説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 挿入損失劣化を低減し、小型化を実現した弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波装置は、弾性波表面共振子Kが、弾性表面波の伝搬方向に延びて形成された中心共通バスバー電極25の両側に、中心共通バスバー電極25によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波共振子部20,21が、中心共通バスバー電極25に対して対称的に形成されるとともに、中心共通バスバー電極25に不平衡信号端子が接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子20,21は、弾性表面波共振子Kの両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19の各IDT電極2,3のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。また、近年、移動体通信機器において、小型化のために、アンテナが従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきている。そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大している。
【0003】
また、弾性表面波を励振する励振電極であるIDT電極(Inter Digital Transducer)の電極指ピッチは、高周波になるほど小さくなり、IDT電極の膜厚は薄くなる。例えば、1.9GHz帯弾性表面波フィルタのIDT電極の膜厚は、900MHz弾性表面波フィルタの約半分の膜厚で設計されることとなり、フィルタ間を接続する引き出し電極等の伝送線路におけるオーミック損失が高周波になるほど大きくなる。そのため、さらに挿入損失が劣化する傾向がある。
【0004】
このような挿入損失の劣化を抑制するために、種々の提案がされている。例えば、圧電基板上に3つのIDT電極を設けた縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタについて、次のような挿入損失を改善する手段が提案されている。
【0005】
図3に、従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造を上からみた平面図を示す。圧電基板202上に配設された複数の電極指を有するIDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204の一方の櫛歯状電極に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれを構成する一方の櫛歯状電極からIDT電極206,209を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極である。このように、共振器電極パターンを2段縦続接続させることにより、1段目と2段目の定在波の相互干渉により、通過帯域外減衰量を高減衰化し、フィルタ特性の通過帯域外減衰量を向上させることができる。
【0006】
即ち、同様の特性をもつ弾性表面波フィルタを2段縦続接続の構成とすることで、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され、通過帯域外減衰量を約2倍に向上させることができる。
【0007】
ここで、IDT電極204に接続された入力端子215に電気信号を入力することにより、弾性表面波を励振させ、この弾性表面波がIDT電極204の両側に位置するIDT電極203,205に伝搬し、IDT電極207,208に接続された出力端子216,217から電気信号が出力される。また、IDT電極203〜205及び206〜209の各両端に位置する反射器電極210,211及び212,213により弾性表面波が反射され、反射器電極210,211間及び反射器電極212,213間で定在波となる。
【0008】
この定在波のモードには、3つのIDT電極203〜205により1次モードとその高次(3次)モードが含まれる。これらのモードで発生する共振により通過特性が得られるため、これらのモードで発生する共振周波数のピーク位置を制御することにより通過帯域内の挿入損失を改善することができる。従来、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより挿入損失の改善が図られていた(例えば、特許文献1,2を参照。)。
【0009】
また、図4に従来の縦結合共振器型弾性表面波フィルタの電極構造の平面図を示す。低損失化を実現する他の手段として、3つの縦結合共振器型弾性表面波フィルタで構成されており、1つの共振器型弾性表面波フィルタに2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続している。これにより、図3に示した2段縦続接続したタイプの縦結合共振器型弾性表面波フィルタと比べて、IDT電極の電極指の交差幅を小さくし、さらに並列接続することにより、縦結合共振器弾性表面波フィルタにおける抵抗による損失を小さくすることができ、低損失化された縦結合共振器弾性表面波フィルタを実現することができる(例えば、特許文献3を参照。)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開2001−308672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極間における弾性表面波がバルク波へモード変換されることによる挿入損失の劣化を抑制することは可能であるが、2つ弾性表面波素子を2段縦続接続させた場合、図4に示した2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続した弾性表面波装置と比較して、IDT電極の電極指の交差幅が大きくなり、さらに縦続接続させることによって、弾性表面波素子の抵抗による損失が大きくなり、縦結合共振器弾性表面波フィルタの低損失化が十分に実現できない。
【0011】
また、特許文献3に開示されているような弾性表面波装置では、1つ縦結合共振器弾性表面波フィルタに対して2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続させていることにより、前段に縦結合共振器弾性表面波フィルタまたは弾性表面波共振子を用いた場合、各IDT電極の電極指の交差幅をさらに小さくすることが困難になる。さらに、2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続させているので、弾性表面波素子の配置上、スペースを大きく取ることとなり、弾性表面波装置の小型化には不利な配置となっていた。
