説明

微生物付着抑制材料、並びに微生物付着抑制基材、バイオリアクター及び農業用被覆材

【課題】微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造可能な微生物付着抑制材料、並びに該微生物付着抑制材料を用いた微生物付着抑制基材、バイオリアクター、及び農業用被覆材の提供。
【解決手段】少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基を側鎖に有するポリマーを含有する微生物付着抑制材料、並びに微生物付着抑制基材、バイオリアクター、及び農業用被覆材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物付着抑制材料、並びに微生物付着抑制基材、バイオリアクター及び農業用被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や化石燃料資源の枯渇が叫ばれ、様々な環境技術が研究、開発されている。例えば、風力発電や太陽光発電などが挙げられるが、これらの方法は、発電と同時にエネルギーを消費する場合には問題ないが、後でエネルギーを使用したい場合には、一旦エネルギーを何らかの方法によって蓄積する必要がある。また、エネルギー貯蔵方法として蓄電池などを挙げることができるが、現時点では満足できるものではない。
この様な中、化石燃料類似の液体燃料を生産することも行われており、植物由来のバイオマスとして、例えば、とうもろこしからエタノールを生産することが行われている。しかし、この方法は、農産物との競合が発生し、結果、農作物の高騰を招いたことは記憶に新しい。
これらのことを背景に、微細藻類を培養し、オイルなどのバイオマスを産生する研究が再び注目を集めるようになってきた。しかも、前記植物由来のバイオマスと比較して、単位面積あたりのバイオマス量が数倍から数百倍であることが報告されている。
しかし、微細藻類を用いたバイオマスの産生には、その生産コストが化石由来の燃料と比較して高いという問題がある。例えば、藻体の回収コスト、微細藻類を攪拌するコスト、藻体からオイルなどのバイオマスを得るための抽出コスト、二酸化炭素供給コスト、目的藻類以外の微生物の繁殖を抑制する(コンタミ対策)コストなどの生産コストが挙げられる。
前記コンタミ対策として、最も有効なのが培養を閉鎖された容器内で行うことである。しかし、この方法でも培養容器(例えば、フォトバイオリアクターなど)内壁には培養中の藻類が、培養容器外壁には系外の微生物などが付着し、前記フォトバイオリアクター内部への光量の供給量が減少するという問題がある。
前記光量の供給量が減少することを防止する方法として、例えば、抗菌剤(防藻剤など)を用いる方法、培養容器内外を洗浄する方法などが行われている。しかし、前者では、一旦付着がおこり基材表面にバイオフィルムが形成されると抗菌剤は非常に効き辛いこと、抗菌剤の価格がバイオマス生産のコスト高の原因となること、抗菌剤の残留により培養藻体の増殖が抑制されること、抗菌剤を添加するために培養装置を停止せねばならず稼働率が低下してしまうことなどが問題となっている。また、後者では、培養容器外壁では問題は少ないが、培養容器内壁では、培養装置を停止し対策を行う必要性があること、洗浄を行うこと自体が培養容器の取扱いを困難にしていることなどが問題となっている。
【0003】
また、農作物の栽培環境を整えるべく、農業用被覆材を用いた農業用ハウスが用いられている。しかし、前記農業用被覆材の表面に微生物が付着、すなわち農業用ハウスの内外面に微生物が付着すると、農作物への太陽光の透過が阻害され、農作物の生育が悪くなるという問題がある。
更に、微生物の付着は、農業用ハウス内で栽培している農作物に対して、病気の原因となる種々の微生物やウイルスなどの供給源になるという問題もある。
前記微生物の付着を防ぐ方法として、例えば、農業用被覆材の張り替えや洗浄などの作業が挙げられるが、これらの作業は、生産物のコストを引き上げると共に、農業従事者に対して多大の労力を強いるものであった。
【0004】
これら以外にも、医療器具に微生物が付着することで、前記医療器具が腐食し、人体に悪影響を及ぼすという問題がある。
また、船体に海洋生物が付着することで、前記船体の推進効率が低下し、燃費の低下を引き起こすという問題がある。
【0005】
そこで、微生物の付着を抑制するために、様々な方法が検討されている。
【0006】
かつて、魚網や船体等に付着する微生物を抑制するために、有機スズ化合物を含む組成物を塗布する方法が用いられていた。
しかし、有機スズ化合物の環境への残留性、並びに生物に対する有害性、及び蓄積性の観点から、昭和62年にその使用が全面的に禁止された。
現在、前記有機スズ化合物に勝る微生物の付着を抑制する物質は存在しないため、その代替物質を探索する研究が行われている。
【0007】
前記有機スズ化合物の代替物質として、最も一般的に使用されている物質はシリコーン系を含む化合物である。前記シリコーン系を含む化合物からなる塗料は、船体に多く用いられている。
しかし、速度の遅い船体に前記塗料を用いると、微生物の付着を抑制する効果が低減するという問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
前記有機スズ化合物の他の代替物質として、光触媒である酸化チタンが提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。これらの提案では、固体基板上に前記光触媒を塗布すると、表面に付着した微生物を酸化分解できるとされている。
無機化合物や金属化合物等を前記固体基板に用いる場合には、前記光触媒により固体基板は酸化分解されないが、有機化合物を固体基板や固体基板を被覆するためのコーティング剤に用いる場合には、光触媒により固体基板や固体基板を被覆するためのコーティング剤が酸化分解されるという問題がある。
【0009】
そこで、前記シリコーン系を含む化合物や前記光触媒等を代替物質とした際の問題に対応すべく、グラフト共重合体を用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
そのメカニズムは、未知の部分が多いが、基板の表面をグラフト化することで、タンパク質の付着が抑制されることが関係しているのではないかと推定されている。
【0010】
最も一般的に用いられている前記グラフト共重合体は、ポリエチレングリコールである。前記ポリエチレングリコールの化学修飾により、その分子構造を設計し、前記基板の表面をグラフト化することで、タンパク質、細胞、細菌の非特異的吸着を抑制することが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
また、アクリル酸をナイロン繊維の表面にグラフト化することで、藻類の付着を抑制する方法が提案されている(例えば、非特許文献4参照)。
更に、アクリル酸誘導体(CH=C(R)COXY(ここで、R=H or CH,X=(CH)aOb(a=0〜4,b=0 or 1),Y=フッ化アルキル基、テトラヒドロフルフリル基、フェニル基、イソボルニル基、ノルボニル基、トリシクロ(5,2,1,O2,6)デカニル基又はデセニル基を表す)を繊維の表面にグラフト化することで、微生物の付着を抑制する抗菌性付与剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、前記グラフト共重合体を用いるのみでは、微生物の付着を十分に抑制することができないという問題がある。
【0011】
そこで、前記グラフト共重合体と抗菌剤等とを併用をさせる方法が提案されている。
例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にアクリル酸をグラフト重合させたグラフト共重合体と防藻剤とを用いることで、防藻性を有する農業用被覆材が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、アクリル酸−シリコーン系グラフト重合剤と防藻剤とを用いることで、防藻性と共に撥水性をも有する組成物が提案されている(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)。
更に、ポリアルキレンシリコーンコポリマーのグラフト共重合体と防汚剤とを用いることで、防汚性を有する塗料が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
しかし、前記グラフト共重合体と前記抗菌剤等とを併用させる方法は、ある程度の微生物の付着を抑制することが期待できるものの、抗菌剤等は環境負荷や有害性が高いという問題がある。
そのため、前記抗菌剤等を用いることにより、生態系にとって重要な役割を担っている藻類への影響、更には、動物性プランクトンへの影響やそれらを捕食するより大型の魚類への影響が懸念されている。
【0012】
そこで、環境に与える影響を軽減すべく、ペンダント基としてリン脂質を有するグラフト共重合体を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
前記ペンダント基としてリン脂質を有するグラフト共重合体は、前記リン脂質が生態の細胞質の主成分となるため、生物類似の物質となり、微生物の細胞膜との親和性が良く、必ずしも高い防藻性を発揮することができないという問題がある。
また、前記ペンダント基としてリン脂質を有するグラフト共重合体は、複雑な表面を有するため、合成が困難であり、コストが高いという問題がある。
【0013】
更に他の方法として、藻類の付着を抑制するために、放射線グラフト重合によるグラフト共重合体が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
しかし、前記グラフト共重合体は、放射線を照射する必要性から、安全性の問題や特別な施設及び管理が必要であり、製造コストが高いという問題がある。
【0014】
したがって、微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造可能な微生物付着抑制材料は未だ見出されておらず、速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4092434号公報
【特許文献2】特許第3711412号公報
【特許文献3】特開平11−221883号公報
【特許文献4】特開平07−179849号公報
【特許文献5】特許第3602563号公報
【特許文献6】特開平09−208860号公報
【特許文献7】特許第3253082号公報
【特許文献8】特開2001−137838号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】ALDRICH テクニカルサポート Material Matters,Vol.3,No.3,pp.4
【非特許文献2】日本セラミック協会 2006年年会・秋季シンポジウム講演予稿集
【非特許文献3】Surface Science,570,98−110(2004).
【非特許文献4】Haiyang Huanjing Kaxue,Vol.26,No.2,pp.169−171(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造可能な微生物付着抑制材料、並びに該微生物付着抑制材料を用いた微生物付着抑制基材、バイオリアクター及び農業用被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基を側鎖に有するポリマーが、微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0019】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。即ち、
<1> 少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする微生物付着抑制材料である。
<2> ペンダント基が、下記一般式(1)、下記構造式(1)、下記一般式(10)、及び下記一般式(2)の少なくともいずれかで表されるペンダント基を有する前記<1>に記載の微生物付着抑制材料である。
【化1】

