説明

必須脂肪酸化合物

本発明は、必須脂肪酸に結合したL−DOPA又はドパミンを含む化合物を提供する。化合物は下記一般式で表される。
1−Z−O−(CH2n−CH(R3)−(CH2m−O−Y−R2
式中、R1は脂肪酸に由来し、R2はL−DOPA又はドパミンに由来する。好ましい連結基は1,3−プロパンジオール構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は必須脂肪酸化合物及びその治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
レボドパ(L−DOPA:3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)は下記式1で表される。
【化1】

【0003】
ドパミン(DA)はL−DOPAの脱炭酸により形成され、下記式2で表される。
【化2】

【0004】
L−DOPAは、パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)の制御においてドパミンレベルを上昇させるプロドラッグとして使用されている。L−DOPAは、パーキンソン病患者に対して容易に使用できる侵襲性の低い唯一の治療法である。L−DOPAは血液脳関門を通過することができるが、ドパミン自体は血液脳関門を通過することができない。L−DOPAが中枢神経系(CNS)に入ると、芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素によってドパミンに代謝される。
【0005】
パーキンソン病の初期段階では、L−DOPAによってパーキンソン病患者の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が顕著に向上する。しかし、L−DOPA治療(特に5〜10年の継続的治療後)には重大な問題点がある。例えば、L−DOPAに対する運動応答(motor response)に変動が生じる。運動症状の変動(motor fluctuations)は、次回投薬前に生じる薬の「ウェアリングオフ(wearing off)現象」(薬の切れ際の症状の悪化(end−of−dose failure)ともいう)といった比較的単純なものから、運動機能の不規則で重篤な変動まで、多岐に渡る。そのため、患者は、重篤なパーキンソン病様症状(「オフ」状態)、正常に近い運動状態(「オン」状態)、そして著しい不随意運動(ジスキネジア)の状態を、急激且つ予測不可能に交互に示す場合がある(「オン−オフ(on−off)」現象)。運動症状の変動は、前シナプスに関する問題(L−DOPA吸収のばらつき、前シナプスにおける貯蔵容量の低下等)と関連している。それにより、薬剤の連続的な送達ではなく、ドパミン受容体の過度の脈動性刺激(pulsatile stimulation)が生じる。
【0006】
ドパミンへの転換は末梢組織においても生じ、そうすると有害作用が引き起こされ、CNSに到達するドパミンが減少する。そのため、通常は末梢DOPA脱炭酸酵素阻害剤(カルビドパ又はベンセラジド)並びに多くの場合にはカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤を共投与する。
【0007】
L−DOPAは末梢において、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)によってドパミンに、またカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)によって3−O−メチルドパに、急速に代謝される。L−DOPAの消失半減期(elimination half−life)は約90分である。一回の経口投与後に最終的に脳に到達するL−DOPAの量は、胃内容排出速度、腸管輸送における他のアミノ酸の競合の有無、及び特に末梢代謝の程度に応じて決まる。L−DOPAの投与後、L−DOPAの約5%しか血液脳関門を通過することができない。患者は、非常に高用量のL−DOPAを1日に数回摂取する必要があり、血漿中薬物濃度が著しく変動する。生物学的利用能の向上は、パーキンソン病患者にとって大きな利点となり、その利点としては例えば変動の低減があるが、それだけでなく用量に関連する末梢性副作用(悪心、嘔吐、低血圧等)の低減も得られる。血液脳関門を通過したL−DOPAは線条体ニューロンに吸収され、神経細胞内のAADCによってドパミン(DA)に転換され、そのドパミンがシナプス前から放出される。ドパミンは強力な酸化剤であるため、高用量のL−DOPAの投与によって酸化ストレスの悪化に起因するさらなる神経変性が生じる可能性が報告されている。したがって、非常にわずかなL−DOPAしか脳に到達しないとしても、線条体の末端部位数の減少によって貯蔵容量が低下しているパーキンソン病患者の脳においてL−DOPAが適切に貯蔵されない場合には、貯蔵されなかったL−DOPAがドパミンに転換された後に酸化ストレスを生じさせる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO98/16216
【特許文献2】WO00/44361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在販売されているL−DOPA製剤は不十分且つ不規則に吸収され、末梢部における分解が著しい。そのため、経口投与したL−DOPAの1%程度しか脳に到達することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、必須脂肪酸とL−DOPA又はドパミンとの化合物を提供する。本発明の化合物は、下記式3で表される。
【化3】

式中、
1は、望ましくは2以上のシス又はトランス二重結合を有する、C12〜C30脂肪酸、好ましくはC16〜C30脂肪酸に由来する、アシル基又は脂肪酸基であり、
3はH又はCH3であり、
nは0又は1であり、
mは0又は1であり、
Yは、単結合、又は各末端に−C(=O)−基もしくは−P(=O)−基を有する連結基(例えば、式−C(=O)−(CH2p−C(=O)−(式中、pは0〜4の整数である)で表される連結基)であり、
Zは、単結合、又は各末端に−C(=O)−基もしくは−P(=O)−基を有する連結基(例えば、式−C(=O)−(CH2p−C(=O)−(式中、pは0〜4の整数である)で表される連結基)であり、
2は、Yが単結合である場合には例えば下記式で表され、
【化4】

Yが連結基である場合には例えば下記式のいずれかで表される。
【化5】

【化6】

【0011】
本発明の化合物は、L−DOPAのカルボキシル基もしくはアミノ基又はドパミンのアミノ基を基にする脂肪酸誘導体であり、該誘導体は単一の明確に定義された化学物質として形成される。化合物が分割される部分(moieties)の数という視点から言えば、誘導体を形成するカップリングは、二連化合物を形成するような直接結合であってもよく、又は、三連化合物を形成するような、適当な連結基を介するものとしてもよい。連結基Y及びZは、リン酸エステル、コハク酸エステル又は二官能性酸に由来する基であってもよい。
【0012】
好ましい化合物は、1,3−プロパンジオール構造(n=1、m=1、R3=H)を有する。
【化7】