【0012】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、挿入損失の劣化を生じず、優れたフィルタ特性を有し、高品質な弾性表面波フィルタとしても機能でき、さらに小型化することができる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、弾性表面波の伝搬方向に沿って前記IDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた弾性波表面共振子と、前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、前記弾性波表面共振子は、前記伝搬方向に延びるように形成された中心共通バスバー電極の両側に、前記中心共通バスバー電極によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波共振子部が、前記中心共通バスバー電極に対して対称的に形成されているとともに、前記中心共通バスバー電極に不平衡信号端子(不平衡入力端子または不平衡出力端子)が接続されており、前記第1及び第2の弾性表面波素子は、前記弾性表面波共振子の両側に前記伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波共振子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子(平衡入力端子または平衡出力端子)に接続されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記弾性波表面共振子は、前記中心共通バスバー電極上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともに前記IDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、該引き出し電極が前記不平衡信号端子に接続されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、その伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、弾性表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた弾性波表面共振子と、伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、弾性波表面共振子は、伝搬方向に延びるように形成された中心共通バスバー電極の両側に、中心共通バスバー電極によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波共振子部が、中心共通バスバー電極に対して対称的に形成されているとともに、中心共通バスバー電極に不平衡信号端子が接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子は、弾性表面波共振子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波共振子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されていることにより、中心共通バスバー電極によって第1及び第2の弾性表面波共振子部が接続されて共通化して形成されていることにより、IDT電極の交差幅を従来の弾性表面波共振子の半分まで狭くすることができ、従来の弾性表面波共振子と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の弾性表面波共振子による挿入損失を向上させる(挿入損失を小さくする)ことができる。
【0017】
また、第1及び第2の弾性表面波素子は、弾性表面波共振子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波共振子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続されているので、従来の弾性表面波素子と比べて、弾性表面波共振子から各弾性表面波素子への配線の長さをきわめて短く形成できるため、抵抗損失を小さくすることができ、その結果弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0018】
また、弾性表面波共振子から弾性表面波素子の各IDT電極までの配線の長さ及びパターンを同程度にすることができるため(図1)、配線の長さ及びパターンの相違によって生じる抵抗損失、インダクタンス、キャパシタンスのIDT電極ごとの違いを実質的になくすことができる。
【0019】
さらに、共通化された第1及び第2の弾性表面波共振子部を介して2つの弾性表面波素子が並行して配置されているので、第1及び第2の弾性表面波共振子部の反射器電極も共通化され、弾性表面波装置全体の面積を小さくすることでき、弾性表面波装置を小型化することができる。例えば、従来のように2つの弾性表面波素子を並列接続して伝搬方向に一直線を成すように2つ並べて配置した構成の場合、伝搬方向における長さが長くなり、その分大型化するが、本発明の構成においては2つの弾性表面波素子を平行するように形成することができ、小型化を達成することができる。
【0020】
また、共通化された第1及び第2の弾性表面波共振子部を介して2つの弾性表面波素子が並行して配置され、平衡信号端子に接続されていることにより、2つの弾性表面波素子を離して配置させることができ、弾性表面波素子間のアイソレーションを充分に取ることができるため、弾性表面波素子の平衡度を向上させることができる。さらに、圧電基板のウェハ(多数個取り用母基板)の1枚当たりの弾性表面波装置の取り数を多くすることができ、弾性表面波装置のコストを大幅に削減することができる。
【0021】
本発明の弾性表面波装置は好ましくは、弾性波表面共振子は、中心共通バスバー電極上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともにIDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、引き出し電極が不平衡信号端子に接続されていることにより、中心共通バスバー電極上の絶縁体及びその上に形成された引き出し電極が形成されているため、中心共通バスバー電極上の構造物の合計厚みが厚くなり、中心共通バスバー電極上において、金属層と絶縁体による質量効果が、従来のバスバー電極の構造と比較して大きくはたらくこととなる。その結果、中心共通バスバー電極部における弾性表面波の音速が遅くなる。即ち、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極の共通電極(中心共通バスバー電極)近傍における音速を、弾性表面波の励振に寄与するIDT電極の電極指交差部領域の音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波装置を提供することができる。
