説明

微小銀粒子を含有する導電性ペースト及び硬化膜

【課題】熱硬化型導電性ペーストでは比較的低い温度で硬化させるため銀粉同士の接触点が多いと考えられる鱗片状銀粉が広く使われる。しかし、ファインピッチの印刷には球状や凝集状の銀粉を使った導電性ペーストが好ましく、これらの銀粉を用いた導電性ペーストによる硬化膜の電気抵抗を低減させる必要がある。
【解決手段】粒子径が0.1μm以上50μm未満の範囲にある銀粒子と、粒子径が1nm以上100nm未満の範囲にある微小銀粒子と、熱硬化型樹脂とを含む熱硬化型導電性ペーストである。炭素数が6以下の直鎖脂肪酸を分散剤として表面に被覆させたナノオーダーの銀粒子を主金属材となるマイクロオーダーの銀粉に混ぜ、熱硬化型樹脂を加えて導電性ペーストとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノオーダーの微小銀粒子を併用する熱硬化型導電性ペースト及びそれを用いた硬化膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から金属及び樹脂を含有する導電性ペーストが、電子機器用途に広く用いられている。特に多種ある金属の中でも、加熱時の酸化に起因した抵抗増加が起こりにくい銀が広く用いられており、また、このような導電性ペーストとしては、熱硬化性樹脂と、その硬化剤と、銀粉末及び溶剤とを含むものが広く用いられている。この熱硬化性樹脂を含む導電性ペーストは、熱硬化型導電性ペーストともいい、基板に塗布した後、一般的に150℃から200℃の温度で数十秒から数時間加熱することによって樹脂を硬化させ、銀粒子同士の接触部分を通じて電気を導通させるものである。
【0003】
また、このような導電性ペーストをスクリーン印刷やインクジェット印刷などの種々の方式により印刷した導電体パターンでは、一般的にその電気抵抗値が低いことが求められている。そのため、このような熱硬化型導電性ペーストに含まれる銀粉末には、熱硬化後に粒子同士の接触部分が多い事が必要とされ、その点を考慮した鱗片状の銀粉末が多く用いられている。また、求められる印刷制御性や導体パターンの電気抵抗値によっては、粒子形状が球状や凝集状の粉末単体、もしくは球状、凝集状、鱗片状の銀粉末を様々なパターンで組み合わせたものも用いられている。
【0004】
しかし、前記のように、150℃から200℃の温度で加熱される熱硬化型導電性ペーストでは、粒子間の接触部分を通じ導通することから、導通が不十分な場所があり、一般的に400℃から600℃で加熱することにより導通される焼成型導電性ペーストと比較すると、その電気抵抗値は劣るものとされている。さらには、ペーストとして低温で焼結できるとともに低抵抗を示すような素材を提供できれば、熱にも弱いような基板であっても選択の候補にあげることができるようになるので好ましいとされている。
【0005】
このような要求を満たすために、ナノオーダーの微小な金属粒子を混合することが検討されてきた。こうした微小な金属粒子を併用すれば、熱硬化型導電性ペーストの硬化温度である150℃から200℃程度の温度であっても、ナノオーダーの微小金属粒子が焼結するため、導電性ペースト中の粒子間接点が増加することによって、電気抵抗値を減少できる可能性があると考えられたからである。
【0006】
このような観点からナノオーダーの微小金属粒子作製方法や、それらナノオーダーの金属粒子を従来の熱硬化型導電性ペーストに混合することも種々検討されてきており、すでにいくつかの報告がなされている。
【0007】
まず、ナノオーダーの金属粒子を作製する方法としては、主として気相法と液相法が知られている。例えば、特許文献1では、真空中で気相法により、銀の超微粒子を作製し、有機溶媒と混合することで、該超微粒子の表面が該有機溶媒で覆われて個々に独立して分散した銀超微粒子独立分散液が得られることが開示されている。
【0008】
特許文献2では液相法によって得られる超微粒子が開示されている。この技術では、水相中の金属イオンを還元生成した金属微粒子が、水相からより安定な有機溶媒相に相間移動することを利用する。つまり、予め有機溶媒中に、保護コロイドを少量存在させておくことにより、水相から有機溶媒層へ相間移動し金属微粒子を安定なコロイド粒子とすることで、有機溶媒相中で金属粒子を高濃度で得られると開示されている。
