説明

微細加工装置、微細加工方法並びに光触媒物質成形体およびその製造方法

【課題】 簡単な構成で光触媒物質による微細加工を行う微細加工装置、微細加工方法、並びに実用性の優れた光触媒物質成形体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 微細加工装置は、マトリックス成分中に微粒子状の光触媒物質の機能成分が分散保持された成形体よりなる加工作用部材と、光照射手段とを有し、加工作用部材が加工対象表面に近接または接触された状態で加工作用部材に励起光が照射される。微細加工方法は、当該光触媒物質成形体の加工作用部材を加工対象表面に近接または接触して位置させて加工作用部材に励起光を照射する。光触媒物質成形体の製造方法では、例えば酸化チタンおよび酸化ケイ素を含有してなる材料組成物の溶融体を延伸することにより、一方向に配向された状態の組織を有するものが得られる。材料組成物の溶融体を固化させたものにマトリックス成分の選択的溶解処理が行われることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工対象表面に対して微細加工を行うための微細加工装置、微細加工方法並びに光触媒物質成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在において、被加工物の表面部を微細加工する方法としては、例えば半導体集積回路の作製に利用されているフォトリソグラフィー法が最も一般的な方法である。しかし、このフォトリソグラフィー法は、実際上、加工用パターンを有するフォトマスクを予め形成しておき、被加工物の表面上に形成されたフォトレジスト膜に対してフォトマスクを介して露光を行い、フォトレジスト膜を現像して露光パターンを形成し、このフォトレジスト膜をエッチングマスクとして被加工物の表面部に化学的または物理的なエッチング処理を施し、その後、フォトレジスト膜を除去することが必要であり、相当に複雑な工程を必要とするものである。
【0003】
また、他の微細加工方法としては、各種の光、電子、粒子ビームなどの放射線を用いる方法が知られており、具体的には、例えば炭酸ガスまたはYAGなどによる赤外線レーザーや、エキシマーもしくは可視レーザー光の第2高調波を利用する紫外線レーザーを用いる方法、シンクロトロン放射光によるX線や紫外線を用いる方法、電子線を用いる方法、中性子線を用いる方法、ガリウム(Ga)などの集束イオンビームを用いる方法、並びにそれらの方法とフォトリソグラフィー法を組み合わせた方法が知られている。
【0004】
しかしながら、従来の微細加工方法においては、以下の問題点がある。すなわち、フォトリソグラフィー法による微細加工方法は、大面積の同一パターンを多数作製することには適しているが、高価なフォトマスクを必要とすること、並びに、上記のように相当に複雑な工程を行うことが実際上必要である。さらに、被加工物の加工対象表面が金属または無機材料の平滑面に限られるため、特にポリイミド系やダイヤモンド系の薄膜のように高い機械的強度を有し、かつ耐熱性、耐化学薬品性、耐プラズマエッチング性が高い炭素質材料に対しては、フォトリソグラフィー法によって微細加工を行うことは非常に困難である。
【0005】
一方、各種のビームを用いる微細加工方法は、マスクが不要で工程も比較的簡単な場合もあるが、通常、ビーム発生装置として大型でかつ高価なものを用いる必要があり、また被加工物が配置される設置環境を例えば高真空または特定の雰囲気に維持することが必要であり、また加工領域を微細化する場合には、フォトリソグラフィー法と同様にマスクが必要となる。
【0006】
また、フォトリソグラフィー法および各種ビームを用いた方法のいずれにおいても、被加工物の表面をその上方から加工することは容易であるが、被加工物の側面を加工することや、比較的大きな凹凸を有する被加工物に対して三次元的な微細加工を行うことは極めて困難である。
【0007】
さらに、従来、光触媒物質を用いる微細加工方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。これらの微細加工方法において、光触媒物質は粉末粒子状のものが支持体の表面に膜状または層状に保持されているが、そのような形態で光触媒物質を安定に保持させることは困難であって、微細加工を迅速に行うに足る十分な量の光触媒物質を均一な膜状または層状の形態で安定に形成することができず、また十分に高い耐久性を有するものではなく、このため、安定な微細加工を行うことが困難である。さらに、これらの微細加工法においては、高価なフォトマスクを必要とする上、得られる加工精度がマスクの加工精度に依存すること、並びに、得られる加工精度が光ファイバーなどの支持体の大きさや形状に依存すること、その他の理由から、加工領域および加工精度の制御、加工規格の迅速な変更が困難である。
一方、光触媒物質を製造するために、分相の現象を利用した方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−334856号公報
【特許文献2】特開2003−236390号公報
【特許文献3】特開2001−113177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その第1の目的は、簡単な構成でしかも光触媒物質による微細加工を行うことのできる微細加工装置を提供することにある。
本発明の第2の目的は、対象とされる被加工物の範囲が広く、簡単な方法で光触媒物質による微細加工を行うことのできる微細加工方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、実用性の優れた光触媒物質成形体を提供することにある。
本発明の第4の目的は、簡単な方法で実用性の優れた光触媒物質成形体を製造することのできる光触媒物質成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微細加工装置は、被加工物の加工対象表面を微細加工するための装置であって、波長200〜500nmの光によって励起される光触媒物質の成形体よりなる加工作用部材と、この加工作用部材に励起光を照射する光照射手段とを具備してなり、
