説明

形状記憶樹脂及びこれを用いた成形体

【課題】常温での変形、固定が可能であり、火傷のおそれがなく皮膚に直接接触して変形を行うことができ、その固定した変形を維持することができる、優れた変形固定能を有し、形状の記憶は分解されない限り消失せず、記憶した形状の復元が短時間で可能であり復元率も高い、優れた形状復元能を有し、かつ優れた耐熱性を有し、廃棄処理をする場合においても環境問題を生起させない形状記憶樹脂を提供することにある。
【解決手段】架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が500以上3000以下の結晶性樹脂を架橋した三次元構造を有する形状記憶樹脂であって、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で変形の固定が可能な形状記憶性を有し、かつ耐熱性に優れた成形体を与える形状記憶性樹脂やこれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶能を示す材料は、成形体を所定の温度をかけて変形した後、冷却することで変形した形状を固定することができ、再度加熱して、変形以前の成形体の形状を復元することができる材料であり、従来から合金と樹脂が知られている。形状記憶性合金はパイプ継手や歯列矯正など、形状記憶性樹脂は熱収縮チューブ、締め付けピン、ラミネート材、ギブス等の医療用器具などに利用されている。形状記憶性樹脂は形状記憶合金と比べて、複雑な形状に容易に加工可能な成形性に優れる、形状回復率が高い、軽量である、着色自在である、低コストである等のメリットが挙げられ、一層の用途拡大が期待されている。
【0003】
一般に、形状記憶樹脂成形体は、樹脂から成形された初期形状の形状(A)から、軟化温度(T1)以上に加熱し軟化した状態で任意の形状(B)に変形し、続いて固化温度(T2)以下まで冷却することにより形状(B)に固定される。形状(B)に固定された形状記憶性樹脂成形体は、再度軟化温度(T1)以上に加熱されることにより、形状(A)を復元する。
【0004】
形状記憶性樹脂成形体における形状記憶のメカニズムは、図1に示すように、一定の温度領域において可逆的に変形する可逆相と、可逆相が変形する温度では変形を生じない固定相を有する形状記憶性樹脂により、成形加工、成形体の変形、記憶形状の回復の3段階により達成される。
【0005】
1.成形加工
形状記憶性樹脂を加熱、溶融、固化して成形加工すると、物理的結合あるいは化学的結合(架橋点)からなる固定相と、ガラス転移温度(Tg)又は融点(Tm)以上の温度で流動的になる非結合部分の可逆相を有する成形体が得られる。このような形状記憶性樹脂成形体において、固定相と可逆相(硬)からなる初期状態(原形)(同図(a)及び部分拡大図(b))が記憶される。
【0006】
2.成形体の変形
成形体を任意の形状に変形させるには、固定相は溶融させずに可逆相のみを溶融させる温度、つまり可逆相のTgやTm以上に加熱し硬化状態の可逆相(可逆相(硬))を軟化させ(可逆相(軟)(同図(c))、軟化した成形体を外力を加え任意形状に変形させる(同図(d))。変形された任意形状の成形体をTgやTm(またはTc(結晶化温度))以下に冷却すると、可逆相が完全に固化して変形が固定化された成形体が得られる(同図(e))。
【0007】
3.記憶形状の回復
変形した形状に固定化された成形体においては、一時的に強制固定されている可逆相によりその変形形状が保たれている。従って加熱により可逆相が軟化する温度に達すると、可逆相はゴム状特性を示して安定状態となり、元の形状を回復させる(同図(c))。さらにTgやTm(又はTc)以下に冷却することにより、可逆相が硬化し初期形状の成形体(同図(b))に戻る。
【0008】
このような成形体を与える形状記憶樹脂は、固定相の形態の相違によって熱硬化型と熱可塑型に分類することができ、また、可逆相の固化形態の相違によりガラス転移(Tg)型と結晶化(Tc)型に分類することができ、それぞれに特徴を持つ。
【0009】
具体的には、熱硬化型形状記憶樹脂は、共有結合等の化学的結合による架橋構造の固定相を有し、樹脂の流動を防ぐ効果が高く、優れた形状回復力や寸法安定性を有し、回復速度が速い。熱硬化型形状記憶樹脂の具体例として、トランス−1,4−ポリイソプレンを硫黄あるいはパーオキサイド等により架橋した樹脂を挙げることができる(特許文献1)。この樹脂は、固定相は硫黄あるいはパーオキサイド等の架橋部位からなり、可逆相はトランス−1,4−ポリイソプレンの結晶部からなっており、形状回復力に優れている。
【0010】
一方、熱可塑型形状記憶樹脂は、結晶部、ポリマーのガラス状領域、ポリマー同士の絡まり合い、金属架橋等、主として物理的結合による固定相を有する。これらの固定相は加熱により容易に融解するため、樹脂全体を溶融することにより、新たな成形体を再成形することが可能であり、つまりリサイクルできるという長所を持つ。しかしながら、熱可塑型形状記憶樹脂の固定相の結合力は物理的な結合であり、化学的結合による熱硬化型に比べて、一般的に結合力が弱く、形状回復力に劣る傾向を示す。
【0011】
熱可塑型形状記憶樹脂の具体例としては、ポリノルボルネンが、ポリマー同士の絡まりあいによって固定相を形成し、絡まりのない部位が可逆相を形成し、形状記憶性を持つことが報告されている(特許文献2)。しかし、この形状記憶樹脂は形状回復時間が長く、分子量が非常に高いため加工性が悪い傾向にある。また、結晶部が固定相、非結晶部が可逆相を構成するポリウレタン(特許文献3)や、スチレン−ブタジエン共重合体において、ポリスチレンのガラス状領域が固定相、トランスポリブタジエンの結晶部が可逆相として機能することも報告されている(特許文献4)。しかしこれらの形状記憶樹脂においても、形状回復時間が長く形状回復率も低い、引張強度が極めて弱いため、電子機器用部材に用いるのは困難であるという問題点が指摘されている。
