説明

弾性組成物およびそれを用いた補修工法

【課題】 地下構造物周囲に存在する空洞や土壌中に注入することにより構造物の耐久性を向上させる弾性組成物およびそれを用いた補修工法を提供する。
【解決手段】 ポリビニルアルコール、水、有機チタン化合物、およびカルシウムアルミネート化合物を含有してなる弾性組成物。カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.8〜2.5であることが好ましく、ポリビニルアルコールと有機チタン化合物が水溶性であることが好ましい。さらに、前記弾性組成物を地下構造物周囲に注入することを特徴とする補修工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用される弾性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルや下水管などの地下構造物の周囲には、地下水の移動によって空洞が生じる。空洞は構造物内への地下水侵入の経路となるほか、地震や地山の圧力による応力集中の要因となり、構造物が破壊されやすくなるため、対策としてトンネルや下水管などの周囲の空洞に裏込材を注入することが有効である。
従来、セメント系材料や水ガラス系材料が主に使用されており、コンクリートポンプ等でトンネルや下水管背面に充填されている(特許文献1)。また、地下水の移動によって充填した材料が施工中に流されるのを防止するため、急結性を付与した材料の開発が進められている(特許文献2)。さらに、高分子系材料を注入することも検討されている(特許文献3、4、5)。一方、弾力性を有する組成物として水溶性ポリビニルアルコールを用いたゲル組成物に関する検討も行われている(特許文献6、7)。
【特許文献1】特開平11−61123号公報
【特許文献2】特許第3600155号公報
【特許文献3】特開2002−294014号公報
【特許文献4】特開2002−371278号公報
【特許文献5】特開平11−256138号公報
【特許文献6】特開平06−207071号公報
【特許文献7】特開平05−117003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
地下構造物周囲に存在する空洞や土壌中に従来の材料を注入する場合、セメント系材料や水ガラス系材料では弾性がないためひび割れが生じやすく、再び地下水が侵入することがある。また、高分子系材料では物理的強度が小さいため、地下における特有の応力に対して充分とは云えない。
そこで、本発明は、地下構造物の耐久性を向上させる弾性組成物およびそれを用いた補修工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、(1)ポリビニルアルコール、水、有機チタン化合物、およびカルシウムアルミネート化合物を含有してなる弾性組成物、(2)カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.8〜2.5である(1)の弾性組成物、(3)ポリビニルアルコールと有機チタン化合物が水溶性である(1)または(2)の弾性組成物、(4)(1)〜(3)のいずれかの弾性組成物を地下構造物周囲に注入することを特徴とする補修工法、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の弾性組成物をトンネルおよび下水管などの地下構造物周囲に存在する空洞や土壌中に注入することで、適度な遮水性、弾力性、物理的強度を発現させ、構造物の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で使用するポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)は、特に限定されるものではないが、完全ケン化型PVA、部分ケン化型PVAで、水酸基を有し実質的に水溶性を保持しているものが好ましい。また、水溶性であればアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、アクリルアミドなどを付加した各種変性PVAを用いることもできる。
本発明に使用するPVAの平均重合度は、500〜3000が好ましく、1000〜2000がより好ましい。また、PVAの鹸化度は80mol%以上のものが好ましく、90mol%以上がより好ましい。PVAの重合度や鹸化度が前記範囲外の場合には、硬化前の流動性、硬化後の強度、弾性、遮水性に影響する場合がある。
【0007】
本発明で使用されるPVAは、あらかじめ水溶液として調製しておくことが好ましい。その固形分濃度は用途によって適宜決定されるものであり、特に限定されるものではないが、通常、3〜20質量%程度とすることが好ましい。3質量%未満では硬化体の弾性が不足する場合があり、20質量%を超えると水溶液の粘性が高くなる。
【0008】
本発明で使用する有機チタン化合物は、特に限定されるものではなく、水酸基やカルボキシル基と反応するもの(架橋剤)であれば利用可能である。中でも、水溶性の有機チタン化合物を用いることが好ましく、チタンアルコキシドにヒドロキシカルボン酸である乳酸を反応させたチタンラクテートや、チタンアルコキシドにβ-ジケトンであるアセチルアセトンを反応させたチタンアセチルアセトネート、チタンアルコキシドにアルカノールアミンであるトリエタノールアミンを反応させたチタントリエタノールアルミネート、チタンアルコキシドにジカルボン酸であるシュウ酸を反応させたシュウ酸チタンなどを含むものがゲル化時間の制御の観点から好ましい。特に、チタンラクテートが好ましい。
【0009】
本発明で使用するカルシウムアルミネート化合物は、石灰石や石灰や消石灰などのカルシウム原料、ボーキサイトやアルミ残灰などのアルミニウム原料を所定の割合で配合し、熱処理した後、粉砕したものである。
熱処理温度は、1200〜2000℃が好ましく、1400〜1600℃の範囲がより好ましい。1200℃未満では、所定の化合物が得られない場合があり、2000℃を超えると不経済になる場合がある。焼成中の雰囲気は酸化雰囲気でも還元雰囲気でも構わない。また、焼成設備はロータリーキルンや電気炉などが使用可能である。原料としては、主成分であるCaO、AlのほかにSiO、Fe、MgO、TiO、P、NaO、KO、フッ素、塩素、重金属類などの不純物を含む場合があるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。
【0010】
