説明

心臓病を治療するための方法と装置

本発明は、狭心症および/またはうっ血性心不全などの心臓病を治療する方法と装置に関する。冠状動脈への不適切な血流によって引き起こされた狭心症のような病気は、本発明では、上行大動脈の周りに巻かれた平滑筋組織の移植によって治療される。平滑筋は、移植された刺激装置によって電気的に刺激され、心臓のサイクルに対応するように決められた時間間隔で収縮する。収縮は冠血管への血流を補助する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国特許第6,659,936号(2003年12月9日発行)、国際出願PCT/AU00/00925(2000年8月4日出願)、オーストラリア仮出願AU PQ2026(1999年8月4日出願)は禁制(continence)の制御にかかわる。国際出願PCT/AU2005/001698(2005年11月8日出願)、オーストラリア仮出願AU2004906393(2004年11月8日出願)は移植可能な電極装置に関する。
国際出願PCT/AU2006/001301(2006年9月4日出願)、オーストラリアプロフェッショナル(Professional)出願AU2005904830(2005年9月2日出願)は医学的状態の管理のための移植にかかわる。
オーストラリア仮出願第2005905672は心臓病を治療する方法と装置にかかわる。
上記文献はそれぞれ、参照によってその全体がここに組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は心臓病を治療する方法と装置にかかわる。限定されるわけではないが特に、狭心症および/またはうっ血性心不全を管理する方法と装置にかかわる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
狭心症は、心臓自身の冠状動脈への不適切な血流によって引き起こされた病気である。狭心症には通常、動脈のアテローム性動脈硬化症を伴う。狭心症は深刻な状態であって、多くに人々に影響が及ぶ。狭心症は、いわゆる「安定な」形態であってさえ、生活に厳しい影響を与え、患者が、例えば、強い運動や活動に参画するのを妨げる。「不安定な」狭心症は、予測できないがために、より一層危険である。
【0004】
さらに、狭心症を治療せずにいると、心臓のポンピング動作の効率が悪化するため、心臓が弱って、うっ血性心不全になることがある。
【0005】
多くの治療法が狭心症や弱った心臓の症状への対処に適用できる。それらには次のものが含まれる。
●左心房補助装置(Left Ventricular Assist Devices)(LVAD)。LVADは基本的には左心室の働きを補助または補うポンプである。LVADは弱った心臓の性能を補い身体の他の部分への血液の灌流を促進する。LVADは、不適切な冠血流(それがあると仮定して)の状態を完全に軽減するものではなく、むしろ、通常は身体をめぐる血流を補助するものであるだろう。LVADは、かなり大きな装置であり、一般に大電力が必要なので装着することには制限がある。
●冠状動脈用ステントの追加する場合としない場合があるが、粥腫(plaque)を分解するカテーテル導入することによって、血管形成術はアテローム性動脈硬化症の治療に利用される。血管形成術は効果が限定的であるだろう、特に重篤な場合には限定的であるだろう。
●大動脈筋肉形成術(aortomyoplasty)と呼ばれる技術が公表された。この技術は大動脈に巻きつけられた骨格筋(好ましくは、広背筋)を利用するものである。骨格筋は、大動脈からの血流を促進するために、電気的な刺激を受けて拡張期カウンタパルゼイションを作り出す。骨格筋の使用に際する問題点は、神経と血液供給を損なわず行う複雑な手術を伴う、血管再生移植が必要なことである。さらに、患者の身体の別の部位から骨格筋を採取せねばならないため、患者に機能面での影響を与える可能性がある。また、筋肉を適切に活性化して力を生み出すためには、比較的高周波数の電気的刺激を骨格筋に与えることが必要で、かつ大電力の電源が必要とされる。
【0006】
カウンタパルゼイション(counter-pulsation)効果を生み出す他の治療法には以下のものがある:大動脈内バルーンポンピング(患者の体内に経皮的に一時的に導入され、病院の環境でベッドサイド操作される方法)、増強体外式カウンタパルゼイション技術(患者が横になった状態で腕に装着された、膨らまし型カフ(inflatable cuff)を利用する方法)、装着可能なカウンタパルゼイションシステム(大動脈の周りで膨らまし型カフを利用する方法)など。これらのまたは上述の技術はいずれも全面的に有効であるわけではなく、また全ての患者の治療に使えるというものではない。
【0007】
