説明

心血管イベント発症予防用組成物

【課題】心血管イベント発症および/または再発の予防に有用で、特に、高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず発症および/または再発する心血管イベント、あるいは特に心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症および/または再発の予防効果が期待される心血管イベント発症および/または再発予防用組成物の提供。
【解決手段】イコサペント酸エチルエステルと3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤とを含有する、心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症を予防する心血管イベント予防用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともイコサペント酸エチルエステル(以下EPA−Eと略記する)を含有することを特徴とする心血管イベント発症および/または再発を予防する為の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化により糖尿病、高脂血症や高血圧症などの生活習慣病患者が増加している。これらの疾患は最終的に、心筋梗塞、狭心症や脳梗塞など動脈硬化性疾患に至るものがあり、場合によっては死に至る危険性もある。動脈硬化性疾患に対する治療方法として、薬剤による治療、血管再建術など外科的治療方法などが一般的に用いられる。
【0003】
動脈硬化性疾患の予防あるいは生活の質の向上には、高脂血症、糖尿病、高血圧、喫煙習慣などの危険因子をできるだけ減らすことが重要である。高脂血症と冠動脈疾患の発症率を検討した主な疫学調査の結果、血清総コレステロール(以下T−Choと略記する)濃度あるいは血清トリグリセリド(以下TGと略記する)濃度と冠動脈疾患の発症は正相関を示す。特に血清低密度リポ蛋白コレステロール(以下LDL−Choと略記する)濃度とはいっそう強い正相関を、逆に血清高密度リポ蛋白コレステロール(以下HDL−Choと略記する)濃度とは負の相関を示す。
【0004】
高脂血症はその薬物療法が比較的容易になり、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤(以下HMG−CoA RIと略記する)による強力な高脂血症治療により冠動脈疾患の発症が抑制されたという成績が大規模臨床試験で得られている。例えば、心筋梗塞の既往がない高脂血症の男性患者にプラバスタチンナトリウムを平均4.9年間経口投与した場合、血清T−Cho濃度は20%低下し、血清LDL−Cho濃度は26%低下し、血清HDL−Cho濃度は5%上昇し、血清TGは12%低下し、その結果非致死性心筋梗塞および心血管死を合せると発症率は31%低下した(非特許文献1参照)。また、狭心症または心筋梗塞既往患者にシンバスタチンを平均5.4年間経口投与した場合、血清T−Cho濃度は25%低下し、血清LDL−Cho濃度は35%低下し、血清HDL−Cho濃度は8%上昇し、血清TGは10%低下し、その結果主要な心血管イベントの発症率は34%低下した(非特許文献2参照)。
HMG−CoA RIを用いたその他の大規模臨床試験でもほぼ同様に、心血管イベント発症低下率はおおよそ20〜30%程度であり(例えば、非特許文献3参照)必ずしも臨床上満足し得る状況にはない。
【0005】
急性心筋梗塞発症後3ヶ月以内の患者に、EPA−Eとドコサヘキサエン酸エチルエステル(以下DHA−Eと略記する)とを合せて850〜882mg含有するω3多価不飽和脂肪酸組成物を1日1カプセル、3.5年間経口投与することにより、心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳梗塞を合せると発症率は20%減少し、そのうち心血管死は30%減少したのに対して非致死性の心血管イベントには効果がなかったことが報告されている(非特許文献4参照)。また、心筋梗塞既往患者に、EPA−EとDHA−Eとを合せて85%含有する必須脂肪酸を1日1g、3.5年投与することにより、死亡率が減少したことが報告されている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、EPAまたはDHAとコレステロール合成阻害剤の併用によって心血管イベントを抑制することが開示されている。
【0006】
高純度EPA−EはエパデールTMおよびエパデールSTM(持田製薬社製)の商品名で高脂血症治療薬として日本で市販されており、1回600mg、1日3回食直後、(ただし、血清TGの異常を呈する場合には、その程度により、1回900mg、1日3回まで増量して)経口投与することにより、血清T−Cho濃度を3〜6%、血清TGを14〜20%減少させる(非特許文献5参照)こと、およびこれら作用から高脂血症患者の心血管イベントに対する効果が期待されていることが報告されている(非特許文献6参照)。
【0007】
一方、虚血性心疾患の治療の選択肢のひとつとして、PTCA、冠動脈ステント留置術など、外科的治療方法である心血管再建術が、主に重症の患者に対して広く行われているが、その術後には心血管イベントが発症しやすい。例えば、PTCA後の心血管イベントは、PTCA施行部位の再狭窄(一般にPTCAによる拡大分の50%以上の狭窄進行をいう)や、新規病変の出現によることが多く、再狭窄率は30〜40%前後で6ヶ月以内に認めることが多い。ステントを用いることで再狭窄率を軽減するが確実なものとはいえない(非特許文献7、p.237)。
