説明

微小物質移送方法および微小物質移送用ピペット

【課題】 細胞やオルガネラの隔壁の任意の選択箇所に穿孔を施して目標とする箇所に微小物質を的確に移送することができる低侵襲の微小物質移送方法を提供すること。
【解決手段】 電極あるいは超音波発振器等を内装した微小物質移送用ピペットの先端を細胞やオルガネラの隔壁に位置決めして局限的な範囲でエレクトロポレーションあるいはキャビテーション,ソノポレーションを実施することで、細胞にダメージを与えずに隔壁の目標箇所のみを穿孔する。更に、直流電圧や交流電圧の印加によって生じる移送力もしくはキャビテーションやソノポレーションで生じるエネルギーを利用して、この穿孔箇所を介して微小物質移送用ピペット内の微小物質のみを目的とする箇所に移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送するための微小物質移送方法と此れに用いられる微小物質移送用ピペットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の微小物質移送方法に利用される技術としては、直流の電気パルスを利用して細胞膜や核膜等の隔壁に微小物質の通り道となる穿孔を施すエレクトロポレーション法が公知である。また、電流の電位勾配やエレクトロオズモシスを利用してイオン性や非イオン性の微小物質を培養液中で移送するエレクトロフォレーシス法も知られている。
しかし、従来のエレクトロポレーション法は、培養液等の液体と共に細胞培養容器中に入れられた細胞の全体を対象として表面積の大きな電極で電圧を印加することで隔壁に穿孔を施すようにしたものであるため、隔壁の任意の選択箇所に穿孔を施すことが困難であり、また、穿孔箇所も複数となってしまうため、細胞に必要以上のダメージを与えてしまう欠点がある。
特に、細胞内の選択箇所、例えば、特定のオルガネラに微小物質を移送する場合には、このオルガネラを最終的な操作対象として隔壁上の穿孔位置を適正化することが重要であるが、前述した通り、従来のエレクトロポレーション法では隔壁上の穿孔位置を特定することが困難である。更に、穿孔箇所が複数となってしまうため、このような手法で穿孔を施してからエレクトロフォレーシス法等を併用して微小物質を細胞内に移送するとしても、微小物質の移送先が全く不確かなものとなってしまい、目標とする箇所に微小物質を移送できなくなる可能性が多分にある。
つまり、所望する細胞内の箇所に微小物質が移送されるかどうかは常に確率的な問題であり、特に、所望する箇所に微小物質を取り込んだ多数の細胞を用意して対照実験を行うような場合には、同一位置に微小物質を入れられた細胞を得るといった段取り作業自体に多大な手間隙を要するといった不都合が生じる。
【0003】
隔壁の選択箇所に的確に穿孔を施すための技術としては、ピエゾ素子で瞬間的に駆動されるピペットを利用して細胞膜等に穿孔を施すようにした微小器具の挿入方法が特許文献1として提案されている。
この挿入方法によれば、隔壁の選択箇所に穿孔を施すことは可能であるが、穿孔の過程で隔壁や細胞に衝撃的な力が作用することになるので、必ずしも、低侵襲の細胞操作が実現されるという保証はなく、また、微小物質の移送に際してはプレッシャーインジェクター等を利用する必要があるので、微小物質のみならずピペット内の媒体等が微小物質と共に細胞内に移送されてしまう問題がある。
【0004】
更に他の方法として、外周部を絶縁したパイプ状の活性電極から成るポレーション工具を細胞培養容器の底面から突出するようにして設け、その上に細胞を載置した状態で当該活性電極を用いてエレクトロポレーション法による穿孔を行い、その後、パイプ状の活性電極の内部の空間をマニュピレータ等の通り道として利用することで細胞内への微小物質の移送や細胞内からのオルガネラの取り出しを行うようにした細胞内操作方法等が特許文献2として提案されている。
この技術によれば、パイプ状の活性電極を利用して局限的な範囲でエレクトロポレーション法による穿孔を実施することが可能となり、隔壁に1つの孔を穿設するといった目的は達成され得るが、その穿孔位置は必ず細胞培養容器の底面と接する位置となるので、隔壁の所望箇所に穿孔を施すためには、細胞を細胞培養容器に載置する段階で的確な位置決めを行う必要があり、仮に、細胞の位置決め操作を行うためのマニュピレータ等があったとしても、細胞の下面側の状況を顕微鏡等で確認することが困難であるため、隔壁の所望箇所に穿孔を施すことは難しい。また、細胞の隔壁にはパイプと接続する孔が定常的に形成されることになるので、細胞の自己修復の妨げとなる弊害がある。
しかも、パイプ状の活性電極は細胞を保持した細胞培養容器の底部に一体的に固着されているため、細胞膜や核膜等の隔壁に穿孔を施すことはできるが、細胞膜や核膜等の内側にあるオルガネラの隔壁に穿孔を施すことは極めて困難であり、オルガネラの内部に微小物質を移送するための穿孔方法としては事実上利用できない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−1574号(段落0007)
【特許文献2】特開平11−346764号(段落0042〜0044)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の不都合を改善し、細胞膜や核膜等の内側にあるオルガネラの隔壁を含め、隔壁の任意の選択箇所に穿孔を施して目標とする箇所に微小物質を的確に移送することができる低侵襲の微小物質移送方法と此れを実施するために好適なピペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の微小物質移送方法は、細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域にイオン性の微小物質を移送するための微小物質移送方法において前記課題を達成するため、特に、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された電極を作用極として前記隔壁に外部から直流電圧を印加することで前記隔壁の選択箇所に一時的に局所的な細孔を開けてから、前記作用極に前記微小物質と同じ極性で直流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することで前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした構成を有する。
【0008】
具体的には、細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め微小物質を充填しておき、まず、細胞培養容器中に形成された対象物保持部で細胞を保持した状態で隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めする。
ピペットは細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作することができるので、細胞培養容器に細胞をどのように載置して対象物保持部で細胞を保持したかに関わりなく、確実にピペットの先端を隔壁の選択箇所に位置決めすることができる。
次いで、ピペット内の電極を作用極として隔壁に外部から直流電圧を印加することで隔壁に細孔を開ける。その作用原理は従来のエレクトロポレーション法と同様であるが、本発明においては、ガラス等の絶縁物から形成されたピペットに内装された電極を作用極として利用することで局限された範囲で電気的な穿孔を行うようにしているので、穿孔箇所が複数となることはなく、ピペット先端の位置決め位置つまり隔壁の選択箇所に対してのみ的確に穿孔を施すことができる。
細胞膜や核膜等の内側にあるオルガネラの内部に微小物質を移送する場合には、細胞膜や核膜等の隔壁に穿孔を施した後、ピペットの先端を進め、細胞膜や核膜等の隔壁の場合と同様にしてオルガネラの隔壁に対しても穿孔を施す。
そして、ピペット内の作用極に微小物質と同じ極性で直流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することでピペットから細胞の内部の領域、つまり、細胞内の選択箇所やオルガネラの内部に微小物質を移送する。直流電圧の印加を利用して微小物質を移送する原理は従来のエレクトロフォレーシス法と同様であるが、本発明においては、隔壁の穿孔過程で隔壁の選択箇所にのみ的確に穿孔が施され、しかも、ピペットの先端が穿孔位置に極めて近接しているので、オルガネラの隔壁の内部を始め、細胞膜や核膜等の内部の選択箇所に微小物質を的確に移送することができる。
以上に述べたように、隔壁の穿孔過程で細胞に衝撃的な力が作用しないこと、穿孔箇所が1箇所に局限されること、微小物質を移送した後でピペットの先端を細胞の隔壁の外側の領域に退避させることで細胞の自己修復作用による孔の閉鎖が可能になること等により、極めて低侵襲の細胞操作が実現される。
また、細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペットの先端を基準として隔壁に対する穿孔作業や微小物質の移送作業が行われることになるため、ピペットの先端を顕微鏡等で確認しながら、目的とする箇所に的確にピペットの先端を位置決めして隔壁に対する穿孔作業や微小物質の移送作業を行うことができる。
特に、細胞内のオルガネラの内部に微小物質を移送するような場合には、細胞膜や核膜等の隔壁とオルガネラの隔壁に対して次々と電気的な穿孔作業を行って微小物質の通り道を形成することができるので、複数層の隔壁を通過して内部領域に微小物質を移送するといった操作にも容易に対処することができる。
しかも、エレクトロフォレーシス法を応用した電気的な移送方法であるため、ピペット内の媒体等を伴わずに微小物質のみを細胞内に移送することも可能である。
