説明

微小容量圧力計

【課題】HPLC/SFC/SFEのポンプ・自動圧力調整弁等に取付けられる圧力計の溶媒置換性の改善、及び測定精度を改善する。
【解決手段】配管継手に類似した形状の六角材260に内径1.0mmの貫通穴266を開ける。その一片を削り、貫通穴外周との距離が0.5mmとなるようにし、その表面を研磨して歪測定用歪ゲージ貼付面270とする。貫通穴両端には配管接続用の孔264を作成する。歪ゲージは、点線で囲まれた歪測定用歪ゲージ貼付面270の中央に1枚と、温度補正用として平面内もしくは六角材外面の温度測定要歪ゲージ貼付面272に別に2枚とを貼り付ける。それぞれの歪ゲージにてブリッジ回路を組み、信号を出力するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力計の溶媒置換性を改善するための流路中に設けられた微小容量の圧力計に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(HPLC)は、移動相を送液するポンプ、試料注入のオートサンプラ、試料分離のカラム、試料検出の検出器で構成される。ポンプから送液される移動相と一緒に、オートサンプラから注入された試料が固定相を通過すると、カラム内で二つの相が相互作用を起こす。そして、分配係数の差異や固定相表面と試料との吸着力の差を利用して、成分ごとに試料を分離し精製している。
【0003】
このとき、移動相組成を時間変化させることにより、試料の溶出時間を変化させることができる。このような操作を行い、試料を溶出する方式を一般にグラジェント溶出法という。例えば、水とメタノールの組成を時間変化させるときは、まずメタノールの組成を少なくすることにより極性の高い物質が溶出し、その後メタノールの割合を次第に増加させていくことにより、より極性の低い物質を溶出させることができる。
【0004】
また、グラジェント溶出法は、ポンプからの溶媒の送液方法により2種類に分類される。一つの方法は、ポンプを複数台設け、それぞれに溶媒を満たし、各ポンプのそれぞれの流速を目的移動組成比に一致するよう送液し、連続的に時間変化する移動相溶媒をカラムに導入するもので、「高圧混合グラジェント法」と呼ぶ。もう一つの方法では、まず、1台のポンプの上流に溶媒切替器を設け、溶媒切替器には複数種の溶媒を接続しておく。ポンプの吸引速度に合わせて、ある一定周期における各溶媒の吸引容量が目的移動相組成比となるように溶媒を順次切換え、目的移動相組成比に一致する溶媒を吸引送液することにより、連続的に時間変化する移動相溶媒をカラムに導入する方法で、「低圧混合グラジェント法」と呼ぶ。
【0005】
上記のポンプはおおまかに、移動相を吸引吐出するピストンやチェック弁、脈流を抑える圧力ダンピング部、及び圧力を計測する圧力計部より構成されている。
低圧グラジェント法を実施する場合は、移動相吸引部に溶媒切替器を接続することとなる。低圧グラジェント法においては特に切り替えられた溶媒組成を速やかに反映させることが大変重要であり、そのためにはポンプに良好な溶媒置換性が求められる。
また、高圧グラジェント法、低圧グラジェント法のいずれにおいても装置のトラブルシュートを行う目的で圧力計により装置内の圧力変動を監視することが必要となる。
連続送液中に圧力が大きく変化したり、圧力の変動が極端に大きくなったりする場合は、装置内に何らかの問題が生じている可能性が高い。
例えば、特に圧力が普段より高い値を示すときは、流路の詰まり等が生じている場合がある。また、分離カラムの種類によっては、耐圧があまり高くないものがあり、そういったカラムを使用する場合は上限圧力を設定してカラムを保護する必要がある。一方、特に圧力が普段より低い値を示すとき、もしくは変動が極端に大きいとき等は、流路からの液漏れが懸念される。
したがって、適切にトラブルシュートを行うためには精度の高い圧力計が必要である。
【0006】
また、超臨界流体クロマトグラフ(Supercritical fluid chromatograph, SFC)では、HPLCと同様に移動相を送液するためのポンプ、試料注入のオートサンプラ、試料分離のカラム、及び試料検出の検出器で構成され、さらにその下流にシステムの圧力制御を行う自動圧力調整弁が設置されている。
SFCにおいてもHPLCと同様、分析の他に分取用途にも用いられており、移動相を送液するためのポンプ、試料検出の検出器、システム圧力制御を行う自動圧力調整弁により構成されている。また、超臨界抽出(Supercritical fluid extraction, SFE)も同様に自動圧力調整弁を有する構成である。
【0007】
このSFE・SFCで用いられる自動圧力調整弁のおおまかな構成は、システムの圧力を測定する圧力計部及び弁部により構成される。分離もしくは抽出した成分を自動圧力調整弁の下流で採取するので、溶媒置換性が低ければコンタミネーションが起こる場合がある。それゆえに、圧力計部に良好な溶媒置換性が求められる。
【0008】
(従来型圧力計の測定原理)
従来型の圧力計の測定原理について説明する。HPLC/SFC/SFEシステムのポンプやSFE/SFCシステムの自動圧力調整弁に用いられる圧力計は、圧力を測定する容器を設け、その容器に図1に示されている圧力計を設置することにより、容器内に満たされた溶媒の圧力を計測する方法で行われている。従来型圧力計10は、ハウジング構造でその先端に形成された肉薄のダイアフラム部12の歪みを電気信号として取り出す歪ゲージ14とを備える。そして、ダイアフラム部12の外側より圧力がかかるとダイアフラム部12が変形し、その変化量は歪ゲージ14の抵抗変化量として計測される。
【0009】
(従来型圧力計の内部構造)
このような形態の圧力計には、溶媒の導入・排出の方式により、2種類の容器形状に大別される。一つは、図2に示された圧力計内部に流路を設けて流通させる流通型である。
流通型のダイアフラム型圧力計20は、圧力メータ(図示しない)を支持する圧力メータ支持部22と、圧力容器24と、圧力メータ支持部22と圧力容器24とを接続する接続部26と、ダイアフラム部30と、ダイアフラム部30に貼付けられた歪ゲージ28と、流体の流路32と、流路32の入口34及び出口36とを備えている。
流路32の入口34から流入した流体は、流路32を通過する。そのとき、流体による圧力がダイアフラム部30に伝えられ、ダイアフラム部30に歪みが生じる。歪ゲージ28はその歪みを検知し、電気信号として圧力メータに伝える。その後、流体は流路の出口36から排出される。
【0010】
もう一つは、図3に示された圧力計内部に流入した流体を滞留させる滞留型である。
