説明

弾性表面波装置

第1,第2の音響チャネルが並列に接続された弾性表面波装置であって、狭帯域化を図ることができるだけでなく、帯域内平坦性に優れ、かつ低損失であり、帯域外減衰特性が改善された弾性表面波装置を提供する。 第1,第2の音響チャネルが並列に接続されており、各音響チャネルC1,C2が、入力変換器2,5、反射電極3,6及び出力変換器4,7を表面波伝搬方向に配置した構成を有し、入力変換器で励振されて直接出力変換器に到達する表面波を第1,第2の音響チャネルC1,C2間で相殺され、入出力変換器または反射電極にて2回以上の反射された反射波により通過帯域が構成される、狭帯域化に適した弾性表面波装置において、入力変換器2,5、出力変換器4,7及び反射電極3,6は、それぞれ、複数本の電極指を有し、該複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されている、弾性表面波装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭帯域のフィルタ特性を実現することを可能とする弾性表面波装置に関し、より詳細には、圧電基板上に第1,第2の音響チャネルが並列に接続されるように構成されている弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信機器の帯域フィルタとして、様々な弾性表面波装置が提案されている。
弾性表面波装置では、用途に応じて、広帯域のフィルタ特性が要求されることがあったり、狭帯域のフィルタ特性が求められたりすることがある。
【0003】
狭帯域のフィルタ特性を得るために、下記の特許文献1及び2に記載の弾性表面波装置では、それぞれ、第1,第2の音響チャネルが並列に接続されている。
【0004】
図13は、特許文献1に記載の弾性表面波装置の模式的平面図である。
【0005】
弾性表面波装置101では、圧電基板102上に、第1,第2の音響チャネルV1,V2が構成されている。音響チャネルV1,V2は、並列に接続されている。
【0006】
音響チャネルV1は、表面波伝搬方向中央に反射電極103を有する。反射電極103の表面波伝搬方向外側に、入力変換器104及び出力変換器105が配置されている。また、入力変換器104及び出力変換器105の外側に、外側反射電極106,107が配置されている。
【0007】
上記入力変換器104,出力変換器105及び反射電極103は、いずれも、複数本の電極指を有する。入力変換器104及び出力変換器105では、互いに間挿し合う複数本の電極指が、表面波伝搬方向と直交する方向に延ばされている。また、反射電極103においては、複数本の電極指が表面波伝搬方向と直交する方向に延ばされており、かつこれらの両端が短絡されている。
【0008】
第2の音響チャネルV2においても、同様に、反射電極108と、その両側に設けられた入力変換器109及び出力変換器110と、外側反射電極111,112とが設けられている。
【0009】
他方、図14は、特許文献2に記載の弾性表面波装置の電極構造を模式的に示す平面図である。弾性表面波装置121では、第1,第2の音響チャネルV3,V4が並列に接続されている。ここでは、第1の音響チャネルV3は、入力変換器122、出力変換器123及び反射電極124を有する。第2の音響チャネルV4は、入力変換器125、出力変換器126及び反射電極127を有する。
【0010】
入力変換器122及び出力変換器123と、入力変換器125及び出力変換器126とは同様に構成されており、かつ入力変換器122と出力変換器123との間の間隔Xと、入力変換器125と出力変換器126との間の間隔が等しくされている。
【0011】
他方、反射電極124の表面波伝搬方向に沿う寸法は、第2の音響チャネルの反射電極127の表面波伝搬方向に沿う寸法よりもλ/2だけ短くされており、それによって中心周波数以外における直接変換器/変換器信号が消滅し、良好なフィルタ特性が得られるとされている。
【特許文献1】アメリカ合衆国特許第5,475,348号
【特許文献2】特開平7−336190号公報
【発明の開示】
【0012】
特許文献1に記載の弾性表面波装置101では、第1,第2の音響チャネルV1,V2が並列に接続された構造を有し、それによって狭帯域のフィルタ特性が得られるとされている。
【0013】
また、特許文献2に記載の弾性表面波装置121では、第1の音響チャネルの反射電極124の寸法を、第2の音響チャネルの反射電極127の寸法よりもλ/2小さくすることにより、通過帯域内において直接変換器/変換器信号が消滅し、良好なフィルタ特性が得られるとされている。
【0014】
しかしながら、特許文献1,2に記載のような第1,第2の音響チャネルが並列に接続された従来の弾性表面波装置では、狭帯域化は図り得るものの、通過帯域近傍におけるフィルタ特性が十分でなく、通過帯域における平坦性が十分でなく、さらに挿入損失が十分に小さくならないという問題があった。
