心音信号を処理する方法及びシステム
少なくとも1つの心音信号を処理する方法であって、少なくとも1つの心音信号を受信するステップ(11)と、心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ(12)と、各々のセグメントについての属性情報を特定するステップ(13)と、各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けするステップ(14)と、少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力するステップ(15)とを有する方法を提供する。本発明は、上記の方法のステップを実行する処理システムも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音信号を処理する方法及びシステムに関し、特に、心音信号を処理する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
異なる心音源に基づいて、聴診器から検出された心音信号は、異なる種類のセグメントであって、例えば、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされるS1セグメント、大動脈弁及び肺弁の閉鎖によりもたらされるS2セグメント、早期心拡張中の高速心室充満によりもたされるS3セグメント、拡張した心室に血液を移動させる心室収縮によりもたらされるS4セグメント、及び雑音は、血液の乱流によりもたらされ得る。異なる種類のセグメントはときどき、異なる特定の異常心音を反映し得る。更に、心音信号は、複数の心周期(心拍動)も構成し得、一部の異常な心音は一部の特定の心周期のみにより反映され得る。
【0003】
従来の聴診器により心音を聴く場合、ひとは、彼/彼女の経験に依存した一般的な診断を行い得る。しかしながら、彼/彼女が聴診の分野で経験が豊富であったとしても、人間の聴覚には限界があるため、一部の特定の心音源又は心音周期によりもたらされる異常心音について、ひとが正確に診断することはかなり困難である。
【0004】
過去何年かの間、ディジタル聴診器が正確な且つ高信頼性のPCG(心音図)を出力する多くの技術が開発されてきていて、故に、ひとは、聴くことに代えて、PCGに基づいて診断することが可能になっている。今日のディジタル聴診器により出力されたPCGは殆どが生PCGである。生PCGに基づく場合、ひとは、大部分は彼/彼女の経験により一部の特定の心音源又は一部の特定の心周期によってもたらされる異常心音を尚も、特定しなければならない。
【0005】
従って、今日のディジタル聴診器は、正確に且つ簡便に診断を行うようにひとを支援するためのかなりインテリジェントな適用を提供するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、少なくとも1つのかなり理解可能な心音図を出力するように、少なくとも1つの心音信号を処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも1つの心音信号を処理する方法であって、
− 少なくとも1つの心音信号を受信するステップ、
− その心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ、
− 各々のセグメントについての属性情報を特定するステップ、
− 各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けるステップ、及び
− その少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力するステップ、
を有する方法を提供する。
【0008】
本発明の有利点は、注釈付けされた心音図がかなり理解可能であり、故に、ひとは、より正確に且つ簡便に診断することができる。
【0009】
本発明の他の実施形態においては、その方法は、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、複数の心音信号が異なる心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように2つの注釈付けされた心音図を比較するステップも有し、
− 注釈付けするステップは更に、比較心音図を構成するように互いに比較される心音図の何れかの一に関する比較結果を注釈付けるように意図され、
− 出力ステップは更に、比較心音図を出力するように意図されている。
【0010】
本発明の有利点は、比較PCGに基づいて、2つの注釈付けされたPCGが、ひとが診断を行うより正確な情報を提供するように、互いに補うことである。
【0011】
本発明の更なる実施形態においては、その方法は、心音信号から心周期サンプルを抽出することにより少なくとも1つの心音信号についての心拍情報を生成するステップも有し、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図と、各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図とを有する。出力するステップは更に、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するように意図されている。
【0012】
本発明の有利点は、心拍情報テーブルに基づいて、ひとが異常心音を容易に特定することが可能であり、患者の心臓の状態が悪化した心拍において更に学習することが可能であることである。
【0013】
本発明はまた、上記方法のステップを実行する処理システムを提供する。
【0014】
他の特徴を含む本発明の詳細については、以下で説明する。
【0015】
本発明の上記の目的及び特徴並びに他の目的及び特徴については、添付図に関連付けた以下の詳細説明により十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従った方法の実施形態を示す模式図である。
【図2】心音信号についての生心音図を示すグラフである。
【図3】複数の心音信号についての複数の生心音図を示すグラフである。
【図4】セグメント化された心音信号を示すグラフである。
【図5】セグメントの各々の間隔範囲の出現頻度を示す統計的ヒストグラムである。
【図6】心電図と対応する同期された心音図との間の関係を示すグラフ図である。
【図7】2つの注釈付けされた心音図である。
【図8】複数の心音信号を検出する複数のセンサの配置の模式図である。
【図9】大動脈領域の心音図及び三尖弁心音図についての組み合わされた心音図である。
【図10】R波に基づく心音信号から心周期サンプルを抽出することを示すグラフである。
【図11】心拍情報テーブルを示す図である。
【図12】聴診器の模式図である。
【図13】図12の聴診器の実施形態に従って、少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、より理解可能な心音図(以下では、PCGという)を出力する少なくとも1つの心音信号を処理することであり、故に、人間は、便利に且つ正確に診断することが可能である。
【0018】
図1は、本発明に従った方法の一実施形態を示す模式図である。少なくとも1つの心音信号を処理する方法は、
− 少なくとも1つの心音信号を受信するステップ11と、
− 少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ12と、
− 各々のセグメントの属性情報を特定するステップ13と、
− 各々のセグメントに対応する属性情報を注記付けるステップと、
− 複数のセグメントについて註釈付けされたPCGを出力するステップと、
を有する。
【0019】
(1)少なくとも1つの心音信号を受信するステップ11
少なくとも1つの心音信号は、1つの心音信号、又は異なる心音源からもたらさえる複数の心音を有することが可能である。複数の心音信号は2つ又はそれ以上の心音信号であることが可能である。各々の心音信号は、僧帽領域、三尖弁領域、大動脈領域、肺領域等の心音源に位置付けられた音センサにより検出される。
【0020】
図2は、心音信号についての生PCGを示すグラフであり、図3は、複数の心音信号についての複数の生PCGを示すグラフである。
【0021】
心音信号は、異なる種類の信号セグメントであって、例えば、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音セグメントに属する複数のセグメントを有することが可能である。S1は、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされ、S2は、大動脈弁及び肺動脈弁の閉塞中に起こり、S3は、早期心拡張中の高速心室充満によるものであり、S4は、拡張した心室に血液を移動させる心室収縮の結果として生じ、雑音は、血液の乱流によりもたらされ得るものである。S1は更に、僧帽弁によりもたらされるM1及び三尖弁によりもたらされるT1を更に有することが可能であり、S2は、大動脈弁によりもたらされるA2及び肺動脈弁によりもたらされるP2を更に有することが可能である。健全な個人にとっては、S3、S4及び雑音は通常は聞こえない
(2)少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ12
少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、セグメント化するステップ12は、複数の心音信号を別個にセグメント化するように用いられる。
【0022】
セグメント化するステップ12の第1実施形態は次のステップを有する。
− 心音信号の波帯を選択するバンドパスフィルタにより心音信号をフィルタリングするステップであって、その波帯は所定の周波数範囲である、ステップ。そのフィルタリングするステップは、所定の周波数範囲内の波帯を選択するために心音信号から10乃至100Hzをカットオフするように意図されている。所定の周波数範囲は、心音信号の一部のセグメントが特定の周波数範囲に対応するかなり顕著なエネルギーを有するように、心音信号のエネルギーに従って予め規定される。心音信号をフィルタリングするステップの後に、一部の高周波数ノイズ(例えば、肺音)及び一部の低周波数ノイズ(例えば、ベースラインドリフト)が除かれることが可能である。
− セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値に比べて高い場合に、波帯からセグメントを抽出するステップ。例えば、所定の変化率閾値より高い平均振幅変化率を有する5乃至10%のセグメントが、その波帯から抽出される。通常は、心音波のセグメントであって、例えば、S1、S2、S3、S4、雑音は、振幅変化がベースライン部分に比べて大きいピーク/谷に対応する。前記抽出するステップは更に、隣接するブロックを結合し、続いて、各々のセグメントのエッジをスムージングするように意図されることが可能である。
【0023】
セグメント化するステップの第2の実施形態は、エベログラム(evelogram)に基づいて心音信号をセグメント化するように意図されている。第2の実施形態に基づいて、そのセグメント化するステップは次のステップを有する。
− エベログラムに対して心音信号をフィルタリングするステップ。そのフィルタリングするステップは、ヒルベルト変換、準同型変換又は曲線フィッティング変換により実行されることが可能である。曲線フィッティング変換について説明する。心音信号波形において、複数の外れ値点、例えば、複数の極大値点は容易に検出されることが可能であり、故に、B-スプライン曲線、放物線曲線、ベジェ曲線である二次曲線が、その場合に、エベログラムを構築するようにそれらの極大値点を接続するように用いられることが可能である。
− 心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合、エベログラムからセグメントを抽出するステップ。その抽出するステップは更に、隣接するブロックを結合し、次いで、各々のセグメントのエッジをスムージングするように意図されることが可能である。
【0024】
図4は、セグメント化するステップの第1の実施形態及び第2の実施形態に従ったセグメント化された心音信号を示すグラフである。X座標は時間を表し、Y座標は振幅を表す。
【0025】
(3)各々のセグメントの13個の属性情報を特定するステップ
その属性情報には、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、各々のセグメントの強度等がある。各々のセグメントの種類は、S1、S2、S3、S4及び雑音であることが可能である。
【0026】
特定するステップ13は、各々のセグメントの波形、複数のセグメントの関係、又は心音信号のPCGとの心電図(以下ではECGという)の組み合わせに従って、各々のセグメントの属性情報を特定し、ECGの信号は心音信号と同期するように意図されることが可能である。特定するステップ13についての説明のために、次に4つの実施例を示す。