国際出願PCT/AU00/0095(前掲)において、患者の体内の別の部位から採取された平滑筋から「新生括約筋」を形成するステップと、尿道の周りに新生括約筋を巻きつけるステップを含む、尿失禁の治療法と治療装置が提案されている。移植可能な刺激装置は一つまたは複数の電極を介して新生括約筋に電気信号を提供する。使用者が排尿を望むまでは膀胱からの尿漏れを減らすため、その電気信号は新生括約筋を刺激して尿道の周りの正常な緊張状態を維持する。制御装置からの信号が、刺激装置が新生括約筋に電気信号を提供するのを中断させると、新生括約筋が弛緩して、人が排尿できるようになる。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
一つの態様では、本発明は、収縮性組織が収縮することで心臓の機能を補助させるために、心臓または心臓血管に配置された収縮性組織を刺激するための信号を提供する刺激装置を含む心臓病の治療装置を提供する。
【0009】
一実施形態では、刺激装置は患者の体内に移植される。一実施態様では、刺激装置全体が患者体内に移植される。他の実施形態では刺激装置の一部は体内に移植され一部は体外に置かれる。
【0010】
一実施形態では、刺激装置は患者の体外にあり、収縮性組織を刺激するため、皮膚経由で刺激信号が提供される。
【0011】
収縮性組織は心臓の近傍または心臓上に配置される。心臓血管の近傍または心臓血管上に配置してもよい。「心臓血管」という用語は、心臓に入る血管と心臓から出る血管を含んでおり、上大静脈、大動脈、冠血管、または栄養物を提供し、心臓から老廃物を取り除くことに結びついた他の血管をも含む。
【0012】
一実施形態では、収縮性組織は上行大動脈の付近に配置される。本実施形態では、収縮性組織は上行大動脈の回りに巻きつけられたラップ(wrap)として移植されることが好ましい。該ラップが大動脈の周りに部分的に巻きつけられていてもよいし、全周に巻きつけられてもよい。
【0013】
本実施形態では、収縮により冠血管への血液灌流を補助するために、収縮性組織は、冠状動脈の手前に配置される。
【0014】
一実施形態では、心臓の収縮に対応する所定時間に収縮性組織を刺激するため、刺激装置は心臓周期に対応する所定時間に信号を提供するように構成される。
【0015】
一実施形態では、左心房から血液を駆出する後半の位相の間に、刺激によりカウンタパルゼイション効果が与えられるように、刺激のタイミングが設定される。
【0016】
一実施形態では、刺激装置は心臓周期の位相を検知するためのセンサーを備える。これにより、例えば、右心房が収縮する時が検知され、この情報が収縮性組織への信号提供の時間を決めるのに使われる。
【0017】
一実施形態では、収縮性組織は骨格筋組織を除くどのような収縮性組織であってもよい。
【0018】
一実施形態では、収縮性組織は平滑筋と同一または同等の性質を有している。
【0019】
一実施形態では、収縮性組織は平滑筋組織である。平滑筋組織は、患者の身体の他の部分からの移植された平滑筋であってもよいし、ドナーから提供された平滑筋であってもよいし、平滑筋の幹細胞または増殖性平滑筋から成長した平滑筋組織でもよいし、成長した平滑筋組織および/またはドナーから提供された平滑筋組織を組み合わせたものでもよい。
【0020】
平滑筋を収縮性組織として用いる利点は以下の通り:
●大動脈に都合のよい位置にある適当な平滑筋のソースをもちいることで、フリーグラフトを用いて平滑筋を移植できる。
●ドナーの組織の生存能力を保持することが求められるマイクロサージャリー(microsurgery)の必要が無い。(これに対して、骨格筋の場合には、神経や血液供給を損なわないためにはテザーグラフト(tethered graft)またはマイクロサージャリーが必要である。)
●患者に与える機能的な影響が全くないか、有っても少ない。(これに対して、骨格筋の場合には、身体の他の部分から骨格筋移植体を切り取られたときには影響が出る。)
●(骨格筋と違って、)平滑筋の場合には、筋肉を活性化させるために高周波電気刺激が必要でないため、刺激装置にはより小さな電源でよいという利点がある。
【0021】
一実施形態では、収縮性組織は心臓または心臓血管の他の部位に配置される。例えば、下行大動脈の付近に配置されてもカウンタパルゼイション効果を発揮する。
【0022】
第二の態様では、本発明は、心臓または心臓血管の付近に移植され、刺激を受けて収縮することで心臓の機能を補助する収縮性組織を有する心臓病の治療デバイスを提供する。
【0023】
一実施形態では、収縮性組織は上行大動脈の付近に配置される。
【0024】
一実施形態では、収縮性組織は上行大動脈に巻きつけられるラップとして配置される。収縮性組織は、冠血管への血液の灌流を補助するため、冠状動脈の手前に配置される。これは、狭心症のような病状の治療に有利である。
【0025】
一実施形態では、収縮性組織は平滑筋組織である。
【0026】