【0009】
特許文献3も液相中での作製法を開示するものである。ここでは、溶媒中で銀の塩を還元することにより銀ナノ粒子を製造するに際して、通常用いられる硝酸銀ではなく、銀の塩として不溶性の塩であるハロゲン化銀(特に塩化銀又は臭化銀)を用い、溶媒に溶解し銀に配位性を有する化合物から成る保護剤の存在下で還元を行う方法が開示されている。この方法では、保護剤によって被覆・保護され溶媒中に分散された銀ナノ粒子の単分散液が得られるとされ、溶媒としては極性溶媒を用い、保護剤としては、チオコリンブロミドのようなチオールが好ましいと開示されている。
【0010】
特許文献4も液相法を用いて、極性溶媒中に単分散したナノオーダーの銀微粒子を得る方法を開示している。ここでは、銀の微粒子を得るための出発材料は硝酸銀を用い、保護剤はヘプタン酸を用いることが開示されている。
【0011】
また、特許文献5には、ナノオーダーの微小金属粒子を従来の熱硬化型導電性ペーストに混合した例が開示されている。より詳しくは、分子量が1500から30000である分散剤で被覆した粒子径が20nm以下の球状微小銀粉を、鱗片状銀粉と混合することで、印刷特性が良好であり、しかも熱硬化後の膜の導電率が改善するという熱硬化型導電性ペーストが開示されている。
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【特許文献2】特開平11−319538号公報
【特許文献3】特開2003−253311号公報
【特許文献4】US2007/0144305 A1
【特許文献5】特許3858902号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ナノオーダーの微小金属粒子の製造方法としては、特許文献1から4で挙げたように種種あるが、産業上の量産性の観点では液相法で行うのが好適である。また液相中での合成の中でも、とりわけ水を初めとした極性溶媒中で合成できる、さらには得られた粒子が極性溶媒に容易に分散が可能であることが好ましい。特許文献3あるいは4に開示されている技術によれば、このような金属粒子を得ることはできるが、製造の条件などで得られる微小粒子の粒度が異なるといった不安定な部分も多い。
【0013】
また、特許文献5においては、鱗片状銀粒子の熱硬化型導電性ペーストに粒子径が20nm以下の球状微小銀粒子を混合することで、導電率を改善することに成功している。しかし、球状微小銀粒子が分子量の比較的大きい高分子化合物によって被覆されていることから、球状微小銀粒子/鱗片状銀粒子の比率が高くなっていくのに伴って、被覆している高分子による導電性の阻害が引き起こされるおそれがあるとともに、一般的には高分子化合物は、加熱により除去されにくい難点があり、被覆する有機物はできるだけ単純名構造でかつ鎖の短いものであることが好ましい。
【0014】
現在熱硬化型導電性ペーストの主金属材として、鱗片状の銀粒子が広く用いられている。しかし、更なる導体パターンのファインピッチ化が求められた際、鱗片状銀粒子を用いた導電性ペーストでは、印刷時に導体パターンのファインライン描画が困難となることが考えられる。そのため、比較的印刷制御性の良好な粒状銀粒子や凝集状銀粒子においても、印刷した際の電気抵抗値を低くすることが求められていた。
【0015】
本発明の目的は、従来の熱硬化型導電性ペーストにナノオーダーの微小銀粒子を混合した際、主金属材となる銀粒子形状に関わらず、硬化膜の電気抵抗値を改善させ得る熱硬化型導電性ペーストを提供することにある。
【0016】
なお、本明細書において、微小銀粒子とはナノオーダーの銀粒子のことを指し、銀粒子とはサブミクロンオーダー以上の粒子径で、且つ鱗片状、凝集状及び球状のいずれかの形状を有する銀粒子をいう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、所定のマイクロオーダーの銀粒子と、所定のナノオーダーの微小銀粒子と、熱硬化型樹脂とを含めることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明の熱硬化型導電性ペーストは、粒子径が0.1μm以上50μm未満の範囲にある銀粒子と、粒子径が1nm以上100nm未満の範囲にある微小銀粒子と、熱硬化型樹脂とを含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の熱硬化型導電性ペーストの好適形態は、微小銀粒子は炭素数6以下の直鎖脂肪酸で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定のマイクロオーダーの銀粒子と、所定のナノオーダーの微小銀粒子と、熱硬化型樹脂とを含めることにより、形成した硬化膜の電気抵抗値を改善させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の熱硬化型導電性ペーストについて詳細に説明する。なお、本特許請求の範囲及び本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0022】
上述の如く、本発明の熱硬化型導電性ペーストは、粒子径が0.1μm以上50μm未満の範囲にある銀粒子と、粒子径が1nm以上100nm未満の範囲にある微小銀粒子と、熱硬化型樹脂とを含んでなる。
このような微小銀粒子を含む導電性ペーストとすることで、任意の形状を有する銀粒子との間に銀のネットワークが容易に構築され、導電性が改善される。
【0023】
上記微小銀粒子の粒子径が100nmを超えると、熱硬化時に微小銀粒子が焼結しにくくなるために硬化膜の電気抵抗値が下がらない。また、微小銀粒子の粒子径が5nmを下回ると微小銀粒子同士の凝集を防止できず、結果的に硬化膜の電気抵抗値が下がらない。そこで、本発明に利用する微小銀粒子の粒子径は、好ましくは5nm以上50nm未満であり、より好ましくは10nm以上30nm未満である。
【0024】
また、上記微小銀粒子は、炭素数6以下の直鎖脂肪酸で被覆されていることが好ましい。かかる低分子の直鎖脂肪酸により、熱硬化型導電性ペーストに混合したときの分散性の確保と、熱硬化により膜を形成したときの導電性の確保とを同時に達成することができる。ここで、炭素数6以下の直鎖脂肪酸は、保護剤として機能する。この保護剤は、微小銀粒子の表面に付着し、粒子同士の結合を阻害することで、安定した微小銀粒子を得る効果がある。また、塗布膜の硬化温度及び導電性の観点から、比較的短い直鎖の脂肪酸が好適となる。
【0025】
なお、直鎖脂肪酸は、炭素数6以下である限り制限はないが、好ましくは3以上であり、さらに好ましくは6であるのがよい。代表的にはヘキサン酸を用いることができる。炭素数が7以上である場合、反応が不安定となり、熱硬化型導電性ペーストに混合すると本発明の効果を得られないことがある。
【0026】
本発明において、熱硬化型導電性ペースト中に含有される総金属質量(鱗片状、凝集状、及び球状からなる群より選ばれる1種以上の形状からなる銀粒子と微小銀粒子の合計質量)は、熱硬化型導電性ペーストの質量に対して、80〜95%含有させることができる。また、本発明における微小銀粒子の混合割合としては、総金属質量に対して0.001〜99%含むことができるが、好ましくは1〜50%であり、より好ましくは5〜30%である。総金属質量に対して微小銀粒子の混合割合が0.001%未満である場合、微小銀粒子量の焼結によって十分な銀のネットワークを形成するには量が少なすぎるため、本発明の効果を得られないことがある。
【0027】
このような構成により、従来の熱硬化型導電性ペーストと比較して硬化膜の抵抗率が低く、また微小銀粒子の熱硬化型導電性ペースト中の総金属質量に占める割合が高くなっても、硬化膜の電気抵抗値が増加しないという特徴が得られる。
【0028】
なお、熱硬化型導電性ペーストは、硬化剤や粘度調整用のフィラー、溶剤を含んでも良い。また、銀以外の導電性物質が含まれていても良く、例えば金、銅、亜鉛、アルミニウム、導電性樹脂等を含んでいても良い。この意味で本発明でいう総金属質量は、銀粒子と微小銀粒子の合計質量だけでなく、全導電性材料の総質量と言っても良い。
【0029】
また、上記銀粒子とは、鱗片状、凝集状、又は球状の形状の銀粒子単体からなる、もしくはそれらの形状からなる粒子が任意の割合で混合されたものであり、前記任意の割合に特に制限はない。
【0030】
