説明

強磁性金属ナノ構造体の生成方法、強磁性金属ナノファイバーおよびそれを用いたはんだ、ならびにシート材

【課題】強磁性金属ナノ構造体の生成方法、強磁性金属ナノファイバーおよびそれを用いたはんだ、ならびにシート材を製造する際に、簡便な操作で生成することができる強磁性金属ナノ構造体の生成方法およびそれにより得られる強磁性金属ナノ構造体の用途を提供する。
【解決手段】強磁性金属のイオンを還元させて強磁性金属を析出させる還元工程を行なう際に、強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性金属ナノ構造体の生成方法、強磁性金属ナノファイバーおよびそれを用いたはんだ、ならびにシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子、金属ナノワイヤー、金属ナノロッドなどの金属ナノ構造体は、当該金属ナノ構造体を構成する金属の種類によって、高い触媒活性や、金属のバルク材料とは異なる物性を示す。したがって、金属ナノ構造体は、電子部品、光学部品、磁性材料などの材料として種々の工業分野での利用が期待されている。
【0003】
金属ナノ粒子を製造する方法として、還元剤を用いて金属イオンや金属化合物を還元する方法(例えば、特許文献1などを参照)が提案されている。この特許文献1には、酸化銀とゼラチンまたはゼラチン誘導体と還元性を有する単糖類または二糖類を混合し、水溶媒中55〜80℃で加熱して、銀ナノ粒子を得ることが記載されている。
しかしながら、前記特許文献1に記載の方法では、ナノ粒子しか得ることができず、ナノファイバーなどのような1次元形状の金属ナノ構造体を得ることができないという欠点がある。
【0004】
一方、ナノロッド、ナノチューブ、ナノワイヤーなどの金属ナノファイバーは、例えば、微小な孔を有する多孔性膜などのテンプレートの孔内で金属の電解析出を行なうことにより、ロッド状またはチューブ状のナノ構造体を成長させる方法(「テンプレート法」という)により製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記テンプレート法は、テンプレートの作製や、テンプレートから金属ナノ構造体を分離し、回収する操作が煩雑であるため、大量生産には不向きである。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡便な操作で生成することができる強磁性金属ナノ構造体の生成方法、強磁性金属ナノファイバーおよびそれを用いたはんだ、ならびにシート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法は、強磁性金属ナノ構造体を生成する生成方法であって、
強磁性金属のイオンを還元させて強磁性金属を析出させる還元工程を含み、
前記強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させることを特徴とする。
【0008】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させる。これにより、強磁性金属を析出させると同時に、磁場方向に沿って配列するなどの自己組織化が生じ、ナノ構造を形成させることができる。このとき、生成される強磁性金属ナノ構造体の形態は、磁場強度や還元反応の速度に応じて、制御することができる。
したがって、特に、ナノファイバーの製造に好適である。
また、本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法によれば、例えば、従来の製造方法のようにテンプレートを用いなくても、生成される強磁性金属ナノ構造体の形態を制御することができるため、簡便な操作でナノ構造を生成することができる。
【0009】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、前記還元工程において、溶媒に前記強磁性金属のイオンを加えた溶液に磁場を印加しながら、前記強磁性金属のイオンを液相還元法により還元させることが好ましい。
この場合、簡易な液相還元法を行なう際に、磁場印加を行なうだけで、強磁性金属ナノ構造体を生成することができるため、簡易である。
【0010】
前記溶液は、前記強磁性金属のナノ粒子核を形成させるための核形成剤がさらに加えられたものであることが好ましい。
この場合、前記溶液中において、還元により析出した強磁性金属からなるナノ粒子核の形成を促進させることができるため、強磁性金属ナノ構造体の生成をより効率よく行なうことができる。また、核形成剤により、例えば、強磁性金属ナノ構造体の表面形状などの形態を制御することができる。
【0011】
前記核形成剤は、前記還元を促進する触媒作用を有する金属を含むものであることが好ましい。
これにより、強磁性金属のイオンの還元を促進することができる。したがって、例えば、従来、金属ナノ構造体を生成させるのが困難であった室温においても、強磁性金属ナノ構造体を効率よく生成させることができる。
【0012】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成するとき、前記溶液中における核形成剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
このとき、溶液中における核形成剤の濃度を高くすることにより、この核形成剤により形成させた1つのナノ粒子核に接触する強磁性金属の量が相対的に減り、形成される金属ナノ粒子の粒径が小さくなる。一方、溶液中における核形成剤の濃度を低くすることにより、この核形成剤により形成させた1つのナノ粒子核に接触する強磁性金属の量が相対的に増え、形成される金属ナノ粒子の粒径が大きくなる。
これにより、ナノファイバーの形態、例えば、ナノファイバーの表面の形状、ナノファイバーの長手方向における断面の直径やアスペクト比などを制御することができる。特に、核形成剤を加えることにより、還元反応の際にほぼ均一な大きさの金属ナノ粒子を生成することができるので、例えば、強磁性金属ナノ構造体の表面形状の制御などに好適である。
【0013】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成するとき、前記強磁性金属のイオンが還元されて析出する速度を制御することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成するとき、前記溶液を、前記強磁性金属のイオンを還元させる還元剤がさらに加えられたものとし、前記溶液中における還元剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
このとき、溶液中における還元剤の濃度を高くすることにより、還元反応の速度を速くすることができ、一方、前記濃度を低くすることにより、還元反応の速度を遅くすることができる。
これにより、ナノファイバーの形態、例えば、ナノファイバーの表面の形状、ナノファイバーの長手方向における断面の直径やアスペクト比などを制御することができる。
【0014】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成するとき、前記溶液のpHを調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
このとき、前記溶液のpHを高くすることにより、還元速度を速くすることができ、一方、前記溶液のpHを低くすることにより、還元反応の速度を遅くすることができる。
これにより、ナノファイバーの形態、例えば、ナノファイバーの表面の形状、ナノファイバーの長手方向における断面の直径やアスペクト比などを制御することができる。
【0015】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、前記強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成するとき、前記還元工程において印加される磁場強度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態、例えば、ナノファイバーの表面の形状、ナノファイバーの長手方向における断面の直径やアスペクト比などを制御することができる。例えば、ナノファイバーの長手方向における断面の直径やアスペクト比を制御する場合には、磁場強度を大きくすることにより、形成されるナノファイバーの径を小さくし、ナノファイバーのアスペクト比を大きくすることができ、一方、磁場強度を小さくすることにより、形成されるナノファイバーの径を大きくし、ナノファイバーのアスペクト比を小さくすることができる。
【0016】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、制御されるナノファイバーの形態を、ナノファイバーのアスペクト比とすることができる。
また、制御されるナノファイバーの形態を、ナノファイバー長手方向における、ナノファイバー断面面積の均一性または不均一性とすることができる。
【0017】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、前記ナノファイバーは、複数のナノ粒子が数珠つなぎ状に配列された形態を呈するものとすることができる。
