説明

微生物の検出方法、装置およびプログラム

【課題】 対象となる微生物を精度良く検出することができる微生物の検出方法を提供する。
【解決手段】 培養された微生物を検出する方法であって、微生物を培養した培地を撮像して画像データを取得する撮像ステップと、前記画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別するコロニー判別ステップとを備え、前記コロニー判別ステップは、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養された微生物を検出する微生物の検出方法、装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品を直接取り扱う製造および営業従事者に対しては、サルモネラ、シゲラおよび腸管出血性大腸菌などによる感染症の発生を防止するため、定期的な検便(糞便細菌検査)が行われている。このような検査は、培地への接種→培養→判定という流れで行われ、陽性と判定されたコロニーが釣菌されて、確認試験が行われる。
【0003】
コロニーの判定は、その重要性から通常は熟練した技術者の目視により行われるが、検体数が非常に多いことから、微生物の検出を自動化することが従来から検討されている。例えば、特許文献1には、微生物を撮像した画像から色などの特徴を数値化し、統計的手法を用いて得られた数値と比較して、菌種判定を行うことが記載されている。
【特許文献1】特開2003−116593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、撮像画像に基づく従来の微生物検出方法は、検出対象となるコロニーを類似のコロニーから判別することが困難な場合が多く、汎用性の高い検出ができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、対象となる微生物を精度良く検出することができる微生物の検出方法、装置およびプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、培養された微生物を検出する方法であって、微生物を培養した培地を撮像して画像データを取得する撮像ステップと、前記画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別するコロニー判別ステップとを備え、前記コロニー判別ステップは、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行う微生物の検出方法により達成される。
【0007】
また、本発明の前記目的は、培養された微生物を検出する装置であって、微生物を培養した培地を撮像して画像データを取得する撮像装置と、前記画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別する画像処理装置とを備え、前記画像処理装置は、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行う微生物の検出装置により達成される。
【0008】
また、本発明の前記目的は、微生物を培養した培地を撮像して取得した画像データから、対象となる微生物のコロニーを抽出して判別する画像処理ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記画像処理ステップは、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行うステップを含む微生物の検出プログラムにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象となる微生物を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る微生物検出装置の概略構成図である。図1に示すように、微生物検出装置1は、糞便などの検体が塗布された培地を含むシャーレ2を複数収容する検体ストッカー10と、収容されたシャーレ2を矢示方向に順次搬送する搬送路20aを上面に有する搬送コンベア20と、撮像エリアAに搬送されたシャーレ2を撮像する撮像装置30と、撮像エリアAのシャーレ2を照明する照明装置40と、撮像された画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別する画像処理装置50と、コロニーの判別結果に基づきシャーレ2を振り分けて収容する回収ストッカー60と、装置全体の作動制御を行う制御装置70とを備えている。シャーレ2は、透明ガラスや透明プラスチック等からなり、培地を収容する本体部2aの開口が、蓋体2bにより覆われて構成されている。
