックされている。この各駆動アーム16の先端部に、HGA12が取り付けられている。磁気ディスク40、駆動アーム16、HGA12は、単数であってもよい。
【0041】
同じく図1によれば、HGA12は、薄膜磁気ヘッド21と、支持機構としてのロードビーム120及びフレクシャ121と、書き込みヘッド素子に印加される電流を伝送するための複数の伝送路130、132及び134を有する伝送部13と、薄膜磁気ヘッド21と伝送部13との間に設けられており、薄膜磁気ヘッド21と複数の伝送路130、132及び134とのインピーダンスを整合させるためのインピーダンス調整部14とを備えている。なお、図示されていないが、HGA12には、読み出しヘッド素子に定電流を印加して読み出し出力電圧を取り出すための配線部材も設けられている。
【0042】
薄膜磁気ヘッド21は、弾性を有するフレクシャ121の一端に取り付けられており、このフレクシャ121とフレクシャ121の他端が取り付けられたロードビーム120とによって、薄膜磁気ヘッド21を支持する支持機構としてのサスペンションが構成されている。
【0043】
伝送部13は、Cu等の導電材料からなる3つの伝送路130、132及び134と、伝送路130及び132の間、並びに伝送路132及び134の間にそれぞれ積層されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の電気的な絶縁材料からなる絶縁層131及び133とを備えている。また、電流源18は、書き込みヘッド素子の書き込みコイルに印加される書き込み電流を発生させる書き込み電流源180と、後述するように書き込みコイルの一部である(リーディング側)共鳴コイル層又は共鳴コイル部に印加される共鳴用電流を発生させる共鳴電流源181とから構成されており、伝送部13を介して薄膜磁気ヘッド21の書き込みヘッド素子に、書き込み電流と共鳴用電流とを供給する。なお、この電流源18は、記録再生及び共鳴制御回路19の一部であるが、HGA12又は駆動アーム16に取り付けられていてもよいし、図1の記録再生及び共鳴制御回路19の位置内に設けられていてもよい。
【0044】
また、書き込み電流源180は、伝送路130及び134とインピーダンス整合をとりながら接続されており、共鳴電流源181は、伝送路130及び132とインピーダンス整合をとりながら接続されている。また、インピーダンス調整部14は、伝送路130及び134と薄膜磁気ヘッド21の書き込みコイルとの間のインピーダンスを整合させ、さらに伝送路130及び132と薄膜磁気ヘッド21の共鳴コイル部との間のインピーダンスを整合させる役割を果たしている。なお、この接続構造は、後述する第1〜第4の実施形態に対応している。
【0045】
記録再生及び共鳴制御回路19は、図示されていないが、例えば、上述した電流源18と、書き込み及び読み出し動作における信号の送受及び処理を行うヘッドアンプ及びリードライト(R/W)チャネルと、インターフェース制御等を行うコントローラと、回路全体の制御を司るCPUとを備えていてもよい。
【0046】
なお、インピーダンス調整部14の構成、並びに上述したインピーダンス整合の方法については、後に詳述する。
【0047】
図2は、本発明による薄膜磁気ヘッド21の全体を概略的に示す斜視図である。なお、図示されている書き込みコイルの構造は、後述する第1〜第4の実施形態に対応している。
【0048】
図2において、薄膜磁気ヘッド21は、適切な浮上量を得るように加工された浮上面(ABS)2100を有するスライダ基板210と、ABS2100を底面とした際の1つの側面に相当しておりABS2100に垂直な素子形成面2101に設けられた磁気ヘッド素子32と、磁気ヘッド素子32を覆うように素子形成面2101上に設けられた被覆部39と、被覆部39の層面から露出している5つの端子電極350、351、360、361及び362とを備えている。
【0049】
ここで、磁気ヘッド素子32は、データ信号の読み出し用の読み出しヘッド素子である磁気抵抗(MR)効果素子33と、データ信号の書き込み用の書き込みヘッド素子である電磁コイル素子34とから構成されており、端子電極350及び351は、MR効果素子33に電気的に接続されており、端子電極360、361及び362は、電磁コイル素子34に電気的に接続されている。なお、端子電極350、351、360、361及び362は、図2に示された位置に限定されるものではなく、例えば、ABS2100とは反対側のスライダ端面212に設けられていてもよい。
【0050】
MR効果素子33及び電磁コイル素子34においては、各素子の一端がABS2100側のスライダ端面211に達している。ここでスライダ端面211は、薄膜磁気ヘッド21の磁気ディスクに対向する媒体対向面のうちABS2100以外の面であって主に被覆部39の端面からなる面である。これらの素子の一端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読み出しと信号磁界の印加によるデータ信号の書き込みとが行われる。なお、スライダ端面211に達した各素子の一端及びその近傍には、保護のために極めて薄いダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のコーティングが施されていてもよい。
【0051】
電磁コイル素子34は、データ信号の書き込み時に自身のABS2100(スライダ端面211)側の端部から書き込み磁界が発生する主磁極としての主磁極層340と、ABS2100(スライダ端面211)側の端部とは離隔した部分が主磁極層340と磁気的に接続された補助磁極としての補助磁極層345と、渦巻き形状を有しており、少なくとも1ターンの間に主磁極層340及び補助磁極層345の間を通過するように形成された書き込みコイル343とを備えている。
【0052】
書き込みコイル343は、その一部が、共鳴コイル層3430と書き込みコイル層343bとが絶縁層を挟んで積層された3層構造となっており、残りの部分が、単層の書き込みコイル部343aとなっている。ここで、端子電極360及び361を用いて、書き込みコイル343の外周側の端部から書き込みコイル層343b、さらには書き込みコイル部343aを介して内周側の端部までの間に通電することによって、主磁極層340及び補助磁極層345が形成する磁気回路に、書き込み磁界となる磁束を発生させることができる。一方、この書き込みコイル343の一部である共鳴コイル層3430は、磁気ディスクの磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である共鳴用磁界を発生させる。
【0053】
共鳴コイル層3430は、書き込みコイル343の外周側の端部から書き込みコイル343の中間部までの部分における3層構造の1つの層として設けられており、端子電極360及び362を用いて通電されることによって、主磁極層340及び補助磁極層345が形成する磁気回路に、共鳴用磁界となる磁束を発生させる。この共鳴コイル層3430は、書き込みコイル343の最外周に及んでいる。
【0054】
また、書き込みコイル343の中間部であって共鳴コイル層3430の内周側の端部及び書き込みコイル部343aの外周側の端部に、タップとしてのタップリード層372が、電気的に接続されて設けられている。すなわち、タップリード層372は、共鳴コイル層3430の内周側の端部及び書き込みコイル部343aの外周側の端部と端子電極362とを電気的に接続している。なお、書き込みコイル層343bの内周側の端及び書き込みコイル部343aの外周側の端とは直接、電気的に接続されている。ここで、これら書き込みコイル層343bと書き込みコイル部343aとが、一体となった1つの導電材料で形成されていてもよい。また、共鳴コイル層3430及び書き込みコイル層343bの外周側の端部と端子電極360とはリード層370によって、書き込みコイル部343aの内周側の端部と端子電極361とはリード層371によってそれぞれ電気的に接続されている。
【0055】
このように、共鳴コイル層3430を、書き込みコイル343の一部とすることによって、共鳴コイル層3430の巻数が制限されて、マイクロ波帯域における実効インダクタンスの増大をより少なくすることができる。また、共鳴コイル層を書き込みコイル343と離隔して設ける場合に比べて、駆動電流の干渉を大幅に低減することがきる。
【0056】
さらに、共鳴コイル層3430が書き込みコイル343の最外周に及んでいることによって、共鳴コイル層3430及び書き込みコイル343自体をともに、トレーリングギャップに十分に近接させることができるため、書き込み磁界及び共鳴用磁界の発生効率が向上する。
【0057】
図3(A)は、本発明による薄膜磁気ヘッドの第1の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図であり、図3(B)は、ABS2100側から見たスライダ端面211上の構成を示す平面図である。
【0058】
図3(A)において、210はアルチック(Al−TiC)等からなるスライダ基板であり、磁気ディスク表面に対向するABS2100を有している。このスライダ基板210の素子形成面2101に、MR効果素子33と、電磁コイル素子34と、これらの素子を保護する被覆部39とが主に形成されている。
【0059】
