説明

微多孔膜およびそれを含む電池用セパレータ

【課題】 機械的特性、液透過性、およびメルトダウン特性に優れた微多孔膜を提供する。
【解決手段】
重量平均分子量が1.0×10以上の4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物からなる、微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜およびその用途に関する。特に4−メチル−1−ペンテン重合体を含む、耐熱性に優れた微多孔膜;それを含むメルトダウン特性に優れた電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン電池、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ポリマー電池等に用いる電池用セパレータをはじめ、電解コンデンサー用セパレータ、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料および医療用材料等に幅広く使用されている。ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータ、特にリチウムイオン電池用セパレータとして用いる場合、ポリオレフィン微多孔膜の性能は、電池の特性、生産性および安全性に深く関わる。そのため、電池用セパレータとして用いられるポリオレフィン微多孔膜は、優れた機械的特性、耐熱性、透過性、寸法安定性、シャットダウン特性、およびメルトダウン特性等を有することが好ましいとされている。
【0003】
シャットダウン特性とは、高温状態になると微細孔が閉塞し、電池内部のイオン伝導を遮断することにより、電池内部の温度上昇を防止しうる特性をいう。このため、シャットダウン温度が低いほどシャットダウン特性に優れる。メルトダウン特性とは、溶融による破断が起きにくい特性をいう。このため、メルトダウン温度が高いほど、メルトダウン特性に優れる。
【0004】
シャットダウン温度とは、材料の変形による微多孔の崩壊およびそれによる電池反応の停止により、セパレータがその透過性を失う最低温度を意味する。メルトダウン温度とは、シャットダウン温度を超える高温下において、セパレータが元の形状を維持し、溶融による破断や破損に耐えうる最低温度を意味する。
【0005】
一般的に、ポリエチレンのみからなる微多孔膜は、メルトダウン温度が低いのに対し、ポリプロピレンのみからなる微多孔膜は、メルトダウン温度が高い。そのため、電池用セパレータ用としては、ポリエチレンとポリプロピレンとを組み合わせた微多孔膜が提案されている(例えば特許文献1〜4)。
【0006】
このうち、特許文献1には、安全性および強度に優れたポリオレフィン微多孔膜として、ポリエチレンおよびポリプロピレンを必須成分とする微多孔膜Aと、ポリエチレンからなる微多孔膜Bとを積層一体化したものであって、微多孔膜A/微多孔膜B/微多孔膜A、あるいは微多孔膜B/微多孔膜A/微多孔膜Bの3層構造を有するポリオレフィン微多孔膜が提案されている。
【0007】
また特許文献2には、ポリエチレンおよびポリプロピレンを必須成分として含む、二層以上の積層からなり、少なくとも片側の表層のポリプロピレン混合比率が50質量%超〜95質量%以下であり、かつ膜全体のポリエチレン含有率が50質量%〜95質量%であるポリオレフィン積層膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−321323号公報
【特許文献2】国際公開第2004/089627号パンフレット
【特許文献3】特開平3−105851号公報
【特許文献4】特表2010−502471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4のポリオレフィン微多孔膜は、メルトダウン特性が必ずしも良好ではなかった。このため、ポリエチレンやポリプロピレンよりも耐熱性が高く、メルトダウン特性に優れた電池用セパレータ用の微多孔膜が望まれている。
【0010】
耐熱性が高いポリオレフィンとして、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどがある。しかしながら、ポリ4−メチル−1−ペンテンは、比較的脆いため、延伸時に破断しやすく、高い延伸倍率で延伸することが困難であった(延伸性が低かった)。十分な延伸ができないと、十分な機械的強度が得られないだけでなく、微多孔を十分に形成できないため、液透過性も低下する。
【0011】
このように、機械的強度、液透過性を維持しつつ、メルトダウン特性に優れた微多孔膜が求められている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、機械的特性、液透過性、寸法安定性および耐熱性(特に耐熱性)に優れた微多孔膜を提供すること、さらに該微多孔膜を含む、機械的特性、透過性、およびメルトダウン特性に優れた電池用セパレータおよび電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量を1.0×10以上とすることで、メルトダウン温度を高め、さらには延伸性が高まるため、高倍率で延伸できることを見出した。このように、高倍率で延伸できることによって、機械的強度が高く、十分な微多孔が形成され、液透過性にも優れた微多孔膜が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0013】
[1] 重量平均分子量が1.0×10以上の4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物からなる、微多孔膜。
[2] 前記4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量は、1.5×10以上2.3×10以下である、[1]に記載の微多孔膜。