また、前記ナノファイバーは、その断面面積がナノファイバー長手方向においてほぼ一定である形態を呈するものとすることができる。
さらに、前記ナノファイバーは、アスペクト比が10以上であるものとすることができる。
【0018】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法では、前記還元工程において、前記溶液を酸素欠乏状態に維持することが好ましい。
これにより、溶存酸素による酸化によって還元条件を変動させることなく、良好に還元条件を維持することができるため、還元反応を良好に進行させることができ、金属ナノ構造体の製造効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の強磁性金属ナノファイバーは、1つの側面では、強磁性金属イオンの還元によって形成した複数の強磁性金属ナノ粒子が、磁場の作用によって配列化し、前記複数の強磁性金属ナノ粒子間の接合部分で優先的な金属の析出が起こることでファイバー状に形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明の強磁性金属ナノファイバーは、他の側面では、ナノファイバー形成に用いられた核形成剤によって形成された複数のナノ粒子核が、ナノファイバー内部において長手方向に分布していることを特徴とする。
本発明の強磁性金属ナノファイバーは、簡便な操作で得ることができる。
【0020】
前述した強磁性金属ナノファイバーは、はんだや、補強シート材、強磁性シート材などのシート材に用いることができる。
本発明のはんだは、前述した強磁性金属ナノファイバーをはんだ合金中に含有していることを特徴とする。
また、本発明のシート材は、強磁性金属ナノファイバーをシート本体中に含有していることを特徴とする。かかるシート材としては、強磁性金属ナノファイバーをシート材本体中に含ませることで、物理的な強度を補強した補強シート材、前述した強磁性金属ナノファイバーを漉いてシート状に加工した強磁性シート材が挙げられる。
これらのはんだ、シート材は、前述した強磁性金属ナノファイバーが用いられており、簡便な操作で製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の強磁性金属ナノ構造体の生成方法によれば、簡便な操作で強磁性金属ナノ構造体を生成することができる。本発明の強磁性金属ナノファイバーは、簡便な操作で製造することができる。また、このかかる強磁性金属ナノファイバーを含有した本発明のはんだおよびシート材は、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属ナノ構造体の生成方法の処理手順を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る金属ナノ構造体の生成方法における金属ナノ構造体の形成過程を示す概略説明図である。
【図3】本発明の変形例に係る金属ナノ構造体の生成方法の処理手順を示す工程図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシート材の一例である強磁性シート材の構成を示す要部断面斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るはんだの構成を示す要部断面斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るシート材の一例である補強シート材の構成を示す要部断面斜視図である。
【図7】実施例1の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図8】図7の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図9】比較例1の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図10】実施例1および比較例1それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図11】実施例2の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図12】図11の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図13】比較例2の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図14】実施例2および比較例2それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図15】実施例3の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図16】実施例4の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図17】実施例5の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図18】磁場強度とナノ構造体の直径およびアスペクト比それぞれとの関係を示すグラフである
【図19】実施例3〜5それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図20】実施例2の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図21】図20の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図22】実施例5の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図23】図22の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図24】実施例2および5それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図25】実施例4の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図26】図25の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図27】実施例6の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図28】図27の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
【図29】実施例4および6それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図30】実施例6で得られたコバルトナノ構造体中における元素を分析した結果を示すグラフである。
【図31】実施例7の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真である。
【図32】溶媒として水を用いた場合の強磁性金属ナノ構造体の形態制御の仕方の例を示す概略説明図である。
【図33】溶媒として有機系溶媒であるプロピレングリコールを用いた場合の強磁性金属ナノ構造体の形態制御の仕方の例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[強磁性金属ナノ構造体の生成方法の処理手順]
まず、本発明の一実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法を説明する。
本実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法は、強磁性金属のイオンを還元させて強磁性金属を析出させる還元工程を含み、前記強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させることを特徴としている。
【0024】
本実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法によれば、強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させるため、前記イオンの還元により強磁性金属を析出させると同時に、析出した強磁性金属からなる強磁性金属ナノ粒子を磁場の作用により磁場方向に沿って配列するなどの自己組織化が生じさせることができる。これにより、ナノ構造を形成させることができる。そのため、従来の方法のように、ナノ構造を形成させるためのテンプレートを用いなくても、強磁性金属ナノ構造体を得ることができる。また、かかる還元工程において、還元反応の速度および印加される磁場強度を調整することによって、他の工程を行なわなくても、生成される強磁性金属ナノ構造体の形態を容易に制御することができる。
【0025】
なお、本明細書において、「ナノファイバー」の用語には、ナノロッドやナノワイヤーを含んでおり、長手方向の長さがナノスケールを逸脱するものであっても、少なくとも1つの長さ(例えば、直径など)がナノスケールであるファイバーをいう。
【0026】