【0022】
また、中心共通バスバー電極上に引き出し電極を配置したことにより、弾性表面波装置全体の面積において引き出し電極が占める面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能となる。
【0023】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の弾性表面波装置の実施の形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波装置について、共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付している。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0025】
図1に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例を平面図で示す。図1に示すように、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極2,3と、伝搬方向に沿ってIDT電極2,3を挟んだ両側に配置された反射器電極10〜13とを備えた弾性波表面共振子Kと、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9と、この奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極14,15及び16,17とからなる第1及び第2の弾性表面波素子20,21とが形成されている。また、弾性波表面共振子Kは、伝搬方向に延びるように形成された中心共通バスバー電極25の両側に、中心共通バスバー電極25によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19が、中心共通バスバー電極25に対して対称的に形成されているとともに、中心共通バスバー電極25に不平衡信号端子(不平衡入力端子22または不平衡出力端子22)が接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子20,21は、弾性表面波共振子Kの両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19の各IDT電極2,3のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子(平衡入力端子23,24または平衡出力端子23,24)に接続されている。
【0026】
これらの構成により、中心共通バスバー電極25によって、第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19が接続されて、共通化して形成されていることにより、弾性表面波共振子KにおいてIDT電極の交差幅を従来の半分にまで狭くすることができ、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の弾性表面波共振子による挿入損失を向上させる(小さくする)ことができる。また、第1及び第2の弾性表面波素子20,21は、弾性表面波共振子Kの両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19の各IDT電極2,3のバスバー電極に並列接続されているので、従来の弾性表面波装置と比べて、弾性表面波共振子Kと第1及び第2の弾性表面波素子20,21とを接続する配線をきわめて短くできるため、抵抗損失を小さくすることができ、その結果弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0027】
また、弾性表面波共振子Kから弾性表面波素子20,21の各IDT電極4,6,7,9までの配線の長さ及びパターンを同程度にすることができるため(図1)、配線の長さ及びパターンの相違によって生じる抵抗損失、インダクタンス、キャパシタンスのIDT電極ごとの違いを実質的になくすことができる。
【0028】
さらに、共通化された第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19を介して2つの弾性表面波素子20,21が、並行して配置されているので、反射器電極も共通化され、弾性表面波装置全体の面積を小さくすることでき、弾性表面波装置を極めて小型化することができる。
【0029】
また、共通化された第1及び第2の弾性表面波共振子部18,19を介して2つの弾性表面波素子20,21が並行して配置され、平衡入力端子23,24または平衡出力端子23,24に接続されていることにより、2つの弾性表面波素子20,21を離して配置させることができ、弾性表面波素子20,21間のアイソレーションを充分に取ることができ、弾性表面波装置の平衡度を向上させることができる。さらに、圧電基板のウェハ1枚当たりの弾性表面波装置の取り数を多くすることができ、弾性表面波装置のコストを大幅に削減することができる。
【0030】
また、図2に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の他例の平面図を示す。図2に示すように、上記図1の構成において好ましくは、弾性波表面共振子Kは、中心共通バスバー電極25上に、それに沿って絶縁体26を介して形成されるとともにIDT電極2,3に接続された引き出し電極27が設けられており、この引き出し電極27が不平衡入力端子22または不平衡出力端子22に接続されている。
【0031】
これにより、中心共通バスバー電極25上の絶縁体26及びその上に形成された引き出し電極27が形成されているため、共通電極(中心共通バスバー電極25)上の構造物の合計厚みが厚くなり、中心共通バスバー電極25上において、金属層と絶縁体26による質量効果が、従来のバスバー電極の構成と比較して大きくはたらくこととなる。そのため、中心共通バスバー電極25部における表面波の音速が遅くなる。これらの構成により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極2,3の中心共通バスバー電極25近傍における音速を、弾性表面波の励振に寄与するIDT電極2,3の電極指交差部領域の音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波装置を提供することができる。