第三の態様では、本発明は、心臓の機能を補助するため、収縮性組織を収縮させる信号を提供するように構成された刺激装置のプログラミング操作のためのプログラマを提供し、該プログラマは移植可能な刺激装置のプログラミングのために刺激装置と通信できるインターフェースを含む。
【0027】
一実施形態では、プログラマは刺激装置の刺激信号パラメータを決めるのに用いられる。
【0028】
プログラマは刺激装置と通信できるテレメトリ(telemetry)装置を含んでいてもよい。一実施形態では、プログラマは刺激装置に関するデータをプログラマに伝えるコミュニケータ(communicator)を含んでいてもよい。プログラマは、例えば、刺激装置の操作パラメータを調整するために循環器内科医によって術後に使われてもよい。
【0029】
第四の態様では、本発明は、心臓病の治療システムを提供する。該システムは、本発明の第一態様で説明した刺激装置と本発明の第二態様で説明したデバイスを備える。
【0030】
一実施形態では、システムは本発明の第三態様で説明したプログラマを有していてもよい。
【0031】
第五の態様では、本発明は、本発明の第一態様で説明した刺激装置と本発明の第三態様で説明したプログラマを有する心臓病の治療システムを提供する。
【0032】
第六の態様では、本発明は、心臓の機能を補助するために収縮性組織を収縮させるために、心臓または心臓血管に配置された収縮性組織を刺激するステップを備える心臓病の治療方法を提供する。
【0033】
一実施形態では、収縮性組織は平滑筋組織である。
【0034】
一実施形態では、刺激装置は心臓周期に対応して時間が決められる。一実施形態では、カウンタパルゼイション効果を与えるために、収縮性組織を収縮させるように刺激の時間が決められる
【0035】
一実施形態では、(心臓周期にほぼ対応してその時間が決められた)収縮が冠血管への血液の灌流を促進するように、収縮性組織が冠状動脈に先立つ上行大動脈の付近に配置される。この実施形態は、狭心症のような心臓病の治療に有利である。
【0036】
第七の態様では、本発明は、収縮性組織が収縮して心臓の機能を助けるようにするため、収縮性に刺激信号を提供するように構成された移植可能な刺激装置を患者に移植するステップを備える心臓病の治療方法を提供する。
【0037】
第八の態様では、本発明は、収縮して心臓の機能を助けるために刺激されるよう構成された収縮性組織を、心臓または心臓血管の位置に移植するステップを備えた心臓病の治療方法を提供する。
【0038】
一実施形態では、収縮性組織は平滑筋組織である。
【0039】
本発明の特徴および利点は、添付の図面を参照して、一例示として挙げられた実施態様に付いての以下の記載から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
好ましい実施形態の詳細な説明
図1を参照すると、本発明の一実施形態における心臓病治療用のシステムが概略を説明されている。該システムは、例えば、上行大動脈3に巻きつけられたラップ(包み、wrap)として配置され、収縮性組織2に刺激信号を提供するように構成された、移植可能な刺激装置を備えた装置を含む。刺激装置1から収縮性組織2に信号を送信するために、収縮性組織2につけられた電極4は刺激装置と導電的に接続される。導電リード5は刺激装置1を電極4に接続する。
【0041】
操作中、心臓の機能を補助するために、収縮性組織2は周期的に収縮させられる。この実施形態では、収縮性のラップ2は、血流が冠状動脈に到達する前の上行大動脈3の付近に配置される。刺激装置1は、左心房6からの血液駆出の後半の位相の間にカウンタパルゼイション効果をあたえるために収縮できるように、時間を決めて収縮性ラップ2に信号を提供する。その収縮は、収縮性組織2から遠位の冠血管への灌流を増加させる。また、上行大動脈3を追加的に空にさせることによって、末梢の血流を増加する有利な効果を有している。
【0042】
収縮性組織2への信号の正しいタイミングを保持するため、右心室8と移植可能な刺激装置1との間に導電リード7が接続される。右心室リード7は、右心室8に配置される電極を備え、移植可能な刺激装置1に戻る信号を提供する。なお、移植可能な刺激装置1は、センサー信号から右心室8の電気的な活性化が起きる時間を決めることができる、(後述の)制御ユニット9を備える。右心室8の電気的な活性化後、所定の遅れで、刺激装置は収縮性ラップ2に刺激信号を提供することで、カウンタパルゼイション効果が与えられる。
【0043】
本実施形態では、収縮性組織は平滑筋組織である。平滑筋は体の別の部位から採取され、ラップ形状に形成され、上行大動脈3の付近に外科的に移植される。また、平滑筋組織は平滑筋幹細胞および/または、増殖性平滑筋細胞から成長させてもよい。あるいは、平滑筋組織は平滑筋幹細胞および/または、増殖性平滑筋細胞によって増やした、移植された平滑筋であってもよい。
【0044】