滞留型のダイアフラム型圧力計40は、圧力メータ(図示しない)を支持する圧力メータ支持部42と、圧力容器44と、圧力メータ支持部42と圧力容器44とを接続する接続部46と、ダイアフラム部50と、ダイアフラム部50に貼付けられた歪ゲージ48と、流体の滞留部52と、滞留部52への流体の流入口54とを備えている。
流入口54から流入した流体は、滞留部52へ流入する。そのとき、流体による圧力がダイアフラム部50に伝えられ、ダイアフラム部50に歪みが生じる。歪ゲージ48はその歪みを検知し、電気信号として圧力メータに伝える。その後、流入した流体は流入口54から徐々に排出される。
【0011】
(従来型圧力計の溶媒置換性の問題)
HPLC/SFC/SFEシステムのポンプには、いずれの方式も使用されるが、滞留型よりも流通型が望ましい。その理由は、滞留型においては内部構造上、移動相溶媒が滞留するので溶媒置換性が非常に悪いものとなり、移動相溶媒種を変更するとき多量の溶媒が必要となるからである。
また、滞留型における溶媒置換性の悪さは以下の理由で低圧グラジェント法において致命的な問題となる。滞留型の圧力計を用いたポンプを低圧グラジェント法に用いると、圧力計の滞留部の溶媒置換性が悪いため、移動相の組成比を正確に制御しても、異なる組成の溶媒が圧力計滞留部より徐々に排出され移動相と混じりあうため、ポンプから送液される移動相組成は制御した組成比とは異なるものとなってしまう。これは、正確なクロマトグラムを得るための支障となるため好ましくない。
【0012】
一方、SFEにおける自動圧力調整弁の圧力計部についても、滞留型よりも流通型が望ましい。滞留型においては溶媒の置換性が非常に悪いため、分離・抽出した試料が滞留していた溶媒と混合されてしまい、分取する試料の純度を悪化させる原因となるためである。
したがって、HPLC/SFC/SFEシステムのポンプ及び自動圧力調整弁には、圧力計内部を流通するような内部構造をもつ流通型の圧力計が一般的には用いられている。
【0013】
しかしながら、流通型圧力計を用いてもなお溶媒置換性が十分とはいえないのが現状である。図4は、図2に示す流通型圧力計内部における溶媒の流速分布を模式化したものである。矢印線の太さは流速の大小を示す。容器の出入り口を直線的に結ぶ中央付近の溶媒流速は早いが、周辺部に行くに従い溶媒流速は低下する。つまり、周辺部において滞留が発生しやすいことを示している。
また、従来型圧力計の内部は流路配管に比べて十分大きなデッドボリュームがあり、さらにその一部に流れの悪い箇所が存在するので滞留が生じやすい。
【0014】
(流通圧力計の内部容量の縮小化に伴う問題)
さらに、流体が充てんされる流通型圧力計の内部容量を改善することが困難である。
流通型圧力計の溶媒置換性を改善するために流通型圧力計内部の容量を縮小化したときの問題について検討した。この形態の圧力計では、円形のダイアフラムが受圧部となるため、その全面に圧力測定の対象となる流体が存在していなければならない。圧力計内部の容量を小さくするためには圧力変換器のダイアフラム部と圧力容器との間の距離(間隙)が圧力計の容量に相当するので、容量を小さくするためにはこの距離を小さくすることになる。しかしながら、この距離を小さくしすぎると、図4に示される周辺部の流速が極端に低速となってしまい、結果として良好な溶媒置換性は得られないことになる。そのため、この距離は0.5mmが現実的な最小値となる。また、このときの圧力計の最小容量を計算すると40μLとなる。
【0015】
一般的に用いられているダイアフラム型圧力変換器では、その内部容量を抑えることが実質的に難しいことから、ダイアフラム型を採用する限り、それ以上に置換性のよい圧力計に改善することはできないと考えられる。
そこで、先行技術文献の「[特許文献1]特開平10−132676」に記載されているように直線管状、すなわち配管に直接歪ゲージを貼付けたものを採用すれば、溶媒置換性の問題は発生しないと考えられていた。
【0016】
しかし、配管の場合、配管の全周にわたり圧力がかかるため歪ゲージが貼付されていない部分に歪みが生じることがある。その結果、特に圧力がかかり始めた時点で歪ゲージに正しく歪みが生じないため測定精度が下がってしまう。
また、一般的な歪ゲージは曲面部では正しい性能を発揮できない。歪ゲージの抵抗体はゲージベースと、ゲージベースと抵抗体とを接着する接着層の上にあるので、曲面に歪ゲージを貼り付けた場合、歪ゲージの接着層とゲージベースの厚みの分抵抗体を曲面の外周に貼り付けたのと同じことになるためである。そのため、抵抗体に生じる歪みが通常より大きくなり誤差を生じやすい。したがって、誤差の発生を防ぐためには平面部に貼付けて使用する必要がある。
【0017】
そこで、HPLC/SFC/SFEの配管の中を流れる流体の流れを妨げず、測定精度の面でも良好な圧力計が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−132676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、HPLC/SFC/SFEのポンプ・自動圧力調整弁等に取付けられる圧力計の溶媒置換性の改善を鑑みてなされたものであり、その目的は、配管を流れる流体の流れを妨げず、圧力計を配管に直接接続する形式を用いて加圧時の歪み量を測定しており、測定値を温度補正する圧力計、そして、該圧力計を使用して圧力範囲ごとに設定される数式を用いることにより、さらに測定精度を改善する圧力の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで、請求項1に記載された構成の圧力計を用いて配管内の圧力を測定することにした。
すなわち、本発明は、配管を流れる流体の圧力を測定する圧力計において、
該圧力計を貫通し、直線状かつ円筒状の内部空間を持つ金属製の圧力計の本体は、
圧力計の外部に、歪ゲージを貼付することにより内部空間に流体を流したときに生じる内部空間への圧力が実質的に検知可能な厚さの位置に歪測定用歪ゲージ貼付面と、
内部空間の外周の一部に歪測定用歪ゲージ貼付面があり、それ以外の部分は歪ゲージを貼付けても内部空間への圧力が実質的に検知不能な厚さと、を有し、
内部空間の両端部に配管を接続して流体の流路中に圧力計を設置し、歪測定用歪ゲージ貼付面に歪測定用歪ゲージを貼付して配管内の圧力値を測定することを特徴としている。
なお、ここでいう「厚さ」とは内部空間の外周と圧力計の外面との厚さのことを意味する。
