説明

弾性収縮体を備えたアクチュエータ、そのアクチュエータを備えた把持機構、および、その把持機構を備えたロボットハンド。

【課題】弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化を図る。
【解決手段】アクチュエータ50は、内部に流体が封入される筒状のチューブ11と、チューブ11の上端側を閉塞する閉塞部材30と、チューブ11の下端側を閉塞する閉塞部材40と、複数の糸状体を格子状に編み込むことにより形成され、チューブ11の外周を覆い、チューブ11の幅方向に伸張すると軸方向に収縮する編組部材12とを有する弾性収縮体4と、チューブ11内部の流体の圧力を調整する圧力調整装置20と、を備えている。編組部材12は、チューブ11の外径をD、編組部材12の打ち数を8n、編組部材12の重ね数をN、糸状体13のデシテックス数をT、糸状体13の引張強度をσ、糸状体13の直径をdとしたときに、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/πを満たす様に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性収縮体を備えたアクチュエータ、そのアクチュエータを備えた把持機構、および、その把持機構を備えたロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気や水等の流体の圧力を利用したアクチュエータが知られている。これらのアクチュエータの多くは、大きな流体圧に耐え得る様に、金属製の堅固なシリンダおよびピストンや、ハウジングおよびロータによって形成されていた。しかしながら、これらの金属製の堅固な部材を用いた場合、装置全体の重量が嵩み、また、大型化するという問題があった。
【0003】
そこで、以前より、小型で軽量なアクチュエータとして、弾性収縮体を備えたアクチュエータが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記アクチュエータに用いられる弾性収縮体は、筒状の弾性体と、弾性体を覆う網目状の編組部材とを有している。弾性体内部に加圧流体が注入されて弾性体が膨張すると、編組部材は弾性体の幅方向に伸張すると共に軸方向に収縮する。これにより、弾性収縮体全体が軸方向に収縮することとなる。
【特許文献1】特公平3−199701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような弾性収縮体を備えたアクチュエータでは、低出力であるため、大型のマニピュレータ等に用いることができなかった。そこで、高出力の弾性収縮体を備えたアクチュエータが望まれていた。
【0006】
しかしながら、本願発明者らは、鋭意研究の結果、高出力化するために弾性体内部の加圧流体の圧力を上げると、編組部材の糸状体が破断してしまうという問題が生じることを見出した。そこで、本願発明者らは、編組部材の糸状体の強度を上げることに思い至った。しかしながら、本願発明者らは、単に編組部材の糸状体の強度を上げるだけでは、編組部材の編み目から弾性体が膨隆してしまうという新たな問題が生じることを見出した。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、内部に流体が封入される筒状の弾性体と、前記弾性体の一端側を閉塞する第1閉塞部材と、前記弾性体の他端側を閉塞する第2閉塞部材と、複数の糸状体を格子状に編み込むことにより形成され、前記弾性体の外周を覆い、前記弾性体の幅方向に伸張すると軸方向に収縮する編組部材とを有する弾性収縮体と、前記弾性体内部の流体の圧力を調整する圧力調整装置と、を備え、前記編組部材は、前記弾性体の外径をD、前記編組部材の打ち数を8n、前記編組部材の重ね数をN、前記糸状体のデシテックス数をT、前記糸状体の引張強度をσ、前記糸状体の直径をdとしたときに、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/πを満たす様に形成されているものである。
【0009】
ここで、「打ち数8n」とは、編組時(複数の糸状体を編み込んだ状態のとき)に弾性体一周に配される編組部材の糸状体の本数を言う。また、「重ね数N」とは、弾性体に巻き付けられた編組部材の枚数を言う。さらに、「デシテックス」とは、1g分の原料を10000mに伸ばしたときの糸状体の太さを表す単位であり、デシテックス数とは、10000m当たりの糸状体の重さ(g)を示す。つまり、「1T」は、糸状体10000m当たりの重さが1gであることを示し、デシテックス数が大きくなる程、糸状体は太くなる。
【0010】
なお、「糸状体」には、単繊維(モノフィラメント)も複数の繊維からなる繊維束(マルチフィラメント)も含まれる。
【0011】
上記アクチュエータによれば、内部圧力を1MPaとしても、編組部材の糸状体が破断せず、また、弾性体が編組部材の網目から膨隆しない。そのため、上記アクチュエータによれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化を図ることができる。
【0012】
前記編組部材は、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.8×10/πを満たす様に形成されていることが好ましい。
【0013】
このことにより、上記アクチュエータによれば、内部圧力を2MPaとしても、編組部材の糸状体が破断せず、また、弾性体が編組部材の網目から膨隆しない。そのため、上記アクチュエータによれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化をより一層図ることができる。
【0014】
前記編組部材は、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧3.7×10/π
を満たす様に形成されていることが好ましい。
【0015】
このことにより、上記アクチュエータによれば、内部圧力を5MPaとしても、編組部材の糸状体が破断せず、また、弾性体が編組部材の網目から膨隆しない。そのため、上記アクチュエータによれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化をより一層図ることができる。
【0016】
前記糸状体は、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維によって形成されていることが好ましい。
【0017】
前記糸状体は、超高強力ポリエチレン繊維によって形成されていることが好ましい。
【0018】
前記糸状体は、パラ系アラミド繊維によって形成されていることが好ましい。
【0019】
前記糸状体は、ポリアリレート繊維によって形成されていることが好ましい。
【0020】
前記糸状体は、炭素繊維によって形成されていることが好ましい。
【0021】