[3] 空孔率が25%以上80%以下であり、メルトダウン温度が170℃以上である、[1]または[2]に記載の微多孔膜。
[4] 前記4−メチル−1−ペンテン重合体は、4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と、前記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位とを含む4−メチル−1−ペンテン共重合体である、[1]〜[3]のいずれかに記載の微多孔膜。
[5] 前記4−メチル−1−ペンテン共重合体における、前記炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位の含有量は10質量%以下である、[4]に記載の微多孔膜。
[6] 前記微多孔膜は、前記樹脂組成物からなるフィルムの二軸延伸フィルムであって、前記二軸延伸の面延伸倍率が9倍以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の微多孔膜。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の微多孔膜を有する、電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の微多孔膜は、耐熱性、機械的強度および液透過性に優れている。このため、本発明の微多孔膜は、特にメルトダウン特性に優れた、リチウムイオンバッテリー等の電池用セパレータとして好ましく用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の微多孔膜は、重量平均分子量が一定以上の4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物から形成される。
【0016】
1.4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物
4−メチル−1−ペンテン重合体は、4−メチル−1−ペンテンを主体とした結晶性重合体であり、4−メチル−1−ペンテン単独重合体または4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のα−オレフィンとの共重合体である。
【0017】
4−メチル−1−ペンテン共重合体における、4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位の含有量は80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは94質量%以上97質量%以下である。
【0018】
4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のα−オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、および1−オクタデセンなどが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、4−メチル−1−ペンテンとの共重合性が良く、良好な靭性が得られることから、1−デセン、1−テトラデセンおよび1−オクタデセンが好ましい。
【0019】
4−メチル−1−ペンテン共重合体における、4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。
【0020】
4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量は、1.0×10以上2.3×10以下であり、好ましくは1.5×10以上2.3×10以下である。重量平均分子量が1.0×10以上の4−メチル−1−ペンテン重合体を用いることで、融点が高く、メルトダウン温度の高い微多孔膜が得られる。さらに、成形性を向上でき、延伸倍率を高くすることができる。
【0021】
4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、オルトジクロロベンゼン溶媒を用いて、140℃の条件にて測定される。
【0022】
4−メチル−1−ペンテン重合体は、任意の方法で製造されうるが、例えばチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン系触媒等の周知の触媒を用いて製造されうる。得られる4−メチル−1−ペンテン重合体の結晶構造は、アイソタクチックでもシンジオタクチックでもよい。例えば、特開2003−105022号公報に記載のように、触媒の存在下で、4−メチル−1−ペンテンを単独重合させるか、または4−メチル−1−ペンテンと前記α−オレフィンとを共重合させることで、パウダー状の4−メチル−1−ペンテン重合体を得ることができる。
【0023】
微多孔膜を構成する樹脂組成物における、4−メチル−1−ペンテン重合体の含有量は、好ましくは0.1〜100質量%であり、より好ましくは20〜80質量%であり、さらに好ましくは40〜60質量%である。
【0024】
微多孔膜を構成する樹脂組成物は、4−メチル−1−ペンテン重合体以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂や添加剤などをさらに含んでよい。
【0025】
他の樹脂の例には、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびそれら以外の炭素数2〜20のα−オレフィンなどを構成単位とする重合体および共重合体が含まれる。微多孔膜のシャットダウン温度を低くするためには、4−メチル−1−ペンテン重合体よりもシャットダウン温度の低い樹脂、例えばポリエチレンおよび超高分子量ポリエチレン等が好ましい。