【0013】
リン酸、コハク酸又は二官能性酸に由来する連結基Z又はYが、R1及び/又はR2基と1,3−プロパンジオール残基との間に介在していてもよい(上記式3参照)。例えば、連結基Yが、ジオールとL−DOPA部分又はドパミン部分との間に介在していてもよい。
【0014】
任意の脂肪酸(好適には、望ましくは2以上のシス又はトランス炭素−炭素二重結合を有するC12〜C30又はC16〜C30脂肪酸)を使用することができる。脂肪酸としては、n−6又はn−3系の必須脂肪酸又はオレイン酸、コルンビン酸、パリナリン酸もしくは共役リノール酸が好ましい。
【0015】
図1に12種類の(n−6)及び(n−3)必須脂肪酸を示す。自然界ではシス配置のみを有する必須脂肪酸は、対応するオクタデカン酸、エイコサン酸又はドコサン酸の誘導体(例えば、z,z−オクタデカ−9,12−ジエン酸又はz,z,z,z,z,z−ドコサ−4,7,10,13,16,19−ヘキサン酸)として体系的に命名されるが、炭素数、不飽和中心の数、及び鎖末端から不飽和結合開始位置までの炭素数に基づく数値表現(例えばそれぞれ18:2n−6又は22:6n−3)が簡便である。また、頭文字(例えば、EPA)及び名称の短縮形(例えば、エイコサペンタエン酸)が慣用名として用いられる。CNS疾患の治療における親油性必須脂肪酸の使用は、例えば国際公開第WO98/16216号及び国際公開第WO00/44361号に開示されている。血液脳関門は実質的に脂質で構成されており、必須脂肪酸は血液脳関門を通過することができる。
【0016】
ガンマ−リノレン酸(GLA)又はジホモ−ガンマ−リノレン酸(DGLA)は、CNS疾患の治療において様々な望ましい作用を示す脂肪酸である。その他の脂肪酸(例えば、任意の必須脂肪酸(EFA)、特に、図1に示されるn−6及びn−3系の12種類の天然脂肪酸)も使用することができる。これらの12種の脂肪酸のうち、アラキドン酸、アドレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸n−3及びドコサヘキサエン酸が特に有用である。図1には示していないが、共役リノール酸(cLA)、オレイン酸及びコルンビン酸(CA)も、有用であると見込まれるその他の脂肪酸の例である。
【0017】
また、本発明は、パーキンソン病又はその他の運動障害(例えば、ハンチントン病及び特定の遺伝子における過剰な数のトリヌクレオチド反復に関連することが知られているその他の病気(脆弱性X症候群、フリートライヒ運動失調、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調I型、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、ハウリバー症候群(Haw River syndrome)、マシャド・ジョセフ病及び筋強直性ジストロフィー等))を治療するための、本発明の化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明は、前記薬剤の製造方法、並びに、上記疾患の症状を治療もしくは予防する、又は上記疾患の発症を遅延させる方法も提供する。
【0019】
本発明の化合物は脳内ドパミンレベルを有意に上昇させることが判明している。安定した脳内ドパミンレベルが得られ、末梢部におけるL−DOPAの分解が減少する。その結果、1日あたりの投与回数を少なくすることができ、オン−オフ及び/又は運動異常サイクルの原因になると考えられるピークと谷間(trough)を減少させることができる。
【0020】
本発明の化合物によれば、L−DOPA又はドパミンをより良好にCNSに取り込むことができる。
【0021】
本発明の化合物は安定しており、医薬の制御に関して有利である。本発明の化合物は、経口、非経口又は局所製剤として体内に容易に取り込まれ、身体によく許容される。化合物の各部分は単一の分子として同時に送達される。そのため、2以上の分子が別個の化合物として投与される場合に生じる制御上の問題並びにキラル中心が生じる可能性を回避することができる。いったん血液脳関門を通過すると、該化合物は容易に分解し、L−DOPA又はドパミンが放出される。また、必須脂肪酸も放出される。
【0022】
L−DOPA又はドパミンの親油性を高めることにより、脂質バリアを容易に通過する特性に加えて興味深い所定の特性が得られることが判明している。そのような特性としては、長い作用持続時間、副作用(特に胃腸副作用)の低減、肝初回通過代謝の回避、及び各種物質の部位特異的送達の可能性が挙げられる。
【0023】
様々な特定の脂肪酸が、L−DOPA又はドパミンの作用を増大させることができると考えられる。治療における特に有用な点として、ほとんどの場合には脂肪酸は無毒であり、重い副作用が生じるリスクを伴わずに安全に大量投与できることが挙げられる。
【0024】
各脂肪酸は、天然動物源、植物源又は微生物源から精製するか、当業者に公知の方法又は今後開発される方法によって化学的に合成することができる。
【0025】
誘導体化には1以上のエステル結合の形成が必要となる。そのようなエステル結合は、適当なエステル合成法、特に以下の方法で形成することができる。
(a)第三級有機塩基(例えばピリジン)の存在下又は非存在下、適当な不活性溶媒(例えばジクロロメタン)中において、アルコールと、酸塩化物、酸無水物又は活性化エステルとを0〜120℃の温度で反応させる。
(b)適当な酸性触媒(例えば4−トルエンスルホン酸)の存在下、適当な不活性溶媒(例えばトルエン)を使用し又は使用せずに、アルコールと、酸又は酸の短鎖又は中鎖アルキルエステルとを、反応で形成された水が除去される状態で(例えば真空下において)50〜180℃の温度で反応させる。
(c)適当な第三級有機塩基(例えば4−(N,N−ジメチルアミノピリジン))の存在下又は非存在下、不活性溶媒(例えばジクロロメタン)中において、アルコールと酸を縮合剤(例えば1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)の存在下で0〜50℃の温度で反応させる。
(d)加水分解酵素(例えばブタ肝臓エステラーゼ)の存在下、適当な溶媒(例えばヘキサン)を使用し又は使用せずに、アルコールと、酸、酸の短鎖又は中鎖アルキルエステル又は酸の活性化エステル(例えばビニルエステル)とを、反応で形成された水またはアルコールもしくはアルデヒド副生成物が除去される状態で(例えば真空下において)20〜80℃の温度で反応させる。
(e)適当な不活性溶媒(例えばジメチルホルムアミド)中、適当な塩基(例えば炭酸カリウム)を使用し又は使用せずに、酸と適当なアルコール誘導体(例えばヨウ化物)とを0〜180℃の温度で反応させる。
(f)触媒量のM+OY-アルコキシド(式中、Mはアルカリ又はアルカリ土類金属(例えばナトリウム)であり、Yは炭素数1〜4の分岐又は非分岐の飽和又は不飽和アルキル基である)の存在下、適当な溶媒(例えばトルエン)を使用し又は使用せずに、低級アルコール(HOY)が反応混合物から除去される状態で(例えば真空下において)、アルコールと、酸の短鎖又は中鎖アルキルエステルとを50〜180℃の温度で反応させる。
【0026】
ある種の生体活性物質の誘導体化ではアミド結合の形成が必要となる。そのようなアミド結合は、適当なアミド合成法、特に以下の方法で形成することができる。
(g)第三級有機塩基(例えばピリジン)の存在下又は非存在下、適当な不活性溶媒(例えばジクロロメタン)中において、アミンと、酸塩化物、酸無水物又は活性化エステルとを0〜120℃の温度で反応させる。
(h)適当な第三級有機塩基(例えば4−(N,N−ジメチルアミノピリジン))の存在下又は非存在下、不活性溶媒(例えばジクロロメタン)中において、アミンと酸を縮合剤(例えば1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)の存在下において0〜50℃の温度で反応させる。
(i)加水分解酵素(例えばブタ肝臓エステラーゼ)の存在下、適当な溶媒(例えばヘキサン)を用いるか又はそのような溶媒を用いずに、水またはアルコールもしくはアルデヒド副生成物が除去される状態で(例えば真空下において)、アミンと、酸、酸の短鎖又は中鎖アルキルエステル又は酸の活性化エステル(例えばビニルエステル)とを20〜80℃の温度で反応させる。
【0027】
一般的に言って、これらの化学反応は、結合させる化合物の性質及び結合が直接結合か間接結合かに応じて当然異なる。例えば、脂肪酸の対は、脂肪酸−脂肪アルコールエステル又は無水物として直接結合させ得る。また、ジオール連結基を用いる場合には、通常はより簡便である脂肪酸とのエステル結合の代替として、脂肪アルコールとのエーテル結合を用いることができる。いずれの場合にも、結合は公知の化学反応によって行うことができる。
【0028】
活性物質の対(1,3−プロパンジオール結合により結合)の例
L−DOPA+GLA
L−DOPA+DGLA
L−DOPA+EPA
L−DOPA+DHA
【0029】
医薬製剤
さらなる態様において、本発明は、第一の態様に係るドパミン又はL−DOPA化合物を含む医薬製剤を提供する。これらの医薬組成物の有効成分は、実質的に本発明に係るドパミン又はL−DOPA化合物のみを含んでいてもよい。
【0030】
化合物は、医薬、スキンケア製品又は食品製造分野の当業者に公知のあらゆる適当な方法によって製剤化することができる。化合物は、経口、経腸、局所、非経口(皮下、筋肉内又は静脈内)、経直腸、経膣又はその他の適当な経路により投与することができる。
【0031】
1,3−プロパンジオールジエステルは、リン脂質乳化剤又は特にガラクト脂質乳化剤を用いて容易に乳化させることができる。そのような乳化物は、経口、経腸及び静脈内経路による投与に特に有用である。
【0032】
また、抗菌性保存剤(例えばソルビン酸カリウム)及び香味料を経口投与用乳化物に添加してもよい。
【0033】
活性物質の投与量は、概して1mg/日〜200g/日、好ましくは10mg/日〜10g/日、より好ましくは10mg/日〜3g/日の範囲である。化合物は1日に1回又は2回のみ投与すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】必須脂肪酸及びその代謝を示す。
【図2】実施例5の実験1におけるオープンフィールド試験の立ち上がり行動の結果を示す。
【図3】実施例5の実験1における線条体中のドパミンレベルを示す。
【図4】実施例5の実験1における皮質中の神経伝達物質量を示す。
【図5】実施例5の実験2におけるオープンフィールド試験の行動結果を示す。
【図6】実施例5の実験2における線条体中のドパミンレベルを示す。
【図7】実施例5の実験2における皮質中の神経伝達物質量を示す。
【図8】実施例5の実験3におけるロータロッド行動結果を示す。
【図9】実施例5の実験3におけるオープンフィールド行動結果を示す。
【図10】実施例5の実験3における線条体中のドパミンレベルを示す。
【図11】実施例5の実験3における線条体中のDPOA/ドパミン比を示す。
【図12】実施例5の実験3における線条体中のL−DOPAレベルを示す。
【実施例】
【0035】
実施例1:GLA−ドパミン複合体(式5)の合成
【化8】