前記加工作用部材を形成する光触媒物質の成形体は、常温で固体のマトリックス成分中に、微粒子状の光触媒物質よりなる機能成分が分散されて保持されてなり、
加工作用部材が被加工物の加工対象表面に近接または接触して位置された状態で、当該加工作用部材に光照射手段により励起光が照射されることにより、被加工物の加工対象表面が微細加工されることを特徴とする。
【0010】
上記の微細加工装置において、光照射手段は、励起光を導光する光ファイバーを有してなり、当該光ファイバーの先端部に加工作用部材が保持されている構成とすることができる。
また、上記の微細加工装置においては、加工作用部材を形成する成形体に分散された機能成分が、酸化チタンの微粒子であることが好ましい。
加工作用部材を形成する成形体は、その表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされていることが好ましい。
加工作用部材を形成する成形体は、ワイヤー状であって、その径が10〜1000μmであるものとすることができる。
さらに、加工作用部材を形成する成形体は、先端に向かうに従って小径となるテーパー状の形態を有するものとすることができる。
また、加工作用部材を形成する成形体は、当該成形体内を透過する励起光の進行する方向に沿って配向された状態の組織を有するものであることが好ましい。
【0011】
本発明の微細加工方法は、波長200〜500nmの励起光によって励起される光触媒物質の成形体よりなる加工作用部材を、被加工物の加工対象表面に近接または接触して位置させた状態で、当該加工作用部材に励起光を照射することにより、当該被加工物の加工対象表面を微細加工することを特徴とする。そして、この微細加工方法においては、上記の微細加工装置を用いることが好ましい。
上記の微細加工方法において、被加工物は、その加工対象表面が被酸化性物質により形成されたものとすることができる。
【0012】
本発明の光触媒物質成形体は、常温で固体のマトリックス成分中に、微粒子状の光触媒物質よりなる機能成分が分散されて保持されてなることを特徴とする。
光触媒物質成形体は、マトリックス成分が非晶質物質よりなり、一方向に配向された状態の組織を有する構成とすることができる。
また、光触媒物質成形体は、そのマトリックス成分が、SiO2 、GeO2 、B2 3 およびP2 5 から選ばれたものとすることができる。
また、光触媒物質成形体は、機能成分が酸化チタンよりなることが好ましい。
【0013】
本発明の光触媒物質成形体の製造方法は、マトリックス成分材料および機能成分材料を含有してなる光触媒物質成形体材料組成物の溶融物を延伸固化させることにより、一方向に配向された状態の組織を有する、機能成分の微粒子がマトリックス成分中に分散されてなる光触媒物質成形体を得ることを特徴とする。
【0014】
本発明の光触媒物質成形体の製造方法においては、マトリックス成分材料および機能成分材料を含有してなる光触媒物質成形体材料組成物の溶融物を固化させて得られる材料の表面にマトリックス成分材料の溶解処理を施し、これにより、表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされることが好ましい。
【0015】
以上において、マトリックス成分がSiO2 を含有してなり、機能成分が酸化チタンよりなることが好ましい。
また、光触媒物質成形体材料組成物が、さらに酸化アルミニウムを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微細加工装置によれば、その加工作用部材を構成する光触媒物質の成形体に、光照射手段を用いて励起光を照射することによって、当該加工作用部材による作用によって周囲の空気や水などによる原子または原子団から酸化性活性種が生成され、この酸化性活性種により、被加工物の加工対象表面に対して酸化作用による加工結果を得ることができる。そして、加工対象表面においてこの酸化による加工作用を受ける領域は、当該加工作用部材の形態に応じた個所であるところ、本発明に係る光触媒物質成形体は、その寸法が微小で微細な形態のものとすることができるので、結局、当該加工対象表面に微細加工を施すことができる。
【0017】
微細加工の具体的な内容または結果は、被加工物の加工対象表面を形成する物質の種類、特性、状態、微細加工が行われる環境条件、その他の条件によって異なる。例えば、被加工物の加工対象表面を形成する被酸化性物質が酸化されてガス化して除去され、その結果、当該加工対象表面の微小領域の形状が物理的に変形加工され、例えば微小な空隙あるいは凹凸を形成することができる。あるいは、被加工物の加工対象表面の微小領域の物性が化学的に改質処理され、例えば当該微小領域を親水性の高いものとすることができる。これは、加工作用部材が、常温で固体のマトリックス成分中に微粒子状の光触媒物質よりなる機能成分が分散されて保持されてなる光触媒物質成形体よりなるものであって、安定な動作と大きな耐久性を有し、微小なサイズの加工作用部材を形成することができるからである。
【0018】
特に、光照射手段が励起光を導光する光ファイバーの先端部に加工作用部材が保持されている構成によれば、当該光ファイバーにより加工作用部材に高い効率で励起光を照射することができると共に、加工作用部材を保持するための専用の保持部材が不要となり、微細加工装置としての構成が簡単なものとなる。
【0019】
加工作用部材を形成する成形体が、光触媒物質である酸化チタンの微粒子を含有してなるものである場合、その表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされている場合、先端に向かうに従って小径となるテーパー状の形態を有する場合、および/または当該成形体が、内部を透過する励起光の進行する方向に沿って配向された状態の組織を有するものである場合には、高い効率で酸化性活性種の生成が達成され、結局、高い効率で微細加工を行うことができる。
【0020】
