弾性表面波アクチュエータ
【課題】弾性表面波アクチュエータにおいて、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触面における滑りを低減して寿命の延長を実現する。
【解決手段】弾性表面波アクチュエータは、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極に供給するための高周波電源と、交差指電極と高周波電源とによって圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を、当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えている。高周波電源は、移動子の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させる。これにより、印加電圧Eを急激にオンオフする場合に比べて、固定子と移動子との間の滑りを低減して移動子の接触面の磨耗を低減でき、寿命の延長を実現できる。
【解決手段】弾性表面波アクチュエータは、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極に供給するための高周波電源と、交差指電極と高周波電源とによって圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を、当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えている。高周波電源は、移動子の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させる。これにより、印加電圧Eを急激にオンオフする場合に比べて、固定子と移動子との間の滑りを低減して移動子の接触面の磨耗を低減でき、寿命の延長を実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝搬する弾性表面波であるレイリー波を利用したリニアモータ形式の弾性表面波アクチュエータが知られている。例えば、図13に示す弾性表面波アクチュエータは、圧電材料からなる固定子92と、固定子92の表面(XY面とする)に配置される4つの交差指電極4と、この交差指電極4を励振させる高周波電源95と、各交差性電極4への電力の供給切替を行う切替スイッチ96と、固定子92上に配置される複数の点接触面を有する移動子93と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述の交差指電極4(Interdigital transducer,IDT)に高周波電圧が印加されると、図14に示すように、圧電材料からなる固定子92の表面が変形して弾性表面波Wが励振される。弾性表面波Wは、固定子92の表面の各点(粒子的に考えることができる)が互いに一定の時間ずれのもとで楕円運動することにより形成される。弾性表面波Wは、各粒子の楕円運動によって矢印で示す方向a1に進む。波長λ毎に現れる波の頂上部における粒子は、波の進行方向とは逆向きの速度Uを有する。
【0004】
移動子93は、上述のような速度Uの運動を行う各粒子から摩擦力を介して駆動力を受けて、速度Uの方向、すなわち弾性表面波Wの進行方向a1とは逆方向に移動する。図13に示した交差指電極4と移動子93の配置の場合、移動子93は、4方向からの弾性表面波Wを合成してなる弾性表面波の仮想の励振源に向かって移動する。その移動速度は、合成された弾性表面波の励振強度、従って、高周波電源95から供給される高周波の電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。すなわち、この弾性表面波アクチュエータにおける移動子93は、弾性表面波の進行方向と励振強度の調整により、XY面における速度可変の2次元的移動を行う。
【特許文献1】特許第3466690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した図13や特許文献1に示されるような従来の弾性表面波アクチュエータにおいては、固定子92の表面に配置される移動子93の点接触面が磨耗すると移動子93の駆動ができなくなるが、このような磨耗を低減して寿命を延ばすことについては何ら開示されてなく、寿命を延ばすことのできる弾性表面波アクチュエータの実現が望まれている。
【0006】
ここで、図15、図16を参照して、図13における1つの交差指電極4によって駆動される移動子93の駆動の様子と磨耗の発生について説明する。図15は、交差指電極4に印加される印加電圧の振幅Aと、移動子93の移動速度Vとの関係を時間軸tに沿って示しており、図16は、図15において、さらに、印加電圧Eの波形、E=A・sin(ωt+α)、を追加して示したものである。
【0007】
図15、図16において、交差指電極4への印加電圧Eは、オン・オフ切替によって制御されている。そこで、移動子93の速度は、励振開始後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0008】
このような移動子93の駆動において、加速領域aでは、移動子93の速度Vが弾性表面波Wの楕円運動の速度Uよりも遅いため滑りが生じる。等速領域bでは、速度Vと速度Uとは略等しく、滑りは殆ど生じない。また、減速領域cでは、印加電圧がゼロであるため速度Uはゼロであるが、移動子93は慣性運動による滑りが発生し、その滑りの間に移動子93の点接触面が固定子92から摩擦力を受けながら減速して停止する。
【0009】
このように、加減速時の滑りが発生すると、移動子93における固定子92との接触面に磨耗が発生する。このような滑りの発生に起因する移動子3の接触面の磨耗を効果的に低減することについて、従来、開示されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触面における滑りを低減して寿命の延長を実現できる弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動速度の加減速に際し、前記交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させるものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動開始時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧を印加して後、その電圧を増加させるものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動停止時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧まで電圧を減少させた後、その電圧をゼロとするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記高周波電源は、前記速度測定部による前記移動子の移動速度の測定結果に基づいて前記最低駆動電圧を補正するものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の加減速開始及び終了時に、前記移動子と前記固定子との間の滑りを低減するように、前記交差指電極に印加する電圧振幅を滑らかに変化させるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、移動速度の加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させるので、印加電圧を急激にオン・オフさせる場合に比べて、固定子と移動子との間の滑りをより少なくすることができる。従って、移動子の固定子表面との接触面における滑り(自動車における車輪の空回りに対応)による磨耗を低減し、見かけの耐磨耗性を向上させ、弾性表面波アクチュエータの寿命の延長を実現できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、移動子が移動しない状態では弾性表面波を励振させないので、移動子の固定子表面との接触面における滑り(これを例えると、ベルトサンダーによる研磨に対応)を抑えて接触面の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。最低駆動電圧は、移動子を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。移動開始時にこのような電圧印加を行う弾性表面波アクチュエータにおいては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。
