説明

心拍計測装置、心拍計測方法及び心拍計測プログラム

【課題】心拍の間隔を連続して計測することを課題とする。
【解決手段】心拍計測装置10は、装置の操舵部に装置を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極11aと操舵部とは異なる箇所に設けられた基準電極11cとの間で第1の電位差信号を測定する。心拍計測装置10は、装置の操舵部に操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極11bと基準電極11cとの間で第2の電位差信号を測定する。心拍計測装置10は、第1の電位差信号と第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する。心拍計測装置10は、第1の電極11a又は第2の電極11bに対する操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、その時点で第1の電位差信号、第2の電位差信号又は差分信号から振幅のピークが検知された時刻をグリップの変化に応じて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍計測装置、心拍計測方法及び心拍計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
装置を操作する操作者の眠気や覚醒度の変化をとらえるためには、心電計測が有効であることが知られている。一例としては、車両を運転する運転者の眠気や覚醒度を検出するために、運転者の心拍を計測することが検討されている。運転者の心拍を計測する場合には、運転者と接触する2つの電極間の電位差信号を測定した上で、その電位差信号から得られる心電信号を用いて運転者の眠気や覚醒度などの生理状態が検出される。
【0003】
例えば、操作者の心拍を計測する技術の一例としては、両手で計測するための電極構造としつつ、操作が片手になったときにも単独で心拍変動を観測できる心電検知装置が提案されている。この心電検知装置では、左右のそれぞれ異なる手でグリップされる可能性の高いステアリングハンドル部上のそれぞれ異なる領域に左手電極および右手電極が設けられる。さらに、心電検知装置は、シート電極をリファレンス電位としてそれぞれ左手電極および右手電極の信号を検出する左手アナログ回路及び右手アナログ回路を有する。さらに、心電検知装置は、左手アナログ回路及び右手アナログ回路の各出力信号の差及び和を検出する差信号検出回路及び和信号検出回路を有する。心電検知装置は、差信号検出回路から出力される両手検出信号及び和信号検出回路から出力される片手検出信号に振幅の閾値判定を行うことによって、運転手のどちらの手がハンドルをグリップしているかを示す信号及びそのときの心拍信号を出力する。
【0004】
さらに、心拍信号を用いて被験者の覚醒度を判定する覚醒度判定装置も提案されている。この覚醒度判定装置は、心拍信号の振幅のピークが検出される間隔、すなわちR波とR波の間隔であるRRI(R-R Interval)を計測した上で、RRIの変動に対応するスペクトル密度を算出する。さらに、覚醒度判定装置は、算出したスペクトル密度のうち極大周波数に対応する極大スペクトル密度を算出する。その上で、覚醒度判定装置は、極大周波数および極大スペクトル密度の変動傾向をもとに被験者が覚醒状態か否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−142575号公報
【特許文献2】国際公開第2008/065724号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では、以下に説明するように、心拍の間隔を連続して計測できないという問題がある。
【0007】
すなわち、運転者が一方の手でハンドルを持った状態から他方の手または両手に持ち替えたり、また、両手でハンドルを持った状態から片手に持ち替えた場合には、計測されるR波の形状も変化する。ところが、上記の心電検知装置では、心拍を計測するにあたってハンドルのグリップの仕方が変化した場合に、グリップの仕方が変化した前後で操作者の生理状態とは無関係にRRIがゆらぐことを想定していない。このため、上記の心電検知装置では、グリップの仕方が変化した前後で不連続なRRIが計測されることになる。このように、操作者の生理状態とは無関係にゆらいだRRIが計測された場合には、上記の覚醒度判定装置を用いたとしても覚醒度や眠気を正確に判定することができなくなってしまう。
【0008】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、心拍の間隔を連続して計測できる心拍計測装置、心拍計測方法及び心拍計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の開示する心拍計測装置は、装置の操舵部に前記装置を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極と前記操舵部とは異なる箇所に設けられた基準電極との間で第1の電位差信号を測定する第1の測定部を有する。前記心拍計測装置は、前記装置の操舵部に前記操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極と前記基準電極との間で第2の電位差信号を測定する第2の測定部を有する。前記心拍計測装置は、前記第1の測定部よって測定される第1の電位差信号と前記第2の測定部によって測定される第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する算出部を有する。前記心拍計測装置は、前記第1の電極または前記第2の電極に対する前記操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、当該変化が検出された時点で心電信号から振幅のピークが検知された時刻を前記グリップの変化に応じて補正する補正部を有する。前記心電信号には、前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号が含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本願の開示する心拍計測装置の一つの態様によれば、心拍の間隔を連続して計測できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1に係る心拍計測装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、心電信号の測定方法の一例を説明する図である。
【図3A】図3Aは、波形記憶部に記憶される心電信号の波形例を示す図である。
【図3B】図3Bは、波形記憶部に記憶される心電信号の波形例を示す図である。
