説明

弾性表面波分散型遅延線

【課題】周囲温度が変化しても挿入損失が殆ど変化しない弾性表面波分散型遅延線を得る。
【解決手段】この弾性表面波分散型遅延線は、圧電材料よりなる基板10の表面上に、基準線10aに対し対称的に、それぞれ整列して配置された入力変換器11及び入力側反射器13と出力変換器12及び出力側反射器14を形成したものである。各反射器は互いに平行で基準線の方向に沿って次第に変化するピッチで配置された多数の反射電極13a,14aよりなり、基準線に対する各反射電極の傾斜角は、弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数が実質的と0となるように選択されている。基板10をタンタル酸リチウムよりなるものとした場合は、基準線に対する各反射電極の傾斜角は、基準線と平行に伝搬される弾性表面波の各反射電極に対する入射角θが45.8〜47.0度となるように選択するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波遅延線、特にチャーブレーダなどに使用する弾性表面波分散型遅延線に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の弾性表面波分散型遅延線としては、例えば特許文献1(特公昭62−16051号公報)に開示されたものがある。図1は特許文献1と実質的に同一構造の弾性表面波分散型遅延線を示しており、圧電材料よりなる長方形の基板10の表面上には、その長手方向に延びる基準線10aと平行に整列して配置された入力変換器11及び入力側反射器13と、基準線10aに対しこの両者11,13と対称的に配置された出力変換器12及び出力側反射器14が設けられている。入力側及び出力側反射器13,14は、何れも、多数の互いに平行な反射電極13a,14aよりなり、この各反射電極13a,14aは基準線10aに対し傾斜されるとともに基準線10aと平行な方向に沿って次第に変化するピッチで配列されている。
【0003】
入力変換器11により電気信号から変換されて基準線10aと平行に基板10の表面に沿って伝搬される弾性表面波は、図1の矢印15a〜15cに示すように、その波長とピッチが一致した位置の入力側反射器13の傾斜した反射電極13aにより反射されて出力側反射器14側に90度向きを変えられ、次いで出力側反射器14の傾斜した反射電極14aにより再び反射されて出力変換器12側に90度向きを変えられ、出力変換器12により受信されて電気信号に戻される。このような弾性表面波遅延線によれば、基板10の表面に沿って伝搬される弾性表面波の入力変換器11から出力変換器12に至る伝搬距離は弾性表面波の波長に応じて異なったものとなるので、遅延時間が周波数に応じて変化する分散型の特性が得られる。この特許文献1では、基板10に使用する圧電材料として、ニオブ酸リチウム(Li Nb O3 )、水晶(Si O2 )及びB・G・O(Bi12 Ge O20 )が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭62−16051号公報(第1図)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来技術による弾性表面波分散型遅延線では、入力変換器11から放射されて基準線10aと平行に伝播される弾性表面波の伝播方向に対する各電極13a,14aの傾斜角(図1に示す角度(90度−θ))は45度としている。このような弾性表面波分散型遅延線ではその挿入損失(負荷を遅延線を介して信号源に接続した場合と直接接続した場合における、負荷に供給される各電力の比率)の温度係数が0でない、すなわち挿入損失が周囲温度に応じて変化するという問題がある。
【0006】
このような弾性表面波分散型遅延線をレーダ装置に用いた場合、挿入損失を補うために弾性表面波分散型遅延線の前後に増幅器を配置して温度センサを用いたアッテネータによる制御やドレイン電流の制御により、増幅器の利得を制御して弾性表面波分散型遅延線の周囲温度による挿入損失の変動を抑制する必要がある。しかしそのようにするとレーダ装置が大型で複雑なものになるという問題が生じる。
【0007】
本発明の発明者は前述した傾斜角90度ーθ(従って各反射電極13a,14aに対する基準線10aと平行に伝播される弾性表面波15a,15cの入射角θ(図1参照))が弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数に影響を及ぼすことを発見した。本発明はこのような発見に基づくもので、挿入損失の温度係数がきわめて小さい、すなわち周囲温度が変化しても挿入損失が殆んど変化しない弾性表面波分散型遅延線を提供して、上述した問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明による弾性表面波分散型遅延線は、圧電材料よりなり基準線が設定された基板と、その表面上に基準線と平行に整列して形成された入力変換器及び入力側反射器と、基板の表面上に基準線に対し入力変換器及び入力側反射器と対称的に配置して形成された出力変換器及び出力側反射器よりなり、入力側及び出力側反射器は、何れも、互いに平行で基準線に対し傾斜され基準線と平行な方向に沿って次第に変化するピッチで配置して形成された多数の反射電極よりなり、入力変換器により電気信号から変換されて基準線と平行に基板の表面に沿って伝搬される弾性表面波は入力側反射器により反射されて90度向きを変えられた後、出力側反射器により反射されてさらに90度向きを変えられ、出力変換器により受信されて電気信号に戻されるようにした弾性表面波分散型遅延線において、基準線に対する各反射電極の傾斜角を、弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数が実質的に0となるように選択したことを特徴とするものである。