本実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法により制御される強磁性金属ナノ構造体の形態としては、ナノファイバーのアスペクト比、ナノファイバー長手方向における、ナノファイバー断面面積の均一性または不均一性などが挙げられる。
【0027】
強磁性金属としては、例えば、コバルト、鉄、ニッケルなどや、これらの少なくとも1種を主成分とする合金などが挙げられる。また、強磁性金属のイオンは、還元しやすい状態のイオンであればよい。
【0028】
前記還元工程において、強磁性金属のイオンの還元は、強磁性金属のイオンに電子を与えることにより行なうことができり前記強磁性金属イオンの還元は、液相中でおこなってもよく、固相上でおこなってもよい。
【0029】
また、強磁性金属のイオンへの磁場の印加は、超電導マグネットなどにより行なうことができる。
磁場強度は、生成される強磁性金属ナノ構造体に要求される形態、例えば、アスペクト比などに応じて設定することができる。かかる磁場強度は、通常1〜10テスラに設定することができる。
【0030】
前記還元工程では、液相を構成する溶液の性質を選択することによって還元反応を容易に制御することができ、生成される強磁性金属ナノ構造体の形態を、より効果的に制御することができる観点から、溶媒に強磁性金属のイオンを加えた溶液に磁場を印加しながら、前記強磁性金属のイオンを還元させることが好ましい。これにより、微細な強磁性金属ナノ構造体を得ることができ、かつ得られる強磁性金属ナノ構造体の大きさなどのバラツキを低減することもできる。
【0031】
溶媒に強磁性金属のイオンを加えた溶液は、強磁性金属の金属塩を溶媒に溶解させることにより得ることができる。金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属の塩化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩などが挙げられる。これらの塩は、水和物であってもよく、無水物であってもよい。強磁性金属の金属塩としては、例えば、酢酸コバルト(II)四水和物、酢酸コバルト(II)無水物、硫酸コバルト(II)七水和物、硫酸コバルト(II)無水物、塩化コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)無水物、硝酸コバルト(II)六水和物、硝酸コバルト(II)無水物、酢酸ニッケル(II)四水和物、酢酸ニッケル(II)無水物、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化ニッケル(II)無水物、硫酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)無水物、硝酸ニッケル(II)六水和物、硝酸ニッケル(II)無水物、硫酸鉄(II)七水和物、硫酸鉄(II)無水物などが挙げられる。
【0032】
溶液中で強磁性金属のイオンの還元を行なう場合、前記溶液中の強磁性金属のイオンの濃度は、通常0.001〜1mol/dm3とすることができる。
【0033】
溶媒としては、水および有機系溶媒が挙げられる。
【0034】
前記有機系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜6のアルコール、炭素数2〜4のアルキレングリコール、炭素数3〜6のケトン、炭素数3〜6のアルキレングリコールアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどが挙げられる。前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。前記アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテルなどが挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
これらの有機溶媒のなかでは、入手容易性や、液相中における金属粒子の分散性に優れる観点から、プロピレングリコールが好ましい。
【0036】
前記溶液は、この溶液中において、還元により析出した強磁性金属からなるナノ粒子核を形成させ、強磁性金属ナノ構造体の生成をより効率よく行なう観点から、前記強磁性金属のナノ粒子核を形成させるための核形成剤がさらに加えられたものであることが好ましい。
また、室温において、還元反応を促進する観点から、前記核形成剤は、前記還元を促進する触媒作用を有する金属を含むものであることが好ましい。
【0037】
ここで、「ナノ粒子核」とは、強磁性金属のナノ粒子を形成する際に核として働くものをいい、前記強磁性金属や核形成剤に含まれる成分から構成されているものをいう。
【0038】
前記核形成剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化白金酸六水和物、塩化鉛、硝酸銀などが挙げられる。これらのなかでは、強磁性金属のイオンとしてコバルトイオンなどを用いた強磁性金属ナノ構造体の製造に際して、還元反応を良好に進行させる観点から、塩化白金酸六水和物が好ましい。前記核形成剤は、ナノ粒子核を良好に形成させる観点から、例えば、強磁性金属よりもイオン化傾向が小さい金属を有するものより選択することが望ましい。
【0039】
前記溶液中における核形成剤の濃度は、強磁性金属のイオンの還元を促進し、かつナノ粒子核を形成させる観点から、通常0.01〜10mmol/dm3とすることができる。なお、かかる濃度は金属イオン換算での濃度である。
【0040】
前記核形成剤を用いた場合、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成させることができる。このとき、前記溶液中における核形成剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
生成されるナノファイバーの形態、例えば、アスペクト比を制御する場合、溶液中における核形成剤の濃度を高くすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が大きい値となるように制御することができ、前記濃度を低くすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が小さい値となるように制御することができる。
これは、溶液中における核形成剤の濃度が高いときには、この核形成剤により形成させた1つのナノ粒子核に接触する強磁性金属の量が相対的に減り、形成される金属ナノ粒子の粒径が小さくなり、前記濃度が低いときには、この核形成剤により形成させた1つのナノ粒子核に接触する強磁性金属の量が相対的に増え、形成される金属ナノ粒子の粒径が大きくなるからであると考えられる。
【0041】
また、本実施形態においては、前記強磁性金属のイオンが還元されて析出する速度を制御することで、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーの形態を制御し、好適に生成させることができる。
強磁性金属のイオンが還元されて析出する速度は、溶液中の還元剤の濃度を調整して還元反応の速度を制御することにより、制御することができる。
すなわち、前記溶液を、前記強磁性金属のイオンを還元させる還元剤がさらに加えられたものとし、前記溶液中における還元剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
【0042】
前記還元剤としては、例えば、ヒドラジン、次亜リン酸、水素化ホウ素およびそれらの塩、ジメチルアミンボラン(DMAB)などが挙げられる。金属の強磁性の特性を維持し、強磁場印加の効果を十分に発揮させ、かつ高純度の強磁性金属ナノ構造体を得ることができる観点から、好ましくはヒドラジンである。
前記溶液中における還元剤の濃度は、還元反応を良好に行なう観点から、前記溶液中における強磁性金属のイオンの濃度の10倍程度とすることが望ましく、0.1〜10mol/dm3とすることができる。
【0043】
溶液中における還元剤の濃度を調整することにより、生成されるナノファイバーの形態、例えば、アスペクト比を制御する場合、溶液中における還元剤の濃度を高くすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が大きい値となるように制御することができ、前記濃度を低くすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が小さい値となるように制御することができる。
【0044】
本実施形態においては、前記溶液の性質、例えば、当該溶液のpHの調整、溶媒の種類などの選択などにより、強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーの形態を制御し、好適に生成させることができる。
【0045】
前記溶液のpHを調整することにより、例えば、ナノファイバーのアスペクト比を制御することができる。
【0046】
溶液のpHをかかる範囲内で高くするほど、還元力が大きくなるので、還元反応の初期段階で生成する金属ナノ粒子の粒径が小さくなる傾向がある。一方、溶液のpHを前記範囲内で低くするほど、還元力が小さくなるので、還元反応の初期段階で生成する金属ナノ粒子の粒径が大きくなる傾向がある。