このように、作用極として機能する電極を内装したピペットの先端を作業領域としてエレクトロポレーション法の作用原理を応用した穿孔作業とエレクトロフォレーシス法の作用原理を応用した微小物質の移送作業を連続的に行うといった技術思想は従来にないものである。
【0009】
また、本発明の微小物質移送方法は、細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に非イオン性の微小物質を移送するための微小物質移送方法において前記課題を達成するため、特に、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された電極を作用極として前記隔壁に外部から直流電圧を印加することで前記隔壁の選択箇所に一時的に局所的な細孔を開けてから、前記作用極に周波数帯を変化させて不均一な交流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することで前記微小物質の電気双極子を誘起させ、周辺の電界との相互作用によって引力と斥力を発生させて前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした構成を有する。
【0010】
穿孔過程における処理操作は前記と同様である。この発明は、特に、非イオン性の微小物質の移送に対処するためのもので、周波数帯を変化させて不均一な交流電圧を作用極に印加し、其の電圧印加時間を制御することで微小物質の電気双極子を誘起させ、周辺の電界との相互作用によって引力と斥力を発生させてピペットから細胞の内部の領域、つまり、細胞内の選択箇所やオルガネラの内部に微小物質を移送するようにしたものである。交流電圧の印加を利用して微小物質を移送する原理に関しては従来のエレクトロフォレーシス法におけるエレクトロオズモシスと同様である。
従って、前記と同様、極めて低侵襲の細胞操作が可能であり、細胞の内部領域の選択箇所に的確に微小物質を移送することができ、複数層の隔壁を通過して内部領域の選択箇所に微小物質を移送するといった操作やピペット内の媒体等を伴わずに微小物質のみを細胞内に移送するといった操作にも容易に対処することができる。
【0011】
何れの場合も、作用極と対を成す極性の電極を作用極と対向させてピペットに内装して電圧を印加すること、あるいは、作用極と対を成す極性の電極を細胞培養容器中に配置して電圧を印加することにより、前述の穿孔作業と微小物質の移送作業を一連の工程として実施することができる。
【0012】
また、本発明の微小物質移送方法は、細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送するための微小物質移送方法において前記課題を達成するため、特に
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質と超音波造影材を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された超音波発振器のシグナル印加時間を制御してバブルを生成することで前記隔壁の選択箇所にキャビテーションを発生させ、バブルが破砕する際の衝撃波で前記隔壁を破壊して前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした構成を有する。
【0013】
具体的には、細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め微小物質を充填しておき、まず、細胞培養容器中に形成された対象物保持部で細胞を保持した状態で隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めする。
ピペットは細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作することができるので、細胞培養容器に細胞をどのように載置して対象物保持部で細胞を保持したかに関わりなく、確実にピペットの先端を隔壁の選択箇所に位置決めすることができる。
次いで、ピペット内の超音波発振器のシグナル印加時間を制御してバブルを生成することで隔壁の選択箇所にキャビテーションを発生させ、バブルが破砕する際の衝撃波で隔壁を破壊することによりピペット先端に位置する隔壁の箇所に局限的に穿孔を施す。
細胞膜や核膜等の内側にあるオルガネラの内部に微小物質を移送する場合には、細胞膜や核膜等の隔壁に穿孔を施した後、ピペットの先端を進め、細胞膜や核膜等の隔壁の場合と同様にしてオルガネラの隔壁に対しても穿孔を施す。
そして、更に、キャビテーションで発生するバブルが破砕する際の衝撃波を利用してピペットから細胞の内部の領域、つまり、細胞内の選択箇所やオルガネラの内部に微小物質を移送する。
超音波振動を利用した隔壁の破壊や微小物質の移送に関わるメカニズムは所謂ソノポレーション法と同様であるが、本発明においては、ピペットに内装された超音波発振器を利用することにより局限された範囲で穿孔を行うようにしているので、穿孔箇所が複数となることはなく、ピペット先端の位置決め位置つまり隔壁の選択箇所に対してのみ穿孔を施して微小物質を的確に移送することができる。
従って、前記と同様、極めて低侵襲の細胞操作が可能であり、細胞の内部領域の選択箇所に的確に微小物質を移送することができ、複数層の隔壁を通過して内部領域の選択箇所に微小物質を移送するといった操作やピペット内の媒体等を伴わずに微小物質のみを細胞内に移送するといった操作にも容易に対処することができる。
この場合は、移送対象となる微小物質がイオン性であっても非イオン性であっても構わない。
このように、超音波発振器をピペットに内装することによってキャビテーションの発生域をピペットの先端付近に局限して穿孔作業を行い、この孔を介して微小物質を移送するといった技術思想は従来のソノポレーション法にはないものである。
【0014】
また、細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送するための微小物質移送方法において前記課題を達成するため、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、該ピペットの先端近傍の領域にパルスレーザーを集光してアブレーションを生成することで前記隔壁を局所的に破壊して前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送するといった構成を適用することもできる。
【0015】
具体的には、細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め微小物質を充填しておき、まず、細胞培養容器中に形成された対象物保持部で細胞を保持した状態で隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めする。
ピペットは細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作することができるので、細胞培養容器に細胞をどのように載置して対象物保持部で細胞を保持したかに関わりなく、確実にピペットの先端を隔壁の選択箇所に位置決めすることができる。
次いで、ピペットの先端近傍の領域にパルスレーザーを集光してアブレーションを生成することで隔壁を局所的に破壊して穿孔を施す。
細胞膜や核膜等の内側にあるオルガネラの内部に微小物質を移送する場合には、細胞膜や核膜等の隔壁に穿孔を施した後、ピペットの先端を進め、前記と同様にしてピペットの先端近傍の領域にパルスレーザーを集光してアブレーションを生成することでオルガネラの隔壁に対しても穿孔を施す。
そして、更に、アブレーションで発生するエネルギーを利用してピペットから細胞の内部の領域、つまり、細胞内の選択箇所やオルガネラの内部に微小物質を移送する。
パルスレーザーの集光により穿孔箇所を局限することができるので、前記と同様、穿孔箇所が複数となることはなく、隔壁の選択箇所に対してのみ穿孔を施して微小物質を的確に移送することができる。
従って、前記と同様、極めて低侵襲の細胞操作が可能であり、細胞の内部領域の選択箇所に的確に微小物質を移送することができ、複数層の隔壁を通過して内部領域の選択箇所に微小物質を移送するといった操作やピペット内の媒体等を伴わずに微小物質のみを細胞内に移送するといった操作にも容易に対処することができる。
この場合は、移送対象となる微小物質がイオン性であっても非イオン性であっても構わない。
パルスレーザー装置の出力部の小型化が可能な場合、このエンドエフェクタを前述の作用極あるいは超音波発振器と同様にピペットに内装することが可能であり、その場合は、ピペット先端の位置決めとパルスレーザーの集光位置の特定を同時に行えるので、作業性が更に向上する。
【0016】
直流電圧の印加や不均一な交流電圧の印加によって微小物質の移送を行う場合、ピペットの先端は隔壁よりも外側に位置させても、隔壁に接触させても、更には、隔壁よりも内側に位置させても構わない。
【0017】
微小物質それ自体に電気的な移送力が方向性をもって作用するため、隔壁の孔とピペットの先端との間にギャップが存在しても、孔の内側の目的とする箇所に的確に微小物質を移送できるからである。
【0018】
此れに対し、キャビテーションやアブレーションを利用して微小物質の移送を行う場合においては、ピペットの先端を隔壁の孔に接触させるか、または、隔壁の孔の内側にまで突入させることが望ましい。
【0019】
キャビテーションやアブレーションを利用した移送作業の場合、微小物質それ自体に方向性をもった移送力が作用することはないので、ピペットの先端を隔壁の孔に接触させるか、または、隔壁の孔の内側にまで突入させることにより、孔の内側の目的とする箇所に的確に微小物質を移送する必要があるためである。
【0020】
本発明の微小物質移送用ピペットは、前述した微小物質移送方法を実施する際に好適な微小物質移送用ピペットであり、特に、