また、「実質的に検知可能な厚さ」とは歪ゲージが歪ゲージ貼付面の歪みを検知できる程度の厚さであることを意味する。例えば、50−100MPaの圧力範囲においては内管と検出部との厚さが4mmを超えるとステンレス鋼では実質的に測定不能となり、また、0−20MPaの圧力範囲においては樹脂では10mmを超えると測定不能となる。
【0021】
また、正確な圧力値を測定するためには配管を流れる流体からの熱による鋼材の熱膨張を考慮することも必要である。
そこで、請求項2に記載されているように、圧力計の外部に、歪ゲージを貼付することにより内部空間に流体を流したときに生じる内部空間への圧力が実質的に検知不能な厚さの位置で、かつ流体の熱により熱膨張したことによる圧力計構成材の歪みが検知可能な厚さの位置に温度補正用歪ゲージ貼付面をさらに有し、
温度補正用歪ゲージ貼付面に温度補正用歪ゲージを貼付して圧力計の熱膨張による歪みを測定することにより、圧力値を補正することを特徴としている。
また、「実質的に検知不能な厚さ」とは歪ゲージが歪ゲージ貼付面の歪みを検知できないぐらいの厚さであることを意味する。つまり、内部空間からの圧力によってほとんど伸長しない程度に歪ゲージ貼付面が十分に厚い状態であることを示している。
【0022】
さらに、測定精度を高めるために温度補正された信号出力値を数式を用いて補正して圧力値を求めている。
すなわち、請求項3に記載されているように、
Xを歪ゲージからの信号出力値、Yを圧力値として、所定の圧力範囲毎にa、bを持つようにした一次式(Y=aX+b)に、前記歪ゲージから得られる信号出力値を対応する圧力範囲の数式に代入し、圧力値Yを求めること、
もしくは、全範囲の圧力範囲の信号出力値Xと圧力値Yとの関係を示した多項式(Y=aX^(n−1)+aX^(n−2)+…+aX^0)を満たすようにa(i=1〜n)を決定することにより複数の圧力範囲に適用できる数式とし、前記歪ゲージから得られる信号出力値を該数式のXに代入して圧力値Yを求めるのが好適である。
【0023】
また、本発明に係る圧力計は配管同士を繋ぎ合わせる継手としても利用することができる。すなわち、請求項4に記載されているように、圧力計の内部空間の流体出入り口の両側をそれぞれ装置内部の配管に接続することにより、配管同士を繋ぎ合わせる継手として使用するのが好適である。
また、本発明に係る圧力計をポンプ、自動圧力調整弁に用いることができる。
すなわち、請求項5に記載されているように、本発明に係るポンプは、圧力計の内部空間の流体出入口をポンプ内部の配管に接続し、該圧力計内の流体の圧力を測定するのが好適である。
また、請求項6に記載されているように、本発明に係る自動圧力調整弁は、圧力計の内部空間の流体出入口を自動圧力調整弁内部の配管に接続し、該圧力計内の流体の圧力を測定して所望の設定値に調整するのが好適である。
【0024】
また、本発明に係る圧力計を備えたポンプをHPLC装置に用いることができ、本発明に係る圧力計を備えた自動圧力調整弁をSFC装置やSFE装置に用いることができる。
すなわち、請求項7に記載されているように、本発明に係るHPLC装置は、前記ポンプを備えるのが好適である。
また、請求項8に記載されているように、本発明に係るSFC装置は、前記ポンプを備えるのが好適である。
また、請求項9に記載されているように、本発明に係るSFC装置は、前記自動圧力調整弁を備えるのが好適である。
また、請求項10に記載されているように、本発明に係るSFE装置は、前記ポンプを備えるのが好適である。
また、請求項11に記載されているように、本発明に係るSFE装置は、前記自動圧力調整弁を備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0025】
(溶媒置換性の改善)
以上説明したように、本発明はHPLC/SFC/SFEの配管を、本発明に係る貫通する直線状かつ円筒状の内部空間が設けられた鋼材に直接接続する形式としたので、従来のダイアフラム型圧力計の容量と比べて容量のダウンサイジングがなされている。例えば、内径1.0mm×長さ10mmの流路を設ける圧力計を作成するとその容量は8μLとなるので、従来型圧力計の最小容量(40μL)と比べると1/5ということになる。
また、従来型圧力計の内部は流路配管に比べて十分大きなデッドボリュームがあり、さらにその一部に流れの悪い箇所が存在するので滞留が生じやすいのに対し、本発明の圧力計は前後の流路配管に対し直線状の流路を持つので滞留が生じない。
したがって、本発明の圧力計を用いることにより、圧力計内部の容量が小さくなり、また、流体の流れがスムーズになるため、溶媒置換性を圧倒的に改善する効果が得られる。
【0026】
(測定精度の改善)
以上説明したように、本発明に係る圧力計は配管に直接歪ゲージを貼付するのではなく、貫通する直線状かつ円筒状の内部空間が設けられた金属に、歪測定用歪ゲージ貼付面と温度補正用歪ゲージ貼付面とを設け、それぞれに歪測定用歪ゲージと温度補正用歪ゲージを貼り付けたものを用いている。
そして、本発明においては歪測定用歪ゲージ貼付面以外の部分は、歪ゲージを貼付けても内部空間への圧力が実質的に検知不能な程度の強度を有する構造を保つよう厚みを調整するようにした。
ここで、配管構造では全周に歪みが発生するため歪みが残り易く、特に圧力低下時に歪量が復元するのに時間がかかるため、配管外壁に歪ゲージを貼り付ける方法では、変動する圧力測定には適さない。
これに対して、本発明においてはこのように圧力による変形する部分を圧力により変形しない部分で囲い込む構造にしたことにより、圧力解放時に形状が復元するスピードが速くなる。すなわち、加圧により歪む部分(加圧感応部)を加圧により歪まない構造で取り囲むことにより、加圧-加圧解除を繰り返したときの加圧感応部の歪みが、瞬時に元の歪みがない形状に復元できる。また、内圧が変化したときも、内圧が瞬時に歪量に反映される。
したがって、本発明に係る構造の圧力計では、加圧により歪まない部分を設けることにより応答性の良い圧力計測が可能となる。
【0027】
また、配管に直接貼り付ける方法では、同一肉厚を持つ配管に加圧した場合、全配管が歪むため、圧力計測用歪ゲージの温度補償を行うための基準となる鋼材面を確保できない。
本発明では先述の加圧により歪まない箇所に温度補正するための歪ゲージを貼り付けて圧力計を構成する鋼材の熱膨張を測定することができる。これにより、本発明は温度補正を行うことを可能にしている。
【0028】
