説明

往復逓倍光変調器

【課題】環境温度の変化に対しても出力光の強度が安定であって、且つ小型化が可能な往復逓倍光変調器用グレーティングフィルタを提供する。
【解決手段】往復逓倍変調器は、光変調器と、前記光変調器の入力端に光軸を合せて接続されており、第1波長範囲の光を透過させる第1グレーティングフィルタと、前記光変調器の出力端に光軸を合せて接続されており、前記第1波長範囲を全て含む第2波長範囲の光を反射する第2グレーティングフィルタと、を備え、前記第1及び第2グレーティングフィルタは、前記光変調器の入出力端との接続部の近傍にグレーティングが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ無線システム等に用いられる光変調器用グレーティングフィルタを用いた往復逓倍光変調器に関し、特に低い周波数の電気信号によりミリ波帯の高い周波数で変調された光信号を得る往復逓倍光変調器用グレーティングフィルタを用いた往復逓倍光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ無線システムにおいてミリ波・マイクロ波帯における光変調はキーとなる技術であるが、電極損や位相不整合の影響で高周波帯域での変調効率が低く、変調器をドライブするには大振幅のRF信号が必要となっている。これを解決するために1つの光位相変調器の入力ポート、出力ポートのそれぞれに光フィルタを置き、光高調波を効率よく生成する往復逓倍光変調器が提案されている。往復逓倍光変調器では、変調器に供給する電気信号に比べ数倍高い周波数で変調された光信号を得ることができるため、ドライブ回路の低コスト化が図れる利点がある。従来の往復逓倍光変調器には、これに用いる光フィルタとしてファイバグレーティングが、光変調器チップに直接接続されていた。光フィルタの間隔は16cmである。往復逓倍光変調器に周波数5.5GHz電気信号で変調した場合、往復逓倍光変調器により49.5GHzのミリ波信号が生成されている。(例えば、非特許文献1参照。)
【0003】
また、光フィルタにファイバグレーティングを用いた往復光変調器の出力光の強度は、一般に変動しており、その出力光の変動を例えばフォトダイオードで電気信号に変換し、位相変調器にフィードバックすることによって、出力光を安定に保つことできる。この理由は出力光の変動は、光路の変動による、光の位相が変動するためである。(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
【非特許文献1】2003年電子情報通信学会総合大会予稿C−14−11
【特許文献1】特開2002−6277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような往復逓倍光変調器では、光変調器の入出力側に設けられたそれぞれのファイバグレーティング間の間隔が長いため、僅かな環境変化による温度や応力変化により、2つのファイバグレーティング間の光路長が変化して出力光が安定しない。このため、出力光をモニタしフィードバック制御により安定化する必要があるが、このフィードバック機構が複雑で高コスト化が避けられないという問題点があった。また、光変調器を挟む入出力側の2つのファイバグレーティング間の距離が長いため、機器の小型化を行う際の障害になるといった問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、環境温度の変化に対しても出力光の強度が安定であって、且つ小型化が可能な往復逓倍光変調器用グレーティングフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るグレーティングフィルタは、
光ファイバのコアに所定長さのグレーティングが形成されているファイバグレーティングであって、前記グレーティングは前記光ファイバの一方の端面の近傍に設けられているファイバグレーティングと、
前記ファイバグレーティングの前記グレーティングの両端を固定すると共に、前記ファイバグレーティングの前記端面と略同一面を構成する端面を有する少なくとも一つの基板と
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る往復逓倍光変調器は、光変調器と、
前記光変調器の入力端に光軸を合せて接続されており、第1波長範囲の光を透過させる第1グレーティングフィルタと、
前記光変調器の出力端に光軸を合せて接続されており、前記第1波長範囲を全て含む第2波長範囲の光を反射する第2グレーティングフィルタと
を備え、
前記第1及び第2グレーティングフィルタは、前記光変調器の入出力端との接続部の近傍にグレーティングが設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、別例の本発明に係る往復逓倍光変調器は、光変調器と、
前記光変調器の入力端に光軸を合せて接続されており、第1波長範囲の光を透過させる第1グレーティングフィルタと、
前記光変調器の出力端に光軸を合せて接続されており、前記第1波長範囲とは重ならない前記第1波長範囲より長波長側の第2波長範囲の光と、前記第1波長範囲とは重ならない前記第1波長範囲より短波長側の第3波長範囲の光とを透過させる第2グレーティングフィルタと
を備え、
前記第1及び第2グレーティングフィルタは、前記光変調器の入出力端との接続部の近傍にグレーティングが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るグレーティングフィルタによれば、グレーティングは光ファイバの一方の端面の近傍に設けられている。また、ファイバグレーティングの端面とファイバグレーティングを固定する基板の端面とが略同一面を構成している。これによって、このグレーティングフィルタは、往復逓倍光変調器に用いた場合には、他の部材を介することなく光軸を合せることができて光変調器の入出力端と直接接続でき、光変調器の入出力端とグレーティングフィルタとの間の間隔を短くできる。さらに基板によってグレーティングフィルタが安定に固定されているので光路長変化が小さく光出力が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係るグレーティングフィルタ及びその製造方法、さらにこれを用いた往復逓倍光変調器について添付図面を用いて説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0012】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係るグレーティングフィルタについて説明する。図1は、この発明のグレーティングフィルタ1の構成を示す斜視図である。また図2は、このグレーティングフィルタの構成を説明する分解斜視図である。このグレーティングフィルタ1は、ファイバグレーティング2が第1石英基板4のV字溝3の中に収納され、該V字溝3と第2石英基板5との間に挟んで固定されている。ファイバグレーティング2は、光ファイバのコアに長さ15mmのグレーティングが形成されている。第1石英基板4は、グレーティングファイバ2のグレーティング部分を収納するV字溝3が形成されている。また、ファイバグレーティング2は、第1石英基板4のV字溝3内に収納されており、グレーティング部分の両端から少し離れた部分で第1石英基板4のV字溝3と第2石英基板5とに接着剤6で固定されている。ファイバグレーティング2は、直径125μmのシングルモードファイバの周囲を樹脂などで被覆して直径250μm、または直径900μm、の光ファイバケーブル7の一部の被覆を除去した、被覆除去光ファイバ部8にファイバグレーティング2を形成したものである。なお、ファイバグレーティング2を形成する光ファイバの直径や種類、被覆した光ファイバケーブルの直径などは一例を示したもので、グレーティングを形成できるものであれば他の仕様であってもよい。またファイバグレーティング2のグレーティングを形成した長さは15mmとしたが、要求する仕様に合わせて設計した任意の長さであってよい。さらに第1石英基板4にV字溝3を形成したが、溝内にファイバグレーティング2を設置する場合の位置精度を重要としない場合はU字溝であっても、他の形状の溝であってもよい。