本発明の微細加工方法によれば、光触媒物質の成形体よりなる加工作用部材が配置された被加工物の加工対象表面において、当該加工作用部材の形状あるいは形態、位置および姿勢に応じた微小な個所または領域に微細加工を行うことができる。そして、この微細加工は、被加工物が被酸化性物質により形成されたものであれば実行することができ、従って、種々の物体を対象として微細加工を行うことができる。
そして、加工作用部材が光触媒物質成形体よりなるため、安定な動作と大きな耐久性が得られる。
【0021】
本発明のマトリックス成分中に機能成分の微粒子が分散されてなる光触媒物質成形体が、一方向に配向された状態の組織を有するものである場合には、当該一方向において高い励起光の導光効率が得られ、高い効率で微細加工を行うことができるので、実用上有利である。
また、本発明の光触媒物質成形体の製造方法によれば、高い効率で微細加工を行うことができる光触媒物質成形体を製造することができる。特に、マトリックス成分材料および機能成分材料を含有してなる光触媒物質成形体材料組成物の溶融物が固化した材料(成形体前駆体)の表面にマトリックス成分材料の溶解処理を施すことにより、表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされた光触媒物質成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について図面を参照して具体的に説明する。
〔微細加工方法〕
本発明の微細加工方法においては、被加工物の加工対象表面に近接または接触する状態に光触媒物質成形体よりなる加工作用部材を配置し、この状態において、当該加工作用部材に光照射手段により励起光を照射し、これにより、被加工物の加工対象表面に対して微細加工を行う。
【0023】
本発明における加工作用部材を構成する光触媒物質成形体は、具体的には、光触媒作用を発揮する、例えば酸化チタンなどよりなる機能成分と、この機能成分を結着する、例えば酸化ケイ素を含む常温で固体の非晶質物質よりなるマトリックス成分とよりなる成形体である。ここに「成形体」とは、それ自体が常温で固体の一体の部材として取り扱うことのできる三次元的形状を有する物であり、その形状およびサイズを、主としてマトリックス成分の物性を利用して相当の自由度をもって調整することが可能である。
【0024】
本発明の微細加工方法を具体的に説明すると、適宜の形状を有する光触媒物質成形体よりなる加工作用部材を作製し、これを被加工物の加工対象表面の加工個所に、当該加工対象表面に近接した状態または接触した状態に配置し、その状態で、当該加工作用部材に、当該加工作用部材を形成する機能成分の種類に応じた励起光を照射する。
この励起光は、当該機能成分に係る光触媒物質のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーに相当する波長の光であることが必要であり、実際上、波長200〜500nmの光が用いられる。
【0025】
加工作用部材に対する励起光の照射は光照射手段によって行われるが、その光照射手段は特に限定されるものではない。光照射手段は、通常、励起光となる波長の光を放射する光源ランプと、この光源ランプよりの光を導光する導光部材とにより構成することができる。光源ランプとしては、励起光を放射する例えば高圧水銀ランプなどを好適に用いることができ、導光部材としては、例えば集光反射鏡、集光レンズなども用いられるが、特に光ファイバーを好適に用いることができる。
【0026】
本発明において、最も簡単には、被加工物の加工対象表面に配置した加工作用部材に空間を介して励起光を照射する光照射手段を利用することができ、この場合には、特に導光部材が不要である点で、光照射装置の構成が簡単である。
加工作用部材に対する励起光の照射は、直接的ではなく、他の光透過性材料または光透過性物質を介して、間接的に行うこともできる。例えば、被加工物がガラスなどの光透過性材料からなるものである場合には、当該被加工物の加工対象表面とは反対側の面から励起光を照射することができ、また、光透過性材料からなる基板上に形成された薄膜である場合には、当該基板の裏面側から励起光を照射することもできる。
また、加工対象表面上に配設された加工作用部材が、例えば水滴中に保持されている場合には、当該水滴の水の層を介して、励起光を照射してもよい。
【0027】
また、加工作用部材に対して励起光が照射される方向も特に限定されるものではなく、例えば加工対象表面に沿った方向から励起光を照射することもできる。
【0028】
このように、加工作用部材に励起光が照射されると、励起された加工作用部材の作用によって当該加工作用部材の周囲に存在する空気、ガス、水分、その他の分子状、原子状またはイオン状の原子または原子団から酸化性活性種(例えば、OHラジカル、H2 2 およびO2 ラジカルなど)が生成され、この酸化性活性種の作用により、被加工物の加工対象表面を形成する被酸化性物質の原子、分子または原子団が酸化されてガス化されて被加工物の加工対象表面から除去され、その結果、微小の窪みが形成され、あるいは微小の凸部が消失されることによる微小な領域について物理的な変形加工が行われる。または、被加工物の加工対象表面における微小な個所において、その表面の疎水基が酸化作用によって親水基に変化することによる微小部分の改質加工が行われる。
【0029】
従って、被加工物の加工対象表面においては、これに配置された加工作用部材の形状に応じて、微細加工が行われることとなる。そして、微細加工の程度は、通常、加工作用部材に対する励起光の照射時間に応じたものとなるので、照射時間が長い加工によれば、加工の程度が大きくなる。
【0030】
また、加工作用部材に対して励起光が照射される角度、具体的には、加工作用部材が位置されている加工対象表面の方向に対する励起光の照射角度は、特に限定されるものではないが、励起光の照射角度が変更されることにより、微細加工の態様が変化することがある。例えば、図1に示すように、被加工物Wの加工対象表面S上に、円柱状の加工作用部材10をその外周面の一部が接触する状態で配置し、この加工作用部材10にその直上方向から励起光12を照射した場合(この場合に、加工対象表面に対する照射角度θは90度である。)には、当該加工作用部材10の両側の個所において同様の窪みD1およびD2が形成される。