心血管再建術施行後の薬物療法には、抗血小板薬が用いられることが多い。例えば、ステント挿入時にはアスピリンとチクロピジン(クロピドグレル)を併用投与することが常識とされ、ステント血栓の予防にアスピリンとシロスタゾールの併用投与も行われ(非特許文献7、p.245〜246)、術後の管理は特に重要視される。
心血管再建術施行後の不安定期の再狭窄に対して、魚油、あるいはω3脂肪酸の投与が試みられた例があるが、有効とする報告と無効とする報告があり、また、再建術施行前からの投与が必要という見解もある。(非特許文献8〜11)
PTCA後2年間にわたりHMG−CoA RIであるプラバスタチンを投与し、再狭窄率が減少し、イベント抑制に有効であったとする報告(非特許文献12)、経皮冠動脈インターベンション直後から3〜4年間フルバスタチンを投与し、心イベント発症を抑制した報告があるが(非特許文献13)、さらに一層の心血管イベント抑制を可能とする治療法の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第00/48592号パンフレット(特表2002−537252号公報)
【特許文献2】米国特許 第6159993号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】The New England Journal of Medicine、1995年、333巻、p1301−1307
【非特許文献2】The Lancet、1994年、344巻、11月9日号、p1383−1389
【非特許文献3】Archives of Internal Medicine、1999年、159巻、1号、p1793−1802
【非特許文献4】The Lancet、1999年、354巻、8月7日号、p447−455
【非特許文献5】医薬品インタビューフォーム EPA製剤エパデールTMカプセル300、2002年7月改訂、2003年1月、p21−22
【非特許文献6】American Heart Journal、2003年、146巻、4号、p613−620
【非特許文献7】今日の治療指針、2003年、医学書院、総編集、山口徹、北原光夫 p273、p245−246
【非特許文献8】J Am Coll Cardiol、2005年、5月17日、45(10)、p1723−8
【非特許文献9】Am Heart Journal、2002年6月、143(6)、E5
【非特許文献10】J Am Coll Cardiol、1999年5月、33(6)、p1619−26
【非特許文献11】Am J Cardiol、1996年、77、p31−36
【非特許文献12】Am J Cardiol、2000年10月1日、86(7)、p742−6
【非特許文献13】JAMA、2002年6月26日、287(24)、p3215−22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、心血管疾患死は依然として主要な死亡原因であり、HMG−CoA RIによる治療を行なっても予防できない心血管イベントが多数存在し問題となっている状況において、これらの心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、EPA−Eが心血管イベント発症および/または再発の予防、特に心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベント発症および/または再発の予防作用を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、
(1)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
具体的に、
(2)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RI治療を行っている高脂血症患者の心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
(3)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、急性心筋梗塞既往患者の心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
(4)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症および/または再発を予防するための組成物である。
(5)心血管再建術施行後不安定期を経過した後に投与を開始する上記(4)の組成物。
(6)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、心血管再建術施行後6ヶ月を経過した後の患者のための心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
【0012】
(7)心血管再建術施行後6ヶ月を経過した後に投与を開始し、少なくとも2年以上継続して投与することを特徴とする上記(4)ないし(6)のいずれかの組成物。
(8)心血管再建術が、経皮的冠動脈内腔拡張術(PTCA)、経皮的冠動脈内血栓溶解術(PTCR)、方向性冠動脈粥種切除術(DCA)冠動脈ステント留置術、冠動脈バイパス術(ACバイパス術)である上記(4)ないし(7)のいずれかの組成物。