ただし、前記一般式(1)中、Aは、親水性基を表す。
【化2】

ただし、前記一般式(10)中、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
【化3】

ただし、前記一般式(2)中、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
<3> ポリマーが、下記一般式(3)及び(4)で表される構造を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
【化4】

ただし、前記一般式(3)中、mは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、Aは親水性基を表す。
また、前記一般式(4)中、nは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、m+nは、2以上の整数を表す。
<4> 親水性基が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、及びアミド基のいずれかである前記<2>から<3>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
<5> ポリマーが、下記一般式(5)、(6)、及び(11)で表される構造を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
【化5】

ただし、前記一般式(5)中、aは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(6)中、bは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、a+bは、2以上の整数を表す。
【化6】

ただし、前記一般式(11)中、gは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
<6> ポリマーが、下記一般式(7)及び(8)で表される構造を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
【化7】

【化8】

ただし、前記一般式(7)中、cは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(8)中、dは重合体における繰返し単位であり、1〜100,000の整数を表す。
また、c+dは、2以上の整数を表す。
<7> 微生物が、バイオフィルムを形成する前記<1>から<6>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
<8> 微生物が、藻類、菌類、粘菌、原生生物、真正細菌、古細菌、及びウイルスの中から選ばれる少なくとも1つである前記<1>から<7>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料である。
<9> 前記<1>から<4>、<7>、及び<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ポリアクリル酸に、脂環式エポキシアクリレート化合物を化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法である。
<10> 前記<1>から<2>、<5>、<7>、及び<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ヒドロキシアルキル基含有ポリ(メタ)アクリル酸、及びパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート化合物の共重合体に、アルキル基含有(メタ)アクリレート化合物を化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法である。
<11> 前記<1>から<2>、及び<6>から<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムに、アミドマクロモノマーを化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法である。
<12> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を用いることを特徴とする微生物付着抑制基材である。
<13> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を用いることを特徴とするバイオリアクターである。
<14> フォトバイオリアクターである前記<13>に記載のバイオリアクターである。
<15> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を用いることを特徴とする農業用被覆材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造可能な微生物付着抑制材料、並びに該微生物付着抑制材料を用いた微生物付着抑制基材、バイオリアクター及び農業用被覆材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1−1−1、比較例1−1−1、及び比較例1−1−2にて作製した微生物付着抑制基材に付着した珪藻の付着数を示す図である。
【図2】図2は、実施例1−2、及び比較例1−2にて作製した微生物付着抑制基材に付着した珪藻の付着数を示す図である。
【図3】図3は、実施例2、及び比較例2にて作製した微生物付着抑制基材に付着した珪藻の付着数を示す図である。
【図4】図4は、実施例3、及び比較例3にて作製した微生物付着抑制基材に付着した珪藻の付着数を示す図である。
【図5】図5は、実施例1−1−1における微生物付着抑制基材に珪藻が付着している様子(倍率:4倍)を示す図である。
【図6】図6は、比較例1−1−1における微生物付着抑制基材に珪藻が付着している様子(倍率:4倍)を示す図である。
【図7】図7は、比較例1−1−2における微生物付着抑制基材に珪藻が付着している様子(倍率:4倍)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(微生物付着抑制材料)
本発明の微生物付着抑制材料は、少なくともペンダント基を側鎖に有するポリマーを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を有する。
【0023】
<ポリマー>
前記ポリマーは、少なくともペンダント基を側鎖に有してなる。
【0024】
<<ペンダント基>>
前記ペンダント基とは、高分子主鎖を除く部位であり、一般的に側鎖といわれるものの一種であり、特に微生物の付着性を抑制する側鎖のことを本発明では、一般的な側鎖と区別して用いたものであり、少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基をいう。
前記ペンダント基としては、少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(1)、下記構造式(1)、下記一般式(10)、下記一般式(2)などで表されるペンダント基が挙げられる。
下記一般式(1)、下記構造式(1)、下記一般式(10)、下記一般式(2)で表されるペンダント基が、微生物の付着性を抑制する点で、好ましい。
【化9】

ただし、前記一般式(1)中、Aは、親水性基を表す。
【化10】

ただし、前記一般式(10)中、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
【化11】

ただし、前記一般式(2)中、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【0025】
−親水性基−
前記親水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などが挙げられる。前記親水性基は、複数であってもよいし、単数であってもよい。前記親水性基が複数の場合、その種類は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
これらの中でも、水酸基、及びアミド基が、微生物の付着抑制能が高い点で、好ましい。
【0026】
<<ポリマーの主鎖>>
前記ポリマーの主鎖としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単独重合体、共重合体などが挙げられる。
【0027】
前記単独重合体の原料となるモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、ハロゲン化ビニル、スチレンなどが挙げられる。
【0028】
前記共重合体の原料となるモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記単独重合体で挙げられたモノマーが挙げられる。
前記共重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記単独重合体のモノマーを2以上共重合させてなるランダム共重合体、前記単独重合体のモノマーを2以上共重合させてなるブロック共重合体などが挙げられる。また、2元共重合体であってもよいし、3元共重合体、4元共重合体であってもよい。
【0029】
−分子量−
前記ポリマー主鎖の分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100〜10,000,000が好ましく、1,000〜1,000,000がより好ましく、10,000〜100,000が特に好ましい。前記ポリマーの主鎖の分子量が、100未満であると、使用中に基材からはがれることがあり、10,000,000を超えると、重合が困難であることがある。一方、前記ポリマーの主鎖の分子量が前記特に好ましい範囲であると微生物の付着抑制能が高い点で有利である。
【0030】
−ポリマー主鎖を構成するC原子の総数に対するペンダント基の導入率−
前記ポリマー主鎖を構成するC原子の総数に対する前記ペンダント基の導入率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1%〜80%が好ましく、3%〜50%がより好ましく、5%〜30%が特に好ましい。
前記ポリマー主鎖を構成するC原子の総数に対する前記ペンダント基の導入率が、1%未満であると微生物の付着抑制能が低下し、80%を超えると、合成が困難になると共に、コストが増大することがある。一方、前記ポリマー主鎖を構成するC原子の総数に対する前記ペンダント基の導入率が前記特に好ましい範囲であると合成がしやすく、コスト増も最小限であり、微生物の付着抑制性が良い点で有利である。
【0031】
<<ポリマーの構成単位>>
前記ポリマーの構成単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(3)、下記一般式(4)、下記一般式(5)、下記一般式(6)、下記一般式(7)、下記一般式(8)、下記一般式(11)、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、ハロゲン化ビニル、スチレンなどが挙げられる。前記ポリマーの構成単位が複数の場合、その種類としては、同一であってもよいし、異なってもよい。
これらの中でも下記一般式(3)、下記一般式(4)、下記一般式(5)、下記一般式(6)、下記一般式(7)、下記一般式(8)、下記一般式(11)の構成単位を含むことが、微生物の付着抑制能が高い点で、好ましい。
【化12】

