説明

心不全に対して防御する方法

本発明は、一般的に、心不全に、そして特に、心不全のリスクを減少させる方法、特に確立された心筋疾患を有する患者における方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全内容が本明細書に援用される、2008年10月31日出願の米国仮出願第61/110,323号に優先権を請求する。
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号第R01 HL083155号、第R01 HL68963号および第5 F32HL079863号のもとに米国政府の援助を受けて作成された。米国政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0002】
技術分野
本発明は、一般的に、心不全に、そして特に、心不全のリスクを減少させる方法、特に確立された心筋疾患を有する患者における方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓疾患の進行および重症度に寄与する遺伝的因子は、主に、ヒト集団における臨床的転帰を標準化することが課題となるため、同定が困難であった。したがって、前向きの(forward)遺伝的アプローチでは、新規療法ターゲットを同定する際の成功が限定されていた。
【0004】
心筋疾患のカルセクエストリン(CSQ)トランスジェニックマウスモデル(Jonesら, J. Clin. Invest. 101:1385−1393(1998)、Choら, J. Biol. Chem. 274:22251−22256(1999))は、遺伝的バックグラウンドに依存して、表現型進行の広い変動を示す(Suzukiら, Circulation 105:1824−1829(2002)、Le Corvoisierら, Hum. Mol. Genet. 12:3097−3107(2003))。CSQトランスジェニック増感因子(sensitizer)を用いた定量的形質遺伝子座(QTL)マッピングは、疾患進行および転帰を修飾する7つの心不全修飾因子(Hrtfm)遺伝子座を生じた(Suzukiら, Circulation 105:1824−1829(2002)、Le Corvoisierら, Hum. Mol. Genet. 12:3097−3107(2003)、Wheelerら, Mamm. Genome 16:414−423(2005))。2つの異なる交雑種中にマッピングされるHrtfm2(Suzukiら, Circulation 105:1824−1829(2002)、Wheelerら, Mamm. Genome 16:414−423(2005))は、生存の表現型変動の28〜30%、および心機能の表現型変動の22〜42%を説明した。
【0005】
本発明は、少なくとも部分的に、Hrtfm2の根底にある遺伝子としてのTnni3k(心臓トロポニンI相互作用キナーゼ)の同定から生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jonesら, J. Clin. Invest. 101:1385−1393(1998)
【非特許文献2】Choら, J. Biol. Chem. 274:22251−22256(1999)
【非特許文献3】Suzukiら, Circulation 105:1824−1829(2002)
【非特許文献4】Le Corvoisierら, Hum. Mol. Genet. 12:3097−3107(2003)
【非特許文献5】Wheelerら, Mamm. Genome 16:414−423(2005)
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一般的に、心不全に関する。より具体的には、本発明は、心筋疾患を有する患者において、心不全に対して防御し、そして/またはそのリスクを減少させる方法に関する。本発明はまた、特に確立された心筋疾患を有する患者において、心不全に対して防御するよう設計された療法戦略において使用するのに適した剤を同定する方法、方法にも関する。
【0008】
本発明の目的および利点は、以下の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1A〜1C。Tnni3k mRNAおよびタンパク質発現は、マウス系統間で有意に異なる。(A)Affymetrixマイクロアレイ分析は、B6、AKRおよびDBA間の有意な発現変化を伴う、唯一の遺伝子をネズミ染色体3上で同定した。すべての系統で類似のレベルで発現される、Tnni3kに隣接する2つの遺伝子(CryzおよびLrrc44)、ならびに2つの対照遺伝子、Actb(β−アクチン)およびGapdhを示す。(B)qRT−PCRにより、マイクロアレイ分析によって同定される発現相違が確認される。各系統由来の5つの野生型マウス心臓由来のTnni3kのTaqMan qRT−PCRによって、DBAに比較して、B6およびAKRにおいて、転写レベルがより高い(およそ25倍)ことが確認される(**p>0.0001およびp>0.001)。DBA遺伝子バックグラウンド上、Tnni3k遺伝子座に、AKRアレルを宿するHrtfm2コンジェニック系統(DBA.AKR−Hrtfm2)由来の3つの心臓は、B6およびAKR心臓と類似の転写物レベルを示し、これはDBA心臓で観察されるものより有意により高い(**p>0.0001)。Actbは内因性対照として働いた。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を示す。(C)ウェスタンブロット分析によって、Tnni3kでDBAハプロタイプを共有する3つの系統が、検出可能なTnni3kタンパク質を示さない一方、B6ハプロタイプを有する3つの系統は、中程度から高い発現を示すことが示される。DBA.AKR−Hrtfm2コンジェニックマウスは、RNA発現に基づいて予測されるように、高発現を示す。心臓において中程度の発現を示す受容体チロシンキナーゼTek(http://symatlas.gnf.org/SymAtlas/)を、タンパク質装填対照として用いた(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)。
【図2】Tnni3kゲノム領域由来のコーディングおよび代表的なノンコーディング多型SNPは、2つの別個のハプロタイプ群を示す。2つのSNPハプロタイプは、Tnni3k転写物レベルと相関する。第1群(DBA、C3H、およびBalb/c)は、低レベルのTnni3kを示し、一方、第2群(B6、AKR、および129Sv)は、高レベルのTnni3kを示す。
【図3】C末端マウスTnni3kペプチドに対して作製されたポリクローナル抗体のウェスタンブロット分析。マウスTnni3k発現ベクターまたは空ベクター対照で一過性にトランスフェクションされた293T細胞由来の溶解物を示す対照ブロット。Tnni3kタンパク質は、予測されるように、およそ90kDaのサイズで、陽性対照溶解物中で可視である。DBA、AKRおよびB6マウス由来の心臓溶解物もまた示す。DBAはTnni3kタンパク質を示さず、一方、AKRおよびB6は強いタンパク質発現を示す。
【図4】図4A〜4D。DBAマウス由来の心臓におけるTnni3kの異常なスプライシング。(A)配列決定クロマトグラムは、B6およびDBA心臓由来のTnni3k cDNAにおけるエクソン19〜20境界を示す。点線は、イントロン19由来の4ヌクレオチドcDNA挿入(GTTT)の最初の塩基を示す。DBAにおいて適切にスプライシングされるわずかな比率の転写物が、点線の後の重複配列として見られうる。(B)B6(第一の部位/正常)およびDBA(第二の部位/異常)両方に関する、アミノ酸翻訳を伴う、隣接イントロン配列を含むエクソン19および20の配列。4ヌクレオチドGTTT挿入を太字で示す。(C)蛍光断片分析(GeneMapper、Applied Biosystems)を用いて、DBAにおける異常なスプライシングの割合を決定した。DBAにおける総メッセージのほぼ70%がミススプライシングされ、一方、B6およびAKRでは異常なスプライシングは観察されなかった。(D)単純付加数学的モデルを用いて、異なるスプライスドナー部位の荷重マトリックススコアを計算した(Staden, Nucleic Acids Res. 12:505−519(1984)、Bursetら, Nucleic Acids Res. 28:4364−4375(2000))。多様なドナー部位の計算された強度を示す。