(9)全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が96.5質量%以上である上記(1)ないし(8)のいずれかの組成物である。
(10)1.8g/日〜2.7g/日で食直後経口投与することを特徴とする上記(1)ないし(9)のいずれかの組成物である。
(11)HMG−CoA RIと併用することを特徴とする上記(1)ないし(10)のいずれかの組成物である。
(12)患者が、高脂血症であることを特徴とする上記(1)ないし(11)のいずれかの組成物である。
(13)他に含有される好ましい脂肪酸がDHA−Eである、上記(1)ないし(12)のいずれかの組成物である。
(14)上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の組成物を投与する、心血管イベントの発症および/または再発を予防する方法。
(15)上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の組成物を製造するためのEPA−Eの使用。
【発明の効果】
【0013】
EPAを含有する、すなわち少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、本発明の組成物は、心血管イベント発症および/または再発の予防に有用である。特に、高脂血症患者、または高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず発症および/または再発する心血管イベントの発症および/または再発の予防に有用である。
【0014】
本発明の組成物は、また、心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症および/または再発の予防効果が期待される。
本発明の組成物はHMG−CoA RIと併用することによりその効果はさらに相乗的に増強され、心血管イベント既往歴のある患者、特に心血管再建術施行後6ヶ月を経過した後の患者における心血管イベント発症および/または再発の予防効果をさらに高めることが期待でき、臨床上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の態様は、EPA−Eを有効成分として含有する、心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
少なくともEPA−Eを有効成分として含み、心血管イベントの発症および/または再発予防のための組成物であればすべて本発明に含まれるが、特に心血管死、致死性心筋梗塞、突然心臓死、非致死性心筋梗塞、心血管再建術、安静狭心症および労作狭心症の新たな発症、狭心症の不安定化の予防のための組成物が例示される。投与対象は、心血管イベント発症の予防が必要なヒトはすべて含まれるが、特に高脂血症患者が例示される。本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。
他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。EPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
【0016】
本発明の第二の態様は、少なくともEPA−Eを含有することを特徴とするHMG−CoA RI治療を行っている高脂血症患者の心血管イベント発症および/または再発予防の為の組成物である。HMG−CoA RIは、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害作用を有する物はすべて含まれるが、医薬投与可能なものが好ましい。具体的には、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンおよびこれらの塩、誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、プラバスタ
チン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンあるいはロスバスタチンが更に好ましく、プラバスタチンあるいはシンバスタチンが更に好ましい。
塩としては、医薬投与可能なものであればすべて含まれるが、特にナトリウム塩あるいはカルシウム塩、例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム、ピタバスタチンカルシウムおよびロスバスタチンカルシウムが好ましい。本明細書においては、特に断らない限り、例えば「プラバスタチン」にはプラバスタチンの塩の態様も含まれる。
【0017】
本発明の第三の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、急性心筋梗塞既往患者の心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物である。
本発明の第二および第三の態様における、心血管イベントの種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、1日投与量および他の長鎖脂肪酸含有比の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。
【0018】