本発明で使用するカルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比は、特に限定されるものではないが、0.8〜2.5であることが好ましい。0.8未満では弾性体の圧縮強度が低くなる場合があり、2.5を超えるとゲル化時間が短くなる場合がある。
【0011】
カルシウムアルミネート化合物の粉末度は、ブレーン比表面積で1500〜8000cm/gが好ましく、3000〜6000cm/gがより好ましい。1500cm/g未満の粗粒では充分な強度が得られない場合があり、8000cm/gを超える微粉末では反応性が高くなるため充分な可使時間を確保できない場合がある。
【0012】
カルシウムアルミネート化合物のガラス化率は、特に限定されるものではなく、結晶質でも非晶質でも本発明には使用可能である。結晶質のカルシウムアルミネート化合物としては、3CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・Al、3CaO・5Al、CaO・2Al、CaO・6Alが挙げられる。これらのうち2種以上を併用することも可能である。
なお、本発明では、次に示すX線回折リートベルト法によってガラス化率の測定を行った。粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社の「SIROQUANT」を用いた。
【0013】
本発明におけるPVA、水、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物の配合割合は、用途によって異なるため特に限定されるものではないが、PVA、水、有機チタン化合物、およびカルシウムアルミネート化合物の合計100質量部中、PVAは2〜15質量部が好ましく、5〜10質量部がより好ましい。水は44〜83質量部が好ましく、50〜80質量部がより好ましい。有機チタン化合物は、1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。カルシウムアルミネート化合物は、2〜50質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。これら範囲外では硬化前の流動性や、硬化後の弾力性、強度、耐水性に影響する場合がある。
【0014】
本発明の弾性組成物は、水酸基やカルボキシル基の架橋剤として従来から使用されているものを、本発明の効果を損なわない範囲で併用することができるが、PVA水溶液との混合時にすぐにゲル化したり、酸性雰囲気下でのみゲル化したり、ゲル体の強度が低いものがある。
従来の架橋剤としては、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、トリメチロールメラミンなどのメチロール基を有する化合物、ホウ砂やホウ酸などのホウ素化合物、Zr、Alなどが有機物質と結合した金属アルコキシド類、イソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。
【0015】
本発明の弾性組成物の硬化速度を制御する目的で、クエン酸、酢酸、グルコン酸、シュウ酸、ギ酸、乳酸などの有機酸を用いることもできる。施工条件によって最適な硬化速度が異なるため有機酸の使用量は、特に限定されるものではないが、弾性組成物100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。5質量部を超えると硬化体の強度が低下する場合がある。
【0016】
本発明の弾性組成物は、硬化体の強度や弾性率、密度をコントロールする目的でフィラーを併用することができる。フィラーは、特に限定されることはなく、無機系や有機系のものが使用可能である。無機系としては、珪石、石灰石などの骨材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体などが挙げられ、有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質、イオン交換樹脂、吸水性ポリマーなどが挙げられる。これらを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0017】
本発明における弾性組成物の混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、ナウタミキサなどが挙げられる。
【0018】
本発明の弾性組成物を用いて、トンネルおよび下水管などの地下構造物周囲の空洞や土壌中に注入して補修する工法は、特に限定されるものではない。例えば、空洞や漏水が見られるコンクリート壁にドリルで穴を開け、注入プラグをセットした後、本発明の弾性組成物を各種ポンプを用いて注入し、空洞部を充填しコンクリート背面に遮水層を形成する。また、地上から空洞部や構造物周囲に注入管を挿入して、各種注入ポンプを用いて注入することも可能である。
【0019】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
「実施例1」
重合度1700、鹸化度98.7mol%のPVAと水道水を用いて、表1に示す割合となるように種々の固形分濃度のPVA水溶液を調製した。このPVA水溶液を用いて、表1に示す割合となるように有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物(a)を配合して混合し、ゲル化時間、圧縮強度、弾性係数、遮水性を評価した。結果を表1に示す。
【0021】
「使用材料」
PVA:電気化学工業社製、商品名「K17」、重合度1700、鹸化度98.7mol%
有機チタン化合物:チタンラクテート、松本製薬工業社製、商品名「TC−310」
カルシウムアルミネート化合物(a):試作品、CaO50.0質量%、Al40質量%、SiO3質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比2.3、ガラス化率98%、ブレーン比表面積6000cm/g、密度2.92g/cm
水:水道水
【0022】
「測定方法」
ゲル化時間:混合した弾性組成物を透明なスチロール瓶に流し込み、容器を傾けても液面が変動しなくなるまでの時間を計測した。
圧縮強度:混合した弾性組成物を4×4×4cmの型枠に流し込み、材齢1日で脱型後、JIS R 5201に準拠して測定を行った。荷重をかけても供試体が降伏しない場合には、供試体が50%変位した時の荷重から圧縮強度を算出した。
弾性係数:混合した弾性組成物を3×3×3cmの型枠に流し込み、7日間、20℃の環境下で養生して供試体を作製した。測定は市販の万能試験機(オートグラフ)を用い、供試体に載荷した時の応力とひずみの関係を測定し、5mm変位させた時の応力と変位から弾性係数を算出した。