【0012】
また、Tg型形状記憶樹脂は、可逆相におけるガラス状態とゴム状態における弾性率の相違を利用して形状を記憶するものである。ガラス転移温度(Tg)は樹脂のアモルファス相がガラス状態からゴム状態、あるいはゴム状態からガラス状態に相転移する温度である。Tg型の形状記憶樹脂において、Tg以上の低弾性率域で変形した形状をTg以下の高弾性率域で固定化する。Tgは昇温時も降温時もほぼ同じ温度を示すため、変形が可能となる温度と固定化する温度はほぼ同じである。したがって、耐熱温度(熱変形温度)の高い形状記憶樹脂ほど、固定化する温度も高くなる。
【0013】
Tc型形状記憶樹脂は、可逆相における結晶状態とアモルファス状態における弾性率の相違を利用して形状を記憶するものである。結晶化温度(Tc)は樹脂の分子運動が凍結する温度であり、結晶相溶融温度(Tm)は分子運動により樹脂が溶融する温度である。Tc型の形状記憶樹脂は、結晶相溶融温度(Tm)以上の低弾性率域で変形した形状を、Tc以下の高弾性率域で固定化する。溶融に比べ結晶化は分子の配向が必要であるが、例えば分子サイズの大きな高分子化合物等は配向しにくくなるため、結晶化温度は溶融温度に比べ多少低くなる。Tc型形状記憶樹脂の具体例としては、上述のトランス−1,4−ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体を挙げることができるが、耐熱温度が60℃以上、且つ変形固定温度が45℃以下のものは存在しない。
【0014】
上述のように形状記憶樹脂においては、軟化温度(T1)と固化温度(T2)がほぼ同じ温度であり、軟化温度は通常、常温よりも高い温度域にある。このため、常温での変形と固定が可能な耐熱性を有する形状記憶樹脂は存在しなかった。常温での変形及び固定が可能かつ耐熱を有する形状記憶樹脂を用いれば、メガネ、補聴器あるいはギブス等、直接体形に合わせて変形・固定が可能となり、火傷の危険がなく取扱いが簡便になり利用範囲を拡大することが可能となる。
【0015】
ところで、近年、環境問題に大きな関心が寄せられている。リサイクルによる利用性の向上を図ることの一方において、ポリ乳酸やヒドロキシアルカノエート等生物由来樹脂をベース樹脂に利用すれば、石油資源の枯渇対策や、廃棄処理におけるCO2削減による温暖化対策に寄与できる。生分解性材料として、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、澱粉等をベース樹脂に用いることが推進されており、また、これにより、回収不能な魚網や不法投棄ごみ等の環境問題の改善も図られている。このような生分解性樹脂を用いた形状記憶樹脂も提案されている。
【0016】
しかしながら、上述のように常温での変形及び固定が可能で、特に、大きい変形を可能とし、これを常温で行い固定が可能な、耐熱を有し、更に、生分解性を有し、環境破壊の抑制を図った形状記憶樹脂は知られていない。
【特許文献1】特開昭62−192440号公報
【特許文献2】特開昭59−53528号公報
【特許文献3】特開平2−92914号公報
【特許文献4】特開昭63−179955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、常温での変形、固定が可能であり、火傷のおそれがなく皮膚に直接接触して変形を行うことができ、その固定した変形を維持することができる、優れた変形固定能を有し、形状の記憶は分解されない限り消失せず、記憶した形状の復元が短時間で可能であり復元率も高い、優れた形状復元能を有し、かつ優れた耐熱性を有する形状記憶樹脂を提供することにある。更に、廃棄処理をする場合においても環境問題を生起させない形状記憶樹脂を提供することにある。そして、形状復元性と再成形性を有し、最終的な廃棄処分において環境問題を生起させない電子機器用部材等に好適な成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意研究の結果、架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が2000以上、30,000以下の結晶性樹脂を、結晶性樹脂の官能基と同種の官能基を有する多官能化合物及びリンカーを用いて架橋した三次元構造を有し、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下である樹脂は、優れた変形固定能、形状復元能を有することの知見を得て、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち本発明は、架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が2000以上、30,000以下の結晶性樹脂を、該結晶性樹脂の前記官能基と同種の官能基を有する多官能化合物及びリンカーを用いて架橋した三次元構造を有し、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下であることを特徴とする形状記憶樹脂に関する。
【0020】
また、本発明は、形状記憶樹脂を用いたことを特徴とする成形体に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の形状記憶性樹脂は、常温での変形、固定が可能であり、火傷のおそれがなく皮膚に直接接触して変形を行うことができ、その固定した変形を維持することができる、優れた変形固定能を有する。この記憶した形状は加熱により短時間で復元が可能であり、復元率も高い、優れた形状復元能を有する。更に、多官能化合物は、形状記憶樹脂の溶融温度(Tm)はあまり下げずに、結晶化温度(Tc)を大きく下げることから、Tmの高い結晶性樹脂を用いることができ、これにより優れた耐熱性を形状記憶樹脂に付与することができる。また、廃棄処理をする場合においても環境問題を生起させない。
