説明

弾性境界波装置

【課題】高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能な弾性境界波装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る弾性境界波装置は、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層101と、圧電体層101上にすだれ状に形成される金電極103と、圧電体層101および金電極103上に形成される、二酸化ケイ素を含む誘電体層105と、を備え、金電極103の厚みをHmとし、金電極103によって圧電体層101と誘電体層105の界面に励振される弾性境界波20の波長をLとした場合に、Hm/Lを、0.015以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可変フィルタ(Tunable Filter)の一例として、可変容量によりLCフィルタの共振周波数を変化させてフィルタ特性を調整することが可能な、可変容量同調フィルタ(Variable Capacitor Tuned Filter)がある。この同調フィルタにおいて、可変容量は、例えば、半導体のバラクタダイオードや、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)キャパシタ等から構成される。また、インダクタンスに関しては、例えば、チップコイル、ストリップライン、MEMSスパイラルコイル等で構成される。
【0003】
しかしながら、チップコイル、ストリップライン、MEMSスパイラルコイル等で構成されたインダクタは、一般にQ値が小さく、フィルタ特性の面では、挿入損失を小さくすることが困難となる。そのため、低消費電力が要求される携帯端末用RFフィルタとして使用することはできない。また、これらのインダクタの大きさは電磁波の波長に依存しているため、所望のインダクタンス値を得るためには、大きな面積を必要としてしまう。
【0004】
他方、その他のインダクタンスの実現法として、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)やバルク波を用いた共振器の共振点と反共振点との間の誘導性インピーダンス領域の高Qインダクタを用いることも考えられる。
【0005】
弾性表面波は、媒質表面を伝搬するため、媒質の表面状態の変化に敏感である。したがって、媒質の弾性表面波伝搬面を保護するために、伝搬面に臨む空洞を設けたパッケージによって弾性表面波素子を気密封止する必要があった。このようなパッケージを用いる必要があったために、弾性表面波装置の製造に要するコストは高くならざるを得なかった。また、このようなパッケージの寸法は、弾性表面波素子の寸法よりも大幅に大きくなるため、弾性表面波装置の大きさは、大きくならざるを得なかった。
【0006】
そこで、工程の簡略化や共振器の小型化を図るために、弾性表面波ではなく弾性境界波を用いた共振器について、検討が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】特許第3815424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の弾性境界波を用いた共振器の共振点と反共振点の周波数差は、大きいものでも10%程度しか得られていないため、可変フィルタとしては、十分な周波数範囲に対応することができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能な、新規かつ改良された弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と、前記圧電体層上にすだれ状に形成される金電極と、前記圧電体層および前記金電極上に形成される、二酸化ケイ素を含む誘電体層と、を備え、前記金電極の厚みをHmとし、前記金電極によって前記圧電体層と前記誘電体層の界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lが0.015以上である弾性境界波装置が提供される。
【0011】
前記Hm/Lは、0.06以下であってもよく、前記Hm/Lは、0.045以下であってもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と、前記圧電体層上にすだれ状に形成される銅電極と、前記圧電体層および前記銅電極上に形成される、二酸化ケイ素を含む誘電体層と、を備え、前記銅電極の厚みをHmとし、前記銅電極によって前記圧電体層と前記誘電体層の界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lが0.040以上である弾性境界波装置が提供される。
【0013】
前記Hm/Lは、0.090以下であってもよく、前記Hm/Lは、0.050以上0.060以下であってもよい。
【0014】
ここで、前記ニオブ酸カリウムは、回転Yカット−X伝搬KNbOであり、前記ニオブ酸カリウムの結晶におけるX軸周りの回転角θは、−30°以上30°以下であってもよく、−20°以上20°以下であってもよい。
【0015】
また、前記ニオブ酸カリウムは、回転Yカット−X伝搬KNbOであり、前記弾性境界波の伝搬方向と前記ニオブ酸カリウムの結晶におけるX軸とのなす角である伝搬角ψは、−10°以上10°以下であってもよく、−5°以上5°以下であってもよい。
