説明

心肺蘇生術モニタリング装置

【課題】救助者等が最適な心臓マッサージ手技を行うことが可能とする。
【解決手段】心肺蘇生術実施時における胸部圧迫のタイミングの検出信号を得る検出手段10と、受光した光の強度変化により血液容積変化を検出し、酸素飽和度を求めるパルスオキシメータ20と、前記検出手段10により得られた検出信号に基づく胸部圧迫タイミングにおいて検出された血液容積脈波変化により求められた酸素飽和度に基づき心肺蘇生術に関する評価を行う評価手段30と、前記評価手段30による評価結果に応じて出力を行う出力手段である表示装置40を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、心肺蘇生術を実施する際などに、救助者等が最適な心臓マッサージ手技を行うことが可能なようにモニタリングする心肺蘇生術用モニタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心肺蘇生術(CPR)による肺膨張計測により心肺蘇生術の適否を判定するには、胸郭インピーダンスを用いる手法が採用されている。しかしながら、胸郭インピーダンスを用いた肺膨張計測によっては、血液の酸素化と血流状態が改善したかについては判定できない。
【0003】
一方、心肺蘇生術の実施中に血液の酸素化をモニタリングするために、SpO2 を用いる手法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、心肺蘇生術の実施中にはSpO2 計測に有効な脈波を得ることができないため、計測不能となることがある。また、心肺蘇生術に起因する体動が外乱となって正確な計測を行うことが困難である。
【0004】
また、透過光の直流成分が血液酸素化の情報を持っており、ノイズ混入時の補正に有効であることが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2においては、SpO2 測定の際に一時的に発生するノイズ混入に対応する補正を示すのみであり、心肺蘇生術を実施しなければならない状態において脈波が存在しないためにSpO2 が得られないことは想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−46606号公報
【特許文献2】特許第3116252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような心肺蘇生術を実施する際などにおける、心臓マッサージ手技に関する上記のようなモニタ技術の現状に鑑みてなされたもので、その目的は、救助者等による心臓マッサージ手技の効果をモニタリングする心肺蘇生術用モニタリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置は、心肺蘇生術実施時における胸部圧迫のタイミングの検出信号を得る検出手段と、受光した光の強度変化により血液容積変化を検出し、酸素飽和度を求めるパルスオキシメータと、前記検出手段により得られた検出信号に基づく胸部圧迫タイミングにおいて検出された血液容積変化により求められた酸素飽和度に基づき心肺蘇生術に関する評価を行う評価手段と、前記評価手段による評価結果に応じて出力を行う出力手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置は、前記検出手段を変位センサ、速度センサ、加速度センサまたは圧力センサにより構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置は、前記パルスオキシメータの発光部及び受光部は前記検出手段を構成し、前記検出手段は生体表面に配置可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置によれば、心肺蘇生術実施時における胸部圧迫のタイミングの検出信号を得て、得られた検出信号に基づく胸部圧迫タイミングにおいてパルスオキシメータにより検出される酸素飽和度に基づき心肺蘇生術に関する評価を行うので、胸部圧迫によって血液の移動が起こり、これを脈波として捕らえてパルスオキシメータによるSpO2 測定を行うことが可能となり、パルスオキシメータによる測定出力により、血液酸素化の傾向を計測して、救助者等による心臓マッサージ手技が適正に行われるように導くことが可能である。
【0011】
心臓マッサージを受ける患者は拍動が無いケースが多く、従来の派するオキシメータでは、酸素飽和度(SpO2)を測定することができない。しかし、本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置によれば、検出手段により検出される胸部圧迫のタイミングを拍動と擬似し同期することで、従来、酸素飽和度(SpO2)を測定できなかった環境下でも酸素飽和度(SpO2)の測定を可能とする。
【0012】
本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置によれば、検出手段を有するため、胸部圧迫に非同期のノイズ(例えば体動や救急車内の振動など)を除去できるので、精度良く酸素飽和度(SpO2)を測定できる。
【0013】
