説明

心律動障害を治療するための後期継代間葉系幹細胞(MSC)の使用

本発明は、心律動障害を治療するための後期継代間葉系幹細胞(MSC)の使用に関する方法および組成物を提供する。本発明の後期継代MSCを使用して、心律動障害に罹患している対象の心臓に、生物学的ペースメーカー活性をもたらし、かつ/またはバイパスブリッジをもたらすことができる。生物学的ペースメーカー活性および/またはバイパスブリッジは、単独でまたは電気的ペースメーカーと共に対象にもたらすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本研究は、USPHS-NHLBI助成金HL-28958およびHL-67101により支援された。米国政府は本発明の権利を有し得る。
【0002】
本発明は、心律動障害を治療するための後期継代間葉系幹細胞(MSC)の使用に関する方法および組成物を提供する。本発明の後期継代MSCを使用して、心律動障害に罹患している対象の心臓に、生物学的ペースメーカー活性をもたらし、かつ/またはバイパスブリッジをもたらすことができる。生物学的ペースメーカー活性および/またはバイパスブリッジは、単独でまたは電気的ペースメーカーと共に対象にもたらすことができる。本発明は、後期継代MSCが、骨形成、軟骨形成または脂質生成系統の細胞に分化する能力を喪失することにより、その安全性および効力が高まるという発見に基づいている。
【背景技術】
【0003】
心不全は、医学的管理にもかかわらず進行性であることが名高い疾患である。末期心不全の発生数と外科的治療とのギャップの広がりは、大部分には、ドナー臓器の不足に起因する。したがって、ドナー臓器の入手可能性に依存しない、損傷した心臓組織の代替治療法に対する必要性が存在する。
【0004】
間葉系幹細胞を心臓合胞体への遺伝子導入用ビヒクルとして使用することができるが、このような細胞の使用についての1つの重大な欠点は、骨形成、軟骨形成または脂質生成系統の様々な種類の細胞に分化するそれらの能力である。本発明は、後期継代MSCが様々な系統に沿って分化する能力を喪失することによって、安全性および効力が増大するという発見に基づいている。したがって、本発明は、後期継代MSCの使用に基づいて心臓障害を治療するための新規方法および組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,849,611号
【特許文献2】米国特許出願第10/342,506号
【特許文献3】米国特許出願第10/757,826号
【特許文献4】米国仮特許出願第60/715,934号
【特許文献5】米国仮特許出願第60/832,515号
【特許文献6】国際特許出願PCT/US04/042953号
【特許文献7】米国特許出願第11/490,760号
【特許文献8】米国特許第5,983,138号
【特許文献9】米国特許第5,318,597号
【特許文献10】米国特許第5,376,106号
【特許文献11】米国特許出願第60/701,312号
【特許文献12】米国特許出願第60/781,723号
【特許文献13】米国特許出願第11/490,997号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chenら、2001、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、98:11277〜11282頁
【非特許文献2】Chenら、2001、J Gen Physiol、117:491〜504頁
【非特許文献3】Tsangら、2004、J Biol Chem、279:43752〜43759頁
【非特許文献4】Vemanaら、2004、J Gen Physiol、123:21〜32頁
【非特許文献5】MacriおよびAccili、2004、J Biol Chem、279:16832〜16846頁
【非特許文献6】Decherら、2004、J Biol Chem、279:13859〜13865頁
【非特許文献7】Mitchesonら、2000、J Gen Physiol、115:229〜40頁
【非特許文献8】Luら、2003、J Physiol、551:253〜62頁
【非特許文献9】Piperら、2005、J Biol Chem、280:7206〜17頁
【非特許文献10】Sambrook Jら、2000、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)
【非特許文献11】Ausubelら(1996)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons Inc.、USA
【非特許文献12】Strauss,M.およびBarranger,J.A.、1997、Concepts in Gene Therapy、Walter de Gruyter&Co.、ベルリン
【非特許文献13】Goldspielら、1993、Clinical Pharmacy 12:488〜505頁
【非特許文献14】WuおよびWu、1991、Biotherapy 3:87〜95頁
【非特許文献15】Tolstoshev、1993、Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.33:573〜596頁
【非特許文献16】Mulligan、1993、Science、260:926〜932頁
【非特許文献17】MorganおよびAnderson、1993、Ann.Rev.Biochem.、62:191〜217頁
【非特許文献18】1993、TIBTECH 11(5):155〜215頁
【非特許文献19】Pacemaker Timing Cycles and Electrocardiography、David L.Hayes、M.D.、Cardiac Pacing and Defibrillationの第6章、201〜223頁、Mayo Foundation、2000
【非特許文献20】Types of Pacemakers and Hemodynamics of Pacing、A Practical Guide to Cardiac Pacing-Fifth Editionの第5章、78〜84頁、Cippincott Williams&Wilkins、フィラデルフィア(2000)
【非特許文献21】「Remington’s Pharmaceutical sciences」、E.W.Martin
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、心臓障害を治療するための後期継代MSCの使用に関する方法および組成物を提供する。本発明は、後期継代MSCが、骨形成、軟骨形成または脂質生成系統の細胞に分化する能力を喪失することにより、その安全性および効力が高まるという発見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、実質的に分化することができない後期継代MSCを含む組成物に関する。好ましい実施形態では、後期継代MSCは少なくとも9回継代されている。さらに、本発明の後期継代MSCは、CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現するが、CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しない。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態では、後期継代MSCを、目的のタンパク質またはオリゴヌクレオチドを発現するように遺伝子工学的に作製することができる。このようなタンパク質またはオリゴヌクレオチドは、生物学的ペースメーカー活性をもたらすことができるものであってもよい。
【0010】
本発明の特定実施形態では、後期継代MSCは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現するように工学的に作製され、HCNチャネルの発現は前記細胞内でペースメーカー電流を誘導するのに効果的である。本発明の実施形態では、発現されたHCNチャネルは、突然変異またはキメラHCNチャネルである。キメラHCNチャネルは、アミノ末端部分と、膜内部分と、カルボキシル末端部分とを含むHCNチャネルであり、これらの部分は、2つ以上のHCNアイソフォームに由来する。本発明の好ましい実施形態では、キメラまたは突然変異HCNチャネルは、野生型HCNチャネルと比較して、速い動態、ポジティブな活性化、発現レベルの増大、安定性の増大、亢進した環状ヌクレオチド応答性(enhanced cyclic nucleotide responsiveness)および亢進した神経液性応答からなる群から選択される向上した特徴をもたらす。また、このような後期継代MSCを、HCNチャネルと共にMiRP1ベータサブユニットを機能的に発現するように工学的に作製することができる。
【0011】
さらに、本発明は、後期継代MSCを含む生物学的ペースメーカーであって、この後期継代MSCが、対象内に移植されたときに、該細胞内でペースメーカー活性を誘導するのに効果的なレベルで、MiRP1ベータサブユニットまたはその突然変異体を伴ってまたは伴わないで、HCNイオンチャネルまたはその突然変異体もしくはキメラ体を機能的に発現する、生物学的ペースメーカーを提供する。
【0012】
本発明はさらに、実質的に分化することができない後期継代MSCの集団と、医薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。
【0013】
本発明はさらに、実質的に分化することができないギャップジャンクション結合型後期継代MSCを含むバイパスブリッジであって、ブリッジが第1端部および第2端部を有し、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、電気信号が心臓内の2つの部位間で管を通って伝播することが可能になるバイパスブリッジを提供する。本発明の特定実施形態では、第1端部を心房に装着することができ、第2端部を心室に装着することができ、その結果、ペースメーカーおよび/または電流/信号が心房から管を通って伝播して心室を興奮させることができる。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態では、バイパス管の細胞は、心臓コネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよび補助サブユニット;ナトリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニット;ならびに、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を機能的に発現する。
【0015】
本発明の別の実施形態では、バイパスブリッジの細胞は、(i)前記細胞内でペースメーカー電流を生成することができる過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネル、(ii)アミノ末端部分と、膜内部分と、カルボキシ末端部分とを含むキメラHCNチャネルであって、前記部分が2つ以上のHCNアイソフォームに由来し、発現されたキメラHCNチャネルが前記細胞内でペースメーカー電流を生成するキメラHCNチャネル、または(c)前記細胞内でペースメーカー電流を生成する突然変異HCNチャネルを機能的に発現する。
