説明

弾性表面波装置

共振周波数や中心周波数の調整が容易であり、周波数温度特性が良好であり、比帯域幅が広くかつ反共振抵抗が高い弾性表面波装置を得る。
電気機械結合係数が15%以上であるLiTaO3またはLiNbO3からなる圧電性基板1と、圧電性基板1に形成されており、Alよりも密度の大きい金属もしくは合金からなる金属層を主たる金属層とし、該主たる金属層に他の金属からなる金属層が積層されている積層膜により構成されている少なくとも1つの電極と、前記少なくとも1つの電極が形成されている領域を除いた残りの領域において、前記電極と略等しい膜厚とされている第1のSiO層2とを備え、前記電極の密度が、第1のSiO層2の密度の1.5倍以上であり、前記電極及び第1のSiO層2を被覆するように形成された第2のSiO層6と、前記第2のSiO層6上に形成された窒化ケイ素化合物層22とをさらに備える弾性表面波装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性表面波装置に関し、より詳細には電極を被覆するように絶縁物層が形成されている構造を備えた弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムに用いられるDPXやRFフィルタでは、広帯域かつ良好な温度特性の双方が満たされることが求められている。従来、DPXやRFフィルタに使用されてきた弾性表面波装置では、36°〜50°回転Y板X伝搬LiTaO3からなる圧電性基板が用いられている。この圧電性基板は、周波数温度係数が−40〜−30ppm/℃程度である。従って、温度特性を改善するために、圧電性基板上においてIDT電極を被覆するように正の周波数温度係数を有するSiO2膜を成膜する方法が知られている。図18は、この種の弾性表面波装置の製造方法の一例を示す。
【0003】
図18(a)に示すように、圧電性基板51上に、IDT電極が形成される部分を除いてレジストパターン52が形成される。次に、図18(b)に示すように、全面にIDT電極を形成するための電極膜53が形成される。しかる後、レジスト剥離液を用いて、レジスト52及びレジスト52上に付着している金属膜が除去される。このようにして、図18(c)に示すように、IDT電極53Aが形成される。次に、図18(d)に示すように、IDT電極53Aを被覆するように、SiO2膜54が成膜される。
【0004】
他方、上記周波数温度特性の改善とは別の目的で、弾性表面波装置のIDT電極を被覆するように絶縁性または反導電性の保護膜が形成されている弾性表面波装置の製造方法が下記特許文献1に開示されている。図19は、この先行技術に記載の表面波装置を示す模式的断面図である。弾性表面波装置61では、圧電性基板62上に、AlまたはAlを主成分とする合金からなるIDT電極63が形成されている。IDT電極63の設けられている領域以外の領域には、絶縁性または反導電性の電極指間膜64が形成されている。また、IDT電極63及び電極指間膜64を被覆するように、絶縁性または反導電性の保護膜65が形成されている。この先行技術に記載の弾性表面波装置61では、上記電極指間膜64及び保護膜65が、SiO2などの絶縁物やシリコーンなどの反導電性材料により構成される旨が記載されている。ここでは、上記電極指間膜63の形成により、圧電性基板61の有する焦電性に起因する電極指間の放電による特性の劣化が抑制されるとされている。
【0005】
他方、下記の特許文献2には、水晶またはニオブ酸リチウムからなる圧電性基板上に、アルミニウムや金などの金属からなる電極が形成されており、さらにSiO2膜を形成した後、該SiO2膜を平坦化してなる1ポート型弾性表面波伝共振子が開示されている。ここでは、平坦化により良好な共振特性が得られるとされている。
【特許文献1】特開平11−186866号公報
【特許文献2】特開昭61−136312号公報
【発明の開示】
【0006】
図18に示したように、従来の周波数温度特性を改善するためにSiO2膜を成膜してなる弾性表面波装置の製造方法では、IDT電極53Aが存在する部分と、存在しない部分とで、SiO2膜54の表面の高さが異なることになる。従って、上記SiO2膜54表面の凹凸の存在により、挿入損失が劣化するという問題があった。また、IDT電極の膜厚が大きくなるにつれて、この凹凸は大きくなる。従って、IDT電極の膜厚を厚くすることができなかった。
【0007】
他方、文献1に記載の弾性表面波装置では、IDT電極63の電極指間に電極指間膜64が形成された後に、保護膜65が形成されている。従って、保護膜65の表面を平坦化することができる。
【0008】
しかしながら、文献1に記載の構成では、IDT電極63はAlまたはAlを主成分とする合金により構成されていた。このIDT電極63に接するように電極指間膜64が形成されていたが、IDT電極63において十分な反射係数を得ることができなかった。そのため、例えば共振特性などにリップルが生じがちであるという問題があった。
【0009】
さらに、文献1に記載の製造方法では、保護膜65を形成するに先だち、電極指間膜64上に形成されたレジストをレジスト剥離液を用いて除去しなければならないが、この際に、IDT電極63がレジスト剥離液で腐食される恐れがあった。従って、IDT電極を構成する金属として、腐食され易い金属を用いることができなかった。すなわち、IDT電極構成金属の種類に制約があった。
【0010】
他方、前述した特許文献2に記載の1ポート型弾性表面波共振子では、圧電性基板として水晶またはニオブ酸リチウムを用いること、電極がアルミニウムまたは金などからなることが示されているものの、具体的な実施例では、水晶基板上にAlからなる電極を形成した例のみが示されている。すなわち、他の基板材料や他の金属材料を用いた弾性表面波装置については特に言及されていない。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、電極上に絶縁物層が形成されている弾性表面波装置であって、共振特性などに現れるリップルによる特性の劣化が生じ難く、従って、良好な共振特性やフィルタ特性を有する弾性表面波装置を提供することにある。
【0012】
上述したように、特許文献2では、SiO2膜の上面を平坦化することにより良好な共振特性が得られることが示されている。そこで、本願発明者らは、広帯域のフィルタを得るべく、圧電性基板として、電気機械結合係数が大きなLiTaO3基板を用い、その他は特許文献2に記載の構造と同様にして1ポート型弾性表面波共振子を作製し、特性を調査した。すなわち、LiTaO3基板上に、Alからなる電極を形成し、SiO2膜を形成し、該SiO2膜の表面を平坦化した。しかしながら、SiO2膜を形成した後に、特性が大きく劣化し、実用し得るものではないことを見出した。
【0013】
電気機械結合係数が水晶に比べて大きいLiTaO3基板やLiNbO3基板を用いると、比帯域幅は格段に大きくなる。しかしながら、本願発明者らが詳細な検討を行った結果、図2及び図3に示すように、LiTaO3基板上にAlからなる電極を形成し、さらにSiO2膜を形成した場合、SiO2膜の表面を平坦化することにより、反射係数が0.02程度まで激減することがわかった。なお、図2及び図3は、オイラー角(0°,126°,0°)のLiTaO3基板上にアルミニウム、金または白金からなるIDT電極を種々の厚みで形成し、さらにSiO2膜を形成してなる弾性表面波装置の電極膜厚H/λと、反射係数との関係を示す図である。なお、図2及び図3における実線はSiO2膜の表面を図2及び図3中に模式的に示すように平坦化していない場合の反射係数の変化を示し、破線はSiO2膜の表面を平坦化した場合の反射係数の変化を示す。
【0014】
図2及び図3から明らかなように、従来のAlからなる電極を用いた場合には、SiO2膜の表面を平坦化することにより、電極膜厚の如何に関わらず反射係数は0.02程度まで激減することがわかる。このため、十分なストップバンドが得られなくなり、反共振周波数近傍に鋭いリップルが生じると考えられる。