【図3C】図3Cは、波形記憶部に記憶される心電信号の波形例を示す図である。
【図3D】図3Dは、波形記憶部に記憶される心電信号の波形例を示す図である。
【図3E】図3Eは、波形記憶部に記憶される心電信号の波形例を示す図である。
【図4】図4は、グリップパターン間における振幅ピークの時間差を示す図である。
【図5】図5は、実施例1に係る心拍計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、実施例1に係る心拍計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施例1に係る心拍計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、実施例1に係る心拍計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、実施例1及び実施例2に係る心拍計測プログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する心拍計測装置、心拍計測方法及び心拍計測プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0013】
[心拍計測装置の構成]
まず、本実施例に係る心拍計測装置の機能的構成について説明する。図1は、実施例1に係る心拍計測装置の構成を示す機能ブロック図である。図1に示す心拍計測装置10は、車両のハンドルに操作者の左右の手に対応して設けた第1の電極11a及び第2の電極11bと、リファレンス電位を測定する基準電極11cとを用いて測定される心電信号から操作者の心拍の間隔を計測するものである。なお、図1の例では、車両を運転する運転者の心拍を計測する場合を例示するが、被験者が航空機などの他の装置またはマウスやキーボードなどの他の操舵部を操作する場合にも同様に適用することができる。
【0014】
ここで、本実施例に係る心拍計測装置10は、車両のハンドルに車両を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極11aとハンドルとは異なる箇所に設けられた基準電極11cとの間で第1の電位差信号を測定する。また、本実施例に係る心拍計測装置10は、車両のハンドルに操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極11bと基準電極11cとの間で第2の電位差信号を測定する。さらに、本実施例に係る心拍計測装置10は、第1の電位差信号と第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する。その上で、本実施例に係る心拍計測装置10は、第1の電極11a又は第2の電極11bに対する操作者の手のグリップの変化が検出された場合に、次のような処理を実行する。すなわち、本実施例に係る心拍計測装置10は、変化が検出された時点での第1の電位差信号、第2の電位差信号又は差分信号から振幅のピークが検知された時刻をグリップの変化に応じて補正する。
【0015】
このように、本実施例に係る心拍計測装置10は、グリップの仕方に変化が検出された場合に、グリップの仕方が変化しなかった場合に第1の電位差信号、第2の電位差信号又は差分信号から振幅のピークが計測されると推定される時刻に補正する。RRIの変動に対応するスペクトル密度から覚醒度を判定する上記従来技術においては、例えばRRIが500msec(120拍/分)程度の場合、RRIの凡そ1/100〜1/1000の変化を変動として捉える。従って、グリップの仕方が変化した前後でRRIが不連続になり、RRIが見た目上1/100〜1/1000変化してしまうと、覚醒度や眠気を正確に判定することができなくなってしまう。本実施例に係る心拍計測装置10では、グリップの仕方が変化した前後で操作者の生理状態とは無関係に心拍信号から計測されるR波の間隔がゆらいだとしても、心拍の間隔、いわゆるRRI(R-R Interval)を適切に補正できる。したがって、本実施例に係る心拍計測装置10によれば、RRIを連続して計測することが可能になる。これによって、本実施例に係る心拍計測装置10では、グリップの変化に起因する覚醒度判定精度の低下を抑止することができる。
【0016】
図1に示すように、心拍計測装置10は、第1の電極11aと、第2の電極11bと、基準電極11cと、第1の測定部12aと、第2の測定部12bと、算出部13と、計測部14とを有する。さらに、心拍計測装置10は、波形記憶部15と、判別部16と、補正量記憶部17と、補正部18とを有する。なお、心拍計測装置10には、心拍計測装置10によって計測された操作者のRRIから覚醒度や眠気を判定する覚醒度判定装置20が接続される。
【0017】
これら第1の電極11a、第2の電極11b及び基準電極11cは、操作者の心電心信号を測定するのに使用される電極である。このうち、第1の電極11aは、車両のハンドル上で操作者の左手よりも右手によってグリップされる可能性が高い位置に設けられる。第2の電極11bは、車両のハンドル上で操作者の右手よりも左手によってグリップされる可能性が高い位置に設けられる。また、基準電極11cは、リファレンス電位を測定するのに使用する電極である。なお、上記の基準電極11cは、「参照電極」や「照合電極」とも呼ばれる。
【0018】
第1の測定部12aは、第1の電極11aと基準電極11cとの間で第1の電位差信号を測定する処理部である。第2の測定部12bは、第2の電極11bと基準電極11cとの間で第2の電位差信号を測定する処理部である。また、算出部13は、第1の測定部12aよって測定される第1の電位差信号と第2の測定部12bによって測定される第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する処理部である。
【0019】
例えば、操作者の右手によって第1の電極11aがグリップされた場合には、第1の測定部12aによって右手の心電信号、いわゆる第2誘導が第1の電位差信号として測定される。また、操作者の左手によって第2の電極11bがグリップされた場合には、第2の測定部12bによって左手の心電信号、いわゆる第3誘導が第2の電位差信号として測定される。さらに、操作者の右手によって第1の電極11aがグリップされ、かつ操作者の左手によって第2の電極11bがグリップされた場合には、算出部13によって両手の心電信号、いわゆる第1誘導が差分信号として測定される。なお、ここでは、操作者が各々の電極との接触が推奨される方の手でグリップした場合に測定される心電信号について説明を行ったが、必ずしも第1の電極11aまたは第2の電極11bとの接触が推奨される方の手で各々の電極がグリップされる必要はない。
【0020】