【0016】
さらに、本発明は、(1)電気的ペースメーカー、(2)(a)HCNイオンチャネル、もしくは(b)キメラHCNチャネル、もしくは(c)突然変異HCNチャネルを機能的に発現する移植可能な後期継代MSCを含み、前記細胞が対象の心臓内に移植されると、発現されたHCN、キメラHCNまたは突然変異HCNチャネルが有効なペースメーカー電流を生成する生物学的ペースメーカー、ならびに/または(3)第1端部および第2端部を有するギャップジャンクション結合型後期継代MSCのストリップを含み、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、ペースメーカーおよび/または電気信号/電流が心臓内の2つの部位間で管を通って伝達することが可能になるバイパスブリッジを含むタンデムペースメーカーシステムにおけるMSCの使用を提供する。本発明の実施形態では、タンデムシステムの生物学的ペースメーカーは、少なくとも約5,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、タンデムペースメーカーシステムは、少なくとも約700,000個の後期継代MSCを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】脂質生成分化に曝露した第4継代hMSCにおける脂肪空胞を示す写真である。
【図2】まず、第4継代hMSCにPIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトし、その後、該hMSCを脂質生成分化に曝露したことを示す写真である。脂肪空胞を有する細胞はわずかしかないが、オイルレッドOでの染色は、依然として有意数の陽性(赤)細胞を例証している。
【図3】第9継代非トランスフェクトhMSCの脂質生成分化が最小であることを、わずかな脂肪空胞の存在により実証している写真である。
【図4】PIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトした第9継代hMSCでは脂質生成分化が認められないことを示す写真である。
【図5】第3継代および第8継代hMSC(右側パネル)ならびに第3継代、第5継代および第9継代hMSCおよび第2継代イヌhMSC(右側パネル)においてコネキシン43が豊富に発現していることを実証しているウェスタンブロットである。
【図6】アポトーシス細胞についてのカスパーゼ活性化アッセイを示す図である。第3継代、第5継代または第10継代のhMSCに関して最小の活性化が観察され、これは、アポトーシスの素因がないことを示している。
【図7】第2継代、第3継代および第9継代hMSCのゲル電気泳動によるDNA分析を示す図である。DNA断片化はなく、これは、これらの継代hMSCがアポトーシスの素因を有していないことを示している。
【図8】フローサイトメトリーによる第5継代および第10継代のhMSCの表現型の特徴付けを示す図であり、両細胞組におけるCD44およびCD54抗原の存在を実証している。
【図9】フローサイトメトリーによる第5継代および第10継代のhMSCの表現型の特徴付けを示す図であり、両細胞組上に、HLAクラスIマーカーは存在するが、HLAクラスIIマーカーは存在しない。
【図10】フローサイトメトリーによる第5継代および第10継代のhMSCの表現型の特徴付けを示す図であり、両細胞組において、CD29抗原はあるが、CD34抗原はない。
【図11】フローサイトメトリーによる第5継代および第10継代のhMSCの表現型の特徴付けを示す図であり、両細胞組において、CD14抗原もCD45抗原も存在しない。
【図12】HCN2誘導If様電流の発現は、PIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトされた第5継代および第9継代からの細胞におけるのと同じであることを示す図である。図12Aは、第5継代細胞(上側2つのパネル)の蛍光画像およびパッチクランプ記録からのサンプル電流記録(下側パネル)である。図12Bは、第9継代細胞(上側2つのパネル)の蛍光画像およびパッチクランプ記録からのサンプル電流記録(下側パネル)である。図12Cは、キャパシタンス(左側2本の棒)およびHCN-2誘導電流密度(右側2つの棒)を比較したヒストグラムである。第5継代からのhMSCと第9継代からのhMSCとの間には、いずれのパラメーターに関しても有意な差異はない。
【図13】HCN2誘導電流を発現する第5継代および第9継代細胞の生物物理学的特性は酷似していることを示す図である。図13Aは、第5継代(左側パネル)および第9継代(右側パネル)hMSCにおけるHCN2誘導電流の電流記録の比較である。電流記録は酷似している。図13Bでは、第5継代(左側パネル)および第9継代(右側パネル)細胞から得られた活性化曲線は、同じ活性化中点を示している。
【図14A】哺乳動物HCN1ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号9)、ラット(配列番号10)、ヒト(配列番号11)、ウサギ(配列番号12)およびモルモット(部分配列;配列番号13)HCN1ポリペプチド配列が、最大の対応について並べられている。
【図14B】哺乳動物HCN1ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号9)、ラット(配列番号10)、ヒト(配列番号11)、ウサギ(配列番号12)およびモルモット(部分配列;配列番号13)HCN1ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図14C】哺乳動物HCN1ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号9)、ラット(配列番号10)、ヒト(配列番号11)、ウサギ(配列番号12)およびモルモット(部分配列;配列番号13)HCN1ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図15】ヒトHCN212キメラチャネルのアミノ酸配列を示す図である。この配列の網掛けを施したN末端部分はhHCN2に由来し、下線を引いた膜内部分はhHCN1に由来し、C末端部分(網掛けも下線もない)はhHCN2に由来する。hHCN212キメラチャネルのアミノ酸配列が配列番号2に記載されている。この889アミノ酸長キメラhHCN212配列は、一致が最大になるようにアラインメントされているとき、893残基の重複部において863アミノ酸長mHCN212配列と91.2%の同一性を示す。
【図16】マウスHCN212キメラチャネルのアミノ酸配列を示す図である。この配列の網掛けを施したN末端部分はマウスHCN2に由来し、下線を引いた膜内部分はマウスHCN1に由来し、C末端部分(網掛けも下線もない)はマウスHCN2に由来する。マウスHCN212キメラチャネルのアミノ酸配列が配列番号6に記載されている。この863アミノ酸長キメラmHCN212配列は、一致が最大になるようにアラインメントされているとき、893残基の重複部において889アミノ酸長hHCN212配列と91.2%の同一性を示す。
【図17A】哺乳動物HCN2ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号14)、ラット(配列番号15)、ヒト(配列番号16)およびイヌ(部分配列;配列番号17)HCN2ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図17B】哺乳動物HCN2ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号14)、ラット(配列番号15)、ヒト(配列番号16)およびイヌ(部分配列;配列番号17)HCN2ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図17C】哺乳動物HCN2ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号14)、ラット(配列番号15)、ヒト(配列番号16)およびイヌ(部分配列;配列番号17)HCN2ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図18A】哺乳動物HCN4ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号18)、ラット(配列番号19)、ヒト(配列番号20)、ウサギ(配列番号21)およびイヌ(部分配列;配列番号22)HCN4ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図18B】哺乳動物HCN4ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号18)、ラット(配列番号19)、ヒト(配列番号20)、ウサギ(配列番号21)およびイヌ(部分配列;配列番号22)HCN4ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図18C】哺乳動物HCN4ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号18)、ラット(配列番号19)、ヒト(配列番号20)、ウサギ(配列番号21)およびイヌ(部分配列;配列番号22)HCN4ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【図18D】哺乳動物HCN4ポリペプチド配列のアラインメントを示す図である。マウス(配列番号18)、ラット(配列番号19)、ヒト(配列番号20)、ウサギ(配列番号21)およびイヌ(部分配列;配列番号22)HCN4ポリペプチド配列が、一致が最大になるようにアラインメントされている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、心律動障害を治療するための、間葉系後期継代MSC(MSC)の使用に関する方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、不整脈、心筋機能障害または心筋梗塞を含むがこれに限定されない心臓障害の治療に使用してもよい。後期継代MSCは、生理学的に活性な目的のタンパク質をコードする1つまたは複数の遺伝子を発現するように遺伝子工学的に作製することができる。このようなタンパク質としては、例えば、野生型、突然変異およびキメラHCNイオンチャネルならびにHCNベータサブユニットMiRPIなどの生物学的ペースメーカー活性をもたらすことができるタンパク質が挙げられる。本発明のさらに別の実施形態では、後期継代MSCを使用して、洞房結節または房室結節障害に罹患している対象にバイパスブリッジをもたらすことができる。生物学的ペースメーカーおよびバイパスブリッジの使用を、単独でまたは電気的ペースメーカーと共に、ペースメーカー機能を必要とする対象に施してもよい。
【0019】
後期継代MSC