【図5】図5Aおよび5B。rs57952686での配列は、異常なTnni3kスプライシングの原因である。in vitro系を用い、B6に比較して、DBAにおいて、エクソン19および20の間の異常なスプライシングにおけるイントロン19 SNP(rs57952686)の役割を試験した。(A)異常なスプライシングを試験するのに用いた、Tnni3kエクソン18〜20のin vitroスプライシング構築物の略図。エクソン18、19および20を含むDBAおよびB6由来のゲノム断片(4kb)を増幅し、そしてpSPL3スプライシングベクター内にクローニングした。さらに、部位特異的突然変異誘発を用いて、両方の構築物において、rs57952686で配列を改変した。スプライシング構築物を293T細胞にトランスフェクションし、そして48時間後にRNAを採取した。(B)Tnni3kスプライシングの分析によって、in vitro DBA構築物の異常なスプライシングが、野生型DBA心臓におけるスプライシングとよく似ているが、B6 in vitro構築物には異常な転写物が存在しないことが明らかになる。イントロン19中、+9位の非常に重要なヌクレオチドを構築物間で交換すると、スプライシングパターンはSNPの配列にしたがい、rs57952686での配列がスプライシング欠陥の原因であることが立証される。
【図6】図6Aおよび6B。ナンセンス変異依存分解機構は、Tnni3k転写物レベルの減少の原因である。HL−1心筋細胞をエメチンまたはシクロヘキシミドで処理して、NMDを遮断した。処理24時間後に細胞からRNAを単離した。蛍光RT−PCR断片分析を用いて、異常な転写物対野生型転写物の比を測定し、そしてqRT−PCRを用いて、actbに対するTnni3kメッセージレベルを決定した。モック処理した細胞が対照として作用した。(A)エメチンまたはシクロヘキシミドのいずれかでの処理は、正常にスプライシングされるメッセージに比較して、異常にスプライシングされるメッセージのレベルを優先的に増加させる(p>0.01)。(B)エメチンまたはシクロヘキシミドのいずれかでの処理は、モック処理細胞よりもおよそ16倍高く、Tnni3kメッセージの総レベルを増加させた(**p>0.001)。
【図7】図7Aおよび7B。AKR系統由来のHrtfm2遺伝子座を含むコンジェニック系統間の交雑は、CSQトランスジェニック増感系統(C+)に交雑した際、トランスジェニック増感系統に交雑したDBAと比較して、心機能の減少を示す。左心室拡張期および収縮期直径は、DBAマウスに比較して、コンジェニックマウスにおいて増加する。これは、コンジェニック系統における、短縮率減少を生じる。DBA系統は、検出可能なTnni3kタンパク質を発現せず、一方、コンジェニック系統はAKRで見られるレベルのおよそ1/2を発現する。これらのデータは、マウスTnni3k発現の天然レベルが、タンパク質を検出可能に発現しない系統に比較して、劣った心機能を生じることを示す。
【図8】中程度から高レベルのTNNI3K発現は、心筋疾患のCSQトランスジェニックモデルにおいて、早死を導く。Kaplan−Meier生存グラフは、TNNI3K(T)およびCSQ(C)トランスジェニック動物間の交雑、ならびにAKR由来のHrtfm2遺伝子座を1コピーしか生じない(1/2コンジェニックである)、コンジェニックHrtfm2系統(図2に記載する)およびCSQ(C)トランスジェニック系統間の交雑から生じる、異なる遺伝子型群の転帰を示す。トランスジェニック系統との交雑に関しては、二重陽性トランスジェニック(T+/C+)に関して、生存は、平均17日にひどく減少し、15〜21日の範囲であった。単一陽性(T+/C−、T−/C+)両方を含む他の遺伝子型を持つマウスのほぼすべてが、150日の終点をはるかに超えて生存した。3つの他の群に比較して、T+/C+の生存は、有意に減少した(p<0.00001)。Hrtfm2のAKRゲノムセグメントを含有するコンジェニック動物およびCSQトランスジェニックの交雑に関しては、マウスはやはり、対照に比較して生存減少を示す。これらのマウスにおけるTnni3kの発現レベルは、B6またはAKRのものの1/2であり、そしてTnni3kトランスジェニックよりおよそ5〜20倍低い。各群の動物数は、以下の通りである:T+/C+、n=12;T+/C−、n=18;T−/C+、n=14;T−/C−、n=18、1/2コンジェニック/C+、n=8。
【図9】図9Aおよび9B。C末端ヒトTNNI3Kペプチドに対して作製されたポリクローナル抗体のウェスタンブロット分析。(A)ヒトTNNI3K発現ベクターまたは空ベクター対照で一過性にトランスフェクションされた293T細胞由来の溶解物を示す対照ブロット。TNNI3Kタンパク質は、タンパク質配列から予測されるように、およそ90kDaのサイズで、TNNI3K溶解物中でのみ可視である。(B)いくつかのTNNI3Kトランスジェニックマウス由来の心臓溶解物を用いたウェスタンブロット。3つの系統由来の動物は、遺伝子型決定によって、導入遺伝子に関して陽性反応が出た(系統9、23および26)。ウェスタンブロットによって、トランスジェニックTNNI3Kタンパク質に関して陽性反応が出た、系統9の3世代由来のマウスおよび系統26の2世代由来のマウスを示す。各世代由来の心臓溶解物を調べて、トランスジェニックタンパク質の発現が連続していることを保証した。トランスジェニック転写物のSYBRグリーンqRT−PCR分析によって、B6心臓RNAにおいて測定される内因性Tnni3kよりも、TNNI3KトランスジェニックマウスにおけるTNNI3K導入遺伝子発現レベルが、5〜20倍高い範囲であることが示された。
【図10】図10Aおよび10B。TNNI3K発現は、心筋疾患のCSQトランスジェニックモデルにおいて、非常に損なわれた収縮機能を導く。TNNI3KおよびCSQトランスジェニック動物間の交雑由来の14日齢マウスに対して、Mモード心エコーを行った。(A)代表的な心エコーは、二重陽性トランスジェニックマウスが、重度の左心室収縮機能不全および心室拡張を示すことを示す。疾患進行のこの早期段階で予期されるように、TNNI3K−/CSQ+動物は、低レベルの拡張しか示さず、一方、TNNI3K+/CSQ−およびTNNI3K−/CSQ−動物は、正常な心機能を示す。(B)4つのありうる遺伝子型を持つマウス由来の心エコーデータの表。LVEDd、LVEDs、心拍数、短縮率(FS)およびmVCFcを示す。2匹の二重トランスジェニックマウスのみが、第14日、意識下心エコーで生き残り;他の3匹は処置中に死亡した。処置を生き延びた2匹に関して、個々のデータを別個に示す。データは、T−/C−、T+/C−およびT−/C+群に関する平均±S.D.によって表される。
【図11】図11Aおよび11B。TNNI3K発現は、心筋疾患の外科的に誘導したモデルにおいて、収縮機能不全を導く。大動脈縮窄術(TAC)前、ならびにTAC手術の4週後および8週後、心エコーを行った。TACの4週後および8週後、TNNI3K+マウス(n=11)およびTNNI3K−同腹仔(n=13)間で、LVEDs(A)およびFS(B)を比較した。LVEDsは、4週および8週のTNNI3K+マウスにおいて、有意により高かったが、手術前と統計的には異ならなかった。同様に、手術の4週後および8週後の短縮率はどちらも、TNNI3K+マウスにおいて有意に減少した。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を示す。
【図12A】ヒトTnni3kのアミノ酸配列および該タンパク質をコードする核酸配列。
【図12B】ヒトTnni3kのアミノ酸配列および該タンパク質をコードする核酸配列。
【図12C】ヒトTnni3kのアミノ酸配列および該タンパク質をコードする核酸配列。
【図12D】ヒトTnni3kのアミノ酸配列および該タンパク質をコードする核酸配列。
【図13】TNNI3K(赤)および他のサルコメア・タンパク質に対する抗体を用いて、TNNI3Kトランスジェニックマウス心臓切片に対して、同時免疫染色を行った。TNNI3Kは、ミオシン(緑)との相互染色パターンを示す。TNNI3K染色は、部分的にF−アクチン(ファロイジン、緑)と重なり、そして長軸方向切片において、サルコメアZ板タンパク質デスミン(緑)と独占的に共局在する。横断面において、TNNI3Kは、デスミン環構造内に局在する。各バーは5μmに相当する。