ここで、図2を用いて、第1の電極11a、第2の電極11b及び基準電極11cを用いた心電信号の測定方法を説明する。図2は、心電信号の測定方法の一例を説明する図である。図2に示すように、第1の電極11aは、ハンドルの外周のうち10時の方向から6時の方向までの円弧の部分に設けられる。第2の電極11bは、ハンドルの外周のうち6時の方向から10時の方向までの円弧の部分に設けられる。一方、基準電極11cは、車両の操作者が着座するシートの座面に設けられ、車両の電位と等しくなるようにアースと接地される。なお、ここでは、操作者が着座するシートの座面に基準電極11cを設ける場合を例示したが、必ずしもシートの座面に設ける必要はなく、シートの背もたれに設けることとしてもよい。
【0021】
このように第1の電極11a、第2の電極11b及び基準電極11cが設置された環境の下、第1の測定部12aには、第1の電極11aから操作者の心筋活動電位が入力されるとともに基準電極11cから車体の電位が入力される。これらの電位が入力された第1の測定部12aは、車体の電位を基準とした場合における心筋活動電位を増幅した上で第1の電位差信号として出力する。
【0022】
また、第2の測定部12bには、第2の電極11bから操作者の心筋活動電位が入力されるとともに基準電極11cから車体の電位が第2の測定部12bへ入力される。これらの電位が入力された第2の測定部12bは、車体の電位を基準とした場合における心筋活動電位を増幅した上で第2の電位差信号として出力する。なお、第1の測定部12a及び第2の測定部12bには、オペアンプを含む任意の増幅回路、例えば定数倍増幅器を採用したり、ボルテージフォロワを採用したりすることができる。
【0023】
また、算出部13には、第1の測定部12aによって測定された第1の電位差信号および第2の測定部12bによって測定された第2の電位差信号が入力される。これらの信号が入力された算出部13は、第1の電位差信号および第2の電位差信号の差を演算することによって差分信号を算出する。なお、算出部13には、オペアンプを含む任意の差演算回路を採用できる。
【0024】
なお、図2の例では、操作者が右利きである場合を想定した電極の設置例を図示したが、開示の装置は右利きの操作者によって利用される場合に限定されない。例えば、操作者が左利きである場合には、ハンドルのうち2時の方向から6時の方向までの部位に第1の電極11aを設け、6時の方向から2時の方向までの部位に第2の電極11bを設けることもできる。
【0025】
図1の説明に戻り、計測部14は、差分信号、第1の電位差信号または第2の電位差信号から心拍の間隔、いわゆるRRIを計測する処理部である。一態様としては、計測部14は、差分信号、第1の電位差信号および第2の電位差信号のうち操作者の心電信号が重畳していると推定される心電信号を選択する。そして、計測部14は、選択した心電信号から振幅のピークを検知した上で振幅のピークが検知された時刻の時間間隔を算出することによって操作者のRRIを計測する。
【0026】
これを説明すると、まず、計測部14は、算出部13によって測定された差分信号のノイズレベルを算出する。このとき、計測部14は、差分信号のノイズレベルが所定の閾値Nよりも小さい場合には、RRIの計測に差分信号を使用する。一方、差分信号のノイズレベルが閾値N以上である場合には、第1の電極11aおよび第2の電極11bの両方ともには操作者の手がグリップされておらず、差分信号に心電信号が重畳していないことがわかる。よって、計測部14は、第1の電位差信号または第2の電位差信号のいずれかに心電信号が重畳しているのかをさらに判断するために、第1の測定部12aによって測定された第1の電位差信号のノイズレベルを算出する。
【0027】
このとき、計測部14は、第1の電位差信号のノイズレベルが閾値Nよりも小さい場合には、RRIの計測に第1の電位差信号を使用する。一方、第1の電位差信号のノイズレベルが閾値N以上である場合には、第1の電極11aには操作者の手がグリップされておらず、第1の電位差信号に心電信号が重畳していないことがわかる。よって、計測部14は、第2の電位差信号に心電信号が重畳しているのかをさらに判断するために、第2の測定部12bによって測定された第2の電位差信号のノイズレベルを算出する。そして、計測部14は、第2の電位差信号のノイズレベルが所定の閾値Nよりも小さい場合には、RRIの計測に第2の電位差信号を使用する。なお、第2の電位差信号のノイズレベルが閾値N以上である場合には、差分信号、第1の電位差信号および第2の電位差信号のうちいずれに心電信号が重畳されているのかを判別できないので、RRIの計測を実行しない。
【0028】
このようにしてRRIの計測に用いる心電信号を選択した上で、計測部14は、選択した心電信号から振幅が閾値以上となるポイントR、すなわち振幅のピークを検知する。その後、計測部14は、今回に振幅のピークを検知した時刻および前回に振幅のピークを検知していた時刻の差を計算することによって操作者のRRIを計測する。このとき、計測部14は、後述の判別部16により第1の電極11a又は第2の電極11bに対する操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合、今回に振幅のピークを検知した時刻の代わりに後述の補正部18により補正された時刻をRRIの計測に使用する。また、計測部14は、前回に振幅のピークを検知した時刻が後述の補正部18によって補正されていたとしても、補正後の時刻は使用せずに前回に振幅のピークを検知した時刻をそのまま用いて操作者のRRIを計測する。なお、振幅ピークの検知方法は、上述の方法に限定されない。例えば、計測部14は、心電信号の微分係数が正から負に変わるゼロクロス点を使う方法、振幅波形につきパターンマッチングを行ってピークを検出する方法などを用いることもできる。
【0029】
波形記憶部15は、心電信号の波形を記憶する記憶部である。かかる波形記憶部15の一態様としては、グリップパターンごとに第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号などの心電信号の波形が対応付けられたデータを記憶する。なお、波形記憶部15は、グリップパターンを判別するために、後述の判別部16によって参照される。
【0030】
かかる「グリップパターン」とは、第1の電極11a及び第2の電極11bが操作者の右手、左手または両手によってグリップされるパターンを指す。このグリップパターンの一例としては、操作者の両手によって第1の電極11aおよび第2の電極11bの両方がグリップされるパターンが含まれる。他の一例としては、操作者の右手、左手または両手によって第1の電極11aだけがグリップされるパターンが含まれる。更なる一例としては、操作者の右手、左手または両手によって第2の電極11bだけがグリップされるパターンが含まれる。これらのグリップパターンには、第1の電極11aまたは第2の電極11bとの接触が推奨される方の手で各々の電極がグリップされるパターンの他、それとは逆の手で各々の電極がグリップされるパターンも含まれる。