ただし、前記一般式(3)中、mは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、Aは親水性基を表す。
また、前記一般式(4)中、nは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【化13】

ただし、前記一般式(5)中、aは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(6)中、bは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【化14】

ただし、前記一般式(11)中、gは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
【化15】

【化16】

ただし、前記一般式(7)中、cは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(8)中、dは重合体における繰返し単位であり、1〜100,000の整数を表す。
また、c+dは、2以上の整数を表す。
【0032】
−親水性基−
前記親水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などが挙げられる。前記親水性基は、複数であってもよいし、単数であってもよい。前記親水性基が複数の場合、その種類は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
これらの中でも、水酸基、及びアミド基が、微生物の付着抑制能が高い点で、好ましい。
【0033】
−mの値−
前記mの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜10,000が好ましく、1〜100がより好ましく、1〜50が更に好ましく、1〜10が特に好ましい。前記mの値が、100を超えると、重合性が低下することがある。一方、mの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−nの値−
前記nの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜100,000が好ましく、5〜10,000がより好ましく、10〜5,000が更に好ましく、20〜1,000が特に好ましい。前記nの値が、5未満であると、重合性が悪くなることがあり、10,000を超えると、重合性が悪くなることがある。一方、nの値が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−mの値とnの値との比率−
前記mの値と前記nの値との比率(n/m)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記比率は5〜1,000が好ましく、10〜500がより好ましく、10〜100が特に好ましい。前記比率が全体の5未満であると重合性が悪くなることがあり、前記比率が1,000を超えると、微生物付着性の抑制効果が低いことがある。一方、前記比率が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
【0034】
−aの値−
前記aの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜10,000が好ましく、1〜100がより好ましく、1〜50が更に好ましく、1〜10が特に好ましい。前記aの値が10,000を超えると、重合性が低下することがある。一方、aの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−bの値−
前記bの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜10,000が好ましく、1〜100がより好ましく、1〜50が更に好ましく、1〜10が特に好ましい。前記bの値が、10,000を超えると、重合性が悪くなることがある。一方、bの値が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−gの値−
前記gの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜10,000が好ましく、1〜100がより好ましく、1〜50が更に好ましく、1〜10が特に好ましい。前記gの値が、10,000を超えると、重合性が悪くなることがある。一方、gの値が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−aの値とbの値との比率−
前記aの値と前記bの値との比率(b/a)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記比率は0.1〜1,000が好ましく、0.5〜100がより好ましく、1〜10が特に好ましい。前記比率が全体の0.1未満であると重合性が悪くなることがあり、前記比率が1,000を超えると、微生物付着性の抑制効果が低いことがある。一方、前記比率が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−aの値とgの値との比率−
前記aの値と前記gの値との比率(g/a)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記比率は1〜1,000が好ましく、1〜500がより好ましく、1〜100が特に好ましい。前記比率が全体の1未満であると重合性が悪くなることがあり、前記比率が1,000を超えると、微生物付着性の抑制効果が低いことがある。一方、前記比率が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−fの値−
前記fの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜30が好ましく、3〜20がより好ましく、5〜15が特に好ましい。前記fの値が、2未満であると重合性が悪くなることがあり、30を超えると、微生物付着性の抑制効果が低いことがある。一方、fの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
【0035】
−cの値−
前記cの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜10,000が好ましく、1〜100がより好ましく、1〜50が更に好ましく、1〜10が特に好ましい。前記cの値が、10,000を超えると、重合性が低下することがある。一方、cの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−dの値−
前記dの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜100,000が好ましく、10〜10,000がより好ましく、100〜1,000が特に好ましい。前記dの値が、100,000を超えると、重合性が低下することがある。一方、dの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−cの値とdの値との比率−
前記cの値と前記dの値との比率(d/c)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記比率は0.1〜10,000が好ましく、1〜1,000がより好ましく、10〜1,000が特に好ましい。前記比率が全体の0.1未満であると重合性が悪くなることがあり、前記比率が10,000を超えると、微生物付着性の抑制効果が低いことがある。一方、前記比率が前記特に好ましい範囲であると微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
−eの値−
前記eの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜100,000が好ましく、1〜10,000がより好ましく、1〜1,000が特に好ましい。前記eの値が、1未満であると微生物付着性の抑制効果が低いことがあり、100,000を超えると、重合性が悪くなることがある。一方、eの値が前記特に好ましい範囲であると重合性が良く、微生物付着性の抑制効果が高い点で有利である。
【0036】
<微生物付着抑制材料の製造方法>
前記微生物付着抑制材料の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ポリアクリル酸に脂環式エポキシアクリレート化合物を化学結合させる方法、ヒドロキシアルキル基含有ポリ(メタ)アクリル酸、及びパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート化合物の共重合体にアルキル基含有(メタ)アクリレート化合物を化学結合させる方法、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムに末端(メタ)アクリレートアクリルアミドマクロモノマーを化学結合させる方法により、少なくとも前記ペンダント基を側鎖に有するポリマーを製造することが好ましい。
前記ペンダント基の材料である前記脂環式エポキシアクリレート化合物は、不飽和結合を側鎖に有するため、前記化学結合の際に前記脂環式エポキシアクリレート化合物同士が付加する場合がある。
【0037】
<<ペンダント基の合成方法>>
前記ペンダント基の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、US5426193号明細書に記載の合成方法が挙げられる。
前記合成されたペンダント基が前記一般式(1)、前記構造式(1)、前記一般式(10)、前記一般式(2)で表されるペンダント基であるか否かを確認する方法としては、例えば、NMR(核磁気共鳴法)、赤外線分光法、質量分析法を用いて確認することができる。
【0038】
−ペンダント基を構成する化合物−
前記ペンダント基を構成する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂環式エポキシアクリレート化合物、(メタ)アクリレート化合物、メルカプトカルボン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。前記ペンダント基を構成する化合物が複数の場合、その種類としては、同一であってもよいし、異なってもよい。
脂環式エポキシアクリレート化合物、(メタ)アクリレート化合物、メルカプトカルボン酸、アクリルアミドを含むことが、微生物の付着性を抑制する効果が高い点で、好ましい。
【0039】
−−脂環式エポキシアクリレート化合物−−
前記脂環式エポキシアクリレート化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘプチルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロペンチルメチルアクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記脂環式エポキシアクリレート化合物が複数の場合、その種類としては、同一であってもよいし、異なってもよい。
これらの中でも3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレートを含むことが、微生物の付着性を抑制する効果が高い点で、好ましい。
【0040】
−−(メタ)アクリレート化合物−−
前記(メタ)アクリレート化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどが挙げられる。
これらの中でも、2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ブチルメタクリレートを含むことが、微生物の付着性を抑制する効果が高い点で、好ましい。
【0041】
−−メルカプトカルボン酸−−
前記メルカプトカルボン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトブタン酸、3−メルカプトブタン酸、4−メルカプトブタン酸、2−メルカプトペンタン酸、3−メルカプトペンタン酸、4−メルカプトペンタン酸、5−メルカプトペンタン酸、メルカプトヘキサン酸、メルカプトヘプタン酸、メルカプトオクタン酸、メルカプトノナン酸、メルカプトデカン酸、メルカプトウンデカン酸、メルカプトドデカン酸、メルカプトトリデカン酸、メルカプトテトラデカン酸、メルカプトペンタデカン酸、メルカプトヘキサデカン酸、メルカプトヘプタデカン酸、メルカプトステアリン酸、メルカプトオレイン酸などが挙げられる。
これらの中でも、3−メルカプトプロピオン酸を含むことが、微生物の付着性を抑制する効果が高い点で、好ましい。
【0042】
<<ポリマーの合成方法>>
前記ポリマーの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、例えば、グラフト重合法が挙げられる。
前記グラフト重合を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板に重合性モノマーを塗布後、重合を開始する方法、予めポリマーを重合した後、基板に化学結合させる方法などが挙げられる。
これらの合成方法は、例えば、「グラフト重合とその応用」、高分子刊行会、井出文雄著、昭和52年発行、「新高分子実験学2、高分子の合成・反応」、共立出版(株)、高分子学会編、1995年発行等を参照して行うことができる。
これらの中でも、ラジカル重合開始剤を用いた方法、紫外線を用いた重合方法が、簡便である点で、好ましい。