【0015】
また、従来、反射係数は電極膜厚が増大するにつれて大きくなることが知られている。しかしながら、図2及び図3から明らかなように、Alからなる電極を用いた場合には、電極の膜厚を大きくしたとしても、SiO2膜の表面が平坦化された場合には、反射係数は増大しないことがわかる。
【0016】
これに対して、図2及び図3から明らかなように、AuやPtからなる電極を形成した場合には、SiO2膜の弾性表面波を平坦化した場合においても、電極の膜厚が増大するにつれて、反射係数が大きくなることがわかる。本願発明者らは、このような知見に基づき、種々検討した結果、本発明をなすに至ったものである。
【0017】
本発明によれば、電気機械結合係数が15%以上であるLiTaO3またはLiNbO3からなる圧電性基板と、前記圧電性基板に形成されており、Alよりも密度の大きい金属もしくは該金属を主成分とする合金からなる金属層を主たる金属層とし、該主たる金属層に他の金属からなる金属層が積層されている積層膜により構成されている少なくとも1つの電極と、前記少なくとも1つの電極が形成されている領域を除いた残りの領域において、前記電極と略等しい膜厚に形成されている第1のSiO層とを備え、前記電極の密度が、前記第1のSiO層の密度の1.5倍以上であり、前記電極及び第1のSiO層を被覆するように形成された第2のSiO層と、前記第2のSiO層上に形成された窒化ケイ素化合物層とをさらに備えることを特徴とする、弾性表面波装置が提供される。
【0018】
本発明に係る弾性表面波装置の他の特定の局面では、前記第2のSiO層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.08≦h/λ≦0.5とされている。
【0019】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記窒化ケイ素化合物層がSiN層からなり、前記SiN層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0<h/λ≦0.1とされている。
なお、窒化ケイ素化合物層は、SiN以外のSiなどであってもよい。
【0020】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに別の特定の局面では、前記第2のSiO層と前記電極との間に配置されたSiNよりなる拡散防止膜をさらに備え、該拡散防止膜の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.005≦h/λ≦0.05とされている。
【0021】
本発明に係る弾性表面波装置の他の特定の局面では、前記電極がCuまたはCu合金、あるいはCuまたはCu合金からなる主たる金属層を有する積層膜により構成されている。
【0022】
本発明に係る弾性表面波装置のさらに他の特定の局面では、前記圧電性基板が、回転Y板X伝搬のLiTaOまたはLiNbOからなり、前記第2のSiO層の膜厚をh、前記第2のSiO層上に形成される前記窒化ケイ素化合物層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλ、係数A=−190.48、係数A=76.19、係数A=−120.00、係数A=−47.30、係数A=55.25、H=h/λ、H=h/λ、及びθ=(A+A+A)H+A+Aとしたときに、回転Y板X伝搬の圧電性基板のY−Xカット角は、θ±5°の範囲内とされている。
【0023】
本発明に係る弾性表面波装置では、圧電性基板上に、Alよりも高密度の金属または該金属を主成分とする合金、あるいはAlよりも高密度の金属または該金属を主成分とする合金からなる主たる金属層を有する積層膜により構成されている電極が形成されており、該電極が形成されている領域を除いた残りの領域において、電極と略等しい膜厚に第1のSiO層が形成されており、電極及び第1SiO層を被覆するように第2のSiO層が形成されており、電極密度が、第1のSiO層の密度の1.5倍以上とされている。従って、第2のSiO層の上面が平坦化され、共振特性やフィルタ特性などに現れるリップルが帯域外に移動されるとともに、リップルが抑圧される。また、良好な周波数温度特性を実現することができる。
【0024】
加えて、第2のSiO層上に、窒化ケイ素化合物層が形成されているため、特性の調整や改善を図ることができる。さらに、SiNをドライエッチングすることによりTCFと比帯域幅を変化させることなく、周波数調整することができる。
【0025】
また、第2のSiO層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.08≦h/λ≦0.5とされている場合には、後述の実験例から明らかなように、周波数温度特性TCFを改善することができる。すなわち、TCFの絶対値を小さくすることが可能となる。
また、上記窒化ケイ素化合物層がSiNからなり、SiNの膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0<h/λ≦0.1の範囲とされている場合には、周波数温度特性TCFの絶対値をより小さくすることができ、より一層周波数温度特性TCFの変化の小さい弾性表面波装置を提供することができる。
さらに、第2のSiO層と、電極との間に、SiNからなる拡散防止膜が設けられており、拡散防止膜の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.005≦h/λ≦0.05の範囲とされている場合には、周波数温度特性TCFの変動量を小さくすることができ、かつ直流電圧を付加した場合の耐性を高めることが可能となる。また、上記拡散防止膜が設けられている場合には、電極材料の第2のSiO層への拡散を防止することができるので、第2のSiO層の表面をより一層平坦化することができる。加えて、電極構成金属のSiO層への拡散を抑制することができるので、高温負荷試験などにおける特性の劣化不良が生じ難い。従って、直流電圧を印加した場合の耐性を高めることができる。
【0026】
上記電極として、CuまたはCuを主成分とする合金からなる電極、あるいはCuまたはCuを主体とする合金からなる主たる電極層を有する積層膜からなる電極を用いた場合には、安価であり、かつ導電性に優れた電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的部分切欠正面断面図である。
【図2】図2は、オイラー角(0°,126°,0°)のLiTaO3基板上に、種々の膜厚でAl、AuまたはPtからなるIDT電極を形成し、さらに規格化膜厚Hs/λが0.2のSiO2膜を形成してなる1ポート型弾性表面波共振子において、SiO2膜の表面を平坦化した場合と平坦化していない場合の電極膜厚と反射係数との関係を示す図である。
【図3】図3は、オイラー角(0°,126°,0°)のLiTaO3基板上に、種々の膜厚でAl、CuまたはAgからなるIDT電極を形成し、さらに規格化膜厚Hs/λが0.2のSiO2膜を形成してなる1ポート型弾性表面波共振子において、SiO2膜の表面を平坦化した場合と平坦化していない場合の電極膜厚と反射係数との関係を示す図である。
【図4】図4は、第1の実施形態の弾性表面波装置の電極構造を説明するための平面図であり、ここではSiN層の形成前の状態が示されているである。
【図5】図5は、第1の実施形態の弾性表面波装置において、SiN膜の膜厚を変化させた場合の共振周波数faの変化を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態の弾性表面波装置においてSiN膜の膜厚を調整して周波数調整を行った場合、並びに比較のための弾性表面波装置においてSiO2膜の膜厚を調整することにより周波数調整を行った場合の周波数と周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図7】図7は、第1の実施形態の弾性表面波装置においてSiN膜の膜厚を調整して周波数調整を行った場合、並びに比較のための弾性表面波装置においてSiO2膜の膜厚を調整することにより周波数調整を行った場合の周波数と比帯域幅との関係を示す図である。