【0018】
請求項3の発明によれば、移動子の停止状態では弾性表面波を励振させないので、移動子の固定子表面との接触面における滑りを抑えて接触面の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。最低駆動電圧は、移動子を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。停止時にこのような電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータにおいては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。なお、最低駆動電圧は、例えば、静止摩擦力と動摩擦力とが異なるように、移動開始時と停止状態への移行時とでは一般に異なる電圧となる。
【0019】
請求項4の発明によれば、移動速度の測定結果に基づいて移動子の移動開始や停止と印加電圧との関係を知ることができ、移動開始時や停止状態への移行時における最低駆動電圧を把握できる。従って、最低駆動電圧を適切に補正でき、稼動回数や稼動時間の経過等に伴って変化する移動子の接触面の状態に応じて、より精密に印加電圧の制御を行うことができ、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、移動速度の加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させることに加えて、加減速開始及び終了時に、印加電圧振幅を滑らかに変化させるので、より効果的に移動子と固定子との間の滑りを低減でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて、図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1(a)(b)は本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成と断面を示し、図2は同弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧波形および移動子の移動速度の時間変化を示す。
【0023】
弾性表面波アクチュエータ1は、図1(a)(b)に示すように、弾性表面波Wを励振するための交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給するための高周波電源5と、交差指電極4と高周波電源5とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wによる駆動力を、当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子3と、を備えている。高周波電源5は、図2に示すように、移動子3の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させる。以下、詳細を述べる。
【0024】
固定子2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のように圧電体そのものであったり、シリコン基板などの上に圧電材であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜を形成したものでもよい。また、これら以外の圧電材料を用いることもできる。固定子2の表面形状は、平面とは限らず円柱面やその他の曲面でもよい。圧電体のこのような平面や曲面または、このような面上に形成された圧電体の膜の表面に、弾性表面波Wが励振される。
【0025】
交差指電極4は、複数の櫛歯状の電極41を、互いの櫛歯が交互に入り込むように対向させて、固定子2の表面に形成されている。交差指電極4の電極ピッチの2倍(図中λ)は、励振される弾性表面波Wの波長に一致している。
【0026】
移動子3は、固定子2における表面波発生領域に、固定子2と接触して設けられている。移動子3は、固定子2に対して、相対的に移動する。通常、固定子2が固定され、移動子3が移動する。弾性表面波アクチュエ−タ1において、どちらが移動するかということは、相対的なものであり、移動子3が固定され、固定子2が移動する場合もある。
【0027】
移動子3は、例えば、シリコンのような硬い材料で形成される。移動子3における固定子2との接触面32には、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達するための複数の突起が設けられている。このような突起は、移動子3がシリコンで形成される場合、シリコンのエッチング工法で製作される。なお、移動子3の材料は、シリコンでなくても硬い材料であればよい。さらに、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達できるのであれば、接触面32における突起も不要である。
【0028】
移動子3は、予圧手段31によって予圧Fが加えられて、固定子2に圧接される。移動子3は、この予圧Fに基づく摩擦力によって駆動されて、固定子2上を移動する。固定子2の表面の弾性表面波Wは、予圧Fに逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって励振される必要がある。
【0029】
弾性表面波アクチュエ−タ1において、弾性表面波Wが励振され、移動子3に予圧Fが加えられた状態で、移動子3は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆の、方向a2に向かって速度Vで移動する。
【0030】
固定子2に励振される弾性表面波Wの振幅は、高周波電源5から交差指電極4に印加される電圧の大きさ(印加電圧の振幅A)に依存し、これらは移動子3の移動速度Vを決める。移動速度Vは、弾性表面波Wの励振強度(振幅)が大きいほど大きく、従って、高周波電源5から供給される印加電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。弾性表面波Wの波束の長さは、電圧の印加時間に対応する。移動子3の移動距離(位置)は、印加電圧の振幅Aと印加時間の長さとで決まる。
【0031】
(単位駆動サイクル)
ここで、単位駆動サイクルを、弾性表面波Wの励振開始から励振停止に至る間の移動子3の駆動と定義して、以下の説明を行う。この単位駆動サイクルは、図2に示す移動子3の一連の動作に対応する。すなわち、単位駆動サイクルにおいて、移動子3の速度Vは、励振開始後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0032】
この図2において、高周波電源5から交差指電極4に印加される印加電圧Eの波形を、E=A・sin(ωt+α)、としている。ここで、時間tに対する印加電圧Eの波形が、振幅A、波長λを与える角周波数ω、および所定の時刻からの位相変化を表す初期位相αによって表されている。
【0033】
単位駆動サイクルにおいて、印加電圧Eの振幅Aは、領域aにおいてゼロから徐々に増加され、領域bにおいて一定とされ、領域cにおいて徐々に減少されてゼロとなる。領域a,cにおいて、振幅Aは、徐々に、すなわち経過時間に比例するように、増減されている。このような振幅Aの増減は、本実施形態の弾性表面波アクチュエ−タ1においては、移動子3と固定子2との間で滑りが発生しないように行われている。
【0034】
これは、図2において、励振用の印加電圧Eの印加と共に移動子3の速度Vが増加し始め、電圧Eが一定になると共に速度Vが一定となり、電圧Eが減少し始めると共に速度Vが減少し始め、電圧Eがゼロとなるときに速度Vがゼロとなるというように、電圧Eと速度Vとが互いによりよく同期して変化していることで示されている。逆にいえば、電圧Eと速度Vとが同期するように、電圧E、すなわち振幅Aを変化させている。
【0035】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させるので、印加電圧Eを急激にオン・オフさせる場合に比べて、固定子2と移動子3と間の滑りをより少なくすることができる。従って、移動子3の固定子2の表面との接触面32における滑り(自動車の車輪の空回りに対応)による磨耗を低減し、見かけの耐磨耗性を向上させ、弾性表面波アクチュエータ1の寿命の延長を実現できる。
