説明

微粒子とその製造方法

【課題】
電気機能など各種機能を持った微粒子は数々開発製造されているが、それら微粒子が持つ本来の機能に、微粒子の形状を損なわず更に新たな機能を付与するという思想はなかった。
【解決手段】
微粒子をクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に分散させて前記クロロシラン化合物と前期微粒子表面を反応させることにより、微粒子表面に共有結合した分子で構成する被膜を形成し、微粒子本来の機能を保ったままで溶媒への分散性を向上する機能や各種反応機能を付与した微粒子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性微粒子に関するものである。さらに詳しくは、表面を安定化させるか、表面に熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性を付与した金属や金属酸化物よりなる無機微粒子、高分子や高分子ミセルよりなる有機微粒子、あるいは有機−無機ハイブリッド微粒子に関するものである。
【0002】
本発明において、「無機微粒子」には、導体微粒子、半導体微粒子、絶縁体微粒子、磁気微粒子、蛍光体微粒子、光吸収微粒子、光透過微粒子、顔料微粒子が含まれている。「有機微粒子」には、有機蛍光体微粒子、有機光吸収微粒子、有機光透過微粒子、有機顔料微粒子、薬物微粒子が含まれている。「有機−無機ハイブリッド微粒子」には、DDS(Drug Delivery System)用薬物微粒子、化粧用微粒子、有機−無機ハイブリッド顔料微粒子が含まれている。
【背景技術】
【0003】
従来から、微粒子の溶液への分散性を向上する目的で、微粒子と溶媒との混合溶液に界面活性剤を添加する方法は数多く知られている。
【0004】
しかしながら、微粒子そのものの表面に化学吸着した(共有結合した)機能性単分子膜等の有機薄膜で微粒子を被うことにより、微粒子本来の機能を損なわずに各種機能を付与した新規な微粒子、及びその製造方法は未だ開発、提供されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、電気機能、磁気機能、光機能等、各種機能を持った微粒子は数々開発製造されている。しかしながら、それら微粒子が持つ本来の機能に、微粒子の形状をほとんど損なうことなくさらに新たな機能を付与するという思想はなかった。
【0006】
本発明は、微粒子の表面を機能性官能基、例えば臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、あるいは反応性の官能基を含む機能性単分子膜等の有機薄膜で覆うことにより、前記微粒子に、微粒子の本来の形状や機能をほぼ保ったままで表面を不活性化する機能や溶媒への分散性を向上させる機能や各種反応機能を付与した微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として提供される第一の発明は、表面に共有結合した有機薄膜で覆われていることを特徴とする微粒子である。
【0008】
第二の発明は、第一の発明において、表面に共有結合した有機薄膜が一端に機能性官能基を含み他端でSiまたはSを介して粒子表面に共有結合する分子で構成されていることを特徴とする微粒子である。
【0009】
第三の発明は、第二の発明において、機能性官能基が臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、または反応性の官能基であることを特徴とする微粒子である。
【0010】
第四の発明は、第三の発明において、臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基が、−CFおよび/または−CH3を含むことを特徴とする微粒子である。
【0011】
第五の発明は、反応性の官能基が熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基であることを特徴とする微粒子である。
第六の発明は、第四の発明において、反応性の官能基がエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基であることを特徴とする微粒子である。
【0012】
第七の発明は、第一の発明及び第二の発明において表面に共有結合した有機薄膜が単分子膜で構成されていることを特徴とする微粒子である。
【0013】
第八の発明は、微粒子を少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させて前記クロロシシラン化合物と前記微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする微粒子の製造方法である。
【0014】
第九の発明は、微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする微粒子の製造方法である。
【0015】
第十の発明は、第八の発明及び第九の発明において、微粒子を化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程の後、微粒子表面を有機溶剤で洗浄して微粒子表面に共有結合した単分子膜を形成することを特徴とする微粒子の製造方法である。
【0016】
第十一の発明は、第九の発明において、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする微粒子の製造方法である。
【0017】
第十二の発明は、第九の発明において、シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いることを特徴とする微粒子の製造方法である。
以下、本発明の要旨を更に説明する。
【0018】
本発明は、少なくとも微粒子をクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させて前記クロロシラン化合物と前記微粒子表面を反応させる工程、あるいは、微粒子をアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程とにより、表面に共有結合した有機薄膜で覆われている微粒子を提供することを要旨とする
【0019】