【0013】
次に、光ファイバの一端のファイバグレーティング2を第1石英基板に固定する光ファイバ固定部9について説明する。第1石英基板4の一端には、V字溝3を形成した面の一部を削って基板厚みを薄くした光ファイバ固定部9が設けられている。光ファイバ固定部9は樹脂の被覆を施した光ファイバケーブル7を固定用接着剤10によって固定するための部分で、被覆用の樹脂の厚みによって、被覆除去光ファイバ部8に曲げ応力がかからないように、第1石英基板4の一部を予め削って薄くしたものである。石英基板5はファイバグレーティング2のグレーティング長よりも僅かに長いが、被覆除去光ファイバ部8の長さより短い長さであればよく、例えばここでは17mmとする。第2石英基板5はファイバグレーティング2を固定し、保護するためのものであるので、グレーティングを形成した部分より両端に1mm程度の長さがあればよい。第2石英基板5より外側の被覆除去光ファイバ部8と光ファイバケーブル7の光ファイバ固定部9の上の領域は、固定用接着剤10によって、第1石英基板4の光ファイバ固定部9に固定される。このとき、固定用接着剤10は石英基板5の上まではみ出してもよいし、第2石英基板5の端面までであってもよいが、被覆除去光ファイバ部8がむき出しにならないように覆う方が信頼性を確保するためにもよい。なお、光ファイバ固定部9の長さは幾らであってもよいが、2〜5mm程度あれば十分であり、グレーティングフィルタの小型化とファイバ固定の信頼性を考えれば、3〜4mm程度が妥当である。
【0014】
さらに、このグレーティングフィルタの端面について説明する。このグレーティングフィルタには、ファイバグレーティング2と第1石英基板4と第2石英基板5の端面が光学研磨され、略同一面の光学研磨面11が設けられている。これによって、このグレーティングフィルタ1を光変調器等に接続する場合には、他の部材を介することなく光軸を合せることができるので光変調器の入出力端と直接接続でき、光変調器の入出力端とグレーティングフィルタ1との間の間隔を短くできる。なお、ここで光学研磨とは、通常の光ファイバ通信用のコネクタ等で用いられている研磨工程と略同等の研磨のことをいう。また、光学研磨面11はファイバグレーティング2における光の伝搬方向に垂直な面であってもよいが、光変調器と接続したときに接続面での反射損失を抑えるため、垂直な面から7°など任意の角度を持った面であってもよい。このとき角度の方向はいずれの方向であってもよい。このようにしてグレーティングフィルタ1は構成される。
【0015】
次に、ファイバグレーティング2と第1石英基板4と第2石英基板5を接着する方法について詳しく述べる。ファイバグレーティング2と第1石英基板4と第2石英基板5は接着剤6によって固定される。接着剤6にはエポキシ樹脂を主成分とする紫外線硬化型の接着剤を用いたが、熱硬化型の接着剤を用いてもよく、他の材料の接着剤を用いてもよい。接着剤6はファイバグレーティングのグレーティングを形成した部分には設けず、グレーティングの両端より外側、及びV字溝3から離れた場所の石英基板4と石英基板5の間に設けた。このようにグレーティング部分を避けて接着剤を塗布するので、グレーティングに応力が加わらず良好なフィルタ特性が得られる。ファイバグレーティング2のグレーティングを形成した部分に接着剤を塗布した場合には、接着剤が硬化する際、その接着剤を塗布した部分にランダムな伸び縮みが生じて、ランダムな力が加わる。このランダムな応力によって、グレーティングの或る部分ではピッチが伸び、或る部分ではピッチが縮むなどのランダムなピッチの乱れが生じ、グレーティングの光学特性が変化するためである。なお、接着剤6を塗布しないグレーティング部分は、何も設けずそのまま(周囲が空気のまま)でもよいが、例えばシリコーンゲルやシリコーンゴムのようなグレーティングに負荷をかけない柔らかい充填材をグレーティング部分の周囲に設けてもよい。このような材料には例えばGE東芝シリコーン社製の高強度・半透明型取り用付加型液状シリコーンゴムTSE3476Tや1成分加熱硬化型接着性液状シリコーンゴムTSE3282−Gなどがある。
【0016】
図3は、グレーティング部分にも接着剤を塗布した場合の、接着前と接着後のグレーティングの反射特性を示す図である。図4は、グレーティングを形成した部分には接着剤を塗布せず、グレーティングの両端より外側とV字溝から離れた部分の石英基板間に接着剤を設けた場合の接着前と接着後のグレーティングの反射特性を示す図である。図3から分かるように、グレーティングを形成した部分にも接着剤を塗布した場合は、接着前後でグレーティングの反射特性が大きく変化し、急峻な反射特性から緩慢な反射特性に変化している。これは、グレーティング全長に渡って均一なグレーティングピッチで作製したことにより急峻な反射特性が得られていたものが、接着剤の硬化によって生じたランダムな伸び縮みによって、グレーティングピッチに乱れが生じ、反射特性が緩慢になったためである。接着剤の硬化によって生じたこのようなグレーティングピッチの乱れは位相エラーと呼ばれ、例えば、特開2002−196158号公報に記されている。一方、図4から分かるように、グレーティングを形成した部分には接着剤を塗布しなかった場合には、接着前後でグレーティングの反射特性は殆ど変化せず、急峻な反射特性を示している。このグレーティングフィルタを光変調器の両端に設け、往復逓倍光変調器を構成する場合、数10GHzの高い光変調信号を得るには、グレーティングフィルタには急峻な反射特性が求められるため、グレーティングを形成した部分には接着剤を設けない方が好ましい。また、ファイバグレーティングのグレーティングピッチの位相を制御して、複数の波長の光が反射するサンプルドグレーティングやスーパーストラクチャグレーティングを用いる場合にも、グレーティングを形成した部分には接着剤を設けない方がよい。なおサンプルドグレーティングやスーパーストラクチャグレーティングについては、例えば、特表2003−510627号公報や米国公開特許公報US2003/0021532A1に記載されている。
【0017】
