説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 挿入損失の劣化を低減し、小型化を実現した弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波装置において、弾性表面波素子は、弾性表面波の伝搬方向に延びる中心共通バスバー電極部25の両側に、中心共通バスバー電極部25によって互いに接続された第1及び第2の弾性表面波素子部20,21が、中心共通バスバー電極部25に対して対称的に形成され、中心共通バスバー電極部25には不平衡信号端子22が接続されており、第1及び第2の弾性表面波共振子18,19は、弾性表面波素子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置され、第1及び第2の弾性表面波素子部20,21の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子23,24に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波装置、及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、通過帯域外の高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。また、近年、移動体通信機器において、小型化のためアンテナが、従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきている。そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大している。
【0003】
また、IDT電極(Inter Digital Transducer)の電極指ピッチは、高周波になるほど小さくなり、IDT電極の膜厚は薄くなる。例えば、1.9GHz帯弾性表面波フィルタのIDT電極の膜厚は、900MHz弾性表面波フィルタの約半分の膜厚で設計されることとなり、弾性表面波フィルタ間を接続する引き出し電極等の伝送線路におけるオーミック損失が高周波になるほど大きくなる。そのため、さらに挿入損失が劣化する傾向がある。
【0004】
このような挿入損失の劣化を抑制するために、種々の提案がされている。例えば、圧電基板上に3つのIDT電極を設けた縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタについて、次のような挿入損失を改善する手段が提案されている。
【0005】
図5に、従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造について、上からみた平面図及び電極指ピッチの変化のグラフを示す。圧電基板202上に配設された複数の電極指を有するIDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204の一方の櫛歯状電極に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれを構成する一方の櫛歯状電極からIDT電極206,209を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極である。このように、共振器電極パターンを2段縦続接続させることにより、1段目と2段目の定在波の相互干渉により、通過帯域外減衰量を高減衰化し、フィルタ特性としての通過帯域外減衰量を向上させることができる。
【0006】
即ち、同様の特性をもつ弾性表面波共振器フィルタを2段縦続接続の構成とすることで、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され、通過帯域外減衰量を1段の場合の約2倍に向上させることができる。
【0007】
ここで、IDT電極204に接続された入力端子215に電気信号を入力することにより、弾性表面波を励振させ、この弾性表面波がIDT電極204の両側に位置するIDT電極203,205に伝搬され、IDT電極207,208に接続された出力端子216,217から電気信号が出力される。また、IDT電極203〜205及び206〜209の両端に位置する反射器電極210,211及び212,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極210,211間及び反射器電極212,213間で定在波となる。
【0008】
この定在波のモードには、3つのIDT電極203〜205により1次モードとその高次(3次)モードが含まれる。これらのモードで発生する共振により通過特性が得られるため、これらのモードで発生する共振周波数のピーク位置を制御することにより、通過帯域内の挿入損失を改善することができる。
【0009】
従来、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより挿入損失の改善が図られていた(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0010】
また、図5に従来の縦結合共振器型弾性表面波フィルタの電極構造の平面図を示す。低損失化を実現する他の手段として、3つの縦結合共振器型弾性表面波フィルタで構成されており、1つの共振器型弾性表面波共振子116に2つの縦結合共振器弾性表面波素子114,115を並列接続している。
【0011】
なお、共振器型弾性表面波共振子116は、3個のIDT電極131〜133の両側に反射器電極140,141が形成されて成り、中央のIDT電極132に不平衡信号端子(不平衡信号入(出)力端子)122が接続されている。また、縦結合共振器弾性表面波素子114は、3個のIDT電極134〜136の両側に反射器電極142,143が形成されて成り、中央のIDT電極135に平衡信号端子(不平衡信号出(入)力端子)125が接続されている。また、縦結合共振器弾性表面波素子115は、3個のIDT電極137〜139の両側に反射器電極144,145が形成されて成り、中央のIDT電極138に平衡信号端子(不平衡信号出(入)力端子)124が接続されている。
【0012】