【0036】
試薬

【0037】
手順
式1で表されるGLA(5.56g、0.02mol、1.11当量)のアセトニトリル(60mL)溶液にトリエチルアミン(3.2mL)を窒素下で添加した後、式2で表されるクロロギ酸イソブチル(2.32mL、0.018mol、1.0当量)を添加した。クロロギ酸イソブチルの添加直後に白い沈殿物が生じた。得られた溶液を0℃で3時間撹拌し続けた。混合物をロータリーエバポレーターで蒸発乾固させ、得られた式3で表される混合無水物に、トリエチルアミン(2.78mL)含有無水DMF(50mL)中の塩酸ドパミン(3.2g)の溶液を添加した。得られた混合物を0℃で撹拌した後、18時間にわたって撹拌を続けて室温までゆっくりと昇温させた。反応混合物を水(400mL)で希釈し、ジエチルエーテル(250mL×2回)で抽出した。有機相を水(300mL×3回)及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて黄色がかったオイル(8.1g)を粗生成物として得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:2%メタノール−ジクロロメタン)で精製して式5で表される生成物(5.39g、収率:72.5%)を得た。
【0038】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.80(d,1H),6.74(s,1H),6.55(d,1H),5.73(t,1H),5.25〜5.45(m,6H),3.46(m,2H),2.80(m,4H),2.67(t,2H),2.17(m,2H),2.05(m,4H),1.61(m,2H),1.24〜1.38(m,8H),0.88(t,3H);MS(ESI):M++1:414.1
【0039】
実施例2:GLA−ドパミン複合体(式11)の合成
【化9】

【0040】
試薬

【0041】
手順
DCM(250mL)中の1,3−ジヒドロキシプロパン(96g、1.26mol)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(60.35g、0.29mol)及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(39.7g、0.32mol)の混合物に、式1で表されるZ,Z,Z−オクタデカ−6,9,12−トリエン酸(GLA、70g)の溶液を窒素下において室温で添加した。前記混合物を18時間撹拌しながら反応させた。粗反応混合物を濾過し、濾過物を希釈塩酸(1M)、水及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。真空濾過後、濾過物を濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶出溶媒:EtOAc/ヘキサン(10〜30%))で精製して式7で表されるGLA−モノエステルを黄色いオイルとして得た(68g、収率:80.1%)。
【0042】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:5.30〜5.45(m,6H),4.23(t,2H),3.67(m,2H),2.79(m,4H),2.50(br,1H),2.31(t,2H),2.08(m,4H),1.88(m,2H),1.65(m,2H),1.20〜1.40(m,8H),0.88(t,3H)
【化10】