したがって、前記溶液のpHを調整することにより、生成されるナノファイバーの形態、例えば、アスペクト比を制御する場合、溶液中におけるpHを高いpHに調整することにより、ナノファイバーのアスペクト比が小さい値となるように制御することができ、前記pHを低いpHに調整することにより、ナノファイバーのアスペクト比が大きい値となるように制御することができる。
【0047】
前記溶液のpHは、溶媒にpH調整剤を加えることにより調整することができる。かかるpHは、還元反応を良好に進行させる観点から、好ましくは10〜13である。
【0048】
前記pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。液相中における前記pH調整剤の濃度は、適切な大きさの金属ナノ構造体を得る観点から、好ましくは0.1mol/dm3〜1mol/dm3である。
【0049】
前記溶媒の種類などを選択することにより、前記形態、例えば、ナノファイバー長手方向における、ナノファイバー断面面積の均一性または不均一性を制御することができる。例えば、溶媒として、粘度の低い水を選択した場合、複数のナノ粒子が数珠繋ぎ状に配列された形態を呈するナノファイバーを得ることができ、溶媒として、水に比べて粘度の高い有機系溶媒を選択した場合、ナノファイバー長手方向における、ナノファイバー断面面積が、このナノファイバー長手方向にいてほぼ一定である形態を呈するナノファイバーを得ることができる。
【0050】
また、前記形態は、溶媒に分散剤を加えることによって調整することもできる。
前記分散剤は、溶媒の種類に応じて選択することができ、特に限定されるものではないが、溶媒として水を用いる場合の分散剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)などが挙げられる。溶媒として有機系溶媒を用いる場合の分散剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数3〜30の飽和脂肪酸、直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数3〜30の不飽和脂肪酸、直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数2〜20の飽和アミン、直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数2〜20の不飽和アミンなどが挙げられる。
【0051】
前記ポリアルキレングリコールは、金属ナノ構造体の生成を十分に行なう観点から、重量平均分子量が好ましくは300以上、より好ましくは20000以上であり、製造に際する取り扱いの容易性の観点から、好ましくは5000000以下、より好ましくは30000以下であるものが望ましい。前記飽和脂肪酸としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などがあげられる。前記不飽和脂肪酸としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸、ステアロール酸などがあげられる。前記飽和アミンとしては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、イソプロピルアミン、tert−ブチルアミンなどが挙げられる。前記不飽和アミンとしては、例えば、アリルアミン、オレイルアミンなどがあげられる。
これらのなかでは、入手容易性や、液相中における金属粒子の分散性に優れる観点から、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0052】
液相中における分散剤の含有量は、所望の大きさによって適宜設定することができるが、ナノレベルの大きさの構造体を得る観点から、好ましくは1〜50000vol ppmである。
【0053】
また、本実施形態においては、前記還元工程において印加される磁場強度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御することができる。
前記磁場強度は、通常0.5〜10テスラとすることができる。
磁場強度を調整することにより、例えば、ナノファイバーのアスペクト比を制御することができる。
【0054】
前記磁場強度を調整することにより、生成されるナノファイバーの形態、例えば、アスペクト比を制御する場合、磁場強度を大きくすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が大きい値となるように制御することができ、前記磁場強度を小さくすることにより、ナノファイバーのアスペクト比が小さい値となるように制御することができる。
【0055】
また、前記還元工程では、溶存酸素による酸化によって還元条件を変動させることなく、良好に還元条件を維持する観点から、前記溶液を酸素欠乏状態に維持することが好ましい。これにより、強磁性金属ナノ構造体の生成効率を向上させることができる。
【0056】
溶液を酸素欠乏状態に維持する方法としては、例えば、溶液中に不活性ガスを吹き込み、溶存酸素を除去する方法や溶液中に酸素を吸着させるための酸素吸着剤を入れ、溶存酸素を除去する方法などが挙げられる。
前記不活性ガスとして、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが用いられる。
また、酸素吸着剤として、例えば、ゼオライトなどが用いられる。
【0057】
なお、本発明においては、強磁性金属ナノ構造体の形態は、前記磁場強度、核形成剤濃度、溶液の種類、還元反応速度(例えば、還元剤濃度の調整、溶液のpH調整など)などを組み合わせることにより、所望の形態に制御することができる。
【0058】
本実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法によれば、還元反応の速度や磁場強度を適宜設定することにより、前記強磁性金属ナノ構造体としてナノファイバーを生成する場合、アスペクト比を10以上、好ましくは100以上、好ましくは200以上、より好ましくは600以上とすることができる。なお、数珠つなぎ状のナノファイバーの場合、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡で観察した結果を画像解析し、100個の強磁性金属ナノ構造体それぞれについて最大直径および最小直径を測定し、それらの平均値〔(最大直径+最小直径)/2〕を求め、これを長手方向の長さの平均値で割ることにより算出した値である。
【0059】
以下、添付図面により、本実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法の処理手順をより詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る強磁性金属ナノ構造体の生成方法の処理手順を示す工程図である。
【0060】
ここでは、溶媒として、水またはプロピレングリコールを用い、分散剤として、重量平均分子量が60000であるポリエチレングリコールを用い、強磁性金属のイオンとして、コバルト(II)イオンを用い、核形成剤として、塩化白金酸−プロピレングリコール溶液(塩化白金酸六水和物をプロピレングリコールに溶解させた溶液)を用い、還元剤として、ヒドラジン−プロピレングリコール溶液(ヒドラジン一水和物をプロピレングリコールに溶解させた溶液)用い、磁場を印加しながら、液相還元法により強磁性金属のイオンを還元する場合を例として挙げて説明する。しかしながら、本発明においては、かかる例示に限定されるものではない。
【0061】
本実施形態に係る金属ナノ構造体の生成方法では、まず、容器10に入れた溶媒に窒素ガスを吹き込みながら、溶媒である水またはプロピレングリコールに分散剤を添加する(図1(a)、「分散剤添加工程」)。
【0062】
本分散剤添加工程では、例えば、水またはプロピレングリコールに窒素ガスを吹き込むことにより、この水またはプロピレングリコール中の溶存酸素を除去し、酸素欠乏状態にしている。これにより、溶存酸素による酸化を抑制することができるので、後述する工程におけるコバルト(II)イオンを還元する際の還元条件を良好に維持することができる。
【0063】
つぎに、コバルト(II)イオンを供給する酢酸コバルト(II)四水和物を前記分散剤添加工程で得られたポリエチレングリコール水溶液またはポリエチレングリコール−プロピレングリコール溶液に添加する(図1(b)、「金属塩添加工程」)。
この金属塩添加工程においても、前記分散剤添加工程と同様の条件で、ポリエチレングリコール水溶液またはポリエチレングリコール−プロピレングリコール溶液に、窒素ガスを吹き込むことにより、酸素欠乏状態を維持する。
【0064】
その後、前記金属塩添加工程で得られた混合液にpH調整剤である水酸化ナトリウム水溶液または水酸化ナトリウム−プロピレングリコール溶液を添加することにより、pHを10〜13に調製する(図1(b)、「pH調整工程」)。
pH調整工程においても、前記分散剤添加工程と同様の条件で、混合液に、窒素ガスを吹き込むことにより、酸素欠乏状態を維持する。
このpH調整工程では、混合液のpHは、生成されるコバルトナノ構造体に要求される所望の形態に応じて、適宜設定することができる。