【0031】
なお、以下では、第1の電極11aまたは第2の電極11bとの接触が推奨される方の手で各々の電極がグリップされるパターンそれぞれを「両手グリップ」、「右手グリップ」、「左手グリップ」と呼ぶ場合がある。また、以下では、第1の電極11aまたは第2の電極11bとの接触が推奨される方の手とは逆の手で各々の電極がグリップされるパターンそれぞれを「第1の電極+左手グリップ」、「第2の電極+右手グリップ」と呼ぶ場合がある。さらに、以下では、同一の電極が操作者の両手でグリップされるパターンそれぞれを「第1の電極+歪両手グリップ」、「第2の電極+歪両手グリップ」、「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」と呼ぶ場合がある。
【0032】
図3A〜図3Eは、波形記憶部15に記憶される心電信号の波形例を示す図である。図3Aは、第1の電極11aが操作者の右手によってグリップされ、かつ第2の電極11bが操作者の左手によってグリップされる「両手グリップ」の波形を示す。図3Bは、第1の電極11aが操作者の右手によってグリップされ、かつ第2の電極11bがグリップされない「右手グリップ」の波形を示す。図3Cは、第1の電極11aがグリップされず、第2の電極11bが操作者の左手によってグリップされる「左手グリップ」の波形を示す。図3Dは、第1の電極11aが操作者の両手によってグリップされ、かつ第2の電極11bがグリップされない「第1の電極+歪両手グリップ」の波形を示す。図3Eは、第1の電極11aが操作者の両手によってグリップされ、かつ第2の電極11bが操作者の左手によってグリップされる「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の波形を示す。
【0033】
図3Aに示す「両手グリップ」の場合には、第1の電位差信号31R、第2の電位差信号31Lおよび差分信号31Tの波形のうち少なくとも差分信号31Tの波形が波形記憶部15によって保持される。また、図3Bに示す「右手グリップ」の場合には、ノイズだけが測定される第2の電位差信号32L及び差分信号32Tを除く、第1の電位差信号32Rが波形記憶部15によって保持される。また、図3Cに示す「左手グリップ」の場合には、ノイズだけが測定される第1の電位差信号33R及び差分信号33Tを除く、第2の電位差信号33Lが波形記憶部15によって保持される。また、図3Dに示す「第1の電極+歪両手グリップ」の場合には、ノイズだけが測定される第2の電位差信号34L及び差分信号34Tを除く、第1の電位差信号34Rが波形記憶部15によって保持される。また、図3Eに示す「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の場合には、第1の電位差信号35R、第2の電位差信号35Lおよび差分信号35Tの波形のうち少なくとも差分信号35Tの波形が波形記憶部15によって保持される。
【0034】
なお、上記の心電信号の波形は、車両の運転開始前にキャリブレーションモードへ移行して導出した各グリップパターンの第1の電位差信号、第2の電位差信号又は差分信号の波形を波形記憶部15へ登録することができる。また、他の装置が有する第1の測定部、第2の測定部及び算出部を用いて導出された各グリップパターンの第1の電位差信号、第2の電位差信号及び差分信号の波形を波形記憶部15へ登録することもできる。
【0035】
判別部16は、波形記憶部15を用いて、操作者がハンドルをグリップしているパターンを判別する処理部である。一態様としては、判別部16は、波形記憶部15によってグリップパターンごとに記憶された心電信号の波形と、第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形との類似度から、当該操作者がハンドルをグリップしているパターンを判別する。
【0036】
これを説明すると、判別部16は、RRIの計測に差分信号が使用された場合には、「両手グリップ」及び「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の差分信号と、算出部13によって算出された差分信号との間における波形の類似度を算出する。このとき、判別部16は、2つの差分信号間で各々の時刻における振幅値の差分を累積加算することにより、2つの差分信号間の相関係数を算出する。かかる相関係数を求めた場合には、相関係数の値が小さいほど2つの信号の類似度が高くなる。そして、判別部16は、「両手グリップ」及び「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の差分信号との間で算出された類似度のうち「両手グリップ」の類似度の方が高い場合には、グリップパターンが「両手グリップ」であると判別する。一方、判別部16は、「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の類似度の方が高い場合には、グリップパターンが「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」であると判別する。なお、ここでは、2つの差分信号間の振幅値の差分を累積加算することによって類似度を算出する場合を例示したが、2つの差分信号間で波形の形状をパターンマッチングすることにより類似度を算出することとしてもよい。
【0037】
また、判別部16は、RRIの計測に第1の電位差信号が使用された場合には、次のような処理を実行する。すなわち、判別部16は、「第1の電極+歪両手グリップ」、「右手グリップ」及び「第1の電極+左手グリップ」の差分信号と、第1の測定部12aによって測定された第1の電位差信号との間における波形の類似度を算出する。そして、判別部16は、上記の3つのグリップパターンの差分信号との間で算出された類似度のうち「第1の電極+歪両手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「第1の電極+歪両手グリップ」であると判別する。また、判別部16は、「右手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「右手グリップ」であると判別する。また、判別部16は、「第1の電極+左手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「第1の電極+左手グリップ」であると判別する。
【0038】