【0036】
なお、上述の図1の構成による弾性表面波アクチュエ−タ1は、移動子3を方向a2に向けて移動できるが、移動子3を一方方向にしか移動できない。そこで、方向a2とは逆の方向に移動子3を移動させる双方向移動のためには、復帰機構を設ければよい。例えば、バネなどの付勢力を用いた復帰機構により、方向a1向きに復帰させることができる。また、復帰機構として、方向a2側に、復帰用の交差指電極を設けてもよい。このような往復運動可能な弾性表面波アクチュエ−タ1を以下に述べる。
【0037】
(交差指電極の配置と構造の変形例)
図3(a)〜(d)は弾性表面波アクチュエータの交差指電極4の配置と構造の変形例を示す。これらの弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3を正逆両方向に移動可能とするように、移動子3の移動領域の両端に復帰機構として交差指電極4を備えている。さらに、これらの弾性表面波アクチュエータ1は、交差指電極4から移動子3側とは反対側に向かう弾性表面波を反射させてそのエネルギを有効利用するための機構(交差指電極4a、追加電極43、反射部40など)を備えている。なお、交差指電極4,4aなどの構造や配置は、一例であって、これらの図に示されるものに限られない。
【0038】
図3(a)(b)に示す弾性表面波アクチュエータ1における交差指電極4aは、隣接する駆動用の交差指電極4を一方向性の交差指電極とする反射用電極となっている。これらの電極は、多重反射によって弾性表面波を移動子3側に戻すものである。なお、このような櫛形電極ではなく、梯子型の電極としてもよい。
【0039】
また、図3(c)(d)に示す弾性表面波アクチュエータ1における駆動用の交差指電極4は、それぞれ、一方向性の交差指電極を構成するための構造が作り込まれている。図3(c)において、追加電極43は、互いに異極となる一対の個別電極の間に配置されており、フロート電位となって弾性表面波を反射する。
【0040】
また、図3(d)において、反射部40は、互いに異極となる交差指電極4の電極を所定間隔で配置し、これらの電極の各個別電極部分の一部表面と圧電基板(固定子2)の一部表面とにまたがる表面領域に、例えば、シリコン酸化物SiO2膜を形成したものである。反射部40は、圧電基板の表面における弾性表面波の伝搬に影響して反射材として機能する。以上の、反射用の交差指電極4a、追加電極43、反射部40などと組み合わせた交差指電極4は、一方向性の交差指電極と見做すことができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化を示し、図5は駆動開始時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態とは、移動子3の移動開始時t1における高周波電源5による電圧印加の方法が異なっており、他の点は同様である。すなわち、高周波電源5からの印加電圧Eは、図4に示すように、その振幅Aが、移動子3を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧e1を印加して後、徐々にその電圧E(振幅A)を増加される。
【0042】
上述の最低駆動電圧e1を説明する。移動子3は、上述したように、予圧Fが加えられて固定子2に圧接されており、移動子3を移動させるには、この予圧Fに逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって弾性表面波Wを励振する必要がある。弾性表面波Wの励振強度は、印加電圧Eによって決まるので、印加電圧Eが低いと、移動子3は移動しないことになる。図5は、このような状況を示しており、移動子3の移動開始時に、印加電圧の振幅A(印加電圧E)が最低駆動電圧e1を超えて、初めて速度Vが増加する。
【0043】
そこで、印加電圧Eが、最低駆動電圧e1よりも低い状態で弾性表面波Wが励振されている状態を想定すると、移動子3が移動しないにも拘わらず、固定子2の表面には伝搬する弾性表面波Wが生成されていることになる。すなわち固定子2の表面の楕円運動による移動運動が発生している。このことは、移動子3と固定子2との間に滑りが発生し、磨耗が発生することを意味する。
【0044】
そこで、移動開始時に上述のように、最低駆動電圧e1を印加して後、徐々にその電圧Eを増加させる電圧印加を行う弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3が移動しない状態では弾性表面波Wを励振させないので、移動子3の固定子2表面との接触面32における滑り(ベルトサンダーによる研磨に対応)を抑制し、接触面32の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。また、弾性表面波アクチュエータにおける、このような見かけの耐磨耗性の向上による寿命延長の他に、省エネルギー効果や応答速度の向上効果を実現できる。
【0045】
(第3の実施形態)
図6は第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化を示し、図7は駆動停止時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態とは、移動子3の移動停止時t2における高周波電源5による電圧印加停止の方法が異なっており、他の点は同様である。すなわち、高周波電源5からの印加電圧Eは、図6に示すように、その振幅Aが、移動子3を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧e2まで徐々に電圧を減少させた後、その電圧E(振幅A)をゼロとするものである。
【0046】
上述の最低駆動電圧e2を説明する。移動子3は、上述したように、停止時に慣性運動を行うので、停止時の滑りを減らすには、徐々に電圧Eを下げる必要がある。この場合、移動子3が停止した時点で、通常、印加電圧Eはゼロとはなってない。これは、上述したように、移動子3を移動させるには、予圧Fに逆らって移動子3を持ち上げるような弾性表面波Wを励振する必要があるためである。図7は、このような状況を示しており、移動子3の減速時に、印加電圧の振幅A(印加電圧E)が最低駆動電圧e2に達した時点で、速度Vがゼロとなる。
【0047】
そこで、印加電圧Eが、最低駆動電圧e2よりも低い状態で弾性表面波Wが励振されている状態を想定すると、移動子3が停止したにも拘わらず、固定子2の表面には伝搬する弾性表面波Wが生成されていることになる。すなわち固定子2の表面の楕円運動による移動運動が発生している。このことは、移動子3と固定子2との間に滑りが発生し、磨耗が発生することを意味する。
【0048】
そこで、移動停止時に上述のように、最低駆動電圧e2まで徐々に電圧を減少させた後、その電圧E(振幅A)をゼロとする電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の停止状態では弾性表面波Wを励振させないので、移動子3の固定子2表面との接触面32における滑りを抑えて接触面32の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。
【0049】
最低駆動電圧e2は、移動子3を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。停止時にこのような電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータ1においては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。なお、最低駆動電圧は、例えば、静止摩擦力と動摩擦力とが異なるように、移動状態への移行時と停止状態への移行時とでは一般に異なる電圧となり、一般にe1≠e2である。なお、両者の差を無視できる(e1≒e2)場合は、両者をいずれか一方で代表してもよい。
【0050】
また、図8に示すように、上述の第2、第3の実施形態における電圧印加と解除の方法を移動開始時t1と移動停止時t2の両方に取り入れることができる。図8において、時間t1,t2における振幅Aと速度Vの増減の開始終了が良く同期している。このような駆動によると、より長寿命化と省エネルギや応答速度の向上が見込まれる。
【0051】
(第4の実施形態)
