説明

微多孔膜、かかる膜の製造方法、およびバッテリーセパレーターフィルムとしてのかかる膜の使用

本発明は、ポリマーを含み、かつ透気度、シャットダウン温度、および突刺強度のバランスの良い微多孔膜に関する。本発明は、かかる膜の製造方法、およびリチウムイオン二次電池等におけるバッテリーセパレーターフィルムとしてのかかる膜の使用にも関する。膜は、130.5℃未満のシャットダウン温度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年5月11日出願の米国特許仮出願第61/177,060号および2009年6月25日出願の欧州特許出願公開第091636985号;2009年3月30日出願の米国特許仮出願第61/164,824号および2009年5月25日出願の欧州特許出願公開第091609644号;2009年3月30日出願の米国特許仮出願第61/164,817号および2009年5月25日出願の欧州特許出願公開第091609651号;2009年3月30日出願の米国特許仮出願第61/164,833号および2009年5月25日出願の欧州特許出願公開第091609669号;2009年3月30日出願の米国特許仮出願第61/164,827号および2009年5月25日出願の欧州特許出願公開第091609677号;2009年6月24日出願の米国特許仮出願第61/220,094号および2009年8月19日出願の欧州特許出願公開第091681940号の優先権を主張し、それぞれの内容を全体として参照により組み入れるものとする。
【0002】
本発明は、ポリマーを含み、かつ透気度、シャットダウン温度、および突刺強度のバランスの良い微多孔膜に関する。本発明は、かかる膜の製造方法、およびリチウムイオン二次電池等におけるバッテリーセパレーターフィルムとしてのかかる膜の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
微多孔性ポリオレフィン膜は、一次電池および二次電池用のセパレーターとして有用である。このような電池としては、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池、銀亜鉛電池等が挙げられる。微多孔性ポリオレフィン膜をリチウムイオン電池用のセパレーターとして使用する場合、膜の特性が電池の性能に大きく影響する。特に、微多孔膜の透気度、機械的特性、シャットダウン特性、メルトダウン特性等は、通常は生産性および安全性に影響する。
【0004】
電池は、比較的低いシャットダウン温度および比較的高いメルトダウン温度を有することが望ましく、通常はそれによって電池の安全性が向上するが、保管および/または使用中に比較的高い温度にさらされる大容量電池に関しては特にそうである。高いセパレーター透気度は、大きな電池容量にとって望ましい。セパレーター強度の向上が電池の組立て効率および製作効率の向上をもたらし得るため、比較的高い機械的強度を有するセパレーターが望ましい。
【0005】
通常は、ポリエチレンのみを含有する微多孔膜は、比較的低い約150℃のメルトダウン温度および約140℃のシャットダウン温度を有し、一方ポリプロピレンのみを含有する微多孔膜は、比較的高い約155℃のシャットダウン温度および約165〜約170℃のメルトダウン温度を有する。さらに、微多孔膜は、ポリエチレンとポリプロピレンの両方を含むものが提唱されてきた。
【0006】
特開1999−269289号公報(特許文献1)および同2002−338730号公報(特許文献2)は、膜の特性を向上させるための、膜の製造に用いるポリマーの最適化について開示している。これらの文献には、シングルサイト触媒で製造するポリエチレンを用いて膜のシャットダウン温度を改善することが開示されている。文献に開示されている膜は、シャットダウン温度は比較的低いが、透気度もまた比較的低い。
【0007】
特開2003−231772号公報(特許文献3)には、100,000〜5,000,000のMvを有するポリエチレンコポリマーを含む微多孔膜が開示されている。膜は、透気度および強度は向上しているが、膜のシャットダウン温度は137℃超である。また特開2005−225919号公報(特許文献4)には、電池の寿命を伸ばすためにメタロセン触媒で製造されるポリエチレンを含む微多孔性ポリオレフィン膜が開示されている。
【0008】
国際公開WO07/52663号(特許文献5)には、特定の融解特性を有するポリオレフィン組成物を含む微多孔膜が開示されている。この微多孔性ポリオレフィン膜は、透気度は比較的高いがシャットダウン温度もまた比較的高い。
【特許文献1】特開1999−269289号公報
【特許文献2】特開2002−338730号公報
【特許文献3】特開2003−231772号公報
【特許文献4】特開2005−225919号公報
【特許文献5】国際公開WO07/52663号
【0009】
改善はされてきているが、比較的低いシャットダウン温度および比較的高い透気度および高い強度を有する膜が望まれている。
【発明の概要】
【0010】
ある実施形態においては、本発明は、1.0質量%以上の130.0℃以下のT80(以下で定義する)、100.0℃以上のT25(以下で定義する)、および25.0℃以下のT80−T25を有する第1のポリオレフィンを含む微多孔膜に関する。質量%は、膜の質量が基準である。所望により、膜は、130.5℃以下のシャットダウン温度を有する。
【0011】
別の実施形態においては、本発明は、
(1)希釈剤と、1.0質量%〜20.0質量%の130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25を有し、T80−T25≦25℃である第1のポリエチレンを含むポリマーとの混合物を押し出す工程;
(2)押出物を少なくとも1つの平面方向に延伸する工程;および
(3)希釈剤の少なくとも一部を延伸押出物から除去する工程
を含む微多孔膜の製造方法に関する。
【0012】
別の実施形態においては、本発明は、前述のプロセスで製造される微多孔膜に関する。
【0013】
別の実施形態においては、本発明は、電解質と、負極と、正極と、負極と正極の間に位置するセパレーターとを含む電池であって、セパレーターが、前述のいずれかの実施形態の微多孔膜を含む、電池に関する。
【0014】
さらに別の実施形態においては、本発明は、例えば電気自動車、ハイブリッド電気自動車、電動工具、コンピューター、携帯電話、家庭用電化製品等における電源としてのかかる電池の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ポリオレフィンに関しての代表的な融解分布(DSC)を示す図である。
【0016】
【図2】融解分布のT80温度を示す図である。
【0017】
【図3】融解分布のT25温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、透気度、シャットダウン温度、および耐熱収縮性のバランスが向上した微多孔膜に関する。微多孔フィルムが例えば130.0℃以下といった比較的低い融解ピーク(「T」)を有するポリマーを含むと、膜中のポリマーの量が増加するにつれて、膜のシャットダウン温度が低下し、膜の透気度が上昇する。十分に低いシャットダウン温度を有する先行技術による膜は、望ましくないほどに低い透気度および/または望ましくないほどに大きい熱収縮もまた有する。この難点は、比較的低いTmおよび比較的狭い融解分布を有するポリマー選択することによって克服できることがわかっている。そのようなポリマーを含有する微多孔膜は、130℃以下のシャットダウン温度、50%の膜空孔率における150gf/20μm以上の標準化突刺強度、6×10秒/100cm/20μm以下の標準化透気度、および10%以下の少なくとも1つの平面方向への105℃熱収縮を有する。
[1]微多孔性ポリオレフィン膜の製造に用いる材料の組成
【0019】
ある実施形態においては、微多孔性ポリオレフィン膜は、ポリマーと希釈剤との混合物を押し出すことにより作製される。希釈剤はポリマー用の溶媒であってもよい。ポリマーが希釈剤に可溶であるか、または希釈剤と混和する場合、このポリマー−希釈剤混合物はポリマー溶液と呼ぶことができる。ポリマーがポリオレフィンであり希釈剤が流動パラフィンである場合、この混合物はポリオレフィン溶液と呼ぶことができる。ポリマーがポリマーの組合せ、例えばポリオレフィンの組合せである場合、ポリマー混合物、例えばポリオレフィン混合物と呼ぶことができる。ポリマーは、例えば個々のポリマー成分の混合物または反応器ブレンドであってもよい。ある実施形態においては、膜は、希釈剤およびポリオレフィンの混合物から製造され、ここでの希釈剤は、流動パラフィン等のポリオレフィン混合物用の溶媒である。以下、この実施形態において有用なポリオレフィンの例についてさらに詳細に説明する。本発明をこれらの実施形態に関して説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、これらの実施形態についての説明は、本発明のより広い範囲内の他の実施形態を除外することを意図するものではない。