また、判別部16は、RRIの計測に第2の電位差信号が使用された場合には、次のような処理を実行する。すなわち、判別部16は、「第2の電極+歪両手グリップ」、「左手グリップ」及び「第2の電極+右手グリップ」の差分信号と、第2の測定部12bによって測定された第2の電位差信号との間における波形の類似度を算出する。そして、判別部16は、上記の3つのグリップパターンの差分信号との間で算出された類似度のうち「第2の電極+歪両手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「第2の電極+歪両手グリップ」であると判別する。また、判別部16は、「左手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「左手グリップ」であると判別する。また、判別部16は、「第2の電極+右手グリップ」の類似度が最大である場合には、グリップパターンが「第2の電極+右手グリップ」であると判別する。
【0039】
このようにしてグリップパターンを判別すると、判別部16は、今回に判別したグリップパターンが前回に判別したグリップパターンから変化したか否かを判定する。すなわち、判別部16は、前回の判別結果と比較して、今回の判別結果が「両手グリップ」、「右手グリップ」、「左手グリップ」及び「歪両手グリップ」の間で異なるグリップパターンに遷移したか否かを判定する。
【0040】
補正量記憶部17は、振幅のピークが検知された時刻を補正する補正量を記憶する記憶部である。かかる補正量記憶部17の一態様としては、グリップパターンの組合せ及びその組合せに対応する補正量が対応付けられたデータを記憶する。なお、補正量記憶部17は、振幅のピークが検知された時刻を補正するために、グリップの仕方が変化した前後のグリップパターンの組合せに対応する補正量が後述の補正部18によって参照される。
【0041】
図4は、グリップパターン間における振幅ピークの時間差を示す図である。図4には、グリップパターンが「両手グリップ」である場合に測定された第1の電位差信号41R、第2の電位差信号41L及び差分信号41Tが図示されている。さらに、図4には、グリップパターンが「第1の電極+左手グリップ」である場合に測定された第1の電位差信号42R、グリップパターンが「第1の電極+歪両手グリップ」である場合に測定された第1の電位差信号43Rが図示されている。なお、図4の例では、「両手グリップ」の差分信号41Tから振幅のピークが検知された時刻t0を基準とした場合における時間差が図示されている。
【0042】
図4に示すように、「右手グリップ」の第1の電位差信号41Rは、差分信号41Tとの間における振幅ピークの時間差が「δt_R」である。また、「左手グリップ」の第2の電位差信号41L及び「第1の電極+左手グリップ」の第1の電位差信号42Rは、差分信号41Tとの間における振幅ピークの時間差が「δt_L」である。さらに、「第1の電極+歪両手グリップ」の第1の電位差信号43Rは、差分信号41Tとの間における振幅ピークの時間差が「δt_T」である。
【0043】
例えば、グリップパターンが「両手グリップ」から「右手グリップ」へ変化した場合には、第1の電位差信号41Rの振幅ピークが差分信号41Tよりも、時間差「δt_R」の分、早く検知されるので、補正量を「+δt_R」と設定すればよい。また、グリップパターンが「両手グリップ」から「左手グリップ」へ変化した場合には、第1の電位差信号42Rの振幅ピークが差分信号41Tよりも、時間差「δt_L」の分、遅く検知されるので、補正量を「-δt_L」と設定すればよい。さらに、グリップパターンが「両手グリップ」から「歪両手グリップ」へ変化した場合には、第1の電位差信号43Rの振幅ピークが差分信号41Tよりも、時間差「δt_T」の分、早く検知されるので、補正量を「+δt_T」とすればよい。このように、基準とする差分信号41Tから振幅のピークが検知される時刻t0から、「右手グリップ」、「左手グリップ」又は「歪両手グリップ」の心電信号から振幅のピークが検知される時刻を減算することによって各々の補正量を求めることができる。
【0044】
また、同様にして、グリップパターンが「歪両手グリップ」から「右手グリップ」、「左手グリップ」又は「両手グリップ」へ変化する場合には、補正量が次のように求まる。すなわち、差分信号41Tの振幅ピークの検知時刻t0から、第1の電位差信号43Rの振幅ピークの検知時刻「t0-δt_T」を減算し、さらに、第1の電位差信号41R、第2の電位差信号41Lまたは差分信号41Tの振幅ピークの検知時刻を加算することで求まる。
【0045】
さらに、同様にして、グリップパターンが「右手グリップ」から「左手グリップ」、「両手グリップ」又は「歪両手グリップ」へ変化する場合には、各々の補正量が次のように求まる。すなわち、差分信号41Tの振幅ピークの検知時刻t0から、第1の電位差信号41Rの振幅ピークの検知時刻「t0-δt_R」を減算し、さらに、第2の電位差信号41L、差分信号41Tまたは第1の電位差信号43Rの振幅ピークの検知時刻を加算することで求まる。
【0046】
また、同様にして、グリップパターンが「左手グリップ」から「右手グリップ」、「両手グリップ」又は「歪両手グリップ」へ変化する場合には、各々の補正量が次のように求まる。すなわち、差分信号41Tの振幅ピークの検知時刻t0から、第2の電位差信号41Lの振幅ピークの検知時刻「t0+δt_L」を減算し、さらに、第1の電位差信号41R、差分信号41Tまたは第1の電位差信号43Rの振幅ピークの検知時刻を加算することで求まる。
【0047】
このように、「両手グリップ」に対する「右手グリップ」、「左手グリップ」及び「歪両手グリップ」の時間差が既知である場合には、グリップの仕方が変化する前後のグリップパターンの組合せごとにその組合せに対応する補正量を登録しておくことができる。なお、図4の例では、「両手グリップ」の差分信号41Tから振幅のピークが検知された時刻t0を基準とする場合を例示したが、他の心電信号から振幅のピークが検知された時刻を基準としてもかまわない。
【0048】
補正部18は、判別部16によって操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、当該変化が検出された時点で第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号から振幅のピークが検知された時刻をグリップの変化に応じて補正する処理部である。
【0049】
一態様としては、補正部18は、判別部16によってグリップパターンの変化が検出された場合に、補正量記憶部17に記憶された補正量のうちグリップの仕方が変化した前後のグリップパターンの組合せに対応する補正量を読み出す。その上で、補正部18は、計測部14によって今回に振幅のピークが検知された時刻を先に読み出した補正量にしたがって補正する。例えば、補正部18は、補正量が正の値である場合には、今回に振幅のピークが検知された時刻を補正量の値を加算した時刻に補正する。また、補正部18は、補正量が負の値である場合には、今回に振幅のピークが検知された時刻を補正量の値を減算した時刻に補正する。なお、判別部16によってグリップパターンの変化が検出されなかった場合には、操作者の生理状態とは無関係にRRIがゆらがない可能性が高いので、計測部14によって今回に振幅のピークが検知された時刻がそのままRRIの計測に使用される。