【図14】マウスTNNI3K(赤)およびデスミン(緑)に対する抗体を用いて、C57BL/6JおよびDBA/2J近交系マウス由来の心臓切片に対して、同時免疫染色を行った。先のqRT−PCRおよびウェスタンブロット結果(Wheelerら, PLoS Genet. Sep; 5(9):e1000647(2009). Epub 2009 Sep 18)と一致して、TNNI3K Z板発現パターンは、C57BL/2Jでのみ検出されるが、DBA/2Jマウスでは検出されない。TNNI3Kはまた、核周辺でも検出される(矢じり)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、少なくとも部分的に、Tnni3kレベルが、心筋疾患のマウスモデルにおける心臓疾患進行速度の大きな決定要因であることを立証する研究から生じる(以下の実施例を参照されたい)。この研究は、Tnni3kのキナーゼ活性が、疾患進行の修飾に必要であることをさらに立証する。本発明は、心筋疾患患者におけるTnni3kによる早発性心不全の誘導を含む、in vivoでのTnni3kの影響を阻害するのに使用可能な化合物を同定するための方法を提供する。本発明はまた、こうして同定される化合物に、そして該化合物を用いて、心筋疾患患者における心不全に対して防御するか、またはそのリスクを減少させる方法にも関する。
【0011】
1つの態様において、本発明は、Tnni3kに結合し、そしてそれによって、潜在的にTnni3kアンタゴニストとして機能する能力に関して、化合物をスクリーニングする方法に関する。Tnni3kには、2つの認識可能なタンパク質モチーフ:アミノ末端の一連のアンキリン・リピートおよびカルボキシ末端のチロシンキナーゼドメインが含まれる。全Tnni3k分子を本発明のスクリーニング法(アッセイ)で用いてもよいし、またはその断片、例えばチロシンキナーゼドメインを用いてもよく、同様に、Tnni3kまたはその断片を含む融合タンパク質を用いてもよい。
【0012】
この態様発明の結合アッセイには、Tnni3kまたはその断片(あるいはこれらを含有する融合タンパク質)を、好適に検出可能標識(例えば放射性または蛍光標識)を所持する試験化合物(タンパク質性または非タンパク質性)とインキュベーションする、細胞不含アッセイが含まれる。インキュベーション後、任意の多様な技術を用いて、試験化合物に結合したTnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)を未結合試験化合物から分離してもよい(例えば、Tnni3k(またはその断片あるいは融合タンパク質)を固体支持体(例えばプレートまたはカラム)に結合させて、そして未結合試験化合物を洗い流してもよい)。次いで、用いた標識を検出するのに適した技術を用いて(例えば放射標識試験化合物の場合は液体シンチレーション計測およびガンマ計測、または蛍光測定分析によって)、Tnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)に結合する試験化合物の量を測定してもよい。Tnni3k(またはその断片あるいは融合タンパク質)に結合する試験化合物は、Tnni3k活性(例えばキナーゼ活性)の候補阻害剤である。
【0013】
本態様の結合アッセイはまた、細胞不含競合結合アッセイの形を取ってもよい。こうしたアッセイにおいて、Tnni3kまたはその断片、あるいはこれらを含有する融合タンパク質を、Tnni3kと相互作用する(例えば結合する)ことが知られる化合物(例えば心臓トロポニンI(cTnI)またはミエリン塩基性タンパク質(MBP))とインキュベーションしてもよく、こうした既知の化合物は、好適に、検出可能標識(例えば放射性または蛍光標識)を所持する。試験化合物(タンパク質性または非タンパク質性)を反応に添加して、そして既知の(標識)化合物と、Tnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)への結合に関して競合する能力についてアッセイする。未結合の既知の(標識)化合物を、結合した既知の化合物から分離し、そして結合した既知の化合物の量を測定して、試験化合物が競合する能力を評価してもよい。未結合反応物質を容易に洗い流せるように、Tnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)を固体支持体に連結することによって、多数の試験化合物のスクリーニングが容易になるように、このアッセイの形式を整えてもよい。プラスチック支持体、例えばプラスチックプレート(例えば96ウェルディッシュ)が好ましい。
【0014】
上述の細胞不含アッセイで使用するのに適したTnni3kを天然供給源から単離してもよい。Tnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)を組換え的または化学的に調製してもよい。例えば既知の組換え技術を用いて、Tnni3kまたはその断片を融合タンパク質として調製してもよい。好ましい融合タンパク質には、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)部分、GFP(緑色蛍光タンパク質)部分(細胞分布研究に有用)またはHisタグ(アフィニティ精製に有用)が含まれる。非Tnni3k部分は、融合タンパク質中で、Tnni3k部分に対してN末端またはC末端に存在してもよい。
【0015】
上に示すように、Tnni3kまたはその断片、あるいは融合タンパク質は、プラスチックまたはガラスプレートまたはビーズ、クロマトグラフィー樹脂(例えばSepharose)、フィルターあるいは膜を含む、固体支持体に連結して存在していてもよい。こうした支持体にタンパク質を付着させる方法が当該技術分野に周知である。
【0016】
本発明の結合アッセイにはまた、細胞に基づくアッセイも含まれる。こうしたアッセイで使用するのに適した細胞には、Tnni3kを天然に発現する細胞、およびTnni3k(またはその断片あるいはこれらを含む融合タンパク質)を発現するように操作されている細胞が含まれる。好適には、ヒトTnni3kを発現している細胞を用いる。適切な細胞の例には、心臓細胞(例えばヒト心臓細胞(心筋細胞など))が含まれる。
【0017】
プロモーターに機能可能であるように連結されたTnni3k(例えば図11に示すコード配列)またはその断片あるいは融合タンパク質をコードする配列を含む発現構築物を、選択した宿主細胞内に導入することによって、Tnni3k(好適にはヒトTnni3kまたはその断片、あるいはこれらを含む融合タンパク質)を発現するように細胞を操作してもよい。多様なベクターおよびプロモーターを用いてもよい(例えばpCMV5発現ベクター)。
【0018】
試験化合物(好適には、検出可能(例えば放射性または蛍光)標識を所持する)を、Tnni3k(またはその断片あるいはこれらを含有する融合タンパク質)発現細胞を培養する培地に添加し、結合に好ましい条件下で細胞と試験化合物をインキュベーションし、そして次いで、未結合試験化合物を除去し、そして細胞と会合している試験化合物の量を測定することによって、細胞に基づく本発明の結合アッセイを行ってもよい。細胞不含アッセイの場合におけるように、Tnni3k(またはその断片あるいは融合物)に結合する試験化合物は、Tnni3k活性(例えばキナーゼ活性)の候補阻害剤である。
【0019】
細胞に基づくアッセイはまた、Tnni3kに結合することが知られる(そして好ましくは検出可能標識で標識されている)化合物を、Tnni3k(またはその断片あるいはこれらを含む融合タンパク質)発現細胞と、試験化合物の存在下および非存在下でインキュベーションする、競合アッセイの形を取ってもよい。試験化合物の非存在下で細胞と会合する量に比較した際の、試験化合物の存在下でインキュベーションした細胞と会合した既知の化合物の量を測定することによって、Tnni3k(または断片あるいは融合物)に対する試験化合物のアフィニティを評価してもよい。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、Tnni3kまたはその断片(あるいはこれらを含む融合タンパク質)を発現する細胞を試験化合物と接触させ、そして試験化合物がTnni3k活性を阻害する能力を決定する、細胞に基づくアッセイに関する。細胞は哺乳動物起源であってもよく、例えば心臓細胞(好ましくはヒト)であってもよい。試験化合物がTnni3k活性を阻害する能力の測定は、例えばTnni3K自己リン酸化、あるいは心臓特異的タンパク質またはMBPのTnni3Kリン酸化を監視することによって達成可能である。