また、かかるpH調整工程では、溶媒として水を用いた場合には、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒としてプロピレングリコールを用いた場合には、水酸化ナトリウム−プロピレングリコール溶液を用いる。
【0065】
その後、pH調整工程を行なった後の混合液に核形成剤である塩化白金酸−プロピレン溶液を添加する(図1(d)、「核形成剤添加工程」)。
核形成剤添加工程においても、前記分散剤添加工程と同様の条件で、混合液に、窒素ガスを吹き込むことにより、酸素欠乏状態を維持する。
ここで、白金は、コバルトよりもイオン化傾向が小さい金属であり、後述の工程における還元反応において、コバルトよりも先に析出し、ナノ粒子核の形成に関与するようになる。
【0066】
つぎに、前記核形成剤添加工程で得られた混合液に、還元剤であるヒドラジン−プロピレン溶液を添加し(図1(e)、「還元剤添加工程」)、これと同時に、容器10を超電導マグネット装置1にセットして、容器10内の溶液に磁場を印加する(図1(f)、「磁場印加工程」)。
これにより、図2に示されるように、まず、イオン化傾向の小さい白金が還元により析出し、ついで、コバルトが析出する。このとき、白金50を核としてナノ粒子核101が形成され(図2(a)、「ナノ粒子核形成」)、磁気異方性を呈する程度の大きさになったとき、磁場の作用により、磁場方向Fと同じ向きに、ナノ粒子核における磁場方向f0が揃いながら、ナノ粒子核が成長し、金属ナノ粒子102が形成され(図2(b)、「金属ナノ粒子形成」)、磁場方向Fに沿って、ナノ粒子102が配列して、ファイバー状の強磁性金属ナノ構造体103が形成される。これと同時に、前記還元により新たな金属ナノ粒子102の成長も引き続き進行するので、ファイバー状のナノ構造を形成すると同時に、このファイバー状のナノ構造における凹凸が埋まるようになる。かかる強磁性金属ナノ構造体103においては、強磁性金属ナノ構造体103の長手方向に白金50が分布している(図2(c))
つぎに、前記核形成剤添加工程で得られた混合液に、還元剤であるヒドラジン−プロピレン溶液を添加し(図1(e)、「還元剤添加工程」)、これと同時に、容器10を超電導マグネット装置1にセットして、容器10内の溶液に磁場を印加する(図1(f)、「磁場印加工程」)。
これにより、図2に示されるように、まず、イオン化傾向の小さい白金が還元により析出し、ついで、コバルトが析出する。このとき、白金50を核としてナノ粒子核101が形成され(図2(a)、「ナノ粒子核形成」)、磁気異方性を呈する程度の大きさになったとき、磁場の作用により、磁場方向Fと同じ向きに、ナノ粒子核における磁場方向f0が揃いながら、ナノ粒子核が成長し、金属ナノ粒子102が形成され(図2(b)、「金属ナノ粒子形成」)、磁場方向Fに沿って、ナノ粒子102が配列して、ファイバー状の強磁性金属ナノ構造体103が形成される。これと同時に、前記還元により新たな金属ナノ粒子102の成長も引き続き進行するので、ファイバー状のナノ構造を形成すると同時に、このファイバー状のナノ構造における凹凸が埋まるようになる。かかる強磁性金属ナノ構造体103においては、強磁性金属ナノ構造体103の長手方向に白金50が分布している(図2(c))。金属ナノ粒子102同士の接合部分(図2(c)参照)では、金属が不均一核生成により析出しやすい状態にあるため、金属ナノ粒子102同士を強固に固着し、さらにファイバー状に成長する。
【0067】
なお、本発明においては、図3に示されるように、容器10を超電導マグネット装置1内に設置した状態で、分散剤添加工程(図3(a))、金属塩添加工程(図3(b))、pH調整工程(図3(c))、核形成剤添加工程(図3(d))および還元剤添加工程(図3(e))を行なってもよい。
【0068】
[強磁性金属ナノファイバー]
本発明の一実施形態に係る強磁性金属ナノファイバーは、1つの側面では、強磁性金属イオンの還元によって形成した複数の強磁性金属ナノ粒子が、磁場の作用によって配列化し、前記複数の強磁性金属ナノ粒子間の接合部分で優先的な金属の析出が起こることでファイバー状に形成されたものであることを特徴とするナノファイバーである。また、他の側面では、ナノファイバー形成に用いられた核形成剤によって形成された複数のナノ粒子核が、ナノファイバー内部において長手方向に分布していることを特徴とするナノファイバーである。
本実施形態に係る強磁性金属ナノファイバーは、前述した生成方法により簡便な操作で得ることができる。
【0069】
かかる強磁性金属ナノファイバーは、はんだや、補強シート材、強磁性シート材などのシート材に用いることができる。
【0070】
[強磁性金属ナノファイバーの用途]
以下、前述した強磁性金属ナノファイバーの用途を、添付図面により、説明する。図4は、本発明の一実施形態に係るシート材の一例である強磁性シート材の構成を示す要部断面斜視図である。図5は、本発明の一実施形態に係るはんだの構成を示す要部断面斜視図である。図6は、本発明の一実施形態に係るシート材の一例である補強シート材の構成を示す要部断面斜視図である。
【0071】
(1) 強磁性シート材
本実施形態に係るシート材の一例である強磁性シート材201は、図4に示されるように、前述した強磁性金属ナノファイバー103をシート状に加工したシート材本体202からなるものである。この強磁性シート材201は、強磁性金属ナノファイバー103を漉くことによって簡便に形成させることができる。
【0072】
(2) はんだ
本実施形態のはんだ210は、図5に示されるように、前述した強磁性金属ナノ構造体(強磁性金属ナノファイバー)103をはんだ合金211中に含有していることを特徴とする。
本実施形態のはんだ210は、前述した強磁性金属ナノ構造体の生成方法によって生成された強磁性金属ナノファイバー103をはんだ合金211に混ぜることにより、簡便に製造することができる。
かかるはんだ210は、強磁性金属ナノファイバー103を含有しているので、高い強度を呈するものである。
【0073】
(3) 補強シート材
本実施形態のシート材の一例である補強シート材310は、図6に示されるように、前述した強磁性金属ナノファイバー103をシート本体311中に含有していることを特徴とする。この補強シート材310は、強磁性金属ナノファイバーをシート材本体311中に含ませることで、物理的な強度を補強した
シート材本体311としては、例えば、紙よりなるシート、不織布シートなどが挙げられる。
本実施形態の補強シート材310は、シート材本体311を製造する際に、前述した強磁性金属ナノ構造体の生成方法によって生成された強磁性金属ナノファイバー103を混ぜることにより、簡便に製造することができる。
かかる補強シート材310は、強磁性金属ナノファイバー103を含有しているので、高い強度を呈するものである。
【実施例】
【0074】
以下、実施例などにより、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
イオン交換水に窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込み、溶存している酸素を除去した。つぎに、得られたイオン交換水50cm3に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、分散剤であるポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)1.3×10-4molと、金属塩である酢酸コバルト(II)三水和物0.010molとを添加し、溶解させた。その後、得られた溶液に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、1.0mol/dm3水酸化ナトリウム水溶液25cm3を添加して、前記溶液のpHを12に調整した。pH調整後の溶液75cm3に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、核形成剤である25×10-5mol/dm3塩化白金酸−プロピレングリコール溶液10cm3を添加し、金属塩溶液を得た。
【0076】
一方、プロピレングリコールに窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込み、溶存している酸素を除去した。得られたプロピレングリコール30cm3にヒドラジン一水和物0.10molを添加して溶解させ、還元剤溶液を作製した。
【0077】
つぎに、10テスラの磁場印加条件下に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、前記金属塩溶液85cm3と還元剤溶液30cm3とを混合した。なお、混合液の組成は、0.087mol/dm3酢酸コバルト〔コバルト(II)イオン換算〕、1.1mmol/dm3ポリエチレングリコール、0.22mmol/dm3塩化白金酸〔白金(IV)イオン換算〕、0.87mmol/dm3ヒドラジンである。その後、得られた混合液を25℃で1時間保温して、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した。
【0078】