ガラス管の先端を狭搾して形成したピペット本体と、前記ピペット本体の基部を圧入する円筒部を先端に備えたピペットホルダーと、前記ピペットホルダーの後端部に接続するチューブコネクタとから成り、
前記ピペットホルダーが、前記ピペット本体とチューブコネクタとの接続に必要とされる最低限度の軸方向長さを有し、
前記ピペット本体の基部もしくは前記ピペットホルダーの円筒部の少なくとも一方に、前記ピペット本体の突入量を規制するストッパを設けたことを特徴とする構成を有する。
【0021】
前述した通り、本発明の微小物質移送方法においては、ピペットの内部に電極や超音波発振器等を内装する必要が生じる場合があり、特に、精密な位置決め要求を満たすためにピエゾ素子等で駆動されるマニュピレータにピペットを装着してピペットの位置や姿勢を制御するような場合においては、マニュピレータの耐荷重が低いためにピペットの重量増加が位置決め精度等に悪影響をもたらす場合がある。
そこで、まず、従来は150mm程度であったピペットホルダーの全長を短縮することにより軽量化を図り、電極や超音波発振器等の内装に伴うピペット全体としての重量増加を極力軽減した。
また、ピペット本体の基部もしくはピペットを圧入するピペットホルダーの円筒部の少なくとも一方にピペット本体の突入量を規制するストッパを設けることで、ピペット本体の交換作業を行った場合でも、ピペットホルダーから突出するピペット本体の長さが常に一定となるようにした。
前述した通り、本発明の微小物質移送方法においては、ピペットの先端を細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁に位置決めして穿孔および微小物質の移送を行う必要があるが、ピペットホルダーから突出するピペット本体の長さを常に一定とすることで、ピペット本体の目詰まりや欠損等の障害が発生した場合でも全体的な処理速度を低下させずにピペット本体を差し替えて穿孔および微小物質の移送作業を継続することができるようになった。
【0022】
前述のストッパは、ピペット本体の基部外周面から径方向外側に突出する突起またはピペットホルダーの円筒部の奥に形成された段付きの縮径部の端面によって形成することができる。
【0023】
特に、ピペットホルダーの円筒部の奥に形成された段付きの縮径部をストッパとして利用する場合には、ピペット本体には何らの加工を行う必要もなく従来通りのものを利用でき、また、ピペットホルダー自体に損傷が発生する可能性が低いことから、設備投資やランニングコストの軽減化の面で有益である。
【0024】
このような構成を有するピペット構造においては、ピペットの機能部品の軽量化が十分に達成されるため、ピペットホルダー内に電極や超音波発振器等を内装した場合であっても、ピエゾ素子等で駆動されるマニュピレータによってピペットの位置や姿勢を精密に制御することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の微小物質移送方法によれば、隔壁の穿孔過程で細胞に衝撃的な力が作用することがなく、穿孔箇所が1箇所に局限され、しかも、細胞の自己修復作用による孔の閉鎖も許容されるので、極めて低侵襲の細胞操作が実現される。
また、細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペットの先端を基準として隔壁に対する穿孔作業や微小物質の移送作業が行われるので、ピペットの先端を顕微鏡等で確認しながら、目的とする箇所に的確にピペットの先端を位置決めして隔壁に対する穿孔作業や微小物質の移送作業を行うことができる。
特に、細胞内のオルガネラの内部に微小物質を移送するような場合には、細胞膜や核膜等の隔壁とオルガネラの隔壁に対して次々と局限的な穿孔作業を行って微小物質の通り道を形成することができるので、複数層の隔壁を通過して内部領域に微小物質を移送するといった操作にも容易に対処することができる。
これにより、オルガネラの内部を含め、細胞膜や核膜等の隔壁の内部領域の任意の選択箇所に低侵襲の細胞操作で微小物質を自由に移送することが可能となり、これまで困難とされていた単一細胞に対する局所的な実験および厳密な定量解析が可能となり、更には、異なる個体に対して均一の条件で細胞操作を行うことができるため、入手が困難である細胞を用いた対照実験等も安心して行えるようになる。
【0026】
また、本発明の微小物質移送用ピペットは、ピペットホルダーの全長を短縮することにより軽量化を図り、電極や超音波発振器等の内装に伴うピペット全体としての重量増加を極力軽減しているので、ピペットホルダー内に電極や超音波発振器等を内装した場合であっても、ピエゾ素子等で駆動される耐荷重の低いマニュピレータによってピペットの位置や姿勢を精密に制御することができ、ピペットの先端を目的とする箇所に的確に位置決めして隔壁に対する穿孔作業や微小物質の移送作業を一連の工程として的確に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施形態の微小物質移送方法を実施する際に利用される単一細胞操作支援システムの一例を簡略化して示した図である。
【0028】
この単一細胞操作支援システム1は、概略において、細胞操作部2とコントローラ3およびマン・マシン・インターフェイスとして機能するジョイスティックコントロールユニット4,フットペダル群5,モニタ6によって構成される。
【0029】
細胞操作部2は、細胞培養容器を載置するためのテーブル7と細胞培養容器内の細胞を操作するためのマニピュレータ8,9を実装したステージ10、および、細胞培養容器内の細胞を観察するための顕微鏡11を備える。
【0030】
ステージ10上に設けられたテーブル7はステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段により直交二軸の水平面内で駆動され、また、テーブル7の右側に配備されたマニピュレータ8は、ステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段とピエゾ素子等からなる駆動手段によって直交三軸の空間内で独立的に駆動されるようになっている。ピエゾ素子等からなる駆動手段は、マニピュレータ8を軸方向に沿って駆動することでマニピュレータ8に装着された微小物質移送用ピペット13を瞬間的に移動させるためのものである。なお、ここでいう軸方向とは図1中でステージ10を基準として45°の傾斜角を有する右肩上がりの直線の方向である。テーブル7の左側に配備されたマニピュレータ9も、ステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段によって直交三軸の空間内で独立的に駆動されるようになっている。
【0031】
テーブル7の左側に配備されたマニピュレータ9は、細胞培養容器内に配置された単一細胞を吸引等の手段で保持するためのキャピラリー12をエンドエフェクタとして備え、また、テーブル7の右側に配備されたマニピュレータ8は、単一細胞に対して遺伝子や薬品等の注入を行うための微小物質移送用ピペット13をエンドエフェクタとして有する。
【0032】
コントローラ3はテーブル7やマニピュレータ8,9を駆動する各軸のステッピングモータおよびピエゾ素子等からなる駆動手段を制御するためのものであり、モニタ6には、コントローラ3からの指令に基づいて、テーブル7上に設置された細胞培養容器内の単一細胞の教示位置や操作対象となる単一細胞の位置、あるいは、顕微鏡11に内蔵されたハーフミラーを介して顕微鏡11内のCCDカメラで撮像された映像等が表示されるようになっている。
【0033】
ジョイスティックコントロールユニット4およびフットペダル群5は、コントローラ3に対する各種の指令やデータ等を入力するためのマン・マシン・インターフェイスであり、ジョイスティックコントロールユニット4には、ジョイスティックの他にも各種の操作ボタンやスイッチおよび手動パルス発生器等が設けられている。
【0034】
この実施形態では、エレクトロポレーション法やエレクトロフォレーシス法さらにはソノポレーション法等を応用した様々な穿孔方法と微小物質の移送方法を組み合わせて利用することで微小物質移送用ピペット13から細胞内への微小物質の移送が行われるようになっており、これらの方法を単一細胞操作支援システム1で実施するために必要とされる各種の駆動制御プログラムがコントローラ3のハードディスク内に予めインストールされており、ジョイスティックコントロールユニット4およびフットペダル群5の操作により、これらの駆動制御プログラムを選択的にハードディスクからコントローラ3内のRAM上に展開し、この駆動制御プログラムに従ってコントローラ3のCPUが各軸の軸制御回路や周辺装置を制御することで、細胞操作部2のテーブル7およびマニピュレータ8,9と他の周辺装置が駆動されるようになっている。
【0035】
微小物質移送用ピペット13の構成例を図2に示す。この微小物質移送用ピペット13は、概略において、電気的な絶縁性を有するガラス管の先端を狭搾して形成したピペット本体14と、ピペット本体14の基部を圧入する円筒部15およびキャップ部18を先端に備えたピペットホルダー16と、ピペットホルダー16の後端部に接続するチューブコネクタ17とから成り、ピペットホルダー16の軸方向長さを、ピペット本体14とチューブコネクタ17との接続に必要とされる最低限度の長さとすることによって微小物質移送用ピペット13全体としての重量の軽減化が図られている。なお、従来のピペットホルダーは手作業に際しての取り回し等を考慮して150mm程度の金属製バレル、もしくは、ピペット本体に相当する部分と一体に形成されたガラス製のキャピラリー等によって構成されていたので、この部分を短縮してマニュピレータ8のための専用構造とすることで大幅な重量軽減が可能である。ピペットホルダー16は剛性の維持と軽量化の観点から、エンジニアリングプラスチック等の合成樹脂で形成することが望ましい。
【0036】