このことにより、上記アクチュエータによれば、編組部材の耐久性の向上を図ることができる。したがって、上記アクチュエータによれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化をより一層図ることができる。
【0022】
前記糸状体は、樹脂含浸処理がなされていることが好ましい。
【0023】
このことにより、例えば、紫外線等に弱い繊維であっても、樹脂含浸処理することにより紫外線による劣化を抑制することができる。また、例えば、加水分解性の高い繊維であっても、樹脂含浸処理することにより水分によって分解されることを抑制することができる。さらに、樹脂含浸処理により糸状体同士の摩擦による糸状体の摩滅を抑制することができる。そのため、上記アクチュエータによれば、編組部材の糸状体の耐候性、耐光性、耐水性、耐久性を向上させると共に、編組部材の耐久性をより一層向上させることができる。したがって、上記アクチュエータによれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化をより一層図ることができる。
【0024】
前記第1閉塞部材は、少なくとも一端部が前記弾性体の一端側の内部に挿入された第1端末金具を有し、前記第2閉塞部材は、少なくとも一端部が前記弾性体の他端側の内部に挿入された第2端末金具を有し、前記編組部材の外周側かつ前記各端末金具の前記一端部付近に設けられ、前記弾性体の内周面と前記各端末金具の前記一端部の外周面とを密着させるためのリング形状の止め金具と、前記編組部材と前記止め金具との間に設けられた略筒形状の保護部材と、をさらに備え、前記保護部材は、前記弾性体の長手方向に関し、前記止め金具の前記弾性体の長手方向中央側に位置する端部を跨いで延びており、前記保護部材の少なくとも前記弾性体の長手方向中央側の端部は、前記弾性体の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程拡径したテーパ形状に形成されていることが好ましい。
【0025】
ところで、上記アクチュエータの高出力化を図るためには、弾性体内部に封入された流体の圧力を上げることが必要となる。ところが、弾性体内部の流体の圧力を上げると、弾性体が径方向に膨張する。そのため、止め金具で編組部材を直接外側から締め付けると、止め金具と、弾性体と止め金具との間に設けられた編組部材との接触圧力も高まることとなる。このことにより、編組部材が止め金具の中央側端部のエッジ等に強く押し付けられ、破断されてしまうおそれがある。
【0026】
しかしながら、上記アクチュエータは、編組部材と止め金具との間に、弾性体の長手方向に関し、止め金具の中央側端部を跨いで延びる保護部材を備えている。また、保護部材は、少なくとも中央側端部が、弾性体の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程拡径したテーパ形状に形成されている。そのため、止め金具の中央側端部と編組部材とは直接接触しない。また、保護部材の中央側端部はテーパ形状に形成されているため、保護部材の中央側端部のエッジは編組部材に当接しておらず離れている。
【0027】
このことにより、上記アクチュエータによれば、弾性体内部の流体圧力を上げて弾性体が径方向に膨張した場合であっても、編組部材が止め金具の中央側端部のエッジ等に強く押し付けられることを避けることができる。そのため、止め金具によって編組部材が破断されることを防止することができる。また、上記アクチュエータによれば、弾性体内部の流体圧力を上げて弾性体が径方向に膨張した場合であっても、編組部材が保護部材の中央側端部のエッジ等に強く押し付けられることを避けることができる。そのため、保護部材によって編組部材が破断されることも防止することができる。したがって、上記アクチュエータによれば、アクチュエータの高出力化を図ると共に、アクチュエータの耐久性の向上をも図ることができる。
【0028】
本発明に係る把持機構は、前記アクチュエータと、前記弾性収縮体の軸方向に倣う様に設けられ、前記弾性収縮体の軸方向の一端側および他端側に連結されており、伸縮不能かつ前記弾性収縮体の側が凹む様に屈曲可能または湾曲可能に構成された規制部材と、を備えたものである。
【0029】
ここで、倣うとは、規制部材と弾性収縮体との幅方向における距離が所定の範囲内にあることを指す。また、「軸方向の一端側および他端側に連結され」は、それぞれの端部から中央部に向かってずれた位置に連結される場合を含む。
【0030】
上記アクチュエータを備えた把持機構によれば、把持機構の把持力の向上を図ることができる。また、上記把持機構の把持力を向上させるにあたって、例えば、弾性体内部の流体の圧力を上げることに伴い、弾性収縮体の編組部材の編み目から弾性体が膨隆するために、把持機構によって把持対象物を上手く把持させることができない等の弊害が生じることも考えられる。しかしながら、上記アクチュエータを備えた把持機構によれば、アクチュエータの出力を上げた場合であっても、弾性体の膨隆を抑制可能である。したがって、上記把持機構によれば、機能の低下を抑制しつつ、把持力の向上を好適に図ることができる。また、上記把持機構によれば、耐久性の向上を図ることも可能である。
【0031】
本発明に係るロボットハンドは、前記把持機構を複数備えたものである。
【0032】
上記把持機構を複数備えたロボットハンドによれば、さらなる把持力の向上を図ることができる。また、上記ロボットハンドによれば、把持力の優れた複数の把持機構によって把持対象物を把持することができるため、より安定的に把持対象物を把持することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、弾性収縮体を備えたアクチュエータの高出力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態に係るロボットハンド1は、把持機構2および把持機構3を備えている。把持機構2および把持機構3は板状のベース10に固定されている。
【0036】
把持機構2および把持機構3はそれぞれ、弾性収縮体4と圧力調整装置20とを備えるアクチュエータ50と、弾性収縮体4の軸方向に倣う様に設けられた伸縮不能な規制部材5とを備えている。把持機構2は弾性収縮体4を3本備えており、一方、把持機構3は弾性収縮体4を2本備えている。なお、把持機構2と把持機構3とは、弾性収縮体4の本数以外の構成については同様であるため、以下、把持機構2の構成についてのみ説明し、把持機構3については省略する。
【0037】
図2は把持機構2の正面図、図3は把持機構2の背面図、図4は把持機構2の側面図である。図2および図3に示すように、把持機構2は弾性収縮体4を3本備えている。3本の弾性収縮体4は、鉛直方向に線状に延びている。なお、弾性収縮体4が延びる方向は鉛直方向に限られず、いかなる方向に延びていてもよい。ただし、以下の説明では、説明の便宜上、弾性収縮体4が鉛直方向に延びているものとして説明する。また、図1〜図6の上方を上側、下方を下側として説明するが、ここで言う上側と下側との関係は、一方側と他方側との関係の一例であって、弾性収縮体4の延びている方向が鉛直方向に限定される訳ではない。