【0016】
本発明に係る弾性境界波装置は、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と二酸化ケイ素を含む誘電体層との界面に配設される金または銅からなる電極の膜厚をHmとし、かかる電極により圧電体層と誘電体層との界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lを所定の値以上とすることで、高いQ値を有するとともに、共振周波数および反共振周波数間の帯域が広帯域である弾性境界波を励振することが可能となる。これにより、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる弾性境界波装置は、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、弾性境界波装置について鋭意検討を行った結果、弾性境界波装置を構成する圧電体として、弾性表面波、バルク波で大きな電気機械結合係数を示すニオブ酸カリウム(KNbO)を用いることに想到した。
【0020】
続いて、本願発明者らは、所定の金属により形成される電極の両側にニオブ酸カリウムを配置する、ニオブ酸カリウム/電極/ニオブ酸カリウム、という構造を有する弾性境界波装置について、詳細に検討を行った。
【0021】
しかしながら、上記構造を有する弾性境界波装置では、温度補償が不可能であるという問題に想到したため、本願発明者らは、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能であり、かつ、温度補償が可能な弾性境界波装置を実現するために、鋭意研究を行った。その結果、以下に示すような構造を有する弾性境界波装置に想到した。
【0022】
(第1の実施形態)
以下では、図1〜図7を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る弾性境界波装置について、詳細に説明する。
【0023】
<本実施形態に係る弾性境界波装置10の構成について>
まず、図1を参照しながら、本実施形態に係る弾性境界波装置10の構成について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る弾性境界波装置10の構成を模式的に説明するための説明図であり、弾性境界波装置10を側面からみた側面図となっている。
【0024】
図1(a)に示したように、本実施形態に係る弾性境界波装置10は、圧電体層101と、電極103と、誘電体層105と、から構成される。
【0025】
圧電体層101は、所定の大きさを有するニオブ酸カリウムからなる基板を用いて形成される。ニオブ酸カリウムは、大きな電気機械結合係数を示すことが知られており、かかる物質を圧電体として利用することで、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能な弾性境界波装置10を形成することが可能となる。
【0026】
ニオブ酸カリウムからなる基板は、例えば、所定の結晶構造を有するニオブ酸カリウム結晶を用いて形成されることが好ましく、いわゆるYカット−X伝搬KNbOや、回転Yカット−X伝搬KNbOからなる基板を用いることが好ましい。ここで、「回転Yカット−X伝搬KNbO」のXやYは、それぞれニオブ酸カリウムの結晶軸におけるX軸、Y軸を意味し、「Yカット−X伝搬KNbO」とは、ニオブ酸カリウムの切り出し方向がY軸方向であり、励振される弾性境界波の伝搬方向がX軸方向であることを表す。また、「回転Yカット−X伝搬KNbO」とは、ニオブ酸カリウムのY軸に沿った切り出し面(以下、Y板と称する。)が、X軸周りにθ°回転しており、伝搬方向がX軸方向であることを表す。
【0027】
電極103は、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層101上に、金(Au)を用いてすだれ状に形成される。かかる電極103は、いわゆる「「すだれ状電極(InterDigital Transducer:IDT)」として機能する。かかる電極103は、例えば、フォトエッチング法等を利用して、圧電体層101上に形成することが可能である。
【0028】
すだれ状電極を構成する1つ1つの金電極は、「電極指」とも呼ばれる。それぞれの電極指の幅と、相隣接する電極指間の幅の比であるデューティ比は、図1(a)に示したように、例えば1:1とすることが可能であり、1:1以外の値にすることも可能である。また、金電極103の膜厚は、例えば図1(b)に示したように、圧電体層101の上端から電極103の上端までの距離として定義され、Hmと表記することとする。
【0029】
なお、以下では、電極材料として金を用いた場合について説明を行うが、本発明に係る弾性境界波装置の電極は以下の場合に限定されるわけではなく、電極材料として、密度が高く、電気抵抗の小さな金属を使用することが可能である。
【0030】
誘電体層105は、例えば二酸化ケイ素を主成分とする誘電体を用いて形成される。かかる誘電体層105は、圧電体層101を形成するニオブ酸カリウムの温度係数(Tcf)とは逆の性質を有することが好ましい。すなわち、ニオブ酸カリウムは、正の温度係数(Tcf)を有する物質であるが、誘電体層105は、負の温度係数(Tcf)を有することが好ましい。かかる誘電体層103を、圧電体層101および電極103上に形成することで、温度補償が可能な弾性境界波装置10を形成することが可能である。