【0031】
これに対し、図2に示すように、当該加工作用部材10に斜め45度の方向から励起光12を照射した場合(この場合に、加工対象表面に対する照射角度θは45度である。)には、加工作用部材10における励起光の直射側の個所では比較的大きくて深い窪みD3が形成されるが、反対側の個所では比較的小さな浅い窪みD4が形成されるようになる。なお、図1および図2においては、明確化のために、窪みの大きさが誇張して示されている。
【0032】
以上のように、本発明の微細加工方法によれば、被加工物の加工対象表面における加工作用部材が位置された微小個所または微小領域に微細加工を行うことができる。具体的には、加工作用部材が配置された加工対象表面において、深さ方向についてナノメートルスケールの、切削加工と同様の加工を行うことができ、従って、被加工物が多層構造物であって各層の厚さが数ナノメートル以上のものである場合には、構成層の個々のものに対して微細加工を行うことができる。
また、切削加工のみでなく、表面改質加工を微細な個所について行うことができる。
【0033】
また、本発明の微細加工方法は、被加工物の加工対象表面に加工作用部材を近接して位置させることが可能なものであれば、実行することができる。従って、微細加工を行うことができる対象物すなわち被加工物の範囲が広く、例えば被加工物の加工対象表面が平面でなくて凹凸を有する面であっても、そのような加工対象表面に対して所期の微細加工を行うことができる。
【0034】
さらに、加工対象表面に対して加工作用部材を近接または接触させる方向は特に限定されるものではなく、当該表面の直角方向から加工作用部材を近接させることは必要ではないから、例えば微小な凸部を有する加工対象表面に対して、当該表面に平行またはこれに近い方向から加工作用部材を近接させて位置させ、あるいは接触させ、その状態で当該加工作用部材に励起光を照射する態様によっても、所期の微細加工を行うことができる。
そして、加工作用部材が光触媒物質成形体よりなるため、安定な動作と大きな耐久性が得られる。
【0035】
本発明の微細加工方法によって行うことのできる微細加工は、加工対象表面における微小個所または微小領域の物質の除去や改質加工であり、加工対象表面が平面であれば、微小な窪みが形成され、あるいはその物性が変化する。従って、例えば多数の微小な粒子状の加工作用部材を被加工物の加工対象表面上に分散して配置し、その上で、加工対象表面の全面に励起光を照射することにより、加工対象表面の粗面化処理または表面改質処理を行うことができる。また、微小な凸部を有する加工対象表面において、当該凸部に近接して加工作用部材を配置して励起光を照射することにより、当該凸部を消失させて当該加工対象表面を平坦面化する加工も可能である。
【0036】
以上の微細加工方法において、加工作用部材を保持するために専用の保持部材を用いることができ、保持部材に対する加工作用部材の保持は、機械的保持機構による保持、接着剤による接着、その他の手段を用いて行うことができる。また、専用の保持部材によらずに、加工作用部材を被加工物の加工対象表面上に、重力や表面張力を利用して保持することが可能であり、また接着剤などによって接着する手段なども利用することもできる。
【0037】
〔被加工物〕
本発明による微細加工が行われる被加工物は、その加工対象表面を形成する材質が被酸化性物質のものである。
ここに被酸化性物質としては、例えば、主として炭素原子から構成されるポリイミド、ポリエチレン、アクリル樹脂などの有機高分子物質、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、ダイヤモンド、グラファイトなどの炭素系無機材料、並びに、主としてシリコン、アルミニウムなどの易酸化性金属元素から構成される金属系無機材料、その他を挙げることができる。そして、特に機械的強度、耐熱性、耐化学薬品性、耐プラズマエッチング性が高い、例えばポリイミドのような高耐久性材料に対しても、微細加工性を行うことが可能である。
【0038】
また、例えば、アルキルアルコキシシランなどの有機化合物は、ガラスなどの基材の表面を撥水性化または疎水化する特性を有する表面処理剤として有効であることが知られているが、このような疎水化用表面処理剤が適用された疎水性表面を有する材料を被加工物として用い、当該疎水性表面を加工対象表面として、本発明を適用することができる。この場合には、被加工物の表面形状を変形させるのではなく、当該疎水性表面における加工作用部材に対応する微小領域を、疎水性から親水性に改質することが可能である。
【0039】
〔光触媒物質成形体およびその製造方法〕
本発明における加工作用部材を構成する光触媒物質成形体は、既述のように、光触媒作用を発揮する機能成分と、この機能成分を結着する非晶質物質などよりなるマトリックス成分とよりなる成形体である。
そして、この光触媒物質成形体は、その形状を調整することが可能であるから、種々の形状を有するものとすることができる。例えば、加工先端ヘッドと称されるような各種の微小な粒子状体、微小径のワイヤー状あるいは繊維状または帯状などの条体、デイスク状などの板状体、その他のいずれの形状とすることができる。
【0040】
この光触媒物質成形体において、機能成分は、平均粒径が例えば1μm以下の微粒子状であってマトリックス成分中に分散された状態で存在する状態とされるが、好ましくは、機能成分の微粒子が、当該光触媒物質成形体の表面層部分において、他の部分に比して、高い存在密度と、高い露出表面積を有する状態で存在することが好ましい。
【0041】
光触媒物質成形体の機能成分を構成する物質の具体例としては、例えば、Fe2 3 、Fe3 4 、SnO2 、TiO2 、WO3 、ZnO、ZrO2 、RTiO3 (RはCa、SrまたはBaである。)、希土類金属酸化物、酸化鉄固溶体、酸化チタン固溶体、SiCなどを挙げることができるが、これらのうち、実用上特に好ましいものはTiO2 である。
【0042】
