説明

心血管疾患用の診断及び治療法並びに組成物

PAF共役体と反応性を有する低レベルの抗体は心血管疾患を発症させるリスクの増加に関連する。従って、心血管疾患のための診断及び治療用組成物及び方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアテローム性動脈硬化症及び心血管疾患のための予防、治療及びリスク評価の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症とは、大動脈及び中動脈の最内層(内膜)の肥厚を引き起こす慢性疾患である。それは血流量を減少させ、罹患血管と連結している臓器の組織破壊及び虚血を引き起こすことがある。アテローム性動脈硬化症は心筋梗塞、脳卒中及び末梢動脈疾患を含む心血管疾患の主な原因である。それは西欧諸国の主な死亡原因であり、20年以内に全世界の主要な死因になると予測されている。
【0003】
この疾患は、血管の細胞外マトリックスにおける、リポタンパク、主に低密度リポタンパク(LDL)により開始される。これらLDL粒子は凝集体となり、酸化修飾を受ける。酸化LDLは有毒で炎症促進性があり、血管損傷を引き起こす。アテローム性動脈硬化症は炎症及び線維症を含むこの損傷に対する反応を多くの点で示す。
【0004】
1989年にPalinski W他は、ヒトにおける酸化LDLに対する循環自己抗体を同定した(Low density lipoprotein undergoes oxidative modification in vivo. Proc Natl Acad Sci USA. 1989, 86:1372-6)。
【0005】
この見解はアテローム性動脈硬化症が酸化リポタンパクに対する免疫反応によって引き起こされた自己免疫疾患であり得ることを示唆した。
【0006】
現段階で、複数の研究所が酸化LDLに対する抗体力価と心血管疾患の間の関連性について調べ始めた。しかし、これらの研究から明らかにされた事実は明確性とは程遠かった。抗体は酸化LDLにおける多くの異なるエピトープに対して存在したが、これらのエピトープの構造は不明であった。用語「酸化LDL抗体」は、従って、単一特異性を有する抗体よりも、むしろ、異なる特異性を有する抗体の混合物を意味する。
【0007】
免疫適格細胞の活性化及び炎症性サイトカインの産生により特徴付けられる、アテローム性動脈硬化症の損傷には、持続的炎症があることが十分立証されている。高血圧、血中脂質、糖尿病、及び喫煙のような確立された危険因子は、かかる炎症反応を促進すると思われるが、これが起こるメカニズムはよく特徴付けられておらず、異なる非相互排他可能性が存在する。酸化低密度リポタンパク(oxLDL)及び熱ショックタンパク質(HSP)を含むこの免疫反応を引き出す複数の異なる自己抗原が提案されている (Binder CJ et al. Innate and acquired immunity in atherogenesis. Nat Med. 2002, 8:1218-26; Frostegard J. Autoimmunity, oxidized LDL and cardiovascular disease. Autoimmun Rev. 2002, 1:233-7)。アテローム性動脈硬化における免疫反応が果たす役割の有効データは複雑な関係を示している。この一例はアテローム発生に影響を及ぼすために動物モデルに免疫付与することである。HSPを用いる場合、アテローム性動脈硬化症は増加するがoxLDLが抗原である場合には減少する(Palinski W et al. Immunization of low density lipoprotein (LDL) receptor-deficient rabbits with homologous malondialdehyde-modified LDL reduces atherogenesis. Proc Natl Acad Sci USA. 1995, 92:821-5; Xu Q et al. Induction of arteriosclerosis in normocholesterolemic rabbits by immunization with heat shock protein 65. Arterioscler Thromb. 1992, 12:789-99)。
【0008】
ヒト疾患におけるoxLDLを対象とした抗体(抗OxLDL)の役割は複雑であるように思われる。ヒトでは、初期の心血管疾患の例では、抗OxLDLは境界域高血圧を有する人々より健常対照群で高いことがすでに実証されている(Wu R et al. Autoantibodies to OxLDL are decreased in individuals with borderline hypertension. Hypertension 1999, 33:53-59)。
【0009】
一方、複数の著者が、抗OxLDLはヒトの特に後期の心血管疾患(CVD)において上昇するということを報告している(Bergmark C et al. Patients with early-onset peripheral vascular disease have increased levels of autoantibodies against oxidized LDL. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1995, 15:441-5; Salonen JT et al. Autoantibody against oxidised LDL and progression of carotid atherosclerosis. Lancet 1992, 339:883-887)。一例は、CVDを引き起こすリスクが非常に高い自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)である。CVDの病歴を有するSLE患者は抗OxLDL値を明らかに上昇させる(Svenungsson E et al. Risk factors for cardiovascular disease in systemic lupus erythematosus. Circulation 2001, 104:1887-93)。これらのある程度相反する結果は、抗原性に差異を生み出す、LDL-酸化の異なる方法及び段階に依存しているかもしれない。病期及び危険因子のプロファイルも抗体価に関連しているようである。
【0010】
酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)自身、T細胞、単球/マクロファージ及び内皮細胞の活性化を含む多くの炎症促進性の性質を有する(Berliner JA et al. Minimally modified low density lipoprotein stimulates monocyte endothelial interactions. J Clin Invest. 1990, 85:1260-6; Frostegard J et al. Oxidized low density lipoprotein induces differentiation and adhesion of human monocytes and the monocytic cell line U937. Proc Natl Acad Sci USA. 1990, 87:904-8; Frostegard J et al. Biologically modified LDL increases the adhesive properties of endothelial cells. Atherosclerosis. 1991, 90:119-26)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 00/02046
【特許文献2】WO 2005/100405
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Low density lipoprotein undergoes oxidative modification in vivo. Proc Natl Acad Sci USA. 1989, 86:1372-6、1989年、Palinski W他
【非特許文献2】Binder CJ et al. Innate and acquired immunity in atherogenesis. Nat Med. 2002, 8:1218-26
【非特許文献3】Frostegard J. Autoimmunity, oxidized LDL and cardiovascular disease. Autoimmun Rev. 2002, 1:233-7
【非特許文献4】Palinski W et al. Immunization of low density lipoprotein (LDL) receptor-deficient rabbits with homologous malondialdehyde-modified LDL reduces atherogenesis. Proc Natl Acad Sci USA. 1995, 92:821-5
【非特許文献5】Xu Q et al. Induction of arteriosclerosis in normocholesterolemic rabbits by immunization with heat shock protein 65. Arterioscler Thromb. 1992, 12:789-99
【非特許文献6】Wu R et al. Autoantibodies to OxLDL are decreased in individuals with borderline hypertension. Hypertension 1999, 33:53-59
【非特許文献7】Bergmark C et al. Patients with early-onset peripheral vascular disease have increased levels of autoantibodies against oxidized LDL. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1995, 15:441-5
【非特許文献8】Salonen JT et al. Autoantibody against oxidised LDL and progression of carotid atherosclerosis. Lancet 1992, 339:883-887
【非特許文献9】Svenungsson E et al. Risk factors for cardiovascular disease in systemic lupus erythematosus. Circulation 2001, 104:1887-93
【非特許文献10】Berliner JA et al. Minimally modified low density lipoprotein stimulates monocyte endothelial interactions. J Clin Invest. 1990, 85:1260-6
【非特許文献11】Frostegard J et al. Oxidized low density lipoprotein induces differentiation and adhesion of human monocytes and the monocytic cell line U937. Proc Natl Acad Sci USA. 1990, 87:904-8
【非特許文献12】Frostegard J et al. Biologically modified LDL increases the adhesive properties of endothelial cells. Atherosclerosis. 1991, 90:119-26
【非特許文献13】Frostegard J et al. Platelet-activating factor and oxidized LDL induce immune activation by a common mechanism. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1997, 17:963-8
【非特許文献14】Heery JM et al. Oxidatively modified LDL contains phospholipids with platelet- activating factor-like activity and stimulates the growth of smooth muscle cells. J Clin Invest. 1995, 96:2322-30
【非特許文献15】Subbanagounder G et al. Evidence that phospholipid oxidation products and/or platelet-activating factor play an important role in early atherogenesis: in vitro and in vivo inhibition by WEB 2086. Circ Res. 1999, 85:311-8
【非特許文献16】Barquinero J et al. Antibodies against platelet-activating factor in patients with antiphospholipid antibodies. Lupus 1994, 3: 55-58
【非特許文献17】Tektonidou MG et al., Clinical importance of antibodies against platelet activating factor in antiphospholipid syndrome manifestations. Eur J Clin Invest. 2000, 30:646-52