次に、このグレーティングフィルタ1を用いた往復逓倍光変調器について述べる。図5は、この往復逓倍光変調器20の斜視図を示したものである。この往復逓倍光変調器20は、光変調器12と、該光変調器12の入出力端に接続された第1及び第2グレーティングフィルタ1a、1bとを備えている。なお、図では光変調器12とグレーティングフィルタ1a、1bとを分かりやすく説明するために互いに分離して示しているが、実際には光変調器12の入出力端と第1及び第2グレーティングフィルタ1a、1bの光学研磨面11とは、それぞれのコアを合わせて接着剤により接着されている。光変調器12は強度変調器であっても位相変調器であってもよいが、本実施の形態では位相変調器とした。変調器12はリチウム酸ニオブ(LiNbO)基板に形成したLN変調器であって、入出力端の間で2つに分岐した2本の光導波路上にそれぞれ変調電極13a,13bが形成されている。変調電極13a,13bには高周波電気信号源14から4.4GHzの高周波電気信号が印加され、2本の光導波路を伝搬する光信号が変調される。
【0018】
次に、光変調器12の両端の光信号入出力端と、第1及び第2グレーティングフィルタ1a,1bの光学研磨面11との接続について説明する。光信号入出力端と第1及び第2グレーティングフィルタ1a,1bの光学研磨面11とは接着剤によって接続されている。この接着剤は通常のLN変調器とコネクタの接続などに用いられる市販の光通信デバイス用接着剤で、光伝搬損失が小さくなるように設計・製造されたものである。図5ではグレーティングフィルタ1a,1bは簡略化して示してあるが、図1に示したものと同一構造であり、その特性は図4に示した接着後のものとほぼ同一である。また、光変調器12の入出力端面と、グレーティングフィルタ1a,1bの端面とは、図5に示すように、いずれも光の伝搬方向に対して垂直な面から7°傾けて研磨されている。これによって、光変調器12とグレーティングフィルタ1a,1bの接続面での反射を抑えることができる。
【0019】
さらに、この往復逓倍光変調器20のサイズについて説明する。まず、光変調器12の全長は38mmである。また、グレーティングフィルタ1a,1bのグレーティングを形成した部分の長さは15mmであり、グレーティングの一端と光学研磨した端面11との間隔は1mmである。また、グレーティングフィルタ1a、1bの端面が光学研磨面であるので、接続部材を介することなく光軸を合せて光変調器12の入出力端と直接接続できる。すなわち従来の技術で記した非特許文献1に記載された往復逓倍光変調器ではグレーティングフィルタ間の距離は16cmであるが、本実施の形態のグレーティングフィルタを用いた往復逓倍光変調器では、グレーティングフィルタ間の距離が40mmとなり、大幅に光路長を短くすることができた。
【0020】
次に、この往復逓倍光変調器20の動作原理について説明する。図6は、図5の往復逓倍光変調器20の動作原理を示す概略図である。LN変調器12の光信号入力端に設けた第1グレーティングフィルタ1aは、光周波数fの無変調光を光源からLN変調器12へと透過するが、特定の波長帯域内の光は反射する。一方、LN変調器12の光信号出力端に設けた第2グレーティングフィルタ1bは特定の波長帯域内の光は反射するが、出力光として得たい光周波数成分の光は透過する。また、光周波数fの無変調光はLN変調器12で位相変調される。そこで、光源から光周波数fの無変調光が第1グレーティングフィルタ1aに入力され、LN変調器12で変調され、第2グレーティングフィルタ1bから出力光が得られるまでのステップは以下のようになる。
(a)まず、光源から光周波数fの無変調光が第1グレーティングフィルタ1aに入力され、透過し、LN変調器12に達する。
(b)光周波数fの無変調光からLN変調器12で側波帯が生成される。
(c)生成された側波帯のうち、出力側の第2グレーティングフィルタ1bの反射帯域に含まれる成分(中間成分と呼ぶ)は、出力側の第2グレーティングフィルタ1bで反射され、LN変調器12に帰る。一方、側波帯のうち、反射帯域に含まれない成分は出力される。
(d)反射された中間成分からLN変調器12で側波帯が生成される。
(e)生成された側波帯のうち、入力側の第1グレーティングフィルタ1aの反射帯域に含まれる成分(中間成分と呼ぶ)は、入力側の第1グレーティングフィルタ1aで反射され、LN変調器12に帰る。
(f)反射された中間成分からLN変調器12で側波帯が生成される。
(g)さらに、生成された側波帯のうち、出力側の第2グレーティングフィルタ1bの反射帯域に含まれる成分(中間成分と呼ぶ)は、出力側の第2グレーティングフィルタ1bで反射され、LN変調器12に帰る。一方、側波帯のうち、反射帯域に含まれない成分は出力される。
【0021】
以上のように、2つのグレーティングフィルタ1a、1bの間を中間成分が往復して、LN変調器12で複数回、変調される。その結果、高効率で高次の側波帯を生成することが可能となる。入力側及び出力側の第1及び第2グレーティングフィルタ1a、1bで光周波数成分f、f、・・・、fの光を反射するようにグレーティングフィルタの反射帯域幅が設定されていると、第n+1次高調波成分である光周波数成分f(n+1)を出力として得ることができる。図6は、光周波数成分fを生成する場合を例としてあげており、LN変調器12の変調周波数fに対し5倍の変調周波数5fの光出力が得られる。なお、グレーティングフィルタの反射帯域幅を広くし、両端のグレーティングフィルタ1a、1bでの反射回数を多くすることにより、より高い周波数成分の光出力を得ることができる。
【0022】
図7は、この往復逓倍光変調器20の光出力強度の時間変化を示す図である。なお、ここでは、従来の往復逓倍光変調器で必須であったフィードバック制御による光出力の安定化は行っていない。図5に示した構造の往復逓倍光変調器20で、4.4GHzの電気信号により往復逓倍動作を行うことで、61.6GHzのミリ波周波数に変調された光信号が得られた。図7に示すように、上記のグレーティングフィルタ1a、1bを用いた往復逓倍光変調器20ではフィードバック制御を用いなくても安定した光出力が得られた。これは従来のグレーティングフィルタを用いた場合には、グレーティングフィルタの間隔が16cmと長かったため、僅かな温度変化で、光ファイバや光導波路の屈折率が変わり、光路長の変化することが問題となっていたが、本実施の形態の往復逓倍光変調器20では、第1及び第2グレーティングフィルタ1a、1b間の間隔が40mmと大幅に短くなったため、温度変化による光路長の変化が極めて小さくなったためである。なお、本実施の形態では、光出力を安定化するためのフィードバック制御を設けていないが、さらにフィードバック制御を設けてもよい。それによってさらに安定な光出力特性を実現できる。この場合においても、往復逓倍光変調器20自体の出力安定性が優れているため、従来のフィードバック制御機構より簡便で安価な制御機構で済む。
【0023】
なお、全体サイズを小さくした逓倍光変調器としては、例えば、特開2002−148572号公報に記された集積型光逓倍変調装置がある。これは光変調器を形成した半導体基板上にグレーティングフィルタをも形成するもので、全体のサイズが10mm×10mm×5mmと非常に小さい。一般に往復逓倍光変調器で高い周波数の光変調信号を得るには、グレーティングフィルタの反射特性は急峻さが求められる。急峻な反射特性を得るためには、グレーティングには少なくとも10mm以上の長さが必要となってくる。しかし、このような基板上に形成した光導波路に10mm以上の長さのグレーティングを形成して急峻な反射特性を得ることは難しい。その理由は次の通りである。グレーティングで反射される光の波長λは、以下の式で表される。
