説明

微小変位の検出方法および微小変位計

【課題】測定対象物が低反射性或いは光吸収性材質の場合でも、その微小変位を高感度に検出する方法、および小型で安価な高感度微小変位計を提供する。
【解決手段】入射計測光が金属薄膜1の界面に金属増強エバネッセント光を発生させるように、透明誘電体2に金属薄膜1を密着形成した光結合器を構成し、測定対象物5に対し間隙層6を介してこの光結合器を配置する。入射計測光により金属薄膜1の間隙層6側の界面に発生させた金属増強エバネッセント光が近接する測定対象物5と光学的に相互作用して、金属薄膜1と測定対象物5間の微小距離に依存した、光結合器からの反射検出光を、光検出器4で計測することによって、測定対象物5の微小変位を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の微小変位を高感度に検出する方法、およびこれを利用して測定対象物の微小変位を検出する、小型で安価な高感度微小変位計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の変位を非接触で光学的に検出するには、周知の通り、ドップラーシフトや光へテロダイン干渉等の光干渉の原理に基づき、測定対象物に光を照射して測定対象物からの反射光の干渉効果を利用している。(例えば、特許文献1、2等)
【0003】
しかしながら、これらの変位検出法の場合、計測光を測定対象物へ直接照射し、その反射光を検出しているために、測定対象物が金属等の光反射率の高い場合には、変位検出の感度が高いものの、反射率の小さい材質の測定対象物、例えばガラス、セラミックス、プラスチック、高分子ポリマー、色素等の低反射材や光吸収材に対しては、変位検出の対象として上記方法は、不向きであるという問題がある。
【0004】
その上、変位の検出に測定対象物からの反射光の干渉効果を利用しているために、反射率に大きく影響する要因、すなわち、測定対象物の材質の他に表面形状や表面状態等に変位検出の感度が著しく依存するという問題もある。
【0005】
また、測定対象物が透明物体である場合には、計測光が透明物体を通過し、その反対側の界面から反射した光も、測定対象物表面からの検出すべき反射光と同時に検出されることがあるために、入射光の条件によっては、正確な変位検出が上記方法では難しい場合がある。
【0006】
さらに、測定対象物からの反射光に基準光を干渉させ、その干渉縞の強度変化や位相変化から測定対象物の変位を検出しているために、光学系や計測装置が複雑になり、上記方法の場合には、微小変位計の小型化および低コスト化が困難である。
【0007】
これに対して、薄い金属薄膜を密着形成させた透明な誘電体からなる光結合器において、透明誘電体を通過した光が内部全反射領域の適宜な入射角度で金属薄膜に入射すると、透明誘電体と反対側の金属薄膜界面上にその界面からの距離に対し指数関数的に減少する、通常の伝搬光よりも増大した電界を伴った金属増強エバネッセント光が発生するという現象が認められた。
【特許文献1】特開2000−186912号公報
【特許文献2】特開2006−3290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、金属薄膜を密着形成した透明誘電体からなる光結合器と、この金属薄膜上に適宜の間隙層例えば空気層を介して測定対象物を配置し、金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、光を透明誘電体から金属薄膜へ入射させ、金属増強エバネッセント光が金属薄膜に近接する測定対象物と光学的に相互作用することによって、光結合器からの反射光が金属薄膜と測定対象物間の微小距離により変化し、これによって、測定対象物の微小変位を高感度に検出できる微小変位計を実現できる可能性がある。
【0009】
ここで、間隙層媒質が空気であり、金属薄膜と測定対象物間の距離が入射光波長の約5倍程度以上に大きい場合には、金属薄膜の間隙層側界面に発生させた金属増強エバネッセント光と測定対象物との光学的相互作用が著しく小さくなり、したがって、測定対象物の位置、すなわち金属薄膜と測定対象物間の距離に依存した反射光を得ることが難しくなる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、金属薄膜を密着形成した光結合器によって金属薄膜の間隙層側界面に発生させた金属増強エバネッセント光が近接した測定対象物と光学的相互作用が行えるように、測定対象物に近接した位置に光結合器を配置して、その光学的相互作用により、光結合器からの反