弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法
【課題】本発明は、従来は数種類のひずみ速度下での引張試験と数種類の保持応力でのクリープ試験を実施しなければならなかった弾・塑性・クリープ特性評価を、瞬間的負荷部とひずみ保持部から成る1種類の階段波負荷試験のみで実行可能とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法を提供する。
【解決手段】瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力‐弾塑性ひずみ曲線を取得し、前記応力−弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出し、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線から、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得し、前記応力とクリープひずみ速度の関係や遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出するものである。
【解決手段】瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力‐弾塑性ひずみ曲線を取得し、前記応力−弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出し、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線から、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得し、前記応力とクリープひずみ速度の関係や遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾・塑性・クリープ特性評価を、瞬間的負荷部とひずみ保持部から成る1種類の階段波負荷試験のみで実行可能とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計算コストの削減のために、弾・塑性有限要素解析のみに因っていた機器の設計分野においても、弾・塑性・クリープ有限要素解析が実行される機会が増えてきている。 これは、クリープ変形が生じる部位の存在が予測される機器に対して、より高い安全性が要求されるようになった為である。
また、計算技術の発展により、弾・塑性・クリープ有限要素解析が従来に比べ短時間で実行できるようになったこともその一因と考えられる。
弾・塑性・クリープ有限要素解析を実行するためには、解析対象となる材料の弾・塑性・クリープ特性を調査し、その特性を反映させた材料定数を決定しなければならない。
これらの材料定数は、数種類のひずみ速度による引張試験と数種類の保持応力によるクリープ試験から決定する必要がある。
また、変形特性の温度依存性を考慮する際には、これらの試験は複数の温度下で実行しなければならず、弾・塑性・クリープ有限要素解析の実施までには、さらに多くの試験の実施が不可欠となる。
特に、クリープ試験は長時間におよぶことが多いため、このような試験を多数実施することは、材料定数を決定し弾・塑性・クリープ有限要素解析を実施するまでに膨大な時間を要することを意味する。
すなわち、計算技術の発展により弾・塑性・クリープ解析を如何に高速で実行できるようになっても、解析を実行するまでのクリープ試験時間を短縮できなければ、弾・塑性・クリープ解析を実行するためのハードルは依然高いままである。
以上のことから、材料の弾・塑性・クリープ特性を極少数の実験から速やかに評価し、この特性を反映した材料定数を的確に導出できる弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の構築が望まれている。
【0003】
なお、公知技術として、IC(集積回路)チップをプリント基板に実装したICパッケージなどの電子機器において、寿命サイクル数を簡単で正確に求めて、信頼性をより簡単で正確に評価できる電子機器の信頼性評価方法及びその信頼性評価装置が知られている(特許文献1を参照)。
この公知技術は、特定の電子機器に対する周期的温度条件下にさらす加速試験、すなわち温度サイクル試験を行って、全ての電気機器に普遍な寿命サイクル数と歪み振幅との関係式、すなわち寿命歪み関係式を求め、任意の電子機器の解析モデルに対して熱応力シミュレーションを行い、歪みの振幅を算出し、次に寿命歪み関係式に、任意の電子機器の解析モデルに対する歪み振幅を代入して、任意の電子機器の解析モデルの寿命サイクル数を求めるものである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−46905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来は数種類のひずみ速度下での引張試験と数種類の保持応力でのクリープ試験を実施しなければならなかった弾・塑性・クリープ特性評価を、瞬間的負荷部とひずみ保持部から成る1種類の階段波負荷試験のみで実行可能とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法は、瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力‐弾塑性ひずみ曲線を取得する第一工程と、前記応力−弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出する第二工程と、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する第三工程と、繰返し応力緩和曲線から,遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する第四工程と、前記第三工程及び第四工程で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する第五工程とを含むものである。