【0032】
また、中心共通バスバー電極25上に引き出し電極27を配置したことにより、弾性表面波装置全体の面積において引き出し電極27が占める面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能となる。
【0033】
図2の構成において、絶縁体26は、酸化シリコン、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂レジスト等から成り、これらの材料は、中心共通バスバー電極25と引き出し電極27との絶縁性を確実に確保することができ、さらに弾性表面波装置に適切な電気的な容量を付加することができ、弾性表面波装置の平衡度を調整することが可能となり、弾性表面波装置の平衡度を向上させる点で好ましい。また、絶縁体26の厚みは1μm〜10μm程度が好ましい。1μm未満では、中心共通バスバー電極25と引き出し電極27との絶縁性を十分にとることができない場合があり、10μmを超えると、引き出し電極27等の配線の断線が発生がし易くなり、弾性表面波装置の信頼性が低下しやすくなる。
【0034】
なお、IDT電極2〜9、反射器電極10〜17の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図面においてはそれらの形状を簡略化して図示している。
【0035】
本発明の弾性表面波装置を製造する場合、まず、圧電基板1上に導体層を形成し、この導体層を一対の平行な共通電極と各共通電極から互いに噛み合うように延びた複数の電極指とにパターニングしてIDT電極2〜9を形成し、IDT電極2〜9上をSiO等の絶縁材料からなる保護膜で被覆し、また引き出し電極27及びパッド電極となる導体層をリフトオフ工程またはフォトリソグラフィにより形成する。
【0036】
ここで、圧電基板1としてはタンタル酸リチウム単結晶,ニオブ酸リチウム単結晶,四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0037】
また、圧電基板1上の導体層としては、アルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜、またはこれらの材料の層とチタン,クロム等の材料の層との積層膜を用いることができる。引き出し電極27及びパッド電極となる導体層としては、アルミニウム層、アルミニウム層とクロム等の材料の層との積層膜、クロム層とニッケル層と金層等の積層膜等を用いることができる。導体層の成膜方法としては、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0038】
導体層をパターニングする方法としては、導体層の成膜後にフォトリソグラフィを行い、次にRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行う方法がある。または、導体層の成膜前に圧電基板1の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行って所望のパターンを開口した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行ってもよい。
【0039】
次に、IDT電極2〜9を保護するための絶縁材料からなる保護膜を成膜する。保護膜の材料としては、シリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。
【0040】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能であり、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
【0041】
以上により、優れた弾性表面波装置を有する受信回路や送信回路を備え、感度が格段に良好な優れた通信機等の通信装置を提供できる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何ら差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】従来の弾性表面波装置の電極指のピッチの変化を示すグラフ及び電極構造を模式的に示す平面図である。
【図4】従来の弾性表面波装置の電極構造を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1:圧電基板
2〜9:IDT電極
10〜17:反射器電極
26:絶縁体
27:引き出し電極
18,19:第1及び第2の弾性表面波共振子部
20,21:第1及び第2の弾性表面波素子
K:弾性表面波共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、弾性表面波の伝搬方向に沿って前記IDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた弾性波表面共振子と、
前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、
前記弾性波表面共振子は、前記伝搬方向に延びるように形成された中心共通バスバー電極の両側に、前記中心共通バスバー電極によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波共振子部が、前記中心共通バスバー電極に対して対称的に形成されているとともに、前記中心共通バスバー電極に不平衡信号端子が接続されており、
前記第1及び第2の弾性表面波素子は、前記弾性表面波共振子の両側に前記伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波共振子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記弾性波表面共振子は、前記中心共通バスバー電極上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともに前記IDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、該引き出し電極が前記不平衡信号端子に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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