ここで、鱗片状の銀粒子とはアスペクト比が5以上の銀粒子をいう。また凝集状とはより小さな銀粒子が固まって1つの塊になって存在する状態をいう。また、球状とは長径/短径の比率が2以下の粒子をいう。いずれも電子顕微鏡での観察で平均的な値を読み取り判断すれば足りる。
【0031】
上記微小銀粒子は、代表的には、原料液及び還元液を調整する調液工程、温度を上昇させる昇温工程、原料液を還元液に添加し反応を進行させる反応工程、液中の金属粒子(特に銀粒子)を成長させる熟成工程、濾過・水洗・分散を繰り返し余分な有機物質を除去する洗浄工程、及び乾燥により液中の水分を除去する乾燥工程を行うことにより製造できる。
【0032】
本発明では、還元液の調液工程、銀反応工程、洗浄工程を以下のように行うことが良い。還元液調液工程で用いる還元液には、水とアンモニア水と直鎖脂肪酸(特に挙げればヘキサン酸)とヒドラジン水和水溶液とを含める。銀反応工程では、この還元液に硝酸銀水溶液を前記還元液に添加して反応させる。洗浄工程では、反応工程で得られた生成物を水で洗浄する。
【0033】
より具体的に説明すると、還元液の調液工程では、アンモニア水を用いる。アンモニア水は、水中に酸を溶解させるための安定化剤として作用させるためである。
【0034】
銀反応工程では、反応槽中を40℃から80℃の範囲に昇温して反応させるのがよい。このとき、反応槽に添加する硝酸銀水溶液は、反応槽と同じ温度にしておくとより好ましい。なお、反応槽中が40℃未満であれば、金属の過飽和度が上昇し、核発生が促進されるため、微粒が多くなりやすい。80℃超では、核発生は抑制されるが、粒子成長、粒子凝集が促進されやすい。
【0035】
また、銀反応工程では、溶液内の均一反応を実現する観点から、添加すべき硝酸銀水溶液を一挙に添加することが好ましい。一挙に添加しないと溶液内が不均一系になり、核発生と粒子凝集が同時並行的に起こるようになり、結果的に粒度分布の大きな、不均一な銀粒子が得られることがある。したがって、ここでいう「一挙に添加する」とは、還元剤や保護剤の濃度若しくはpH、温度といった反応要因が、硝酸銀水溶液の添加時期によって実質的に変化しない態様であれば、特に限定されるものではない。
【0036】
ここで、前記ヒドラジン水和物は、還元剤として金属を還元可能なものであればよい。ヒドラジン水和物以外の還元剤、具体的には、ヒドラジン、水素化ホウ素アルカリ塩(NaBH4など)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)、アスコルビン酸、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンなどを併用することもできる。
【0037】
このような工程により得られる本発明の微小銀粒子を、熱硬化型導電性ペーストに混合することで、硬化膜の電気抵抗値が低くなる効果をもたらす。また、この効果は微小銀粒子の熱硬化型導電性ペースト中の総金属質量に占める割合が高くなったとしても変ることがない。
【0038】
以上説明した上記微小銀粒子の製造方法では、反応槽として、攪拌の均一性が得られる形状及び構造のものを使用するのがよい。これは、微小銀粒子は還元反応によって得られるが、得ようとしている粒子のサイズが非常に小さいため、局所的な濃度やpHの分布が粒度分布に大きく影響することに由来する。
【0039】
次に、本発明の熱硬化型導電性ペーストは、例えば、上述の微小銀粒子製造方法で作製した微小銀粒子を、従来の熱硬化型導電性ペーストに混合することによって得られる。
なお、ここで言う「従来の熱硬化型導電性ペースト」とは、鱗片状、凝集状、及び球状からなる群より選ばれる1種以上の形状からなる銀粒子、溶剤、熱硬化型樹脂、及びその硬化剤からなる熱硬化型導電性ペーストのことをいう。
【0040】
前記の微小銀粒子の混合において、混合方法に制限は特になく、微小銀粒子と銀粒子を乾燥粉末状態で混合することや、微小銀粒子と銀粒子を適当な溶媒中で混合することも考えられるが、微小銀粒子と銀粒子をより均一に混合させることを考えると、適当な溶媒中で微小銀粒子と銀粒子を混合することがより好ましい。
【0041】
熱硬化型導電性ペーストの作製方法としては、鱗片状、凝集状、及び球状からなる群より選ばれる1種以上の形状からなる銀粒子、及び微小銀粒子とからなる金属成分、溶剤、熱硬化型樹脂、及びその硬化剤を混合し、攪拌脱泡機、回転ミルや3本ロール等で混練することにより得られる。
