説明

心的負荷推定装置

【課題】運転者の心的負荷を精度よく求めることができる心的負荷推定装置を提供する。
【解決手段】走行状況検出装置5及び車載器操作検出装置6により、走行環境が心的負荷を感じ易い環境か感じ難い環境かを判定し、各環境に応じて運転者の心的負荷を仮推定する。そして、各環境で得た心的負荷の差分から、荷運転者の状況適応性を判定してクラス分けし、各クラスで使用特徴量を切り換えて、重回帰分析法により運転者の心的負荷推定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の心的負荷(精神負荷)を推定する心的負荷推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両運転者の覚醒度、疲労、感情などの状態を、心拍などの生体情報の計測を通じて推定する心的負荷装置が開示されている(特許文献1等参照)。この装置では、センサから得られる運転者の心拍情報に基づき運転者の意識レベルを判定し、意識レベルが低いと判定されたときに、運転者に警告を発する。また、別の技術として、例えば運転者の運転行動を検出し、その運転行動に基づき運転者の状態を推定する心的負荷推定装置も考案されている(特許文献2等参照)。この装置では、サイドミラーを目視する頻度等を検出し、その検出結果と閾値との比較を通じて運転者の状態を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−184558号公報
【特許文献2】特開2005−4414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の心的負荷推定装置では、特定の生体情報に係る判定条件にのみ基づいて、運転者の状態を一律に判定している。しかし、生体情報と運転者の状態との関係は、例えば運転者の状況適応性によって左右されるはずである。このため、同一の判定条件によって一律に運転者の状態を推定するのでは、その判定結果が実際の運転者の状態とずれる可能性があった。また、運転行動と運転者の状態との関係についても運転者ごとに異なる可能性が高く、特許文献2の装置においても同様の懸念がある。
【0005】
本発明の目的は、運転者の心的負荷を精度よく求めることができる心的負荷推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本発明では、心的負荷の推定に関わる身体の特徴量を用いて統計的解析により運転者の心的負荷を推定する心的負荷推定装置であって、運転者の生体情報を前記特徴量として取得する生体情報取得手段と、車載装置から取得する車両情報を基に走行環境を判定する走行環境判定手段と、心的負荷のかかる環境下での該心的負荷を仮推定する比較心的負荷仮推定手段と、仮推定した比較心的負荷と基準心的負荷との差分を基に、運転者の運転に対する状況適応性を判定する状況適応性判定手段と、前記状況適応性判定手段の判定結果を基に、使用する前記特徴量を設定し、該特徴量にて真の心的負荷を推定する心的負荷推定手段とを備えたことを要旨とする。
【0007】
本発明の構成によれば、車両の走行環境を走行環境判定手段により判定し、心的負荷のかかる環境下での運転者の心的負荷を比較心的負荷仮推定手段により仮推定する。求めた比較心的負荷と、比較心的負荷の比較対象となる基準心的負荷との差分を求め、この差分から、運転者の状況適応性を判断する。そして、運転者の状況適応性により運転者をクラス分けするとともに、各状況適応性に応じた使用特徴量を設定し、この特徴量にて運転者の真の心的負荷を推定する。このため、各状況適応性に応じた好適な特徴量を統計的解析の変数として使用することが可能となるので、運転者の心的負荷を精度よく推定することが可能となる。
【0008】
本発明では、前記統計的解析は、重回帰分析法であることを要旨とする。この構成によれば、重回帰分析法を用いるので、運転者の心的負荷の推定精度の確保に一層寄与する。
本発明では、基準となる走行環境下での心的負荷である前記基準心的負荷を仮推定する基準心的負荷仮推定手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、運転者のその時々の基準心的負荷を割り出すことが可能となるので、基準心的負荷を精度よく求めることが可能となる。