【0043】
試薬

【0044】
手順
式7で表されるGLA−モノエステル(40g、0.119mol)及び無水コハク酸(11.9g、0.119mol)のTHF(580mL)溶液を、窒素雰囲気下で撹拌しながら0℃まで冷却した(塩/氷浴)。冷却した溶液にDBU(18.1g、0.119mol)のTHF(220mL)溶液を0℃で滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温に戻し、6時間撹拌した。THFを減圧下で除去し、残渣をジエチルエーテル(1L)に溶解し、分液漏斗へ移した。有機相をHCl(2M、1L)、水(1L)及び食塩水(1L)で洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾固させて粗生成物を得た。得られた粗生成物は、シリカプラグを通過させ、ヘキサンで溶離して非極性不純物を除去して精製した。不純物の除去(TLCにて確認)後、生成物を40%EtOAc/ヘキサンで溶離して式9で表される中間体を黄色いオイルとして得た(46.77g、収率:90%)。
【0045】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:5.30〜5.45(m,6H),4.10〜4.20(m,4H),2.79(m,4H),2.68(m,2H),2.62(m,2H),2.31(t,2H),2.09(m,4H),1.96(m,2H),1.62(m,2H),1.20〜1.40(m,8H),0.89(t,3H)
【化11】

【0046】
試薬

【0047】
手順
式9で表される脂肪酸中間体(12.0g、0.02752mol、1.11当量)のアセトニトリル(120mL)溶液に、トリエチルアミン(4.96mL、0.03567mol、1.44当量)を窒素下で添加した後、クロロギ酸イソブチル(3.21mL、0.02477mol、1.0当量)を添加した。クロロギ酸イソブチルの添加直後に白い沈殿物が生じた。得られた溶液を0℃で3時間撹拌し続けた。得られた混合物をロータリーエバポレーターを使用して蒸発乾固させ(未反応のクロロギ酸塩が蒸発したことを確認)、得られた式10で表される混合無水物に、塩酸ドパミン(4.92g、0.026mol、1.0当量)のトリエチルアミン(3.616mL)含有無水DMF(100mL)溶液を添加した。得られた混合物を0℃で撹拌した後、室温までゆっくりと昇温させた。混合物を室温で18時間撹拌し続けた。反応混合物を水(500mL)で希釈し、ジエチルエーテル(500mL)で抽出した。有機相を水(500mL×3回)及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて黄色がかったオイル(14.8g)を粗生成物として得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:1.2%メタノール−ジクロロメタン)で精製して式11で表される生成物を得た(7.25g、収率:50.6%)。
【0048】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.79(d,1H),6.70(s,1H),6.57(d,1H),5.95(t,1H),5.25〜5.45(m,6H),4.15(m,4H),3.46(m,2H),2.80(m,4H),2.67(m,4H),2.44(t,2H),2.32(t,2H),2.09(m,4H),1.96(m,2H),1.65(m,2H),1.24〜1.38(m,8H),0.88(t,3H);MS(APCI):M++1:572.3
【0049】
実施例3:GLA−レボドパ複合体(式18)の合成
【化12】

【0050】
試薬

【0051】
手順
式12で表されるL−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アラニン(レボドパ、15g)をジオキサン(150mL)に溶解し、1M NaOH(120mL)を添加してpHを約12に調整した。得られた溶液を0℃に冷却し、式13で表される二炭酸ジ−tert−ブチル(18.27g)を添加した。反応混合物を室温で4時間撹拌し続けた。次に、溶媒を蒸発させ、得られた水性の残渣を酢酸エチル(250mL)に添加した後、激しく撹拌しながらpHが約2となるまで1M HCl溶液を添加した。次に、有機相を分離し、水性部分を再度酢酸エチル(200mL)で抽出した。有機相を水(300mL×2回)及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて式14で表される中間体(20.1g)を得た。
【0052】
分析結果
NMR(DMSO−d6,500MHz):δH:6.92(d,1H),6.61(m,2H),6.47(m,1H),3.99(m,1H),2.82(dd,1H),2.65(dd,1H),1.34(s,9H)
【化13】

【0053】
試薬

【0054】
手順
式14で表されるBoc−レボドパ(20.1g)及びtert−ブチルジメチルクロロシラン(29.5g)のアセトニトリル(250mL)溶液を氷浴中で0℃まで冷却した。10分間撹拌した後、DBU(29.87g)を10分かけて添加した。得られた混合物を0℃で撹拌した後、室温で16時間撹拌した。溶媒のアセトニトリルを真空下で除去し、残渣を酢酸エチル(400mL)及び水(400mL)の間で抽出(partitioned)した。有機相を水(400mL×3回)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて粗生成物(41.2g)を得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:2%MeOH/DCM、その後5%MeOH/DCM)で精製して式15で表される中間体(23.0g)を得た。
【0055】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.75(d,1H),6.66(s,1H),6.62(d,1H),4.97(m,1H),4.57(m,1H),2.99(m,2H),1.42(s,9H),0.98(s,18H),0.18(s,12H)
【化14】

【0056】
試薬

【0057】
手順
実施例2で得られた式7で表される脂肪酸アルコール(14.7g)及び式15で表されるTBS−boc−レボドパ(23g)のDCM溶液にDCC(10.54g)及びDMAP(7.05g)を添加し、得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した。混合物中の固体を濾過によって取り除き、濾液を濃縮乾固した。残渣を酢酸エチル(300mL)及び1M HCl(300mL)の間で抽出した。有機相を水及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:1%MeOH/DCM)で精製して式16で表される中間体(19.7g)を得た。
【0058】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.73(d,1H),6.62(s,1H),6.55(d,1H),5.30〜5.45(m,6H),4.90(m,1H),4.50(m,1H),4.18(m,2H),4.12(m,2H),2.95(m,2H),2.81(m,4H),2.31(t,2H),2.09(m,4H),1.94(m,2H),1.64(m,2H),1.42(s,9H),1.20〜1.40(m,8H),0.98(s,9H),0.97(s,9H),0.89(t,3H),0.18(s,12H)
【化15】