前記混合液を10分間8000×gの遠心分離に供して、析出物を回収した後、この析出物をエタノールおよびアセトンで洗浄し、実施例1の試料を得た。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、磁場印加条件に代えて、磁場を印加しない条件下に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、前記金属塩溶液85cm3と還元剤溶液30cm3とを混合したことを除き、前記実施例1と同様に操作を行なって、比較例1の試料を得た。
【0080】
(試験例1)
実施例1および比較例1それぞれの試料について、走査型電子顕微鏡で観察した。
また。実施例1の試料に含まれる強磁性金属ナノ構造体の平均直径は、走査型電子顕微鏡で観察した結果を画像解析し、100個の強磁性金属ナノ構造体それぞれの最大直径および最小直径を測定し、それらの平均値〔(最大直径+最小直径)/2〕を求めて、さらに、全強磁性金属ナノ構造体の平均値を算出することにより求めた。比較例1の試料に含まれる粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡で観察した結果を画像解析し、300個の粒子の粒径を測定し、平均値を算出することにより求めた。
実施例1の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図7に示す。また、図7の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図8に示す。さらに、比較例1の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図9に示す。
【0081】
また、実施例1および比較例1それぞれの試料について、X線回折装置を用い、Mo−Kα線を用いてX線回折を行なった。
実施例1および比較例1それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフを図10に示す。図10において、(a)は、実施例1の試料のX線回折パターン、(b)は、比較例1の試料のX線回折パターンを示す。また、図10において、黒三角は、面心立方格子構造に特徴的なピーク、白抜三角は、六方最密充填構造に特徴的なピークをそれぞれ示す。
【0082】
図7および8に示された結果から、磁場印加条件下に、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合、平均直径が約65nm、平均長さが約2.31×104nm、アスペクト比(平均値)が約137.6であるロッド状のナノ構造体が形成されていることがわかる。なお、前記平均直径および平均長さは、走査型電子顕微鏡で観察した結果を画像解析し、300個の粒子それぞれの直径および長さを測定して、それらの平均値を算出することにより求めた。また、アスペクト比(平均値)は、式:アスペクト比(平均値)=平均長さ/平均直径に基づいて算出した値である。
【0083】
これに対して、図9に示された結果から、磁場を印加しない条件下にコバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合には、ロッド状のナノ構造体がほとんど形成されないことがわかる。
【0084】
さらに、図10に示された結果から、磁場印加条件下に、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合(図10(a))、磁場を印加しない条件下にコバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合(図10(b))に比べて、六方最密充填構造に特徴的なピークが大きくなっていることがわかる。
【0085】
以上のように、磁場印加条件下に、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元することにより、ロッド状のナノ構造体を形成させることができることがわかる。また、走査型電子顕微鏡により観察した実施例1の試料は、遠心分離後の試料であるにもかかわらず、ロッド状のナノ構造体の構造を維持しているため、前記ナノ構造体は、強固なものであることが示唆される。
【0086】
(実施例2)
実施例1において、イオン交換水に代えて、プロピレングリコールを用い、かつ1.0mol/dm3水酸化ナトリウム水溶液に代えて、1.0mol/dm3水酸化ナトリウム−プロピレングリコール溶液を用いたことを除き、実施例1と同様に操作を行なって、実施例2の試料を得た。
【0087】
(比較例2)
実施例2において、磁場印加条件に代えて、磁場を印加しない条件下に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、前記金属塩溶液85cm3と還元剤溶液30cm3とを混合したことを除き、前記実施例2と同様に操作を行なって、比較例2の試料を得た。
【0088】
(試験例2)
実施例2および比較例2それぞれの試料について、試験例1と同様に操作を行なって、走査型電子顕微鏡で観察して、ロッド状のナノ構造体の平均直径、平均長さおよびアスペクト比(平均値)を算出するとともに、X線回折を行なった。
【0089】
実施例2の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図11に示す。また、図11の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図12に示す。さらに、比較例2の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図13に示す。
また、実施例2および比較例2それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフを図14に示す。図14において、(a)は、実施例2の試料のX線回折パターン、(b)は、比較例2の試料のX線回折パターンを示す。また、図14において、黒三角は、面心立方格子構造に特徴的なピーク、白抜三角は、六方最密充填構造に特徴的なピークをそれぞれ示す。
【0090】
図11および12に示された結果から、磁場印加条件下に、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合、平均直径が144nm、平均長さが3.0×104nm、アスペクト比(平均値)が約208のロッド状のナノ構造体が形成されていることがわかる。また、前記実施例1の試料のように、溶媒としてイオン交換水を用いた場合に比べて、実施例2の試料のように、溶媒としてプロピレングリコールを用いた場合には、より大きく、アスペクト比の高いロッド状のナノ構造体を得ることができることがわかる。
【0091】
これに対して、図13に示された結果から、磁場を印加しない条件下にコバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合には、ロッド状のナノ構造体がほとんど形成されないことがわかる。
【0092】
さらに、図14に示された結果から、磁場印加条件下に、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合(図14(a))、磁場を印加しない条件下にコバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した場合(図14(b))に比べて、六方最密充填構造に特徴的なピークが大きくなっていることがわかる。
【0093】
(実施例3〜5)
プロピレングリコールに窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込み、溶存している酸素を除去した。つぎに、得られたプロピレングリコール50cm3に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、分散剤であるポリエチレングリコール(数平均分子量:20000)1.3×10-4molと、金属塩である酢酸コバルト(II)三水和物0.010molとを添加し、溶解させた。その後、得られた溶液に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、1.0mol/dm3水酸化ナトリウム−プロピレングリコール溶液25cm3を添加して、前記溶液のpHを12に調整した。pH調整後の溶液75cm3に、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、核形成剤である25×10-4mol/dm3塩化白金酸−プロピレングリコール溶液10cm3を添加し、金属塩溶液を得た。
【0094】
一方、プロピレングリコールに窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込み、溶存している酸素を除去した。得られたプロピレングリコール30cm3にヒドラジン一水和物0.10molを添加して溶解させ、還元剤溶液を作製した。
【0095】