従来は、胸部圧迫に酸素飽和度(SpO2)を検出するとS/N比が悪く、精度の良い測定ができなかった。しかし、本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置によれば、発光部及び受光部が検出手段を構成し、検出手段は生体表面に配置可能な構成であるため、動静脈を併せた血液層容積変化を大きな信号として取り出すことができる。したがって、動脈血の酸素飽和度(SpO2)が上昇すれば、静脈血の酸素飽和度(SpO2)も上昇するため、従来のように動脈血酸素飽和度だけを選択的に抽出しなくても、心臓マッサージ手技による効果の良否判定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る心肺蘇生術モニタリング装置における第一の実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る心肺蘇生術モニタリング装置における第一の実施形態の動作を説明するためのフローチャート。
【図3】本発明に係る心肺蘇生術モニタリング装置における第二の実施形態の構成を示すブロック図。
【図4】心肺蘇生術実施前後の生体における状態及び入射光、透過光を説明するための図。
【図5】本発明に係る心肺蘇生術モニタリング装置における第二の実施形態の動作を説明するためのフローチャート。
【図6】本発明に係る心肺蘇生術モニタリング装置における第二の実施形態の動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下添付図面を参照して、本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置の実施形態を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1に、本発明に係る心肺蘇生術用モニタリング装置の実施形態を示す。この装置には、検出手段10と、パルスオキシメータ20と、評価手段30と、出力手段である表示装置40とが備えられている。
【0016】
検出手段10は、心肺蘇生術実施時における胸部圧迫のタイミングの検出信号を得るものであり、胸部圧迫の部位に配置され、変位センサ、速度センサ、加速度センサまたは圧力センサにより構成することができる。パルスオキシメータ20は、脈波を検出して、その脈波を用いて酸素飽和度を検出するものであり、その構成は公知であり、例えば先に挙げた特許文献2に示されている構成を採用することができる。
【0017】
ここで、パルスオキシメータ20は、脈拍による拍動を用いて酸素飽和度を検出するものであることは公知である。また、心肺蘇生術は、心室細動などが発生した患者には脈拍が無く、心臓から血液が流れないため、人為的に行われる救命措置である。
【0018】
評価手段30は、検出手段10により得られた検出信号に基づく胸部圧迫タイミングにおいて上記パルスオキシメータ20により検出された血液容積脈波変化により求められた酸素飽和度に基づき心肺蘇生術に関する評価を行うものであり、例えばコンピュータにより構成することができる。この評価手段30は、検出手段10は得られた信号のレベル(例えば、変位のレベル、速度のレベル、加速度のレベルまたは圧力のレベル)が、予め設定されている閾値を超えた場合に、心肺蘇生術実施時における1回毎の胸部圧迫がなされているタイミングであるとして、上記閾値を信号レベルが超えるタイミングを特定し、パルスオキシメータ20に通知する。
【0019】
このタイミングを例えば胸郭圧迫同期信号と呼ぶと、パルスオキシメータ20は胸部圧迫同期信号に同期する受光強度の変動を、胸郭圧迫に由来する血流変動として脈拍の代わりとすることが出来る。つまり、パルスオキシメータ20は、受光した光の強度変化により血液容積変化を検出し、酸素飽和度を求めるものである。評価手段30は、パルスオキシメータ20から送られた酸素飽和度信号SpO2を取り込み、その値の変化により血液酸素化の傾向を計測して、救助者等による心臓マッサージ手技が適正に行われているか否かを評価する。
【0020】
評価手段30は、評価結果を表示装置40へ送る。表示装置40は、評価手段30による評価結果に応じて出力を行う。上記において、出力手段である表示装置40は、LCDなどのディスプレイにより文字を表示するものの他、単に光点灯などによりメッセージを出力するもの、音声によりメッセージを出力するもの、或いはこれらの必要な組み合わせによりメッセージを出力するものであり、評価手段30による評価を示す出力を行うものであればよい。
【0021】
図2は、評価手段30が実行する動作を示すフローチャートである。このフローチャートに基づき、動作の説明を行う。まず、検出手段10の出力を取り込み、胸部圧迫がなされているタイミングである胸部圧迫期間を求める処理を行い(S11)、胸部圧迫期間となったか検出する(S12)。
【0022】
胸部圧迫期間である場合には、パルスオキシメータ20の出力である酸素飽和度信号SpO2を取り込み保持し(S13)、胸部圧迫期間中かを検出し(S14)、胸部圧迫期間中である限り胸部圧迫に同期して酸素飽和度信号SpO2を取り込み保持する(S13)。胸部圧迫期間中が終了すると、取り込み保持してある酸素飽和度信号SpO2と過去の履歴値とを比較し(S15)、血液酸素飽和度が上昇傾向であるかを検出する(S16)。
【0023】