【0043】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶剤、重合開始剤、重合抑制剤、架橋剤、界面活性剤、光増感剤、抗菌剤などが挙げられる。
前記その他の成分の微生物付着抑制材料における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
<<溶剤>>
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メトキシ−2−プロパノール、ベンジルクロライドなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メトキシ−2−プロパノール、ベンジルクロライドが、溶解性に優れる点で、好ましい。
【0045】
<<重合開始剤>>
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,2−アゾビスイソブチルニトリル、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、過酸化ベンゾイル、過硫酸塩、テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、2,2−アゾビスイソブチルニトリル、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、テトラエチルアンモニウムが、重合速度を上げることに優れる点で、好ましい。
【0046】
<<重合抑制剤>>
前記重合抑制剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハイドロキノン、ジターシャリーペンチルハイドロキノンなどが挙げられる。
【0047】
<<架橋剤>>
前記架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジビニル化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどが挙げられる。
【0048】
<<界面活性剤>>
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。
【0049】
<<光増感剤>>
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カヤキュアーDETXなどの芳香族第3級アミン誘導体が挙げられる。
【0050】
<<抗菌剤>>
前記抗菌剤は、生態系への悪影響が考えられるため含まないほうが好ましいが、必要に応じて適宜使用してもよい。なお、本発明では、抗菌剤の中に防藻剤が含まれるものとする。
前記抗菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1−メトキシ−1−メチルウレア、1,1−ジメチル−3−フェニルウレア、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(4−クロロフェニル)−1−メチル−1−(1−メチル−2−プロピニル)ウレア、1−ブチル−3−(3,4−ジクロロフェニル)−1−メチルウレア、1−(2−メチルシクロフェニル)−3−フェニルウレア、3−(5−ターシャリ−ブチルイソオキサゾール−3−イル)−1,1−ジメチルウレア等の、一般的にウレア系化合物と呼ばれているもの、テトラクロロメチルスルホニルピリジン、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、2−メチル−チオ−4−ターシャリ−ブテニルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−5−トリアジン、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−クロロ−4,6−ビス(エチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2−〔(4−クロロ−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ〕−2−メチルプロピオニトリル、テトラクロロイソフタロニトリルなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、トリアジン化合物が、生態系への悪影響が小さい点で、好ましい。
【0051】
<用途>
本発明の微生物付着抑制材料は、様々な形態とすることができるため、例えば、微生物付着抑制基材、バイオリアクター、農業用被覆材、各種外壁、窓等、広い用途に好適である。
【0052】
(微生物付着抑制基材)
前記微生物付着抑制基材は、少なくとも微生物付着抑制材料及び基材を含んでなり、必要に応じて、その他の構成を含む。
前記微生物付着抑制材料は、ポリマー状態としたものであってもよいし、前記基材上でモノマーを重合してポリマー状態としたものであってもよい。
【0053】
<基材>
前記基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、球状、不定形状、繊維状、板状などが挙げられる。
また、前記基材は、単一部材で形成されてもよいし、2以上の部材で形成されてもよい。
これらの中でも、フィルム状、板状が、バイオリアクターに用いる場合や農業用資材に用いる場合、内容物を外部から隔離することが高い点で、好ましい。
【0054】
前記基材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記形状がシート状の場合の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造、積層構造などが挙げられる。
これらの中でも、単層構造が、コスト抑制効果の点、及び取扱いのしやすさの点で、好ましい。
前記形状が不定形状の場合の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状の表面に層を被覆する構造などが挙げられる。
【0055】
前記基材の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、農業用被覆材として用いた場合には、家庭用の数十cmサイズのものから、農業従事者が取扱う農業用ハウスのような100mサイズのものがある。また、フォトバイオリアクターとして用いた場合には、実験室規模の数cmサイズのものから、商業生産を前提とした数百mサイズのものなどが挙げられる。
【0056】
前記基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機基材、無機基材などが挙げられる。
前記有機基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、生物由来のポリマーなどが挙げられる。
これらの具体例としては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリペプチド、多糖、トリアセチルセルロースフィルムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、トリアセチルセルロースフィルムが、価格の安さや透明性、耐光性が高い点で、好ましい。
前記無機基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合金、ガラス、セラミックス、コンクリートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラスが、透明性を有する点で、好ましい。
【0057】
<微生物付着抑制基材の製造方法>
前記微生物付着抑制基材は、前記基材の表面に前記微生物付着抑制材料を含有させること(以下、微生物付着抑制材料含有層と称することがある)により製造することができる。
前記基材の表面に前記微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記基材を基点として前記微生物付着抑制材料に含有されるモノマー若しくはオリゴマーを重合し、グラフト表面を作製する方法、前記微生物付着抑制材料に含有されるポリマーを基材と結合させることでグラフト表面を得る方法を挙げることができる。
前記基材の表面としては、基材の内面であってもよいし、基材の外面であってもよいし、基材の両面であってもよい。
【0058】
<<基材を基点としてポリマーとなる構成単位をグラフト重合させる方法>>
前記基材を基点としてポリマーとなる構成単位をグラフト重合させる方法は、一般的には表面グラフト重合法といわれる。前記表面グラフト重合法は、前記基材の表面に活性種を与え、基材と接するように配置された重合可能な2重結合を有する化合物を重合することにより、基材と結合させる方法をいう。
【0059】
−基材表面上に活性種を与える方法−
前記基材表面上に活性種を与える方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紫外線照射、電子線照射、ガンマ線照射、加熱などが挙げられる。
これらの中でも、紫外線照射による重合が、簡便かつ重合効率が良い点で、好ましい。
【0060】
<<ポリマーを基材と結合させる方法>>
前記ポリマーを基材と結合させる方法は、ポリマーの末端若しくは側鎖に有する官能基と基材の表面に有する官能基とが化学結合する方法である。前記化学結合の中でも、共有結合が、結合が強い点で、好ましい。
【0061】
−ポリマーの末端若しくは側鎖に有する官能基−
前記ポリマーの末端若しくは側鎖に有する官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などが挙げられる。
これらの中でも、水酸基が、微生物の付着性を効率よく抑制する点で、好ましい。
【0062】
−基材の表面に有する官能基−
前記基材の表面に有する官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ビニル基、メチル基、メチレン基などが挙げられる。
これらの中でも、メチレン基、ビニル基が、グラフト効率が良い点で、好ましい。
【0063】
<<微生物付着抑制材料含有層の厚み>>
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが、1nm未満であると、微生物付着抑制能が低下することがあり、1,000nmを超えると、グラフト表面の作製が困難となることがある。一方、前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが前記特に好ましい範囲であると、前記微生物の付着を抑制する効果がより優れる点で有利である。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みは、例えば、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)や赤外分光スペクトルなどを用いて測定することができる。
【0064】
−微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法−
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記微生物付着抑制材料含有層の厚みをより厚くする方法としては、例えば、重合時のポリマーの濃度を高くする方法、より波長の短い紫外線を照射する方法、温度を高くする方法、重合時間を長くする方法などが挙げられる。
これらの中でも、重合時のポリマーの濃度を高くする方法が、前記微生物の付着を抑制する効果が優れる点で、好ましい。
【0065】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
<用途>
本発明の微生物付着抑制基材は、微生物の付着を抑制することができるため、フォトバイオリアクター、農業用被覆材等の透光性を有するものについて好適に利用できる。
【0067】
(バイオリアクター)
前記バイオリアクターは、少なくとも前記微生物付着抑制材料を有してなり、さらに必要に応じて、その他の構成を有する。
【0068】
前記バイオリアクターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フォトバイオリアクターが挙げられる。
【0069】
前記バイオリアクターは、例えば、固定化酵素、固定化微生物、固定化細胞などを充填した反応槽を備えたものを、フォトバイオリアクターとは、バイオリアクターの一種で、特に、光源を備えているものをいう。
前記反応槽の長さ、直径、及び配向等、並びに特定の気体注入速度、及び液体再循環速度としては、特に制限はなく、前記フォトバイオリアクターが使用される特定の用途、並びに処理される気体の組成及び質に応じて適宜選択することができる。
前記光源の光量としては、特に制限はなく、反応槽内の固定化酵素、固定化微生物、固定化細胞などによる物質の合成、化学変換に応じて適宜選択することができる。
前記微生物付着抑制材料を利用できるフォトバイオリアクターとしては、例えば、Biotechnol.Lett.30,1525−1536(2008)、Biotechnol.Progr.22,1490−1506(2006)等に記載のフォトバイオリアクターが挙げられる。
【0070】
前記フォトバイオリアクターの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、方形状、球状、環状、ループ状、板状、不定形状などが挙げられる。
これらの中でも、円柱状が攪拌のしやすさ、板状が光合成生物の増殖性の高さの点で、好ましい。
【0071】
前記フォトバイオリアクターの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、実験室規模の数cmサイズのものから、商業規模の数百mサイズのものなどが挙げられる。
【0072】