チューブコネクタ17はシリコンゴム等からなるチューブ19をピペットホルダー16に接続するためのもので、捩じ込み式,ルアーロック式,指し込み式,ユニオンコネクタ式等のものを適宜選択して利用することができる。前述した最低限度の長さの意味合いは、チューブコネクタ17をピペットホルダー16に取り付ける際に必要とされるピペットホルダー16側のネジ部,ロック部,指し込み部,コネクタ嵌合部の長さ、あるいは、チューブ19を直にピペットホルダー16に取り付ける場合のピペットホルダー16側のニップル部の長さを含んだ長さである。
【0037】
ピペット本体14には、例えば、図3(a),(b)に示されるようにしてピペット本体14の基部外周面から径方向外側に突出するフランジ状の突起14a,14b、または、図3(c)に示されるようにしてピペット本体14の基部外周面から径方向外側に突出する舌片状の突起14cがストッパとして設けられ、図2に示されるようにしてピペットホルダー16の円筒部15にピペット本体14を圧入して差し込んだ際に、ストッパとして機能する突起14a,14b,14cがキャップ部18の先端部と当接することにより、ピペットホルダー16に対するピペット本体14の突入量が一義的に規制されるようになっている。
【0038】
一般に、突起14a,14b,14c等を備えないピペット本体を手動操作で円筒部15に差し込んだ際の突入量のバラツキは5mm〜10mmの範囲であり、プログラムプラーを使用して製造されるピペット本体14の全長のバラツキは0.5mm以下であるから、突起14a,14b,14c等から成るストッパをピペット本体14に設けることによって、従来、キャップ部18の先端からピペット本体14の先端に至るまでの間で生じていた5.5mm〜10.5mm程度の寸法のバラツキを0.5mm以下に抑制することが可能となる。
【0039】
ピペット本体14の目詰まりや欠損等の障害が発生してピペット本体14の取り替え作業を行った際にキャップ部18の先端からピペット本体14の先端に至る距離に5mm〜10mmといった大幅な変動が生じてしまうと、例えば、ジョイスティックコントロールユニット4の手動パルス発生器等を操作してピペット本体14の先端位置をテーブル7上の予め決められた基準位置に合わせた状態で、単一細胞の教示位置を記憶する座標系の原点位置に対してオフセットの補正を行うか、あるいは、現在位置記憶レジスタの値をリセットする等の処理操作が必要となり、全体としての作業に大幅な遅れが生じることが見込まれるが、この問題は、キャップ部18の先端からピペット本体14の先端に至るまでの間で生じる寸法のバラツキを0.5mm以下に抑制するといったことで、解消が可能である。
【0040】
あるいは、図3(a),(b),(c)に示すような突起14a,14b,14cを省略し、図4に示されるようにしてピペットホルダー16側の円筒部15の奥に段付きの縮径部15aを形成し、この縮径部15aの端面にピペット本体14の基部側の端面を当接させることによって、ピペットホルダー16に対するピペット本体14の突入量を一義的に規制するようにしてもよい。この場合は、段付きの縮径部15aがストッパとして機能することになる。
【0041】
段付きの縮径部15aによってストッパを構成した場合には、ピペット本体14には何らの加工を行う必要もなく従来通りのものを利用でき、また、ピペットホルダー16自体に損傷が発生する可能性が低いことから、設備投資やランニングコストの軽減化の面で有益である。
【0042】
この実施形態のピペットホルダー16は、図5に示されるように、別部材から成るピペットホルダー本体16aと円筒部15によって構成されている。キャップ部18は図5に示されように円錐部18aと此れに連絡する環状部18bとを一体に成形した部材であり、円錐部18aの内部には、弾性変形可能な合成樹脂等からなる円筒部15が固設され、この円筒部15にピペット本体14の基部が差し込まれるようになっている。
【0043】
この実施形態では、図5に示されるように、円筒部15の先端側のみを円錐部18aの内側に固着し、円筒部15の他部を弾性変形可能な状態としている。このため、キャップ部18の環状部18bをピペットホルダー本体16aに螺合して捩じ込むと、円筒部15の弾性変形可能部分がピペットホルダー本体16aの先端面で軸方向に押圧されて圧縮方向に弾性変形し、円筒部15の内径が縮径化する。この縮径化で生じる締め付け力を利用することで円筒部15にピペット本体14の基部を強固に固定することができる。ピペット本体14は一般にガラス製であるが、前述の締め付け力はピペット本体14の基部において周方向の応力として作用するので、ピペット本体14の基部に損傷が生じる心配はない。
【0044】
また、円筒部15の内径とピペット本体14の基部外径の嵌め合いのみを利用した圧入で円筒部15にピペット本体14を固定することも可能である。
【0045】
このように、キャップ部18と一体化して円筒部15をピペットホルダー本体16aから取り外す構成を適用した場合、ピペット本体14を装着したキャップ部18を予め何本か準備しておいて、ピペット本体14の取り替えに備えることができる。
【0046】
あるいは、円筒部15をピペットホルダー本体16aと一体に形成してキャップ部18のみを着脱する構成としてもよい。この場合、キャップ部18の環状部18bをピペットホルダー本体16aに螺合して捩じ込むことで、円錐部18aのテーパ状の内周面を円筒部15の先端に当接させて円筒部15を縮径させることで、前記と同様、円筒部15にピペット本体14の基部を強固に固定することができる。なお、円筒部15を形成する素材の剛性が相当に高いような場合であっても、ピンバイス等のチャック構造を転用し、円筒部15の先端部に軸方向のスリットを何本か形成すれば、スリットで区切られる部分の先端部を容易に弾性変形させて、円筒部15とピペット本体14との間の水密状態を保持したまま利用者を強固に固定することができる(水密状態は嵌め合いを利用した圧入のみで保証され得る)。
【0047】
ピペットホルダー16内に電極20を内装した微小物質移送用ピペット13’の一例を図6に、また、ピペットホルダー16内に超音波発振器21を内装した微小物質移送用ピペット13”の一例を図7に示す。何れの場合も、電極20および超音波発振器21はピペットホルダー16内(ピペットホルダー本体16aと円筒部15を別部材で構成した場合においてはピペットホルダー本体16aの側)に固着して取り付けられており、ピペット本体14の取り外しに際しては、図8,図9に示されるように、電極20や超音波発振器21をピペットホルダー16(ピペットホルダー本体16a)の側に残した状態でピペット本体14のみを交換できるようになっている。なお、図6あるいは図8において、作用極として機能する電極20aと此れと対を成す電極20bを並列的に配置する場合もある。
【0048】
マニピュレータ8の先端に設けられたステー22に対する微小物質移送用ピペット13,13’,13”の取り付け例を図10〜図12に示す。前述したとおり、この実施形態においては、ピペットホルダー16の短縮化および素材の軽量化によって微小物質移送用ピペット13,13’,13”の重量の軽減化が図られているので、例えば、図10に示されるようにして、ピペット本体14の基部をステー22の先端部に直付け状態で取り付けることが可能となる。この際、ピペットホルダー16の部分はピペット本体14の基部のみによって支えられることになるが、ピペットホルダー16は十分に軽量化されているので、ピペットホルダー16を支えるピペット本体14の基部に破損等が生じる心配はない。
【0049】
結果的に、ピペット本体14それ自体は実質的にステー22と一体の構成となり、ピペット本体14とステー22との間の介在物がなくなるので、マニピュレータ8を駆動してステー22を移動させた場合のピペット本体14の動作遅れが解消され、ピペット本体14の動作の高速化と振動の軽減化および位置決め精度の点で有利となる。
【0050】
あるいは、図11に示されるようにして微小物質移送用ピペット13,13’,13”におけるピペットホルダー16とキャップ部18の部分をステー22に固定するようにすることも可能である。この場合、ピペット本体14とステー22との間にはピペットホルダー16やキャップ部18が介在することになるが、微小物質移送用ピペット13,13’,13”が軽量化されているため、従来型のピペットを装着した場合に比べてピペット本体14の動作遅れや共振振動が改善される。
【0051】
また、ピペットホルダー16が従来品に比べて大幅に短縮化されているので、微小物質移送用ピペット13,13’,13”の姿勢を変えてもピペットホルダー16の端部が他の部材、例えば、顕微鏡11等に干渉する可能性が軽減され、図12に示されるようにして、ステー22上で微小物質移送用ピペット13,13’,13”の姿勢調整を許容する構成を適用することもできるようになる。図12ではステー22の最先端部を別部材によって構成し、ピンもしくはネジ等の枢着手段23を介してステー22の最先端部を揺動させることで微小物質移送用ピペット13,13’,13”の姿勢を変化させる例について示しているが、この部分に姿勢制御装置を設けることも可能である。
【0052】
次に、図1中のコントローラ3に接続される各種の周辺装置について簡単に説明する。
【0053】