図9は第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を示し、図10(a)(b)は最低駆動電圧と駆動開始時における印加電圧振幅と移動子の移動速度の時間変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第3の実施形態において、移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部6をさらに備えて最低駆動電圧e1を補正するようにしたものであり、他の点は同様である。
【0052】
すなわち、弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部6を備え、高周波電源5は、速度測定部6による移動子3の移動速度Vの測定結果に基づいて最低駆動電圧e1を補正する。
【0053】
移動子3は、稼動回数と稼動時間の経過とともその接触面32の磨耗が進行するので、一般に、これらの回数や時間とともに最低駆動電圧が増加する(磨耗によるスリップの増加のため、駆動しにくくなる)。そこで、図10(a)に示すように、移動子3の動作の度に移動子3が移動を開始する最低駆動電圧を測定すると、以前の駆動電圧e0では移動しないが駆動電圧e1で移動開始するという事態を把握できる。このような場合に、図10(b)に示すように、次回の移動子3の動作時には、最低駆動電圧e1に補正して移動を開始することとする。
【0054】
このように、移動子3の動作の度に最低駆動電圧e1を測定して補正する弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動速度Vの測定結果に基づいて移動子3の移動開始や停止と印加電圧との関係を知ることができ、移動開始時や停止状態への移行時における最低駆動電圧e1,e2を把握できる。従って、最低駆動電圧e1,e2を適切に補正でき、稼動回数や稼動時間の経過等に伴って変化する移動子3の接触面32の状態に応じて、より精密に印加電圧Eの制御を行うことができ、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長をより効果的に実現できる。
【0055】
(第5の実施形態)
図11は第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅と移動子の移動速度の時間変化を示し、図12は図11に印加電圧波形を追加したものを示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第3の実施形態に関連して示した図8の実施形態において、移動子3の加減速開始及び終了時に、移動子3と固定子2との間の滑りを低減するように、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを滑らかに変化させるものであり、他の点は同様である。
【0056】
すなわち、本実施形態において、高周波電源5は、図11に示すように、時間t1における移動開始後の加速開始状態p1、等速状態に入る前の加速終了状態p2、等速状態から減速状態に移行する減速開始状態p3、および減速状態から時間t2における停止に至る減速終了状態p4において、印加電圧E(振幅A)を滑らかに変化させて交差指電極4に電圧を印加する。
【0057】
このように、本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1においては、移動子3の移動から停止にかけて、その移動速度の加減速に際して交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させることに加え、加減速開始及び終了時に印加電圧振幅Aを滑らかに変化させるので、より効果的に移動子3と固定子2との間の滑りを低減でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。なお、このように、印加電圧振幅Aを滑らかに変化する電圧印加方法は、図8の場合に限らず、上述した他の実施形態のいずれにおいても同様に適用することができる。
【0058】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、最低駆動電圧e1,e2は、移動子3にかかる負荷や予圧の変動によっても変化するので、必ずしも稼動回数や稼働時間と共に増大するとは限らず、状況に応じて適宜変化させればよい。また、印加電圧の振幅を徐々にまたは滑らかに変化させる際に、速度測定部6からの速度データに基づいて、フィードバック制御を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を説明する平面図、(b)は同断面図。
【図2】同上弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧波形および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図3】(a)〜(d)は同上弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す平面図。
【図4】第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図5】同上弾性表面波アクチュエータの駆動開始時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化のグラフ。
【図6】第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図7】同上弾性表面波アクチュエータの駆動停止時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化のグラフ。
【図8】同上弾性表面波アクチュエータの変形例を説明するための印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図9】第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を説明する平面図。
【図10】(a)は同上弾性表面波アクチュエータの最低駆動電圧の変化を説明するための駆動開始時における印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ、(b)は最低駆動電圧を補正した後の駆動開始時における印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図11】第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図12】図11のグラフに印加電圧波形を追加して表示したグラフ。
【図13】従来の弾性表面波アクチュエータの例を示す平面図。
【図14】一般的な弾性表面波の励振と伝搬を説明する圧電基板表面部分の拡大断面図。
【図15】従来の弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図16】図15のグラフに印加電圧波形を追加して表示したグラフ。
【符号の説明】
【0060】
1 弾性表面波アクチュエータ
2 固定子
3 移動子
4 交差指電極
5 高周波電源
6 速度測定部
e1,e2 最低駆動電圧
A 振幅
E 電圧
V 速度(移動子の)
W 弾性表面波
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝搬する弾性表面波であるレイリー波を利用したリニアモータ形式の弾性表面波アクチュエータが知られている。例えば、図13に示す弾性表面波アクチュエータは、圧電材料からなる固定子92と、固定子92の表面(XY面とする)に配置される4つの交差指電極4と、この交差指電極4を励振させる高周波電源95と、各交差性電極4への電力の供給切替を行う切替スイッチ96と、固定子92上に配置される複数の点接触面を有する移動子93と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述の交差指電極4(Interdigital transducer,IDT)に高周波電圧が印加されると、図14に示すように、圧電材料からなる固定子92の表面が変形して弾性表面波Wが励振される。弾性表面波Wは、固定子92の表面の各点(粒子的に考えることができる)が互いに一定の時間ずれのもとで楕円運動することにより形成される。弾性表面波Wは、各粒子の楕円運動によって矢印で示す方向a1に進む。波長λ毎に現れる波の頂上部における粒子は、波の進行方向とは逆向きの速度Uを有する。
