説明

微小部材の薄膜コーティング方法

【課題】
分散コーティング剤を用いるディップコート法によって、50μm〜5mm×数mm以上の微小な被塗物に厚さ20μm以下の熱融性樹脂薄膜を均一に形成させる。
【手段】粒径10μm以下のEAA樹脂微粒子又はEAA樹脂とPTFEの複合熱融性微粒子をアルコール類分散媒に固形分濃度1〜6wt%として分散させてたコーティング剤2に被塗物3を浸漬する浸漬工程と、浸漬した被塗物をコーティング剤液面に対し10〜40°の範囲の一定角度を保持して一定速度で垂直に引き上げる取出し工程と、該取出し被塗物を乾燥した後、前記熱融性物質の融点以上の温度で焼き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、精密微小部材、特にガイドワイヤーやカテーテル等の医療用部材表面に均一薄膜を被覆するコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディップコート法によってローラなどの円筒体表面に均一な塗膜を形成するため、塗装液からの引き上げ時に引き上げ速度を変化させて行うことが提案されている(特許文献1)。
また、塗材粘度を調整する方法もあるが、これらの方法は、比較的大型の部品で且つ厚い塗膜を得る場合に適用されるものである。
ディップコート法によれば、粒径10μmの粒子の分散液を使用することによって厚さ20μm以下の塗膜を得ることができるが、被塗物が数mmの小部品に均一塗膜を形成することは容易でない。
【0003】
【特許文献1】特開2004−9010公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粒子径10μm以下の熱融性樹脂、特にEAA樹脂微粒子又はEAA樹脂とPTFEの複合微粒子をアルコール類を分散媒としたコーティング剤を用いるディップコート法によって、50μm〜5mm×数mm以上の被塗物に厚さ20μm以下の薄膜を均一に形成させることができる薄膜コーティング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、粒径10μm以下の熱融性微粒子を分散媒に分散させて固形分濃度を1〜6wt%としたコーティング剤に被塗物を浸漬して粒子を付着させる浸漬工程と、前記被塗物を前記コーティング剤液面に対し10〜40°の範囲の一定角度に保持して一定速度で垂直に引き上げる取出し工程と、該取出し被塗物を乾燥した後、熱融性物質の融点以上の温度で焼き付ける工程とからなるものであって前記浸漬工程と取出し工程を複数回繰り返して行なうことによって所望する膜厚が得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明方法は、従来困難であった微小部材に、特別な設備を要せずに厚さ数μm〜20μmの被膜を均一に形成することができる上、主剤に血液適合性に優れているEAA樹脂を選択する場合は、直径3mm以下の極細ワイヤ又はカテーテルなどの医療用器材の被覆に効果的に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
コーティング剤は、一般のアルコール類例えばイソプロピルアルコールに粒子径10μm(中位径D50:1〜5μm)以下の樹脂粒子を固形分濃度1〜6wt%、好ましくは4wt%
とした粘度約100〜10,000 cPの分散液である。 微小部材の場合の好ましい引上げ速度は、300〜400mm/minであるが、引上げ速度に特に限定は無く、引上げ終了までできるだけ一定速度とする。垂直引き上げ時における被塗物と液面のなす角θ=10〜40°を保持することが重要であり、特に20〜25°がよい。
【実施例】
【0008】
イソプロピルアルコールに中位径D50が約3μmのエチレン-アクリル酸共重合樹脂粒子を固形分濃度は約4wt%として分散させたコーティング剤2を調製して浸漬槽1に満たした。
このコーティング剤に線径φ0.28mm、長さ2mのステンレス製ワイヤー4を浸漬した後、引き上げ速度340±5mm/minで垂直に引き上げ、3分間風乾後、再度同条件で浸漬及び引き上げを行い、80℃で10分間乾燥し、更に、180℃で5分間焼付けて塗膜5を得た。
コーティング剤槽からワイヤーを引き上げる際、コーティング剤液面3とワイヤー4の成す角度を22.5°に保持した。コーティング後のワイヤーを電子顕微鏡で観察してコーティング膜5の均一性を確認したところ図2のようであってピンホールがなくコーティング膜厚が全面均一なコーティング膜が形成されていた。
被膜の均一性は20〜25°でもほぼ同様であることが確認され、10〜20°及び25〜40°では均一性がやや劣るものの他の引上げ角より極めて良好であり、この傾向は、被塗物の形状を変えても同様であった。
(比較例)
【0009】
実施例と同一条件でコーティング剤液面とワイヤーの成す角度θを0°と45°及び90°としてコーティングして膜厚及び外観を観察した。 0°の場合ではコーティング剤のキレが悪いために、コーティング膜厚に不均等なばらつき6が生じていた(図3(A))。
また、前記角度が45°と90°の場合は、コーティング剤のダレによって塗着量が波打ち状態になって厚さむら7が大きくなる他、ピンホールが生じ易いことが判った(同図(B))。なお、45°〜90°の範囲では殆ど同じ状態になることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】浸漬槽からの引上げ状態を示す図
【図2】本発明塗膜の電子顕微鏡写真の模型図
【図3】比較例の電子顕微鏡写真の模型図
【符号の説明】
【0011】
2 コーティング剤
3 液面
4 被塗物
θ 液面と被塗物のなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10μm以下の熱融性微粒子を分散媒に分散させて固形分濃度1〜6wt%としたコーティング剤に被塗物を浸漬する浸漬工程と、浸漬した前記被塗物を前記コーティング剤液面に対し10〜40°の範囲の一定角度を保持して一定速度で垂直に引き上げる取出し工程と、該取出し被塗物を乾燥した後、前記熱融性物質の融点以上の温度で焼き付ける工程とからなる微小部材のコーティング方法。
【請求項2】
取出し工程において、被塗物とコーティング剤液面のなす角を20〜25°として行う請求項1記載の微小部材のコーティング方法。
【請求項3】
浸漬工程と取出し工程が複数回繰り返して行われる請求項1又は2記載のコーティング方法。
【請求項4】
被塗物が直径50μm〜5mmの線状体である請求項1乃至3記載のいずれかのコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−75738(P2006−75738A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262992(P2004−262992)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(591127917)株式会社セイシン企業 (17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】