【0021】
好ましい態様において、試験化合物がTnni3k活性を阻害する能力の測定は、Tnni3kまたはその断片(あるいは融合タンパク質)がターゲット分子をリン酸化する能力(例えばTnni3Kの自己リン酸化、あるいは心臓特異的タンパク質またはMBPのリン酸化)を測定することによって達成可能である。
【0022】
任意の特定の試験化合物(Tnni3kに結合する能力に基づいて選択された試験化合物を含む)のいかなる特定の影響も測定するため、例えば心機能に対する、選択した試験化合物の多様な濃度の影響を測定するアッセイを行ってもよい。
【0023】
本発明にはまた、本明細書記載のTnni3k/CSQトランスジェニック、および療法有効性に関して化合物をスクリーニングする際にこれらを用いる方法も含まれる。トランスジェニックを用いて、in vitroスクリーニングの結果として選択された化合物のin vivo有効性を検証してもよい。例えば心機能(例えば心エコーを用いる)または寿命を監視することによって、有効性を測定してもよい。
【0024】
別の態様において、本発明は、上記アッセイを用いて、Tnni3kに結合し、そして/または細胞生物活性に対するTnni3kの影響(例えばキナーゼの影響)を阻害することが可能であると同定された化合物に関する。
【0025】
本発明のさらなる態様において、Tnni3kの活性(例えばキナーゼ活性)を阻害する化合物を哺乳動物(ヒトまたは非ヒト)に投与して、特に、哺乳動物が心筋疾患を有する際に、心不全に対して防御するか、またはそのリスクを減少させることも可能である。この態様にしたがって、こうした防御またはリスクの減少を提供するのに十分な量で阻害剤を投与してもよい。投与量および投薬措置は、例えば、阻害剤、哺乳動物の状態および求める効果に応じて多様でありうることが認識されるであろう。以下の実施例に記載する研究に基づいて、Tnni3kの阻害は、通常の病理には、事実上、重要でないようである。したがって、Tnni3k活性の阻害剤の投与は、最小限の副作用しか持たないと予期されうる。
【0026】
上記アッセイにしたがって同定されるTnni3k阻害剤を、薬学的組成物として配合してもよい。こうした組成物は、阻害剤および薬学的に許容されうる希釈剤またはキャリアーを含む。阻害剤は、投薬単位型中で(例えば錠剤またはカプセルとして)または溶液として存在してもよく、特に注射による投与が予期される場合には、好ましくは無菌である。上に指摘されるように、用量および投薬措置は、例えば、患者、化合物および求める効果に応じて多様でありうる。最適用量および措置は、当業者によって容易に決定可能である。
【0027】
また、Tnni3kの発現を阻害する技術(例えばsiRNAまたはアンチセンス戦略)を療法的に用いて、心不全のリスクを減少させてもよい。
Tnni3Kレベルを予後的に用いてもよい。上昇したレベルのTnni3Kを有する患者は、心不全のリスクがより高いと予期されうる。
【0028】
さらにさらなる態様において、本発明は、キット、例えば本明細書記載のアッセイを実行するのに適したキットに関する。こうしたキットには、Tnni3kまたはその断片あるいはこれらを含む融合タンパク質、例えば検出可能標識を所持するものが含まれてもよい。キットには、Tnni3k特異的抗体が含まれてもよい。キットにはさらに、アッセイで使用するための補助的試薬(例えば緩衝剤)が含まれてもよい。キットには、1以上の容器手段内に配置された任意の上記構成要素が含まれてもよい。
【0029】
本発明の特定の側面が、以下の限定されない実施例に、より詳細に記載される(米国特許第6,261,818号、第6,500,654号、第6,660,490号、第6,987,000号、第7,371,380号、Fengら, Biochemistry(Mosc.)72:1199−204(2007)、Wangら, J. Cell. Mol. Med., November 16, 2007(出版前に電子公開)、Fengら, Gen. Physiol. Biophys. 26:104−109(2007)、およびKaramanら, Nature Biotechnology 26:127−132(2008)もまた参照されたい)。
【実施例】
【0030】
実施例1
実験詳細
動物の世話および取り扱い。デューク大学医療センターの施設内倫理委員会に認可されたプロトコルおよび動物保護規制にしたがって、すべてのマウスを取り扱った。本研究の過程で用いたすべての近交系マウス系統を、Jackson Laboratory(メイン州バーハーバー)から得た。CSQを過剰発現するトランスジェニックマウス(Jonesら, J. Clin. Invest. 101:1385−1393(1998)、Choら, J. Biol. Chem. 274:22251−22256(1999))をDBA/2J遺伝子バックグラウンドで維持した。
【0031】
DBA.AKR−Hrtfm2コンジェニックマウス。DBA/2Jに繰り返し戻し交雑することによって、DBA遺伝子バックグラウンド中、Hrtfm2遺伝子座でAKRゲノム配列を宿するコンジェニックマウスを生成した。世代N2で、Hrtfm2でヘテロ接合体であり、そして他のマッピングされた修飾因子遺伝子座でホモ接合体DBAであるブリーダーを選択した(Wheelerら, Mamm. Genome 16:414−423(2005))。1449のSNPを含むマウスMD連鎖パネル(Illumina、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、ゲノム全体のSNP遺伝子型決定を実行した。世代N6までに、動物は、ゲノム全体でDBAアレルに関してホモ接合体であり、そして染色体3上のHrtfm2を含有する領域であるおよそ10Mbの区間に関してのみ、ヘテロ接合性を示した。戻し交雑が世代N10に達したら、DBA.AKR−Hrtfm2マウスを交雑によって維持した。
【0032】
マウスRNA単離、マイクロアレイ分析およびqRT−PCR。3つの初代系統(B6、DBA、AKR)の各々由来の、年齢および性別がマッチした野生型動物から除去した心臓全体を用いて、RNA転写物レベルを調べた。RNeasyキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、総RNAを単離した。Affymetrixマウスプローブセット(マウス430 2.0アレイ、Affymetrix、カリフォルニア州サンタクララ)上で、マイクロアレイ分析を行った。GeneSpring GX 7.3発現分析(Agilent Technologies、カリフォルニア州サンタクララ)を用いて分析を行った。TaqMan発現分析に関しては、TRIzol試薬(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)を用いて、マウス心臓全体から総RNAを抽出した。高性能cDNAアーカイブキット(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて、1μgの総RNAからcDNAを合成し、そしてqRT−PCRのテンプレートとして用いた。あらかじめ設計した遺伝子発現アッセイ(TaqMan、ABI、アッセイID: Mm01318633_ml)を用いて、Tnni3k cDNAを増幅した。ベータ−アクチン(Actb)を内因性対照として用いた(TaqMan、ABI、カタログ番号4352341E)。ABI Prism 7000リアルタイムPCR系上で、すべての増幅を3つ組で(triplicate)行い、そしてABIソフトウェアで分析した。塩基対合のない両側T検定を用いて、すべての統計分析を行った。
【0033】