【0004】
移動子93は、上述のような速度Uの運動を行う各粒子から摩擦力を介して駆動力を受けて、速度Uの方向、すなわち弾性表面波Wの進行方向a1とは逆方向に移動する。図13に示した交差指電極4と移動子93の配置の場合、移動子93は、4方向からの弾性表面波Wを合成してなる弾性表面波の仮想の励振源に向かって移動する。その移動速度は、合成された弾性表面波の励振強度、従って、高周波電源95から供給される高周波の電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。すなわち、この弾性表面波アクチュエータにおける移動子93は、弾性表面波の進行方向と励振強度の調整により、XY面における速度可変の2次元的移動を行う。
【特許文献1】特許第3466690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した図13や特許文献1に示されるような従来の弾性表面波アクチュエータにおいては、固定子92の表面に配置される移動子93の点接触面が磨耗すると移動子93の駆動ができなくなるが、このような磨耗を低減して寿命を延ばすことについては何ら開示されてなく、寿命を延ばすことのできる弾性表面波アクチュエータの実現が望まれている。
【0006】
ここで、図15、図16を参照して、図13における1つの交差指電極4によって駆動される移動子93の駆動の様子と磨耗の発生について説明する。図15は、交差指電極4に印加される印加電圧の振幅Aと、移動子93の移動速度Vとの関係を時間軸tに沿って示しており、図16は、図15において、さらに、印加電圧Eの波形、E=A・sin(ωt+α)、を追加して示したものである。
【0007】
図15、図16において、交差指電極4への印加電圧Eは、オン・オフ切替によって制御されている。そこで、移動子93の速度は、励振開始後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0008】
このような移動子93の駆動において、加速領域aでは、移動子93の速度Vが弾性表面波Wの楕円運動の速度Uよりも遅いため滑りが生じる。等速領域bでは、速度Vと速度Uとは略等しく、滑りは殆ど生じない。また、減速領域cでは、印加電圧がゼロであるため速度Uはゼロであるが、移動子93は慣性運動による滑りが発生し、その滑りの間に移動子93の点接触面が固定子92から摩擦力を受けながら減速して停止する。
【0009】
このように、加減速時の滑りが発生すると、移動子93における固定子92との接触面に磨耗が発生する。このような滑りの発生に起因する移動子3の接触面の磨耗を効果的に低減することについて、従来、開示されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触面における滑りを低減して寿命の延長を実現できる弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動速度の加減速に際し、前記交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させるものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動開始時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧を印加して後、その電圧を増加させるものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の移動停止時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧まで電圧を減少させた後、その電圧をゼロとするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記高周波電源は、前記速度測定部による前記移動子の移動速度の測定結果に基づいて前記最低駆動電圧を補正するものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子の加減速開始及び終了時に、前記移動子と前記固定子との間の滑りを低減するように、前記交差指電極に印加する電圧振幅を滑らかに変化させるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、移動速度の加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させるので、印加電圧を急激にオン・オフさせる場合に比べて、固定子と移動子との間の滑りをより少なくすることができる。従って、移動子の固定子表面との接触面における滑り(自動車における車輪の空回りに対応)による磨耗を低減し、見かけの耐磨耗性を向上させ、弾性表面波アクチュエータの寿命の延長を実現できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、移動子が移動しない状態では弾性表面波を励振させないので、移動子の固定子表面との接触面における滑り(これを例えると、ベルトサンダーによる研磨に対応)を抑えて接触面の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。最低駆動電圧は、移動子を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。移動開始時にこのような電圧印加を行う弾性表面波アクチュエータにおいては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。
【0018】
請求項3の発明によれば、移動子の停止状態では弾性表面波を励振させないので、移動子の固定子表面との接触面における滑りを抑えて接触面の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。最低駆動電圧は、移動子を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。停止時にこのような電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータにおいては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。なお、最低駆動電圧は、例えば、静止摩擦力と動摩擦力とが異なるように、移動開始時と停止状態への移行時とでは一般に異なる電圧となる。
【0019】
請求項4の発明によれば、移動速度の測定結果に基づいて移動子の移動開始や停止と印加電圧との関係を知ることができ、移動開始時や停止状態への移行時における最低駆動電圧を把握できる。従って、最低駆動電圧を適切に補正でき、稼動回数や稼動時間の経過等に伴って変化する移動子の接触面の状態に応じて、より精密に印加電圧の制御を行うことができ、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、移動速度の加減速に際し、交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させることに加えて、加減速開始及び終了時に、印加電圧振幅を滑らかに変化させるので、より効果的に移動子と固定子との間の滑りを低減でき、弾性表面波アクチュエータの寿命延長を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて、図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1(a)(b)は本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成と断面を示し、図2は同弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧波形および移動子の移動速度の時間変化を示す。
【0023】