本発明の圧力計の圧力値は、ダイアフラム型の圧力計の圧力値と比較しても偏差は遜色なく十分な測定精度を有するが、圧力範囲ごとにa、bをもつようにした数式(Y=aX+b;Yは圧力値、Xは信号出力値)、もしくはY=aX^(n−1)+aX^(n−2)+…+aX^0を満たすようにaを決定した式を用いて、歪ゲージからの信号出力値を補正して圧力値を求めることにより、さらに測定精度を高める効果が得られる。
【0029】
(製造コスト)
従来の圧力計は、圧力計本体および容器の体積が大きいため金属材質の使用量が多い。また、圧力計本体の内側に歪ゲージを貼付する技術を要するので、総じて高価となる。その点、本発明による圧力計は、六角配管継手相当の体積であり、歪ゲージも表面部に貼付けるため材料面・技術面の双方でコストを抑えて製造することができる。
【0030】
(圧力計のサイズ)
本発明による圧力計のサイズは、六角配管継手と同サイズとすることが可能であり、従来型よりもはるかに小さくすることができる。より小さなスペースに設置することが可能となり、ポンプや自動圧力調整弁のサイズを小さくすることができるほか、様々な用途に使用することができる。また、配管の継手として兼用することもできるので利用性も高い。
【0031】
(圧力計の用途)
本発明における圧力計は、流路配管同士をつなぐ継手として作用するため、一連の流路(連続する流路配管)の一部のように存在する利点がある。流路系の任意の箇所に複数使用することができるため、クロマトグラム測定中/抽出中にクロマトグラフ/抽出装置のあらゆる任意の箇所の圧力を連続的に測定し、クロマトグラムに関連付けることができる。したがって、本発明における圧力計は、ポンプや自動圧力調整弁の装置内部に使用する以外にも、クロマトグラム測定時やサンプル抽出時の各箇所の圧力を連続測定した圧力プロファイルを提供することができる。
これは、クロマトグラムや抽出サンプルの適格性を示すバリデーション情報として有用である。特に、クロマトグラフィにおいては、Performance Qualification(使用時適格性確認)の実作業である「システム適合性試験」のデータとして用いられることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】一般的な圧力計を示した図である。
【図2】流通型のダイアフラム型圧力計の内部構造を示した図である。
【図3】滞留型のダイアフラム型圧力計の内部構造を示した図である。
【図4】流通型圧力計内部における溶媒の流速分布を模式化して示した図である。
【図5】HPLC/SFC/SFEのポンプ装置内の流路図である。
【図6】HPLC/SFC/SFEのポンプ装置内の溶媒切替バルブを示した図である。
【図7】HPLC/SFC/SFEのポンプ装置内のポンプヘッドを示した図である。
【図8】ポンプヘッドのプランジャに係る部分を示した図である。
【図9】HPLC/SFC/SFEのポンプ装置内のダンパを示した図である。
【図10】HPLC/SFC/SFEのポンプ装置内のフィルタを示した図である。
【図11】プランジャの駆動部を示した図である。
【図12】プッシュロッドの先端部を凸型の曲面としたものを示した図である。
【図13】プッシュロッドの先端部が凹型の曲面としたものを示した図である。
【図14】ポンプヘッドの位置決め用のガイドピンを示した図である。
【図15】ポンプヘッドのネジの固定箇所を示した図である。
【図16】ポンプヘッドのバックアップリングの位置を示した図である。
【図17】ポンプヘッドの洗浄機構を示した図である。
【図18】従来のダイアフラム型の圧力計を使用したポンプ装置内流路図を示した図である。
【図19】本発明による圧力計を使用した自動圧力調整弁の実施例を示した図である。
【図20】従来の圧力計を使用した自動圧力調整弁の実施例を示した図である。
【図21】計算により求めた圧力に対する外径変化率の変化を示した図である。
【図22】試作した圧力計1を示した図である。
【図23】配管に歪ゲージを貼付けるときの様子を示した図である。
【図24】一般的なブリッジ回路を示した図である。
【図25】圧力計1の信号出力変化を示した図である。
【図26】試作した圧力計2を示した図である。
【図27】圧力計2の信号出力変化を示した図である。
【図28】圧力計3の平面図、側面図、及び断面図を示した図である。
【図29】圧力計3の信号出力変化を示した図である。
【図30】参照用圧力計(ダイアフラム型)を使用したときのサンプルバンドの広がりを示した図である。
【図31】圧力計3を使用したときのサンプルバンドの広がりを示した図である。
【図32】参照用圧力計及び圧力計3での圧力測定値の偏差について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(ポンプの実施例)
【実施例1】
【0034】
図5に本発明の圧力計を使用したHPLC/SFC/SFEのポンプ装置内の流路図を示している。
ポンプ装置60は、切替スイッチ72を備えた溶媒切替バルブ62と、一番目のポンプヘッド82と二番目のポンプヘッド86とを備えたポンプヘッド64と、本発明に係る新型の圧力計68と、ダンパ66と、出口フィルタ69とを備えている。
【0035】
溶媒切替バルブ62より流れてきた溶媒が、ポンプヘッド64で送液量の制御がなされて一定の送液量でダンパ66へ送液され、ダンパ66はポンプヘッド64で調整し切れなかった脈動を抑えるので、これにより一定の圧力を保つことができる。そして、その圧力は新型圧力計68にて検知しており、圧力が大きすぎたり、小さすぎたりすることを検知することにより、クロマトグラフ/超臨界抽出装置に何らかの問題が生じていることを察知することができる。また、分離カラムの耐圧が高くない場合は、上限圧力を超えないようポンプヘッド64にて送液量の上限圧力を設定することができる。そして、溶媒が所望の流量で出口フィルタ69を通じて排出される。
本発明の圧力計は流路上の継手として設置できる。従来の圧力計に比べてポンプ装置内への設置が容易である点で有益である。さらに、本発明の圧力計は小型であるのでポンプ装置全体のサイズを小さくすることも可能である。
【0036】
(ポンプ装置の構成部品の説明)
また、溶媒ビンもしくは脱気装置から移動相を流入するインレットチューブ(図示せず)は、図6に示されている溶媒切替バルブ62のインレットチューブ取付穴74に接続される。溶媒切替バルブ62には複数のインレットチューブを接続することができ、用途に応じて切替スイッチ72により移動相の種類を切り替えることができるようになっている。
【0037】
次に、移動相は送液を携わる図7に示されているポンプヘッド64に送られる。
ポンプヘッド64には、上下にチェック弁84を備えた一番目の送液用のポンプヘッド82と、二番目の流量調整用のポンプヘッド86とを備えている。