ここで、表面に共有結合した有機薄膜が一端に機能性官能基を含み他端でSiまたはSを介して粒子表面に共有結合する分子で構成されていると、微粒子の安定性を損なうことなく各種機能を付与する上で都合がよい。
また、機能性官能基が臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、または反応性の官能基であると、微粒子に分散性や反応性を付与する上で都合がよい。
【0020】
さらに、臨界表面エネルギー25mN/m以下を得るためには、不活性基として、−CFおよび/または−CH3を用いればよい。
さらにまた、反応性の官能基が熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基であると微粒子に反応性を付与する上で都合がよい。
【0021】
利用できる実用的な反応性の官能基は、共有結合を生じるエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基である。
さらに、表面に共有結合した有機薄膜が単分子膜で構成されていると、微粒子表面の形状を損なわないので都合がよい。
さらにこのとき、微粒子を化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程の後、微粒子表面を有機溶剤で洗浄して微粒子表面に共有結合した単分子膜を形成すると低コストで単分子膜を形成できて都合がよい。
【0022】
また、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いると、処理時間を短縮する上で都合がよい。
さらにまた、シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いると処理時間をより一層短縮できて都合がよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したとおり、本発明によれば、微粒子本来の機能をほぼ保ったままで安定化させる機能や各種溶媒への分散性を向上させる機能、各種反応機能を付与した微粒子を提供できる効果がある。さらにまた、化学吸着した単分子膜で被うことにより、微粒子本来の形状と機能をほぼ完全に保ったままで安定化させる機能や分散性を向上する機能、各種化学反応機能を付与した微粒子を提供できる特別の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に微粒子を分散させてクロロシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程の後、微粒子を有機溶剤で洗浄する方法、あるいは少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に微粒子を分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程の後、有機溶剤で洗浄する方法により、微粒子表面に共有結合した分子が、反応性の官能基、例えば熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基を有し、且つ単分子膜を構成している微粒子を提供するものである。
【0025】
したがって、本発明には、微粒子本来の形状と機能をほぼ完全に保ったままで粒子そのものの表面を安定化する機能や分散性を向上する機能、各種化学反応機能を付与した微粒子を提供できる作用がある。
【0026】
以下、本願発明の詳細を実施例を用いて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0027】
なお、本発明に関する微粒子には、表面に親水性の酸化物あるいは水酸化物を含む導電体粒子、半導体粒子、絶縁体粒子、磁性体粒子、蛍光体粒子、光吸収粒子、光透過粒子、顔料粒子、薬用粒子、化粧品用粒子、研磨材粒子、耐摩耗材粒子等があるが、まず、代表例として顔料粒子である酸化鉛微粒子を取り上げて説明する。
【実施例1】
【0028】
まず、平均粒径が100nm程度の酸化鉛微粒子1用意し(図1)、よく乾燥した。次に、単分子膜を形成すると臨界表面エネルギー25mN/m以下になるフッ化炭素基(機能部位)及びクロロシリル基(活性部位)を含む化学吸着剤、例えばCF(CF27(CH22SiCl3を0.1重量%程度の濃度で非水系溶媒(例えば、脱水したノナン)に溶かして化学吸着溶液(以下吸着溶液という)とした。この吸着溶液に、乾燥雰囲気中(相対湿度30%以下が好ましかった。)で前記酸化鉛微粒子を漬浸し撹拌反応させると、酸化鉛微粒子1表面は水酸基2が多数含まれているので(図1(a))、前記化学吸着剤のクロロシリル基(SiCl)基と前記微粒子表面の水酸基(OH)が反応し、脱塩酸反応が生じ酸化鉛微粒子表面全面に亘り、下記式(化1)に示す結合が生成さる。次ぎに、フロン系の溶媒を加えて撹拌洗浄すると、前記化学吸着剤よりなる単分子膜3で被われた酸化鉛微粒子が得られた。
【0029】
【化1】

【0030】
なお、このとき形成された微粒子表面の単分子膜の臨界表面エネルギーは6mN/m程度になるので、この顔料微粒子は、臨界表面エネルギーが小さなフロン系溶媒やシリコーン系溶媒、あるいはフッ樹脂中によく分散するようになり、極めて良質の塗料を製造できた。
【0031】
また、この化学吸着膜はきわめて強固に微粒子表面に共有結合しているので、通常の反応では剥離することがなかった。さらに、膜厚も1分子の長さのみであるので(およそ1nm程度)、数十ナノメートル程度の粒径の微粒子(ナノ粒子)を用いても、微粒子の表面形状が損なわれることはほとんどなく、色調変化も現れなかった。
【0032】
なお、このとき、洗浄せずに空気中に取り出すと、分散性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄の化学吸着ポリマー膜が形成された微粒子が得られた。
【0033】
上記実施例では、化学吸着剤として機能部位に表面エネルギーを低減できる作用のあるフッ化炭素系の官能基を持つ薬剤を用いた例を示したが、機能部位に炭化水素基(−CH基)を含む薬剤、例えばCH(CF27(CH22SiCl3を用いた場合には、臨界表面エネルギーは25mN/m程度の被腹膜が得られた。また、これら薬剤を任意に混合して用いると、出来た微粒子表面の被膜の臨界表面エネルギーを6〜25mN/mの間で任意に制御できた。ここで、機能部位の官能基をいろいろ変えることにより、新たな機能を付与し、且つ微粒子の表面エネルギーを目的の値に制御した微粒子を、微粒子本来の形状を損なうことなく製造できることはいうまでもない。
