説明

弾性表面波装置

【課題】弾性表面波デバイスの高性能・高安定化を目的とした漏洩弾性表面波フィルタや漏洩弾性表面波振動子の構造に関するもので、三次の温度特性を有し、Loss変動も極めて少ない高安定な弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】膜厚ゼロでカット角16.2°で切断した回転Yカット水晶板400に、空隙404を設けて、漏洩弾性表面波を励起する周期2LpのIDT電極402を設ける。403は伝播してきた漏洩弾性表面波を受けるIDT電極である。IDT電極は誘電体と空隙空間を挟んで水晶板表面の上部の空隙空間に形成されるため、水晶板上の漏洩弾性表面波の励振効率に寄与する空隙空間の電界は誘電体中の電界が弱まった分、εS倍水晶板上の空隙空間の電界が強くなるという特長がある。
【効果】IDT電極と水晶板表面の間の空隙に誘電体を挿入することで電界強度を高め質量負荷を弾性表面波に与えることがないので前述の問題点を克服できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩弾性表面波を利用して実現する弾性表面波装置、更に詳細にはすべての弾性表面波フィルタや弾性表面波振動子に適用可能である。特に、高安定、高機能化が要求される移動体通信分野での携帯電話機や光通信分野における光モジュール部の心臓部としての弾性表面波デバイスの高性能・高安定化を目的とした漏洩弾性表面波フィルタや漏洩弾性表面波振動子の構造に関するもので、三次の温度特性を有し、Loss変動も極めて少ない高安定な弾性表面波装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
超小型・高安定性が要求される移動体通信機器や光通信機器等の分野において、特に弾性表面波フィルタは必須のエレクトロメカニカル機能デバイスとしてその地位を確立している。弾性表面波フィルタの製造方法は、LSIと同じフォトリソグラフィ技術で製作されているため、量産が可能なデバイスである。これまで、弾性表面波デバイスは、1ppm/℃の周波数変動を有するパラボリックな周波数温度特性曲線をもつST-cut水晶が長らく使われてきた。このST-cut水晶は、バルク波の三次温度特性曲線を有するAT-cut水晶に比べると、温度特性的には劣性である。これまで、各所で三次温度特性を持つ弾性表面波のカット探査がなされてきたが、残念ながら、レーレイ波の探査では、発見できなかった。しかしながら、特許文献1に記載されているように、実験中に、世界で最初に回転Yカット水晶のBT側に属するYカット(右手系のオイラー角で15°付近)の漏洩弾性表面波で三次温度特性を有するLSTカットの発見をした。その後、このLSTカットの詳細な検討を行うことで、バルク波と同様に、膜厚依存性は高く、特に高温においてLossの変動が大きいことがわかった。この原因は、漏洩弾性表面波の伝播損失が温度の変化に対して伝播損失が増減する温度依存性に起因していることがわかり、この対策として、切断角度を0.6°補正することが最とも有効であることもわかった。本来のAT-cut水晶並みの三次曲線を得るためには、漏洩弾性表面波固有の膜厚からの拘束を解く必要がある。弾性表面波デバイスはシリコンデバイスとは異なり、圧電結晶を使用していることから、電極膜を圧電結晶上に形成すると、弾性表面波には圧電反作用と質量負荷効果が生じる。特に、LSTカット水晶を使用した漏洩弾性表面波としてのSAWフィルタは、従来のレーリー波を使用したSAWフィルタが質量負荷は中心周波数の頂点温度のシフトという形で現れていた温度特性が、LSTカットの温度特性は3次的あるいは直線的に変化することから、LSTカットは電極膜厚の影響を強く受けることになる。周波数安定度を最適にするためには、カット角と膜厚の両方のパラメータを制御する必要がある。通常、漏洩弾性表面波の伝播損失は小さいが高温側の温度特性になると挿入損失が急速に増大する。漏洩弾性表面波の挿入損失の温度特性はカット角依存性は大きいが、電極膜厚の影響はそれほどでもない。したがって、挿入損失の温度特性は電極膜厚が無視できるようになれば、カット角で補正できる。
【0003】
現行の移動通信機器はその周波数発振源にATカット水晶のオーバートーン水晶発振器を使用し、さらに逓倍回路にて所要の高い周波数を得ている。そのため、逓倍は水晶発振器のC/Nや位相歪を悪化させるばかりでなくセットの高性能化や小型軽量化への妨げとなっている。それゆえ、ATカット並の三次の温度特性を有し、高周波で直接発振が可能な弾性表面波振動子が長い間の研究開発の目標であった。