MR効果素子33は、MR積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層330及び上部シールド層334とを含む。MR積層体332は、面内通電型(CIP(Current In Plane))巨大磁気抵抗(GMR(Giant Magneto Resistive))多層膜、垂直通電型(CPP(Current Perpendicular to Plane))GMR多層膜、又はトンネル磁気抵抗(TMR(Tunnel Magneto Resistive))多層膜を含み、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。上下部シールド層334及び330は、MR積層体332が雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0060】
このMR積層体332がCIP−GMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330の各々とMR積層体332との間に絶縁用の上下部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体332にセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体332がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330はそれぞれ上下部の電極層としても機能する。この場合、上下部シールドギャップ層及びMRリード導体層は不要である。なお、図示されていないが、MR積層体332のトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区構造を安定させる縦バイアス磁界を印加するためのバイアス絶縁層及びハードバイアス層が形成される。
【0061】
MR積層体332は、例えば、TMR効果多層膜を含む場合、IrMn、PtMn、NiMn又はRuRhMn等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば2つのCoFe等の強磁性膜がRu等の非磁性金属膜を挟んだ3層膜から構成されており、反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばAl、AlCu又はMg等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電膜からなるトンネルバリア層と、例えばCoFe等からなる厚さ1nm程度の強磁性膜とNiFe等からなる厚さ3〜4nm程度の強磁性膜との2層膜から構成されており、トンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
【0062】
また、下部シールド層330及び上部シールド層334は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成される。
【0063】
同じく図3(A)によれば、電磁コイル素子34は、垂直磁気記録用であり、主磁極層340と、トレーリングギャップ層342と、共鳴コイル部343rを含む書き込みコイル343と、書き込みコイル絶縁層344と、補助磁極層345と、補助シールドとしての補助シールド層346と、リーディングギャップ層347とを備えている。
【0064】
主磁極層340は、書き込みコイル343の書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343bに書き込み電流が印加されることによって発生した磁束を、書き込みがなされる磁気ディスクの磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路であり、主磁極ヨーク層3400及び主磁極主要層3401から構成されている。ここで、主磁極層340のABS2100(スライダ端面211)側の端部における層厚方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層3401のみの層厚に相当しており小さくなっている。その結果、データ信号の書き込み時には、この端部から高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界を発生させることができる。主磁極ヨーク層3400及び主磁極主要層3401は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された、それぞれ厚さ0.5〜3.5μm程度及び厚さ0.1〜1μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成される。
【0065】
補助磁極層345及び補助シールド層346はそれぞれ、主磁極層340のトレーリング側及びリーディング側に配置されている。補助磁極層345は、上述したように、ABS2100(スライダ端面211)側の端部とは離隔した部分が主磁極層340と磁気的に接続されているが、補助シールド層346は、本実施形態においては主磁極層340と磁気的に接続されていない。
【0066】
補助磁極層345及び補助シールド層346のスライダ端面211側の端部はそれぞれ、他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部3450及びリーディングシールド部3460となっている。トレーリングシールド部3450は、主磁極層340のスライダ端面211側の端部とトレーリングギャップ層342を介して対向している。また、リーディングシールド部3460は、主磁極層340のスライダ端面211側の端部とリーディングギャップ層347を介して対向している。このようなトレーリングシールド部3450及びリーディングシールド部3460を設けることにより、磁束のシャント効果によって、トレーリングシールド部3450と主磁極層340の端部との間、及びリーディングシールド部3460の端部と主磁極層340の端部との間における書き込み磁界の磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0067】
なお、補助磁極層345又は補助シールド層346を適切に加工して、補助磁極層345又は補助シールド層346の一部を、主磁極層340のトラック幅方向の両側近傍に配置して、いわゆる側面シールドを付与することも可能である。この場合、磁束のシャント効果が増強される。
【0068】
図3(B)によれば、スライダ端面211上において、主磁極層340の端は、VCMでの駆動により発生するスキュー角の影響によって隣接トラックに不要な書き込み等を及ぼさないように側辺にベベル角が付けられており、トレーリング側に長辺を有する逆台形となっている。なお、この端形状は、この逆台形の短辺を小さくした極限、すなわち、トレーリング側に底辺を有する逆三角形であってもよい。ここで、この主磁極層340の端において主に書き込みに寄与する書き込み磁界は、トレーリング側の長辺付近に発生するが、この書き込み磁界の磁界勾配及び強度が、トレーリングシールド部3450と主磁極層340の端部との間隔であるトレーリングギャップ長DTG、及びリーディングシールド部3460の端部と主磁極層340の端部との間隔であるリーディングギャップ長DLGを調整することによって最適化される。
【0069】
また、主磁極層340におけるトレーリング側の長辺のトラック幅方向の幅Wは、ほぼ書き込み磁界の幅となる。また、この幅Wは、ほぼ、共鳴コイル部343rからの共鳴用磁界の幅ともなる。その結果、幅Wによって、実効的な記録幅が決定されることになる。
【0070】
なお、トレーリングシールド部3450及びリーディングシールド部3460の層厚方向の長さ(厚さ)は、主磁極層340の同方向の厚さの数十〜数百倍程度に設定されることが好ましい。また、トレーリングギャップ長DTGは、10〜100nm程度であることが好ましく、20〜50nm程度であれば、より好ましい。また、リーディングギャップ長DLGは、0.1μm以上であることが好ましい。
【0071】
また、補助磁極層345及び補助シールド層346は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜4μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成されている。また、トレーリングギャップ層342又はリーディングギャップ層347は、例えば、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のAl、SiO、AlN又はDLC膜等から構成されている。
【0072】
図3(A)に戻って、共鳴コイル層3430は、図2を用いてすでに説明したように、書き込みコイル343の外周側の端部から書き込みコイル343の中間部までの部分における3層構造の1つの層として設けられており、リード層370とタップリード層372との間の部分となっている。また、共鳴コイル層3430は、絶縁層3431を挟む形で書き込みコイル層343bとは離隔している。なお、この3層構造の積層の順序は、本実施形態のように、共鳴コイル層3430、絶縁層3431、書き込みコイル層343bでもよいし、その逆でもよい。ここで、この共鳴コイル層3430に、共鳴用電流を印加すると、後述するように、主磁極層340の端部とトレーリングシールド部3450との間に長手方向(磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界が発生する。書き込み時に、この長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、書き込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書き込み磁界強度を大幅に低減することができる。