つぎに、2テスラ(実施例3)、5テスラ(実施例4)または10テスラ(実施例5)の強磁場印加条件下、窒素ガスを流速50cm3/分で吹き込みながら、前記金属塩溶液85cm3と還元剤溶液30cm3とを混合した。なお、得られた混合液の組成は、0.087mol/dm3酢酸コバルト〔コバルト(II)イオン換算〕、1.1mmol/dm3ポリエチレングリコール、2.2mmol/dm3塩化白金酸〔白金(IV)イオン換算〕、0.87mmol/dm3ヒドラジンである。その後、得られた混合液を25℃で1時間保温して、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれをヒドラジンにより還元した。
【0096】
前記混合液を10分間8000×gの遠心分離に供して、析出物を回収した後、この析出物をエタノールおよびアセトンで洗浄し、実施例3〜5の試料を得た。
【0097】
(試験例3)
実施例3〜5それぞれの試料について、試験例1と同様に操作を行なって、走査型電子顕微鏡で観察して、ロッド状のナノ構造体の平均直径、平均長さおよびアスペクト比(平均値)を算出するとともに、X線回折を行なった。これにより、磁場強度とナノ構造体の直径およびアスペクト比との関係を調べた。
【0098】
実施例3〜5それぞれの試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図15〜17に示す。
また、磁場強度とナノ構造体の直径およびアスペクト比それぞれとの関係を示すグラフを図18に示す。図18において、実線は、直径の平均値、破線は、アスペクト比の平均値を示す。
さらに、実施例3〜5それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフを図19に示す。図19において、(a)は、実施例3の試料のX線回折パターン、(b)は、実施例4の試料のX線回折パターン、(c)は、実施例5の試料のX線回折パターンを示す。また、図19において、黒三角は、面心立方格子構造に特徴的なピーク、白抜三角は、六方最密充填構造に特徴的なピークをそれぞれ示す。
【0099】
図15〜18に示された結果から、磁場強度が大きいほどアスペクト比は大きくなる傾向を示し、直径は小さくなる傾向を示すことがわかる。
さらに、図19に示された結果から、X線回折パターンは、磁場強度によらず、ほぼ同様のパターンを示すことがわかる。
【0100】
以上の結果より、磁場強度の大きさによって、得られるナノ構造体の直径およびアスペクト比を制御することができることが示唆される。
【0101】
(試験例4)
実施例2および5それぞれの試料について、試験例1と同様に操作を行なって、走査型電子顕微鏡で観察して、ロッド状のナノ構造体の平均直径、平均長さおよびアスペクト比(平均値)を算出するとともに、X線回折を行なった。これにより、核形成剤の濃度とナノ構造体の粒径およびアスペクト比との関係を調べた。
【0102】
実施例2の試料に含まれるナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図20に示し、図20の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図21に示す。さらに、実施例5の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図22に示し、図22の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図23に示す。
また、実施例2および5それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフを図24に示す。図24において、(a)は、実施例2の試料のX線回折パターン、(b)は、実施例5の試料のX線回折パターンを示す。また、図24において、黒三角は、面心立方格子構造に特徴的なピーク、白抜三角は、六方最密充填構造に特徴的なピークをそれぞれ示す。
【0103】
図20および21に示された結果から、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における核形成剤(塩化白金酸)の濃度(白金(IV)イオン換算濃度)が0.22mMである場合、ナノ構造体の平均直径が約144nm、平均長さが約3.0×104nm、アスペクト比(平均値)が約208であることがわかる。また、図22および23に示された結果から、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における核形成剤(塩化白金酸)の濃度(白金(IV)イオン換算濃度)が2.2mMである場合、ナノ構造体の平均直径が約121nm、平均長さが約3.5×104nm、アスペクト比(平均値)が約272であることがわかる。したがって、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における核形成剤の濃度を高くするほど、ナノ構造体のアスペクト比を大きくすることができ、前記濃度を低くするほど、ナノ構造体のアスペクト比を小さくすることができることがわかる。また、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における核形成剤の濃度を高くするほど、ナノ構造体の直径を小さくすることができ、前記濃度を低くするほど、ナノ構造体の直径を大きくすることができることがわかる。
また、図24に示された結果から、X線回折パターンは、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における核形成剤の濃度によらず、ほぼ同様のパターンを示すことがわかる。
【0104】
(実施例6)
実施例4において、プロピレングリコール30cm3にヒドラジン一水和物0.10molを添加して溶解させ、還元剤溶液を作製したことに代えて、プロピレングリコール30cm3にヒドラジン一水和物0.05molを添加して溶解させ、還元剤溶液を作製し、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における還元剤(ヒドラジン)の濃度を0.435mmol/dm3としたことを除き、実施例5と同様に操作を行なって、実施例6の試料を得た。
【0105】
(試験例5)
実施例4および6それぞれの試料について、試験例1と同様に操作を行なって、走査型電子顕微鏡で観察して、ロッド状のナノ構造体の平均直径、平均長さおよびアスペクト比(平均値)を算出するとともに、X線回折を行なった。これにより、還元剤の濃度および磁場強度とナノ構造体の粒径およびアスペクト比との関係を調べた。
【0106】
実施例4の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図25に示し、図25の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図26に示す。さらに、実施例6の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図27に示し、図27の図面代用写真の一部を拡大して観察した結果を示す図面代用写真を図28に示す。
また、実施例4および6それぞれの試料のX線回折パターンを示すグラフを図29に示す。図29において、(a)は、実施例4の試料のX線回折パターン、(b)は、実施例6の試料のX線回折パターンを示す。また、図29において、黒三角は、面心立方格子構造に特徴的なピーク、白抜三角は、六方最密充填構造に特徴的なピークをそれぞれ示す。
【0107】
図25および26に示された結果から、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における還元剤(ヒドラジン)の濃度が0.87Mであり、磁場強度が10テスラである場合、ナノ構造体の平均直径が約121nm、平均長さが約3.5×104nm、アスペクト比(平均値)が約272であることがわかる。また、図27および28に示された結果から、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における還元剤(ヒドラジン)の濃度が0.435Mであり、磁場強度が5テスラである場合、ナノ構造体の平均直径が約110nm、平均長さが約6.5×104nm、アスペクト比(平均値)が約600であることがわかる。
したがって、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における還元剤の濃度を高くし、かつ磁場強度を高くするほど、ナノ構造体のアスペクト比を小さくすることができ、前記濃度を低くし、磁場強度を低くするほど、ナノ構造体のアスペクト比を大きくすることができることがわかる。
これらの結果から、還元剤の濃度を低くして、コバルト(II)イオンおよび白金(IV)イオンそれぞれの還元をゆっくりと進行させ、かつ磁場強度を低くするほど、アスペクト比を大きくすることができることがわかる。
また、図29に示された結果から、X線回折パターンは、金属塩溶液と還元剤溶液との混合液における還元剤の濃度によらず、ほぼ同様のパターンを示すことがわかる。
【0108】
(試験例6)
実施例6で得られたコバルトナノ構造体をエネルギー分散型蛍光X線分析装置に供して、元素組成を分析した。実施例6で得られたコバルトナノ構造体中における元素を分析した結果を示すグラフを図30に示す。
【0109】
図30に示される結果から、コバルトと、コバルトナノ構造体の長手方向に分布した白金以外には検出されておらず、検出された元素の割合を算出したところ、コバルトが99.8at%、白金が0.2at%であることがわかる。