【0009】
前項に記載の弾性表面波分散型遅延線において、基板はタンタル酸リチウムよりなるものとし、基準線に対する各反射電極の傾斜角は、各反射電極に対する基準線と平行に伝搬される弾性表面波の入射角が45.8〜47.0度となるように選択することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、前述した弾性表面波分散型遅延線において、基準線に対する各反射電極の傾斜角を、弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数が実質的に0となるように選択したので、周囲温度が変化しても挿入損失が殆ど変化することのない弾性表面波分散型遅延線を得ることができる。これにより本発明が適用されるレーダ装置を小型とし簡略化することができる。
【0011】
前項に記載の弾性表面波分散型遅延線において、基板はタンタル酸リチウムよりなるものとし、基準線に対する各反射電極の傾斜角は、各反射電極に対する基準線と平行に伝搬される弾性表面波の入射角が45.8〜47.0度となるように選択した請求項2の発明によれば、挿入損失の温度係数の変動範囲が0±0.1dB/℃というきわめて小さいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される弾性表面波分散型遅延線の全体構造を示す平面図である。
【図2】図1において基準線に対する反射電極の傾斜角を異ならせて、基準線と平行に伝搬される弾性表面波の反射電極への弾性表面波の入射角が異なるようにした7種類の弾性表面波分散型遅延線における、各入射角毎の周囲温度に対する挿入損失の変化特性を示す図である。
【図3】図2と同じ7種類の弾性表面波分散型遅延線における、反射電極への弾性表面波の入射角に対する挿入損失の温度係数の変化を示す図である。
【図4】図2と同じ7種類の弾性表面波分散型遅延線における、各周囲温度毎の反射電極への弾性表面波の入射角に対する挿入損失の変化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面により、本発明による弾性表面波分散型遅延線の実施形態の説明をする。この実施形態による弾性表面波分散型遅延線は、長方形の基板10として、XカットしてY軸から112.2度の方向を長手方向としたタンタル酸リチウム(Li Ta O3 )よりなるものを使用した点及び、その長手方向に延びる基準線10aと平行な弾性表面波の伝搬方向に対する各反射電極13a,14aの傾斜角を45度を含まない所定の角度(後述)とした点を除き、先に図1により説明した従来技術と同じである。
【0014】
発明者は、先ず、上述したようなタンタル酸リチウムよりなる長方形の基板10(厚さ×幅×長さ=0.5mm×25mm×80mm:Y軸から112.2度の方向となる長手方向中心線に沿って仮想的な基準線10aを設定)を用意し、その表面上に、基準線10aと平行に整列して配置された入力変換器11及び入力側反射器13と、基準線10aに対しこの両者11,13と対称的に配置された出力変換器12及び出力側反射器14を形成して弾性表面波分散型遅延線とした。
【0015】
この弾性表面波分散型遅延線の入力及び出力変換器11,12は、図1に示すように、何れもアルミニウムなどの金属薄膜よりなる1対の櫛歯状電極を、それぞれの電極指が互いに入り込むように組み合わせたものであり、基板10の長手方向一側の表面上にフォトリソグラフィなどにより形成されたものである。
【0016】
また入力側及び出力側反射器13,14は、図1に示すように、何れも基準線10aと平行な方向に沿って配置された多数の反射電極13a,14aにより構成され、多数の各反射電極13aと各反射電極14aは、それぞれが互いに平行で基準線10aに対し互いに対称的に傾斜されて、入力及び出力変換器11,12から離れるにつれて次第にピッチが増大するように配置されている。この各反射電極13a,14aも各変換器11,12と同様、アルミニウムなどの金属薄膜よりなり、両変換器11,12と同時に基板10の上面にフォトリソグラフィなどにより形成されたものである。図1においては、図を見やすくするために各反射電極13a,14aの本数を少なく表示したが、実際の本数は何れも257本である。これらの各変換器11,12及び各反射電極13a,14aを構成するアルミニウムの薄膜の厚さは約0.7μmである。
【0017】
このような弾性表面波分散型遅延線によれば、前述した従来技術と同様、入力変換器11から放射されて基板10の表面に沿って伝搬される弾性表面波の、入力変換器11から出力変換器12に至る伝搬距離は弾性表面波の波長に応じて変化するので、遅延時間が周波数に応じて変化する分散型の特性が得られる。
【0018】
発明者は、基準線10aに対する各反射電極13a,14aの傾斜角が挿入損失の温度係数に及ぼす影響を調べるために、この傾斜角が7種類の弾性表面波分散型遅延線を用意した。具体的には、図1に示すように、反射電極13a,14aに対する、基板10の基準線10aと平行に伝搬される弾性表面波の入射角(弾性表面波の伝搬方向と反射電極13a,14aの法線とのなす鋭角)がθである場合は、基準線10aに対する反射電極13a,14aの傾斜角は90度−θであるので、この入射角θにつてい0.2度おきで45.8度から47.0度までの7種類の弾性表面波分散型遅延線を用意した。そして各弾性表面波分散型遅延線について、20℃おきに−40℃から80℃までの7つの周囲温度において、挿入損失の測定を各3回行った。