【0015】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、第1,第2の音響チャネルが並列に接続された構造を有する、狭帯域化を図り得る弾性表面波装置であって、さらに通過帯域近傍における減衰特性に優れており、通過帯域の平坦性が良好であり、さらに低損失の弾性表面波装置を提供することにある。
【0016】
本発明によれば、圧電基板と、前記圧電基板上に配置されておりかつ、並列に接続された第1,第2の音響チャネルとを備え、各音響チャネルが、入力変換器と、表面波伝搬方向において入力変換器と隔てられた出力変換器と、前記入力変換器と出力変換器との間に配置された反射電極とを有し、入力変換器で励振され、直接出力変換器に到達する表面波が第1,第2の音響チャネルで打ち消し合い、入力変換器、出力変換器または反射電極において少なくとも2回以上の反射を経た反射波により通過帯域が形成される弾性表面波装置において、前記入力変換器、出力変換器及び反射電極がそれぞれ複数本の電極指を有し、該複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されていることを特徴とする、弾性表面波装置が提供される。
【0017】
本発明に係る弾性表面波装置のある特定の局面では、前記入力変換器及び出力変換器が、一方向性入力変換器及び一方向性出力変換器であり、第1の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれが、第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれと同一とされており、第1の音響チャネルにおける入力変換器と出力変換器との間の距離が、第2の音響チャネルにおける入力変換器と出力変換器との間の距離と等しくされており、第1,第2の音響チャネルにおいて、入力変換器及び出力変換器の一方が電気的に逆相に接続されており、他方が同相に接続されており、第1,第2の音響チャネルの反射電極がほぼ等しい反射特性を有し、第2の音響チャネルにおける反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法が、第1の音響チャネルの反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法よりもλ/2だけ短くされている。
【0018】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の局面では、前記入力変換器及び出力変換器が、一方向性入力変換器及び一方向性出力変換器であり、第1の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれが、第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれと同一とされており、第1の音響チャネルの入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器と反射電極との間の間隔が、それぞれ、第2の音響チャネルの入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器との反射電極との間の間隔よりもλ/4だけ短くされており、第1,第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器の双方が電気的に同相に接続されている。
【0019】
本発明に係る弾性表面波装置では、好ましくは、入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に3本の電極指を有するSPUDT電極からなる。
【0020】
本発明に係る弾性表面波装置では、好ましくは、入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に4本の電極指を有するSPUDT電極からなる。
【0021】
本発明に係る弾性表面波装置のある特定の局面では、前記入力変換器、出力変換器及び反射電極が、それぞれ、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜された方向に延びる複数本の電極指を有する傾斜型SPUDT電極である。
【0022】
本発明に係る弾性表面波装置では、入力変換器、出力変換器及び反射電極を有する第1,第2の音響チャネルが圧電基板上において並列に接続されている弾性表面波装置において、入力変換器、出力変換器及び反射電極がそれぞれ複数本の電極指を有し、該複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されているため、通過帯域内のフィルタ特性の平坦性を改善することができ、挿入損失を効果的に低減することができ、さらに通過帯域近傍における減衰特性を改善することが可能となる。
【0023】
従って、低損失かつ高減衰特性の狭帯域の弾性表面波装置を提供することができる。
【0024】