本発明の第四の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症および/または再発を予防するための組成物である。本発明において、心血管再建術施行後不安定期とは、心血管再建術自体に起因する心血管イベントが起こりやすい時期をいい、術後3ヶ月程度をいう。したがって、本発明の第四の態様は、好ましくは、心血管再建術施行後、6ヶ月を経過した後に起こる心血管イベントの発症および/または再発を予防するための組成物である。すなわち、心血管再建術自体に起因する不安定期の再狭窄等の心血管イベントは対象外である。本発明において心血管再建術は、特に限定はされないが、特に経皮的冠動脈内腔拡張術(以下PTCAと略記する)、経皮的冠動脈内血栓溶解術(以下PTCRと略記する)、方向性冠動脈粥腫切除術(以下DCAと略記する)、冠動脈ステント留置術、冠動脈バイパス術(以下ACバイパス術と略記する)が例示される。
本発明の第五の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、心血管再建術施行後不安定期を経過した患者ための心血管イベントの発症および/または再発を予防するための組成物であり、好ましくは、心血管再建術後6ヶ月を経過した後の患者における心血管イベントの発症および/または再発を予防するための組成物である。
本発明の第四、第五の態様の組成物は、EPA−Eを有効成分として含み、心血管再建術施行後不安定期を脱した患者、好ましくは、6ヶ月を経過した患者に対して投与される。
不安定期経過後に起こる心血管イベントは、血管再建術自体に起因する不安定期の再狭窄等の心血管イベントとは異なる機序で発症すると考えられるが、心血管イベントの発症率は高い。本発明の第四、第五の組成物は、心血管再建術施行後不安定期以降に、具体的には、術後6ヶ月経過後に投与を開始し、長期にわたり継続的に投与することが好ましく、特に2年以上、好ましくは3.5年以上、より好ましくは5年以上の長期にわたり継続的に投与することにより、不安定期が経過した後に発症する心血管イベントの発症および/または再発の予防に特に有効である。
本発明の第四、第五の態様の組成物は、EPA−Eを有効成分として含み、本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。
他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。EPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
【0019】
本発明の第一から第五の態様の組成物は、健常人あるいは高脂血症、糖尿病、高血圧等の心血管イベントの危険因子を有するヒト、あるいはHMG−CoA RIによる治療を行った患者に対して経口投与することにより心血管イベント発症および/または再発を予防する効果を有しているが、これらの特定の患者に限定されない。また、本発明の組成物はHMG−CoA RIとの併用効果を有し、併用することでさらに心血管イベント発症および/または再発を予防することが可能である。
本発明の組成物は魚油あるいは魚油の濃縮物に比べ、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の心血管イベントに対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく作用効果を発揮することが可能である。また、エステル体のため主にトリグリセリド体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。従って、EPA−Eを用いることで、初めて臨床上実用可能な心血管イベント発症および/または再発の予防用の組成物が得られた。
【0020】
本明細書において、「イコサペント酸」の語は、全−シス−5,8,11,14,17−イコサペント酸(all−cis−5,8,11,14,17−icosapentaenoic acid)である。
本明細書において、「心血管イベント」の語は、心臓血管に起こる病的変化の総称であり、心血管死(致死性心筋梗塞、突然心臓死)、非致死性心筋梗塞、心血管再建術(PTCA、PTCR、DCA、冠動脈ステント留置術、ACバイパス術)、安静狭心症または労作狭心症の新たな発症、狭心症の不安定化(入院、PTCA、PTCR、DCA、冠動脈ステント留置術、ACバイパス術、その他の心血管再建術の実施)を含む。
本明細書において、「高脂血症患者」の語は、血清T−Cho濃度増加、血清LDL−Cho濃度増加、血清HDL−Cho濃度低下あるいは血清TGが増加した患者である。狭義には、高コレステロール血症(血清T−Cho濃度が約220mg/dl以上、更に狭義には250mg/dl以上)、高LDL−Cho血症(血清LDL−Cho濃度が140mg/dl以上)、低HDL−Cho血症(血清HDL−Cho濃度が40mg/dl未満)あるいは高TG血症(血清TGが150mg/dl以上)のいずれか1つを満たす患者を指す。
本明細書において、「HMG−CoA RIとの併用」の語は、EPA−Eを有効成分とする組成物とHMG−CoA RIとを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、EPA−Eを有効成分とする組成物をHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。また、EPA−Eを有効成分として含有する組成物とHMG−CoA RIの投与量および投与比率は任意に設定することができる。ここで、併用されるHMG−CoA RIの好ましい例は、本発明第二の態様で例示したHMG−CoA RIと同様である。