【0050】
なお、計測部14、判別部16及び補正部18には、各種の集積回路や電子回路を採用できる。例えば、集積回路としては、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)が挙げられる。また、電子回路としては、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などが挙げられる。
【0051】
また、波形記憶部15及び補正量記憶部17などの記憶部には、半導体メモリ素子や記憶装置を採用できる。例えば、半導体メモリ素子としては、VRAM(Video Random Access Memory)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリ(flash memory)などが挙げられる。また、記憶装置としては、ハードディスク、光ディスクなどの記憶装置が挙げられる。
【0052】
[処理の流れ]
次に、本実施例に係る心拍計測装置の処理の流れについて説明する。図5〜図8は、実施例1に係る心拍計測処理の手順を示すフローチャートである。この心拍計測処理は、心拍計測処理の電源がON状態である場合に繰り返し実行される処理である。
【0053】
図5に示すように、第1の測定部12aは、第1の電極11aと基準電極11cとの間で第1の電位差信号を測定し、第2の測定部12bは、第2の電極11bと基準電極11cとの間で第2の電位差信号を測定する(ステップS101)。続いて、算出部13は、第1の電位差信号と第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する(ステップS102)。
【0054】
その後、計測部14は、算出部13によって測定された差分信号のノイズレベルを算出する(ステップS103)。このとき、差分信号のノイズレベルが所定の閾値Nよりも小さい場合(ステップS104肯定)には、計測部14は、RRIの計測に差分信号を選択する。そして、計測部14は、選択した心電信号から振幅が閾値以上となるポイントR、すなわち振幅のピークを検知する(ステップS105)。
【0055】
続いて、判別部16は、「両手グリップ」及び「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の差分信号と、算出部13によって算出された差分信号との間における波形の類似度を算出する(ステップS106)。
【0056】
そして、「両手グリップ」の類似度の方が高い場合(ステップS107肯定)には、判別部16は、グリップパターンが「両手グリップ」であると判別する(ステップS108)。一方、「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」の類似度の方が高い場合(ステップS107否定)には、判別部16は、グリップパターンが「第1の電極及び第2の電極+歪両手グリップ」であると判別する(ステップS109)。
【0057】
一方、差分信号のノイズレベルが閾値N以上である場合(ステップS104否定)には、第1の電極11aおよび第2の電極11bの両方ともには操作者の手がグリップされておらず、差分信号に心電信号が重畳していないことがわかる。よって、計測部14は、図6に示すように、第1の測定部12aによって測定された第1の電位差信号のノイズレベルを算出する(ステップS110)。
【0058】
このとき、第1の電位差信号のノイズレベルが閾値Nよりも小さい場合(ステップS111肯定)には、計測部14は、RRIの計測に第1の電位差信号を選択する。そして、計測部14は、選択した心電信号から振幅が閾値以上となるポイントR、すなわち振幅のピークを検知する(ステップS112)。
【0059】
続いて、判別部16は、「第1の電極+歪両手グリップ」、「右手グリップ」及び「第1の電極+左手グリップ」の差分信号と、第1の測定部12aによって測定された第1の電位差信号との間における波形の類似度を算出する(ステップS113)。
【0060】
ここで、「第1の電極+歪両手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS114肯定)には、判別部16は、グリップパターンが「第1の電極+歪両手グリップ」であると判別する(ステップS115)。
【0061】
また、「右手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS114否定かつステップS116肯定)には、判別部16は、グリップパターンが「右手グリップ」であると判別する(ステップS117)。
【0062】
また、「第1の電極+左手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS114否定かつステップS116否定)には、判別部16は、グリップパターンが「第1の電極+左手グリップ」であると判別する(ステップS118)。
【0063】
一方、第1の電位差信号のノイズレベルが閾値N以上である場合(ステップS111否定)には、第1の電極11aには操作者の手がグリップされておらず、第1の電位差信号に心電信号が重畳していないことがわかる。よって、計測部14は、図7に示すように、第2の測定部12bによって測定された第2の電位差信号のノイズレベルを算出する(ステップS119)。
【0064】
そして、第2の電位差信号のノイズレベルが所定の閾値Nよりも小さい場合(ステップS120肯定)には、計測部14は、RRIの計測に第2の電位差信号を使用する。そして、計測部14は、選択した心電信号から振幅が閾値以上となるポイントR、すなわち振幅のピークを検知する(ステップS121)。なお、第2の電位差信号のノイズレベルが閾値N以上である場合(ステップS120否定)には、差分信号、第1の電位差信号および第2の電位差信号のうちいずれに心電信号が重畳されているのかを判別できないので、RRIの計測を実行しない。
【0065】
続いて、判別部16は、「第2の電極+歪両手グリップ」、「左手グリップ」及び「第2の電極+右手グリップ」の差分信号と、第2の測定部12bによって測定された第2の電位差信号との間における波形の類似度を算出する(ステップS122)。
【0066】
そして、「第2の電極+歪両手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS123肯定)には、判別部16は、グリップパターンが「第2の電極+歪両手グリップ」であると判別する(ステップS124)。
