説明

弾性表面波デバイス、及びその製造方法

【課題】特定の環境処理を必要としないで、電極の腐食防止を可能とする弾性表面波デバイス及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】圧電基板と、前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極と、前記圧電基板上において前記弾性表面波形成用電極を囲う枠状層と、前記枠状層上に接合形成され、前記弾性表面波形成用電極との間に中空部を形成する蓋体とを有し、前記枠状層及び前記蓋体は感光性樹脂を含み、前記蓋体は貫通孔を有し、前記貫通孔はハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信機器等に使用される弾性表面波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動通信機器等に使用されるデュプレクサやフィルタとして弾性表面波デバイスが広く使用されている。
【0003】
図1に従来技術として、特許文献1に記載された弾性表面波デバイスの構成例を示す。
【0004】
図1は、個別に切り出された弾性表面波デバイスの断面の概略構成を示している。回路基板2上に弾性表面波素子チップ1が弾性表面波形成電極を上側にして配置されている。
【0005】
弾性表面波素子チップ1の弾性表面波形成電極は弾性表面波を励振するインターデジタルトランスジューサ(IDT)10とその両側に配置される一対の反射電極11を有している。電極はボンディングワイヤー12によりメタルポストを通して回路基板2側の電極3に接続される。
【0006】
さらに、図1の構成において、絶縁性の縁部4と蓋部5により弾性表面波素子チップ1を覆い、弾性表面波の伝搬路の上に中空部13を形成している。
【0007】
ここで、特許文献1において、絶縁性の縁部4と蓋部5により弾性表面波素子チップ1を覆う効果として「機能部の表面に中空部(9)を保ちつつ保護されているので、チップ(1)を取り扱う上で誤って機能部(1a)を破損するおそれもなく安定して製造することができる。また、機能部1aは第1及び第2の絶縁性フィルム2a,2bにて簡易封止がなされているため、従来の表面弾性波装置のように必ずしも機密封止を行なう必要がなく、安価な表面弾性波装置を得ることができる。」(特許文献1,0017欄)と記載されている。
【0008】
これに対し、IDT及び反射電極の形成材料は、アルミニウム合金であるため、長期的に湿度が高い雰囲気中に曝すとアルミニウムが腐食し電極が劣化することが知られている(例えば、特許文献2、1頁17行〜19行)。
【0009】
すなわち、図2は、特許文献2に示される構造の弾性表面波デバイスの構造を示す図である。弾性表面波素子チップ1の接続用電極とメタルボール14を通して回路基板2側の電極3に接続される。したがって、メタルボール14により、弾性表面波素子チップ1と回路基板2との間に中空部13が形成される。
【0010】
さらに、弾性表面波素子チップ1の上面側及び側面側に樹脂被覆6が形成されている。この樹脂被覆6について、電極の腐食を防ぐために、塩素イオン含有量の少ない樹脂で形成されなければならない旨記載されている。
【特許文献1】特開2000−114918号公報
【特許文献2】国際公開WO02/061943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1において、絶縁性の縁部4と蓋部5は、感光性フィルムが用いられることが示されている(特許文献1、図3参照)。そして、感光性フィルムはその特性からハロゲン化合物を含んでいることは、自明であり、弾性表面波デバイスの製造過程において、例えば、リフロー等の加熱時には、感光性フィルムからハロゲンガスの一部は中空部(9)に放出される。
【0012】
したがって、上記特許文献2に示されていると同様に、中空部内の弾性表面波形成電極であるIDT及び反射電極に腐食等の悪影響を及ぼす恐れがある。しかし、特許文献1には、かかるハロゲンガスによる電極への影響も、従ってかかる電極への影響を回避することについては、開示も示唆もない。
【0013】
一方、特許文献2には、上記のとおり、電極の腐食の問題について示されているが、その問題の解決方法として、所定の環境処理(加熱、加圧処理)を施して塩素イオン含有量の少ない樹脂材料として、これを被覆材料に用いることを提示している。
【0014】