【0009】
本発明では、前記生体情報取得手段は、運転者の心電を計測する心電計測器を備えることを要旨とする。この構成によれば、心電図データによって運転者の心的負荷を求めるので、運転者の心的負荷を精度よく推定することが可能となる。
【0010】
本発明では、ある走行環境となって前記心的負荷を仮推定するとき、当該環境に類似した環境が以前に存在した場合、そのときに割り出した心的負荷を流用する推定結果流用手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、過去に類似した走行環境があれば、その時に割り出した心的負荷を流用するので、心的負荷を毎回演算しなくて済む。よって、心的負荷推定装置の処理負荷を軽減することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運転者の心的負荷を精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の心的負荷推定装置の構成図。
【図2】HR、CVRRの説明図。
【図3】TPの説明図。
【図4】SNAの説明図。
【図5】HRV2、HRV4の説明図。
【図6】LFp、HFp、MFの説明図。
【図7】心的負荷の推定手順を示すフローチャート。
【図8】心的負荷推定の評価モデル。
【図9】心的負荷推定の評価指標。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した心的負荷推定装置の一実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1に示すように、車両1には、運転者の心的負荷を推定する心的負荷推定装置2が設けられている。心的負荷推定装置2には、心的負荷推定装置2を統括制御する制御装置3が設けられている。制御装置3は、例えばECU(Electronic Control Unit)からなり、ECU内の制御プログラムを基に動作して、走行中における運転者の心的負荷を推定する。心的負荷推定装置2によって演算された心的負荷が閾値以上となったとき、運転者の運転精神に余裕がないと判断され、例えば安全運転を促すようなメッセージ等が運転者に通知される。
【0014】
制御装置3には、運転者の心電図を計測する心電計測器4が接続されている。心電計測器4は、例えば運転座席等に搭載されるとともに、運転者が座席に着座すると自動で運転者に装着状態となる。心電計測器4は、例えば車両1のイグニッションスイッチがオンすると、運転者の心電図波形の計測を開始し、心電図データSsdを制御装置3に定期的に出力する。なお、心電計測器4が生体情報取得手段を構成する。
【0015】
制御装置3には、車両1の走行情報を検出する走行状況検出装置5が設けられている。走行状況検出装置5は、例えばGPS(Global Positioning System)、ナビゲーション装置、路側通信インフラなどがある。走行状況検出装置5は、車両1の現在の走行状況に対するデータとして、走行情報データScrを制御装置3に出力する。走行情報データScrは、例えば高速道路の合流地点、道路渋滞、市街地などを表すものとなっている。なお、走行状況検出装置5が車載装置を構成する。
【0016】
制御装置3には、運転者の運転状況を検出する車載器操作検出装置6が設けられている。車載器操作検出装置6は、例えばステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、ホーン等の車載器の操作有無を検出するスイッチやセンサ等からなる。車載器操作検出装置6は、運転者の運転状況に対するデータとして、運転情報データSdrを制御装置3に出力する。運転情報データSdrは、例えばアクセルペダル、ブレーキペダル、車載スイッチの操作回数を表すものとなっている。なお、車載器操作検出装置6が車載装置を構成する。
【0017】
制御装置3は、心電計測器4から取得する心電図データSsdを基に、運転者の心的負荷を重回帰分析法(ステップワイズ重回帰分析法)により推定する。重回帰分析法は、基準変数(心的負荷の推定値)をyとし、身体の特徴量をxipとし、βp及びεを係数とすると、次式(1)を使用した位置推定法となっている。
【0018】
【数1】