【0073】
書き込みコイル絶縁層344は、書き込みコイル343を取り囲んでおり、書き込みコイル343を周囲の磁性層等から電気的に絶縁するために設けられている。書き込みコイル部343a、書き込みコイル層343b、共鳴コイル層3430、タップリード層372、並びにリード層370及び371は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.1〜5μm程度のCu膜等から構成されている。また、書き込みコイル絶縁層344は、例えば、フォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等で構成されている。さらに、絶縁層3431は、例えば、厚さ0.1〜2μm程度の、書き込みコイル絶縁層344と同様のフォトレジスト、又はスパッタリング法、CVD法等を用いて形成されたAl、SiO等から形成されている。
【0074】
図4(A)は、本発明による強磁性共鳴用の磁界を用いた磁気記録方法の原理を説明し、さらに、図3に示した第1の実施形態のヘッドモデルを示すための断面図であり、図4(B)は、第1の実施形態におけるトレーリングギャップ周辺の書き込み磁界及び共鳴用磁界の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0075】
最初に、図4(A)を用いて、磁気ディスク40の構造について説明する。磁気ディスク40は、垂直磁気記録用であり、ディスク基板400上に、磁化配向層401と、磁束ループ回路の一部として働く軟磁性裏打ち層402と、中間層403と、磁気記録層404と、保護層405とを順次積層した多層構造となっている。磁化配向層401は、軟磁性裏打ち層402にトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層402の磁区構造を安定させて、再生出力波形におけるスパイク状ノイズの抑制を図っている。また、中間層403は、磁気記録層404の磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
【0076】
ここで、ディスク基板400は、ガラス、NiP被覆Al合金、Si等から形成されている。磁化配向層401は、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層402は、軟磁性材料であるCoZrNb等のCo系アモルファス合金、Fe合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層403は、非磁性材料であるRu合金等から形成されている。ここで、中間層403は、磁気記録層404の垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。保護層405は、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
【0077】
磁気記録層404は、例えば、CoCrPt系合金、CoCrPt−SiO、FePt系合金、又はCoPt/Pd系の人口格子多層膜等から形成されている。また、この磁気記録層404においては、磁化の熱揺らぎを抑制するため、垂直磁気異方性エネルギーが、例えば1×10erg/cc(0.1J/m)以上に調整されていることが好ましい。この場合、磁気記録層404の保磁力の値は、例えば、5kOe(400kA/m)程度又はそれ以上となる。さらに、この磁気記録層404の強磁性共鳴周波数は、磁気記録層404を構成する磁性粒子の形状、サイズ、構成元素等により決定される固有の値であるが、概ね1〜15GHz程度となっている。この強磁性共鳴周波数は、1つだけ存在する場合もあれば、スピン波共鳴が生じた際のように、複数存在する場合もある。
【0078】
次いで、図4(A)を用いて、本発明による磁気記録方法の原理を説明する。共鳴コイル層3430への通電によって発生する共鳴用磁界に対応する磁束41は、マイクロ波帯域の高周波であるので、表皮効果によって、主磁極層340のトレーリング側の表面から磁気記録層404内を介してトレーリングシールド部3450のリーディング側の表面に至る領域に多く分布することになる。例えば、周波数が10GHz程度の場合、主磁極層340及びトレーリングシールド部3450の表面における磁束41の侵入深さは50nm程度である。その結果、共鳴用磁界は、磁気記録層404よりもディスク基板400側の領域には大きな強度を持たず、磁気記録層404内において同層面にほぼ平行な成分が主となる。
【0079】
ここで、磁気記録層404の磁化は、自身の層面に垂直又は略垂直な方向を有している。この磁気記録層404に、磁束41に対応する同層面内方向の共鳴用磁界が印加される場合、共鳴用磁界の周波数を磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数とすることによって、書き込みに必要な、磁束42による垂直方向の書き込み磁界の値を大幅に低減することが可能となる。ここで、書き込み磁界の低減効果が見込まれる強磁性共鳴周波数の近傍の範囲は、プラスマイナス0.5GHz程度である。
【0080】
実際、磁気記録層の強磁性共鳴周波数を有する共鳴用磁界を印加することによって、例えば、磁気記録層404の磁化を反転させることができる垂直方向の書き込み磁界を40%程度低減し、60%程度とすることが可能となる。すなわち、共鳴用磁界を印加する前における磁気記録層404の保磁力が
5kOe(400kA/m)程度であっても、磁気記録層の面内方向の共鳴用磁界を印加することにより、この保磁力を実効的に2.4kOe(192kA/m)程度にまで低減することが可能となる。
【0081】
なお、共鳴用磁界の強度は、磁気記録層の異方性磁界をHとして、0.1H〜0.2H程度であることがより好ましく、その周波数は、磁気記録層404の構成材料及び層厚等によるが、1〜15GHz程度であることが好ましい。
【0082】
次いで、シミュレーション解析の説明を行う。図4(A)によれば、シミュレーションに用いたヘッドモデルの構成は、図3に示した第1の実施形態となっており、主磁極層340のスライダ端面211側の端部の層厚方向の長さ(厚さ)は280nmであり、主磁極層340のトレーリング端のトラック幅方向の幅は150nmであり、トレーリングシールド部3450の出っ張った部分の層厚方向の長さ(厚さ)は500nmであり、トレーリングシールド部3450のスライダ端面211に垂直な方向の長さ(高さ)は250nmであった。また、トレーリングギャップ長DTGは40nmであった。
【0083】
また、図4(B)のシミュレーション解析のグラフにおいて、横軸は、このヘッドモデルにおけるトラック方向(スライダ端面211においてトラック幅方向に垂直な方向)の位置Xであり、原点を主磁極層340のトレーリング側の端とし、正方向をトレーリング側に向かう方向としている。また、縦軸は、垂直方向の書き込み磁界及び長手方向の共鳴用磁界の強度であり、磁気記録層404の厚さ方向の中間位置における最大振幅強度となっている。
【0084】
図4(B)によれば、書き込み磁界強度は、トレーリング側に行くほど、原点(主磁極層340のトレーリング側の端)を跨いで大きな磁界勾配を持って減少する。一方、共鳴用磁界強度は、書き込み磁界強度とは逆に、原点を跨いで増大し、位置X=15nm付近でピークとなる。ここで、磁気記録層404の本来の保磁力が共鳴用磁界によってより小さい実効的な保磁力にまで低減するので、本来の保磁力下では書き込み動作ができなかった動作点(同図中のP)において、書き込みが十分に可能となる。
【0085】
また、書き込み動作点Pにおいて、書き込み磁界に重畳している共鳴用磁界の強度は、この書き込み磁界強度よりも小さな値となっている。実際、共鳴用磁界の強度が過度に大きいと、書き込み磁界による磁気記録層404の磁化反転に要する時間が長くなる場合が生じるが、本発明においては、共鳴用磁界強度が書き込み磁界強度よりも小さくなるように設定されているので、磁気記録層404の記録対象部分の磁化反転又は消磁を効率良く行うことができる。
【0086】
さらに、共鳴用磁界は、書き込み磁界と同様に、主磁極層340のトレーリング端近傍を中心として発生するので、共鳴用磁界及び書き込み磁界が、同時にかつ確実に磁気記録層の記録対象部分に印加可能となる。これにより、データ信号の書き込み精度及び品質が向上する。
【0087】
さらにまた、磁気記録層の保磁力が十分に大きく設定されているので、磁化の熱揺らぎが抑制されている。従って、データ信号が書き込まれた記録ビットの安定性が良好となり、データ保存についての信頼性が向上する。
【0088】
以上、上述した磁気記録方法によれば、いわゆる熱アシスト(加熱)によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書き込みを行うことができることが理解される。さらに、以上に述べた薄膜磁気ヘッドによれば、電子放出源、レーザ光源等の大きな負担となる特別の素子を用いることなく、このような磁気記録方法を実現することができ、コンパクト化及び低コスト化が可能となる。特に、この第1の実施形態においては、新たなコイルを設ける必要もないので、コンパクト化及び低コスト化をより一層確実にする。
【0089】
図5は、本発明による薄膜磁気ヘッドの第2の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【0090】