【0026】
微多孔膜を構成する樹脂組成物が、ポリエチレンやポリプロピレンをさらに含む場合、4−メチル−1−ペンテン重合体と、ポリエチレンやポリプロピレンとの相溶性を高めるために、相溶化剤をさらに含んでもよい。そのような相溶化剤には、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィンエラストマー等が含まれる。
【0027】
添加剤の例には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、孔形成剤、無機充填剤、顔料および染料等が含まれる。孔形成剤の例には、微粉珪酸などが含まれる。
【0028】
2.微多孔膜の製造方法
本発明の微多孔膜は、少なくとも(1)4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物と希釈剤とを混合(例えば溶融混練)して溶融混練物を調製する工程、(2)溶融混練物を押出成形する工程、(3)得られた成形体を冷却してゲル状シートを得る工程、(4)ゲル状シートを延伸して延伸シートを得る工程、(5)延伸シートから希釈剤を除去した後、乾燥して微多孔膜を得る工程、を経て製造される。
【0029】
(5)の工程の後に、必要に応じて(6)微多孔膜を熱処理する工程、(7)他の微多孔膜と積層する工程、(8)電離放射により架橋処理する工程、および(または)(9)親水化処理する工程、(10)アラミド樹脂などで表面をコーティングする工程等の、他の工程を行ってもよい。
【0030】
(1)溶融混練物の調製
前述の4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物に、希釈剤を添加し、例えば溶融混練等により混合して、溶融混練物を調製する。
【0031】
添加される希釈剤は、特に制限されないが、室温で液体である液体溶剤であってよい。液体溶剤を用いることで、比較的高倍率の延伸が可能となる。液体溶剤としては、例えばノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の鎖状または環式の脂肪族炭化水素;これらと同等の沸点を有する鉱油留分;室温では液状のフタル酸エステル(例えばジブチルフタレートおよびジオクチルフタレート)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。液体溶剤の含有量の経時的変化が少ないゲル状シートを得るためには、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いることが好ましい。
【0032】
希釈剤は、液体溶剤とともに、さらに固体溶剤を含んでもよい。固体溶剤とは、室温では固体であるが、溶融混練状態では4−メチル−1−ペンテン重合体と混和する溶剤をいう。固体溶剤としては、ステアリルアルコール、セリルアルコール、およびパラフィンワックス等が挙げられる。
【0033】
溶融混練物における、4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂成分の合計含有量は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0034】
溶融混練は、特に限定されないが、二軸押出機で行うことが好ましい。二軸押出機による溶融混練は、高濃度のポリオレフィン溶液を調製するのに適している。二軸押出機のスクリューの長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は、20〜100の範囲が好ましく、35〜70の範囲がより好ましい。
【0035】
(2)押出成形
得られた溶融混練物を、直接ダイから押出して「ゲル状成形体」を得てもよいし;一旦、溶融混練物を冷却してペレット化した後、該ペレットを再び溶融混練してダイから押出して「ゲル状成形体」を得てもよい。
【0036】
ダイは、T−ダイ形状のシート用ダイ、二重円筒状の中空状ダイ、およびインフレーションダイ等であってよい。
【0037】
(3)ゲル状シートの作製
得られたゲル状成形体を、例えば室温(25℃)以下まで冷却して、「ゲル状シート」を得ることができる。これにより、希釈剤によって分離されたミクロな樹脂相(ゲル状シート中の4−メチル−1−ペンテン重合体)が固定化される。
【0038】
ゲル状成形体の冷却は、少なくとも溶融混練物のゲル化温度に達するまでは、50℃/分以上の速度で行うことが好ましい。ゲル状成形体の冷却は、25℃以下まで行うことができる。ゲル状成形体の冷却方法は、特に限定されないが、冷風、冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法;冷媒で冷却したロールに接触させる方法等であってよい。
【0039】
(4)延伸シートの作製
得られたゲル状シートを、加熱した後、一軸方向または二軸方向に延伸して「延伸シート」を得る。延伸により、シートの機械的強度を向上させ、かつ厚みを薄くすることができる。
【0040】
延伸方法は、特に制限されず、例えばテンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法およびこれらを組み合せた方法であってよい。延伸は、一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、好ましくは二軸延伸である。二軸延伸は、同時二軸延伸、逐次延伸および多段延伸(例えば同時二軸延伸および逐次延伸の組合せ)のいずれであってもよいが、特に同時二軸延伸が好ましい。
【0041】