上述の国際出願PCT/2006/001301号公報は、増殖性平滑筋細胞、平滑筋幹細胞を用いた収縮性組織の増加と、(栄養および/または神経栄養の)成長因子を開示する。
【0045】
平滑筋は他の部分から取り出してもよいし、(上述のように)成長させてもよい。一実施例では、平滑筋は血液循環を損なわずに、膀胱の平滑筋から取り出され、上行大動脈の周りに移植される。または、平滑筋は、粘膜が無く、血液の循環が損なわれないセグメントとして移植された静脈平滑筋、動脈または小動脈、肛門尾骨平滑筋、または、末端腸骨でもよい。さらにまた、陰嚢から取り出した陰嚢平滑筋、または膣や陰唇の一部であってもよい。
【0046】
一実施形態では、平滑筋は遊離移植片(free graft)として採取される。この場合には、組織は通常の血液循環から切り離され、移植体の位置での血管の内方成長によって血管新生させてもよい。
【0047】
刺激装置1は図3にさらに詳細に示されている。本実施例では、平滑筋ラップ2を刺激するために電気的刺激を与えるように構成された信号生成手段は、制御ユニット9と刺激ドライバー10の形態である。制御ユニット9は刺激を信号化し、アウトプット16で刺激信号を出す刺激ドライバー10に信号を提供する。アウトプット16は導電体5と、1または複数の電極4に出力する。移植可能な刺激装置は、(心臓ペースメーカーと同様に)鎖骨直下に配置されてもよい。ただし、他の場所に移植してもよい。
【0048】
制御ユニット9は、右心室の電気的活性化を検知するため、右心室リード7からの入力を受ける。制御ユニット9は検知した信号を利用して、収縮性組織2に対する信号のタイミングを計算する。
【0049】
本実施例では、制御ユニット9と刺激ドライバー10は、復調器18と一緒になって、出力16で刺激信号を生成するためのプロセシングユニットを構成する。
【0050】
復調器18は、トランシーバ15によって受信された信号を復調するように構成される。外部プログラマユニット13は、刺激装置1のパラメータを構成するため、トランシーバ15を介して、演算ユニット14と通信できる。加えて、後で詳細に説明するが、演算ユニット14は、制御ユニット9、復調器18およびトランシーバ15を介して、プログラマユニットに信号を送信できる。送信された信号は、キャリブレーションと制御のため、刺激装置のパラメータを示すテレメトリ情報を送付することもできる。
【0051】
刺激装置1の全体(構成要素14と15を含む)は、生体適合性の材料で作られたケースを備えるハウジング内に封入される。生体適合性の材料としては、例えば、チタン、シリコーン高分子、他の許容できる材料、または、(限定されるわけではないが)不活性材料を含む材料の組み合わせなどが挙げられる。金属電極およびリードは白金−イリジウム合金製のものを使える。一実施形態では、接続ワイヤはシリコーン被覆で絶縁されている。トランシーバ15による送信と受信のための電磁信号周波数(一般的には、無線周波数(RF))は、刺激装置のケースの材料に依存してもよい。
【0052】
平滑筋ラップを収縮させるために提供される刺激信号16は、ラップの緊張状態(tone)をかなり増加させ、上行大動脈から血液を絞りだすように選定される。この目的のためには一般的な矩形波や対称バイフェージックパルスが適する。信号は、50mA、15mA、10mA、5mA以下の略定電流で、ある好ましい実施形態では、4mA、8mA、12mAまたは15mAの順になる。
【0053】
ラップに与えられる刺激パルス周波数は、0.1Hz〜5Hz、0.2Hz〜4.0Hz、0.25Hz〜3.0Hz、1Hz〜3.0Hz、1.5Hz〜3Hz、1.75Hz〜2.5Hz、0.25Hz〜2.25Hzの範囲であり、一実施形態では、1Hz、2Hz、2.5Hzまたは3Hzである。各時期での刺激パルス幅は、0.05ms〜2.0ms、0.1ms〜1.5ms、0.2ms〜1ms、0.25ms〜0.75msの範囲であり、一実施形態では0.2ms、0.4ms、0.5msまたは1msである。刺激装置は電流規制型(current regulated)であり、したがって、刺激電圧は電極間の筋肉組織の抵抗で変化する。
【0054】
平滑筋が力を出すのに必要な時間を最短にするために、ラップの活性化を開始させるのに、(例えば、5Hz以上で)バースト刺激を使ってもよく、その後、心臓の鼓動の2回毎、3回毎、または多数回毎にバースト刺激を印加することができる。
【0055】
代表的な電圧値は、0.1から15ボルト、0.2から12ボルト、0.5から12ボルト、0.5から10ボルト、または0.5から7.5ボルトである。一実施形態では、電圧は2.5ボルト、5ボルト、7.5ボルトまたは10ボルトである。あるいは、電流源(電圧制限されたもの)や、電圧源(電流制限されたもの)を使うこともできる。
【0056】
例えば、第一位相が第二位相よりも期間が短いような、非対称のバイフェージックパルスを使うこともできる。
【0057】