【0042】
ここで、前記熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂が挙げられる。使用できるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、ダイマー酸をグリシジルエステル化したエポキシ樹脂などがある。
【0043】
また、前記硬化剤としては、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジド等のアミン系硬化剤、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1、1−ジメチル尿素等の尿素系硬化剤、無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタール酸
等の酸無水物系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン酸等の芳香族アミン系(アミンアダクト)硬化剤等が挙げられ、前記のエポキシ樹脂と合わせた含有量としては熱硬化型導電性ペーストの質量に対して、5〜20%含むことができる。
【0044】
なお、前記溶剤とは本発明の熱硬化型導電性ペーストの粘度調整のために適宜添加可能なものであって、例えば、イソプロピルアルコール、テルピネオール、2−オクタノール、ブチルカルビトールアセテート等を使用することができる。
【0045】
以上説明した本発明の熱硬化型導電性ペーストは、ガラス基板などに塗布して硬化膜を形成できるが、この硬化膜の導電性も従来品に比べて良好となる。
【実施例】
【0046】
以下実施例について詳細に説明する。なお、本実施例では導電材料として銀粒子と微小銀粒子を用いるので、総金属質量は銀粒子と微小銀粒子の合計質量である。
(実施例1)
(1)粒子の作製
反応槽には24L反応槽を使用した。攪拌の均一性を担保するため、壁面内側には等間隔に邪魔板を配置した。また攪拌のために、タービン羽根を2枚備えた攪拌棒を反応槽の中心に設置した。反応槽には温度をモニターするための温度計を設置した。また溶液に下部より窒素を供給できるようにノズルを配設した。
【0047】
まず、反応槽に水16851gを入れ、残存酸素を除くため反応槽下部から窒素を5000mL/分の流量で600秒間流した。その後、反応槽上部から5000mL/分の流量で供給し、反応槽中を窒素雰囲気とした。
【0048】
攪拌棒の回転速度が338rpmになるように調整した。そして反応槽内の溶液温度が60℃になるように温度調整を行なった。
【0049】
アンモニア水(アンモニアとして30%含有する)33.9gを反応槽に投入した後、液を均一にするために1分間攪拌した。
【0050】
次に保護剤としてヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製特級試薬)218.3g(銀に対して1.98当量にあたる)を添加し、保護剤を溶解するため4分間攪拌した。その後、還元剤として50%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)水溶液を114.5g添加し、これを還元液とした。
【0051】
別の容器に硝酸銀結晶(和光純薬工業株式会社製特級試薬)162gを水438gに溶解した硝酸銀水溶液を用意し、これを原料液とした。なお、硝酸銀水溶液は反応槽内の溶液と同じ60℃に温度調整を行なった。
【0052】
その後、原料液を還元液に一挙添加により加え、還元反応を行った。攪拌は連続して行い、その状態のまま10分間熟成させた。その後、攪拌を止め、洗浄工程、乾燥工程を経て、微小銀粒子塊を得た。洗浄工程の終了段階で得られた粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、平均粒子径14nmで比較的粒径の整った金属ナノ粒子が得られ、100nm以上の粒子は存在しなかった。また、BET法による比表面積を測定したところ、19.7m/gであり、TAP密度は2.07g/cmであった。
【0053】
(2)熱硬化型導電性ペーストの作製