【0038】
図5は弾性収縮体4を軸方向に切断した断面図である。図5に示すように、弾性収縮体4は、チューブ11と、チューブ11の外周を覆う編組部材12(図2〜図4参照)と、チューブ11の上端側および下端側を閉塞する閉塞部材30,40(図2、3参照)とを備えている。
【0039】
チューブ11は、ゴム等の弾性体によって筒状に形成されている。なお、本実施形態では、筒状のチューブ11は円筒状に形成されているが、当該形状に限定されない。筒状のチューブは、外周面が角形状に形成されていてもよく、例えば、断面が五角形や六角形等であってもよい。
【0040】
編組部材12は、ポリエステル繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維または炭素繊維等の糸状体13を格子状に編み込むことにより形成されている。編組部材12は、筒状に形成されており、チューブ11の外周を覆っている。
【0041】
チューブ11の上端側の内部には、閉塞部材30の一部である第1端末金具31の一部が挿入されている。一方、チューブ11の下端側の内部には、閉塞部材40の一部である第2端末金具41の一部が挿入されている。これにより、チューブ11の上端側および下端側は、第1端末金具31および第2端末金具41によって閉塞されている。
【0042】
第1端末金具31および第2端末金具41には、それぞれ貫通孔32,42が形成されている。そして、第1端末金具31および第2端末金具41のチューブ11内に挿入される挿入部31a,41aの外周面には、溝部31b,41bが形成されている。
【0043】
また、チューブ11および編組部材12の上端部には、第1端末金具31を弾性収縮体4に固定するための固定用金具33が取り付けられている。一方、チューブ11および編組部材12の下端部には、第2端末金具41を弾性収縮体4に固定するための固定用金具43が取り付けられている。固定用金具33,43はそれぞれリング形状に形成されている。
【0044】
なお、図5では、固定用金具33,43の内径が第1,第2端末金具31,41の最大外径よりも大きく描かれているが、固定用金具33,43は、その内径が第1,第2端末金具31,41の最大外径よりも小さく、第1,第2端末金具31,41の溝部31b,41b部分の外径よりも大きくなる様に形成されていてもよい。
【0045】
そして、固定用金具33,43は、弾性収縮体4の編組部材12のさらに外周側において、第1,第2端末金具31,41の溝部31b,41b部分にチューブ11および編組部材12を押し付ける様にして、編組部材12のさらに外周側に取り付けられている。このように、固定用金具33,43を、第1,第2端末金具31,41の溝部31b,41b付近において締め付けることにより、第1,第2端末金具31,41とチューブ11および編組部材12との軸方向への位置ずれを抑制することができる。これにより、チューブ11内部の加圧流体の圧力を高圧にした場合であっても、チューブ11および編組部材12と第1端末金具31とが外れない様に両者の位置を固定することができ、また、チューブ11および編組部材12と第2端末金具41とが外れない様に両者の位置を固定することができる。
【0046】
また、編組部材12の外周側かつ第1端末金具31の下端部付近には、止め金具34が取り付けられている。一方、編組部材12の外周側かつ第2端末金具41の上端部付近には、止め金具44が設けられている。止め金具34,44は、いずれもリング形状に形成されている。また、止め金具34,44は、チューブ11の内周面と第1端末金具31の下端部の外周面および第2端末金具41の上端部の外周面とを密着させて内部の流体の漏れを防止するためのものである。
【0047】
編組部材12と止め金具34との間には、保護部材35が設けられている。保護部材35は略筒形状に形成されている。保護部材35は、チューブ11の長手方向に関し、止め金具34のチューブ11の長手方向中央側に位置する端部(下端部)34aを跨いで延びている。また、保護部材35の少なくともチューブ11の長手方向中央側の端部(下端部)35aは、チューブ11の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程(上方から下方に向かう程)拡径したテーパ形状に形成されている。
【0048】
一方、編組部材12と止め金具44との間には、保護部材45が設けられている。保護部材45は略筒形状に形成されている。保護部材45は、チューブ11の長手方向に関し、止め金具44のチューブ11の長手方向中央側に位置する端部(上端部)44aを跨いで延びている。また、保護部材45の少なくともチューブ11の長手方向中央側の端部(上端部)45aは、チューブ11の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程(下方から上方に向かう程)拡径したテーパ形状に形成されている。
【0049】
図6は、弾性収縮体4の側面図であり、図7(a),(b)は編組部材12の変化の様子を示す図である。図6および図7(a),(b)に示すように、編組部材12は糸状体13を格子状に編み込むことにより形成されている。また、編組部材12の各格子部では、4つの格子点12aにより菱形の隙間12bが形成されている。そして、編組部材12は、隙間12bを形成する4つの格子点12aのうち、向かい合う2点がそれぞれチューブ11の幅方向または軸方向に配列される様に、チューブ11に巻き付けられている。
【0050】
このような構成により、編組部材12は、チューブ11が径方向に膨張すると、チューブ11から径方向外側向きの力を受けて、チューブ11の幅方向に伸張する。編組部材12は格子状に編み込まれているため、幅方向への伸張に伴い、軸方向に関して収縮する。このとき、隙間12bの菱形(図7(a)参照)は、鉛直方向に押しつぶされた形状となる(図7(b)参照)。このような編組部材12の変形により、編組部材12に覆われたチューブ11は、編組部材12から軸方向において収縮する向きの力を受けることとなる。
【0051】
図3および図4に示すように、規制部材5は、複数の伸縮不能なリンク部材6を備えている。複数のリンク部材6は鉛直方向に配置され、上下に隣り合うリンク部材6どうしが互いに回動自在に鎖状に連結されている。鎖状に連結されたリンク部材6は規制部材5の左右側面を形成しており、弾性収縮体4の後方かつ左右側方に配置されている。また、規制部材5は、左側方に配置された鎖状の各リンク部材6と右側方に配置された鎖状の各リンク部材6とを連結する複数のピン7を備えている。このように、規制部材5は、複数のリンク部材6と複数のピン7とによりリンク機構を形成している。なお、本実施形態では、リンク部材6は、板状体によって形成されているが、リンク部材6の形状および数は何ら限定されない。例えば、棒状体や筺状体であってもよい。また、リンク部材6の数は本実施形態のものに限定されず、2以上であればいくつ用いてもよい。