【0110】
(実施例7)
実施例2において、酢酸コバルト(II)六水和物に代えて、塩化ニッケル(II)六水和物を用い、磁場強度を5テスラとしたことを除き、実施例2と同様に操作を行なって、実施例7の試料を得た。
【0111】
(試験例7)
実施例7の試料について、試験例1と同様に操作を行なって、走査型電子顕微鏡で観察した。実施例7の試料を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図面代用写真を図31に示す。
【0112】
図31に示されるように、強磁性金属イオンとして、ニッケル(II)イオンを用いた場合にも、コバルト(II)イオンを用いた場合と同様に強磁性金属ナノ構造体であるナノファイバーを得ることができることがわかる。
【0113】
(強磁性金属ナノ構造体の形態制御のまとめ)
以上の結果より、強磁性金属ナノ構造体の形態制御のしかたを総括する。溶媒として水を用いた場合の強磁性金属ナノ構造体の形態制御の仕方の例を示す概略説明図を図32に示す。また、溶媒として有機系溶媒であるプロピレングリコールを用いた場合の強磁性金属ナノ構造体の形態制御の仕方の例を示す概略説明図を図33に示す。図32および図33は、強磁性金属のイオンとして、コバルト(II)イオンを用いた場合を例として示す。
【0114】
図32に示されるように、溶媒として、比較的粘度が低い水を用いた場合には、磁場強度および核形成剤濃度それぞれを調整したとき、例えば、同じ核形成剤濃度では、磁場強度を大きくすることにより、アスペクト比を大きくし、かつ直径を小さくすることができる。また、同じ磁場強度では、核形成剤濃度を大きくすることにより、アスペクト比を大きくし、かつ直径を小さくすることができる。
また、このように、溶媒として、比較的粘度が低い水を用いた場合には、生成される強磁性金属ナノ構造体の表面の形状は、数珠つなぎ状とすることができる。なお、かかる表面の形状などの形態は、磁場強度、核形成剤濃度、還元反応速度(例えば、還元剤濃度の調整)などを組み合わせることにより、制御することができる。
【0115】
一方、図33に示されるように、溶媒として、比較的粘度が高い有機溶媒(プロピレングリコール)を用いた場合には、磁場強度および核形成剤濃度それぞれを調整したとき、例えば、同じ核形成剤濃度では、磁場強度を大きくすることにより、アスペクト比を大きくし、かつ直径を小さくすることができる。また、同じ磁場強度では、核形成剤濃度を大きくすることにより、アスペクト比を大きくし、かつ直径を小さくすることができる。
また、このように、溶媒として、比較的粘度が高い有機系溶媒(プロピレングリコール)を用いた場合には、生成される強磁性金属ナノ構造体の表面の形状は、断面が長手方向においてほぼ一定で、平滑なものとすることができる。なお、かかる表面の形状などの形態は、磁場強度、核形成剤濃度、還元反応速度(例えば、還元剤濃度の調整)などを組み合わせることにより、制御することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 超伝導マグネット装置
10 容器
101 ナノ粒子核
102 金属ナノ粒子
103 強磁性金属ナノ構造体(強磁性金属ナノファイバー)
201 強磁性シート材
202 シート材本体
210 はんだ
211 はんだ合金
310 補強シート材
311 シート材本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性金属ナノ構造体を生成する生成方法であって、
強磁性金属のイオンを還元させて強磁性金属を析出させる還元工程を含み、
前記強磁性金属のイオンに磁場を印加しながら前記強磁性金属のイオンを還元させることを特徴とする強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項2】
前記還元工程において、溶媒に前記強磁性金属のイオンを加えた溶液に磁場を印加しながら、液相還元法により前記強磁性金属のイオンを還元させる
請求項1に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項3】
前記溶液は、前記強磁性金属のナノ粒子核を形成させるための核形成剤がさらに加えられたものである
請求項2に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項4】
前記核形成剤は、前記還元を促進する触媒作用を有する金属を含むものである
請求項3に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項5】
前記強磁性金属ナノ構造体がナノファイバーであり、
前記溶液中における核形成剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御する
請求項3または4に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項6】
前記強磁性金属ナノ構造体がナノファイバーであり、
前記強磁性金属のイオンが還元されて析出する速度を制御することで、生成されるナノファイバーの形態を制御する
請求項1〜5のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項7】
前記強磁性金属ナノ構造体がナノファイバーであり、
前記溶液は、前記強磁性金属のイオンを還元させる還元剤がさらに加えられたものであり、
前記溶液中における還元剤の濃度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御する
請求項6に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項8】
前記強磁性金属ナノ構造体がナノファイバーであり、
前記溶液のpHを調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御する
請求項6または7に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項9】
前記強磁性金属ナノ構造体がナノファイバーであり、
前記還元工程において印加される磁場強度を調整することで、生成されるナノファイバーの形態を制御する
請求項1〜8のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項10】
制御されるナノファイバーの形態は、ナノファイバーのアスペクト比である
請求項5〜9のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項11】
制御されるナノファイバーの形態は、ナノファイバー長手方向における、ナノファイバー断面面積の均一性または不均一性である
請求項5〜10のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項12】
前記ナノファイバーは、複数のナノ粒子が数珠つなぎ状に配列された形態を呈する
請求項5〜11のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項13】
前記ナノファイバーは、その断面面積がナノファイバー長手方向においてほぼ一定である形態を呈する
請求項5〜12のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項14】
前記ナノファイバーは、アスペクト比が10以上である
請求項5〜13記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項15】
前記還元工程において、前記溶液を酸素欠乏状態に維持する請求項1〜14のいずれか1項に記載の強磁性金属ナノ構造体の生成方法。
【請求項16】
強磁性金属イオンの還元によって形成した複数の強磁性金属ナノ粒子が、磁場の作用によって配列化し、前記複数の強磁性金属ナノ粒子間の接合部分で優先的な金属の析出が起こることでファイバー状に形成されたものであることを特徴とする強磁性金属ナノファイバー。
【請求項17】
ナノファイバー形成に用いられた核形成剤によって形成された複数のナノ粒子核が、ナノファイバー内部において長手方向に分布していることを特徴とする強磁性金属ナノファイバー。
【請求項18】
請求項16または17に記載の強磁性金属ナノファイバーをはんだ合金中に含有していることを特徴とするはんだ。
【請求項19】
請求項16または17に記載の強磁性金属ナノファイバーをシート本体中に含有していることを特徴とするシート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−58021(P2011−58021A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205679(P2009−205679)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、知的クラスター創成事業(第II期)「京都環境ナノクラスター」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】