【0059】
試薬

【0060】
手順
式16で表される保護中間体(19.7g)をTHF(200mL)に溶解した。得られた溶液を10分間かけて0℃まで冷却した。前記溶液にTBAF(THF中、1Mの溶液、46.7mL)を添加した。得られた混合物を0℃で30分間撹拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液(400mL)を添加し、酢酸エチル(500mL)で抽出した。有機相を水及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて式17で表される中間体(13.5g)を得た。
【0061】
式17で表されるR−NH−boc(13.5g)のDCM(250mL)溶液にTFA(60mL)を0℃で添加した。得られた混合物を0℃で撹拌した後、16時間かけて室温までゆっくりと昇温させた。溶媒及び過剰のTFAをロータリーエバポレーターを用いて減圧下で蒸発させた。次に、残渣を酢酸エチル(400mL)及び水(400mL)の間で抽出した。有機相を水及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:5%MeOH/DCM)で精製して式18で表される生成物(9.0g)を得た。
【0062】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.75(s,1H),6.70(d,1H),6.45(d,1H),5.30〜5.45(m,6H),4.18(m,3H),4.09(m,2H),3.15(m,1H),3.01(m,1H),2.78(m,4H),2.31(t,2H),2.05(m,4H),1.95(m,2H),1.63(m,2H),1.20〜1.40(m,8H),0.87(t,3H);MS(APCI):M++1:516.3
【0063】
実施例4:GLA−レボドパ複合体(式19)の合成
【化16】