一軸延伸での延伸倍率は、2倍以上とすることが好ましく、3〜30倍とすることがより好ましい。二軸延伸での延伸倍率は、3×3倍以上とすること、即ち、面延伸倍率を9倍以上とすることが好ましく、面延伸倍率を16倍以上とすることがより好ましい。このように、高い延伸倍率での延伸を可能にするためには、前述の4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量を一定以上にすればよい。
【0042】
ゲル状シートに含まれる樹脂が、4−メチル−1−ペンテン重合体のみからなる場合、延伸温度は、好ましくは100〜250℃であり、より好ましくは120〜220℃であり、さらに好ましくは170〜200℃であり、特に好ましくは180℃である。ゲル状シートに含まれる樹脂が、4−メチル−1−ペンテン重合体と、ポリエチレンまたはポリプロピレン等との混合物である場合、延伸温度は、ポリエチレンまたはポリプロピレンの融点Tm+10℃以下とすることが好ましく、具体的には120℃程度が好ましい。
【0043】
(5)希釈剤の除去〜微多孔膜の作製
得られた延伸シートを、洗浄溶媒などにより洗浄して、延伸シートから希釈剤を除去する。延伸シート中のポリマー相(例えば、4−メチル−1−ペンテン重合体相)が希釈剤と相分離していれば、液体溶剤を除去することで、微細な孔が形成される。
【0044】
延伸シートの洗浄方法は、特に制限されないが、延伸シートを洗浄溶媒に浸漬する方法、延伸シートに洗浄溶媒をシャワーする方法、およびこれらの組合せ等であってよい。洗浄溶媒による洗浄は、延伸シートにおける希釈剤の残留量が、洗浄前の含有量の1質量%未満になるまで行うことが好ましい。洗浄溶媒の使用量は、延伸シート100質量部に対して300〜30000質量部とすることができる。
【0045】
洗浄溶媒の例には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素;塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルエチルケトン等のケトン類;三フッ化エタン,C14,C16等の鎖状フルオロカーボン;C等の環状ハイドロフルオロカーボン;COCH,COC等のハイドロフルオロエーテル;COCF,COC等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶媒が含まれる。
【0046】
希釈剤を除去して得られた延伸シートを乾燥させることで、「微多孔膜」を得ることができる。乾燥方法は、加熱乾燥法、風乾法などであってよい。
【0047】
(6)熱処理
乾燥して得られた微多孔膜に、熱処理を施すことが好ましい。熱処理方法は、要求される物性に応じて適宜選択されるが、例えば熱延伸処理、熱固定処理、熱収縮処理などであってよい。熱処理温度は、例えば100〜250℃程度とすることができる。
【0048】
(7)積層
乾燥後の微多孔膜または熱処理後の微多孔膜に、他の樹脂膜をさらに積層してもよい。他の樹脂膜は、4−メチル−1−ペンテン重合体よりも融点の低い樹脂からなる微多孔膜、例えばポリエチレンまたは超高分子量ポリエチレンからなる微多孔膜等が好ましい。4−メチル−1−ペンテン重合体を含む微多孔膜の、シャットダウン温度を下げることができ、電池のシャットダウン特性を向上できるからである。
【0049】
このような他の樹脂膜の積層方法は、特に限定されないが、熱積層法が好ましい。熱積層法としては、ヒートシール法、インパルスシール法、超音波積層法等が挙げられるが、ヒートシール法が好ましい。ヒートシール法としては熱ロールを用いたものが好ましい。
【0050】
(8)架橋処理
得られた微多孔膜に、例えばα線、β線、γ線、電子線などの電離放射線を照射して、架橋処理を施してもよい。これにより、微多孔膜を構成する樹脂を架橋させて、微多孔膜の機械的強度やメルトダウン温度を高めることができる。
【0051】
(9)親水化処理
得られた微多孔膜に、親水化処理を施してもよい。親水化処理は、例えばモノマーグラフト、界面活性剤処理、プラズマ処理およびコロナ放電等であってよい。界面活性剤処理は、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、および両イオン系界面活性剤のいずれも使用できるが、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0052】
界面活性剤処理は、微多孔膜を、界面活性剤を水または低級アルコール溶媒に溶解させた溶液中に浸漬する方法;微多孔膜に、ドクターブレード法により前記溶液を塗布する方法等により行うことができる。低級アルコール溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等であってよい。必要に応じて、他のコーティング法を併用してもよい。
【0053】
(10)コーティング処理
得られた微多孔膜に、耐熱性などをさらに高めるために、耐熱性樹脂をコーティングしてもよい。耐熱性樹脂の例には、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド(アラミドともいう)、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニルサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホン、およびポリエーテルイミドなどが含まれる。
【0054】
このようにして得られる本発明の微多孔膜は、一定以上の重量平均分子量の4−メチル−1−ペンテン重合体を含むため、高いメルトダウン特性を有する。微多孔膜のメルトダウン温度は、170℃以上であり、好ましくは170〜240℃である。メルトダウン温度は、JIS K7196に準拠して、TMA(Thermo MechanicalAnalysis)を用いた針入法により測定することができる。具体的には、0.5mmφの針入プローブに、試験荷重50gを加えて、厚さ20μmの微多孔膜のサンプルに載せる。そして、サンプルを昇温速度5.0℃/minで昇温していき、針入プローブが20μm針入した際の温度を「メルトダウン温度」とすることができる。