この構成により、図4に示した2段縦続接続したタイプの縦結合共振器型弾性表面波フィルタと比べて、IDT電極の電極指の交差幅を小さくし、さらに、並列接続することにより、縦結合共振器弾性表面波フィルタにおける抵抗損失を小さくすることができ、低損失な縦結合共振器弾性表面波フィルタを実現することができる(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開2001−308672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極間における弾性表面波がバルク波へモード変換されることによる挿入損失の劣化を抑制することは可能であるが、2つ弾性表面波素子を2段縦続接続させた場合、図4に示した2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続した弾性表面波装置と比較して、IDT電極の電極指の交差幅が大きくなり、さらに縦続接続させることによって、弾性表面波素子の抵抗損失が大きくなり、縦結合共振器弾性表面波フィルタの低損失化が十分に実現できない。
【0014】
また、図5に示す特許文献3に開示されているような弾性表面波装置では、1つ縦結合共振器弾性表面波フィルタに対して2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続させていることにより、前段に縦結合共振器弾性表面波フィルタまたは弾性表面波共振子を用いた場合、各IDT電極の電極指の交差幅をさらに小さくすることが困難になる。さらに、2つの縦結合共振器弾性表面波フィルタを並列接続させているので、弾性表面波素子の配置上、スペースを多く取ることとなり、弾性表面波素子の小型化には不利な配置となっていた。
【0015】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、挿入損失の劣化を生じず、優れたフィルタ特性を有し、高品質な弾性表面波フィルタとしても機能でき、弾性表面波装置をさらに小型化することができる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の弾性表面波装置は、1)圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、前記伝搬方向に沿って前記IDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた第1及び第2の弾性波表面共振子と、前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、前記弾性表面波素子は、前記伝搬方向に延びるように形成されるとともにIDT電極及び反射器電極のそれぞれに形成された中心共通バスバー電極部の両側に、前記中心共通バスバー電極部によって互いに接続されるとともにそれぞれ奇数個のIDT電極を有する第1及び第2の弾性表面波素子部が、前記中心共通バスバー電極部に対して対称的に形成されているとともに、前記奇数個のIDT電極のうちの中央のIDT電極の前記中心共通バスバー電極部に不平衡信号端子が接続されており、前記第1及び第2の弾性表面波共振子は、前記弾性表面波素子の両側に前記伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波素子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、上記1)の構成において、2)前記弾性表面波素子は、前記中心共通バスバー電極上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともに前記IDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、該引き出し電極が前記不平衡信号端子に接続されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、上記1)の構成において、3)前記不平衡信号端子と前記第1及び第2の弾性表面波素子部のそれぞれの中央の前記IDT電極とを接続する不平衡側信号用引き出し配線と、前記弾性表面波素子と前記第1及び第2の弾性表面波共振子のそれぞれとを接続する平衡側信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設されていることによって、前記弾性表面波素子と前記第1及び第2の弾性表面波共振子との接続部に容量形成部が設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の通信装置は、上記1)〜3)のいずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1)の弾性表面波装置は、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、伝搬方向に沿ってIDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた第1及び第2の弾性波表面共振子と、伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、弾性表面波素子は、伝搬方向に延びるように形成されるとともにIDT電極及び反射器電極のそれぞれに形成された中心共通バスバー電極部の両側に、中心共通バスバー電極部によって互いに接続されるとともにそれぞれ奇数個のIDT電極を有する第1及び第2の弾性表面波素子部が、中心共通バスバー電極部に対して対称的に形成されているとともに、奇数個のIDT電極のうちの中央のIDT電極の中心共通バスバー電極部に不平衡信号端子が接続されており、第1及び第2の弾性表面波共振子は、弾性表面波素子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されていることことにより、中心共通バスバー電極によって第1及び第2の弾性表面波素子部が接続されて、共通化して形成された弾性表面波素子が、IDT電極の交差幅を従来の弾性表面波素子の半分にまで狭くすることができ、また、従来の弾性表面波素子と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波素子の挿入損失を向上させることができる。
【0021】
また、第1及び第2の弾性表面波共振子は、弾性表面波素子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで隣接して配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子部の各IDT電極のバスバー電極にきわめて短い配線長でもって接続されているので、従来の弾性表面波素子と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波素子の挿入損失を向上させることができる。
【0022】