弾性表面波アクチュエータ1は、図1(a)(b)に示すように、弾性表面波Wを励振するための交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給するための高周波電源5と、交差指電極4と高周波電源5とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wによる駆動力を、当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子3と、を備えている。高周波電源5は、図2に示すように、移動子3の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させる。以下、詳細を述べる。
【0024】
固定子2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のように圧電体そのものであったり、シリコン基板などの上に圧電材であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜を形成したものでもよい。また、これら以外の圧電材料を用いることもできる。固定子2の表面形状は、平面とは限らず円柱面やその他の曲面でもよい。圧電体のこのような平面や曲面または、このような面上に形成された圧電体の膜の表面に、弾性表面波Wが励振される。
【0025】
交差指電極4は、複数の櫛歯状の電極41を、互いの櫛歯が交互に入り込むように対向させて、固定子2の表面に形成されている。交差指電極4の電極ピッチの2倍(図中λ)は、励振される弾性表面波Wの波長に一致している。
【0026】
移動子3は、固定子2における表面波発生領域に、固定子2と接触して設けられている。移動子3は、固定子2に対して、相対的に移動する。通常、固定子2が固定され、移動子3が移動する。弾性表面波アクチュエ−タ1において、どちらが移動するかということは、相対的なものであり、移動子3が固定され、固定子2が移動する場合もある。
【0027】
移動子3は、例えば、シリコンのような硬い材料で形成される。移動子3における固定子2との接触面32には、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達するための複数の突起が設けられている。このような突起は、移動子3がシリコンで形成される場合、シリコンのエッチング工法で製作される。なお、移動子3の材料は、シリコンでなくても硬い材料であればよい。さらに、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達できるのであれば、接触面32における突起も不要である。
【0028】
移動子3は、予圧手段31によって予圧Fが加えられて、固定子2に圧接される。移動子3は、この予圧Fに基づく摩擦力によって駆動されて、固定子2上を移動する。固定子2の表面の弾性表面波Wは、予圧Fに逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって励振される必要がある。
【0029】
弾性表面波アクチュエ−タ1において、弾性表面波Wが励振され、移動子3に予圧Fが加えられた状態で、移動子3は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆の、方向a2に向かって速度Vで移動する。
【0030】
固定子2に励振される弾性表面波Wの振幅は、高周波電源5から交差指電極4に印加される電圧の大きさ(印加電圧の振幅A)に依存し、これらは移動子3の移動速度Vを決める。移動速度Vは、弾性表面波Wの励振強度(振幅)が大きいほど大きく、従って、高周波電源5から供給される印加電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。弾性表面波Wの波束の長さは、電圧の印加時間に対応する。移動子3の移動距離(位置)は、印加電圧の振幅Aと印加時間の長さとで決まる。
【0031】
(単位駆動サイクル)
ここで、単位駆動サイクルを、弾性表面波Wの励振開始から励振停止に至る間の移動子3の駆動と定義して、以下の説明を行う。この単位駆動サイクルは、図2に示す移動子3の一連の動作に対応する。すなわち、単位駆動サイクルにおいて、移動子3の速度Vは、励振開始後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0032】
この図2において、高周波電源5から交差指電極4に印加される印加電圧Eの波形を、E=A・sin(ωt+α)、としている。ここで、時間tに対する印加電圧Eの波形が、振幅A、波長λを与える角周波数ω、および所定の時刻からの位相変化を表す初期位相αによって表されている。
【0033】
単位駆動サイクルにおいて、印加電圧Eの振幅Aは、領域aにおいてゼロから徐々に増加され、領域bにおいて一定とされ、領域cにおいて徐々に減少されてゼロとなる。領域a,cにおいて、振幅Aは、徐々に、すなわち経過時間に比例するように、増減されている。このような振幅Aの増減は、本実施形態の弾性表面波アクチュエ−タ1においては、移動子3と固定子2との間で滑りが発生しないように行われている。
【0034】
これは、図2において、励振用の印加電圧Eの印加と共に移動子3の速度Vが増加し始め、電圧Eが一定になると共に速度Vが一定となり、電圧Eが減少し始めると共に速度Vが減少し始め、電圧Eがゼロとなるときに速度Vがゼロとなるというように、電圧Eと速度Vとが互いによりよく同期して変化していることで示されている。逆にいえば、電圧Eと速度Vとが同期するように、電圧E、すなわち振幅Aを変化させている。
【0035】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の移動速度Vの加減速に際し、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させるので、印加電圧Eを急激にオン・オフさせる場合に比べて、固定子2と移動子3と間の滑りをより少なくすることができる。従って、移動子3の固定子2の表面との接触面32における滑り(自動車の車輪の空回りに対応)による磨耗を低減し、見かけの耐磨耗性を向上させ、弾性表面波アクチュエータ1の寿命の延長を実現できる。
【0036】
なお、上述の図1の構成による弾性表面波アクチュエ−タ1は、移動子3を方向a2に向けて移動できるが、移動子3を一方方向にしか移動できない。そこで、方向a2とは逆の方向に移動子3を移動させる双方向移動のためには、復帰機構を設ければよい。例えば、バネなどの付勢力を用いた復帰機構により、方向a1向きに復帰させることができる。また、復帰機構として、方向a2側に、復帰用の交差指電極を設けてもよい。このような往復運動可能な弾性表面波アクチュエ−タ1を以下に述べる。
【0037】
(交差指電極の配置と構造の変形例)
図3(a)〜(d)は弾性表面波アクチュエータの交差指電極4の配置と構造の変形例を示す。これらの弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3を正逆両方向に移動可能とするように、移動子3の移動領域の両端に復帰機構として交差指電極4を備えている。さらに、これらの弾性表面波アクチュエータ1は、交差指電極4から移動子3側とは反対側に向かう弾性表面波を反射させてそのエネルギを有効利用するための機構(交差指電極4a、追加電極43、反射部40など)を備えている。なお、交差指電極4,4aなどの構造や配置は、一例であって、これらの図に示されるものに限られない。
【0038】
図3(a)(b)に示す弾性表面波アクチュエータ1における交差指電極4aは、隣接する駆動用の交差指電極4を一方向性の交差指電極とする反射用電極となっている。これらの電極は、多重反射によって弾性表面波を移動子3側に戻すものである。なお、このような櫛形電極ではなく、梯子型の電極としてもよい。
【0039】
また、図3(c)(d)に示す弾性表面波アクチュエータ1における駆動用の交差指電極4は、それぞれ、一方向性の交差指電極を構成するための構造が作り込まれている。図3(c)において、追加電極43は、互いに異極となる一対の個別電極の間に配置されており、フロート電位となって弾性表面波を反射する。
【0040】