(1)ポリエチレン樹脂(1種または複数)
【0020】
ある実施形態においては、微多孔膜の製造に用いるポリオレフィンは、ポリエチレンまたはポリエチレンの混合物を含む。ある実施形態においては、ポリエチレンは、(a)第1のポリエチレンおよび(b)第2のポリエチレン;第1のポリエチレン、第2のポリエチレン、および(c)第2のポリエチレンよりも分子量が低い第3のポリエチレン;または第1のポリエチレンおよび第3のポリエチレンを含む。混合したポリエチレンの質量平均分子量(「Mw」)は決定的な要因ではないが、例えば約1×10〜約1×10、約1×10〜約5×10、または約2×10〜約3×10の範囲であってもよい。ある実施形態においては、微多孔膜の製造に用いるポリマーは、膜の質量を基準として50質量%以上のポリエチレンを含む。別の実施形態においては、微多孔膜の製造に用いるポリマーは、本質的にポリエチレン(ポリエチレンコポリマーを含む)からなる。さらに別の実施形態においては、微多孔膜の製造に用いるポリマーは、ポリエチレンからなる(すなわち、ポリマーは、ポリエチレンまたはポリエチレンコポリマーのみを含有する)。
【0021】
ある実施形態においては、微多孔膜は、膜の質量を基準として50質量%以上のポリエチレンを含む。微多孔膜の製造に用いるポリエチレンは、エチレン繰り返し単位を含有するポリオレフィン(ホモポリマーまたはコポリマー)を含んでもよい。所望によりポリエチレンは、ポリエチレンホモポリマー、および/または繰返し単位の少なくとも85%(個数基準)がエチレン単位であるポリエチレンコポリマーを含む。
(a)第1のポリエチレン
【0022】
第1のポリエチレンは、130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25、および25.0℃以下のT80−T25を有するエチレン系ポリオレフィンホモポリマーまたはコポリマーを含む。
【0023】
80およびT25温度は、ポリマーの構造および組成に由来するポリマーの性質である。例えばT80およびT25に影響する要因のいくつかとして、分子量、分子量分布、分岐比、分岐鎖の分子量、コモノマーの量(もしあるとすれば)、ポリマー鎖に沿ったコモノマー分布、ポリエチレン中のポリエチレン結晶の大きさおよび分布、ならびに結晶格子の規則性が挙げられる。所望によりT80は、例えば約120.0℃〜約126.0℃といった、120.0℃〜129.0℃の範囲である。T80が130.0℃超であると、同時に膜の透気度を低下させることなく膜のシャットダウン温度を低下させることがより困難である。T25が100.0℃未満であると、バッテリーセパレーターフィルムとしての使用に十分な強度を有する膜を製造することがより困難である。
【0024】
所望により第1のポリエチレンは、例えば120.0℃〜128.0℃、例えば120.0℃〜126.0℃、または121.0℃〜124.0℃、または122.0℃〜126.0℃の範囲といった、120.0℃〜129.0℃の範囲のTmを有する。Tmが115℃以下であると、同時に膜透気度を低下させることなく熱的に安定な膜(例えば熱収縮が小さいもの)を製造することがより困難である。通常は、熱的に安定な膜の製造には115℃超の熱処理温度(例えば熱固定温度)が用いられ、熱固定温度がポリマーのTm以上であると膜透気度が低下する。
【0025】
ポリエチレン融解熱(ΔHm)およびTmは、JIS K7122に従って次のようにして測定する。第1のポリエチレンの試料を、210℃で溶融プレスされる厚さ0.5mmの成形物として調製し、次いで約25℃の温度にさらしながら約24時間保存する。次いで試料を、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製Pyris Diamond DSC)の試料ホルダーに入れ、窒素雰囲気中にて25℃の温度にさらす。次いで試料を、230℃の温度に達するまで10℃/分の速度で上昇する温度にさらす(第1の加熱サイクル)。試料を230℃の温度に1分間さらし、次いで30℃の温度に達するまで10℃/分の速度で低下する温度にさらす。試料を30℃の温度に1分間さらし、次いで230℃の温度に達するまで10℃/分の速度で上昇する温度にさらす(第2の加熱サイクル)。DSCによって、第2の加熱サイクル中に試料へと流れる熱の量が記録される。Tmは、30℃〜200℃の温度範囲内の、DSCによって記録される試料への熱流量が最大の時の温度である。ポリエチレンは、主ピークに隣接する副融解ピーク、および/または溶融終点転移(end-of-melt transition)を示すことがあるが、本明細書においては、そのような副融解ピークはまとめて一つのの融点と見なし、これらのピークの中で最も高いものをTmと見なす。図1に示すように、熱の量は、温度上昇の過程で得られるDSC曲線(融解吸熱曲線)と基準線とに囲まれた領域(ハッチングで示す)の面積Sから算出する。融解熱(ΔHm 単位:J/g)は、試料に供給される熱の総量(単位:J)を試料の質量(単位:g)で割ることにより得られる。T80は、図2に示す通り、温度軸に垂直な直線Lで境界をつけた低温側の領域(ハッチングで示す)の面積Sが面積Sの80%に達する時の温度と定義される。
【0026】
25もまた、T80の測定に使用したものと同じ条件下で測定した、ポリエチレンのDSC曲線から求める。図1〜3を参照されたい。T25は、温度軸に垂直な直線Lで境界をつけたDSC曲線の低温側の領域(ハッチングで示す)の面積Sが面積Sの25%に達する時の温度と定義される。
【0027】
ある実施形態においては、第1のポリエチレンは、例えば約1.0×10〜4.0×10、例えば約1.5×10〜約3.0×10、例えば約2.0×10〜約1.5×10の範囲といった、4.0×10以下のMwを有する。所望により第1のポリエチレンは、例えば約1〜約50、例えば約1〜約10、好ましくは1.5〜5.0の範囲といった、50以下の分子量分布(「MWD」:Mw/Mnと定義される)を有する。ある実施形態においては、第1のポリエチレンは、エチレンとαオレフィン等のコモノマーとのコポリマーを含む。コモノマーは、通常はエチレンの量と比べると比較的少量で存在する。例えばコモノマー量は、コポリマー100モル%を基準として通常は10モル%未満であり、例えば1.0%〜5.0モル%である。コモノマーは、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン、または他のモノマーの1つまたは複数であってもよい。かかるポリマーまたはコポリマーは、シングルサイト触媒等のいずれかの好適な触媒を用いて製造することができる。例えばポリマーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,084,534号に開示されている方法(例えば、当該特許の実施例27および41に開示されている方法)に従って製造することができる。
【0028】
ある実施形態においては、膜の製造に用いる第1のポリエチレンの量は、膜の製造に用いるポリマーの質量を基準として1.0質量%以上であり、例えば約1.0質量%〜約20.0%、約4.0質量%〜約17.0質量%、または8.0質量%〜13.0質量%である。
【0029】
ある実施形態においては、第1のポリエチレンのT80−T25の値は、例えば約5.0℃〜18.0℃の範囲といった、約20.0℃未満である。第1のポリエチレンのT80−T25の値が15.0℃以下であり、かつ第1のポリエチレンのMwが1.0×10以上であると、130.5℃未満のシャットダウン温度を有する膜を製造するためには、通常はより多くの量の第1のポリエチレンが必要となる(例えば膜中のポリマーの全質量を基準として10.0質量%以上、例えば10.0質量%〜30.0質量%の範囲)。
(b)第2のポリエチレン
【0030】
ある実施形態においては、第2のポリエチレンは、例えば1.1×10〜約5×10の範囲、例えば約1.2×10〜約3×10、例えば約2×10といった、1.0×10を超えるMwを有する。所望により第2のポリエチレンは、例えば約2.0〜100.0、例えば約4〜約20または約4.5〜約10.0といった、1.0×10以下のMWDを有する。例えば第2のポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン(「UHMWPE」)であってもよい。ある実施形態においては、第2のポリエチレンは、(i)エチレンホモポリマー、または(ii)エチレンと、コポリマー100モル%を基準として10モル%以下のコモノマーとのコポリマーの少なくとも1つである。コモノマーは、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン、または他のコモノマーの1つまたは複数であってもよい。