【非特許文献18】Wu et al., Antibodies to platelet-activating factor are associated with borderline hypertension, early atherosclerosis and the metabolic syndrome. J Intern Med. 1999 246: 389-397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、注目すべきはoxLDLは酷い炎症反応をも改善し、代わりにアテローム性動脈硬化症において観察されるようなより低度の慢性炎症を促進するかもしれないことである。興味深いことには、oxLDLの多くの生物学的効果がoxLDLにおける血小板活性化因子(PAF)様脂質によって引き起こされることである(Frostegard J et al. Platelet-activating factor and oxidized LDL induce immune activation by a common mechanism. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1997, 17:963-8; Heery JM et al. Oxidatively modified LDL contains phospholipids with platelet- activating factor-like activity and stimulates the growth of smooth muscle cells. J Clin Invest. 1995, 96:2322-30; Subbanagounder G et al. Evidence that phospholipid oxidation products and/or platelet-activating factor play an important role in early atherogenesis : in vitro and in vivo inhibition by WEB 2086. Circ Res. 1999, 85:311-8)。
【0014】
血小板活性化因子(PAF)は、単球及び内皮細胞を含む、さまざまな細胞によって合成されるリン脂質炎症性メディエーターである。LDLの酸化中、PAF様脂質が産生される。PAFは従ってアテローム性動脈硬化症や高血圧のような血管壁における病理過程において重要かもしれない。これまでの報告では、PAFに対する抗体の存在は、リン脂質抗体症候群を有する個体において記載されていた(Barquinero J et al. Antibodies against platelet-activating factor in patients with antiphospholipid antibodies. Lupus 1994, 3: 55-58)。
【0015】
Tektonidou MG et al. (Clinical importance of antibodies against platelet activating factor in antiphospholipid syndrome manifestations. Eur J Clin Invest. 2000, 30:646-52)は、抗PAF抗体はAPS及びSLEによく見られ、血栓症発症の独立因子を含むと報告している。
【0016】
WO 00/02046は、PAFに対する高濃度抗体は、境界域高血圧及びメタボリック症候群、つまり早期心血管疾患と相関があることを述べている。PAFに対する高濃度抗体は早期アテローム性動脈硬化症を発症するリスクを増大させることと関係があるとみられている。
【0017】
Wu et al. (Antibodies to platelet-activating factor are associated with borderline hypertension, early atherosclerosis and the metabolic syndrome. J Intern Med. 1999 246: 389-397)は、さらに、抗PAF抗体は、早期血管変化を反映し、そのため疾病用新規マーカーとしての役割を果たし得ること、並びにそれらがまた血管壁における炎症反応を引き起こすことにより病原性となり得ることを示唆した。
【0018】
WO 2005/100405は虚血性心血管疾患を発症させるリスクの増減に関わりのあるホスホリルコリン(PC)に対する抗体、例えばIgM抗体またはIgG抗体の有無を決定する方法を述べており、さらにアテローム性動脈硬化症の治療または予防におけるPC共役体を対象とした抗体またはPC共役体の使用を示唆する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第一の態様は、アテローム性動脈硬化症もしくはアテローム性動脈硬化関連疾患などの心血管疾患に対する、ヒトを含む哺乳類の免疫付与及び予防、防止または治療用医薬の製造における、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体、または、PAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用を提供する。この医薬は、心血管疾患に対する免疫原性または治療特性を有する免疫付与を提供する事を意図する。
【0020】
本発明の第二の様態は、アテローム性動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化関連疾患のような心血管疾患に対する、ヒトを含む哺乳類の治療及び免疫付与のための方法を提供することであって、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体、またはPAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を含む医薬組成物を哺乳類に投与する工程を含む方法を提供する。この医薬組成物は、アテローム性動脈硬化症に対する免疫原性または治療特性を有する免疫付与を提供することを意図する。
【0021】
本発明の第三の態様は、心血管疾患の防止、予防及び/または治療のための免疫療法または療法用の医薬組成物の製造において、場合によりアジュバントと組み合わせて、本発明の前述の態様に関連して定義したような、1以上のPAF誘導体及びPAF共役体の使用を提供する。
【0022】
本発明の第四の態様は、アテローム性動脈硬化症を患っている、または心血管疾患を発症するリスクに直面している、哺乳類(ヒトであってもよい)の予防的処置または治療的処置の方法を提供することであり、ここで、治療上有効量の、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体またはPAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体が投与される。
【0023】