射光が金属薄膜と測定対象物間の微小距離により変化し、測定対象物の位置に依存した反射光を計測することによって、測定対象物の微小変位を高感度に検出する方法、およびこれを利用した小型で安価な高感度微小変位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、金属薄膜を密着形成した透明誘電体からなる光結合器において、金属薄膜の空気間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、光結合器からの反射光が、金属薄膜と測定対象物間の微小距離により変化することを発見し、本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、金属薄膜に密着形成した透明誘電体からなる光結合器と、この金属薄膜上に適宜の間隙層を介して測定対象物を配置し、金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、入射計測光を透明誘電体より金属薄膜に入射して、この金属増強エバネッセント光が近接する測定対象物と光学的に相互作用して、光結合器からの反射検出光が金属薄膜の間隙層側界面から測定対象物までの微小距離に依存し、その反射検出光を光検出器で計測することによって、測定対象物の微小変位を検出するようにしたものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、透明誘電体上に金属薄膜を密着形成した光結合器であって、金属薄膜上に間隙層を介して測定対象物を配置した構成とし、透明誘電体が金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させるように入射計測光を導く機能を持ち、この金属増強エバネッセント光が近接する測定対象物と光学的に相互作用し、金属薄膜の間隙層側界面から測定対象物までの微小距離に依存した、光結合器からの反射検出光を、光検出器で計測することによって、測定対象物の微小変位を検出するように構成したものである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、金属増強エバネッセント光を発生させる入射計測光の偏光をTM(p)偏光としたものであり、これにより金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を効率良く発生させることができ、測定対象物の微小変位を高感度に検出するようにしたものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、測定対象物の微小変位が金属薄膜に対して垂直方向の微小な位置変化であって、光結合器からの反射検出光がこの垂直微小変位により著しく変化し、したがって、測定対象物の微小変位を高感度に検出できる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、間隙層媒質が空気であり、金属薄膜と測定対象物間の微小距離を入射計測光波長の約5倍程度以下に設定することによって、その金属薄膜の空気間隙層側界面に発生した金属増強エバネッセント光が測定対象物と光学的な相互作用を行えるようにしたものであり、したがって、測定対象物の微小変位に依存した反射検出光を得られるようにしたものである。
【0017】
さらに、請求項6に記載の発明は、金属薄膜は例えば銀薄膜であり、透明誘電体は例えばガラスプリズムであり、入射計測光は例えばレーザ光であり、光検出器は例えばフォトダイオードとしたものであり、光結合器からの反射検出光を計測することによって、金属薄膜に近接する測定対象物の微小変位を検出するように構成したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、伝播する通常の光による変位検出法と大きく異なり、界面に局在する金属増強エバネッセント光と測定対象物との光学的相互作用を利用しているため、測定対象物が低反射材や光吸収材であっても、その微小変位を高感度に検出することができ、これを利用して小型で安価な高感度微小変位計を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の微小変位の検出方法および微小変位計は、屈折率が間隙層媒質よりも大きい透明な誘電体に金属薄膜を密着形成させた光結合器において、透明誘電体を通過した入射計測光が内部全反射臨界角以上の適宜の入射角度で、金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させるようにしている。