λ = 2・Neff・Λ (1)
ここで、Neffは実効屈折率といい、光導波路のコアとクラッドの相互作用で決まる光導波路の平均的な屈折率である。またΛはグレーティングピッチである。
【0024】
上記式(1)から分かるようにグレーティングの全体に渡って、NeffとΛが一定であるほど、波長λに強い反射が得られ、急峻な反射特性が得られる。Neffは、コアとクラッドの相互作用で決まるので、例えば、光の伝搬方向にコアの屈折率やコア幅に乱れがあった場合、グレーティングの長さ全体に渡って一様なNeffを得るのが難しくなる。半導体基板上に作製した光導波路や、基板上に石英を主成分として平面光導波路(Planar Lightwave Circuit:PLC)を作製した場合には、屈折率やコア幅を一様に作製するのは難しく、グレーティングの長さ全体に渡って一様なNeffを得るのが難しい。このため高い周波数の光変調信号を得るための往復逓倍光変調器に必要な反射特性のグレーティングフィルタを得ることが難しい。一方、本実施の形態ではグレーティングを形成する光導波路は光ファイバであるため、屈折率やコア径の一様性は非常に優れており、急峻な反射特性のグレーティングフィルタを得るには適している。そこで、このグレーティングフィルタを用いることにより、従来の基板上に作製した光導波路に形成したグレーティングフィルタを用いるよりも高性能な往復逓倍光変調器が得られる。
【0025】
なお、本実施の形態のグレーティングフィルタでは、一方の第1石英基板4にのみ溝3を設けたが、図8及び図9に示すように両方の第1及び第2基板4、5のそれぞれにファイバグレーティング2を収納する溝3a、3bを設け、そこにファイバグレーティング2を収納し、該溝3a、3bの間で挟んで固定してもよい。この場合にもグレーティング部分の両端から外側の少し離れた部分で溝3a、3bに接着剤を塗布し、固定する。このようにグレーティング部分には接着剤を塗布しないことが好ましい。また、基板の材質は石英に限らずシリコン基板などの半導体基板や銅合金などの金属基板、あるいはポリイミドなどの樹脂基板であってもよい。
【0026】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係るグレーティングフィルタについて、図10及び図11を用いて説明する。図10は、このグレーティングフィルタの斜視図である。また、図11は、グレーティングフィルタの構成を示すための分解斜視図である。本実施の形態では、グレーティングフィルタ1を構成する第2石英基板5のファイバグレーティング2と接する面に薄膜ヒータ15が設けられている。第2石英基板5は、V字溝3を形成した第1石英基板4よりも幅が広くなっており、この幅が広くなった部分に薄膜ヒータ15に給電する電極16a,16bが設けられている。第1石英基板4と第2石英基板5とファイバグレーティング2とは接着剤6によって固定されており、接着剤6は実施の形態1と同様、グレーティングの両端より外側と、第1石英基板4と第2石英基板5の間に設けられ、ファイバグレーティング2のグレーティングを形成した部分には設けていない。ファイバグレーティング2のグレーティングを形成した部分には何も設けなくてもよいが、薄膜ヒータ15の熱がファイバグレーティング2に伝わりやすくするため、伝熱性シリコーンゴム17が設けられている。このように薄膜ヒータ15を設けることによりファイバグレーティング2のグレーティングの反射波長を制御できる。これによって、グレーティングフィルタ1として、反射波長を可変させることができる。また、製造上の反射波長のばらつきを調整できる。さらに、薄膜ヒータ15とファイバグレーティング2とを密着させるので、小さい消費電力でグレーティングの反射波長を制御できる。
【0027】
次に動作について説明する。電極16a,16bから薄膜ヒータ15に電力を供給すると、薄膜ヒータ15は発熱し、その熱がファイバグレーティング2に伝わり、ファイバグレーティング2の温度が上昇する。ファイバグレーティングの材料である石英は温度上昇によって屈折率が上昇し、これを熱光学効果という。グレーティングで反射する光の波長は数式(1)で示したように、実効屈折率Neffに比例するため、ファイバグレーティングの温度を制御することで反射する波長を制御することができる。反射する波長の変化の割合は約10pm/℃である。
【0028】
なお、図4に示すように、ファイバグレーティング2のグレーティングを形成した部分に接着剤6を設けない場合であっても、接着前と接着後ではグレーティングの反射特性は僅かに変化する。反射特性の急峻さには変化がないが、反射特性が全体的に長波長側にシフトしている。これは接着剤硬化によるグレーティングピッチの乱れは生じないが、グレーティングの両端で張力が生じ、グレーティングピッチが均一の割合で伸びたためである。このように接着の前後では僅かに波長が変化し、これを精度よく制御するには高度な製造技術を要する。また反射波長に高い精度が要求される場合には、歩留まりを著しく悪くする恐れがある。そこで、本実施の形態のようにグレーティングフィルタの一部に薄膜ヒータなどの温度制御手段を設け、ファイバグレーティング2の温度制御を行うことで反射波長を制御することができる。これによって接着後に変化する反射特性を補償することができる。
【0029】
また、ファイバグレーティングを作製するときに予め短めの反射波長となるように作製をしておいてもよい。このファイバグレーティングを第1及び第2基板4、5の間に固定して、グレーティングフィルタ1を作製した後に、薄膜ヒータ15に供給する電力を調整して、反射波長を要求する波長に調整すればよい。また反射波長はグレーティングフィルタを使用する環境の温度によっても変化するので、グレーティングフィルタを光変調器の入出力端に接続して往復逓倍光変調器を構成したときにも問題となる。そこで、環境温度が変化した場合には、薄膜ヒータ15によってファイバグレーティング2のグレーティングの温度が常に一定になるように制御することによって、反射波長を一定に保つことができる。さらに、グレーティングの温度を調整して、往復逓倍光変調器の光出力強度などの特性が最も良くなるように調整することもできる。
【0030】
なお、薄膜ヒータ15は第2石英基板5のファイバグレーティングに接する面に設けたが、第2石英基板5の上面や第1石英基板4の下面などに設けて、グレーティングフィルタ全体の温度を制御することもできるが、図10に示すようにファイバグレーティング2と接する面に設けた方が、薄膜ヒータの消費電量を小さく抑えられるので好適である。
【0031】
なお、本実施の形態においては、基板に石英基板を用いたが、これに限るものではなく、アルミナなど他の材料からなる絶縁体基板や、ポリイミドなどの樹脂基板を用いてもよい。また薄膜ヒータと基板との間に絶縁層を設けることで、金属基板や半導体基板など導電性基板を用いることも可能である。
【0032】
実施の形態3.