前記フォトバイオリアクターの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機基材、無機基材などが挙げられる。
前記有機基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、生物由来のポリマーなどが挙げられる。
これらの具体例としては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、アクリル樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリスチレンやアクリル樹脂が、透明性や加工性に優れる点、価格が安い点で、好ましい。
前記無機基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合金、ガラス、セラミックス、コンクリートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラスが、透明性を有する点で、好ましい。
【0073】
<フォトバイオリアクターの表面に微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法>
前記フォトバイオリアクターの表面に微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法は、前記基材の表面に微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法と同様の方法を用いることができる。
前記微生物付着抑制材料含有層は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも、光が透過する部位に形成させることが好ましい。
前記光が透過する部位としては、フォトバイオリアクターの内面であってもよいし、フォトバイオリアクターの外面であってもよいし、フォトバイオリアクターの両面であってもよい。
【0074】
<<微生物付着抑制材料含有層の厚み>>
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが、1nm未満であると、微生物付着抑制能が低下することがあり、1,000nmを超えると、グラフト表面の作製が困難となることがある。一方、前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが前記特に好ましい範囲であると、前記微生物の付着を抑制する効果がより優れる点で有利である。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みは、前記微生物付着抑制基材における微生物付着抑制材料含有層の厚みを測定する手段と同様の手段を用いて測定することができる。
【0075】
−微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法−
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法としては、前記微生物付着抑制基材における微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法と同様の方法を用いて調整することができる。
【0076】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0077】
<用途>
本発明のバイオリアクター、及びフォトバイオリアクターは、洗浄回数を減少させることができ、又、前記フォトバイオリアクターは光量供給に優れる。そのため、前記バイオリアクター、及びフォトバイオリアクターは、バイオフィルムを形成する微生物の培養、光合成微生物の培養等、広い用途に好適である。
【0078】
(農業用被覆材)
前記農業用被覆材は、少なくとも微生物付着抑制材料を有してなり、さらに必要に応じて、その他の構成を有する。
【0079】
前記微生物付着抑制材料を利用できる農業用被覆材は、例えば、新訂 園芸用被覆材、園芸情報センター発行、(社)日本施設園芸協会、21世紀施設園芸研究会監修、2004年に記載の農業用被覆材などが挙げられる。
【0080】
前記農業用被覆材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造、積層構造などが挙げられる。
また、前記農業用被覆材は、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。
これらの中でも、単層若しくは二層構造が、前者では、取扱い及びコストの面から、後者では、種々機能、例えば、遮熱、保温、紫外線カットなど、を併用できる点で、好ましい。
【0081】
前記農業用被覆材の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、個人が趣味で楽しむ程度の数十cmから数m程度、農業従事者が生業で営む上で使用する数十mから数百m程度の大きさなどが挙げられる。
【0082】
前記農業用被覆材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びガラスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
<農業用被覆材の表面に前記微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法>
前記農業用被覆材の表面に前記微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法は、前記基材の表面に微生物付着抑制材料含有層を形成させる方法と同様の方法を用いることができる。
前記微生物付着抑制材料含有層を形成する部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも、光が透過する部位に形成させることが好ましい。
前記光が透過する部位としては、農業用被覆材の内面であってもよいし、農業用被覆材の外面であってもよいし、農業用被覆材の両面であってもよい。
【0084】
<<微生物付着抑制材料含有層の厚み>>
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが、1nm未満であると、微生物付着抑制能が低下することがあり、1,000nmを超えると、グラフト表面の作製が困難となることがある。一方、前記微生物付着抑制材料含有層の厚みが前記特に好ましい範囲であると、前記微生物の付着を抑制する効果がより優れる点で有利である。
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みは、前記微生物付着抑制基材における微生物付着抑制材料含有層の厚みを測定する手段と同様の手段を用いて測定することができる。
【0085】
−微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法−
前記微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法としては、前記微生物付着抑制基材における微生物付着抑制材料含有層の厚みを調整する方法と同様の方法を用いて調整することができる。
【0086】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0087】
<用途>
本発明の農業用被覆材は、農業用ハウス、トンネル、マルチフィルム、果実袋、温室、苗床等の被覆材等、広い用途に好適である。
【0088】
(微生物)
前記微生物付着抑制材料、並びに微生物付着抑制材料を用いた微生物付着抑制基材、バイオリアクター、及び農業用被覆材において、付着抑制が可能な微生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0089】
前記微生物は、人の肉眼では個体を識別することができない生物、集合体を崩して個体にすると人の肉眼で識別することができない生物、集合体では色の変化により識別可能となるがその個体では人の肉眼によって観察することができない生物をいう。前記微生物は、真核生物であってもよいし、原核生物であってもよい。
【0090】
前記付着抑制の対象とする微生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バイオフィルムを形成する微生物、藻類、菌類、粘菌、原生生物、真正細菌、古細菌、ウイルス、バイオマスを産生する微生物などが挙げられる。
【0091】
<<バイオフィルムを形成する微生物>>
前記バイオフィルムとは、単独若しくは複数種の微生物及びゴミ若しくは砂等の非生物から構成される生物膜をいう。前記バイオフィルムの具体例としては、台所等の流しに形成される膜、歯石などが挙げられる。
前記バイオフィルムを形成する微生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、珪藻、緑藻などが挙げられる。前記バイオフィルムを形成する微生物は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
これらの中でも、特に珪藻に属する微生物の付着を抑制することができる。
【0092】
<<藻類>>
前記藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上で生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものを言い、原核生物であるシアノバクテリアから、真核生物で単細胞生物、多細胞生物の海藻類など、異なるグループの総称をいう。
前記藻類としては、特に制限はなく、例えば、微細藻類がある。
前記微細藻類は、例えば、藍色植物門、灰色植物門、紅色植物門、緑色植物門、クリプト植物門、ハプト植物門、不等毛植物門、渦鞭毛植物門、ユーグレナ植物門、クロララクニオン植物門などに属する微生物が挙げられる。
これらの中でも、特に不等毛植物門に属する微生物の付着を抑制することができる。
【0093】
<<菌類>>
前記菌類としては、特に制限はなく、例えば、ツボカビ類、接合菌類、子嚢菌類、担子菌類などが挙げられる。前記菌類は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【0094】
<<粘菌(変形菌)>>
前記粘菌としては、特に制限はなく、例えば、ツノホコリ亜綱、真正粘菌亜綱、ムラサキホコリ亜綱などが挙げられる。前記粘菌は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【0095】
<<原生生物>>
前記原生生物としては、特に制限はなく、例えば、褐藻類、紅藻類といった全ての真核藻類、鞭毛をもつ菌類的生物、粘菌、細胞性粘菌など変形菌門に所属していたもの、アメーバ、ゾウリムシなどの原生動物などが挙げられる。前記原生生物は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【0096】
<<真正細菌>>
前記真正細菌とは、いわゆる細菌・バクテリアのことをいい、大腸菌、枯草菌、シアノバクテリアなどを含む生物群である。前記真正細菌は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【0097】
<<古細菌>>
前記古細菌とは、sn−グリセロール−1−リン酸のイソプレノイドエーテルより構成される細胞膜に特徴付けられる生物群、又はそこに含まれる生物のことをいう。
【0098】
<<ウイルス>>
前記ウイルスとは、他の生物の細胞を利用して、自己を複製させることのできる微小な構造体で、タンパク質の殻とその内部に詰め込まれた核酸からなるものをいう。
【0099】
<<バイオマスを産生する微生物>>
前記バイオマスとは、生物由来の再生可能な有機性資源をいう。前記バイオマスの具体例としては、例えば、化石資源を除いた多糖、オイル(炭化水素化合物、トリグリセリド)などが挙げられる。
前記バイオマスを産生する微生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オイルを産生する藻類として、Botryococcus属、珪藻、クロレラなどが、アスタキサンチンを産生する藻類として、ヘマトコッカスが、タンパクを多く含む藻類として、クロレラ、ドナリエラなどが挙げられる。前記バイオマスを産生する微生物は、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【実施例】
【0100】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0101】
(実施例1−1−1)
<微生物付着抑制材料1の製造方法>
微生物付着抑制材料1は、下記構造式(2)と下記構造式(3)との共重合物である。
下記構造式(2)で表されるモノマーのペンダント基は、下記構造式(4)で表されるものである。
微生物付着抑制材料1は、以下の方法で得た。
500mL三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド200g、ポリアクリル酸(和光純薬製、分子量:25,000)30g、テトラエチルアンモニウム0.1g、ベンジルクロライド2.4g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン25mg、サイクロマーA(ダイセル化学(株)製、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート)25gを入れ、窒素気流下、100℃、5時間反応させた。その後、アセトニトリルで再沈殿を行い、固形物を濾取、水で洗浄、乾燥し、23g(Mw:5.6万)の微生物付着抑制材料1を得た。
【化17】

