説明

弾性表面波素子

【課題】 耐電力に優れアフターコロージョンの発生を抑制できる弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】 圧電基板上に電極を備えた弾性表面波素子であって、前記電極は単層の膜からなる電極膜と、前記電極膜はZrが0.35〜0.50wt%、Siが0.15〜0.25wt%、Feが0.10〜0.25wt%、Cuが0.05〜0.20wt%、Tiが0.015〜0.035wt%、Bが0.001〜0.02wt%でその他不可避の不純物を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とする弾性表面波素子。
【効果】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器、フィルタ、遅延線に用いられる弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子は圧電基板上にアルミニウム等による電極膜を形成し、共振器、フィルタ、遅延線等に応用されている。なかでも圧電基板上に櫛状(IDT:Inter Digital Transducer)電極と反射電極とからなるSAW共振器を複数組み合わせてなるラダー型SAWフィルタが一般的に知られ通信機器等に広く使用されている。
【0003】
近年、このようなラダー型SAWフィルタはその動作周波数が数100MHz〜2GH
と高周波数化するとともに高出力化を要求され、そのためラダー型SAWフィルタには高い入力電力に対する耐電力を有する電極構造が求められている。このような要求を満すには従来のアルミニウム合金を用いた単層の電極構造では充分な耐電力を得ることできず、その対策としてアルミニウムと銅の合金並びにアルミニウムとマグネシウムの合金を積層した多層膜の電極構造が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、動作周波数の高周波数化によりラダー型SAWフィルタは電極膜の電極幅の微細化が必要になり、例えば圧電基板にLiTaO3を用いたラダー型SAWフィルタはその動作周波数が中心周波数600MHzの時は電極幅を1.37μm、880MHzの時は電極幅を約0.92μm、1.5GHzの時は電極幅を約0.55μmに形成する必要がある。このように微細な電極幅を形成したIDT電極に大きな電力を印加すると、弾性表面波によって生じる歪みにより電極膜に応力が発生し、その応力が電極膜の限界応力を超えると電極材料であるアルミニウム原子が結晶粒界を移動し、その結果突起(ヒロック)と空隙(ボイド)を発生させIDT電極の破壊が生じ、ラダー型SAWフィルタの劣化にいたるという一種の金属疲労に似たエレクトロマイグレーションの問題が知られている。
【0005】
このエレクトロマイグレーションの問題点に対し、IDT電極の電極材料としてアルミニウムに銅を添加したアルミニウム2元合金や、銅の他にチタン、ニッケル、パラジウムを添加した合金等を用いて耐電力を向上させることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、IDT電極の電極幅が1μm以下のような場合には、加工時に圧電基板がダメージを受けることによる素子特性の劣化が顕著になり、歩留まりが低下する問題が知られている。このような問題に対し、銅又は銅を2%以上含むアルミニウム合金材料からなる電極層に効率良くパターニングを行うことを可能とする製造方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−119259号公報
【特許文献2】特開平10−22764号公報
【特許文献3】特開2002−223138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0008】
従来から弾性表面波素子を用いたラダー型SAWフィルタの電極材料にアルミニウム合金を用いた単層の電極膜または多層の電極膜が知られている。しかし、単層の電極膜では耐電力に優れた電極材料が得られていない。
【0009】
また、弾性表面波素子からなるIDT電極に微細な電極幅を形成する方法としてはドライエッチング等が知られているが、従来のIDT電極に用いられるアルミニウム合金に含有される金属は化学反応を起こし易い銅、マグネシウムを多く含んでいるのでアフターコロージョンの問題が有りドライエッチングによる精密な電極形成が難しいなどの問題があった。
【0010】