【0022】
また、本発明の成形体は、形状復元性と再成形性を有し、最終的な廃棄処分において環境問題を生起させない電子機器用部材等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の形状記憶樹脂は、架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が2000以上、30,000以下の結晶性樹脂を、該結晶性樹脂の前記官能基と同種の官能基を有する多官能化合物及びリンカーを用いて架橋した三次元構造を有し、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下であることを特徴とする。
【0024】
本発明の形状記憶樹脂に用いる結晶性樹脂は、架橋部位となる官能基を複数有し、この官能基を起点として形成される三次元構造を有するものである。結晶性樹脂の三次元構造は、結晶性樹脂の官能基同士が直接結合し、又は、リンカー若しくは結晶性樹脂の官能基と同種の官能基を有する多官能化合物(共架橋剤ともいう。)を介して、又は、多官能化合物及びリンカーを介して結合して形成される。結晶性樹脂の官能基としては、付加反応、縮合反応、共重合反応のいずれによって架橋を形成するものであってよい。結晶性樹脂は、上記架橋部位となる官能基が分岐構造を形成可能なものであれば、2つ以上の官能基を有する必要があり、分岐構造を形成可能でないものであれば、3つ以上の官能基を有することが必要である。これらの官能基は結晶性樹脂の末端に有することが好ましい。かかる官能基としては、具体的には、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、シアネート基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、スクシンイミノ基等を挙げることができるが、エステル結合やウレタン結合を形成するものが好ましい。これらのうち活性水素を有するヒドロキシ基は、リンカーとしてポリカルボン酸、ポリイソシアネート等を用いる場合は、特に、好ましい。
【0025】
上記結晶性樹脂は人工合成物であっても天然物抽出物、あるいは天然物を用いて合成したものであってもよいが、生分解性であることが、廃棄処理する際に環境破壊を抑制することができるため好ましい。
【0026】
かかる結晶性樹脂としては、具体的には、ポリエステル類、ポリアミド類や、ポリエーテル類等を挙げることができる。これらは人工合成、またはバイオマス原料から得られるモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はこれらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物、又は天然物抽出物、若しくはこれらの誘導体や変性体であってもよい。これらは、分子間の結合力が適度であり、熱可塑性に優れ、溶融時の粘度が著しく上昇することがなく、良好な成形加工性を有することから好ましい。
【0027】
上記ポリエステル類としては多価アルコールと多塩基酸との重縮合により生成されるものであれば、いずれでもよいが、脂肪族ポリエステル類が好ましい。かかる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、メチルグリコシド、ジグリセリン等の4価アルコール、トリグリセリン、テトラグリセリン等のポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等のポリペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール等のシクロアルカンポリオール、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、アドニトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ズルシトール等の糖アルコール、グルコース、マンノースグルコース、マンノース、フラクトース、ソルボース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、セルロース等の糖類、ヤシ油系ポリオール等を挙げることができ、これらの誘導体や変性体であってもよい。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、多塩基酸としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸等を挙げることができ、これらの誘導体や変性体であってもよい。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記ポリエステル類としては、ポリヒドロキシポリブチレンサクシネートは優れた生分解性を有し、リンカーとの架橋結合により、低温領域に結晶化温度(Tc)を有する形状記憶樹脂を与えることができる点から特に好ましい。
【0030】