【図8】図8は、第1の実施形態において、SiN膜の厚みを増加させた場合の弾性表面波装置のインピーダンス−周波数特性及び位相−周波数特性の変化を示す図である。
【図9】図9は、第1の実施形態において、SiN膜の厚みを変化させた場合の比帯域の変化を示す図である。
【図10】図10は、第1の実施形態において、SiN膜の厚みを変化させた場合の反共振抵抗Raの変化を示す図である。
【図11】図11は、第1の実施形態の前提となったSiO2からなる絶縁物層表面が平坦化された参考例の弾性表面波装置及び第2のSiO層表面が平坦化されていない弾性表面波装置のインピーダンス−周波数特性及び位相−周波数特性を示す図である。
【図12】図12は、SiO2からなる第2のSiO層表面が平坦化されている本実施形態においてSiN膜の厚みを変化させた場合、並びに比較のために用意されており、第2のSiO層表面が平坦化されていない弾性表面波装置において、SiN膜の厚みを変化させた場合のSiNの厚みと、比帯域との関係を示す図である。
【図13】図13は、SiO2からなる第2のSiO層表面が平坦化されている本実施形態においてSiN膜の厚みを変化させた場合、並びに比較のために用意されており、第2のSiO層表面が平坦化されていない弾性表面波装置において、SiN膜の厚みを変化させた場合のSiNの厚みと、反共振抵抗Raとの関係を示す図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波装置の略図的部分切欠正面断面図である。
【図15】図15は、(a)及び(b)は、拡散防止膜としてのSiN膜が形成されていない場合のIDT電極から電極材料であるCuが拡散している状態を示すSIM写真及び該拡散が生じて電極にボイドが生じている状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図16】図16は、(a)及び(b)は、拡散防止膜としてのSiN膜が形成されている第2の実施形態において、IDT電極からの拡散がほとんど生じていない状態を示すSIM写真及び走査型電子顕微鏡写真である。
【図17】図17は、第2の実施形態の弾性表面波装置及びSiNからなる拡散防止膜が形成されていない比較例の表面波装置の高温負荷試験結果を示す図である。
【図18】図18は、(a)〜(d)は、従来の弾性表面波装置の製造方法を説明するための各部分切欠正面断面図である。
【図19】図19は、従来の弾性表面波装置の一例を示す切欠正面断面図である。
【図20】図20は、(a)〜(g)は、本発明の一実施例における弾性表面波装置の製造方法を説明するための各模式的部分切欠断面図である。
【図21】図21は、比較例の製造方法で得られた弾性表面波共振子のSiO2膜の規格化膜厚と、位相特性及びインピーダンス特性との関係を示す図である。
【図22】図22は、比較のために用意した弾性表面波共振子におけるSiO2膜の膜厚と、共振子のMFとの関係を示す図である。
【図23】図23は、参考例の製造方法において、SiO2膜の規格化膜厚を変化させた場合のインピーダンス特性及び位相特性の変化を示す図である。
【図24】図24は、参考例及び比較例の製造方法により得られた弾性表面波共振子におけるSiO2膜の膜厚と共振子のγとの関係を示す図である。
【図25】図25は、参考例及び比較例の製造方法により得られた弾性表面波共振子におけるSiO2膜の膜厚と共振子のMFとの関係を示す図である。
【図26】図26は、参考例及び比較例で用意された弾性表面波共振子におけるSiO2膜の厚みと、周波数温度特性TCFの変化との関係を示す図である。
【図27】図27は、第2の比較例で用意されたSiO2膜が形成された弾性表面波共振子と、SiO2膜を有しないインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図28】図28は、(a)〜(e)は、IDT電極及び保護金属膜の平均密度の第1のSiO層の密度に対する比を変化させた場合のインピーダンス特性の変化を示す図である。
【図29】図29は、オイラー角(0°,126°,0°)のLiTaO3基板上に様々な金属からなるIDT電極を様々な厚みで形成した場合の電気機械結合係数の変化を示す図である。
【図30】図30は、LiTaO3基板上に様々な金属によりIDT電極を形成した場合に、Alからなる電極を用いた場合に比べて電気機械結合係数が大きくなる電極膜厚範囲と電極材料との密度との関係を示す図である。
【図31】図31は、第2の実施形態の弾性表面波装置の実験例において、拡散防止膜としてのSiN膜の厚みを変化させた場合の反共振Raの変化を示す図である。
【図32】図32は、第2の実施形態の弾性表面波装置の実験例において、拡散防止膜としてのSiN膜の厚みを変化させた場合のフィルタの比帯域(%)の変化を示す図である。
【図33】図33は、第2の実施形態の弾性表面波装置の実験例において、拡散防止膜としてのSiN膜の厚みを変化させた場合の周波数温度特性TCFの変化を示す図である。
【図34】図34は、第1の実施形態の弾性表面波装置において、LiTaO基板のカット角を変化させた場合の反共振Q値の変化の一例を示す図である。
【図35】図35は、第1の実施形態において、第2のSiO層を構成するSiO膜の規格化膜厚を0.15、0.30または0.40としたときの、SiN層を構成しているSiN膜の厚みを変化させた場合に、反共振Raが良好な値とされ得る最適カット角の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1…圧電性基板
2…第1のSiO
4A…IDT電極
6…第2のSiO
11…弾性表面波装置
12,13…反射器
21…弾性表面波装置
22…SiN層
31…弾性表面波装置
32…第1のSiO
35…拡散防止膜
36…第2のSiO
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0030】
図20を参照して、本発明をなす前提となった、未だ公知ではない参考例の弾性表面波装置の製造方法を説明する。
【0031】
図20(a)に示すように、まず、圧電性基板として、LiTaO3基板1を用意する。本参考例では、36°Y板X伝搬、オイラー角で(0°,126°,0°)のLiTaO3基板が用いられる。もっとも、圧電性基板としては、他の結晶方位のLiTaO3基板を用いてもよく、あるいは他の圧電単結晶からなるものを用いてもよい。また、絶縁性基板上に圧電性薄膜を積層してなる圧電性基板を用いてもよい。なお、オイラー角(φ,θ,ψ)のθ=カット角+90°の関係がある。
【0032】
LiTaO3基板1上に、全面に第1のSiO層2を形成する。本参考例では、第1のSiO層2は、SiO2膜により形成されている。
【0033】
第1のSiO層2の形成方法は、印刷、蒸着、またはスパッタリングなどの適宜の方法により行われ得る。また、第1のSiO層2の厚みは、後で形成されるIDT電極の厚みと等しくされている。
【0034】
次に、図20(b)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いて、レジストパターン3を形成する。レジストパターン3では、IDTが形成される領域を除いてレジストが位置するようにレジストパターン3が構成されている。
【0035】
次に、図20(c)に矢印で示すようにイオンを照射する反応性イオンエッチング法(RIE)などにより、第1のSiO層2の内、レジスト3の下方に位置している部分を除いた残りの部分を除去する。
【0036】
フッ素系のガスによるRIEによってSiO2をエッチングした場合、重合反応により残渣が生じる場合がある。この場合、RIEを行った後、BHF(バッファードフッ酸)等により処理することで対応できる。