【0027】
特定化するステップについての第1の実施例は、複数のセグメントの関係に基づいている。この実施形態においては、特定化するステップは次のステップを有する。
− 統計的ヒストグラムを構成する複数のセグメントの複数のピーク点間の間隔を決定するステップであって、それらの間隔は異なる間隔範囲に分割され、その統計的ヒストグラムは、各々の間隔範囲の出現頻度を反映している、ステップ。
【0028】
図5は、セグメントの各々の間隔範囲の出現頻度を示す統計的ヒストグラムである。
− 統計的ヒストグラムにおけるS1セグメントとS2セグメントとの間の間隔範囲を決定するステップであって、間隔S1−S2の出現頻度が統計的ヒストグラムにおいて最も高い、ステップ。間隔S1−S2は、短い期間であって、例えば、10秒間安定していて、故に、その統計的ヒストグラムにおいて、間隔S1−S2は通常、最も頻度高く出現する。図5においては、2000乃至2500個のサンプルユニットにおける間隔(又は、8kHzのサンプリング速度において0.25乃至0.31秒)は6回現れ、それは最も高い出現頻度であり、間隔S1−S2として決定されることが可能である。図5においては、X座標は時間を表し、Y座標は振幅を表している。
− 統計的ヒストグラムにおけるS2セグメントとS1セグメントとの間の間隔範囲(以下では、間隔S2−S1という)を決定するステップであって、間隔S2−S1の出現頻度は間隔S1−S2の出現頻度より単に小さい、ステップ。同様に、間隔S2−S1も、短い時間期間においては安定であり、間隔S1−S2より長い。図5においては、5500−6000サンプルユニットにおける間隔(又は8kHzのサンプリング速度においては0.69乃至0.75秒)は5回現れ、それはS1−S2間隔の出現頻度より単に小さく、故に、間隔S2−S1として決定される。
− 間隔S1−S2及び間隔S2−S1に基づいて、S1セグメント及びS2セグメントを決定するステップ。S1セグメント及びS2セグメントは、S1―S2間隔及びS2−S1間隔に基づいて心音信号波を全て探索することにより特定される。例えば、何れかの2つの連続的なピーク間の間隔が図5に示されているようなS1−S2間隔の範囲内、例えば、2000乃至2500サンプルユニットの範囲内にある場合、前のピークに対応するセグメントはS1として決定され、次のピークはS2に対応する。
− S3セグメント、S4セグメント及び雑音の心音周期及び位置情報における決定されたS1及びS2に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− N1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピーク検出を実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0029】
特定するステップ13についての第2実施形態は各々の波形に基づいている。上記特定するステップは、次のステップを有することが可能である。
− S1セグメント及びS2セグメントに沿ってピークを検出することによりそれらのセグメントを決定するステップであって、S1セグメント及びS2セグメントは、エンベログラム(envelogram)における第1最大ピーク及び第2最大ピークに対応する、ステップ。エンベログラムは、上記セグメント化するステップ12の間に構成される(上記セグメント化するステップの第2実施形態)。
− 同じ心音周期において決定されたS1及びS2、並びにS3セグメント、S4セグメント及び雑音に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− 準同型フィルタリング及びピーク検出を実行することにより、S1及びS2の分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントの波形に従って各々の抽出されたセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0030】
上記特定するステップ13についての第2実施形態は、各々のセグメントの波形に基づいている。この実施形態においては、上記特定するステップ13は次のステップを有する。
− 少なくとも1つの心音信号の心音周期を検出するステップ。
− 隠れマルコフモデル(HMM)、ニューラルネットワーク又は線形/動的時間伸縮法により心音信号における各々のセグメントの種類を決定するステップ。セグメントの種類は、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音等であり得る。
− M1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピークを実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
【0031】
上記特定するステップ13についての第4実施形態は、ECG及び対応する同期化されたPCGの結合に基づいている。この実施形態においては、上記特定するステップ13は次のステップを有することが可能である。
− ECGを受信するステップであって、少なくとも1つの心音信号及びECGの信号は同期している、ステップ。
− ECGの重要点を検出するステップであって、それらの重要点は、Sオンセット、Sオフセット、Tオンセット、Tオフセットを有し、ECGのSオフセットはS1セグメントの開始を示し、Tオフセットは時間領域のS2セグメントの開始に対応している、ステップ。
− 各々のセグメントの種類を決定するように、PCGのセグメントに対してECGの重要点をマッピングするステップ。Sオンセット及びTオフセットは、ウェーブレット変換、隠れマルコフモデル等のような多くの方法により、WCG信号において検出されることが可能である。そしてECGとPCGとの間の関係に基づいて、S1及びS2の開始点が決定されることが可能である。図6は、ECGと対応する同期化されたPCGとの間の関係を示すグラフである。
− 同じ心音信号周期において決定されたS1及びS2、並びにS3セグメント、S4セグメント及び雑音の位置情報に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− M1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピークを実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントの波形に従って各々の抽出されたセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0032】
(4)各々のセグメントに対応する属性情報の注釈付けするステップ。
【0033】
注釈付けするステップ14は、特定された属性情報に従って、各々のセグメントにS1、S2、S3、S4又は雑音の種類の注釈付けするように意図されている。上記注釈付けするステップ14は更に、各々のセグメントに特定された属性情報に従って、振幅、持続時間、強度等を注釈付けするように意図されている。
【0034】
(5)心音信号について注釈付けされたPCGを出力するステップ。
【0035】
出力されたPCGは複数のセグメントを有し、各々のセグメントは、ひとが心音信号の課題を簡便に且つ正確に認識することができるように、対応する種類、振幅、持続時間、強度、タイミング等の注釈が付けられる。
【0036】
注釈付けされた心音図は、バー形状図の形式で表示されるようになっていて、バーの高さは各々のセグメントの平均振幅であり、バーの幅は各々のセグメントの持続時間を表す。
【0037】
図7は2つの注釈が付けられたPCG、即ち、ノイズとして扱われる再現性のないセグメントを示していて、それらのセグメントは“?”で表されている。図7においては、2つの注釈が付けられたPCGが、大動脈(S2)領域及び三尖弁(S1)領域の心音源からもたらされ、故に、S3セグメント及びS4セグメントは示すには小さ過ぎる。
【0038】
少なくとも1つの心音信号を処理する方法は更に、比較するステップ及び生成するステップ(図1には示していない)を有する。
【0039】
(6)比較するステップ
比較結果を得るように、2つの注釈付けされたPCGを比較して、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、複数の心音信号は異なる心音源のそれぞれからもたらされる。その比較結果は、互いと比較された何れかの2つの注釈付けされたPCGの類似性及び相違性を有する。
【0040】
図8は、複数の心音信号を検出する複数のセンサの配置の模式図である。その配置は5つの組み合わされたセンサを有し、全ての組み合わされたセンサはPCGセンサ及びECGセンサを有することが可能である。それらの5つの組み合わされたセンサは、心音信号を検出するように、大動脈領域81、肺領域82、エルブ(erb)点83、三尖弁領域83及び僧帽弁85のそれぞれに位置付けられている。
【0041】
注釈を付けるステップ14は更に、比較PCGを構成する互いに比較される複数のPCGの何れかの一における比較結果に注釈付けするように意図されている。
【0042】
出力するステップ15は比較PCGを出力するように意図されている。図9は、大動脈領域PCGと三尖弁PCGとについての比較PCGを示し、そのX座標は時間を表し、Y座標は振幅を表している。
【0043】
その比較するステップは、2つの注釈付けされたPCGの持続時間及び平均振幅を比較するように意図されている。例えば、一の注釈付けされたPCGは三尖弁(以下においては、PCG_Tと表されている)からのものであり、他の注釈付けされたPCGは大動脈(以下においては、PCG_Aと表されている)からのものである。PCG_Aにおいては、S2はより大きい振幅及びより長い持続時間を有し、故に、PCG_AのS2はより容易に特定され、従って、注釈付けするステップ14は、比較PCGにおけるS2セグメントについて“PCG_Aにおいてより広い及び高い”と注釈付けするように意図されている。一部の場合は、S2はPCG_Tにおいて検出されないが、S2はPCG_Aにおいて正確に特定されることが可能であり、従って、注釈付けするステップ14は、このS2セグメントについて“PCG_Aのみにおいて”を比較PCGにおいて注釈付けするように意図されている。比較PCGは、PCG_A又はPCG_Tに基づいて生成されることが可能である。
【0044】
比較PCGに基づく互いによる2つのPCGの補足は、単独のチャネルのPCGを用いることに比べてより正確な情報を提供することができる。更に、異常な心音、例えば、S3、S4及び雑音の存在は、比較PCGに基づいて都合良く決定されることが可能である。
【0045】
一部の再現性のある心音が、PCG_Aにおいてではなく、PCG_Tにおいて検出され、再現性のある心音のセグメントは“PCG_Tにみにおいて”と注釈付けされ、そのことは、それらの再現性のある心音がノイズでないことを示し、その心音源は三尖弁領域の近くであるが、大動脈領域から遠いところにあることを示している。更に、複数種類の雑音であって、例えば、収縮器駆出雑音、心室流出閉塞雑音、収縮器逆流雑音、心室中隔欠損雑音等が、S1セグメント及びS2セグメントとの間に現れる。そのような雑音はPCG_Tにおいては容易に聞き取れるが、PCG_Aにおいては区別可能でないため、比較PCGは心室中隔欠損をかなりよく反映する。このようにして、医師は、心臓の状態に対して迅速な且つ正確な結論に到達することができる。
(7)生成するステップ
− 心音信号から心周期サンプルを抽出することにより心音信号についての心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、図1に示しているようなステップ12乃至14により構成される各々の心拍についての注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。
【0046】
出力するステップ15はまた、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するように意図されている。
【0047】
心周期サンプルは、ECG信号と同期する心音信号のPCG及びECGを組み合わせることにより抽出される。
【0048】
生成するステップは次のようなステップを有する。
− ECG信号を受信するステップであって、ECG信号及び心音信号は同期している、ステップ。
− 心音信号のPCG及びECGの両方についての拍動の区切りとしてのRピーク及びP波の出現の周期性を利用することにより、心音信号から心周期サンプルを抽出するステップであって、R波はECG波形に沿った最も急な波形であり、RピークはR波のピーク点である。
【0049】