【0007】
前記第一工程では、階段波負荷の全ての瞬間的負荷から弾塑性変形部のみを抽出し、これらをつなぎ合わせることで、弾・塑性特性の評価に必要な応力‐弾・塑性ひずみ曲線を取得するものである。
【0008】
前記第二工程では、弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力‐弾塑性ひずみ関係から取得するものである。
【0009】
前記第三工程では、応力緩和曲線から得た応力と応力速度の関係から、クリープ特性を評価するために不可欠となる応力とクリープひずみ速度の関係を取得するものである。
【0010】
前記第四工程では、応力緩和曲線を前記第三工程に適用して、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線を構成する複数の応力緩和曲線に前記第三工程を適用し、各応力緩和曲線の応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、取得した複数の応力緩和曲線でのクリープひずみ速度中の定常クリープひずみ速度を算出し、前記クリープひずみ速度と前記定常クリープひずみ速度の差から、遷移クリープひずみ速度を算出し、算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を算出するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法は、材料の弾・塑性・クリープ特性を極少数の実験から速やかに評価し、この特性を反映した材料定数を的確に導出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の一実施例を図面に基づいて、以下に説明する。
図1は、本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の階段波負荷試験の概念摸式図を示す。
図1では、階段波負荷試験のIS部が瞬間的負荷部、MS部がひずみ保持部に相当する。
IS部ではひずみ増分Δεisが瞬間的に与えられるため、そこに対応する応力−ひずみ関係ではクリープの影響が排除される。
MS部では応力緩和が生じる。
また、この階段波負荷試験では、ひずみεendに到達したらΔtendの間、ひずみεendを保持し、MS部よりも長い時間に渡る応力緩和曲線を取得する。
表1に階段波負荷試験条件の例、εend=4.4×10−2、Δtend=600sec、を示す。
【0013】
【表1】
【0014】
図2は、階段波負荷試験で得られる応力−ひずみ曲線である。
図2の丸印で示す初期部での応力の増減は、図3の繰返し応力緩和曲線のように瞬間的負荷による応力の増加とひずみ保持による応力緩和が繰返し生じることに起因する。
また、丸印で示す終端部での応力の低下は、ひずみεendでΔtend間ひずみを保持したことで生じる図4の応力緩和曲線のように応力緩和に起因する。
【0015】
本発明では、図2の応力−ひずみ曲線と図3、図4の応力緩和曲線を、以下の5つの技術に適用することで弾・塑性・クリープ特性を評価する。
(1)瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力−弾塑性ひずみ曲線を取得する技術。
(2)前記応力−弾塑性ひずみ曲線から、弾・塑性特性に関する材料定数を導出する技術。
(3)応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する技術。
(4)繰返し応力緩和曲線から、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する技術。
(5)上記(3)、(4)で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する技術。
上記5つの技術の詳細は,以下の通りである。
【0016】
図6の丸印で示す曲線は、この処理を図2の応力−ひずみ曲線に適用して取得した応力−弾塑性ひずみ曲線に相当する。
【0017】
(2)の技術:弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力−弾塑性ひずみ関係から取得する。
特に、塑性接線係数は、応力あるいはひずみの関数として取得すれば、正確な変形シミュレーションが可能となる。
本技術では、図6で得た応力−弾・塑性ひずみ曲線を、弾性ひずみと塑性ひずみの和で弾・塑性ひずみを表すRamberg-Osgood則で図7のように応力−弾・塑性ひずみ曲線を近似する。
Ramberg-Osgood則は、数1の形で与えられる。
【0018】
【数1】
【0019】
また、右辺第1、2項目は、それぞれ弾性ひずみと塑性ひずみに相当する。
したがって、応力と塑性ひずみの関係を表す塑性接線係数Hは、右辺第2項目を微分すれば、数2のように応力の関数として得られる。
【0020】
【数2】
【0021】
Ramberg-Osgood則による近似処理は以下の順で行う。
(i) 応力とひずみが線形関係にある低応力域で、応力とひずみの関係を直線近似してヤング率Eを決定する。
(ii) 基準塑性ひずみを適当に設定し(図7の近似ではε0=5.0×10-4)、対応する基準応力Dを決定する。