【0055】
本発明の微多孔膜は、4−メチル−1−ペンテン重合体の他にも、ポリエチレンなどをさらに含むことで、高いシャットダウン特性を有しうる。微多孔膜のシャットダウン温度は、好ましくは120〜220℃である。シャットダウン温度は、TMAにより測定できる。具体的には、融点付近でサンプルを加熱して得られるTMA曲線の変曲点の温度を「シャットダウン温度」とすることができる。
【0056】
微多孔膜の平均貫通孔径は、0.001〜0.1μmであることが好ましい。微多孔膜の平均貫通孔径は、ハーフドライ法(ASTM E1294−89)に準じて、貫通細孔径評価装置を用いて測定することができる。
【0057】
微多孔膜の空孔率は、25〜80%であることが好ましい。空孔率が25%未満では、微多孔膜の液透過性が不十分となり、電解液が含浸し難くなることがある。一方、空孔率が80%を超えると、電解液が含浸し易いため、電池のインピーダンスを小さくできるが、微多孔膜の機械的強度が損なわれ易くなり、電池内で短絡する等、電池の安全性が損なわれることがある。
【0058】
空孔率は、例えば重量法により測定することができる。具体的には、微多孔膜のサンプル厚みをT(μm)、サンプル質量をM(g)、サンプル面積をS(cm)、樹脂の密度をρ(g/cm)としたとき、それぞれの値を下記式に当てはめることにより求めることができる。
空孔率(%)=[1−(10000*M/ρ)/(S*T)]×100
【0059】
本発明の微多孔膜は、各種一次電池や二次電池(例えばニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池等、特にリチウムイオン二次電池)の電池用セパレータとして好ましく用いることができる。
【0060】
電池用セパレータとして用いられる微多孔膜の厚さは、電池の種類などにもよるが、3〜200μmとすることが好ましく、5〜50μmとすることがより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明に係る実施例を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[重量平均分子量測定]
4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、オルトジクロロベンゼン溶媒を用いて、140℃の条件にて測定した。
[メルトダウン温度測定]
微多孔膜のメルトダウン温度は、JIS K7196に準拠して、TMAを用いた針入法により測定した。具体的には、0.5mmφの針入プローブに、試験荷重50gを加えて微多孔膜のサンプルに載せた。そして、サンプルを、昇温速度5.0℃/minで昇温していき、針入プローブが20μm針入した際の温度を「メルトダウン温度」とした。
【0062】
[固体触媒成分の調製]
無水塩化マグネシウム750g、デカン2800gおよび2−エチルヘキシルアルコ−ル3080gを130℃で3時間加熱反応させて、均一溶液とした。その後、この溶液中に2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン220mlを添加し、さらに100℃にて1時間攪拌混合を行った。
【0063】
このようにして得られた均一溶液を、室温まで冷却した後、この均一溶液3000mlを、−20℃に保持した四塩化チタン800ml中に、攪拌下45分間にわたって全量滴下挿入した。挿入終了後、この混合液の温度を4.5時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところで2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン5.2mlを添加し、2時間同温度にて攪拌および反応させた。反応終了後、熱濾過にて固体部を採取した。この固体部を1000mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び110℃で2時間、加熱反応させた。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、90℃デカンおよびヘキサンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0064】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分を、デカンスラリ−として保存した。このうち、一部の固体状チタン触媒成分を採取し、乾燥させて、触媒組成を測定した。得られた固体状チタン触媒成分の組成は、チタン3.0質量%、マグネシウム17.0質量%、塩素57質量%、2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン18.8質量%および2−エチルヘキシルアルコ−ル1.3質量%であった。
【0065】
[4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)の合成]
内容積150リットルの攪拌機付きのSUS製重合槽に、窒素雰囲気下、100リットルのデカン、26kgの4−メチル−1−ペンテン、230gの、1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの混合物、6.75リットルの水素、67.5ミリモルのトリエチルアルミニウム、およびチタン原子換算で0.27モルの上記固体チタン触媒成分を投入した。そして、重合槽内を60℃に保って、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキサデセンおよび1−オクタデセンの重合反応を5時間行った。重合槽からパウダー状の重合体を取り出し、ろ過・洗浄した後、乾燥して、パウダー状の4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)を得た。