【化18】

【0102】
前記微生物付着抑制材料1は、下記一般式(9)で表される繰返し単位と、下記一般式(4)で表される繰返し単位とを有している。前記微生物付着抑制材料1における下記一般式(9)と下記一般式(4)との比率(n/m)は9だった。
【化19】

【0103】
前記微生物付着抑制材料1であるポリマーは、ブロック共重合体に近い共重合体だった。
【0104】
<微生物付着抑制基材1−1−1の作製>
<<基材>>
微生物付着抑制基材の基材として、ガラスを用いた。
【0105】
<<微生物付着抑制材料1を基材と結合させる方法>>
前記微生物付着抑制材料1を前記ガラスの表面に塗布し、80℃に保たれたオーブン中で2分間乾燥させて溶媒の除去を行った。
乾燥後、UV露光機を用いて、20秒間、254nmのUVを露光し、前記微生物付着抑制材料1をガラス表面に結合させた。
さらなる結合の強化を目的として、室温にて、前記微生物付着抑制材料1を結合させたガラスをNaHCO水溶液(1質量%)に10分間浸漬した。その後、水に2分間浸漬させることで洗浄を行った。洗浄後のガラスの表面に付着している水分を、窒素ガスを吹き付けて除去した。その後、乾燥を目的として、80℃のオーブン中で5分間乾燥を行った。
前記微生物付着抑制材料1を結合させたガラスを、19mm四方に切断し、微生物付着抑制基材1−1−1とした。前記微生物付着抑制基材1−1−1における微生物付着抑制材料含有層の厚みは、5nmであった。
【0106】
<評価>
前記微生物付着抑制基材1−1−1に、珪藻を付着させることにより、前記微生物付着抑制基材1−1−1の微生物付着抑制能を評価した。
【0107】
<<珪藻培養液の調製>>
国立環境研究所から入手した珪藻(NIES−71株)を500mL三角フラスコ中で、下記表1、及び表2のCSi培地を200mL用いて、2,000ルクス、20℃、100rpmの振盪速度で培養した。
950μLの前記CSi培地を予め加えている2mLホモジナイズ用マイクロチューブ(TM−626S滅菌付、株式会社トミー精工)に、培養液から採取した50μLを入れ、ビーズ式細胞破砕装置(Micro Smash MS−100、株式会社トミー精工)にセットし、5,500rpmで20秒間、ホモジナイズ処理を行った。前記ホモジナイズ処理を行った分散液を10μL採り、血球計数板(カウンティングチェンバー、アズワン株式会社製)を用いて、前記珪藻のカウントを行った。カウント数から前記珪藻が1×10個/mLになるように前記CSi培地を用いて珪藻培養液を調製した。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
<<珪藻の付着>>
ポリスチレン製の6穴プレート(微生物培養プレート、アズワン株式会社製)に前記微生物付着抑制基材1−1−1を入れた。前記6穴プレートの各穴に前記珪藻培養液を6mL入れた。培養棚(組立式照明培養棚、株式会社池田理化)に、前記6穴プレートを置き、室温(約20℃)、光照射2,000ルクス下、静置条件にて、10日間培養を行い、微生物付着抑制基材1−1−1に珪藻を付着させた。
【0111】
<<珪藻のカウント>>
前記微生物付着抑制基材1−1−1に付着した珪藻のカウントは、以下のようにして行った。
予め2mLの前記CSi培地を加えた6穴プレート内で、前記10日間培養後のガラスを洗浄しながら、セルスクレーパー(住友ベークライト株式会社)を用いて付着した珪藻を剥ぎ取った。前記穴内の珪藻を分散させるために、1mLのピペット(ピペットマン、ギルソン社製)を用いて数回ピペッティングを行い、珪藻の分散液を調製した。
次に、予め0.9mLの前記CSi培地を入れた2mLのホモジナイズ用マイクロチューブ(TM−626S滅菌付、株式会社トミー精工製)に、前記珪藻の分散液を100μL添加し(ビーズは入れていない)、細胞破砕装置(Micro Smash MS−100、株式会社トミー精工)にセットした。5,500rpmで20秒間、ホモジナイズ処理を行った。
前記ホモジナイズ処理を行った溶液から、10μLを採取し、前記血球計数板上で前記珪藻をカウントした。結果を図1に示す。
なお、本発明の珪藻付着数は、珪藻の増殖数をも含んでいるものとする。
【0112】
(比較例1−1−1)
<微生物付着抑制基材1−1−2の作製>
前記実施例1−1−1において、前記微生物付着抑制材料1をポリアクリル酸(和光純薬製、分子量:25,000)に代えたこと以外は、実施例1−1−1と同様にして、微生物付着抑制基材1−1−2を作製した。
前記微生物付着抑制基材1−1−2における微生物付着抑制材料含有層の厚みは、5nmであった。
【0113】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材1−1−2について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図1に示す。
【0114】
(比較例1−1−2)
<微生物付着抑制基材1−1−3の作製>
前記実施例1−1−1において、前記ガラスと前記微生物付着抑制材料1とを用いていた点を、前記ガラスのみを用いた以外は、実施例1−1−1と同様にして、微生物付着抑制基材1−1−3を作製した。
【0115】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材1−1−3について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図1に示す。
【0116】
(実施例1−2)
前記微生物付着抑制材料1を用いて、微生物付着抑制基材1−2−1を作製した。前記微生物付着抑制基材1−2−1は、以下の方法で得た。
【0117】
<微生物付着抑制基材1−2−1の作製>
<<基材の作製>>
下記構造式(5)で表されるDPHA14.56g、下記構造式(6)で表されるシクロヘキサノン0.45g、下記構造式(7)で表されるメチルエチルケトン(以下、MEKと称することがある)12.80gを、5分間攪拌溶解させた。
同時に、下記構造式(8)で表される1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.44gに下記構造式(9)で表される1−メトキシ−2−プロパノール(以下、MFGと称することがある)1.74gを加え、3分間攪拌溶解させて、20質量%溶液2.18gを得た。
前記それぞれの溶液を攪拌後に併せて1分間攪拌した後、ろ過を行うことによりL1溶液を作製した。
ロッドバー♯4を用いて前記L1溶液をPET基盤(厚み:188μm)に塗布し、80℃に保たれたオーブン中で3分間乾燥を行った。乾燥後、UV露光機にて、20秒間、254nmのUVでサンプルを露光し、PET基盤表面に1層目のフィルムを有する基材を形成した。
【化20】