さらに、第1及び第2の弾性表面波素子部が並行して配置され、接続された弾性表面波素子は、反射器電極が共通化されており、その結果弾性表面波装置全体の占有面積を小さくすることでき、弾性表面波装置を極めて小型化することができる。さらに、圧電基板ウェハ1枚当たりの弾性表面波装置の取り数を多くすることができ、弾性表面波装置の部材コストを大幅に削減することができる。
【0023】
また、本発明の2)の弾性表面波装置は、上記1)の構成において好ましくは、弾性表面波素子は、中心共通バスバー電極上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともにIDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、引き出し電極が不平衡信号端子に接続されていることにより、中心共通バスバー電極上に絶縁体及びその上に引き出し電極が形成されているため、中心共通バスバー電極上の構造物のトータル厚みが厚くなり、中心共通バスバー電極上において、金属膜と絶縁体による質量効果が従来のバスバー電極構造と比較して大きくはたらくこととなる。そのため、中心共通バスバー電極部における弾性表面波の音速が遅くなっている。この構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極の中心共通バスバー電極近傍における音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差部領域の音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波装置を提供することができる。
【0024】
また、中心共通バスバー電極上に引き出し電極を配置したことにより、弾性表面波素子の面積において引き出し電極が占める面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能である。
【0025】
また、本発明の3)の弾性表面波装置は、上記1)の構成において好ましくは、不平衡信号端子と第1及び第2の弾性表面波素子部のそれぞれの中央のIDT電極とを接続する不平衡側信号用引き出し配線と、弾性表面波素子と第1及び第2の弾性表面波共振子のそれぞれとを接続する平衡側信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設されていることによって、弾性表面波素子と第1及び第2の弾性表面波共振子との接続部に容量形成部が設けられていることにより、従来のように寄生容量を発生させる要因となる、弾性表面波素子や弾性表面波共振子の周辺の電極パターン等の構造が異なっていると、例えば電極パターンに対称性がないと、2つの平衡出力端子に伝わる平衡信号が互いに振幅が異なり、また位相が逆相からずれてしまって平衡度が劣化することがあるが、上記の構成により、不平衡側信号用引き出し配線と、平衡側信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設して形成された容量形成部により、弾性表面波装置の等価回路上に導入される容量を、第1の弾性表面波素子部及び第2の弾性表面波素子部において調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0026】
また、上記構成と同様に、弾性表面波素子の各IDT電極及び反射器電極のバスバー電極を中心共通バスバー電極として一体化したことにより、弾性表面波素子の面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能である。
【0027】
本発明の通信装置は、上記1)〜3)いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の弾性表面波装置の実施の形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波素子について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0029】
図1に、本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を平面図で示す。本発明の弾性表面波装置は、図1に示すように、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極2,3と、伝搬方向に沿ってIDT電極2,3を挟んだ両側に配置された反射器電極10〜13とを備えた第1及び第2の弾性波表面共振子18,19と、伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9と、奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極14,16及び15,17とからなる弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置である。
【0030】
また、弾性表面波素子は、伝搬方向に延びるように形成されるとともにIDT電極4〜9及び反射器電極14〜17のそれぞれに形成された中心共通バスバー電極部25の両側に、中心共通バスバー電極部25によって互いに接続されるとともにそれぞれ奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9を有する第1及び第2の弾性表面波素子部20,21が、中心共通バスバー電極部25に対して対称的に形成されているとともに、奇数個のIDT電極4〜6及び7〜9のうちの中央のIDT電極5,8の中心共通バスバー電極部25に不平衡信号端子(不平衡入力端子22または不平衡出力端子22)が接続されており、第1及び第2の弾性表面波共振子18,19は、弾性表面波素子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子部20,21の各IDT電極4,6,7,9のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子(平衡出力端子23,24または平衡入力端子23,24)に接続されている。
【0031】
この構成により、中心共通バスバー電極部25によって第1及び第2の弾性表面波素子部20,21が接続されて、共通化して形成された弾性表面波素子が、IDT電極の交差幅を従来の弾性表面波素子の半分にまで狭くすることができ、また、従来の弾性表面波素子と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波素子の挿入損失を向上させることができる。
【0032】