また、機能成分と分離した連続相を形成するマトリックス成分は、その主たる成分物質が、SiO2 、GeO2 、B2 3 、P2 5 などよりなる常温で固体であるものであって、好ましくは非晶質物質であり、実用上、特にSiO2 を主成分とするものであることが好ましい。
このマトリックス成分は、それ自体が、励起光に対する透明性が高いものであり、かつその溶融状態において適度の粘性を有し、それによって延伸、その他の成形加工が可能な物質であることが好ましい。そして、当該マトリックス成分の材料は、それが適宜の手段によって溶解処理可能なものであることが好ましい。そのような溶解処理を行うことにより、得られる光触媒物質成形体は、その表面層部分において、微粒子状の機能成分が当該マトリックス成分に結着保持されながら高い密度で存在し、かつ、当該機能成分が十分に露出した状態を有するものとなり、その結果、目的とする微細加工作用が十分に発揮されるものとなる。
【0043】
光触媒物質成形体は、機能成分およびマトリックス成分の外に、例えば、溶融体の粘度を調整するため、あるいは成形体における加工性を付与するため、その他の目的で添加される特性改良成分が含有されたものであってもよい。その具体例としては、例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ホウ素等の酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩などを挙げることができる。
【0044】
〔光触媒物質成形体の製造方法〕
本発明において加工作用部材を形成する光触媒物質成形体は、例えば以下のような方法によって製造することができる。
すなわち、図3に示すように、機能成分を形成する光触媒物質(例えばTiO2 )の粉末と、マトリックス成分を形成する物質(例えばSiO2 )の粉末と、さらに必要に応じて添加される添加成分(例えばAl2 3 )を適宜の割合で混合し、この粉末混合物を例えば400〜1000℃で仮焼成した後、成形して焼成用成形体を作製し、この焼成用成形体を、例えば1000〜1500℃で熱処理して焼成体を得、この焼成体を1600〜1900℃で溶融し、この溶融状態を、当該物質系の組成によって異なる適度の温度に適宜の時間保持することにより、当該物質系において相分離を生じさせて機能成分物質を微粒子状に析出させる。
【0045】
すなわち、多くの組成系では、液相線以上または以下の温度で液状(融液)または非晶質固体の構成成分が2相に分離する不混和領域があり、このような不混和領域が生ずるような組成による混合物を、そのような温度に維持することにより相分離(分相)が生ずる。そして、その分相組織の大きさや析出結晶相は、具体的な組成、相分離の温度および時間などの条件によって、或る程度の制御が可能である。その結果、機能成分を、その粒径が小さい状態のものとすることができ、例えば10〜100nmのような微粒子の状態とすることができる。
【0046】
上記の原理を利用して、連続するマトリックス成分相内に機能成分が小径の微粒子状に分散された状態を実現し、この状態の物質を急冷することにより、常温で固体の非晶質物質よりなるマトリックス成分中に、微粒子状の機能成分が分散されて保持された状態の成形体前駆体ともいうべき中間成形体が得られる。
【0047】
このような中間成形体では、分散された機能成分の微粒子はマトリックス成分中に埋没しているものも多く、そのままでは必ずしも十分な光触媒作用が発揮されない可能性があるので、当該中間成形体について、そのマトリックス成分を選択的に溶解処理することにより、マトリックス成分の一部を溶解させ、これにより、機能成分の粒子の存在密度を高くすると共に、機能成分の粒子を露出させることが好ましい。
このマトリックス成分の選択的溶解処理は、例えば適宜のアルカリ水溶液に成形体を浸漬する方法によって行うことができる。
【0048】
このようなマトリックス成分の選択的溶解処理によって得られる光触媒物質成形体は、通常、多孔質状で光触媒作用が発揮される表面積が大きな状態のものとなると共に、空気などのガスが当該表面に進入して到達することが容易であるため、高い効率で酸化性活性種が生成されることとなり、その結果、十分に高い効率で所期の微細加工を行うことができる。
なお、選択的溶解処理においてマトリックス成分を過度に溶解すると、機能成分の微粒子に対する保持が不十分となる結果、光触媒物質成形体として強度が低くなるおそれがある。
【0049】
以上において、溶融された材料組成物は、その可変形性により、適宜の成形加工を施すことが可能である。すなわち、機能成分とマトリックス成分を含有する原料組成物は、溶融状態において、または急冷の過程において、その溶融物が適度の粘性を帯びる状態となり、その状態で変形力を作用させることにより、延伸加工、その他の成形加工を施すことができる。
【0050】
具体的には、例えば、原料溶融物の小塊を重力場に吊下された状態に保持すると、その粘性によって垂下しながら延伸されることとなるので、これを急冷することにより、微小な径の繊維状またはワイヤー状を有する延伸成形体を製造することができる。
【0051】
この延伸成形体は、例えばその径が5〜100μmであり、組織的な構成は、図4に示すように、全体的にワイヤー状または繊維状に成形されたマトリックス成分M中に、生成した機能成分の粒子Pが、これも当該ワイヤーまたは繊維の長さ方向に細長く伸びた状態に配向されたものとなる。
【0052】
さらに、一旦得られた光触媒物質成形体を、種々の形状を有するものに変形加工することができる。例えば、三次元の微細加工をナノメートルスケールで行う場合には、ワイヤー状成形物を製造するときの延伸速度を大きくすること、ワイヤー状成形物をアルカリ金属水酸化物水溶液のような強塩基性水溶液またはフッ酸を含む酸性水溶液で化学エッチング処理すること、または集束イオンビームにより物理エッチング処理することにより、その先端部分を必要な大きさまで尖鋭化することが望ましい。
【0053】