【0031】
第2のポリエチレンは、チーグラー・ナッタ重合触媒を用いるものを含むいずれかの都合のよい重合プロセスを用いて製造することができる。
【0032】
ある実施形態においては、第2のポリエチレンの量は、膜の製造に用いるポリマーの全質量を基準として99.0質量%以下である。例えば第2のポリエチレンの量は、例えば約1.0質量%〜約46.0質量%、例えば約7.0質量%〜約32.0質量%といった、0質量%〜74.0質量%の範囲であってもよい。
(c)第3のポリエチレン
【0033】
第3のポリエチレンは、132.0℃を超えるT80を有し、かつ例えば1.0×10〜9.0×10、例えば約4×10〜約8×10の範囲といった、1.0×10以下のMwを有する。所望により第3のポリエチレンは、例えば1〜約1.0×10、例えば約3〜約20の範囲といった、1.0×10以下のMWDを有する。例えば第3のポリエチレンは、高密度ポリエチレン(「HPDE」)、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、または直鎖状低密度ポリエチレンの1つまたは複数であってもよい。所望により第3のポリエチレンは、末端不飽和基を有する。例えば第3のポリエチレンは、例えば炭素原子10,000個当たり5.0以上、例えば炭素原子10,000個当たり10.0以上といった、炭素原子10,000個当たり0.20以上の末端不飽和基量を有してもよい。末端不飽和基量は、例えば国際公開第WO97/23554号に記載の手順に従って測定することができる。別の実施形態においては、第3のポリエチレンは、炭素原子10,000個当たり0.20未満の末端不飽和基量を有するHDPEである。
【0034】
ある実施形態においては、第3のポリエチレンは、(i)エチレンホモポリマー、または(ii)エチレンと、コポリマー100モル%を基準として10.0モル%以下のコモノマーとのコポリマーの少なくとも1つである。コモノマーは、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン、または他のコモノマーの1つまたは複数であってもよい。
【0035】
ある実施形態においては、第3のポリエチレンの量は、膜の製造に用いるポリマーの全質量を基準として、例えば25.0質量%〜99.0質量%、例えば50.0質量%〜95.0質量%、または60.0質量%〜85.0質量%の範囲といった、99質量%以下である。
【0036】
第3のポリエチレンは、シングルサイト重合触媒を含むいずれかの好適な触媒を用いて製造することができる。
(d)第1のポリエチレン、第2のポリエチレン、および第3のポリエチレン
【0037】
ある実施形態においては、膜は、第1、第2、および第3のポリエチレンから製造される。第1、第2、および第3のポリエチレンを使用する場合、ポリマー−希釈剤混合物中のポリエチレン混合物のMWDは、従来の方法、例えば、混合物中の樹脂の相対量およびMWDを調節すること、または反応器ブレンド処理条件を調節することにより制御することができる。ある実施形態においては、第3のポリエチレンは高密度ポリエチレンである。第2のポリエチレンおよび第3のポリエチレンの相対量は決定的な要因ではない。例えば、第3と第2のポリエチレンの混合物中の第2のポリエチレンの相対量は、第2のポリエチレンと第3のポリエチレンを合わせた質量を基準として、例えば1.0質量%以上、または1.0質量%〜60.0質量%の範囲であってもよく、残りが第3のポリエチレンとなる。
(e)分子量分布 MWD
【0038】
混合したポリエチレンのMWDは、5.0〜約3.0×10、5.0〜約100、または約10〜約30の範囲であってもよい。決定的な要因ではないが、MWDが5.0未満であると、押出しがより困難になり得、かつ許容可能な厚さ均一性を有する微多孔性ポリオレフィン膜を作製することがより困難になり得る。一方、MWDが3.0×10を超えると、十分な強度を有する微多孔膜を作製することがより困難になり得る。ポリオレフィンまたはポリオレフィンの混合物のMWDは、例えば多段階重合を用いることによって制御することができる。
【0039】
ポリエチレンのMwおよびMWDは、示差屈折計(DRI)を備えた高温サイズ排除クロマトグラフ、すなわち「SEC」(GPC PL 220、ポリマーラボラトリーズ社製)を用いて決定する。3本のPLgel Mixed-Bカラム(ポリマーラボラトリーズ社製)を用いる。公称流量は0.5cm/分であり、公称注入量は300μLである。トランスファーライン、カラム、およびDRI検出器が、145℃に維持されたオーブン内に含まれている。測定は、"Macromolecules, Vol. 34, No. 19, pp. 6812-6820 (2001)"に開示されている手順に従って行う。
【0040】
使用するGPC溶媒は、約1000ppmのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含有する、濾過済みの、アルドリッチ社製の、試薬グレードの1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)である。TCBを、SECに導入する前にオンライン脱気装置で脱気する。ポリマー溶液を、乾燥ポリマーをガラス容器に入れ、所望の量の上記TCB溶媒を加え、次いでこの混合物を160℃で継続的に撹拌しながら約2時間加熱することにより調製する。溶液中のポリマーの濃度は0.25〜0.75mg/mlである。試料溶液は、GPCに注入する前に、モデルSP260 Sample Prep Station(ポリマーラボラトリーズ社製)を用いて2μmフィルターでオフラインろ過する。
【0041】
Mp(「Mp」はMwにおけるピークと定義する)が約580〜約10,000,000の範囲の17種のそれぞれのポリスチレン標準を用いて作成した検量線でカラムセットの分離効率を較正する。ポリスチレン標準はポリマーラボラトリーズ社(マサチューセッツ州アマースト)より入手する。各PS標準についてDRI信号のピークにおける保持容量を記録し、このデータセットを二次多項式に当てはめることによって、検量線(logMp対保持容量)を作成する。ウェーブメトリクス社(Wave Metrics, Inc.)製IGOR Proを用いて試料を分析する。
(2)さらなるポリマー
【0042】
ポリエチレン樹脂(1種または複数)に加え、ポリオレフィン混合物は、所望により第4のポリオレフィン等のさらなるポリマーを含有してもよい。第4のポリオレフィンは、ホモポリマー、または例えばポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等のコポリマー、の1つまたは複数であってもよい。所望により、第4のポリオレフィンは約1×10〜約4×10の範囲のMwを有する。第4のポリオレフィンを使用する場合、通常その量は、微多孔膜の製造に用いるポリマーの質量を基準として20.0質量%未満の範囲であり、例えば0.5質量%〜10.0質量%の範囲である。ポリオレフィン組成物はまた、ポリエチレンワックス、例えば約1×10〜約1×10のMwを有するものを含有してもよい。ポリエチレンワックスを使用する場合、通常その量は、微多孔膜の製造に用いる第1、第2、および第3のポリマーとポリエチレンワックスとを合わせた質量の約20.0%質量%未満である。ある実施形態においては、ポリエチレンワックスの量は、例えば0.5質量%〜10質量%の範囲といった、10.0質量%未満である。第4のポリマーおよび/またはポリエチレンワックスを使用する場合、微多孔性ポリオレフィン膜の特性の有意な劣化を引き起こす量で使用されない限り、その量は決定的な要因ではない。ある実施形態においては、第4のポリマーは、1.0×10以上のMwおよび90J/g以上の融解熱(第二融解)を有するポリプロピレンである。好適なポリプロピレンは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第WO2007/132942号に記載されている。
[2]微多孔膜の製造方法
【0043】
ある実施形態においては、微多孔膜は、押出物から製造される単層(すなわち、一層)膜である。押出物は、ポリオレフィンおよび希釈剤から次のようにして製造することができる。
【0044】