Tnni3kタンパク質発現の分析。プロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液中に再懸濁した瞬間凍結心臓組織を用いて、心臓全体のタンパク質溶解物を調製した。標準的方法で行うSDS−PAGEおよびウェスタンブロットによって、溶解物を分析した。マウスTnni3kタンパク質のC末端14アミノ酸(LHSRRNSGSFEDGN)に対して、ポリクローナルペプチド抗血清を発展させた。2匹のウサギ由来の抗血清をプロテインAカラム(GenScript、ニュージャージー州ピスカタウェイ)上で精製した。5%粉乳を含むTBST中、Tnni3k抗体を1:1000希釈で用いた。HRPにコンジュゲート化された二次抗ウサギ抗体を用い、その後、Pierce SuperSignal West Pico化学発光基質(Thermo Fisher Scientific、イリノイ州ロックフォード)とインキュベーションし、そしてX−OMATフィルム(Kodak)に曝露して、タンパク質バンドを視覚化してもよい。ウェスタンブロット分析を用いて、抗体の特異性を確認した。予期されるように、mTnni3k抗体は、全長Tnni3k発現ベクターで一過性にトランスフェクションした293T細胞から調製した溶解物から、そして野生型マウス心臓由来のタンパク質溶解物において、90kDaタンパク質を検出する(図3)。
【0034】
蛍光RT−PCRアッセイ。116bpまたは120bpいずれかのcDNA PCR産物を検出するよう設計されたプライマーを用いたqRT−PCRにcDNAを供した。順方向プライマーは、予測される4塩基挿入の25bp上流をターゲットとし、そして蛍光標識された:5’−6FAM−AGATTTCTGCAGTCCCTGGAT−3’であり、一方、非標識逆方向プライマーは、配列:5’−AAGACATCAGCCTTGATGGTG−3’を持ち、予測される4塩基挿入の48bp下流をターゲットとした。ABI Prism 3730 DNA配列決定装置(Applied Biosystems)上のGeneMapper分析プログラムを用いて、両方の断片の集積を定量化した。両方のcDNA産物の相対的増幅に基づいて、適切にスプライシングされた産物およびミススプライシングされた産物の比を計算した。
【0035】
Tnni3kスプライシング構築物のクローニング、細胞培養およびトランスフェクション。Tnni3kゲノムスプライシング構築物を生成するため、DBAゲノムDNAおよびB6 BACクローンRP23−180023をテンプレートとして用いて、イントロン17、エクソン18、イントロン18、エクソン19、イントロン19、エクソン20、およびイントロン20の一部を含む、ゲノム4kb断片を生成した。順方向PCRプライマーの配列は、5’−ACTTACTTATGTGCTTCTCTTAGTTATGTGC−3’であり;逆方向プライマーは、5’−GGATTTAAACATAGGTGTGTACCTAATTGT−3’であった。PCR産物をpSPL3(Invitrogen)内にサブクローニングした。直接配列決定によって、クローンを検証した。ヒト胚性腎HEK293T(293T)細胞(ATCC、バージニア州マナサス)を、10%ウシ胎児血清を含有するダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM、Gibco)中で、5%CO中、37℃で維持した。細胞を35mmプレート上で増殖させ、そして製造者のプロトコルにしたがってFuGene試薬(Roche、インディアナ州インディアナポリス)を用いて、1μgプラスミドDNAでトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後にTRIzol(Invitrogen)でRNAを抽出し、そして標準法を用いて、RT−PCRを行った。
【0036】
in vitroスプライシングアッセイ。HEK293T細胞を、6ウェルプレート中、およそ80%集密まで増殖させ、次いで、FuGene試薬と混合した1μgのDBAまたはB6−pSPL3プラスミドを用いてトランスフェクションした。すべてのトランスフェクションを3つ組で行った。トランスフェクション20時間後、TRIzolで総RNAを抽出した。標準法を用いて、RT−PCRを行った。上述の蛍光RT−PCRアッセイによって、Tnni3k構築物に関して、適切にスプライシングされた産物およびミススプライシングされた産物の比を決定した。
【0037】
部位特異的突然変異誘発。Pfu TurboプルーフリーディングDNAポリメラーゼとともに、QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)を用いて、DBA−pSPL3構築物(G→A)およびB6−pSPL3構築物(A→G)において、rs49812611(IVS19+9)で、一塩基を変化させた。すべてのクローンを配列決定して、SNPの適切な取り込みを検証した。
【0038】
心筋細胞の培養およびNMD遮断実験。HL−1心筋細胞(Claycombら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:2979−2984(1998))を、ウシ胎児血清10%、2mM L−グルタミン、100μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン、および100μMファンギゾンを補ったClaycomb培地(SAFC Laboratories、カンザス州レネクサ)中で培養した。細胞を37℃、5%COで培養した。HL−1心筋細胞は、混合B6−DBAマウスから単離した心臓より得られたが(Claycombら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:2979−2984(1998))、該細胞株由来のゲノムDNAの直接配列決定によって、これは、Tnni3k遺伝子座で、DBAアレルに関してホモ接合体であることが示された。HL−1細胞を5.7x10−2mMシクロヘキシミドまたは3.3x10−2mMエメチンで処理した。各処理を3つ組で行い、そして処理24時間後に、細胞からRNAを単離した。NMD遮断薬剤で処理した細胞および未処理対照から単離したRNAに対してRT−PCRを行った。上述のように、蛍光RT−PCRスプライシングアッセイを用いて、適切にスプライシングされた産物およびミススプライシングされた産物の比を測定した。上述のように、Tnni3k TaqManアッセイを用いて、総転写物レベルを測定した。
【0039】
TNNI3Kトランスジェニックマウスの生成および試験。正常ヒト心臓RNAからRT−PCR後に全長2.5kb TNNI3K cDNAを増幅し、そしてネズミα−ミオシン重鎖(αMHC)プロモーターの下流でベクター内にクローニングした。人工的minxイントロンをTNNI3K開始コドンの上流に挿入した。構築物を直線化し、そしてαMHCプロモーター、cDNAおよびSV40ポリアデニル化配列を含有する8kb断片を精製し、そしてマイクロインジェクションに用いた。B6SJLF1/J胚盤胞に、直線化した導入遺伝子をインジェクションし、そして続いて、代理マウス内に植え付けた。αMHCプロモーター中の5’プライマーおよびTNNI3K導入遺伝子中の3’プライマーを用いて、TNNI3K導入遺伝子の存在に関して、生じた創始動物の遺伝子型を決定した。DBA系統に戻し交雑するために、3つのトランスジェニック系統を選択した。ヒトC末端TNNI3Kペプチド(FHSCRNSSSFEDSS)に対して作製したポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories、テキサス州モンゴメリー)を用いた心臓溶解物のウェスタンブロット分析によって、各系統において、TNNI3K導入遺伝子の発現は類似のレベルであることが確認された(図7)。これをDBAに戻し交雑する数世代に関して反復した。創始動物および続く世代(N2〜N3)由来のDNAのサザンブロット分析によって、2つの創始系統が、10〜20コピーの導入遺伝子を所持する一方、第三の系統は、>100コピーを有するようであることが示された。いくつかのトランスジェニックマウス由来の心臓cDNAに対して、SYBRグリーン(Invitrogen)を用いたqRT−PCRを実行して、内因性Tnni3kおよびトランスジェニックTNNI3K発現間の相対発現相違を決定した。
【0040】