また、第1及び第2の弾性表面波共振子18,19は、弾性表面波素子の両側に伝搬方向に直交する方向において並んで隣接して配置されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子部20,21の各IDT電極4,6,7,9のバスバー電極にきわめて短い配線長でもって並列接続されているので、従来の弾性表面波素子と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波素子の挿入損失を向上させることができる。
【0033】
即ち、本発明の図1の弾性表面波装置は、第1及び第2の弾性表面波共振子18,19と弾性表面波素子とを接続する引き出し配線の配線長は、従来構成の図5のものと比較して、60〜70%程度と大幅に短くすることができる。これにより、従来構成と比べて配線による抵抗損失をきわめて小さくすることができる。
【0034】
さらに、第1及び第2の弾性表面波素子部20,21が並行して配置され、接続された弾性表面波素子は、反射器電極14〜17が共通化されており、その結果弾性表面波装置全体の占有面積を小さくすることでき、弾性表面波装置を極めて小型化することができる。さらに、圧電基板ウェハ1枚当たりの弾性表面波装置の取り数を多くすることができ、弾性表面波装置の部材コストを大幅に削減することができる。
【0035】
即ち、本発明の図1の弾性表面波装置は、弾性表面波装置全体の面積を、従来構成の図5のものと比較して、70〜85%程度と大幅に小さくすることができる。
【0036】
なお、中心共通バスバー電極部25は、弾性表面波の伝搬方向に一直線状に延びるように形成されるとともに、IDT電極4〜9及び反射器電極14〜17のそれぞれに形成されている。
【0037】
また、図2に本発明の弾性表面波装置について、好適な例であって実施の形態の他例の平面図を示す。図2に示すように、上記図1の構成において、弾性表面波素子は、中心共通バスバー電極部25上に、それに沿って絶縁体26を介して形成されるとともにIDT電極5,8に接続された引き出し電極27が設けられており、この引き出し電極27が不平衡入力端子23,24または不平衡出力端子23,24に接続されている。
【0038】
これにより、中心共通バスバー電極部25上に、絶縁体26及びその上の引き出し電極27が形成されているため、中心共通バスバー電極部25上の構造物のトータル厚みが厚くなり、中心共通バスバー電極部25上において、金属膜と絶縁体26による質量効果が、従来のバスバー電極構造と比較して大きくはたらくこととなる。そのため、中心共通バスバー電極部25部位における弾性表面波の音速が遅くなっている。この構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極の共通電極近傍における音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差部領域の音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波装置を提供することができる。
【0039】
また、中心共通バスバー電極部25上に引き出し電極27を配置したことにより、弾性表面波素子の面積において引き出し電極27が占める面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能である。
【0040】
この引き出し電極27は、IDT電極や中心共通バスバー電極部25と同じ材質のアルミニウムやアルミニウム合金等から成り、その幅は中心共通バスバー電極部25と同程度である。また、絶縁体26は酸化シリコン、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂のレジストから成り、中心共通バスバー電極部25と同程度の幅で、厚みは1μm〜10μm程度が好ましい。1μm未満では、中心共通バスバー電極部25と引き出し電極27との間の絶縁性が不十分となり易く、10μmを超えると、引き出し電極27等の配線の断線が発生するのを抑制することが難しくなり、弾性表面波装置の信頼性が低下し易くなる。
【0041】
また、絶縁体26は、単層からなっていてもよいが、複数層を積層したものであってもよい。また、絶縁体26の誘電率を小さくするために、誘電率が1の気泡を多く含む多孔質体としたり、または誘電率を大きくするためにアルミナやチタン酸バリウム等の高誘電率の粒子を含有させてもよい。また、中心共通バスバー電極部25の部位の音速をより遅くするために、絶縁体26に比重の大きいセラミック粒子等を混入させてもよい。
【0042】
また、図3に本発明の弾性表面波装置について、好適な例であって実施の形態の他例の平面図を示す。図3に示すように、上記図1の構成において、不平衡入力端子22または不平衡出力端子22と第1及び第2の弾性表面波素子部20,21のそれぞれの中央のIDT電極5,8とを接続する不平衡側信号用引き出し配線29と、弾性表面波素子と第1及び第2の弾性表面波共振子18,19のそれぞれとを接続する平衡側信号用引き出し配線30とが、絶縁体28を介して交差して配設されていることによって、弾性表面波素子と第1及び第2の弾性表面波共振子18,19との接続部に容量形成部が設けられている。
【0043】
これにより、従来、寄生容量を発生させる要因となる、弾性表面波素子の周辺の電極パターン等構造が異なっていると、例えば電極パターンに対称性がないと、2つの平衡出力信号端子に伝わる信号が互いに振幅が異なり、また位相が逆相からずれてしまって平衡度が劣化することがあるが、上記の構成により、不平衡信号端子(22)と中央のIDT電極5,8とを接続する不平衡側信号用引き出し配線29と、弾性表面波素子と第1及び第2の弾性表面波共振子18,19のそれぞれとを接続する平衡側信号用引き出し配線30とが、絶縁体28を介して交差して配設して形成された容量形成部により、弾性表面波素子の等価回路上に導入される容量を、第1及び第2の弾性表面波素子20,21において調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0044】
また、上記の構成と同様に、弾性表面波素子の各IDT電極4〜9(IDT電極4とIDT電極7、IDT電極5とIDT電極8及びIDT電極6とIDT電極9のバスバー電極を共通化している。)、及び反射器電極14〜17(反射器電極14と反射器電極15及び反射器電極16と反射器電極17のバスバー電極を共通化している。)のバスバー電極を中心共通バスバー電極として一体化したことにより、弾性表面波装置の面積を極力低減することができ、弾性表面波装置を極端に小型化することが可能である。