本発明は、実質的に分化することができない後期継代MSCを、心臓障害を治療するために使用することに関する方法および組成物に関する。本明細書で使用するとき、「後期継代MSC」は、少なくとも9回継代されている細胞である。さらに、本発明の後期継代MSCは、CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現するが、CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しない。本発明の実施形態では、後期継代MSCは、哺乳動物由来である。本発明の好ましい実施形態では、MSCはヒト成人から得られる。実質的に分化することができないとは、特定培養物中の事実上全ての細胞が分化することができないことを意味している。少なくとも9回継代されており、かつ、CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現するが、CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しないhMSCは、全てというわけではないが、事実上全ての細胞が、骨形成、軟骨形成または脂質生成系統の細胞に分化することができないので、「実質的に分化することができない」と考えられる。
【0020】
本発明の実施において使用するヒトMSC(Poietics(商標)hMSC)は、Clonetics/Bio Whittaker(メリーランド州ウォーカーズビル)などのいずれかの信頼できる供給者から購入することができる。あるいは、後期継代MSCは、対象から、または健康な志願者からの骨髄穿刺液から得られるものでもよい。例えば、10mlの骨髄穿刺液を、6000単位のヘパリンを含有するシリンジ内に収集し、リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、20mlの対照培地(10%FBSを含有するDMEM)に加え、次いで遠心分離して細胞をペレット化し、脂肪を除去することにより、凝固を防ぐ。次いで、細胞ペレットを対照培地に再懸濁させ、70%パーコール溶液を13000gで20分間遠心分離することによって生じた密度勾配にて、1100gで30分間分画する。間葉系幹細胞を豊富に含む低濃度の分画を収集し、対照培地ですすぎ、107有核細胞/60mm2皿の密度で平板培養する。次いで、間葉系後期継代MSCを、5%CO2を含有する加湿環境において対照培地中37℃で培養する。好ましい培養培地は、MSCGM培地と呼ばれるCambrex Corporationが販売する培地などの、分化を防止/阻害する培地である。
【0021】
さらに、後期継代MSCの表面上に選択的に発現した細胞表面マーカーに結合する抗体を使用して、様々な異なる方法によりMSCの集団を同定または濃縮することができる。このようなマーカーとしては、例えば、CD29、CD44およびCD54が挙げられ、これらは後期継代MSCの表面上で発現される。
【0022】
MSCを使用する利点は、MSCが、分化するために内胚葉を必要とせず、培養しやすく、高価なサイトカイン補充物を必要とせず、かつ、最小の免疫原性を有することである。後期継代hMSCを使用する利点は、後期継代hMSCが骨形成、軟骨形成または脂質生成系統に分化する能力を喪失することにより、その効能および安全性が高まることである。
【0023】
本発明はさらに、後期継代MSCと、医薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。医薬的に許容可能な担体としては、当業者に周知であり、0.01〜0.1M、および好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または0.9%の生理食塩水が挙げられるが、これに限定されない。また、このような担体としては、水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンが挙げられる。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液、生理食塩水および緩衝培地が挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルである。例えば抗菌剤、酸化防止剤およびキレート剤などの防腐剤および他の添加剤も、上記担体の全てと共に包含されてもよい。
【0024】
生物学的ペースメーカー活性を発生させるための、後期継代ヒト間葉細胞の使用
本発明は、心臓障害を治療するための、後期継代MSCにおける野生型、突然変異またはキメラHCNイオンチャネルの発現に基づく生物学的ペースメーカー活性の生成に関する。生物学的ペースメーカー活性を生成するための方法は、米国特許第6,849,611号ならびに米国特許出願第10/342,506号および第10/757,826号に開示されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0025】
本明細書で使用するとき、「生物学的ペースメーカー活性」は、ある細胞またはこの細胞を含む合胞体構造内に生物学的物質を導入することにより生じる活動電位の律動生成を意味するものである。「合胞体構造」は、その細胞同士がギャップジャンクション介在型伝達を行う構造を意味する。
【0026】
本発明は、野生型、突然変異およびキメラHCN遺伝子の後期継代MSC発現に基づく、所望の臨床的特徴を有する生物学的ペースメーカーの生成、および心臓状態を効果的に治療するための、これら生物学的ペースメーカーの使用に関する。したがって、本発明は、HCNイオンチャネルをコードするインビトロ組換え遺伝子構築物を含む後期継代hMSCを提供する。「HCNイオンチャネル」は、cAMPによって直接調節され、心臓および脳におけるペースメーカー活性に寄与する過分極活性化陽イオン電流に関与する過分極活性化環状ヌクレオチド依存性イオンチャネルを意味する。「mHCN」はネズミまたはマウスHCNを指し、「hHCN」はヒトHCNを指す。
【0027】
HCNアイソフォームは4つある:HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4。4つ全てのアイソフォームは脳で発現され、HCN1、HCN2およびHCN4はまた心臓で顕著に発現され、HCN4およびHCN1は洞房結節に多く、HCN2は心室に多い。
【0028】
本発明の実施形態では、発現されるべきHCNチャネルはHCN1、HCN2、HCN3、HCN4またはその突然変異体である。HCNチャネルの電圧感知および活性化は、突然変異によって改変することができる。例えば、Chenら(2001、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、98:11277〜11282頁)は、mHCN2 S4〜S5リンカーにおいて、E324、Y331およびR339という3つの残基を同定した。これら残基は、突然変異すると、正常なチャネル閉鎖を妨害する。S4ドメイン(R318Q)における塩基性残基の突然変異はチャネルの開放を防止する。逆に、R318QおよびY331Sの二重突然変異を伴うチャネルは、構成的に開放している。R318Q、W323A、E324A、E324D、E324K、E324Q、F327A、T330AおよびY331A、Y331D、Y331F、Y331K、D332A、M338A、R339A、R339C、R339D、R339EおよびR339Qを含むいくつかの点突然変異もまた、電圧感知および活性化におけるE324、Y331およびR339の残基の役割をより詳細に調査すべく、Chenら(2001、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、98:11277〜11282頁)によって行われた。異なるHCNアイソフォームにおける多くの更なる突然変異が報告されている。例えば、Chenら(2001、J Gen Physiol、117:491〜504頁)は、mHCN1におけるR538EおよびR591Eの突然変異を報告している。Tsangら(2004、J Biol Chem、279:43752〜43759頁)は、mHCN1におけるG231AおよびM232Aの突然変異を報告している。Vemanaら(2004、J Gen Physiol、123:21〜32頁)は、mHCN2におけるR247C、T249C、K250C、I251C、L252C、S253C、L254C、L258C、R259C、L260C、S261C、C318S、S338Cの突然変異を報告している。MacriおよびAccili(2004、J Biol Chem、279:16832〜16846頁)は、mHCN2におけるS306Q、Y331DおよびG404Sの突然変異を報告している。そして、Decherら(2004、J Biol Chem、279:13859〜13865頁)は、mHCN2におけるY331A、Y331D、Y331S、R331FD、R339E、R339Q、I439A、S441A、S441T、D443A、D443C、D443E、D443K、D443N、D443R、R447A、R447D、R447E、R447Y、Y449A、Y449D、Y449F、Y449G、Y449W、Y453A、Y453D、Y453F、Y453L、Y453W、P466Q、P466V、Y476A、Y477AおよびY481Aの突然変異を報告している。上記出版物の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれている。先に列挙した報告されている突然変異のうちいくつかは、単独でまたは組み合わせて、生物学的ペースメーカーを作製することに関する、HCNチャネルについての有利な特徴をもたらし得る。本明細書中に開示された発明は、HCNチャネルにおける突然変異の後期継代MSC発現を単独でまたは組み合わせて包含し、これら突然変異はチャネルのペースメーカー活性を向上させる。好ましい実施形態では、HCNチャネルまたはその突然変異体はHCN2である。
【0029】
本明細書中では、突然変異は、突然変異を受けたアミノ酸残基を示す一文字の略号、ポリペプチド内での該残基の位置、および残基が突然変異したアミノ酸残基の一文字の略号を示す記号表示によって特定される。したがって、例えば、E324Aは、324位のグルタミン酸残基(E)がアラニン(A)に突然変異した突然変異ポリペプチドを特定する。Y331A,E324A-HCN2は、二重突然変異を有するマウスHCN2を特定し、一方では331位のチロシン(Y)がアラニン(A)に突然変異し、他方では324位のグルタミン酸残基がアラニンに突然変異したものである。
【0030】
本発明の特定実施形態では、突然変異HCN2チャネルは、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2である。好ましい実施形態では、突然変異HCN2チャネルはE324A-HCN2である。
【0031】