【0066】
得られた4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)の収量は26kgであった。得られた4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)のGPC測定による重量平均分子量は1.1×10であり、NMRにより測定される4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)中の1−ヘキサデセン、1−オクタデセン含有量は合計で6.0質量%であった。
【0067】
[4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)の合成]
230gの、1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの混合物と6.75リットルの水素の代わりに、230gの1−デセンと、4.0リットルの水素とを用いた以外は、前述の4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)と同様にして4−メチル−1−ペンテンと1−デセンからなるパウダー状の4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)を得た。
【0068】
4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)のGPC測定による重量平均分子量は2.0×10であり、1−デセン含有量は3.3質量%であった。
【0069】
実施例および比較例で用いる樹脂成分について、表1にまとめた。
【表1】

【0070】
[実施例1]
微多孔膜の作製
4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)を40質量部、希釈剤として流動パラフィンP−350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、ラボプラストミルにより、10分間、240℃、50rpmにて混練した。
【0071】
得られたゲル状物質を、厚さ1mmの金型に挿入し、プレス成形機を用いてプレス温度240℃にて10MPaに昇圧し、5分間予熱した後;脱圧、昇圧(10MPa)工程を10回繰り返した。次いで、再度10MPaに昇圧して5分間保持した後、脱圧した。その後、プレス成形機を用いてプレス温度50℃にて10MPaに昇圧することで冷却し、厚さ1mmのゲル状シートを得た。
【0072】
得られたゲル状シートを、2軸バッチ延伸機にて、120℃、2mm/min.の条件で同時2軸延伸した。延伸は、3×3倍まで均一に延伸可能であった。
【0073】
3×3倍に延伸した延伸シートを、脱パラフィン処理するために、テンターに固定し、ヘキサン中に23℃、10分間浸漬して微多孔膜を得た。得られた微多孔膜のTMAによるメルトダウン温度は、212℃であった。
【0074】
[実施例2]
4−メチル−1−ペンテン共重合体(A)の代わりに、4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)を用いた以外は実施例1と同様にしてゲル状シートを得た後、同時2軸延伸した。
【0075】
同時2軸延伸は、5×5倍まで延伸可能であった。また、5×5倍に延伸した延伸シートを、実施例1と同様にして脱パラフィン処理を行い、微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の、TMAによるメルトダウン温度は、215℃であった。
【0076】
[実施例3]
4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)を10質量部、超高分子量ポリエチレン ミペロンXM−220(三井化学(株)製)を30質量部、希釈剤として流動パラフィンP−350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンを0.2質量部配合し、実施例1と同様にしてゲル状シートを得た後、同時2軸延伸した。
【0077】
同時2軸延伸は、5×5倍以上まで延伸可能であった。また、5×5倍に延伸した延伸シートを、実施例1と同様にして脱パラフィン処理を行い、微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の、TMAによるメルトダウン温度は、170℃であった。
【0078】
[実施例4]
4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)を20質量部、超高分子量ポリエチレン ミペロンXM−220(三井化学(株)製)を20質量部、希釈剤として流動パラフィンP−350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、実施例1と同様にしてゲル状シートを得た後、同時2軸延伸した。
【0079】
同時2軸延伸は、5×5倍以上まで延伸可能であった。また、5×5倍に延伸した延伸シートを、実施例1と同様にして脱パラフィン処理を行い、微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の、TMAによるメルトダウン温度は、200℃であった。
【0080】
[実施例5]