本発明の第五の態様は、PAF共役体を使用して、心血管疾患を発症するリスクの増減に関わりのある抗体、例えばIgM、IgG、またはIgA抗体の有無を診断する方法を提供する。
【0024】
本発明の第六の態様は、心血管疾患の発達または進行に関する患者のリスクを評価するための方法におけるPAF共役体の使用を提供し、ここで、PAF共役体との反応性を有する、抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の患者におけるレベルが評価される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、PAF共役体と反応性を有する低レベルの抗体が、心血管疾患を発症するリスクの増加に関係のあることを驚くべきことに発見した。これはPAFに対する高レベルの抗体が心血管疾患を発症するリスクを増大させるのに関係していることを示唆する、先行技術によって報告されていることに反している。
【0026】
本発明は、PAF誘導体、PAF共役体、またはPAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を含む医薬組成物、ならびに、アテローム性動脈硬化症のような心血管疾患の治療、予防または防止、例えばアテローム性動脈硬化症のさらなる進行の治療、予防または減少における、これらの組成物の使用に関する。さらに、本発明は、場合によりアジュバントを有する医薬組成物を製造するためのPAF誘導体、PAF共役体、または抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用にも関する。
【0027】
さらに、本発明は、心血管疾患を発症するリスクの増減に関連する、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体のような抗体の有無及び/または濃度の診断に関する。
【0028】
PAFは、以下の式による1-O-アルキル-2-アセチル-sn-glycero-3-ホスホコリンを意味する:
【0029】
【化1】

【0030】
好ましくは、アルキル基は、パルミチル(ヘキサデシル)基またはオレイル(オクタデシル)基である。
【0031】
PAF共役体は、好ましくはスペーサーを介して担体に連結するPAF部分を意味する。PAF部分は、共有結合的もしくは非共有結合的に担体に連結することができる。PAF部分は、PAFの誘導体であってよい。好ましくは、PAF部分は、アルキル基を介して担体に連結する。
【0032】
PAFの誘導体の例は、以下の式による化合物:
【0033】
【化2】

【0034】
ここでWO 87/05904及びUS 5,061,626に記載されているように、R1はC2からC25のアルキレン、アルケニレン、またはアルキニレン連結基であり、R2からR5はC1からC6のアルキルから独立して選択される、
【0035】
以下の式による化合物:
【0036】
【化3】

【0037】
ここで、Karasawa K et al. J Biochem (Tokyo) 1991, 110:683-687に記載されているように、R1はC2からC18のアルキル、好ましくはペンタデシルであり、R2はH、メチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルであり、R3はメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルである、
【0038】
以下の式による化合物:
【0039】
【化4】

【0040】
ここで、Smal MA et al. Lipids 1991, 26:1130-5に記載されているように、R1はC6からC18のアルキル、好ましくはヘキシルまたはドデシルである、
【0041】
以下の式による化合物:
【0042】
【化5】

【0043】
ここで、Muzya GI et al. Immunologiya (Moscow) 1997, 6, 9-11に記載されているように、R1はC6からC18のアルキル、好ましくはヘキシルまたはドデシル(1-アシル-PAF)である。
【0044】
担体は、例えばタンパク質、炭水化物、ポリマー、ラテックスビーズ、またはコロイド金属であってよい。
【0045】
PAF共役体は、ヒト血清アルブミン(HAS)-PAF共役体、トランスフェリン-PAF共役体、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)-PAF共役体またはウシ血清アルブミン(BSA)-PAF共役体のような、例えばタンパク質-PAF共役体であってよい。
【0046】
PAF共役体及び抗PAF抗体の産生の例は、WO 87/05904中及びKarasawa K et al. (Antibodies to synthetic platelet-activating factor (1-O-alkyl-2-O-acetyl-sn-glycero-3-phosphocholine) analogues with substituents at the sn-2 position. J Biochem (Tokyo). 1991, 110:683-7), Macpherson JL et al. (Production and characterization of antibodies to platelet-activating factor. J Lipid Mediat. 1992, 5:49-59), Smal MA et al. (Synthesis of a PAF immunogen and production of PAF-specific antibodies. Lipids. 1991, 26:1130-5), Tomii A and Masugi F. (Production of anti-platelet-activating factor antibodies by the use of colloidal gold as carrier. Jpn J Med Sci Biol. 1991, 44:75-80)、並びにWang C及びTai HH. (A sensitive and specific radioimmunoassay for platelet-activating factor. Lipids. 1992, 27:206-8)及びUS 5,061,626に記載されており、参照によってそれらの内容が本願明細書に取り込まれる。
【0047】
本発明により治療及び/または予防できる心血管疾患は、限定されないが以下に例示される:アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄。
【0048】
本発明の第一の態様による使用、または本発明の第二の態様による方法においては、心血管疾患は以下から選択してもよい:アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄。
【0049】
好ましくは、本発明の第一の態様による使用、または本発明の第二の態様による方法においては、医薬は注射による投与用である。
【0050】