図5に示したように、本実施形態においては、補助シールド層346′と主磁極層340′とが磁気的に接続されていることを除いて、図3に示した第1の実施形態と同じ構成となっており、両層以外の構成については説明を省略する。
【0091】
図5によれば、本実施形態においては、主磁極層340′が有する主磁極ヨーク層3400′のスライダ端面211側の端部から離隔した部分が、補助シールド層346′と磁気的に接続されている。この場合、補助シールド層346′のスライダ端面211側の端部であるリーディングシールド部3460′が有する磁束のシャント効果がより大きくなる。その結果、リーディングギャップ長DLGをそれほど小さくしなくとも、書き込み磁界の磁界勾配を大きくすることも可能となり、ヘッド設計の自由度が広くなる。
【0092】
図6は、本発明による薄膜磁気ヘッドの第3の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【0093】
図6に示したように、本実施形態においては、図3に示した第1の実施形態において、さらに、少なくとも1ターンの間に主磁極層340及び補助シールド層346の間を通過するように形成された、リーディング側の書き込みコイルとしてのリーディング側書き込みコイル50と、リーディング側書き込みコイル50を取り囲むように形成されたリーディング側書き込みコイル絶縁層55とが設けられている。なお、本実施形態において、リーディング側書き込みコイル50、リーディング側書き込みコイル絶縁層55、並びにリーディング側書き込みコイル50及び書き込みコイル343の間の接続構造以外の構成は、主磁極層340及び補助シールド層346が磁気的に接続されていないことも含めて第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0094】
図6において、リーディング側書き込みコイル50は、書き込みコイル343と同じく、その一部が、リーディング側書き込みコイル層50bとリーディング側共鳴コイル層500とが絶縁層501を挟んで積層された3層構造となっており、残りの部分が、単層のリーディング側書き込みコイル部50aとなっている。ここで、リーディング側書き込みコイル層50bは、絶縁層501を挟む形でリーディング側共鳴コイル層500とは離隔している。なお、この3層構造の積層の順序は、本実施形態のように、リーディング側書き込みコイル層50b、絶縁層501、リーディング側共鳴コイル層500でもよいし、その逆でもよい。だだし、後述する接続部521による接続を容易にするため、書き込みコイル343の3層構造における積層順序とは逆に設定される。さらに、リーディング側書き込みコイル層50bの内周側の端及びリーディング側書き込みコイル部50aの外周側の端とは直接、電気的に接続されている。ここで、リーディング側書き込みコイル層50bとリーディング側書き込みコイル部50aとが、一体となった1つの導電材料で形成されていてもよい。
【0095】
リーディング側書き込みコイル50は、リーディング側書き込みコイル層50bの外周側の端部及びリーディング側書き込みコイル部50aの内周側の端部の間に通電されることによって、主磁極層340及び補助シールド層346が形成する磁気回路に、書き込み磁界となる磁束を発生させる。ここで、リーディング側書き込みコイル50と書き込みコイル343とは、それぞれの内周側の端部(リーディング側書き込みコイル部50a及び書き込みコイル部343aの内周側の端部)間を導電層からなる接続部520が電気的に接続することによって、直列に接続されている。また、リーディング側書き込みコイル50は、書き込みコイル343とは逆向きに巻かれた渦巻き形状を有している。
【0096】
その結果、リーディング側書き込みコイル50の外周側の端部と書き込みコイル343の外周側の端部との間に、書き込み電流を印加することによって、両コイルによって発生する書き込み磁界が、主磁極層340の位置で重畳して強め合い、より強力な書き込み磁界が実現する。なお、本実施形態においては、図2の端子電極360、361及び362の代わりに、同様の位置に配置された2つの端子電極530及び531が使用される。すなわち、リーディング側書き込みコイル50の外周側の端部(リーディング側書き込み層コイル50b及びリーディング側共鳴コイル層500の外周側の端部)及び書き込みコイル343の外周側の端部(書き込み層コイル343b及び共鳴コイル層3430の外周側の端部)はそれぞれ、リード層510及び511によって端子電極530及び531に接続される。
【0097】
さらに、本実施形態においては、リーディング側書き込みコイル50の中間部となるリーディング側共鳴コイル層500の内周側の端部と、書き込みコイル343の中間部となる共鳴コイル層3430の内周側の端部とが、接続部521によって電気的に接続されている。これにより、端子電極530から、リード層510、リーディング側共鳴コイル層500、接続部521、共鳴コイル層3430、リード層511を介して端子電極531に至る、共鳴用磁界を発生させるための電流経路が形成される。
【0098】
リーディング側共鳴コイル層500及び共鳴コイル層3430は、この電流経路に通電されることによって、主磁極層340及び補助磁極層345の間のトレーリングギャップにおいてのみならず、主磁極層340及び補助シールド層346との間のリーディングギャップにおいても長手方向の共鳴用磁界を発生させることができる。このリーディングギャップに発生した共鳴用磁界(事前共鳴用磁界)は、後述するように、回転している磁気ディスクの記録対象部分において、垂直方向の書き込み磁界が立ち上がる前に印加されるので、磁化を直前に動かして強磁性共鳴効果をより効果的に発揚させることができる。
【0099】
なお、リーディング側書き込みコイル50は、書き込みコイル343と同様の材料を用いて形成されることができる。また、リーディング側書き込みコイル絶縁層55は、書き込みコイル絶縁層344と同様の材料を用いて形成されることができる。さらに、接続部520及び521は、Cu等の導電材料を用いて形成されてもよいし、主磁極層340及び補助磁極層345の形成と同時に、両層と同じ材料を用いて形成されてもよい。
【0100】
図7は、本発明による薄膜磁気ヘッドの第4の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【0101】
図7に示したように、本実施形態においては、補助シールド層346′と主磁極層340′とが磁気的に接続されていることを除いて、図6に示した第3の実施形態と同じ構成となっており、両層以外の構成については説明を省略する。
【0102】
図7によれば、本実施形態においては、主磁極層340′が有する主磁極ヨーク層3400′のスライダ端面211側の端部から離隔した部分が、補助シールド層346′と磁気的に接続されている。この場合、補助シールド層346′のスライダ端面211側の端部であるリーディングシールド部3460′が有する磁束のシャント効果が大きくなる。その結果、リーディングギャップ長DLGをそれほど小さくしなくとも、書き込み磁界の磁界勾配をより大きくすることが可能となり、ヘッド設計の自由度が広くなる。さらに、書き込みコイル343及びリーディング側書き込みコイル50の一部である共鳴コイル部54rによって発生した、リーディングギャップにおける事前共鳴用磁界の強度を十分に強めることも可能となる。
【0103】
図8(A)は、図7に示した第4の実施形態のヘッドモデルを示すための断面図であり、図8(B)は、第4の実施形態におけるトレーリングギャップ周辺及びリーディングギャップ周辺の書き込み磁界及び(事前)共鳴用磁界の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、シミュレーションに用いた磁気ディスクの構成は、図4(A)と同様であった。
【0104】
図8(A)によれば、シミュレーションに用いたヘッドモデルの構成は、図7に示した第4の実施形態となっており、主磁極層340′のスライダ端面211側の端部の層厚方向の長さ(厚さ)は280nmであり、主磁極層340′のトレーリング端のトラック幅方向の幅は150nmであった。また、トレーリングシールド部3450の出っ張った部分の層厚方向の長さ(厚さ)は500nmであり、トレーリングシールド部3450のスライダ端面211に垂直な方向の長さ(高さ)は250nmであった。また、トレーリングギャップ長DTGは40nmであり、リーディングギャップ長DLGは400nmであった。
【0105】
また、図8(B)のシミュレーション解析のグラフにおいて、横軸は、このヘッドモデルにおけるトラック方向(スライダ端面211においてトラック幅方向に垂直な方向)の位置Xであり、任意スケールとしている。また、縦軸は、垂直方向の書き込み磁界及び長手方向の(事前)共鳴用磁界の強度についての相対値であり、磁気記録層404の厚さ方向の中間位置における最大振幅強度についての相対値となっている。
【0106】
図8(B)によれば、書き込み磁界は、ほぼ主磁極層340′の位置を中心として台形状に分布しており、リーディングギャップの領域内から立ち上がって、トレーリングギャップの領域内において減衰している。一方、(事前)共鳴用磁界は、リーディングギャップの領域及びトレーリングギャップの領域それぞれにおいて分布しており、リーディングギャップの領域において書き込み磁界が立ち上がる直前に極大値をとり、次いで、トレーリングギャップの領域において書き込み磁界が大きな磁界勾配を有する書き込み動作点Pに達する前に、再び立ち上がっている。なお、書き込み動作点Pにおいて、書き込み磁界に重畳している共鳴用磁界の強度は、図4(B)に示した第1の実施形態の場合と同様、この書き込み磁界強度よりも小さな値となっている。これにより、磁化反転に要する時間を長くすることなく、記録対象部分の磁化反転又は消磁を効率良く行うことができる。