第1の音響チャネルにおける反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法が、第1の音響チャネルの反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法よりもλ/2だけ短くされている場合には、通過帯域内外における変換器/変換器信号を確実に消滅させることができ、帯域外特性の改善を図ることができる。
【0025】
第1の音響チャネルにおける入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器と反射電極との間の間隔が、第2の音響チャネルの入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器と反射電極との間の間隔よりもλ/4だけ短くされており、入力変換器及び出力変換器の双方が電気的に同相に接続されている場合には、中心周波数から離れるにともない変換器/変換信号の完全な打ち消し合いは崩れるが、それでも十分な帯域外減衰特性を実現することができる。
【0026】
本発明において、入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に3本の電極指を有するSPUDT電極からなる場合には、素子の更なる小型化を実現することができる。
【0027】
本発明において、入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に4本の電極指を有するSPUDT電極からなる場合には、素子の小型化と同時に低インピーダンス化を実現することができる。
【0028】
本発明において、入力変換器、出力変換器及び反射電極が、それぞれ、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜された方向に延びる複数本の電極指を有する傾斜型SPUDT電極からなる場合には、上記のように電極指が傾斜されているため、該複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されることになる。よって、電極指を上記のように傾斜させた構造とするだけで、本発明の弾性表面波装置を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
[図1]図1は本発明の第1の実施形態の弾性表面波装置の略図的平面図である。
[図2]図2は第1の実施形態の弾性表面波装置で用いられている入力変換器を示す模式的平面図である。
[図3]図3は第1の実施形態の弾性表面波装置で用いられている出力変換器を示す模式的平面図である。
[図4]図4は第1の実施形態の弾性表面波装置で用いられている反射電極を示す模式的平面図である。
[図5]図5は比較例1の弾性表面波装置の電極構造を示す模式的平面図である。
[図6]図6は比較例2の弾性表面波装置の電極構造を示す模式的平面図である。
[図7]図7は第1の実施形態の弾性表面波装置についての実施例の減衰量−周波数特性を示す図である。
[図8]図8は比較例1の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を示す図である。
[図9]図9は比較例2の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を示す図である。
[図10]図10は図15に示した従来の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を示す図である。
[図11]図11は本発明の第2の実施形態の弾性表面波装置の電極構造を示す概略平面図である。
[図12]図12は第2の実施形態の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を示す図である。
[図13]図13は従来の弾性表面波装置の一例を示す模式的平面図である。
[図14]図14は従来の弾性表面波装置の他の例を示す模式的平面図である。
[図15]図15は従来の弾性表面波装置のさらに他の例を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…弾性表面波装置
2…入力変換器
3…反射電極
4…出力変換器
5…入力変換器
6…反射電極
7…出力変換器
8…入力端子
9…出力端子
11a,11b…電極指
12a,12b…電極指
13…電極指
71…弾性表面波装置
72…入力変換器
73…反射電極
74…出力変換器
75…入力変換器
76…反射電極
77…出力変換器
C1…第1の音響チャネル
C2…第2の音響チャネル
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0032】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波装置の電極構造を説明するための概略平面図である。
【0033】
