説明

弾性表面波装置

【課題】添加物を含む圧電基板を用いたSAW装置についてより適切な基板カット角を示し、電気特性を向上させる。
【解決手段】単結晶圧電基板(例えばLiTaO3,LiNbO3)と、この圧電基板の表面に設けたAlを主成分とする材料により形成されたIDTとを備えたSAW装置で、圧電基板は、添加物(例えばFe、Mn、Cu、Ti)を含みかつX軸を中心にY軸からZ軸方向に42°〜48°(より好ましくは46°±0.3°)の範囲の角度で回転させた方位を有する。IDTは、規格化膜厚h/λ(h:電極厚、λ:電極間隔)を7〜11%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置に係り、特に単結晶圧電基板に添加物を加えて弾性表面波装置を構成する場合の好適な基板カット角に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電効果によって発生する弾性表面波(Surface Acoustic Wave/SAW)を利用した弾性表面波装置(以下、SAW装置という)は、小型軽量で信頼性に優れることから、フィルタや共振器などの電子デバイスとして携帯電話機その他の電子機器に広く利用されている。
【0003】
かかるSAW装置は、一般に、高周波信号を印加することにより弾性表面波を励振する電極と、この電極により励振されて伝搬された弾性表面波を受け、これを再び電気信号に変換することにより特定周波数の信号を抽出する電極とを圧電基板上に形成してなり、特定周波数の信号を抽出するフィルタや共振器、デュプレクサ等の信号処理デバイスを構成することが可能である。
【0004】
また、フィルタや共振器としての最適な電気特性を得るため、使用する圧電基板のカット角について種々の提案がなされている(下記特許文献参照)。
【特許文献1】特表2004−507960号公報
【特許文献2】特開平9−167936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電基板は圧電性とともに焦電性を一般に併せ持つ。このため、温度変化に伴って基板表面に不均一な電荷分布が生じ、デバイスの電気特性を劣化させたり、あるいは電荷の蓄積により微細なIDT電極間で放電が生じ、電極指がダメージを受け、更には静電破壊を起すこともある。
【0006】
したがってこのような焦電性に伴う問題を解消する一つの方法として、圧電基板に鉄(Fe)等の微量添加物が添加されることがある。添加物を加えることにより圧電基板の体積抵抗率を下げ、電荷の蓄積を防ぎ、焦電特性を改善するのである。
【0007】
ところが、このように微量添加物を含む圧電基板を使用したSAW装置の電気特性を種々検討したところ、添加物を含む基板と含まない基板とでは最適な基板カット角が異なることを本発明者は見出した。すなわち、上記のような添加物を含む基板にあっては、基板カット角に関する従来の(添加物を含まない基板についての)設計手法をそのまま用いることは適切ではなく、添加物を含む基板に特有の好適なカット角が存在する。よって、添加物を含む基板を使用したSAW装置にはこの点で電気特性を更に向上させる余地がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、添加物を含む圧電基板を使用したSAW装置についてより適切なカット角を提示し、当該SAW装置の電気特性を更に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係るSAW装置は、単結晶圧電基板と、この圧電基板の表面に設けたアルミニウム(Al)を主成分とする材料(Al又はAl合金)により形成されたIDT(交差指状電極)とを備えたSAW装置であって、前記単結晶圧電基板は、添加物を含み、かつ、X軸を中心にY軸からZ軸方向に42°〜48°(より好ましくは46°±0.3°)の範囲の角度で回転させた方位を有する。
【0010】
添加物を含む圧電基板を使用してSAW装置(例えばSAWフィルタ)を構成する場合には、当該圧電基板のカット角を上記のように設定すれば、高いQ値と通過帯域における低い挿入損失を有する良好な電気特性を備えたSAW装置を実現することが出来る。尚、この点については後の実施形態の説明において測定結果(図3〜5)に基づいてさらに述べる。
【0011】