Mモード心エコー。Vero 770心エコー検査装置(Visual Sonics、カナダ・トロント)または15MHz周波数プローブを備えたHDI 5000心エコー検査装置(Phillips Electronics、ワシントン州ボセル)のいずれかを用いて、意識がある、12〜18週齢の間のマウスにおいて、経胸腔的2次元Mモード心エコーを行った。心機能の測定には、心拍、後壁および隔壁の厚さ、左心室拡張末期径(LVEDD)、左心室収縮末期径(LVESD)および駆出時間(ET)が含まれる。式:FS=(LVEDD−LVESD)/LVEDDを用いて、短縮率(FS)を計算した。先に記載されるように心拍補正線維短縮平均速度(rate corrected mean velocity of fiber shortening)(mVCFc)を計算した(Choら, J. Biol. Chem. 274:22251−22256(1999))。
【0041】
大動脈縮窄術。マウスを、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(2.5mg/kg)の混合物で麻酔し、そして先に記載されるように、大動脈縮窄術(TAC)を行った(Rockmanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8277−8281(1991))。14匹のTNNI3K導入遺伝子陽性動物および14匹の導入遺伝子陰性動物(野生型)同腹仔に対して、10週齢でTACを行った。1匹の導入遺伝子陰性対照および3匹の導入遺伝子陽性動物が手術後に死亡し、これはこの処置の通常の合併症である。次いで、手術4週後および8週後に、心エコー(上記の通り)によって、残った24匹のマウスを分析した。
【0042】
結果
Hrtfm遺伝子座に関する候補遺伝子を同定する努力の一部として、これらの研究で用いた系統由来の心臓組織のマイクロアレイ分析を行って、転写物レベルの相違を示す遺伝子を同定した。Hrtfm2連鎖ピーク下、共有ハプロタイプブロック内の21の遺伝子マッピングのうち(Wheelerら, Mamm. Genome 16:414−423(2005))、1つの遺伝子のみが、防御系統DBA/2J(DBA)、ならびに感受性系統C57/BL6(B6)およびAKR間で2倍より大きい発現相違を示した。Tnni3kの転写物レベルは、DBAに比較して、B6およびAKRで12倍上昇しており、一方、区間内のすべての他のものの例として、隣接遺伝子は、有意には上昇していなかった(図1A)。DBAに比較して、B6およびAKR系統において25倍より高いメッセージレベルを示すqRT−PCRによって、これらの相違を検証した(図1B)。ゲノム全体の転写物レベル研究と平行して、Hrtfm2に渡ってAKRアレルを、そして残りのゲノム全体に渡って、DBAアレルを所持するコンジェニック系統を生成することによって、Hrtfm2遺伝子座を遺伝的に単離した。定量的RT−PCRによれば、DBA.AKR−Hrtfm2コンジェニックマウス由来の心臓におけるTnni3k転写物レベルは、B6およびAKR(Hrtfm2遺伝子座の供給源)で観察されるレベルに匹敵し、そしてDBA(ゲノムバックグラウンド)で見られるものには匹敵しないことが示され、Tnni3k発現相違は、ゲノムの別の場所にマッピングされるトランス作用因子よりも、Hrtfm2遺伝子座でのシス作用配列要素によって駆動されることが示唆された。
【0043】
6匹の近交系マウス系統から調製された心臓組織を分析して、Tnni3k転写物のレベルの相違が、タンパク質レベルで観察されるかどうかを決定した。Tnni3kでDBAまたはB6ハプロタイプいずれかを共有する、3つのさらなる系統を選択した(図2)。転写物レベルによって予期されるように、B6ハプロタイプを共有するB6、AKR、129X1/SvおよびDBA.AKR−Hrtfm2コンジェニックにおいては、強いレベルのTnni3kタンパク質が検出されたが、DBAハプロタイプを共有するDBA、A/JおよびBalb/cに関しては、タンパク質はまったく検出されなかった(図1C)。したがって、抗血清検出限界内で(図3において検証)、Tnni3kタンパク質は、遺伝子に渡ってDBAハプロタイプを共有する系統の心臓には存在しない。後者の系統は、有効にTnni3kヌル遺伝子型を示し、該遺伝子型は発生または生存に見かけの影響はまったく示さず、そして明らかな病的結果を示さない。
【0044】
Tnni3kは関連する系統間で、1つの非同義および2つの同義SNP(rs30712233、T659I; rs30709744、D598D;およびrs30712230、T639T)を含有する。Tnni3k cDNAを配列決定することによって、別の系統特異的配列改変が注目された。B6ハプロタイプを持つすべての系統は、公表されるcDNAと同一の主要転写物を示した。対照的に、DBAハプロタイプを持つすべての系統は、2つの転写物の混合物を示し;公表される転写物とともに、エクソン19および20の間に4ヌクレオチド挿入を含有する第二の転写物があった(図4A)。この挿入は、ゲノムDNAには存在せず、そしてイントロン19からエクソン19への4ヌクレオチドの付加に相当する(図4B)。フレームシフトした転写物は、DBA心臓mRNAのメッセージのおよそ70%を占めるが、B6またはAKRには存在しないことが決定された(図4C)。マウスまたはいかなる他の種に関するESTデータベースのいずれにもこれは見られず、これが、正常ドナー部位の4ヌクレオチド下流の第二の「gt」スプライスドナー部位の使用によって引き起こされる欠陥スプライシングによって生成される異常なメッセージに相当することが示唆される。
【0045】
エクソン19および20の周囲のゲノム領域は、50を超えるSNPを宿する。これらはいずれも異常なスプライシングを引き起こしうるが、スプライスドナー接合部に最も近いSNPに焦点を当てた。B6および関連系統(AKR、129X1/SvJ、MRL)は、rs49812611で「a」を示す一方、DBAおよび関連系統(A/J、C3H、Balb/c)は「g」を示す。このSNPは、正常スプライス部位の+9位にあるが、異常なスプライス部位の+5位にある。したがって、DBAおよび関連系統は、異常な部位の+5位に、コンセンサス「g」配列を宿する。ありうるスプライスドナー部位各々に関する、スプライスドナー強度に関する荷重マトリックススコア(Staden, Nucleic Acids Res. 12:505−519(1984)、Bursetら, Nucleic Acids Res. 28:4364−4375(2000))によって、rs49812611に「g」ヌクレオチドが存在する場合のみ、第二の(異常な)スプライス部位が、領域中で最強のスプライス部位であることが確認される(図4D)。
【0046】
in vitroスプライシング系において、rs49812611が異常なスプライシングの原因であるという仮説を試験した。B6およびDBA両方に由来するエクソン18〜20に渡るゲノムDNA断片をサブクローニングし、そして293T細胞内にトランスフェクションした。これらのin vitro構築物は、in vivoで観察されるスプライシングパターンを反復し、スプライシング欠陥が、クローニングされた4kb断片上に存在するシス作用配列によって引き起こされることが確認された(図5B)。部位特異的突然変異誘発を用いて、異常なスプライシングにおけるrs49812611の役割を調べた。このSNPでの単一変化は、スプライシングパターンを完全に逆転させた。「a」アレルを所持するように改変されたDBAゲノムDNAは、異常なスプライス産物をまったく作製せず、一方、「g」アレルを所持するB6 DNAは、異常な産物を作製する(図5B)。これらの結果によって、rs49812611が、異常なスプライシングメッセージの存在または非存在の原因であるが、異常なスプライシングは、全体としては、他の配列相違によっても調節されうることが示される。
【0047】
Tnni3kは、元来、系統間の転写物レベルにおける相違による位置候補遺伝子として同定されたため、ナンセンス変異依存分解機構(NMD)が、DBAにおけるフレームシフトしたメッセージレベルの劇的な減少の原因であると仮定された。これは、マウス心筋細胞株、HL−1で試験され(Claycombら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:2979−2984(1998))、該系統は、Tnni3kで、DBAハプロタイプを共有する。HL−1細胞が、野生型DBA心臓に匹敵するレベルの異常なTnni3kおよび正常Tnni3kの両方を発現し、大部分のメッセージが4ヌクレオチド挿入を所持することが、まず確認された。次いで、HL−1心筋細胞を、NMDを遮断する2つの薬剤、シクロヘキシミドおよびエメチンで処理した(Carterら, J. Biol. Chem. 270:28995−29003(1995))。いずれの薬剤での処理も、正常にスプライシングされたメッセージに比較して、異常にスプライシングされた転写物のレベルを増加させた(図6A)。予期されるように、これらの処理は、総Tnni3k mRNAレベルを16倍増加させ(図6B)、NMDが転写物レベルで観察される相違において、主要な役割を果たしていることが確認された。
