説明

微粒子センサ

【課題】単純化された新規な構造を有する微粒子センサを提供することを目的とする。
【解決手段】微粒子センサは、軸線方向に延びる絶縁性のケーシングであって、流入孔と、流出孔とを有するケーシングと、イオンを発生させるコロナ放電部と、イオンと流入孔を介してケーシング内に流入した微粒子とを混合させる混合部と、混合部よりも一端側の位置で微粒子の帯電に用いられた吸着イオンと、微粒子の帯電に用いられなかった浮遊イオンとを分離する分離部と、を備える。分離部は、ケーシングの内面上に配置された分離用電極であって、浮遊イオンとの間で斥力を生じさせる分離用電極と、ケーシングの内面のうち分離用電極と対向する対向側内面上に配置された分離用対極であって、浮遊イオンとの間で引力を生じさせる分離用対極と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に含まれる煤などの微粒子を検出するための微粒子センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関の排ガスには、煤などの微粒子が含まれる。ここで、排ガス配管に取り付けられ、排ガス中の煤の量を検出するための微粒子センサが知られている(例えば、特許文献1)。この微粒子センサは、例えば微粒子センサの前段に設けられた微粒子捕集フィルタが正常に機能しているかどうかを判定するために用いられる。
【0003】
特許文献1に開示の微粒子センサは、コロナ放電によって発生させたイオンを用いて煤を帯電させ、その後に煤に吸着したイオンと、煤に吸着しなかったイオンとを分離している。そして、煤に吸着したイオンと煤に吸着しなかったイオンとの電荷量の差に基づいて煤の量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/109688号公報
【特許文献2】特表2007−514923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微粒子センサは、コロナ放電を発生させるための電極や、微粒子である煤に吸着したイオンと吸着しなかったイオンとを分離するための部材等を備える必要がある。このため、従来の微粒子センサは、センサ自体が複雑な構造となり、製造工程が複雑になる場合があった。なお、このような問題は、排ガス中の煤の量を検出するために用いられる微粒子センサに限らず、被検出ガス中に含まれる微粒子の量を検出するために用いられる微粒子センサに共通する問題であった。
【0006】
従って本発明は、単純化された新規な構造を有する微粒子センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[適用例1]被検出ガス中に含まれる微粒子の量を検出するために、コロナ放電によって発生させたイオンを用いて前記微粒子を帯電させ、帯電に用いられたイオンである吸着イオンと帯電に用いられなかったイオンである浮遊イオンとを分離する微粒子センサにおいて、
軸線方向に延びる絶縁性のケーシングであって、前記被検出ガスを内部に流入させるための流入孔と、前記流入孔よりも一端側に配置されると共に前記被検出ガスを外部に流出させるための流出孔とを有するケーシングと、
前記ケーシング内に形成され、前記コロナ放電によって前記イオンを発生させるコロナ放電部と、
前記コロナ放電部よりも前記一端側の位置で前記ケーシング内に形成され、前記イオンと前記流入孔を介して前記ケーシング内に流入した前記微粒子とを混合させる混合部と、
前記ケーシング内に形成され、前記混合部よりも前記一端側の位置で前記吸着イオンと、前記浮遊イオンとを分離する分離部と、を備え、
前記分離部は、
前記ケーシングの内面上に配置された分離用電極であって、前記浮遊イオンとの間で斥力を生じさせる分離用電極と、
前記ケーシングの内面のうち前記分離用電極と対向する対向側内面上に配置された分離用対極であって、前記浮遊イオンとの間で引力を生じさせる分離用対極と、を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
【0008】
ここで、分離用電極と分離用対極とを、例えばケーシングの中心軸近傍等のケーシングの内面から離れた位置に配置した場合、微粒子センサはケーシング内部に各極を配置するための十分な空間を設ける必要が生じたり、各極と他の部材とが接触して短絡しないように複雑な構造にする必要が生じたりする。適用例1に記載の微粒子センサによれば、分離部における分離用電極と分離用対極とは絶縁性のケーシングの内面上に配置されている。よって、各極がケーシングの内面から離れて配置されている場合よりも、微粒子センサの構造を単純化できる。また、分離用電極と分離用対極とを微粒子センサの構成部材として容易に設けることができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の微粒子センサにおいて、
前記ケーシングは、
前記軸線方向にそれぞれ延びる第1と第2のケーシングを有し、
前記第1のケーシングの内面上には、前記分離用電極が配置され、
前記第2のケーシングの内面上には、前記分離用対極が配置され、
前記ケーシングは、前記分離用電極と前記分離用対極とが互いに対向する状態で前記第1と第2のケーシングを互いに固着することで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例2に記載の微粒子センサによれば、第1のケーシングの内面上に分離用電極を配置し、第2のケーシングの内面上に分離用対極を配置し、第1と第2のケーシングを固着することで、ケーシングの内面上に互いに対向するように配置された分離用電極と分離用対極とを備える微粒子センサを容易に製造できる。すなわち、適用例2に記載の微粒子センサによれば、分離用電極と分離用対極とをケーシングの内面上に容易に配置できる。なお、第1と第2のケーシングを固着するにあたっては、例えば、セラミック接着剤やガラスペーストを第1と第2のケーシングが互いに重なる重なり面(貼り合わせ面)に塗布して接着させるようにすれば良い。
【0010】
[適用例3]適用例1又は適用例2に記載の微粒子センサにおいて、
前記分離部は、前記混合部よりも前記軸線方向と直交する断面の面積が小さい狭小流路であって、前記分離用電極と前記分離用対極とがそれぞれ内面に配置された狭小流路を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例3に記載の微粒子センサによれば、分離部が軸線方向の一部において狭小流路を有することで、狭小流路を有さない場合に比べ、微粒子に付着しなかったイオン(浮遊イオン)に対しより大きな斥力及び引力を与えることができる。これにより、より多くの浮遊イオンを分離用対極側へと確実に移動させることができ、浮遊イオンを効率良く分離用対極で捕捉できる。
【0011】
[適用例4]適用例1乃至適用例3のいずれか一つに記載の微粒子センサにおいて、
前記コロナ放電部は、
前記ケーシングの内面のうち、前記分離用電極及び前記分離用対極と重ならない位置にある他端側内面上に配置された放電用電極と、