【0037】
しかる後、Cu膜とTi膜を、第1のSiO層2と等しい厚みに成膜する。図20(d)に示すように、第1のSiO層2が除去されている領域、すなわちIDTが形成される領域にCu膜4が付与され、同時にレジストパターン3上にもCu膜4が付与される。次に、全面保護金属膜としてTi膜5を形成する。図20(e)に示すように、Ti膜5は、IDT電極4Aの上面と、レジストパターン3上のCu膜4上に付与されることになる。従って、IDT電極4Aは、側面が第1のSiO層2で被覆され、上面がTi膜5により被覆されている。このようにして、IDT電極4Aと保護金属膜とが形成され、IDT電極4Aの厚みと保護金属膜としてのTi膜5の厚みの合計の厚みと第1のSiO層2の厚みとが同じ厚みを有するように構成される。
【0038】
しかる後、レジスト剥離液を用い、レジストパターン3を除去する。このようにして、図20(f)に示すように、第1のSiO層2が設けられている領域を除いた残りの領域にIDT電極4Aが形成されており、IDT電極4Aの上面がTi膜5により被覆されている構造が得られる。
【0039】
しかる後、図20(g)に示すように、全面に第2のSiO層6としてSiO2膜を形成する。
【0040】
このようにして、図4に示されている電極構造を有する1ポート型の弾性表面波共振子11を得た。
【0041】
なお、図20(a)〜(g)では、IDT電極4Aが形成されている部分のみが抜き出されて説明された。しかしながら、図4に示されているように、弾性表面波共振子11は、IDT電極4Aの弾性表面波伝搬方向両側に反射器12,13を備えている。反射器12,13もまた、IDT電極4Aと同じ工程により形成される。
【0042】
上記参考例では、1ポート型弾性表面波共振子11が構成されているため、LiTaO3基板1上に、1個のIDT電極4Aが形成されていたが、弾性表面波装置の用途に応じて、複数のIDT電極が形成されてもよく、また上記のように反射器がIDTと同一工程により形成されてもよく、反射器が設けられずともよい。
【0043】
比較のために、図18に示した従来のSiO2膜を有する弾性表面波装置の製造方法に準じて、1ポート型弾性表面波共振子を作製した。もっとも、この比較例においても、基板材料としては、36°回転Y板X伝搬(オイラー角で(0°,126°,0°))のLiTaO3基板を用い、IDT電極はCuにより形成した。図18に示した製造方法から明らかなように、IDT電極53Aが形成された後に、SiO2膜54が形成されるため、SiO2膜54の表面に凹凸が生じざるを得なかった。比較例において、CuからなるIDT電極の規格化膜厚h/λ(hはIDT電極の厚み、λは弾性表面波の波長)を0.042とし、SiO2膜の規格化膜厚Hs/λ(HsはSiO2膜の厚み)を、0.11、0.22及び0.33とした場合のインピーダンス特性及び位相特性を図21に示す。図21から明らかなように、SiO2膜の規格化膜厚Hs/λが大きくなるにつれて、反共振点におけるインピーダンスと共振点におけるインピーダンスとの比であるインピーダンス比が小さくなることがわかる。
【0044】
また、図22は、比較例で製作された弾性表面波共振子のSiO2膜の規格化膜厚Hs/λと、共振子のMF(Figure of Merit)との関係を示す。図22から明らかなように、SiO2膜の膜厚が厚くなるにつれて、MFが低下することがわかる。
【0045】
すなわち、図18に示した従来法に準じて、IDT電極及びSiO2膜を形成した場合、たとえCuによりIDT電極を形成したとしても、SiO2膜の膜厚が厚くなるにつれて、特性が大きく劣化した。これは、SiO2膜表面に前述した凹凸が生じざるを得ないことによると考えられる。
【0046】
これに対して、本参考例の製造方法によれば、SiO2膜の膜厚を増加させた場合でも特性の劣化が生じ難いことを図23〜25に示す。
【0047】
図23は、上記参考例に従って弾性表面波共振子11を得た場合のSiO2膜の厚み、すなわち、第2のSiO層6の厚みを変化させた場合のインピーダンス特性及び位相特性の変化示す図である。また、図24及び図25の破線は、それぞれ、実施例においてSiO2膜の膜厚Hs/λを変化させた場合の共振子の容量比γ及びMFの変化を示す図である。なお、容量比γは、電気機械結合係数をkとすると、圧電バルク波の理論からγ=1/k−1と近似され、γが小さいほど、電気機械結合係数kが大きくなり、好ましい。
【0048】
なお、図24及び図25においては、上記比較例の結果を、実線で示す。
【0049】
図23を、図21と比較すれば明らかなように、上記参考例では、比較例の場合に比べて、SiO2膜の規格化膜厚Hs/λを増加させても、インピーダンスの低下が生じ難いことがわかる。
【0050】
また、図24及び図25の結果から明らかなように、比較例に比べて、参考例の製造方法によれば、SiO2膜の規格化膜厚Hs/λの増加に伴う特性の劣化が抑制されることがわかる。
【0051】
すなわち、本参考例の製造方法によれば、上記のようにSiO2膜の膜厚を増加させた場合であっても、インピーダンス比の低下が生じ難く、特性の劣化を抑制することができる。
【0052】
他方、図26は、SiO2膜の膜厚と、比較例及び参考例の製造方法で得られた弾性表面波共振子の周波数温度特性TCFとの関係を示す図である。
【0053】
図26において、実線が比較例、破線が参考例の結果を示す。
【0054】
図26から明らかなように、参考例の製造方法によれば、SiO2膜の膜厚を増加させた場合に、周波数温度特性TCFを膜厚増に応じて理想的に改善し得ることがわかる。なお、図26から明らかなように、SiO膜の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、h/λが0.08以上、0.5以下の範囲であれば、周波数温度特性TCF−20ppm/℃よりも大きく、すなわち周波数温度特性TCFの絶対値を20ppm/℃よりも小さくすることができ、周波数温度特性TCFの変動を効果的に改善し得ることがわかる。従って、後述の本発明の実施形態の弾性表面波装置においても、後述するように第2のSiO層の厚みをhとしたときに、h/λを0.08以上、0.5以下とすることが望ましい。
【0055】
従って、上記参考例の製造方法を採用することにより、特性の劣化が生じ難く、温度特性を効果的に改善し得る弾性表面波共振子を提供し得ることがわかる。
【0056】
加えて、本参考例の製造方法では、IDT電極は、Alよりも高密度のCuにより構成されている。従って、IDT電極4Aは十分な反射係数を有し、共振特性上に表れる所望でないリップルを抑制することができる。これを、以下において説明する。
【0057】
Cuに代えてAl膜を用いたことを除いては、上記参考例と同様にして第2の比較例の弾性表面波共振子を作製した。但し、SiO2膜の規格化膜厚Hs/λは0.08とした。すなわち、第1のSiO層の厚みの規格化膜厚を0.08とした。このようにして得られた弾性表面波共振子のインピーダンス及び位相特性を図27に実線で示す。
【0058】
また、SiO2膜を形成しなかったことを除いては、第2の比較例と同様にして構成された弾性表面波共振子のインピーダンス及び位相特性を図27に破線で示す。
【0059】
図27の実線から明らかなように、上記参考例の製造方法に従ったとしても、IDT電極をAlで形成し、かつSiO2膜を形成した場合には、図27の矢印Aで示す大きなリップルが共振点と反共振点との間において表れることがわかる。また、このようなリップルは、SiO2を有しない弾性表面波共振子では表れていないことがわかる。
【0060】
従って、SiO2膜の形成により周波数温度特性の改善等を図ろうとしても、AlによりIDT電極を形成した場合には、上記リップルAが表れ、特性の劣化を引き起こすことがわかる。本願発明者は、この点につきさらに検討した結果、IDT電極として、Alよりも高密度の金属を用いれば、IDT電極の反射係数を高めることができ、それによって上記リップルAを抑制し得ることを見出した。