特徴量には、例えば心拍数(HR)、RRIの変動係数(CVRR)、単位時間当たりのデータ中の極値の割合(TP)、交感神経活動指標(SNA)、心拍の0.04〜0.45Hzに対する0.15〜0.25Hzのパワー比(HRV2)、心拍の0.04〜0.45Hzのパワーに対する0.35〜0.45Hzのパワーの比(HRV4)がある。特徴量には、心拍の0.04〜0.15Hzのパワーピーク値(LFp)、心拍の0.15〜0.45Hzのパワーピーク値(HFp)、心拍の0.078〜0.137Hzのパワー(MF)がある。
【0019】
図2に示すように、HRは、心電図データSsd、つまり心電図波形から求まる。また、CVRRは、心電図波形から求まるRRIを基に算出される。RRIは、次式(2)により算出される。
【0020】
【数2】

そして、RRI平均をAVERRとし、RRI標準偏差をSDRRとすると、CVRRは、SDRR/AVERRにより算出される。なお、全ての特徴量がRRIを基に算出される。
【0021】
図3に示すように、TPは、RRI時系列に占めるピーク波+トラフ波の割合である。つまり、ピーク波の点とトラフ波の点との総数を、ピーク波の点とトラフ波の点とカウントしない点との総数で割った値である。
【0022】
図4に示すように、SNAは、心拍変動(RRIの揺らぎ)のパワースペクトルから算出される。ここで、心拍変動のパワースペクトルは、次式(3)により算出される。
【0023】
【数3】

