説明

弾性表面波装置

【課題】圧電ウエハの切り欠き部に垂直な方向と、そのウエハから切り出された長方形の圧電基板の長辺の方向とが同じである圧電基板上に弾性表面波の伝播効率の良い電極配置をもつ、小型の弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】1枚の圧電基板2上に、くし型電極Sから離れるにつれて電極指が短くなる構造の反射器Ra、Rbを備えた弾性表面波フィルタ素子3a、3b、4a、4bからなる弾性表面波フィルタ素子3、4を圧電基板2の長辺方向に対して所定の角度もって、各弾性表面波フィルタ素子が前記圧電基板の長辺に垂直な方向において接触することなく重なるように近接配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置に関し、特に同一の長方形の圧電基板上に複数の弾性表面波フィルタ素子の電極を、所定の角度をもたせて効率よく配置することによって小型化することができる弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波装置は、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから、移動体通信分野、特に、携帯電話等に多く用いられている。
図2(a)は、従来の1次−3次縦結合型二重モード弾性表面波フィルタ(以下、二重モードSAWフィルタという)の電極配置例を示す平面図である。
同図に示されるように、二重モードSAWフィルタ10は、圧電基板11の主面上に表面波の主たる伝搬方向に沿って3つのくし型電極対(以下、IDT電極という)12、13、14を近接配置すると共に、これらの両側に正規型反射器15a、15bを配置して構成したものである。
【0003】
前記IDT電極12、13、14はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし型の電極により構成され、IDT電極12の一方のくし形の電極は入力端(IN)に接続され、他方のくし形の電極は接地される。一方、IDT電極13、14の一方のくし形電極は互いに連結されて出力端子(OUT)に接続されると共に、他方のくし形電極は接地される。
【0004】
同図に示される二重モードSAWフィルタ10の動作は、周知のように、IDT電極12、13、14によって励起される複数の表面波が反射器15a、15bの間に閉じ込められて音響結合し、電極パターンにより1次と3次の2つの縦共振モードが強勢に励振されるため、適当な終端を施すことによりこれらの2つのモードを利用した二重モードSAWフィルタとして動作する。
【0005】
上記の電極構造を有する二重モードSAWフィルタは、IDT電極の対数を増やすことによって振動エネルギを大きくして弾性表面波の伝播効率を高め、また、反射器の電極指の本数を多くすることによって弾性表面波の反射効率を高めることができ、優れた特性を有する二重モードSAWフィルタを構成することができる。
【0006】
図2(b)は、図2(a)に示す二重モードSAWフィルタを2つ縦続接続した2段縦続接続二重モードSAWフィルタの電極配置例を示す平面図である。
同図に示されるように、本2段縦続接続二重SAWフィルタ20は、圧電基板21の主面上に表面波の主たる伝搬方向に沿って3つのIDT電極22、23、24を近接配置すると共に、これらの両側に反射器25a、25bを配置した二重モードSAWフィルタ素子20aと、前記二重モードSAWフィルタ素子20aと同じ構成のIDT電極22'、23'、24'及び反射器25a'、25b'を備えた他の二重モードSAWフィルタ素子20bを縦続に接続した構成を有する。
【0007】
そして、この2段縦続接続二重SAWフィルタ20は、前述のようにIDT電極の対数を増やし、また、反射器の電極指の本数を多くすることによって高い伝送効率をもつとともに、2段縦続に接続することによって通過域近傍において急峻な減衰傾度と大きな保証減衰量をもつフィルタ構成となっている。
【0008】
携帯端末等の高機能化に伴う要求によって、例えば、図3(a)に示すように、1枚の圧電基板上に図2(b)に示す2段縦続接続二重SAWフィルタを2つ備えた弾性表面波装置を構成する場合がある。
同図に示すように、本弾性表面波装置30は、圧電基板31上に、第1の二重モードSAWフィルタ素子32aと第2の二重モードSAWフィルタ素子32bとから成る2段縦続接続二重SAWフィルタ32と、第3の二重モードSAWフィルタ素子33aと第4の二重モードSAWフィルタ素子33bとから成る他の2段縦続接続二重SAWフィルタ33と、を構成したものである。