また、図3(d)において、反射部40は、互いに異極となる交差指電極4の電極を所定間隔で配置し、これらの電極の各個別電極部分の一部表面と圧電基板(固定子2)の一部表面とにまたがる表面領域に、例えば、シリコン酸化物SiO2膜を形成したものである。反射部40は、圧電基板の表面における弾性表面波の伝搬に影響して反射材として機能する。以上の、反射用の交差指電極4a、追加電極43、反射部40などと組み合わせた交差指電極4は、一方向性の交差指電極と見做すことができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化を示し、図5は駆動開始時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態とは、移動子3の移動開始時t1における高周波電源5による電圧印加の方法が異なっており、他の点は同様である。すなわち、高周波電源5からの印加電圧Eは、図4に示すように、その振幅Aが、移動子3を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧e1を印加して後、徐々にその電圧E(振幅A)を増加される。
【0042】
上述の最低駆動電圧e1を説明する。移動子3は、上述したように、予圧Fが加えられて固定子2に圧接されており、移動子3を移動させるには、この予圧Fに逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって弾性表面波Wを励振する必要がある。弾性表面波Wの励振強度は、印加電圧Eによって決まるので、印加電圧Eが低いと、移動子3は移動しないことになる。図5は、このような状況を示しており、移動子3の移動開始時に、印加電圧の振幅A(印加電圧E)が最低駆動電圧e1を超えて、初めて速度Vが増加する。
【0043】
そこで、印加電圧Eが、最低駆動電圧e1よりも低い状態で弾性表面波Wが励振されている状態を想定すると、移動子3が移動しないにも拘わらず、固定子2の表面には伝搬する弾性表面波Wが生成されていることになる。すなわち固定子2の表面の楕円運動による移動運動が発生している。このことは、移動子3と固定子2との間に滑りが発生し、磨耗が発生することを意味する。
【0044】
そこで、移動開始時に上述のように、最低駆動電圧e1を印加して後、徐々にその電圧Eを増加させる電圧印加を行う弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3が移動しない状態では弾性表面波Wを励振させないので、移動子3の固定子2表面との接触面32における滑り(ベルトサンダーによる研磨に対応)を抑制し、接触面32の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。また、弾性表面波アクチュエータにおける、このような見かけの耐磨耗性の向上による寿命延長の他に、省エネルギー効果や応答速度の向上効果を実現できる。
【0045】
(第3の実施形態)
図6は第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化を示し、図7は駆動停止時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態とは、移動子3の移動停止時t2における高周波電源5による電圧印加停止の方法が異なっており、他の点は同様である。すなわち、高周波電源5からの印加電圧Eは、図6に示すように、その振幅Aが、移動子3を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧e2まで徐々に電圧を減少させた後、その電圧E(振幅A)をゼロとするものである。
【0046】
上述の最低駆動電圧e2を説明する。移動子3は、上述したように、停止時に慣性運動を行うので、停止時の滑りを減らすには、徐々に電圧Eを下げる必要がある。この場合、移動子3が停止した時点で、通常、印加電圧Eはゼロとはなってない。これは、上述したように、移動子3を移動させるには、予圧Fに逆らって移動子3を持ち上げるような弾性表面波Wを励振する必要があるためである。図7は、このような状況を示しており、移動子3の減速時に、印加電圧の振幅A(印加電圧E)が最低駆動電圧e2に達した時点で、速度Vがゼロとなる。
【0047】
そこで、印加電圧Eが、最低駆動電圧e2よりも低い状態で弾性表面波Wが励振されている状態を想定すると、移動子3が停止したにも拘わらず、固定子2の表面には伝搬する弾性表面波Wが生成されていることになる。すなわち固定子2の表面の楕円運動による移動運動が発生している。このことは、移動子3と固定子2との間に滑りが発生し、磨耗が発生することを意味する。
【0048】
そこで、移動停止時に上述のように、最低駆動電圧e2まで徐々に電圧を減少させた後、その電圧E(振幅A)をゼロとする電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の停止状態では弾性表面波Wを励振させないので、移動子3の固定子2表面との接触面32における滑りを抑えて接触面32の磨耗を回避でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。
【0049】
最低駆動電圧e2は、移動子3を駆動可能すなわち移動可能とする弾性表面波を励振する最小の電圧である。停止時にこのような電圧印加の解除を行う弾性表面波アクチュエータ1においては、見かけの耐磨耗性の向上の他に、省エネルギーや応答速度の向上を実現できる。なお、最低駆動電圧は、例えば、静止摩擦力と動摩擦力とが異なるように、移動状態への移行時と停止状態への移行時とでは一般に異なる電圧となり、一般にe1≠e2である。なお、両者の差を無視できる(e1≒e2)場合は、両者をいずれか一方で代表してもよい。
【0050】
また、図8に示すように、上述の第2、第3の実施形態における電圧印加と解除の方法を移動開始時t1と移動停止時t2の両方に取り入れることができる。図8において、時間t1,t2における振幅Aと速度Vの増減の開始終了が良く同期している。このような駆動によると、より長寿命化と省エネルギや応答速度の向上が見込まれる。
【0051】
(第4の実施形態)
図9は第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を示し、図10(a)(b)は最低駆動電圧と駆動開始時における印加電圧振幅と移動子の移動速度の時間変化を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第3の実施形態において、移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部6をさらに備えて最低駆動電圧e1を補正するようにしたものであり、他の点は同様である。
【0052】
すなわち、弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部6を備え、高周波電源5は、速度測定部6による移動子3の移動速度Vの測定結果に基づいて最低駆動電圧e1を補正する。
【0053】
移動子3は、稼動回数と稼動時間の経過とともその接触面32の磨耗が進行するので、一般に、これらの回数や時間とともに最低駆動電圧が増加する(磨耗によるスリップの増加のため、駆動しにくくなる)。そこで、図10(a)に示すように、移動子3の動作の度に移動子3が移動を開始する最低駆動電圧を測定すると、以前の駆動電圧e0では移動しないが駆動電圧e1で移動開始するという事態を把握できる。このような場合に、図10(b)に示すように、次回の移動子3の動作時には、最低駆動電圧e1に補正して移動を開始することとする。
【0054】
このように、移動子3の動作の度に最低駆動電圧e1を測定して補正する弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動速度Vの測定結果に基づいて移動子3の移動開始や停止と印加電圧との関係を知ることができ、移動開始時や停止状態への移行時における最低駆動電圧e1,e2を把握できる。従って、最低駆動電圧e1,e2を適切に補正でき、稼動回数や稼動時間の経過等に伴って変化する移動子3の接触面32の状態に応じて、より精密に印加電圧Eの制御を行うことができ、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長をより効果的に実現できる。
【0055】
(第5の実施形態)
図11は第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅と移動子の移動速度の時間変化を示し、図12は図11に印加電圧波形を追加したものを示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第3の実施形態に関連して示した図8の実施形態において、移動子3の加減速開始及び終了時に、移動子3と固定子2との間の滑りを低減するように、交差指電極4に印加する電圧振幅Aを滑らかに変化させるものであり、他の点は同様である。