【0107】
リーディングギャップに発生した事前共鳴用磁界は、書き込み磁界が立ち上がる直前に極大値をとっている。従って、回転している磁気ディスクの記録対象部分は、垂直方向の書き込み磁界を受ける前に、まず、この事前共鳴用磁界を受ける。従って、記録対象部分の磁化は、書き込み磁界によって反転させられる前に、事前共鳴用磁界によって歳差運動させられる。これにより、実際の書き込み動作点Pにおいて、強磁性共鳴効果をより効果的に発揚することが可能となる。
【0108】
さらに、トレーリングギャップに発生した共鳴用磁界は、書き込み磁界と同様に、主磁極層340のトレーリング端近傍を中心として発生するので、共鳴用磁界及び書き込み磁界が、同時にかつ確実に磁気記録層の記録対象部分に印加可能となる。これにより、データ信号の書き込み精度及び品質が向上する。
【0109】
さらにまた、以上に述べた薄膜磁気ヘッドによれば、電子放出源、レーザ光源等の大きな負担となる特別の素子を用いることなく、このような磁気記録方法を実現することができ、コンパクト化及び低コスト化が可能となる。
【0110】
図9は、本発明による薄膜磁気ヘッドの第5の実施形態における要部の構成を示す斜視図、及び図2のA−A線断面図である。
【0111】
図9(A)に示すように、第5の実施形態においては、主磁極層940及び補助磁極層945は、第1の実施形態(図2及び図3)と同様であるが、書き込みコイル943及びその周りの電気接続が異なっている。書き込みコイル943は、渦巻き形状を有しており、少なくとも1ターンの間に主磁極層940及び補助磁極層945の間を通過するように形成されており、外周側の端部から内周側の端部まで単層構造となっている。
【0112】
ここで、書き込みコイル943は、端子電極961及び962を用いて自身の内周側の端部9431及び中間部9432の間に通電されることによって、主磁極層940及び補助磁極層945が形成する磁気回路に、書き込み磁界となる磁束を発生させる。また、この書き込みコイル943の一部は、磁気ディスクの磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル部943rとなっている。
【0113】
共鳴コイル部943rは、自身の外周側の端部を書き込みコイル943の外周側の端部9430とし、自身の内周側の端部を書き込みコイル943の途中に設けられた中間部9432とするものであり、端子電極960及び962を用いて端部9430及び中間部9432の間に通電されることによって、主磁極層940及び補助磁極層945が形成する磁気回路に、共鳴用磁界となる磁束を発生させる。この共鳴コイル部943rは、書き込みコイル943の最外周の電流路を含む(本実施形態においては最外周及び最外周から2番目の電流路を含む)部分となっている。
【0114】
また、書き込みコイル943の途中(である中間部9432)に、タップとしてのタップリード層972が、電気的に接続されて設けられている。タップリード層972は、共鳴コイル部943rの中間部9432と端子電極962とを電気的に接続している。すなわち、共鳴コイル部943rは、タップリード層972(中間部9432)と端部9430との間の部分となっている。ここで、タップリード層972(中間部9432)は、接地されていることが好ましい。なお、端部9430と端子電極960とはリード層970によって、端部9431及び端子電極961とはリード層971によってそれぞれ電気的に接続されている。
【0115】
このように、共鳴コイル部943rを、書き込みコイル943の一部とすることによって、共鳴コイル部943rの巻数が制限されて、マイクロ波帯域における実効インダクタンスの増大をより少なくすることができる。また、共鳴コイル部を書き込みコイル943と独立して設ける場合に比べて、駆動電流の干渉を大幅に低減することがきる。
【0116】
さらに、共鳴コイル部943rが書き込みコイル943の最外周の電流路を含むことによって、書き込みコイル943及び共鳴コイル部943rをともに、トレーリングギャップに十分に近接させることができるため、書き込み磁界及び共鳴用磁界の発生効率が向上する。
【0117】
次いで、図9(B)に示すように、第5の実施形態においては、MR効果素子93は、第1の実施形態のMR効果素子33と同様である。また、電磁コイル素子94は、第1の実施形態と同じく垂直磁気記録用であり、主磁極層940と、トレーリングギャップ層942と、共鳴コイル部943rを含む書き込みコイル943と、書き込みコイル絶縁層944と、補助磁極層945と、補助シールドとしての補助シールド層946と、リーディングギャップ層947とを備えている。
【0118】
補助磁極層945及び補助シールド層946はそれぞれ、主磁極層940のトレーリング側及びリーディング側に配置されている。補助磁極層945は、ABS2100(スライダ端面211)側の端部とは離隔した部分が主磁極層940と磁気的に接続されている。一方、補助シールド層946は、本実施形態においては主磁極層940と磁気的に接続されていないが、接続されていてもよい。これら補助磁極層945及び補助シールド層946の構成材料、形状及び効果は、第1の実施形態の補助磁極層345及び補助シールド層346と同様である。
【0119】
また、スライダ端面211上における主磁極層940の端の形状、実効的な記録幅、及びトレーリングギャップ長DTG及びリーディングギャップ長DLGの調整による書き込み磁界の磁界勾配及び強度の最適化についても、図3(B)を用いて説明した第1の実施形態と同様である。
【0120】
図9(B)において、共鳴コイル部943rは、上述したように、書き込みコイル943の最外周の電流路を含む部分となっており、タップリード層972(中間部9432)と端部9430との間の部分となっている。この共鳴コイル部943rに、共鳴用電流を印加すると、主磁極層940の端部とトレーリングシールド部9450との間に長手方向(磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界が発生する。書き込み時に、この長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、書き込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書き込み磁界強度を大幅に低減することができる。
【0121】
書き込みコイル絶縁層944は、書き込みコイル943を取り囲んでおり、書き込みコイル943を周囲の磁性層等から電気的に絶縁するために設けられている。共鳴コイル部943rを含む書き込みコイル943、タップリード層972、並びにリード層970及び971は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.3〜5μm程度のCu膜等から構成されている。また、書き込みコイル絶縁層944は、例えば、フォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等で構成されている。
【0122】
図10は、図4(B)を用いて説明した本発明による磁気記録方法の一実施形態をまとめたフローチャートである。
【0123】
図10によれば、最初に、共鳴コイル層3430にマイクロ波帯域の周波数(1〜15GHz程度)を有する共鳴用電流を印加し、主磁極層340からトレーリングギャップの領域に共鳴用磁界を発生させ、この共鳴用磁界を、磁気記録層に対して長手方向(磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向であってトラック方向)に印加しながら、書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343bに、書き込み電流を印加して書き込み磁界を発生させ、この書き込み磁界を、磁気記録層に対して垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)に印加しながら、データ信号の書き込みを行う。
【0124】
なお、共鳴用磁界の印加からデータ信号の書き込みまでは、同時に行われることになる。また、図8(B)に示した磁気記録方法の実施形態においては、事前共鳴用磁界の印加が、リーディングギャップを通して事前に行われる。このように、事前共鳴用磁界の印加が、共鳴用磁界及び書き込み磁界の印加の前に実行されることも好ましい。
【0125】
以上、上述した磁気記録方法によれば、いわゆる熱アシスト(加熱)によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書き込みを行うことができることが理解される。
【0126】
図11(A)及び(B)はそれぞれ、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアを使用する実施形態を説明するための概略図である。なお、同図においては、第1の実施形態のヘッドを用いて説明しているが、他の実施形態のヘッドを用いても同様の効果を奏することは明らかである。
【0127】