【0009】
なお、同図の各二重SAWフィルタ素子のIDT電極及び反射器電極は、それぞれ簡略のため、図3(b)に示すように、各電極部分の輪郭線(この場合、輪郭は長方形となる)で示しており、それぞれの二重SAWフィルタ素子32a、32b、33a、33bは長方形で表される。以降の説明においても、各電極部分は同様に輪郭線で示すものとする。
【0010】
同図に示す弾性表面波装置30は小型化のため、例えば、それぞれが700×150(μm)の大きさの二重モードSAWフィルタ素子32a、32b、33a、33bを他の付属のパターン電極と共に大きさが1,500×1,100(μm)の1枚の圧電基板31上に構成したものである。
【特許文献1】特開2004−48240号公報
【特許文献2】特開2000−196399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図4(a)は、図3(a)の回路構成であって、これを更に小型化した弾性表面波装置の電極配置例を示す平面図である。同図に示すように、本例の弾性表面波装置40は、1枚の圧電基板41上に、二重モードSAWフィルタ素子42a、42bとから成る2段縦続接続二重SAWフィルタ42と、二重モードSAWフィルタ素子43a、43bとから成る2段縦続接続二重SAWフィルタ43と、で構成される。
そして、前記二重モードSAWフィルタ素子42a、42b、43a、43bをその長方形の電極輪郭の長辺の方向と前記圧電基板41の長辺の方向との間に所定の角度をもたせて、互いの電極が接触しないように、且つ圧電基板41の長辺に垂直な方向に対して重なるように近接配置したものである。
【0012】
この場合、同図(b)に示すように、例えば二重モードSAWフィルタ素子42b、43bの長方形の長辺の方向(電極指の法線方向:F−F')と圧電基板の長辺方向(X−X')との間の角度はθ1=15°である。
長方形の二重モードSAWフィルタ素子を、前記のように圧電基板の長辺方向に対して傾きをもたせて重なるように近接配置するためには、前記角度θ1と、二重モードSAWフィルタ素子の長方形の長辺の方向(F−F')とその対角線の方向(G−G')との間の角度θ2との間に、θ1>θ2の関係が必要である。前記二重モードSAWフィルタ素子42b、43bにおいてはθ2=12°である。
【0013】
通常、弾性表面波装置の電極を形成する長方形の圧電基板は、圧電基板を切り出す圧電ウエハに設けられた該圧電ウエハの結晶方位を示す切り欠き部(オリエンテイション・フラット)に垂直な方向を前記長方形の圧電基板の長辺の方向とするのが一般的である。
即ち、前記切り欠き部は、圧電ウエハ上における表面波の最良の伝播方向を示すガイドとなるものであって、上記のように切り出された圧電基板の長辺の方向と、その基板上に形成された弾性表面波装置のIDT電極による弾性表面波の主たる伝播方向と、が同じの場合に、弾性表面波の伝播効率が最良となる。
このため、図4のように、圧電基板41の長辺の方向と二重モードSAWフィルタ素子42a、42b、43a、43bの長辺の方向との間に15°の大きな角度がある場合は、IDT電極における弾性表面波の励振効率が低下して、フィルタの挿入損失が増大するという問題があった。
【0014】
上記問題に対して、圧電ウエハの切り欠き部に垂直な方向と弾性表面波装置のIDT電極による弾性表面波の主たる伝播方向とが同じ方向であって、小型化された弾性表面波装置の例が、特開2004−48240号公報に示されている。
この弾性表面波装置は、圧電ウエハ上にIDT電極による弾性表面波の伝播方向が、該圧電ウエハの切り欠き部に垂直な方向と同じ方向になるようにSAWフィルタ素子の電極を形成した後に、前記圧電ウエハから切り出される長方形の圧電基板の長辺の方向と、前記SAWフィルタ素子のIDT電極による弾性表面波の主たる伝播方向と、の間の角度を大きくすることによって、表面波装置を小型化するものである。
【0015】
しかしながら、弾性表面波装置の圧電基板は、通常、圧電ウエハに設けられた切り欠き部を基準にして、これに垂直な方向を長辺として切り出される長方形の圧電基板に、前記圧電基板の長方形の長辺の方向と弾性表面波のIDT電極による主たる弾性表面波の伝播方向とが同一方向となるように電極を配設する製造工程が設定されるのが一般的である。