【0061】
すなわち、上記参考例と同様の製造方法に従って、但し、IDT電極4を構成する金属の密度を種々異ならせ、上記参考例と同様にして弾性表面波共振子を作製した。このようにして得られた弾性表面波共振子のインピーダンス特性を図28(a)〜(e)に示す。図28(a)〜(e)は、それぞれ、IDT電極及び保護金属膜の積層構造の平均密度ρ1の第1のSiO層の密度ρ2に対する比ρ1/ρ2が、2.5、2.0、1.5、1.2及び1.0の場合の結果を示す。
【0062】
図28(a)〜(e)から明らかなように、図28(a)〜(c)では、上記リップルAが帯域外にシフトされ、さらに図28(a)では、上記リップルAが著しく抑圧されていることがわかる。
【0063】
従って、図28の結果から、IDT電極及び保護金属膜の積層構造の第1のSiO層に対する密度比を1.5倍以上とすれば、上記リップルAを共振周波数−反共振周波数の帯域の外側にシフトさせ、良好な特性の得られることがわかる。また、より好ましくは、上記密度比を2.5倍以上とすれば、リップル自体を小さくし得ることがわかる。
【0064】
図28(a)〜(e)では、上記参考例に従って、IDT電極4A上に、Ti膜が積層されていたため、上記平均密度が用いられたが、本発明においては、IDT電極4A上に、保護金属膜が設けられずともよい。その場合には、IDT電極4Aの厚みを第1のSiO層の厚みと同じにして、IDT電極の密度の第1のSiO層の密度に対する比を1.5倍以上とすることが好ましく、より好ましくは2.5倍以上とすればよく、上記と同様の効果の得られることが確かめられた。
【0065】
従って、SiO2膜によりIDT電極を被覆してなる弾性表面波共振子において、IDT電極の密度あるいはIDT電極と保護金属膜との積層体の平均密度を、IDT電極の側方に位置する第1のSiO層の密度よりも大きくすれば、IDT電極の反射係数を高めることができ、それによって共振点−反共振点間に表れる特性の劣化を抑制し得ることがわかる。
【0066】
なお、Alより高密度の金属もしくは合金としては、Cuの他、Ag,Auなどやこれらを主体とする合金が挙げられる。
【0067】
また、好ましくは、上記参考例のように、IDT電極上に、保護金属膜を積層した構造とすれば、図20(a)〜(g)に示した製造方法から明らかなように、レジストパターン3を剥離する際に、IDT電極4Aの側面が第1のSiO層2により覆われており、かつ上面が保護金属膜6により覆われているため、IDT電極4Aの腐食を防止することができる。よって、より一層良好な特性を有する弾性表面波共振子を提供し得ることがわかる。
【0068】
さらに、SiO2以外のSiOxyなどの他の温度特性改善効果のある絶縁性材料により第1,第2のSiO層を形成してもよい。また、第1,第2のSiO層は異なる絶縁性材料で構成されてもよく、上記のように等しい材料で構成されてもよい。
【0069】
図29は、オイラー角(0°,126°,0°)のLiTaO3基板上に、様々な厚みで様々な金属を用いてIDT電極を形成した場合のIDTの規格化膜厚H/λと、電気機械結合係数の関係を示す図である。
【0070】
図29から得られる、Alに比べて電気機械結合係数が大きくなる電極の規格化膜厚を各金属について調べたところ、図30に示す結果が得られた。すなわち、図30は、上記LiTaO3基板上に、様々な密度の金属からなるIDT電極を形成した場合に、上述したようにAlからなるIDT電極を形成した場合に比べて電気機械結合係数が大きくなる電極膜厚範囲を示す図である。
【0071】
図30において、各金属からなる電極の膜厚範囲のうち上限が、Alよりも電気機械結合係数が大きくなる範囲の限界値であり、各金属の電極膜厚範囲の下限は作製限界を示す。電気機械結合係数の大きな電極膜厚の範囲をy、密度をxとして上限を二次式で近似すると、y=0.00025x2−0.01056x+0.16473となる。
【0072】
従って、後述の各電極材料別の具体的な実施例の説明から明らかなように、14°〜50°回転Y板X伝搬(オイラー角で(0°,104°〜140°,0°))のLiTaO3からなる圧電性基板上に電極が形成されており、さらにSiO2膜は規格化膜厚Hs/λ0.03〜0.45の範囲で形成されている構造において、電極の規格化膜厚H/λが、0.005≦H/λ≦0.00025×ρ2−0.01056×ρ+0.16473 …式(1)
を満たす場合、図30の結果から明らかなように電気機械結合係数を高めることができる。なお、ρは電極の平均密度を示す。
【0073】
なお、電極は、上述したアルミニウムよりも密度の高い金属を用いて構成されていることを特徴とする。この場合、電極は、アルミニウムよりも密度の高い金属から構成されていてもよく、あるいはアルミニウムを主体とする合金で構成されていてもよい。また、アルミニウムもしくはアルミニウムを主成分とする合金からなる主たる金属膜と、該金属膜と異なる金属からなる従たる金属膜の積層構造で構成されていてもよい。積層膜により電極が構成されている場合、電極の平均密度をρ、主たる電極層の金属の密度をρ0とした場合、ρ0×0.7≦ρ≦ρ0×1.3を満足する平均密度であればよい。
【0074】
また、本発明においては、上記のように第2のSiO層の表面が平坦化されるが、この平坦化とは、電極の膜厚の30%以下の凹凸を有するものであればよい。30%を超えると、平坦化による効果が十分に得られないことがある。
【0075】
さらに、上記のように第2のSiO層の平坦化は、様々な方法で行われる。例えば、エッチバックによる平坦化方法、逆スパッタ効果による斜入射効果を利用した平坦化方法、絶縁物層表面を研磨する方法、あるいは電極を研磨する方法などが挙げられる。これらの方法は2種以上が併用されてもよい。
【0076】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波装置の模式的正面断面図である。本実施形態の弾性表面波装置の電極構造は、前述した弾性表面波装置11と同様である。すなわち、図4に示されている電極構造が、本実施形態の弾性表面波装置においても形成されている。従って、図4は、本実施形態の弾性表面波装置の電極構造を説明するための模式的平面図でもある。もっとも、図4では、後述のSiN層は省略されている。
【0077】
本実施形態の弾性表面波装置21は、前述した弾性表面波装置11とは、最上部にSiN層22が設けられていることを除いては、上記弾性表面波装置11とほぼ同様に構成されている。
【0078】
すなわち、図1に示すように、弾性表面波装置21は、36°回転Y板X伝搬のLiTaO3基板からなる圧電性基板1を有する。圧電性基板1上には、電極としてのIDT電極4Aが形成されている。より具体的には、電極として、図4に示すIDT電極4Aと、IDT電極4Aの表面波伝搬方向両側に配置された反射器12,13とが形成されている。すなわち、一端子対弾性表面波共振子を構成するために、IDT電極4Aと、反射器12,13とが形成されている。IDT電極4Aは、複数本の電極指を有する一対のくし歯電極を有し、一対のくし歯電極の互いの電極指が間挿し合っている。また、反射器12,13は、それぞれ、複数本の電極指を両端で短絡した構造を有する。
【0079】
図1に戻り、電極が設けられている領域の残りの領域には、第1のSiO層2が形成されている。
【0080】
また、第1のSiO層2の厚みは、電極の厚みと等しくされている。従って、電極と第1のSiO層2とからなる構造の上面は前述の参考例の場合と同様に平坦化されている。言い換えれば、電極の上面と、第1のSiO層2の上面とが同じ高さ位置に存在する。
【0081】
上記電極及び第1のSiO層2を覆うように第2のSiO層6が形成されている。
【0082】
第2のSiO層6を、スパッタリングなどの薄膜形成法を用いて構成した場合、第2のSiO層6の上面は平坦な面とされ得る。すなわち、前述したように第1のSiO層2と電極の上面が同じ高さ位置にあるため、薄膜形成法により第2のSiO層6を形成した場合、第2のSiO層6の上面がほぼ平坦面とされ、それによって所望でないリップルの発生を効果的に抑制することができる。