発現された電流の大きさを増大させるおよび/またはその活性化の動態を速めることにより、HCNチャネルの生物学的ペースメーカー活性を向上させる1つの手法は、HCN2と共にそのベータサブユニットであるMiRP1を共発現することである。MiRP1の突然変異についても報告されており(例えば、Mitchesonら(2000、J Gen Physiol、115:229〜40頁)、Luら(2003、J Physiol、551:253〜62頁)、Piperら(2005、J Biol Chem、280:7206〜17頁)を参照。)、これら突然変異のいくつかまたはそれらの組合せは、生物学的ペースメーカーを作製するために使用されたHCNチャネルにより発現された電流の規模およびその活性化の動態を増大させる上で有利であり得る。本明細書中に開示された発明は、MiRP1におけるこのような突然変異の全てまたはそれらの組合せを包含する。
【0032】
本発明はさらに、心臓障害を治療する際にペースメーカー電流を生成するためのHCNアイソフォーム同士のキメラを発現する後期継代MSCの使用に関する。このようなキメラHCNチャネルは、HCNキメラを産生する4つ全てのHCNアイソフォームの一部分をコードするヌクレオチド配列のインビトロ組換えにより形成してもよい。本発明を実施する際に使用してもよいペースメーカーイオンチャネルのキメラとしては、2006年7月21日に出願された、「Chimeric HCN Channels」という名称の米国仮特許出願第60/715,934号および第60/832,515号(これら両文献は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれている)に開示されたキメラチャネルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
「HCNキメラ」は、2種類以上のHCNチャネルの一部分を含むイオンチャネルを意味するものである。例えば、HCN1およびHCN2またはHCN3またはHCN4のキメラなどである。本発明の実施形態では、これら一部分は、ヒトHCNアイソフォームに由来する。さらに、キメライオンチャネルはまた、様々な種から得られたHCNチャネルの一部分を含んでいてもよい。例えば、チャネルの一部分はヒトから得られたものでもよく、別の部分はヒトではない種から得られたものでもよい。
【0034】
このようなキメラHCNポリペプチドは、野生型HCNチャネルと比較して、速い動態、ポジティブな活性化、発現の増大および/または安定性の増大、亢進したcAMP応答性ならびに亢進した神経液性応答からなる群から選択される向上した特徴をもたらす。
【0035】
一般用語では、HCNポリペプチドは、3つの主要ドメインに分割することができる:(1)アミノ末端部分;(2)膜内部分およびその連結領域、ならびに(3)カルボキシ末端部分。構造-機能研究は、その連結領域を有する膜内部分は、開閉動態(kinetics of gating)を決定する上で重要な役割を果たすことを示した。C末端部分は、cAMPの結合部位を含有するので、主に、各々が細胞cAMPレベルを上昇および低下させる交感神経系および副交感神経系に応答するというチャネルの能力に関与している。
【0036】
「HCNXYZ(式中、X、YおよびZは整数1、2、3または4のいずれか1つである。但し、x、yおよびZの少なくとも1つが、残りのうち少なくとも1つとは異なる数である場合に限る)」という用語は、3つの連続する部分をXYZ(式中、XはN末端部分であり、Yは膜内部分であり、ZはC末端部分であり、X、YおよびZの数は、その部分が得られるHCNチャネルを示す)の順で含むHCNキメラチャネルポリペプチドを意味する。例えば、HCN112は、HCN1から得られたN末端部分および膜内部分と、HCN2から得られたC末端部分とを有するHCNキメラである。
【0037】
本発明は、高速動力および良好なcAMP応答性を有するキメラHCNチャネルをコードするインビトロ組換え遺伝子構築物を含む後期継代hMCSを提供する。本明細書中に開示された発明の一実施形態では、HCNキメラは、カルボキシ末端部分と接触する膜内部分と接触するアミノ末端部分を含み、各部分はHCNチャネルの一部分またはその突然変異体の一部分であり、1つの部分は、他の2つの部分のうちの少なくとも1つが由来するHCNチャネルまたはその突然変異体とは異なるHCNチャネルまたはその突然変異体に由来する。
【0038】
特定実施形態では、HCNキメラの一部分が得られる突然変異HCNチャネルは、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2である。更なる実施形態では、HCNキメラは、mHCN112、mHCN212、mHCN312、mHCN412、mHCN114、mHCN214、mHCN314、mHCN414、hHCN112、hHCN212、hHCN312、hHCN412、hHCN114、hHCN214、hHCN314またはhHCN414を含むポリペプチドである。本発明の特定実施形態では、キメラHCNポリペプチドは、hHCN212またはポリペプチドmHCN212である。
【0039】
他の好ましい実施形態は以下のものを含む:膜内部分がHCN1チャネルから得られるキメラHCNポリペプチド;膜内部分がhHCN1のD140-L400であるキメラHCNポリペプチド;または膜内部分がmHCN1のD129-L389であるキメラHCNポリペプチド。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態では、キメラHCNポリペプチドは、S4電圧センサー、S4-S5リンカー、S5、S6およびS5-S6リンカー、Cリンカーならびにカルボキシ末端環状ヌクレオチド結合ドメイン(「CNBD」)からなる群から選択されたチャネルの領域に突然変異を含む突然変異HCNチャネルである。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態では、キメラHCNポリペプチドは突然変異体であり、変異部分は、配列番号14の配列を有するmHCN2から得られ、E324A-mHCN2、Y331A-mHCN2、R339A-mHCN2またはY331A,E324A-mHCN2を含む。本発明の特定実施形態では、変異部分は、E324A-mHCN2を含む。
【0042】
野生型、突然変異およびキメラHCNイオンチャネルの組換え発現に加え、後期継代MSCはさらに、例えば、Cx43、Cx40またはCx45などの少なくとも1つの心臓コネキシンを発現し得る。
【0043】
本発明の方法を実施するためには、野生型、突然変異およびキメラHCNイオンチャネルの組換え発現が必要となる。HCNイオンチャネルのcDNA配列および推定アミノ酸配列は特徴付けされている。HCNイオンチャネルの配列は、公のデータベースから入手できる。
【0044】
HCNイオンチャネルヌクレオチド配列を、当業者に既知の様々な異なる方法を用いて単離してもよい。例えば、HCNイオンチャネルを発現することが知られている組織からのRNAを用いて構築されたcDNAライブラリを、標識HCNチャネルプローブを用いてスクリーニングすることができる。あるいは、ゲノムライブラリをスクリーニングして、HCNイオンチャネルタンパク質をコードする核酸分子を得てもよい。さらに、このような核酸配列を、既知のHCNイオンチャネルヌクレオチド配列に基づいて設計された2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ鎖反応(PCR)を行うことによって得てもよい。この反応の鋳型は、目的のHCNイオンチャネルを発現することが知られている細胞系または組織から調製されるmRNAの逆転写によって得られるcDNAであってもよい。
【0045】
HCNイオンチャネル、ポリペプチドおよびペプチド断片、HCNチャネルの変異型、切断型、欠失型およびキメラ型は、生物学的ペースメーカー活性の生成を含むがこれに限定されない様々な用途のために調製することができる。このようなタンパク質は、当業者に周知である核酸発現技術を用いた組換えDNAテクノロジーによって有利に産生され得る。このような方法を使用して、HCNイオンチャネルヌクレオチド配列ならびに適切な転写および翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術およびインビボ遺伝子組換えが挙げられる。(例えば、Sambrook Jら、2000、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)およびAusubelら(1996)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons Inc.、USAを参照。)
【0046】
様々な宿主発現ベクター系を利用して、後期継代MSCにおいてHCNイオンチャネルヌクレオチド配列を発現してもよい。生物学的ペースメーカーを開発するために望まれるような組換えHCNイオンチャネル発現を、高収率で長期間生じさせるためには、安定した発現が好ましい。複製起点を包含する発現ベクターを使用するのではなく、宿主細胞を、適切な発現制御要素および選択可能なマーカー遺伝子、すなわち、例としてはtk、hgprt、dhfr、neoおよびhygro遺伝子により制御されたDNAで形質転換することができる。外来DNAを導入した後、工学的に作製された後期継代MSCを、強化培地内で1〜2日間成長させ、次いで、選択培地に移し変えてもよい。
【0047】
当技術分野において入手できる宿主細胞内への遺伝子送達方法はいずれも本発明に従って使用することができる。このような方法としては、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム介在型トランスフェクションまたはウイルス感染などが挙げられる。遺伝子送達方法の一般的な考察については、Strauss,M.およびBarranger,J.A.、1997、Concepts in Gene Therapy、Walter de Gruyter&Co.、ベルリン;Goldspielら、1993、Clinical Pharmacy 12:488〜505頁;WuおよびWu、1991、Biotherapy 3:87〜95頁;Tolstoshev、1993、Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.33:573〜596頁;Mulligan、1993、Science、260:926〜932頁;ならびに、MorganおよびAnderson、1993、Ann.Rev.Biochem.、62:191〜217;1993、TIBTECH 11(5):155〜215頁を参照。代表的な方法は、以下に記載されている。
【0048】
本発明はさらに、上述のような野生型、突然変異またはキメラHCNチャネルを発現するMSCを含む組成物を提供する。本発明の組成物はさらに、医薬的に許容可能な担体を含んでいてもよい。
【0049】
本発明は、心律動障害に罹患している対象を治療する方法であって、野生型、突然変異またはキメラHCNポリペプチドを発現する後期継代MSCを対象の心臓の領域に投与することにより対象を治療する段階を含み、心臓の前記領域におけるHCNポリペプチドの発現が心臓内でペースメーカー電流を誘導するのに効果的である方法に関する。本発明の特定実施形態では、後期継代MSCは、心臓と機能的な合胞体を形成する。
【0050】