このため、前記特開2004−48240号公報に示された製造方法によれば、従来の製造工程を変更しなければならず、コスト高となるという問題があった。
本発明は、上記問題の解決のためになされたものであって、圧電ウエハの切り欠き部に垂直な方向と、そのウエハから切り出された長方形の圧電基板の長辺の方向とが同じである圧電基板上に弾性表面波の伝播効率の良い電極配置をもつ、小型の弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1の発明においては、矩形の圧電基板上に、くし型電極対と、該くし型電極対の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波素子を複数個配置した構造の弾性表面波デバイスであって、前記反射器は、前記くし型電極対を離れるにつれて反射器を構成するグレーティングが短くなる構造を備えており、前記弾性表面波素子は、前記圧電基板の一辺と前記くし型電極対を構成する電極指の法線とが所定の角度θ1(θ1は0ではない)を有し、且つ各弾性表面波素子の反射器が前記圧電基板の一辺と平行な方向について互いに接触することなく重なるように近接配置されていることを特徴とする。
また、請求項2の発明においては、請求項1に記載の弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板は、一部に切り欠き部を有する圧電ウエハより矩形上に切り出されたものであって、前記切り欠き部と平行な辺を備えていることを特徴とする。
さらに、請求項3の発明においては、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波デバイスであって、前記角度θ1を8°以上15°未満としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、1枚の圧電基板上に複数の弾性表面波フィルタ素子で構成される弾性表面波装置を構成する場合に、前記各弾性表面波フィルタ素子をくし型電極から離れるにつれて電極指が短くなる構造の反射器を備えた弾性表面波フィルタ素子とし、これらの弾性表面波フィルタ素子を圧電基板の長辺方向に対して所定の角度もって近接配置する構成とした。
これによって、正規型の反射器を備えた場合に比べて、圧電基板の短辺方向の長さを短くでき、小型で且つ減衰特性の優れた弾性表面波フィルタ装置を提供する上で著効を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を図面に示した実施の形態に基づいて説明する。図1は、本発明に係わる弾性表面波装置の実施の一形態例を示す図で、(a)は電極配置を示す平面図、(b)は弾性表面波装置を構成する2重モードSAWフィルタ素子の詳細な電極の平面図、(c)は(a)で隣接する2つの2重モードSAWフィルタ素子の配置を示す平面図である。
同図(a)に示すように、本実施例の弾性表面波装置1は、1枚の矩形の圧電基板2上に第1の2重モードSAWフィルタ素子3aと第2の2重モードSAWフィルタ素子3bとから成る2段縦続接続2重モードSAWフィルタ3と、第3の2重モードSAWフィルタ素子4aと第4の2重モードSAWフィルタ素子4bとから成る他の2段縦続接続2重モードSAWフィルタ4と、で構成される。
【0019】
前記2重モードSAWフィルタ素子3a、3b、4a、4bは、それぞれ同図(b)に示されるように、複数のIDT電極(くし型電極対)Sと反射器Ra、Rbとから成り、前記反射器Ra、Rbは、本発明の特徴である前記IDT電極から離れるにつれてそのグレーティング電極が短くなる楔形の構造を有している。
【0020】
上記構造の2重モードSAWフィルタ素子3a、3b、4a、4bを同図(a)のように配置することによって、図1(c)に示すように圧電基板1の長辺の方向(SAWの伝播効率の優れた方向:X−X')と2重モードSAWフィルタ素子の長辺の方向(電極指の法線方向:H−H')との間の角度はθ1=8°となる。
この結果、図4(a)の構成の場合と比べて圧電基板の短辺の方向の長さが短くなり弾性表面波装置1を小型化することができるとともに、圧電基板の長辺の方向、即ち圧電ウエハの切り欠き部に垂直な方向により近くなるため、IDT電極による主たる弾性表面波の伝播効率が高くなる。
また、図1(c)の場合、圧電基板の長辺方向(X−X')との間の角度θ1を、8°〜15°の間に設定することで、隣接する2重モードSAWフィルタ素子3a、4bあるいは3b、4b間の互いの電極の重なりの程度を深くして、図4(a)のものより圧電基板の長辺の方向の長さを短くして小型化することができる。