【0052】
また、図4に示すように、各リンク部材6の連結部には、リンク部材6の回転を所定の角度範囲に規制するストッパ6aが設けられている。ストッパ6aは、矩形の板状体からなり、各リンク部材6の連結部であって背面側(弾性収縮体4と反対側)に取り付けられている。これにより、ストッパ6aは、鎖状のリンク部材6が、正面側(弾性収縮体4側)が凹形状となる様に、各々のリンク部材6の回転角度範囲を規制する。これにより、規制部材5は、弾性収縮体4側が凹む様にのみ屈曲可能または湾曲可能に構成される。なお、ストッパ6aは、回転方向を規制するものであれば別部材ではなく、規制部材5やリンク部材6と一体化したものであってもよい。
【0053】
また、規制部材5には、カバー26が取り付けられている。カバー26は、複数の平面視コの字状のカバー部材16により形成されている。図2に示すように、カバー部材16の一端側は弾性収縮体4の左側方に配置されたリンク部材6に固定され、カバー部材16の他端側は弾性収縮体4の右側方に配置されたリンク部材6に固定されている。また、カバー部材16は伸縮不能な部材により形成されており、規制部材5とカバー部材16とは、弾性収縮体4の軸方向における少なくとも一部分を包囲している(図1参照)。そのため、弾性収縮体4は所定の距離以上規制部材5から離れることができない。つまり、規制部材5と弾性収縮体4との距離は、カバー部材16により所定の範囲内に規制される。これにより、規制部材5が湾曲または屈曲すると、弾性収縮体4も共に湾曲することとなる。
【0054】
図4に示すように、規制部材5は、連結部材8および土台9を介して弾性収縮体4の両端部(上端および下端)に連結されている。具体的には、規制部材5の上端部と弾性収縮体4の上端部とは、規制部材5の上端部とチューブ11の上端部に設けられた第1端末金具31(図5参照)とがそれぞれ連結部材8に固定されることにより連結されている。また、規制部材5の下端部と弾性収縮体4の下端部とは、規制部材5の下端部とチューブ11の下端部に設けられた第2端末金具41(図5参照)とがそれぞれ土台9に固定されることにより連結されている。
【0055】
上記構成により、規制部材5は、連結部材8および土台9を介して弾性収縮体4の両端部に連結されている。これにより、規制部材5は、弾性収縮体4の収縮動に連動して屈曲または湾曲することとなる。なお、規制部材5は連結部材8および土台9を介さずに直接弾性収縮体4と連結してもよく、また、他の部材を用いて連結することとしてもよい。さらに、規制部材5と弾性収縮体4とは両端部からそれぞれ中央側にずれた位置において連結されていてもよい。
【0056】
なお、図3に示すように、第1端末金具31の貫通孔32(図5参照)は、端末具14によって閉塞されている。本実施形態では、第1端末金具31と端末具14とによりチューブ11の上端部を閉塞する閉塞部材30が構成されている。一方、土台9内部において、第2端末金具41には、チューブ11(図5参照)の内部に流体(例えば、水、空気、油等)を供給するための供給チューブ15が接続されている。供給チューブ15の他端部には、チューブ11内部の流体の圧力を調整する圧力調整装置20が接続されている。本実施形態では、第2端末金具41と供給チューブ15と圧力調整装置20とにより、チューブ11の下端部を閉塞する閉塞部材40が構成されている。閉塞部材30と閉塞部材40とにより、弾性収縮体4内部には、流体を封入するための内部空間が形成される。
【0057】
圧力調整装置20は、加圧した流体をチューブ11内部に供給することにより、チューブ11内部の流体の圧力を上昇させる。逆に、圧力調整装置20は、チューブ11内部の流体を、供給チューブ15を介して圧力調整装置20側に排出させることにより、チューブ11内部の流体の圧力を降下させる。
【0058】
以上がロボットハンド1の構成である。次に、ロボットハンド1および各部の動作について説明する。
【0059】
−弾性収縮体の動作−
まず、弾性収縮体4の動作について説明する。前述したように、圧力調整装置20からチューブ11内部に加圧された流体が供給されると、弾性体等により形成されたチューブ11は径方向に膨張する。これにより、チューブ11を覆う編組部材12がチューブ11の幅方向に引っ張られて伸張すると共に、軸方向に収縮する。このとき、編組部材12はチューブ11に対して軸方向に関して収縮する向きに力を加える。そのため、チューブ11も軸方向に収縮し、弾性収縮体4全体が軸方向に収縮することとなる。
【0060】
一方、圧力調整装置20により、チューブ11内部の流体が排出されると、チューブ11内部の圧力が低下し、編組部材12から縮径する方向に力を受けてチューブ11は径方向に膨張した状態からもとの形状に復元される。このとき、編組部材12の幅方向における長さも元の長さに戻り、それと共に、編組部材12の軸方向における長さも元の長さに戻る。これにより、編組部材12がチューブ11に対して付勢していた軸方向に収縮する向きの力が消滅し、弾性収縮体4全体の軸方向長さも元の長さに戻ることとなる。
【0061】
−把持機構の動作−
次に把持機構2の動作について図8を参照しつつ説明する。なお、把持機構3の動作は把持機構2の動作と同様であるため、説明を省略する。また、図8(a),(b),(c)は、把持機構2の動作を模式的に示した図である。
【0062】
前述のように、圧力調整装置20からチューブ11内部に加圧された流体が供給されることにより弾性収縮体4が収縮すると、連結部材8は弾性収縮体4に引っ張られる。これにより、連結部材8と土台9との距離が縮まる。このとき、規制部材5は伸縮不能であるため、複数のリンク部材6をそれぞれ回動させて屈曲する。また、このとき、規制部材5の各リンク部材の連結部にはストッパ6aが設けられているため、規制部材5は、弾性収縮体4側が凹む様に屈曲する。
【0063】
規制部材5が屈曲すると、弾性収縮体4も規制部材5に押されて湾曲する(図8(b)参照)。なお、規制部材5と弾性収縮体4とは別素材によって形成されている。そのため、必ずしも同様に屈曲または湾曲する訳ではなく、例えば、弾性収縮体4が規制部材5から離れてしまうこと考えられる。しかし、把持機構2の規制部材5には、カバー部材16が取り付けられている。そのため、弾性収縮体4が規制部材5から所定距離だけ離れると、弾性収縮体4はカバー部材16に当接してそれ以上規制部材5から離れない様に規制される。したがって、規制部材5は弾性収縮体4に沿いつつ屈曲または湾曲することとなる。
【0064】
このようにして、圧力調整装置20により、弾性収縮体4のチューブ11内部に加圧流体が供給されると、弾性収縮体4と規制部材5とを備えた把持機構2は、所定の方向に湾曲する(図8(b)参照)。また、圧力調整装置20により、さらに、チューブ11内部に加圧流体を供給すると、弾性収縮体4はさらに収縮し、把持機構2はさらに湾曲することとなる(図8(c)参照)。
【0065】