まず、一番目のポンプヘッド82に送液され、一番目のポンプヘッド82内のチェック弁が移動相の逆流を抑止している。次に、二番目のポンプヘッド86に送液され、一番目のポンプヘッド82による送液動作により生じる脈流を平滑化し、常に一定の流量で送液するように調節される。
【0038】
送液は、図8に示されているプランジャ90の前後運動により行われる。プランジャの材質は、セラミックや人口宝石(サファイヤなど)である。
プランジャ90は、プランジャシール92と、入口側流路99と、入口側チェック弁97と、プランジャ内流路94と、出口側チェック弁96と、出口側流路98とを備える。
移動相は流路配管を通じ、装置の内部に導入され、図9に示されているダンパに送られる。ダンパ100は、ダンパ本体部100と、入口側流路102と、出口側流路104とを備える。
また、ダンパには、テフロン(登録商標)などの固形物や、溶媒、エアーなど様々な種類があり、ポンプヘッドで調整し切れなかった脈動を抑える効果がある。
【0039】
ダンパの後流に、本発明の圧力計を設置し、ポンプにかかっている背圧の指標として用いられる。圧力計を通った移動相は、流路配管を通じて再び装置の外部に送られ、移動相中の異物を取り除くためのフィルタを通った後、ポンプの外部に排出される。
図10に示されたフィルタ110は、ネジ型となっており螺合することによりポンプ本体60の流体の排出部分に固定できるフィルタ固定部112と、ネジ型となっておりフィルタ固定部112に螺合することにより2つのフィルタを格納するフィルタ格納部114と、1μmのフィルタ116と、2μmのフィルタ118と、フィルタ格納部内でフィルタが動かないように固定するキャップ119とを備える。
また、ポンプ内部の流路配管には容量の小さいものが使用されており、さらにUHPLCにも内径0.1mm程度の非常に容量の小さい流路配管を使用されているため、移動相中の異物は徹底的に取り除かなければならない。そのため、フィルタは1μmのフィルタ116と2μmのフィルタ118との二重構造としている。フィルタの材質は、ステンレスやテフロン(登録商標)などが一般的である。なお、ポンプの外側に限らず、ポンプの内側の流路配管にも容量の小さいフィルタが取り付けられる。
【0040】
また、一般に、UHPLCでは、100MPa前後の高い耐圧性が要求されるためプランジャの駆動に精密さが要求される。
送液をつかさどるプランジャの駆動部の構成を図11に示した。
プランジャ駆動部120は、プランジャ先端部122と、プランジャ先端部122を動作させるステッピングモータ126と、ステッピングモータ126が駆動することにより回転するカム128と、カム128の回転によりプランジャ122を駆動するプッシュロッド124とを備えている。
【0041】
プランジャ先端部122の駆動はカム128をステッピングモータ126により回転させることで行われる。ステッピングモータ126には1パルスの固定回転角があるが、1パルス毎に駆動させると回転と停止を繰り返しながらモータ軸が回るため振動の原因となる。また、ステッピングモータ126には、回転速度によりトルクとロータとの関係で振動が最大になる共振点があり、通常はこの共振点付近を使用しないようにするが、設定流量によっては共振点付近で動作させなければならず、それにより異音を発する場合がある。
これらの現象を抑止するために、最小ステップ(1パルス)を更に細分化し、回転軸を滑らかに回すよう工夫がなされている。それにより、低回転(低流量)での送液が安定する効果もある。モータの回転速度(流量に相当する)や背圧による負荷の変化に合わせ、モータに流す電流量を調節し、負荷に応じたモータトルクを発生させるような工夫もなされている。
【0042】
また、前述の通り、UHPLCでは高い耐圧性が要求されるため、プランジャ駆動の軌跡に関して、液体クロマトグラフ(HPLC)のポンプと比較して、非常に高い精度の直線状態(プランジャが往復方向に対して斜めに傾かないこと)を得る必要がある。プランジャが僅かでも斜めに傾いている場合、HPLCのポンプでは問題にならない度合いのものであっても、UHPLCのポンプでは液漏れや送液不良などの原因となり得る。そこで、プランジャの直線状態を維持するために、カムからの動力をプランジャに伝えるプッシュロッドにおいても工夫がなされている。
【0043】
プランジャ駆動の改良点としては、プランジャ先端部とプッシュロッド先端部の接続部分の位置を固定させたことにある。具体的に説明するため図12及び図13にプランジャ先端部とプッシュロッド先端部の接続部分を示す。
図12に示される従来のプッシュロッド130は、プランジャ先端部134と、プッシュロッド138と、プランジャ先端部134とプッシュロッド138とを支持する支持部132と、プッシュロッド作動部136とを備えている。
また、図13に示される新型のプッシュロッド140は、プランジャ先端部144と、プッシュロッド148と、プランジャ先端部144とプッシュロッド148とを支持する支持部142と、プッシュロッド作動部146とを備えている。
【0044】
カムからの動力はプッシュロッドを経てプランジャに到達するが、HPLCのポンプでは、図12の点線部分に示されているように、プッシュロッド130の先端部が凸型の曲面でありプランジャ先端部134の末端を一点で支持する手法を採用しているのに対し、図13の点線部分に示されているように、UHPLCのポンプではプッシュロッド140の先端部が凹型の曲面でありプランジャ先端部144の末端を凹型曲面で円周状に支持する方法を採用している。これにより、プランジャ軸とプッシュロッド軸とが接触面の中心点において一致していれば、プランジャ軸とプッシュロッド軸とが平行でなくとも、プランジャ軸は精度良く直線運動をすることになる。
【0045】
また、ポンプヘッドへ加わる振動による位置ずれを軽減する工夫もなされている。
図14に示されているように、一番目のポンプヘッド82は、ポンプヘッド82を固定するフランジ154と、ポンプヘッドの傾きを抑止するためのガイドピン152とを備えている。
フランジ154には位置決めのための長めのガイドピン152が存在し、ポンプヘッド82の傾きを抑止している。また、図15に示されているように、ポンプヘッド82は正方形に4点をネジ162で固定するようになっており、それによってもポンプヘッド82をフランジ154にしっかりと固定している。
【0046】
また、図16に示されているように、ポンプヘッド82の内部にはバックアップリング172が装着されており、プランジャ先端部144の駆動が直線状態となるよう保っている。