ある実施形態においては、微多孔膜は、(1)ポリオレフィンと希釈剤とを混合する工程;(2)混合したポリオレフィン−希釈剤混合物をダイを通して押し出して押出物を形成する工程;(3)所望により押出物を冷却してゲル状シート等の冷却押出物を形成する工程;(4)押出物を、横方向(TD)、機械方向(MD)、またはその両方に延伸する工程;(5)膜形成溶媒の少なくとも一部を押出物または冷却押出物から除去して膜を形成する工程;(6)所望により、残留したいずれかの揮発性種の少なくとも一部を膜から除去する工程;(7)所望により、乾燥膜を、第1の乾燥長さから、約1.1〜約1.5の範囲の倍率で第1の乾燥長さよりも長い第2の乾燥長さへMDに延伸し、膜を、第1の乾燥幅から、約1.1〜約1.3の範囲の倍率で第1の乾燥幅よりも広い第2の幅へTDに延伸する工程;ならびに、その後所望により、第2の乾燥幅から、第1の乾燥幅〜第1の乾燥幅の約1.1倍の範囲である第3の乾燥幅へと減少させる工程を含むプロセスにより製造される。
【0045】
国際公開第WO2008/016174号に記載されている、随意の熱溶媒処理工程、随意の熱処理工程(例えば、熱固定および/またはアニーリング)、随意の電離放射線による架橋工程、および随意の親水性処理工程等を所望により行ってもよい。これらの随意の工程の数も順序も決定的な要因ではない。
(1)ポリオレフィンと希釈剤との混合
【0046】
上記のポリオレフィン混合物は、例えば乾燥混合または溶融ブレンドにより混合することができ、次いでポリオレフィン混合物を少なくとも1種の希釈剤と混合してポリオレフィン溶液等のポリオレフィン−希釈剤混合物を製造することができる。あるいは、ポリオレフィン混合物と希釈剤は単一の工程で混合することができる。樹脂および溶媒を、連続して、平行して、またはそれらの組合せで加えてもよい。あるいは、ポリオレフィン混合物は、まず初めに樹脂の少なくとも一部を混合してポリオレフィン組成物を調製し、次いでポリオレフィン組成物と少なくとも1種の膜形成溶媒(ならびに、所望により樹脂のさらなる一部および/または新たな樹脂)とを混合してポリオレフィン溶液を調製することによって製造することができる。所望によりポリオレフィン溶液は、酸化防止剤、ケイ酸塩微粉末(細孔形成材料)等の1種または複数等の添加剤を含有する。かかる添加剤の量は、膜の特性に悪影響を及ぼすほど大量に存在しない限り決定的な要因ではない。通常かかる添加剤の量は、合計で、ポリオレフィン溶液の質量を基準として1質量%を超えることはない。
【0047】
液体膜形成溶媒を含む希釈剤を使用することにより、比較的高い倍率で延伸を行うことをさほど困難ではないものにすることができる。液体溶媒は、例えば、ノナン、デカン、デカリン、p−キシレン、ウンデカン、ドデセン等の脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素;流動パラフィン;上記の炭化水素と同程度の沸点を有する鉱油蒸留物;およびフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等の室温で液体のフタル酸エステル等であってもよい。流動パラフィン等の不揮発性溶媒を使用することにより、溶媒含有量が安定しているゲル状成形物(またはゲル状シート)を得ることをより容易にすることができる。ある実施形態においては、溶融ブレンド中にポリオレフィン溶液またはポリオレフィン組成物と混和するが室温では固体である1種または複数の固体溶媒を、液体溶媒に加えてもよい。かかる固体溶媒は、例えばステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等であってもよい。固体溶媒は液体溶媒なしで使用してもよいが、その場合は工程(4)中にゲル状シートを均一に延伸することがより困難になり得る。
【0048】
ある実施形態においては、液体溶媒の粘度は、25℃の温度で測定した場合、約30cSt〜約500cSt、または約30cSt〜約200cStの範囲である。粘度の選択は特に決定的な要因ではないが、25℃における粘度が約30cSt未満である場合は、ポリオレフィン溶液が泡立つことがあり、その結果配合が困難になる。一方で、粘度が約500cStを超えた場合は、工程(5)中に溶媒を除去することがより困難になり得る。ポリオレフィン溶液は、1種または複数の酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。ある実施形態においては、かかる添加剤の量は、ポリオレフィン溶液の質量を基準として1質量%を超えることはない。
【0049】
押出物の製造に用いる膜形成溶媒の量は決定的な要因ではないが、膜形成溶媒とポリオレフィン組成物とを合わせた質量を基準として、例えば約25質量%〜約99質量%の範囲であってもよく、残りが第1、第2、および第3のポリエチレンの混合物等のポリマーとなる。
(2)押出し
【0050】
ある実施形態においては、混合したポリオレフィン組成物と希釈剤(この場合は膜形成溶媒)とを押出機からダイへと導く。
【0051】
押出物または冷却押出物は、延伸工程後に、望ましい厚さ(通常3μm以上)を有する最終膜を製造するのに適切な厚さを有するべきである。例えば押出物は、約0.1mm〜約10mm、または約0.5mm〜5mmの範囲の厚さを有してもよい。押出しは通常は、溶融状態の、ポリオレフィン組成物と膜形成溶媒との混合物を用いて行う。シート形成ダイを使用する場合は、ダイリップを、通常は、例えば140℃〜250℃または140℃〜200℃の範囲といった、およそT〜T+80℃の範囲の高温に加熱する。押出しを実行するための好適な処理条件は、国際公開第WO2007/132942号および同第WO2008/016174号に開示されている。機械方向(「MD」)は、押出物がダイから製造される方向と定義される。横方向(「TD」)は、MDおよび押出物の厚さ方向の両方に対して垂直な方向と定義される。押出物はダイから連続的に製造することもできるし、または例えば(バッチ処理の場合のように)ダイから少量ずつ製造することもでき、これらは、保管用、プロセス中において後から使用するため、またはさらなる加工用に、プロセスから外してもよい。TDおよびMDの定義は、バッチ処理および連続処理のどちらにおいても同じである。
(3)随意である押出物の冷却
【0052】
押出物を5℃〜40℃の範囲の温度にさらして冷却押出物を形成することができる。冷却速度は特に決定的な要因ではない。例えば押出物は、押出物の温度(冷却した温度)が押出物のゲル化温度とほぼ同じ(またはそれ以下)になるまで、最低でも約30℃/分の冷却速度で冷却してもよい。冷却の処理条件は、例えば国際公開第WO2008/016174号および同第WO2007/132942号に開示されているものと同じであってもよい。
(4)押出物の延伸
【0053】
押出物または冷却押出物を、少なくとも一つの方向に延伸する。押出物は、例えば国際公開第WO2008/016174号に記載されている、例えばテンター法、ロール法、インフレーション法、またはそれらの組合せにより延伸することができる。延伸は、一軸に、または二軸に行ってもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸、または多段階延伸(例えば同時二軸延伸と逐次延伸の組合せ)のいずれを用いてもよいが、同時二軸延伸が好ましい。二軸延伸を用いる場合、倍率の大きさは各延伸方向で同じである必要はない。
【0054】
延伸倍率は、一軸延伸の場合、例えば2倍以上、好ましくは3〜30倍であってもよい。二軸延伸の場合、延伸倍率は、例えばいずれの方向にも3倍以上(例えば3倍〜30倍の範囲)であってもよく、面積倍率では、例えば16倍以上、例えば25倍以上であってもよい。この延伸工程の例としては、面積倍率が約9倍〜約49倍の延伸が挙げられる。各方向への延伸の量は、やはり同じである必要はない。倍率はフィルムの大きさに乗法的に影響する。例えば、TDに4倍の倍率に延伸される、最初の幅(TD)が2.0cmであるフィルムは、最終幅が8.0cmとなる。機械方向(「MD」)は、フィルムが形成される時の進行方向、すなわち製造中におけるフィルムの最長軸、にほぼ沿った方向である、フィルム(この場合は押出物)の平面の方向である。横方向(「TD」)もまたフィルムの平面にあり、機械方向とフィルムの厚さにほぼ平行である第3の軸との両方にほぼ垂直である。
【0055】
必須ではないが、延伸は、押出物をおよそTcdからTmの範囲の温度(「延伸温度」)にさらしながら行ってもよく、この場合TcdおよびTmは、結晶分散温度、および押出物の製造に用いるポリエチレンの中で最も融解ピークの低いポリエチレン(通常は第1のポリエチレン)の融解ピークである。結晶分散温度は、ASTM D 4065に従って動的粘弾性の温度特性を測定することにより決定する。Tcdが約90℃〜100℃の範囲である実施形態においては、延伸温度は、例えば約100℃〜125.0℃、例えば105℃〜125.0℃といった、約90.0℃〜125℃であってもよい。所望により、延伸温度は(Tm−10℃)以下である。