【0021】
本発明の第一から第五の態様の組成物は、単独投与で心血管イベント発症および/または再発予防作用を有し、特にHMG−CoA RI投与では予防できない心血管イベント発症および/または再発の予防効果が期待される。また、EPA−Eは、血清T−Cho濃度および血清TG低下作用のほかに、アラキドン酸カスケード阻害に基づく血小板凝集抑制作用等のHMG−CoA RIとは異なる薬理作用を有しており、HMG−CoA RIとの併用投与でさらなる予防効果を発揮させることもできる。
【0022】
本発明の第一から第五の態様の組成物は、有効成分に加え、薬学的に許容され得る賦形剤を含むことができる。EPA−EおよびDHA−Eは高度に不飽和であるため、抗酸化剤たとえばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールを有効量含有させることが望ましい。
製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、シロップ剤、ゼリー剤の形で、経口で患者に投与されるが、とりわけカプセルたとえば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。
なお、高純度EPA−E含有軟カプセル剤であるエパデールTMおよびエパデールSTMは副作用の発現が少ない安全な閉塞性動脈硬化症および高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、全脂肪酸中のEPA−E含量比は96.5質量%以上である。また、EPA−Eを約46質量%およびDHA−Eを約38質量%含有する軟質カプセル剤(オマコール、OmacorTM(ロスプロダクツ、Ross Products))が高TG血症治療薬として既にアメリカ等で市販されている。これらを入手して使用することもできる。
【0023】
本発明の心血管イベント発症および/または再発を予防するための組成物の投与量および投与期間は対象となる作用を現すのに十分な量および期間とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合はEPA−Eとして0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日を3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。投与時間は食中ないし食後が好ましく、食直後(30分以内)投与が更に好ましい。上記投与量を経口投与する場合、投与期間は1年以上、好ましくは2年以上、より好ましくは3.5年以上、更に好ましくは5年以上であるが、心血管イベントの発症および/または再発の危険度が高い状態が続いている間は投与を継続することが望ましい。場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
本発明の第一から第五の態様の組成物と併用して用いられるHMG−CoA RIの投与量は、その薬剤単独での用法・用量の範囲内で使用されることが好ましく、その種類、剤形、投与方法、1日当たりの投与回数は、症状の程度、体重、性別、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合は0.05〜200mg/日、好ましくは0.1〜100mg/日を1回または2回に分けて投与するが、必要に応じて全量を数回に分けて投与してもよい。また、EPA−Eの投与量に応じて減量することも可能である。
なお、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))、フルバスタチンナトリウム(ローコールTM錠(ノバルティスファーマおよび田辺製薬))、アトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))、ピタバスタチンカルシウム(リバロTM錠(興和および三共))、およびロスバスタチンカルシウム(クレストールTM錠(アストラゼネカおよび塩野義製薬))は高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、また、ロバスタチン(メバコールTM錠(メルク))は高脂血症治療薬として既にアメリカで市販されており、これらの薬剤から少なくとも1つを入手し、それぞれの用法に従って適宜組み合わせて投与することができる。
それぞれの、好ましい一日用量は、プラバスタチンナトリウムでは5〜60mg、好ましくは10〜20mg、シンバスタチンでは2.5〜60mg、好ましくは5〜20mg、フルバスタチンナトリウムでは10〜180mg、好ましくは20〜60mg、アトルバスタチンカルシウム水和物では5〜120mg、好ましくは10〜40mg、ピタバスタチンカルシウムでは0.5〜12mg、好ましくは1〜4mg、ロスバスタチンカルシウムでは1.25〜60mg、好ましくは2.5〜20mg、ロバスタチンでは5〜160mg、好ましくは10〜80mg、セリバスタチンナトリウムでは0.075〜0.9mg、好ましくは0.15〜0.3mgがそれぞれ例示されるが、これらに限定されない。