これらのポリエステル類は末端にヒドロキシ基を有するものが、ポリカルボン酸やポリイソシアネート等のリンカーとエステル結合やウレタン結合の架橋結合を形成し得るため好ましい。末端にヒドロキシ基を有するポリエステル類とするためには、2価カルボン酸及び2価アルコールを原料として合成する場合は、使用する原料の2価アルコール/2価カルボン酸のモル比率を1より大きくすることにより、分子鎖の末端を総てヒドロキシ基にすることが可能である。あるいは、エステル交換反応により、末端をヒドロキシ基にすることが可能である。即ち、末端がカルボキシル基のポリエステル類に対し、両末端にヒドロキシ基を有する2価アルコールを加えると、ポリエステル類の分子鎖中のエステル結合がジオールとエステル交換しながら切断される。切断されたポリエステルの末端はヒドロキシ基を有するものとなる。特に、3価以上のアルコールによりエステル交換を行うことにより、3次元の架橋構造を形成することができる。エステル交換に用いる3価以上のアルコールとしては、具体的には、多価カルボン酸との反応によりポリエステルの作成に用いる多価アルコールとして例示したものと同様のものを挙げることができる。例えば、ポリヒドロキシブチロラクトンやポリヒドロキシバリレートなどのヒドロキシアルカノエート類のエステル結合をペンタエリスリトールでエステル交換することにより、分子鎖の末端にヒドロキシ基が合計で4つ存在するポリエステルが得られる。尚、エステル交換により生成した末端にカルボキシ基を有するエステル交換物や末端にヒドロキシ基を有する未反応原料は容易に精製除去することができる。
【0031】
また、ポリアルカノエート等のポリエステル樹脂の末端のカルボニル基は、エステル化反応による官能基の導入が有効である。具体的には、酸やアルカリの他にカルボジイミド類等を用いてエステル化反応により官能基を導入することができる。また、カルボキシ基を塩化チオニルやアリルクロライドなどを用いて酸塩化物に誘導した後、エステル化反応により官能基を導入することも可能である。
【0032】
上記結晶性樹脂として用いることができるポリアミド類としては、脂肪族ポリアミドが好ましく、例えば、タンパク質等アミノ酸の重合物や、ポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジポアミド等を挙げることができ、これらの誘導体や変性体を挙げることができる。
【0033】
上記結晶性樹脂として用いることができるポリエーテル類としては、脂肪族ポリエーテルが好ましく、具体的には、上記ポリエステル類を構成する多価アルコールとして例示したものと同様の多価アルコールの重合体を挙げることができる。
【0034】
上記結晶性樹脂として用いることができるバイオマス原料から得られるモノマー、オリゴマー、若しくはポリマーを用いて合成される重縮合物としては、ポリ乳酸(島津製作所製、商品名:ラクティー等)、ポリグリコール酸等のポリアルファヒドロキシ酸、ポリイプシロンカプロラクトン等のポリオメガヒドロキシアルカノエート(ダイセル社製、商品名:プラクセル等)、ブチレンサクシネートの重合体であるポリアルキレンアルカノエート、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル類、ポリ−γ−グルタメート(味の素社製、商品名:ポリグルタミン酸など)等のポリアミノ酸類等を挙げることができる。
【0035】
更に、上記結晶性樹脂として天然物抽出物を用いることができる。かかる天然物抽出物としては植物由来、動物由来、微生物由来のもの等いずれであってもよい。具体的には、澱粉、アミロース、セルロース、セルロースエステル、キチン、キトサン、ゲランガム、カルボキシル基含有セルロース、カルボキシル基含有デンプン、ペクチン酸、アルギン酸等の多糖類;微生物により合成されるヒドロキシブチレート及び/又はヒドロキシバリレートの重合体であるポリベータヒドロキシアルカノエート(ゼネカ社製、商品名:バイオポール等)等を挙げることができる。これらのうち、澱粉、アミロース、セルロース、セルロースエステル、キチン、キトサン、微生物により合成されるヒドロキシブチレート及び/又はヒドロキシバリレートの重合体であるポリベータヒドロキシアルカノエート等が好ましい。
【0036】
上記結晶性樹脂は、数平均分子量が2,000以上、30,000以下である。好ましくは3,000以上、20,000以下であり、より好ましくは10,500以下である。結晶性樹脂の数平均分子量が2,000以上であれば、変形した形状の固定を良好に行うことができる結晶化度を有し、耐熱性に優れる形状記憶樹脂を与えることができ、数平均分子量が3,000以上であれば形状記憶樹脂に高い結晶溶融温度(Tm)を付与することから、更に耐熱性に優れる形状記憶樹脂を与えることができる。結晶性樹脂の数平均分子量が30,000以下であれば、結晶化を遅延する作用を有する多官能化合物と相俟って、形状記憶樹脂の結晶化温度(Tc)の低減を図り、低温での変形加工、固定することができ、生分解性の原料から得られるものである場合は、生分解性に優れた形状記憶樹脂が得られる。
【0037】
上記結晶性樹脂と同種の官能基を有する多官能化合物(共架橋剤)は、結晶性樹脂の上記結晶性樹脂と同種の官能基を複数有し、形状記憶樹脂の結晶化速度を遅延させる作用を有するものである。多官能化合物を使用することにより、高分子量の結晶性樹脂を使用した場合であっても、形状記憶樹脂の結晶化速度を遅延させることができ、且つ、形状記憶樹脂の結晶溶融温度(Tm)への影響は小さく、形状記憶樹脂の耐熱性が向上する。多官能化合物は結晶性樹脂と相溶性が高く、リンカーで架橋したときに、結晶化して形状記憶樹脂の特性を阻害しないものが好ましい。
【0038】
多官能化合物は、分岐構造を形成可能な官能基であれば2つ以上を有する必要があり、分岐構造を形成可能でない官能基であれば、3つ以上を有することが必要である。多官能化合物としては、多官能モノマーのみならず、多官能オリゴマー、多官能ポリマーを用いることができ、結晶性樹脂を構成するモノマーや、同じ構成単位を有するものであってもよい。多官能化合物が、オリゴマーやポリマーである場合、数平均分子量としては、結晶性を示さない範囲であることが好ましい。具体的には、ポリヒドロキシポリブチレンサクシネートの場合、数平均分子量が300未満であれば、形状記憶樹脂の結晶化が抑制され、また、生分解性の高い樹脂を得ることができる。また、ポリ乳酸も分子量の小さいものや非結晶性のものは好適に用いることができるため好ましい。多官能化合物の使用量としては、形状記憶樹脂中50質量%以下が好ましい。
【0039】