【0004】
弾性表面波デバイスの交差指状(IDT:Inter Digital Transducer )電極の質量付加効果を無くす方法として、特許文献2や特許文献3がある。特許文献2は、圧電体基板と、圧電体基板の上方にエアギャップを介して配設された櫛形電極と、櫛形電極を支持する非圧電体からなる絶縁体ブリッジを備え、櫛形電極により、エアギャップを介して圧電体基板における弾性表面波の励振あるいは受信を行なうことを特徴とする弾性表面波素子である。引用特許文献2の[実施例]の3頁右上13行―14行目に「櫛形電極3a、3bの部分は絶縁体ブリッジ4の裏面に懸垂されるごとくに固着されており、」と記載されている。特許文献3は、回転Yカット水晶LSTカット基板に空隙層を介して対向して形成される漏洩弾性表面波を送受させるIDT電極を設け,IDT電極には電気的に接続されてなる引出電極部から構成されたトランスバーサル型弾性表面波デバイスにおいて、IDT電極部は回転Yカット水晶LSTカット基板の漏洩弾性表面波振動領域を囲うように空隙を設けた絶縁性の単体または複合膜に形成することで電極膜厚負荷の影響を受けない漏洩弾性表面波デバイス構造とした弾性表面波装置である。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−84105号公報
【特許文献2】特願平03−6912号公報
【特許文献3】特開2003−17969号公報
【非特許文献1】「すだれ状電極による圧電板に対する弾性表面波の励振について」, 東北大学電気通信研究所第120回音響工学研究会、1965年11月26日
【非特許文献2】「水晶LSTカットを伝播する漏洩弾性表面波の特性改善に関する検討」、 信学技報: US-2001-53(2001-09)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の3頁の上から3〜4行目に、表面波の励振方法としての上位概念である圧電物質の直接表面に電極を張り付けることなく、表面近傍におかれた電極の電界により励振する方法が示されている。この方法が弾性表面波デバイスのIDT電極の質量付加効果を無くす方法であり、これは、空間的なエアギャップを介して配設された櫛形電極で漏洩弾性を励振する方法である。IDT電極の配置位置が水晶板の表面から離れるにつれ、弾性表面波の励振強度や受信信号は低下し、IDT電極での送受できる電界強度は弱くなっていく。非特許文献2の第7図に、空間に設けられたIDT電極の水晶板表面からの距離をパラメータとして、得られる漏洩弾性表面波の受信電界強度分布が示されている。特許文献2や特許文献3は、表面波の励振方法として、非特許文献1の構造と異なる下位概念として位置づけられ、その外観図は図10で、断面図は図11で示される。回転Yカット水晶板1000に、空隙空間1004を設けて漏洩弾性表面波を励起するIDT電極1002(1003)を設ける。IDT電極1002(1003)の電極周期は2Lpである。1003(1002)は伝播してきた漏洩弾性表面波を受けるIDT電極である。このエアギャップを設けたIDT電極の電界分布は、図3で示される。回転Yカット水晶板300に空間的な空隙空間304を介して絶縁膜301にIDT電極が回転Yカット水晶板300に漏洩弾性表面波を励起する電界分布が矢印で示されている。図11の断面図で回転Yカット水晶板1100上に空隙空間1104を介して絶縁膜1101で支持されたIDT電極1002、1003が形成されている。エアギャップを介して配設されたIDT電極で漏洩弾性を励振する方法は、IDT電極の配置位置が水晶板の表面から離れるにつれ弾性表面波の励振強度や受信信号が劣化をするため、IDT電極と回転Yカット水晶板との空隙を極めて近接させる必要がある。また従来の発明では、図11の断面図からも明らかなように、IDT電極が絶縁膜の下にあるため、外観上、IDT電極の断線や不具合の状態は確認できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