【0020】
測定対象物が微小変位する雰囲気媒質は、前記の間隙層を形成する。その屈折率が透明誘電体よりも小さくかつ粘性の小さい非吸収性の媒質であれば、他に制限はなく、前記の光結合器によって、金属薄膜の間隙層側界面上に金属増強エバネッセント光を発生できる。
好ましい雰囲気媒質としては、空気をはじめ、真空、或いは窒素、アルゴン、ヘリウム等の気体が挙げられる。また、水やアルコール等のような屈折率が比較的低い透明な液体中であれば、それらの雰囲気媒質中でも測定対象物の微小変位を検出することが可能である。
【0021】
光結合器を構成する透明誘電体は、前記間隙層よりもある程度高い屈折率を持つ非吸収性の物質ならば特に制限はなく、例えばBK7をはじめ、SF11、LaSF9等のガラス材料、透明プラスチック材料や透明高分子ポリマー等が使用でき、目的とする光学材料の性状に応じて選択する。屈折率がある程度大きく安価で加工が容易である、好ましい光結合器の透明誘電体としては、ガラス、特にBK7ガラスが挙げられる。
【0022】
入射計測光を金属薄膜へ導く透明誘電体の形状も特に制限はなく、例えば45度直角三角形、正三角形、半円柱形、半球形、或いは板状等、間隙層媒質との内部全反射における入射角度で入射光を金属薄膜へ導入できるものであれば良く、入射計測光および反射検出光の光軸に応じて透明誘電体の形状を選択する。
【0023】
金属薄膜は、金属増強エバネッセント光が発生しやすい自由電子密度の高い金属材料、例えば金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、マグネシウム等、或いはこれらの合金が使用できる。金属増強エバネッセント光が発生しやすい、好ましい金属材料としては、特に銀と金が挙げられる。
銀は、可視光を含む近赤外から紫外線までの波長域で光吸収が他の金属よりも小さく、金属増強エバネッセント光の発生に最も適した金属材料であり、近赤外から紫外線までの広い波長域における入射計測光に対応できる。
また、金は、酸化膜等の表面改質がないために安定に金属増強エバネッセント光を発生できる金属材料であり、金材料特有の強い吸収帯が存在する紫外線から青色可視光までの波長域を除けば、本発明に適用する。
一方、銅やアルミニウムも本発明で使用できる金属薄膜材料である。銅は、金と同様に強い光吸収を示す紫外線から青色可視光までを除く波長域で、また、アルミニウムは、吸収の強い近赤外線を除く波長域において、それぞれ利用可能である。
【0024】
入射計測光が、前記光結合器において金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させるためには、金属薄膜には適切な厚さが必要である。例えば、入射計測光の波長が可視光領域であるときは、銀や金の場合で約50nm、光吸収の強いアルミニウムでは約15nm程度の膜厚が最適である。
【0025】
本発明の微小変位計で使用する入射計測光としては、レーザ光などの指向性の高い単色光が好ましい。白色光でも入射計測光として用いることが可能ではあるが、固定した入射角度で光結合器に光を入射させた場合、金属増強エバネッセント光の発生条件に適合しない波長の光が測定対象物の変位の影響を受けずにそのまま反射され、測定対象物の微小変位に依存する反射検出光と伴に光検出器へ入射して同時に検出される場合があるために、検出光におけるノイズ等の原因となるので望ましくない。
【0026】
また、光結合器からの反射検出光を計測することによって、測定対象物の微小変位を計測するために、入射計測光の光源には、出射光の出力が安定した機器を使用する。好ましい光源としては、出射光出力が制御された光源、例えば安定駆動の半導体レーザなどが挙げられる。
【0027】
さらに、入射計測光は、無偏光でも本発明の微小変位の検出方法および微小変位計に適応できるが、TM(p)偏光の入射光が金属増強エバネッセント光を効率良く発生させるために、本発明で使用する入射計測光としては、TM(p)偏光であることが適切である。
【0028】
これに対して、入射計測光がTE(s)偏光である場合、金属薄膜の平滑な界面上に金属増強エバネッセント光を発生させることが困難であり、TE(s)偏光の入射光は、本発明で使用する計測光としては適さない。
【0029】
金属薄膜の間隙層側界面に前記光結合器によって発生した金属増強エバネッセント光の電界は、その強度が金属薄膜界面から指数関数的に減少しており、その浸出長は、透明誘電体、金属薄膜や間隙層媒質の屈折率、金属薄膜の厚さ、及び入射光の波長や入射角度に依存する。