なお、カバー部材16は、弾性収縮体4が収縮していない状態において、軸方向に間隔を空けて配置されている(図8(a)参照)。しかし、弾性収縮体4が収縮すると、規制部材5は弾性収縮体4の側が凹む様に屈曲または湾曲し、これにより、弾性収縮体4も規制部材5と反対側が凹む様に湾曲する。このように湾曲することにより、弾性収縮体4の規制部材5と反対側の部分は、規制部材5側よりも軸方向長さが短くなる。そのため、弾性収縮体4が収縮するにつれて、カバー部材16どうしの間隔は狭くなる。つまり、カバー部材16は、弾性収縮体4が湾曲するにつれて、弾性収縮体4の軸方向に密に配置されることとなる(図8(c)参照)。
【0066】
一方、圧力調整装置20により、チューブ11内部の加圧流体を排出させると、弾性収縮体4の形状が復元する。これに伴い、連結部材8と土台9との距離は元の長さに戻る。これにより、屈曲していた規制部材5も元の直線形状に戻ることとなる(図8(a)参照)。
【0067】
−ロボットハンドの動作−
次に、ロボットハンド1の動作について説明する。図9(a),(b)は、ロボットハンド1が把持対象物100を把持する際の動作の状態を模式的に示した図である。なお、図9では、ベース10には把持対象物100の形状にあわせて半円柱形状の溝10aが加工されているが、ベース10の形状はいかなるものであってもよい。また、把持機構2,3は、それぞれの弾性収縮体4が規制部材5よりもベース10の中央側に位置するように配置されていることとする。
【0068】
図9(a)に示すように、圧力調整装置20から把持機構2,3の各チューブ11内部に流体が供給されていない場合、把持機構2,3は湾曲せず、直線形状に保たれる。
【0069】
そして、例えば、上記の溝10aに把持対象物100が挿入された後、圧力調整装置20によって把持機構2,3の各チューブ11内部に加圧流体を供給する。すると、把持機構2,3のそれぞれの弾性収縮体4が軸方向に収縮し、図9(b)に示すように、把持機構2,3はそれぞれベース10の中央側に向かって傾斜しつつ、把持対象物100に倣うように湾曲する。これにより、把持対象物100は、ベース10および把持機構2,3によって安定的に把持される。
【0070】
そして、例えば、ロボットハンド1全体を別の場所に移動させた後、圧力調整装置20によって把持機構2,3の各チューブ11内部に供給された加圧流体を外部へ排出する。これにより、各弾性収縮体4の軸方向長さは元の長さに戻り、把持機構2,3は直線形状に戻る。これにより、把持対象物100は、ロボットハンド1から解放される。そのため、例えば、ベース10を上下反転させる等の動作により、把持対象物100をロボットハンド1から離脱させることができる。
【0071】
ところで、本願発明者らは、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化を図るため鋭意研究した。そして、高出力化するためにチューブ11内部の加圧流体の圧力を上げると、編組部材12の糸状体13が破断してしまうという問題が生じることを見出した。そこで、本願発明者らは、編組部材12の糸状体13の強度を上げることに思い至った。しかしながら、本願発明者らは、単に編組部材12の糸状体13の強度を上げるだけでは、編組部材12の編み目からチューブ11が膨隆してしまうという新たな問題が生じることを見出した。そして、以下に示す実験から、編組部材12を所定の条件を満たす様に形成することにより、チューブ11内部の圧力を所定の圧力まで上げても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。以下、実験の態様および結果について詳述する。
【0072】
−実験の態様−
本願発明者らは、図10の表に示すように、条件の異なる4パターンの編組部材12(図10の表では、A0〜A3)を用いて、チューブ11内部の流体圧力を1〜5MPaと変化させ、弾性収縮体4を1本のみ有する把持機構の耐久性実験を行った。実験時の外圧は大気圧近傍、外気温は10〜40度、チューブ11内部の流体温度は10〜40度である。
【0073】
なお、編組部材12の編組角度θ(編組部材12の長手方向に対する糸状体13の角度、図7(a)参照)は、理論上0〜55度の範囲で成立する。しかしながら、編組部材12の編組角度θを小さくすると、菱形の隙間12bは軸方向に長くなる(軸方向に隣り合う格子点12aの間隔が広くなる)。また、編組角度θを変更しても糸状体13の周方向の間隔は変わらない(幅方向に隣り合う格子点12aの間隔は変わらない)。そのため、編組角度θの小さい編組部材12では、編組角度θの大きい編組部材12よりも菱形の隙間12bの面積が大きくなる。したがって、編組部材12の編組角度θを小さくしすぎると、チューブ11の膨隆が起こりやすくなると考えられる。よって、編組部材12の編組角度θは、10〜40度が好ましい。
【0074】
−実験の結果−
以上の実験より、図10の表に示す結果が得られた。なお、図10の表の「D」はチューブ11の外径(mm)、「8n」は編組部材12の打ち数(本)、「N」は編組部材12の重ね数(枚)、「T」は糸状体13のデシテックス数(T)、「σ」は糸状体13の引張強度(MPa)、「d」は糸状体13の直径(mm)を示す。
【0075】
図10の表の結果について詳述すると、A0の編組部材12は、チューブ11内部の圧力1MPaとした場合に糸状体13が破断、またはチューブ11が編組部材12の網目から膨隆し、1MPaの高圧力に耐えることができなかった。これに対し、A1〜A3の編組部材12は、チューブ11内部の圧力1MPaとした場合に糸状体13が破断することなく、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆することもなかった。また、A2、A3の編組部材12は、チューブ11内部の圧力2MPaとした場合にも糸状体13が破断することなく、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆することもなかった。さらに、A3の編組部材12は、チューブ11内部の圧力5MPaとした場合にも糸状体13が破断することなく、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆することもなかった。
【0076】
以上の実験結果より、本願発明者らは、少なくとも以下の数式(1)を満たす様に編組部材12を形成すると、チューブ11内部の圧力を1MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/π … (1)
【0077】
ここで、「打ち数8n」は、編組時(複数の糸状体13を編み込んだ状態のとき)にチューブ11一周に配される編組部材12の糸状体13の本数を指す。上記式(1)において、「うち数8n」は、編組部材12の網目からのチューブ11の膨隆の有無に影響を与えると考えられる。
【0078】