本発明の第五の態様は、心血管疾患を発症するリスクの増減に関連する、PAF共役体と反応性を有する、抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の有無を決定するための方法を提供してもよい。
【0051】
典型的には、本発明の第五の態様の方法は、PAF共役体を個体由来のサンプルにさらす工程、及びPAF共役体に結合する抗体を検出する工程を含む。
【0052】
好ましくは、本発明の第五の態様の方法において、個体はヒトである。
【0053】
好ましくは、本発明の第五の態様の方法において、サンプルは血清である。
【0054】
本発明の第六の態様によるPAF共役体の使用は、本発明の第五の態様によるPAF共役体を使用する方法に相当してもよい。
【0055】
好ましくは、本発明の第五または第六の態様において、PAFはスペーサーを介して担体に連結する。この実施形態において、典型的に担体はタンパク質、好ましくはKLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、トランスフェリン、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)である。あるいは、担体はラテックスビーズであってよい。
【0056】
典型的には、本発明の第五の態様によると、PAF共役体に結合する抗体は、アッセイ、好ましくは免疫アッセイにより決定される。
【0057】
PAF共役体に対する反応性を有する、患者の抗体価、例えばIgM、IgG、またはIgA抗体の抗体価は、免疫アッセイを用いて評価してもよい。適切な免疫アッセイの例は以下に記載され、いずれの場合でも当業者に明らかであろう。
【0058】
典型的に、本発明の第五及び第六の実施形態において、PAF共疫体に対する反応性を有する低レベルの抗体は心血管疾患を発症するリスクの増加を示す。逆に、PAF共役体に対する反応性を有する高レベルの抗体は心血管疾患を発症するリスクの低下を示す。典型的に、抗体は患者の血漿又は血清のサンプルにおいて決定される。
【0059】
ある個体群において、PAF共役体に対する反応性を有する抗体価は、変化しやすい。ある個体に対して決定されるPAF共役体に対する反応性を有する抗体価は、より広範囲の集団に観測される範囲を参照することにより高い又は低いとして分類してよい。例えば、より広範囲の集団を参照することで測定される特定のパーセンタイル値より低いこのような抗体価は低抗体価(低レベル)として分類してもよい。適切には、低抗体価は、25パーセンタイル値以下、または20、10もしくは5パーセンタイル値以下の値に相当してよい。高抗体価(高レベル)は、例えば、5、10、20又は25パーセンタイル値以上の値に相当してよい。
【0060】
個体がPAF共役体に対する反応性を有する低いレベルの抗体を有するものとして特徴づけられる場合、この情報は虚血性心血管疾患の発症又は進行のリスクの増加の診断または予後に役立ててよい。臨床医は、診断又は予後に至る他の要因を考慮に入れてよい。個体が虚血性心血管疾患を発症するリスクが高いとみなされる場合、予防的処置及び/または生活様式の変化を推奨してよい。個体が進行性の虚血性心血管疾患であると診断される場合、臨床医はその個体に合わせた処置及び/または生活様式の変化を推奨してよい。
【0061】
本発明の第五及び第六の態様において、抗体価はPAF共役体に対する反応性を有する全ての抗体、または特定のアイソタイプ、例えばIgM、IgGまたはIgAなど、のただ一つの抗体、または2つ以上の抗体アイソタイプの組み合わせに対してアッセイすることで特徴付けてもよい。好ましくは、IgGのレベルが決定される。
【0062】
免疫アッセイは、競合的であるかまたは非競合的であってよい。典型的な競合的免疫アッセイにおいて、サンプル中の抗体は、PAF共役体と結合する標識抗体と競合する。PAF共役体に結合する標識抗体の量が、次いで測定される。サンプル中の抗体濃度と検出される標識抗体量の間には反比例の関係がある。非競合的免疫アッセイでは、サンプル中の抗体はPAF共役体に結合し、次いで、標識検出剤、典型的には抗イムノグロブリン抗体が、抗体に結合する。抗体と結合する標識検出剤の量が次いで測定される。競合的方法と異なり、非競合的方法の結果は、抗体濃度に正比例するだろう。
【0063】
非競合的免疫アッセイ又はウエスタンブロットにおいて、標識検出剤、典型的には抗イムノグロブリン抗体は、PAF共役体に結合する抗体の検出に用いられる。適切な抗イムノグロブリン抗体は、サンプルを採取する種のイムノグロブリンと特異的に結合しなければならない。それは、その種の全てのイムノグロブリンアイソタイプ、またはアイソタイプサブセットだけと結合してよい。例えば、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM、またはこれらのアイソタイプの2つ以上の組み合わせとのみ結合してよい。抗イムノグロブリン抗体は、あるアイソタイプの特定のサブタイプとだけ特異的に結合してよい。ヒトIgAのサブタイプは、IgA1及びIgA2である。抗イムノグロブリン抗体は、これらのサブタイプの1つまたは両方と結合してよい。ヒトIgGのサブタイプは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4である。抗イムノグロブリンはこれらのヒトIgGサブタイプの1つ以上と結合してよい。異なる脊椎動物種には異なるアイソタイプ及びサブタイプがあると理解される。
【0064】
ラジオイムノアッセイでは、抗体又は検出剤は、131I又は125Iのような、ラジオアイソトープで標識される。酵素イムノアッセイでは、抗体又は検出剤は、酵素で標識される。適切な酵素は、発色基質の使用で検出されることができる。発色基質は、酵素との反応の結果として、着色産物を生じさせる基質であり、従って、分光光度法で検出可能である。西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、及び大腸菌由来のピロホスファターゼなどの酵素が広く用いられている。ルシフェラーゼなどの酵素に基づく化学発光システムも使用できる。他の標識は、Alexaシリーズのフルオロフォアなどの蛍光性の標識を含む。
【0065】
抗体の共役又はビタミンビオチンを用いた検出剤が頻繁に使用されるが、それは、これらが、高い特異性及び親和性で結合する、酵素-又はフルオロフォア-結合アビジン又はストレプトアビジンとの反応により、容易に検出されることが可能だからである。
【0066】
典型的な非競合的酵素イムノアッセイでは、分析されるサンプルは、固体基板上で吸着されるPAF共役体と接触して配置され、かつインキュベーションされる。サンプル中に存在している可能性のあるいずれの抗PAF共役体抗体も、固体基板上で吸着されるPAF共役体によって従って特異的に結合され、PAF共役体/抗PAF共役体抗体複合体を産生する。サンプルは、例えば、洗浄により、非結合物質を除外するために固体基板から次いで分離される。この方法の次の段階では、PAF共役体/抗PAF共役体抗体複合体の形態にある基盤上に存在するいずれの抗PAF共役体抗体に結合することが可能な指標抗体が、個体基板に添加され、これによりPAF共役体/抗PAF共役体抗体/指標抗体複合体が産生される。指標抗体は、例えば、非ヒト動物種で生じる抗ヒトIgGイムノグロブリンであってよい。最後に、固体基板上のPAF共役体/抗PAF共役体抗体/指標抗体複合体の存在が検出され、前述の固体基板上の複合体の存在が、個体由来のサンプル中の抗PAF共役体抗体の存在の指標となる。