【0067】
また、「左手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS123否定かつステップS125肯定)には、判別部16は、グリップパターンが「左手グリップ」であると判別する(ステップS126)。
【0068】
また、「第2の電極+右手グリップ」の類似度が最大である場合(ステップS123否定かつステップS125否定)には、判別部16は、グリップパターンが「第2の電極+右手グリップ」であると判別する(ステップS127)。
【0069】
このようにグリップパターンを判別すると、判別部16は、図8に示すように、判別部16は、今回に判別したグリップパターンが前回に判別したグリップパターンから変化したか否かを判定する(ステップS128)。
【0070】
ここで、グリップパターンの変化が検出された場合(ステップS128肯定)には、補正部18は、次のような処理を実行する。すなわち、補正部18は、グリップの仕方が変化した前後のグリップパターンの組合せに対応する補正量にしたがって、計測部14によって今回に振幅のピークが検知された時刻を補正する(ステップS129)。その後、計測部14は、補正部18によって補正された時刻および前回に振幅のピークを検知していた時刻の差を計算することによって操作者のRRIを計測する(ステップS130)。
【0071】
一方、グリップパターンの変化が検出された場合(ステップS128否定)には、計測部14は、ステップS129の処理、すなわち振幅ピークの検知時刻を補正する処理を実行せずに、ステップS130の処理に移行する。すなわち、計測部14は、今回に振幅のピークを検知した時刻および前回に振幅のピークを検知していた時刻の差を計算することによって操作者のRRIを計測する(ステップS130)。
【0072】
このようにして計測されたRRIは、覚醒度判定装置20へ出力され、覚醒度判定装置20によって覚醒度や眠気が判定される。
【0073】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る心拍計測装置10は、グリップの仕方に変化が検出された場合に、グリップの仕方が変化しなかった場合に第1の電位差信号、第2の電位差信号又は差分信号から振幅のピークが計測されると推定される時刻に補正する。それゆえ、本実施例に係る心拍計測装置10では、グリップの仕方が変化した前後で操作者の生理状態とは無関係に心拍信号から計測されるR波の間隔がゆらいだとしても、心拍の間隔、いわゆるRRIを適切に補正できる。したがって、本実施例に係る心拍計測装置10によれば、RRIを連続して計測することが可能になる。これによって、本実施例に係る心拍計測装置10では、覚醒度判定装置20に覚醒度や眠気を正確に判定させることも可能になる。
【0074】
また、本実施例に係る心拍計測装置10は、第1の電極11aおよび第2の電極11bが操作者の右手または左手によってグリップされるパターンごとに第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形を記憶する。そして、本実施例に係る心拍計測装置10は、記憶した第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形と、第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形との類似度から、当該操作者がハンドルをグリップしているパターンを判別する。その上で、本実施例に係る心拍計測装置10は、グリップのパターンの変化が検出された場合に、グリップが変化した前後のパターンに応じて、第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号から振幅のピークが検知された時刻を補正する。このため、本実施例に係る心拍計測装置10では、グリップパターンの変化からRRIのゆらぎを推定して振幅ピークの検知時刻を補正できる。それゆえ、本実施例に係る心拍計測装置10によれば、グリップの仕方が変化した前後で不連続なRRIが計測されるのをより高い確率で防止できる。
【0075】
さらに、本実施例に係る心拍計測装置10は、同一の電極が操作者の両手によってグリップされるパターンについて第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形をさらに記憶する。このため、本実施例に係る心拍計測装置10では、操作者がハンドルをグリップする態様を網羅して第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形を蓄積できる。よって、本実施例に係る心拍計測装置10では、多様な局面でグリップパターンの変化からRRIのゆらぎを推定して振幅ピークの検知時刻を補正できる。
【実施例2】
【0076】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0077】
[装置の構成単位]
上記の実施例1では、心拍計測装置10と覚醒度判定装置20とが別々に構成される場合を例示したが、開示の装置はこれに限定されず、これら心拍計測装置10及び覚醒度判定装置20を一体化して構成することとしてもかまわない。
【0078】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、第1の測定部12a、第2の測定部12b、算出部13、計測部14、判別部16または補正部18を心拍計測装置の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、第1の測定部12a、第2の測定部12b、算出部13、計測部14、判別部16または補正部18を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の心拍計測装置の機能を実現するようにしてもよい。
【0079】
[心拍計測プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、図9を用いて、上記の実施例と同様の機能を有する心拍計測プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0080】
図9は、実施例1及び実施例2に係る心拍計測プログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。図9に示すように、コンピュータ100は、操作部110aと、スピーカ110bと、マイク110cと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、CPU150と、ROM160と、HDD170と、RAM180と有する。これら110〜180の各部はバス140を介して接続される。
【0081】