また、「重ね数N」は、チューブ11に巻き付けられた編組部材12の枚数を指す。上記式(1)において、「重ね数N」は、糸状体13の破断の有無に影響を与えると考えられる。なお、複数の層をなす編組部材12は、チューブ11の外周面において、各層ごとの糸状体13の位置が略同じ位置に配される様に重ねられる。そのため、「重ね数N」を増やすと、チューブ11の径方向への膨張によって各層の糸状体13にかかる力が分散されて小さくなる。したがって、「重ね数N」は、糸状体13の破断の有無に影響を与えると考えられる。
【0079】
さらに、「デシテックス」は、1g分の原料を10000mに伸ばしたときの糸状体13の太さ表す単位であり、デシテックス数とは、10000m当たりの糸状体13の重さ(g)を示す。つまり、「1T」は、糸状体13の10000m当たりの重さが1gであることを示し、デシテックス数Tが大きくなる程、糸状体13は太くなる。上記式(1)において、「デシテックス数T」は、糸状体13の破断の有無に影響を与えると考えられる。
【0080】
上記式(1)において、「糸状体13の引張強度σ」および「糸状体13の直径d」は、共に糸状体13の強度に係わり、糸状体13の破断の有無に影響を与えると考えられる。なお、ここで、「糸状体13の直径d」は、糸状体13が単繊維(モノフィラメント)の場合、繊維の直径を指し、糸状体13が複数の繊維からなる繊維束(マルチフィラメント)の場合、複数の繊維の束を1本の糸状体とみなしたときの繊維束の直径を指す。
【0081】
また、本願発明者らは、上記実験により、以下の数式(2)を満たす様に編組部材12を形成すると、チューブ11内部の圧力を2MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことも見出した。
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.8×10/π … (2)
【0082】
さらに、本願発明者らは、上記実験により、以下の数式(3)を満たす様に編組部材12を形成すると、チューブ11内部の圧力を5MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧3.7×10/π … (3)
【0083】
以上のように、本願発明者らは、アクチュエータ50の編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/πを満たす様に形成することで、チューブ11内部の圧力を1MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。したがって、本アクチュエータ50によれば、編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/πを満たす様に形成することで、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化を図ることができる。
【0084】
また、本願発明者らは、アクチュエータ50の編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.8×10/πを満たす様に形成することで、チューブ11内部の圧力を2MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。したがって、本アクチュエータ50によれば、編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.8×10/πを満たす様に形成することで、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化をより一層図ることができる。
【0085】
さらに、本願発明者らは、アクチュエータ50の編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧3.7×10/πを満たす様に形成することで、チューブ11内部の圧力を5MPaとしても、編組部材12の糸状体13が破断せず、また、チューブ11が編組部材12の網目から膨隆しないことを見出した。したがって、本アクチュエータ50によれば、編組部材12を、(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧3.7×10/πを満たす様に形成することで、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化をより一層図ることができる。
【0086】
また、編組部材12を構成する糸状体13は、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績株式会社の商品名「ザイロン」)、超高強力ポリエチレン繊維(東洋紡績株式会社の商品名「ダイニーマ」)、パラ系アラミド繊維(デュポン株式会社の商品名「ケブラー」)、ポリアリレート繊維(株式会社クラレの商品名「ベクトラン」)または炭素繊維(東レ株式会社の商品名「トレカ」)によって形成されていることが好ましい。
【0087】
上記の繊維は、いずれも引張強度が非常に高い。そのため、上記糸状体13によれば、編組部材12の耐久性の向上を図ることができる。したがって、上記編組部材12を備えたアクチュエータ50によれば、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化をより一層図ることができる。
【0088】
さらに、編組部材12を構成する糸状体13のうち、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績株式会社の商品名「ザイロン」)と、パラ系アラミド繊維(デュポン株式会社の商品名「ケブラー」)とに関しては、樹脂含浸処理がなされていることが好ましい。
【0089】
編組部材12を構成する糸状体13のうち、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績株式会社の商品名「ザイロン」)と、パラ系アラミド繊維(デュポン株式会社の商品名「ケブラー」)とは、紫外線に弱い性質を有している。そのため、紫外線等が照射されると、糸状体13が変色したり、劣化したりする。また、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績株式会社の商品名「ザイロン」)は、加水分解性が高いという性質を有している。しかしながら、上述のように樹脂含浸処理をすることにより、紫外線に弱い繊維であっても、紫外線による劣化を抑制することができる。また、加水分解性の高い繊維であっても、水分によって分解されることを抑制することができる。さらに、樹脂含浸処理を行うと、糸状体13同士の摩擦による糸状体13の摩滅を抑制することもできる。そのため、このような糸状体13を用いたアクチュエータ50によれば、編組部材12の糸状体13の耐候性、耐光性、耐水性、耐久性を向上させると共に、編組部材12の耐久性をより一層向上させることができる。したがって、弾性収縮体4を備えたアクチュエータ50の高出力化をより一層図ることができる。
【0090】