本発明の第一から第五の態様の組成物は、患者の状態に合わせて、他の薬剤、例えば、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル(clopidogrel)、シロスタゾールなどの抗血小板薬;ワルファリン、ヘパリン、キシメラガトラン(ximelagatran)などの抗凝固薬;アンジオテンシンII受容体拮抗薬(カンデサルタン、ロサルタン、等)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン、シルニジピン、等)、α1遮断薬などの高血圧治療薬;αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース、アカルボース、等)、ビグアナイド系薬剤、チアゾリジンジオン系薬剤(ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、等)、速効型インスリン分泌促進剤(ミチグリニド、ナテグリニド、等)などの糖尿病用薬または耐糖能異常改善薬;上述のHMG−CoA RI、フィブラート系薬剤、スクアレン合成酵素阻害剤(TAK−475等)、コレステロール吸収阻害剤(エゼチミブ等)などの抗高脂血症薬、などから選ばれる少なくとも1つと適宜組み合わせて用いることができる。本発明第一から第五の態様の組成物は、利便性を高めるために上記HMG−CoA RIおよび/またはその他の少なくとも1種の薬剤とともに1つの包装体に包装されて使用することもできる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明組成物の効果を実験例および実施例をもって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実験例1(EPA−Eの長期心血管イベント発症予防作用)
試験方法
血清T−Cho濃度が250mg/dl以上である男性は40〜75歳、女性は閉経後〜75歳の高脂血症患者におけるEPA−Eの心血管イベント発症および/または再発の予防作用を5年間の長期に渡り観察した。EPA−E群(9,326例)と対照群(9,319例)の大規模な無作為化非盲検化比較試験とし、試験開始時の対照群およびEPA−E群の患者背景因子、すなわち年齢、男女比率、既往合併症、HMG−CoA RIの種類の比率および血清脂質濃度等に差異がない様にランダム化して群の割り付けを行った。なお、両群に食事指導およびベース薬としてHMG−CoA RIを投与した。
データは参加施設数約2,900施設、参加医師数約4,900名および参加患者数18,465名により、十分な例数、ランダム化、比較試験としての厳密性をもって行われた。例えば、参加患者選定においては、血清T−Cho濃度の確認は、2〜4週間の間隔で2回測定で判定した。なお、十分な食事指導遵守後および抗高脂血症薬休薬後の空腹時採血による測定の場合は1回でも可とした。また、未治療患者が好ましいが、試験開始前6ヶ月以上前に抗高脂血症薬が投与されている場合には、4週間(プロブコールTMの場合は8週間)の休薬期間を置くこととした。試験開始前6ヶ月以内に抗高脂血症薬が投与されている場合には、休薬せずに参加可能とし、HMG−CoA RIの場合は継続し、その他はHMG−CoA RIに切替えた。
心筋梗塞発症後不安定期の心血管イベントおよび心血管再建術後不安定期の再建術自体に起因すると考えられる不安定期の再狭窄等の心血管イベントを対象外とするために、急性心筋梗塞後6ヶ月以内の患者および心血管再建術後6ヶ月以内の患者は試験対象から除外し、安定期に入ったと考えられる両イベントから6ヶ月以上経過した患者を対象とした。その他にも、不安定狭心症の患者、重篤な心疾患の既往・合併のある患者(重症不整脈、心不全、心筋症、弁膜症、先天性心疾患等)、脳血管障害発症後6ヶ月以内の患者、重篤な肝疾患または腎疾患を合併している患者等、本試験の目的である長期心血管イベント発症予防作用の検討に不適当な患者および主治医が不適当と判断した患者は除外した。
EPA−EとしてエパデールTM(持田製薬)を、通常、成人1回600mgを1日3回毎食直後に経口投与した。ただし、血清TGの異常を呈する場合は、その程度により1回900mg、1日3回まで増量できることとした。
HMG−CoA RIとしてプラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))あるいはアトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))を使用し、それぞれ定められた用法・用量の範囲で経口投与した。
試験開始前から試験終了時までの5年間定期的に血清脂質(T−Cho、HDL−ChoおよびTG)濃度を測定し、LDL−ChoをT−Cho−HDL−Cho−(TG/5)の計算式で算出した。また、心血管イベント(心血管死(致死性心筋梗塞、突然心臓死)、非致死性心筋梗塞、心血管再建術、安静狭心症・労作狭心症の新たな発症、狭心症の不安定化(入院、心血管再建術実施))発症を観察した。
なお、本試験は、「医薬品の市販後調査の実施に関する基準(GPMSP)」に則り、かつ、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」に準じ、試験統括者を置いた試験組織の下に行われた。また、試験の実施前に、患者本人に試験内容を説明して、試験への自由意思による参加の同意を得た。
【0026】
結果
観察期間5年において両群の血清T−Cho、LDL−ChoおよびTG濃度は減少し、血清HDL−Cho濃度は変化なかった。特に血清TG濃度はEPA−E群でより減少した。
観察期間5年における心血管イベント発症例数、発症率(%)およびEPA−E群の対照群に対するオッズ比の集計結果を表1に示す。オッズ比はEPA−E群の発症率/対照群の発症率の計算式で、心血管イベント発症率の抑制率は{(対照群の心血管イベント発症率−EPA−E群の心血管イベント発症率)/対照群の心血管イベント発症率}×100の計算式でそれぞれ算出した。