弾性表面波フィルタや弾性表面波振動子は70MHz 〜3GHzでの使用周波数領域でIDT電極や反射器を含む漏洩弾性表面波振動用領域(空隙を設けるエリア)は、002mm〜3mmと極めて微小面積である。空隙を介してIDT電極を空間的に支える誘電体材料で構成された単体または複合膜の厚みは、数千Å〜数μmで機械的強度は充分である。従来の問題点を解決するための手段として、本発明の回転Yカット水晶LSTカット基板に空隙層を介して対向して形成される漏洩弾性表面波を送受させるIDT電極を設けてなるトランスバーサル型弾性表面波フィルタにおいて、回転Yカット水晶LSTカット基板の表面に空隙空間、その上に誘電体、さらに誘電体の上に漏洩弾性表面波を励振するIDT電極が積層状に形成されてなる構造とする弾性表面波フィルタを提供することで、これまでの空間的励振方法による弾性表面波の励振強度や受信信号の劣化の問題を解決することができる。また本発明の共振器型弾性表面波振動子は、回転Yカット水晶LSTカット基板上にグルーブ構造または金属電極埋め込構造の反射器を対向して設けて一対の反射電極構造を形成し、この反射電極間の所定の位置に空隙空間を介して形成された漏洩弾性表面波を励起させるIDT電極とから構成された共振器型弾性表面波振動子において、回転Yカット水晶LSTカット基板の表面に空隙空間、その上に誘電体を形成し、さらに誘電体の上に漏洩弾性表面波を励振する交差指状電極が積層状に形成されてなる構造とすることで電極膜厚負荷の影響を受けない高安定、高信頼性の弾性表面波振動子を提供する。本発明の漏洩弾性表面波の励振方法は、弾性表面波であるレーレイ波にも広く適用可能である。
【0008】
本発明は、漏洩弾性表面波を励振するIDT電極が回転Yカット水晶LSTカット基板の漏洩弾性表面波振動領域を囲うように、空隙を設けた誘電体の中に形成された構造のトランスバーサル型弾性表面波フィルタや共振器型弾性表面波振動子も提供できる。
【発明の効果】
【0009】
次に本発明の弾性表面波装置の動作特性について、実施例にもとづき図面を参照にして説明する。図1および図2は、本発明の基本構成の弾性表面波装置のIDT電極部の1周期当たりのIDT電極の断面図とその電界分布を表す。図1は、IDT電極が誘電体の表面に形成された場合では電圧Vの加わった図1での電界は、IDT電極と水晶板との間の距離をd、誘電体101の比誘電率ε と厚みをdとすると、誘電体101と空間104の電界強度は、数1の数式で表される。数1の左辺は数2であるから、漏洩弾性表面波の励振効率に寄与する空間の電界は誘電体中の電界が弱まった分だけ強くなる。IDT電極の位置が水晶板の表面から極端に離れても、漏洩弾性表面波の励振強度や受信信号の低下をきたすようなことはほとんどない。このIDT電極と誘電体との一体構造は、エアギャップを介して漏洩弾性を励振する最とも効率の良い励振方法である。IDT電極が誘電体の上に形成されているため、外観からIDT電極の断線状態や不具合の確認が可能という特長も併せ持つ。
【0010】
【数1】

【0011】
【数2】

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態の一つとして、右手系のオイラー角15°〜17°で切り出された回転Yカット水晶LSTカット基板に空隙層を介して対向して形成される漏洩弾性表面波を送受させるIDT電極を設けたトランスバーサル型弾性表面波デバイスにおいて、回転Yカット水晶LSTカット基板の表面に空隙空間、その上に誘電体、さらに誘電体の上に漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とする積層構造からなる弾性表面波フィルタであり、または、IDT電極部は誘電体の中に形成された構造としたことである。
【0013】
もう一つの本発明を実施するための弾性表面波振動子の最良の形態の一つとして、右手系のオイラー角15°〜17°で切り出された回転Yカット水晶LSTカット基板上にグルーブ構造または金属電極埋め込構造の反射器を対向して設けて一対の反射電極構造を形成し、この反射電極間の所定の位置に空隙層を介して形成された漏洩弾性表面波を励振させるIDT電極とから構成される共振器型弾性表面波振動子において、IDT電極は、回転Yカット水晶LSTカット基板の表面に空隙空間、その上に誘電体、さらに誘電体の上に漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とする積層構造からなる共振器型弾性表面波振動子であり、また、IDT電極部が誘電体の中に形成された構造とした共振器型弾性表面波振動子である。
【実施例1】
【0014】