例えば、間隙層が空気層である場合には、その電界が入射計測光波長の約5倍程度以下の空気側領域に浸み出している。したがって、測定対象物の微小変位を検出するには、金属薄膜と測定対象物間の距離としては、入射計測光波長の約5倍程度以下が適切である。
【0030】
一方、金属薄膜と測定対象物間の距離が入射計測光波長の約5倍程度以上である場合には、金属増強エバネッセント光の電界強度は著しく小さくなるために、測定対象物との光学的相互作用が非常に小さくなり、したがって光結合器からの反射光は、測定対象物には殆ど影響を受けなくなる。よって、この場合には測定対象物の微小変位の検出が困難である。
【0031】
測定対象物の微小変位に依存する反射検出光を計測する光検出器としては、感度や応答性に優れているものが好ましい。特に、pn接合形や光導電形等の半導体光センサが望ましい。入射計測光の波長や出力、および検出する変位の応答速度等を考慮して、反射検出光の計測に適した光検出器を選択する。例えば、レーザ光のようにある程度の出力を持つ入射計測光を使用する場合には、光検出器としてpn接合形のフォトダイオードが適する。
【0032】
また、金属増強エバネッセント光の増強電界の浸出長は、空気間隙層の場合、入射計測光波長の約5倍程度であるために、測定対象物の検出可能な微小変位の範囲は、金属薄膜の空気間隙層界面から入射計測光波長の約5倍程度までである。したがって、検出できる微小変位の範囲を拡大するには、波長の長い入射計測光を用いるようにする。
【0033】
本発明で検出できる微小変位は、光結合器の金属薄膜上に発生させた金属増強エバネッセント光の電界が存在する領域内であれば、金属薄膜に対して垂直な方向に限らず、どの方向の変位であっても、その微小変位を検出することが可能である。
【0034】
しかしながら、この金属増強電界は、金属薄膜からの垂直方向の距離に対しその強度が最も大きく変化するために、金属増強エバネッセント光を発生させる入射計測光の、光結合器からの反射検出光は、金属薄膜に対して垂直方向の微小変位による変化が最も大きく、したがって、垂直方向の微小変位に対する検出感度が最も高い。
【0035】
本発明の微小変位の検出方法および微小変位計は、屈折率の高い透明誘電体を用いて金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させ、間隙層に浸み出した金属増強エバネッセント光の増強電界が測定対象物と光学的に相互作用して、測定対象物の位置に依存する、光結合器からの反射光を計測することによって、測定対象物の微小変位を得ることを特徴とする。
したがって、測定対象物は、金属増強電界と光学的に相互作用し、その増強電界を乱す物体として機能するために、反射率の高い物質、例えば金属等である必要は特になく、屈折率が間隙層と異なる物質であれば何でも良く、測定対象物の材質に依存することなく、その微小変位を検出できる。
【0036】
測定対象物の材質としては、金属は勿論、例えばセラミックス、ガラス、プラスチック、高分子ポリマー、色素、紙材、木材等、或いはこれらの複合材であっても良く、本発明は、低反射性材料や光吸収性材料、或いは透明材料等、幅広い材質の測定対象物に適応する。
【0037】
また、測定対象物の形状としては特に制限はなく、入射計測光の照射面に対向する測定対象物の変位検出面は、特に平面である必要はなく、曲率を持った曲面形状、例えば半球状、角状、或いは針状等であっても良い。
【0038】
さらに、測定対象物の変位検出面は、表面粗さや汚れなどが存在しても良く、どのような状態でも変位検出の対象となる。
【実施例】
【0039】
次に、図面に基づいて本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0040】
図1は、本発明の微小変位計の実施例における断面図である。1は金属薄膜である例えば厚さ約50nmの銀薄膜で、2は透明誘電体である例えばBK7ガラスの一辺15mmの45度直角三角形プリズム、3は入射計測光の光源例えば波長0.532μmでビーム径約1mmのレーザダイオード励起固体レーザ、4は光結合器からの反射光を検出するための光検出器で例えばシリコンpn接合形フォトダイオード、5は測定対象物である例えば光吸収性色素膜が表面被覆された直径約1.8mmの、圧電素子の駆動によって微小変位するステンレス製ロッドであり、6は金属薄膜1と測定対象物5との間隙層である例えば空気層である。
【0041】