【0056】
ある実施形態においては、延伸押出物は、希釈剤除去の前に所望により熱処理にかけられる。熱処理では、延伸押出物は、押出物が延伸中にさらされる温度より高い(温かい)温度にさらされる。延伸押出物がそのより高い温度にさらされている間、延伸押出物の平面寸法(MDの長さおよびTDの幅)は一定に保つことができる。押出物はポリオレフィンおよび希釈剤を含有しているため、その長さおよび幅は、「湿潤」長さおよび「湿潤」幅と呼ばれる。ある実施形態においては、延伸押出物は、押出物を熱処理するのに十分な時間、例えば1秒〜100秒の範囲の時間、120.0℃〜125.0℃の範囲の温度にさらされるが、その間は、例えば、テンタークリップを用いて延伸押出物をその外周に沿って保持することにより、湿潤長さおよび湿潤幅は一定に保たれる。言い換えれば、熱処理の間、MDまたはTDへの延伸押出物の拡大または縮小(すなわち寸法変化)はない。
【0057】
この工程、および試料(例えば、押出物、乾燥押出物、膜等)を高温にさらす乾燥配向および熱固定等のその他の工程において、こうした暴露は、空気を熱し、次いでこの加熱空気を試料の近くに運ぶことにより行うことができる。加熱空気の温度は、通常は所望の温度と等しい設定値に制御され、次いでプレナム等を通して試料に向けて導かれる。試料を加熱面にさらす方法、オーブンでの赤外線加熱等の従来の方法を含む、試料を高温にさらすその他の方法を、加熱空気とともに、または加熱空気の代わりに用いてもよい。
(5)希釈剤の除去
【0058】
ある実施形態においては、希釈剤の少なくとも一部を延伸押出物から除去(または置換)し、乾燥膜を形成する。例えば国際公開第WO2008/016174号に記載のように、置換(または「洗浄」)溶媒を用いて希釈剤を除去(洗浄、または置換)してもよい。
(6)膜の乾燥
【0059】
ある実施形態においては、残留したいずれかの揮発性種(例えば洗浄溶媒)の少なくとも一部を、希釈剤除去後に乾燥膜から除去する。加熱乾燥、風乾(空気を動かすこと)等の従来の方法を含む、洗浄溶媒を除去することが可能ないずれの方法を用いてもよい。洗浄溶媒等の揮発性種を除去するための処理条件は、例えば国際公開第WO2008/016174号に開示されているものと同じであってもよい。
(7)熱処理
【0060】
ある実施形態においては、膜を熱固定等の熱処理にかける。熱固定の間、例えば膜は、例えば90.0℃〜130.0℃、約100℃〜128℃、または105℃〜125℃といった、およそTcd〜およそTmの範囲の温度にさらされる。この場合Tmは、膜の製造に用いるポリマーの中で融解ピークが最も低いポリマー、例えば第1のポリエチレン、の融解ピークである。
(8)膜の延伸(乾燥配向)
【0061】
所望により工程(6)の乾燥膜を、工程(6)と(7)の間に少なくとも1つの方向に延伸(希釈剤の少なくとも一部が除去または置換されているため「乾燥延伸」と呼ばれる)してもよい。乾燥延伸した乾燥膜は「延伸」膜と呼ばれる。乾燥延伸の前には、乾燥膜はMDの最初の大きさ(第1の乾燥長さ)およびTDの最初の大きさ(第1の乾燥幅)を有する。本明細書で用いる用語「第1の乾燥幅」は、乾燥配向開始前における乾燥膜のTDへの大きさを指す。用語「第1の乾燥長さ」は、乾燥配向開始前における乾燥膜のMDへの大きさを指す。例えば、国際公開第2008/016174号に記載の種類のテンター延伸装置を用いることができる。
【0062】
乾燥膜は、第1の乾燥長さから、約1.1〜約1.5の範囲の倍率(「MD乾燥延伸倍率」)で第1の乾燥長さより長い第2の乾燥長さへ、MDに延伸してもよい。TD乾燥延伸を用いる場合、乾燥膜は、第1の乾燥幅から、ある倍率(「TD乾燥延伸倍率」)で第1の乾燥幅より広い第2の乾燥幅へ、TDに延伸してもよい。所望により、TD乾燥延伸倍率はMD乾燥延伸倍率以下である。TD乾燥延伸倍率は、約1.1〜約1.3の範囲であってもよい。乾燥延伸(膜形成溶媒を含有した押出物をすでに延伸しているため再延伸とも呼ばれる)は、MDおよびTDに逐次的または同時的であってもよい。通常、TD熱収縮はMD熱収縮よりも電池の特性に与える影響が大きいため、通常はTD倍率の大きさはMD倍率の大きさを超えることはない。TD乾燥延伸を用いる場合、乾燥延伸は、MDおよびTDに同時的、または逐次的であってもよい。乾燥延伸が逐次的の場合、通常はMD延伸を最初に行い、続いてTD延伸を行う。
【0063】
乾燥延伸は、乾燥膜を例えばおよそTcd−30℃〜Tmの範囲といったTm以下の温度にさらしながら行ってもよい。この場合Tmは、膜の製造に用いるポリマーの中で融解ピークが最も低いポリマー、例えば第1のポリエチレン、の融解ピークである。ある実施形態においては、延伸温度は、例えば約80℃〜約129.0℃といった、約70.0〜約130.0℃の範囲の温度にさらした膜で行う。ある実施形態においては、MD延伸はTD延伸の前に行い、
(i)MD延伸は、膜を、例えば70.0℃〜129.0℃、または約80℃〜約125℃といった、Tcd−30℃〜およそTm−10℃の範囲の第1の温度にさらしながら行い、
(ii)TD延伸は、膜を、例えば70.0℃〜129.0℃、または約105℃〜約125℃、または約110℃〜約120℃といった、第1の温度より高いがTmよりは低い第2の温度にさらしながら行う。
【0064】
ある実施形態においては、MD乾燥延伸倍率の合計は、例えば1.2〜1.4といった、約1.1〜約1.5の範囲であり、TD乾燥延伸倍率の合計は、例えば1.15〜1.25といった、約1.1〜約1.3の範囲であり、MD乾燥延伸はTD乾燥延伸の前に行い、MD乾燥延伸は、膜を80.0℃〜約120.0℃の範囲の温度にさらしながら行い、TD乾燥延伸は、膜を115.0℃〜約130.0℃の範囲であるがTmよりは低い温度にさらしながら行う。
【0065】
延伸倍率は、延伸方向(MDまたはTD)に3%/秒以上であることが好ましく、この率は、MDおよびTD延伸について独立して選択してもよい。延伸倍率は、好ましくは5%/秒以上、より好ましくは10%/秒以上、例えば5%/秒〜25%/秒の範囲である。特に決定的な要因ではないが、延伸倍率の上限は、膜の破裂を防ぐために50%/秒であることが好ましい。
(9)膜の制御された幅の縮小(膜の熱緩和)
【0066】
乾燥延伸に続き、所望により、乾燥膜に、第2の乾燥幅から第3の乾燥幅への制御された幅の縮小を施すが、第3の乾燥幅は、第1の乾燥幅から第1の乾燥幅の約1.1倍の範囲である。通常は幅の縮小は、膜を、Tcd−30℃以上であるが第1のポリエチレンのTm以下である温度にさらしながら行う。例えば、幅の縮小中に、膜を、例えば約115.0℃〜約130.0℃、例えば約120.0℃〜約128.0℃といった、70.0℃〜約130.0℃の範囲の温度にさらしてもよい。ある実施形態においては、膜の幅の減少は、膜を、第1のポリエチレンのTmよりも低い温度にさらしながら行う。ある実施形態においては、第3の乾燥幅は、第1の乾燥幅の1.0倍〜第1の乾燥幅の約1.1倍の範囲である。
【0067】
TD延伸中に膜がさらされた温度以上の温度に制御された膜幅の縮小中において膜をさらすと、最終膜の耐熱収縮性がより高くなる、と考えられる。
[3]構造、特性、および組成
【0068】
ある実施形態においては、膜の厚さは、通常は例えば約5μm〜約30μmといった、約1μm〜約100μmの範囲である。微多孔膜の厚さは、縦方向に1cm間隔で20cmの幅にわたって接触式厚さ計により測定することができ、次いで平均値を出して膜厚さを得ることができる。株式会社ミツトヨ製ライトマチック等の厚さ計が好適である。この方法は、後述の通り、熱圧縮後の厚さの変化を測定するのにも好適である。光学的厚さ測定法等の、非接触式厚さ測定もまた好適である。
【0069】
最終微多孔膜は、通常は押出物の製造に用いるポリマーを含む。処理中に導入する少量の希釈剤または他の種もまた、微多孔性ポリオレフィン膜の質量を基準として、通常は1質量%未満の量で存在してもよい。処理中にポリマーの分子量が少量低下することがあるが、これは許容可能なものである。ある実施形態においては、処理中に分子量の低下があったとしても、膜中のポリマーのMWDの値と膜の製造に用いるポリマーのMWDとの違いは、例えば、わずか約10%、わずか約1%、またはわずか約0.1%にしかならない。
【0070】
押出物および微多孔膜は、コポリマー、無機種(ケイ素および/またはアルミニウム原子を含有する種等)、および/または国際公開第WO2007/132942号および同第WO2008/016174号に記載のポリマー等の耐熱性ポリマーを含有してもよいが、これらは必須ではない。ある実施形態においては、押出物および膜は、かかる物質を実質的に含まない。この文脈における実質的に含まないとは、微多孔膜中のかかる物質の量が、押出物の製造に用いるポリマーの全質量を基準として1質量%未満であることを意味する。