本発明の実施形態では、野生型、突然変異またはキメラHCNポリペプチドを発現する後期継代MSCを、注入、カテーテル法、外科的挿入または外科的装着によって心臓の領域に投与する。後期継代MSCを、注入またはカテーテル法によって心臓組織上または心臓組織内に直接局所投与してもよい。後期継代MSCを、注入またはカテーテル法によって、心臓に隣接する少なくとも1つの冠状血管または他の血管内に投与してもよい。後期継代MSCを、バッハマン束、洞房結節、房室連結領域、ヒス枝(His branch)、左もしくは右心房筋もしくは心室筋、左もしくは右脚(bundle branch)、またはプルキンエ線維を含むがこれらに限定されない心臓のいずれかの好適な領域に投与してもよい。
【0051】
本発明の方法および組成物を使用して治療し得る心律動障害としては、洞結節機能障害、洞性徐脈、辺縁ペースメーカー機能(marginal pacemaker function)、洞機能不全症候群、頻拍性不整脈、洞結節リエントリー性頻拍、異所性始点からの心房性頻拍、心房粗動、心房細動、徐脈型不整脈または心不全が挙げられるがこれらに限定されず、野生型、突然変異またはキメラHCNポリペプチドを発現する後期継代MSCを、対象の心臓の右もしくは左心房筋、洞房結節または房室連結領域に投与する。
【0052】
治療すべき障害としては、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロックまたは脚ブロックも挙げられ、野生型、突然変異またはキメラHCNポリペプチドを発現する後期継代MSCを、対象の心臓の領域に投与することにより、心臓の伝導障害を補う。このような領域としては、心室中隔壁または自由壁、房室連結領域、または心室の脚が挙げられる。
【0053】
本発明はさらに、心律動障害に罹患しやすい対象における該障害の発症を阻害する方法であって、野生型、突然変異またはキメラHCNポリペプチドを発現する後期継代MSCを対象の心臓の領域に投与する段階を含み、心臓におけるHCNポリペプチドの発現が心臓内のペースメーカー電流を誘導するのに効果的であり、これにより、対象における該障害の発症を阻害する、方法を提供する。
【0054】
バイパスブリッジを生成するための、後期継代ヒト間葉系幹細胞の使用
本発明はまた、心律動障害に罹患している対象を治療するための組成物であって、疾患がある房室または洞結節の機能を引き継ぐバイパスブリッジを心臓内にもたらすことを含む組成物を提供する。このようなバイパスブリッジを生成するための方法は、国際特許出願PCT/US04/042953号および2006年7月21日に出願された「A Biological Bypass Bridge with Sodium Channels, Calcium Channels and/or Potassium Channels to Compensate for Conduction Block in the Heart」という名称の米国特許出願第11/490,760号に開示されており、これら特許文献はいずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0055】
本発明の実施形態において、バイパスブリッジは、更なる分子の伝導決定因子を組み込むことなく、後期継代hMSCのストリップから作製してもよい。ここで、ペースメーカーおよび/または電流/信号を伝達するギャップジャンクションを生成する細胞自体の能力は、細胞間にペースメーカーおよび/または電波を伝播するための手段として使用される。
【0056】
したがって、本発明は、第1端部および第2端部を有するギャップジャンクション結合型後期継代hMSCの管を含むバイパスブリッジであって、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、電気信号がその2つの部位間に管を通って伝導することが可能になり、細胞がナトリウムチャネルを機能的に発現するバイパスブリッジを提供する。このようなナトリウムチャネルとしては、例えば、アルファサブユニットおよび/または補助サブユニットをさらに含み得るSKM-1チャネルが挙げられる。
【0057】
本発明の特定実施形態では、管の第1端部を心房に装着することができ、管の第2端部を心室に装着することができ、その結果、電気信号が心房から心室まで管を通って伝導することが可能になる。
【0058】
本発明の実施形態では、バイパスブリッジの後期継代MSCはさらに、ペースメーカー電流を誘導するペースメーカーイオンチャネルを機能的に発現することにより、前記細胞内でペースメーカー電流を誘導し得る。ペースメーカーイオンチャネルは、(b)MiRP1ベータユニットを含むまたは含まない、(a)過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネル、その突然変異体またはキメラの少なくとも1つである。変異またはキメラHCNチャネルについては、先に詳述している。本発明の実施形態では、ペースメーカーイオンチャネルは、管の第1端部の細胞で発現される。特定実施形態では、ペースメーカーイオンチャネルを発現する細胞は、第1端部から0.5mm延長した領域に位置する。
【0059】
管内の後期継代MSCはさらに、Kir2.1またはKir2.2アルファサブユニットおよび/または補助サブユニットをさらに含み得るカリウムチャネル、ならびにアルファサブユニットおよび補助サブユニットをさらに含み得るL型カルシウムチャネルを包含するがこれらに限定されない1つまたは複数の更なるチャネルを機能的に発現し得る。
【0060】
したがって、バイパスブリッジの細胞はさらに、少なくとも1つの心臓コネキシン、L型カルシウムチャネルの補助サブユニットを伴うアルファサブユニット、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニットのうち1つまたは複数を機能的に発現することにより、心臓における再分極の電圧-経時変化および/または不応性が変化し得る。発現され得るコネキシンとしては、Cx43、Cx40またはCx45が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明は、心臓内へ埋め込むためのバイパスブリッジを作製する方法であって、(a)後期継代MSCに、ナトリウムチャネルをコードする核酸をトランスフェクトして、そこで機能的に発現させる段階と、(b)このトランスフェクトされた後期継代MSCを成長させて、心臓内の2つの選択部位に装着することができる第1端部および第2端部を有する細胞の管を形成する段階とを含み、これらの細胞が導電性ギャップジャンクションを介して物理的に相互接続されている方法を提供する。
【0062】
本発明の実施形態では、管内の細胞に、ペースメーカーイオンチャネルをコードする核酸をトランスフェクトする。ここで、核酸は機能的に発現して、細胞内でペースメーカー電流を誘導する。ペースメーカーイオンチャネルは、(b)MiRP1ベータユニットを含むまたは含まない、(a)過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネル、またはその突然変異体もしくはキメラのうち少なくとも1つである。
【0063】
さらに、後期継代MSCに、少なくとも1つの心臓コネキシン、L型カルシウムチャネルの補助サブユニットを伴うアルファサブユニット、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニットのうち1つまたは複数をコードする少なくとも1つの核酸をトランスフェクトすると、その結果、心臓内へのバイパスブリッジの埋め込みにより、心臓における再分極の電圧-経時変化および/または不応性が変化し得る。
【0064】
本発明は、心臓内にバイパスブリッジを埋め込む方法であって、(a)本発明の方法を利用してバイパスブリッジを作製する段階と、(b)心臓内の第1部位および第2部位を選択する段階と、(c)管の第1端部を第1部位に装着し、管の第2端部を第2部位に装着して、バイパスブリッジを心臓内へ埋め込んだ結果、ペースメーカーおよび/または電気信号/電流が管を通って2つの部位間に伝導することが可能になる段階とを含む方法を提供する。本発明の実施形態では、電気信号は、洞結節または電気的ペースメーカーによって心房内で生成される。
【0065】
本発明はさらに、対象の心臓において伝導障害に関連する障害を治療する方法であって、(a)後期継代MSCに、ナトリウムチャネルをコードする核酸をトランスフェクトし、この細胞がナトリウムチャネルを機能的に発現する段階と、(b)このトランスフェクトされた後期継代MSCを成長させて、第1端部および第2端部を有する細胞の管を形成し、これらの細胞が導電性ギャップジャンクションを介して物理的に相互接続される段階と、(c)伝導障害がある心臓内の第1部位および第2部位を選択する段階と、(d)管の第1端部を第1部位に装着し、管の第2端部を第2部位に装着することによって、電気信号が管を通って2つの部位間に伝導することが可能になり、それにより対象を治療する段階とを含む方法を提供する。
【0066】
本発明は、対象の心臓において、伝導障害および洞結節活性障害に関連する障害を治療する方法であって、(a)後期継代MSCに、ナトリウムチャネルおよびペースメーカーイオンチャネルをコードする少なくとも1つの核酸をトランスフェクトし、この後期継代MSCがナトリウムチャネルおよびペースメーカーイオンチャネルを機能的に発現する段階と、(b)このトランスフェクトされた後期継代MSCを成長させて、第1端部および第2端部を有する細胞の管を形成し、これらの細胞が導電性ギャップジャンクションを介して物理的に相互接続される段階と、(c)伝導障害がある心臓の左心房内の第1部位および第2部位を選択する段階と、(d)管の第1端部を第1部位に装着し、管の第2端部を第2部位に装着することによって、洞結節および/または細胞の管により生成された電気信号が2つの部位間に伝播することが可能になり、それにより対象を治療する段階とを含む方法を提供する。
【0067】
この様式のバイパスブリッジの調製は、心房から心室への伝播を促進するだけでなく、心房収縮から心室収縮までを十分に遅延させて、心室充満および排出を最大にすることで、心臓の正常な活性化および収縮シーケンスを模倣する。さらに、この手法は、洞結節疾患の状況下で心房刺激開始を改善する生物学的ペースメーカー技術と併用すると、完全に生理的なシステムを提供する。したがって、本発明は、対象の心臓内での、生物学的ペースメーカーおよび/または生物学的房室ブリッジもしくは房室結節の多様な組合せの使用を含む。
【0068】
電気的ペースメーカーと併用する生物学的ペースメーカーおよび/またはバイパスブリッジにおける間葉系幹細胞の使用