【0067】
典型的に、固体基板は、マイクロ滴定プレート、例えば、ELISA免疫アッセイを実施するために一般に使われるタイプのマイクロ滴定プレートである。マイクロ滴定プレートは、好ましくは、ポリスチレンプレートである。他の適切な固体基板は、ラテックス粒子、ビーズ、及び被覆赤血球である。好適には、PAF共役体は、固体基板を用いてPAF共役体を緩衝剤中でインキュベーションすることにより、固体基板に吸着される。適切な緩衝剤は、炭酸塩緩衝剤又はリン酸緩衝食塩水を含む。あるいは、PAF共役体は、固体基板と共有結合してよい。典型的には、固体基板へのPAF共役体の共有結合又は吸着の後、固体基板は、サンプル由来の物質の固体基板への非特異的結合を減少させるために遮断薬を用いてインキュベーションされる。適切な遮断薬には、ウシ血清アルブミンが挙げられる。
【0068】
PAF共役体と結合できる抗体の量的推計は1つ以上の上述の技術によって得られることが好ましい。典型的な非競合的アッセイでは、実測された変数、それが光学的濃度であろうと他の読出し(read-out)であろうと、と、抗体濃度との間には直線関係が推測される。例えば、もしサンプルAがアッセイにおいてサンプルBの倍の光学的濃度を有する(バックグラウンド値は両方から除去される)場合、抗体濃度はBに比べAは倍であると推測される。しかしながら、陽性血清サンプルのプールの連続希釈標準曲線を作ることが好ましい。好ましくは、このような希釈はテストサンプルとして同時にアッセイされる。そうすることで、直線関係における任意の変動量が、サンプル中の抗体量を決定する際に考慮されてもてよい。
【0069】
PAF共役体に対する反応性を有する測定用抗体、例えば、IgM、IgG又はIgA抗体のみならず、oxLDL又はマロンジアルデヒド修飾LDL(MD-LDL)と反応性を有する抗体を測定することが望ましいであろう。代わりに又は加えて、PAF共役体に対する反応性を有する測定用抗体、例えば、IgM、IgG又はIgA抗体のみならず、リポタンパク質関連のホスホリパーゼA2(LpPLA2)、ホモシステイン、C反応性タンパク質(CRP)、HSP70、高密度リポタンパク(HDL)、TNF、特にTNFα及び/またはHSP60のレベルを測定することが望ましいであろう。このような因子に対するアッセイすることで心血管疾患の発症又は進行のリスクの増加の診断又は予測に役立ててよい。
【0070】
本明細書に記載されるいずれかの方法又は組成物が、本明細書に記載されるいずれかの他の方法又は組成物に関して実施され得ることが意図される。同様に、本発明の一態様に関して議論されるいずれかの実施形態も、本発明の他の態様の文脈において使用してよい。
【0071】
本出願書類を通して、用語「約(about)」は、値の測定に用いる装置又は方法に対する誤差の標準偏差をその値が含むことを示すために使用される。
【0072】
本許請求の範囲及び/または本明細書中で用語「〜を含む」とともに使用されるとき、「a」又は「an」という単語の使用は「1つ」を意味してよいが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」及び「1または1を超えて」の意味とも矛盾することはない。
【0073】
本特許請求の範囲における用語「or」の使用は、本開示が代替的なもののみ及び「及び/または(and/or)」を意味する定義を支持するが、代替的なもののみまたは相互に排他的である代替的なものを意味するために排他的に示されない限り、「及び/または(and/or)」を意味するものとして使用される。
【0074】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明により明らかになるだろう。しかし、詳細な説明及び具体例は、本発明の具体的な実施形態を示している一方で、例示としてだけ与えられるものということが理解されるべきである。なぜならば、本発明の精神及び範囲内で種々の変更及び改良が、この詳細な説明により当業者に明らかであるからである。
【0075】
以下に開示される実施例は、本発明を例示する目的のためだけに提供され、添付の特許請求の範囲の概要としての範囲のいずれの制限としても解釈されるべきではない。本明細書で参照される文書は、参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0076】
心血管疾患を発症するリスクの増減に関係のあるPAF共役体に対する反応性を有するIgG抗体の有無及び/またはレベルを決定する方法の例が記載される。当技術分野で周知の他の方法も使用してよい。
【0077】
類似した方法が、PAF共役体に対する反応性を有するIgM又はIgA抗体の有無及び/またはレベル(抗体価)を決定するために使用されてもよい。
【0078】
A. PAF共役体
以下のPAF-BSA共役体が、合成され、かつ本発明による方法に使用される。
【0079】
【化6】

【0080】
B. PAF共役体に対する反応性を有する抗体の有無及び/またはレベルの決定方法。
マイクロ滴定プレートを、リン酸緩衝食塩水(PBS)中5μg/ml PAF-BSA共役体入り(上述)で被覆した。
【0081】
PBSで洗浄後、プレートを1%のBSA溶液でブロッキングした。血清サンプルをサンプル希釈剤中で希釈し(1:101)、プレートに添加した。プレートを室温で30分間インキュベーションし、洗浄した。1:1000で希釈した西洋ワサビペルオキシターゼ共役ウサギ抗ヒトIgGを添加し、室温で30分間インキュベーションした。洗浄後、3,3’,5,5’,テトラメチルベンジジン(TMB)基質を添加することにより発色させ、プレートを室温で暗闇の中で10分間インキュベーションした。吸光度を450nmで分光光度計中で測定した。PAF-BSA共役体と反応性を有する抗体価は、テストしたサンプルから得られる吸光度と各アッセイに含まれる陽性対照から得られる吸光度の間の比率として算出した。
【0082】
C. PAF共役体に対する抗体
PAF共役体に対する抗体は、上述のように産生させることができる。例えば、WO87/05904、Macpherson JL et al. (Production and characterization of antibodies to platelet-activating factor. J Lipid Mediat. 1992, 5:49-59), and Smal MA et al. (Synthesis of a PAF immunogen and production of PAF-specific antibodies. Lipids. 1991, 26:1130-5)を参照のこと。
【0083】
D. PAF共役体に対するモノクローナル抗体