【0031】
なお、誘電体層105は、二酸化ケイ素単体から形成されていてもよく、二酸化ケイ素を主成分とする混合物であってもよい。かかる誘電体は、蒸着法やスパッタ法等の様々な成膜方法を用いて、低コストで形成することが可能である。また、このような化合物以外にも、負の温度係数(Tcf)を有する化合物であれば、使用することが可能である。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る弾性境界波装置10は、金からなる電極103の両側に圧電体層101と誘電体層105とがそれぞれ配設された、誘電体層105/電極103/圧電体層101、という構造を有する。
【0033】
金からなるすだれ状の電極103に所定の電圧が印加されると、圧電体層101を構成するニオブ酸カリウムの圧電効果により、圧電体層101の表面近傍に周期的な歪みが生じ、圧電体層101と誘電体層105の界面に、波長Lの弾性境界波20が励振される。本実施形態に係る弾性境界波装置10は、圧電体層101と誘電体層105の界面を伝搬する弾性境界波20の共振を利用した共振器として機能する。
【0034】
本願発明者らは、図1に示した構造を有する弾性境界波装置10について、有限要素法による2次元解析を行い、電極103の膜厚と、圧電体層101に用いられている回転Yカット−X伝搬KNbOの回転角θ、および、伝搬角ψとについて、詳細に検討を行った。なお、有限要素法による2次元解析において、ニオブ酸カリウムの諸定数は、以下の表1に示した値を使用し、二酸化ケイ素(SiO)の諸定数は、以下の表2に示した値を使用した。また、電極に用いた金の諸定数は、以下の表3に示した値を使用した。
【0035】
なお、以下の表1〜表3において、C11〜C66は、弾性定数を表し、e31〜e24は、圧電定数を表す。また、ε11〜ε33は、誘電定数を表し、ρは、密度を表す。ここで、表1に示した各定数は、M.Zgonikらの論文(M.Zgonik et al.,J.Appl.Phys.,Vol.74,pp.1287〜1297(1993))から抜粋した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
<アドミッタンス特性の電極膜厚依存性について>
次に、図2および図3を参照しながら、本実施形態に係る弾性境界波装置10におけるアドミッタンス特性の電極膜厚依存性について、詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と電極膜厚との関係を表すグラフ図であり、図3は、弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【0040】
図2に示したグラフ図は、図1に示したSiO/Au/Yカット−X伝搬KNbO構造における弾性境界波装置10のアドミッタンス特性について、金電極103の規格化膜厚を変更しながら解析したものである。図2に示したグラフ図の縦軸は、アドミッタンスYの絶対値の対数をとったものであり、横軸は、規格化周波数である。ここで、金電極103の規格化膜厚とは、金電極103の膜厚Hmを、励振される弾性境界波20の波長Lで除したもの(Hm/L)であり、規格化周波数とは、周波数fに弾性境界波20の波長Lを掛けたもの(f×L、単位はHz・m)である。
【0041】
図2に示した各グラフ図において、|Y|(アドミッタンスYの絶対値)が最大となる周波数(ひいては、log|Y|が最大となる周波数)を、共振周波数(fr)という。また、|Y|(アドミッタンスYの絶対値)が最小となる周波数(ひいては、log|Y|が最小となる周波数)を、反共振周波数(fa)という。共振周波数と反共振周波数との間では、インピーダンスが誘導性となり、この範囲においては、弾性境界波装置10は、インダクタとして機能する。換言すれば、規格化電極膜厚は、アドミッタンス特性を示したグラフ図において、共振周波数と反共振周波数の双方が共に存在するように設定することが好ましい。そこで、弾性境界波装置10を可変容量同調フィルタのインダクタンス分として利用することで、共振周波数と反共振周波数との間に位置する周波数帯域で、可変フィルタが実現可能となる。
【0042】
図2では、規格化膜厚が0.005〜0.050の場合におけるアドミッタンス特性が記載されている。図2より明らかなように、規格化膜厚が0.005および0.010の場合(すなわち、規格化膜厚が0.010以下の場合)には、良好な共振特性は示しているが、反共振周波数では、伝搬損失が大きく、良好な特性は得られない。しかしながら、規格化膜厚が0.015以上の場合には、共振周波数および反共振周波数とも、良好な特性を示していることがわかる。
【0043】
図3は、図2に示した各共振周波数および反共振周波数と、共振周波数および反共振周波数から算出される帯域幅とを示したグラフ図である。ここで、帯域幅は、(fa−fr)/frにより算出される値である。図3に示したグラフ図の左側の縦軸は、規格化周波数であり、右側の縦軸は、帯域幅をパーセント表示したものである。また、図3に示したグラフ図の横軸は、金電極103の規格化膜厚Hm/Lである。
【0044】
図3を参照すると、共振周波数frおよび反共振周波数faは、双方とも金電極103の膜厚の増加とともに減少することがわかる。また、可変フィルタの可変幅に関係する帯域幅は、金電極の規格化膜厚が0.025のときに最大(約23.5%)となることがわかる。