図10は、心音信号から心周期サンプルを抽出することを示す模式的なグラフである。2つの連続的なRピークのECG2つの領域、即ち、R−R間隔ECGは心臓の拍動であり、R−R間隔における領域は心周期サンプルと称されている。
− 各々の心周期サンプルについての心拍を演算するステップ。例えば、心周期が1秒である場合、その心周期に対応する心拍は60拍動/分である。
− 異なる心拍カテゴリに心周期サンプルを分類するステップであって、同じ心拍カテゴリにおける心周期は同じ心拍を有する、ステップ。
− 心拍について典型的な心周期PCGを生成することに同じ心拍の全ての心周期サンプルを加えることによりノイズを除くステップ。例えば、ノイズを除くように心周期サンプルの振幅値の整列されたビットを直接加える。心周期サンプルは、一心周期と他の心周期との間で再現性があり、強い類似性を示すS1、S2、S3、S4及び雑音(雑音が存在する場合には)を有する。上記除くステップは、心周期サンプルの品質には影響しない。他方、ノイズはガウス分布状であり、蓄積動作により妨げられる。心周期サンプルを加えることにより生成される新しいデータシーケンスは、それらの心周期サンプルに比べて大きいSNR(信号−ノイズ比)を有する典型的な心周期と称されている。心周期サンプルがたくさん蓄積されればされる程、より大きいSNRが得られる。例えば、20心周期サンプルが同じ心拍カテゴリについてまとめられた場合、SNRは約20dBに増加する。同じ心拍については、心周期サンプルの長さは殆ど同じであることに留意する必要がある。従って、心周期サンプルは、少数の切り捨て/拡大の有無に拘わらず、合算されることが可能である。
− 心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、各々の心拍カテゴリについて注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。図11は、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGについての心拍情報テーブルを示していて、Y軸は振幅を表し、X軸は時間を表している。
【0050】
心拍情報テーブルに基づいて、一部の雑音、例えば、この実施例における収縮期雑音(SM)はより少ない心拍、即ち、60bpm(60拍動/分)において観測され得、その場合、S1とS2との間の間隔はより長くなり、S1及びS2の強度はより小さくなる。より多い心拍、例えば、90bpm以上の心拍においては、収縮期雑音は、S1−S2間隔がより短くなり、それらS1及びS2の平均強度がより大きくなるために、S1及びS2において群れている。他の異常な心音、例えば、S3は、少ない心拍においては弱いが、心拍が増加するにつれて、強調される(例えば、120bpm)ようになり、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGにおいて検出され得る。これは、S3が血液量及び血流速度に関連付けられることによるものである。心拍が多くなればなる程、血流速度は速くなり、また、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGにおいてより容易に検出可能なS3をもたらす。
【0051】
心拍情報テーブルが提示されるとき、ひとは更に、異常な心音を容易に特定することが可能になり、どのような心拍において患者の心臓状態が悪化するかを学習することが可能である。
【0052】
胸部の異なる聴診領域における心音が、複数の心音センサを用いて得られ、同じ方法で処理されることが可能である。心拍情報テーブルは、1つのみの聴診領域の場合に比べてひとに対してより多くの情報を与えることが可能である複数の聴診領域についての心音情報を有することが可能である。
【0053】
図12は、聴診器を示す模式図である。聴診器20は、検出装置21と、処理システム23と、処理システム23に検出装置21を接続するコネクタ22とを有する。
【0054】
検出装置21は1つ又はそれ以上のPCGセンサ211を有する。図12においては、3つのPCGセンサ211が心音信号を検出するために示されている。検出装置21はまた、1つ又はそれ以上のECGセンサを有し、図12においては、ECGセンサ212は示されていない。他の実施形態においては、検出装置21は複数のECGセンサを有することが可能であり、各々のECGセンサは、ECG信号及びPCG信号を同期して検出するように身体の同じ位置に触れるためのPCGセンサに結合されている。信号検出装置21は身体上を移動される又は身体上に吸着されることが可能である。ECGセンサ及びPCGセンサの各々の組み合わせは身体上を移動される又は身体上に吸着されることが可能である。
【0055】
コネクタ22は、ECG信号と、信号検出装置21の音センサから処理システム23へのECGセンサにより検出された心音信号とを送信するように、処理システム23に信号検出装置21を接続するように用いられる。
【0056】
処理システム23は、信号検出装置21からの心音信号及びECG信号を処理するように用いられる。処理システム23は、処理システム23が出力する処理結果をプリントする又は表示するように外部プリンタに接続されることが可能である。
【0057】
聴診器20は更に、信号検出装置21の音センサ211により検出される心音を聴くひとにより用いられるイヤホンを有することが可能である。
【0058】
図13は、図12の聴診器に従って少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムを示している。処理システム23は、検出装置21から少なくとも1つのECG信号及び少なくとも1つの心音信号を受信する受信ユニット231と、少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するセグメント化ユニット232と、各々のセグメントについての属性情報を特定する特定化ユニット233と、対応する属性情報を各々のセグメントに注釈付けする注釈付けユニット234と、それらのセグメントについて注釈付けされた心音図を出力する出力ユニット235とを有する。
【0059】
注釈付けされたPCGはより理解可能であり、故に、ひとは簡便に且つ正確に診断を行うことができる。
【0060】
(1)受信ユニット231は、少なくとも1つの心音信号を受信するように用いられる。
【0061】
少なくとも1つの心音信号は、1つの心音信号、又は異なる心音源からもたらされる複数の心音信号を有することが可能である。複数の心音信号は2つ又はそれ以上の心音信号であることが可能である。各々の心音信号は、例えば、僧帽弁領域、三尖弁領域、拝領域等の心音源に位置付けられた音センサにより検出される。
【0062】
心音信号は、異なる種類の信号セグメントであって、例えば、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音セグメントに属す複数のセグメントを有することが可能である。S1は、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされ、S2は、大動脈弁及び肺弁の閉鎖中に生じ、S3は、初期の拡張期中の高速心室充填によるものであり、S4は、拡張された心室に変位した心房収縮血液の結果として生じ、雑音は、乱流血流によりもたらされ得る。S1は、僧帽弁によりもたらされるM1及び三尖弁によりもたらされるT1を更に有し得、S2は、大動脈によりもたらされるA2及び肺弁によりもたらされるP2を更に有し得る。
【0063】
少なくとも1つの心音信号は生心音信号であり、図13にRSとして示されている。
【0064】
(2)セグメント化ユニット232は、少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するために用いられる。
【0065】
少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、セグメント化するステップ12は、複数の心音信号を別個にセグメント化するように用いられる。
【0066】
セグメント化ユニット232は、セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合であって、その波域が所定の周波数領域にある場合に、心音信号の波域を選択し、その波域からセグメントを抽出するバンドパスフィルタにより心音信号をフィルタリングするように、若しくは、心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに対して心音信号をフィルタリングし、エンベログラムからセグメントを抽出するように、少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように用いられることが可能である。
【0067】
(3)特定化ユニット233は、各々のセグメントについての属性情報を特定するように用いられる。
【0068】
属性情報は、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、各々のセグメントの強度等を有する。各々のセグメントの種類はS1、S2、S3、S4及び雑音であり得る。
【0069】
特定化ユニット233は、各々のセグメントの波形、複数のセグメントの関係、心音信号のPCGとECGの結合に従って各々のセグメントの属性情報を特定するように用いられることが可能であり、ECG信号は心音信号と同期している。
【0070】
(4)注釈付けユニット234は、対応する属性情報を各々のセグメントに注釈付けするように用いられる。
【0071】
注釈付けユニット234は、特定された属性情報に従って、S1、S2、S3、S4又は雑音の種類を各々のセグメントに注釈付けするように用いられる。注釈付けユニット234は、特定された属性情報に従って、振幅、持続時間、強度等を各々のセグメントに注釈付けするように更に用いられる。
【0072】
(5)出力ユニット235は、少なくとも1つの心音信号について注釈付けされたPCGを出力するように用いられる。
【0073】
出力される心音図は複数のセグメントを有し、各々のセグメントは、対応する種類、振幅、持続時間、強度及びタイミング等が注釈付けされ、故に、ひとは、心音信号の課題を連続的に及び正確に認識することができる。注釈付けされたPCGが図13にAPとして示されている。
【0074】
注釈付けされた心音図は、バー形状の図の形で示されるようになっていて、バーの高さは各々のセグメントの平均振幅を表し、バーの幅は各々のセグメントの持続時間を表す。
【0075】
少なくとも1つの心音信号を処理する処理システム23は、比較ユニット及び生成ユニットを更に有する(図13には示されていない)。
【0076】
(6)比較ユニット
比較ユニットは、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合に、比較結果を得るように2つの注釈付けされたPCGを比較するように用いられ、複数の心音信号は、異なる心音源のそれぞれからもたらされる。比較結果は、互いと比較される何れかの2つの注釈付けされたPCGの類似性及び相違性を有する。
【0077】
注釈付けユニット234は、比較PCGを構成するように互いと比較されるPCGの何れか一において比較結果を注釈付けするように更に用いられる。
【0078】
出力ユニット235は更に、比較PCGを出力するように意図されている。
【0079】
比較ユニットは、2つの注釈付けされたPCGの平均振幅及び持続時間を比較するように用いられる。例えば、一の注釈付けPCGは三尖弁領域(以下ではPCG_Tと表されている)からのものであり、他の注釈付けされたPCGは大動脈領域(以下ではPCG_Aと表されている)からのものである。PCG_Aにおいては、S2はより大きい振幅及びより長い持続時間を有し、故に、PCG_AのS2はより容易に特定されることができ、従って、注釈付けユニット234は、比較PCGにおけるこのS2セグメントについて“PCG_Aにおいてより広い及びより高い”と注釈付けするように意図されている。一部の場合には、S2はPCG_Tにおいては検出されないが、S2は、PCG_Aにおいて正確に特定されることが可能であり、従って、注釈付けユニット234は、このS2セグメントについて“PCG_Aのみにおいて”を比較PCGにおいて注釈付けするように意図されている。
【0080】
比較PCGに基づいて、2つのPCGは、単一チャネルのPCGを用いる場合に比べてより正確な情報を提供するように、互いに補い合う。更に、異常心音、例えば、S3、S4及び雑音の存在が、比較PCGに基づいて簡便に決定されることが可能である。
【0081】
一部の再現性のある心音が、PCG_Aにおいてではなく、PCG_Tにおいて検出され、再現性のある心音のセグメントは“PCG_Tにみにおいて”と注釈付けされ、そのことは、それらの再現性のある心音がノイズでないことを示し、その心音源は三尖弁領域の近くであるが、大動脈領域から遠いところにあることを示している。更に、複数種類の雑音であって、例えば、収縮器駆出雑音、心室流出閉塞雑音、収縮器逆流雑音、心室中隔欠損雑音等が、S1セグメント及びS2セグメントとの間に現れる。そのような雑音はPCG_Tにおいては容易に聞き取れるが、PCG_Aにおいては区別可能でないため、比較PCGは心室中隔欠損をかなりよく反映する。このようにして、医師は、心臓の状態に対して迅速な且つ正確な結論に到達することができる。