この活性化に引き続いて、適当な心臓の同期結果がもう一度検知される前に、ラップが弛緩するように平滑筋ラップへの刺激が改良される。
【0058】
一実施形態において、平滑筋組織は、神経が分布された(innervated)静脈や動脈からなり、300から400msの範囲で収縮し、再度200〜300ms内に弛緩することができる。用いられる平滑筋組織によって、該組織に緊張状態を作り上げて、望みのカウンタパルゼイション効果を得るために、信号が所定の時間収縮性組織に加えることが必要とされてもよい。平滑筋に、緊張状態を作り上げるには3000〜300msが必要とされるだろう。一実施形態では1000〜400ms、一実施形態では550〜450ms、他の実施形態では500msである。
【0059】
図4は本発明の一実施形態に関するシステムであり、該システムは移植された刺激装置1のパラメータの設定と調整のために、医師が利用できるプログラマユニット13を含む。プログラマユニット13はトランシーバ11を介して刺激装置と通信できるように構成され、コンピューティング装置を含んでいてもよい。制御ユニット9も、トランシーバ11を介してプログラマ13により検知されるため、刺激装置の1または複数のパラメータを表示するテレメトリ情報を送信するように構成される。それにより、プログラマユニット13はテレメトリ情報から刺激装置のパラメータを決定することができ、刺激装置1に制御信号を送信することによって、パラメータを調整することができる。プログラマからの信号は、刺激信号の出力電流、波形、周波数および/またはパルス幅;心室活性化の電気的検知から平滑筋ラップの刺激までの時間遅れ;平滑筋を用いて、効果的なカウンタパルゼイション効果を与えるための刺激および/またはタイミングパラメータ、などを選択的に変更できる。
【0060】
操作中に、医師は刺激信号のパラメータを調整できる。医師は、刺激の効果について患者からのフィードバックを注意深く観察し、その後、刺激が最適になるまでパラメータを再調製することができる。たとえば、患者が感じたフィードバックは、平滑筋ラップ2の最大刺激しきい値の決定に使うことができる。
【0061】
上記の実施形態では、プログラマと刺激装置との間の信号はRF信号である。RF以外の他の種類の伝送媒体を使ってもよい。たとえば、マイクロ派信号や、光信号を伝送に使ってもよい。
【0062】
図2のビガーズ(Wiggers)図は、哺乳類の心臓の収縮における、重要な電気的および機械的出来事を示す。ピーク心室駆出位相は、Q波心電図で示される心室の電気的活性化後、約200〜250msに起きる。上述のように、特に平滑筋組織のような、ある種の組織は、適当な緊張を作り上げることが可能になるためには、より長期間の刺激が必要になるだろう。したがって、組織によっては、刺激信号は心室の電気的な活性化の前に、刺激信号が組織に与えられる場合があってもよい。この場合には、心室の電気的な活性化は検知され、信号刺激の次の周期のために、次に予期される心室の電気的活性化の前に信号刺激が印加される。システムのタイミングサイクルの一部として、平滑筋ラップは、心室駆出期に障害が生じるのを防ぐため、1分間当たり10回から30回のみ活性化される。本発明は平滑筋ラップを10回から30回活性化することに限定されるものではない。もし治療上適当であるなら、これより多いか、または少なく活性化してもよいだろう。
【0063】
上記の実施形態では、収縮性組織への信号の時間を決める目的で、右心室の血管内に配置された電極が心室の電気的活性化を検知するために使われる。本発明はこのセンシングに限定されない。あるいは、内在する電気的な活性化を検知するために心臓外膜(epimyocardial)電極が、右心室(あるいは左心室)の表面に配置され、カウンタパルゼイションと同期する。右心室配置または左心室配置のいずれの場合でも、2以上の電極を用いてもよい。検知のための他の配置を用いることもできる。
【0064】
上記実施形態では、移植体2を刺激するためにどのような適当な電極を用いてもよい。例えば、ボタン電極、カフ(cuff)電極、あるいは他のどのような適当な電極でもよい。
【0065】
実施形態では、PCT/AU20054/001698号に開示された電極装置を用いることができる。
【0066】
図5は、本発明の一実施例を示しており、PCT/AU20054/001698号に開示された「ペグ」電極4Aが、刺激装置1から移植体2への信号伝送に用いられている。
【0067】
図5では、同等の構成要素には、前述の実施形態で用いられた参照符号が用いられており、それらの要素についてのさらに詳細な説明は省略する。
【0068】
次に、電極4Aについてさらに詳しく説明する。
【0069】
電極は、多くの部品からなる。それらは電極カバー100を含む(最も詳細には図13〜17に説明する)。
【0070】