【0034】
なお、この方法は、被膜形成時塩酸が発生するので、多少微粒子表面を傷つけることがあったが、実施例1では、微量のため問題は生じなかった。また、このようにして単分子膜で被覆された微粒子、例えば、臨界表面エネルギーが25mN/m程度の炭化水素系単分子膜で被覆された微粒子では、凝集を抑え、炭化水素系の溶媒や炭化水素系あるいはアクリル系のプラスチックに極めて良好な状態で分散できた。
さらにまた、微粒子が、酸素と反応しやすい金属ナノ粒子でも表面を不活性化でき、表面を空気から保護して酸化を防止できた。
【0035】
なお、上記実施例1では、フッ化炭素系化学吸着剤としてCF3(CF27(CH22SiCl3を用いたが、上記のもの以外にも、炭化水素系を含めて下記(1)〜(12)に示した物質が利用できた。
(1) CF3CH2O(CH2)15SiCl3
(2) CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(3) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(4) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(5) CF3COO(CH2)15SiCl3
(6) CF3(CF2)5(CH2)2SiCl3
(7) CH3CH2O(CH2)15SiCl3
(8) CH3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(9) CH3(CH2)Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(10) CH3(CH2) Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(11) CH3COO(CH2)15SiCl3
(12) CH3(CH2)SiCl3
【0036】
また、微粒子の素材がAuの場合には、末端のSiCl3基を−SH基、あるいはトリアジンチオール基で置換した薬剤、例えば、HC(CH2)11−SH、あるいはHC(CH2)−SH等を用いればSを介して単分子膜が形成された金微粒子を製造できた。一方、−SHとメトキシシリル基を両末端にもつ薬剤、例えばHS(CH)3Si(OCH)3をもちいれば、Sを介して表面にメトキシシリル基を含む単分子膜が形成された金微粒子を製造できた。さらに、この方法を用いれば、表面に親水性の酸化物あるいは水酸化物を含む導電体、半導体、絶縁体、磁性体、蛍光体、光吸収物質、光透過物質、顔料、薬用物質、化粧品素材、研磨材、耐摩耗材料(形状には制限されず、微粒子でも同じ。)等と金微粒子を−S・・・Si−基を介して共有結合でき、前記素材表面を金で被覆することが可能であった。
【実施例2】
【0037】
まず、無水の酸化セリウム微粒子11を用意し、よく乾燥した。次に、化学吸着剤として機能部位に反応性の官能基、例えば、エポキシ基あるいはイミノ基と他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、下記化学式(化2)あるいは(化3)に示す薬剤を99重量%、シラノール縮合触媒として、例えば、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、あるいは有機酸である酢酸を1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーンとジメチルホルムアミドを同量混合した溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン50%とジメチルホルムアミド50%の溶液に1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)になるように溶かして化学吸着液を調製した。
【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
この吸着液に無水の酸化セリウム微粒子を混入撹拌して普通の空気中で(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。このとき、無水の酸化セリウム微粒子表面には水酸基12が多数含まれているの(図2(a))で、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基がシラノール縮合触媒、あるいは有機酸である酢酸の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、下記化学式(化4)あるいは(化5)に示したような結合を形成し、微粒子表面全面に亘り表面と化学結合したエポキシ基を含む化学吸着単分子膜13あるいはアミノ基を含む化学吸着膜14が約1ナノメートル程度の膜厚で形成された(図2(b)、2(c))。
【0041】
なお、ここで、アミノ基を含む吸着剤を使用する場合には、スズ系の触媒では沈殿が生成するので、酢酸等の有機酸を用いた方がよかった。また、アミノ基はイミノ基を含んでいるが、アミノ基以外にイミノ基を含む物質には、ピロール誘導体や、イミダゾール誘導体等の吸着剤がある。さらに、ケチミン誘導体の吸着剤を用いれば、被膜形成後、加水分解により容易にアミノ基を導入できた。
【0042】
その後、トリクレン等の塩素系溶媒を添加撹拌して数回洗浄すると、実施例1と同様に、表面に反応性の官能基、例えば、エポキシ基あるいはアミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われた酸化セリウム微粒子を作製できた。
【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
この処理部も実施例1と同様に、被膜がナノメートルレベルの膜厚で極めて薄いため、粒子径及び粒子表面形状を損なうことはなかった。
なお、洗浄せずに空気中に取り出すと、反応性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成された微粒子が得られた。
【0046】
このアルコキシシリル誘導体を用いた方法の特徴は、クロロシリル誘導体を用いた実施例1に比べ、乾燥雰囲気を必要としないことであり、量産性に優れている。また、脱塩酸反応ではなく、脱アルコール反応であるため、微粒子が塩酸で破壊されるような有機あるいは無機物であったとしても使用可能であり、適用範囲が広い。