【0082】
(7)生成ユニット
生成ユニットは、心音信号から心周期サンプルを抽出することにより心音信号についての心拍情報テーブルを生成するように用いられ、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGを有する。
【0083】
出力ユニット235は、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するようにも意図されている。
【0084】
心周期サンプルは、ECG信号と同期している心音信号のPCG及びECGを結合することにより抽出される。
【0085】
生成ユニットは、次の方法により心拍情報テーブルを生成するように意図されることが可能である。
− ECG信号を受信するステップであって、ECG信号及び心音信号は同期している、ステップ。
− 心音信号のPCG及びECGの両方についての拍動の区切りとしてのRピーク及びP波の出現の周期性を利用することにより、心音信号から心周期サンプルを抽出するステップであって、R波はECG波形に沿った最も急な波形であり、RピークはR波のピーク点である、ステップ。
− 各々の心周期サンプルについての心拍を演算するステップ。例えば、心周期サンプルが1秒である場合、その心周期に対応する心拍は60拍動/分である。
− 心周期サンプルを異なる心拍カテゴリに分類するステップであって、同じ心拍カテゴリの心周期サンプルは同じ心拍を有する、ステップ。
− 心拍について典型的な心周期PCGを生成することに同じ心拍の全ての心周期サンプルを加えることによりノイズを除くステップ。例えば、ノイズを除くように心周期サンプルの振幅値の整列されたビットを直接加える。心周期サンプルは、一心周期と他の心周期との間で再現性があり、強い類似性を示すS1、S2、S3、S4及び雑音(雑音が存在する場合には)を有する。上記除くステップは、心周期サンプルの品質には影響しない。他方、ノイズはガウス分布状であり、蓄積動作により妨げられる。心周期サンプルを加えることにより生成される新しいデータシーケンスは、それらの心周期サンプルに比べて大きいSNR(信号−ノイズ比)を有する典型的な心周期と称されている。心周期サンプルがたくさん蓄積されればされる程、より大きいSNRが得られる。例えば、20心周期サンプルが同じ心拍カテゴリについてまとめられた場合、SNRは約20dBに増加する。同じ心拍については、心周期サンプルの長さは殆ど同じであることに留意する必要がある。従って、心周期サンプルは、少数の切り捨て/拡大の有無に拘わらず、合算されることが可能である。
− 心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、各々の心拍カテゴリについて注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。
【0086】
そのような心拍情報テーブルが提示されるとき、ひとは、異常な心音を容易に特定することが可能であり、患者の心臓の状態が悪化する心拍において更に学習することが可能である。
【0087】
上記の実施形態は本発明を制限するのではなく、例示としてのものであり、当業者は、同時提出の特許請求の範囲から逸脱することなく代替の実施形態をデザインすることができることに留意する必要がある。用語“を有する”は、特許請求の範囲又は明細書において列挙されていない要素又はステップの存在を排除するものではない。要素の単数表現はそのような要素の複数の存在を排除するものではない。本発明は、複数の別個の要素を有するハードウェアユニットにより、及びプログラムされたコンピュータユニットにより実行されることが可能である。複数のユニットを列挙している装置請求項においては、それらのユニットの幾つかが、ハードウェア又はソフトウェアの同一のアイテムにより具現化されることが可能である。第1、第2、第3等の用語の使用は、何れかの順序付けを表すものではない。それらの用語は、名称として解釈されるべきものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、音信号を処理する方法及びシステムに関し、特に、心音信号を処理する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
異なる心音源に基づいて、聴診器から検出された心音信号は、異なる種類のセグメントであって、例えば、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされるS1セグメント、大動脈弁及び肺弁の閉鎖によりもたらされるS2セグメント、早期心拡張中の高速心室充満によりもたされるS3セグメント、拡張した心室に血液を移動させる心室収縮によりもたらされるS4セグメント、及び雑音は、血液の乱流によりもたらされ得る。異なる種類のセグメントはときどき、異なる特定の異常心音を反映し得る。更に、心音信号は、複数の心周期(心拍動)も構成し得、一部の異常な心音は一部の特定の心周期のみにより反映され得る。
【0003】
従来の聴診器により心音を聴く場合、ひとは、彼/彼女の経験に依存した一般的な診断を行い得る。しかしながら、彼/彼女が聴診の分野で経験が豊富であったとしても、人間の聴覚には限界があるため、一部の特定の心音源又は心音周期によりもたらされる異常心音について、ひとが正確に診断することはかなり困難である。
【0004】
過去何年かの間、ディジタル聴診器が正確な且つ高信頼性のPCG(心音図)を出力する多くの技術が開発されてきていて、故に、ひとは、聴くことに代えて、PCGに基づいて診断することが可能になっている。今日のディジタル聴診器により出力されたPCGは殆どが生PCGである。生PCGに基づく場合、ひとは、大部分は彼/彼女の経験により一部の特定の心音源又は一部の特定の心周期によってもたらされる異常心音を尚も、特定しなければならない。
【0005】
従って、今日のディジタル聴診器は、正確に且つ簡便に診断を行うようにひとを支援するためのかなりインテリジェントな適用を提供するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、少なくとも1つのかなり理解可能な心音図を出力するように、少なくとも1つの心音信号を処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも1つの心音信号を処理する方法であって、
− 少なくとも1つの心音信号を受信するステップ、
− その心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ、
− 各々のセグメントについての属性情報を特定するステップ、
− 各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けるステップ、及び
− その少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力するステップ、
を有する方法を提供する。
【0008】
本発明の有利点は、注釈付けされた心音図がかなり理解可能であり、故に、ひとは、より正確に且つ簡便に診断することができる。
【0009】
本発明の他の実施形態においては、その方法は、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、複数の心音信号が異なる心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように2つの注釈付けされた心音図を比較するステップも有し、
− 注釈付けするステップは更に、比較心音図を構成するように互いに比較される心音図の何れかの一に関する比較結果を注釈付けるように意図され、
− 出力ステップは更に、比較心音図を出力するように意図されている。
【0010】
本発明の有利点は、比較PCGに基づいて、2つの注釈付けされたPCGが、ひとが診断を行うより正確な情報を提供するように、互いに補うことである。
【0011】
本発明の更なる実施形態においては、その方法は、心音信号から心周期サンプルを抽出することにより少なくとも1つの心音信号についての心拍情報を生成するステップも有し、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図と、各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図とを有する。出力するステップは更に、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するように意図されている。
【0012】
本発明の有利点は、心拍情報テーブルに基づいて、ひとが異常心音を容易に特定することが可能であり、患者の心臓の状態が悪化した心拍において更に学習することが可能であることである。
【0013】
本発明はまた、上記方法のステップを実行する処理システムを提供する。
【0014】
他の特徴を含む本発明の詳細については、以下で説明する。
【0015】
本発明の上記の目的及び特徴並びに他の目的及び特徴については、添付図に関連付けた以下の詳細説明により十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従った方法の実施形態を示す模式図である。
【図2】心音信号についての生心音図を示すグラフである。
【図3】複数の心音信号についての複数の生心音図を示すグラフである。
【図4】セグメント化された心音信号を示すグラフである。
【図5】セグメントの各々の間隔範囲の出現頻度を示す統計的ヒストグラムである。
【図6】心電図と対応する同期された心音図との間の関係を示すグラフ図である。
【図7】2つの注釈付けされた心音図である。
【図8】複数の心音信号を検出する複数のセンサの配置の模式図である。
【図9】大動脈領域の心音図及び三尖弁心音図についての組み合わされた心音図である。
【図10】R波に基づく心音信号から心周期サンプルを抽出することを示すグラフである。
【図11】心拍情報テーブルを示す図である。
【図12】聴診器の模式図である。
【図13】図12の聴診器の実施形態に従って、少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、より理解可能な心音図(以下では、PCGという)を出力する少なくとも1つの心音信号を処理することであり、故に、人間は、便利に且つ正確に診断することが可能である。
【0018】
図1は、本発明に従った方法の一実施形態を示す模式図である。少なくとも1つの心音信号を処理する方法は、
− 少なくとも1つの心音信号を受信するステップ11と、
− 少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ12と、
− 各々のセグメントの属性情報を特定するステップ13と、
− 各々のセグメントに対応する属性情報を注記付けるステップと、
− 複数のセグメントについて註釈付けされたPCGを出力するステップと、
を有する。
【0019】
(1)少なくとも1つの心音信号を受信するステップ11
少なくとも1つの心音信号は、1つの心音信号、又は異なる心音源からもたらさえる複数の心音を有することが可能である。複数の心音信号は2つ又はそれ以上の心音信号であることが可能である。各々の心音信号は、僧帽領域、三尖弁領域、大動脈領域、肺領域等の心音源に位置付けられた音センサにより検出される。
【0020】
図2は、心音信号についての生PCGを示すグラフであり、図3は、複数の心音信号についての複数の生PCGを示すグラフである。
【0021】
心音信号は、異なる種類の信号セグメントであって、例えば、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音セグメントに属する複数のセグメントを有することが可能である。S1は、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされ、S2は、大動脈弁及び肺動脈弁の閉塞中に起こり、S3は、早期心拡張中の高速心室充満によるものであり、S4は、拡張した心室に血液を移動させる心室収縮の結果として生じ、雑音は、血液の乱流によりもたらされ得るものである。S1は更に、僧帽弁によりもたらされるM1及び三尖弁によりもたらされるT1を更に有することが可能であり、S2は、大動脈弁によりもたらされるA2及び肺動脈弁によりもたらされるP2を更に有することが可能である。健全な個人にとっては、S3、S4及び雑音は通常は聞こえない
(2)少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ12