【0048】
これらの実験は、Tnni3k転写物レベルにおいて観察される相違の根底にある分子機構を決定するが、これらは、心筋疾患の進行におけるTnni3kのin vivoの役割に取り組んでいなかった。次いで、Tnni3kが、Hrtfm2遺伝子座の根底にある遺伝子であるかどうかに関して、研究を行った。Hrtfm2コンジェニック系統(DBA.AKR−Hrtfm2)をまず、CSQトランスジェニック増感系統に交雑した。この系統は、染色体3を除くすべての染色体でDBAゲノムバックグラウンドを保持し、染色体3は、Tnni3k遺伝子に渡るAKRハプロタイプを含めて、Hrtfm2を含むAKRゲノムバックグラウンドのおよそ10Mbを含有する。この交雑から生じるF1動物は、Tnni3kでAKRアレルを1コピーしか持たず、親AKR系統に比較して、Tnni3k発現レベルが半分まで、有効に減少している。Tnni3kの通常(AKR)用量の半分を発現するコンジェニック系統は、DBA対照に比較して、より拡張した心臓および減少した心機能(短縮率の減少)を示す(図7)。これらのデータは、Tnni3kの通常用量の1/2であってさえ、心疾患の背景において、拡張の加速および心機能不全を生じることを示す。
【0049】
CSQ導入遺伝子の存在下で、DBA.AKR−Hrtfm2コンジェニックマウスはまた、対照マウスに比較して、生存の減少も示す。コンジェニックマウスは100日までに死亡し、AKRで見られたTnni3k発現レベルの1/2が、心不全のより早期の開始によって、生存減少を引き起こすことが示される(図8)。
【0050】
Tnni3kがこの影響の原因であることを検証するため、心臓においてヒトTNNI3Kを発現する3つのトランスジェニックマウス系統を生成した(図9)。定量的RT−PCRによって、ヒト導入遺伝子が、内因性B6またはAKRマウス転写物より5〜20倍高いレベルで発現されることが示された。TNNI3K導入遺伝子をDBAバックグラウンド(検出可能なネズミTnni3kタンパク質なし)内に遺伝子移入して、CSQトランスジェニック増感因子の存在下で、TNNI3K発現増加が、疾患進行を加速させるという仮説を試験した。3つの系統すべてのF1世代マウスは、1年より長く生存し、そして第12週および21週のトランスジェニック動物における心機能は、野生型動物と区別不能であった。したがって、TNNI3K発現のみでは、明白な心筋疾患または心不全を生じない。これは、CSQ導入遺伝子の非存在下では、B6が強いレベルのTnni3kを発現する一方、DBAが検出可能なタンパク質を示さないにもかかわらず、B6およびDBA動物間の心機能には測定可能な相違がないため、予期されないことではなかった。
【0051】
対照的に、CSQ増感因子の背景におけるTNNI3Kの発現は、早死につながる、重度の心筋疾患を生じる(図8)。CSQ(増感因子)およびTNNI3K(修飾因子)間の交雑から生じるありうる4つの遺伝子型のうち、二重トランスジェニックのみが、生存の劇的な減少を示した。他の遺伝子型はすべて、平均、少なくとも150日(実験終点)まで生存する一方、CSQおよびTNNI3Kを発現する動物は、21日以内に死亡した。この早死の表現型は、CSQ導入遺伝子をB6(強いレベルの内因性Tnni3k)内に遺伝子移入しようとする試みの際に、以前観察されたものと類似であった。DBAバックグラウンドにおける増感因子から出発すると(Choら, J. Biol. Chem. 274:22251−22256(1999))、N2動物が30日〜40日で死亡したため、第二世代以降にCSQ導入遺伝子を持ち越すことは不可能であった(Suzukiら, Circulation 105:1824−1829(2002))。
【0052】
早死が心機能不全に関連するかどうかを決定するため、再現可能なデータが得られる最も早い時期である第14日、4つのありうる遺伝子型すべてを持つ動物に対して、心エコーを行った。二重トランスジェニックマウスのみが、重度の収縮期機能不全、心室拡張、および心拍数減少によって特徴付けられる異常な心機能を示す(図10)。心機能が非常に損なわれており、そして処置中に心不全のリスクがあるため、生存測定に用いた二重トランスジェニック動物は、同時に心エコー表現型を決定するには使用不能であった。この遺伝子型の5匹の動物のうち3匹は、心エコー中に死亡した。したがって、二重トランスジェニック動物は、14日(またはより早く)までに心筋疾患を発展させ、そしてその後まもなく死亡する。
【0053】
これらのデータは、TNNI3K発現が、心筋疾患のCSQトランスジェニックモデルにおいて、早発性心不全を誘導することを示す。次に、カルセクエストリン過剰発現に関連しない心筋疾患のモデルにおいて、TNNI3Kが疾患修飾効果を有するかどうかに関する研究を行った。大動脈縮窄術(TAC)は、圧過負荷に反応して、左心室肥大を誘導する(Rockmanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8277−8281(1991))。TNNI3Kトランスジェニック動物および野生型同腹仔対照に対してTACを行った。TAC手術の4週後および8週後、心エコーによって、心機能を分析した。導入遺伝子陽性マウスは、手術の4週後および8週後、収縮期機能不全(LVEDs増加)および有意に減少した短縮率を示した(図11)。これによって、TNNI3K過剰発現が、CSQ増感因子の背景外で、心機能に有害な影響を有することが確認される。
【0054】
TNNI3Kは、心臓トロポニンI(cTnI)と相互作用する心臓特異的プロテインキナーゼとして同定された(Zhaoら, J. Mol. Med. 81:297−304(2003))。しかし、今日まで、cTnIは、リン酸化ターゲットとして確立されてきておらず、そしてTNNI3Kのin vivo機能は不明なままである。この新規キナーゼのターゲットに関わらず、このタンパク質の発現が、2つの独立な心筋疾患モデルにおいて、疾患進行を加速するため、TNNI3Kレベルは、心疾患進行速度の主な決定要因であることが示された。多くの近交系マウス系統は、この遺伝子に関して、事実上ヌルであるが、重要なことに、ヌル表現型は防御性である。このタンパク質のレベルを、ほぼ存在しない程度まで、劇的に減少させると、正常な発生または長期生存にはまったく影響がないようであり、このキナーゼ活性の阻害が、病的副作用をほとんどまたはまったく持たないと示唆された。プロテインキナーゼは、非常に重要な細胞周期制御因子であるため、キナーゼ阻害剤は、新規癌療法の発展の大きな手段となってきている。TNNI3Kは、心疾患の背景において、類似の小分子キナーゼ阻害剤を発展させるための理想的な候補になりうる。Tnni3k相同分子種のヌル・アレルは、ヒト集団に存在するとは予期されず、したがって、ほとんどすべてのヒト心筋疾患患者は、原則として、キナーゼ阻害レベルで介入するのに適した被験体であろう。TNNI3Kの選択的阻害は、疾患進行を遅らせ、そして迅速に進行する心疾患を持つ個体を治療するのに有益であると証明されうるため、特に有用であろう。これらの疾患モデルの背景におけるキナーゼ阻害のさらなる研究は、心疾患の新規治療につながりうる。
【0055】
実施例2
正常心筋細胞におけるTnni3kタンパク質の機能を決定する最初の段階として、マウス心組織内のその位置を調べた。ヒトTnni3kタンパク質に特異的な抗血清を用いて、Tnni3kトランスジェニックマウスにおける外因性(トランスジェニック)タンパク質の位置を探査した(probe)。これらのマウスは、心臓特異的心臓ミオシン重鎖プロモーターからヒトTnni3kタンパク質を発現する。重要なことに、これらのトランスジェニックマウスは、内因性マウスTnni3kタンパク質を検出可能に発現しない、DBA/2Jバックグラウンドに戻し交雑されている。したがって、いかなる染色も、マウス組織中に存在するヒトタンパク質による。Tnni3k染色(赤)は、心臓サルコメアの構造構成要素であることと一致する、線状の染色パターンを示す(図13)。これはTnni3kを構造タンパク質とする最初の記載である。サルコメアは、心筋および骨格筋両方の基礎的な構造単位であり、そして筋収縮に直接関与する。