以上において、添加成分は、原料組成物に添加されることにより、分相組織の均質化、融液の形成温度、融液の粘度を制御または調整する作用を発揮するものであって、例えばLi2 O、Na2 O、K2 O、Cs2 O、MgO、CaO、SrO、BaO、Al2 3 などを挙げることができ、それが最終的に得られる光触媒物質成形体の成分を構成するものであっても、製造の過程において消失されるものであってもよい。さらに添加成分としては、還元剤となる炭素、有機化合物、金属ケイ素、炭化ケイ素、炭化チタン、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0054】
実用的に好ましい機能成分およびマトリックス成分の組合せは、TiO2 とSiO2 との組合せであり、その割合の範囲は、重量比でTiO2 :SiO2 が10〜90:90〜10、好ましくは20〜80:80〜20、更に好ましくは30〜70:70〜30である。
ここに、機能成分のTiO2 の割合が大きい場合には高い光触媒効果が期待され、従って高い効率で所期の微細加工を実行することが可能となるが、相対的にマトリックス成分であるSiO2 の割合が小さいものとなるため、光触媒物質成形体は機械的強度が低いものとなるおそれがある。
一方、機能成分のTiO2 の割合が小さい場合には、得られる光触媒効果が抑制されたものとなり、マトリックス成分の割合が高いことから、大きな耐久性を有する光触媒物質成形体が得られる。
このようなマトリックス成分の割合が高い光触媒物質成形体では、それを微細化することが容易であり、例えば集束イオンビームのような物理エッチング処理によって、十分に微小なサイズの光触媒物質成形体を得ることができる。
【0055】
以上の機能成分とマトリックス成分との組合せにおいては、特に酸化アルミニウム(Al2 3 )を添加成分として用いることが好ましく、これにより、機能成分の微粒子が十分に高い分散均一性で分散された状態の光触媒物質成形体を得ることができる。この添加成分の割合は、機能成分およびマトリックス成分の合計100質量部に対して例えば1〜20質量部であることが好ましく、さらに好ましくは3〜10質量部である。
【0056】
図5は、本発明の微細加工装置の好ましい一例を示す説明図である。この微細加工装置20においては、一端側が光源ランプ(図示せず)に接続された光ファイバー22により光照射手段が構成されており、当該光ファイバー22の先端部に、光触媒物質成形体よりなる加工作用部材である加工ヘッド24が保持されている。
【0057】
この加工ヘッド24は、先端に向かうに従って小径となるテーパー状の円錐台形を有するものであり、基端面が光ファイバー22の先端面に光学接着剤によって固着されて保持されている。この加工ヘッド24を形成する光触媒物質成形体は、その組織が、延伸処理により、光ファイバー22の導光方向(図の上下方向)に配向されたものであり、これにより、その先端面26に至るまで励起光が大きな減衰を伴うことなしに照射される。
【0058】
従って、当該加工ヘッド24の先端面26を、例えば基板32の表面に薄膜34が形成されてなる被加工物30の加工対象表面36に近接させた状態、例えば加工対象表面36から上方に僅かな距離だけ離間した状態に配置して保持し、光ファイバー22を介して励起光を当該加工ヘッド24に照射することにより、当該加工ヘッド24の先端面26と対向する加工対象表面36を形成する薄膜34について、その微小個所または微小領域の形成物質が酸化されて除去されることとなり、これにより、当該薄膜34に窪みDが形成される微細加工を行うことができる。ここに、加工ヘッド24の先端面26と、加工対象表面36との間の距離は、例えば1.0mm以下であることが好ましい。なお、図5において、窪みDは、説明のために、薄膜34を貫通した状態で示されている。
そして、加工ヘッド24は、光触媒物質成形体よりなるものであるため、安定な動作と大きな耐久性が得られる。
【実施例】
【0059】
実施例1
〔光触媒物質成形体の製造〕
粒径0.1〜5μmの酸化チタン(TiO2 )粉末40質量部と、粒径20〜40μmの酸化ケイ素(SiO2 )粉末60質量部に対し、粒径1〜5μmの酸化アルミニウム(Al2 3 )5質量部を添加して混合し、等方圧プレスにより成形し、この成形体を温度1300℃で焼成して得られる焼成体を1800℃以上の温度で溶融させたところ、溶融物(融液)は2相に分離した。この分相した融液を、温度約1700℃の大気中において、当該融液を重力により下方に伸びて垂下するよう延伸させながら急冷することにより、直径が約50μmのワイヤー状の中間成形体を得た。
次いで、この中間成形体を、濃度1mol/リットルの水酸化ナトリウム水溶液中に温度60℃で4時間浸漬することによりマトリックス成分の選択的溶解処理を行い、ワイヤー状光触媒物質成形体を製造した。
この光触媒物質成形体において、酸化チタンは、長径5〜10μm、短径0.5μm未満の細長い粒子状であった。
【0060】
さらに、より細いワイヤー状光触媒物質成形体を作成するために、前記融液を手作業で延伸させながら急冷させ、同様にマトリックス成分の選択的溶解処理を行って、先端面の直径が約10μm、高さ(軸方向長さ)が約1mmの加工ヘッド部材を作製した。
【0061】
〔微細加工装置の製造〕
一方、直径200μmの光ファイバーを用意し、その先端面に、上記加工ヘッド部材の端面を光学接着剤により接着し、これにより、光ファイバーの先端に加工ヘッド部材による加工ヘッドが形成された微細加工装置を作製した。
【0062】
〔微細加工の実施〕
理化学用硬質ガラスよりなる基板上に、厚さ約10μmのポリイミドよりなる有機高分子薄膜を形成した複合材料を被加工物として用い、上記の微細加工装置の加工ヘッドの先端面を当該被加工物の有機高分子薄膜に僅かな押圧力で対接させた後に当該有機高分子薄膜の表面からの離間距離が約1μmになるように先端面を引き上げ、この状態で、消費電力500Wの高圧水銀灯よりなる光源ランプよりの波長200〜500nmの放射光を、光ファイバーを介して20分間加工ヘッドに照射することにより、有機高分子薄膜に対して微細加工を行った。
上記の有機高分子薄膜を形成するポリイミドは、トリメチルシリル基が結合された4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンと、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるものである。