SNAは、LF帯のパワースペクトルとHF帯のパワースペクトルとの比(LF/HF)により算出される。なお、LF帯のパワースペクトルは、次式(4)により算出され、HF帯のパワースペクトルの積分値は、次式(5)により算出される。
【0024】
【数4】

【0025】
【数5】

図5に示すように、HRV2は、0.04〜0.45Hzのパワー(AF)に対する0.15〜0.25Hzのパワー(HF1)の比(HF1/AF)により算出される。HRV4は、0.04〜0.45Hzのパワー(AF)に対する0.35〜0.45Hzのパワー(HF2)の比(HF2/AF)により算出される。AFは、次式(6)により算出され、HF1は、次式(7)により算出され、HF2は、次式(8)により算出される。
【0026】
【数6】

【0027】
【数7】

【0028】
【数8】

図6に示すように、LFpは、LF帯におけるパワーピークであり、HFpは、HF帯におけるパワーピークである。MFは、同図に示す0.078〜0.137Hzのパワーである。
【0029】
図1に示す制御装置3は、走行状況検出装置5及び車載器操作検出装置6からの出力値を基に、現在の走行環境のレベル(走行環境レベル)を判断する。走行環境レベルは、現在の走行環境が、運転者にとって心的負荷を感じ易い環境か又は感じ難い環境かを表す判断指標である。制御装置3は、心的負荷を感じ易い環境又は感じ難い環境の各々で仮の心的負荷を推定し、両環境で得た心的負荷の差異を求め、運転者の状況適応性を確認する。そして、制御装置3は、状況適応性に応じた特徴量を設定し、その特徴量にて真の心的負荷を推定する。
【0030】
この場合、図1に示すように、制御装置3には、心電計測器4から心電図データSsdを取得する心電図波形取得部7が設けられている。心電図波形取得部7は、心電計測器4から常時出力される心電図データSsdを入力し、心電図データSsdを例えばデジタル信号等に変換処理する。なお、心電図波形取得部7が生体情報取得手段を構成する。
【0031】
制御装置3には、車両1の走行環境を判定する走行環境判定部8が設けられている。走行環境判定部8は、走行情報データScr及び運転情報データSdrを基に、車両1の現在走行環境が、心的負荷の感じ易い環境(高負荷環境)であるのか、又は心的負荷の感じ難い環境(基準環境)であるのかを判定する。走行環境判定部8は、例えば路線、渋滞レベル、単位時間当たりのアクセルペダルの操作回数、単位時間当たりのブレーキペダルの操作回数、単位時間当たりのホーンの操作回数などを基に、走行環境を逐次判定する。例えば、これら項目で複数項目が基準を超えれば、走行環境が高負荷環境と判定され、全ての項目で基準未満となれば、走行環境が基準環境と判定される。高負荷環境は、例えば高速道路合流地点、渋滞、混雑した市街地など、各状況に応じて複数パターン存在する。走行環境判定部8は、高負荷環境を認識する度に、その走行環境(組み合わせパターン)を個人データとして、車両1のイグニッションオン中、自身のメモリに保持する。なお、走行環境判定部8が走行環境判定手段に相当する。
【0032】
制御装置3には、基準環境のときに運転者にかかる心的負荷(基準心的負荷)を仮推定する基準心的負荷仮推定部9が設けられている。基準心的負荷仮推定部9は、予め設定された特徴量を重回帰分析法の変数として使用し、基準心的負荷を仮推定する。基準心的負荷推定では、例えば以下の特徴量(基準特徴量)が使用される。なお、基準心的負荷仮推定部9が基準心的負荷仮推定手段に相当する。
【0033】
基準心的負荷の推定時に使用する特徴量(基準特徴量)…心拍数(HR)、RRI変動係数(CVRR)、交感神経活動(SNA)、心拍の0.04〜0.45Hzに対する0.15〜0.25Hzのパワー比(HRV2)、心拍の0.04〜0.15Hzのパワーピーク値(LFp)
制御装置3には、高負荷環境のときに運転者にかかる心的負荷(比較心的負荷)を仮推定する比較心的負荷仮推定部10が設けられている。比較心的負荷仮推定部10は、走行環境が高負荷環境となる度に、比較心的負荷を仮推定する。比較心的負荷仮推定部10は、予め設定された特徴量を重回帰分析法の変数として使用し、比較心的負荷を仮推定する。比較心的負荷は、基準心的負荷を仮推定するときと同じ特徴量が使用される。比較心的負荷仮推定部10は、求めた比較心的負荷を、そのときの走行環境と対応付けて、車両1のイグニッションオン中、自身のメモリに保持する。なお、比較心的負荷仮推定部10が比較心的負荷仮推定手段に相当する。
【0034】
制御装置3には、過去に割り出した比較心的負荷を流用する仮推定結果流用部11が設けられている。仮推定結果流用部11は、高負荷環境に類似した環境が以前に存在した場合、そのときに割り出した比較心的負荷を流用する。例えば、路面形状(カーブ路/直線路)、場所(交差点、高速道路、市街地、国道)、混雑度、時間/曜日(通勤時間、通学時間、平日、休日)、工事情報などで、走行環境を分類し、類似する環境があれば、既存の比較心的負荷を流用する。なお、仮推定結果流用部11が推定結果流用手段に相当する。
【0035】
制御装置3には、運転者の状況適応性を判定する状況適応性判定部12が設けられている。状況適応性判定部12は、基準心的負荷と比較心的負荷との差分を求め、この差分と閾値とを比較することにより、運転者の状況適応性を判定する。例えば、差分が閾値以上の場合、状況適応性を低いクラスに設定し、差分が閾値未満の場合、状況適応性を高いクラスに設定する。なお、状況適応性判定部12が状況適応性判定手段に相当する。