図4と図5は、本発明の一実施例であるトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの外観図とその断面図である。膜厚ゼロでカット角16.2°で切断した回転Yカット水晶板400(500)に、空隙404(504)を設けて、漏洩弾性表面波を励起する周期2LpのIDT電極402(502)を設ける。403(503)は伝播してきた漏洩弾性表面波を受けるIDT電極である。空隙空間404(504)を設ける方法は、フォトリソグラフィ技術の基本技術として確立されている。最初に、0.1μm〜数μmの厚みのZnO薄膜や金属薄膜を回転Yカット水晶板400(500)に堆積させる。または、数10μmのフォトレジスト膜をコーティングする方法が適用できる。この空隙形成用犠牲層膜の表面を誘電体の薄膜401(501)で被う。401(501)は、空隙を空間的に確保する為のハードコーティングの誘電体膜である。コーティングの誘電体膜としては、パイレックス(登録商標)(登録商標)薄膜、ダイヤモンド薄膜、β‐CN窒化物で構成する。フォトリソグラフィ技術で、最下層の空隙形成犠牲層膜をエッチングで除去し、所望の漏洩弾性表面波振動領域を確保するようパターン形成する。この誘電体の薄膜401(501)の上に、漏洩弾性表面波を励起するIDT電極であるアルミニウム薄膜をスパッタ、蒸着法等で形成する。フォトリソグラフィ技術でIDT電極を形成すれば、機械的空間的に保たれたIDT電極が誘電体の薄膜401(501)の表面に形成される。膜の成膜条件を的確に制御することにより、膜は応力緩和され、基本的に安定な膜構成とすることができる。この状態の漏洩弾性表面波では、質量負荷されない。なお、空隙形成用犠牲層膜、ハードコーティング誘電体膜、アルミニウム薄膜の三層構造の状態で、最下層の空隙形成用犠牲層膜をエッチングで除去し空隙空間を形成してもよい。励振効率に関しては、IDT電極と水晶板の空間ギャプが0.1μm〜数μmであることから、IDT電極は誘電体と空隙空間を挟んで水晶板の上部に形成されるため、水晶板上の漏洩弾性表面波の励振効率に寄与する空間の電界は誘電体中の電界が弱まった分だけ強くなるという特長がある。IDT電極の位置が水晶板の表面から離れても、弾性表面波の励振効率や受信信号の低下をきたすことない。このような構造の弾性表面波デバイスは、エアギャップを介して配設されたIDT電極での弾性表面波を励振する最良の方法である。IDT電極が誘電体の上に形成さていることから、外観からIDT電極の断線状態や不具合の確認が可能となる。特長も併せ持つ。このように本発明では、膜厚ゼロでLSTカット角16.2°を使用することで、漏洩弾性表面波フィルタとして−30℃〜110℃の温度範囲で、周波数変化量が20ppm以下で、挿入損失の変化が0.4dB以下の伝播損失0.0002dB/λ以下の特性を有する弾性表面波デバイスが、実現できる。
【実施例2】
【0015】
図6と図7は、本発明のもう一つの実施例であるトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの外観図とその断面図である。膜厚ゼロでカット角16.2°で切断した回転Yカット水晶板600(700)に、空隙空間604(704)を設けて、誘電体601(701)の中に漏洩弾性表面波を励起する周期2LpのIDT電極602(702)を設ける。603(703)は伝播してきた漏洩弾性表面波を受けるIDT電極である。空隙空間604(704)を設ける方法は、フォトリソグラフィ技術の基本技術として確立されている。最初に、0.1μm〜数μmの厚みのZnO薄膜や金属薄膜を回転Yカット水晶板600(700)に堆積させる。または、数10μmのフォトレジスト膜をコーティングする方法も適用できる。この空隙形成用犠牲層膜の表面を誘電体の薄膜で被う。この誘電体の薄膜は、空隙を空間的に確保する為のハードコーティングの誘電体膜である。コーティング膜としては、パイレックス(登録商標)(登録商標)薄膜、ダイヤモンド薄膜、β‐CN窒化物で構成する。フォトリソグラフィ技術で、最下層の空隙形成用犠牲層膜をエッチングで除去し、所望の漏洩弾性表面波振動領域を確保するようパターン形成する。この絶縁性の誘電体薄膜の上に、漏洩弾性表面波を励起するIDT電極であるアルミニウム薄膜をスパッタ、蒸着法等で形成する。フォトリソグラフィ技術でIDT電極を形成すれば、機械的空間的に保たれたIDT電極は誘電体の表面に形成される。