【0047】
次ぎに、前記エポキシ基あるいはアミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われた酸化セリウム微粒子をそれぞれ同量取り十分混合し、金型中に入れて50〜60度程度に加熱すると、下記式(化6)に示したような反応でエポキシ基とアミノ基が付加して微粒子は結合固化し、バインダー樹脂を全く含まない砥石を製造できた。また、エポキシ基を有する化学吸着単分子膜で被われた酸化セリウム微粒子に架橋材であるイミダゾールを適量添加し、十分混合して金型中に入れ、50〜60度程度に加熱すると、微粒子表面のエポキシ基が架橋されて結合固化し、バインダー樹脂を含まない砥石を製造できた。さらにまた、このような混合物を有機溶媒に分散させ、金属円盤表面に塗布し加熱すると、バインダー樹脂を含まない切断砥石を製造できた。
【0048】
【化6】

【0049】
なお、上記実施例2では、反応性基を含む化学吸着剤として化学式(化2)あるいは(化3)に示した物質を用いたが、上記のもの以外にも、下記(21)〜(36)に示した物質が利用できた。
(21) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(22) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OCH)3
(23) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(24) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(25) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(26) (CH2OCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(27) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OC)3
(28) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(29) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(30) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(31) H2N (CH2)Si(OCH)3
(32) H2N (CH2)Si(OCH)3
(33) H2N (CH2)Si(OCH)3
(34) H2N (CH2)Si(OC)3
(35) H2N (CH2)Si(OC)3
(36) H2N (CH2)Si(OC)3
【0050】
ここで、(CHOCH)−基は、下記化学式(化7)で表される官能基を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、下記化学式(化8)で表される官能基を表す。
また、微粒子の素材がAuの場合には、末端のSi(OCH)3を−SH基、あるいはトリアジンチオール基で置換した薬剤、例えば、H2N(CH2)11−SH、あるいはH2N(CH2)−SH等を用いれば、Sを介して官能性の単分子膜が形成された金微粒子を製造できた。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
さらに、光または電子線等のエネルギービーム反応性官能基を含む化学吸着剤として、下記(41)〜(46)に示した物質が利用できた。
(41) CH≡C−C≡C−(CH2)15SiCl3
(42) CH≡C−C≡C−(CH2)2Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(43) CH≡C−C≡C−(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(44) (C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OCH)3
(45) (C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OC)3
(46) (C) CO(CH)2 (C)O(CH2)OSi(OCH)3
ここで、(C) CO(CH)2 (C)はカルコニル基を表す。
これらの被膜で被われた微粒子は、そのままでも成形あるいは被膜を形成し紫外線を照射するだけで硬化した。
【0054】
なお、実施例2に置いて、シラノール縮合触媒には、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能であった。
【0055】
また、膜形成溶液の溶媒としては、化学吸着剤がアルコキシシラン系、クロロシラン系、何れの場合も水を含まない有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒、あるいはそれら混合物を用いることが可能であった。なお、洗浄を行わず、溶媒を蒸発させて粒子濃度を上げようとする場合には、溶媒の沸点は50〜250℃程度がよい。
さらに、吸着剤がアルコキシシラン系の場合で且つ溶媒を蒸発させて有機被膜を形成する場合には、前記溶媒に加え、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれら混合物が使用できた。
【0056】
具体的に使用可能なものは、有機塩素系溶媒、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0057】
また、フッ化炭素系溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良い。
【0058】
一方、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いた場合、同じ濃度でも処理時間を半分〜2/3程度まで短縮できた。
【0059】
さらに、シラノール縮合触媒とケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を混合(1:9〜9:1範囲で使用可能だが、通常1:1前後が好ましい。)して用いると、処理時間をさらに数倍早く(30分程度まで)でき、製膜時間を数分の一まで短縮できる。