【0047】
ポンプヘッドのシール部(プランジャシール)の後方には、ダイアフラムが装着されている。
図17に示されているように、プランジャ洗浄機構182は、プランジャ支持部186、188と、ダイアフラム184、185とを備えている。
プランジャの往復運動によりダイアフラム184、185が動作し、洗浄液を能動的に流すことができる構造となっている。移動相に緩衝液などを使用する場合、塩の析出によりシール材やプランジャに傷がついたり、流路が詰まったりする恐れがある。そこで、プランジャシール後方のスペースに純水などを送り込み、ダイアフラムの働きにより純水を置換させ、析出した塩を洗い流すような機構を持っている。
【0048】
なお、図18には従来のダイアフラム型の圧力計を使用したポンプ装置内流路図を示した。従来型のポンプ装置190は、溶媒切替バルブ194と、一番目のポンプヘッド182と二番目のポンプヘッド184とを備えたポンプヘッド196と、従来の圧力計192と、ダンパ198と、出口フィルタ199とを備えている。
従来の圧力計192を用いたこと以外は図5と同様である。圧力計192は容量が大きく、また、ダンパ198から流れてきた流体は一度圧力計に取り込まれ圧力計内の「コ」の字形状の流路を経て出口経路199へ流れている。
【0049】
本発明の圧力計を用いるべき場合として、例えば、液体クロマトグラフィ用のポンプで低圧混合グラジェント法による送液が行われるときは、複数種類の溶媒を時間ごとに異なる組成比で送液する必要がある。従来の圧力計では、圧力計内部で滞留が生じるため、所定の時間に必要とされる組成比を得ることに支障があった。それに対して、本発明の圧力計を使用すると所定の時間に必要とされる正確な組成比を得ることができる。
【0050】
また、本発明の圧力計は継手として使用できるほど小型化されているので、ポンプ装置内部に複数の圧力計を設置することができるようになった。そうすることにより、圧力計同士の圧力差を測定し、ポンプ装置内部の流路における詰まりの判別をすることもできる。
【実施例2】
【0051】
(自動圧力調整弁の実施例)
本発明による圧力計を使用した、超臨界クロマトグラフィ、超臨界流体抽出用の自動圧力調整弁の実施例を図19に示す。
自動圧力調整弁200は、弁本体202と、弁本体202に接続された流路204と、弁本体202の内部にある弁体206と、新型の圧力計210と、流路204からの流体の出口となる出口経路208とを備えている。
なお、従来の圧力計を使用した比較例については図20に示されているように、従来の圧力計222に置き換えられた部分以外は同様の構成である。
【0052】
新型の圧力計210は流路204に接続されており、流路204を流れる流体の圧力が設定圧力より高いもしくは低い場合は、弁体206の開閉度合いを変化させ、実圧力を設定圧力に合わせるよう制御している。
一方、従来型圧力計222の体積は大きく、本発明と比較して設置場所が制限される。
【0053】
本発明による圧力計は流路上の継手として設置することができる。そのため、従来の圧力計に比べ、自動圧力調整弁装置内への設置が容易である点で使用性に優れている。
また、小型であることで装置全体のサイズを小さくすることができる。
また、配管中の流体の流れを妨げないので、溶媒置換性が高い。特に、分取を行う場合には、圧力計に到達したサンプルバンドの純度を保持したまま、出口経路208の下流にあるフラクションコレクタに送ることが重要であるが、従来の圧力計では圧力計内部で滞留が生じるため、サンプルバンドが広がって濃度が薄くなったり、先に流れ出てきたサンプルバンドに後から流れてきたサンプルバンドが混入したりする支障があった。それに対し、本発明の圧力計では配管中の流体の流れを妨げず、サンプルバンドをそのままの状態で下流に送ることができる。
【0054】
次に、本発明の圧力計に係る実施例3を創作するまでに試作した圧力計を比較例1、比較例2として示し、それらの問題点について説明した後、比較例1、比較例2と比べた実施例3に係る圧力計の性能について検討する。
【0055】
(比較例1)
本発明との比較例1として、ステンレス配管に歪ゲージを直接貼付けた圧力計1(以下圧力計1)について説明する。HPLC/SFC/SFEにおいては、1/16”(約1.59mm)外径のステンレス配管が一般に用いられている。内径は、0.1、0.25、0.5、0.8、1.0mmのものが一般的に市販されており、用途に応じて選択される。圧力による配管外径の変化に着目し、圧力に対する外径変化率を、以下の通り試算した。
R1: 内半径 mm
R2: 外半径 mm
R: (r1+r2)/2
P1: 内圧 kg/cm2
P2: 外圧 kg/cm2
ur: 半径の変位量 mm
E: 材料の縦弾性係数 kg/mm2 19200 kg/mm2
v: ポアソン比 0.3
ur = P1/(100E){(1-v)r12r}/(r22-r12)+(1+v)r22r12/(r22-r12)/r}
ステンレスを材質とすると、E=19200、v=0.3となる。それらを代入した結果を図21に示す。図21より判断すると、内半径R1が0.35mm以上(実存する配管としては内径0.8mm以上)であれば、10μm程度の伸張が期待できるので測定可能であるという試算結果が得られた。そこで、内径0.8mmのステンレス配管に歪ゲージを貼り付けることにより、圧力計を実現できないか検討を行った。従来例に照らし合わせると、配管に圧力変換器及び容器をかねる役割を担わせた。
【0056】
試作した圧力計1を図22に示す。
配管:外径 1/16”, 内径 0.8mm, ステンレス鋼材, 長さ 約 15cm
歪ゲージ:共和電業製 一般歪ゲージ KFGシリーズ
配管は流路方向にも、流路と垂直の方向にも延伸する。
そこで、配管230の表面を十分研磨したのち、2枚の歪ゲージ232を直径方向の歪みを検出するように、また、別の2枚の歪ゲージ234を配管長さ方向の歪みを検出するように、それぞれ貼り付けた。
なお、図の歪ゲージ232、234上の矢印は、歪ゲージの歪み検出方向を示している。
【0057】
歪ゲージを貼り付けるにあたり、貼り付け面とゲージとの間に気泡が混入してしまうと、正確な歪量の測定ができなくなる。歪ゲージを平面に貼り付けるのは容易であるが、外径 1/16” の配管は歪ゲージにとっては明らかな曲面であり、曲面に対して歪ゲージを気泡が混入しないように貼り付けるには工夫が必要である。そこで、図23に示すように、貼り付ける配管230の外径よりも少し大きい内径を持つ配管B240を軸方向に二分割し、歪ゲージ232をシール242上におき、貼り付ける配管230と配管B240とで歪ゲージ232を挟み込んで貼り付けた。この手法により、気泡を混入させずに歪ゲージ232を貼り付けることができる。