本発明は、単独でのもしくは電気的ペースメーカーと組み合わせた生物学的ペースメーカーおよび/またはバイパスブリッジにおけるMSCの使用に関する。タンデムペースメーカーの個々の構成要素についての詳細な説明は以前に出版されている。例えば、電気的ペースメーカーそれ自体の詳細は、米国特許第5,983,138号;米国特許第5,318,597号;米国特許第5,376,106号;Pacemaker Timing Cycles and Electrocardiography、David L.Hayes、M.D.、Cardiac Pacing and Defibrillationの第6章、201〜223頁、Mayo Foundation、2000;およびTypes of Pacemakers and Hemodynamics of Pacing、A Practical Guide to Cardiac Pacing-Fifth Editionの第5章、78〜84頁、Cippincott Williams&Wilkins、フィラデルフィア(2000)に認められ、これら全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれている。さらに、生物学的ペースメーカーおよび/またはバイパスブリッジと組み合わせて使用すべきタンデム心臓ペースメーカーは、米国特許出願第60/701,312号(2005年7月21日出願)および第60/781,723号(2005年3月14日出願)および第11/490,997号(2006年7月21日出願)(名称「Tandem pacemaker systems」)に記載されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0069】
本発明の好ましい実施形態では、電気的ペースメーカーは、そのペースメーカー信号を「必要に応じて」生成する、すなわち、生物学的に発生した拍動を感知し、生物学的ペースメーカーの不具合が生じたときにファイア(fire)および/または房室ブリッジへ放電し、予め設定した間隔よりも長く刺激を伝導するようにプログラムされている。この時点で、生物学的ペースメーカーが活性を再開するおよび/または房室ブリッジが刺激伝導を再開するまで、電気的ペースメーカーがペースメーカー機能を引き継ぐ。したがって、電気的ペースメーカーがいつそのペースメーカー信号を生成するかを決定するべきである。最先端のペースメーカーは、心拍数が、電気的ペースメーカー信号が生成されるべき閾値を下回る時を検知する能力を有する。閾値レベルは定数であってもよいが、好ましくは、身体活動や感情状態などの患者の活動に応じて変動する。患者が休息しているか、または軽い活動を行っているとき、患者の基準心拍数は、例えば、50〜80拍/分(bpm)(患者ごとに個別化)であってもよい。もちろん、この基準心拍数は、患者の年齢および身体状態に応じて変動し、活発な患者は、典型的には低い基準心拍数を有する。電気的ペースメーカーは、患者の実際の心拍数(いずれかの生物学的ペースメーカーにより誘導されたものを含む)が一定の閾値基準心拍数を下回る、一定の差異を生じる、または当業者に既知の他の状態になったときにペースメーカー信号を生成するようにプログラム可能である。患者が休息しているとき、基準心拍数は、安静時の心拍数となる。基準心拍数は、患者の身体活動レベルまたは感情状態に応じて変化する可能性が高くなる。例えば、基準心拍数が80bpmである場合、電気的ペースメーカーは、実際の心拍数が約64bpm(すなわち、80bpmの80%)であると検知されたときにペースメーカー信号を生成するように設定してもよい。
【0070】
電子構成要素はまた、生物学的構成要素が故障した場合に、より高い心拍数に干渉し、次いで徐々に基準心拍数へと落とすことによって運動回数(times of exercise)に干渉するようにプログラム可能である。例えば、心拍数が身体活動または感情状態に起因して120bpmまで上昇する場合、閾値は96bpm(120bpmの80%)まで上げてもよい。この療法の生物学的部分は、生物学的ペースメーカーを特徴付ける心拍数の自律応答性および範囲ならびに電気的ペースメーカーを特徴付けるセーフティネットとして機能する基準心拍数を活用する。電気的ペースメーカーは、以前の間隔が電気的ペースメーカー信号に起因しておらず、かつ、ある最小心拍数(例えば、50bpm)よりも大きいものである限り、以前の間隔よりも大きいX%(例えば、20%)の間隔の停止があるたびに、ペースメーカー信号を出力するように構成してもよい。
【0071】
本発明の方法の実施形態では、電気的ペースメーカーは、心拍数を感知し、心拍数が特定レベルを下回るとペースメーカー信号を生成する。更なる実施形態では、特定レベルは、基準時間間隔に心臓が経験する心拍数の特定比率である。更なる実施形態では、基準時間間隔は、特定継続期間の直前期間である。
【0072】
本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデムペースメーカーシステムであって、この生物学的ペースメーカーが、野生型、突然変異またはキメラ過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現する移植可能な後期継代MSCを含み、この細胞が対象の心臓内に移植されると、発現されたHCNチャネルが有効なペースメーカー電流を生成する、タンデムペースメーカーシステムを提供する。野生型、突然変異またはキメラHCNチャネルの発現は、上記方法を使用して達成することができる。
【0073】
本発明の実施形態では、タンデムシステムの生物学的ペースメーカーは、少なくとも約5,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約700,000個の後期継代MSCを含む。
【0074】
本発明の特定実施形態では、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデムペースメーカーシステムであって、この生物学的ペースメーカーが移植可能な後期継代MSCを含み、前記細胞が、キメラHCNイオンチャネルを機能的に発現し、前記キメラHCNがhHCN212であり、この細胞が対象の心臓内に移植されると、発現されたキメラHCNチャネルが有効なペースメーカー電流を生成し、生物学的ペースメーカーが少なくとも約700,000個のヒト成人間葉系後期継代MSCを含む、タンデムペースメーカーシステムが提供される。
【0075】
さらに、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1端部および第2端部を有するギャップジャンクション結合型後期継代MSCのストリップを含むバイパスブリッジとを含むタンデムペースメーカーシステムであって、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、ペースメーカーおよび/または電気信号/電流が心臓内の2つの部位間で管を通って伝達することが可能になる。
【0076】
本発明の特定実施形態では、バイパスブリッジの第1端部を心房に装着し、第2端部を心室に装着することにより、心房から電気信号を送信し、管を通って移動させ、心室を興奮させることができる。さらに、バイパスブリッジの後期継代MSCは、心臓コネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよび補助サブユニット;ナトリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニット;ならびに、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わない、該カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を機能的に発現することができる。このような心臓コネキシンは、Cx43、Cx40およびCx45からなる群から選択される。
【0077】
さらに、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1端部および第2端部を有するギャップジャンクション結合型後期継代MSCのストリップを含み、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、ペースメーカーおよび/または電気信号/電流が、心臓内の2つの部位間で管を通って伝達することが可能になるバイパスブリッジと、(3)生物学的ペースメーカーとを含むタンデムペースメーカーシステムであって、この生物学的ペースメーカーが、(a)HCNイオンチャネル、または(b)2種類以上のHCNチャネルの一部分を含むキメラHCNチャネル、または(c)突然変異HCNチャネルを機能的に発現する移植可能な後期継代MSCを含み、前記細胞が対象の心臓内に移植されると、発現されたHCN、キメラHCNまたは突然変異HCNチャネルが有効なペースメーカー電流を生成するタンデムペースメーカーシステムを提供する。本発明の実施形態では、タンデムシステムの生物学的ペースメーカーは、少なくとも約5,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個の後期継代MSCを含む。本発明の別の実施形態では、タンデムペースメーカーシステムは、少なくとも約700,000個の後期継代MSCを含む。
【0078】
本発明は、心律動障害に罹患している対象を治療する方法であって、この方法が、本明細書に記載されるようなタンデムペースメーカーシステムを対象に施し、有効な生物学的ペースメーカー電流を生成するためにこのシステムの生物学的ペースメーカーを対象の心臓にもたらす段階と、さらに、生物学的ペースメーカーと協働する電気的ペースメーカーを対象の心臓にもたらすことによって心律動障害を治療する段階とを含む方法を提供する。電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーの前に、生物学的ペースメーカーと同時に、または生物学的ペースメーカーの後にもたらすことができる。生物学的ペースメーカーは、心臓のベータアドレナリン応答性を向上するように設計され、外向きカリウム電流Iklを低下させ、および/または、内向き電流Ifを増大させる。
【0079】
さらに、生物学的ペースメーカーは、対象の心臓の、バッハマン束、洞房結節、房室連結領域、ヒス枝、左もしくは右脚、プルキンエ線維、右もしくは左心房筋もしくは心室筋にもたらすことができる。
【0080】
本発明のタンデムシステムを使用して治療し得る心律動障害としては、例えば、洞結節機能障害、洞性徐脈、辺縁ペースメーカー活性、洞機能不全症候群、頻拍性不整脈、洞結節リエントリー性頻拍、異所性始点(ectopic focus)からの心房性頻拍、心房粗動、心房細動、徐脈型不整脈または心不全が挙げられ、生物学的ペースメーカーは、対象の心臓の左もしくは右心房筋、洞房結節または房室連結領域に施される。
【0081】
本発明の実施形態では、電気的ペースメーカーは、対象の心拍数を感知し、心拍数が選択された心拍数を下回るときにペースメーカー信号を生成するようにプログラムされる。選択された心拍数は、基準時間間隔に心臓が経験する心拍数の選択比率である。基準時間間隔は、選択された継続期間の直前期間である。
【0082】
本発明は、心律動障害を治療する方法であって、この障害が、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈型不整脈であり、前記方法が、バイパス管および電気的ペースメーカーを含むタンデムペースメーカーシステムを、バイパス管が伝導不全を示す領域に架かるように対象の心臓に施す段階を含み、電気的ペースメーカーに誘導された電気的ペースメーカー電流のバイパス管による伝達が対象を治療するのに効果的であり、電気的ペースメーカーを、バイパス管をもたらす前に、それと同時に、またはその後にもたらす方法を提供する。