少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、セグメント化するステップ12は、複数の心音信号を別個にセグメント化するように用いられる。
【0022】
セグメント化するステップ12の第1実施形態は次のステップを有する。
− 心音信号の波帯を選択するバンドパスフィルタにより心音信号をフィルタリングするステップであって、その波帯は所定の周波数範囲である、ステップ。そのフィルタリングするステップは、所定の周波数範囲内の波帯を選択するために心音信号から10乃至100Hzをカットオフするように意図されている。所定の周波数範囲は、心音信号の一部のセグメントが特定の周波数範囲に対応するかなり顕著なエネルギーを有するように、心音信号のエネルギーに従って予め規定される。心音信号をフィルタリングするステップの後に、一部の高周波数ノイズ(例えば、肺音)及び一部の低周波数ノイズ(例えば、ベースラインドリフト)が除かれることが可能である。
− セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値に比べて高い場合に、波帯からセグメントを抽出するステップ。例えば、所定の変化率閾値より高い平均振幅変化率を有する5乃至10%のセグメントが、その波帯から抽出される。通常は、心音波のセグメントであって、例えば、S1、S2、S3、S4、雑音は、振幅変化がベースライン部分に比べて大きいピーク/谷に対応する。前記抽出するステップは更に、隣接するブロックを結合し、続いて、各々のセグメントのエッジをスムージングするように意図されることが可能である。
【0023】
セグメント化するステップの第2の実施形態は、エベログラム(evelogram)に基づいて心音信号をセグメント化するように意図されている。第2の実施形態に基づいて、そのセグメント化するステップは次のステップを有する。
− エベログラムに対して心音信号をフィルタリングするステップ。そのフィルタリングするステップは、ヒルベルト変換、準同型変換又は曲線フィッティング変換により実行されることが可能である。曲線フィッティング変換について説明する。心音信号波形において、複数の外れ値点、例えば、複数の極大値点は容易に検出されることが可能であり、故に、B-スプライン曲線、放物線曲線、ベジェ曲線である二次曲線が、その場合に、エベログラムを構築するようにそれらの極大値点を接続するように用いられることが可能である。
− 心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合、エベログラムからセグメントを抽出するステップ。その抽出するステップは更に、隣接するブロックを結合し、次いで、各々のセグメントのエッジをスムージングするように意図されることが可能である。
【0024】
図4は、セグメント化するステップの第1の実施形態及び第2の実施形態に従ったセグメント化された心音信号を示すグラフである。X座標は時間を表し、Y座標は振幅を表す。
【0025】
(3)各々のセグメントの13個の属性情報を特定するステップ
その属性情報には、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、各々のセグメントの強度等がある。各々のセグメントの種類は、S1、S2、S3、S4及び雑音であることが可能である。
【0026】
特定するステップ13は、各々のセグメントの波形、複数のセグメントの関係、又は心音信号のPCGとの心電図(以下ではECGという)の組み合わせに従って、各々のセグメントの属性情報を特定し、ECGの信号は心音信号と同期するように意図されることが可能である。特定するステップ13についての説明のために、次に4つの実施例を示す。
【0027】
特定化するステップについての第1の実施例は、複数のセグメントの関係に基づいている。この実施形態においては、特定化するステップは次のステップを有する。
− 統計的ヒストグラムを構成する複数のセグメントの複数のピーク点間の間隔を決定するステップであって、それらの間隔は異なる間隔範囲に分割され、その統計的ヒストグラムは、各々の間隔範囲の出現頻度を反映している、ステップ。
【0028】
図5は、セグメントの各々の間隔範囲の出現頻度を示す統計的ヒストグラムである。
− 統計的ヒストグラムにおけるS1セグメントとS2セグメントとの間の間隔範囲を決定するステップであって、間隔S1−S2の出現頻度が統計的ヒストグラムにおいて最も高い、ステップ。間隔S1−S2は、短い期間であって、例えば、10秒間安定していて、故に、その統計的ヒストグラムにおいて、間隔S1−S2は通常、最も頻度高く出現する。図5においては、2000乃至2500個のサンプルユニットにおける間隔(又は、8kHzのサンプリング速度において0.25乃至0.31秒)は6回現れ、それは最も高い出現頻度であり、間隔S1−S2として決定されることが可能である。図5においては、X座標は時間を表し、Y座標は振幅を表している。
− 統計的ヒストグラムにおけるS2セグメントとS1セグメントとの間の間隔範囲(以下では、間隔S2−S1という)を決定するステップであって、間隔S2−S1の出現頻度は間隔S1−S2の出現頻度より単に小さい、ステップ。同様に、間隔S2−S1も、短い時間期間においては安定であり、間隔S1−S2より長い。図5においては、5500−6000サンプルユニットにおける間隔(又は8kHzのサンプリング速度においては0.69乃至0.75秒)は5回現れ、それはS1−S2間隔の出現頻度より単に小さく、故に、間隔S2−S1として決定される。
− 間隔S1−S2及び間隔S2−S1に基づいて、S1セグメント及びS2セグメントを決定するステップ。S1セグメント及びS2セグメントは、S1―S2間隔及びS2−S1間隔に基づいて心音信号波を全て探索することにより特定される。例えば、何れかの2つの連続的なピーク間の間隔が図5に示されているようなS1−S2間隔の範囲内、例えば、2000乃至2500サンプルユニットの範囲内にある場合、前のピークに対応するセグメントはS1として決定され、次のピークはS2に対応する。
− S3セグメント、S4セグメント及び雑音の心音周期及び位置情報における決定されたS1及びS2に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− N1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピーク検出を実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0029】
特定するステップ13についての第2実施形態は各々の波形に基づいている。上記特定するステップは、次のステップを有することが可能である。
− S1セグメント及びS2セグメントに沿ってピークを検出することによりそれらのセグメントを決定するステップであって、S1セグメント及びS2セグメントは、エンベログラム(envelogram)における第1最大ピーク及び第2最大ピークに対応する、ステップ。エンベログラムは、上記セグメント化するステップ12の間に構成される(上記セグメント化するステップの第2実施形態)。
− 同じ心音周期において決定されたS1及びS2、並びにS3セグメント、S4セグメント及び雑音に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− 準同型フィルタリング及びピーク検出を実行することにより、S1及びS2の分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントの波形に従って各々の抽出されたセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0030】
上記特定するステップ13についての第2実施形態は、各々のセグメントの波形に基づいている。この実施形態においては、上記特定するステップ13は次のステップを有する。
− 少なくとも1つの心音信号の心音周期を検出するステップ。
− 隠れマルコフモデル(HMM)、ニューラルネットワーク又は線形/動的時間伸縮法により心音信号における各々のセグメントの種類を決定するステップ。セグメントの種類は、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音等であり得る。
− M1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピークを実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
【0031】
上記特定するステップ13についての第4実施形態は、ECG及び対応する同期化されたPCGの結合に基づいている。この実施形態においては、上記特定するステップ13は次のステップを有することが可能である。
− ECGを受信するステップであって、少なくとも1つの心音信号及びECGの信号は同期している、ステップ。
− ECGの重要点を検出するステップであって、それらの重要点は、Sオンセット、Sオフセット、Tオンセット、Tオフセットを有し、ECGのSオフセットはS1セグメントの開始を示し、Tオフセットは時間領域のS2セグメントの開始に対応している、ステップ。
− 各々のセグメントの種類を決定するように、PCGのセグメントに対してECGの重要点をマッピングするステップ。Sオンセット及びTオフセットは、ウェーブレット変換、隠れマルコフモデル等のような多くの方法により、WCG信号において検出されることが可能である。そしてECGとPCGとの間の関係に基づいて、S1及びS2の開始点が決定されることが可能である。図6は、ECGと対応する同期化されたPCGとの間の関係を示すグラフである。
− 同じ心音信号周期において決定されたS1及びS2、並びにS3セグメント、S4セグメント及び雑音の位置情報に基づいて、S3セグメント、S4セグメント及び雑音を決定するステップ。
− M1セグメント、T1セグメント、A2セグメント及びP2セグメントを特定するように、準同型フィルタリング及びピークを実行することにより、S1セグメント及びS2セグメントの分割を決定するステップ。
− 各々のセグメントの波形に従って各々の抽出されたセグメントについての持続時間、振幅、タイミング及び強度を決定するステップ。
【0032】
(4)各々のセグメントに対応する属性情報の注釈付けするステップ。
【0033】
注釈付けするステップ14は、特定された属性情報に従って、各々のセグメントにS1、S2、S3、S4又は雑音の種類の注釈付けするように意図されている。上記注釈付けするステップ14は更に、各々のセグメントに特定された属性情報に従って、振幅、持続時間、強度等を注釈付けするように意図されている。
【0034】
(5)心音信号について注釈付けされたPCGを出力するステップ。
【0035】
出力されたPCGは複数のセグメントを有し、各々のセグメントは、ひとが心音信号の課題を簡便に且つ正確に認識することができるように、対応する種類、振幅、持続時間、強度、タイミング等の注釈が付けられる。
【0036】
注釈付けされた心音図は、バー形状図の形式で表示されるようになっていて、バーの高さは各々のセグメントの平均振幅であり、バーの幅は各々のセグメントの持続時間を表す。
【0037】
図7は2つの注釈が付けられたPCG、即ち、ノイズとして扱われる再現性のないセグメントを示していて、それらのセグメントは“?”で表されている。図7においては、2つの注釈が付けられたPCGが、大動脈(S2)領域及び三尖弁(S1)領域の心音源からもたらされ、故に、S3セグメント及びS4セグメントは示すには小さ過ぎる。
【0038】
少なくとも1つの心音信号を処理する方法は更に、比較するステップ及び生成するステップ(図1には示していない)を有する。
【0039】
(6)比較するステップ
比較結果を得るように、2つの注釈付けされたPCGを比較して、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、複数の心音信号は異なる心音源のそれぞれからもたらされる。その比較結果は、互いと比較された何れかの2つの注釈付けされたPCGの類似性及び相違性を有する。
【0040】
図8は、複数の心音信号を検出する複数のセンサの配置の模式図である。その配置は5つの組み合わされたセンサを有し、全ての組み合わされたセンサはPCGセンサ及びECGセンサを有することが可能である。それらの5つの組み合わされたセンサは、心音信号を検出するように、大動脈領域81、肺領域82、エルブ(erb)点83、三尖弁領域83及び僧帽弁85のそれぞれに位置付けられている。
【0041】
注釈を付けるステップ14は更に、比較PCGを構成する互いに比較される複数のPCGの何れかの一における比較結果に注釈付けするように意図されている。
【0042】
出力するステップ15は比較PCGを出力するように意図されている。図9は、大動脈領域PCGと三尖弁PCGとについての比較PCGを示し、そのX座標は時間を表し、Y座標は振幅を表している。