弾性表面波装置1は、圧電基板P上に、第1,第2の音響チャネルC1,C2を配置した構造を有する。第1の音響チャネルC1と、第2の音響チャネルC2とは並列に接続されている。
【0034】
音響チャネルC1は、表面波伝搬方向に沿って入力変換器2、反射電極3及び出力変換器4を有する。同様に、第2の音響チャネルC2においても、表面波伝搬方向に沿って入力変換器5、反射電極6及び出力変換器7が配置されている。
【0035】
音響チャネルC1,C2において、反射電極3,6は、入力変換器2,5と、出力変換器4,7との間に配置されている。なお、音響チャネルC1の入力変換器2の電極構造を図2に模式的平面図で示す。入力変換器2は、数本の電極指11a,11bを有する傾斜型SPUDT電極により構成されている。ここで、SPUDT電極とは、一方向性変換器を意味するものであり、「傾斜型」とは、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜されている電極指11a,11bを有することを意味する。
【0036】
傾斜型SPUDT電極により、入力変換器2が構成されているため、入力変換器2においては、表面波伝搬方向と直交する位置によって電極指のピッチが変化している。
【0037】
図3は、出力変換器4の電極構造を示す模式的平面図である。出力変換器4も、出力変換器2と同様に、傾斜された複数本の電極指12a,12bを有するSPUDT電極により構成されている。
【0038】
図4は、上記反射電極3の電極構造を示す模式的平面図である。
【0039】
図4から明らかなように、反射電極3もまた、入力変換器2及び出力変換器4と同様に、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜されている複数本の電極指13a,13bを有する。従って、反射電極3においても、複数本の電極指のピッチは、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化している。
【0040】
なお、本明細書において、上記「傾斜型」SPUDT電極における「傾斜型」は、全ての電極指が表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜されていることを意味するものではない。すなわち、複数本の電極指の内、少なくとも1本の電極指が上記のように傾斜されておればよく、その場合においても、表面波伝搬方向と直交する位置によって電極指のピッチが変化されることになる。
【0041】
図1に戻り、第2の音響チャネルC2の入力変換器5及び出力変換器7は、それぞれ第1の音響チャネルC1の入力変換器2及び出力変換器4と同一に構成されている。
【0042】
他方、反射電極6の表面波伝搬方向に沿う寸法は、反射電極3の表面波伝搬方向に沿う寸法と異ならされている。すなわち、反射電極6の表面波伝搬方向に沿う寸法は、反射電極3の表面波伝搬方向に沿う寸法よりもλ/2だけ短くされている。なお、λは、弾性表面波装置1において伝搬する表面波の波長である。
【0043】
より具体的には、反射電極3の上端、すなわち表面波伝搬方向に沿う寸法が短い側の端部における波長をλ、反射電極6の下端、すなわち表面波伝搬方向に沿う寸法が大きい側の端部における波長をλとしたときに、反射電極3,6の表面波伝搬方向に沿う寸法の差は、交叉幅方向の上端で2×λ/4=λ/2,交叉幅の下端で、2×λ/4=λ/2とされている。
【0044】
図1に示すように、上記入力変換器2,5の一端は共通接続されて、入力端子8に電気的に接続されている。また、入力変換器2,5の他端はアース電位に接続される。さらに、出力変換器4,7の一端が共通接続されて、出力端子9に接続されている。
【0045】
もっとも、図1から明らかなように、入力変換2,5は電気的に同相に接続されており、出力変換器4,7は電気的に逆相に接続されている。そして、第1,第2の音響チャネルの反射電極3,6の反射特性はほぼ等しくされている。
【0046】
また、第1の音響チャネルC1における入力変換器2と、出力変換器4との間の距離と、第2の音響チャネルC2における入力変換器5と出力変換器7との間の距離は等しくされている。
【0047】
本実施形態の弾性表面波装置1では、並列に接続された第1,第2の音響チャネルC1,C2間において、入力変換器で励振され直接出力変換器に到達する表面波が相殺され、入出力変換器または反射電極において2回以上反射された反射波により通過帯域が構成される。すなわち、特許文献1,2に記載のようなTTRF(Two−Track−Reflector−Filter)設計の弾性表面波装置が構成されている。そして、本実施形態では、入力変換器2,5、出力変換器4,7及び反射電極3,6が、上記のように、電極指が表面波伝搬方向と直交する方向に傾斜された構造を有するため、言い換えれば、複数本の電極指ピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されているために、通過帯域の平坦性が高められ、通過帯域近傍における減衰特性が急峻化され、さらに帯域内損失を低減することができる。これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0048】