【0011】
検体ストッカー10は、シャーレ2を鉛直方向に整列させた状態で収容し、下部に配置されたストッパ(図示せず)の進退により、搬送路20a上に等間隔で配置された透明な受け台201aにシャーレ2を供給することができる。
【0012】
搬送コンベア20は、例えばベルトコンベアであり、搬送路20aがフッ素樹脂ベルトなどの透明な材料により構成される。搬送路20aの上方には、複数の開閉アーム22が設けられている。各開閉アーム22は、搬送路20aに沿ってシャーレ2と同じ速度で移動するように無端状ベルト(図示せず)に支持されている。開閉アーム22は、回動動作により蓋体2bの開放および閉塞を行う。
【0013】
撮像装置30は、例えばRGB出力などの色信号を出力することが可能なカラーカメラであり、微生物の検出精度を高めるために、高解像度のものを好ましく用いることができる。撮像装置30で撮像された画像データは、画像処理装置50に入力される。
【0014】
照明装置40は、搬送路20aにより搬送されるシャーレ2の上方に配置されて培地mの表面側を照明する表面側光源42と、シャーレ2の下方に配置されて培地mの裏面側を照明する裏面側光源44とを備えている。
【0015】
表面側光源42は、図2に示すように、筐体421の内部に面状LED光源からなる照明器422およびハーフミラー423を備えており、筐体421の内側面に設置された照明器422からの照射光が、ハーフミラー423の表面で反射して搬送路20a上のシャーレ2に向けて照射されるように構成されている。また、筐体421の上部には開口424が形成されており、撮像装置30は、開口424およびハーフミラー423を介して、直下に位置するシャーレ2を撮像する。このように、本実施形態の表面側光源42は、同軸落射型光源であり、照明光の光軸が撮像装置30の光軸と同軸になるように、シャーレ2に対する照明を行う。裏面側光源44は、面状LED光源であり、搬送路20aを介してシャーレ2の裏面側全体を照射する。
【0016】
画像処理装置50は、例えば汎用のパーソナルコンピュータから構成することができ、制御部(CPU)、記憶部(メモリ)、入力部(キーボード、マウス)、出力部(モニタ)などを備えている。画像処理装置50における判別結果は、制御装置70に入力される。
【0017】
回収ストッカー60は、画像処理装置50により陰性と判定されたシャーレ2を収容する第1収容部62と、陽性と判定されたシャーレ2を収容する第2収容部64とを備えており、搬送路20aを搬送されるシャーレ2は、リフト機構(図示せず)の作動により上方に持ち上げられ、第1収容部62または第2収容部64のいずれかに収容される。
【0018】
制御装置70は、検出動作のオンオフや検出条件の入力などを行うための操作部を備えており、微生物検出装置1の各構成要素の作動を制御する。制御装置70は、画像処理装置50と一体化することも可能である。
【0019】
上記の構成を備える微生物検出装置1によれば、検体を培養したシャーレ2を検体ストッカー10に収容すると、このシャーレ2は搬送路20a上に順次供給されて搬送される。そして、シャーレ2は、開閉アーム22の作動により蓋体2bが開けられた後、撮像装置30の直下である撮像エリアAを通過する際に、照明装置40により上下方向から照明された状態で、撮像装置30により撮像される。撮像された画像データは、画像処理装置50に送信され、検出対象となるコロニーの判別が行われる。画像処理装置50における画像処理の詳細については、後述する。
【0020】
撮像エリアAを通過したシャーレ2は、開閉アーム22の作動により蓋体2bが再び閉じられた後、回収ストッカー60まで搬送され、画像処理装置50による判別結果に基づき、第1収容部62または第2収容部64に振り分けられて、収容される。こうして、各検体の微生物の検出を連続的に行うことができる。
【0021】
図3に示すように、培養されたコロニーcは、培地mの表面からドーム状に膨出した形状を有するものが多い。このため、撮像エリアAにおいては、表面側光源42からの同軸落射照明光L1により、主としてコロニーの表面中心部で反射した光が直上の撮像装置30に到達し、コロニーの表面外縁部で反射した光は側方に散乱する。撮像装置30に到達する反射光の光量は、コロニーcの立体形状によって変化し、平坦な形状であるほど多く、急峻であるほど少なくなることから、撮像装置30で撮像する画像データは、コロニーの三次元形状の情報を含んだものとなる。
【0022】