実施例1で合成した微小銀粒子を4.5%(総金属質量に対して5%)、平均粒子径が0.70μmであり粒度分布の最小粒子径が0.1μm以上である凝集状銀粒子を微小銀粒子との合計量で熱硬化型導電性ペーストに対して90%となる量、ダイマー酸をグルシジルエステル化したエポキシ樹脂(YD−171 東都化成製)とその硬化剤としてアミンアダクト硬化剤(PN−23 味の素製)をエポキシ樹脂と硬化剤の合計量で10%、及び粘度調整用のブチルカルビトールアセテートを攪拌脱泡機及び3本ロールを用いて混練した。
【0054】
(3)熱硬化型導電性ペーストの粘度測定
上記で作製した熱硬化型導電性ペーストの粘度(mPa・sec)をレオストレスRS600(HAAKE社)を用いて測定した。ローターの回転数は1rpmと10rpmの2条件で測定し、1rpm時の粘度でペースト粘度を評価し、1rpmと10rpmでの測定値の比(無単位)でチキソトロピック性を評価した。
【0055】
(4)熱硬化型導電性ペーストの塗布
上記で作製した熱硬化型導電性ペーストを、スライドガラス上にアプリケーターを用いて塗布した。
【0056】
(5)塗膜の熱硬化
上記で塗布した塗布膜を、200℃に温度を調節したホットプレート上で30分間加熱することで、硬化膜を作製した。
【0057】
(6)硬化膜の膜厚及び体積抵抗率測定
上記で作製した硬化膜の体積抵抗率(Ωcm)をロレスタ(登録商標)により測定した。
【0058】
(比較例1)
本比較例では、実施例1において保護剤として使用したヘキサン酸を、分子量8000−10000のPVA(ポリビニルアルコール)に変更した以外は実施例1と同様にして、微小銀粒子を合成した。この微小粒子を用いて実施例1と同様の方法によって熱硬化型導電性ペーストを作製し、粘度測定、熱硬化型導電性ペーストの塗布、塗膜の熱硬化及び硬化膜の膜厚及び体積抵抗率測定を行った。
【0059】
(実施例2及び3)
実施例1の微小銀粒子量を、9、18%(総金属質量に対して10、20%)とした以外は実施例1と同様の操作を行った。即ち、実施例2及び3は本発明の熱硬化型導電性ペーストであって微小銀粒子量が実施例1より多い実施例である。
【0060】
(比較例2)
実施例2と3の微小銀粒子に変えて、比較例1で作製したPVA被覆微小銀粒子にした以外は実施例2及び3と同様の操作を行った。即ち、比較例2は分子量の大きな保護剤が被覆された微小銀粒子量が比較例1より多い比較例である。
【0061】
(比較例3)
微小銀粒子を混合しないこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。即ち、比較例3は微小銀粒子が含まれていない従来の熱硬化型導電性ペーストである。
【0062】
各例で得られた熱硬化型導電性ペーストそれぞれの組成と硬化膜の体積抵抗率の値を表1に示す。
【表1】



【0063】
図1は実施例及び比較例の総金属質量に対する微小銀粒子混合量と硬化膜の体積抵抗率の関係を示したものである。縦軸は体積抵抗率(Ωcm)で、横軸は総金属質量に対する微小銀粒子混合量(%)である。また、図中黒四角は実施例で、白三角が比較例1と2、黒丸が比較例3である。
【0064】
白三角の比較例を参照して、微小銀粒子混合量が10%(比較例1)から20%(比較例2)に増加すると体積抵抗率は約10倍に増加した。比較例3は微小銀粒子が含まれていないペーストによる硬化膜であるが、比較例2は比較例3の体積抵抗率より高かった。
【0065】
一方、本発明の実施例1〜3は微小銀粒子混合量が増えても低い抵抗値を維持していた。即ち、実施例においては微小粒子混合量を増加させた場合にも、硬化膜の体積抵抗率がほとんど変らないことが分かる。
【0066】
逆に比較例1,2においては、微小銀粒子混合量を増加させた場合に硬化膜の体積抵抗率が増加した。これは、微小銀粒子の混合量を増加させた場合に、被覆分子量が多いと粒子間に被覆分子が介在するために導電性を阻害してしまうためと考えられる。
【0067】
図2は、総金属質量に対する微小銀粒子混合量とペーストの粘度の関係を示したものである。縦軸は25℃でローターの回転数が1rpmの時の粘度で、横軸は総金属質量に対する微小銀粒子混合量(%)である。実施例及び比較例が黒四角、白三角と黒丸で表されるのは図1の場合と同様である。
【0068】