ところで、上記アクチュエータ50の高出力化を図るためには、チューブ11内部に封入された加圧流体の圧力を上げることが必要となる。ところが、チューブ11内部の加圧流体の圧力を上げると、チューブ11が径方向に膨張する。そのため、止め金具34,44と、チューブ11と止め金具34,44との間に設けられた編組部材12との接触圧力も高まることとなる。このことにより、編組部材12が止め金具34,44の中央側端部34a,44aのエッジ等に強く押し付けられ、破断されてしまうおそれがある。
【0091】
しかしながら、本アクチュエータ50では、編組部材12と止め金具34,44との間には、保護部材35,45が設けられている。また、保護部材35,45は、チューブ11の長手方向に関し、止め金具34,44のチューブ11の長手方向中央側に位置する端部(止め金具34の下端部34a,止め金具44の上端部44a)を跨いで延びている。また、保護部材35,45の少なくともチューブ11の長手方向中央側の端部(保護部材35の下端部35a,保護部材45の上端部45a)は、チューブ11の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程(上方から下方に向かう程,下方から上方に向かう程)拡径したテーパ形状に形成されている。そのため、止め金具34,44の中央側端部(止め金具34の下端部34a,止め金具44の上端部44a)と編組部材12とは直接接触しない。また、保護部材35,45の中央側端部(保護部材35の下端部35a,保護部材45の上端部45a)はテーパ形状に形成されているため、保護部材35,45の中央側端部(保護部材35の下端部35a,保護部材45の上端部45a)のエッジは編組部材12に当接しておらず離れている。
【0092】
このことにより、本アクチュエータ50によれば、チューブ11内部の加圧流体の圧力を上げてチューブ11が径方向に膨張した場合であっても、編組部材12が止め金具34,44の中央側端部(止め金具34の下端部34a,止め金具44の上端部44a)のエッジ等に強く押し付けられることを避けることができる。そのため、止め金具34,44によって編組部材12が破断されることを防止することができる。また、本アクチュエータ50によれば、チューブ11内部の流体圧力を上げてチューブ11が径方向に膨張した場合であっても、編組部材12が保護部材35,45の中央側端部(保護部材35の下端部35a,保護部材45の上端部45a)のエッジ等に強く押し付けられることを避けることができる。そのため、保護部材35,45によって編組部材12が破断されることも防止することができる。したがって、本アクチュエータ50によれば、アクチュエータ50の高出力化を図ると共に、アクチュエータ50の耐久性の向上をも図ることができる。
【0093】
本把持機構2,3は、上記アクチュエータ50と、規制部材5と、を備えたものである。そのため、本アクチュエータ50を備えた把持機構2,3によれば、把持機構2,3の把持力の向上を図ることができる。
【0094】
ところで、把持機構2,3の把持力を向上させるにあたって、例えば、チューブ11内部の流体の圧力を上げることに伴い、弾性収縮体4の編組部材12の編み目からチューブ11が膨隆するために、把持機構2,3によって把持対象物を上手く把持させることができない等の弊害が生じることも考えられる。すなわち、たとえ編組部材12の破断を防止できたとしても、チューブ11の一部が膨隆したのでは、把持機構としての機能を十分に発揮することができない。
【0095】
しかしながら、本アクチュエータ50を備えた把持機構2,3によれば、アクチュエータ50の出力を上げた場合であっても、チューブ11の膨隆を抑制可能である。そのため、例えば、図9に示すような湾曲面を有する把持対象物100に対し、弾性収縮体4および規制部材5を沿わせることができる。したがって、本把持機構2,3によれば、把持対象物100を安定的に把持することが可能となる。したがって、本把持機構2,3によれば、機能の低下を抑制しつつ、把持力の向上を好適に図ることができる。また、本把持機構2,3によれば、耐久性の向上を図ることも可能である。
【0096】
そして、把持機構2,3を複数備えたロボットハンド1によれば、さらなる把持力の向上を図ることができる。また、本記ロボットハンド1によれば、把持力の優れた複数の把持機構2,3によって把持対象物を把持することができるため、より安定的に把持対象物を把持することが可能となる。
【0097】
なお、本ロボットハンド1の把持機構2,3は複数のカバー部材16からなるカバー26を備えている。そのため、例えば、アクチュエータ50を高出力化させて把持力を増大させた場合であっても、弾性収縮体4が把持対象物100に強く押し付けられることにより破損することを防止することができる。また、カバー26を備えることにより把持機構としての強度が増すため、大重量の把持対象物100を取り扱うことが可能となる。したがって、上記把持機構2,3によれば、鋭利な物体や大重量の物体を取り扱うような場合においても、弾性収縮体4を保護することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0098】
また、カバー26は、複数の平面視コの字状のカバー部材16により形成されている。複数のカバー部材16は、弾性収縮体4が収縮していない状態において、弾性収縮体4の軸方向に間隔を空けて配置されている。そのため、本把持機構2,3によれば、カバー26により弾性収縮体4を一体的に覆う場合に比べ、軽量化を図ることができる。したがって、本把持機構2,3によれば、カバー26を設けて弾性収縮体4を保護することとしても、把持機構2,3全体の重量の著しい増加を防止することができる。
【0099】
ところで、弾性収縮体4が収縮すると、規制部材5は弾性収縮体4の側が凹む様に屈曲または湾曲し、これにより、弾性収縮体4も規制部材5と反対側が凹む様に湾曲する。このように湾曲することにより、弾性収縮体4の規制部材5と反対側の部分は、規制部材5側よりも軸方向長さが短くなる。そのため、弾性収縮体4が収縮していない状態において、複数のカバー部材16が弾性収縮体4の軸方向に間隔を空けて配置されていても、弾性収縮体4が収縮するにつれて、その間隔は狭くなる。つまり、カバー部材16は、弾性収縮体4が湾曲するにつれて、弾性収縮体4の軸方向に密に配置されることとなる。したがって、本実施形態のように、弾性収縮体4が収縮していない状態において、カバー部材16が間隔を空けて配置されていても、弾性収縮体4の湾曲に伴ってカバー部材16は密に配置されるため、弾性収縮体4を保護することができる。
【0100】
また、本実施形態では、複数のリンク部材6と複数のカバー部材16とは、弾性収縮体4の軸方向における少なくとも一部分を包囲している。このことにより、弾性収縮体4の少なくとも一部分は、リンク部材6とカバー部材16とにより包囲されることとなる。そのため、弾性収縮体4を保護することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0101】