(iii) (i),(ii)で決定したEとDの値と、応力−弾・塑性ひずみ曲線の任意の点における応力とひずみの値を用いて硬化指数mを算出する。
以上のRamberg-Osgood則による近似処理を通じ、ヤング率や塑性接線係数が取得できる。
【0022】
(3)の技術:ひずみ保持による応力緩和では、クリープひずみの増加量と弾性ひずみの減少量が釣り合った状態にある。
本技術では、このことに着目し、応力緩和曲線から得た「応力と応力速度の関係」から、クリープ特性を評価するために不可欠となる「応力とクリープひずみ速度の関係」を取得する。
「応力と応力速度の関係」は、応力緩和曲線上の複数の点で、図8のように接線の傾きから応力速度を算出して取得する。
算出した応力速度は、数3の応力速度とクリープひずみ速度の関係に適用する。
【0023】
【数3】
【0024】
応力緩和曲線上の複数の応力点で取得した応力速度を数3に適用すれば、「応力とクリープひずみ速度の関係」が得られる。
【0025】
【0026】
【数4】
【0027】
また、遷移クリープひずみ速度は数5のように、定常クリープひずみ速度に比例する型で与える。
【0028】
【数5】
【0029】
数5の比例係数C1は、遷移クリープひずみが発達するとゼロとなる関数として、数6で表す。
【0030】
【数6】
【0031】
(4)の技術は、数5、数6を定式化するために必要となる「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」を取得するためのものである。
「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」は、以下の手順で取得する。
【0032】
(i) ひずみεendでΔtend間ひずみを保持すること(図1、2参照)で得られる応力緩和曲線では、クリープひずみが十分に発達しているため、クリープ変形は定常クリープのみで生じる。
そこで、ここで得られる応力緩和曲線を(3)の技術に適用して、「応力とクリープひずみ速度の関係」を取得する。
そして、この関係を図9のようにプロットして、この関係の近似曲線から、定常クリープ則を定式化する。
図9では、定常クリープ則として数7のNorton則を用いた。
【0033】
【数7】
【0034】
【0035】
【0036】
(iv) (iii)で算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」を算出する。
【0037】
(5)の技術:定常クリープ則の材料定数は、(4)の技術の手順(i)により決定する。
遷移クリープひずみ則は、(4)の技術で取得した「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」と、その比を取得した時点での遷移クリープひずみの関係を図11のようにプロットし、その近似曲線から数6中の定数の値を決定することで定式化する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の階段波負荷試験の概念摸式図である。
【図2】階段波負荷試験で得られる応力−ひずみ曲線の摸式図である。
【図3】繰返し応力緩和曲線の摸式図である。
【図4】応力緩和曲線の摸式図である。
【図5】階段波負荷により応力の増減を繰返す応力−ひずみ曲線の模式図である。
【図6】応力−弾・塑性ひずみ曲線の模式図である。
【図7】応力−弾・塑性ひずみ曲線の近似模式図である。
【図8】応力緩和中の応力速度の模式図である。
【図9】応力緩和曲線から取得したクリープひずみ速度と応力の関係の模式図である。
【図10】繰返し応力緩和曲線の模式図である。
【図11】遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比と遷移クリープひずみの関係の模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾・塑性・クリープ特性評価を、瞬間的負荷部とひずみ保持部から成る1種類の階段波負荷試験のみで実行可能とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計算コストの削減のために、弾・塑性有限要素解析のみに因っていた機器の設計分野においても、弾・塑性・クリープ有限要素解析が実行される機会が増えてきている。 これは、クリープ変形が生じる部位の存在が予測される機器に対して、より高い安全性が要求されるようになった為である。
また、計算技術の発展により、弾・塑性・クリープ有限要素解析が従来に比べ短時間で実行できるようになったこともその一因と考えられる。
弾・塑性・クリープ有限要素解析を実行するためには、解析対象となる材料の弾・塑性・クリープ特性を調査し、その特性を反映させた材料定数を決定しなければならない。
これらの材料定数は、数種類のひずみ速度による引張試験と数種類の保持応力によるクリープ試験から決定する必要がある。
また、変形特性の温度依存性を考慮する際には、これらの試験は複数の温度下で実行しなければならず、弾・塑性・クリープ有限要素解析の実施までには、さらに多くの試験の実施が不可欠となる。
特に、クリープ試験は長時間におよぶことが多いため、このような試験を多数実施することは、材料定数を決定し弾・塑性・クリープ有限要素解析を実施するまでに膨大な時間を要することを意味する。
すなわち、計算技術の発展により弾・塑性・クリープ解析を如何に高速で実行できるようになっても、解析を実行するまでのクリープ試験時間を短縮できなければ、弾・塑性・クリープ解析を実行するためのハードルは依然高いままである。