本発明は、以上の点に着目してなされたもので、単層の電極膜で耐電力に優れ、IDT電極を形成する際、ドライエッチングによるアフターコロージョンの問題の少ない弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するため、次の構成を採用する。
本発明による弾性表面波素子は、圧電基板の表面上に電極を備えた弾性表面波素子であって、前記電極は単層の電極膜からなり、前記電極膜はZrが0.35〜0.50wt%、Siが0.15〜0.25wt%、Feが0.10〜0.25wt%、Cuが0.05〜0.20wt%、Tiが0.015〜0.035wt%、Bが0.001〜0.02wt%でその他不可避の不純物を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性表面波素子のIDT電極にZr、Si、Fe、Cu、Ti、Bを所定量添加したアルミニウム合金を用いることにより、耐電力に優れた弾性表面波素子が得られる。
【0013】
また、電極膜が単層なので電極膜形成工程を簡略化でき電極幅を精度良く形成できる。
【0014】
さらに、アルミニウム合金に含まれる添加金属のうち銅の添加量が従来の電極に用いたアルミニウム合金と比べ非常に少なく、マグネシウムが添加されていないのでドライエッチングを行う際、アフターコロージョンが発生しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明の弾性表面波素子及びそれを用いたSAW共振器の例を図1、図2を参照して説明する。
【0017】
先ず、図1は本発明に係る弾性表面波素子の概略断面図の一例を示す。
【0018】
図1に示す弾性表面波素子1はLiTaO3単結晶からなる圧電基板10の表面上にZr、Si、Fe、Cu、Ti、Bを所定量添加したアルミニウム合金20からなる単層の電極膜から形成されている。そしてこの単層の電極膜は圧電基板LiTaO3上にアルミニウム合金をスパッタ成膜法により厚さ300nmの単層に形成したものである。 ここで本発明に使用できる圧電基板としては、例えば、LiNbO3基板、水晶基板などの圧電単結晶基板が挙げられ、弾性表面波素子に使用できるものであれば特に限定はされない。
【0019】
更に、本発明の弾性表面波素子の電極膜を形成するアルミニウム合金の組成を表1に示す。
【0020】
【表1】


ここで、表1に示す合金組成からなるアルミニウム合金のうちZrはアルミニウムの粒界にAl3Zrを析出させるので耐熱性及び強度を向上させ、SiはZrの析出を促進させる。また、Fe、Cuはアルミニウム結晶粒内において分散して強度を向上させ、Ti、Bは結晶を微細化させる効果がある。
【0021】
次いで、図2は本発明の弾性表面波素子を用いたSAW共振器の概略平面図の一例を示す。
【0022】
図2に示すSAW共振器4は図1で説明した弾性表面波素子1を用いて1組のIDT電極2と2つの反射器電極3とから構成される。
【0023】
ここで本実施の形態のSAW共振器4の電極幅はその動作周波数と圧電基板の表面を伝播する弾性表面波の表面波音速とで決まり、880MHzの場合にはその電極幅と電極間ピッチは約0.92μmである。
【0024】
次に、図3は本発明のSAW共振器4を用いたラダー型SAWフィルタの構成図の一例を示す。
【0025】
図3に示すラダー型SAWフィルタ5は、図2で説明したIDT電極2と反射器電極3からなるSAW共振器4を3個直列に接続した直列共振子21と、SAW共振器4を2個並列に接続した並列共振子22の構成により配置されている。
【0026】
次いで、図4は図3に示す本実施例のラダー型SAWフィルタ5の耐電力評価結果を示す。
【0027】
図4は横軸に印加電力、縦軸に自然対数で表わした寿命時間を示す。そして図4には本実施例のアルミニウム合金を用いたラダー型SAWフィルタの他に、これと比較するために、他の電極材料を用いたラダー型SAWフィルタの寿命も併せて示す。
【0028】
即ち、図4に示す3つの曲線は、ラダー型SAWフィルタの電極材料が、
・ は本発明に係るアルミニウム合金(実施例)
・ はAl−1wt%Cu合金(比較例1)
・ は純アルミニウム(比較例2)
であることを示す。
【0029】
ここで、図3で示したラダー型SAWフィルタの試料について、120度の雰囲気で1W〜3Wの電力を印加して、880MHzの単一周波数にて耐電力試験を行った。
【0030】
この図4に示す耐電力試験の結果から、周囲温度120℃、印加電力2Wにおいて、実施例の寿命は140時間、比較例1の寿命は70時間、そして比較例2の寿命は10時間の耐電力特性を示した。この結果から本発明の弾性表面波素子を用いたラダー型SAWフィルタの寿命は所定の添加合金を所定量含有させたアルミニウム合金を用いることで比較例1に対し2倍、比較例2に対し14倍の耐電力特性が得られた。