また、培地mやコロニーcが透明度を有する場合には、表面側光源42からの照明によりコロニーcの下方に生じる影を検出するおそれがあるが、裏面側光源44からの透過照明光L2により、撮像装置30は、コロニーcの影の影響を受けることなく撮像することができる。
【0023】
このように、表面側光源42および裏面側光源44から培地mに対して照明光を同時に照射した状態で撮像することにより、検出対象となるコロニーの特徴をより顕在化させることができ、コロニーの判別を容易に行うことができる。
【0024】
表面側光源42および裏面側光源44から照明光を同時に照射する場合には、これらの光量バランスも重要な要素となり得る。培地mの表面の照度で比較した場合、表面側光源42の照明光(同軸落射照明)の照度Laに対して、裏面側光源44の照明光(透過照明)の照度Lbが大きすぎると、コロニーcの外縁部における色情報が失われやすい一方、裏面側光源44の照明光(透過照明)の照度Lbが小さすぎると、コロニーcの中心部における色情報が失われやすくなる。後述する実施例に示すように、この照度比(La/Lb)は、2.1×10―5〜2.3×10であることが好ましく、2.7×10―5〜1.4×10であることがより好ましく、0.9〜3.5であることが更に好ましい。
【0025】
検出対象となるコロニーによっては、表面側光源42または裏面側光源44のいずれか一方のみの照明によっても類似のコロニーから判別することが可能であり、この場合の微生物検出装置は、表面側光源42または裏面側光源44のいずれかのみを備える構成であってもよい。また、表面側光源42は、本実施形態においては、培地mに対して垂直方向に照明光を照射する同軸落射照明型の光源を使用しているが、シャーレ2に対して斜め上方から照射するリング照明型やライン照明型の光源を使用してもよく、これらは同軸落射照明型の光源と適宜交換するか、或いは、同軸落射照明型の光源と同時に併用することができる。
【0026】
次に、画像処理装置50において画像データに基づきコロニーを判別する処理手順を、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0027】
まず、作業者は、検査目的を明らかにするために、検査対象物を特定するための対象物情報を入力する(ステップS1)。対象物情報としては、培地名、ロット番号、有効期間などの培地情報や、試験方法、検体名、接種菌名、検体番号、培養条件、培養温度、培養時間などの検体情報などが挙げられる。これらの情報の一部は、予め画像処理装置50に入力しておくことが可能であり、作業者が最小限の情報のみを入力するようにしてもよい。
【0028】
こうして対象物情報の入力が行われると、画像処理装置50は、この対象物情報に基づき、特定の微生物のコロニーを判別するための検査情報を設定する(ステップS2)。検査情報としては、撮像情報(例えば、同軸落射照明、透過照明、リング照明などからの1又は複数の選択、各照明光の照度、撮像装置30の絞り値やシャッター速度)、変換する色空間(例えば、HLS空間)、色要素値(例えば、HLS値)の基準値、形状情報(例えば、コロニーの大きさ、真円度)などを挙げることができる。検査情報は、対象物情報に対応して画像処理装置50に予め格納されており、作業者が入力した対象物情報に応じて自動的に設定されるが、作業者が検査情報の一部または全部を手動で入力、修正することも可能である。
【0029】
この後、画像処理装置50は、撮像装置30から画像データが順次入力されると、検体番号などの識別情報と対応付けて、画像データをメモリに格納する(ステップS3)。そして、取り込まれた各画像データに対し、検査情報に基づき、コロニーの抽出、判別を行う。
【0030】
まず、画像データに含まれる微生物のコロニーを、色要素値に基づき抽出する(ステップS4)。画像データを構成する各画素の色情報は、R,G,Bの色要素値で表現されており、画像処理装置50は、画素毎にRGB値を取得して、これを所定の色空間の各軸を構成する色要素の値に変換する。色空間としては、HLS色空間、YCC色空間、HSV空間、L**b空間、CMYK色空間、RGB色空間など公知の各種色空間とすることが可能であり、色要素の種類は、3種類だけでなく、2種類や4種類以上であってもよい。こうして、画像データ全体の各色要素値を色要素ごとに予め設定された基準値と比較し、全ての色要素値が基準値を満足する場合に、当該画素を検出対象のコロニー色として抽出することができる。色要素の基準値は、閾値として設定してもよく、或いは、所定の数値範囲で設定することが可能である。
【0031】