前記放電用電極の対極である放電用対極であって、前記放電用電極との間で前記コロナ放電を発生させる放電用対極と、を備えること特徴とする微粒子センサ。
適用例4に記載の微粒子センサによれば、さらに放電用電極についてもケーシングの内面上に配置されている。よって、微粒子センサの構造をより単純化できる。また、放電用電極を微粒子センサの構成部材として容易に設けることができる。
【0012】
[適用例5]適用例4に記載の微粒子センサにおいて、
前記流入孔は、前記ケーシングのうち前記混合部を規定する部分に形成され、
前記微粒子センサは、さらに、
前記軸線方向について前記放電用電極と前記混合部との間の位置で前記軸線方向に開口するノズル開口を形成する、導電性のノズル形成部材を有し、
前記ノズル形成部材は、前記放電用対極として機能する、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例5に記載の微粒子センサによれば、放電用電極と前記混合部との間の位置でノズル開口が形成されたノズル形成部材を有する。これにより、ノズル開口から混合部に空気を噴射させることが可能となる。すなわち、混合部を負圧にすることで、流入孔を介して被検出ガスを容易に混合部に取り入れることができる。また、混合部を負圧にするためのノズル形成部材を放電用対極と兼用させることで、部品点数を低減でき微粒子センサの構造をより一層単純化できる。
【0013】
[適用例6]適用例5に記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記ノズル開口よりも他端側の前記ケーシング内に形成された気体供給流路であって、前記ノズル開口の前記他端側から前記ノズル開口側に吹き付けられる外部からの気体を流通させる気体供給流路を有する、ことを特徴とする、微粒子センサ。
適用例6に記載の微粒子センサによれば、ノズル開口に吹き付けられる外部からの気体を流通させるための気体供給流路を有する。これにより、微粒子センサの外部に供給管等の気体供給流路を別途設けることなく、ノズル開口の他端側からノズル開口に気体を吹き付けることができる。よって、混合部を容易に負圧にでき、流入孔を介して被検出ガスを安定して混合部に取り入れることができる。
【0014】
[適用例7]適用例1乃至適用例6のいずれか一つに記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記分離用電極上に配置され、前記分離用電極を保護する絶縁性の保護部材を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例7に記載の微粒子センサによれば、絶縁性の保護部材によって分離用電極が覆われていることから、分離用電極が他の部材と導通し短絡が生じる可能性を低減できる。
【0015】
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれか一つに記載の微粒子センサにおいて、
前記分離用電極と前記分離用対極の少なくともいずれか一方は、前記ケーシングの内面上に導電ペーストを塗布して焼き付けることで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例8に記載の微粒子センサによれば、導電ペーストをケーシングの内面上に塗布して焼き付けることで分離用電極と分離用対極の少なくともいずれか一方をケーシングの内面上に容易に配置できる。
【0016】
[適用例9]適用例4乃至適用例6、適用例4に従属する適用例7又は適用例8のいずれか一つに記載の微粒子センサにおいて、
前記放電用電極は、前記ケーシングの内面上に導電ペーストを塗布して焼き付けることで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例9に記載の微粒子センサによれば、導電ペーストをケーシングの内面上に塗布して焼き付けることで放電用電極をケーシングの内面上に容易に配置できる。
【0017】
[適用例10]適用例1乃至適用例9のいずれか一つに記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記ケーシングのうちの前記被検出ガスに晒される部分の外周を取り囲むと共に、前記被検出ガスを流通させるための開口が形成された保護外筒を備える、ことを特徴とする微粒子センサ。
適用例10に記載の微粒子センサによれば、保護外筒を備えることで被検出ガスが流通する流通管等に微粒子センサを装着する際に、ケーシングが損傷することを防止できる。また、被検出ガス中に水等の液体が含まれている場合でも、ケーシングに液体が付着することを抑制できる。
【0018】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、微粒子センサ、微粒子センサの製造方法及び微粒子センサを装着した車両等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例としての微粒子センサを搭載する車両について説明するための図である。
【図2】微粒子センサ100の先端部100eの概略図である。
【図3】微粒子センサ100の第1の断面図である。
【図4】微粒子センサ100の第2の断面図である。
【図5】微粒子センサ100の分解斜視図である。
【図6】ケーブル120の構成を示す概略断面図である。
【図7】センサ制御部111による煤量の検出方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.実施例:
B.変形例:
【0021】
A.実施例:
A−1:微粒子センサの全体構成:
図1は、本発明の実施例としての微粒子センサを搭載する車両について説明するための図である。図1(A)は、微粒子センサを搭載する車両の概略構成図である。図1(B)は、車両の排ガス配管415への微粒子センサの取付状態と、センサ駆動部の内部構成とを示す図である。ここで、微粒子センサにおいて、図1(B)の紙面下側を「一端側(先端側)」とも呼び、図1(B)の紙面上側を「他端側(後端側)」とも呼ぶ。
【0022】
図1(A)に示すように、この車両500は、内燃機関400と、燃料供給部410と、車両制御部420とを備える。内燃機関400は、車両500の動力源であり、例えばディーゼルエンジンによって構成することができる。燃料供給部410は、燃料配管411を介して内燃機関400に燃料を供給する。
【0023】
車両制御部420は、マイクロコンピュータによって構成することができ、車両500全体の運転状態を制御する。具体的には、車両制御部420は、内燃機関400における燃料の燃焼状態や、燃料供給部410からの燃料の供給量などを制御する。内燃機関400には、排ガス配管415が接続されており、内燃機関400からの排ガスは、排ガス配管415を介して車両500の外部へと排出される。排ガス配管415には、排ガス中に含まれる煤などの微粒子を除去するためのフィルタ装置416(例えば、DPF(Diesel particulate filter))が設けられている。
【0024】