三次元構造体を形成するためのリンカーとしては、結晶性樹脂又は多官能化合物の架橋部位である官能基と結合する少なくとも2つの官能基を有するものである。リンカーの官能基は、結晶性樹脂又は多官能化合物の官能基が分岐構造を形成しないものである場合、分岐構造を形成することができるものであること、若しくはリンカーが官能基を3つ以上有することが必要である。リンカーも形状記憶樹脂において可逆相を形成することが好ましい。かかるリンカーとしては、例えば、ヒドロキシ基に結合するイソシアネート基を複数有するポリイソシアネートを挙げることができる。ポリイソシアネートとしては、具体的には、カルボジイミド変性MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等を挙げることができる。特に、アミノ酸誘導可能なリジンジイソシアネートやリジントリイソシアネートは、天然物由来のリンカーであり、好ましい。リンカーの使用量としては、例えば、ポリイソシアネー又はイソシアネートの場合、結晶性樹脂の活性水素に対し、0.5から1.5当量の範囲として、三次元構造を形成することが好ましい。
【0040】
このような結晶性樹脂の架橋は、結晶性樹脂の官能基が、相互に直接の結合、又は、多官能化合物又はリンカーを介して、又は、多官能化合物及びリンカーを介して結合し、三次元構造体を形成する。架橋部位の官能基の結合部分が形状記憶樹脂における固定相となり、架橋部位間の結晶性樹脂が可逆相となる。
【0041】
結晶性樹脂の架橋は、触媒の有無や官能基の種類により要する時間が異なるが、結晶性樹脂及び多官能化合物を溶融温度以上まで加熱し、リンカーとして用いるポリイソシアネート等と共に加熱混合することにより形成することができる。例えば150℃であれば、触媒を使用しない場合でも1時間程度で架橋することが可能であり、適切な触媒を選択すれば数分間で十分架橋することが可能である。
【0042】
このような結晶性樹脂を架橋した三次元構造を有する形状記憶樹脂は、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上であり、好ましくは70℃以上である。結晶溶融温度(Tm)が60℃以上であれば形状記憶樹脂に耐熱性を与えることができる。結晶溶融温度は200℃以下であることが、結晶性樹脂として、ポリエステル類、特に天然由来のポリエステル類を用いた場合であっても、これらが熱分解するのを抑制できることから好ましい。更に、ヘヤドライヤー等の容易な加熱手段により実施可能であることから、110℃以下であることがより好ましい。
【0043】
また、形状記憶樹脂の結晶化温度(Tc)が45℃以下である。結晶化温度が45℃以下であれば、常温、例えば、0℃〜40℃での変形と固定操作を行うことが可能である。結晶化温度は−50℃以上であることが、ドライアイス等の容易な冷却手段により実施可能であることから好ましい。
【0044】
結晶化温度(Tc)と結晶溶融温度(Tm)の温度差は、樹脂中の分子鎖の配向性を示す尺度であり、配向速度の遅れが反映され、温度差が15℃以上であると、変形を行うことが容易になる。溶融状態の樹脂を冷却操作(水冷など)により冷却し結晶状態の測定を行う際、DSC(示差走査熱量測定)の測定時(10℃/分)における測定温度より、樹脂の温度は低温になっている。結晶化温度(Tc)が45℃以下であれば、室温(23℃)の状態で、結晶化が完了するまでには、数十秒から数分以上を要することになり、その間に樹脂の変形の操作を行い、変形した形状で固定することが可能となり、変形形状を保持することができる。結晶化温度(Tc)が45℃を超えると、室温まで冷却する過程で結晶化が進行するため、室温で変形しても変形形状が固定されることは困難であり、変形を保持することは極めて困難となる。
【0045】
上記形状記憶樹脂の結晶溶融温度(Tm)や結晶化温度(Tc)を上記範囲に調整するには、上記結晶性樹脂から2種以上を選択し混合割合を調整する、結晶性樹脂を共重合体とし、その構成モノマーの含有割合を調整する、また、多官能化合物やその他結晶化を阻害する化合物の使用量を調整して行うことができる。即ち、結晶性樹脂単独の結晶化温度(Tc)が45℃を超えるものであっても、多官能化合物や、その他結晶化を阻害する化合物や結晶化温度(Tc)が低い樹脂とのブレンドあるいは共重合することにより、45℃以下の結晶化温度(Tc)を有する樹脂とすることができる。特に、結晶性樹脂を共重合体としてその結晶化温度の調整を行った場合は、クレープが生じにくいため、復元性に優れた形状記憶樹脂を得ることができる。
【0046】
また、形状記憶樹脂は、結晶性樹脂の架橋構造によって、その結晶化度を調整し、形状記憶能と変形固定能との調整を図ることができる。形状記憶樹脂の結晶化度の調整は架橋密度の調整や、多官能化合物の使用量の調整により行うことができる。例えば、結晶性樹脂の分子量を増大させる、又は、結晶性樹脂の官能基の数を減少させ架橋部位を少なくすることにより、架橋密度が低減し形状記憶樹脂の結晶化度が上昇する。これにより初期形状の記憶能を上昇させることができる。これとは逆に、架橋密度を増大させる、例えば、結晶性樹脂の分子量を減少させる、又は、結晶性樹脂の官能基の数を増大させ架橋部位を多くすることにより、樹脂の結晶化度を低下させることができる。これにより、弾性率を低下させることができ、変形及びその固定が容易となる。ここにおいて、多官能化合物は、分子量が小さいもの程、形状記憶樹脂の架橋密度を上昇させ、結晶化の速度を低下させ、結晶化温度Tcを低下させることができる。このため、高分子量の結晶性樹脂を用いた場合でも、形状記憶樹脂の結晶化温度(Tc)の低減を図ることができ、常温での変形、固定を行うことができる。多官能化合物は分岐度や分子量により形状記憶樹脂の架橋度に影響を及ぼすため、その分岐度や分子量により使用量を調整することが好ましい。具体的には、分岐度が大きく低分子量のもの程、使用量を低減することが好ましい。