図11(A)によれば、ディスクリートトラックメディア60においては、磁気記録層604及び中間層603が、トラック長手方向に伸長した非磁性材料からなる非磁性離隔層60aによって分断されることによって、複数のディスクリートトラック60bが形成されている。すなわち、ディスクリートトラックメディア60は、高トラック密度化を図った磁気ディスクの1つとなっている。
【0128】
このディスクリートトラックメディア60のディスクリートトラック60bにおける記録対象部分には、磁束61による垂直方向の書き込み磁界と、磁束62による長手方向の共鳴用磁界とが共に印加される。一般に、磁気記録媒体上における実効的な記録幅は、主磁極層340のトラック幅方向の幅によって決定されるが、ディスクリートトラック60bの幅を、この主磁極層340の幅よりも小さく設定すれば、実効的な記録幅をより小さくすることができる。
【0129】
また、ディスクリートトラック60bの強磁性共鳴周波数は、ディスクリートトラック60bの幅にも依存するので、共鳴用磁界の周波数を設計する際の自由度が大きくなる。さらに、隣接トラックが磁気的に離隔しているので、記録対象部分のみに強磁性共鳴を引き起こすことができ、隣接トラックへの不要な書き込み又は消去が防止される。
【0130】
次いで、図11(B)によれば、パターンドメディア63においては、磁気記録層634及び中間層633が、トラック方向(長手方向)に伸長した非磁性材料からなる非磁性離隔層63aにより分断されることによって、複数のディスクリートトラックが形成され、さらに、この複数のディスクリートトラックの各々が、多数の非磁性離隔部63bにより分断されることによって、多数の磁気記録部63cが形成されている。この多数の磁気記録部63cは、非常に微細な磁性体パターンとなっており、それぞれ1つの記録ビットに対応している。すなわち、パターンドメディア63は、トラック間のみならず記録ビット間における信号磁界の干渉を低減させており、ディスクリートトラックメディア以上の高記録密度化を達成する可能性を有している。なお、パターンドメディアとして、このような形態以外に、形状や大きさを人工的にそろえた単磁区構造体、例えば微粒子がアレイ状に配置しているものも挙げられる。
【0131】
このパターンドメディア63の磁気記録部63cには、磁束64による垂直方向の書き込み磁界と、磁束65による長手方向の共鳴用磁界とが共に印加される。この場合、実効的な記録幅のみならず記録ビット長も、磁気記録部63cの幅及び長さによって規定されるので、磁気記録部63cの幅及び長さを十分に小さくすれば、主磁極層340の幅及びトレーリングギャップ長をそれほど小さくしなくとも、高い記録密度が十分に実現可能となる。
【0132】
また、磁気記録部63cの強磁性共鳴周波数は、磁気記録部63cの幅、長さ及び厚さにも依存するので、共鳴用磁界の周波数を設計する際の自由度がより大きくなる。さらに、共鳴高周波磁界は長手方向であるので、垂直方向の書き込み磁界に比べるとトラック方向に若干広く分布してしまうが、磁気記録部63cが設けられることによって、隣接トラックのみならずトラック方向に隣接する磁気記録部63cへの不要な書き込み又は消去も防止される。
【0133】
図12は、本発明の磁気記録再生装置におけるインピーダンス整合を説明するための、電流源、伝送部、インピーダンス調整部及び薄膜磁気ヘッドからなる回路の概略図である。なお、同図においては、第1の実施形態のヘッドにおけるインピーダンス整合のための接続を示しているが、第2、第3及び第4の実施形態におけるインピーダンス整合においても、これから容易に類推して接続を構成することができることは明らかである。
【0134】
図12によれば、出力インピーダンスZd1を有する書き込み電流源180が、それぞれ特性インピーダンスZを有する伝送路130及び134を介して、インピーダンスZh1を有するインピーダンス調整部14と書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343bとの結合系に接続されている。また、出力インピーダンスZd2を有する共鳴電流源181が、それぞれ特性インピーダンスZを有する伝送路130及び132を介して、インピーダンスZh2を有するインピーダンス調整部14と共鳴コイル層3430との結合系に接続されている。
【0135】
このような回路においてインピーダンスの整合をとることは、広帯域において電流波形の歪みや反射損失を抑制し、電流源からコイル系に適切な電流を効率良く供給するために不可欠となる。ここで、電流源、伝送部及びコイルからなる回路におけるインピーダンス整合の設計については、例えば、K.B.Klaassen and J.C.L.van Peppen著、”Writing at high data rates”、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics)、米国、2003年5月、第93巻、第10号、p.6450−6452に詳しく記載されている。
【0136】
図12において、電流源(Zd1、Zd2)と伝送部(Z)との間においてインピーダンスを整合させる条件は、上述した文献によれば、
(1) Zd1=Zd2=2Z
となる。従って、書き込み電流源の出力インピーダンスと伝送路の特性インピーダンスの和との間、さらには、共鳴用電流源の出力インピーダンスと伝送路の特性インピーダンスの和との間で整合をとることによって、電流源からコイル系に適切な電流を効率良く供給するための必要条件を満たすことができる。
【0137】
また、伝送部と調整部・コイル系(Zh1、Zh2)との間においてインピーダンスを整合させる条件は、上述した文献によれば、
(2) 2Z=Zh1=Zh2
となる。この条件について、以下に詳しく説明する。
【0138】
図13(A)及び(B)は、伝送部と調整部・コイル系との間のインピーダンス整合を説明するための、インピーダンス調整部、書き込みコイル部及び書き込みコイル層、並びに共鳴コイル層からなる回路の概略図である。
【0139】
図13(A)及び(B)それぞれにおいて、インピーダンス調整部14は、伝送路130及び134と書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343bとを接続する2つのラインのそれぞれに抵抗R及び調整用抵抗部である抵抗Rを備えており、さらにこの2つのライン間を、直列に接続された調整用抵抗部である抵抗Rと調整用コンデンサ部であるコンデンサ(容量)Cとを用いて接続しており、さらに、伝送路130及び132と共鳴コイル層3430とを接続する2つのラインのそれぞれに抵抗R(この抵抗は上述した抵抗Rと同一物)及び調整用抵抗部である抵抗Rを備えており、さらにこの2つのライン間を、直列に接続された調整用抵抗部である抵抗Rと調整用コンデンサ部であるコンデンサCとを用いて接続した回路構成を有している。
【0140】
また、書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343bは、直列に接続されたインダクタンスLh1及び抵抗Rh1と等価であるとし、共鳴コイル層3430は、直列に接続されたインダクタンスLh2及び抵抗Rh2と等価であるとすることができる。なお、抵抗Rh1及び抵抗Rh2には、リード層等の配線抵抗分も含まれるものとする。
【0141】
ここで、まず、図13(A)によれば、伝送部(伝送路130及び134)と、書き込みコイル343との間においてインピーダンスを整合させる条件は、(2)式に基づいて、
(3) 2Z=R=Rh1+R+R=(Lh1/C0.5
となる。従って、伝送部(Z)と書き込みコイル部343a及び書き込みコイル層343b(Lh1、Rh1)とを与えられた条件とした場合に、インピーダンスを整合させるためには、式(3)において各等号を成り立たせるように、R、R及びCをそれぞれ調整すればよい。
【0142】
次いで、図13(B)によれば、伝送部(伝送路130及び132)と、共鳴コイル層3430との間においてインピーダンスを整合させる条件は、同じく(2)式に基づいて、
(4) 2Z=R=Rh2+R+R=(Lh2/C0.5
となる。従って、伝送部(Z)及び共鳴コイル層3430(Lh2、Rh2)を与えられた条件とした場合に、インピーダンスを整合させるためには、式(4)において各等号を成り立たせるように、R、R及びCをそれぞれ調整すればよい。なお、Rも調整することが可能であるが、式(3)及び(4)の両方に出てくる値であるので、固定値とした方が整合させやすい。
【0143】
以上、インピーダンス整合の条件を説明したが、伝送部と共鳴コイル層3430との間のインピーダンス整合においては、共鳴用電流の周波数が、マイクロ波帯域内の値となり1GHz以上となることから、周波数依存性について考慮されなければならない。
【0144】
図14は、第5の実施形態におけるインピーダンス整合を説明するための、電流源、伝送部、インピーダンス調整部及び薄膜磁気ヘッドからなる回路の概略図である。
【0145】
図14によれば、出力インピーダンスZd1を有する書き込み電流源180が、それぞれ特性インピーダンスZを有する伝送路132及び134を介して、インピーダンスZh1を有するインピーダンス調整部14と共鳴コイル部943r以外の書き込みコイル343との結合系に接続されている。また、出力インピーダンスZd2を有する共鳴電流源181が、それぞれ特性インピーダンスZを有する伝送路130及び132を介して、インピーダンスZh2を有するインピーダンス調整部14と共鳴コイル部943rとの結合系に接続されている。なお、インピーダンス調整部14の3つの出力のうちの同図における真ん中の出力と、共鳴コイル部943r以外の書き込みコイル343の部分及び共鳴コイル部943rとの接続点は、接地されている。