部品は、(図9〜12で詳しく説明する)電極覆い(shroud)を含み、また、(図6、7、8で電極装置の他の部品と一緒に示される)電極リード102を含む。
【0071】
本実施形態では、第一電極要素と第二電極要素は、基部105から延出する絶縁要素103および104を含む電極カバー100で構成される。絶縁性の延出要素103、104には、スロット106、107がほぼそれらの長手方向にそれぞれ形成される。電極装置の組み立てに際しては、図6に示すように、要素103、104の外側表面に白金箔電極108、109が配置される。そのため、白金箔電極108、109は、それらの一部をギャップ110に露出させるスロット106、107以外では、要素103、104間に形成されるギャップ110(使用時には、ギャップ内に置かれた組織)から絶縁される。
【0072】
図9、10、11および12に最もよく示されるように、組み立て後には、電極カバー100および白金箔108、109は電極覆い101内に設置される。特に図12には電極カバーを設置する部位が断面図で示される。
【0073】
電極覆い101はシリコーン製である。強化のためにPET製メッシュカバー111、112が覆い101の延出部の上面113および下面114にフィットするように備えられる。カバー111,112と、覆い101の要素113,114には縫合孔115、116が設けられる。強化手段はPET製メッシュに限定されるわけではなく、他の手段であってもよい。さらに、電極覆いはシリコーン製でなければならないものではなく、他の生体適合性材料を用いてもよく、強化は無くても構わない。さらに、組織に取り付けるために、縫合孔以外に他の手段を設けてもよいし、また、縫合孔に代えて他の手段を用いてもよい。
【0074】
電極リード102は、複数の部品からなる装置で、外部絶縁カバー120と、患者の体内の部位にリードを保持するための尖った歯(tine)122を有する、尖った継ぎ環(color)121を備える。電極リード102は、これもやはり、リード102を特定の位置に保持するため、患者の組織に縫合するための縫合孔124を含む縫合用継ぎ環123も備える。また、電極を、別々の導電体を有する二つの部分126、127に分割できる分岐成形物125が有り、刺激装置に接触するようにできるコネクター128、129が有る。
【0075】
上記実施形態では、電極装置は、基部側の端部で電極を一緒に結合する基部から延びる一対の電極を備える。他の実施形態では、基部で結合されない単一電極要素が提供される。単一電極要素は、収縮性組織の刺激に用いてもよいし、1または複数の同等の電極要素と一緒になって刺激を与えるのに用いてもよい。
【0076】
上記実施形態では各電極要素は、単一の電極を有している。単一電極は電極要素の殆ど大部分にわたって細長い電極である。
【0077】
いずれかの面で絶縁材料と境界を接する薄い電極を持つことの利点は、その構成が、電極で作られた電場を、電極のすぐ隣に接する組織に閉じ込めるよう動作するということである。これにより、刺激させるのを希望しない組織が刺激されることが減るか、または防止される。たとえば、収縮性組織括約筋の外側にあたる組織は制御される。
【0078】
操作では、電極108、109および延長要素103、104は平滑筋移植体のどちらかの面に配置され、移植体が動作するための信号の伝達が可能となる。
【0079】
電極装置4Aは、対向する電極要素同士の間に電場を印加することで、それらの間に置かれた組織を刺激することが可能となる。一実施形態の電場は、電極間の組織の帯に刺激が加えられるよう電場が閉じ込められる。
【0080】
一実施形態では、刺激される組織の帯に対して垂直な移植体2内を走る神経の分布が刺激される。
【0081】
電極4A中の複数の要素は、衣服掛け(ペグ)のような具合で、組織上に延びる。
【0082】
それら要素の表面における単一線電極以外の他の電極パターンを用いてもよい。
【0083】
上記実施形態において、刺激装置はその全体が移植できる装置である。それに代わる実施形態では、刺激装置は移植可能でなくてもよい。この実施形態の刺激装置は、図1から4の実施形態に関する上述の要素と同等の要素を有するが、患者の体外に配置される点で異なる刺激装置を備える。一実施形態では、収縮性組織を刺激するため、信号は患者の体内に配置された電極とカップリングする。カップリングは、信号が患者の皮膚を横切って体内に置かれた電極装置と誘導的にカップリングするものであってもよい。他の実施形態では、刺激装置の部品の一部が患者の体外に配置され、一部が体内に配置されるものでも構わない。
【0084】
上記実施形態では、ラップは上行大動脈の付近に配置される。心臓または心臓血管の他の部位に配置されてもよいし、上行大動脈に配置することに限定されるわけではない。例えば、下行大動脈に配置されてもよい。
【0085】