本実施形態においては、色相(Hue)、彩度(Saturation)および輝度(Luminance)の3つの色要素から構成されるHLS色空間に基づき、それぞれの色要素値を、色要素ごとに予め設定された基準値と比較して、検出対象となるコロニーの判別を行う。HLS色空間による画像データの表現は、人が色を知覚する方法に近いことから、コロニーの判別基準を技術者の判断基準により近づけることが可能であり、検出精度をより高めることができる。
【0032】
検出対象のコロニー色と判別された画素群は、検出対象とするコロニー形状にほぼ一致する領域(コロニー領域)を占めることになり、画像データに複数のコロニーが存在する場合には、コロニー領域と判別された画素群を個別に抽出し、それぞれの位置を特定することができる。
【0033】
次に、抽出されたコロニー領域の形状を、予め設定された形状情報と比較することにより、コロニー領域が真のコロニーであるか否かを判別する(ステップS5)。
【0034】
形状情報は、検出対象となるコロニーの菌種や培養条件などに基づいて、コロニーの大きさ(直径)や真円度などが予め所定の数値範囲で設定されており、この数値範囲に合致するものを、真のコロニーと判定する。例えば、形状情報にコロニーの大きさ(直径)が含まれている場合には、微細なゴミなどが除去され、形状情報に真円度が含まれている場合には、遊走の有無の判別や、コロニーとは明らかに形状が異なるものの除去が行われる。形状情報としては、培地に対するコロニーの疎密度など他の情報を含んでいてもよい。コロニー領域と形状情報とを比較する工程は、より精度の高いコロニー判定を行うために有効であるが、本発明において必須のものではなく、この工程を省略して、抽出されたコロニー領域をそのままコロニーと判定することも可能である。
【0035】
コロニーの形状情報は、コロニーの全体形状に必ずしも合致する必要はない。例えば、図5に示すように、1つのコロニーcを、中心から外方に向けてコロニー中心部c1、コロニー外縁部c2およびコロニー周辺部c3と同心円状に分割し、分割された領域の1又は複数を形状情報とすることができる。コロニーの特徴的な色情報は、通常はコロニー中心部c1やコロニー外縁部c2に現れるが、例えば血液寒天培地上のStreptococcus属のように、発育コロニー周辺の培地成分の性状/外観を変化させる菌の鑑別を行うような場合には、コロニー周辺部c3を形状情報に含めることが有効である。このように、対象となるコロニーに応じた特徴的な色要素の基準値および形状情報を設定することにより、コロニーの判別を容易に行うことができる。
【0036】
コロニーを分割した複数領域を形状情報とする場合、上記ステップS4におけるコロニー領域の抽出は、各分割領域に対応して設定された基準値に基づいてそれぞれ行われ、上記ステップS5においては、各分割領域を、それぞれが対応する形状情報と比較することにより、コロニーか否かの判別を行う。但し、上記のように、領域の分割は本発明において必須のものではない。
【0037】
ついで、画像処理装置50は、得られた判別結果を、画像データや対象物情報に関連付けてメモリに格納する(ステップS6)。画像データから検出対象のコロニーが抽出された場合には、当該コロニーの座標値も併せて格納することが可能であり、更には当該コロニーを画像データにマーキングし、モニタなどに出力したときに作業者が認識し易いようにすることもできる。
【0038】
こうして画像データに対する一連の処理が終了した後、次の画像データが画像処理装置50に送信されると、上記のステップS3からS6を繰り返し行い、撮像装置30からの画像データの送信が終了すると、画像処理装置50の作業が終了する(ステップS7)。
【0039】
このように、本実施形態の微生物検出装置1によれば、培地を撮像した画像データから、複数の色要素値を基準値とそれぞれ比較してコロニーの判別を行うため、熟練者の目視判定に近い精度で機械判定を行うことができ、検出精度を高めることができる。
【0040】
また、検出対象となるコロニーに応じて色空間、撮影情報、形状情報などを適宜選択することにより、類似のコロニーからの判別が容易になり、検出精度を更に高めることができる。例えば、後述する実施例に示すように、サルモネラ、シゲラ、腸管出血性大腸菌のような菌種のコロニーを類似のコロニーから精度良く判別することが可能であり、検便検査の処理能力を高めて省力化や人件費の低減を図ることができる。更に、検出対象がサルモネラ、シゲラ、腸管出血性大腸菌などから選択される複数の菌種のコロニーである場合には、各菌種に対応する基準値を使用することにより、選択された複数の菌種を同時に判別することが可能である。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されない。例えば、本実施形態の微生物検出装置は、検体を連続的に処理可能な構成としているが、バッチ式の構成にすることも可能である。