【0036】
制御装置3には、運転者の状況適応性に応じた特徴量を設定する特徴量設定部13が設けられている。特徴量設定部13は、状況適応性判定部12が行った状況適応性のクラスに基づき、使用すべき特徴量を設定する。例えば、使用する特徴量は以下のように設定される。なお、特徴量設定部13が心的負荷推定手段を構成する。
【0037】
状況適応性が高いクラス…心拍数(HR)、単位時間当たりのデータ中の極値の割合(TP)、交感神経活動指標(SNA)、心拍の0.04〜0.15Hzのパワーピーク値(LFp)、心拍の0.15〜0.4 5Hzのパワーピーク値(HFp)
状況適応性が低いクラス…心拍数(HR)、単位時間当たりのデータ中の極値の割合(TP)、交感神経活動指標(SNA)、心拍の0.04〜0.45Hzのパワーに対する0.35〜0.45Hzのパワーの比(HRV4)、心拍の0.078〜0.137Hzのパワー(MF)
制御装置3には、特徴量設定部13にて設定された特徴量を使用して真の心的負荷を推定する心的負荷推定部14が設けられている。心的負荷推定部14は、特徴量設定部13が指定した特徴量を重回帰分析法の変数として使用し、真の心的負荷を推定する。心的負荷推定部14は、演算した心的負荷を他のECUに出力する。なお、心的負荷推定部14が心的負荷推定手段を構成する。
【0038】
次に、本例の心的負荷推定装置2の動作を、図7のフローチャートを用いて説明する。なお、同図のフローチャートは、車両1のイグニッションスイッチがオンとなったときに、制御装置3によって実行される。
【0039】
ステップ101において、走行環境判定部8は、走行情報データScr及び運転情報データSdrを基に、車両1の走行環境を判定する。つまり、制御装置3は、走行環境判定部8にて車両1の走行環境を監視する。
【0040】
ステップ102において、現在の走行環境が基準環境か否かを判定する。走行環境が基準環境でなければステップ101に戻り、走行環境が基準環境であればステップ103に移行する。
【0041】
ステップ103において、基準心的負荷仮推定部9は、基準特徴量を使用して重回帰分析法により基準心的負荷を仮推定する。本例の場合、基準特徴量は、HR、CVRR、SNA、HRV2、LFpが使用されている。
【0042】
ステップ104において、走行環境判定部8は、走行情報データScr及び運転情報データSdrを基に、車両1の走行環境を判定する。つまり、制御装置3は、基準心的負荷の推定後、走行環境判定部8にて車両1の走行環境を監視する。
【0043】
ステップ105において、走行環境判定部8は、現在の走行環境が高負荷環境か否かを判定する。走行環境が高負荷環境でなければステップ104に戻り、走行環境が高負荷環境であればステップ106に移行する。
【0044】
ステップ106において、仮推定結果流用部11は、ステップ105で割り出した高負荷環境に類似の環境が以前に存在したか否かを判定し、過去の個人データが利用できるか否かを判定する。このとき、類似の環境が以前に存在しなければ、過去の個人データは流用できないとして、ステップ107に移行する。一方、類似の環境が以前に存在すれば、過去の個人データが利用できるとし、ステップ108に移行する。
【0045】
ステップ107において、比較心的負荷仮推定部10は、基準特徴量を使用して重回帰分析法により比較心的負荷を仮推定する。
ステップ108において、仮推定結果流用部11は、過去に求めた比較心的負荷を制御装置3のメモリから読み出す。本例の場合、過去に求めた比較心的負荷は走行環境と対応付けられてメモリに保持されているので、現在の走行環境を頼りに、過去に求めた比較心的負荷をメモリから読み出す。
【0046】
ステップ109において、状況適応性判定部12は、比較心的負荷と基準心的負荷との差分を求め、この差分を閾値と比較することにより、運転者の状況適応性を判定する。差分が閾値以上であれば、状況適応性が低いと判定し、ステップ110に移行し、差分が閾値未満であれば、状況適応性が高いと判定し、ステップ111に移行する。
【0047】
ステップ110において、特徴量設定部13は、重回帰分析法で使用する特徴量を、運転者の状況適応性が低いとき用の特徴量に設定する。このとき、使用特徴量は、HR、TP、SNA、HRV4、MFに設定される。
【0048】
ステップ111において、特徴量設定部13は、重回帰分析法で使用する特徴量を、運転者の状況適応性が高いとき用の特徴量に設定する。このとき、使用特徴量は、HR、TP、SNA、LFp、HFpに設定される。
【0049】
ステップ112において、心的負荷推定部14は、特徴量設定部13にて設定された特徴量を用いて、重回帰分析法により真の心的負荷を測定する。よって、運転者の状況適応性が低いときは、HR、TP、SNA、HRV4、MFを重回帰分析法の変数として使用し、運転者の真の心的負荷を推定する。また、運転者の状況適応性が高いときは、HR、TP、SNA、LFp、HFpを重回帰分析法の変数として使用し、運転者の真の心的負荷を推定する。
【0050】
図8に示すように、重回帰分析法により推定した心的負荷の精度は、主観評価から算出したAWWLとの相関関数R及び誤差標準偏差SDを評価指標として判定する。相関関数Rは、次式(9)により求まり、誤差標準偏差SDは、次式(10)により求まる。
【0051】
【数9】