【0071】
ある特定の実施形態においては、膜は、1.0質量%〜20.0質量%(膜の質量が基準)の、1.0×10〜4.0×10の範囲のMw、25.0℃以下のT80−T25、130.0℃以下のT80、および100.0℃以上のT25を有するポリオレフィンを含む。膜は、130.5℃以下のシャットダウン温度を有する。
【0072】
別の特定の実施形態においては、膜は、4.0質量%〜17.0質量%(膜の質量が基準)の、1.0×10以下のMw、15.0℃以下のT80−T25、130.0℃以下のT80、および100℃以上のT25を有するポリオレフィンを含む。膜は、130.5℃以下のシャットダウン温度を有する。
【0073】
さらに別の特定の実施形態においては、前述のいずれかの実施形態の膜は、1.0×10を超えるMwを有する第2のポリエチレンおよび/または1.0×10以下のMw、132.0℃を超えるT80を有する第3のポリエチレンをさらに含む。
【0074】
さらに別の特定の実施形態においては、膜は、膜の質量を基準として約8.0質量%〜約13.0質量%の第1のポリエチレンを含む。第1のポリエチレンは、エチレンと、1モル%〜5モル%の、プロピレン、ブテン、ヘキセン、またはオクテンとのコポリマーである。コポリマーは、122℃〜126℃の範囲のTおよび30,000〜250,000の範囲のMwを有する。コポリマーは、130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25、および25.0℃以下のT80−T25を有する。膜は、125℃〜130.5℃の範囲のシャットダウン温度、1.0×10秒/100cm/20μm〜5.0×10秒/100cm/20μmの範囲の標準化透気度、および10%以下の少なくとも1つの平面方向への105℃熱収縮を有する。
【0075】
所望により、微多孔膜は以下の特性の1つまたは複数を有する。
(a)標準化透気度≦6.0×10秒/100cm/20μm
【0076】
ある実施形態においては、膜の標準化透気度(ガーレー値:20μmの厚さを有する同等の膜の透気度として表す)は、例えば約50.0秒/100cm/20μm〜約5.0×10秒/100cm/20μmの範囲といった、6.0×10秒/100cm/20μm以下である。透気度値は、20μmのフィルム厚さを有する同等の膜の値に標準化するため、膜の透気度値は、「秒/100cm/20μm」の単位で表す。ある実施形態においては、標準化透気度は、1.0×10秒/100cm/20μm〜約4.5×10秒/100cm/20μmの範囲である。標準化透気度は、JIS P8117に従って測定し、その結果を、A=20μm*(X)/T(式中、Xは、実厚さTを有する膜の透気度の測定値であり、Aは、厚さ20μmの同等の膜の標準化透気度である)の式を用いて厚さ20μmの同等の膜の透気度値に標準化する。
(b)約25%〜約80%の範囲の空孔率
【0077】
ある実施形態においては、膜は、例えば約25%〜約80%、または30%〜60%の範囲といった、25%以上の空孔率を有する。膜の空孔率は、膜の実質量と、同じ組成の同等の非多孔膜(同じ長さ、幅、および厚さを有するという意味において同等)の質量とを比較することにより、従来法で測定する。次に、以下の式を用いて空孔率を求める:空孔率%=100×(w2−w1)/w2。式中、「w1」は微多孔膜の実質量であり、「w2」は、同じ大きさおよび厚さを有する、同等の非多孔膜の質量である。
(c)標準化突刺強度≧1.5×10gf/20μm
【0078】
ある実施形態においては、膜は、例えば50%の空孔率において180.0gf/20μm〜50%の空孔率において1.0×10gf/20μm、例えば50%の空孔率において2.0×10gf/20μm〜50%の空孔率において5.0×10gf/20μmの範囲といった、50%の空孔率において150.0gf/20μm以上の標準化突刺強度を有する。膜の突刺強度は、20μmの厚さおよび50%の空孔率を有する同等の膜の突刺強度として表す[gf/20μm]。突刺強度は、厚さTを有する微多孔膜を、末端が球面(曲率半径R:0.5mm)である直径1mmの針で2mm/秒の速度で突き刺した時に周囲温度で測定した最大荷重、と定義される。この突刺強度(「S」)を、S=[50%*20μm*(S1)]/[T*(100%−P)](式中、Sは突刺強度の実測値であり、Sは標準化突刺強度であり、Pは膜の空孔率の実測値であり、Tは膜の平均厚さである)の式を用いて、20μmの厚さおよび50%の空孔率を有する同等の膜の突刺強度値に標準化する。
(d)シャットダウン温度<130.5℃
【0079】
微多孔膜のシャットダウン温度は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第WO2007/052663号に開示されている方法によって測定する。この方法に従い、微多孔膜を上昇していく温度(30℃で開始して5℃/分)にさらし、その間に膜の透気度を測定する。微多孔膜のシャットダウン温度は、微多孔膜の透気度(ガーレー値)が最初に100,000秒/100cmを超える時の温度と定義される。微多孔膜の透気度は、透気度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いてJIS P8117に従って測定する。ある実施形態においては、膜は、例えば124.0℃〜129.0℃といった、120.0℃〜130.0℃の範囲のシャットダウン温度を有する。
(e)メルトダウン温度≧140℃
【0080】
メルトダウン温度は以下の手順で測定する:3mm×50mmの長方形の試料を、微多孔膜が本プロセスで製造されると同時に、試料の長軸が微多孔膜の横方向と一直線になり、かつ短軸が機械方向と一直線になるように微多孔膜から切り出す。この試料を、チャック間距離10mmで、熱機械分析装置(TMA/SS6000 セイコーインスツル株式会社製)にセットする。すなわち、上部チャックから下部チャックまでの距離が10mmである。下部チャックを固定し、上部チャックで試料に19.6mNの荷重をかける。両チャックおよび試料を、加熱可能な管に封入する。30℃で開始し、管の内部の温度を5℃/分の速度で上昇させ、19.6mNの荷重下における試料の長さの変化を0.5秒間隔で測定し、温度の上昇とともに記録する。温度は200℃まで上昇させる。試料のメルトダウン温度は、試料が破壊する温度と定義され、通常は、例えば約150℃〜約155℃といった、約140℃〜約200℃の範囲の温度である。
(f)少なくとも1つの平面方向への105℃熱収縮率≦10%
【0081】
直交面方向(例えば機械方向または横方向)への微多孔膜の105℃熱収縮率は、次のようにして測定する:(i)周囲温度における微多孔膜の試験片の大きさを機械方向および横方向の両方について測定し、(ii)試験片を、105℃の温度にて8時間、負荷をかけずに平衡化させ、次いで(iii)機械方向と横方向の両方への膜の大きさを測定する。機械方向または横方向へのいずれの熱収縮率も、測定結果(i)を測定結果(ii)で割り、得られた商を百分率で表すことによって得ることができる。
【0082】
ある実施形態においては、105℃にて測定したMDへの熱収縮率は、11%以下、あるいは9.0%以下、あるいは6%以下、あるいは5%以下、例えば4.0%〜10.0%の範囲である。別の実施形態においては、TDへの熱収縮率は、11%以下、あるいは9.0%以下、あるいは6%以下、あるいは5%以下、例えば4.0%〜10.0%の範囲である。
[4]バッテリーセパレーターおよび電池
【0083】
本発明の微多孔膜は、シャットダウン温度、透気度、突刺強度のバランスが良く、かつ常圧で液体(水性および非水性)を透過させる。したがって、微多孔膜は、バッテリーセパレーター、濾過膜等として有用である。微多孔膜は、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池、銀亜鉛電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池のセパレーター等における二次電池のセパレーターとして特に有用である。ある実施形態においては、膜は、リチウムイオン二次電池におけるバッテリーセパレーターフィルムとして使用される。
【0084】
かかる電池は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第WO2008/016174号に記載されている。
【0085】
本発明を、本発明の範囲を制限することを意図することなく、下記実施例を参照してより詳細に説明する。