【化21】

【化22】

【0118】
<<2層目のフィルム形成>>
前記微生物付着抑制材料1を0.5g取り、MEK:MFG=1:1(質量比)4.5gを溶媒として10質量%溶液を調製し、30分間攪拌後、ろ過を行うことにより、L2溶液を作製した。
ロッドバー♯6を用いて前記L2溶液を1層目のフィルムが形成されているPET基盤に塗布し、80℃に保たれたオーブン中で2分間乾燥を行った。乾燥後、UV露光機にてガラスフィルターを用いずに直露光にて、240秒間、254nmのUVで前記L2溶液を塗布した1層目のフィルムが形成されているPET基盤を露光し、前記1層目のフィルムが形成されているPET基盤上に微生物付着抑制材料1を含む2層目のフィルムを形成した。
【0119】
<<現像>>
露光後の微生物付着抑制材料1を含む2層構造のフィルムを有するPET基盤を、室温でMFGに30分間浸漬させて現像を行った。その後、MFGに2分間浸漬し洗浄した。洗浄後のPET基盤に付着しているMFGを、窒素ガスを吹き付けて除去した。室温で30分間乾燥後、80℃に保たれたオーブンにて5分間乾燥を行った。
乾燥後、前記微生物付着抑制材料1を含む2層構造のフィルムを有するPET基盤を、19mm四方に切断し、微生物付着抑制基材1−2−1とした。前記微生物付着抑制基材1−2−1における微生物付着抑制材料含有層の厚みは、5nmであった。
【0120】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材1−2−1について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図2に示す。
【0121】
(比較例1−2)
<微生物付着抑制基材1−2−2の作製>
前記実施例1−2において、前記PET基盤、並びにL1溶液(1層目のフィルム)、及び微生物付着抑制材料1を含むL2溶液(2層目のフィルム)を用いていた点を、前記PET基盤のみを用いた以外は、実施例1−2と同様にして、微生物付着抑制基材1−2−2を作製した。
【0122】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材1−2−2について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図2に示す。
【0123】
(実施例2)
<微生物付着抑制材料2の製造方法>
微生物付着抑制材料2は、下記一般式(12)と下記構造式(10)との共重合物である。
下記一般式(12)で表されるモノマーのペンダント基は、下記一般式(2)で表されるものである。
微生物付着抑制材料2は、以下の方法で得た。
【化23】

ただし、前記一般式(12)中、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【化24】

【化25】

ただし、前記一般式(2)中、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【0124】
<<アミドマクロモノマーの合成>>
アクリルアミド30g、3−メルカプトプロピオン酸3.8gをエタノール70gに溶解後、窒素雰囲気下60℃に昇温し、2,2−アゾビスイソブチルニトリル(熱重合開始剤:AIBN)300mgを加えて6時間反応した。反応後白色沈殿を濾過しメタノールで十分洗浄して、末端カルボン酸プレポリマーを30.8g得た(酸価0.787meq/g、分子量1.29×10)。
得られたプレポリマー20gをジメチルスルホキシド62gに溶解し、グリシジルメタクリレート6.71g、N,N−ジメチルドデシルアミン(触媒)504mg、ハイドロキノン(重合抑制剤)62.4mgを加え、窒素雰囲気下140℃で7時間反応した。
反応溶液をアセトンに加え、ポリマーを沈殿させ、よく洗浄して末端メタクリレートアクリルアミドマクロモノマーを23.4g得た(重量平均分子量:1,400)。メタクリロイル基オレフィンピーク(H−NMR(DO):δ=6.12ppm、5.70ppm)と、酸価(0.057meq/g)の減少から、末端に重合性基が導入できたことを確認した。
【0125】
<<アミドマクロモノマーを用いたグラフトポリマーの合成>>
蒸留水5gの入ったフラスコに、前記マクロモノマー4g、メタクリル酸ナトリウム6g、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](VA061、和光純薬工業(株)製)100mgを蒸留水17gに溶解した水溶液を窒素雰囲気下65℃で2時間かけて滴下した。滴下終了後引き続き6時間加熱を続けた。反応溶液をアセトンに加えポリマーを沈殿させよく洗浄して、微生物付着抑制材料2(収量6.95g、分子量1.30×10、収率92.7%)を得た。
【0126】
前記微生物付着抑制材料2であるポリマーは、ブロック共重合体に近い共重合体だった。
【0127】
<微生物付着抑制基材2−1の作製>
<<基材の作製>>
グロー処理したトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(厚さ:100μm)の片方の面上に、単官能性アクリル樹脂(ポリエチレングリコールモノメタクリレート)をバーコード方式で乾燥の後の塗布量が1.5g/mとなるように塗布し、200Wのメタルハライドランプから30cm離して、1分間サンプルを全面露光して、下塗り層を形成した。その後、プラズマ蒸着法により、下塗り層の上にTiO層(膜厚60nm)、SiO層(膜厚40nm)をこの順に積層し、TiO層、SiO層の積層構造を有する基材を作製した。
【0128】
<<微生物付着抑制材料2を基材と結合させる方法>>
微生物付着抑制材料2を2g(グラフトポリマー仕込み比から求めた架橋基のモル数 1.1mol)、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.2g(0.23mmol)(架橋剤)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.24g(10%水溶液)(界面活性剤:エマルゲン910、花王(株)製)、lN 塩酸水溶液8.2g、水11.6gを均一に混合し、20℃で2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物を得た。
上記親水性塗布液組成物を、前記TiO層、SiO層の積層構造を有する基材のSiO層の表面に乾燥後の塗布量が2g/mとなるように塗布し、140℃、1時間加熱乾燥させて基材上に親水性層を形成し、前記TiO層、SiO層の積層構造を有する基材に微生物付着抑制材料2を結合させた。
前記微生物付着抑制材料2を含むTiO層、SiO層の積層構造を有する基材を、19mm四方に切断し、微生物付着抑制基材2−1とした。
【0129】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材2−1について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図3に示す。
【0130】
(比較例2)
<微生物付着抑制基材2−2の作製>
前記実施例2において、前記下塗り層の上に積層された前記TiO層、SiO層の積層構造を有するグロー処理したトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、及び微生物付着抑制材料2を含む親水性塗布液組成物を用いていた点を、グロー処理したトリアセチルセルロース(TAC)フィルムのみを用いた以外は、実施例2と同様にして、微生物付着抑制基材2−2を作製した。
【0131】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材2−2について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図3に示す。
【0132】
(実施例3)
<微生物付着抑制材料3の製造方法>
前記微生物付着抑制材料3は、後述の基材を基点として後述のグラフトポリマーとなる構成単位をグラフト重合させることにより得た。以下、微生物付着抑制材料3を用いた微生物付着抑制基材3−1の作製方法について記載する。
【0133】
<微生物付着抑制基材3−1の作製>
<<基材の作製>>
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)125g、及び、ウレタンアクリレートオリゴマー(UV−6300B、日本合成化学工業(株)製)125gを、439gの工業用変性エタノールに溶解した。得られた溶液に、イルガキュア907(チバガイギー社製)(光重合開始剤)7.5g、及びカヤキュアーDETX(日本化薬(株)製)(光増感剤)5.0gを49gのメチルエチルケトンに溶解した溶液を加えた。混合物を攪拌した後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して中間層塗布液を調製した。
80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フィルム(株)製)を支持体として用い、その表面にゼラチン下塗り層を設けた。ゼラチン下塗り層の上に、上記中間層用塗布液を、バーコーターを用いて塗布し、120℃で乾燥した後、高圧水銀灯を30秒間照射して、塗布層を硬化させ、厚さ15μmの硬化された中間層を形成し、露光によりラジカルを発生しうる基材を作製した。
高圧水銀灯は、ウシオ(株)社製UVX−02516S1LP01を使用した。
【0134】
<<基材と微生物付着抑制材料3との結合>>
−ポリマーP−1の合成方法−
前記ポリマーP−1は、下記構造式(11)と下記構造式(12)との共重合物に2重結合を導入したものである。
下記構造式(11)で表されるモノマーのペンダント基は、下記構造式(1)で表されるものである。
ポリマーP−1は、以下の方法で得た。
窒素雰囲気下、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業)30gを、冷却管を設置した300mLの三つ口フラスコに入れ、ウォーターバスで65℃まで加熱した。メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル(HEMA、東京化成工業)5.0g(0.038mol)、2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(FAMAC、ダイキンファインケミカル研究所社製)10.0g(0.019mol)、2.2’−アゾビス(イソ酪酸)(V601、和光純薬工業)0.66g(0.0029mol)をDMAc30gで溶解させた均一な溶液をプランジャーポンプで0.54mL/minの速度で滴下した。滴下終了後、5時間撹拌し反応を止めて、下記構造式(11)と下記構造式(12)との共重合物(FAMAC/HEMA=33/67)を得た。
前記共重合物(FAMAC/HEMA)3.0gとハイドロキノン(和光純薬工業)0.0325gを冷却管に設置した300mLの三つ口フラスコに入れ、DMAc40gを加えて室温で撹拌し均一な溶液とした。
前記共重合物(FAMAC/HEMA)を含む溶液を撹拌しながら、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI、昭和電工)1.53g(0.00983mol)を滴下した。続いて、ジラウリン酸ジ−n−ブチルすず(東京化成工業)を1滴加えて65℃のウォーターバスで加熱した。5時間後に反応を止め、室温まで自然冷却した。
反応溶液を1,500mLのメタノールで再沈し、析出した固体を吸引濾過により濾取し、下記構造式(11)と下記構造式(12)との共重合物に2重結合を導入したポリマーP−1(収量2.5g、収率55%)を得た。
【化26】