PAFに対するモノクローナル抗体は、当該技術分野で周知のいずれかの標準方法を使用して産生させ得る。例えばTomii A及びMasugi F. (Production of anti-platelet-activating factor antibodies by the use of colloidal gold as carrier. Jpn J Med Sci Biol. 1991, 44:75-80)を参照のこと。
【0084】
PAF共役体と反応性を有する他の抗体は、当業者によく知られた方法を使用して調製され得る。例えば、PAF共役体に対する反応性を有するヒトイムノグロブリン製剤のサブフラクションが、例えば以下に記載されるように、例えばPAF共役体を使用したアフィニティー精製によって調製され得る。
【0085】
静脈内イムノグロブリン製剤(例えば、IGIV;Baxterなど)は、市販の高度に精製されたIgG製剤であり、抗体生産がゼロもしくは極低レベルの患者の治療において使用される。イムノグロブリン製剤は、以下の製造業者から入手できるものが含まれる:Baxter (US)、例えばGammagard(登録商標)、Isiven (Antimo Naples, Italy)、Omrix (Tel-Hashomer, Israel)、Miles (Biological Products Division, West Heaven, CT)、Sclavo (Lucca, Italy)、Sandoz (Novartis, Basel, Switzerland)、例えばSandoglobulin(登録商標)、Biotest Diagnostic Corporation (Deville, NJ)。イムノグロブリン製剤の例は、GammagardS/D(登録商標)、GammarIV(登録商標)、Gaimnar-PIV(登録商標)、Gammimune N(登録商標)、Iveegam(登録商標)、Panglobulin(登録商標)、Polygam S/D(登録商標)、Sandoglobulin(登録商標)、Venoglobulin(登録商標)である。イムノグロブリン製剤は典型的にいくらかのIgMならびにIgGを含む。微量のIgMは、Gammagard(登録商標)中に存在する。Pentaglobin (Biotest)は、SARSの治療に使用されているIgM強化製剤である。PAF共役体に対する反応性を有するサブフラクションは、IgG及びIgMの両方を含んでもよく、または、主にIgG(例えば、Gammagard(登録商標)などのIgGに富む製剤で開始させること、及び/またはIgGに対して選択させることによって);または、主にIgM(例えば、PentaglobinなどのIgMに富む製剤で開始させること、及び/またはIgMに対して選択させることによって)を含むように選択してもよい。
【0086】
E. 能動免疫化
本発明の一実施形態は、従って、アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄などの心血管疾患の治療、予防又は防止において使用される医薬組成物の調製用の、PAF誘導体又はPAF共役体を使用することである。共役体は医薬的に許容できるタンパク質、炭水化物又はポリマーに連結したPAF又はPAF誘導体であってよい。医薬組成物は好ましくは注射により供される。
【0087】
提案される能動免疫化の方法は、抗体力価を調節し、同時に、この抗体力価は心血管疾患の発症に関して好ましい影響を与えるだろう。
【0088】
F. 受動免疫化
本発明の他の実施形態は、アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄などの心血管疾患の治療、予防または防止に使用される医薬組成物の調製用のPAF共役体を認識する、抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を使用することである。モノクローナル抗体は、当技術分野で周知の方法を使用して産生することができる。
【0089】
G. 診断及びリスク評価
本発明のさらなる実施形態は、PAF共役体を使用して、どの因子が心血管疾患を発症させるリスクの増減と関係するか、PAF共役体に対する反応性を有する抗体、例えばIgA、IgM又はIgG抗体の有無及び/またはレベル(抗体価)を診断する方法を提供することである。好ましい方法は免疫アッセイである。この方法は、患者の心血管疾患の発症又は進行のリスク評価に使用してよい。
【実施例】
【0090】
[実施例1]
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証することを含む。当業者であれば、以下の実施例に開示される技術が、本発明の実施において十分に機能させるために本発明者によって発見された技術を表すこと、従って、その実施のために好ましい様式を構成するとみなされることが可能であることを理解する。しかしながら、当業者は、本開示を踏まえ、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示される具体的な実施形態において成され得ること、及び、類似又は同様の結果を依然として得ることが可能であることを理解するであろう。
【0091】
A. 対象
Malmo (the Malmo Diet and Cancer Study)の観察研究では、30000人の集団の対象のうちより、約6000人が、頚動脈超音波測定により無症候性アテローム性動脈硬化症の非侵襲評価を含む、広範な心血管の調査のために募集された。総計で、CVD患者(主に心筋梗塞(MI)及び虚血性脳卒中)は137人、及び年齢と性別をマッチさせたコントロール群は384人であった。抗PAF-BSAに対するカットオフレベルは、抗PAFレベルの10パーセンタイル値で307であった。抗PAF-BSA IgGに対するカットオフレベルは25パーセンタイル値で60.8であった。3.19の相対ハザード(95% CI 2.04 - 4.99)に相当する、25パーセンタイル値以下の抗PAF-BSA IgGを有するCVD患者は全部で58人(42%)、及び健常者79人(21%)であった(表1)。
【0092】
これらの結果は、低抗体価(低レベル)の抗PAF-BSAは、健常者における心血管疾患の発生を予測し、及び心血管疾患マーカーとして作用し得ることを示唆する。
【0093】
B. 試薬
Maxisorp lockウェル、C96というマイクロタイタープレートは、Nunc (Roskilde Denmark)から購入し、PAF-BSAはIsoSep、Uppsala (Sweden)により合成されかつ提供された。
【0094】
ウサギ抗ヒトIgG (γ-特異的)と共役した西洋ワサビペルオキシターゼは、DakoCytomation、Stockholm (Sweden)から購入した。TMB基質は、Phadia、Freiburg (Germany)から購入した。
【0095】
C. PAF共役体に対する抗体の決定