車両500には、さらに、排ガス中の微粒子の量を検出するセンサシステム130が搭載されている。センサシステム130は、微粒子センサ100と、センサ駆動部110と、微粒子センサ100とセンサ駆動部110とを接続するケーブル120とを備える。微粒子センサ100は、排ガス配管415のフィルタ装置416より下流側に取り付けられている。なお、ケーブル120は、微粒子センサ100の構成部材の1つであるとも言える。
【0025】
微粒子センサ100は、コロナ放電によって発生させたイオン(本実施例では、陽イオン)を用いて微粒子である煤を帯電させる。そして、微粒子センサ100は、帯電に用いられた陽イオン(「吸着陽イオン」とも呼ぶ。)と、帯電に用いられなかった陽イオン(「浮遊陽イオン」とも呼ぶ。)とを分離することで、煤の量を検出するための検出信号をセンサ駆動部110に出力する。なお、微粒子センサ100の詳細は後述する。
【0026】
センサ駆動部110は、微粒子センサ100を駆動するとともに、微粒子センサ100からの検出信号に基づき排ガス中の煤の量を検出する。検出された煤量に基づき、例えば車両制御部420はフィルタ装置416の性能を診断する。例えば、検出された煤量が所定値を超えた場合には、車両制御部420は、フィルタ装置416の劣化あるいは異常を判断し、判断結果をモニターに表示等することで利用者に報知する。ここで、排ガス中の煤量は、例えば、表面積を単位としても良いし、質量を単位としても良い。あるいは、排ガス中の煤量は、煤の個数を単位としても良いし、排ガス中の煤の濃度を単位としても良い。
【0027】
図1(B)に示すように、微粒子センサ100は、軸線CL方向に延びる。微粒子センサ100は、一端側に位置する先端部100eが排ガス配管415内に挿入され、排ガス配管415を流れる排ガスに晒される。微粒子センサ100の先端側には排ガスを微粒子センサ100の内部に取り入れるための開口が形成されている。なお、この詳細は後述する。
【0028】
微粒子センサ100の他端側には、可撓性を有するケーブル120が接続されている。ケーブル120は、センサ駆動部110まで可撓変形しつつセンサ駆動部110へと伸びて接続される。センサ駆動部110は、センサ制御部111と、電気回路部112と、エア供給部113とを備えている。
【0029】
センサ制御部111は、マイクロコンピュータによって構成することができ、電気回路部112と、エア供給部113とを制御するとともに、微粒子センサ100を利用した検出結果を車両制御部420に送信する。
【0030】
電気回路部112は、ケーブル120に収容された電気配線群EWを介して微粒子センサ100を駆動するための電力を供給したり、微粒子センサ100のセンサ信号を受信したりする。電気配線群EWは複数の電気配線(信号線)を含む。なお、電気回路部112が受信したセンサ信号に基づきセンサ制御部111は、排ガス中に含まれる煤の量を検出する。この検出方法の詳細については後述する。
【0031】
エア供給部113は、ポンプ(図示は省略)を備えている。エア供給部113は、センサ制御部111からの指令に基づき、微粒子センサ100の駆動の際に用いられる高圧空気をケーブル120に収容されている空気供給管123を介して微粒子センサ100に供給する。
【0032】
A−2.微粒子センサ100の概略構成:
微粒子センサ100の詳細構成を説明する前に理解の容易のために、微粒子センサ100の概略構成について説明する。図2は微粒子センサ100の先端部100eの概略図を示している。
【0033】
微粒子センサ100は、絶縁性を有する有底筒状のケーシング24を有する。ケーシング24はアルミナ等の耐熱性を有する絶縁性セラミックにより形成されている。また、微粒子センサ100は、排ガスをケーシング24内部に流入させるための流入孔45と、流入孔45よりも一端側(軸線CL方向の先端側)に形成され、排ガスを外部に流出させるための流出孔35とを備える。流入孔45及び流出孔35は、ケーシング24の側面に形成されている。さらに、微粒子センサ100は、他端側から一端側に向かう順に、コロナ放電部72と、混合部71と、分離部31とを備える。各部72,71,31はケーシング24内に形成されている。また、ケーシング24の内面上には、第1の導電性部材10Vと第2の導電性部材11Vとが配置されている。第1と第2の導電性部材10V,11Vは、例えば銅等の金属粒子と有機溶剤とを含む導電ペーストをケーシング24の内面上に塗布し、焼き付けることでケーシング24の内面上に配置される。電気回路部112から電力が供給されることで、第1の導電性部材10Vは陽極として機能し、第2の導電性部材11Vは陰極として機能する。また、第1の導電性部材10Vの一端側は後述する分離用電極10として機能する。また、第2の導電性部材11Vの一端側は後述する分離用対極11として機能する。
【0034】
また、微粒子センサ100は、絶縁性のケーシング24に取り付けられ、軸線CL方向について混合部71と後述する放電用電極20との間に位置する導電性のノズル形成部材41を有する。ノズル形成部材41は、例えばステンレス等の金属製である。ノズル形成部材41は円板状であり、略中央には軸線CL方向(図2では上下方向)に開口するノズル開口42が形成されている。ノズル形成部材41は、第2の導電性部材11Vと導通し、第1の導電性部材10Vとは導通していない。
【0035】
コロナ放電部72は、陽極として機能する放電用電極20を有する。放電用電極20は、導電ペーストをケーシング24の内面上に塗布し、焼き付けることでケーシング24の内面上に配置される。導電ペーストは、例えば銅等の金属粒子と有機溶媒とを含む。ここで、ノズル形成部材41は放電用電極20の対極である放電用対極として機能する。よって、ノズル形成部材41を放電用対極41とも呼ぶ。コロナ放電部72は、放電用電極20と放電用対極41との間でコロナ放電を発生させる。なお、図5で後述するように、放電用電極20の一端部20Sは、一端側に向かうほど幅が小さくなり、一端が尖った形態である。そして、コロナ放電部72にてコロナ放電が生じることで、放電した電子がコロナ放電部72に供給される空気中の分子と衝突し、周囲にイオン(陽イオン)80を発生させる。
【0036】
コロナ放電部72で発生した陽イオン80は、ノズル開口42よりも他端側からエア供給部113(図1)によって供給される高圧空気と共に、ノズル開口42から混合部71へと噴射される。これにより、混合部71は負圧になる。例えば微粒子センサ100に供給される空気の圧力は、ノズル開口42からの空気の噴射速度が音速程度となる程度の圧力に設定することが好ましい。なお、高圧空気は、微粒子センサ100内に形成された気体供給流路700を流通し、ノズル開口42に吹き付けられる。
【0037】
絶縁性のケーシング24のうち、混合部71を規定する部分には流入孔45が形成されている。すなわち、流入孔45は直接に混合部71と連通している。混合部71は、ノズル開口42から高圧空気が噴射されることで負圧となり、流入孔45を介して検出対象となる排ガスを良好に且つ安定して一定の量をケーシング24内部に取り込むことができる。ノズル開口42を介して混合部71に流入した陽イオン80と、流入孔45を介して混合部71に流入した排ガスは混合部71によって混合される。これによって、排ガス中に微粒子である煤82が存在する場合は、陽イオン80が煤82に吸着して帯電する。
【0038】
絶縁性のケーシング24の内面上には、第1の導電性部材10Vと第2の導電性部材11Vとが配置されている。詳細には第1と第2の導電性部材10V,11Vは、ケーシング24の一端から他端に亘って軸線CL方向に延びている。
【0039】
分離部31は、陽極として機能する分離用電極10と、陰極として機能する分離用対極11とを有する。分離用電極10は陽イオン80(特に、浮遊陽イオン80)との間で斥力を生じさせる。分離用対極11は、陽イオン80(特に、浮遊陽イオン80)との間で引力を生じさせる。分離用電極10は、第1の導電性部材10Vのうち混合部71よりも一端側に配置され、面状に拡がった部分をいう。また、分離用対極11は、第2の導電性部材11Vのうち混合部71よりも一端側に配置され、面状に拡がった部分をいう。なお、分離用電極10と分離用対極11との詳細は後述する。
【0040】
分離部31は、軸線CL方向に沿って他端側から一端側に向かう順に、第1の流路31aと、狭小流路31cと、第2の流路31bとを備える。第1の流路31aは、他端側から一端側に向かうに従い開口面積(軸線CL方向に直交する断面積)が次第に縮小する。狭小流路31cは、混合部71よりも小さい一定の開口面積を有する。第2の流路31bは、他端側から一端側に向かうに従って開口面積が次第に拡大する。ケーシング24のうち第2の流路31bを形成する部分の壁面には流出孔35が形成されている。
【0041】
ここで、煤82に吸着しなかった陽イオン80(浮遊陽イオン80)は、分離用電極10から離れる方向に移動する。すなわち、分離用電極10による斥力及び分離用対極11による引力によって、浮遊陽イオン80は排ガスの流れに拘わらず、分離用対極11が位置する方向に進む。分離用対極11に衝突した浮遊陽イオン80は、分離用対極11に捕捉される。一方で、煤82に吸着した陽イオン80(吸着陽イオン80)は、浮遊陽イオン80に比べ質量がかなり大きい。このため、外部の電気的な斥力や引力による影響が浮遊陽イオン80に比較して小さい。よって、電気的な力を受けても排ガスの流れによって、流出孔35から外部へと排出される。これにより、ケーシング24内で浮遊陽イオン80と吸着陽イオン80とが分離される。
【0042】
A−3.微粒子センサ100の詳細構成:
図3〜図5を用いて微粒子センサ100の詳細構成について説明する。図3は、微粒子センサ100の第1の断面図である。図4は、微粒子センサ100の第2の断面図である。図5は、微粒子センサ100の分解斜視図である。ここで、図4は図3の3−3断面図である。なお、図3及び図4には、互いに直交するXYZ軸を付している。
【0043】
図3〜図5に示すように、微粒子センサ100は、軸線CL方向に延びる絶縁性セラミック製のケーシング24と、ケーシング24のうちで被検出ガスである排ガスに晒される部分である一端側外周を取り囲む第1の外筒22(保護外筒22)と、第1の外筒22の他端に接続されたジョイント部103と、ジョイント部103の他端側に接続された第2の外筒360とを備える。第1の外筒22、ジョイント部103、第2の外筒360はステンレス等の金属により形成されている。第1の外筒22は、排ガスを流通させるための開口22aが周方向に複数形成されている。また、第1の外筒22の一端面22bが微粒子センサ100の一端を構成する。ここで、第1の外筒22を設置することにより、排ガス配管415に微粒子センサ100を装着する際に絶縁性セラミック製のケーシング24が損傷することを防止することができる。また、排ガス中に含まれる水等の液体がケーシング24に付着することを抑制することができる。
【0044】
ジョイント部103の外周には、六角レンチ等の工具と係合させるための工具係合部104が設けられている。工具係合部104の一端面には、ガスケット64が取り付けられている。ガスケット64は、排ガス配管415から外部に排ガスが漏れ出さないようにするために、微粒子センサ100を気密に排ガス配管415に取り付ける。
【0045】
図5に示すように、ケーシング24は軸線CL方向に分割されている第1のケーシング27と、第2のケーシング29とを備える。すなわち、ケーシング24は、軸線CLを含む所定の平面で分割されている第1と第2のケーシング27,29を備える。第1と第2のケーシング27,29はそれぞれ軸線CL方向に延びている。そして、この第1と第2のケーシング27,29は、アルミナを主成分とする耐熱性のセラミック接着剤を互いの重なり面(貼り合わせ面)に塗布し接着することにより固着されている。詳細には、第1のケーシング27に配置された分離用電極10と第2のケーシング29に配置された分離用対極11とが互いに対向する状態で、第1と第2のケーシング27,29を互いにセラミック接着材を用いて固着することで、ケーシング24が形成される。
【0046】
図3及び図4に示すように、ケーシング24の他端側には、筒状に形成された固定部材320が外嵌されている。これにより、固定部材320とケーシング24とが一体化されている。固定部材320は、例えばステンレス等の金属により形成される。ケーシング24の一端側がジョイント部103の先端から突出して排ガスに晒されるように、固定部材320がジョイント部103の内部に装着されることで、ケーシング24が固定部材320とジョイント部103との間で挟持されると共にジョイント部103に対して保持される。なお、固定部材320には、図5では図示していないが外周に雄ネジ部が形成されており、固定部材320をジョイント部103の内周に形成された雌ネジ部に螺合することで、両者103,320は互いに固定される。
【0047】
図3に示すように、第2の外筒360の他端側にはケーブル120が取り付けられている。また、ケーブル120と第2の外筒360との間には、ケーブル120を保護するための円環状のグロメット350が配置されている。ケーブル120内には、第1と第2のシールド線SL1,SL2を含む各種電気配線や、空気供給管123が形成されている。第2の外筒360の他端側は、ケーブル120を保持するために加締められ、加締め部360cが形成されている。この加締めの際には、ケーブル120の外皮1204に切れ目を設けるとともに、第2の外筒306の一部を、その切れ目に入り込ませる。これによって、加締め部360cがケーブル120の第2のシールド線SL2と電気的に導通する。なお、第2の外筒360の他端360bが微粒子センサ100の他端を構成する。
【0048】
図5に示すように、第1のケーシング27の部分のうち、ケーシング24として組み立てられた場合の内面上には第1の導電性部材10Vが配置されている。また、第1の導電性部材10V上には絶縁性の絶縁性部材14Vが配置されている。絶縁性部材14Vは、セラミックと有機溶剤を含む絶縁性を有する絶縁ペーストを第1の導電性部材10V上に塗布して焼き付けることで、第1の導電性部材10V上に配置される。第2のケーシング29の部分のうち、ケーシング24として組み立てられた場合の内面上には第2の導電性部材11Vが配置されている。
【0049】
第1の導電性部材10Vは、他端側に位置する線状のリード部132と、一端側に位置しリード部132と接続された分離用電極10と、を有する。リード部132は、端子302にロウ付けにより接合され、この端子302を介してケーブル120内の第1の絶縁配線(後述)と接続される。これにより、第1の導電性部材10Vは、センサ駆動部110(図1(A))と電気的に接続される。図5に示すように、分離用電極10は面状であり、第1のケーシング27の内面上に周方向の幅を有して配置されている。詳細には図4に示すように、分離用電極10は狭小流路31c及び第2の流路31bの内面上に配置されている。
【0050】
図5に示すように絶縁性部材14Vは、リード部132上に重なるように配置された線状の第1の保護部材142と、分離用電極10上に重なるように配置された面状の第2の保護部材14とを有する。微粒子センサ100は絶縁性部材14Vを有することで、第1の導電性部材10V上に煤等の微粒子が堆積し、他の導電性部材(例えばノズル形成部材41)と第1の導電性部材10Vとが短絡する可能性を低減できる。これにより、微粒子センサ100の微粒子の量の検出精度の低下を抑制できる。なお、第1の保護部材142はリード部132よりも短く、リード部132の他端側は第1の保護部材142に覆われることなく露出している。これにより、リード部132の他端側が端子302に接合されている。ここで、「第2の保護部材14」が課題を解決するための手段に記載の「保護部材」に相当する。
【0051】
図5に示すように第2の導電性部材11Vは、他端側に位置する線状のリード部152と、一端側に位置しリード部152と接続された分離用対極11と、を有する。図4に示すように、リード部152は端子301にロウ付けされ、この端子301に接続されるリード線324、及び、リード線324が接続されるジョイント部326を介してケーブル120内の第1のシールド線SL1と接続される。これにより、第2の導電性部材11Vは、センサ駆動部110(図1(A))と電気的に接続される。なお、第1のシールド線SL1の一端側は、ケーブル120から外部に露出し、露出した部分がジョイント部326と接続されている。また、リード線324は、ジョイント部326の一端側に突出する突出部326aに接続される。
【0052】
分離用対極11は面状であり、第2のケーシング29の内面上に周方向の幅を有して配置されている。詳細には図3に示すように、分離用対極11は分離部31の内面上に配置されている。また、分離用対極11と分離用電極10とは互いに対向するように配置されている。
【0053】
図3及び図5に示すように、第2のケーシング29の内面のうち、第1と第2の導電性部材10V,11Vと重ならない位置にある内面上(他端側内面上)には、放電用電極20が配置されている。放電用電極20は面状であり、分離用電極10や分離用対極11よりも他端側に位置する。放電用電極20の他端側はケーシング24の他端側開口部に嵌め込まれる端子304を介してケーブル120内の第2の絶縁電線(後述)と接続される。これにより、放電用電極20は、センサ駆動部110(図1(A))と電気的に接続される。なお、端子301,302,304は、図4に示すように、それぞれが接触することがないように空間を隔てて第2の外筒360内に配置される。
【0054】
図3に示すように、ケーシング24のうち軸線CL方向について放電用電極20と混合部71との間には円板状のノズル形成部材41が配置されている。ノズル形成部材41は金属製(例えば、ステンレス)であり導電性を有する。ノズル形成部材41は、コロナ放電部72と混合部71とを区画している。図5に示すようにノズル形成部材41は、外周面から径方向外側に突出する突出部43を有する。この突出部43がリード部152と接触することで、ノズル形成部材41と第2の導電性部材11Vとは電気的に接続されている。なお、ノズル形成部材41と第1の導電性部材10Vは所定の間隔をあけて配置されることで、ノズル形成部材41と第1の導電性部材10Vとは非接触状態にある。
【0055】
ノズル形成部材41の略中央には軸線CL方向に開口するノズル開口42が形成されている。ノズル開口42は、微小孔(オリフィス)である。本実施例では、コロナ放電部72の直径は約10mmであるのに対し、ノズル開口42の直径は約0.3mmである。上記のように、微小孔であるノズル開口42は金属製のノズル形成部材41に形成されることから、セラミック製の部材に形成されるよりも精度良く形成できる。
【0056】
ノズル形成部材41は、ノズル開口42よりも一端側に位置する混合部71を負圧にできる。具体的には、ノズル開口42よりも他端側から大気圧以上の高圧気体(本実施例では、空気)がノズル開口42に吹き付けられることで、混合部71に気体が噴射され混合部71は負圧になる。また、センサ駆動部110(図1(B))によって、放電用電極20とノズル形成部材41との間に所定の電圧が印加されることで、放電用電極20の一端部20Sとノズル形成部材41のコロナ放電部72に面する側の表面との間でコロナ放電が生じる。
【0057】
図3に示すように、ケーブル120内には軸線CL方向に延びる空気供給管123が形成されている。また図4に示すように、端子304内には軸線CL方向に延びる貫通孔308が形成されている。空気供給管123、第2の外筒360の内部空間、貫通孔308、ケーシング24の内部空間は、エア供給部113からノズル開口42側に向けて吹き付けられる空気が流通する気体供給流路700(図2)を形成する。
【0058】
図6は、本実施例の微粒子センサ100に接続されるケーブル120の構成を示す概略断面図である。ケーブル120には、第1と第2の絶縁電線121,122と、空気供給管123と、第1と第2のシールド線SL1,SL2とが一体的に収容されている。より具体的には、ケーブル120は以下のような構成を有している。
【0059】
第1の絶縁電線121は、その中心に導電線である芯線1210を有している。芯線1210の外周には、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)などのフッ素系樹脂による第1の樹脂被覆層1211が設けられている。
【0060】
第2の絶縁電線122も、第1の絶縁電線121と同様な構成を有しており、導電線である芯線1220と、その外周を被覆する第1の樹脂被覆層1221を有している。空気供給管123は、PTFE (ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂部材によって構成される。空気供給管123の外周は、補強部材123sによって被覆されている。補強部材123sは、編み組された金属線によって構成することができる。
【0061】
第1と第2の絶縁電線121,122と空気供給管123の補強部材123sの外周には、ガラス繊維が充填されたガラス繊維部1201が形成されている。そして、ガラス繊維部1201の外周は、第1の樹脂被覆層1202によって被覆されている。第1の樹脂被覆層1202は、PTFEなどの樹脂部材によって構成することができる。
【0062】
第1の樹脂被覆層1202の外周には、導電線が編み組された第1のシールド線SL1が配設され、第1のシールド線SL1の外側には、PTFEなどの樹脂部材によって構成された第2の樹脂被覆層1203が設けられている。第2の樹脂被覆層1203の外周には、導電線が編み組みされた第2のシールド線SL2が配設され、第2のシールド線SL2の外周は、FEPなどのフッ素系樹脂などで構成された外皮1204によって被覆されている。
【0063】
このように、このケーブル120では、第1と第2のシールド線SL1,SL2が二重で設けられている。このうち、第1のシールド線SL1は、第2の導電性部材11Vと電気的に接続される。これによって、第1のシールド線SL1は、微粒子センサ100の先端部100eと電気回路部112とを接続する信号線として機能する。一方、第2のシールド線SL2は、前記したように、外皮1204を貫通する第2の外筒360の加締められた部分360cと導通する。そして、第2の外筒360、ジョイント部103、排ガス配管415を介して、車両500のシャーシ(図示せず)などと電気的に接続されることにより、接地される。
【0064】
ここで、ケーブル120には、前記したように、微粒子センサ100の駆動の際に用いられる高圧空気のための空気供給管123が収容されている。この空気供給管123によって微粒子センサ100に供給される空気の圧力は高いほど好ましいため、空気供給管123は、その耐圧性が高いほど好ましい。また、ケーブル120は、微粒子センサ100の車両500への配設性を向上させるために可撓性を有することが好ましい。よって、ケーブル120に収容される空気供給管123も可撓性を有するように、樹脂部材で構成されることが好ましい。
【0065】
ところで、一般に、内燃機関の排ガス配管近傍の領域は、著しく高温(例えば600℃程度)になる場合がある。本実施例の微粒子センサ100は排ガス配管415に取り付けられるため、微粒子センサ100に接続されるケーブル120も排ガス配管415の近傍に配設されることになる。しかし、ケーブル120が排ガス配管415の近傍領域などの車両500内の高温領域に配設された場合には、ケーブル120の温度の上昇に伴って、樹脂部材で構成された空気供給管123自体が破損してしまう可能性がある。
【0066】
そこで、本実施例のケーブル120では、空気供給管123の外周に、金属線を編み組みすることによって構成された可撓性を有する補強部材123sが設けられている。この補強部材123sによって、空気供給管123が破損する可能性を低減できる。
【0067】
このように、微粒子センサ100は、排ガス配管415内に先端部100eが挿入・配置されるとともに、ケーブル120によってセンサ駆動部110と接続されて駆動する。車両500では、この微粒子センサ100を用いて、排ガス中に含まれる煤量を検出する。
【0068】
A−4.微粒子センサ100を用いた検出方法:
図7は、センサ制御部111による煤量の検出方法を説明するための概略図である。図7には、微粒子センサ100の先端部100eと、センサ駆動部110のうちのセンサ制御部111と電気回路部112とが模式的に図示されている。
【0069】
電気回路部112は、一次側電源部210と、二次側電源部220と、電流差計測部230とを備える。一次側電源部210は、センサ制御部111の指令に従って、トランスを介して二次側電源部220に高圧電力を供給する。二次側電源部220は、第1電流供給回路221と、第2電流供給回路222とを備えている。
【0070】
第1電流供給回路221は、第1の絶縁電線121を介して分離用電極10を含む第1の導電性部材10Vと接続されている。第2電流供給回路222は、第2の絶縁電線122を介して放電用電極20と接続されている。即ち、微粒子センサ100は、第1電流供給回路221から陽イオン80の捕捉のための電力の供給を受け、第2電流供給回路222から陽イオン80を発生させるコロナ放電のための電力の供給を受ける。なお、第2電流供給回路222は、定電流回路であり、コロナ放電に際して、例えば5μA程度の一定の電流Iinを放電用電極20に供給する。
【0071】
微粒子センサ100の先端部100eは、排ガス配管415や車両500のシャーシなどとは絶縁された状態で排ガス配管415内に保持される。即ち、微粒子センサ100の第2の導電性部材11Vは、いわゆるシャーシグラウンドとも呼ばれる車両500の基準電位とは異なる基準電位を有していると解釈することができる。
【0072】
第2電流供給回路222から放電用電極20に入力電流Iinが流れると、コロナ放電により、放電用電極20から第2の導電性部材11Vに放電電流Idcが流れるとともに、陽イオン80が発生する。発生した陽イオン80の一部は煤82の帯電に用いられ、残りの陽イオン80は、分離部31内の分離用対極11によって捕捉される。
【0073】
煤82の帯電に用いられてケーシング24の外部へと漏洩する陽イオン80の流れに相当する電流を「漏洩電流Iesc」とも呼ぶ。一方、ケーシング24の内面上に配置された分離用対極11に捕捉される陽イオン80の流れに相当する電流を「捕捉電流Itrp」とも呼ぶ。このとき、コロナ放電によって流れるこれらの4つの電流Iin,Idc,Iesc,Itrpについて、以下の関係式(1)が成り立つ。
Iin=Idc+Itrp+Iecs …(1)
【0074】
これらの電流のうち、放電電流Idcと、捕捉電流Itrpとは、ケーシング24の内面上に配置された第2の導電性部材11Vに流れる電流である。また、前記したとおり、放電用電極20への入力電流Iinは、第2電流供給回路222によって一定に制御されている。従って、入力電流Iinと、第2の導電性部材11Vに流れる2つの電流Idc,Itrpの合計との差をとることにより、漏洩電流Iescを得ることができる(下記(2)式)。
Iesc=Iin−(Idc+Itrp)…(2)
【0075】
電気回路部112は、電流差計測部230によって、入力電流Iinと第2の導電性部材11Vに流れる2つの電流Idc,Itrpの合計との差を、漏洩電流Iescとして検出し、その検出結果に基づく信号をセンサ制御部111に出力する。具体的には、電気回路部112は、漏洩電流Iescを以下のように検出する。
【0076】
電気回路部112の電流差計測部230は、ケーブル120の第1のシールド線SL1を介して、第2の導電性部材11Vと電気的に接続されている。また、電流差計測部230は、排ガス配管415または車両500のシャーシを介して接地されている。
【0077】
第2の導電性部材11Vでは、入力電流Iinに対して漏洩電流Iescの分が不足する分だけ、その基準電位が外部の基準電位より低下する。これに対し、電流差計測部230からは、その低下分を補償するように、補償電流Icが第1のシールド線SL1に流れる。この補償電流Icは漏洩電流Iescに相当する電流であり、電流差計測部230は、補償電流Icの計測値を漏洩電流Iescの計測値として、センサ制御部111に送信する。
【0078】
漏洩電流Iescは、煤82の帯電に用いられた陽イオン80の量と相関関係を有する電流であり、煤82の帯電に用いられた陽イオン80の量は、排ガス中の煤82の量に相当する量である。従って、漏洩電流Iescを検出(計測)することにより、排ガス中の煤82の量を求めることができる。センサ制御部111は、予め記憶されたマップや演算式などを用いて、電流差計測部230において検出された漏洩電流Iescに対する排ガス中の煤82の量を取得する。
【0079】
このように、センサ制御部111は、陽イオン80の捕捉量に応じた微粒子センサ100のケーシング24内における電流変化を利用して、排ガス中の煤82の量を検出する。即ち、センサ制御部111は、微粒子センサ100における陽イオン80の捕捉量に基づいて、排ガス中の煤82の量を検出する。
【0080】
上記のように、本実施例の微粒子センサ100は、絶縁性セラミック製のケーシング24の内面上にそれぞれが対向するようにして配置された分離用電極10と分離用対極11とを有する(図3)。ここで、分離用電極10と分離用対極11とをケーシング24の内面から離れた位置に配置した場合、ケーシング24内部に各極10,11を配置するための十分な空間を形成する必要が生じたり、各極10,11と他の部材とが接触し短絡しないように複雑な構造にする必要が生じたりする。上記実施例の微粒子センサ100によれば、分離用電極10と分離用対極11とは絶縁性のケーシング24の内面上に配置されている。より、詳細には、ケーシング24の内面の所定領域内面(第1ケーシング27の内面)上に分離用電極10が配置される一方、ケーシング24の内面のうち所定領域内面と対向する対向側内面(第2ケーシング29の内面)上に分離用対極11が配置されている。よって、各極10,11がケーシング24の内面から離れて配置されている場合よりも、微粒子センサの構造を単純化できる。また、分離用電極10と分離用対極11とを微粒子センサ100の構成部材として容易に設けることができる。
【0081】
また、ケーシング24は軸線CL方向を含む所定の平面で分割された第1のケーシング27と第2のケーシング29とを有する(図5)。これにより、ケーシング24が一体に形成されている場合に比べ、第1と第2の導電性部材10V,11Vを容易にケーシング24の内面上に配置できる。
【0082】
また、分離部31は、軸線CL方向の一部において、混合部71よりも流路断面積が小さい狭小流路31c有する(図3)。また、狭小流路31cには、分離用電極10と分離用対極11とが対向して配置されている。これにより、狭小流路31cを通過する浮遊陽イオン80に対しより大きな斥力及び引力を与えることができる。これにより、より多くの浮遊陽イオン80を分離用対極11へと確実に移動させることができる。すなわち、浮遊陽イオン80を効率良く分離用対極11で捕捉することができ、微粒子センサ100の検出精度を向上できる。
【0083】
また、微粒子センサ100は、放電用電極20についても絶縁性のケーシング24の内面上に配置されている(図2、図5)。よって、放電用電極20がケーシング24の内面から離れて配置される場合に比べ、微粒子センサ100の構造をより単純化できる。また、放電用電極20を微粒子センサ100の構成部材として容易に設けることができる。
【0084】
また、微粒子センサ100はノズル開口42が形成されたノズル形成部材41を有する(図2、図3)。これにより、ノズル開口42を介して混合部71に空気を噴射させることが可能となり、混合部71を容易に負圧にできる。これにより、排ガスを容易に混合部71に取り入れることができる。また、ノズル形成部材41は放電用対極41としても機能する。これにより、別途に放電用対極41を設ける場合に比べ部品点数が低減でき、微粒子センサ100の構造をより一層単純化できる。
【0085】
また、微粒子センサ100は、導電ペーストをケーシング24の内面上に塗布して焼き付けることで第1の導電性部材10V、第2の導電性部材11V、放電用電極20を形成している。これにより、容易に各構成部材10V,11V,20をケーシング24の内面上に配置できる。
【0086】
B.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0087】
B−1.第1変形例:
上記実施例では、導電ペーストをケーシング24の内面上に塗布して焼き付けることで、第1の導電性部材10V,第2の導電性部材11V,放電用電極20は絶縁性のケーシング24の内面上に配置されていた。しかしながら各構成部材10V,11V,20のケーシング24の内面上への配置方法はこれに限定されるものではない。例えば、予め所定形状に形成した各構成部材10V,11V,20をケーシング24の内面上に配置しても良い。このようにしても上記実施例と同様に、微粒子センサ100の構造を単純化できる。また、少なくとも1つの各構成部材10V,11V,20を、導電ペースを用いてケーシング24の内面上に配置させても良い。さらに、メッキ等の手法を用いて各構成部材10V,11V,20を形成するようにしても良い。
【0088】
B−2.第2変形例:
上記実施例では、ケーシング24は第1と第2のケーシング27,29に分割されていたが、これに限定されるものではない。すなわち、ケーシング24は一体に形成されていても良い。このようにしても、上記実施例と同様に、各構成部材10V,11V,20がケーシング24の内面上に配置されることで、微粒子センサ100の構造を単純化できる。
【0089】
B−3.第3変形例:
上記実施例では、微粒子センサ100は混合部71よりも流路断面積の小さい狭小流路31cを有していたが、これに限定されるものではない。すなわち、混合部71と分離部31の流路断面積の関係は適宜設定可能である。このようにしても、上記実施例と同様に、各構成部材10V,11V,20がケーシング24の内面上に配置されることで、微粒子センサ100の構造を単純化できる。
【0090】
B−4.第4変形例:
上記実施例では、ノズル開口42に高圧空気を供給するために、ケーシング24の内部やケーブル120内部にエア供給部113(図1(B))からの空気を流通させる気体供給流路700(例えば、図3に示す空気供給管123や、図4に示す貫通孔308)を有していたが、これに限定されるものではない。すなわち、エア供給部113から、ケーブル120やケーシング24の外側に配置された配管を通じてコロナ放電部72に大気圧以上の高圧空気を供給しても良い。このようにしても、上記実施例と同様、ノズル開口42から混合部71に向けて気体が噴射されることで混合部71を負圧にできる。
【0091】
B−5.第5変形例:
上記実施例では、微粒子センサ100は内燃機関から排出される排ガス中の煤量を検出するために用いられていたが、各種ガス中の微粒子を検出するために用いることができ、微粒子センサ100を車両用途以外の民生用途に用いることもできる。
【0092】
B−6.第6変形例:
上記実施例では、コロナ放電により放電用電極20とノズル形成部材41との間で陽イオンを発生させ、分離用電極10にて陽イオン(主に浮遊陽イオン)との間で斥力を生じさせる構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、これらの部材10,20,41の正負の接続先を変更することで、コロナ放電により放電用電極20とノズル形成部材41との間で陰イオンを発生させ、分離用電極10にて陰イオンとの間で斥力を生じさせる構成を採って被検出ガス中に含まれる微粒子の量を検出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0093】
10…分離用電極
10V…第1の導電性部材
11…分離用対極
11V…第2の導電性部材
14…第2の保護部材
14V…絶縁性部材
20…放電用電極
22…第1の外筒
24…ケーシング
27…第1のケーシング
29…第2のケーシング
31…分離部
31a…第1の流路
31b…第2の流路
31c…狭小流路
35…流出孔
41…ノズル形成部材(放電用対極)
42…ノズル開口
45…流入孔
64…ガスケット
71…混合部
72…コロナ放電部
80…陽イオン
82…煤
100…微粒子センサ
100e…先端部
103…ジョイント部
104…工具係合部
110…センサ駆動部
111…センサ制御部
112…電気回路部
113…エア供給部
120…ケーブル
123…空気供給管
130…センサシステム
132…リード部
142…第1の保護部材
152…リード部
301,302,304…端子
308…貫通孔
320…固定部材
324…リード線
326…ジョイント部
360…第2の外筒
400…内燃機関
410…燃料供給部
411…燃料配管
415…排ガス配管
416…フィルタ装置
420…車両制御部
500…車両
700…気体供給流路
CL…軸線
EW…電気配線群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガス中に含まれる微粒子の量を検出するために、コロナ放電によって発生させたイオンを用いて前記微粒子を帯電させ、帯電に用いられたイオンである吸着イオンと帯電に用いられなかったイオンである浮遊イオンとを分離する微粒子センサにおいて、
軸線方向に延びる絶縁性のケーシングであって、前記被検出ガスを内部に流入させるための流入孔と、前記流入孔よりも一端側に配置されると共に前記被検出ガスを外部に流出させるための流出孔とを有するケーシングと、
前記ケーシング内に形成され、前記コロナ放電によって前記イオンを発生させるコロナ放電部と、
前記コロナ放電部よりも一端側の位置で前記ケーシング内に形成され、前記イオンと前記流入孔を介して前記ケーシング内に流入した前記微粒子とを混合させる混合部と、
前記ケーシング内に形成され、前記混合部よりも前記一端側の位置で前記吸着イオンと、前記浮遊イオンとを分離する分離部と、を備え、
前記分離部は、
前記ケーシングの内面上に配置された分離用電極であって、前記浮遊イオンとの間で斥力を生じさせる分離用電極と、
前記ケーシングの内面のうち前記分離用電極と対向する対向側内面上に配置された分離用対極であって、前記浮遊イオンとの間で引力を生じさせる分離用対極と、を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子センサにおいて、
前記ケーシングは、
前記軸線方向にそれぞれ延びる第1と第2のケーシングを有し、
前記第1のケーシングの内面上には、前記分離用電極が配置され、
前記第2のケーシングの内面上には、前記分離用対極が配置され、
前記ケーシングは、前記分離用電極と前記分離用対極とが互いに対向する状態で前記第1と第2のケーシングを互いに固着することで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微粒子センサにおいて、
前記分離部は、前記混合部よりも前記軸線方向と直交する断面の面積が小さい狭小流路であって、前記分離用電極と前記分離用対極とがそれぞれ内面に配置された狭小流路を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の微粒子センサにおいて、
前記コロナ放電部は、
前記ケーシングの内面のうち、前記分離用電極及び前記分離用対極と重ならない位置にある他端側内面上に配置された放電用電極と、
前記放電用電極の対極である放電用対極であって、前記放電用電極との間で前記コロナ放電を発生させる放電用対極と、を備えること特徴とする微粒子センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の微粒子センサにおいて、
前記流入孔は、前記ケーシングのうち前記混合部を規定する部分に形成され、
前記微粒子センサは、さらに、
前記軸線方向について前記放電用電極と前記混合部との間の位置で前記軸線方向に開口するノズル開口を形成する、導電性のノズル形成部材を有し、
前記ノズル形成部材は、前記放電用対極として機能する、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記ノズル開口よりも他端側の前記ケーシング内に形成された気体供給流路であって、前記ノズル開口の前記他端側から前記ノズル開口側に吹き付けられる外部からの気体を流通させる気体供給流路を有する、ことを特徴とする、微粒子センサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記分離用電極上に配置され、前記分離用電極を保護する絶縁性の保護部材を有する、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の微粒子センサにおいて、
前記分離用電極と前記分離用対極の少なくともいずれか一方は、前記ケーシングの内面上に導電ペーストを塗布して焼き付けることで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項9】
請求項4乃至請求項6、請求項4に従属する請求項7又は請求項8のいずれか一項に記載の微粒子センサにおいて、
前記放電用電極は、前記ケーシングの内面上に導電ペーストを塗布して焼き付けることで形成されている、ことを特徴とする微粒子センサ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の微粒子センサにおいて、さらに、
前記ケーシングのうちの前記被検出ガスに晒される部分の外周を取り囲むと共に、前記被検出ガスを流通させるための開口が形成された保護外筒を備える、ことを特徴とする微粒子センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251926(P2012−251926A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126192(P2011−126192)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】