【0045】
また、金電極の規格化膜厚が0.015〜0.060の範囲では、20%以上の帯域幅が得られ、金電極の規格化膜厚が0.015〜0.045の範囲では、22%以上の帯域幅が得られることがわかる。このように、本実施形態に係る弾性境界波装置10では、金電極103の規格化膜厚を変更することで、20%以上という広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【0046】
<アドミッタンス特性の回転角依存性について>
続いて、図4および図5を参照しながら、本実施形態に係る弾性境界波装置10におけるアドミッタンス特性の回転角依存性について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と、ニオブ酸カリウムのX軸からの回転角との関係を表すグラフ図であり、図5は、本実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と、ニオブ酸カリウムのX軸からの回転角との関係を表すグラフ図である。
【0047】
図4に示したグラフ図は、図1に示したSiO/Au/回転Yカット−X伝搬KNbO構造における弾性境界波装置10のアドミッタンス特性について、X軸周りの回転角θを変更しながら解析したものである。図4に示したグラフ図の縦軸は、アドミッタンスYの絶対値の対数をとったものであり、横軸は、規格化周波数である。
【0048】
図4に示したグラフ図は、圧電体層101として用いた回転Yカット−X伝搬KNbOについて、X軸周りの回転角θを、−85°〜+90°まで変化させた場合のアドミッタンス特性を示している。ここで、金電極の規格化膜厚は、帯域幅が最大となる0.025とした。この場合においても、回転角θは、アドミッタンス特性を示したグラフ図において、共振周波数と反共振周波数の双方が共に存在するように設定することが好ましい。
【0049】
図4を参照すると、回転角θが−75°以下の場合、および、回転角θが75°以上の場合には、良好な共振特性は示しているが、反共振周波数では、損失が大きく、良好な特性は得られない。他方、回転角θが−70°以上+70°以下の場合には、共振周波数および反共振周波数とも、良好な特性を示していることがわかる。
【0050】
図5は、図4に示した各共振周波数および反共振周波数と、共振周波数および反共振周波数から算出される帯域幅とを示したグラフ図である。ここで、帯域幅は、(fa−fr)/frにより算出される値である。図5に示したグラフ図の左側の縦軸は、規格化周波数であり、右側の縦軸は、帯域幅をパーセント表示したものである。また、図5に示したグラフ図の横軸は、回転角θである。
【0051】
図5を参照すると、共振周波数frおよび反共振周波数faは、双方とも回転角θが0°の場合を中心として、ほぼ左右対称の形状を有していることがわかる。また、可変フィルタの可変幅に関係する帯域幅は、回転角θが0°のときに最大(約23.5%)となることがわかる。
【0052】
また、回転角θが−30°〜+30°の範囲では、20%以上の帯域幅が得られ、回転角θが−20°〜+20°の範囲では、22%以上の帯域幅が得られることがわかる。このように、本実施形態に係る弾性境界波装置10では、回転角θを変更することで、20%以上という広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【0053】
<アドミッタンス特性の伝搬角依存性について>
続いて、図6および図7を参照しながら、本実施形態に係る弾性境界波装置10におけるアドミッタンス特性の伝播角依存性について、詳細に説明する。図6は、本実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と、ニオブ酸カリウムのX軸からの伝搬角との関係を表すグラフ図であり、図7は、本実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と、ニオブ酸カリウムのX軸からの伝搬角との関係を表すグラフ図である。
【0054】
図6に示したグラフ図は、図1に示したSiO/Au/Yカット−X伝搬KNbO構造における弾性境界波装置10のアドミッタンス特性について、伝搬角ψを変更しながら解析したものである。図6に示したグラフ図の縦軸は、アドミッタンスYの絶対値の対数をとったものであり、横軸は、規格化周波数である。
【0055】
図6に示したグラフ図は、圧電体層101として用いたYカット−X伝搬KNbOについて、弾性境界波20の伝搬方向とX軸とのなす角度である伝搬角ψを、−85°〜+90°まで変化させた場合のアドミッタンス特性を示している。ここで、金電極の規格化膜厚は、帯域幅が最大となる0.025とした。この場合においても、伝搬角ψは、アドミッタンス特性を示したグラフ図において、共振周波数と反共振周波数の双方が共に存在するように設定することが好ましい。
【0056】
図6を参照すると、伝搬角ψが−55°以下の場合、および、回転角θが55°以上の場合には、良好な共振特性は示しているが、反共振周波数では、損失が大きく、良好な特性は得られない。他方、伝搬角ψが−50°以上+50°以下の場合には、共振周波数および反共振周波数とも、良好な特性を示していることがわかる。
【0057】