【0031】
次に、本発明の弾性表面波素子を用いたラダー型SAWフィルタの耐電力特性の評価に用いた測定系をフロー図により説明する。
【0032】
図5に示すフロー図において、31は発信器、32はアンプ(増幅器)、33はサンプル(ラダー型SAWフィルタの評価試料)、34は恒温槽、35は出力測定器である。
【0033】
評価に用いた耐電力測定系において、発信器31で印加周波数と電力を設定し、これをアンプ32で増幅した後、サンプル33のラダー型SAWフィルタに印加する。そして、サンプル33を通過した出力は出力測定器35で測定する。
【0034】
その際、サンプルを恒温槽34に収納し常温より高い温度に保持することで、環境温度からの劣化を加速し、発信器31で設定する印加周波数と電力を高めることで印加電力面からの劣化を加速することにより寿命試験に要する時間を短縮して測定した。
【0035】
また、サンプル33のラダー型SAWフィルタの出力電圧が急激に低下した時点では弾性表面波素子のIDT電極がエレクトロマイグレーションによる破壊が生じていることから、出力測定器35での出力電圧が下がり始めた時点を寿命とした。
【0036】
次いで、本実施例のラダー型SAWフィルタのドライエッチングによる製造の概略を説明する。
【0037】
まず圧電基板の表面にスパッタ成膜法により厚さ300nmのアルミニウム合金膜を形成する。このアルミニウム合金膜を形成した圧電基板上にフォトレジストを塗布しフォトレジスト膜を形成する。さらにフォトレジスト膜を形成した圧電基板に電極パターンを形成したフォトマスクを密着させ露光する。
【0038】
つぎに、現像液により露光部のフォトレジスト膜を除去し、電極パターンのフォトレジスト膜を残す。さらにフォトレジスト膜による電極パターンをマスクとして、アルミニウム合金膜にハロゲン系混合ガスによるプラズマエッチングを施しラダー型SAWフィルタの電極を形成する。最後に電極パターン上に残ったフォトレジスト膜を除去する。
【0039】
このようにしてラダー型SAWフィルタは完成する。なお、比較例のAl−1wt%Cu合金(比較例1)と純アルミニウム(比較例2)による電極膜を用いたラダー型SAWフィルタも同様の方法で製造した。
【0040】
ここで、銅やマグネシウムが多く添加された組成の合金膜ではドライエッチングに用いられるハロゲン系混合ガス(Cl2とBCl3との混合ガス)によるアフターコロージョンの問題がありドライエッチングが難しいが、本発明のアルミニウム合金は添加金属としてアフターコロージョンを起こしにくいZrが主な添加金属であり、アフターコロージョンを起こしやすい銅の添加量はごく少量であるので、ドライエッチングによるアフターコロージョンの問題が発生しにくい。また、電極膜が単層なので電極膜形成工程が簡単で電極幅を精度良く形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る弾性表面波素子の概略断面図である。
【図2】本発明に係るSAW共振器の電極の概略平面図である。
【図3】本発明に係るラダー型SAWフィルタの概略構成図である。
【図4】本発明に係る弾性表面波素子の耐電力評価結果の図である。
【図5】本発明に係る弾性表面波素子の評価に用いた耐電力測定系の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 弾性表面波素子
2 ITD電極
3 反射器電極
4 SAW共振器
5 ラダー型SAWフィルタ
10 圧電体基板
20 電極膜
21 直列共振子
22 並列共振子
31 発信器
32 アンプ(増幅器)
33 サンプル(評価試料)
34 出力測定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の表面上に電極を備えた弾性表面波素子であって、
前記電極は単層の電極膜からなり、
前記電極膜はZrが0.35〜0.50wt%、Siが0.15〜0.25wt%、Feが0.10〜0.25wt%、Cuが0.05〜0.20wt%、Tiが0.015〜0.035wt%、Bが0.001〜0.02wt%でその他不可避の不純物を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とする弾性表面波素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate