説明

微細パターンを有する成型体の製造方法

【課題】表面に微細パターンを有する成型体の製造方法において、スピンコート法等により薄膜に形成された光重合性組成物を保持し、精度よく微細パターンを有する成型体を製造できる方法を提供する。
【解決手段】前記微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドと基板との間に、第1の紫外線の照射により半硬化してなる光重合性組成物の半硬化層を挟持する第1の工程と、前記モールドおよび前記基板により加圧した状態で、前記光重合性組成物の半硬化層に第2の紫外線の照射を行い、前記半硬化層を硬化層とする第2の工程と、前記光重合性組成物の硬化層から前記モールドを分離する第3の工程を有する、表面に微細パターンを有する成型体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細パターンを有する成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、光学部材、記録メディア、半導体装置等の製造において、マイクロメートルオーダーからナノメートルオーダーの微細パターンを短時間で形成する方法として、光ナノインプリントリソグラフィー法が知られている。この方法では、例えば、微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドを、基板等の表面に形成された光重合性組成物の層に押し付けた状態で、光重合性組成物に光を照射して硬化させ、表面に微細パターンを有する転写層を形成する。そして、この転写層をエッチングマスクとして基板をエッチングする等の方法で、基板表面に微細パターンを形成する(特許文献1参照)。
【0003】
このようなナノインプリントリソグラフィー法において、金属や化合物半導体、金属酸化物等の無機材料からなる基板に対してドライエッチングを行う場合、通常塩素系のエッチングガスが用いられるが、マスクを構成するレジストとして、光重合性組成物の硬化物のような有機系の材料を使用した場合には、エッチング選択比(基板のエッチング速度/レジストのエッチング速度)が低いため、アスペクト比の高い高精度のパターンを形成できなかった。そのため、ケイ素化合物をレジスト材料として使用することが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、レジストとしてケイ素化合物を用いる方法では、ケイ素化合物を室温でインプリント(型押し)する際の加圧力を大きくする必要があった。また、基板をエッチングする際には、ケイ素化合物の余剰の層(残膜)を予め除去する必要があるが、残膜の除去が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6696220号明細書
【特許文献2】WO2009/096420号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、無機材料からなる基板の表面に微細パターンを簡便な手法で形成し、高アスペクト比の微細パターンを有する成型体を製造できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[5]の構成を有する微細パターンを有する成型体の製造方法を提供する。
【0008】
[1]表面に微細パターンを有する成型体の製造方法であり、
塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層を表面に有する基板と、前記微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドとの間に、光重合性組成物の層を挟持する第1の工程と、
前記モールドおよび/または前記基板により加圧した状態で、前記光重合性組成物の層に紫外線を照射し、該光重合性組成物を硬化させる第2の工程と、
前記光重合性組成物の硬化物層から前記モールドを分離し、光重合性組成物の硬化物からなり表面に微細パターンを有する転写層を得る第3の工程と、
前記光重合性組成物の硬化物からなる転写層をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いて前記ケイ素化合物の層をエッチングし、前記微細パターンが転写された前記ケイ素化合物の層を形成する第4の工程と、
前記微細パターンが転写された前記ケイ素化合物層をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて前記基板をエッチングし、該基板に前記微細パターンを転写する第5の工程と、
マスクとして使用された前記ケイ素化合物層を除去する第6の工程
を備えることを特徴とする微細パターンを有する成型体の製造方法。
【0009】
[2]前記第1の工程は、
前記基板の表面に、前記ケイ素化合物の前駆体を含む前駆体組成物の層を形成する工程と、
前記前駆体組成物の層を硬化させて前記ケイ素化合物の層とする工程
を有する、[1]に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【0010】
[3]前記光重合性組成物は、フッ素原子を有しかつ炭素−炭素不飽和二重結合を1分子中に1個以上有するモノマー(A1)を含む、[1]または[2]に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【0011】
[4]前記光重合性組成物は、さらに含フッ素界面活性剤(B)を含む、[3]に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【0012】
[5]前記微細パターンはアスペクト比が2以上のパターンを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属や化合物半導体、金属酸化物等の無機材料からなる基板に微細パターンを転写・形成した成型体を得るにあたり、前記基板表面に塩素系のエッチングガスに対する耐性の高いケイ素化合物の層を形成し、このケイ素化合物層を、基板をエッチングするマスクとして使用することにより、選択比の高いエッチングが可能となり、高アスペクト比の微細パターンを有する成型体を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態における各工程を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態における各工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本明細書においては、以下のように定義する。
「微細パターン」とは、幅、長さおよび高さ(深さ)のうちで最小のものの寸法が1nm〜50μmである、1つ以上の凸部および/または凹部からなる形状をいう。
「光重合性組成物」とは、紫外線の照射によって重合反応を起こすラジカル重合性の化合物を含む組成物をいう。
「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基」または「メタクリロイル基」をいう。「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、「アクリロイルオキシ基」または「メタクリロイルオキシ基」をいう。なお、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、「(メタ)アクリロキシ基」と示すこともある。さらに、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」をいう。
なお、「……の上に」とは、「……の上に他の層を介さずに直接に」という意味を表し、「……の表面に」と同じ意味を示すものとする。
【0016】
<微細パターンを有する成型体の製造方法>
本発明の微細パターンを有する成型体を製造する方法は、以下に示す第1から第6の各工程を備える。
(第1の工程)
塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層(以下、ケイ素化合物層と示すことがある。)を表面に有する基板を用意し、この基板と、微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドとの間に、光重合性組成物の層を挟持する工程。
(第2の工程)
モールドおよび/または基板により加圧した状態で、光重合性組成物の層に紫外線を照射し、光重合性組成物を硬化させる工程。
(第3の工程)
第2の工程で得られた硬化層からモールドを分離し、光重合性組成物の硬化物からなる、表面に微細パターンを有する転写層を得る工程。
(第4の工程)
光重合性組成物の硬化物からなる転写層をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いて下層のケイ素化合物層をエッチングし、ケイ素化合物層に微細パターンを転写して形成する工程。
(第5の工程)
第4の工程で微細パターンが転写されたケイ素化合物層をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて基板をエッチングし、基板に微細パターンを転写して形成する工程。
(第6の工程)
ケイ素化合物層のマスクを除去し、表面に微細パターンを有する成型体を得る工程。
【0017】
本発明の製造方法は、前記第1の工程で挟持される光重合性組成物の層を基板側に形成する第1の製造方法と、前記光重合性組成物の層をモールド側に形成する第2の製造方法とを含む。
【0018】
<第1の製造方法>
第1の製造方法は、下記工程(a)〜工程(g)を有する。
(a)基板の表面に、塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層を形成する。そして、このケイ素化合物の層の上に光重合性組成物を塗布し、未硬化の光重合性組成物の層を形成する工程。
(b)未硬化の光重合性組成物層に、形成すべき微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドを押し当てる工程。
(c)モールドおよび/または基板を介して加圧した状態で、光重合性組成物層に紫外線を照射し、光重合性組成物を硬化させる工程。この工程は、前記第2の工程に相当する。
(d)光重合性組成物の硬化層からモールドを分離し、光重合性組成物の硬化物からなる表面に微細パターンを有する転写層を得る工程。この工程は、前記第3の工程に相当する。
(e)前記転写層をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いてケイ素化合物層をエッチングし、ケイ素化合物層に微細パターンを転写して形成する工程。この工程は、前記第4の工程に相当する。
(f)微細パターンが転写されたケイ素化合物層をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて基板をエッチングし、基板に微細パターンを転写して形成する工程。この工程は、前記第5の工程に相当する。
(g)ケイ素化合物層のマスクを除去し、表面に微細パターンを有する成型体を得る工程。この工程は、前記第6の工程に相当する。
【0019】
本発明の第1の製造方法を、第1の実施形態を示す図1に基づいてさらに説明する。
「工程(a)」
まず、図1(a)に示すように、平板状の基板1の表面に、塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層2を有する基板を用意する。ケイ素化合物の層2を形成するには、基板1の表面に、後述するケイ素化合物前駆体を含む前駆体組成物を塗布した後、前駆体組成物を硬化させる。次いで、こうして得られた基板1のケイ素化合物の層2の上に、光重合性組成物を塗布し、光重合性組成物の塗布層3を形成する。
【0020】
光重合性組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法等が挙げられる。塗布厚の均一性と塗布の簡便性の点から、スピンコート法が好ましい。光重合性組成物の塗布は、常圧下でも、3000Pa以上の減圧下でもよい。光重合性組成物が感光しない環境(イエロールーム等)が好ましい。また、空気中が好ましいが、窒素雰囲気、二酸化酸素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でもよい。
【0021】
光重合性組成物が溶剤を含有する場合は、上記方法で光重合性組成物を塗布した後、紫外線を照射したり、ホットプレート等の加熱装置により加熱したり、あるいは真空下に配置するなどの方法で、溶剤を除去してもよい。加熱温度は140℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、50℃以下がとりわけ好ましい。
【0022】
「工程(b)」
図1(b)に示すように、工程(a)で形成された光重合性組成物の塗布層3の上に、形成すべき微細パターンの反転パターンを表面に有するモールド4を押し当てる。このとき、真空環境のような減圧雰囲気であると、空気の介在がなくなるため、泡の巻き込みによる欠陥を低減することができ好ましい。ここで、真空環境とは、3000Pa以上の減圧雰囲気を指す。3000Pa以上の減圧雰囲気であれば、光重合性組成物が揮発して組成が大幅に変化することはない。
【0023】
「工程(c)」
図1(c)に示すように、モールド4および基板1の少なくとも一方を介して光重合性組成物の塗布層3を加圧しながら、基板1またはモールド4のいずれか紫外線を透過する側から紫外線を照射し、光重合性組成物を硬化させる。
【0024】
加圧は、モールド4側または基板1側、もしくは両方の側から行うことが好ましい。加圧する方法としては、機械的にプレスする方法、気体または液体を媒介としてプレスする方法等が挙げられる。プレスの圧力(ゲージ圧)は、0超〜10MPa以下が好ましく、0.1〜5MPaがより好ましい。加圧する際の温度は、0〜100℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
【0025】
本工程は、光重合性組成物を硬化させることを目的としているため、光重合性組成物が酸素を含む雰囲気に接しない状態で行うことが好ましい。酸素を含む雰囲気に接しない状態とは、真空中、窒素雰囲気等酸素を含まない雰囲気に接する状態、または光重合性組成物の上にモールドを載置した状態を意味する。
【0026】
紫外線を照射する光源としては、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧または高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等が挙げられる。硬化性を制御するうえでの簡便性の点から、高圧水銀灯が好ましい。紫外線における波長365nmの光の照度は、5mW/cm以上であり、50mW/cm以上が好ましい。波長365nmの照度が5mW/cm以上であれば、光重合性組成物が硬化するまでの時間が適度な長さであり、生産性がよい。紫外線における波長365nmの光の光量は、100mJ/cm〜20000mJ/cmが好ましく、400mJ/cm〜5000mJ/cmがより好ましい。光量が100mJ/cm以上の場合は、光重合性組成物が十分に硬化する。20000mJ/cmよりも光量が少ないと、熱により光重合性組成物が変形することがなく、またスループットが低下することがなく、生産性が良好である。
【0027】
「工程(d)」
工程(c)で形成された光重合性組成物の硬化層からモールド4を分離し、図1(d)に示すように、光重合性組成物の硬化物からなる表面に微細パターンを有する転写層5を得る。光重合性組成物の硬化層とモールド4とを分離する方法としては、真空吸着によって双方を固定して片方を離す方向に移動させる方法、機械的に双方を固定して片方を離す方向に移動させる方法等が挙げられる。
【0028】
「工程(e)」
図1(e)に示すように、工程(d)で得られた光重合性組成物の硬化物からなる転写層5をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いて基板1の表面のケイ素化合物層2をエッチングし、微細パターンが転写・形成されたケイ素化合物層6を得る。
【0029】
エッチング方法としては、フッ素系のエッチングガス(反応性ガス)のプラズマを利用するドライエッチングが好ましく、ドライエッチングの中でも異方性エッチングが可能な反応性イオンエッチングが好ましい。フッ素系のエッチングガスとしては、以下に示すフッ素化合物を含むものが好ましい。フッ素化合物としては、CF、C、C、CHF、CH、C、SF等が好ましく挙げられる。これらのフッ素化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、エッチングガスには、HBr、O、N、H、CO、CO、Ar、NH等を任意の割合で混合してもよく、O、COの混合量はフッ素化合物の混合量よりも少ないことが好ましい。フッ素化合物のガス流量を100sccmとしたときのO、COのガス流量は、いずれも30sccm以下が好ましい。O、COのガス流量が30sccm以下であれば、ケイ素化合物層とのエッチング選択比を十分に大きく取ることができる。ここで、ケイ素化合物層とのエッチング選択比は、(ケイ素化合物層のエッチング速度)/(レジストである光重合性組成物の硬化物のエッチング速度)をいう。
【0030】
「工程(f)」
図1(f)に示すように、工程(e)で得られた微細パターンが転写・形成されたケイ素化合物層6をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて基板1をエッチングし、基板1に微細パターンを転写・形成する。
エッチング方法としては、塩素系のエッチングガスを用いるドライエッチングが好ましく、ドライエッチングの中でも異方性エッチングが可能な反応性イオンエッチングが好ましい。塩素系のエッチングガスとしては、Cl、HCl、BCl、SiCl等の塩素および塩素化合物を含むものが好ましい。これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記塩素系のエッチングガスには、HBr、O、N、H、CO、CO、Ar、NH等を任意の割合で混合してもよい。
なお、この工程(f)では、前記工程(e)でマスクとして使用された光重合性組成物の硬化物からなる転写層5も、基板1のエッチングと同時にエッチングされ、完全に除去される。
【0031】
「工程(g)」
工程(f)でマスクとして使用されたケイ素化合物層6を除去し、図1(g)に示すように、表面に微細パターンを有する成型体7を得る。エッチングマスクであるケイ素化合物層6の除去方法としては、酸素アッシングを行う方法、薬液で溶解させる方法、粘着剤等で剥し取る方法等が挙げられる。薬液で溶解させる方法において、薬液としては、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液、フッ酸、希硫酸等の酸、アセトン等の有機溶剤等が好ましく挙げられる。
【0032】
<第2の製造方法>
本発明の第2の製造方法は、下記工程(h)〜工程(n)を有する。
(h)モールドの表面に、光重合性組成物を塗布し、未硬化の光重合性組成物の塗布層を形成する工程。
(i)基板の表面に塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層を形成する。そしてこの基板を、前記モールド表面に形成された光重合性組成物の塗布層に、ケイ素化合物層が接するように押し当てる工程。
(j)モールドおよび/または基板を介して加圧した状態で、光重合性組成物の塗布層に紫外線を照射し、光重合性組成物を硬化させる工程。
(k)光重合性組成物の硬化層からモールドを分離し、光重合性組成物の硬化物からなる表面に微細パターンを有する転写層を得る工程。
(l)前記転写層をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いてケイ素化合物層をエッチングし、ケイ素化合物層に微細パターンを転写して形成する工程。
(m)微細パターンが転写されたケイ素化合物層をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて基板をエッチングし、基板に微細パターンを転写して形成する工程。
(n)ケイ素化合物層のマスクを除去し、表面に微細パターンを有する成型体を得る工程。
【0033】
以下、本発明の第2の製造方法を、第2の実施形態を示す図2に基づいてさらに説明する。
【0034】
「工程(h)」
図2(h)に示すように、形成すべき微細パターンの反転パターンを有するモールド4の表面に、光重合性組成物を塗布し、光重合性組成物の塗布層3を形成する。光重合性組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法等が挙げられる。塗布厚の均一性と塗布の簡便性の点から、スピンコート法が好ましい。
【0035】
光重合性組成物をモールド4の表面に塗布する際の環境は、空気中が好ましく、窒素雰囲気や二酸化酸素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でもよい。また、光重合性組成物の塗布は、常圧下でも700Pa以上の減圧下でもよい。さらに、光重合性組成物が感光しない環境(イエロールーム等)が好ましい。
【0036】
光重合性組成物が溶剤を含有する場合は、上記方法で光重合性組成物を塗布した後、紫外線を照射したり、ホットプレート等の加熱装置により加熱したり、あるいは真空下に配置するなどの方法で、溶剤を除去してもよい。加熱温度は140℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、50℃以下がとりわけ好ましい。
【0037】
「工程(i)」
図2(i)に示すように、平板状の基板1の表面に、塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層2を有する基板を用意する。ケイ素化合物の層2を形成するには、前記工程(a)と同様に、基板1表面にケイ素化合物前駆体組成物を塗布した後、前駆体組成物を硬化させる。こうして形成されたケイ素化合物層2を、モールド4の表面に形成された光重合性組成物の塗布層3の上に押し当てる。このとき、真空環境のような減圧雰囲気であると、空気の介在がなくなるため、泡の巻き込みによる欠陥を低減でき好ましい。なお、真空環境とは、工程(a)と同様に、3000Pa以上の減圧雰囲気を指す。3000Pa以上の減圧雰囲気であれば、光重合性組成物が揮発して組成が大幅に変化することはない。
【0038】
また、光重合性組成物の塗布層3に押し当てる基板1のケイ素化合物層2の中央部に、溶剤を実質的に含まない状態にした光重合性組成物を少量滴下してから押し当てることで、泡の巻き込みを防止でき好ましい。
【0039】
「工程(j)〜工程(n)」
工程(j)は前記第1の製造方法における工程(c)と、工程(k)は工程(d)と、工程(l)は工程(e)と、工程(m)は工程(f)と、工程(n)は工程(g)とそれぞれ同様に実施できるので、説明を省略する。
【0040】
以上説明した本発明の製造方法では、例えば、金属や化合物半導体、金属酸化物等の無機材料からなる基板に微細パターンを転写・形成した成型体を得るにあたり、前記基板1の表面に塩素系のエッチングガスに対する耐性を有するケイ素化合物の層2を形成し、このケイ素化合物層2を、その上にインプリント法により形成された光重合性組成物の硬化物からなる転写層5をマスクとしてエッチングし、さらにこうしてエッチングされたケイ素化合物層6をマスクとして基板1をエッチングすることにより、選択比の高いエッチングが可能となり、高アスペクト比の微細パターンを有する成型体7を得ることができる。また、前記ケイ素化合物は、基板1と光重合性組成物との密着性を向上させるプライマーとしての働きも有するので、高い精度のパターン転写が可能であり、かつプライマー塗布工程の省略など、製造プロセスの短縮にもつながる。さらに、インプリントされた光重合性組成物の余剰の層(残膜)は、ケイ素化合物層2をエッチングする際に除去されるので、残膜の除去の工程を別に設ける必要がない。
【0041】
次に、本発明の前記実施形態を構成する各要素について、詳細に説明する。
【0042】
<基板>
基板としては、無機材料または有機材料からなる基板が用いられる。無機材料としては、シリコン、ガラス、石英ガラス、金属(アルミニウム、ニッケル、銅等)、金属酸化物(アルミナ(サファイア含む)等)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ニオブ酸リチウム、化合物半導体(窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等)が挙げられる。有機材料としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0043】
基板の表面には、後述するケイ素化合物の層が形成されるが、光重合性組成物との密着性向上の観点から、ケイ素化合物層の表面を処理してもよい。表面処理としては、プライマー塗布処理、オゾン処理、プラズマエッチング処理等が挙げられる。プライマーとしては、ポリメチルメタクリレート、シランカップリング剤、シラザン等が挙げられる。
【0044】
<モールド>
モールドとしては、光重合性組成物を重合・硬化させるための波長の光を40%以上透過する透光性材料、または前記波長の光の透過率が40%未満である非透光性材料からなるモールドを使用できる。透光性材料としては、石英、ガラス、ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂等が挙げられる。非透光性材料としては、シリコン、ニッケル、銅、ステンレス、チタン、SiC、マイカ等が挙げられる。
【0045】
モールドと前記基板のうちの少なくとも一方は、光重合性組成物を重合・硬化させるための波長の光を、40%以上透過する材料とする。
【0046】
また、モールドは、表面に反転パターンを有する。反転パターンは、成型体の表面に形成すべき微細パターンを反転させたパターンである。反転パターンは、微細な凸部および/または凹部を有する。凸部としては、モールドの表面に延在する長尺の凸条、表面に点在する突起等が挙げられる。凹部としては、モールドの表面に延在する長尺の溝、表面に点在する孔等が挙げられる。
【0047】
前記凸条または溝の長手方向に沿った中心線の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり直線等の形状が挙げられる。凸条または溝は、複数本が平行に存在して縞状をなしていてもよい。凸条または溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。また、前記突起または孔の形状としては、三角柱、四角柱、六角柱、円柱、三角錐、四角錐、六角錐、円錐、半球、多面体等が挙げられる。
【0048】
凸条または溝の幅は、平均で1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmがさらに好ましい。凸条の幅とは、長手方向に直交する方向の断面における底辺の長さを意味する。溝の幅とは、長手方向に直交する方向の断面における上辺の長さを意味する。
【0049】
突起または孔の幅は、平均で1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmがさらに好ましい。突起の幅とは、底面が細長い場合、長手方向に直交する方向の断面における底辺の長さを意味し、そうでない場合、突起の底面における最大長さを意味する。孔の幅とは、開口部が細長い場合、長手方向に直交する方向の断面における上辺の長さを意味し、そうでない場合、孔の開口部における最大長さを意味する。
【0050】
凸部の高さは、平均で1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmがさらに好ましい。凹部の深さは、平均で1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmがさらに好ましい。
【0051】
モールド表面の反転パターンが密集している領域において、隣接する凸部(または凹部)間の間隔は、平均で1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましい。隣接する凸部間の間隔とは、凸部の断面の底辺の終端から、隣接する凸部の断面の底辺の始端までの距離を意味する。隣接する凹部間の間隔とは、凹部の断面の上辺の終端から、隣接する凹部の断面の上辺の始端までの距離を意味する。
【0052】
凸部の最小寸法は、1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmが特に好ましい。最小寸法とは、凸部の幅、長さおよび高さのうちの最小の寸法を意味する。凹部の最小寸法は、1nm〜50mmが好ましく、1nm〜50μmがより好ましく、5nm〜5μmが特に好ましい。最小寸法とは、凹部の幅、長さおよび深さのうちの最小の寸法を意味する。
本発明の製造方法は、反転パターンのアスペクト比が2以上である場合にも適用し、アスペクト比が2以上の微細パターンを表面に有する成型体を得ることができる。なお、パターンのアスペクト比とは、凸部の高さまたは凹部の深さと凸部または凹部の幅との比(高さまたは深さ/幅)をいう。
【0053】
<ケイ素化合物層>
層を構成するケイ素化合物は、Si−O−Si結合により形成された3次元的構造を有する化合物(ポリマーおよびオリゴマーを含む。)であり、前記工程(f)または工程(m)で使用される塩素系のエッチングガスに対して十分な耐性(エッチング耐性)を有する。また、下層の基板と上層に配置される光重合性組成物の層の両方に対して、良好な密着性(接着性)を有する。
【0054】
塩素系エッチングガスに対するエッチング耐性の観点から、化合物中の炭素原子数とケイ素原子数との比(C原子数/Si原子数)が0〜5の範囲にあるケイ素化合物が好ましく使用される。ケイ素化合物中のC原子数/Si原子数は、0〜3の範囲がより好ましい。ケイ素化合物中のC原子数とSi原子数との比は、SEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法)により求めることができる。
【0055】
ケイ素化合物層の最適な膜厚は、エッチングするパターンのサイズによって異なるが、通常10nm〜5μmの厚さが好ましい。40nm〜3μmがより好ましく、200nm〜1μmが特に好ましい。ケイ素化合物層の厚さが10nm以上で5μm以下の場合には、エッチング耐性が良好でありエッチングマスクとして十分に機能する。このケイ素化合物層は、ケイ素化合物前駆体(ア)と溶剤(イ)とを含むケイ素化合物前駆体組成物(溶液)(α)を塗布し、硬化することにより形成される。
【0056】
[ケイ素化合物前駆体(ア)]
ケイ素化合物前駆体(ア)は、加水分解等の反応により硬化して前記ケイ素化合物を生成し得るものであり、アルコキシシラン、変性アルコキシシラン、含ケイ素ポリマー、シリカ粒子等を使用できる。
【0057】
アルコキシシランとは、ケイ素原子に直接結合するアルコキシ基を有する化合物である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、およびイソブトキシ基等、炭素数1〜4のものが反応性の点で好適である。アルコキシシランの多量体を用いても良い。
【0058】
アルコキシシランの具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルシリケート40(コルコート社製、テトラエトキシシランのオリゴマー(平均5量体))、エチルシリケート48(コルコート社製、テトラエトキシシランのオリゴマー(平均10量体))、メチルシリケート51(コルコート社製、テトラメトキシシランのオリゴマー(平均4量体))、メチルシリケート53(コルコート社製、テトラメトキシシランのオリゴマー(平均7量体))等が好ましく挙げられる。
【0059】
変性アルコキシシランは、一般式:R(4−n)−Si−Xで表されるアルコキシ基含有有機ケイ素化合物である。式中、Xはアルコキシ基、nは1〜3の整数、Rは水素またはSi原子に直接炭素原子が結合する有機官能基である。アルコキシ基としては、反応性の点で、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。Rとしては、ドライエッチング耐性の観点からは、メチル基またはフェニル基が好ましい。また、ケイ素化合物層と基板との密着性や、ケイ素化合物層と上層に塗布される光重合性組成物との密着性を向上させるためには、Rは、ビニル基、スチリル基、エポキシシクロヘキシル基、あるいはグリシドキシ基、(メタ)アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基を有するアルキル基であることが好ましい。このような変性アルコキシシランにおいては、分子中に異なる複数種類のRが結合されていてもよい。
【0060】
変性アルコキシシランの具体例としては、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、およびこれらの化合物のエトキシ基をメトキシ基に変えたものが挙げられる。これらの変性アルコキシシランの多量体を用いても良い。ドライエッチング耐性を向上させるために、これらの変性アルコキシシランは、前記アルコキシシランと混合して使用することが好ましい。
【0061】
含ケイ素ポリマーとしては、ポリシロキサン類、ポリシラン類、ポリシラザン類、ポリカルボシラン類、ポリアルミノシロキサン類が挙げられる。含ケイ素ポリマーは、ヒドロシリル基、シラノール基、メトキシシリル基、エトキシシリル基、ビニルシリル基、スチリルシリル基等の反応性基を有することが好ましい。また、含ケイ素ポリマーは、グリシドキシ基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、アミノ基、エポキシシクロヘキシル基、ウレイド基、メルカプト基等の官能基を有することが好ましい。含ケイ素ポリマーがこれらの官能基を有する場合には、ケイ素化合物層と基板との密着性や、ケイ素化合物層と上層に塗布される光重合性組成物との密着性を向上させることができる。
【0062】
含ケイ素ポリマーの具体例としては、アルコキシ変性ポリジメチルシロキサン、ポリビニルヒドロシルセスキオキサン、ポリスチリルヒドロシルセスキオキサン、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等のポリシロキサン類、ポリメチルフェニルシラン、ポリフェニルシラン等のポリシラン類、パーヒドロポリシラザン、メチルポリシラザン、N−メチルポリシラザン、フェニルポリシラザン等のポリシラザン類、パーヒドロポリカルボシラン、メチルポリカルボシラン等のポリカルボシラン類が挙げられる。
【0063】
シリカ粒子としては、球状、粒状、棒状、数珠状、繊維状、フレーク状、中空状、凝集体状、不定形状等、任意の形状のものを使用できる。シリカ粒子は、界面活性剤、高分子分散剤、シランカップリング剤等によって表面処理されていてもよい。シリカ粒子の平均粒子径は、1〜200nmであることが好ましく、2〜100nmであればさらに好ましく、3〜50nmであれば特に好ましい。シリカ粒子の粒子径は、シリカ粒子を溶媒に分散させた状態で動的光散乱法により測定できる。
【0064】
このようなケイ素化合物前駆体(ア)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ケイ素化合物前駆体(ア)には、後述する光重合性組成物と反応し得る官能基を有する化合物を含むことが好ましい。光重合性組成物と反応し得る官能基を有する化合物を含む場合には、光重合性組成物と基板との密着性を高めるプライマーとしての機能を有する。光重合性組成物と反応し得る官能基は、光重合性組成物の種類によって異なるが、ラジカル重合型の光重合性組成物の場合は、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基から選ばれる基が好ましい。
【0065】
ケイ素化合物前駆体(ア)が光重合性組成物と反応し得る官能基を有する場合、ケイ素化合物前駆体組成物(α)中に含まれる、光重合性組成物と反応し得る官能基の合計モル数/ケイ素化合物前駆体組成物(α)中に含まれるSi原子のモル数(以下、「官能基の合計モル数/Si原子のモル数」と示す。)は、0.01〜0.9であることが好ましく、特に0.1〜0.5であることが好ましい。官能基の合計モル数/Si原子のモル数が0.01〜0.9の範囲である場合には、光重合性組成物と基板との密着性を高めるプライマーとしての効果が大きくなり、またこのようなケイ素化合物前駆体組成物(α)を硬化して形成されるケイ素化合物層のエッチング耐性が高くなる。
【0066】
[溶剤(イ)]
溶剤(イ)は、ケイ素化合物前駆体(ア)の反応性と溶解性、およびケイ素化合物前駆体組成物(α)の安定性と塗布性を考慮して選択する。このような観点から溶剤(イ)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、イソアミルアルコール、n−アミルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル等のエステル類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等の含窒素極性溶剤類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が好適である。
【0067】
また、溶剤(イ)として、2−エトキシエタノール、2−アミノエタノール、エチレングリコール、グリセリン、アセチルアセトン、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を用いた場合には、ケイ素化合物前駆体(ア)の反応性が抑制されるので、ケイ素化合物前駆体組成物(α)の安定性が向上する。溶剤(イ)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0068】
[ケイ素化合物前駆体組成物(α)]
ケイ素化合物前駆体組成物(α)には、前記ケイ素化合物前駆体(ア)と溶剤(イ)の他に、必要に応じて、加水分解触媒、反応(硬化)促進剤、厚膜化剤、その他の添加剤等を加えてもよい。
【0069】
加水分解触媒は、アルコキシ基の加水分解を促進する化合物であり、塩酸、硝酸、硫酸、等の無機酸、酢酸、ギ酸等の有機酸、アンモニア、アミン等、水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。加水分解触媒としては、無機酸または有機酸が好ましく、塩酸または硝酸が特に好ましい。
【0070】
反応(硬化)促進剤は、ケイ素化合物前駆体(ア)の硬化やケイ素化合物への転化を促進する化合物である。反応(硬化)促進剤の添加により、低温の乾燥条件でもケイ素化合物層のエッチング耐性を向上させることができる。例えば、ビニルシリル基およびスチリルシリル基の付加反応の促進剤としては、有機過酸化物等のラジカル発生剤が好適である。ビニルシリル基またはスチリルシリル基とヒドロシリル基の付加反応の促進剤としては、白金系触媒が好適である。
【0071】
アルコキシシリル基およびシラノール基の縮合反応の促進剤としては、各種の塩、酸、アミン類、四級アンモニウム塩、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、有機錫化合物、金属の有機酸塩等を使用できる。具体的には、塩酸、酢酸、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムジブトキシモノアセチルアセトネート、ジオクタノキシチタンジオクタネート、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラキスアセチルアセトネート、チタンジブトキシビスアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、ジブチルスズジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドが挙げられる。
【0072】
厚膜化剤は、ケイ素化合物前駆体組成物(α)の粘度を高くし、ケイ素化合物層形成の際の亀裂発生を抑制する化合物である。厚膜化剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の高分子化合物が好適である。その他の添加剤としては、レベリング剤、消泡剤、分散剤、粘度調整剤等の市販されている材料を適宜使用できる。
【0073】
ケイ素化合物前駆体組成物(α)の特に好ましい形態としては、ケイ素化合物前駆体(ア)として、アルコキシシランと(メタ)アクリロキシ基を有する変性アルコキシシランとの両方が使用されるとともに、溶剤として水と水溶性アルコールの両方を含有し、さらに加水分解触媒として酸を含有する態様が挙げられる。
【0074】
ケイ素化合物前駆体組成物(α)に含まれるケイ素化合物前駆体(ア)の割合は、0.1〜60質量%が好ましく、0.5〜40質量%がより好ましく、1〜30質量%が特に好ましい。ケイ素化合物前駆体組成物(α)に含まれる溶剤(イ)の割合は、40〜99.9質量%が好ましく、60〜99.5質量%がより好ましく、70〜99質量%が特に好ましい。ケイ素化合物前駆体(ア)と溶剤(イ)以外の成分の割合は、ケイ素化合物前駆体組成物(α)に対して0〜10質量%が好ましい。0.05〜5質量%がより好ましく、0.1〜1質量%が特に好ましい。
【0075】
ケイ素化合物前駆体組成物(α)中の固形分濃度は、0.1〜60質量%であることが好ましい。固形分濃度は、ケイ素化合物前駆体組成物(α)を200℃で3時間乾燥させて揮発分を除去した時に残留する成分を、固形分として計算する。固形分濃度が0.1質量%以上の場合は塗布の効率が良く、60質量%以下では、塗布液の安定性が良好であり、かつ塗布液の粘度が適度であり、均一塗布性が良好である。固形分濃度は、0.5〜40質量%がより好ましく、1〜30質量%が特に好ましい。ケイ素化合物前駆体組成物(α)は、原料成分を混合した後、必要に応じて、反応、熟成、粉砕、分散、脱塩、濃縮、希釈、溶媒置換等により得られる。
【0076】
ケイ素化合物前駆体組成物(α)を基板表面に塗布する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法等が挙げられるが、該組成物の塗布厚の均一性と塗布の簡便性の観点から、スピンコート法が好ましい。ケイ素化合物前駆体組成物(α)の塗布は、常圧下でもよく3000Pa以上の減圧下でもよい。また、光重合性組成物と反応し得る官能基を有する化合物を含む場合には、感光しない環境(イエロールーム等)が好ましい。また、空気中が好ましいが、窒素雰囲気、二酸化酸素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でもよい。
【0077】
上記方法で塗膜を形成した後塗膜を硬化させる方法としては、ホットプレート、送風乾燥機、焼成炉、マイクロ波加熱装置、遠赤外線照射装置等の加熱装置により加熱する方法がある。加熱処理前に、真空乾燥機を用いて予備乾燥を行ってもよい。
加熱温度は50〜200℃が好ましく、80〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。加熱温度が50℃以上であれば、溶剤(イ)が揮発してケイ素化合物前駆体(ア)からケイ素化合物が得られる。加熱温度が200℃以下であれば、ケイ素化合物前駆体(ア)中の光重合性組成物と反応し得る官能基が分解しないため、光重合性組成物と基板との密着性を高めるプライマーとしての機能を発揮する。
【0078】
<光重合性組成物>
光重合性組成物は、以下に示す重合性のモノマー(A)を含むことが好ましい。さらに必要に応じて、含フッ素界面活性剤(B)、光重合開始剤(C)、およびその他の添加剤(D)を含むことが好ましい。なお、光重合性組成物の合計量100質量%とは、モノマー(A)、含フッ素界面活性剤(B)、光重合開始剤(C)および他の添加剤(D)で構成される組成物の合計量である100質量%を指すものとする。光重合性組成物の各成分について説明する。
【0079】
[モノマー(A)]
モノマー(A)は、紫外線の照射によってラジカル重合反応を起こすラジカル重合性の化合物であり、分子中に炭素−炭素不飽和二重結合を1つ以上有するモノマーである。離型性に優れることから、モノマー(A)は、フッ素原子を有し、かつ炭素−炭素不飽和二重結合を1つ以上有するモノマー(A1)を含むことが好ましい。
【0080】
{モノマー(A1)}
モノマー(A1)としては、フルオロ(メタ)アクリレート類、フルオロジエン類、フルオロビニルエーテル類、フルオロ環状モノマー類等が挙げられる。硬化性、相溶性に優れることから、フルオロジエン類またはフルオロ(メタ)アクリレート類が好ましく、フルオロ(メタ)アクリレート類が特に好ましい。なお、「フルオロ(メタ)アクリレート」なる表記は、「フルオロアクリレート」と「フルオロメタクリレート」の両方を含むものとする。
【0081】
フルオロジエン類としては、下記式(A1a)で表される化合物(以下、モノマー(A1a)と記す。)が好ましい。
CF=CR−Q−CR=CH …………(A1a)
ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のフルオロアルキル基であり、Qは、酸素原子、下記式(2)で表される基、または官能基を有していてもよい2価の有機基である。
−NR− …………(2)。
ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アルキルカルボニル基またはトシル基である。
【0082】
2価の有機基である前記Qとしては、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、オキシメチレン基、オキシジメチレン基、オキシトリメチレン基、およびジオキシメチレン基からなる群から選ばれる基を主鎖とし、該主鎖中の水素原子が、フッ素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のアルキル基、および炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基で置換された基が挙げられる。Qとしては、前記基中の炭素原子−水素原子結合を形成する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基が好ましい。具体的には、式:−CFC(CF)(OH)CH−で表される基(以下、式そのもので基を表す。)、−CFC(CF)(OH)−、−CFC(CF)(OCHOCH)CH−、−CHCH(CHC(CFOH)CH−、または−CHCH(CHC(CFOH)−が特に好ましい。ただし、基の向きは、左側がCF=CR−に結合することを意味する。
【0083】
フルオロ(メタ)アクリレート類としては、下記式(A1b)で表される化合物(以下、モノマー(A1b)と記す。)が好ましい。
CH=C(R11)−C(O)O−W−R …………(A1b)
【0084】
式中R11は、水素原子またはメチル基であり、Wは、単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基である。2価の連結基としては、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐状のアルケニレン基、オキシアルキレン基、2価の6員環芳香族基、2価の4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、2価の5〜6員環の複素環基、または下記式(3)で表される2価の連結基が挙げられる。2価の連結基は、2種以上を組み合わせたものであってもよく、環を縮合したものであってもよく、置換基を有するものであってもよい。
−Y−Z− …………(3)。
ただし、Yは、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、2価の6員環芳香族基、2価の4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、2価の5〜6員環の複素環基、またはこれらが縮合した環基である。Zは、−O−、−S−、−CO−、−C(O)O−、−C(O)S−、−N(R)−、−SO−、−PO(OR)−、−N(R)−C(O)O−、−N(R)−C(O)−、−N(R)−SO−、または−N(R)−PO(OR)−である。なお、Rは水素原子または炭素数が1〜3のアルキル基である。
【0085】
Wとしては、単結合、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、下記式(4)で表される基、またはこれらの基の組み合わせが好ましく、−(CH−(ただし、pは0〜6の整数であり、pが0の場合は単結合を表す。)が特に好ましい。
−Y−Z− …………(4)。
ただし、Yは、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、または2価の6員環芳香族基であり、Zは、−N(R)−、−SO−、または−N(R)−SO−である。なお、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0086】
は、主鎖の炭素数が1〜6である、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよいポリフルオロアルキル基である。WとRとの境界は、Rの炭素数が最も少なくなるように定めるものとする。
【0087】
ポリフルオロアルキル基とは、主鎖の炭素数(側鎖を含まない炭素数)が1〜6のアルキル基において、2つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された基を意味する。なお、主鎖とは、直鎖状の場合は該直鎖を意味し、分岐状の場合は最も長い炭素鎖を意味する。側鎖とは、分岐状のポリフルオロアルキル基を構成する炭素鎖のうち、主鎖以外の炭素鎖を意味する。側鎖はアルキル基、モノフルオロアルキル基またはポリフルオロアルキル基からなる。
【0088】
ポリフルオロアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)に対応する、部分フルオロ置換アルキル基、またはパーフルオロ置換アルキル基が挙げられる。
炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するポリフルオロアルキル基としては、ポリフルオロ(アルコキシアルキルアルキル)基やポリフルオロ(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)基が好ましく、ポリフルオロ(2−エトキシエチル)基、ポリフルオロ(2−メトキシプロピル)基、ポリフルオロ(ポリオキシエチレンメチルエーテル)基、ポリフルオロ(ポリオキシプロピレンメチルエーテル)基等が挙げられる。
【0089】
としては、直鎖状のものが好ましい。Rが分岐状のものである場合、分岐部分ができるだけRの末端に近い部分に存在することが好ましい。Rとしては、ポリフルオロアルキル基が好ましく、全水素原子が実質的にフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基がより好ましく、直鎖状のパーフルオロアルキル基がさらに好ましい。さらに、環境残留性や生体蓄積性が低くかつ離型性が高い点から、炭素数が4〜6の直鎖状のパーフルオロアルキル基が特に好ましく、炭素数が6の直鎖状のパーフルオロアルキル基が最も好ましい。
【0090】
モノマー(A1b)としては、下記式(5)で表される化合物が好ましい。
CH=C(R11)−C(O)O−(CH−R …………(5)
ただし、R11は、水素原子またはメチル基であり、pは0〜6の整数であり、Rは、炭素数が1〜6の直鎖状のパーフルオロアルキル基である。
【0091】
これらのモノマー(A1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
モノマー(A)は、さらに、分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有するモノマー(A2)(ただし、モノマー(A1)を除く。)および/または分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有するモノマー(A3)を含有してもよい。
【0092】
これらのモノマーを併用する場合、光重合性組成物の硬化度合(X)の評価において基準となる、ラジカル重合反応によって影響を受けない特定の官能基が複数種存在することがある。その場合は、いずれかの官能基を選択し、当該官能基を基準にして硬化度合(X)を評価すればよい。例えば、光重合性組成物が、モノマー(A1a)と、後述するモノマー(A2)およびモノマー(A3)を含む場合、ラジカル重合反応によって影響を受けない特定の官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基のカルボニル基(C=O)と、モノマー(A1a)中のメチレン基(−CH−)とが存在するため、カルボニル基(C=O)とメチレン基(−CH−)とのいずれかを基準として選択すればよい。
【0093】
{モノマー(A2)}
モノマー(A2)としては、モノヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシ化合物のモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。モノヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートが好ましく、モノヒドロキシ化合物のアクリレートが特に好ましい。モノヒドロキシ化合物としては、アルキル部分の炭素数が4〜20のアルカノール、単環、縮合多環または橋かけ環を有する脂環族モノオール、ポリ(またはモノ)アルキレングリコールモノアルキル(もしくはアリール)エーテル等が好ましく、炭素数が6〜20のアルカノールと橋かけ環とを有する脂環族モノオールが特に好ましい。
モノマー(A2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
{モノマー(A3)}
モノマー(A3)は、分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する化合物である。モノマー(A3)は、フッ素原子を有する化合物であってもよく、通常はフッ素原子を有しない化合物である。モノマー(A3)における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2〜10個が適当であり、2〜6個が好ましい。
【0095】
モノマー(A3)は、ポリヒドロキシ化合物のポリ(メタ)アクリレートであり、(メタ)アクリロイルオキシ基の数が2個以上である限りは、水酸基を有していてもよい。ポリヒドロキシ化合物としては、アルキレンオキシドが付加し得る官能基を2個以上有する化合物(アルカンポリオール、アルカンポリオールのアルキレンオキシド付加物、ポリアルキレングリコール、多価フェノール、ポリアミン等)のアルキレンオキシド付加物、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0096】
モノマー(A3)は、ポリヒドロキシ化合物のポリ(メタ)アクリレート構造を有する化合物である、ウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリヒドロキシ化合物にイソシアネートアルキル(メタ)アクリレートを反応させて得られる化合物、ポリヒドロキシ化合物にポリイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られる化合物のような、ウレタン結合を有する化合物である。ウレタン(メタ)アクリレートの原料であるポリヒドロキシ化合物としては、ポリエーテルポリオール(アルカンポリオールのアルキレンオキシド付加物、ポリアルキレングリコール、多価フェノールのアルキレンオキシド付加物等)が好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、無黄変タイプのポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0097】
モノマー(A3)としては、アルカンポリオール、アルカンポリオールのアルキレンオキシド付加物、ポリアルキレングリコールおよび多価フェノールのアルキレンオキシド付加物からなる群から選ばれるポリヒドロキシ化合物のポリ(メタ)アクリレート、ならびに、ポリエーテルポリオールを用いて得られるウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
モノマー(A3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
光重合性組成物におけるモノマー(A1)〜(A3)の含有量の合計は、光重合性組成物全体を100質量%として、70〜99.89質量%が好ましく、80〜99質量%が特に好ましい。
【0099】
モノマー(A1)〜(A3)の含有量の合計に対するモノマー(A1)の割合は、5〜100質量%が好ましく、15〜70質量%が特に好ましい。また、モノマー(A2)の含有割合は、モノマー(A1)〜(A3)の合計量を100質量%としたとき、0〜95質量%が好ましく、5〜50質量%が特に好ましい。さらに、モノマー(A3)の含有割合は、モノマー(A1)〜(A3)の合計量を100質量%としたとき、0〜95質量%が好ましく、35〜85質量%が特に好ましい。
【0100】
[含フッ素界面活性剤(B)]
光重合性組成物は、離型性の点から、さらに含フッ素界面活性剤(B)を含むことが好ましい。
【0101】
含フッ素界面活性剤(B)としては、フッ素含有量が10〜70質量%のものが好ましく、10〜40質量%のものがより好ましい。含フッ素界面活性剤は、水溶性であっても脂溶性であってもよい。
【0102】
含フッ素界面活性剤(B)としては、アニオン性含フッ素界面活性剤、カチオン性含フッ素界面活性剤、両性含フッ素界面活性剤、またはノニオン性含フッ素界面活性剤が好ましく、光重合性組成物における相溶性および硬化樹脂における分散性の点から、ノニオン性含フッ素界面活性剤がより好ましい。
【0103】
アニオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルカルボン酸塩、ポリフルオロアルキル燐酸エステル、またはポリフルオロアルキルスルホン酸塩が好ましい。アニオン性含フッ素界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−111(商品名、AGCセイミケミカル社製)、フロラードFC−143(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−120(商品名、DIC社製)等が好ましく挙げられる。
【0104】
カチオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルカルボン酸のトリメチルアンモニウム塩、またはポリフルオロアルキルスルホン酸アミドのトリメチルアンモニウム塩が好ましい。カチオン性含フッ素界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−121(商品名、AGCセイミケミカル社製)、フロラードFC−134(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−150(商品名、DIC社製)等が好ましく挙げられる。
【0105】
両性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルベタインが好ましい。両性含フッ素界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−132(商品名、AGCセイミケミカル社製)、フロラードFX−172(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−120(商品名、DIC社製)等が好ましく挙げられる。
【0106】
ノニオン性含フッ素界面活性剤としては、ポリフルオロアルキルアミンオキサイド、またはポリフルオロアルキル・アルキレンオキサイド付加物が好ましい。ノニオン性含フッ素界面活性剤の具体例としては、サーフロンS−145(商品名、AGCセイミケミカル社製)、サーフロンS−393(商品名、AGCセイミケミカル社製)、サーフロンKH−20(商品名、AGCセイミケミカル社製)、サーフロンKH−40(商品名、AGCセイミケミカル社製)、フロラードFC−170(商品名、スリーエム社製)、フロラードFC−430(商品名、スリーエム社製)、メガファークF−141(商品名、DIC社製)等が好ましく挙げられる。
【0107】
含フッ素界面活性剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。含フッ素界面活性剤(B)の含有量は、光重合性組成物全体(100質量%)に対して0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0108】
[光重合開始剤(C)]
本発明における光重合性組成物は、光硬化性の点から、さらに光重合開始剤(C)を含むことが好ましい。
光重合開始剤(C)としては、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、α−アミノケトン系光重合開始剤、α−ヒドロキシケトン系光重合開始剤、α−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、アシルホスフィンオキシド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシピバレート等が挙げられ、感度および相溶性の点から、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、α−アミノケトン系光重合開始剤またはベンゾフェノン系光重合開始剤が好ましい。
【0109】
光重合開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。光重合開始剤(C)の含有量は、光重合性組成物全体(100質量%)に対して0.1〜12質量%が好ましく、0.5〜6質量%がより好ましい。
【0110】
[その他の添加剤(D)]
光重合性組成物は、モノマー(A)、含フッ素界面活性剤(B)および光重合開始剤(C)の他に、光増感剤、重合禁止剤、樹脂、耐熱安定剤、耐光安定剤、難燃剤、永久帯電防止剤、酸化防止剤、表面改質剤、金属酸化物微粒子、炭素化合物、金属微粒子、他の有機化合物のような添加剤(D)を含んでいてもよい。
【0111】
光増感剤としては、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s−ベンジスイソチウロニウム−p−トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレンテトラミン、4,4’−ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0112】
重合禁止剤としては、ナフタレン誘導体(4−メトキシ−1−ナフトール等)、ヒドロキノン誘導体(ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル等)、ニトロソアミン誘導体等が挙げられる。
【0113】
樹脂としては、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリエステルオリゴマー、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
金属酸化物微粒子としては、チタニア、シリカ、ジルコニア等が挙げられる。
炭素化合物としては、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。
金属微粒子としては、銅、白金等の微粒子が挙げられる。
他の有機化合物としては、ポルフィリン、金属内包ポリフィリン、イオン性液体(1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド等)、色素等が挙げられる。
【0114】
これらの添加剤(D)の含有量は、合計で光重合性組成物全体(100質量%)に対して20質量%以下が好ましい。他の添加剤(D)が20質量%以下であれば、光重合性組成物を均一に混合でき、均質な光重合性組成物が得られる。
【0115】
[溶剤(E)]
本発明における光重合性組成物は、塗布膜の膜厚制御のために溶剤(E)を含んでいてもよい。溶剤(E)は、前記モノマー(A)、含フッ素界面活性剤(B)、光重合開始剤(C)およびその他の添加剤(D)のうちの少なくとも一つを溶解させる化合物であり、常圧における沸点が180℃以下の化合物であることが好ましく、常圧における沸点が140℃以下の化合物であることがより好ましい。180℃以下の沸点の化合物では、該化合物を除去するのに適度な高温で加熱すればよく、モノマー(A)、含フッ素界面活性剤(B)、光重合開始剤(C)およびその他の添加剤(D)が変質したり、揮散したりしない。
【0116】
溶剤(E)は、モノマー(A)、含フッ素界面活性剤(B)、光重合開始剤(C)およびその他の添加剤(D)の合計量に対して、質量で30倍以下の量が好ましく、20倍以下の量がさらに好ましい。30倍以下の量の溶剤を用いた場合は、溶液濃度が薄くなり過ぎることがなく、溶剤を揮発させる際に凝集しにくく、均一な塗膜が得られる。
【0117】
溶剤(E)としては、具体的に、酢酸イソブチル、酢酸nブチル、酢酸イソペンチル、PGMEA、ブタノール、tert−ブタノール、酪酸エチル、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリジノン等が好ましく挙げられる。
【0118】
<用途>
本発明の製造方法によって製造された微細パターンを表面に有する成型体は、例えば下記の物品として使用できる。
光学素子:非球面マイクロレンズアレイ、球面マイクロレンズアレイ、光導波路素子、光スイッチング素子(グリッド偏光素子、波長板等)、フレネルゾーンプレート素子、バイナリー素子、ブレーズ素子、フォトニック結晶等。
反射防止部材:AR(Anti Reflection)コート部材等。
チップ類:バイオチップ、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)用のチップ、マイクロリアクターチップ等。
その他:記録メディア、ディスプレイ材料、触媒の担持体、フィルター、センサー部材、半導体デバイス(MEMSを含む。)、電解用のレプリカ、上記物品を量産するためのレプリカモールド等。
【実施例】
【0119】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。例1〜13は光重合性組成物の調製例である。例14〜25、例27、例29、例32および例34は本発明の第1の製造方法の実施例であり、例28は本発明の第2の製造方法の実施例である。例26、例30〜31および例33は比較例である。
各物性の測定方法は、以下の通りである。
【0120】
(照度および光量)
紫外線積算光量計(ウシオ電機社製、UIT−250)を用い、波長365nmの光の照度および光量を測定した。
【0121】
(離型性)
離型時のパターン部分を9分割し、1分割ごとに転写されずにモールドに密着した割合を5段階評価(0(密着せず)〜4(完全密着))し、その割合によって離型性が良好かどうか判断した。つまり、各分割の評価が、それぞれ0、0、1、0、3、0、2、0、1の場合は、{(0+0+1+0+3+0+2+0+1)/36}×100=19%と算出される。離型性の値が10%以下の場合は離型性良好と判断される。
【0122】
(パターン転写性)
成型体におけるパターンの形状を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK−9500)もしくはAFM(SIIナノテクノロジー社製、L−trace)により観察し、パターンの深さを測定した。
【0123】
各モノマー成分、界面活性剤、光重合開始剤、ケイ素化合物前駆体、部材等として、下記のものを用意した。
【0124】
<モノマー(A1)>
以下の式で表されるモノマー(A1−1)および(A1−2)を用意した。また、モノマー(A1−3)を合成した。
モノマー(A1−1):CH=CH−C(O)O−(CH−(CF
モノマー(A1−2):CH=C(CH)−C(O)O−(CH−(CF
モノマー(A1−3):CF=CFCFC(CF)(OH)CHCH=CH
【0125】
(モノマー(A1−3)の合成)
2Lのガラス製反応器にCFClCFClCFC(O)CFの108gと脱水テトラヒドロフランの500mLを入れ、0℃に冷却した。これに、窒素雰囲気下で、2モル/LのCH=CHCHMgClのテトラヒドロフラン溶液200mLをさらに200mLの脱水テトラヒドロフランで希釈したものを、約5.5時間かけて滴下した。滴下終了後、0℃で30分間撹拌し、室温で17時間撹拌した後、2モル/Lの塩酸200mLを滴下した。さらに、水200mLおよびジエチルエーテル300mLを加え、分液し、ジエチルエーテル層を有機層として得た。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、粗液を得た。粗液をエバポレーターで濃縮し、次いで減圧蒸留(60〜66℃/0.7kPa)して、85gのCFClCFClCFC(CF)(OH)CHCH=CHを得た。
【0126】
次に、500mLのガラス製反応器に亜鉛81gおよびジオキサン170mLを入れ、ヨウ素で亜鉛の活性化を行った。その後、100℃に加熱し、前記CFClCFClCFC(CF)(OH)CHCH=CHの84gをジオキサン50mLで希釈したものを1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で40時間撹拌した。反応液をろ過し、少量のジオキサンで洗浄した。その後、ろ液を減圧蒸留(36〜37℃/1kPa)し、30gのモノマー(A1−3)を得た。
【0127】
モノマー(A1−3)の1H−NMRおよび19F−NMRのデータを、以下に示す。
1H−NMR(399.8MHz、溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):2.74(d,J=7.3,2H),3.54(boad s,1H),5.34(m,2H),5.86(m,1H)。
19F−NMR(376.2MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3)δ(ppm):−75.7(m,3F),−92.2(m,1F),−106.57(m,1F),−112.6(m,2F),−183.5(m,1F)。
【0128】
<モノマー(A2)>
モノマー(A2−1):下式(A2−1)で表される化合物(出光興産社製)。
【化1】

モノマー(A2−2):東京化成工業社製、シクロヘキシルアクリレート。
【0129】
<モノマー(A3)>
モノマー(A3−1):式:CH=CHC(O)O(CHCHO)C(O)CH=CHで表される化合物。
モノマー(A3−2):下式(A3−2)で表される化合物(ただし、nは1〜2の整数である)。
【化2】

モノマー(A3−3):式:[CH=CHC(O)O(CHCHO)CHCCHCH(ただし、nは2〜3の数値である)で表される化合物。
モノマー(A3−4):式:[CH=C(CH)C(O)OCHC(CHで表される化合物。
【0130】
<含フッ素界面活性剤(B)>
含フッ素界面活性剤(B−1):ノニオン系含フッ素界面活性剤、セイミケミカル社製、サーフロンS−393。
【0131】
<光重合開始剤(C)>
光重合開始剤(C−1):チバ・ガイギー・スペシャリティー社製、イルガキュア651。
光重合開始剤(C−2):チバ・ガイギー・スペシャリティー社製、イルガキュア369。
【0132】
<ケイ素化合物前駆体組成物(α)>
(ケイ素化合物前駆体組成物(α−1)の合成)
バイヤル容器(内容積:13mL)に、2−プロパノール0.8g、テトラエトキシシラン2.8g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−503)0.8gを入れ、これに0.1Nの硝酸水溶液2.4gを加えてよく混合した後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルターによりろ過することによって、ケイ素化合物前駆体組成物(α−1)を得た。
ケイ素化合物前駆体組成物(α−1)中に含まれる光重合性組成物と反応し得る官能基(メタクリロキシ基)のモル数/Si原子のモル数は、0.19であった。また、このケイ素化合物前駆体組成物(α−1)から形成されるケイ素化合物中の炭素原子数とケイ素原子数との比(C原子数/Si原子数)は、1.35であった。
【0133】
(ケイ素化合物前駆体組成物(α−2)の合成)
バイヤル容器(内容積:13mL)に、2−プロパノール0.8g、テトラエトキシシラン2.8g、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−5103)0.8gを入れ、これに0.1Nの硝酸水溶液2.4gを加えてよく混合した後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルターによりろ過することによって、ケイ素化合物前駆体組成物(α−2)を得た。
ケイ素化合物前駆体組成物(α−2)中に含まれる光重合性組成物と反応し得る官能基(アクリロキシ基)のモル数/Si原子のモル数は、0.20であった。また、このケイ素化合物前駆体組成物(α−1)から形成されるケイ素化合物中のC原子数/Si原子数は、1.22であった。
【0134】
(ケイ素化合物前駆体組成物(α−3)の合成)
バイヤル容器(内容積:13mL)に、2−プロパノール7.6g、テトラエトキシシラン0.046g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−503)0.034gを入れ、これに0.1Nの硝酸水溶液0.4gを加えてよく混合した後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルターによりろ過することによって、ケイ素化合物前駆体組成物(α−3)を得た。
ケイ素化合物前駆体組成物(α−3)中に含まれる光重合性組成物と反応し得る官能基(メタクリロキシ基)のモル数/Si原子のモル数は、0.38であった。また、このケイ素化合物前駆体組成物(α−3)から形成されるケイ素化合物中のC原子数/Si原子数は、2.68であった。
【0135】
(ケイ素化合物前駆体組成物(α−4)の合成)
バイヤル容器(内容積:13mL)に、2−プロパノール5.7g、テトラエトキシシラン0.27g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−503)0.038gを入れ、これに0.1Nの硝酸水溶液0.3gを加えてよく混合した後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルターによりろ過することによって、ケイ素化合物前駆体組成物(α−4)を得た。
ケイ素化合物前駆体組成物(α−4)中に含まれる光重合性組成物と反応し得る官能基(メタクリロキシ基)のモル数/Si原子のモル数は、0.11であった。また、このケイ素化合物前駆体組成物(α−4)から形成されるケイ素化合物中のC原子数/Si原子数は、0.74であった。
【0136】
(ケイ素化合物前駆体組成物(α−5)の合成)
バイヤル容器(内容積:13mL)に、2−プロパノール0.8g、テトラエトキシシラン2.8g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−403)0.8gを入れ、これに0.1Nの硝酸水溶液2.4gを加えてよく混合した後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルターによりろ過することによって、ケイ素化合物前駆体組成物(α−5)を得た。
ケイ素化合物前駆体組成物(α−5)中に含まれる光重合性組成物と反応し得る官能基は0であり、官能基のモル数/Si原子のモル数は0であった。また、このケイ素化合物前駆体組成物(α−5)から形成されるケイ素化合物中のC原子数/Si原子数は、1.21であった。
【0137】
(モールド)
モールドA:NTTアドバンステクノロジ社製NIM−100D RESO(石英製)(主面の10mm角内に高さ100nm、直径100〜3000nmのドット形状のパターンが存在。)
モールドB:NTTアドバンステクノロジ社製NIM−80L RESO(石英製)
(主面の10mm角内に深さ200nm、幅80〜3000nmのライン形状のパターンが存在。)
【0138】
(基板)
基板(I):直径2インチで厚さ0.8mmのサファイアウェハ。
基板(II):片側表面に膜厚3μmの窒化ガリウム層を有する、直径2インチで厚さ0.8mmのサファイアウェハ。
【0139】
<光源>
光源:ジャテック社製、TOSCURE251。
<エッチング装置>
エッチング装置(E1):サムコ社製RIE−10NR(エッチングガスとしてフッ素化合物含むガスを使用。)
エッチング装置(E2):サムコ社製RIE−200NL(エッチングガスとして塩素化合物含むガスを使用。)
【0140】
<光重合性組成物の調製>
〔例1〕
バイヤル容器(内容積13mL)に、モノマー(A1−1)0.84g、含フッ素界面活性剤(B−1)0.14g、モノマー(A2−1)1.38g、モノマー(A3−2)0.76g、モノマー(A3−3)0.72gをそれぞれ加え、次いで光重合開始剤(C−1)0.16gを加えて混合し、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製のフィルター(以下、単にフィルターと示す。)によりろ過して、光重合性組成物(1)を得た。
【0141】
〔例2〜13〕
表1に示すモノマー、含フッ素界面活性剤および光重合開始剤を、同表に示す割合で例1と同様にして混合した後、フィルターによりろ過して、光重合性組成物(2)〜(13)をそれぞれ得た。
【0142】
【表1】

【0143】
<微細パターンを有する成型体の製造例>
〔例14〕
工程(a):
基板(I)(サファイアウェハ)上にケイ素化合物前駆体組成物(α−1)をスピンコート法により塗布した後、140℃に加温した乾燥機の中に10分間入れて加熱した。こうして、基板(I)の表面にケイ素化合物層を形成した。ケイ素化合物層の厚さは1μmであった。
また、バイヤル容器に光重合性組成物(1)の0.5gを入れ、溶剤として酢酸イソブチル5.5gを加えてよく撹拌した。この光重合性組成物(1)の溶液1mLを、プライマー処理された前記基板(I)のケイ素化合物層上に、25℃でスピンコート法により塗布し、塗布層を形成した。
【0144】
工程(b):
減圧雰囲気下で、明昌機工社製のナノインプリント装置により、前記基板(I)の光重合性組成物(1)の塗布層の上にモールドAを押し当て、25℃で貼り合せた。
【0145】
工程(c):
25℃で100Nのプレス圧力で加圧しながら、前記ナノインプリント装置付属の光源(1)から波長365nmの光を照射した。照度が25mW/cm、光量が750mJ/cmとなるように、モールドA側から光を照射して、光重合性組成物(1)を硬化させ、光重合性組成物(1)の硬化物からなる転写層(T1)を得た。
【0146】
工程(d):
モールドAから前記転写層(T1)を分離した。転写層(T1)の離型性は0%であり、離型性が良好であった。
【0147】
工程(e):
前記転写層(T1)をエッチングマスクとし、エッチング装置(E1)を用いてケイ素化合物層のエッチングを行った。エッチングガスとしては、CF(80sccm)とO(2sccm)を使用し、コイル側の電圧が60W、台座側の電圧が5W、圧力2.0Paの条件で10分間ケイ素化合物層をエッチングした。こうして、微細パターンを有するケイ素化合物層を形成した。
【0148】
工程(f):
前記ケイ素化合物層、およびその上に残留する光重合性組成物(1)の硬化物からなる転写層(T1)をエッチングマスクとし、エッチング装置(E2)を用いて、基板(I)(サファイアウェハ)のエッチングを行った。エッチングガスとしては、Cl(68sccm)とO(1sccm)を使用し、コイル側の電圧が600W、台座側の電圧が5W、圧力2.7Paの条件で10分間基板(I)をエッチングした。
【0149】
工程(g):
基板(I)の上に残っているケイ素化合物層を、1質量%のフッ酸水溶液中に25℃で1分間浸漬させて溶解させた後、超純水で洗浄した。こうして微細パターンが転写された成型体(S1)を得た。
【0150】
例14におけるモールド分離の際の離型性、および得られた成型体(S1)のパターン深さの測定結果を、表2に示す。
【0151】
〔例15〜26〕
光重合性組成物(1)の代わりに光重合性組成物(2)〜(13)を使用した以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T2)〜(T13)を形成し、次いで例14と同様にエッチングを行って、成型体(S2)〜(S13)を得た。なお、例26において、光重合性組成物(13)の硬化物からなる転写層(T13)からのモールドAを分離することができなかったため、次工程以降行うことができなかった。モールド分離の際の離型性、および得られた成型体(S2)〜(S12)のパターン深さの測定結果を、表2に示す。
【0152】
〔例27〕
モールドAの代わりにモールドBを使用した以外は例14と同様にして、光重合性組成物(1)の硬化物からなる転写層(T14)を形成し、次いで例14と同様にエッチングを行って成型体(S14)を得た。モールド分離の際の離型性、および得られた成型体(S14のパターン深さの測定結果を、表2に示す。
【0153】
〔例28〕
工程(h):
バイヤル容器に光重合性組成物(1)の0.5gを入れ、溶剤として酢酸イソブチル5.5gを加えてよく撹拌した。この光重合性組成物(1)の溶液1mlを、モールドA上に25℃でバーコート法により塗布した。
【0154】
工程(i):
基板(I)(サファイアウェハ)上にケイ素化合物前駆体組成物(α−1)をスピンコート法により塗布した後、140℃に加温した乾燥機の中に10分間入れて加熱した。こうして、基板(I)の表面にケイ素化合物層を形成した。ケイ素化合物層の厚さは1μmであった。
次いで、減圧雰囲気下で、明昌機工社製のナノインプリント装置により、前記モールドAの光重合性組成物(1)の塗布層の上に前記基板(I)表面のケイ素化合物層を押し当て、25℃で貼り合せた。
【0155】
次に、例14に示した工程(c)および工程(d)を同様に行った。転写層(T15)の離型性は0%であり、離型性が良好であった。その後、例14に示した工程(e)〜工程(g)を同様に行い、微細パターンが転写された成型体(S15)を得た。こうして得られた成型体(S15)のパターン深さの測定結果を、モールド分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0156】
〔例29〕
ケイ素化合物層前駆体(α−1)の代わりにケイ素化合物層前駆体(α−2)を使用し、膜厚1μmのケイ素化合物層を形成した。それ以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T16)を形成し、次いで例14と同様にエッチングを行って成型体(S16)を得た。こうして得られた成型体(S16)のパターン深さの測定結果を、モールド分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0157】
〔例30〕
ケイ素化合物層前駆体(α−1)の代わりにケイ素化合物層前駆体(α−3)を使用して、膜厚15nmのケイ素化合物層を形成した以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T17)を形成した。次いで、工程(e)におけるエッチング時間を1分間にした以外は例14と同様にしてエッチングを行い、成型体(S17)を得た。こうして得られた成型体(S17)のパターン深さの測定結果を、モールド分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0158】
〔例31〕
ケイ素化合物層前駆体(α−1)の代わりにケイ素化合物層前駆体(α−4)を使用して、膜厚50nmのケイ素化合物層を形成した以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T18)を形成した。次いで、工程(e)におけるエッチング時間を5分間にした以外は例14と同様にしてエッチングを行い、成型体(S18)を得た。こうして得られた成型体(S18)のパターン深さの測定結果を、モールド分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0159】
〔例32〕
基板(I)(サファイアウェハ)の代わりに基板(II)(窒化ガリウム層を有するサファイアウェハ)を使用した。それ以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T19)を形成し、次いで例14と同様にエッチングを行って成型体(S19)を得た。こうして得られた成型体(S19)のパターン深さの測定結果を、モールド分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0160】
〔例33〕
ケイ素化合物層前駆体(α−1)の代わりにケイ素化合物層前駆体(α−5)を使用した以外は例14と同様にしたが、モールドAをほとんど分離できなかったため、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T20)を得ることができなかった。したがって、次工程以降も行うことができなかった。
【0161】
〔例34〕
まず、以下に示すようにして、レプリカモールドCを作製した。すなわち、例1で得られた光重合性組成物(1)0.5mlをモールドA上に滴下し、その上から東レ社製ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーU34)を載せた。これを明昌機工社製のナノインプリント装置により100Nで加圧しながら、前記ナノインプリント装置付属の光源からの波長365nmの光を照射した。照度が20mW/cm、光量が600mJ/cmとなるように、ポリエチレンテレフタレートフィルム側から照射し、光重合性組成物(1)を硬化させた。こうして光重合性組成物(1)の硬化物からなるレプリカモールドCを得た。
【0162】
次いで、モールドAの代わりにレプリカモールドCを使用した以外は例14と同様にして、光重合性組成物の硬化物からなる転写層(T21)を形成し、次いで例14と同様にエッチングを行って成型体(S21)を得た。こうして得られた成型体(S21)のパターン深さの測定結果を、モールド(レプリカモールドC)分離の際の離型性とともに表2に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
表2からわかるように、本発明の実施例である例14〜25、例27〜例29、例32および例34によれば、表面にアスペクト比の高い微細パターンが形成された成型体を得ることができる。これに対して、例26においては、光重合性組成物の硬化層の離型性が悪く、硬化層へのパターンの転写が不可能である。また例33においては、ケイ素化合物層中に光重合性組成物と反応しやすい官能基を有していないため、光重合性組成物の硬化層が表面にケイ素化合物層が存在する基板側には接着せずに、モールド側に付着してしまい、硬化層へのパターンの転写が不可能となっている。さらに、例30および例31においては、ケイ素化合物層の厚さが薄く、エッチングマスクとしての機能が不十分であるので、基板に十分な深さのパターンを形成することができない。すなわち、高アスペクト比の微細パターンを有する成型体は得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の製造方法は、光学素子、反射防止部材、バイオチップ、マイクロリアクターチップ、記録メディア、触媒担持体、半導体デバイス等の、微細パターンを表面に有する成型体の作製において、高アスペクト比のパターンを形成する場合に有用であり、特に量産でのナノインプリントリソグラフィー法を用いる際に有用である。
【符号の説明】
【0166】
1…基板、2…ケイ素化合物の層、3…光重合性組成物の塗布層、4…モールド、5…光重合性組成物の硬化物からなる転写層、6…微細パターンが転写されたケイ素化合物層、7…表面に微細パターンを有する成型体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細パターンを有する成型体の製造方法であり、
塩素系のエッチングガスに対して耐性を有するケイ素化合物の層を表面に有する基板と、前記微細パターンの反転パターンを表面に有するモールドとの間に、光重合性組成物の層を挟持する第1の工程と、
前記モールドおよび/または前記基板により加圧した状態で、前記光重合性組成物の層に紫外線を照射して、該光重合性組成物を硬化させる第2の工程と、
前記光重合性組成物の硬化物層から前記モールドを分離し、光重合性組成物の硬化物からなり表面に微細パターンを有する転写層を得る第3の工程と、
前記光重合性組成物の硬化物からなる転写層をマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いて前記ケイ素化合物の層をエッチングし、前記微細パターンが転写された前記ケイ素化合物層を形成する第4の工程と、
前記微細パターンが転写された前記ケイ素化合物層をマスクとして、塩素系のエッチングガスを用いて前記基板をエッチングし、該基板に前記微細パターンを形成する第5の工程と、
マスクとして使用された前記ケイ素化合物層を除去する第6の工程
を備えることを特徴とする微細パターンを有する成型体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程は、
前記基板の表面に、前記ケイ素化合物の前駆体を含む前駆体組成物の層を形成する工程と、
前記前駆体組成物の層を硬化させて前記ケイ素化合物の層とする工程
を有する、請求項1に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【請求項3】
前記光重合性組成物は、フッ素原子を有しかつ炭素−炭素不飽和二重結合を1分子中に1個以上有するモノマー(A1)を含む、請求項1または2に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【請求項4】
前記光重合性組成物は、さらに含フッ素界面活性剤(B)を含む、請求項3に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。
【請求項5】
前記微細パターンはアスペクト比が2以上のパターンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細パターンを有する成型体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−169434(P2012−169434A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28777(P2011−28777)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】