【0047】
更に、形状記憶樹脂の融解熱は20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。形状記憶樹脂の融解熱が20J/g以上であれば、変形した形状を固定するのに充分な分子間力を有し、形状記憶樹脂としての機能を発揮することができる。形状記憶樹脂が結晶溶融温度(Tm)として60℃以上を有し、結晶化温度(Tc)として45℃以下を有するものであっても、分子間力が低く、溶融熱が小さい場合、即ち、結晶化度の過度の低下により、変形を固定できなくなる場合もある。
【0048】
また、形状記憶樹脂は、結晶溶融温度(Tm)より20℃高温における貯蔵弾性率(G’(Tm+20))が2.5×108Pa以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×108Pa以下である。常温に冷却した直後の貯蔵弾性率が1.0×109Pa以下であり、結晶化後の貯蔵弾性率G’(Tc))と結晶溶融温度(Tm)より20℃高温における貯蔵弾性率(G’(Tm+20))との比、G’(Tc)/G’(Tm+20)が、10以上の関係を有することが好ましく、より好ましくは20以上である。貯蔵弾性率G’は結晶溶融温度(Tm)以上の温度範囲では結晶相の溶融に伴うミクロブラウン運動の活発化に伴い低下するため、結晶溶融温度(Tm)の上下の温度における貯蔵弾性率G’の比率が変形の形成の容易性の指標となる。G’(Tc)/G’(Tm+20)が10以上であれば、結晶溶融温度(Tm)以下において充分なゴム性を有し、変形が容易になる。
【0049】
ここで貯蔵弾性率は、DMS測定装置(セイコーインスツルメント社製:DMA6100)を用いて、10Hzの引っ張りモードで測定した測定値を採用することができる。具体的には、試料を20℃から(Tm+20)℃以上まで毎分2℃の速さで昇温し、その後毎分10℃の速度で20℃まで冷却し、その間の貯蔵弾性率を測定する。
【0050】
本発明の成形体は上記形状記憶性樹脂を用いたことを特徴とする。本発明の成形体を製造するには、予め調製した未硬化の結晶性樹脂と、多官能化合物と、リンカーとを混合して一部反応しておくことにより重合体組成物(プレポリマー)を調製しておき、これを硬化成形する方法によることができる。また、必要に応じて触媒を用いてもよい。例えば、ヒドロキシ基とイソシアネート基の反応行う場合は、トリエチレンジアミン等の三級アミンやジブチル錫ジ(2エチルへキソエート)等の有機金属化合物などを用いることができる。これらの組成物には、結晶性樹脂、多官能化合物、リンカーの特性を損なわない範囲で、発泡剤や整泡剤、無機フィラー、有機フィラー、補強材、着色剤、安定剤(ラジカル捕捉剤、酸化防止剤等)、抗菌剤、防かび材、難燃剤、可塑剤、離型剤、耐衝撃性改良剤などを、必要に応じて含有させることができる。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、砂、粘土、鉱滓等を挙げることができる。有機フィラーとしては、ポリアミド繊維や植物繊維等の有機繊維を挙げることができる。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、針状無機物、繊維状フッ素樹脂等を挙げることができる。抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライト等を挙げることができる。難燃剤としては、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、燐系難燃剤、無機系難燃剤等を挙げることができる使用できる。
【0051】
上記重合体組成物の硬化はいずれの方法を使用してもよく、トランスファー成形、RIM成形、圧縮成形、発泡成形、光硬化成形等の成形方法を使用することができる。得られる成形体としては、電化製品の筐体等の電気・電子機器用途やメガネ、補聴器、ギブス等、投票用紙等に適用することができる。
【0052】
かかる成形体において、結晶性樹脂の結晶溶融温度以上結晶性樹脂の架橋結合の融点を超えない範囲で加熱し、変形を加える。結晶化温度以下に冷却することにより、変形形状が固定され、再度結晶性樹脂の結晶溶融温度以上に加熱されない限り、変形形状が保持される。その後、結晶性樹脂の結晶融点温度以上に加熱されることにより、成形時の形状が高速で復元性よく復元される。
【0053】
この成形体は、更に架橋結合の融点以上、即ち、形状記憶樹脂の融点以上に加熱されることにより溶融し、再成形可能である。また、廃棄する場合、焼成せずに、環境に放置することにより、日光や水により分解され、また、バイオサイクルに取り込まれ、分解される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0055】
以下、特に明記しない限り、試薬等は市販の高純度品を用いた。なお、数平均分子量はNMRにより測定した水酸基濃度やゲルパーミエーションクロマトグラム法により測定した(標準ポリスチレンを用いて換算)。また、以下の方法で性能を評価した。
【0056】
[実施例1]
以下により、結晶性樹脂として、ジヒドロポリブチレンサクシネート(R1)を調製した。攪拌機、分流コンデンサー、温度計、窒素導入管を付した1Lのセパラブルフラスコに、コハク酸118g(1.00モル)、1,4−ブタンジオール95g(1.05モル)を仕込み、窒素雰囲気下180〜220℃で7時間脱水縮合を行った。続いて、クロロホルムに溶解し、アルカリ洗浄後、メタノールにより再沈し、数平均分子量(NMR)が2000の両末端にヒドロキシル基を有するポリブチレンサクシネート(R1)を得た。
【0057】
以下により、多官能化合物として、ヒドロキシポリ乳酸(A1)を調製した。市販のポリ乳酸(レイシア:三井化学製)100gとソルビトール3gを180〜220℃、3時間溶融混合しエステル交換反応した。クロロホルムに溶解後、メタノールに注ぎ再沈殿し、数平均分子量が16,300の6官能ヒドロキシポリ乳酸(A1)を得た。