【0043】
その比較するステップは、2つの注釈付けされたPCGの持続時間及び平均振幅を比較するように意図されている。例えば、一の注釈付けされたPCGは三尖弁(以下においては、PCG_Tと表されている)からのものであり、他の注釈付けされたPCGは大動脈(以下においては、PCG_Aと表されている)からのものである。PCG_Aにおいては、S2はより大きい振幅及びより長い持続時間を有し、故に、PCG_AのS2はより容易に特定され、従って、注釈付けするステップ14は、比較PCGにおけるS2セグメントについて“PCG_Aにおいてより広い及び高い”と注釈付けするように意図されている。一部の場合は、S2はPCG_Tにおいて検出されないが、S2はPCG_Aにおいて正確に特定されることが可能であり、従って、注釈付けするステップ14は、このS2セグメントについて“PCG_Aのみにおいて”を比較PCGにおいて注釈付けするように意図されている。比較PCGは、PCG_A又はPCG_Tに基づいて生成されることが可能である。
【0044】
比較PCGに基づく互いによる2つのPCGの補足は、単独のチャネルのPCGを用いることに比べてより正確な情報を提供することができる。更に、異常な心音、例えば、S3、S4及び雑音の存在は、比較PCGに基づいて都合良く決定されることが可能である。
【0045】
一部の再現性のある心音が、PCG_Aにおいてではなく、PCG_Tにおいて検出され、再現性のある心音のセグメントは“PCG_Tにみにおいて”と注釈付けされ、そのことは、それらの再現性のある心音がノイズでないことを示し、その心音源は三尖弁領域の近くであるが、大動脈領域から遠いところにあることを示している。更に、複数種類の雑音であって、例えば、収縮器駆出雑音、心室流出閉塞雑音、収縮器逆流雑音、心室中隔欠損雑音等が、S1セグメント及びS2セグメントとの間に現れる。そのような雑音はPCG_Tにおいては容易に聞き取れるが、PCG_Aにおいては区別可能でないため、比較PCGは心室中隔欠損をかなりよく反映する。このようにして、医師は、心臓の状態に対して迅速な且つ正確な結論に到達することができる。
(7)生成するステップ
− 心音信号から心周期サンプルを抽出することにより心音信号についての心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、図1に示しているようなステップ12乃至14により構成される各々の心拍についての注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。
【0046】
出力するステップ15はまた、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するように意図されている。
【0047】
心周期サンプルは、ECG信号と同期する心音信号のPCG及びECGを組み合わせることにより抽出される。
【0048】
生成するステップは次のようなステップを有する。
− ECG信号を受信するステップであって、ECG信号及び心音信号は同期している、ステップ。
− 心音信号のPCG及びECGの両方についての拍動の区切りとしてのRピーク及びP波の出現の周期性を利用することにより、心音信号から心周期サンプルを抽出するステップであって、R波はECG波形に沿った最も急な波形であり、RピークはR波のピーク点である。
【0049】
図10は、心音信号から心周期サンプルを抽出することを示す模式的なグラフである。2つの連続的なRピークのECG2つの領域、即ち、R−R間隔ECGは心臓の拍動であり、R−R間隔における領域は心周期サンプルと称されている。
− 各々の心周期サンプルについての心拍を演算するステップ。例えば、心周期が1秒である場合、その心周期に対応する心拍は60拍動/分である。
− 異なる心拍カテゴリに心周期サンプルを分類するステップであって、同じ心拍カテゴリにおける心周期は同じ心拍を有する、ステップ。
− 心拍について典型的な心周期PCGを生成することに同じ心拍の全ての心周期サンプルを加えることによりノイズを除くステップ。例えば、ノイズを除くように心周期サンプルの振幅値の整列されたビットを直接加える。心周期サンプルは、一心周期と他の心周期との間で再現性があり、強い類似性を示すS1、S2、S3、S4及び雑音(雑音が存在する場合には)を有する。上記除くステップは、心周期サンプルの品質には影響しない。他方、ノイズはガウス分布状であり、蓄積動作により妨げられる。心周期サンプルを加えることにより生成される新しいデータシーケンスは、それらの心周期サンプルに比べて大きいSNR(信号−ノイズ比)を有する典型的な心周期と称されている。心周期サンプルがたくさん蓄積されればされる程、より大きいSNRが得られる。例えば、20心周期サンプルが同じ心拍カテゴリについてまとめられた場合、SNRは約20dBに増加する。同じ心拍については、心周期サンプルの長さは殆ど同じであることに留意する必要がある。従って、心周期サンプルは、少数の切り捨て/拡大の有無に拘わらず、合算されることが可能である。
− 心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、各々の心拍カテゴリについて注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。図11は、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGについての心拍情報テーブルを示していて、Y軸は振幅を表し、X軸は時間を表している。
【0050】
心拍情報テーブルに基づいて、一部の雑音、例えば、この実施例における収縮期雑音(SM)はより少ない心拍、即ち、60bpm(60拍動/分)において観測され得、その場合、S1とS2との間の間隔はより長くなり、S1及びS2の強度はより小さくなる。より多い心拍、例えば、90bpm以上の心拍においては、収縮期雑音は、S1−S2間隔がより短くなり、それらS1及びS2の平均強度がより大きくなるために、S1及びS2において群れている。他の異常な心音、例えば、S3は、少ない心拍においては弱いが、心拍が増加するにつれて、強調される(例えば、120bpm)ようになり、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGにおいて検出され得る。これは、S3が血液量及び血流速度に関連付けられることによるものである。心拍が多くなればなる程、血流速度は速くなり、また、典型的な心周期PCG及び注釈付けされた心周期PCGにおいてより容易に検出可能なS3をもたらす。
【0051】
心拍情報テーブルが提示されるとき、ひとは更に、異常な心音を容易に特定することが可能になり、どのような心拍において患者の心臓状態が悪化するかを学習することが可能である。
【0052】
胸部の異なる聴診領域における心音が、複数の心音センサを用いて得られ、同じ方法で処理されることが可能である。心拍情報テーブルは、1つのみの聴診領域の場合に比べてひとに対してより多くの情報を与えることが可能である複数の聴診領域についての心音情報を有することが可能である。
【0053】
図12は、聴診器を示す模式図である。聴診器20は、検出装置21と、処理システム23と、処理システム23に検出装置21を接続するコネクタ22とを有する。
【0054】
検出装置21は1つ又はそれ以上のPCGセンサ211を有する。図12においては、3つのPCGセンサ211が心音信号を検出するために示されている。検出装置21はまた、1つ又はそれ以上のECGセンサを有し、図12においては、ECGセンサ212は示されていない。他の実施形態においては、検出装置21は複数のECGセンサを有することが可能であり、各々のECGセンサは、ECG信号及びPCG信号を同期して検出するように身体の同じ位置に触れるためのPCGセンサに結合されている。信号検出装置21は身体上を移動される又は身体上に吸着されることが可能である。ECGセンサ及びPCGセンサの各々の組み合わせは身体上を移動される又は身体上に吸着されることが可能である。
【0055】
コネクタ22は、ECG信号と、信号検出装置21の音センサから処理システム23へのECGセンサにより検出された心音信号とを送信するように、処理システム23に信号検出装置21を接続するように用いられる。
【0056】
処理システム23は、信号検出装置21からの心音信号及びECG信号を処理するように用いられる。処理システム23は、処理システム23が出力する処理結果をプリントする又は表示するように外部プリンタに接続されることが可能である。
【0057】
聴診器20は更に、信号検出装置21の音センサ211により検出される心音を聴くひとにより用いられるイヤホンを有することが可能である。
【0058】
図13は、図12の聴診器に従って少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムを示している。処理システム23は、検出装置21から少なくとも1つのECG信号及び少なくとも1つの心音信号を受信する受信ユニット231と、少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するセグメント化ユニット232と、各々のセグメントについての属性情報を特定する特定化ユニット233と、対応する属性情報を各々のセグメントに注釈付けする注釈付けユニット234と、それらのセグメントについて注釈付けされた心音図を出力する出力ユニット235とを有する。
【0059】
注釈付けされたPCGはより理解可能であり、故に、ひとは簡便に且つ正確に診断を行うことができる。
【0060】
(1)受信ユニット231は、少なくとも1つの心音信号を受信するように用いられる。
【0061】
少なくとも1つの心音信号は、1つの心音信号、又は異なる心音源からもたらされる複数の心音信号を有することが可能である。複数の心音信号は2つ又はそれ以上の心音信号であることが可能である。各々の心音信号は、例えば、僧帽弁領域、三尖弁領域、拝領域等の心音源に位置付けられた音センサにより検出される。
【0062】
心音信号は、異なる種類の信号セグメントであって、例えば、S1セグメント、S2セグメント、S3セグメント、S4セグメント、雑音セグメントに属す複数のセグメントを有することが可能である。S1は、僧帽弁及び三尖弁の閉鎖によりもたらされ、S2は、大動脈弁及び肺弁の閉鎖中に生じ、S3は、初期の拡張期中の高速心室充填によるものであり、S4は、拡張された心室に変位した心房収縮血液の結果として生じ、雑音は、乱流血流によりもたらされ得る。S1は、僧帽弁によりもたらされるM1及び三尖弁によりもたらされるT1を更に有し得、S2は、大動脈によりもたらされるA2及び肺弁によりもたらされるP2を更に有し得る。
【0063】
少なくとも1つの心音信号は生心音信号であり、図13にRSとして示されている。
【0064】
(2)セグメント化ユニット232は、少なくとも1つの心音信号を複数のセグメントにセグメント化するために用いられる。
【0065】
少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合、セグメント化するステップ12は、複数の心音信号を別個にセグメント化するように用いられる。
【0066】
セグメント化ユニット232は、セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合であって、その波域が所定の周波数領域にある場合に、心音信号の波域を選択し、その波域からセグメントを抽出するバンドパスフィルタにより心音信号をフィルタリングするように、若しくは、心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに対して心音信号をフィルタリングし、エンベログラムからセグメントを抽出するように、少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように用いられることが可能である。
【0067】
(3)特定化ユニット233は、各々のセグメントについての属性情報を特定するように用いられる。
【0068】
属性情報は、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、各々のセグメントの強度等を有する。各々のセグメントの種類はS1、S2、S3、S4及び雑音であり得る。
【0069】
特定化ユニット233は、各々のセグメントの波形、複数のセグメントの関係、心音信号のPCGとECGの結合に従って各々のセグメントの属性情報を特定するように用いられることが可能であり、ECG信号は心音信号と同期している。
【0070】
(4)注釈付けユニット234は、対応する属性情報を各々のセグメントに注釈付けするように用いられる。
【0071】
注釈付けユニット234は、特定された属性情報に従って、S1、S2、S3、S4又は雑音の種類を各々のセグメントに注釈付けするように用いられる。注釈付けユニット234は、特定された属性情報に従って、振幅、持続時間、強度等を各々のセグメントに注釈付けするように更に用いられる。