実施例、比較例とも微小銀粒子混合量が増えるに従って粘度は増加する傾向にあったが、実施例の方がより微小銀粒子混合量に対する粘度の依存性が大きく認められる。
【0069】
図3は、総金属質量に対する微小銀粒子混合量とペーストのチキソトロピック性の関係を示したものである。縦軸は25℃でローターの回転数が1rpmの時の粘度と10rpmの時の粘度の比で、横軸は総金属質量に対する微小銀粒子混合量(%)である。実施例及び比較例が黒四角、白三角と黒丸で表されるのは図1の場合と同様である。
【0070】
この場合も図2の粘度の場合同様、実施例、比較例とも微小銀粒子混合量が増えるに従ってチキソトロピック性は増加する傾向にあり、実施例の方がより微小銀粒子混合量に対するチキソトロピック性の依存性は大きかった。
【0071】
以上の現象から本発明の熱硬化型導電性ペーストは、分子量の小さな分散剤で被覆されているため、互いに相互作用を及ぼし易く、塗料の状態では増粘し易いものと考えられる。一方、金属粒子間の相互作用が容易に及ぼされるため、微小銀粒子の混合量が増えても体積抵抗率が増加しないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、熱硬化型導電性ペーストに利用できるだけなく、熱焼成型導電性ペーストに対しても好適に利用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例及び比較例の微小粒子混合量と体積抵抗率の関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例の微小粒子混合量と熱硬化型導電性ペーストの25℃、1rpm時の粘度の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例の微小粒子混合量と熱硬化型導電性ペーストの25℃時のチキソトロピック性(1rpm時の粘度/10rpm時の粘度)の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が0.1μm以上50μm未満の範囲にある銀粒子と、
粒子径が1nm以上100nm未満の範囲にある微小銀粒子と、
熱硬化型樹脂とを含む熱硬化型導電性ペースト。
【請求項2】
前記微小銀粒子は炭素数6以下の直鎖脂肪酸で被覆されている請求項1に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項3】
前記直鎖脂肪酸はヘキサン酸である請求項2に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項4】
前記微小銀粒子の総金属質量に対する割合が0.001〜50%である請求項1〜3のいずれかの請求項に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項5】
前記銀粒子は鱗片状、凝集状、又は球状から選ばれる少なくとも1種の形状である請求項1〜4のいずれかの請求項に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項6】
さらに硬化剤を含む請求項1〜5のいずれかの請求項に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項7】
前記微小銀粒子が、
水とアンモニア水とヘキサン酸とヒドラジン水和水溶液とを含む還元液を調整する工程と、
硝酸銀水溶液を前記還元液に添加し反応させる工程と、
前記反応工程の生成物を水で洗浄する工程によって製造された微小銀粒子である請求項1〜6のいずれかの請求項に記載された熱硬化型導電性ペースト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの請求項に記載された熱硬化型導電性ペーストを用いた硬化膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−252507(P2009−252507A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98413(P2008−98413)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】