上記ステップS16において血液酸素飽和度が上昇傾向でないと判定すると、「心臓マッサージに改善の余地あり」のメッセージ情報を出力手段である表示装置40へ送って表示させる(S14)。また、上記ステップS16において血液酸素飽和度が上昇であると判定すると、「現在の心臓マッサージが適当」のメッセージ情報を出力手段である表示装置40へ送って表示させる(S18)。ステップS17またはステップS18に続いて今回の血液酸素飽和度を用いて履歴値を作成して記憶し(S19)、ステップS11へ戻る。
【0024】
図3には、第二の実施形態に係る心肺蘇生術用モニタリング装置の構成図が示されている。この実施形態においては、パルスオキシメータ20の発光部21及び受光部22を、検出手段10を配置する生体表面に配置したものである。発光部21及び受光部22と検出手段10を一つの筐体に設けることもできる。その他の構成は、第一の実施形態の構成と同じである。なお、本実施例おいて、第一実施形態で述べた変位センサ、速度センサ、加速度センサまたは圧力センサを検出手段として必ずしも用いる必要はない。検出手段として、受光部22が受光した光の強度変化を胸郭圧迫検出の手段とできるからである。
【0025】
発光部21から射出され生体に入射する光は、一方が赤色光であり、入射光強度Riであり、他方が赤外光であり、入射強度Iiである。これらが生体を透過すると、透過光強度Roの赤色光と透過強度Ioの赤外光となる。以上は胸郭圧迫がなされていないときであり、図4(a)に示されている。
【0026】
一方、心肺蘇生術の実施中であり、胸郭圧迫がなされているときには、血液層が大きく圧迫を受け、生体の組織のみを光が透過する図4(b)の状態となる。このとき、透過光強度Ro´の赤色光と透過強度Io´の赤外光となる。透過光強度Ro´の赤色光と透過強度Io´の赤外光は、血液層の入射光と考えることができ、パルスオキシメータの原理による測定が可能である。
【0027】
図4においては、透過として説明したが、発光部21及び受光部22を、検出手段10を配置する生体表面に配置するため、反射光によりパルスオキシメータ20が処理を行う。
【0028】
評価手段30Aは、検出手段10の出力を用いて胸部圧迫がなされているタイミングを求めるが、第1の実施形態と異なり、1回毎ではなく、例えば心肺蘇生術が続いているか否かを検出できれば良い。従って、例えば変位センサまたは圧力センサの出力変動が検出されている場合に、パルスオキシメータ20から送られた酸素飽和度信号SpO2を用いた評価を行い、出力変動が一定期間なくなると評価の処理を停止する。
【0029】
図5、図6のフローチャートに基づき、評価手段30Aによる動作が行われるので、これらのフローチャートを用いて動作の説明を行う。評価手段30Aは、検出手段10の出力を用いて心肺蘇生術が実施中かの情報を求め(S21)、実施中であるか否かを検出する(S22)。実施中であれば評価手段30Aによる評価処理を起動し(S23)、実施中でなければ評価手段30Aによる評価処理を停止する(S24)。
【0030】
図5は、評価手段30Aによる評価処理のフローチャートである。評価手段30Aは、パルスオキシメータ20の出力である酸素飽和度信号SpO2を心肺蘇生術による胸部圧迫に同期して取り込み保持し(S31)、取り込み保持してある酸素飽和度信号SpO2と過去の履歴値とを比較し(S32)、血液酸素飽和度が上昇傾向であるかを検出する(S33)。
【0031】
上記ステップS33において血液酸素飽和度が上昇傾向でないと判定すると、「心臓マッサージに改善の余地あり」のメッセージ情報を出力手段である表示装置40へ送って表示させる(S34)。また、上記ステップS33において血液酸素飽和度が上昇であると判定すると、「現在の心臓マッサージが適当」のメッセージ情報を出力手段である表示装置40へ送って表示させる(S35)。ステップS34またはステップS35に続いて今回の血液酸素飽和度を用いて履歴値を作成して記憶し(S36)、エンドとなる。
【符号の説明】
【0032】
10 検出手段
20 パルスオキシメータ
21 発光部
22 受光部
30 評価手段
40 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺蘇生術実施時における胸部圧迫のタイミングの検出信号を得る検出手段と、
受光した光の強度変化により血液容積変化を検出し、酸素飽和度を求めるパルスオキシメータと、
前記検出手段により得られた検出信号に基づく胸部圧迫タイミングにおいて検出された血液容積脈波変化により求められた酸素飽和度に基づき心肺蘇生術に関する評価を行う評価手段と、
前記評価手段による評価結果に応じて出力を行う出力手段と
を具備することを特徴とする心肺蘇生術モニタリング装置。
【請求項2】
前記検出手段を変位センサ、速度センサ、加速度センサまたは圧力センサにより構成した請求項1に記載の心肺蘇生術モニタリング装置。
【請求項3】
前記パルスオキシメータの発光部及び受光部は前記検出手段を構成し、前記検出手段は生体表面に配置可能とする請求項1に記載の心肺蘇生術モニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200384(P2012−200384A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67217(P2011−67217)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】