BK7ガラスの45度直角三角形プリズム2は、光源3からの入射計測光を所要の入射角度で銀薄膜1へ導く透明誘電体として機能し、入射計測光が銀薄膜1の空気間隙層6側の界面上に金属増強エバネッセント光を発生させる役割をはたす。すなわち、銀薄膜1を密着形成した透明誘電体プリズム2が光結合器を構成する。BK7ガラスは可視光領域で約1.52の屈折率を持ち、空気との内部全反射臨界角度は約41.2度であり、この角度以上における、金属増強エバネッセント光が発生する適宜の入射角度で入射計測光を銀薄膜1へ入射させる。
【0042】
銀薄膜1の厚さは、前項の厚さより半分程度薄い場合、或いは2倍程度厚い場合でも金属増強エバネッセント光の発生が難しくなる。
【0043】
上記のステンレス製ロッドは、それに取り付けられた圧電素子を駆動することによって微小変位し、測定対象物としての役割をはたす。
【0044】
測定対象物5の変位検出面であるロッド先端の平坦面部分は、光吸収性色素である例えば銅フタロシアニン色素が真空蒸着法により厚さ約1.5μmで表面被覆され、その平坦面部分では、可視光、特に緑色から赤色の光が照射された場合に光がその色素層に吸収され、そのロッド先端における光反射は極めて小さくなっている。したがって、このロッドは、光吸収性媒体の測定対象物として機能する。
【0045】
金属薄膜1の間隙層6側の界面上に発生させた金属増強エバネッセント光の増強電界が、測定対象物5と光学的に相互作用することができるような位置に光結合器を配置して、測定対象物5の垂直方向の微小変位により金属薄膜1と測定対象物5間との微小距離が変化するために、金属増強エバネッセント光を発生させる入射計測光の、光結合器からの反射光が変化する。したがって、この反射検出光が測定対象物の微小変位に敏感に応答することになる。
【0046】
例えば、入射計測光としてTM(p)偏光のレーザ光を、銀薄膜1の空気間隙層6側の界面に金属増強エバネッセント光が発生する入射角度で光結合器を通じて入射させ、圧電素子を駆動して測定対象物5を金属薄膜1の空気間隙層6側界面から十分離れた位置から金属薄膜1に対し垂直方向に微小接近させたときの、光結合器からの反射検出光を光検出器4で計測した一結果例を図2に示す。
【0047】
この図2は、金属薄膜1の空気間隙層側の界面から近接距離約3.6μmの位置から、測定対象物5を金属薄膜1に対し垂直方向に接近させたときの、反射検出光の強度変化を示したものである。
測定対象物5が金属薄膜に近づくにつれて、ほぼ直線的に反射検出光が増加している。特にこの場合、入射計測光の波長0.532μmの約5倍の距離、すなわち約2.7μm以下の範囲において、反射検出光の強度変化が極めて直線的である。なお、反射検出光の強度変化は、上記距離を約4.0μmと離した位置における反射検出光の強度に対する割合として表示している。
【0048】
この場合、測定対象物5が金属薄膜1に接触した場合、反射検出光の強度変化が見られなくなった。一方、金属薄膜1からの距離が約4.0μm以上と十分離れた位置に測定対象物5を設置した場合でも、反射検出光の強度は一定となった。このように、本実施例の図2に示すように、上記金属薄膜1と測定対象物5間の近接距離が入射計測光波長の約5倍程度以下の範囲において、測定対象物5の微小変位に依存した反射検出光が得られた。
【0049】
ここで、入射計測光の偏光をTE(s)偏光とした場合には、図2のような測定対象物5の微小変位に応じて変化する反射検出光は観測されず、TE(s)偏光の入射計測光は、金属薄膜1の界面に金属増強エバネッセント光を発生させることが困難である。
【0050】
また、測定対象物5は、金属薄膜1の空気側界面からの距離が入射計測光波長の約5倍程度以下の位置において、金属薄膜1に対し垂直方向に微小変位させており、金属薄膜1と測定対象物5間の距離がこれ以上に大きくなると、金属増強エバネッセント光の増強電界が著しく小さくなり、測定対象物5の微小変位に依存した反射光を得ることが難しくなる。
【0051】
したがって、間隙層が空気層である場合、測定対象物の微小変位を検出するためには、金属薄膜に対する測定対象物の初期位置を入射計測光波長の約5倍程度以下に設定することが好ましい。
検出できる微小変位の最大範囲は、その測定対象物に対する光結合器の設定位置に依存し、測定対象物がその微小変位によってその金属薄膜に直接衝突しない範囲、および入射計測光波長の約5倍程度以下の範囲において、測定対象物に対して光結合器を配置する。
【0052】
実施例の図2では、測定対象物5の位置が静的に微小変化し、その微小変位を検出しているが、動的な微小変位、すなわち微小振動であっても、周期的および不規則な微小振動に関らず、測定対象物の微小振動に時間的応答が可能である光検出器を用いることによって、その微小振動を光結合器からの反射光の変化として検出できる。100kHz以上の高周波数帯域における微小変位検出には、例えば高速応答できるPINフォトダイオードやアバランシェフォトダイオード(APD)を使用する。