以上のことから、材料の弾・塑性・クリープ特性を極少数の実験から速やかに評価し、この特性を反映した材料定数を的確に導出できる弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の構築が望まれている。
【0003】
なお、公知技術として、IC(集積回路)チップをプリント基板に実装したICパッケージなどの電子機器において、寿命サイクル数を簡単で正確に求めて、信頼性をより簡単で正確に評価できる電子機器の信頼性評価方法及びその信頼性評価装置が知られている(特許文献1を参照)。
この公知技術は、特定の電子機器に対する周期的温度条件下にさらす加速試験、すなわち温度サイクル試験を行って、全ての電気機器に普遍な寿命サイクル数と歪み振幅との関係式、すなわち寿命歪み関係式を求め、任意の電子機器の解析モデルに対して熱応力シミュレーションを行い、歪みの振幅を算出し、次に寿命歪み関係式に、任意の電子機器の解析モデルに対する歪み振幅を代入して、任意の電子機器の解析モデルの寿命サイクル数を求めるものである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−46905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来は数種類のひずみ速度下での引張試験と数種類の保持応力でのクリープ試験を実施しなければならなかった弾・塑性・クリープ特性評価を、瞬間的負荷部とひずみ保持部から成る1種類の階段波負荷試験のみで実行可能とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法は、瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力‐弾塑性ひずみ曲線を取得する第一工程と、前記応力−弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出する第二工程と、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する第三工程と、繰返し応力緩和曲線から,遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する第四工程と、前記第三工程及び第四工程で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する第五工程とを含むものである。
【0007】
前記第一工程では、階段波負荷の全ての瞬間的負荷から弾塑性変形部のみを抽出し、これらをつなぎ合わせることで、弾・塑性特性の評価に必要な応力‐弾・塑性ひずみ曲線を取得するものである。
【0008】
前記第二工程では、弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力‐弾塑性ひずみ関係から取得するものである。
【0009】
前記第三工程では、応力緩和曲線から得た応力と応力速度の関係から、クリープ特性を評価するために不可欠となる応力とクリープひずみ速度の関係を取得するものである。
【0010】
前記第四工程では、応力緩和曲線を前記第三工程に適用して、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線を構成する複数の応力緩和曲線に前記第三工程を適用し、各応力緩和曲線の応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、取得した複数の応力緩和曲線でのクリープひずみ速度中の定常クリープひずみ速度を算出し、前記クリープひずみ速度と前記定常クリープひずみ速度の差から、遷移クリープひずみ速度を算出し、算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を算出するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法は、材料の弾・塑性・クリープ特性を極少数の実験から速やかに評価し、この特性を反映した材料定数を的確に導出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の一実施例を図面に基づいて、以下に説明する。
図1は、本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の階段波負荷試験の概念摸式図を示す。
図1では、階段波負荷試験のIS部が瞬間的負荷部、MS部がひずみ保持部に相当する。
IS部ではひずみ増分Δεisが瞬間的に与えられるため、そこに対応する応力−ひずみ関係ではクリープの影響が排除される。
MS部では応力緩和が生じる。
また、この階段波負荷試験では、ひずみεendに到達したらΔtendの間、ひずみεendを保持し、MS部よりも長い時間に渡る応力緩和曲線を取得する。
表1に階段波負荷試験条件の例、εend=4.4×10−2、Δtend=600sec、を示す。
【0013】
【表1】
【0014】
図2は、階段波負荷試験で得られる応力−ひずみ曲線である。
図2の丸印で示す初期部での応力の増減は、図3の繰返し応力緩和曲線のように瞬間的負荷による応力の増加とひずみ保持による応力緩和が繰返し生じることに起因する。
また、丸印で示す終端部での応力の低下は、ひずみεendでΔtend間ひずみを保持したことで生じる図4の応力緩和曲線のように応力緩和に起因する。
【0015】
本発明では、図2の応力−ひずみ曲線と図3、図4の応力緩和曲線を、以下の5つの技術に適用することで弾・塑性・クリープ特性を評価する。
(1)瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力−弾塑性ひずみ曲線を取得する技術。