実施例
実施例1
【0086】
18質量%の1.95×10のMwを有するUHMWPE;74質量%の5.6×10のMw、134.9℃のTm、および135.1℃のT80を有するHDPE;ならびに8質量%の3.8×10のMw、114.6℃のT25、125.9℃のT80、および126.1℃のTを有するポリエチレンを含む100質量部のポリエチレン混合物を、0.5質量部のテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンと乾式混合する。
【0087】
25質量部の得られた混合物を、強混合型、二軸スクリュー押出機(内径=58mm、L/D=42)内に充填し、75質量部の流動パラフィンを、サイドフィーダーを介して二軸スクリュー押出機に供給する。
【0088】
ポリエチレン溶液を、二軸スクリュー押出機からTダイに供給し、厚さ1.0mmのシート状に押し出す。押出物を50℃に制御された冷却ロールで冷却してゲル状シートを形成する。ゲル状シートを、押出物を115℃の温度にさらしながら、バッチタイプの延伸機でMDおよびTDの両方に5倍に同時に二軸延伸する。次いで延伸シートを20cm×20cmのアルミニウムフレームプレートに固定し、25℃に制御された塩化メチレンの洗浄浴に浸漬し、3分間100rpmで揺らしながら洗浄して流動パラフィンを除去する。洗浄した膜を室温で空気乾燥させる。次いで乾燥膜をテンターに固定し、10分間115℃で熱固定して微多孔膜を製造する。
実施例2
【0089】
18質量%のUHMWPE、70質量%のHDPE、および12質量%の第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、実施例1と同様にして微多孔膜を製造する。
実施例3
【0090】
18質量%のUHMWPE、66質量%のHDPE、および16質量%の第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、実施例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例4
【0091】
1.2×10のMw、110.9℃のT25、123.1℃のT80、および123.6℃のTを有する第1のポリエチレンを用いること以外は、実施例2と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例5
【0092】
8.5×10のMw、105.6℃のT25、122.9℃のT80、および123.9℃のTを有する第1のポリエチレンを用いること以外は、実施例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例6
【0093】
2.4×10のMw、100.4℃のT25、122.1℃のT80、および122.8℃のTを有する第1のポリエチレン(Evolve(商標) SP3530、株式会社プライムポリマー製)を用いること以外は、実施例2と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例7
【0094】
2.4×10のMw、100.9℃のT25、121.3℃のT80、および122.0℃のTを有する第1のポリエチレン(Ultzex(商標) 3021 F、株式会社プライムポリマー製)を用いること以外は、実施例2と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例8
【0095】
18質量%のUHMWPE、77質量%のHDPE、ならびに5質量%の、4.5×10のMw、105.2℃のT25、120.5℃のT80、および122.2℃のTを有する第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、実施例2と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例9
【0096】
2.6×10のMw、102.8℃のT25、120.8℃のT80、および122.5℃のTを有する第1のポリエチレンを用いること以外は、実施例2と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例10
【0097】
1.7×10のMw、107.9℃のT25、123.0℃のT80、および123.0℃のTを有する第1のポリエチレンを用いること以外は、実施例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
実施例11
【0098】
18質量%の1.95×10のMwを有するUHMWPE、62質量%の5.6×10のMw、135.1℃のT80、および134.9℃のTを有するHDPE、ならびに20質量%の4.5×10のMw、105.2℃のT25、120.5℃のT80、および122.2℃のTを有するポリエチレンを含む100質量部のポリエチレン組成物を、0.5質量部のテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンと乾式混合する。混合し、押出し、二軸延伸、および流動パラフィンの除去を実施例1のように行う。次いで膜を室温の気流で乾燥させる。乾燥配向の開始時において、膜は、TDの最初の大きさ(第1の乾燥幅)およびMDの最初の大きさ(第1の乾燥長さ)を有する。乾燥膜を、膜を118℃の温度にさらしながら、また膜の長さを第2の乾燥長さに一定に保ちながら、テンター延伸機で1.2倍のTD倍率(第2の乾燥幅)に延伸する。次いで膜を、118℃の温度にさらしながら、第2の乾燥幅から、第1の乾燥幅と等しい第3の乾燥幅へ、すなわち最終倍率が1.0倍になるまで、制御された幅の縮小に付す。言い換えれば、膜の幅を、乾燥配向の開始時における膜のTDの最初の大きさに縮小する。膜の幅を最初の幅に縮小した後、膜を118℃の温度に12分間さらすことによって膜を熱固定して最終微多孔膜を製造する。
比較例1
【0099】
7.5×10のMw、100.5℃のT25、116.6℃のT80、および117.3℃のTを有する第1のポリエチレンを用いること以外は、実施例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
比較例2
【0100】
18質量%のUHMWPE、70質量%のHDPE、および12質量%の第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、比較例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
比較例3
【0101】
18質量%のUHMWPE、66質量%のHDPE、および16質量%の第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、比較例1と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
比較例4
【0102】
18質量%の1.95×10のMwを有するUHMWPE、74質量%の5.6×10のMw、135.1℃のT80、および134.9℃のTを有するHDPE、ならびに8質量%の2.1×10のMw、75.4℃のT25、105.8℃のT80、および98.0℃のTを有するポリエチレンを含む100質量部のポリエチレン混合物を、0.5質量部のテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンと乾式混合する。混合および押出しを実施例1のように行ってゲル状シートを製造する。ゲル状シートを、バッチタイプの延伸機で、110℃にて長手方向(MD)と横方向(TD)の両方に5倍に同時に二軸延伸する。次いで延伸したゲル状シートを20cm×20cmのアルミニウムフレームプレートに固定し、25℃に制御された塩化メチレンの洗浄浴に浸漬し、3分間100rpmで揺らしながら洗浄して流動パラフィンを除去する。洗浄した膜を室温で空気乾燥させる。次いで、10分間90℃の温度に膜をさらすことによってこれを熱固定して微多孔膜を製造する。
比較例5
【0103】
18質量%のUHMWPE、66質量%のHDPE、および16質量%の第1のポリエチレンを含むポリエチレン混合物を用いること以外は、比較例4と同様にして微多孔性ポリエチレン膜を製造する。
【表1】

【表1−1】

(続き)
【0104】