【0045】
なお、IDT電極2〜9,反射器電極10〜17の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図面においてはそれらの形状を簡略化して図示している。
【0046】
次に、本発明の弾性表面波装置の製造方法について説明する。まず、圧電基板1上に導体層を形成し、この導体層を一対の平行な共通電極(中心共通バスバー電極部を含む)と各共通電極から互いに噛み合うように延びた複数の電極指とにパターニングしてIDT電極2〜9を形成し、IDT電極2〜9上を絶縁体(保護膜)で被覆し、引き出し電極29,30及びパッド電極部となる導体層をリフトオフ工程またはフォトリソグラフィにより形成する。
【0047】
ここで、圧電基板1としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0048】
また、圧電基板1上に形成する導体層としては、アルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜、またはこれらの材料の層とチタン,クロム等の材料の層との積層膜を用いることができる。引き出し電極29,30及びパッド電極部となる導体層としては、アルミニウム層、アルミニウムとクロム等の材料の層の積層膜、クロムとニッケルと金等の材料の層の積層膜等を用いることができる。導体層の成膜方法としては、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0049】
この導体層をパターニングする方法としては、導体層の成膜後にフォトリソグラフィを行い、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行う方法がある。または、導体層の成膜前に圧電基板1の一方主面にレジストを形成し、フォトリソグラフィを行って所望のパターンの開口を形成した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行ってもよい。
【0050】
次に、IDT電極2〜9を保護するための絶縁体(保護膜)を成膜する。この絶縁体の材料としては、シリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。
【0051】
引き出し電極29,30の交差部の絶縁体28は、例えば、感光性ポリイミド樹脂を用いて、スピンコート法によって圧電基板1上にポリイミド樹脂を塗布した後、絶縁体28を所定箇所において露光、現像する工程により形成する。
【0052】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路及び送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置や、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能であり、本発明の弾性表面波素子を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
【0053】
以上により、優れた弾性表面波装置を有する受信回路や送信回路を備え、感度が格段に良好な優れた通信機等の通信装置を提供できる。
【0054】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何ら差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図4】従来の弾性表面波装置の電極構造例を示す平面図、及び電極指ピッチの変化を示すグラフである。
【図5】従来の弾性表面波装置の電極構造例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1:圧電基板
2〜9:IDT電極
10〜17:反射器電極
18:第1の弾性表面波共振子
19:第2の弾性表面波共振子
20:第1の弾性表面波素子部
21:第2の弾性表面波素子部
26,28:絶縁体
27,29,30:引き出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えたIDT電極と、前記伝搬方向に沿って前記IDT電極を挟んだ両側に配置された反射器電極とを備えた第1及び第2の弾性波表面共振子と、
前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子とが形成された弾性表面波装置であって、
前記弾性表面波素子は、前記伝搬方向に延びるように形成されるとともにIDT電極及び反射器電極のそれぞれに形成された中心共通バスバー電極部の両側に、前記中心共通バスバー電極部によって互いに接続されるとともにそれぞれ奇数個のIDT電極を有する第1及び第2の弾性表面波素子部が、前記中心共通バスバー電極部に対して対称的に形成されているとともに、前記奇数個のIDT電極のうちの中央のIDT電極の前記中心共通バスバー電極部に不平衡信号端子が接続されており、
前記第1及び第2の弾性表面波共振子は、前記弾性表面波素子の両側に前記伝搬方向に直交する方向において並んで配置されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波素子部の各IDT電極のバスバー電極に並列接続され、平衡信号端子に接続されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記弾性表面波素子は、前記奇数個のIDT電極のうちの中央のIDT電極の前記中心共通バスバー電極部上に、それに沿って絶縁体を介して形成されるとともに前記IDT電極に接続された引き出し電極が設けられており、該引き出し電極が前記不平衡信号端子に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記弾性表面波素子は、前記不平衡信号端子と前記第1及び第2の弾性表面波素子部のそれぞれの中央の前記IDT電極とを接続する不平衡側信号用引き出し配線と、前記弾性表面波素子と前記第1及び第2の弾性表面波共振子のそれぞれとを接続する平衡側信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設されていることによって、前記弾性表面波素子と前記第1及び第2の弾性表面波共振子との接続部に容量形成部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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