図7は、図6に示した各共振周波数および反共振周波数と、共振周波数および反共振周波数から算出される帯域幅とを示したグラフ図である。ここで、帯域幅は、(fa−fr)/frにより算出される値である。図7に示したグラフ図の左側の縦軸は、規格化周波数であり、右側の縦軸は、帯域幅をパーセント表示したものである。また、図7に示したグラフ図の横軸は、伝搬角ψである。
【0058】
図5を参照すると、共振周波数frおよび反共振周波数faは、双方とも伝搬角ψが0°の場合を中心として、ほぼ左右対称の形状を有していることがわかる。また、可変フィルタの可変幅に関係する帯域幅は、伝搬角ψが0°のときに最大(約23.5%)となることがわかる。
【0059】
また、伝搬角ψが−10°〜+10°の範囲では、20%以上の帯域幅が得られ、伝搬角ψが−5°〜+5°の範囲では、22%以上の帯域幅が得られることがわかる。このように、本実施形態に係る弾性境界波装置10では、伝搬角ψを変更することで、20%以上という広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【0060】
なお、回転Yカット−X伝搬KNbOを用いた場合にも、上記と同様の結果が得られることはいうまでもない。
【0061】
(第2の実施形態)
続いて、誘電体層/銅電極/圧電体層という構造を有する、本発明の第2の実施形態に係る弾性境界波装置について、詳細に説明する。
【0062】
<本実施形態に係る弾性境界波装置の構成について>
本実施形態に係る弾性境界波装置の構造は、第1の実施形態に係る弾性境界波装置10の電極103を金ではなく銅(Cu)を用いて形成する以外は、第1の実施形態に係る弾性境界波装置10と同様の構成を有するため、詳細な説明は省略する。
【0063】
本願発明者らは、図1に示した構造を有する、本実施形態に係る弾性境界波装置について、有限要素法による2次元解析を行い、銅電極の膜厚と、圧電体層に用いられている回転Yカット−X伝搬KNbOの回転角θ、および、伝搬角ψとについて、詳細に検討を行った。なお、有限要素法による2次元解析において、ニオブ酸カリウムの諸定数は、上記表1に示した値を使用し、二酸化ケイ素(SiO)の諸定数は、上記表2に示した値を使用した。また、電極に用いた銅の諸定数は、以下の表4に示した値を使用した。
【0064】
【表4】

【0065】
<アドミッタンス特性の電極膜厚依存性について>
次に、図8および図9を参照しながら、本実施形態に係る弾性境界波装置におけるアドミッタンス特性の電極膜厚依存性について、詳細に説明する。図8は、本実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と電極膜厚との関係を表すグラフ図であり、図9は、弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【0066】
図8に示したグラフ図は、図1に示したような構造を有する、SiO/Cu/Yカット−X伝搬KNbO構造における弾性境界波装置のアドミッタンス特性について、銅電極の規格化膜厚を変更しながら解析したものである。図8に示したグラフ図の縦軸は、アドミッタンスYの絶対値の対数をとったものであり、横軸は、規格化周波数である。
【0067】
図8では、規格化膜厚が0.000〜0.110の場合におけるアドミッタンス特性が記載されている。図8より明らかなように、規格化膜厚が0.030以下の場合)には、良好な共振特性は示しているが、反共振周波数では、伝搬損失が大きく、良好な特性は得られない。しかしながら、規格化膜厚が0.040以上の場合には、共振周波数および反共振周波数とも、良好な特性を示していることがわかる。
【0068】
図9は、図8に示した各共振周波数および反共振周波数と、共振周波数および反共振周波数から算出される帯域幅とを示したグラフ図である。ここで、帯域幅は、(fa−fr)/frにより算出される値である。図9に示したグラフ図の左側の縦軸は、規格化周波数であり、右側の縦軸は、帯域幅をパーセント表示したものである。また、図9に示したグラフ図の横軸は、銅電極の規格化膜厚Hm/Lである。
【0069】
図9を参照すると、共振周波数frおよび反共振周波数faは、双方とも銅電極の膜厚の増加とともに減少することがわかる。また、可変フィルタの可変幅に関係する帯域幅は、銅電極の規格化膜厚が0.050のときに最大(約21.9%)となることがわかる。
【0070】
また、銅電極の規格化膜厚が0.040〜0.090の範囲では、20%以上の帯域幅が得られ、銅電極の規格化膜厚が0.050〜0.060の範囲では、21.5%以上の帯域幅が得られることがわかる。このように、本実施形態に係る弾性境界波装置では、銅電極の規格化膜厚を変更することで、20%以上という広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【0071】
また、本発明の第1の実施形態に係る弾性境界波装置10と同様に、回転Yカット−X伝搬ニオブ酸カリウムの回転角θおよび伝搬角ψについて検討を行い、第1の実施形態に係る弾性境界波装置10と同様の結果を得ることができた。
【0072】