4−メチル−1−ペンテン共重合体(B)を30質量部、超高分子量ポリエチレン ミペロンXM−220(三井化学(株)製)を10質量部、希釈剤として流動パラフィンP−350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、実施例1と同様にしてゲル状シートを得た後、同時2軸延伸した。
【0081】
同時2軸延伸は、5×5倍以上まで延伸可能であった。また、5×5倍に延伸した延伸シートを、実施例1と同様にして脱パラフィン処理を行い、微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の、TMAによるメルトダウン温度は、210℃であった。
【0082】
[比較例1]
超高分子量ポリエチレン ミペロンXM−220(三井化学(株)製)を40質量部、希釈剤として流動パラフィンP−350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、実施例1と同様にしてゲル状シートを得た後、同時2軸延伸した。
【0083】
同時2軸延伸では、5×5倍以上まで延伸可能であった。また、5×5倍に延伸した延伸シートを、実施例1と同様にして脱パラフィン処理を行い、微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の、TMAによるメルトダウン温度は、140℃であった。
【0084】
[比較例2]
4−メチル−1−ペンテン共重合体(C)(三井化学(株)製 RT18、重量平均分子量 5.6×10)を40質量部、希釈剤として流動パラフィン−P350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、実施例1と同様にしてゲル状シートを得た。
【0085】
得られたゲル状シートを、2軸バッチ延伸機にて、実施例1と同様にして120℃、2mm/min.の条件で同時2軸延伸したところ、2×2倍まで延伸することはできず、ゲル状シートが延伸工程で破断した。このため、微多孔膜を得ることができなかった。
【0086】
[比較例3]
ポリ4−メチル−1−ペンテン共重合体(D)(三井化学(株)製 MX002 重量平均分子量 6.0×10)を40質量部、希釈剤として流動パラフィン−P350P((株)MORESCO製)を60質量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、実施例1と同様にゲル状シートを得た。
【0087】
得られたゲル状シートを、2軸バッチ延伸機にて、実施例1と同様にして120℃、2mm/min.の条件で同時2軸延伸したところ、2×2倍まで延伸することはできず、ゲル状シートが延伸工程で破断した。このため、微多孔膜を得ることはできなかった。
【0088】
実施例1〜5および比較例1〜3の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0089】
表2に示されるように、重量平均分子量が10以上の4−メチル−1−ペンテン共重合体を含む実施例1〜5のゲル状シートは、高い延伸倍率まで延伸することができ、メルトダウン温度も約170℃以上と高いことがわかった。
【0090】
これに対して、4−メチル−1−ペンテン共重合体を含まない比較例1のゲル状シートは、高い延伸倍率まで延伸することはできるものの、メルトダウン温度が低いことがわかる。一方、重量平均分子量が10未満の4−メチル−1−ペンテン共重合体を含む比較例2〜3のゲル状シートは、高い延伸倍率まで延伸することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、耐熱性、機械的強度および液透過性に優れた微多孔膜を提供することができる。このため、本発明の微多孔膜は、特にメルトダウン特性に優れた、リチウムイオンバッテリー等の電池用セパレータとして好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1.0×10以上の4−メチル−1−ペンテン重合体を含む樹脂組成物からなる、微多孔膜。
【請求項2】
前記4−メチル−1−ペンテン重合体の重量平均分子量は、1.5×10以上2.3×10以下である、請求項1に記載の微多孔膜。
【請求項3】
空孔率が25%以上80%以下であり、メルトダウン温度が170℃以上である、請求項1または請求項2に記載の微多孔膜。
【請求項4】
前記4−メチル−1−ペンテン重合体は、4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と、前記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位とを含む4−メチル−1−ペンテン共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微多孔膜。
【請求項5】
前記4−メチル−1−ペンテン共重合体における、前記炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位の含有量は10質量%以下である、請求項4に記載の微多孔膜。
【請求項6】
前記微多孔膜は、前記樹脂組成物からなるフィルムの二軸延伸フィルムであって、
前記二軸延伸の面延伸倍率が9倍以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の微多孔膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の微多孔膜を有する、電池用セパレータ。


【公開番号】特開2011−228056(P2011−228056A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95221(P2010−95221)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】