【0056】
Tnni3kが複雑なサルコメア構造内に位置するかどうかを決定するため、心臓組織切片をサルコメアの多様な構成要素に特異的な他のタンパク質に対する抗血清と共染色した。Tnni3kは、サルコメアのZ板(Z線とも呼ばれる)の古典的なマーカーであるデスミン(合わせた画像中、黄色)とのみ共局在する。Z板は、サルコメアの非常に重要な構成要素の付着部位であり、これには、ミオシンおよびアクチンフィラメントが含まれる。図14は、正常マウスTnni3kタンパク質がまた、デスミンと同一の線状染色パターンを示し、そして共局在することを示す。ヒト・トランスジェニックタンパク質の局在データは、正常マウスタンパク質のものに匹敵し、トランスジェニックデータがアーチファクトでないことを示す。重要なことに、DBA/2Jマウスは、この線状染色パターンを示さず、DBA/2Jマウス(および関連系統)がこのタンパク質を発現しないというデータと一致する。これは、Tnni3kをサルコメアZ板タンパク質とする最初の記述である。ウェスタンブロットで示すように、DBA/2JおよびマウスTnni3k遺伝子座で同じ遺伝子ハプロタイプを持つ他の系統が、可視であるいかなるTnni3kタンパク質も発現せず、そしてなお、表現型が完全に正常であるため、このタンパク質は、見かけ上、完全に不要である。したがって、Tnni3kは、不要であり、そして正常な心機能に必要とされないため、キナーゼ阻害の合理的なターゲットを提供する。
【0057】
上に引用するすべての文献および他の情報供給源は、その全体が本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓トロポニンI相互作用キナーゼ(Tnni3k)活性の候補阻害剤を同定する方法であって:
i)Tnni3kまたはその断片を試験化合物とインキュベーションし、そして
ii)前記試験化合物の前記Tnni3kまたは前記その断片への結合に関してアッセイする
工程を含み、
ここで、前記Tnni3kまたは前記その断片に結合する試験化合物は、Tnni3k活性の候補阻害剤である
前記方法。
【請求項2】
前記断片が、Tnni3kのチロシンキナーゼドメインまたはアンキリン・リピートを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(i)において、Tnni3kまたは前記その断片を含む融合タンパク質を、前記試験化合物とインキュベーションする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記試験化合物が非タンパク質性である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記試験化合物が検出可能標識を所持する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記標識が放射性または蛍光標識である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記Tnni3kまたは前記その断片が固体支持体に結合している、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記Tnni3k活性がキナーゼ活性である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記方法が細胞不含法である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記Tnni3kまたは前記その断片が細胞中に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記細胞がヒトTnni3kを発現している細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記細胞がヒト心臓細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記心臓細胞が心筋細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記細胞がヒトTnni3kまたは前記その断片を発現するよう操作されている、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記細胞を培養する培地に、前記試験化合物を添加する、請求項10記載の方法。
【請求項16】
Tnni3k活性の候補阻害剤を同定する方法であって、Tnni3kまたはその断片を、Tnni3kおよび試験化合物と相互作用することが知られる化合物とインキュベーションし、そして前記試験化合物が、Tnni3kと相互作用することが知られる前記化合物と、前記Tnni3kまたは前記その断片への結合に関して、競合する能力を決定する
工程を含み、
ここで、Tnni3と相互作用することが知られる前記化合物と、前記Tnni3kまたは前記その断片への結合に関して競合する試験化合物は、Tnni3k活性の候補阻害剤である
前記方法。
【請求項17】
前記Tnni3kと相互作用することが知られる前記化合物が、心臓トロポニンI(cTnI)またはミエリン塩基性タンパク質(MBP)である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記Tnni3kと相互作用することが知られる前記化合物が、検出可能標識を所持する、請求項16記載の方法。
【請求項19】
Tnni3k活性の阻害剤を同定する方法であって、Tnni3k、またはTnni3k活性を有するその断片を発現する細胞を、試験化合物の存在下および非存在下で培養し、そして前記Tnni3kまたは前記その断片が、前記試験化合物の存在下および非存在下でターゲット分子をリン酸化する能力を決定する工程を含み、ここで、前記試験化合物の存在下での前記ターゲット分子のリン酸化レベルの減少が、前記試験化合物がTnni3k活性の阻害剤であることを示す、前記方法。
【請求項20】
前記ターゲット分子が、Tnni3k、心臓特異的タンパク質またはMBPである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
Tnni3k/CSQトランスジェニック動物。
【請求項22】
心不全に対して防御するか、または心不全のリスクを減少させる必要がある哺乳動物において、心不全に対して防御するか、または心不全のリスクを減少させる方法であって、前記哺乳動物に、Tnni3kの活性またはTnni3kの発現を阻害する化合物を、前記防御または前記リスク減少を達成するのに十分な量で投与する工程を含む、前記方法。
【請求項23】
前記哺乳動物が心筋疾患を有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
Tnni3kの発現を阻害するsiRNA分子またはアンチセンス分子を投与する工程を含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
請求項1または請求項16の方法によって同定可能な、Tnni3k活性の候補阻害剤。
【請求項26】
請求項25の候補阻害剤および薬学的に許容されうる希釈剤またはキャリアーを含む、組成物。
【請求項27】
請求項19の方法によって同定可能な、Tnni3k活性の阻害剤。
【請求項28】
請求項27の阻害剤および薬学的に許容されうる希釈剤またはキャリアーを含む、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−507713(P2012−507713A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534523(P2011−534523)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/005922
【国際公開番号】WO2010/062365
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(506159437)デューク ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】