遮水性:模擬試験体に弾性組成物を注入し、注入から24hr後の模擬試験体重量を測定して、漏水量を算出することで遮水性を評価した。模擬試験体は、容量3Lの直方体状ポリプロピレン製容器の側面の下部に直径2mmの穴を開け、川砂2.7kgを充填し、さらに漏水させるため、上部より水道水600mlを加えた。その直後、容量10mlのシリンジを用いて、模擬試験体の穴から弾性組成物を毎秒1mlの速度で合計10ml注入を行った。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、本発明の弾性組成物は、適度な圧縮強度を持ちつつ弾力性に富み、かつ遮水性を有することが分かる。
【0025】
「実施例2」
PVA、水、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物の配合割合を、それぞれ7.6質量部、69.2質量部、3.8質量部、19.4質量部に固定し、カルシウムアルミネート化合物の種類を変えたこと以外は実施例1と同様に行った。また、比較例として、カルシウムアルミネート化合物の替わりに普通ポルトランドセメントと消石灰を使用して実験を行った。結果を表2に示す。
【0026】
「使用材料」
カルシウムアルミネート化合物(b):試作品、ブレーン比表面積8000cm/gのカルシウムアルミネート化合物(a)
カルシウムアルミネート化合物(C):試作品、ブレーン比表面積3000cm/gのカルシウムアルミネート化合物(a)
カルシウムアルミネート化合物(d):試作品、ブレーン比表面積1500cm/gのカルシウムアルミネート化合物(a)
カルシウムアルミネート化合物(e):試作品、CaO52質量%、Al38質量%、SiO3質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比2.5、ガラス化率98%、ブレーン比表面積6000cm/g、密度2.92g/cm
カルシウムアルミネート化合物(f):試作品、CaO46質量%、Al44質量%、SiO3質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比1.9、ガラス化率98%、ブレーン比表面積6000cm/g、密度2.91g/cm
カルシウムアルミネート化合物(g):試作品、CaO36質量%、Al57質量%、SiO4質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比1.2、ガラス化率30%、ブレーン比表面積5000cm/g、密度2.91g/cm
カルシウムアルミネート化合物(h):試作品、CaO29質量%、Al65質量%、SiO4質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比0.8、ガラス化率30%、ブレーン比表面積5000cm/g、密度2.95g/cm
カルシウムアルミネート化合物(i):試作品、CaO45質量%、Al38質量%、SiO13質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比2.2、ガラス化率98%、ブレーン比表面積6000cm/g、密度2.95g/cm
カルシウムアルミネート化合物(j):試作品、CaO50質量%、Al40質量%、SiO3質量%、TiO3質量%、CaO/Alモル比2.3、ガラス化率0%、ブレーン比表面積6000cm/g、密度2.93g/cm
普通ポルトランドセメント:市販品
消石灰:市販品
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示すように、本発明の弾性組成物は、適度な圧縮強度を持ちつつ弾力性に富み、かつ遮水性を有することが分かる。
【0029】
「実施例3」
PVA、水、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物の配合割合を、それぞれ7.6質量部、69.2質量部、3.8質量部、19.4質量部に固定し、PVAの重合度とケン化度を変えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、本発明の弾性組成物は、適度な圧縮強度を持ちつつ弾力性に富み、かつ遮水性を有することが分かる。
【0032】
「実施例4」
PVA、水、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物の配合割合を、それぞれ7.6質量部、69.2質量部、3.8質量部、19.4質量部に固定し、有機酸をPVA、水、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート化合物の合計100質量部に対し、表4に示すように配合した以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0033】
「使用材料」
有機酸:昭和化工社製、商品名「クエン酸(無水)」
【0034】
【表4】

【0035】
表4に示すように、本発明の弾性組成物はゲル化時間が調整可能であり、適度な圧縮強度を持ちつつ弾力性に富み、かつ遮水性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の弾性組成物をトンネルおよび下水管などの地下構造物周囲に存在する空洞や土壌中に注入することで、適度な遮水性、弾力性、物理的強度を発現させ、構造物の耐久性を向上させることができるため、土木・建築分野などで幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、水、有機チタン化合物、およびカルシウムアルミネート化合物を含有してなる弾性組成物。
【請求項2】
カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.8〜2.5であることを特徴とする請求項1に記載の弾性組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコールと有機チタン化合物が水溶性であることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性組成物を地下構造物周囲に注入することを特徴とする補修工法。

【公開番号】特開2007−31662(P2007−31662A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220738(P2005−220738)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】