HDD170には、図9に示すように、上記の実施例1で示した計測部14と、判別部16と、補正部18と同様の機能を発揮する心拍計測プログラム170aが予め記憶される。この心拍計測プログラム170aについては、図1に示した各々の計測部14、判別部16及び補正部18の各構成要素と同様、適宜統合又は分離しても良い。すなわち、HDD170に格納される各データは、常に全てのデータがHDD170に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみがHDD170に格納されれば良い。
【0082】
そして、CPU150が、心拍計測プログラム170aをHDD170から読み出してRAM180に展開する。これによって、図9に示すように、心拍計測プログラム170aは、心拍計測プロセス180aとして機能する。この心拍計測プロセス180aは、HDD170から読み出した各種データを適宜RAM180上の自身に割り当てられた領域に展開し、この展開した各種データに基づいて各種処理を実行する。なお、心拍計測プロセス180aは、図1に示した計測部14、判別部16及び補正部18にて実行される処理、例えば図5〜図8に示す処理を含む。また、CPU150上で仮想的に実現される各処理部は、常に全ての処理部がCPU150上で動作する必要はなく、処理に必要な処理部のみが仮想的に実現されれば良い。
【0083】
なお、上記の心拍計測プログラム170aについては、必ずしも最初からHDD170やROM160に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10 心拍計測装置
11a 第1の電極
11b 第2の電極
11c 基準電極
12a 第1の測定部
12b 第2の測定部
13 算出部
14 計測部
15 波形記憶部
16 判別部
17 補正量記憶部
18 補正部
20 覚醒度判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の操舵部に前記装置を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極と前記操舵部とは異なる箇所に設けられた基準電極との間で第1の電位差信号を測定する第1の測定部と、
前記装置の操舵部に前記操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極と前記基準電極との間で第2の電位差信号を測定する第2の測定部と、
前記第1の測定部よって測定される第1の電位差信号と前記第2の測定部によって測定される第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出する算出部と、
前記第1の電極または前記第2の電極に対する前記操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、当該変化が検出された時点で前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号から振幅のピークが検知された時刻を前記グリップの変化に応じて補正する補正部と
を有することを特徴とする心拍計測装置。
【請求項2】
前記第1の電極および前記第2の電極が操作者の右手または左手によってグリップされるパターンごとに前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号の波形を記憶する記憶部と、
前記記憶部によってパターンごとに記憶された第1の電位差信号、第2の電位差信号または差分信号の波形と、前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号の波形との類似度から、当該操作者が前記操舵部をグリップしているパターンを判別する判別部とをさらに有し、
前記補正部は、
前記判別部によってグリップのパターンの変化が検出された場合に、グリップが変化した前後のパターンに応じて、前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号から振幅のピークが検知された時刻を補正することを特徴とする請求項1に記載の心拍計測装置。
【請求項3】
前記記憶部は、同一の電極が前記操作者の両手によってグリップされるパターンについて前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号の波形をさらに記憶することを特徴とする請求項2に記載の心拍計測装置。
【請求項4】
コンピュータが、
装置の操舵部に前記装置を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極と前記操舵部とは異なる箇所に設けられた基準電極との間で第1の電位差信号を測定するとともに、前記装置の操舵部に前記操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極と前記基準電極との間で第2の電位差信号を測定し、
前記第1の電位差信号と前記第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出し、
前記第1の電極または前記第2の電極に対する前記操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、当該変化が検出された時点で前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号から振幅のピークが検知された時刻を前記グリップの変化に応じて補正する
各処理を実行することを特徴とする心拍計測方法。
【請求項5】
コンピュータに、
装置の操舵部に前記装置を操作する操作者の一方の手に対応して設けられた第1の電極と前記操舵部とは異なる箇所に設けられた基準電極との間で第1の電位差信号を測定するとともに、前記装置の操舵部に前記操作者の他方の手に対応して設けられた第2の電極と前記基準電極との間で第2の電位差信号を測定し、
前記第1の電位差信号と前記第2の電位差信号との間で差分を演算することによって差分信号を算出し、
前記第1の電極または前記第2の電極に対する前記操作者のグリップの仕方に変化が検出された場合に、当該変化が検出された時点で前記第1の電位差信号、前記第2の電位差信号または前記差分信号から振幅のピークが検知された時刻を前記グリップの変化に応じて補正する
各処理を実行させることを特徴とする心拍計測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−239474(P2012−239474A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108745(P2011−108745)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】