【0083】
もっとも、前述した種々の平坦化方法を用いて、第2のSiO層6の上面を平坦化してもよい。また、平坦化の意味は、前述した通りである。
また、図26を参照して前述したように、電極を覆う第2のSiO層6の膜厚h/λは、図26の結果より、0.08以上、0.5以下とすることが好ましく、それによって周波数温度特性TCFの変動量の絶対値を20ppm/℃以下とすることができる。
【0084】
上記のように、弾性表面波装置21は、前述した参考例の弾性表面波装置1と、SiN層22を除いてはほぼ同様に構成されている。すなわち、弾性表面波装置21においても、電極は、(1)Alよりも密度の大きい金属もしくは該金属を主成分とする合金により、または(2)Alよりも密度の大きい金属もしくは該金属を主成分とする合金からなる金属層を主たる金属層とし、該主たる金属層に他の金属からなる金属層が積層されている積層膜により構成されている。また、電極の密度は、第1のSiO層2の密度の1.5倍以上とされている。従って、本実施形態の弾性表面波装置21は、上記参考例の弾性表面波装置11により得られる作用効果を同様に発現する。
【0085】
本実施形態の弾性表面波装置21では、上記第2のSiO層6を覆うように、SiN層22が形成されている。SiN層22は、本実施形態では、SiN膜を成膜することにより形成されている。すなわち、SiN層22は第2のSiO層6と音速が異なる材料で構成されている。前述した第2のSiO層6の表面が平坦化された弾性表面波装置11より得られる作用効果に加えて、さらに、本実施形態の弾性表面波装置21によれば、比帯域幅(fa−fc)/fc(%)を大きくすることができる。なお、fcは共振周波数、faは反共振周波数を示す。加えて、反共振周波数faにおける抵抗、すなわち反共振抵抗Raが大きくなるため、反共振周波数faにおけるQが高くなり、例えば弾性表面波装置21を複数用いて構成された帯域フィルタにおいて、通過帯域の高域側における減衰域の減衰量を拡大することができ、フィルタ特性の急峻性を高めることができる。
【0086】
本実施形態の弾性表面波装置21が上記のような種々の作用効果を有することを、より具体的な実験例に基づき説明する。
【0087】
上記圧電性基板1としての36°回転Y板X伝搬LiTaO3基板上に、第1のSiO層2を構成する膜厚h/λ=0.04のSiO2膜を全面に形成した。SiO2膜の形成は、印刷、蒸着またはスパッタリングなどの適宜の方法により行われ得るが、本実施形態では、スパッタリングにより形成した。
【0088】
次に、フォトリソグラフィー技術を用い、SiO2膜をパターニングした。パターニングに際しては、電極が形成されている領域のSiO2膜が除去されるようにパターニングを行った。
【0089】
次に、h/λ=0.0025の厚みのTi膜及びh/λ=0.0325の厚みのCu膜を順次成膜した。Ti膜の厚みとCu膜の厚みの合計は、h/λ=0.035である。
【0090】
しかる後、SiO2膜上のレジストパターン上のTi膜及びCu膜を除去した。このようにして、第1のSiO層2及び電極を形成した。
【0091】
次に、スパッタリングにより、全面にSiO2膜を形成し、第2のSiO層6を形成した。最後にSiN膜をスパッタリングにより成膜し、SiN層22を形成した。上記のようにして得られた弾性表面波装置21では、周波数特性を測定した後、SiN層22を加工することにより周波数調整を行うことができる。これを、図5を参照して説明する。なお、図5及び以下の他の図における周波数特性等のデータは、図4に略図的に示した電極構造を有する、1.9GHz帯の1ポート型弾性表面波共振子を作製した場合の特性である。
【0092】
図5は、弾性表面波装置1におけるSiN膜22の膜厚を変化させた場合の反共振周波数faの変化を示す図である。
【0093】
通常、弾性表面波装置21のような構造において、SiO2膜と、SiN膜とを有する積層膜の膜厚を増大させると、挿入損失が増大し、周波数特性の劣化が顕著となる。しかしながら、本実施形態では、第2のSiO層6の上面が前述したように平坦化されているため、積層膜の膜厚増大による特性劣化を小さくすることができる。
【0094】
図5から明らかなように、SiN膜の膜厚を変化させると、反共振周波数faが大きく変化することがわかる。従って、例えば反応性イオンエッチングまたはAr、N2等の不活性イオンの照射による物理的なエッチングなどによりSiN層22としてのSiN膜の膜厚を薄くすることにより、周波数を容易に調整することができる。あるいはSiN膜をさらにスパッタリングにより成膜し、SiN層22の厚みを厚くするようにして、周波数を高めるように周波数調整を行うことも可能である。
【0095】
このようなSiN層22の膜厚調整による周波数調整は、弾性表面波装置21を得るためのマザーのウエハ段階で容易に行われ得る。また、反応性イオンエッチングまたはAr、N2等の不活性イオンの照射による物理的なエッチングなどにより、SiN層22の膜厚を薄くするように周波数調整を行う場合には、パッケージに弾性表面波装置21が搭載された状態においても周波数調整を行うことができる。
【0096】
第2のSiO層6上に、SiN層22が形成されていないことを除いては、上記実施形態と同様にして構成された参考例の弾性表面波装置11を用意した。この参考例の弾性表面波装置11では、第2のSiO層6の膜厚を調整することにより周波数を調整することができる。しかしながら、SiN層22が設けられていないので、第2のSiO層6の膜厚を調整して周波数を調整した場合、周波数温度係数TCF(ppm/℃)や比帯域幅〔%〕が大きく変動した。これに対して、本実施形態では、SiN膜からなるSiN層22の膜厚調整により周波数調整が行われ、その場合には、周波数温度係数TCFや比帯域幅の変化を抑制することができる。これを、図6及び図7を参照して説明する。なお、比帯域幅が変化するのは、膜厚調整により電気機械結合係数が変動するためである。
【0097】
図6は、本実施形態において、SiN膜の膜厚調整により周波数調整を実施した場合と、上記参考例の弾性表面波装置11においてSiO2膜の膜厚調整により周波数調整を実施した場合の周波数温度係数TCFの周波数による変化を示し、図7は比帯域幅〔%〕の周波数による変化を示す。
【0098】
図6及び図7から明らかなように、弾性表面波装置11において、第2のSiO層6の膜厚調整を行って周波数を調整した場合には、周波数温度係数TCFや比帯域幅が周波数によって大きく変動することがわかる。これに対して、本実施形態の弾性表面波装置21において、SiN層22を構成しているSiN膜の膜厚調整により周波数を行った場合には、周波数温度係数TCFや比帯域幅の変化をさほど招かないことがわかる。
【0099】
従って、上記のように、本実施形態では、SiN層22の形成により、比帯域幅や周波数温度係数TCFの大きな変化を招くことなく、周波数調整を行い得ることがわかる。特に、図6から明らかなように、SiN層22の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、h/λを0<h/λ≦0.1の範囲とした場合には、周波数温度特性TCFの変動量を10ppm/℃以下とし得ることがわかる。
【0100】
なお、本実施形態では、SiN層22は、SiNにより構成されているため、第2のSiO層6を構成しているSiO2と同じ系列のガスを用いて反応性イオンエッチングを行うことができる。従って、SiN層22の膜厚調整を反応性イオンエッチングにより容易に行うことができるとともに、電極において外部との電気的接続のために露出される必要がある電極パッド部分上の絶縁膜除去工程の簡略化を図ることができる。
【0101】