【0058】
都合4枚の歪ゲージリードを図24に示された一般的なブリッジ回路 Rg1-4に組み込み圧力に対する信号出力量を計測した。その結果を図25に示す。
図25の横軸は時間、縦軸は圧力変化による信号出力変化を示す。図25に示された信号出力変化は実圧力とおおむね一致しており、良好である。しかし、圧力計1では、加圧後圧力を開放したときに、丸で囲まれた部分にマイナス側に波状の出力信号が観察される。この信号は実圧力を反映していない信号であり、実用上問題となる。
なお、先行技術文献1の発明も比較例1の類型である。比較例1と同様の問題が生ずるとので測定精度の面で改善の余地が残る。
【0059】
(比較例2)
圧力計1では、先述したように圧力を開放したときに現れるマイナス側への波状の出力信号が発生するという問題が生じている。これは、圧力が配管形状の鋼材に及ぼす直径方向と長さ方向の歪みの伝達速度の差異により発生したものと推測した。
そこで、長さ方向の歪ゲージを取り外し、配管に接続された鋼材に歪ゲージを貼付けて温度補正を試みた。
【0060】
圧力計2は、圧力計1から長さ方向に伸縮する歪みを検知する歪ゲージを取り外し、図26に示されているように、配管250の近傍に設置した鋼材256の表面に歪ゲージ254を貼付けるようにした。これら鋼材256の表面に貼付けた歪ゲージ254の役割は配管付近の温度を反映する鋼材256に歪ゲージ254を貼り付けることにより、ブリッジ回路から出力される信号の温度補正を目的としている。
【0061】
図27に横軸は時間、縦軸は圧力変化による信号出力変化を示している。図27の信号出力変化は実圧力とおおむね一致しており、良好である。さらに、圧力計1で問題となった波状のマイナス信号は改善された。しかし、図27の上図の一部を拡大した図27の下図に見られるように、圧力開放時の信号出力が加圧/開放を繰り返すたびにマイナス側にシフトすることが確認され、実用上問題となることが判明した。そのため、さらなる改良が必要である。
【実施例3】
【0062】
比較例1及び2の信号出力変化にも見られるように、配管に直接歪ゲージを貼り付ける形態では特に圧力開放時に正確な測定値が得られないことがわかった。その原因として、
a)配管の場合、全体(全周)に渡り歪みが生じるため、歪ゲージを貼り付けていない
部分に生じる歪みの影響がある。
b)一般に、歪ゲージは曲面部では正しい性能を発揮できないため、平面部に貼り付
ける必要がある。
などが考えられる。比較例1及び2の測定結果により配管を用いた圧力測定は誤差が大きく、適切でないようにも思われる。
しかしながら、配管の外壁に発生する微小の歪みを測定することにより圧力を測定する方法は効果的であると考え、下記の条件を満たす圧力計3を作成した。
1) 歪みの発生量は圧力計1及び圧力計2に近い信号値を得ること。
2) 歪ゲージを、曲面ではなく平面に貼り付けること。
3) 歪み検知部以外は、圧力により歪みが生じない程度の強度を確保すること。
【0063】
圧力計3は、ステンレス鋼材のブロックを用意し、その一片を削り取り、削り取った部分を平面状に十分に研磨して歪測定用歪ゲージ貼付面とし、その面より深さ方向に約
0.5mm の位置に内径1.0mmの直線流路を設ける。周辺部は十分な強度を持つよう管に対して肉厚を5mm以上確保する構造とする。管の出入り口には、配管の接続を容易にするために、フェラルや押しネジのための孔(受け)を作成する。
また、好適な鋼材の寸法については以下の通りである。
圧力計構成材の材質が10Mpa材質樹脂であれば、1−2mmが適当である。
流路内径は0.25−2mm程度が好ましい。HPLC、SFCにおいて滞留が少なく、かつ詰まりにくい配管内径はこの程度であるためである。
流路長さは10−20mm程度が好ましい。歪ゲージを貼付ける関係上、この程度の長さが必要となるからである。これ以上長くしても特に利点はなく、長いと内部に穴を開けるのが困難である。
【0064】
図28(a)の本発明に係る圧力計の平面図に示されているように、本発明の圧力計本体の配管継手に類似した形状の六角材260は、歪測定用歪ゲージ貼付面262と、温度測定用歪ゲージ貼付面268とを備え、歪測定用歪ゲージ貼付面262に歪測定用歪ゲージ270が貼付されており、温度測定用歪ゲージ貼付面268に温度測定用歪ゲージ272が貼付されている。
また、図28(b)の本発明に係る圧力計の断面図に示されているように、六角材260は、内径1.0mmの貫通穴266と、本発明に係る圧力計の貫通穴266の両側に配管を接続するための配管接続用の孔264と、六角材を削り、貫通穴外周との距離(肉厚)が0.5mmとなるようにし、表面を研磨した(図28(a)にも記載した)歪測定用歪ゲージ貼付面262とを備えている。
【0065】
歪ゲージは、図28(a)の本発明に係る圧力計の平面図に示されているように点線で囲まれた歪測定用歪ゲージ貼付面262の中央に1枚と、温度補正用として平面内もしくは六角材外面の温度測定要歪ゲージ貼付面268に別に2枚貼り付ける。それぞれの歪ゲージにてブリッジ回路を組み、信号を出力するようにする。なお、歪ゲージにある矢印は歪ゲージの歪み検出方向を示している。
【0066】
これは、歪ケージを貼り付ける部分を、歪みの検知が十分可能でありながら材質の弾性限界を超えない強度に保ち、それ以外の部分は、歪みが実質上検知不能な(歪みが生じない)程度に強度を保つように配慮した構造である。この構造により、加圧による歪みを測定可能とすると共に急激な圧力変化に対する歪量の変化を圧力に対してリアルタイムで追従でき、一方で、十分な強度を保ったブロックの一部分のみ圧力検出が可能な強度の低い部分を設けることで、圧力開放時に検出部の歪量が瞬時に解消される。
【0067】
図29の上図の横軸は時間、縦軸は圧力変化による信号出力変化を示す。図29の下図がその一部の拡大図である。圧力計2と比較して、圧力開放時の信号出力がマイナス側にシフトすることがほとんどなくなり、さらに圧力保持状態における測定圧力のふれ幅も格段に小さくなっている。
【0068】
(溶媒置換性の検討)
図30、図31 は横に時間(秒)をとり、縦に応答量(内部を流れる試料の濃度)をとって、それぞれ参照圧力計使用時、圧力計3使用時について測定することにより、濃度の時間変化からピークの広がりを示した図である。従来型の流通型ダイアフラム圧力計(以下、参照圧力計と称す)参照圧力計(図30)、圧力計3(図31)を接続した。溶媒はメタノール、流量は0.5mL/minで送液、試料としてアントラセンを10uLインジェクタにて注入し、検出器にて各構成での溶出ピーク形状を比較した。