表1から明らかなように、実施例1〜10の微多孔性ポリエチレン膜は、130℃未満のシャットダウン温度および6.0×10秒/100cm/20μm以下の標準化透気度を有する。実施例1〜10の膜は、シャットダウン温度、透気度、突刺強度、および105℃熱収縮の良好なバランスもまた有する。特に、実施例1、5、6、7、8、および10の微多孔膜は、第1のポリエチレンの含有量が比較的少量であるにもかかわらず、これらの特性の優れたバランスを示している。一方、比較例1および2の、117.3℃のTmを有するポリエチレンから製造された膜は、有意に高いシャットダウン温度を有する。比較例3の膜は、不十分な透気度を有する。比較例4および5の、98℃(100℃未満)のT25および30.4℃(25℃超)のT80−T25を有する膜は、比較的低いシャットダウン温度を有するが、許容可能な透気度に必要とされる延伸温度および熱固定温度が低いことによって、105℃の熱収縮性能が大幅に悪化している。
【0105】
優先権書類を含む、本明細書で引用した全ての特許、試験手順、およびその他の文献は、参照により、かかる開示が本発明に矛盾しない範囲で完全に組み込まれ、またかかる組込みが許容される全ての管轄において、完全に組み込まれる。
【0106】
本明細書中に開示した例示的形態は特定のものについて記載しているが、種々の他の変形態様が、当業者にとっては明らかであり、かつ当業者によって本開示の精神および範囲から逸脱することなく容易に行われ得ることが理解されるであろう。したがって、本明細書に添付した特許請求の範囲の範囲は本明細書中に示した実施例および説明に限定されるものではなく、特許請求の範囲は、本開示が属する分野の当業者によってその等価物として扱われる全ての特徴を含む、本明細書に備わる特許可能な新規性のある特徴の全てを包含するものとして解釈されることが意図されている。
【0107】
数値の下限および数値の上限が本明細書中に列挙されている場合、あらゆる下限からあらゆる上限までの範囲が想定されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜の質量を基準として1.0質量%以上の、130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25、および25.0℃以下のT80−T25を有する第1のポリオレフィンを含むことを特徴とする微多孔膜。
【請求項2】
第1のポリオレフィンが、ポリエチレンであり、膜が膜の質量を基準として1.0質量%〜20.0質量%のポリエチレンを含み、膜が130.5℃以下のシャットダウン温度を有することを特徴とする請求項1に記載の微多孔膜。
【請求項3】
第1のポリオレフィンが、1.0×10〜4.0×10の範囲のMwを有することを特徴とする請求項2に記載の微多孔膜。
【請求項4】
第1のポリオレフィンが、120.0℃〜126.0℃の範囲のTを有することを特徴とする請求項2または3に記載の微多孔膜。
【請求項5】
微多孔膜が、6.0×10秒/100cm/20μm以下の標準化透気度、1.5×10gf/20μm以上の標準化突刺強度、および10.0%以下の範囲のTDへの105℃熱収縮を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項6】
微多孔膜が、120.0℃〜130.0℃の範囲のシャットダウン温度を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項7】
微多孔膜が、124.0℃〜129.0℃の範囲のシャットダウン温度を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項8】
微多孔膜が1.0×10を超えるMwを有する第2のポリエチレンおよび/または1.0×10以下のMw、132.0℃を超えるT80を有する第3のポリエチレンをさらに含むことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項9】
第1のポリオレフィンが1.0×10以上のMw、15℃以下のT80−T25を有し、かつ第1のポリオレフィンが、膜の質量を基準として10質量%〜30質量%の範囲で膜中に存在することを特徴とする請求項1に記載の微多孔膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の微多孔膜を含むことを特徴とするバッテリーセパレーター。
【請求項11】
微多孔膜の製造方法であって、
(1)希釈剤と、1.0質量%〜20.0質量%の130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25を有し、T80−T25≦25.0℃である第1のポリエチレンを含むポリマーとの混合物を押し出す工程;
(2)押出物を少なくとも1つの平面方向に延伸する工程;および
(3)希釈剤の少なくとも一部を延伸押出物から除去する工程
を含むことを特徴とする微多孔膜の製造方法。
【請求項12】
希釈剤が、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素、鉱油蒸留物、およびフタル酸エステルの1種または複数であり、25℃の温度で測定した場合に30〜500cStの粘度を有することを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)の押出しが、140℃〜250℃の範囲の温度にて行われることを特徴とする請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
ポリマー−希釈剤混合物中のポリマーの量が混合物の質量を基準として5質量%〜50質量%の範囲であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
工程(3)に続いて膜を少なくとも1つの平面方向に延伸する工程をさらに含むことを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
工程(3)に続いて膜を熱処理にかける工程をさらに含むことを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
膜が1.0×10を超えるMwを有する第2のポリエチレンならびに/または1.0×10以下のMwおよび132.0℃を超えるT80を有する第3のポリエチレンをさらに含むことを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
工程(3)の延伸が、押出物を90.0℃〜125.0℃の範囲の温度にさらしながら面積が9倍〜49倍の範囲の倍率になるまで二軸に行われることを特徴とする請求項11〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
工程(3)の後に、残留したいずれかの揮発性種を膜から除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項20】
膜が、工程(3)に続く膜の延伸中に70.0℃〜135.0℃の範囲の温度にさらされることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項11〜20のいずれかに記載の膜生成物。
【請求項22】
電解質と、負極と、正極と、負極と正極の間に位置するセパレーターとを含む電池であって、セパレーターが1.0質量%以上の130.0℃以下のT80、100.0℃以上のT25を有し、T80−T25≦25.0℃である第1のポリオレフィンを含み(質量%はセパレーターの質量が基準)、セパレーターが130.5℃以下のシャットダウン温度を有することを特徴とする電池。
【請求項23】
電池が、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル亜鉛二次電池、または銀亜鉛二次電池であることを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項24】
正極が、集電体、およびリチウムイオンを吸収かつ放出することができる集電体上の正極活物質層を含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項25】
電解質が、有機溶媒中のリチウム塩を含むことを特徴とする請求項23に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−522105(P2012−522105A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503459(P2012−503459)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026422
【国際公開番号】WO2010/114672
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(510157580)東レバッテリーセパレータフィルム株式会社 (31)
【Fターム(参考)】