第1の実施形態の弾性表面波装置1の具体的な実施例として、以下の仕様により弾性表面波装置を作製した。
【0049】
第1の音響チャネルの入出力変換器2,4の電極指の対数は55.5対、反射電極3の電極指は46本とした。また、入力変換器2、出力変換器4及び反射電極3の電極指ピッチを、表面波伝搬方向と直交する方向の位置によって変化させた構造とした。すなわち、図2〜図4に示したように、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜した電極指を有するように、入出力変換器2,4及び反射電極3を構成した。
【0050】
第2の音響チャネルでは、入出力変換器5,7の電極指の対数は55.5対、中央の反射電極6の電極指は45本とし、他は上記の音響チャネルC1と同様に構成した。
【0051】
また、波長λと、波長λとの比λ/λは0.9798とした。
【0052】
なお、入力変換器2,5及び出力変換器4,7は、EWC(Electrode Width Controlled)型SPUTDで構成し、重み付けは施さなかった。また、SPUDT内の反射に対しても、重み付けは施さなかった。
【0053】
他方、反射電極3,6はソリッド電極により構成し、反射電極についても重み付けは行わなかった。
【0054】
上記のようにして構成された実施例の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を図7に示す。
【0055】
比較のために、図5及び図6に電極構造を模式的に示す比較例1,2の弾性表面波装置を下記の要領で製作した。このようにして得られた比較例1,2の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を図8及び図9に示す。
【0056】
図5に示す比較例1の弾性表面波装置41では、第1,第2の音響チャネルV1,V2が、それぞれ、入力変換器42,45及び出力変換器44,47を有する。もっとも、弾性表面波装置41では、入力変換器42,45及び出力変換器44,47の電極指の対数は61.5対とした。そして、入力変換器42,45及び出力変換器44,47の電極指は、表面波伝搬方向と直交する方向に延ばされている。すなわち、弾性表面波装置41では、傾斜型の入力変換器、出力変換器を用いていない。
【0057】
他方、図6に示す比較例2の弾性表面波装置51では、第1,第2の音響チャネルV1,V2は、それぞれ、特許文献2に記載の弾性表面波装置に従って構成されている。すなわち、音響チャネルV1では、入力変換器52、反射電極53及び出力変換器54が表面波伝搬方向に配置されており、音響チャネルV2では、入力変換器55、反射電極56及び出力変換器57が表面波伝搬方向に配置されている。そして、反射電極53の表面波伝搬方向に沿う寸法に比べて、反射電極56の表面波伝搬方向に沿う寸法がλ/2だけ小さくされている。
【0058】
なお、入力変換器52,55は同相に接続されており、出力変換器54,57は逆相に電気的に接続されている。弾性表面波装置51を構成するに際し、入出力変換器の電極指の対数は54.5対とし、反射器の電極指の本数は反射電極53については50本、反射電極56については49本とした。
【0059】
弾性表面波装置51においても、各入出力変換器及び反射電極の電極指の延びる方向は表面波伝搬方向と直交する方向とした。
【0060】
図8及び図9に、比較例1,2の弾性表面波装置41,51の減衰量−周波数特性を示す。図8〜図9と、図7とを比較すれば明らかなように、本実施例によれば、帯域内損失を低減することができ、通過帯域の平坦性を高めることができ、さらに、通過帯域近傍における減衰特性を効果的に改善し得ることがわかる。
【0061】
これは、実施例では、入力変換器2,5、出力変換器4,7及び反射電極3,6の複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されているため、すなわち、いわゆる「傾斜型」の電極とされているため、上記TTRF設計との組み合わせにより、挿入損失の低減及びフィルタ特性の急峻性の改善が図られていることによる。この理由は、以下の通りである。
【0062】
従来のTTRF構造では、通過帯域内の平坦性を高めるために、逆位相の反射波が用いられていた。そのため、順位相の反射波と一部相殺し合うため挿入損失が悪化せざるを得なかった。
【0063】
逆に、TTRF構造において、逆位相の反射波を用いなければ、挿入損失の悪化をある程度抑制することはできるが、単峰性の特性しか得らない。従って、通過帯域における平坦性を改善することができない。
【0064】