【0083】
本発明はまた、洞結節機能障害、洞性徐脈、辺縁ペースメーカー活性、洞機能不全症候群、心不全、頻拍性不整脈、洞結節リエントリー性頻拍、異所性始点からの心房性頻拍、心房粗動、心房細動または徐脈型不整脈および伝導ブロック障害に罹患している対象を治療する方法であって、生物学的ペースメーカーと、バイパス管と、電気的ペースメーカーとを含むタンデムペースメーカーシステムを施す段階を含み、電気的ペースメーカーを、生物学的ペースメーカーをもたらす前に、それと同時に、またはその後に供給し、生物学的ペースメーカーは、対象の心臓内に有効な生物学的ペースメーカー電流を生成するために対象に施され、バイパス管は伝導不全を呈する領域に架かり、電気的ペースメーカーおよび/または生物学的ペースメーカー電流のバイパス管による伝達が対象を治療するのに効果的である方法に関する。
【0084】
本発明はさらに、心室同期不全(dyssynchrony)に罹患している対象を治療する方法であって、(a)対象の心臓の第1心室内の部位を選択する段階と、(b)本明細書に記載されるような生物学的ペースメーカーを選択部位に施して、ペースメーカー活性を開始し、第1心室の収縮を刺激する段階と、(c)生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号を検出した後に基準時間間隔でペースメーカー信号を生成するようにプログラムされた第1の電気的ペースメーカーで心臓の第2心室をペーシングすることにより、両心室ペースメーカー機能をもたらして、対象を治療する段階とを含む方法に関する。
【0085】
特定実施形態では、電気的ペースメーカーはさらに、特定継続期間のある期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できないときに、ペースメーカー信号を生成するようにプログラム可能である。加えて、このシステムはさらに、冠状静脈に施されるべき第2の電気的ペースメーカーを具備していてもよく、この第2の電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが特定継続期間のある期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できないときに、第1の電気的ペースメーカーと共にペースメーカー信号を生成することにより、第1および第2の電気的ペースメーカーが両心室機能を提供するようにプログラム可能である。
【0086】
(1)対象の心臓の第1心室に施されるべき生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の第2心室に施されるべき電気的ペースメーカーとを含む、心室同期不全に罹患している対象を治療するためのタンデムペースメーカーシステムであって、電気的ペースメーカーが、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号が検出された後に基準時間間隔で電気的ペースメーカー信号を生成することにより、両心室ペースメーカー機能を提供するようにプログラム可能であり、電気的ペースメーカーを生物学的ペースメーカーの前またはそれと同時に供給する、タンデムペースメーカーシステムが提供される。
【0087】
このようなペースメーカーシステムはさらに、冠状静脈に施されるべき第2の電気的ペースメーカーを具備していてもよく、第2の電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが特定継続期間のある期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できないときに、第1の電気的ペースメーカーと共にペースメーカー信号を生成することにより、第1および第2の電気的ペースメーカーが両心室機能をもたらすようにプログラム可能である。
【0088】
本発明の組成物の使用および投与
本発明は、心律動障害に関連する様々な疾患を治療するために使用し得る方法および組成物を提供する。治療し得る心律動障害としては、病的不整脈(pathological arrhythmia)、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、弱ペースメーカー活性、洞結節機能不全、洞性徐脈、洞機能不全症候群、徐脈型不整脈、頻拍性不整脈、洞房結節リエントリー性頻拍、異所性始点からの心房性頻拍、心房粗動、心房細動または心不全が挙げられる。
【0089】
本発明の方法は、心臓障害を治療するために、医薬的に許容可能な担体中の後期継代MSCを投与する段階を含む。「投与」は、当業者に既知の様々な方法および送達システムのいずれかを用いて実行されるまたは行われるように送達することを意味する。投与は、例えば、心臓周囲に、心臓内に、心外膜下に、経心内膜的に、インプラントを介して、カテーテルを介して、冠動脈内に、静脈内に、筋肉内に、皮下に、非経口的に、局所的に、経口的に、経粘膜的に、経皮的に、皮内に、腹腔内に、鞘内に、リンパ管内に、病変内に、硬膜外に、またはインビボ電気穿孔法により行うことができる。投与はまた、例えば、1回、複数回、および/または、1もしくは複数の延長期間にわたって行うことができる。
【0090】
細胞ベースの生物学的ペースメーカーは、局所送達を必要とする場合もある。局所送達を達成するためのいくつかの方法が実現可能である。例えば、カテーテルおよびニードルの使用、ならびに/またはマトリックスおよび「接着剤」上での生育。いずれの手法を選択したとしても、送達された細胞は、標的部位から分散すべきではない。このような分散は、心臓内または他の器官において望ましくない電気的効果を引き起こす可能性がある。
【0091】
「医薬的に許容可能な」という用語は、動物、より特定的にはヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の管理機関により承認されている、または、米国薬局方もしくは他の一般に認識された薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを指す。このような医薬担体は滅菌液、例えば、水および油(石油、動物、植物または合成起源の油を含み、例えば、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油)などであり得る。医薬組成物を静脈内投与するとき、水が好ましい担体である。食塩水ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、特に注射用溶液のための液状担体として使用することができる。組成物は、伝統的な結合剤およびトリグリセリドなどの担体と共に、座薬として処方することができる。経口処方物としては、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的なカーバーが挙げられる。好適な医薬担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical sciences」に記載されている。このような組成物は、医薬的に有効な量の治療化合物を、好ましくは精製した形態で、好適な量の担体と共に含有することにより、患者に対する適切な投与のための形態となるであろう。処方物は、投与様式に適合しているべきである。
【0092】
特定の心臓障害または状態を治療する上で効果的であろう本発明の組成物の適切な濃度は、障害または状態の性質に応じて様々であり、標準的な臨床技術を用いて当業者により決定され得る。さらに、最適な投与量範囲の特定を支援するために、インビトロアッセイを必要に応じて使用してもよい。処方において使用すべき正確な投与量もまた、投与経路および疾患または障害の重篤度に応じて様々であり、開業医の判断および各患者の状況に応じて決定すべきである。有効投与量を、インビトロまたは動物モデル試験システムから得られた用量反応曲線から推定してもよい。さらに、化合物の投与は、組み合わせて投与する際にインビトロおよびインビボ研究が相乗的または付加的な治療効果を示す場合、他の既知の効果的な薬剤と組み合わせることができる。
【0093】
治療を受けるレシピエントの進行は、心臓機能を試験するために設計されたアッセイを用いて測定してもよい。このようなアッセイとしては、駆出分画および拡張期容積(例えば、心臓超音波検査法)、PETスキャン、CTスキャン、血管造影法、6分間歩行試験、運動耐性およびNYHA分類法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0094】
後期継代間葉系幹細胞の生物学的特性
後期継代MSCの生物学的特性を決定するために実験を行った。hMSCを購入し、供給者の指示(Cambrex Corporation)に従って解凍し、継代培養し、維持した。図1に実証するように、購入したキットおよび製造業者の指示(Cambrex Corporationからの脂質生成アッセイ手順のための説明書を参照)により、脂肪生成分化に曝露した第4継代hMSCには脂肪空胞が観察される。まず初めにPIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトし、次いで脂肪生成分化に曝露した第4継代hMSCでは、少数の脂肪空胞を有する細胞しか観察されなかったが、オイルレッドOによる染色により、有意数の陽性(赤)細胞が実証される(図2)。Cambrex Corporationからの、インビトロ脂質生成のためのオイルレッドO染色に関する説明書を参照。対照的に、少数の脂肪空胞の存在により、第9継代の非トランスフェクトhMSCの脂質生成分化が最小であることが実証される(図3)。図4は、PIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトされた第9継代hMSCでは脂質生成分化が行われていないことを示している。
【0095】
図5は、第3継代および第8継代hMSC(右側パネル)、ならびに第3継代、第5継代および第9継代hMSCおよび第2継代イヌhMSC(右側パネル)においてコネキシン43が豊富に発現していることを実証するウェスタンブロットを示している。
【0096】
後期継代MSCのアポトーシスの素因を測定するために、カスパーゼ活性化をアッセイした。図6は、アポトーシスの素因を示さない第3継代、第5継代または第10継代のhMSCに関する最小の活性化を実証している。さらに、図7に示すように、DNA断片化はなく、これはさらに、これらの継代培養hMSCがアポトーシスの素因を有していないことを示している。
【0097】
後期継代MSCについての細胞表面抗原発現の表現型特徴を、フローサイトメトリーによって検査した。これらの結果は、第5継代および第10継代細胞のいずれにおいても、CD44およびCD54抗原が存在すること(図8)、HLA Iマーカーは存在するが、HLAクラスIIマーカーは存在しないこと(図9)、ならびに、CD29は存在するが、CD34は存在しないことを示している。図11は、両細胞組においてCD14およびCD45抗原が存在しないことを実証している。
【0098】