かかる点から本発明の目的は、特許文献2に記載されるような塩素イオン含有量の少ない樹脂材料を得るための特定の環境処理を必要としないで、電極の腐食防止を可能とする弾性表面波デバイス及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成する本発明の第1の側面は、弾性表面波デバイスであって、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極と、前記圧電基板上において前記弾性表面波形成用電極を囲う枠状層と、前記枠状層上に接合形成され、前記弾性表面波形成用電極との間に中空部を形成する蓋体とを有し、前記枠状層及び前記蓋体は感光性樹脂を含み、前記蓋体は貫通孔を有し、前記貫通孔はハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれていることを特徴とする。
【0016】
このように、枠状層及び蓋体は感光性樹脂を含み、蓋体は貫通孔を有し、貫通孔はハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれている。これにより、弾性表面波デバイスの製造工程に必須の加熱工程で感光性樹脂に含まれるハロゲン化合物が貫通孔を通じてハロゲンガスとして放出される。このため、ハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれた中空部には、ハロゲンガスが残留しておらず、ハロゲンガスによるIDT電極の腐食を防止することができる。
【0017】
本発明に従う弾性表面波デバイスの製造方法は、圧電基板上に弾性表面波形成用電極を形成する工程と、前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極を囲う枠状層を形成する工程と、前記枠状層上に、貫通孔を有する蓋体を接合形成して、前記弾性表面波形成用電極との間に中空部を形成する工程と、前記蓋体で密閉された状態で真空中で加熱して、前記枠状層及び蓋体から発生するハロゲンガスを、前記貫通孔を通じて除去する工程と、更に、前記ハロゲンガスを除去した後、前貫通孔をハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞ぐ工程を有することを特徴とする。
【0018】
このように本発明に従う製造方法によれば、ハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれた中空部にはハロゲンガスの残留がないため、ハロゲンガスによるIDT電極の腐食を防止した信頼性の高い弾性表面波デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面に従い、本発明の実施例を説明する。
【0020】
[第1実施例]
図3は,本発明に従う弾性表面波デバイスの第1の実施例の断面模式図を示す図である。図5は、その製造過程を説明する工程図である。
【0021】
なお、図示される弾性表面波デバイスは、ウエハー上に複数同時に形成される弾性表面波デバイスから製造完了時にダイシングにより個片化される状態を想定して、一個のみの弾性表面波デバイスを示している。
【0022】
図3において、LiTaO等からなる圧電基板1を用意し(処理工程P1)、その上に弾性表面波形成用電極として、Al−Cuからなるアルミニウム合金の弾性表面波を励振する駆動電極部となるIDT10及び反射電極11を形成し、更に外部との接続を行なう配線電極15を形成する。さらに、圧電基板1,駆動電極部、及び配線電極15上にケイ素化合物(SiO,SiN)からなる保護膜18を形成する(処理工程P2)。
【0023】
この際、メタルポスト17との接続を確実にするために、配線電極15上にTi/Auからなるバリアメタル16を形成する(処理工程P2)。
【0024】
ついで、圧電基板1上に,エポキシ系感光性ネガレジストを30μmの厚みでスピン塗布する。そして、パターニング露光及び現像することにより,駆動電極部の領域A及びメタルポスト形成部B(図5参照)のレジストを除去する(処理工程P3)。
【0025】
上記処理により,駆動電極部A及びメタルポスト形成部Bのみレジストに覆われない枠状層20が形成される。
【0026】
ついで、30μm厚の蓋体21となる感光性フィルムネガレジスト21を,テンティング法により枠状層20の上に貼り付ける。処理工程P3の際と同様に、パターニング露光及び現像することにより,メタルポスト形成部B、及び貫通孔部30Aのレジストを除去する(処理工程P4)。これにより,駆動電極部Aは貫通孔部30Aを備えた中空構造となる。
【0027】
その後,真空中(約1torr)において200〜250℃に加熱する。これにより,感光性ネガレジストである枠状層20及び蓋体21から、加熱によりハロゲンガスが発生するが、発生したハロゲンガスを,貫通孔30Aを通じて除去することができる。
【0028】