そして、有機高分子薄膜の状態を原子間力顕微鏡により観察したところ、当該有機高分子薄膜の加工ヘッドが対接された個所には、直径約10μm、深さ約10nmの窪みが形成されていることが確認された。
【0063】
実施例2
実施例1において、中間成形体についてマトリックス成分の選択的溶解処理を行わなかった他は全く同様にして光触媒物質成形体を製造し、加工ヘッド部材を作製し、これを用いて同様の微細加工を実施したところ、窪みの深さが若干小さいものであったが、実施例1と同様の結果が得られた。
【0064】
実施例3
実施例1において作成した直径約50μmのワイヤー状光触媒物質成形体を長さ約5mmに切断して、円柱状の加工作用部材を作製した。
図1に示されているように、実施例1において用いたものと同様の被加工物を水平に保持し、その有機高分子薄膜上に当該加工作用部材を配置し、この加工作用部材が配置された領域に向かって、実施例1と同様の光源ランプよりの波長200〜500nmの光を照射角度90度、照射時間30分間で照射することにより、有機高分子薄膜に対して微細加工を行った。そして、有機高分子薄膜の状態を原子間力顕微鏡により観察したところ、加工作用部材の両側領域においては、最大深さが約7nmの窪みが形成されていることが観察された。
また、照射時間を60分間および90分間とした場合には、それぞれ、最大深さが約8nmおよび約32nmの窪みが形成されていることが観察された。
【0065】
実施例4
実施例3において、照射角度を45度としたこと以外は、全く同様にして加工作用部材に励起光を照射した。
その結果、加工作用部材の直射側領域において、照射時間30分間で最大深さが約11nm、照射時間60分間で最大深さが約13nm、照射時間90分間で最大深さが約15nmの窪みが形成されたこと、並びに、加工作用部材の反対側領域においては、照射時間60分間で最大深さが約7nm、照射時間90分間で最大深さが約10nmの窪みが形成されたことが観察された。
【0066】
実施例5
実施例1において、照射角度を0度としたこと以外は、全く同様にして加工作用部材に励起光を照射した。
その結果、加工作用部材の直射側領域において、照射時間30分間で最大深さが約2nm、照射時間60分間で最大深さが約4nm、照射時間90分間で最大深さが約20nmの窪みが形成されたことが観察された。
【0067】
実施例6
〔光触媒物質成形体の製造〕
粒径0.1〜5μmの酸化チタン(TiO2 )粉末20質量部と、粒径20〜40μmの酸化ケイ素(SiO2 )粉末80質量部と、粒径1〜5μmの酸化アルミニウム(Al2 3 )5質量部とを用い、実施例1と同様の方法により、直径が約75μmのワイヤー状の中間成形体を得、この中間成形体を、濃度1mol/リットルの水酸化ナトリウム水溶液中に温度60℃で4時間浸漬することによりマトリックス成分の選択的溶解処理を行い、ワイヤー状光触媒物質成形体を製造した。
【0068】
〔被加工物の作成〕
洗浄したシリカガラス基板を、濃度1mol/リットルの水酸化ナトリウム水溶液中に攪拌下に1時間浸漬し、蒸留水で十分に洗浄して乾燥させた。
一方、エチルアルコールと水の体積比95:5の混合溶媒100容積部に対し、2.5容積部のn−オクチルトリエトキシシラン〔CH3 (CH2)7 Si(OC2 5)3 〕を混合して表面処理液を調製した。
この表面処理液中に上記のシリカガラス基板を3時間浸漬し、エチルアルコールで十分に洗浄し、恒温炉を用いて温度120℃で十分に乾燥させることにより、疎水性表面を有するガラス試料を作成した。
【0069】
〔微細加工の実施〕
このガラス試料を被加工物として用い、その表面を加工対象表面として、当該表面から40μm離間した位置において当該表面と平行となるよう、上記のワイヤー状光触媒物質成形体を加工作用部材として設置し、この加工作用部材が設置された領域に向かって、実施例1と同様の光源ランプよりの波長200〜500nmの光を照射角度90度、照射時間30分間で照射した。
図6は、この微細加工の説明図であって、10は加工作用部材、Gはガラス試料、Fは表面の疎水性膜であって模式的に示されている。
【0070】
〔微細加工の結果〕
上記のようにして処理されたガラス試料を、大気中において温度5℃に冷却した状態で光学顕微鏡により観察したところ、大気中の湿度によりガラス試料の表面が曇って不透明となったが、加工作用部材が設置された個所においては、幅約75μmの部分が事実上透明で、曇りはほとんど観察されなかった。
図7は、このガラス試料の表面の観察状態を示す説明図であって、Aが曇った状態の不透明部分、Bが曇らなかった状態の透明性部分である。
【0071】
上記の結果が得られる理由は、ガラス試料においては、その表面にケイ素−酸素結合によりn−オクチルトリエトキシシランが結合してオクチル基〔CH3 (CH2)7 −〕の部位が表面状態を支配するために、当該表面が疎水性になっているところ、当該表面が加工対象表面として加工作用部材による微細加工が行われたことにより、当該加工作用部材に対応する個所においては、当該オクチル基が酸化分解作用を受けて水酸基〔HO−〕基に変換され、その結果として親水性化したからであり、親水性領域では、表面に付着した水は接触角が小さいので安定した水の膜というべき状態となるために光が透過する状態(曇っていない状態)となって透明性部分として観察されるが、疎水性領域では、表面に付着した水は接触角が大きいので微小水滴が多数存在して付着している状態であるので、光が乱反射あるいは散乱されるために曇った状態となり、不透明部分として観察されるからである。
【0072】
実施例7
実施例6の被加工物の作成においてn−オクチルトリエトキシシランの代わりにメチルトリエトキシシラン〔CH3 Si(OC2 5)3 〕を用いたこと以外は、実施例6と全く同様にして、光触媒物質成形体の製造、被加工物の作成、微細加工の実施を行ったところ、実施例6の場合と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の微細加工方法の一態様を示す説明図である。
【図2】本発明の微細加工方法の他の態様を示す説明図である。