直流電圧印加装置24は、電極を内装した微小物質移送用ピペット13’をマニピュレータ8に装着した際に、微小物質移送用ピペット13’に内装された作用極としての電極20aと其の対となる電極20b、もしくは、作用極としての電極20と細胞培養容器中に設置されて電極20と対を成す電極(以下、電極20cと称する)に電圧を印加するためのもので、エレクトロポレーション法を応用して細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁等に穿孔を施す際に必要とされる高圧の直流電圧のパルス出力と、エレクトロフォレーシス法を応用してイオン性の微小物質を微小物質移送用ピペット13’から細胞内に移送する際に必要とされる直流電圧の出力とが可能である。エレクトロフォレーシス法を応用してイオン性の微小物質を移送する際には微小物質の極性に応じて電極20aと電極20b(または電極20と電極20c)の極性を反転する必要が生じる場合があるので、直流電圧印加装置24の出力端子と電極20a,20b(または電極20と電極20c)との間は、極性反転スイッチ25を介して接続される。直流電圧印加装置24はコントローラ3によって制御され、各種の細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁等に穿孔を施す際に適した電圧値や、各種のイオン性の微小物質を移送する際に必要とされる電圧値は、予め、パラメータとしてコントローラ3のハードディスクまたは不揮発性メモリに記憶されている。コントローラ3のCPUはジョイスティックコントロールユニット4から入力されるオペレータの指令を受け、細胞の種類や隔壁の種別あるいはイオン性の微小物質の種別等に応じて穿孔作業や移送作業に適したパラメータを選択して直流電圧印加装置24に設定し、直流電圧印加装置24をオン/オフ制御する。極性反転スイッチ25もジョイスティックコントロールユニット4から入力されるオペレータの指令に応じて切り替えられるようになっている。
【0054】
交流電圧印加装置26は、電極を内装した微小物質移送用ピペット13’をマニピュレータ8に装着してエレクトロフォレーシス法におけるエレクトロオズモシスの応用で非イオン性の微小物質を微小物質移送用ピペット13’から細胞内に移送する際に必要とされる交流電圧を印加するためのもので、交流電圧印加装置26の出力端子は、極性反転スイッチ25を経ずに電極20aと電極20b(または電極20と電極20c)に接続される。交流電圧印加装置26はコントローラ3によって制御され、各種の非イオン性の微小物質を移送する際に必要とされる周波数帯の変化パターンや電圧印加時間は、予め、パラメータとしてコントローラ3のハードディスクまたは不揮発性メモリに記憶されている。コントローラ3のCPUはジョイスティックコントロールユニット4から入力されるオペレータの指令を受け、非イオン性の微小物質の種別等に応じて微小物質の移送作業に適したパラメータを選択して交流電圧印加装置26に設定し、電圧印加時間を制御する。
【0055】
超音波発振器制御装置27は、超音波発振器21を内装した微小物質移送用ピペット13”をマニピュレータ8に装着してソノポレーション法の応用で細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁等に穿孔を施して微小物質を移送する際に必要とされる超音波発振器21の振動数や振幅を制御するためのものである。超音波発振器制御装置27はコントローラ3によって制御され、各種の細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁等に穿孔を施して微小物質を移送するのに適したキャビテーションを生成するための発振周波数や振幅等のデータは、予め、パラメータとしてコントローラ3のハードディスクまたは不揮発性メモリに記憶されている。コントローラ3のCPUはジョイスティックコントロールユニット4から入力されるオペレータの指令を受け、細胞の種類や隔壁の種別等に応じて穿孔作業および微小物質の移送作業に適したパラメータを選択して超音波発振器制御装置27に設定し、超音波発振器制御装置27からの出力をオン/オフ制御する。
【0056】
パルスレーザー制御装置28は、微小物質移送用ピペット13をマニピュレータ8に装着した状態でアブレーションを利用して細胞膜や核膜等の隔壁あるいはオルガネラの隔壁等に穿孔を施して微小物質を移送する際に必要とされるパレスレーザーの出力を制御するためのものである。この実施形態では、ステージ10とテーブル7の中央部にレーザーの通過を許容する開口部が設けられ、ステージ10の下面側に図13に示されるようにしてパルスレーザー光源29,スリット30,λ/2板31,ポラライザー32,コリメーターレンズ33,ダイクロイックミラー34および集光レンズ35が配備され、パルスレーザー光源29から射出されたレーザーがこれらの光学系を介して、マニピュレータ8に装着された微小物質移送用ピペット13の先端近傍の領域に集光されるようになっている。既に述べたとおり、テーブル7は直交二軸の水平面内で任意の方向への移動が可能であり、また、マニピュレータ8はテーブル7と独立して直交三軸の空間内の任意方向に移動することが可能であるから、レーザーの集光位置と,テーブル7上の細胞培養容器に載置された細胞の位置と,微小物質移送用ピペット13の先端位置との位置合わせは、各軸の駆動制御によって容易に実現できる。パルスレーザー制御装置28はパルスレーザー光源29の電源を兼ねるオン/オフ制御手段であり、前述の直流電圧印加装置24,交流電圧印加装置26,超音波発振器制御装置27と同様にしてコントローラ3で制御される。
【0057】
プレッシャーインジェクター制御装置36は微小物質移送用ピペット13のチューブコネクタ17にチューブ19を介して接続されたプレッシャーインジェクターを駆動制御するためのものである。プレッシャーインジェクターは微小物質移送用ピペット13内の媒体等に外圧を印加して細胞内に媒体と共に微小物質を注入するためのもので、その構成に関しては既に公知であるので、ここでは説明を省略する。
【0058】
次に、これらの装置を用いて行われる微小物質移送方法について具体的に説明する。
【0059】
微小物質の移送先は、隔壁としての細胞膜を有する動物細胞の内部の領域、あるいは、隔壁としての細胞壁および細胞膜を有する植物細胞の内部の領域、更には、これらの細胞中に存在する核,ミトコンドリア,葉緑体,小胞体,ゴルジ体等のオルガネラの内部の領域である。核,ミトコンドリア,葉緑体,小胞体等のオルガネラは隔壁となる核膜や脂質2重膜を備えているので、その内部に微小物質を移送するためには、細胞自体の隔壁に加えオルガネラの隔壁を透過してその内部に微小物質を移送する必要がある。また、移送の対象となる微小物質は、前述のオルガネラ,低分子試薬,阻害剤,有機高分子DNA,RNA,蛋白質,ポリペプチド,脂質,糖類および此れらの誘導体,微粒子,修飾微粒子,金属,無機物等である。
【実施例1】
【0060】
まず、エレクトロポレーション法とエレクトロフォレーシス法を局限的に適用して細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域にイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法(以下、ピペットエレクトロフォレーシス法と称する)について説明する。
【0061】
この場合、作用極として機能する電極20aと此れと対を成す電極20bを並列的に配置して内装した微小物質移送用ピペット13’、または、作用極として機能する電極20のみを内装した微小物質移送用ピペット13’(以上、図6参照)をマニピュレータ8に装着して使用することになる。
【0062】
電極20aと電極20bを並列的に配置して内装した微小物質移送用ピペット13’を使用する場合には、図14に示すように、作用極としての電極20aを極性反転スイッチ25の一方の出力端子に接続すると共に、其の対となる電極20bを極性反転スイッチ25の他方の出力端子に接続する(以下、マルチチャネル式と称する)。
【0063】
また、電極20のみを内装した微小物質移送用ピペット13’を使用する場合においては、図15に示すように、微小物質移送用ピペット13’の電極20を極性反転スイッチ25の一方の出力端子に接続すると共に、細胞培養容器37中に設置されて電極20と対を成す電極20cを極性反転スイッチ25の他方の出力端子に接続する(以下、シングルチャネル式と称する)。図15では単一の電極を内装した別のピペット38をマニピュレータ9に装着し、このピペット38の電極を電極20cとして利用する場合について示しているが、電極20cの設置方法は此れに限定されない。但し、電極20cは、細胞培養容器37中で培養されている細胞39の位置を基準として、微小物質移送用ピペット13’の電極20と対局する位置に設置する必要がある。
【0064】
なお、図14および図15では、図面の簡略化のため、微小物質移送用ピペット13’に接続するチューブ19や微小物質移送用ピペット13’をマニピュレータ8に取り付けるためのステー22および細胞培養容器37を載置するテーブル7に関しては記載を省略し、電極20,20a,20b,20cと極性反転スイッチ25との電気的な接続状態のみを記載している。
【0065】
ここでは、一例として、図15に示されるシングルチャネル式の段取りを適用して細胞39のオルガネラの一種である核39bに微小物質を移送する場合、つまり、全体として2層の隔壁を透過して微小物質を移送する場合について説明する。
【0066】
細胞39は細胞培養容器37中に形成された細胞付着蛋白質のコーティングや親水性コーティング等の対象物保持部によって実質的に細胞培養容器37に固定され、微小物質移送用ピペット13’の中には予め移送対象となる微小物質が媒体と共に充填されているものとする。
【0067】
ここで、移送対象となるDNAや低分子等の微小物質が負に帯電している場合には、作用極として機能する電極20が微小物質と反発するマイナス極となるように電極20および電極20cの極性を決める。また、移送対象となる微小物質が蛋白質である場合には、当該微小物質の表面に存在する解離基の種類と数により、見かけ上、当該微小物質が正と負に帯電する性質があるので、予め、極性反転スイッチ25を切換え操作してテスト泳動を行い、微小物質の帯電性を確認してから作用極として機能する電極20の極性を決めるようにする。
【0068】