本発明の実施の形態に係るグレーティングフィルタについて図12及び図13を用いて説明する。実施の形態2ではグレーティングフィルタに一つの薄膜ヒータを設けていたが、本実施の形態では複数の薄膜ヒータ15、15、・・・15を設け、ファイバグレーティングの温度勾配を制御するものである。複数の薄膜ヒータ15、15、・・・15を設けることによってファイバグレーティング2の温度勾配を制御して、グレーティングのチャープ量を制御できる。これによって形成されるチャープグレーティングによって光信号の位相を調整して光出力を制御できる。
【0033】
図12は、このグレーティングフィルタ1の斜視図である。また、図13はグレーティングフィルタの構成を示すための分解斜視図である。本実施の形態ではファイバグレーティング2と接する面に複数の、すなわちN個の薄膜ヒータ15,15,・・・,15が設けられている。第2石英基板5は、V字溝3を形成した第1石英基板4よりも両側に幅が広くなっており、この幅が広くなった部分にN個の薄膜ヒータそれぞれに給電する電極16a,16a,・・・,16aと、N個の電極に共通な電極16bが設けられている。なお、接着剤6や伝熱性シリコーンゴム17など他の構成要素は実施の形態2と同一である。
【0034】
次に、このグレーティングフィルタ1の動作について説明する。図示されていない電源からN個の薄膜ヒータ15,15,・・・,15にそれぞれ個々に電力が制御されて印加される。個々の薄膜ヒータ15,15,・・・,15に供給する電力をファイバグレーティング2に沿って一次関数的に増加または減少するように電力を供給することによって、ファイバグレーティング2のグレーティング部分には直線的な温度勾配が印加され、個々の薄膜ヒータの電力を制御することによって、温度勾配を制御することができる。実施の形態2で述べたように光ファイバの屈折率は熱光学効果により屈折率を制御することができるので、上記のように温度勾配を設けることで等価屈折率を変化させ、グレーティングで反射する光の波長を制御することができる。本実施の形態に示すようにファイバグレーティング2のグレーティング部に直線的な温度勾配を印加することで、波長によってグレーティングの異なる位置で反射させることができる。例えば、図12で光学研磨面11の方向から光を入射するとして考える。個々の薄膜ヒータによってファイバグレーティング2のグレーティング部に、光学研磨面11側の方が温度が高く、光ファイバケーブル7の被覆部側の方が温度が低くなるような温度勾配を印加すると、グレーティングの屈折率は光学研磨面11に近い方で大きくなり、光学研磨面11から遠ざかるに従い小さくなる。この結果、光学研磨面11に近い方では波長の長い光が反射し、遠い方では波長の短い光が反射する。一方、逆向きの温度勾配を印加した場合は、光学研磨面11に近い方では波長の短い光が反射し、遠い方では波長の長い光が反射する。すなわち温度勾配を制御することによってグレーティングにチャープ特性を持たせることができる。なお、この温度勾配によってグレーティングのチャープを制御する技術については、光通信で用いられる可変分散補償器に使用されており、例えば特開2002−196159号公報に詳細に記されている。このようにグレーティングのチャープ特性を制御することにより、往復逓倍光変調時に生じた分散を補償することができるため、効率を低下させることなく往復逓倍光変調が行える。
【0035】
なお、グレーティングにはグレーティングピッチがグレーティング全域に渡って一定なユニフォームグレーティングについて示したが、ユニフォームグレーティングに代えてチャープグレーティングを用いてもよい。
【0036】
また、複数の薄膜ヒータは、図14に示すように第1石英基板4または第2石英基板5の外側のグレーティングの両端に設けてもよい。この場合、2個の薄膜ヒータ15、15を制御して、第2石英基板5全体に温度勾配を印加することができ、これによってファイバグレーティングにも温度勾配を印加することができる。この場合、第2石英基板5全体を加熱するため消費電力が大きくなるが、薄膜ヒータの数が少なく構造と制御が簡便になるため低コスト化には優れている。
【0037】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法について図15から図20を用いて説明する。図15から図20は、このグレーティングフィルタの製造方法の各工程を示す概略図である。このグレーティングフィルタの作製方法では、まず光ファイバの一端を第1及び第2石英基板4、5の間に挟んで固定し、その後、光ファイバの端面の近傍にグレーティングを形成する。上記実施の形態1に示すように、先にファイバグレーティングを作製して、その後、該ファイバグレーティングを第1及び第2基板4、5の間に挟んで固定して作製してもよいが、本実施の形態に示すように光ファイバを基板内に配置してからグレーティングを形成することにより、グレーティングを精度よく作製することができ、生産性を向上させることができる。なお各部材のサイズなどの詳細は実施の形態1で示したものと同一である。
【0038】
以下に、このグレーティングフィルタ1の製造方法の各工程について説明する。
(a)まず、図15に示すように、光ファイバケーブル7の一部の被覆を除去した被覆除去光ファイバ部8を、V字溝3を形成した第1石英基板4のV字溝3内に設置する。被覆除去光ファイバ部はV字溝3の長さよりも長く、図15あるいは図16に示すように、V字溝3からはみ出すように配置する。なお、V字溝3はU字溝または他の形状の溝であってもよいが、高精度なグレーティングを形成するにはV字溝が最適である。第1石英基板4は実施の形態1で述べたように、基板の一端に厚みを薄く削った固定部9を有する。
(b)この固定部9に光ファイバケーブル7の被覆がある部分と被覆を除去した部分の境界がくるように配置する。