【0072】
(5)出力ユニット235は、少なくとも1つの心音信号について注釈付けされたPCGを出力するように用いられる。
【0073】
出力される心音図は複数のセグメントを有し、各々のセグメントは、対応する種類、振幅、持続時間、強度及びタイミング等が注釈付けされ、故に、ひとは、心音信号の課題を連続的に及び正確に認識することができる。注釈付けされたPCGが図13にAPとして示されている。
【0074】
注釈付けされた心音図は、バー形状の図の形で示されるようになっていて、バーの高さは各々のセグメントの平均振幅を表し、バーの幅は各々のセグメントの持続時間を表す。
【0075】
少なくとも1つの心音信号を処理する処理システム23は、比較ユニット及び生成ユニットを更に有する(図13には示されていない)。
【0076】
(6)比較ユニット
比較ユニットは、少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有する場合に、比較結果を得るように2つの注釈付けされたPCGを比較するように用いられ、複数の心音信号は、異なる心音源のそれぞれからもたらされる。比較結果は、互いと比較される何れかの2つの注釈付けされたPCGの類似性及び相違性を有する。
【0077】
注釈付けユニット234は、比較PCGを構成するように互いと比較されるPCGの何れか一において比較結果を注釈付けするように更に用いられる。
【0078】
出力ユニット235は更に、比較PCGを出力するように意図されている。
【0079】
比較ユニットは、2つの注釈付けされたPCGの平均振幅及び持続時間を比較するように用いられる。例えば、一の注釈付けPCGは三尖弁領域(以下ではPCG_Tと表されている)からのものであり、他の注釈付けされたPCGは大動脈領域(以下ではPCG_Aと表されている)からのものである。PCG_Aにおいては、S2はより大きい振幅及びより長い持続時間を有し、故に、PCG_AのS2はより容易に特定されることができ、従って、注釈付けユニット234は、比較PCGにおけるこのS2セグメントについて“PCG_Aにおいてより広い及びより高い”と注釈付けするように意図されている。一部の場合には、S2はPCG_Tにおいては検出されないが、S2は、PCG_Aにおいて正確に特定されることが可能であり、従って、注釈付けユニット234は、このS2セグメントについて“PCG_Aのみにおいて”を比較PCGにおいて注釈付けするように意図されている。
【0080】
比較PCGに基づいて、2つのPCGは、単一チャネルのPCGを用いる場合に比べてより正確な情報を提供するように、互いに補い合う。更に、異常心音、例えば、S3、S4及び雑音の存在が、比較PCGに基づいて簡便に決定されることが可能である。
【0081】
一部の再現性のある心音が、PCG_Aにおいてではなく、PCG_Tにおいて検出され、再現性のある心音のセグメントは“PCG_Tにみにおいて”と注釈付けされ、そのことは、それらの再現性のある心音がノイズでないことを示し、その心音源は三尖弁領域の近くであるが、大動脈領域から遠いところにあることを示している。更に、複数種類の雑音であって、例えば、収縮器駆出雑音、心室流出閉塞雑音、収縮器逆流雑音、心室中隔欠損雑音等が、S1セグメント及びS2セグメントとの間に現れる。そのような雑音はPCG_Tにおいては容易に聞き取れるが、PCG_Aにおいては区別可能でないため、比較PCGは心室中隔欠損をかなりよく反映する。このようにして、医師は、心臓の状態に対して迅速な且つ正確な結論に到達することができる。
【0082】
(7)生成ユニット
生成ユニットは、心音信号から心周期サンプルを抽出することにより心音信号についての心拍情報テーブルを生成するように用いられ、心拍情報テーブルは、異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGを有する。
【0083】
出力ユニット235は、心音信号についての心拍情報テーブルを出力するようにも意図されている。
【0084】
心周期サンプルは、ECG信号と同期している心音信号のPCG及びECGを結合することにより抽出される。
【0085】
生成ユニットは、次の方法により心拍情報テーブルを生成するように意図されることが可能である。
− ECG信号を受信するステップであって、ECG信号及び心音信号は同期している、ステップ。
− 心音信号のPCG及びECGの両方についての拍動の区切りとしてのRピーク及びP波の出現の周期性を利用することにより、心音信号から心周期サンプルを抽出するステップであって、R波はECG波形に沿った最も急な波形であり、RピークはR波のピーク点である、ステップ。
− 各々の心周期サンプルについての心拍を演算するステップ。例えば、心周期サンプルが1秒である場合、その心周期に対応する心拍は60拍動/分である。
− 心周期サンプルを異なる心拍カテゴリに分類するステップであって、同じ心拍カテゴリの心周期サンプルは同じ心拍を有する、ステップ。
− 心拍について典型的な心周期PCGを生成することに同じ心拍の全ての心周期サンプルを加えることによりノイズを除くステップ。例えば、ノイズを除くように心周期サンプルの振幅値の整列されたビットを直接加える。心周期サンプルは、一心周期と他の心周期との間で再現性があり、強い類似性を示すS1、S2、S3、S4及び雑音(雑音が存在する場合には)を有する。上記除くステップは、心周期サンプルの品質には影響しない。他方、ノイズはガウス分布状であり、蓄積動作により妨げられる。心周期サンプルを加えることにより生成される新しいデータシーケンスは、それらの心周期サンプルに比べて大きいSNR(信号−ノイズ比)を有する典型的な心周期と称されている。心周期サンプルがたくさん蓄積されればされる程、より大きいSNRが得られる。例えば、20心周期サンプルが同じ心拍カテゴリについてまとめられた場合、SNRは約20dBに増加する。同じ心拍については、心周期サンプルの長さは殆ど同じであることに留意する必要がある。従って、心周期サンプルは、少数の切り捨て/拡大の有無に拘わらず、合算されることが可能である。
− 心拍情報テーブルを生成するステップであって、心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリと、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期PCGと、各々の心拍カテゴリについて注釈付けされた心周期PCGとを有する、ステップ。
【0086】
そのような心拍情報テーブルが提示されるとき、ひとは、異常な心音を容易に特定することが可能であり、患者の心臓の状態が悪化する心拍において更に学習することが可能である。
【0087】
上記の実施形態は本発明を制限するのではなく、例示としてのものであり、当業者は、同時提出の特許請求の範囲から逸脱することなく代替の実施形態をデザインすることができることに留意する必要がある。用語“を有する”は、特許請求の範囲又は明細書において列挙されていない要素又はステップの存在を排除するものではない。要素の単数表現はそのような要素の複数の存在を排除するものではない。本発明は、複数の別個の要素を有するハードウェアユニットにより、及びプログラムされたコンピュータユニットにより実行されることが可能である。複数のユニットを列挙している装置請求項においては、それらのユニットの幾つかが、ハードウェア又はソフトウェアの同一のアイテムにより具現化されることが可能である。第1、第2、第3等の用語の使用は、何れかの順序付けを表すものではない。それらの用語は、名称として解釈されるべきものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの心音信号を処理する方法であって:
前記少なくとも1つの心音信号を受信するステップ;
前記心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ;
各々のセグメントについての属性情報を特定するステップ;
各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けするステップ;及び
前記少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力するステップ;
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記セグメント化するステップは、
セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合に、前記心音信号の波域を選択するためにバンドパスフィルタにより前記心音信号をフィルタリングして、前記波域からセグメントを抽出するステップであって、前記波域は所定の周波数領域である、ステップ、又は
前記心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに前記心音信号をフィルタリングして、前記エンベログラムからセグメントを抽出するステップ
により少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように意図されている、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記特定するステップは、各々のセグメントの波形に従った各々のセグメントの属性情報、複数のセグメントの関係、又は心電図の前記少なくとも1つの心音信号の心音図との組み合わせを特定するように意図されていて、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって;
前記少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、前記複数の心音信号が異なる複数の心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように、2つの注釈付けされた心音図を比較するステップ;
を更に有する方法であり、
前記注釈付けするステップは、比較心音図を生成するように、互いに比較される前記2つの注釈付けされた心音図の何れかの一に関する前記比較結果を注釈付けするように更に意図されていて;
前記出力するステップは、前記比較心音図を出力するように意図されている;
方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって;
前記心音信号から心周期サンプルを抽出することにより前記心音信号についての心拍情報テーブルを生成するステップであって、前記心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図、及び各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図を有する、ステップ;
を更に有する方法であり、
前記出力するステップは、前記心音信号についての前記心拍情報テーブルを出力するように意図されている;
方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記生成するステップは、前記少なくとも1つの心音信号の前記心音図と前記心電図を組み合わせることにより前記信州器サンプルを抽出するように意図され、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期している、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記生成するステップは:
各々の心周期についての心拍を演算し;
前記信州器サンプルを異なる心拍カテゴリに分類し;
前記心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図を生成するように同じ心拍カテゴリの全ての心周期サンプルを共に加えることによりノイズを除き;及び
前記心拍情報テーブルを生成する;
ように意図されている、方法であり、
同じ心拍カテゴリにおける複数の心周期サンプルは同じ心拍を有する;
方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記属性情報は、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、及び/又は各々のセグメントの強度を有する、方法。
【請求項9】
少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムであって:
前記少なくとも1つの心音信号を受信する受信ユニット;
前記心音信号を複数のセグメントにセグメント化するセグメント化ユニット;
各々のセグメントについての属性情報を特定する特定化ユニット;
各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けする注釈付けユニット;及び