そして、細胞培養容器37中の対象物保持部に細胞39を保持した状態で、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してテーブル7の各軸を駆動制御し、細胞39を顕微鏡11の視野内に納め、更に、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してマニュピレータ8の各軸を駆動制御し、細胞39の最初の隔壁を構成する細胞膜の所望する位置に微小物質移送用ピペット13’の先端を位置決めする。
【0069】
この例では、細胞39内の核39bに微小物質を移送することを目的としているので、微小物質移送用ピペット13’の軸線方向の延長線が核39bと突き当たるような状態となるようにして細胞39の細胞膜上に微小物質移送用ピペット13’の先端を位置決めすることが望ましい。
【0070】
次いで、ジョイスティックコントロールユニット4からの指令で直流電圧印加装置24および極性反転スイッチ25を作動させ、微小物質の移送に必要とされる極性と逆の極性で微小物質移送用ピペット13’の電極20とピペット38の電極20cに高圧の直流電圧パルスを印加し、この直流電圧によって隔壁である細胞膜に外部から細孔を開ける。高圧の直流電圧パルスの印加で穿孔を行う作用原理に関しては従来のエレクトロポレーション法と同様であるが、本実施例においては、ガラス等の絶縁物から形成された微小物質移送用ピペット13’に内装された電極20を利用することによって局限された範囲で電気的な穿孔を行うようにしているので、穿孔箇所が複数となることはなく、微小物質移送用ピペット13’の位置決め位置、つまり、細胞膜上の選択箇所に対してのみ的確に穿孔を施すことができる。また、この段階では、微小物質を移送する際に必要とされる極性と反転させた状態で作用極となる電極20に直流電圧を印加しているので、微小物質移送用ピペット13’内にあるイオン性の微小物質が電極20に反発して不用意に細胞39の細胞質39a内に流出するといった問題も生じない。
【0071】
次いで、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してマニュピレータ8の各軸を更に駆動制御し、微小物質移送用ピペット13’に僅かに送りを掛けて、微小物質移送用ピペット13’の先端を第二の隔壁である核膜上の選択位置に位置決めし、前記と同様の作業工程を繰り返し実行することで、核膜上の選択箇所に穿孔を施す。
【0072】
そして、更に、直流電圧印加装置24および極性反転スイッチ25を作動させ、微小物質の移送に必要とされる極性に合わせて微小物質移送用ピペット13’内の電極20とピペット38の電極20cに直流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することで微小物質移送用ピペット13’から核39bの内部の領域に微小物質を移送する。
【0073】
直流電圧の印加を利用して微小物質を移送する原理は従来のエレクトロフォレーシス法と同様であるが、本実施例においては、最初の隔壁である細胞膜および第二の隔壁である核膜の穿孔過程で隔壁の選択箇所にのみ的確に穿孔が施され、しかも、この穿孔の過程で微小物質が不用意に細胞質39a内に拡散することがなく、更に、微小物質移送用ピペット13’の先端が核膜の穿孔位置に極めて近接しているので、細胞39の細胞質39a内に不用意に微小物質を分散させることなく核39bの内部にのみ的確に微小物質を移送することができる。
【0074】
このピペットエレクトロフォレーシス法を適用する場合は、微小物質それ自体に電気的な移送力が方向性をもって作用することになるので、微小物質の移送時における微小物質移送用ピペット13’の先端位置は核39bの隔壁である核膜よりも多少外側に位置させても構わない。当然、微小物質移送用ピペット13’の先端を核膜に接触させること、および、核膜よりも内側に突入させることに不都合はない。
【0075】
このように、本実施例のピペットエレクトロフォレーシス法では、隔壁である細胞膜や核膜に穿孔を施す際に、微小物質移送用ピペット13’をピエゾ素子等の駆動手段で瞬間的に駆動して突き入れる必要がなく、衝撃的な力が細胞39に作用することがないので、極めて低侵襲の細胞操作が可能であり、また、微小物質それ自体に移送力を作用させるようにしているので、微小物質移送用ピペット13’内の媒体を伴うことなく微小物質のみを必要箇所に移送することができる。
【0076】
また、微小物質移送用ピペット内に外圧を印加して細胞内に微小物質を注入する従来型のプレッシャーインジェクターの場合では、ピペットの先端から微小物質を送出するために媒体の流れが必要となるため、流体の抵抗等の関係でピペットの先端開口部を例えば0.5μm以下のように極端に縮径することは難しく、また、先端開口部を極端に縮径化した場合にはプレッシャーインジェクターを大出力化してピペットの内部圧力を相当に上昇させないと微小物質の送出ができない不都合があり、ピペット本体がピペットホルダーから抜け飛ぶような場合もあったが、この実施例のピペットエレクトロフォレーシス法においては、微小物質それ自体に移送力が作用するので、微小物質の通過が可能な範囲で微小物質双方向移送用ピペット13’の先端開口部を例えば低分子遺伝子・低分子タンパク質の標準的な大きさである10nm程度にまで縮径化することが可能であり、また、微小物質の移送に際して微小物質移送用ピペット13’の内圧を上昇させる必要がないので、ピペット本体14がピペットホルダー16から抜け飛ぶ弊害も生じない。
【0077】
ここでは、一例として、オルガネラの一種である核39bの内部に微小物質を移送する場合について述べたが、ミトコンドリア,葉緑体,小胞体等の脂質2重膜を備えた他のオルガネラの場合も処理工程は前記と同様である。
【0078】
また、細胞質39aに微小物質を移送する場合には、細胞膜にのみ穿孔を施せばよいので穿孔の工程は1回となるが、他の処理操作に関しては前記と同様である。
【0079】
図14に示されるマルチチャネル式の段取りを適用し、微小物質移送用ピペット13’内の電極20と細胞培養容器37内の電極20cに代えて微小物質移送用ピペット13’内の電極20a,20bを用いて微小物質を移送する場合も、実質的に前記と同様の処理操作を適用することが可能である。
【0080】
また、電極20のみを内装した微小物質移送用ピペット13’と細胞培養容器37中の電極20cを利用して行うシングルチャネル式のピペットエレクトロフォレーシス法においては、図15に示されるように単一の電極を内装した別のピペット38を電極20cとして利用する他、図16に示すように、細胞培養容器37を構成するマイクロウェル37aの底面をITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極で構成し、この透明電極を各マイクロウェル37aに共通の電極20cとして利用したり、あるいは、図17に示すように各マイクロウェル37aの側面に電極20cを設け、これらの電極20cを極性反転スイッチ25の一方の出力端子に並列的に接続するようにしてもよい。
【0081】
更には、図18に示すように、マイクロウェルを備えない通常のディッシュ状の細胞培養容器37の底面全体を透明電極20cで構成し、複数の細胞39を載置するようにすることも可能である。
【0082】
また、細胞培養容器中の対象物保持部としては、前述した細胞付着蛋白質のコーティングや親水性コーティングの他、細胞培養容器37の底面を構成する電極20cに図19に示されるようにして孔40を設け、この電極20cと下面板41との間に吸引路を形成し、吸引装置42からの真空引きによって孔40に細胞39を固定するといったことも可能である。
【実施例2】
【0083】
次に、エレクトロポレーション法とエレクトロオズモシスを局限的に適用して細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に非イオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法(以下、ピペットダイエレクトロフォレーシス法と称する)について説明する。
【0084】
この場合も、全体的な段取りに関しては図14あるいは図15のものを其のまま適用することができるが、ここでは、一例として、図15に示されるシングルチャネル式の段取りを適用した場合について説明する。
【0085】
細胞膜や核膜に対しての穿孔に関わる処理は前記と同様である。但し、ここでは非イオン性の微小物質を移送することを前提としており、電極20や電極20cへの直流電圧の印加によって微小物質が移動することはないので、細胞膜や核膜に対しての穿孔に関わる直流電圧の印加に際して電極20や電極20cの極性を格別考慮する必要はない。
【0086】
このように、前記と同様にして細胞膜や核膜に対しての穿孔を終え、微小物質移送用ピペット13’の先端部が核膜の穿孔部に位置決めされた状態とする。
【0087】
そして、このピペットダイエレクトロフォレーシス法においては、更に、ジョイスティックコントロールユニット4からの指令で交流電圧印加装置26を作動させ、微小物質移送用ピペット13’内の電極20とピペット38の電極20cに、予め設定されたパラメータに従って周波数帯の変化パターンや電圧印加時間を調整しながら不均一な交流電圧を印加して非イオン性の微小物質の電気双極子を誘起させ、周辺の電界との相互作用によって引力と斥力を発生させて微小物質移送用ピペット13’から核39bの内部の領域に微小物質を移送する。
【0088】
前記と同様、隔壁である細胞膜および核膜の穿孔過程で隔壁の選択箇所にのみ的確に穿孔が施され、更に、微小物質移送用ピペット13’の先端が核膜の穿孔位置に極めて近接しているので、核39bの内部にのみ的確に微小物質を移送することができる。
【0089】
しかも、このピペットダイエレクトロフォレーシス法を適用する場合においては、周波数帯の変化パターンや電圧印加時間を調整することにより、無電荷の粒子や表面電荷が同じ粒子のうち移送対象となる微小物質を区別して移送することが可能である。