(2)前記応力−弾塑性ひずみ曲線から、弾・塑性特性に関する材料定数を導出する技術。
(3)応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する技術。
(4)繰返し応力緩和曲線から、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する技術。
(5)上記(3)、(4)で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する技術。
上記5つの技術の詳細は,以下の通りである。
【0016】
図6の丸印で示す曲線は、この処理を図2の応力−ひずみ曲線に適用して取得した応力−弾塑性ひずみ曲線に相当する。
【0017】
(2)の技術:弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力−弾塑性ひずみ関係から取得する。
特に、塑性接線係数は、応力あるいはひずみの関数として取得すれば、正確な変形シミュレーションが可能となる。
本技術では、図6で得た応力−弾・塑性ひずみ曲線を、弾性ひずみと塑性ひずみの和で弾・塑性ひずみを表すRamberg-Osgood則で図7のように応力−弾・塑性ひずみ曲線を近似する。
Ramberg-Osgood則は、数1の形で与えられる。
【0018】
【数1】
【0019】
また、右辺第1、2項目は、それぞれ弾性ひずみと塑性ひずみに相当する。
したがって、応力と塑性ひずみの関係を表す塑性接線係数Hは、右辺第2項目を微分すれば、数2のように応力の関数として得られる。
【0020】
【数2】
【0021】
Ramberg-Osgood則による近似処理は以下の順で行う。
(i) 応力とひずみが線形関係にある低応力域で、応力とひずみの関係を直線近似してヤング率Eを決定する。
(ii) 基準塑性ひずみを適当に設定し(図7の近似ではε0=5.0×10-4)、対応する基準応力Dを決定する。
(iii) (i),(ii)で決定したEとDの値と、応力−弾・塑性ひずみ曲線の任意の点における応力とひずみの値を用いて硬化指数mを算出する。
以上のRamberg-Osgood則による近似処理を通じ、ヤング率や塑性接線係数が取得できる。
【0022】
(3)の技術:ひずみ保持による応力緩和では、クリープひずみの増加量と弾性ひずみの減少量が釣り合った状態にある。
本技術では、このことに着目し、応力緩和曲線から得た「応力と応力速度の関係」から、クリープ特性を評価するために不可欠となる「応力とクリープひずみ速度の関係」を取得する。
「応力と応力速度の関係」は、応力緩和曲線上の複数の点で、図8のように接線の傾きから応力速度を算出して取得する。
算出した応力速度は、数3の応力速度とクリープひずみ速度の関係に適用する。
【0023】
【数3】
【0024】
応力緩和曲線上の複数の応力点で取得した応力速度を数3に適用すれば、「応力とクリープひずみ速度の関係」が得られる。
【0025】
【0026】
【数4】
【0027】
また、遷移クリープひずみ速度は数5のように、定常クリープひずみ速度に比例する型で与える。
【0028】
【数5】
【0029】
数5の比例係数C1は、遷移クリープひずみが発達するとゼロとなる関数として、数6で表す。
【0030】
【数6】
【0031】
(4)の技術は、数5、数6を定式化するために必要となる「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」を取得するためのものである。
「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」は、以下の手順で取得する。
【0032】
(i) ひずみεendでΔtend間ひずみを保持すること(図1、2参照)で得られる応力緩和曲線では、クリープひずみが十分に発達しているため、クリープ変形は定常クリープのみで生じる。
そこで、ここで得られる応力緩和曲線を(3)の技術に適用して、「応力とクリープひずみ速度の関係」を取得する。
そして、この関係を図9のようにプロットして、この関係の近似曲線から、定常クリープ則を定式化する。
図9では、定常クリープ則として数7のNorton則を用いた。
【0033】
【数7】
【0034】
【0035】
【0036】
(iv) (iii)で算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」を算出する。
【0037】
(5)の技術:定常クリープ則の材料定数は、(4)の技術の手順(i)により決定する。
遷移クリープひずみ則は、(4)の技術で取得した「遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比」と、その比を取得した時点での遷移クリープひずみの関係を図11のようにプロットし、その近似曲線から数6中の定数の値を決定することで定式化する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法の階段波負荷試験の概念摸式図である。
【図2】階段波負荷試験で得られる応力−ひずみ曲線の摸式図である。
【図3】繰返し応力緩和曲線の摸式図である。
【図4】応力緩和曲線の摸式図である。
【図5】階段波負荷により応力の増減を繰返す応力−ひずみ曲線の模式図である。
【図6】応力−弾・塑性ひずみ曲線の模式図である。
【図7】応力−弾・塑性ひずみ曲線の近似模式図である。
【図8】応力緩和中の応力速度の模式図である。
【図9】応力緩和曲線から取得したクリープひずみ速度と応力の関係の模式図である。
【図10】繰返し応力緩和曲線の模式図である。