【0060】
例えば、シラノール触媒であるジブチル錫オキサイドをケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を1時間程度にまで短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0061】
さらに、シラノール触媒を、ケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3と、シラノール触媒であるジブチル錫ビスアセチルアセトネートの混合物(混合比は1:1)に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を30分程度に短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0062】
したがって、以上の結果から、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物がシラノール縮合触媒より活性が高いことが明らかとなった。
【0063】
さらにまた、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物の内の1つとシラノール縮合触媒を混合して用いると、さらに活性が高くなることが確認された。
【0064】
なお、ここで、利用できるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等がある。
【0065】
また、利用できる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等があり、ほぼ同様の効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
また、上記2つの実施例では、酸化鉛微粒子と酸化セリウム微粒子を例として説明したが、本発明は、表面に活性水素、すなわち水酸基の水素やアミノ基あるいはイミノ基の水素などを含んだ微粒子で有れば、どのような微粒子にでも適用可能である。
【0067】
具体的には、「無機微粒子」として、導体微粒子、半導体微粒子、絶縁体微粒子、磁気微粒子、蛍光体微粒子、光吸収微粒子、光透過微粒子、顔料微粒子、「有機微粒子」として、有機蛍光体微粒子、有機光吸収微粒子、有機光透過微粒子、有機顔料微粒子、薬物微粒子、「有機−無機ハイブリッド微粒子」として、DDS(Drug Delivery System)用薬物微粒子、化粧用微粒子、有機−無機ハイブリッド顔料微粒子等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施例における微粒子の反応を分子レベルまで拡大した概念図であり、(a)は反応前の微粒子表面の図、(b)は、単分子膜が形成された後の図を示す。
【図2】本発明の第2の実施例における微粒子の反応を分子レベルまで拡大した概念図であり、(a)は反応前の微粒子表面の図、(b)は、エポキシ基を含む単分子膜が形成された後の図、(c)は、アミノ基を含む単分子膜が形成された後の図を示す。
【符号の説明】
【0069】
1 酸化鉛微粒子
2 水酸基
3 フッ化炭素基を含む単分子膜
単分子膜で被われた酸化鉛微粒子
11 酸化セリウム微粒子
12 水酸基
13 エポキシ基を含む単分子膜
14 アミノ基を含む単分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に共有結合した有機薄膜で覆われていることを特徴とする微粒子。
【請求項2】
表面に共有結合した有機薄膜が一端に機能性官能基を含み他端でSiまたはSを介して粒子表面に共有結合する分子で構成されていることを特徴とする請求項1記載の微粒子。
【請求項3】
機能性官能基が臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、または反応性の官能基であることを特徴とする請求項2記載の微粒子。
【請求項4】
臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基が、−CFおよび/または−CH3を含むことを特徴とする請求項3記載の微粒子。
【請求項5】
反応性の官能基が熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基であることを特徴とする請求項3記載の微粒子。
【請求項6】
反応性の官能基がエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基であることを特徴とする請求項4記載の微粒子。
【請求項7】
表面に共有結合した有機薄膜が単分子膜で構成されていることを特徴とする請求項1および2記載の微粒子。
【請求項8】
微粒子を少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させて前記クロロシシラン化合物と前記微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項9】
微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項10】
微粒子を化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させる工程の後、微粒子表面を有機溶剤で洗浄して微粒子表面に共有結合した単分子膜を形成することを特徴とする請求項8および9記載の微粒子の製造方法。
【請求項11】
シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載の微粒子の製造方法。
【請求項12】
シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いることを特徴とする請求項9に記載の微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−117828(P2007−117828A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311035(P2005−311035)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】