【0042】
また、微生物を培養する培地は、寒天などの固形状の培地の他に、半流動状の培地や液状の培地などであってもよい。培地は必ずしもシャーレや試験管などの容器に収容する必要はなく、例えばフィルターに培養液を含浸させたものを培地として使用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではい。
【0044】
[実施例1:色空間によるコロニー分離能]
腸管出血性大腸菌O157の検出用培地であるCT−SMACSP寒天培地(栄研化学製)を使用して、O157と、他の腸内グラム陰性桿菌であるKlebsiella pneumoniaeとを培養し、これを撮像して得られた画像データの各画素のRGB値をHLS値に変換した。撮像装置としては、カラーCCDカメラを使用した。
【0045】
図6(a)は、培地を収容するシャーレを白色板上に配置し、上方から撮像する撮像装置と光軸が一致するように同軸落射照明を行った場合において、O157およびK.pneumoniaeのコロニーのHLS値を、HLS色空間にプロットした結果を示している。各コロニーは作業者が目視で判別し、O157を菱形、K.pneumoniaeを十字で表している。同軸落射照明光の照度は、白色板の表面(シャーレの載置面)付近において、約4000(lux)となるように設定した。
【0046】
図6(a)に示すように、O157のコロニーは、HLS空間において互いに近接する位置に配置されており、破線で示す2つの直方体状の空間Sa,Sbのいずれかに収まっている(実際には、空間SaおよびSbは、H値0°を介して一体の空間を構成している)。したがって、コロニーのHLS値とそれぞれ比較する基準値を、これら直方体状の空間Sa,Sbを構成するように数値範囲の設定を行うことで、O157のコロニーをK.pneumoniaeのコロニーから分離して判別することができる。
【0047】
図6(b)は、照射条件を変える他は、図6(a)の場合と同様の条件で試験を行ったプロット結果を示すものである。照射条件は、培地を収容するシャーレを透明板上に配置し、上方から撮像する撮像装置と光軸が一致するように同軸落射照明を行うと共に、シャーレの直下位置において透明板の下方から透過照明を行った(図3参照)。同軸落射照明光および透過照明の照度は、透明板の表面(シャーレの載置面)付近において、それぞれ2000(lux)、1000(lux)とした。
【0048】
図6(b)に示すように、O157のコロニーは、図6(a)の結果と比較して、より小さな直方体状の空間Sc内に収まっており、K.pneumoniaeのコロニー群からの距離も遠くなっていることから、判別をより容易に行うことができる。
【0049】
次に、サルモネラ、シゲラの検出用培地である5S+A寒天培地(栄研化学製)を使用して、Salmonella Enteritidisと、他の腸内グラム陰性桿菌であるSalmonella TyphiおよびK.pneumoniaeとを培養し、これを撮像して得られた画像データの各画素のRGB値をHLS値に変換した。
【0050】
図7(a)および(b)は、照射条件をそれぞれ図6(a)および(b)に対応させたものであり、図7(a)が同軸落射照明のみ、図7(b)が同軸落射照明+透過照明の場合のHLS色空間におけるプロット結果を示している。各コロニーは作業者が目視で判別し、S.Enteritidisを菱形、S.Typhiを十字、K.pneumoniaeを正方形で表している。図7(a)および(b)から明らかなように、S.EnteritidisおよびS.Typhiは、他の菌から分離して判別可能である。
【0051】
図8(a)および(b)は、照射条件を同軸落射+透過照明で撮像したものであり、それぞれ図8(a)はO157およびK.pneumoniaeのコロニーをRGB色空間でプロットしたものであり、図8(b)はS.Enteritidis、S.Typhi、K.pneumoniaeのコロニーをRGB色空間でプロットしたものである。図8(a)および(b)は、それぞれ図6(b)および図7(b)に対応しており、図8(a)および(b)に示すRGB色空間をHLS色空間に変換したものが、図6(b)および図7(b)である。
【0052】
図8(a)および(b)に示すように、本実施例においては、HLS色空間に変換する前のRGB色空間においても、それぞれO157およびS.Enteritidis、S.Typhiのコロニーを判別可能である。
【0053】
[実施例2:照度比とコロニー分離能]