(c)次にV字溝3内の被覆除去光ファイバ部のグレーティングを形成する部分の両端外側と、第1石英基板4のV字溝3を形成した面のV字溝3以外の場所に固定用の接着剤6を塗布する。
(d)その後、第2石英基板5を第1石英基板4のV字溝3を形成した面の上に配置し、接着剤の硬化処理を行って、グレーティングを形成する部分の両端を第1及び第2石英基板4、5の間に挟んで固定する。
【0039】
ここで、接着剤6は熱硬化型のものであっても紫外線硬化型のものであっても自然硬化型のものであってもよい。なお、PLCの光コネクタなどの作製にもっともよく用いられている紫外線硬化型のものが、信頼性が高く最も好ましい。また、接着剤6はV字溝3内に流れ込まないようにするため、V字溝3のすぐ近くまで塗布する必要はない。なお、固定方法は接着剤に限らず、被覆除去光ファイバ部8に第2石英基板5を介して紫外線レーザ光を照射できる構成であれば、ネジ止めなど他の方法であってもよい。またこのあと第2石英基板5を介して紫外線レーザ光の干渉縞を照射してグレーティングを形成するので、第2石英基板5の厚みは1mm以下がよく、好ましくは0.1〜0.3mm程度が望ましい。
【0040】
このようにして第1石英基板4と第2石英基板5と光ファイバケーブル7を固定し、最後に固定部9に光ファイバケーブル7を固定用接着剤10で固定する。図16は、このようにして組みあがった状態である。固定部9と反対側の端面には光学研磨していない端面18があり、被覆を除去した光ファイバの一部がはみ出している。その後、このはみ出した部分の光ファイバを切断し、端面18を光学研磨して光学研磨面11を形成する。この光学研磨面11は、第1及び第2石英基板4、5の端面と光ファイバの端面とが略同一面を構成している。この状態を図17に示す。なお、光学研磨工程は次のグレーティング形成プロセスを行った後に行っても構わない。
【0041】
次に、被覆除去光ファイバ部8にグレーティング形成を行う。なお、グレーティング形成方法については、例えば、特開2002−196158号公報に記されている。また、一般にグレーティングを形成する場合、光ファイバを100気圧程度の高圧の水素または重水素内に数日間放置する高圧水素処理を行うが、高圧水素処理は、図15で組み立てる前の光ファイバケーブルの状態で行っても、図16あるいは図17のように光ファイバと基板を固定した状態で行ってもどちらでもよい。
【0042】
図18及び図19は、被覆除去光ファイバ部8にグレーティングを形成するプロセスを示したものである。図のように位相マスク19を介して紫外レーザ光を照射すると、位相マスク18によって紫外レーザ光は±1次の方向に回折される。この回折された紫外レーザ光は被覆除去光ファイバ部8のコア内に干渉縞を生じ、干渉縞の分布に従ってコアの屈折率が変化し、グレーティングが形成される。紫外レーザ光には、KrFエキシマレーザ(波長248nm)やNd:YAGレーザの第4高調波(波長266nm)、Arイオンレーザの第2高調波(波長244nm)などが使用される。紫外レーザ光をグレーティングを形成する部分に一括して照射してもよいが、往復逓倍光変調器では反射特性が急峻なグレーティングフィルタが必要とされるので、通常ビーム径2mm以下、好ましくは1mm以下の紫外レーザ光を被覆除去光ファイバ部8の長手方向に沿って所定の照射量分布となるように走査しながら照射することが好ましい。このようにして所望のグレーティングを形成すると、図20に示すようにグレーティングフィルタ1が完成する。
【0043】
本実施の形態で示したグレーティングフィルタの製造方法は、光ファイバを基板内に固定してから、グレーティングを形成するため、この基板がぴったり収まる治具を用いてグレーティング形成を行うことにより、グレーティングの位置を高精度に形成することができ、安定に特性の揃ったグレーティングフィルタを量産できる利点がある。
【0044】
なお、本実施の形態では石英基板のみを用いたが、V字溝を形成する基板に熱伝導性のよい基板を用いることで、紫外レーザ光照射による光ファイバの局所的な温度上昇を抑えることができる。その結果、局所的な熱膨張を抑えることができ高精度なグレーティングフィルタを作製することができる。このような基板としては金属基板や半導体基板を用いてもよく、また窒化アルミニウムなどは絶縁体であるが高い熱伝導率を有するので好適な基板材質である。
【0045】
実施の形態5.
本発明の実施の形態に係るグレーティングフィルタ21aおよび往復逓倍光変調器30について図21から図28を用いて説明する。実施の形態1の往復逓倍光変調器では入力側および出力側の第1及び第2グレーティングフィルタ1a、1bに特定の波長の光を反射する帯域制限フィルタを用いた場合について示したが、本実施の形態では、図21に示すように、入力側の第1グレーティングフィルタ21aに特定の波長を透過する狭帯域通過フィルタを用いる場合について説明する。なお、グレーティングフィルタの構造は上記実施の形態に示した図1、図2あるいは図8、図9に示した構造であるが、上記実施の形態とはファイバグレーティングが異なる。また図10に示すような薄膜ヒーターを設け、温度制御によりファイバグレーティングの反射、透過波長を制御するものであってもよい。
【0046】
図22は、本実施の形態の入力側の第1グレーティングフィルタ21aに用いるファイバグレーティングのグレーティングの模式図を示したものである。ファイバグレーティングは光ファイバのコアに約535nmの周期で屈折率変調を形成したものである。上記実施の形態1に用いたファイバグレーティングでは、図23に示すように屈折率変調の周期がグレーティングの全長に渡って規則的に変化している。一方、本実施の形態の入力側の第1グレーティングフィルタ21aに用いる狭帯域通過ファイバグレーティングでは、図22に示すように、グレーティングのほぼ中心で屈折率変調の位相が90°ずれている。言い換えれば、グレーティングの中心でグレーティングピッチが1/4ピッチ(グレーティングピッチ535nmの場合、約134nm)ずれている。なお、位相ずれの角度は90°であっても270°であっても同じであり、一般的に記述すれば、(90°+180°×n)ずれていればよい。また、90°丁度の位相ずれが理想であるが、実質的には90°±30°程度であれば十分である。このようなファイバグレーティングは、位相マスクのピッチが丁度グレーティングの中心でずれた位相マスクを用いて作製することができるが、通常のファイバグレーティング作製に用いられる位相ずれがない位相マスクを用いても作製することができる。