【0064】
試薬

【0065】
手順
実施例2で得られた式9で表される脂肪酸誘導体(15g、0.0344mol)のアセトニトリル(150mL)溶液に、トリエチルアミン(6.2mL、0.0446mol)を窒素下で添加し、次いで式2で表されるクロロギ酸イソブチル(4.23g、0.031mol)を添加した。クロロギ酸イソブチルの添加直後に白い沈殿物が生じた。得られた溶液を0℃で3時間撹拌し続けた。混合物をロータリーエバポレーターを使用して蒸発乾固させた。レボドパ(6.41g、0.0325mol)をジオキサン(75mL)に溶解した後、NaOH(1M、約65mL)を添加してpH=12に調整した。得られた溶液を0℃まで冷却した後、脂肪酸及びクロロギ酸イソブチルから生成され式10で表される混合無水物に添加した。得られた混合物を0℃で撹拌した後、室温までゆっくりと昇温させ、18時間撹拌した。反応混合物をHCl(1M)で酸性化してpH=3とし、酢酸エチル(250mL)で抽出した。その後、水(250mL×2回)及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固させて粗生成物(13.8g)を得た。得られた粗生成物をカラム(溶離溶媒:1〜10%MeOH/DCM)で精製して式19で表される生成物を黄色みがかったオイルとして得た(5.0g、収率:26%)。
【0066】
分析結果
NMR(CDCl3,500MHz):δH:6.70(m,2H),6.64(s,1H),6.50(d,1H),5.30〜5.45(m,6H),4.73(m,1H),4.12(m,4H),2.96(m,2H),2.81(m,4H),2.58(m,2H),2.49(m,2H),2.31(t,2H),2.05(m,4H),1.94(m,2H),1.63(m,2H),1.20〜1.40(m,8H),0.88(t,3H);MS(APCI):M++1:616.6
【0067】
L−DOPAの作用は、パーキンソン病のげっ歯類モデル(例えば、レセルピン又はMPTP誘発モデル)を通常は使用して研究されている。レセルピンモデルは最初の動物モデルであり、抗パーキンソン病薬の作用を調べるために広く使用されてきた。抗高血圧薬であるレセルピンがパーキンソニズムを誘発するメカニズムは十分には理解されていないが、シナプス小胞内の神経伝達物質の枯渇(特にドパミンであるが、その他の神経伝達物質も含む)及び末端における神経伝達物質の再取り込み量の減少が関与する。レセルピンの利点としては、比較的即効性であり、行動に対して強い作用を示し、無毒であることが挙げられる。一方、MPTPは黒質線状体ニューロンを選択的に破壊するものの、非常に有毒なために扱いにくく、動物の行動に対する作用はずっと小さい。
【0068】
実施例5:実施例3及び4の複合体の作用
【0069】
5.1.実験1
動物:Charles River社(カナダ)からC57BL/6雄マウス(10〜12週齢、体重:25g)を56匹入手した。実験に先立ち、マウスを標準的な12時間明暗サイクル(午前6時〜午後6時点灯)下の動物飼育室(21±1℃)で1週間飼育して新しい環境に慣れさせた。飼料及び水は自由に摂取させた。
【0070】
薬剤:L−DOPA(Sigma社、カナダ)、DRUG1(実施例3の複合体)及びDRUG2(実施例4の複合体)を植物油に溶解した(1mg/mL)。調製した溶液を氷上に置き、4℃で一晩保管した。
【0071】
実験手順:薬剤溶液の調製、強制投与(gavage)及びオープンフィールドテストは全て同じ室内(動物飼育室)で行った。薬剤は2日間連続して投与した。薬剤投与1日目の前日の午後9時に飼料を動物ケージから取り除き、翌日の飼料摂取の際にマウスが空腹となっているようにした。1日目には、1)体重を測定する段階、2)強制投与する段階、3)ケージ内に通常の飼料を戻す段階からなる強制投与セッションを各マウスに対して行った。強制投与は各群毎(下記参照)に行い、時刻による影響をコントロールした。1日目の午後9時にケージから飼料を再度取り除いた。2日目には、上記強制投与セッションを再度行った。強制投与セッションの2時間後、各マウスに対して3分間のオープンフィールドセッションを行って歩行行動及び不安関連行動を記録した後、HPLCで神経伝達物質を生化学分析するためにマウスを殺した。用いた実験群は下記の通りである。
【0072】
薬剤の種類及び投与量に応じて7つの小群にマウスを分けた。1:対照、2:L−DOPA(10mg/kg)、3:L−DOPA(100mg/kg)、4:DRUG1(10mg/kg)、5:DRUG1(100mg/kg)、6:DRUG2(10mg/kg)、7:DRUG2(100mg/kg)。薬剤は柔軟な栄養チューブ(5FR 15”、MED−RX社(カナダ))を用いて強制投与した。
【0073】
行動:オープンフィールド(Hall、1934年)により、標準的な動物室照明下での自発的歩行行動及び不安関連行動を測定した。マウスは標準的な照明(動物飼育室照明)に慣れているため、この照明下では不安関連行動よりも歩行活動が測定される可能性が高い。標準的な照明下のオープンフィールドにマウスを3分間おき、ライン横断(line crossing)(移動距離)、立ち上がり行動(探索的行動)及び毛繕い(転位反応(displacement response))を手動で測定した。
【0074】
生化学分析:オープンフィールド試験の直後にマウスを手術室に移し、頸椎脱臼によって殺した。線条体及びその他の脳部位を切り取り、HPLC分析を行うためにバッファ(H2O:250mL、L−アスコルビン酸:2.2mg、70%HClO4:2.33mL、EDTA:25mg)を入れたエッペンドルフ型チューブに保存した。試料に対して25分間遠心分離(11,000rpm、4℃)を行った。その後、HPLC装置を使用してドパミン、DOPAC及びその他の神経伝達物質を分析した。ここではドパミン及びDOPACの分析結果のみ報告する。
【0075】
統計:全ての測定結果(神経伝達物質及び行動)に対して要因を薬剤(L−DOPA、DRUG1及びDRUG2)とした一元配置分散分析(ANOVA)を行って薬剤作用を分析した。主効果が有意である場合(p<0.05)、ボンフェローニ事後試験(Bonferroni post−hoc test)を行って全ての群を対照条件と比較した。
【0076】
5.2.実験2
動物:Charles River社(カナダ)からC57BL/6雄マウス(10〜12週齢、体重:25g)を40匹入手した。実験に先立ち、マウスを標準的な12時間明暗サイクル(午前6時〜午後6時点灯)下の動物飼育室(21±1℃)で1週間飼育して新しい環境に慣れさせた。飼料及び水は自由に摂取させた。
【0077】
薬剤:実施例5.1.に記載の通りである。実験手順は全て実施例5.1.の手順と同じとした。用いた実験群は下記の通りである。1:対照、2:L−DOPA(100mg/kg)、3:DRUG1(100mg/kg)、4:DRUG2(100mg/kg)。
【0078】
統計:全ての測定結果(神経伝達物質及び行動)に対して要因を薬剤(L−DOPA、DRUG1及びDRUG2)とした一元配置分散分析(ANOVA)により薬剤作用を分析した。主効果が有意である場合(p<0.05)、ボンフェローニ事後試験を行って処置群を対照群と比較した。
【0079】
5.3.実験3
動物:Charles River社(カナダ)からC57BL/6雄マウス(10〜12週齢、体重:25g)を42匹入手した。実験に先立ち、マウスを12時間明暗サイクル(午前6時〜午後6時点灯)下の動物飼育室(21±1℃)で1週間飼育して新しい環境に慣れさせた。飼料及び水は自由に摂取させた。
【0080】
薬剤:L−DOPA及びDRUG2(実施例5.1.参照)。レセルピン(Sigma社、カナダ)を、1%酢酸の滅菌ddH2O溶液(Visanji等、2006年)に溶解した。全ての薬剤は実施例5.1.と同様に調製した。
【0081】
実験手順:薬剤を2日間連続して投与した。薬剤投与1日目の前日の午後9時に飼料を動物ケージから取り除き、翌日の飼料摂取の際にマウスが空腹となっているようにした。1日目には、1)体重を測定する段階、2)強制投与する段階、3)ケージ内に通常の飼料を戻す段階からなる強制投与処置を各マウスに対して行った。強制投与は各群毎に行い、時刻による影響をコントロールした。1日目の強制投与直後にレセルピン(1mg/kg)を腹腔内(i.p.)投与した。1日目の午後9時にケージから飼料を再度取り除いた。2日目には、上記強制投与セッションを再度行った。強制投与セッションから2時間後及びレセルピン投与から24時間後、各マウスに対してロータロッドセッションを行い、続いてオープンフィールドセッションを行った。オープンフィールドの手順は上述したものと同様である。ロータロッド(Rozas及びLabandeira、1997年)は歩行、運動協応、平衡性及び耐久力を測定する試験であり、全体的な運動能力を測定する。DRUG2により、能力がベースラインを上回る増進を示すと予測されたが、事前訓練を行ったとするとDRUG2による能力の増進が測定不可能になり得ると考えられたため、実験対象のマウスに対して事前訓練は行わなかった。加速回転させた棒の上にマウスを載せ、マウスが落ちるまでの時間とその際の回転速度を自動センサにより記録した。連続して2回行ったロータロッド試験の平均移動距離(m)を算出した。各ロータロッド試験の間にはマウスを1分間休ませた。