【図11】遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比と遷移クリープひずみの関係の模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力−弾塑性ひずみ曲線を取得する第一工程と、前記応力‐弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出する第二工程と、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する第三工程と、繰返し応力緩和曲線から,遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する第四工程と、前記第三工程及び第四工程で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する第五工程とを含むことを特徴とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項2】
前記第一工程では、階段波負荷の全ての瞬間的負荷から弾塑性変形部のみを抽出し、これらをつなぎ合わせることで、弾・塑性特性の評価に必要な応力‐弾・塑性ひずみ曲線を取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項3】
前記第二工程では、弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力‐弾塑性ひずみ関係から取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項4】
前記第三工程では、応力緩和曲線から得た応力と応力速度の関係から、クリープ特性を評価するために不可欠となる応力とクリープひずみ速度の関係を取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項5】
前記第四工程では、応力緩和曲線を前記第三工程に適用して、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線を構成する複数の応力緩和曲線に前記第三工程を適用し、各応力緩和曲線の応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、取得した複数の応力緩和曲線でのクリープひずみ速度中の定常クリープひずみ速度を算出し、前記クリープひずみ速度と前記定常クリープひずみ速度の差から、遷移クリープひずみ速度を算出し、算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を算出することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項1】
瞬間的負荷とひずみ保持を繰返す階段波負荷試験を実施し、瞬間的負荷部に対応する応力−ひずみ曲線から応力−弾塑性ひずみ曲線を取得する第一工程と、前記応力‐弾塑性ひずみ曲線から弾・塑性特性に関する材料定数を導出する第二工程と、応力緩和曲線から、応力とクリープひずみ速度の関係を取得する第三工程と、繰返し応力緩和曲線から,遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を取得する第四工程と、前記第三工程及び第四工程で得た情報から、定常クリープ則と遷移クリープ則の材料定数を導出する第五工程とを含むことを特徴とする弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項2】
前記第一工程では、階段波負荷の全ての瞬間的負荷から弾塑性変形部のみを抽出し、これらをつなぎ合わせることで、弾・塑性特性の評価に必要な応力‐弾・塑性ひずみ曲線を取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項3】
前記第二工程では、弾・塑性特性を表す材料定数のヤング率と塑性接線係数は応力‐弾塑性ひずみ関係から取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項4】
前記第三工程では、応力緩和曲線から得た応力と応力速度の関係から、クリープ特性を評価するために不可欠となる応力とクリープひずみ速度の関係を取得することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【請求項5】
前記第四工程では、応力緩和曲線を前記第三工程に適用して、応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、繰返し応力緩和曲線を構成する複数の応力緩和曲線に前記第三工程を適用し、各応力緩和曲線の応力とクリープひずみ速度の関係を取得し、取得した複数の応力緩和曲線でのクリープひずみ速度中の定常クリープひずみ速度を算出し、前記クリープひずみ速度と前記定常クリープひずみ速度の差から、遷移クリープひずみ速度を算出し、算出した定常クリープひずみ速度と遷移クリープひずみ速度を用いて、遷移クリープひずみ速度と定常クリープひずみ速度の比を算出することを特徴とする請求項1記載の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−209262(P2008−209262A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46689(P2007−46689)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
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