なお、枠状層20及び蓋体21から発生するハロゲンガスを効率良く除去するには,高湿度下(85〜100%RH)および高温環境下(100〜120℃)において,所定の時間保持した後,真空中での加熱を行うとよい。もしくは,HOプラズマ中で,圧電基板1を加熱(100〜250℃)してもよい。
【0029】
つぎに、液状のハロゲンフリー熱硬化性樹脂30により印刷法を用いて、貫通孔30Aを,塞ぐことができる。これにより,ハロゲンガスを含まない駆動電極部Aの中空部13を形成することができる(処理工程P5)。
【0030】
その後、メタルポスト形成部Bにニッケルのメタルポスト17をその上にSnAgCu合金の半田ボール14を形成する(処理工程P6)。
【0031】
ここで、図4A,図4Bは、効果的にハロゲンガスを排気できる中空部13の大きさに対する貫通孔30Aの割合を実施例として説明する図である。
【0032】
図4Aは、半田ボール14側から見た平面図であり、図4Bは、図4AのA−A線に沿う断面図である。図4Aにおいて、中空部13の平面の面積の大きさを透視的に破線で示している。二つの弾性表面波素子領域が形成されていることが理解できる。
【0033】
実施例として、貫通孔30Aの中空部13の平面積に対する面積比は、約0.1である。
【0034】
[第2実施例]
図6は,本発明に従う弾性表面波デバイスの第2の実施例の断面模式図を示す図である。
【0035】
図7は,第2の実施例の製造過程を説明する工程図である。図7において、処理工程P1〜P4までは第1の実施例の図5に示す工程と同様である。
【0036】
ついで、処理工程P4において、駆動電極部A上に中空構造が形成された状態で、真空中(約1torr)において200〜250℃に加熱する。これにより,加熱により発生した、枠状層20及び蓋体21の感光性レジストに含まれるハロゲンガスを,貫通孔30Aを通じて除去することができる。
【0037】
よりハロゲンガスを効率良く除去するには,高湿度下(85〜100%RH)および高温環境下(100〜120℃)において,所定の時間保持した後,真空中での加熱を行うとよい。もしくは,HOプラズマ中で,基板を加熱(100〜250℃)してもよい。
【0038】
その後,ハロゲンフリーの熱硬化性フィルムレジスト31を,テンティング法により蓋体21の上に貼り付ける(処理工程P7)。これにより,ハロゲンガスを含まない駆動電極部Aの中空部13を形成することができる。
【0039】
メタルポスト形成部Bに対応する部分は、熱硬化性フィルムレジスト31をレーザーで穴開けする(処理工程P8)。あるいは、あらかじめメタルポスト形成部Bに対応して穴をあらかじめ形成した熱硬化性フィルムレジストを用いてもよい。
【0040】
その後、メタルポスト形成部Bにニッケルのメタルポスト17をその上にSnAgCu合金の半田ボール14を形成する(処理工程P9)。
【0041】
図8、図9は、本発明による効果を説明する図である。特に、上記実施例説明において、枠状層20及び蓋体21から発生するハロゲンガスを効率良く除去するための真空加熱処理(真空ベーク)による効果を説明する図(その1、その2)である。
【0042】
図8に示す例は、第1の実施例において、蓋体21を形成後に真空ベークを1時間実施(1torr, 200℃)した。さらに、貫通孔30Aをハロゲンフリー樹脂で封止後,腐食に対する効果を確認するためにサンプルを煮沸純水中(100℃)に浸漬し,駆動電極(IDT)の腐食を確認した。
【0043】
真空ベークしないものは,60分の浸漬で,全てのIDTが腐食したが,真空ベークを実施したものは,1時間浸漬しても7.5%しか腐食していないことが確認された。
【0044】
さらに、図9に示す例は、蓋体形成後に,HOアッシングを実施(@250℃)した。さらに、貫通孔30Aをハロゲンフリー樹脂で封止後,腐食に対する効果を確認するため,サンプルをプレッシャークッカー試験(PCT)に投入した。121℃,2atm,95RH%の環境下に12時間保持後,サンプルの特性を確認した。
【0045】
この結果、図9からHOアッシング時間が長いほど,PCT後の挿入損失変化が少なく,駆動電極の腐食が少ないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】特許文献1に記載された弾性表面波デバイスの構成例を示す図である。
【図2】特許文献2に示される構造の弾性表面波デバイスの構成例を示す図である。
【図3】本発明に従う弾性表面波デバイスの第1の実施例の断面模式図を示す図である。
【図4A】図3の実施例を半田ボール14側から見た平面図である。
【図4B】図4AのA−A線に沿う断面図である。
【図5】本発明に従う弾性表面波デバイスの第1の実施例の製造過程を説明する工程図である。