他方、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜させた複数本の電極指を有する電極、いわゆる傾斜型の電極を用いた構造は、本来、広帯域のフィルタ特性を得るための方法として知られている。例えば、特表平11−500593号公報には、図15に示す弾性表面波装置が開示されている。ここでは、トランスバーサル型弾性表面波装置61において、圧電基板62上に、傾斜型の入力変換器63及び出力変換器64が配置されている。入力変換器63及び出力変換器64の電極指が表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜されており、それによって電極指の位置が表面波伝搬方向と直交する位置において変化している。
【0065】
このような傾斜型の入出力変換器63,64を用いた場合、表面波伝搬方向と直交する位置によって電極指ピッチが異なるため、広帯域のフィルタ特性を得ることができる。しかしながら、選択度を高めるには、電極指交差幅方向に対する電極指の傾斜が無視でき得る程度に細かなトラックに分割して考えると、各トラック単独の特性をできる限り狭帯域化しなければならない。そのため、従来、傾斜型の入出力変換器では、選択度を高めるには、電極指の対数を多くしなければならなかった。従って、傾斜型の入出力変換器は、狭帯域のフィルタには適用は困難であると考えられていた。
【0066】
これに対して、本実施形態では、狭帯域のフィルタ特性を得るのには不適切であると考えられていた、上記傾斜型の電極構造を、TTRF構造に組み合わせることにより、狭帯域化を図りつつ、通過帯域の平坦性の改善、通過帯域近傍の減衰特性の改善及び帯域内挿入損失の低減が果たされている。
【0067】
すなわち、TTRF構造では、励振された表面波を相殺することにより、反射波のみで通過帯域が形成される。従って、電極指の対数が同じである場合であっても、時間軸応答を2倍程度に延ばすことができる。よって、通常のトランスバーサル型の弾性表面波フィルタに比べて、TTRF構造では狭帯域化を図ることができる。
【0068】
また、細分化されたトラックの周波数特性は、単峰性の特性で十分であるため、逆位相の反射波を用いる必要はない。従って、挿入損失の悪化を最小限とすることができる。
【0069】
このようにして構成されたTTRF構造の入出力変換器及び反射電極を、要求される帯域幅に応じて傾斜させた構造とすることにより、高選択度を維持したまま、帯域幅を拡げることができ、通過帯域内の平坦性を高めることができるとともに、通過帯域近傍の減衰特性の向上を図ることができる。また、逆位相の反射波を用いることなく帯域内の平坦性を高めることができる。従って、挿入損失の悪化も少ない。加えて、通過帯域から離れるに従って、より大きな減衰量を確保することも可能となる。
【0070】
従って、上記のような理由により、上記実施例の弾性表面波装置では、比較例1,2の弾性表面波装置に比べて、帯域内損失が小さく、帯域内平坦性が高められ、かつ通過帯域近傍の減衰特性の改善が図られている。
【0071】
よって、本実施形態によれば、小型であり、低損失であり、さらに通過帯域近傍の減衰特性に優れた弾性表面波装置を提供することができる。
【0072】
なお、上記実施形態では、入出力変換器及び反射電極に重み付けが施されていなかったが、要求される特性に対して、挿入損失や選択度が十分な大きさである場合には、間引き重み付けなどの重み付けを施してもよい。重み付けを施すことにより、通過帯域近傍の減衰量をより一層改善することができる。
【0073】
また、本実施形態では、第1,第2の音響チャネル間で励振された表面波を相殺することが重要である。従って、入力変換器と出力変換器の電極指の対数や重み付けを必ずしも一致させる必要はない。
【0074】
図11は、本発明の第2の実施形態の弾性表面波装置を示す模式的平面図である。
【0075】
第2の実施形態の弾性表面波装置71では、圧電基板(図示せず)上において、互いに並列に接続された第1,第2の音響チャネルC1,C2が構成されている。第2の実施形態の弾性表面波装置71が、第1の実施形態の弾性表面波装置1と異なるところは、入力変換器72,75が同相に電気的に接続されており、出力変換器74,77もまた同相に電気的に接続されていること、反射電極73,76の電極指の本数がいずれも46本と等しくされていることにある。
【0076】
なお、入力変換器72及び出力変換器74の電極指の対数は55.5対とした。入力変換器75及び出力変換器77の電極指の対数も55.5対とした。
【0077】
もっとも、入出力変換器及び反射電極の上端と下端の波長の比λ/λは0.9798とした。
【0078】
さらに、第1の音響チャネルC1の入出力変換器72,74と反射電極73との間の距離に対し、第2の音響チャネルC2の入出力変換器75,77と反射電極76との間の距離は、上端及び下端において、それぞれ、λ/4及びλ/4だけ大きくされている。
【0079】
また、入出力変換器72,74,75,77はEWC型SPUDTで構成した。これらの入出力変換器に重み付けは施さなかった。
【0080】
他方、反射電極73,76は、ソリッド電極で構成し、重み付けは施さなかった。