上記実施形態では、ラップは大動脈を取り巻いている。他の実施形態では、ラップは、大動脈のような血管の付近に途中まで延びているだけでもよい。ラップは、いかなる数の機械的な構成で作られていてもよい。上述のように、一実施形態では、ラップが心臓の周り全体に作成され、互いに出会った両端同士を、一緒に確保してもよい。他の実施形態では、ラップの両端を重なり合わせた上で、一緒に確保してもよい。さらに他の実施形態では、ラップは心臓の周り全体に延びておらず、心臓の周りの途中まで延びていてもよい。他の機械的配置が提供されてもよい。さらに他の実施形態では、収縮性組織がつり包帯の配置となる形態に作成されてもよく、その場合、収縮性組織は上行大動脈の周りに延び、その両端は都合のよい解剖学的なものに確保される。解剖学的なものとは、例えば、肋間の筋肉、骨、または肋間部の他の領域などである。組織の収縮は、ラップと同等のカウンタパルゼイション効果を有する上行大動脈のくぼみを生み出す。
【0086】
図1の実施形態では、収縮性組織の刺激のための一対の電極が示されている。本発明は一対の電極には限定されない。単一の電極、または2を超える数の電極を使ってもよい。
【0087】
上記実施形態では、電気信号を提供するのに単一の刺激信号発生器が用いられているが、それには限定されない。他の実施形態では2以上の信号発生器を使うこともある。
【0088】
他に実施形態では、異なった部位に配置される、2以上の刺激装置を使うこともある。
【0089】
上記実施形態では、システムがプログラマユニットを含んでいる。ある場合には、プログラマユニットが必要とされないこともある。
【0090】
当業者においては、これら幾つかの具体的な態様において示されているような発明に対して、広く説明されたところ発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々なバリエーションおよび/または修正が可能であることを理解できよう。これら態様は、従って、あくまでも例示にすぎず、制限的なものではないことを解されるべきである。
【0091】
本発明の特許請求の範囲および明細書において、文言や必要な含意により、別途文脈が要求する箇所を除き、“comprise”、“comprises”または“comprising”なる用語は、包括的な意味に用いられる。すなわち、述べられた特徴の存在を特定するが、本発明の種々の実施形態における他の特徴の存在または追加を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、心臓の略図とともに、本発明の一実施形態によるシステムと装置を説明する略図である。
【図2】図2は、心臓の左側のビガーズ(Wiggers)図である。
【図3】図3は、図1のシステムの移植可能な刺激装置の要素を示すブロック図である。
【図4】図4は、本発明にかかわる一実施形態のシステムを示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施形態による装置を説明する概略図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態の装置で、刺激信号を出す電極配置の分解斜視図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態の装置で、刺激信号を出す電極装置の平面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態の装置で、刺激信号を出す電極装置の側面図である。
【図9】図9は、図6の電極装置の覆い部品の斜視図である。
【図10】図10は、図6の電極装置の覆い部品の平面図である。
【図11】図11は、図6の電極装置の覆い部品の側面図である。
【図12】図12は、図6の電極装置の覆い部品の詳細図である。
【図13】
【図14】図14は、図6の電極装置のカバー部品の斜視図である。
【図15】図15は、図6の電極装置のカバー部品の背面図である。
【図16】図16は、図6の電極装置のカバー部品の平面断面図である。
【図17】図17は、図6の電極装置のカバー部品の側面断面図である。
【図18】図18は、図6の電極装置のカバー部品の平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓もしくは心臓血管に配置された収縮性組織を刺激する信号を提供するように構成された移植可能な刺激装置を有し、前記刺激装置が前記収縮性組織を収縮させて心臓の機能を助けるものである心臓病の治療装置。
【請求項2】
前記収縮性組織が上行大動脈に配置される請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記収縮性組織が上行大動脈に巻きつけられたラップの形態である請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記収縮性組織が心臓と冠状動脈との間に配置されることで、前記収縮性組織の収縮が冠血管への血液の灌流を助ける請求項2または3記載の装置。