【0019】
図2はこの各3回の各測定結果の平均値による、反射電極13a,14aに対する弾性表面波の入射角θをそれぞれ前述した7つの値とした各弾性表面波分散型遅延線における、周囲温度に対する挿入損失(dB)の変化を示すグラフである。またこの図2の7つのグラフの傾斜から、反射電極13a,14aに対する弾性表面波の入射角θが前述した各7つの値の場合における各弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数(dB/℃)を求め、これらの7つの入射角θ毎の挿入損失の温度係数の変化特性を示すグラフを図3に示す。また図4は、図2と同じ7種類の弾性表面波分散型遅延線による、各周囲温度毎の反射電極への弾性表面波の入射角に対する挿入損失の変化特性を示す図である。
【0020】
この図2及び図3によれば、基板10としてタンタル酸リチウムを使用した弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数(dB/℃)は、基準線10aと平行に伝搬される弾性表面波の反射電極13a,14aに対する入射角θ(従って基準線10aに対する各反射電極13a,14aの傾斜角(=90度−θ))が変化するにつれてほゞ直線状に変化し、この入射角θが46.45度付近において0となり、45.8〜47.0度の範囲では挿入損失の温度係数の変動範囲を0±0.1dB/℃というきわめて小さいものとなることを示している。
【0021】
従ってこのタンタル酸リチウムを使用した弾性表面波分散型遅延線では、基準線10aに対する各反射電極13a,14aの傾斜角(90度−θ)を入射角θ=46.45度に対応する角度、すなわち43.55度とすれば挿入損失の温度係数は実質的に0となり、周囲温度が変化しても挿入損失が殆ど変化することのない弾性表面波分散型遅延線を得ることができる。またこの傾斜角(90度−θ)を入射角θ=45.8〜47.0度に対応する角度、すなわち44.2〜43.0度とすれば挿入損失の温度係数の変動範囲を0±0.1dB/℃というきわめて小さいものとすることができる。
【0022】
また図4は、通常の使用温度である−40〜80℃の範囲では、基板10としてタンタル酸リチウムを使用した弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の値は、前述した入射角θが46.2〜46.4度の範囲内において最少となることを示している。このような本発明によれば、弾性表面波分散型遅延線の温度係数をきわめて小さくできるのに加えて、弾性表面波分散型遅延線の挿入損失それ自体も最少となるものが得られる。
【0023】
上述した実施形態では、基板10としてタンタル酸リチウムを使用した場合について説明したが、発明者は基板10としてニオブ酸リチウム(Li Nb O3 )、水晶(Si O2 )、ランガサイト(La3 Ga5 Si O14 )、酸化亜鉛(Zn O )などの圧電材料を使用した場合でも、基準線10aに対する各反射電極13a,14aの傾斜角が弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数に影響を及ぼすことを確認している。従って本発明はタンタル酸リチウムを使用した弾性表面波分散型遅延線に限らず、その他の圧電材料を使用した弾性表面波分散型遅延線にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
10…基板、10a…基準線、11…入力変換器、12…出力変換器、13…入力側反射器、13a…反射電極、14…出力側反射器、14a…反射電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料よりなり基準線が設定された基板と、その表面上に前記基準線と平行に整列して形成された入力変換器及び入力側反射器と、前記基板の表面上に前記基準線に対し前記入力変換器及び入力側反射器と対称的に配置して形成された出力変換器及び出力側反射器よりなり、前記入力側及び出力側反射器は、何れも、互いに平行で前記基準線に対し傾斜され前記基準線と平行な方向に沿って次第に変化するピッチで配置して形成された多数の反射電極よりなり、前記入力変換器により電気信号から変換されて前記基準線と平行に前記基板の表面に沿って伝搬される弾性表面波は前記入力側反射器により反射されて90度向きを変えられた後、前記出力側反射器により反射されてさらに90度向きを変えられ、前記出力変換器により受信されて電気信号に戻されるようにした弾性表面波分散型遅延線において、
前記基準線に対する前記各反射電極の傾斜角を、前記弾性表面波分散型遅延線の挿入損失の温度係数が実質的に0となるように選択したことを特徴とする弾性表面波分散型遅延線。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波分散型遅延線において、前記基板はタンタル酸リチウムよりなるものとし、前記基準線に対する前記各反射電極の傾斜角は、前記各反射電極に対する前記基準線と平行に伝搬される弾性表面波の入射角が45.8〜47.0度となるように選択したことを特徴とする弾性表面波分散型遅延線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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