以上説明したように、本発明の各実施形態に係る弾性境界波装置によれば、ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と二酸化ケイ素を含む誘電体層との界面に配設される金または銅からなる電極の膜厚をHmとし、かかる電極により圧電体層と誘電体層との界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lを所定の値以上とすることで、高いQ値を有するとともに、共振周波数および反共振周波数間の帯域が広帯域である弾性境界波を励振することが可能となる。これにより、高いQ値を有するとともに、広い周波数範囲に対応することが可能な可変フィルタを実現することができる。
【0073】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性境界波装置を模式的に説明するための説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【図3】同実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【図4】同実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と、ニオブ酸カリウムのX軸からの回転角との関係を表すグラフ図である。
【図5】同実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と、ニオブ酸カリウムのX軸からの回転角との関係を表すグラフ図である。
【図6】同実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と、ニオブ酸カリウムのX軸からの伝搬角との関係を表すグラフ図である。
【図7】同実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と、ニオブ酸カリウムのX軸からの伝搬角との関係を表すグラフ図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る弾性境界波装置のアドミッタンス特性と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【図9】同実施形態における弾性境界波装置の共振周波数、反共振周波数および帯域幅と電極膜厚との関係を表すグラフ図である。
【符号の説明】
【0075】
10 弾性境界波装置
20 弾性境界波
101 圧電体層
103 電極
105 誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と、
前記圧電体層上にすだれ状に形成される金電極と、
前記圧電体層および前記金電極上に形成される、二酸化ケイ素を含む誘電体層と、
を備え、
前記金電極の厚みをHmとし、前記金電極によって前記圧電体層と前記誘電体層の界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lが0.015以上である
ことを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項2】
前記Hm/Lは、0.060以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の弾性境界波装置。
【請求項3】
前記Hm/Lは、0.045以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の弾性境界波装置。
【請求項4】
ニオブ酸カリウムからなる圧電体層と、
前記圧電体層上にすだれ状に形成される銅電極と、
前記圧電体層および前記銅電極上に形成される、二酸化ケイ素を含む誘電体層と、
を備え、
前記銅電極の厚みをHmとし、前記銅電極によって前記圧電体層と前記誘電体層の界面に励振される弾性境界波の波長をLとした場合に、Hm/Lが0.040以上である
ことを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項5】
前記Hm/Lは、0.090以下である
ことを特徴とする、請求項4に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
前記Hm/Lは、0.050以上0.060以下である
ことを特徴とする、請求項4に記載の弾性境界波装置。
【請求項7】
前記ニオブ酸カリウムは、回転Yカット−X伝搬KNbOであり、
前記ニオブ酸カリウムの結晶におけるX軸周りの回転角θは、−30°以上30°以下である
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
前記回転角θは、−20°以上20°以下である
ことを特徴とする、請求項7に記載の弾性境界波装置。
【請求項9】
前記ニオブ酸カリウムは、回転Yカット−X伝搬KNbOであり、
前記弾性境界波の伝搬方向と前記ニオブ酸カリウムの結晶におけるX軸とのなす角である伝搬角ψは、−10°以上10°以下である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の弾性境界波装置。
【請求項10】
前記伝搬角ψは、−5°以上5°以下である
ことを特徴とする、請求項9に記載の弾性境界波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−88730(P2009−88730A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252925(P2007−252925)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】