【請求項5】
前記刺激装置が心臓の収縮に対応する所定の時間に、収縮性組織の収縮を起こさせるよう信号を提供するように構成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
信号提供のタイミングは、左心室から血液が駆出する後半位相の間にカウンタパルゼイション効果を与えるように、収縮性組織を収縮させるタイミングである請求項5記載の装置。
【請求項7】
心臓周期の位相についての情報を検知する手段を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
検知された情報が収縮性組織への信号の時間を決めるのに利用される請求項7記載の装置。
【請求項9】
収縮性組織が平滑筋組織である請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
心臓もしくは心臓血管に移植された収縮性組織を備え、前記収縮性組織が刺激されて収縮することで心臓の機能を助けることができるように構成されている心臓病の治療デバイス。
【請求項11】
収縮性組織が上行大動脈付近に移植された請求項10記載のデバイス。
【請求項12】
収縮性組織が上行大動脈に巻きつけられたラップの形態である請求項11記載のデバイス。
【請求項13】
前記収縮性組織が冠状動脈に先立って配置されることで、冠血管への血液の灌流を助ける請求項11または12記載の装置。
【請求項14】
前記収縮性組織が平滑筋組織である請求項10〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
収縮性組織を収縮させて心臓の機能を助けるために信号を提供するよう構成された移植可能な刺激装置のプログラミング操作のためのプログラマであって、前記プログラマは、移植可能な刺激装置のプログラミングのため、移植可能な刺激装置と通信できるインターフェースを有するプログラマ。
【請求項16】
前記インターフェースが、移植可能な刺激装置の刺激信号パラメータの決定を可能にする請求項15記載のプログラマ。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の移植可能な刺激装置と、請求項10〜14のいずれか1項に記載のデバイスを含む心臓病の治療システム。
【請求項18】
請求項15または16記載のプログラマをさらに含む請求項17記載のシステム。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の移植可能な刺激装置と、請求項15または16記載のプログラマを含む心臓病の治療システム。
【請求項20】
心臓または心臓血管に配置された収縮性組織を刺激するステップを備え、それにより心臓の機能を助けるように収縮性組織を収縮させることができる心臓病の治療方法。
【請求項21】
収縮性組織が平滑筋組織である請求項20記載の方法。
【請求項22】
心臓周期に対応して刺激の時間が決められる請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
カウンタパルゼイション効果を与えるために、収縮性組織を収縮させるように刺激の時間が決められる請求項22記載の方法。
【請求項24】
収縮が冠血管への血液の灌流を促進するように、収縮性組織が冠状動脈に先立つ上行大動脈の付近に配置される、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
収縮性組織が平滑筋組織である請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
収縮性組織が収縮して心臓の機能を助けるようにするため、収縮性組織に刺激信号を提供するように構成された移植可能な刺激装置を患者に移植するステップを備える心臓病の治療方法。
【請求項27】
収縮して心臓の機能を助けるために刺激されるよう構成されている収縮性組織を、心臓または心臓血管の位置に移植するステップを備える心臓病の治療方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2009−511133(P2009−511133A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534824(P2008−534824)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001514
【国際公開番号】WO2007/041801
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(507293387)コンティネンス コントロール システムズ インターナショナル プロプライエタリー リミテッド (8)
【Fターム(参考)】