【図6】本発明に従う弾性表面波デバイスの第2の実施例の断面模式図を示す図である。
【図7】第2の実施例の製造過程を説明する工程図である。
【図8】真空ベークによるハロゲン除去の効果を示す試験データを示す図である。
【図9】HOアッシングによるハロゲン除去の効果を示す試験データを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 圧電基板
2 回路基板
10、11 弾性表面波形成用電極
13 中空部
14 メタルボール
15 配線電極
16 バリアメタル
17 メタルポスト
18 保護膜
20 枠状層
21 蓋体
30A 貫通孔部
30 ハロゲンフリー熱硬化性樹脂
31 熱硬化性フィルムレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極と、
前記圧電基板上において前記弾性表面波形成用電極を囲う枠状層と、
前記枠状層上に接合形成され、前記弾性表面波形成用電極との間に中空部を形成する蓋体とを有し、
前記枠状層及び前記蓋体は感光性樹脂を含み、前記蓋体は貫通孔を有し、前記貫通孔はハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞がれている、
ことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極と、
前記圧電基板上において前記弾性表面波形成用電極を囲う感光性樹脂の枠状層と、
前記弾性表面波形成用電極との間に空間を有して、前記枠状層上に接合形成され、貫通孔を有する感光性樹脂の蓋体と、
前記蓋体上に少なくとも前記貫通孔を覆うように形成されたハロゲンフリーの熱硬化性フィルム層を有する、
ことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記感光性樹脂はハロゲン化合物を含み、加熱時にハロゲンガスを発生することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
請求項3において、
前記感光性樹脂は,エポキシ系ネガ型レジストであることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項5】
圧電基板上に弾性表面波形成用電極を形成する工程と、
前記圧電基板上に形成された弾性表面波形成用電極を囲う枠状層を形成する工程と、
前記枠状層上に、貫通孔を有する蓋体を接合形成して、前記弾性表面波形成用電極との間に中空部を形成する工程と、
前記蓋体を接合した状態で真空中で加熱して、前記枠状層及び蓋体から発生するハロゲンガスを、前記貫通孔を通じて除去する工程と、更に、
前記ハロゲンガスを除去した後、前記貫通孔をハロゲンフリーの熱硬化性樹脂で塞ぐ工程を有する、
ことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記貫通孔を通じてハロゲンガスを除去する工程は、高湿度・高温環境下で所定の時間保持した後,真空中で加熱する
ことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記貫通孔を通じてハロゲンガスを除去する工程は、HOプラズマ中で処理することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項5において、
前記枠状層を形成する工程は,感光性ネガ型レジストをスピン塗布する工程を含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項5において、
前記蓋体を接合形成して中空部を形成する工程は,フィルム状の感光性ネガ型レジストを前記枠状層上に形成する工程を含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項5において、
前記貫通孔を塞ぐ工程は,ペースト状のハロゲンフリー熱硬化性樹脂を貫通孔中に印刷する工程を含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項5において、
前記貫通孔を塞ぐ工程は,フィルム状のハロゲンフリー熱硬化性樹脂を前記蓋体上に形成する工程を含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−94975(P2009−94975A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266214(P2007−266214)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】