【0069】
各チャートから明らかなように、図30の参照用圧力計においては試料が溶出し終わるのに約50秒必要であるが、図31の圧力計3においては15秒以内で溶出しきることが出来る。参照用圧力計に比べて溶出時間を短縮することができることから、圧力計3は優れた溶媒置換性を持つことが分かった。
【0070】
(圧力精度の検討)
標準圧力計で測定された圧力値に対する参照用圧力計、及び、圧力計3での圧力測定値の偏差を図32に示す。0−50MPaの圧力範囲において、0.35MPa以内の測定偏差であり、共に十分な性能があることが分かる。
【0071】
また、下記の数式を用いて測定偏差を補正することもできる。以下の例では、いずれの圧力計でも0MPaから50MPaまでの信号出力がリニアであることを前提にして、信号出力を圧力値に換算している。(圧力値 = a × 信号出力値 + b )仮に偏差が大きいようであれば、各圧力範囲で上記 a、b を持つようにすれば、圧力精度はさらに上がることとなる。
例)
範囲1:0-10MPa 圧力値 = a1 × 信号出力値 + b1
範囲2:10-30MPa 圧力値 = a2 × 信号出力値 + b2
範囲3:30-50MPa 圧力値 = a3 × 信号出力値 + b3
また、各実圧力における測定圧力を一致させるように、多項式で近似してもよい。
【0072】
(圧力計の形状)
本発明に係る圧力計の標準的な形状としては、HPLC/SFC/SFEに一般に用いられている六角配管継手のような形状のブロック内に内径1.0mm程度の直線流路を作成し、ブロックの一片を平面状に削って歪測定用歪ゲージ貼付面とし肉厚を0.5mmに薄くした上で、その面に歪ゲージを設置する。
これにより、従来のダイアフラム型圧力計と同等の安定性、低ドリフト、精度をとることができる。
本発明による圧力計の寸法は、HPLC/SFC/SFEに一般に用いられている六角配管継手とほぼ同程度であり、流路の内径は1.0mm、長さは10mm程度である。また、流路の両端部には、HPLC/SFC/SFEに一般に用いられている外径1/16”の配管が接続できるよう、配管の先端・フェラル・押しネジが収納できる孔(受け)を設ける。
【0073】
(圧力計の材質)
ブロックの材質としては、金属類や樹脂類などが挙げられる。HPLC/SFC/SFEの例では、ステンレス(SUS316、SUS304、SUS630など)やチタン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などがよく用いられる。
【符号の説明】
【0074】
10・・・・従来型圧力計
14・・・・歪ゲージ
20・・・・流通型のダイアフラム型圧力計
28・・・・歪ゲージ
30・・・・ダイアフラム部
60・・・・ポンプ装置
62・・・・溶媒切替バルブ
64・・・・ポンプヘッド
66・・・・ダンパ
68・・・・新型圧力計
69・・・・出口フィルタ
82・・・・送液用ポンプヘッド
86・・・・流量調整用ポンプヘッド
200・・・自動圧力調整弁
222・・・従来型圧力計
260・・・六角材
262・・・歪測定用歪ゲージ貼付面
268・・・温度測定用歪ゲージ貼付面
270・・・歪測定用歪ゲージ
272・・・温度測定用歪ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管を流れる流体の圧力を測定する圧力計において、
該圧力計を貫通し、直線状かつ円筒状の内部空間を持つ金属製の圧力計の本体は、
前記圧力計の外部に、歪ゲージを貼付することにより前記内部空間に流体を流したときに生じる前記内部空間への圧力が実質的に検知可能な厚さの位置に歪測定用歪ゲージ貼付面と、
前記内部空間の外周の一部に前記歪測定用歪ゲージ貼付面があり、それ以外の部分は歪ゲージを貼付けても前記内部空間への圧力が実質的に検知不能な厚さと、を有し、
前記内部空間の流体出入口に前記配管を接続し、前記歪測定用歪ゲージ貼付面に歪測定用歪ゲージを貼付して、
前記内部空間内の流体の圧力を計測することを特徴とする圧力計。
【請求項2】
請求項1の圧力計において、
前記圧力計の外部に、歪ゲージを貼付することにより前記内部空間に流体を流したときに生じる前記内部空間への圧力が実質的に検知不能な厚さの位置で、かつ流体の熱により熱膨張したことによる圧力計構成材の歪みが検知可能な厚さの位置に温度補正用歪ゲージ貼付面をさらに有し、
前記温度補正用歪ゲージ貼付面に温度補正用歪ゲージを貼付して前記圧力計の熱膨張による歪みを測定することにより、前記圧力値を補正することを特徴とする圧力計。
【請求項3】
請求項2の圧力計を用いて測定された信号出力値について、
Xを歪ゲージからの信号出力値、Yを圧力値として、所定の圧力範囲毎にa、bを持つようにした一次式(Y=aX+b)に、前記歪ゲージから得られる信号出力値を対応する圧力範囲の数式に代入し、圧力値Yを求めること、
もしくは、全範囲の圧力範囲の信号出力値Xと圧力値Yとの関係を示した多項式(Y=aX^(n−1)+aX^(n−2)+…+aX^0)を満たすようにa(i=1〜n)を決定することにより複数の圧力範囲に適用できる数式とし、前記歪ゲージから得られる信号出力値を該数式のXに代入して圧力値Yを求めることを特徴とする圧力測定方法。
【請求項4】
請求項1、2の圧力計の内部空間の流体出入り口の両側をそれぞれ装置内部の配管に接続することにより、配管同士を繋ぎ合わせる継手として使用することを特徴とする圧力計。
【請求項5】
請求項1、2の圧力計の内部空間の流体出入口をポンプ内部の配管に接続し、該圧力計内の流体の圧力を測定することを特徴とするポンプ。
【請求項6】
請求項1、2の圧力計の内部空間の流体出入口を自動圧力調整弁内部の配管に接続し、該圧力計内の流体の圧力を測定して所望の設定値に調整することを特徴とする自動圧力調整弁。
【請求項7】
請求項5のポンプを備えたことを特徴とするHPLC装置。
【請求項8】
請求項5のポンプを備えたことを特徴とするSFC装置。
【請求項9】
請求項6の自動圧力調整弁を備えたことを特徴とするSFC装置。
【請求項10】
請求項5のポンプを備えたことを特徴とするSFE装置。
【請求項11】
請求項6の自動圧力調整弁を備えたことを特徴とするSFE装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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