【0090】
ピペットダイエレクトロフォレーシス法を適用する場合においても、微小物質それ自体に電気的な移送力が方向性をもって作用するので、微小物質の移送時における微小物質移送用ピペット13’の先端位置は、核39bの隔壁である核膜よりも多少外側に位置しても構わない。当然、微小物質移送用ピペット13’の先端を核膜に接触させること、および、核膜よりも内側に突入させることに不都合はない。
【0091】
このピペットダイエレクトロフォレーシス法においても微小物質それ自体に移送力が作用するので、前記と同様、微小物質の通過が可能な範囲で微小物質移送用ピペット13’の先端開口部を縮径化することが可能である。
【0092】
図14に示されるマルチチャネル式の段取りを適用して微小物質を移送する場合も実質的に此れと同様の処理操作を適用することが可能である。
【実施例3】
【0093】
次に、ソノポレーション法を局限的に適用して細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に非イオン性あるいはイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法(以下、ピペットソノポレーション法と称する)について説明する。
【0094】
この場合、ピペットホルダー16内に超音波発振器21と其のホーン21aを内装した微小物質移送用ピペット13”(図7参照)をマニピュレータ8に装着し、図20に示すように、超音波発振器21の電源入力端子を超音波発振器制御装置27の出力端子に接続して用いることになる。
【0095】
なお、図20では、図面の簡略化のため、微小物質移送用ピペット13”に接続するチューブ19や微小物質移送用ピペット13”を取り付けるためのステー22および細胞培養容器37を載置するテーブル7に関しては記載を省略し、超音波発振器21と超音波発振器制御装置27との電気的な接続状態のみを記載している。
【0096】
前記と同様、細胞39は細胞培養容器37に形成された細胞付着蛋白質のコーティングや親水性コーティング等の対象物保持部によって実質的に細胞培養容器37に固定され、微小物質移送用ピペット13”の中には予め移送対象となる微小物質が超音波造影材と共に充填されているものとする。
【0097】
微小物質移送用ピペット13”の位置決め操作に関しては前記と同様であり、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してテーブル7の各軸を駆動制御して細胞39を顕微鏡11の視野内に納め、更に、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してマニュピレータ8の各軸を駆動制御することで細胞39の隔壁を構成する細胞膜の所望する位置に微小物質移送用ピペット13”の先端を位置決めする。
【0098】
次いで、ジョイスティックコントロールユニット4からの指令で超音波発振器制御装置27を作動させ、微小物質移送用ピペット13”内の超音波発振器21のシグナル印加時間を制御してホーン21aを振動させてバブルを生成することで隔壁である細胞膜の選択箇所にキャビテーションを発生させる。そして、バブルが破砕する際の衝撃波で隔壁を破壊することにより微小物質移送用ピペット13”の先端に位置する隔壁の箇所を弱体化させ、この箇所に局限的に穿孔を施して微小物質移送用ピペット13”から例えば細胞質39aの内部の領域に微小物質を移送する。
【0099】
キャビテーションを利用した隔壁の破壊に関わる作用原理は従来のソノポレーション法と同様であるが、本実施例においては、微小物質移送用ピペット13”に内装された超音波発振器21でホーン21aを振動させることによって局限された範囲でキャビテーションを発生させて穿孔を行うようにしているので、穿孔箇所が複数となることはなく、微小物質移送用ピペット13”の位置決め位置つまり細胞膜の選択箇所に対してのみ的確に穿孔を施して、目的とする箇所に微小物質を移送することができる。
【0100】
なお、核39bを始めとするオルガネラの内部に微小物質を移送する必要がある場合には、この状態から更に微小物質移送用ピペット13”の先端を進め、細胞膜の場合と同様にしてオルガネラの隔壁に対しても穿孔を施すようにすればよい。
【0101】
隔壁である細胞膜の穿孔過程で隔壁の選択箇所にのみ的確に穿孔が施され、更に、微小物質の移送時点では微小物質移送用ピペット13”の先端が穿孔位置に極めて近接しているので、細胞39の内部の目標とする位置に的確に微小物質を移送することができる。
【0102】
微小物質の移送が電気的な力に依存するわけではないので移送対象となる微小物質はイオン性であっても非イオン性であっても構わないが、前述したピペットエレクトロフォレーシス法やピペットダイエレクトロフォレーシス法とは違って、微小物質それ自体に方向性をもった移送力が作用するわけではないので、微小物質の移送時における微小物質移送用ピペット13”の先端は、細胞膜等の隔壁に接触させるか、あるいは、隔壁よりも内側に突入させ、目標とする位置に的確に微小物質を移送することが望ましい。
【実施例4】
【0103】
次に、アブレーションを局限的に適用して細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に非イオン性あるいはイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法(以下、ピペットパルスレーザー法と称する)について説明する。
【0104】
この場合は微小物質移送用ピペット13(図2参照)をマニピュレータ8に装着し、パルスレーザー制御装置28で図13に示されるようなパルスレーザー光源29を駆動制御する。
【0105】
但し、図13では、図面の簡略化のため、微小物質移送用ピペット13に接続するチューブ19や微小物質移送用ピペット13を取り付けるためのステー22および細胞培養容器37を載置するテーブル7に関しては記載を省略し、パルスレーザー光源29と周辺の光学系のみを記載している。
【0106】
前記と同様、細胞39は細胞培養容器37に形成された細胞付着蛋白質のコーティングや親水性コーティング等の対象物保持部によって実質的に細胞培養容器37に固定され、微小物質移送用ピペット13の中には予め移送対象となる微小物質が媒体と共に充填されているものとする。
【0107】
まず、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してテーブル7の各軸を駆動制御して細胞39を顕微鏡11の視野内に納め、更に、顕微鏡11の視野を確認しながらジョイスティックコントロールユニット4を操作してマニュピレータ8の各軸を駆動制御することで細胞39の隔壁を構成する細胞膜の所望する位置に微小物質移送用ピペット13の先端を位置決めする。
【0108】
そして、更に、テーブル7の移動にマニュピレータ8を同期させて細胞39と微小物質移送用ピペット13の先端との相対位置を保持したままテーブル7の各軸を駆動制御してテーブル7を移動させ、レーザーの集光位置を微小物質移送用ピペット13の先端近傍に合わせる。
【0109】
次いで、ジョイスティックコントロールユニット4からの指令でパルスレーザー制御装置28を作動させ、微小物質移送用ピペット13の先端近傍の領域にパルスレーザーを集光してアブレーションを生成することにより、隔壁となる細胞膜を衝撃波により局所的に破壊して微小物質移送用ピペット13から細胞39の内部領域に微小物質を移送する。
【0110】
オルガネラの内部に微小物質を移送する必要がある場合には、この状態から更に微小物質移送用ピペット13の先端を進め、細胞膜の場合と同様にしてオルガネラの隔壁に対しても穿孔を施すようにすればよい。
【0111】
前述したピペットソノポレーション法の場合と同様、隔壁である細胞膜の穿孔過程で隔壁の選択箇所にのみ的確に穿孔が施され、更に、微小物質移送用ピペット13の先端が細胞膜の穿孔位置に極めて近接しているので、細胞39の内部の目標とする位置に的確にイオン性あるいは非イオン性の微小物質を移送することができる。微小物質の移送は電気的な力に依存するわけではないので、移送対象となる微小物質はイオン性であっても非イオン性であっても構わないが、微小物質それ自体に方向性をもった移送力が作用するわけではないので、微小物質の移送時における微小物質移送用ピペット13の先端は、細胞膜等の隔壁に接触させるか、あるいは、隔壁よりも内側に突入させ、目標とする位置に的確に微小物質を移送することが望ましい。
【0112】
また、パルスレーザー光源29としては、ナノ秒未満の時間幅を有するパルスレーザーが望ましく、特に、細胞39に吸収されない波長で効率的に衝撃波を発生させられることから、フェムト秒チタンサファイアレーザー,フェムト秒イットリビウムレーザー,フェムト秒ファイバーレーザー等が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明を適用した一実施形態の微小物質移送方法を実施する際に利用される単一細胞操作支援ロボットの一例を簡略化して示した図である。
【図2】微小物質移送用ピペットの構成例について示した図である。
【図3】ピペット本体側に設けられたストッパを例示した図で、図3(a),図3(b)はフランジ状のもの、図3(b)は舌片状のものについて示している。
【図4】ピペットホルダー側の円筒部に設けられたストッパ(段付きの縮径部)を例示した図である。
【図5】ピペットホルダーの構成例を示した図である。
【図6】ピペットホルダー内に電極を内装したピペットの一例を示した図である。
【図7】ピペットホルダー内に超音波発振器を内装したピペットの一例を示した図である。
【図8】電極を内装したピペットホルダーからピペット本体を取り外した状態を例示した図である。
【図9】超音波発振器を内装したピペットホルダーからピペット本体を取り外した状態を例示した図である。