【0146】
なお、このような回路におけるインピーダンス整合は、図12及び図13を用いて説明した第1の実施形態における場合と同様である。すなわち、図14において、電流源(Zd1、Zd2)と伝送部(Z)との間においてインピーダンスを整合させる条件は、
(5) Zd1=Zd2=2Z
となる。従って、書き込み電流源の出力インピーダンスと伝送路の特性インピーダンスの和との間、さらには、共鳴用電流源の出力インピーダンスと伝送路の特性インピーダンスの和との間で整合をとることによって、電流源からコイル系に適切な電流を効率良く供給するための必要条件を満たすことができる。
【0147】
また、伝送部と調整部・コイル系(Zh1、Zh2)との間においてインピーダンスを整合させる条件も、同様に、
(6) 2Z=Zh1=Zh2
となる。
【0148】
図15(A)及び(B)は、実際に製造された本発明による薄膜磁気ヘッドが備えた書き込みコイルにおいて、インピーダンスZの周波数依存性を測定した結果を示すグラフである。ここで、製造され測定された薄膜磁気ヘッドは、第1の実施形態のものであった。
【0149】
周波数依存性の測定においては、書き込みコイルの伝送パラメータS11を、広帯域のベクトルネットワークアナライザで測定して、各周波数でのインピーダンス値を抽出した。
【0150】
図15(A)は、周波数帯域が0〜1GHzの測定結果である。同図において、インピーダンスZの実部はほぼ一定であり、虚部は周波数fに比例して増加している。従って、等価的なヘッドの抵抗及びインダクタンスともに、ほぼ一定値となっていることが理解される。
【0151】
一方、図15(B)は、周波数帯域が0〜10GHzの測定結果である。同図において、2GHzを超えてマイクロ波領域の高周波領域となると、インピーダンスZの実部は周波数とともに増大する。また、虚部は3GHz以上になると線形性が崩れて、飽和の傾向を示す。この結果、2〜3GHz以上の高周波領域においては、等価的なヘッドの抵抗及びインピーダンスともに、一定値とみなすことはできないことが理解される。従って、インピーダンスの整合においては、動作周波数に対応した実効インピーダンス値を用いた設計が必要であることを示す。
【0152】
以上の結果を踏まえると、伝送部(伝送路130及び132)と共鳴コイル層3430との間のインピーダンス整合条件は、(4)式に代わって、
(7) 2Z=R=Rh2)+R+R=(Lh2)/C0.5
となる。ここで、Rh2)は、強磁性共鳴周波数における実効的な共鳴コイル部の抵抗であり、LH2)は、強磁性共鳴周波数における実効的な共鳴コイル部のインダクタンスである。なお、角振動数ωは、強磁性共鳴周波数をfとしてω=2πfである。
【0153】
以上、式(1)、(3)及び(7)に基づいてインピーダンスの整合をとることによって、強磁性共鳴周波数を含む広帯域において電流波形の歪みや反射損失が抑制され、電流源からコイル系に適切な電流を効率良く供給することができる。
【0154】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明による薄膜磁気ヘッドの全体を概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明による薄膜磁気ヘッドの第1の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図、及びABS側から見たスライダ端面上の構成を示す平面図である。
【図4】本発明による磁気記録方法の原理を説明し、さらに、図3に示した第1の実施形態のヘッドモデルを示すための断面図、及び第1の実施形態におけるトレーリングギャップ周辺の書き込み磁界及び共鳴用磁界の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】本発明による薄膜磁気ヘッドの第2の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【図6】本発明による薄膜磁気ヘッドの第3の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【図7】本発明による薄膜磁気ヘッドの第4の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【図8】図7に示した第4の実施形態のヘッドモデルを示すための断面図、及び第4の実施形態におけるトレーリングギャップ周辺及びリーディングギャップ周辺の書き込み磁界及び(事前)共鳴用磁界の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】本発明による薄膜磁気ヘッドの第5の実施形態における要部の構成を示す斜視図、及び図2のA−A線断面図である。
【図10】本発明による磁気記録方法の一実施形態をまとめたフローチャートである。
【図11】ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアを使用する実施形態を説明するための概略図である。
【図12】本発明の磁気記録再生装置におけるインピーダンス整合を説明するための、電流源、伝送部、インピーダンス調整部及び薄膜磁気ヘッドからなる回路の概略図である。
【図13】伝送部と調整部・コイル系との間のインピーダンス整合を説明するための、インピーダンス調整部、書き込みコイル部及び書き込みコイル層、並びに共鳴コイル層からなる回路の概略図である。
【図14】第5の実施形態におけるインピーダンス整合を説明するための、電流源、伝送部、インピーダンス調整部及び薄膜磁気ヘッドからなる回路の概略図である。
【図15】実際に製造された本発明による薄膜磁気ヘッドが備えた書き込みコイルにおいて、インピーダンスZの周波数依存性を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0156】
11 スピンドルモータ
12 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
120 ロードビーム
121 フレクシャ
13 伝送部
130、132、134 伝送路
131、133 絶縁層
14 インピーダンス調整部
15 アセンブリキャリッジ装置
150 ボイスコイルモータ(VCM)
16 駆動アーム
17 ピボットベアリング軸
18 電流源
180 書き込み電流源
181 共鳴電流源
19 記録再生及び共鳴制御回路
21 薄膜磁気ヘッド
210 スライダ基板
211、212 スライダ端面
2100 浮上面(ABS)
2101 素子形成面
32 磁気ヘッド素子
33、93 MR効果素子
330、930 下部シールド層
332、932 MR積層体
334、934 上部シールド層
340、940 主磁極層
3400、9400 主磁極ヨーク層
3401、9401 主磁極主要層
342、942 トレーリングギャップ層
343、943 書き込みコイル
3430 共鳴コイル層
343a 書き込みコイル部
343b 書き込みコイル層
344 書き込みコイル絶縁層
345、945 補助磁極層
3450、9450 トレーリングシールド部
346、946 補助シールド層
3460、9460 リーディングシールド部
347、947 リーディングギャップ層
350、351、360、361、362、530、531、960、961、962 端子電極
370、371、510、511、970、971 リード層
372、972 タップリード層
39 被覆部
40 磁気ディスク
400、600、630 ディスク基板
401、601、631 磁化配向層
402、602、632 軟磁性裏打ち層
403、603、633 中間層
404、604、634 磁気記録層
405 保護層
41、42、61、62、64、65 磁束
50 リーディング側書き込みコイル
500 リーディング側共鳴コイル層
50a リーディング側書き込みコイル部
50b リーディング側書き込みコイル層
501 絶縁層
520、521 接続部
55 リーディング側書き込みコイル絶縁層
9430、9431 端部
9432 中間部
943r 共鳴コイル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、データ信号の書き込み時に自身の媒体対向面側の端部から書き込み磁界が発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分が該主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも該主磁極及び該補助磁極の間を通過するように形成されており、書き込み磁界を発生させるための書き込みコイルとを備えた電磁コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドであって、
前記書き込みコイルの一部が、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル層と、書き込みコイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっていることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