図12は、HCN2誘導If様電流の発現が、PIRES-HCN2プラスミドをトランスフェクトされた第5継代および第9継代からの細胞におけるのと同じであることを実証している。図12Aは、第5継代細胞(上側2つのパネル)の蛍光画像およびパッチクランプ記録からのサンプル電流記録(下側パネル)を示している。図12Bは、第9継代細胞(上側2つのパネル)の蛍光画像およびパッチクランプ記録からのサンプル電流記録(下側パネル)を示している。図12Cは、キャパシタンス(左側2本の棒)およびHCN2誘導電流密度(右側2つの棒)を比較したヒストグラムである。第5継代からのhMSCと第9継代からのhMSCとの間には、いずれのパラメーターに関しても有意な差異はない。
【0099】
図13は、HCN2誘導電流を発現する第5継代および第9継代細胞の生物物理学的特性が酷似していることを実証している。図13Aは、第5継代(左側パネル)および第9継代(右側パネル)hMSCにおけるHCN2誘導電流の電流記録の比較である。電流記録は酷似している。図13Bは、第5継代(左側パネル)および第9継代(右側パネル)細胞から得られた活性化曲線が同じ活性化中点を示すことを表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に分化することができず、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現する単離されたヒト成人間葉系幹細胞であって、前記HCNチャネルの発現が前記細胞内でペースメーカー電流を誘導するのに効果的であるヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項2】
前記細胞が少なくとも9回継代されている、請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項3】
(i)少なくとも9回継代されており、
(ii)CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現し、
(iii)CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しない、
請求項1に記載の間葉系幹細胞。
【請求項4】
前記細胞が、MiRP1ベータサブユニットを機能的に発現する、請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項5】
前記HCNイオンチャネルが、アミノ末端部分と、膜内部分と、カルボキシ末端部分とを含むキメラHCNチャネルであり、前記部分が、2つ以上のHCNアイソフォームに由来する、請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項6】
前記HCNチャネルが突然変異チャネルである、請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項7】
前記キメラまたは突然変異HCNチャネルが、野生型HCNチャネルと比較して、速い動態、ポジティブな活性化、発現レベルの増大、安定性の増大、維持された周期的間隔応答性および亢進した神経液性応答からなる群から選択される向上した特徴をもたらす、請求項5または6に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項8】
心筋細胞とギャップジャンクション介在型伝達を行うことができる、請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞。
【請求項9】
実質的に分化することができない請求項1に記載のヒト成人間葉系幹細胞の集団と、医薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒト成人間葉系幹細胞が少なくとも9回継代されている、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒト成人間葉系幹細胞の集団が、
(i)少なくとも9回継代されており、
(ii)CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現し、
(iii)CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しない、
請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
実質的に分化することができないギャップジャンクション結合型ヒト成人間葉系幹細胞を含む房室(AV)ブリッジであって、前記ブリッジが第1端部および第2端部を有し、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、電気信号が前記心臓内の2つの部位間で管を通って伝播することが可能になる房室(AV)ブリッジ。
【請求項13】
前記第1端部を心房に装着することができ、前記第2端部を心室に装着することができ、その結果、電気信号が心房から前記管を通って伝播して心室を興奮させることができる、請求項12に記載のAVブリッジ。
【請求項14】
前記管の細胞が、コネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよび補助サブユニット;ナトリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニット;ならびに、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わない、前記カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を機能的に発現する、請求項12に記載のAVブリッジ。
【請求項15】
前記ヒト成人間葉系幹細胞が、
(a)前記細胞内でペースメーカー電流を生成することができる過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネル、または
(b)アミノ末端部分と、膜内部分と、カルボキシ末端部分とを含むキメラHCNチャネルであって、前記部分が2つ以上のHCNアイソフォームに由来し、発現されたキメラHCNチャネルが前記細胞内でペースメーカー電流を生成するキメラHCNチャネル、または
(c)前記細胞内でペースメーカー電流を生成する突然変異HCNチャネル
を機能的に発現する、請求項13に記載のAVブリッジ。
【請求項16】
対象における心臓修復を促進するための方法であって、実質的に分化することができず、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現する単離されたヒト成人間葉系幹細胞を前記対象に有効量投与する段階を含み、前記HCNチャネルの発現が、前記細胞内でペースメーカー電流を誘導するのに効果的である方法。
【請求項17】
前記間葉系幹細胞が、少なくとも9回継代されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記間葉系幹細胞が、
(i)少なくとも9回継代されており、
(ii)CD29、CD44、CD54およびHLAクラスI表面マーカーを発現し、
(iii)CD14、CD45、CD34およびHLAクラスII表面マーカーを発現しない、
請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒト成人間葉系幹細胞が、
(a)前記間葉系幹細胞内でペースメーカー電流を生成することができる過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネル、
(b)アミノ末端部分と、膜内部分と、カルボキシ末端部分とを含むキメラHCNチャネルであって、前記部分が2つ以上のHCNアイソフォームに由来し、発現されたキメラHCNチャネルが前記ヒト成人間葉系幹細胞内でペースメーカー電流を生成するキメラHCNチャネル、または
(c)前記ヒト成人間葉系幹細胞内でペースメーカー電流を生成する突然変異HCNチャネル
を機能的に発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒト成人間葉系幹細胞がMiRP1ベータサブユニットを機能的に発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が心筋機能障害または心筋梗塞に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が心律動障害に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が洞房結節の障害に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が房室結節の障害に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
房室(AV)ブリッジを房室結節障害を有する対象にもたらし、前記方法が少なくとも9回継代されているギャップジャンクション結合型ヒト成人間葉細胞を前記対象に投与する段階を含み、前記房室(AV)ブリッジが第1端部および第2端部を有し、両端部を心臓内の2つの選択部位に装着することができ、その結果、電気信号が前記心臓内の2つの部位間で管を通って伝播することが可能になる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1端部を心房に装着することができ、前記第2端部を心室に装着することができ、その結果、電気信号が心房から前記管を通って伝播して心室を興奮させることができる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ヒト成人間葉系幹細胞が、コネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよび補助サブユニット;ナトリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わないアルファサブユニット;ならびに、カリウムチャネルの補助サブユニットを伴うまたは伴わない、前記カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を機能的に発現する、請求項26に記載の方法。

【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−544285(P2009−544285A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520852(P2009−520852)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/016430
【国際公開番号】WO2008/011134
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(306018457)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (25)
【出願人】(503035992)ザ・リサーチ・ファウンデーション・オブ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク (7)
【Fターム(参考)】