図7(b)のプロット結果に対応する試験条件において、同軸落射照明光の照度Laと、透過照明光の照度Lbとの照度比(La/Lb)をパラメータとして、HLS色空間における各コロニーのプロット分布がどのように変化するかを調べた。この結果を、図9(a),(b)、図10(a),(b)、図11(a),(b)および図12(a),(b)に示す。
【0054】
図9(a),(b)および図10(a),(b)の照度条件は、透過照明光の照度Lbを1160(lux)で一定とした上で、同軸落射照明光の照度Laを、それぞれ810、1020、4070、4290(lux)としている。図9(a)のプロット結果は、図9(b)と比較した場合に、S.EnteritidisとS.Typhiのそれぞれのプロット群が非常に近接している一方、図10(b)のプロット結果は、図10(a)と比較した場合に、S.EnteritidisとK.pneumoniaeのそれぞれそれぞれのプロット群が非常に近接していることから、S.EnteritidisおよびS.Typhiの判別はいずれも困難になる傾向にある。
【0055】
このような現象は、同軸落射照明光の照度Laおよび透過照明光の照度Lbの絶対値よりも、両者のバランス、すなわち照度比(La/Lb)の影響が大きいと考えられることから、照度比(La/Lb)を、図9(b)および図10(a)の場合の照度比の範囲に設定することが好ましい。より具体的に算出すると、照度比(La/Lb)を、約0.9〜3.5の範囲に設定することが好ましい。
【0056】
ここで、同軸落射照明光の照度Laおよび透過照明光の照度Lbは、いずれもシャーレの載置面付近で測定した結果であり、照度計は、3423 LUX HiTESTER (HIOKI)を使用した。
【0057】
上記の好ましい照度比は、2種類以上で、特に3種類のコロニーを分類する場合に適しているが、2種類のみのコロニーを分類する場合には、好ましい照度比の範囲をより拡げることが可能である。
【0058】
図11(a),(b)は、S.EnteritidisとK.pneumoniaeのコロニーについて、照度比(La/Lb)をそれぞれ2.1×10―5および2.3×10としたときのプロット結果である。図11(a)は、同軸落射La=0.3(lux)、透過Lb=14285(lux)の場合であり、図11(b)は、同軸落射La=22100(lux)、透過Lb=9.6(lux)の場合である。S.Enteritidisを菱形、K.pneumoniaeを十字で表している。この結果から、上記照度比の範囲では、S.EnteritidisとK.pneumoniaeとの分離が可能であることがわかる。
【0059】
図12(a),(b)は、S.TyphiとK.pneumoniaeのコロニーについて、照度比(La/Lb)をそれぞれ2.7×10−5および1.4×10としたときのプロット結果である。図12(a)は、同軸落射La=0.3(lux) 、透過Lb=11130(lux)の場合であり、図12(b)は、同軸落射La=13490(lux)、透過Lb=9.6(lux)の場合である。S.Typhiを菱形、K.pneumoniaeを十字で表している。この結果から、上記照度比の範囲では、S.TyphiとK.pneumoniaeとの分離が可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物検出装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す微生物検出装置の要部拡大図である。
【図3】培地への照明を模式的に示す図である。
【図4】画像データに基づきコロニーを判別する処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】コロニーの特徴領域の一例を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例による試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 微生物検出装置
2 シャーレ
10 検体ストッカー
20 搬送コンベア
30 撮像装置
40 照明装置
42 表面側光源
44 裏面側光源
50 画像処理装置
60 回収ストッカー
70 制御装置
m 培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養された微生物を検出する方法であって、
微生物を培養した培地を撮像して画像データを取得する撮像ステップと、
前記画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別するコロニー判別ステップとを備え、