【0058】
得られたジヒドロポリブチレンサクシネート(R1)18.0g(0.009モル)、ヒドロキシポリ乳酸(A1)2.0g(0.0001モル)に、リンカーとしてリジントリイソシアネート(協和発酵ケミカル(株))1.7g(0.006モル)を150℃で溶融混合し、金型に流し込んだ後、150℃で1時間架橋反応を行ない、成形物を得た。得られた成形物について、以下のように結晶化温度(Tc)、結晶溶融温度(Tm)、結晶化熱(Hm)を測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[結晶化温度(Tc)、結晶溶融温度(Tm)、融解熱(Hm)]
セイコーインスツルメント社製DSC測定装置(商品名:DSC6000)を用いて、溶融温度(高温域)から降温速度10℃/分で測定を行い、結晶化温度(Tc)を求めた。続いて昇温速度10℃/分で(低温域から)測定を行い、結晶溶融温度(Tm)及び融解熱(Hm)を測定した。
【0060】
[形状記憶性]
2cm×5cm×1.0mmの成形体(第一形状)を作成し、Tm+20℃で加熱し、成形体の中央を30°に折り曲げて変形後、23℃の水浴で冷却し、10分間形状を保持することにより第二形状を得た。このときの成形体の角度(B1)により、以下の基準により形状記憶性を評価した。
【0061】
20°≦B1≦30°を○、10°≦B1<20°を△、0°≦B1<10°を×とした。
【0062】
[常温変形]
2cm×5cm×1.0mmの成型体(第一形状)を作成し、Tm+20℃で加熱した後、23℃の水浴で冷却する。成形体の中央を30°に折り曲げて変形後、10分間形状を保持することにより、第二形状を得た。このときの成型体の角度(B2)で形状記憶性を評価した。
【0063】
20°≦B2≦30°を○、10°≦B2<20°を△、0°≦B2<10°を×とした。
【0064】
[実施例2]
以下により、結晶性樹脂として、ジヒドロポリブチレンサクシネート(R2)を調製した。攪拌機、分流コンデンサー、温度計、窒素導入管を付した1Lのセパラブルフラスコに、コハク酸118g(1.0モル)、1,4−ブタンジオール95g(1.05モル)を仕込み、窒素雰囲気下180〜220℃で7時間脱水縮合を行った。続いて、減圧下180〜220℃で1.0時間脱ジオール反応を行い、クロロホルム及びメタノールによる再沈により数平均分子量(NMR)が3000の両末端にヒドロキシル基を有するポリブチレンサクシネート(R2)を得た。
【0065】
得られたジヒドロポリブチレンサクシネート(R2)16.0g(0.005モル)と、実施例1で得られた多官能化合物(A1)4.0g(0.0002モル)と、リジントリイソシアネート1.1g(0.004モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例3]
以下により、結晶性樹脂として、ジヒドロポリブチレンサクシネート(R3)を調製した。攪拌機、分流コンデンサー、温度計、窒素導入管を付した1Lのセパラブルフラスコに、コハク酸118g(1.0モル)、1,4−ブタンジオール108g(1.2モル)、テトライソプロピルチタネート0.02gを仕込み、窒素雰囲気下180〜220℃で4時間脱水縮合を行った。続いて、減圧下180〜220℃で13時間脱ジオール反応を行い、数平均分子量(NMR)10,500の両末端にヒドロキシル基を有するポリブチレンサクシネート(R3)を得た。
【0067】
得られたジヒドロポリブチレンサクシネート(R3)16.0g(0.002モル)と、実施例1で調製した多官能化合物(A1)4.0g(0.0002モル)と、リジントリイソシアネート0.4g(0.002モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例4]
実施例3で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R3)10.0g(0.0010モル)と、実施例1で調製した多官能化合物(A1)10.0g(0.0006モル)と、リジントリイソシアネート0.5g(0.002モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例5]
以下により、多官能化合物として、ヒドロキシポリ乳酸(A2)を調製した。市販のポリ乳酸(レイシア:三井化学製)100gとソルビトール9gを180〜220℃、3時間溶融混合しエステル交換反応した。クロロホルムに溶解後、メタノールに注ぎ再沈殿し、数平均分子量が3000の6官能ヒドロキシポリ乳酸(A2)を得た。
【0070】
実施例3で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R3)16.0g(0.002モル)と、得られた多官能化合物(A2)4.0g(0.001モル)と、リジントリイソシアネート1.0g(0.004モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例6]
実施例2で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R2)19.0g(0.006モル)と、多官能化合物として1,4−ブタンジオール(A3)1.0g(0.011モル)と、リジントリイソシアネート3.1g(0.012モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
実施例3で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R3)31.8g(0.003モル)と、リジントリイソシアネート0.5g(0.002モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