このIDT電極の上にさらに透明なSiOの誘電体を堆積させることで、IDT電極の機械的な強度の強化と外部からの金属性異物によるIDT電極のショートが防止できる。外観からIDT電極の断線状態や不具合の確認が可能である。この状態の漏洩弾性表面波では、IDT電極は質量負荷されない。なお、空隙形成用犠牲層膜、ハードコーティング誘電体膜、アルミニウム薄膜、ハードコーティング誘電体膜の四層構造とし、最下層の空隙形成用犠牲層膜をエッチングで除去して弾性表面波デバイスを構成してもよい。漏洩弾性表面波の励振効率に関しては、IDTと水晶板の空間ギャプが0.1μm〜数μmであることから、IDT電極の形成する電界は誘電体を介して、空隙空間から水晶板表面に効率的に作用する。漏洩弾性表面波の励振効率に関しては、水晶板表面の電界は誘電体中の電界が弱まった分だけ水晶板上の電界強度分布は強くなる。IDT電極の位置が水晶板の表面から離れても、弾性表面波の励振強度や受信信号の低下をきたすことはない。IDT電極が透明度のSiO誘電体で被われていることから、外観からIDT電極の断線状態や不具合の確認できる。このように本発明では、膜厚ゼロでLSTカット角16.2°を使用することで、漏洩弾性表面波フィルタとして−30℃〜110℃の温度範囲で、周波数変化量が20ppm以下で、挿入損失の変化が0.4dB以下の伝播損失0.0002dB/λ以下の特性を有するものが、実現できる。
【実施例3】
【0016】
図8と図9は、本発明の他の実施例である共振器型の漏洩弾性表面波共振器の外観図と断面図である。回転Yカット水晶板800(900)に、共振器を構成する反射器802、803を設ける。この反射器802、803の形成は、ドライエッチングで反射効率の高い溝加工をする。反射効率をさらに高めるためには、この溝加工されたグルーブにアルミニウム膜を埋めてもよい。しかしながら、アルミニウム膜を堆積させると、質量負荷の影響がでてくるので、注意する必要がある。反射器802、803の間の最適位置に空隙空間を設けて、漏洩弾性表面波を励起するIDT電極805(905)を設ける。空隙空間804(904)を設ける方法は、フォトリソグラフィ技術では、基本的技術として確立されている。最初に、0.1μm〜数μmの厚みのZnO薄膜や金属薄膜を水晶板に堆積させる。または、数10μmのフォトレジスト膜をコーティングする方法も適用できる。この空隙形成用犠牲層膜の表面を誘電体の薄膜801(901)で被う。801(901)は、空隙を空間的に確保する為のハードコーティングの誘電体膜である。コーティング膜としては、パイレックス(登録商標)(登録商標)薄膜、ダイヤモンド薄膜、β‐CN窒化物で構成する。フォトリソグラフィ技術で、最下層の空隙形成用犠牲層膜をエッチングで除去し、所望の漏洩弾性表面波振動領域を確保するようパターン形成する。この絶縁性の誘電体薄膜801(901)の上に、漏洩弾性表面波を励起するIDT電極であるアルミニウム薄膜をスパッタ、蒸着法等で形成する。フォトリソグラフィ技術でIDT電極を形成すれば、機械的空間的に保たれたIDT電極が誘電体薄膜801(901)の表面に形成でき、優れた漏洩弾性表面波共振器が実現できる。膜の成膜条件を的確に制御することにより、膜は応力緩和され、基本的に安定な膜構成とすることができる。この状態の漏洩弾性表面波は、質量負荷されない。なお、空隙形成用犠牲層膜、ハードコーティングの誘電体膜、アルミニウム薄膜の三層構造とし、最下層の空隙形成用犠牲層膜をエッチングで除去してもよい。なお、空隙形成用犠牲層膜、ハードコーティング誘電体膜、アルミニウム薄膜、ハードコーティング誘電体膜の四層構造としてもよい。このように本発明の漏洩弾性表面波共振器は、膜厚ゼロの状態でLSTカット角16.2°を使用することで、漏洩弾性表面波共振器として、−30℃〜110℃の広い温度範囲で、周波数変化量が20ppm以下のQの高い、SAWレゾネータが実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