【0082】
その他の全ての手順は上記実験と同じとした。
マウスを処置の種類に応じて6つの小群に分けた。1:対照、2:レセルピン(1mg/kg)、3:L−DOPA(100mg/kg)、4:DRUG2(100mg/kg)、5:L−DOPA+レセルピン(各100mg/kg)、6:DRUG2+レセルピン(各100mg/kg)。
【0083】
統計:全ての測定結果(神経伝達物質及び行動)に対して要因をレセルピン(RES)及び薬剤(DRUG)とした二元配置分散分析(ANOVA)を行って薬剤作用を分析した。主効果が有意である場合(p<0.05)、ボンフェローニ事後試験を行った。
【0084】
結果
【0085】
実験1
行動:薬剤は、オープンフィールドのライン横断又は毛繕いに対する作用は示さなかった(データは図示せず)。薬剤は立ち上がり行動に対して作用を示した(DRUG:F(df 6,50)=2.332、p<0.05)(図2)。事後分析から、DRUG2(100mg/kg)によって立ち上がり行動回数が対照及びL−DOPA(10mg/kg)と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.05)。
【0086】
線条体中の神経伝達物質:薬剤はドパミンに対する主効果を示した(DRUG:F(df 1,60)=7.90、p<0.05)。事後分析から、DRUG1(100mg/kg)及びDRUG2(100mg/kg)によってドパミンが対照と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.05)(図3)。DOPACに対する作用はみられなかった(データは図示せず)。
【0087】
皮質中の神経伝達物質:薬剤はドパミンに対する主効果を示した(DRUG:F(df 1,63)=11.33、p<0.05)。事後分析から、DRUG2(100mg/kg)によってドパミンが対照と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.05)(図3上)。DRUG2はDOPACに対しても有意な主効果を示した(DRUG:F(df 1,63)=8.52、p<0.05)。事後分析から、高用量のDRUG2によってDOPACが対照と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.05)(図4下)。
【0088】
5.2.実験2
行動:薬剤はライン横断に対する有意な作用を示した(DRUG:F(df 3,18)=4.510、p<0.05)。事後分析から、DRUG2によってライン横断が対照と比較して有意に増大したことが明らかになった(*p<0.05)(図5上)。DRUG2は立ち上がり行動に対する作用も示した(DRUG:F(df 3,18)=3.261、p<0.05)。事後分析から、DRUG2により、立ち上がり行動回数が対照と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.05)(図5下)。毛繕いに対する作用はみられなかった(データの図示なし)。
【0089】
線条体中の神経伝達物質:薬剤はドパミンに対する有意な作用を示した(DRUG:F(df 3,31)=4.611、p<0.01)(図6上)。事後分析から、DRUG2によってドパミンが対照と比較して有意に増加したことが明らかになった(*p<0.01)。DRUG2はDOPACに対して有意な作用を示した(DRUG:F(df 3,32)=3.485、p<0.05)(図6下)。DRUG2によってDOPACが対照と比較して有意に増加した(*p<0.05)。
【0090】
皮質中の神経伝達物質:皮質中のドパミン又はDOPACに対する有意な作用はみられなかったが、ドパミン及びNEに関する明確な傾向がみられた(図7)。
【0091】
5.3.実験3
行動(ロータロッド):図8に結果を示す。二元配置分散分析から、レセルピン(RES:F(df 1,33)=16.75,p<0.001)及び薬剤(DRUG:F(df 2,33)=6.248,p<0.01)の有意な主効果が明らかとなった。事後分析から以下の作用が明らかになった。1)レセルピンによってロータロッド能力が対照と比較して有意に低下した(*p<0.05)。2)L−DOPAの併用によってレセルピン誘発によるロータロッド能力の低下が軽減されることはなかった。3)DRUG2によってロータロッド能力が対照と比較して有意に向上し(**p<0.01)、DRUG2の併用によってレセルピン誘発による能力低下が改善された(#P<0.05)。
【0092】
行動(オープンフィールド):図9に結果を示す。歩行行動(ライン横断)に対し、レセルピンは強い主効果を示したが(RES:F(df 1,34)=329.7、p<0.0001)、薬剤は有意な主効果を示さなかった(図9上)。レセルピンによってライン横断が対照と比較して著しく減少した(***p<0.001)。L−DOPA又はDRUG2によってライン横断が対照と比較して増加することはなかった。L−DOPAの併用によってレセルピン処置マウスにおけるライン横断低下が軽減されることはなかったが、DRUG2の併用によってレセルピン処置マウスにおけるライン横断低下が軽減された(#p<0.05)。同様の結果が立ち上がり行動においても確認された(図9中)。レセルピンは立ち上がり行動に対して強い主効果を示したが(RES:F(df 1,33)=119.8、p<0.0001)、DRUGは主効果を示さなかった。レセルピンによって立ち上がり行動回数が減少したが(***p<0.001)、DRUG2の併用によってレセルピン誘発による減少傾向が有意に改善され(#p<0.05)、L−DOPAの併用においてはそのような改善はみられなかった。レセルピンは毛繕いに対して主効果を示さなかったが、DRUGは作用を示した(DRUG:F(df 2,32)=9、p<0.001)(図9下)。事後分析から、レセルピンが毛繕い行動に対して有意な影響を与えることはなく、L−DOPA又はDRUG2については、毛繕い行動に与える影響は対照と比較して有意なものではないものの増加傾向は存在することが明らかになった。レセルピン単独処置マウスと比較して、レセルピン及びL−DOPA併用処置マウスにおける毛繕い行動の変化はなかったが、レセルピン及びDRUG2併用処置マウスにおいてはDRUG2による毛繕いの有意な増加がみられた(##p<0.01)。
【0093】
線条体中の神経伝達物質:レセルピンは線条体中のドパミンに対して有意な主効果を示し(RES:F(df 1,34)=24.39、p<0.0001)、DRUGも有意な主効果を示した(DRUG:F(df 2,33)=3.705、p<0.05)。事後分析から、レセルピンによって線条体中のドパミンが対照と比較して大きく減少したことが明らかになった(***p<0.001)(図10)。線条体中のドパミンに対するL−DOPAの作用は対照と比較して有意なものではなかったが、DRUG2によって線条体中のドパミンが対照と比較して有意に増加した(*p<0.05)。レセルピン及びL−DOPA併用処置マウスでは、レセルピンによるドパミンの減少がL−DOPAによって軽減されることはなかったが、レセルピン及びDRUG2併用処置マウスでは、DRUG2によってレセルピン単独処置マウスと比較してドパミンがわずかに増加した(p=0.07及びp<0.05、スチューデントのt−検定)。図8(ロータロッド行動)と図10(線条体中のドパミン)を比較すると、ロータロッド行動と線条体中のドパミンには強い相関関係がみられ、ロータロッド行動に対するDRUG2の作用は線条体中のドパミンによって媒介されていることを示唆している。
【0094】
線条体中のDOPAC/ドパミン比:レセルピンは、線条体中のDOPAC/ドパミン比に対して有意な主効果を示した(RES:F(df1,31)=76,25、p<0.0001)。事後分析から、レセルピン(***p<0.001)により、線条体中のドパミンが対照と比較して非常に増加し、またその作用はL−DOPAにより軽減されないことが明らかになった(図11)。レセルピンの作用はDRUG2によって若干軽減された。また、DRUG2とレセルピンを併用することにより、レセルピン単独処置の場合と比較してDOPAC/ドパミン比が有意に低下することが示された(#p<0.05)。