前記共鳴コイル層が、前記書き込みコイルの最外周に及んでいることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記書き込みコイルの途中であって前記共鳴コイル層の端部にタップが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記補助磁極が、前記主磁極のトレーリング側に位置しており、該主磁極のリーディング側に補助シールドが設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記補助シールドの媒体対向面側の端部から離隔した部分が、前記主磁極と磁気的に接続されていることを特徴とする請求項4に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
少なくとも前記主磁極及び前記補助シールドの間を通過するように形成されており、前記書き込みコイルと電気的に直列に接続されていて、該書き込みコイルとは逆向きに巻かれたリーディング側書き込みコイルが設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記リーディング側書き込みコイルの一部が、書き込みコイル層とリーディング側共鳴コイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっており、前記書き込みコイルの途中である前記共鳴コイル層の端部と前記リーディング側書き込みコイルの途中である該リーディング側共鳴コイル層の端部とが、接続部によって電気的に接続されていることを特徴とする請求項6に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、データ信号の書き込み時に自身の媒体対向面側の端部から書き込み磁界が発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分が該主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも該主磁極及び該補助磁極の間を通過するように形成されており、書き込み磁界を発生させるための書き込みコイルとを備えた電磁コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドであって、
前記書き込みコイルの一部が、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させるための共鳴コイル部となっていることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項9】
前記共鳴コイル部が、前記書き込みコイルの最外周の電流路を含む部分となっていることを特徴とする請求項8に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項10】
前記書き込みコイルの途中にタップが設けられており、前記共鳴コイル部が、該タップと前記書き込みコイルの外周端との間の部分となっていることを特徴とする請求項8又は9に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項11】
前記補助磁極が、前記主磁極のトレーリング側に位置しており、該主磁極のリーディング側に補助シールドが設けられていることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項12】
磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、前記書き込み磁界が該磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、前記共鳴用磁界が該磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項13】
磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、前記共鳴用磁界の最大値が、前記書き込み磁界の最大値よりも小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項12に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッドと、該薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、前記書き込みコイルに印加される書き込み電流と前記共鳴コイル層又は前記共鳴コイル層及び前記リーディング側共鳴コイル層に印加される共鳴用電流とを伝送するための複数の伝送路を有する伝送部とを備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項15】
前記薄膜磁気ヘッドと前記伝送部との間に、該薄膜磁気ヘッドと前記複数の伝送路とのインピーダンスを整合させるためのインピーダンス調整手段を備えていることを特徴とする請求項14に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項16】
前記インピーダンス調整手段が、調整用抵抗部と調整用コンデンサ部とを備えていることを特徴とする請求項15に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか1項に記載のヘッドジンバルアセンブリを少なくとも1つ備えており、前記薄膜磁気ヘッドが書き込み及び読み出しを行う対象である少なくとも1つの磁気記録媒体と、前記複数の伝送路の少なくとも2つと接続されており、前記書き込みコイルに書き込み電流を供給するための書き込み電流源と、前記複数の伝送路の少なくとも2つと接続されており、前記共鳴コイル層又は前記共鳴コイル層及び前記リーディング側共鳴コイル層に前記共鳴用磁界を発生させるための共鳴用電流を供給するための共鳴用電流源とを備えていることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項18】
前記共鳴用電流源の出力インピーダンスと、該共鳴用電流源に接続されている前記複数の伝送路の少なくとも2つの特性インピーダンスの和との間で整合がとられていることを特徴とする請求項17の磁気記録再生装置。
【請求項19】
前記書き込み電流源の出力インピーダンスと、該書き込み電流源に接続されている前記複数の伝送路の少なくとも2つの特性インピーダンスの和との間で整合がとられていることを特徴とする請求項17又は18の磁気記録再生装置。
【請求項20】
前記少なくとも1つの磁気記録媒体が、磁気記録層と、該磁気記録層の媒体基板側に位置する軟磁性裏打ち層とを備えていることを特徴とする請求項17から19のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項21】
前記少なくとも1つの磁気記録媒体が、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアであることを特徴とする請求項17から20のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項22】
書き込みコイルの一部に、マイクロ波帯域の周波数を有する電流を印加して、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する共鳴用磁界を発生させ、該共鳴用磁界を該磁気記録層に印加しながら、該書き込みコイルに書き込み電流を印加して、書き込み磁界を発生させ、該書き込み磁界を該磁気記録層に印加して書き込みを行うことを特徴とする磁気記録方法。
【請求項23】
前記書き込みコイルが、共鳴コイル層と書き込みコイル層とが絶縁層を挟んで積層された構造となっている部分を備えており、前記書き込みコイルの一部として、該共鳴コイル層を用いることを特徴とする請求項22に記載の磁気記録方法。
【請求項24】
前記書き込みコイルの一部として、該書き込みコイルの最外周の電流路を含む部分を用いることを特徴とする請求項22に記載の磁気記録方法。
【請求項25】
前記共鳴用磁界を、前記磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向に印加し、前記書き込み磁界を、該磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向に印加することを特徴とする請求項22から24のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項26】
前記磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、前記共鳴用磁界の最大値を、前記書き込み磁界の最大値よりも小さくすることを特徴とする請求項25に記載の磁気記録方法。
【請求項27】
前記共鳴用磁界を印加しながら前記書き込み磁界を前記磁気記録層に印加して書き込みを行う前に、該磁気記録層の強磁性共鳴周波数又はその近傍の周波数を有する事前共鳴用磁界を、該磁気記録層に前もって印加することを特徴とする請求項22から26のいずれか1項に記載の磁気記録方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−159105(P2008−159105A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344016(P2006−344016)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】