【化27】

【0135】
前記ポリマーP−1は、下記一般式(5)で表される繰返し単位と、下記一般式(6)で表される繰返し単位とを有している。前記ポリマーP−1における下記一般式(5)と下記一般式(6)との比率(b/a)は2だった。
【化28】

【0136】
前記ポリマーP−1は、ブロック共重合体に近い共重合体だった。
【0137】
−基材へのポリマーP−1とブチルメタクリレートとの接触−
前記ポリマーP−1を0.5gと、下記構造式(13)で表されるブチルメタクリレート0.15gと、1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業(株)社製)9.5gを混合して均一溶液とした。
前記中間層を有する基材を19mm四方に切断し、スピナーを用い、前記均一溶液を300回転で塗布し、100℃で1分間乾燥して、中間層を有する基材表面にポリマーP−1とブチルメタクリレートとを含む被膜を形成することにより、両者を接触させた。
【化29】

【0138】
−基材への露光によるグラフトポリマーの生成−
前記中間層を有する基材の表面にポリマーP−1を含む被膜を形成して両者を接触させた後、被膜形成側からUV露光装置(UVX−02516S1LP01、高圧水銀灯、USHIO社製)で5分間露光し、前記中間層を有する基材上に前記ポリマーP−1とブチルメタクリレートからなるグラフトポリマー(微生物付着抑制材料3)を形成させた。
露光後に石英版をはずし、得られたフッ素系グラフト膜をアセトンで洗浄し、未反応の特定撥油性ポリマーP−1などの不純物を除去し、微生物付着抑制基材3−1を作製した。
【0139】
前記グラフトポリマー(微生物付着抑制材料3)は、ブロック共重合体に近い共重合体だった。
【0140】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材3−1について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図4に示す。
【0141】
(比較例3)
<微生物付着抑制基材3−2の作製>
前記実施例3において、前記中間層を有する基材(支持体:トリアセチルセルロースフィルム)、及び前記ポリマーP−1とブチルメタクリレートからなるグラフトポリマー(微生物付着抑制材料3)を用いていた点を、前記トリアセチルセルロースフィルムのみを用いた以外は、実施例3と同様にして、微生物付着抑制基材3−2を作製した。
【0142】
<評価>
また、前記微生物付着抑制基材3−2について、前記実施例1−1−1と同様にして微生物付着抑制能の評価を行った。結果を図4に示す。
【0143】
実施例1−1−1、比較例1−1−1、及び比較例1−1−2の評価結果を図1に示し、微生物付着抑制基材に付着している珪藻の様子を、図5、図6、及び図7に示す。
前記図1の結果から、実施例1−1−1における前記珪藻の付着数は、13.7万個/cmとなり、比較例1−1−1より約50%、比較例1−1−2より約60%の珪藻の付着を抑制できることがわかった。
なお、比較例1−1−1における前記珪藻の付着数は、27.0万個/cmであり、比較例1−1−2における前記珪藻の付着数は、34.0万個/cmであった。
【0144】
実施例1−2、及び比較例1−2の評価結果を図2に示す。
前記図2の結果から、実施例1−2における前記珪藻の付着数は、4.9万個/cmとなり、比較例1−2より約35%の珪藻の付着を抑制できることがわかった。
なお、比較例1−2における前記珪藻の付着数は、7.5万個/cmであった。
【0145】
実施例2、及び比較例2の評価結果を図3に示す。
前記図3の結果から、実施例2における前記珪藻の付着数は、2.8万個/cmとなり、比較例2より約61%の珪藻の付着を抑制できることがわかった。
なお、比較例2における前記珪藻の付着数は、7.4万個/cmであった。
【0146】
実施例3、及び比較例3の評価結果を図4に示す。
前記図4の結果から、実施例3における前記珪藻の付着数は、2.4万個/cmとなり、比較例3より約53%の珪藻の付着を抑制できることがわかった。
なお、比較例3における前記珪藻の付着数は、5.0万個/cmであった。
【0147】
これらのことにより、本発明における微生物付着抑制材料は、微生物の付着を抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の微生物付着抑制材料は、微生物の付着抑制能に優れ、かつ、環境に与える影響が小さく、低コストで製造することができるので、例えば、微生物付着抑制基材、バイオリアクター、農業用被覆材などに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素、水素、酸素原子を含み、かつ、合計原子量が100以上であるペンダント基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする微生物付着抑制材料。
【請求項2】
ペンダント基が、下記一般式(1)、下記構造式(1)、下記一般式(10)、及び下記一般式(2)の少なくともいずれかで表されるペンダント基を有する請求項1に記載の微生物付着抑制材料。
【化30】

ただし、前記一般式(1)中、Aは、親水性基を表す。
【化31】

ただし、前記一般式(10)中、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
【化32】

ただし、前記一般式(2)中、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
【請求項3】
ポリマーが、下記一般式(3)及び(4)で表される構造を有する請求項1から2のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【化33】

ただし、前記一般式(3)中、mは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、Aは親水性基を表す。
また、前記一般式(4)中、nは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、m+nは、2以上の整数を表す。
【請求項4】
親水性基が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、及びアミド基のいずれかである請求項2から3のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【請求項5】
ポリマーが、下記一般式(5)、(6)、及び(11)で表される構造を有する請求項1から2のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【化34】

ただし、前記一般式(5)中、aは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(6)中、bは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、a+bは、2以上の整数を表す。
【化35】

ただし、前記一般式(11)中、gは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、fは繰返し単位であり、2〜30の整数を表す。
【請求項6】
ポリマーが、下記一般式(7)及び(8)で表される構造を有する請求項1から2のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【化36】

【化37】

ただし、前記一般式(7)中、cは重合体における繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表し、eは繰返し単位であり、1〜10,000の整数を表す。
また、前記一般式(8)中、dは重合体における繰返し単位であり、1〜100,000の整数を表す。
また、c+dは、2以上の整数を表す。
【請求項7】
微生物が、バイオフィルムを形成する請求項1から6のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【請求項8】
微生物が、藻類、菌類、粘菌、原生生物、真正細菌、古細菌、及びウイルスの中から選ばれる少なくとも1つである請求項1から7のいずれかに記載の微生物付着抑制材料。
【請求項9】
請求項1から4、請求項7、及び請求項8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ポリアクリル酸に、脂環式エポキシアクリレート化合物を化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から2、請求項5、請求項7、及び請求項8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ヒドロキシアルキル基含有ポリ(メタ)アクリル酸、及びパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート化合物の共重合体に、アルキル基含有(メタ)アクリレート化合物を化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1から2、及び請求項6から8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を製造する方法であって、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムに、アミドマクロモノマーを化学結合させることを特徴とする微生物付着抑制材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を含むことを特徴とする微生物付着抑制基材。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を含むことを特徴とするバイオリアクター。
【請求項14】
フォトバイオリアクターである請求項13に記載のバイオリアクター。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載の微生物付着抑制材料を含むことを特徴とする農業用被覆材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1694(P2012−1694A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140784(P2010−140784)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】