【0095】
線条体中のL−DOPA濃度:レセルピンの主効果がみられたが(RES:F(df 2,32)=5.191、p<0.05)、DRUGの作用はみられなかった。レセルピンによってL−DOPA濃度が有意に増加し(*p<0.05)、L−DOPA濃度の増加はL−DOPA又はDRUG2の併用によって軽減された(##p<0.01)(図12)。
【0096】
L−DOPAを脂肪酸と結合させることによって線条体末端におけるL−DOPAの到達及び貯蔵が向上しており、それに伴いドパミン(及び代謝産物)に対するL−DOPAの効果並びに運動行動(実施例5のオープンフィールド実験1及び2)が向上している。このメカニズムにより、通常のL−DOPAではなく、本発明に係るL−DOPA複合体を用いることによって線条体におけるレセルピン誘発によるドパミンの枯渇並びにロータロッド及びオープンフィールドにおける運動障害をより容易に防ぐことができる。
【0097】
ライン横断及び毛繕いに関してはDRUG1及びDRUG2による有意な変化はなかったが、DRUG2(100mg/kg)によって立ち上がり行動回数が対照と比較して有意に増加した。L−DOPAやDRUG1は立ち上がり行動回数に対する作用は示さなかった。立ち上がり行動は線条体中のドパミンと相関があることが報告されているため、DRUG2の立ち上がり行動に対する作用と線条体中のドパミンに対する作用とは関連していることが示唆される。実際、高用量のDRUG2の投与によって線条体中及び皮質中のドパミンは対照と比較して有意に増加したが、その他の薬剤は有意な変化を生じさせなかった。また、高用量の通常型L−DOPAの投与によっても皮質中のDOPACは増加したが、上記結果を踏まえると、(DRUG1ではなく)DRUG2は通常型L−DOPAよりも神経伝達物質レベルの変化に対してより効果的であることが示唆される。
【0098】
実験1で得られた知見に基づき、高用量のDRUG1及びDRUG2を繰り返し実験(実験2)において再度比較した。結果は行動レベル及び神経伝達物質レベルの両方で確認された。パターンは非常に明確だった。DRUG2のみがオープンフィールドのライン横断及び立ち上がり行動の増加を生じさせ、線条体中のドパミン及びDOPACを対照と比較して増加させた。有意ではなかったが、DRUG2処置後には皮質中のドパミン及びNEが対照と比較して増加する傾向にあり、その一方で、通常型L−DOPA及びDRUG1はいかなる作用も示さなかった。これらの結果はやはり、(DRUG1ではなく)DRUG2は通常型L−DOPAよりも神経伝達物質レベル及び行動をより効果的に変化させることを示唆している。
【0099】
実験3において、DRUG2はL−DOPAよりも強くロータロッド能力を向上させた(対照との比較)。ロータロッド能力における対照マウスとDRUG2処置マウスとの差は顕著だった。対照と比較して、オープンフィールドの移動距離及び立ち上がり行動に対するL−DOPA又はDRUG2の明確な作用はみられなかったが、DRUG2によって毛繕いが増加した(増加傾向があった)。そのような増加は実験1及び2においてはみられなかったものであり、この差異は現時点でのデータ解析では説明不可能である。毛繕い行動に対する線条体中のドパミンの作用は複雑で、どのドパミン受容体が刺激されるかに応じて変化し得る。レセルピン(1mg/kg)は、投与から24時間後に行動に対する強力な作用を示した。ロータロッド能力は有意に低下し、オープンフィールドのライン横断及び立ち上がり行動も有意に減少した。レセルピンは毛繕い行動に対する作用は示さなかった。レセルピンの作用のほとんどはL−DOPAによって軽減されることはなかったが、DRUG2はロータロッド能力並びにオープンフィールドのライン横断及び立ち上がり行動に対するレセルピンの作用を有意に低下させた。レセルピン及びDRUG2処置マウスは、レセルピン単独処置マウスだけではなく、レセルピン及びL−DOPA処置マウスと比較しても、ケージ内でより活動的だったことは言及されるべきである。これらのレセルピン及びDRUG2処置マウスは、オープンフィールドにおいては必ずしもケージ内と同様の運動性増大を示さなかった。この知見は、オープンフィールドだけではなく、ケージ内でも活動測定を行うことによって薬剤間の差異をよりよく把握することができることを示唆している。
【0100】
実験1及び2によると、実験2におけるDRUG2は線条体中のドパミンに対する強力な作用を示したが、L−DOPAは線条体中のドパミンに対する作用を示さなかった。予想通り、レセルピンによって線条体中のドパミンが有意に減少し、DOPAC/ドパミン比が上昇した。レセルピンのドパミンに対する作用はDRUG2の併用によってわずかに軽減されたが、L−DOPAは作用を示さなかった。レセルピンのDOPAC/ドパミン比に対する作用はDRUG2の併用によって有意に軽減されたが、L−DOPAはレセルピンに対して作用を示さなかった。レセルピン誘発によるドパミンの枯渇に対するDRUG2の緩やかな作用は、行動測定におけるDRUG2のレセルピンに対する強い作用とは対照的である。特に線条体中のドパミンが閾値(Dauer及びPrzedborski、2003年)より低くなった場合には運動行動は線条体中のドパミンに大きく依存するため、レセルピン処置後のDRUG2による線条体中ドパミンのごくわずかな増加が行動に対して比較的大きな影響をもたらすのかもしれない。このことが、レセルピンに対するDRUG2の作用に関して、線条体中のドパミンと行動の結果に差異がみられる理由と考えられる。
【0101】
図12(線条体中のL−DOPAレベル)により、薬剤の作用に関する興味深い手がかりが得られる。これら薬剤の正確なメカニズムが知られていないために、脳内L−DOPAレベルについて予測をすることは困難である。仮説としては、DRUG2によって脳へのL−DOPA到達が増加し、ニューロンへの吸収量が増加することが考えられる。吸収量の増加は、脳内L−DOPA量の増加を示唆するものである。その後、L−DOPAはドパミンに転換される。投与したL−DOPAの全てが測定時にはドパミンに転換されている可能性もあるため、ドパミンへの転換率によっては、DRUG2処置後に総L−DOPAレベルに差がみられない可能性もある。そのような場合、DRUG2処置後のドパミンレベルの上昇は確認できても、L−DOPAレベルの上昇は確認できないであろう。実際、その通りであった。レセルピン処置後のL−DOPAレベルの上昇は説明が困難である。この実験結果には非常にばらつきがあり、信頼性が低い可能性がある。レセルピンは小胞モノアミン輸送体(VMAT)を阻害するため、小胞中にはより少量のドパミンしか貯蔵されず、モノアミンオキシダーゼによって代謝される。したがって、ドパミンの減少は予想されるが、L−DOPAの増加は予想し得ない。レセルピンはチロシン水酸化酵素を阻害しないため、L−DOPAレベルの上昇はL−DOPAのドパミンへの転換の減少によって説明することはできない。L−DOPA及びDRUG2の両方がレセルピンのこの作用を弱めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式3で表される化合物。
【化1】

式中、R1は、望ましくは2以上のシス又はトランス二重結合を有する、C12〜C30脂肪酸、好ましくはC16〜C30脂肪酸に由来する、アシル基又は脂肪酸基であり、
3はH又はCH3であり、
nは0又は1であり、
mは0又は1であり、
Yは、単結合であるか、又は各末端に−C(=O)−基もしくは−P(=O)−基を有する連結基であり、
Zは、単結合であるか、又は各末端に−C(=O)−基もしくは−P(=O)−基を有する連結基であり、
2は下記式
【化2】

又は
【化3】

もしくは
【化4】

のいずれかで表される。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−520274(P2012−520274A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553508(P2011−553508)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000430
【国際公開番号】WO2010/103273
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(501298373)アマリン ニューロサイエンス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】