【図3】本発明の光触媒物質成形体の製造方法を工程順に示すブロック図である。
【図4】延伸成形体であるワイヤー状光触媒物質成形体の組織の状態を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の一例に係る微細加工装置を用いた微細加工方法についての説明図である。
【図6】実施例6における微細加工の説明図である。
【図7】実施例6におけるガラス試料の表面の観察状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
W 被加工物
S 被加工物の加工対象表面
10 加工作用部材
12 励起光
D,D1,D2,D3,D4 窪み
M マトリックス成分
P 機能成分の粒子
20 微細加工装置
22 光ファイバー
24 加工ヘッド
26 先端面
30 被加工物
32 基板
34 薄膜
36 加工対象表面
G ガラス試料
F 疎水性膜
A 不透明部分
B 透明性部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象表面を微細加工するための装置であって、波長200〜500nmの光によって励起される光触媒物質の成形体よりなる加工作用部材と、この加工作用部材に励起光を照射する光照射手段とを具備してなり、
前記加工作用部材を形成する光触媒物質の成形体は、常温で固体のマトリックス成分中に、微粒子状の光触媒物質よりなる機能成分が分散されて保持されてなり、
加工作用部材が被加工物の加工対象表面に近接または接触して位置された状態で、当該加工作用部材に光照射手段により励起光が照射されることにより、被加工物の加工対象表面が微細加工されることを特徴とする微細加工装置。
【請求項2】
光照射手段は、励起光を導光する光ファイバーを有してなり、当該光ファイバーの先端部に加工作用部材が保持されていることを特徴とする請求項1に記載の微細加工装置。
【請求項3】
加工作用部材を形成する成形体に分散された機能成分が、酸化チタンの微粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細加工装置。
【請求項4】
加工作用部材を形成する成形体は、その表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の微細加工装置。
【請求項5】
加工作用部材を形成する成形体は、ワイヤー状であって、その径が10〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の微細加工装置。
【請求項6】
加工作用部材を形成する成形体は、先端に向かうに従って小径となるテーパー状の形態を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の微細加工装置。
【請求項7】
加工作用部材を形成する成形体は、当該成形体内を透過する励起光の進行する方向に沿って配向された状態の組織を有するものであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の微細加工装置。
【請求項8】
波長200〜500nmの励起光によって励起される光触媒物質の成形体よりなる加工作用部材を、被加工物の加工対象表面に近接または接触して位置させた状態で、当該加工作用部材に励起光を照射することにより、当該被加工物の加工対象表面を微細加工することを特徴とする微細加工方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の微細加工装置を用いることを特徴とする請求項8に記載の微細加工方法。
【請求項10】
被加工物は、その加工対象表面が被酸化性物質により形成されたものであることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の微細加工方法。
【請求項11】
常温で固体のマトリックス成分中に、微粒子状の光触媒物質よりなる機能成分が分散されて保持されてなることを特徴とする光触媒物質成形体。
【請求項12】
マトリックス成分が非晶質物質よりなり、一方向に配向された状態の組織を有することを特徴とする請求項11に記載の光触媒物質成形体。
【請求項13】
マトリックス成分が、SiO2 、GeO2 、B2 3 およびP2 5 から選ばれたものであることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の光触媒物質成形体。
【請求項14】
機能成分が酸化チタンよりなることを特徴とする請求項11〜請求項13のいずれかに記載の光触媒物質成形体。
【請求項15】
マトリックス成分材料および機能成分材料を含有してなる光触媒物質成形体材料組成物の溶融物を延伸固化させることにより、一方向に配向された状態の組織を有する、機能成分の微粒子がマトリックス成分中に分散されてなる光触媒物質成形体を得ることを特徴とする光触媒物質成形体の製造方法。
【請求項16】
マトリックス成分材料および機能成分材料を含有してなる光触媒物質成形体材料組成物の溶融物を固化させて得られる材料の表面にマトリックス成分材料の溶解処理を施し、これにより、表面層部分における機能成分の存在密度が高い状態とされることを特徴とする光触媒物質成形体の製造方法。
【請求項17】
マトリックス成分がSiO2 を含有してなり、機能成分が酸化チタンよりなることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の光触媒物質成形体の製造方法。
【請求項18】
光触媒物質成形体材料組成物が、さらに酸化アルミニウムを含有することを特徴とする請求項17に記載の光触媒物質成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−110542(P2006−110542A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263650(P2005−263650)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】