実施例1で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R1)20g(0.01モル)と、ヘキサメチレンジイソシアネート1.7g(0.01モル)を用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例3]
市販のPBS(昭和高分子 #1020、数平均分子量(GPC)33000)を金型内で200℃に加熱溶融・冷却固化して、評価用の成形物を製造した。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例4]
実施例1で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R1)30g(0.015モル)と、リジントリイソシアネート2.7g(0.01モル)とを用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例5]
実施例2で調製したジヒドロポリブチレンサクシネート(R2)18g(0.006モル)と、リジントリイソシアネート1.1g(0.004モル)とを用いた他は、実施例1と同様にして成形物を得た。得られた成形物について、実施例1と同様にしてTc、Tm、Hmを測定し、形状記憶性、常温変形を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
結果より、多官能化合物を用いた実施例は、形状記憶、常温変形に優れていた。特に、分子量が10,500の結晶性樹脂を用いても、多官能化合物を用いた場合(実施例3〜5)、形状記憶樹脂のTcは45℃以下となり、形状記憶、常温変形に優れるが、多官能化合物を用いない(比較例1)では、Tcが45℃を大幅に超え、急冷しても常温に達する前に結晶化が生じ、常温での変形(賦形)ができなかった。分子が三次元構造を有しない場合(比較例2、3)は、Tm以上の温度域において溶融するため、形状記憶ができない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
このように常温で変形が可能な優れた形状記憶性を備えた本発明品は、電子機器用部材等の成形体に使用することができる。例えば電子機器(パソコンや携帯電話等)の外装材、ねじ、締め付けピン、スイッチ、センサー、情報記録装置、OA機器等のローラー、ベルト等の部品、ソケット、パレット等の梱包材、冷暖房空調機の開閉弁、熱収縮チューブ等に使用することができる。他にも、バンパー、ハンドル、バックミラー等の自動車用部材として、床ずれ防止寝具等の家庭用部材等、各種分野に応用することができる。特に常温での変形および固定が可能かつ耐熱を有することから、火傷の心配をすることなく取り扱うことが可能であり、ギブス、おもちゃ、めがねフレーム、歯科矯正用ワイヤー、補聴器あるいはギブスのような直接体形に合わせて変形・固定する用途などに利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】形状記憶樹脂成形体の形状記憶のメカニズムを示す図であり、(a)は形状記憶性樹脂成形体の初期状態(原形)を示し、(b)は(a)の一部の拡大図を示し、(c)は形状記憶性樹脂成形体の変形時における軟化状態を示し、(d)は軟化した成形体を外力を加えた変形状態を示し、(e)は成形体に加えた変形の固定状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が2,000以上、30,000以下の結晶性樹脂を、該結晶性樹脂の前記官能基と同種の官能基を有する多官能化合物及びリンカーを用いて架橋した三次元構造を有し、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下であることを特徴とする形状記憶樹脂。
【請求項2】
結晶性樹脂が官能基に活性水素を有し、リンカーがポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1記載の形状記憶樹脂。
【請求項3】
結晶性樹脂が生分解性であることを特徴とする請求項1又は2記載の形状記憶樹脂。
【請求項4】
結晶性樹脂がポリヒドロキシポリエステルであることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の形状記憶樹脂。
【請求項5】
ポリヒドロキシポリエステルがポリヒドロキシポリブチレンサクシネートであることを特徴とする請求項4記載の形状記憶樹脂。
【請求項6】
結晶溶融温度(Tm)より20℃高温における貯蔵弾性率(G’(Tm+20))が2.5×108Pa以下であり、常温に冷却した直後の貯蔵弾性率が1.0×109Pa未満であり、結晶化後の貯蔵弾性率(G’(Tc))がG’(Tc)/G’(Tm+20)≧10の関係を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の形状記憶樹脂。
【請求項7】
融解熱(Hm)が20J/g以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の形状記憶樹脂。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか記載の形状記憶樹脂を用いたことを特徴とする成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96885(P2009−96885A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270026(P2007−270026)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】