【0052】
【数10】

なお、xは、推定AWWL、yは、AWWL、nはデータ数である。重回帰分析法では、相関関数Rが高く、誤差標準偏差が低ければ、そのモデルは高精度であると言える。
【0053】
図9に、本例の演算方式で推定した心的負荷の評価結果を示す。同図のグラフに示されるように、クラス分類(状況適応性で分類)しない場合よりも、クラス分類(状況適応性で分類)した本例の場合の方がばらつきを少なく抑えられることが分かる。ちなみに、相関関数Rは、0.824から0.909に向上し、誤差標準偏差SDは、10.9から7.7に向上している。
【0054】
以上により、本例においては、走行状況検出装置5及び車載器操作検出装置6により、走行環境が心的負荷を感じ易い環境か感じ難い環境かを判定し、各環境に応じて運転者の心的負荷を仮推定する。そして、各環境で得た心的負荷の差分から、運転者の状況適応性を判定してクラス分けし、各クラスで使用特徴量を切り換えて、重回帰分析法により運転者の心的負荷推定を行う。このため、図9の評価指標に示されるように、精度の高い推定結果を得ることが可能となる。
【0055】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)走行状況検出装置5や車載器操作検出装置6からの出力値を基に走行環境レベルを判定し、心的負荷の感じ難い走行環境下における心的負荷(基準心的負荷)と、心的負荷の感じ易い走行環境下における心的負荷(比較心的負荷)との差分を求める。そして、この差分から運転者の状況適応性を判定し、状況適応性に応じた使用特徴量を設定し、この使用特徴量を重回帰分析法の変数として使用して、運転者の真の心的負荷を推定する。このため、各状況適応性に応じた好適な特徴量を重回帰分析法の変数として使用することが可能となるので、運転者の心的負荷を精度よく求めることができる。
【0056】
(2)運転者の心的負荷推定に重回帰分析法を用いるので、より精度よく運転者の心的負荷を求めることができる。
(3)基準心的負荷は車両1が走行に入る都度、演算されるので、精度のよい基準心的負荷を用いて運転者の心的負荷を演算することができる。また、基準心的負荷や比較心的負荷は重回帰分析法により演算されるので、基準心的負荷や比較心的負荷を精度よく求めることもできる。
【0057】
(4)運転者の心的負荷は、心電という人の心理状況を的確に示す心電図データSsdにて推定される。よって、心的負荷を精度よく求めることができる。
(5)負荷の感じ易い走行環境となって比較心的負荷を推定するとき、過去に類似した走行環境があれば、その時に割り出した心的負荷を流用する。よって、比較心的負荷を毎回演算しなくて済むので、制御装置3の処理負荷を軽減することができる。
【0058】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・状況適応性は、比較心的負荷と基準心的負荷との差分に応じて、多段階で設定可能としてもよい。
【0059】
・基準心的負荷は、走行の都度演算されることに限らず、過去走行時に割り出したものを流用してもよい。
・心的負荷の感じ易い走行環境は、複数パターンに限定されず、例えば1パターンのみとしてもよい。
【0060】
・比較心的負荷を仮推定するとき、心的負荷の感じ易い走行環境ごとに、使用する特徴量を変えてもよい。
・生体情報は、心電図に限らず、他の生体に関係する情報を使用してもよい。
【0061】
・走行環境が心的負荷の感じ易い環境か、又は感じ難い環境下の判定の仕方は、適宜変更可能である。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0062】
(イ)請求項1〜5のいずれかにおいて、前記比較心的負荷仮推定手段は、心的負荷のかかる環境下での心的負荷を、前記特徴量のうち基準となるものを用いて前記統計的解析により仮推定する。この構成によれば、比較心的負荷を統計的解析により推定するので、比較心的負荷を精度よく求めることが可能となる。
【0063】
(ロ)請求項1〜5、前記技術的思想(イ)のいずれかにおいて、基準となる走行環境下での心的負荷である前記基準心的負荷を仮推定する基準心的負荷仮推定手段を備え、前記基準心的負荷仮推定手段は、基準となる走行環境下での心的負荷を、前記特徴量のうち基準となるものを用いて前記統計的解析により仮推定する。この構成によれば、基準心的負荷を統計的解析により推定するので、基準心的負荷を精度よく求めることが可能となる。
【0064】
(ハ)請求項5、前記技術的思想(イ)、(ロ)のいずれかにおいて、前記推定結果流用手段は、前記比較心的負荷仮推定手段及び前記基準心的負荷仮推定手段のいずれか一方のものとして機能する。この構成によれば、心的負荷の流用の仕方を、好適な組み合わせで適宜設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1…車両、2…心的負荷推定装置、4…生体情報取得手段を構成する心電計測器、5…車載装置を構成する走行状況検出装置、6…車載装置を構成する車載器操作検出装置、7…生体情報取得手段を構成する生体情報取得部、8…走行環境判定手段としての走行環境判定部、9…基準心的負荷仮推定手段としての基準心的負荷仮推定部、10…比較心的負荷仮推定手段としての比較心的負荷仮推定部、11…推定結果流用手段としての仮推定結果流用部、12…状況適応性判定手段としての状況適応性判定部、13…心的負荷推定手段を構成する特徴量設定部、14…心的負荷推定手段を構成する心的負荷推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心的負荷の推定に関わる身体の特徴量を用いて統計的解析により運転者の心的負荷を推定する心的負荷推定装置であって、
運転者の生体情報を前記特徴量として取得する生体情報取得手段と、
車載装置から取得する車両情報を基に走行環境を判定する走行環境判定手段と、
心的負荷のかかる環境下での該心的負荷を仮推定する比較心的負荷仮推定手段と、
仮推定した比較心的負荷と基準心的負荷との差分を基に、運転者の運転に対する状況適応性を判定する状況適応性判定手段と、
前記状況適応性判定手段の判定結果を基に、使用する前記特徴量を設定し、該特徴量にて真の心的負荷を推定する心的負荷推定手段と
を備えたことを特徴とする心的負荷推定装置。
【請求項2】
前記統計的解析は、重回帰分析法である
ことを特徴とする請求項1に記載の心的負荷推定装置。
【請求項3】
基準となる走行環境下での心的負荷である前記基準心的負荷を仮推定する基準心的負荷仮推定手段を備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の心的負荷推定装置。
【請求項4】
前記生体情報取得手段は、運転者の心電を計測する心電計測器を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の心的負荷推定装置。
【請求項5】
ある走行環境となって前記心的負荷を仮推定するとき、当該環境に類似した環境が以前に存在した場合、そのときに割り出した心的負荷を流用する推定結果流用手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の心的負荷推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−5988(P2013−5988A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142145(P2011−142145)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月10日 「平成22年度 愛知県立大学情報科学部 卒業研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(507054456)
【Fターム(参考)】