なお、本実施形態では、ロボットハンド1は把持機構2,3のような把持機構を複数備えている。しかしながら、把持機構の数は本実施形態のものに限定されない。例えば、1つでもよく、4つ以上備えていてもよい。また、把持機構2,3の配置に関しても、上記のものに限られず、例えば、全て同一の方向に湾曲するように配置してもよい。
【0102】
また、本実施形態では、アクチュエータ50を構成する弾性収縮体4は、チューブ11が径方向に膨張すると、編組部材12がチューブ11の幅方向に伸張すると共に軸方向に関して収縮するものとして説明していた。しかし、アクチュエータ50を構成する弾性収縮体4はこのようなものに限られない。例えば、チューブ11が径方向に収縮すると、編組部材12がチューブ11の幅方向に収縮すると共に軸方向に関して伸張するものであってもよい。このような場合であっても、アクチュエータ50は、軸方向に関して駆動力を発生させることができる。また、本発明によれば、このようなアクチュエータ50の高出力化を図ることも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明したように、本発明は、弾性収縮体を備えたアクチュエータ、そのアクチュエータを備えた把持機構、および、その把持機構を備えたロボットハンドについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施形態に係るロボットハンドの斜視図である。
【図2】把持機構の正面図である。
【図3】把持機構の背面図である。
【図4】把持機構の右側面図である。
【図5】アクチュエータの構成図である。
【図6】アクチュエータの構成図である。
【図7】(a),(b)は編組部材の変化を示す図面である。
【図8】(a),(b),(c)は把持機構の動作の様子を示す図面である。
【図9】(a),(b)はロボットハンドの動作の様子を示す図面である。
【図10】アクチュエータの耐久性実験の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0105】
1 ロボットハンド
2、3 把持機構
4 弾性収縮体
5 規制部材
11 チューブ(弾性体)
12 編組部材
13 糸状体
14 端末具
15 供給チューブ
20 圧力調整装置
30 閉塞部材(第1閉塞部材)
31 第1端末金具
31a 挿入部
34 止め金具
35 保護部材
40 閉塞部材(第2閉塞部材)
41 第2端末金具
41 端末金具
41a 挿入部
44 止め金具
45 保護部材
50 アクチュエータ
100 把持対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が封入される筒状の弾性体と、前記弾性体の一端側を閉塞する第1閉塞部材と、前記弾性体の他端側を閉塞する第2閉塞部材と、複数の糸状体を格子状に編み込むことにより形成され、前記弾性体の外周を覆い、前記弾性体の幅方向に伸張すると軸方向に収縮し、前記弾性体の幅方向に収縮すると軸方向に伸張する編組部材とを有する弾性収縮体と、
前記弾性体内部の流体の圧力を調整する圧力調整装置と、を備え、
前記編組部材は、前記弾性体の外径をD、前記編組部材の打ち数を8n、前記編組部材の重ね数をN、前記糸状体のデシテックス数をT、前記糸状体の引張強度をσ、前記糸状体の直径をdとしたときに、
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.4×10/π
を満たす様に形成されている、アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータであって、
前記編組部材は、
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧2.8×10/π
を満たす様に形成されている、アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載のアクチュエータであって、
前記編組部材は、
(8n×T×N×σ×d)/(D×π)≧3.7×10/π
を満たす様に形成されている、アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維によって形成されている、アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、超高強力ポリエチレン繊維によって形成されている、アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、パラ系アラミド繊維によって形成されている、アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、ポリアリレート繊維によって形成されている、アクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、炭素繊維によって形成されている、アクチュエータ。
【請求項9】
請求項4または6に記載のアクチュエータであって、
前記糸状体は、樹脂含浸処理がなされている、アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つに記載のアクチュエータであって、
前記第1閉塞部材は、少なくとも一端部が前記弾性体の一端側の内部に挿入された第1端末金具を有し、
前記第2閉塞部材は、少なくとも一端部が前記弾性体の他端側の内部に挿入された第2端末金具を有し、
前記編組部材の外周側かつ前記各端末金具の前記一端部付近に設けられ、前記弾性体の内周面と前記各端末金具の前記一端部の外周面とを密着させるためのリング形状の止め金具と、
前記編組部材と前記止め金具との間に設けられた略筒形状の保護部材と、をさらに備え、
前記保護部材は、前記弾性体の長手方向に関し、前記止め金具の前記弾性体の長手方向中央側に位置する端部を跨いで延びており、
前記保護部材の少なくとも前記弾性体の長手方向中央側の端部は、前記弾性体の長手方向に関し、端部側から中央側に向かう程拡径したテーパ形状に形成されている、アクチュエータ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つに記載のアクチュエータと、
前記弾性収縮体の軸方向に倣う様に設けられ、前記弾性収縮体の軸方向の一端側および他端側に連結されており、伸縮不能かつ前記弾性収縮体の側が凹む様に屈曲可能または湾曲可能に構成された規制部材と、を備えた把持機構。
【請求項12】
請求項11に記載の把持機構を複数備えたロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−68531(P2009−68531A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234906(P2007−234906)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】