前記少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力する出力ユニット;
を有する処理システム。
【請求項10】
請求項9に記載の処理システムであって、前記セグメント化ユニットは、
セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合に、前記心音信号の波域を選択するためにバンドパスフィルタにより前記心音信号をフィルタリングして、前記波域からセグメントを抽出し;
前記心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに前記心音信号をフィルタリングして、前記エンベログラムからセグメントを抽出する;
ことにより、少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように意図されている、処理システムであり、
前記波域は所定の周波数領域である;
処理システム。
【請求項11】
請求項9に記載の処理システムであって、前記特定化ユニットは、各々のセグメントの波形に従った各々のセグメントの属性情報、複数のセグメントの関係、又は心電図の前記少なくとも1つの心音信号の心音図との組み合わせを特定するように意図されていて、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期する、処理システム。
【請求項12】
請求項9に記載の処理システムであって;
前記少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、前記複数の心音信号が異なる複数の心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように、2つの注釈付けされた心音図を比較する比較ユニット;
を更に有する処理システムであり、
前記注釈付けユニットは、比較心音図を生成するように、互いに比較される前記2つの注釈付けされた心音図の何れかの一に関する前記比較結果を注釈付けするように更に意図されていて;
前記出力ユニットは、前記比較心音図を出力するように意図されている;
処理システム。
【請求項13】
請求項9に記載の処理システムであって;
前記心音信号から心周期サンプルを抽出することにより前記心音信号についての心拍情報テーブルを生成する生成ユニットであって、前記心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図、及び各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図を有する、生成ユニット;
を更に有する処理システムであり、
前記出力ユニットは、前記心音信号についての前記心拍情報テーブルを出力するように意図されている;
処理システム。
【請求項14】
請求項13に記載の処理システムであって、前記生成ユニットは:
前記少なくとも1つの心音信号の前記心音図と前記心電図を組み合わせることにより前記信州器サンプルを抽出し;
各々の心周期についての心拍を演算し;
前記信州器サンプルを異なる心拍カテゴリに分類し;
前記心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図を生成するように同じ心拍カテゴリの全ての心周期サンプルを共に加えることによりノイズを除き;
前記心拍情報テーブルを生成する;
ように意図されている処理システムであり、
前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期し;
同じ心拍カテゴリにおける複数の心周期サンプルは同じ心拍を有する;
処理システム。
【請求項15】
検出装置;及び
前記検出装置に請求項9乃至14の何れか一項に記載の処理システムを接続するコネクタ;
を有する聴診器。
【請求項1】
少なくとも1つの心音信号を処理する方法であって:
前記少なくとも1つの心音信号を受信するステップ;
前記心音信号を複数のセグメントにセグメント化するステップ;
各々のセグメントについての属性情報を特定するステップ;
各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けするステップ;及び
前記少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力するステップ;
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記セグメント化するステップは、
セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合に、前記心音信号の波域を選択するためにバンドパスフィルタにより前記心音信号をフィルタリングして、前記波域からセグメントを抽出するステップであって、前記波域は所定の周波数領域である、ステップ、又は
前記心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに前記心音信号をフィルタリングして、前記エンベログラムからセグメントを抽出するステップ
により少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように意図されている、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記特定するステップは、各々のセグメントの波形に従った各々のセグメントの属性情報、複数のセグメントの関係、又は心電図の前記少なくとも1つの心音信号の心音図との組み合わせを特定するように意図されていて、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって;
前記少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、前記複数の心音信号が異なる複数の心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように、2つの注釈付けされた心音図を比較するステップ;
を更に有する方法であり、
前記注釈付けするステップは、比較心音図を生成するように、互いに比較される前記2つの注釈付けされた心音図の何れかの一に関する前記比較結果を注釈付けするように更に意図されていて;
前記出力するステップは、前記比較心音図を出力するように意図されている;
方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって;
前記心音信号から心周期サンプルを抽出することにより前記心音信号についての心拍情報テーブルを生成するステップであって、前記心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図、及び各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図を有する、ステップ;
を更に有する方法であり、
前記出力するステップは、前記心音信号についての前記心拍情報テーブルを出力するように意図されている;
方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記生成するステップは、前記少なくとも1つの心音信号の前記心音図と前記心電図を組み合わせることにより前記信州器サンプルを抽出するように意図され、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期している、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記生成するステップは:
各々の心周期についての心拍を演算し;
前記信州器サンプルを異なる心拍カテゴリに分類し;
前記心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図を生成するように同じ心拍カテゴリの全ての心周期サンプルを共に加えることによりノイズを除き;及び
前記心拍情報テーブルを生成する;
ように意図されている、方法であり、
同じ心拍カテゴリにおける複数の心周期サンプルは同じ心拍を有する;
方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記属性情報は、各々のセグメントの種類、各々のセグメントの持続時間、各々のセグメントのタイミング、各々のセグメントの振幅、及び/又は各々のセグメントの強度を有する、方法。
【請求項9】
少なくとも1つの心音信号を処理する処理システムであって:
前記少なくとも1つの心音信号を受信する受信ユニット;
前記心音信号を複数のセグメントにセグメント化するセグメント化ユニット;
各々のセグメントについての属性情報を特定する特定化ユニット;
各々のセグメントに対応する属性情報を注釈付けする注釈付けユニット;及び
前記少なくとも1つの心音信号について注釈付けされた心音図を出力する出力ユニット;
を有する処理システム。
【請求項10】
請求項9に記載の処理システムであって、前記セグメント化ユニットは、
セグメントの平均振幅変化率が所定の変化率閾値より大きい場合に、前記心音信号の波域を選択するためにバンドパスフィルタにより前記心音信号をフィルタリングして、前記波域からセグメントを抽出し;
前記心音信号のピーク点の周囲の領域の平均振幅が所定の振幅閾値を上回る場合に、エンベログラムに前記心音信号をフィルタリングして、前記エンベログラムからセグメントを抽出する;
ことにより、少なくとも1つの心音信号をセグメント化するように意図されている、処理システムであり、
前記波域は所定の周波数領域である;
処理システム。
【請求項11】
請求項9に記載の処理システムであって、前記特定化ユニットは、各々のセグメントの波形に従った各々のセグメントの属性情報、複数のセグメントの関係、又は心電図の前記少なくとも1つの心音信号の心音図との組み合わせを特定するように意図されていて、前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期する、処理システム。
【請求項12】
請求項9に記載の処理システムであって;
前記少なくとも1つの心音信号が複数の心音信号を有し、前記複数の心音信号が異なる複数の心音源のそれぞれからもたらされる場合に、比較結果を得るように、2つの注釈付けされた心音図を比較する比較ユニット;
を更に有する処理システムであり、
前記注釈付けユニットは、比較心音図を生成するように、互いに比較される前記2つの注釈付けされた心音図の何れかの一に関する前記比較結果を注釈付けするように更に意図されていて;
前記出力ユニットは、前記比較心音図を出力するように意図されている;
処理システム。
【請求項13】
請求項9に記載の処理システムであって;
前記心音信号から心周期サンプルを抽出することにより前記心音信号についての心拍情報テーブルを生成する生成ユニットであって、前記心拍情報テーブルは異なる心拍カテゴリ、各々の心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図、及び各々の心拍についての注釈付けされた心周期心音図を有する、生成ユニット;
を更に有する処理システムであり、
前記出力ユニットは、前記心音信号についての前記心拍情報テーブルを出力するように意図されている;
処理システム。
【請求項14】
請求項13に記載の処理システムであって、前記生成ユニットは:
前記少なくとも1つの心音信号の前記心音図と前記心電図を組み合わせることにより前記信州器サンプルを抽出し;
各々の心周期についての心拍を演算し;
前記信州器サンプルを異なる心拍カテゴリに分類し;
前記心拍カテゴリについての典型的な心周期心音図を生成するように同じ心拍カテゴリの全ての心周期サンプルを共に加えることによりノイズを除き;
前記心拍情報テーブルを生成する;
ように意図されている処理システムであり、
前記心電図の信号は前記少なくとも1つの心音信号と同期し;
同じ心拍カテゴリにおける複数の心周期サンプルは同じ心拍を有する;
処理システム。
【請求項15】
検出装置;及び
前記検出装置に請求項9乃至14の何れか一項に記載の処理システムを接続するコネクタ;
を有する聴診器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−513858(P2012−513858A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544104(P2011−544104)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055896
【国際公開番号】WO2010/076740
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055896
【国際公開番号】WO2010/076740
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]