【0047】
図24から図26は、位相ずれのない位相マスクを用いて略中点で90°±30°の位相ずれを有するグレーティングを形成する各工程を示す概略図である。
(a)まず、図24に示すように、位相マスクを光ファイバに近接させて設置する。
(b)次いで、紫外レーザ光を光ファイバの光軸方向に沿って照射範囲の全長の半分まで照射して、半分までグレーティングを形成する。
(c)その後、図25に示すように、位相マスクを光軸方向に沿って少しずらす。このとき丁度位相ずれが90°となるように位相マスクをずらすことは、僅か100nmのずれを制御する必要があるので困難である。そのため実質的には適当にずらせばよい。
(d)その後、図26に示すように、照射範囲の残りの半分に紫外レーザ光を照射して残り半分にもグレーティングを形成する。位相マスクを適当にずらすことによって、作製される位相ずれの角度は確率によって決まる。位相ずれの許容範囲を90°±30°とすると、1/3の確率で製造することができる。
【0048】
図27は、グレーティング長を5mmとして、2.5mmの位置でグレーティングピッチの位相ずれを作製したファイバグレーティングの特性を示したものであり、図28は、中心波長付近の拡大図を示したものである。図28から分かるように、グレーティングの中心で位相ずれを形成したファイバグレーティングでは、狭帯域の透過特性が得られる。作製したグレーティングでは全値半値幅(FWHM)で2.5GHzの通過帯域幅が得られ、透過損失は1.9dBであった。また図27の反射特性から分かるように、反射率90%以上の帯域幅は0.527nmが得られ、反射帯域幅のほぼ中心で反射率が低下する特性が得られた。このように反射帯域幅のほぼ中心で反射率が低下していることから、位相ずれは90°に極めて近いことが分かる。位相ずれが90°以下の場合は、反射率が低下する位置が、反射帯域幅の短波長側にずれ、90°より大きい場合は長波長側にずれる。反射率が低下する波長が反射帯域幅の中心波長から長短波側にずれても、その両側に反射率90%以上の波長範囲が十分存在すれば、入力側の第1グレーティングフィルタ21aとして使用できる。反射率90%以上の波長範囲は実用上0.15nm以上存在すればよく、0.15nm以上得られる位相ずれの範囲が90°±30°である。また図28の透過特性では透過損失が1.9dBとなっている。透過損失は2dB以下であれば十分であるが、小さい方が良いことは言うまでもない。この原因は、作製したグレーティングでは、位相ずれの位置がグレーティングの真の中心ではなく、いずれか一方にずれているためである。このずれが大きくなるほど、透過損失が増大し、また、透過帯域の全値半値幅が広がる。良好な往復逓倍光変調器を得るためには、全値半値幅は3GHz以下が望ましい。透過損失が2dB以下で、全値半値幅5GHzを実現するためには、位相ずれの位置はグレーティングの中心から±10%の位置に作製する必要がある。なお、ここで言う10%とはグレーティング全長に対するパーセントで、例えば、5mmの場合は±0.5mmである。
【0049】
次にこのような狭帯域透過特性を持つグレーティングフィルタ21aを入力側に用いた往復逓倍光変調器30の動作原理について、図21を用いて説明する。出力側グレーティングフィルタ1bは実施の形態1で示したものと同一である。往復逓倍光変調器30の構造は図5と同様であり、入力側の第1グレーティングフィルタ21aが狭帯域透過グレーティングフィルタである点で相違する。図21は、本実施の形態の往復逓倍光変調器30の動作原理について示したものである。
(1)LN変調器12の光信号入力端に設けたグレーティングフィルタ21aは狭帯域透過フィルタであるため、光周波数fの無変調光を光源からLN変調器12へと透過するが、その両側の波長の光は反射する。
(2)LN変調器12の光信号出力端に設けた第2グレーティングフィルタ1bは実施の形態1と同様、特定の波長帯域内の光は反射するが、出力光として得たい光周波数成分の光は透過する。
(3)光周波数fの無変調光がLN変調器12で位相変調される。
(4)そこで、生成された両側の側波帯は出力側の第2グレーティングフィルタ1bで反射され、LN変調器12で変調され、それぞれの成分に対し側波帯が生成される。
(5)その後、入力側の第1グレーティングフィルタ21aでは、光周波数f以外の光が反射され、再度、LN変調器12に入力される。このように、実施の形態1同様、2つのグレーティングフィルタの間を中間成分が往復して、複数回、変調される。
(6)入力側及び出力側グレーティングフィルタで光周波数成分f−n、・・・、f−2、f−1、f、f、・・・、fの光を反射するようにグレーティングフィルタの反射帯域幅が設定されているため、光周波数成分f(n−1)、f(n+1)を出力として得ることができる。
【0050】
図21は光周波数成分f−5、fを生成する場合を例としてあげており、LN変調器12の変調周波数fに対し10倍の変調周波数10fの光出力が得られる。すなわち本実施の形態に示した往復逓倍光変調器では、実施の形態1と同一の往復回数で、2倍の変調周波数が得られる。すなわち低い変調周波数の電気信号で、より高い変調周波数の光信号が得られる。さらに、往復回数が増加すると、グレーティングフィルタやLN変調器12での損失により光出力が低下するため、往復回数を実施の形態1の半分としてもよく、大きい光出力が得られる。
【0051】
実施の形態6.