上記圧電基板は、典型的にはタンタル酸リチウム(LiTaO3/以下、LTと記す)基板またはニオブ酸リチウム(LiNbO3/以下、LNと記す)基板である。ただし必ずしもこれらに限定されず、水晶その他の圧電基板であっても良い。
【0012】
一方、上記添加物としては、例えば鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)およびチタン(Ti)が挙げられる。これらのうちの2種類以上を含んでいても良い。また、これらのうち特にFeは、上記圧電基板(LT,LN)に対し均一に混合しやすく、良好な結晶品質を得られる点で好ましい。尚、Feを上記添加物として使用する場合にはその添加物の添加率を、1.24wt%以下とすることが望ましい。この場合、3.6×1010Ω・cm以上の体積抵抗率を有する圧電基板が得られる。Feの添加率が1.24wt%を超えると圧電基板の体積抵抗率が低減しすぎることで、基板に電気が流れやすくなり、IDT12の電極指同士が短絡し、電気特性が劣化する。
【0013】
圧電基板は圧電性とともに一般に焦電性を有するから、温度変化に伴い基板表面に不均一な電荷分布が生じ、この電荷が蓄積されるとSAW装置の製造時や各種電子機器に実装された後における実使用時に特性劣化やIDT部の放電による電極へのダメージを引き起こすことが危惧される。これに対し、上記のようにFe等の添加物を圧電基板に加えれば、当該基板の体積抵抗を下げ、かかる問題を回避して信頼性に優れたSAW装置を製造することが出来る。しかも、当該基板のカット角を本発明に従い上記範囲内に設定することにより、電気特性に優れたSAW装置を実現することが可能となる。
【0014】
尚、上記のように添加物の添加によって焦電特性の改善が可能となるが、本発明は添加物の目的を焦電特性の改善に限定するものではない。すなわち、焦電特性の改善でなく他の目的で添加されていたとしても、結果として添加物を含めば本発明にいう上記圧電基板に該当する。このような基板であっても添加物を含むことには変わりはなく、本発明が提示する上記カット角を備えることによって同様に本発明が意図する良好な電気特性が得られるからである。
【0015】
圧電基板の表面に形成する電極(IDT)の外形寸法については、例えば、IDTの厚さhを当該IDTの電極間隔λで規格化した値である規格化膜厚h/λが略7〜11%(h/λ≒0.07〜0.11)となるよう構成することが好ましい。ただし、本発明におけるIDTの外形寸法は、必ずしも当該範囲に限定されるものではなく、他の値(例えばh/λ=1%〜15%)を採っても良い。
【0016】
本発明のSAW装置には、例えばIDT又はこれと反射器を含むSAW共振器、SAWフィルタ、及びSAWデュプレクサ等の圧電性基板上に発生される弾性表面波を利用する各種のデバイスが含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、添加物を加えた圧電基板を使用しSAW装置を構成する場合に、より適切な基板カット角を提示することができ、良好な電気特性(高Q、低挿入損失等)を備えたSAW装置を得ることが可能となる。
【0018】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るSAW装置を示す概念図である。同図に示すようにこのSAW装置は、LT(LiTaO3)単結晶基板11の表面にIDT(交差指状電極)12を設けてなるもので、LT基板11には微量添加物としてFeを添加してある。Feを添加する方法としては、例えばチョクラルスキー法において基板(ウエハ)を構成する単結晶を生成する場合に、溶融したLT材料中にFeを加える等の方法によれば良い。
【0020】
Feの添加によりLT基板11の体積抵抗率は低下する。この場合、Feの添加量を調整することによって上記LT基板11の体積抵抗率が3.6×1010 〜1.5×1014Ω・cmの範囲内になるようにすることが望ましい。体積抵抗率を1.5×1014Ω・cm以下とすることによりLT基板11への電荷の蓄積を防ぎ、放電によって電極12がダメージを受けたり静電破壊が生じることを防止する一方、体積抵抗率を3.6×1010Ω・cm以上とすることによりIDT12の電極指同士が短絡することを防ぐためである。
【0021】