【0053】
入射計測光の光源には、ここでは小型の半導体固体レーザを使用したが、ガスレーザ、又は光学レンズ利用による指向性を持った発光ダイオード(LED)なども使用できる。
【0054】
さらに、この実施例の場合では、図1に示す入射角度θが約41.2度の内部全反射臨界角度以上である約43度〜約45度付近で、銀薄膜上に金属増強エバネッセント光を発生させることができ、この入射角度範囲においてレーザ光を入射させている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、超精密モータ等の高速回転体、高速変位体や変位素子、さらにMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)等の微小変位計測において、変位体の微小変位を高感度に検出する方法を提供し、小型で低コスト化が要求されるような高感度微小変位計として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例の構成を示す概略図である。
【図2】本実施例において、入射計測光が光結合器の金属薄膜1の間隙層6側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、測定対象物5が金属薄膜1に対して垂直方向に微小接近したときの、光検出器4で計測した反射検出光の強度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 金属薄膜
2 透明誘電体
3 入射計測光の光源
4 光検出器
5 測定対象物
6 間隙層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜を密着形成した透明誘電体からなる光結合器と、この金属薄膜上に適宜の間隙層を介して測定対象物を配置し、前記金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、入射計測光を前記透明誘電体より前記金属薄膜に入射して、この金属薄膜の前記間隙層側界面から前記測定対象物までの微小距離に依存した、前記光結合器からの反射検出光を、光検出器で計測することによって、前記測定対象物の微小変位を検出することを特徴とする微小変位の検出方法。
【請求項2】
金属薄膜を密着形成した透明誘電体からなる光結合器と、この金属薄膜上に適宜の間隙層を介して測定対象物を配置した構成とし、前記金属薄膜の間隙層側界面に金属増強エバネッセント光を発生させる入射光条件において、入射計測光を前記透明誘電体より前記金属薄膜に入射して、この金属薄膜の前記間隙層側界面から前記測定対象物までの微小距離に依存した、前記光結合器からの反射検出光を、光検出器で計測することによって、前記測定対象物の微小変位を検出するように構成したことを特徴とする微小変位計。
【請求項3】
前記入射計測光が、TM(p)偏光であることを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の微小変位の検出方法又は微小変位計。
【請求項4】
前記測定対象物の前記微小変位が、前記金属薄膜に対して垂直方向の変位であって、前記測定対象物の前記垂直方向の微小変位を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微小変位の検出方法又は微小変位計。
【請求項5】
前記間隙層は空気層とし、前記金属薄膜と前記測定対象物間の前記微小距離を前記入射計測光波長の約5倍程度以下に設定し、前記測定対象物の前記微小変位に依存した前記反射検出光が得られるように、前記測定対象物に対し前記光結合器を配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微小変位の検出方法又は微小変位計。
【請求項6】
前記金属薄膜は銀薄膜であり、それを密着形成させる前記透明誘電体はガラスプリズムであり、前記入射計測光はレーザ光であり、前記反射検出光を計測する前記光検出器はフォトダイオードであることを特徴とする請求頃5に記載の微小変位計。

【図1】
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【図2】
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