前記コロニー判別ステップは、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行う微生物の検出方法。
【請求項2】
前記コロニー判別ステップは、前記画像データの画素毎に、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニー領域を抽出するステップと、
抽出された前記コロニー領域の形状を、予め設定された形状情報と比較することにより、前記コロニー領域が判別対象のコロニーのものか否かを判定するステップとを備える請求項1に記載の微生物の検出方法。
【請求項3】
前記形状情報は、少なくともコロニー領域の大きさおよび真円度に関する情報を含む請求項2に記載の微生物の検出方法。
【請求項4】
前記形状情報は、コロニー中心部を画定する情報およびコロニー外縁部を画定する情報の一方または双方を含む請求項2または3に記載の微生物の検出方法。
【請求項5】
前記形状情報は、前記コロニー外縁部の外側に位置するコロニー周辺部を画定する情報を更に含む請求項4に記載の微生物の検出方法。
【請求項6】
前記色空間は、HLS色空間である請求項1から5のいずれかに記載の微生物の検出方法。
【請求項7】
前記色空間は、RGB色空間である請求項1から5のいずれかに記載の微生物の検出方法。
【請求項8】
前記撮像ステップは、培地の表面側および裏面側にそれぞれ設置された表面側光源および裏面側光源から、培地に対して照明光を同時に照射した状態で撮像する請求項1から7のいずれかに記載の微生物の検出方法。
【請求項9】
前記表面側光源からの照明は、撮像軸と同軸の落射照明である請求項8に記載の微生物の検出方法。
【請求項10】
前記表面側光源から培地に照射される照明光の照度Laと、前記裏面側光源から培地に照射される照明光の照度Lbとの照度比La/Lbが、2.1×10―5〜2.3×10である請求項8または9に記載の微生物の検出方法。
【請求項11】
判別対象となるコロニーは、腸管出血性大腸菌、サルモネラおよびシゲラのいずれかを含む請求項1から10のいずれかに記載の微生物の検出方法。
【請求項12】
判別対象となるコロニーは、腸管出血性大腸菌、サルモネラおよびシゲラから選択された複数の菌種を含み、
前記コロニー判別ステップは、選択された複数の菌種を同時に判別する請求項1から10のいずれかに記載の微生物の検出方法。
【請求項13】
培養された微生物を検出する装置であって、
微生物を培養した培地を撮像して画像データを取得する撮像装置と、
前記画像データから検出対象となる微生物のコロニーを抽出して判別する画像処理装置とを備え、
前記画像処理装置は、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行う微生物の検出装置。
【請求項14】
前記画像処理装置は、前記画像データの画素毎に、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較してコロニー領域を抽出し、抽出された前記コロニー領域の形状を、予め設定された形状情報と比較することにより、前記コロニー領域が判別対象のコロニーのものか否かを判定する請求項13に記載の微生物の検出装置。
【請求項15】
微生物を培養した培地を撮像して取得した画像データから、対象となる微生物のコロニーを抽出して判別する画像処理ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記画像処理ステップは、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニーの判別を行うステップを含む微生物の検出プログラム。
【請求項16】
前記画像処理ステップは、前記画像データの画素毎に、所定の色空間の各軸を構成する色要素の値を、色要素毎に予め設定された基準値とそれぞれ比較して、コロニー領域を抽出するステップと、
抽出された前記コロニー領域の形状を、予め設定された形状情報と比較することにより、前記コロニー領域が判別対象のコロニーのものか否かを判定するステップとを備える請求項15に記載の微生物の検出プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104301(P2010−104301A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280187(P2008−280187)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【出願人】(597143960)テクノシステム株式会社 (6)
【Fターム(参考)】