【0081】
本実施形態においても、入出力変換器及び反射電極は、第1の実施形態と同様に傾斜型の電極構造とした。
【0082】
第2の実施形態の弾性表面波装置の減衰量−周波数特性を図12に示す。
【0083】
図12から明らかなように、本実施形態においても、帯域内挿入損失が小さく、帯域内における平坦性に優れており、かつ通過帯域近傍の減衰特性が改善されたフィルタ特性が得られることがわかる。もっとも、図7に示した第1の実施例の特性と、図12に示した減衰量−周波数特性を比較すれば明らかなように、通過帯域から離れた部分における減衰量は図12に示した特性では、図7に示した特性よりも劣る。これは、第2の実施形態では、フィルタの中心周波数から離れるに従って、励振された表面波の相殺が十分に行われ難いことによる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に配置されておりかつ、並列に接続された第1,第2の音響チャネルとを備え、
各音響チャネルが、入力変換器と、表面波伝搬方向において入力変換器と隔てられた出力変換器と、前記入力変換器と出力変換器との間に配置された反射電極とを有し、
入力変換器で励振され、直接出力変換器に到達する表面波が第1,第2の音響チャネルで打ち消し合い、入力変換器、出力変換器または反射電極において少なくとも2回以上の反射を経た反射波により通過帯域が形成される弾性表面波装置において、
前記入力変換器、出力変換器及び反射電極がそれぞれ複数本の電極指を有し、該複数本の電極指のピッチが、表面波伝搬方向と直交する位置によって変化されていることを特徴とする、弾性表面波装置。
【請求項2】
前記入力変換器及び出力変換器が、一方向性入力変換器及び一方向性出力変換器であり、第1の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれが、第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれと同一とされており、第1の音響チャネルにおける入力変換器と出力変換器との間の距離が、第2の音響チャネルにおける入力変換器と出力変換器との間の距離と等しくされており、
第1,第2の音響チャネルにおいて、入力変換器及び出力変換器の一方が電気的に逆相に接続されており、他方が同相に接続されており、第1,第2の音響チャネルの反射電極がほぼ等しい反射特性を有し、
第2の音響チャネルにおける反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法が、第1の音響チャネルの反射電極の表面波伝搬方向に沿う寸法よりもλ/2だけ短くされている、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記入力変換器及び出力変換器が、一方向性入力変換器及び一方向性出力変換器であり、第1の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれが、第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器それぞれと同一とされており、
第1の音響チャネルの入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器と反射電極との間の間隔が、それぞれ、第2の音響チャネルの入力変換器と反射電極との間の間隔及び出力変換器との反射電極との間の間隔よりもλ/4だけ短くされており、第1,第2の音響チャネルの入力変換器及び出力変換器の双方が電気的に同相に接続されている、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に3本の電極指を有するSPUDT電極からなる、請求項2または3に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
入力変換器及び出力変換器の内の少なくとも一方の変換器が、表面波の一波長中に4本の電極指を有するSPUDT電極からなる、請求項2または3に記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記入力変換器、出力変換器及び反射電極が、それぞれ、表面波伝搬方向と直交する方向に対して傾斜された方向に延びる複数本の電極指を有する傾斜型SPUDT電極である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。

【国際公開番号】WO2005/034346
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514360(P2005−514360)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010707
【国際出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】