本実施の形態6に係る往復逓倍光変調器40について図29から図32を用いて説明する。上記実施の形態5では入力側の第1グレーティングフィルタにのみ狭帯域透過フィルタ21aを用いたが、本実施の形態では、出力側にも狭帯域グレーティングフィルタ21bを用いた往復逓倍光変調器40について図29を用いて説明する。往復逓倍光変調器40の構造は図5に示したものと同様であり、ファイバグレーティングの特性のみが異なる。入力側の第1グレーティングフィルタ21aは実施の形態5と同一である。
【0052】
出力側の第2グレーティングフィルタ21bに狭帯域透過フィルタを用いる場合は、入力側と異なり、2つの波長の光を透過させる必要がある。これはグレーティングの位相ずれを2箇所設けることで作製することができる。図30は、グレーティング長が15mmのチャープファイバグレーティングの5〜10mmの範囲が、0〜5mm及び10〜15mmの部分とは位相が90°ずれている場合のグレーティングの特性をシミュレーションにより計算した図である。図31は、その拡大図である。このような2箇所の位相ずれを有するファイバグレーティングは、チャープ位相マスクを用いて、まず0〜5mmおよび10〜15mmの範囲に第1グレーティング部を作製し、その後、チャープ位相マスクを適当にずらして、5〜10mmの範囲に第1グレーティング部とは位相ずれを有する第2グレーティング部を作製することで実現できる。その製造工程は実施の形態5で示したファイバグレーティングの製造工程を利用できる。グレーティングとしては、グレーティングピッチが一定のユニフォームグレーティングやチャープグレーティングを用いることができる。なお、グレーティングをチャープファイバグレーティングとすることによって、ユニフォームグレーティングの場合に比べて、透過させる2つの波長間隔をより広くすることができる。また、チャープ率を制御することにより波長間隔を任意に設計することができる。
【0053】
次に、この往復逓倍光変調器の動作原理について図29を用いて説明する。図から分かるように動作原理は実施の形態5とほぼ同一であり、光周波数成分f(n−1)、f(n+1)の光のみが、出力側グレーティングフィルタ21bを透過し、出力光として得られる。このように出力光のみを取り出し、その他の光は全て遮断されるため、ノイズ光が小さい往復逓倍光変調器が得られる。
【0054】
出力側グレーティングフィルタ21bに狭帯域透過フィルタを用いる場合、その透過帯域が狭帯域であるため、2つの透過光の波長間隔精度が重要となり、この間隔を調整可能なことが望ましい。これは図12及び図13あるいは図14に示すようなチャープファイバグレーティングに温度勾配を印加することができる構造とすることで実現できる。図32は、図30、31で示したグレーティングフィルタに−20℃〜+20℃の温度勾配を印加した場合の透過特性の変化を示したものである。なお、ここでいうマイナスの温度勾配とは、チャープファイバグレーティングのチャープ率を小さくする向きの温度勾配を言い、プラスの温度勾配はチャープ率を大きくする向きの温度勾配を言う。図32から分かるように温度勾配を制御することにより、2つの透過波長間隔を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1に係るグレーティングフィルタの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るグレーティングフィルタの構成を示す分解斜視図である。
【図3】グレーティング部に接着剤を設けた場合の接着前と接着後の反射特性の変化を示す図である。
【図4】グレーティング部に接着剤を設けない場合の接着前と接着後の反射特性の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る往復逓倍光変調器の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る往復逓倍光変調器の動作原理を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る往復逓倍光変調器の光出力の時間変化を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係るグレーティングフィルタの別例を示す斜視図である。
【図9】図8のグレーティングフィルタの分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係るグレーティングフィルタの構成を示す斜視図である。
【図11】図10のグレーティングフィルタの構成を示す分解斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係るグレーティングフィルタの構成を示す斜視図である。
【図13】図12のグレーティングフィルタの構成を示す分解斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態3に係るグレーティングフィルタの別例を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図18】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図19】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図20】本発明の実施の形態4に係るグレーティングフィルタの製造方法の一工程を示す斜視図である。
【図21】本発明の実施の形態5に係る往復逓倍光変調器の動作原理を示す概略図である。
【図22】グレーティングの全長の略中点で屈折率変調の位相が90°ずれているグレーティングの屈折率変調を示す図である。
【図23】グレーティングの全長にわたってグレーティングピッチが一定であって位相ずれを有しないグレーティングの屈折率変調を示す図である。
【図24】本発明の実施の形態5に係るグレーティングフィルタの製造工程の一工程を示す概略図である。
【図25】本発明の実施の形態5に係るグレーティングフィルタの製造工程の一工程を示す概略図である。
【図26】本発明の実施の形態5に係るグレーティングフィルタの製造工程の一工程を示す概略図である。
【図27】本発明の実施の形態5に係るグレーティングフィルタの特性を示す図である。
【図28】図27の拡大図である。
【図29】本発明の実施の形態6に係る往復逓倍光変調器の動作原理を示す概略図である。
【図30】本発明の実施の形態6に係るグレーティングフィルタの特性を示す図である。
【図31】図30の拡大図である。
【図32】本発明の実施の形態6に係るグレーティングフィルタに−20℃〜+20℃の温度勾配を加えた場合の透過特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1、1a、1b グレーティングフィルタ、2 ファイバグレーティング、3 V字溝、4 第1石英基板、5 第2石英基板、6 接着剤、7 光ファイバケーブル、8 被覆除去光ファイバ部、9 固定部、10 固定用接着剤、11 光学研磨面、12 光変調器、13a、13b 変調電極、14 電気信号源、15 薄膜ヒータ、16a、16b 電極、17 伝熱性シリコーンゴム、18 端面、19 位相マスク、20、30、40 往復逓倍光変調器、21a 第1グレーティングフィルタ、21b 第2グレーティングフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光変調器と、
前記光変調器の入力端に光軸を合せて接続されており、第1波長範囲の光を透過させる第1グレーティングフィルタと、
前記光変調器の出力端に光軸を合せて接続されており、前記第1波長範囲を全て含む第2波長範囲の光を反射する第2グレーティングフィルタと
を備え、
前記第1及び第2グレーティングフィルタは、前記光変調器の入出力端との接続部の近傍にグレーティングが設けられていることを特徴とする往復逓倍光変調器。
【請求項2】
光変調器と、
前記光変調器の入力端に光軸を合せて接続されており、第1波長範囲の光を透過させる第1グレーティングフィルタと、
前記光変調器の出力端に光軸を合せて接続されており、前記第1波長範囲とは重ならない前記第1波長範囲より長波長側の第2波長範囲の光と、前記第1波長範囲とは重ならない前記第1波長範囲より短波長側の第3波長範囲の光とを透過させる第2グレーティングフィルタと
を備え、
前記第1及び第2グレーティングフィルタは、前記光変調器の入出力端との接続部の近傍にグレーティングが設けられていることを特徴とする往復逓倍光変調器。
【請求項3】
前記第1グレーティングフィルタは、グレーティングの長手方向の略中点において、グレーティングピッチの位相が変化することを特徴とする請求項1又は2に記載の往復逓倍光変調器。
【請求項4】
前記第1グレーティングフィルタの前記中点における前記位相の変化は{(90°+180°×n)±30°}(ここで、nは整数)であることを特徴とする請求項3に記載の往復逓倍光変調器。
【請求項5】
前記第1グレーティングフィルタのグレーティングは、グレーティングピッチが線形に変化するチャープグレーティングであって、
前記チャープグレーティングの長手方向に沿った異なる2箇所でグレーティングピッチの位相が、{(90°+180°×n)±30°}(ここで、nは整数)で変化することを特徴とする請求項2に記載の往復逓倍光変調器。
【請求項6】
前記第1グレーティングフィルタ又は前記第2グレーティングフィルタの少なくとも一方に温度勾配制御手段をさらに備え、
前記温度勾配制御手段により前記第1又は第2グレーティングフィルタのグレーティングの温度勾配を制御することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の往復逓倍光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2008−90318(P2008−90318A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290766(P2007−290766)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【分割の表示】特願2003−329628(P2003−329628)の分割
【原出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】