PAF-BSAに対するIgG抗体は、酵素免疫吸着法(ELISA)で測定された。0.5−0.7 ODの吸光度を産出する血清が、内部標準として使用され、全てのプレート上で試験された。抗体結合のプラトーは、5μg/mlの抗体濃度に達した。C96マイクロタイターMaxsorpプレートは、PBS中にPAF-BSA (5μg/ml) 100 μg/wellでコーティングされ、4 °Cで一晩インキュベーションされた。コーティング溶液の吸引後、プレートは、室温で2時間、1%のBSA-PBSでブロッキングされた。ブロッキング溶液を吸引し、0.2 % BSA-PBS中で1:101に希釈された血清サンプルを100 μl/wellで添加した。プレートを上述のように、室温で30分間インキュベーションし、洗浄バッファー (Phadia, Freiburg, Germany)で3回洗浄した。ウサギ抗ヒトIgGと共役した100μl西洋ワサビペルオキシターゼ(1:1000で希釈)をwellごとに添加し、室温で30分間インキュベーションした。3回洗浄後、上述したように、TMB基質100 μl/wellを添加することにより発色させた。室温で暗闇の中10分間インキュベーションした後、反応を、50 μl/wellで0.5 M H2SO4を添加することにより停止させた。ELISA DigiScan分光光度計で450nmでプレートを読み込んだ。全てのサンプルはデュプリケートで測定され、変動係数は、全てのサンプルについて15%以下だった。
【0096】
D. 結果
【0097】
【表1】

【0098】
本明細書で開示されかつ特許請求される組成物及び/または方法の全てが、本開示を踏まえて、過度の実験なしに為されかつ実行され得る。本発明の組成物及び方法が、好ましい実施形態の観点で記載されている一方で、本発明の概念、精神及び範囲から外れることなく、変形が、本明細書に記述される組成物、及び/または方法、及び方法における段階において、または方法の段階の順序において適用されてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。より具体的には、化学的及び生理学的の両方に関係のある特定の薬剤が本明細書に記載される薬剤に対する代替物となってもよい一方で、同一または類似の結果が達成されるであろうことが明らかである。当業者に明らかな全てのかかる類似の代替及び改変が、添付の特許請求の範囲で定義されるように、本発明の精神、範囲及び概念内であるとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管疾患に対する、ヒトを含む哺乳類の免疫付与及び予防、防止または治療用医薬の製造における、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体、または、PAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用。
【請求項2】
前記心血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
心血管疾患に対する、ヒトを含む哺乳類の免疫付与及び予防、防止及び治療方法であって、前記方法は、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体、またはPAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を含む医薬組成物を哺乳類に投与する工程を含む方法。
【請求項4】
前記心血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、急性心筋梗塞、安定及び不安定狭心症、脳卒中、動脈移植術、動脈ステント術、及びバルーン血管形成術後の再狭窄、特に冠状動脈バイパス術、冠状動脈ステント移植及び冠動脈血管形成術後の再狭窄から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記医薬が注射による投与用であるか、または前記組成物が注射により投与される、請求項1または2に記載の使用、あるいは請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
心血管疾患の予防、防止または治療のための、場合によりアジュバントと組み合わせての、医薬組成物の製造における請求項1から5のいずれか一項に規定の、1つ以上のPAF誘導体またはPAF共役体の使用。
【請求項7】
アテローム性動脈硬化症を患っている、または心血管疾患を発症するリスクに直面している、哺乳類、例えばヒトの予防的処置または治療的処置のための方法であって、治療上有効量の、少なくとも1つのPAF誘導体、1のPAF共役体、またはPAF共役体と反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体が投与される、方法。
【請求項8】
PAF共役体を使用して、虚血性心血管疾患を発症するリスクの増減に関わりのあるIgM、IgG、またはIgA抗体の有無を診断する方法。
【請求項9】
PAF共役体を個体由来のサンプルにさらす工程、及びPAF共役体に結合する抗体を検出する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記個体がヒトである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルが血清である請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
PAFがスペーサーを介して担体に結合する、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記担体がタンパク質である、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記タンパク質がKLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、トランスフェリン、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記担体がラテックスビーズである、請求項12の記載の方法。
【請求項16】
PAF共役体に結合する抗体が、アッセイ、好ましくは免疫アッセイにより決定される、請求項8から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
虚血性心血管疾患の発症又は進行の患者におけるリスクを評価するための方法におけるPAF共役体の使用であって、PAF共役体と反応性を有するIgM、IgGまたはIgA抗体の患者におけるレベルが評価される、使用。

【公表番号】特表2011−500868(P2011−500868A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531575(P2010−531575)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003661
【国際公開番号】WO2009/056826
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510119773)アセラ・バイオテクノロジーズ・アーベー (3)
【Fターム(参考)】