【0056】
すなわち、本実施形態において、高周波電源5は、図11に示すように、時間t1における移動開始後の加速開始状態p1、等速状態に入る前の加速終了状態p2、等速状態から減速状態に移行する減速開始状態p3、および減速状態から時間t2における停止に至る減速終了状態p4において、印加電圧E(振幅A)を滑らかに変化させて交差指電極4に電圧を印加する。
【0057】
このように、本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1においては、移動子3の移動から停止にかけて、その移動速度の加減速に際して交差指電極4に印加する電圧振幅Aを徐々に増加または減少させることに加え、加減速開始及び終了時に印加電圧振幅Aを滑らかに変化させるので、より効果的に移動子3と固定子2との間の滑りを低減でき、弾性表面波アクチュエータ1の寿命延長を実現できる。なお、このように、印加電圧振幅Aを滑らかに変化する電圧印加方法は、図8の場合に限らず、上述した他の実施形態のいずれにおいても同様に適用することができる。
【0058】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、最低駆動電圧e1,e2は、移動子3にかかる負荷や予圧の変動によっても変化するので、必ずしも稼動回数や稼働時間と共に増大するとは限らず、状況に応じて適宜変化させればよい。また、印加電圧の振幅を徐々にまたは滑らかに変化させる際に、速度測定部6からの速度データに基づいて、フィードバック制御を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を説明する平面図、(b)は同断面図。
【図2】同上弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧波形および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図3】(a)〜(d)は同上弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す平面図。
【図4】第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図5】同上弾性表面波アクチュエータの駆動開始時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化のグラフ。
【図6】第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図7】同上弾性表面波アクチュエータの駆動停止時における印加電圧の振幅に対する移動子の速度変化のグラフ。
【図8】同上弾性表面波アクチュエータの変形例を説明するための印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図9】第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの構成を説明する平面図。
【図10】(a)は同上弾性表面波アクチュエータの最低駆動電圧の変化を説明するための駆動開始時における印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ、(b)は最低駆動電圧を補正した後の駆動開始時における印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図11】第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図12】図11のグラフに印加電圧波形を追加して表示したグラフ。
【図13】従来の弾性表面波アクチュエータの例を示す平面図。
【図14】一般的な弾性表面波の励振と伝搬を説明する圧電基板表面部分の拡大断面図。
【図15】従来の弾性表面波アクチュエータにおける駆動用の印加電圧の振幅および移動子の移動速度の時間変化のグラフ。
【図16】図15のグラフに印加電圧波形を追加して表示したグラフ。
【符号の説明】
【0060】
1 弾性表面波アクチュエータ
2 固定子
3 移動子
4 交差指電極
5 高周波電源
6 速度測定部
e1,e2 最低駆動電圧
A 振幅
E 電圧
V 速度(移動子の)
W 弾性表面波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、
弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、
前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記高周波電源は、前記移動子の移動速度の加減速に際し、前記交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
前記高周波電源は、前記移動子の移動開始時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧を印加して後、その電圧を増加させることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記高周波電源は、前記移動子の移動停止時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧まで電圧を減少させた後、その電圧をゼロとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記高周波電源は、前記速度測定部による前記移動子の移動速度の測定結果に基づいて前記最低駆動電圧を補正することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
前記高周波電源は、前記移動子の加減速開始及び終了時に、前記移動子と前記固定子との間の滑りを低減するように、前記交差指電極に印加する電圧振幅を滑らかに変化させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項1】
弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、
弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、
前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波による駆動力を当該表面に押し付けられることによって発生する摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記高周波電源は、前記移動子の移動速度の加減速に際し、前記交差指電極に印加する電圧振幅を徐々に増加または減少させることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
前記高周波電源は、前記移動子の移動開始時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧を印加して後、その電圧を増加させることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記高周波電源は、前記移動子の移動停止時に、当該移動子を駆動可能な最小の電圧である最低駆動電圧まで電圧を減少させた後、その電圧をゼロとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記高周波電源は、前記速度測定部による前記移動子の移動速度の測定結果に基づいて前記最低駆動電圧を補正することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
前記高周波電源は、前記移動子の加減速開始及び終了時に、前記移動子と前記固定子との間の滑りを低減するように、前記交差指電極に印加する電圧振幅を滑らかに変化させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−106043(P2009−106043A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274493(P2007−274493)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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