次に、本実施形態の弾性表面波装置21において、SiN層22の膜厚を変化させた場合の周波数特性の変化を図8に示す。また、図9及び図10は、SiN膜の膜厚を変化させた場合の比帯域幅及び反共振抵抗Raの変化を示す。
【0102】
図8から明らかなように、SiN膜の膜厚を0から50nm、100nm、150nm及び200nmと増加させるにつれて、共振周波数fr及び反共振周波数faが高くなることがわかる。また、図9から明らかなように、SiN層22の膜厚を増大していくことにより、比帯域幅が大きくなることがわかる。特に、SiN層22の膜厚が100〜200nmの場合、すなわちh/λで0.05〜0.1の範囲とした場合、比帯域幅を3.1%以上と大きくし得ることがわかる。
【0103】
また、図10から明らかなように、SiN膜の膜厚を大きくすることにより反共振抵抗Raを大きくすることができ、それによって反共振周波数におけるQが高くなることがわかる。そのため、この弾性表面波装置21を用いて構成された帯域フィルタでは、通過帯域の高域側におけるフィルタ特性の急峻性が効果的に高められる。
【0104】
特に、SiN膜の膜厚が100nm〜200nmの場合、規格化膜厚h/λで0.05〜0.1の場合、反共振抵抗Raが57.5dB以上となり、150nm、すなわちh/λで0.075の場合、反共振抵抗Raが約60dBと最も大きくなることがわかる。
【0105】
なお、本実施形態では、第2のSiO層6の表面が平坦化されており、該第2のSiO層6の上面にSiN層22が成膜されて、上記のように特性が改善されていた。このようなSiN層22の形成による効果は、上記のように第2のSiO層6の表面が平坦化されていることが前提となる。これを、図11〜図13を参照して説明する。
【0106】
図11は、上記実施形態の弾性表面波装置において、SiN層22を形成する前の周波数特性と、比較のために、SiO2膜の上面が平坦化されていないことを除いては、同様にして構成された弾性表面波装置の周波数特性を示す。なお、比較のために用意した弾性表面波装置の作製に際しては、電極を形成した後、400nm(h/λ=0.2)の厚みのSiO2膜をスパッタリングにより形成することにより得た。すなわち、第1のSiO層2及び第2のSiO層6を別個に成膜するのではなく、400nm(h/λ=0.2)の厚みのSiO2膜を形成することにより比較のための弾性表面波装置を得た。図11から明らかなように、平坦化を図ることにより、反共振周波数における抵抗すなわち反共振抵抗の拡大及び比帯域幅の拡大を図り得ることがわかる。
【0107】
そして、上記実施形態と同様に、SiN膜を様々な厚みで形成し、比帯域幅及び反共振抵抗Raを測定した。結果を図12及び図13に示す。図12及び図13から明らかなように、本実施形態では、SiN膜からなるSiN層22を形成することにより、またSiN膜の膜厚を増大させることにより、比帯域幅の拡大及び共振抵抗Raの改善を図ることができたのに対し、第2のSiO層の上面が平坦化されていない比較例では、SiN膜を形成したとしても特性が改善されないことがわかる。特に、SiN膜の厚みが増大すると、特性がより一層劣化することがわかる。
【0108】
また、上記実施形態と同様に、但し、第2のSiO層6を構成しているSiO膜の膜厚、SiN層22を構成しているSiN膜の膜厚と、圧電基板のカット角を種々変更し、種々の弾性表面波装置1を作製し、圧電基板のカット角による反共振Q値の変化を調べた。カット角による反共振のQ値の変化の一例を図34に示す。図34では、第2のSiO層6を構成しているSiO膜の規格化膜厚が0.28、SiN層22を構成しているSiNの規格化膜厚が0.075とされており、LiTaOからなる圧電基板のカット角を変化させた場合の弾性表面波装置1の反共振Q値の変化を示す。
【0109】
図34から明らかなように、カット角が34°±5°の範囲であれば、反共振Q値がおよそ500以上と高く、好ましいことがわかる。
【0110】
図34に示したように、反共振Q値がおよそ500以上である範囲を実現するLiTaO基板のカット角の範囲と、SiN膜の膜厚との関係を求めた。結果を図35に示す。すなわち、図35において、第2のSiO層6を構成しているSiO膜の規格化膜厚が0.15、0.30及び0.40の場合のSiN膜の膜厚の変化による最適カット角範囲の変化が示されている。そして、この図35における結果を近似することにより、回転Y板X伝搬のLiTaO圧電基板のカット角の好ましい範囲は、θ=(A+A+A)H+A+Aとすると、θ±5°の範囲が好ましいことがわかる。
【0111】
なお、上記式において、係数A〜Aは以下の通りである。
係数A=−190.48、係数A=76.19、係数A=−120.00、係数A=−47.30、係数A=55.25、H=h/λ、H=h/λ。
また、hは、上記SiN層を形成しているSiN膜の膜厚であり、hは、第2のSiO層6を構成しているSiO膜の膜厚である。
【0112】
(第2の実施形態)
図14は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波装置を示す模式的正面断面図である。弾性表面波装置31では、36°回転Y板X伝搬のLiTaO3基板からなる圧電性基板1上に、電極が形成されている。電極は、第1の実施形態の電極と同様の平面形状を有する。すなわち、本実施形態においても、1.9GHz帯の1ポート型弾性表面波共振子を構成するようにIDT電極4A及び一対の反射器12,13を有するように電極が形成されている。
【0113】
もっとも、電極は、Ti膜、Cu膜及びTi膜を、それぞれ、5nm、65nm及び10nmの膜厚となるように形成されている。第1のSiO層32は、従って、80nmの厚みを有するように形成されている。
【0114】
そして、本実施形態では、上記電極及び第1のSiO層32を覆うように、拡散防止膜35が形成されている。拡散防止膜35は、本実施形態では、SiN膜により構成されている。
【0115】
他方、拡散防止膜35上に、第2のSiO層36が形成されている。
【0116】
本実施形態では、SiNからなる拡散防止膜35が形成されているため、電極からの金属粒子の第2のSiO層36への拡散が効果的に抑制される。
【0117】
本実施形態の弾性表面波装置31の製造に際しては、上記拡散防止膜35を形成した後、温度特性を改善するための温度特性改善膜としての第2のSiO層36がSiO2膜を成膜することにより形成され、しかる後反応性イオンエッチングにより電極パッドを露出させるために、電極の電極パッド上の絶縁材料が除去される。
【0118】
ところで、上記拡散防止膜35が形成されていない場合には、第2のSiO層36を形成している間に、電極材料、本実施形態ではCuが拡散する。そのため、図15(a)及び(b)に示すように、拡散防止膜35が設けられていない場合には、Cuの拡散により、電極にボイドが生じたり、第2のSiO層32の表面の平坦性が損なわれる。
【0119】
これに対して、図16(a),(b)に示すように、本実施形態では、SiNからなる拡散防止膜35が形成されているため、電極を構成しているCuの拡散が抑制される。よって、図15(b)に示したボイドの発生を抑制でき、かつ第2のSiO層36の表面の平坦性を高めることができる。
【0120】
これを、具体的な実験例に基づき説明する。
【0121】
下記の表1は、上記拡散防止膜35が設けられている第2の実施形態の弾性表面波装置の場合と、拡散防止膜35が設けられていないことを除いては同様に構成された弾性表面波装置の製造に際して、10.16cm径の表面波ウエハにおける各弾性表面波装置の特性ばらつきを示す。なお、拡散防止膜35としてのSiN膜の厚みは30nm(h/λ=0.015)とした。
【0122】
【表1】

【0123】
表1から明らかなように、拡散防止膜35の挿入により、周波数ばらつきを始とする特性のばらつきが効果的に低減され得ることがわかる。
【0124】