【0027】
【表1】


EPA−E投与により、全例の5年間に渡る心血管イベント発症率は2.81%と対照群の心血管イベント発症率の3.48%に比べて減少した。オッズ比は0.808であり、心血管イベント発症率はEPA−E投与により対照群に比べて約19%減少した。
すなわち、EPA−E投与による心血管イベント発症および/または再発予防効果が確認された。
また、心筋梗塞既往患者および心血管再建術施行患者においては、対照群の心血管イベント発症率が20.12%および21.54%と心筋梗塞非既往患者および心血管再建術非施行患者での心血管イベント発症率の2.53%および2.44%に比して著明に高かった。一方、オッズ比はEPA−E投与により、心筋梗塞既往患者で0.744および心血管再建術施行患者で0.671と心筋梗塞非既往患者の0.811および心血管再建術非施行患者の0.862に比して著明に小さく、心血管イベント発症率は対照群に比べてEPA−E投与により心筋梗塞既往患者で約26%および心血管再建術施行患者で約33%減少した。
以上より、心筋梗塞既往患者および心血管再建術施行患者においてEPA−E投与による著明な心血管イベント発症予防効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イコサペント酸エチルエステルと3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤とを含有する、
心血管再建術施行後不安定期を経過した後に起こる心血管イベントの発症を予防する心血管イベント予防用組成物。
【請求項2】
心血管再建術施行後不安定期を経過した後に投与を開始する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イコサペント酸エチルエステルと3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤とを含有する、
心血管再建術施行後6ヶ月を経過した後の患者のための心血管イベント発症を予防する心血管イベント予防用組成物。
【請求項4】
前記患者が、心筋梗塞発症後6か月以内の患者を除いた患者である、請求項3に記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項5】
心血管再建術施行後6ヶ月を経過した後に投与を開始し、少なくとも2年以上継続して投与することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項6】
心血管再建術が、経皮的冠動脈内腔拡張術(PTCA)、経皮的冠動脈内血栓溶解術(PTCR)、方向性冠動脈粥種切除術(DCA)、冠動脈ステント留置術、冠動脈バイパス術(ACバイパス術)である請求項1ないし5のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項7】
前記患者が、高脂血症であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項8】
前記患者の血清T−Cho濃度が、220mg/dl以上、および/または、血清LDL−Cho濃度が140mg/dl以上である請求項7に記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項9】
全脂肪酸およびその誘導体中のイコサペント酸エチルエステル含有量が40重量%以上である請求項1ないし8のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項10】
イコサペント酸エチルエステル0.9g/日〜3.6g/日で経口投与する請求項1ないし9のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項11】
3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、および、アトルバスタチンからなる群から選択される1以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項12】
3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤の1日当たりの投与量が、プラバスタチン5〜20mg/日、シンバスタチン2.5〜20mg/日、または、アトルバスタチン5〜40mg/日である請求項11に記載の心血管イベント予防用組成物。
【請求項13】
前記組成物がイコサペント酸エチルエステルと3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤との配合剤である請求項1〜12のいずれかに記載の心血管イベント予防用組成物。

【公開番号】特開2012−193211(P2012−193211A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157914(P2012−157914)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2007−287366(P2007−287366)の分割
【原出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】