上述したように本発明の弾性表面波装置は、従来の固定観念であった漏洩弾性表面波やレーリー弾性表面波の励起用電極として使用されているIDT電極の形成を回転Yカット水晶板の表面から空間的に浮かせてIDT電極により、漏洩弾性表面波の励振効率や受信効率を高めるため、IDT電極と水晶板表面の間の空隙空間に誘電体を挿入することで電界強度分布を高め、質量負荷効果を弾性表面波に与えることなく、膜厚の影響を無くすことで、本来の漏洩弾性表面波の有する優れた3次温度特性を得られるようにしたもので、長期エージング的にも、水晶表面とIDT電極との間の界面で生じる数々の問題点を克服できる。この手法は、大電力用SAWに関しても表面での弾性振動の影響でIDT電極のダメージを回復できることから、新たな分野を開拓できる可能性があり、その工業的価値はきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の弾性表面波装置の交差指状電極が誘電体膜の表面にある時の電界分布を表す。
【図2】本発明の弾性表面波装置の交差指状電極が誘電体膜の中にある時の電界分布を表す。
【図3】従来発明の弾性表面波装置の交差指状電極が誘電体膜の内部にある時の電界分布を表す。
【図4】本発明の一実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの外観図である。
【図5】本発明の一実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの断面図である。
【図6】本発明の他の実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの外観図である。
【図7】本発明の他の実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの断面図である。
【図8】本発明の一実施例であるトランスバーサル型の漏洩弾性表面波振動子の外観図である。
【図9】本発明の一実施例であるトランスバーサル型の漏洩弾性表面波振動子の断面図である。
【図10】従来発明の実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの外観図である。
【図11】従来発明の実施例のトランスバーサル型の漏洩弾性表面波フィルタの断面図である。
【符号の説明】
【0019】
100 水晶板
101 絶縁性膜
102 空隙
200 水晶板
201 絶縁性膜
202 空隙
300 水晶板
301 絶縁性膜
302 空隙
400 水晶板
401 絶縁性膜
402 IDT電極
403 IDT電極
404 空隙
500 水晶板
501 絶縁性膜
502 IDT電極
503 IDT電極
504 空隙
600 水晶板
601 絶縁性膜
602 IDT電極
603 IDT電極
604 空隙
700 水晶板
701 絶縁性膜
702 IDT電極
703 IDT電極
704 空隙
800 水晶板
801 絶縁性膜
802 反射電極
803 反射電極
804 IDT電極
805 空隙
900 水晶板
901 絶縁性膜
902 反射電極
903 反射電極
904 IDT電極
905 空隙
1000 水晶板
1001 絶縁性膜
1002 IDT電極
1003 IDT電極
1004 空隙
1100 水晶板
1101 絶縁性膜
1102 IDT電極
1103 IDT電極
1104 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右手系のオイラー角15°〜17°で切り出された回転Yカット水晶LSTカット基板に空隙層を介して対向して形成される漏洩弾性表面波を送受させる交差指状電極を設け該交差指状電極から構成されたトランスバーサル型弾性表面波フィルタまたは該回転Yカット水晶LSTカット基板上にグルーブ構造または金属電極埋め込構造の反射器を対向して設けて一対の反射電極構造を形成してなる共振器型弾性表面波振動子において、該回転Yカット水晶LSTカット基板の表面に空隙空間、その上に誘電体、さらに誘電体の上に漏洩弾性表面波を励振する交差指状電極とする積層構造からなることを特徴とした弾性表面波装置
【請求項2】
交差指状電極部は誘電体の中に形成されたことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−339742(P2006−339742A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158755(P2005−158755)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【特許番号】特許第3851336号(P3851336)
【特許公報発行日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(595141982)
【Fターム(参考)】