なお、本実施形態においては、上記拡散防止膜35は、SiNで構成されているため、第1のSiO層32や第2のSiO層36を構成しているSiO2膜の成膜の場合と同じ系列のガスを用いて反応性イオンエッチングを行うことができる。従って、電極パッド上の絶縁膜を除去し電極パッドを露出させる工程の簡略化を図ることができる。
【0125】
第2の実施形態において、得られた弾性表面波装置11を、パッケージに収納し、ワイヤボンディングを行い、封止し、弾性表面波装置部品を得た。このようにして得た弾性表面波装置部品について以下の要領で約600時間維持する高温負荷試験を行った。
【0126】
高温負荷試験…弾性表面波装置部品に直流6Vの電圧を負荷した状態で、125℃の高温槽に投入し、絶縁抵抗の時間経過を測定した。
【0127】
比較のために、上記実験例と同様に、拡散防止膜35が形成されていないことを除いては、同様にして構成された弾性表面波装置部品についても高温負荷試験を行った。結果を図17に示す。
【0128】
図17から明らかなように、拡散防止膜35が設けられている実施例では、拡散防止膜としてのSiN膜を有しない比較例に比べて、600時間経過後も故障が生じ難いことがわかる。また、表1から明らかなように、拡散防止膜35を設けた場合であっても、弾性表面波装置における反共振抵抗Ra及び比帯域幅の劣化は生じないことがわかる。
【0129】
上記SiNからなる拡散防止膜35の膜厚hは、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.005≦h/λ≦0.05の範囲であることが望ましい。これを、図31〜図33及び下記の表2を参照して説明する。
【0130】
すなわち、第2の実施形態において、上記拡散防止膜35を構成しているSiN膜の厚みを種々変化させ、第2の実施形態に従って種々の弾性表面波フィルタ装置を作製し、特性を測定した。図31〜図33は、SiN膜の膜厚を変化させた場合の前述した反共振抵抗、フィルタの比帯域(%)及び共振周波数の温度特性TCFの変化を示す図である。
【0131】
また、上記第2の実施形態の弾性表面波フィルタ装置において、SiN膜の膜厚を5nm、10nm及び30nmに変化させたことを除いては、上記と同様にして各弾性表面波装置11を作製し、さらに比較のために拡散防止膜を有しない弾性表面波装置11を作製し、高温負荷試験を実施した。結果を下記の表2に示す。
なお、表2において、〇は故障無し(絶縁抵抗が10Ω以上)、△は抑制効果は見られるが一部は故障であることを意味し、×は耐性不良で全て故障であったことを意味する。
【0132】
【表2】

【0133】
図31〜図33及び表2の結果から明らかなように、SiN膜からなる拡散防止膜35の厚みが10〜100nmの範囲、すなわち規格化膜厚h/λで0.005〜0.05の範囲とすることにより、TCFの変動量が10ppm/℃以下と温度特性が安定であり、さらに直流電圧を印加した際の耐性に優れた弾性表面波装置11を提供し得ることがわかる。
【0134】
なお、第2の実施例形態では、拡散防止膜35として、SiNを用いたが、他の窒化膜を用いてもよい。このような他の窒化膜としては、AlN、TiN、TaNまたはWnなどが挙げられる。さらに、拡散防止膜は、酸化膜により構成されていてもよく、このような酸化膜としては、例えばTa25などが挙げられる。
【0135】
なお、図14では、拡散防止膜35は、電極の上面を覆うように形成されていたが、電極の側面をも覆うように構成されていてもよく、その場合には、電極材料の拡散をより一層効果的に防止することができ、望ましい。
【0136】
また、第2の実施形態では拡散防止膜35が電極と第2のSiO層36との間に配置されていたが、この構成において、さらに第2のSiO層36上に、第1の実施形態で示されたSiN層22を設けてもよい。その場合には、第1の実施形態及び第2の実施形態で得られた効果の双方を得ることができ、望ましい。
【0137】
なお、第1,第2の実施形態では、圧電性基板として、36°回転Y板X伝搬のLiTaO3基板を用いたが、他のカット角のLiTaO3基板を用いてもよく、またLiNbO3基板などの他の圧電性基板を用いてもよい。
【0138】
また、上述してきた第1,第2の実施形態では、1ポート型弾性表面波共振子について説明したが、本発明は、このような1ポート型弾性表面波共振子を複数用いたラダー型フィルタのような弾性表面波フィルタなどの様々な弾性表面波装置一般に適用し得るものであることを指摘しておく。また、1ポート型弾性表面波共振子に限らず、電極は、様々なフィルタや共振子構造を有するように形成され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械結合係数が15%以上であるLiTaO3またはLiNbO3からなる圧電性基板と、
前記圧電性基板に形成されており、Alよりも密度の大きい金属もしくは該金属を主成分とする合金からなる金属層を主たる金属層とし、該主たる金属層に他の金属からなる金属層が積層されている積層膜により構成されている少なくとも1つの電極と、
前記少なくとも1つの電極が形成されている領域を除いた残りの領域において、前記電極と略等しい膜厚に形成されている第1のSiO層とを備え、
前記電極の密度が、前記第1のSiO層の密度の1.5倍以上であり、
前記電極及び第1のSiO層を被覆するように形成された第2のSiO層と、
前記第2のSiO層上に形成された窒化ケイ素化合物層とをさらに備えることを特徴とする、弾性表面波装置。
【請求項2】
前記第2のSiO層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.08≦h/λ≦0.5であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記窒化ケイ素化合物層がSiN層からなり、前記SiN層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0<h/λ≦0.1であることを特徴とする、請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第2のSiO層と前記電極との間に配置されたSiNよりなる拡散防止膜をさらに備え、該拡散防止膜の膜厚をh、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.005≦h/λ≦0.05であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記電極がCuまたはCu合金、あるいはCuまたはCu合金からなる主たる金属層を有する積層膜により構成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記圧電性基板が、回転Y板X伝搬のLiTaOまたはLiNbOからなり、前記第2のSiO層の膜厚をh、前記第2のSiO層上に形成される前記窒化ケイ素化合物層の膜厚をh、弾性表面波の波長をλ、
係数A=−190.48、
係数A=76.19、
係数A=−120.00、
係数A=−47.30、
係数A=55.25、
=h/λ、H=h/λ、及び
θ=(A+A+A)H+A+Aとしたときに、
回転Y板X伝搬の圧電性基板のY−Xカット角がθ±5°の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図15】
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【図16】
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【国際公開番号】WO2005/083881
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510429(P2006−510429)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002895
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】