【図10】マニピュレータの先端に設けられたステーに対する微小物質移送用ピペットの取り付け例を示した図である。
【図11】微小物質移送用ピペットの別の取り付け例を示した図である。
【図12】微小物質移送用ピペットの更に別の取り付け例を示した図である。
【図13】パルスレーザー光源の周辺の構造について簡略化して示したブロック図である。
【図14】エレクトロポレーション法とエレクトロフォレーシス法を局限的に適用して細胞の内部の領域にイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法、および、エレクトロポレーション法とエレクトロフォレーシス法におけるエレクトロオズモシスを局限的に適用して細胞の内部の領域に非イオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法を実施する際の段取り例について示した概念図である(実施例1,実施例2)。
【図15】エレクトロポレーション法とエレクトロフォレーシス法を局限的に適用して細胞の内部の領域にイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法、および、エレクトロポレーション法とエレクトロフォレーシス法におけるエレクトロオズモシスを局限的に適用して細胞の内部の領域に非イオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法を実施する際の他の段取り例について示した概念図である(実施例1,実施例2)。
【図16】底面に共通電極を設けたウェルを備えた細胞培養容器を利用した場合の段取り例について示した概念図である。
【図17】側面に電極を設けたウェルを備えた細胞培養容器を利用した場合の段取り例について示した概念図である。
【図18】通常のディッシュを細胞培養容器として利用した場合の段取り例について示した概念図である。
【図19】真空引きで細胞を固定するようにした細胞培養容器を利用した場合の段取り例について示した概念図である。
【図20】ソノポレーション法を局限的に適用して細胞の内部の領域に非イオン性あるいはイオン性の微小物質を移送する微小物質移送方法を実施する際の段取り例について示した概念図である(実施例3)。
【符号の説明】
【0114】
1 単一細胞操作支援システム
2 細胞操作部
3 コントローラ
4 ジョイスティックコントロールユニット
5 フットペダル群
6 モニタ
7 テーブル
8 マニピュレータ
9 マニピュレータ
10 ステージ
11 顕微鏡
12 キャピラリー
13 微小物質移送用ピペット
13’ 電極を内装した微小物質移送用ピペット
13” 超音波発振器を内装した微小物質移送用ピペット
14 ピペット本体
14a,14b,14c 突起(ストッパ)
15 円筒部
15a 段付きの縮径部(ストッパ)
16 ピペットホルダー
16a ピペットホルダー本体
17 チューブコネクタ
18 キャップ部
18a 円錐部
18b 環状部
19 チューブ
20 電極
20a 電極(作用極)
20b 電極(作用極と対を成す電極)
21 超音波発振器
21a ホーン
22 ステー
23 枢着手段
24 直流電圧印加装置
25 極性反転スイッチ
26 交流電圧印加装置
27 超音波発振器制御装置
28 パルスレーザー制御装置
29 パルスレーザー光源
30 スリット
31 λ/2板
32 ポラライザー
33 コリメーターレンズ
34 ダイクロイックミラー
35 集光レンズ
36 プレッシャーインジェクター制御装置
37 細胞培養容器
38 ピペット
39 細胞
39a 細胞質
39b 核
40 孔
41 下面板
42 吸引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域にイオン性の微小物質を移送するための微小物質移送方法であって、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された電極を作用極として前記隔壁に外部から直流電圧を印加することで前記隔壁の選択箇所に一時的に局所的な細孔を開けてから、前記作用極に前記微小物質と同じ極性で直流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することで前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした微小物質移送方法。
【請求項2】
細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に非イオン性の微小物質を移送するための微小物質移送方法であって、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された電極を作用極として前記隔壁に外部から直流電圧を印加することで前記隔壁の選択箇所に一時的に局所的な細孔を開けてから、前記作用極に周波数帯を変化させて不均一な交流電圧を印加し、其の電圧印加時間を制御することで前記微小物質の電気双極子を誘起させ、周辺の電界との相互作用によって引力と斥力を発生させて前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした微小物質移送方法。
【請求項3】
前記作用極と対を成す極性の電極を前記作用極と対向させて前記ピペットに内装して電圧を印加することを特徴とした請求項1または請求項2記載の微小物質移送方法。
【請求項4】
前記作用極と対を成す極性の電極を前記細胞培養容器中に配置して電圧を印加することを特徴とした請求項1または請求項2記載の微小物質移送方法。
【請求項5】
細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送するための微小物質移送方法であって、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質と超音波造影材を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、前記ピペットに内装された超音波発振器のシグナル印加時間を制御してバブルを生成することで前記隔壁の選択箇所にキャビテーションを発生させ、バブルが破砕する際の衝撃波で前記隔壁を破壊して前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした微小物質移送方法。
【請求項6】
細胞培養容器中に培養液等の液体と共に入れられた細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送するための微小物質移送方法であって、
前記細胞培養容器と独立して位置および姿勢を操作されるピペット内に予め前記微小物質を充填しておき、前記細胞培養容器中に形成された対象物保持部で前記細胞を保持して前記隔壁の選択箇所にピペットの先端を位置決めし、該ピペットの先端近傍の領域にパルスレーザーを集光してアブレーションを生成することで前記隔壁を局所的に破壊して前記ピペットから前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした微小物質移送方法。
【請求項7】
前記ピペットの先端を前記隔壁よりも外側に位置させて前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした請求項1,請求項2,請求項3または請求項4記載の微小物質移送方法。
【請求項8】
前記ピペットの先端を前記隔壁に接触させて前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5または請求項6記載の微小物質移送方法。
【請求項9】
前記ピペットの先端を前記隔壁よりも内側に位置させて前記内部の領域に微小物質を移送することを特徴とした請求項5または請求項6記載の微小物質移送方法。
【請求項10】
細胞または其のオルガネラの隔壁を透過して内部の領域に微小物質を移送する際に使用される微小物質移送用ピペットであって、
ガラス管の先端を狭搾して形成したピペット本体と、前記ピペット本体の基部を圧入する円筒部を先端に備えたピペットホルダーと、前記ピペットホルダーの後端部に接続するチューブコネクタとから成り、
前記ピペットホルダーが、前記ピペット本体とチューブコネクタとの接続に必要とされる最低限度の軸方向長さを有し、
前記ピペット本体の基部もしくは前記ピペットホルダーの円筒部の少なくとも一方に、前記ピペット本体の突入量を規制するストッパを設けたことを特徴とする微小物質移送用ピペット。
【請求項11】
前記ストッパがピペット本体の基部外周面から径方向外側に突出する突起によって形成されていることを特徴とした請求項10記載の微小物質移送用ピペット。
【請求項12】
前記ストッパが前記ピペットホルダーの円筒部の奥に形成された段付きの縮径部の端面によって形成されていることを特徴とした請求項10記載の微小物質移送用ピペット。
【請求項13】
前記ピペットホルダー内に電極を内装したことを特徴とする請求項10,請求項11または請求項12記載の微小物質移送用ピペット。
【請求項14】
前記ピペットホルダー内に超音波発振器を内装したことを特徴とする請求項10,請求項11または請求項12記載の微小物質移送用ピペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−167006(P2007−167006A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370718(P2005−370718)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(592004404)中央精機株式会社 (16)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】