図2はLT基板の切出し角(カット角)を示す概念図であり、結晶軸X、YおよびZを有するLT単結晶を、結晶軸Xの回りにY軸からZ軸方向に回転角θだけ回転させた角度で切り出した状態を示している。このような単結晶圧電基板をθ回転Y‐X基板と称すれば、本実施形態ではθを46°とした基板、すなわち上記LT基板11として46°回転Y‐X基板を使用する。尚、実際の作製にあたっては製造誤差(公差)を含むことから、本実施形態にいうθが46°とは、46°±0.3°(45.7°≦θ≦46.3°)の範囲内の角度を含む。本実施形態でθを46°とするのは次の理由に基づく。
【0022】
図3は、添加物としてFeを含むLT単結晶のθ回転Y‐X基板上に共振器を形成した場合の基板の切出し角(カット角)θと当該共振器の共振抵抗値との関係を、図4は基板カット角θと反共振抵抗値との関係を、また図5は基板カット角θと共振抵抗‐反共振抵抗比との関係をそれぞれ示すものである。尚、測定に用いた共振器(IDT)の電極はAlにより形成し、電極の規格化膜厚h/λ(hは電極厚、λは電極間隔である)は7%、9%および11%とした。図3から図5の各線図において、h/λ=7%とした場合を「●」点で、h/λ=9%とした場合を「△」点で、h/λ=11%とした場合を「×」点でそれぞれ示している。
【0023】
これらの線図から明らかなように、Feを含むLT単結晶基板では、基板カット角θが42°、44°および48°の場合と較べて46°のときに最も低い共振抵抗と、最も高い反共振抵抗並びに共振抵抗‐反共振抵抗比が得られることが分かった。したがって本実施形態のSAW装置では、上記基板カット角θを特に好ましい構成例として46°とする。これによりFeを含むLT単結晶基板の表面に電気特性(高Qおよび低挿入損失)に優れたSAW共振器を形成することが出来る。
【0024】
尚、上記IDT12はAlにより形成することとしたが、Al合金によるものとしても良い。IDT電極寸法は、規格化膜厚h/λを7〜11%としたが、他の値(例えば1%〜15%)を採ることも可能である。また、前記図1では示していないが、基板11の表面にはIDT12のほか、反射器や導体線路、入出力用の電極パッド等が備えられる。さらに上記LT基板11上に複数の共振器を形成してSAWフィルタやSAWデュプレクサ等を構成することが出来るが、各共振器の接続構造、IDT電極の配置構造等は、様々な構造を採ることが可能であり特に限定されない。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るSAW装置を示す模式図である。
【図2】単結晶圧電基板の切出し角を説明する概念図である。
【図3】添加物としてFeを添加したLiTaO3単結晶基板のカット角と、共振抵抗との関係を示す線図である。
【図4】添加物としてFeを添加したLiTaO3単結晶基板のカット角と、反共振抵抗との関係を示す線図である。
【図5】添加物としてFeを添加したLiTaO3単結晶基板のカット角と、共振抵抗‐反共振抵抗比との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0027】
11 Feを添加したLT単結晶基板
12 IDT電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶圧電基板と、この圧電基板の表面に設けたアルミニウムを主成分とする材料により形成された交差指状電極とを備えた弾性表面波装置であって、
前記単結晶圧電基板は、添加物を含み、かつ、X軸を中心にY軸からZ軸方向に42°〜48°の範囲の角度で回転させた方位を有する
ことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記単結晶圧電基板は、添加物を含み、かつ、X軸を中心にY軸からZ軸方向に46°±0.3°の範囲の角度で回転させた方位を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記交差指状電極の厚さhを当該交差指状電極の電極間隔λで規格化した規格化膜厚h/λが7〜11%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記圧電基板が、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記添加物として、鉄、マンガン、銅およびチタンのうちの1種類以上のものを含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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