【0021】
なお、図1(b)のIDT電極から離れるにつれてその電極指が短くなる楔形の電極構造の反射器Ra、Rbを備えた2重モードSAWフィルタは、特許公報特開2000−196399号に示された2重モードSAWフィルタと同じ構造のものであって、同公報に示されているように、同フィルタの通過帯域の低域側の減衰量を改善する効果をもつものである。
したがって、図1(b)の2重モードSAWフィルタ素子で構成した弾性表面波装置1は小型で性能の優れた弾性表面波フィルタ装置を提供することができる。

なお、本実施例では、弾性表面波フィルタを構成する場合を示したが、本発明は、これのみに限定されるものではなく、1つのIDT電極とその両側に配置される反射器とで構成されるあらゆるタイプのSAW共振子に適用しても同じように効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わる弾性表面波フィルタ装置の実施の一形態例を示す図で、(a)は電極配置を示す平面図、(b)は2重モードSAWフィルタ素子の詳細な電極の平面図、(c)は(a)において隣接する2つの2重モードSAWフィルタ素子間の配置を示す平面図。
【図2】従来の1次−3次縦結合型二重モード弾性表面波フィルタ(以下、二重モードSAWフィルタという)の電極配置例を示す平面図。
【図3】(a)は2段縦続接続の二重モードSAWフィルタを2つ備えたSAWフィルタ装置の電極配置例を示す平面図、(b)はフィルタ電極を輪郭線で示したときの説明図。
【図4】図3(a)の回路構成であって、これを更に小型化したSAWフィルタ装置の電極配置例を示す平面図。
【符号の説明】
【0023】
1・・弾性表面波装置、2・・圧電基板、3・・2段縦続接続の2重モードSAWフィルタ、
3a、3b・・2重モードSAWフィルタ素子、
4・・2段縦続接続の2重モードSAWフィルタ、4a・・2重モードSAWフィルタ素子、
4b・・2重モードSAWフィルタ素子、10・・二重モードSAWフィルタ素子、
11・・圧電基板、12、13、14・・くし型電極対(IDT電極)、
15a、15b・・反射器、20・・2段縦続接続二重SAWフィルタ、
20a、20b・・二重モードSAWフィルタ素子21・・圧電基板、
22、22'、23、23'、24、24'・・くし型電極対(IDT電極)、
25a、25a'、25b、25b'・・反射器、30・・弾性表面波装置、31・・圧電基板、
32・・2段縦続接続二重SAWフィルタ、32a、32b・・二重モードSAWフィルタ素子、
33・・2段縦続接続二重SAWフィルタ、33a、33b・・二重モードSAWフィルタ素子、
40・・弾性表面波装置、41・・圧電基板、42・・2段縦続接続二重SAWフィルタ、
42a、42b・・二重モードSAWフィルタ素子、43・・2段縦続接続二重SAWフィルタ、
43a、43b・・二重モードSAWフィルタ素子、
Ra、Rb・・反射器、S・・くし型電極(IDT電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の圧電基板上に、くし型電極対と、該くし型電極対の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波素子を複数個配置した構造の弾性表面波デバイスであって、
前記反射器は、前記くし型電極対を離れるにつれて反射器を構成するグレーティングが短くなる構造を備えており、
前記弾性表面波素子は、前記圧電基板の一辺と前記くし型電極対を構成する電極指の法線とが所定の角度θ1(θ1は0ではない)を有し、且つ各弾性表面波素子の反射器が前記圧電基板の一辺と平行な方向について互いに接触することなく重なるように近接配置されていることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記圧電基板は、一部に切り欠き部を有する圧電ウエハより矩形上に切り出されたものであって、前記切り欠き部と平行な辺を備えていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記角度θ1を8°以上15°未満としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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