説明

忌避剤及び忌避装置

【課題】忌避効果が長期間に亘って持続する忌避剤、及び、忌避効果が長期間に亘って持続したり所望のタイミングで得られたりする忌避装置を提供する。
【解決手段】忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合されて成る構成の忌避剤とする。忌避装置は、この忌避剤Aと、忌避剤Aを貯蔵する貯蔵部101と、忌避剤Aを所望の温度になるように調節する温度調節手段102又は忌避剤Aに振動を与える振動手段103とを備えて成る。忌避剤は、好ましくは、液体が水素結合を形成する分子からなる液体であり、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、カビ、シロアリ、ダニなどの有害生物や動物の駆除に対して優れた効果を発揮する忌避剤及び忌避装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、細菌、カビ、シロアリ、ダニなどの有害生物やネズミや鳥などの動物を駆除するために揮発性の忌避成分を周囲に揮散して有害生物を退治する忌避剤が知られている。このような忌避剤のうち、液体の忌避剤としては、揮発性香料などの忌避成分を水や有機溶媒等の溶剤に分散・溶解したものが知られており、液体の忌避剤を容器に充填して忌避成分を漂わせたり、有害生物を駆除したい場所に忌避剤を散布したりして有害生物を駆除している。また、虫除けなど、人の皮膚に塗布して用いるものもある。しかし、液体の忌避剤は、使用を開始した直後に忌避成分が多く発散してしまい、忌避の効果を持続して得ることが難しかった。
【0003】
特許文献1には、忌避効果などを持続させるために、揮発性物質を樹脂成分や界面活性剤とともに水に分散・溶解させて高粘度の液体組成物にし、揮発性物質を徐放出させる発明が開示されている。
【0004】
しかし、このように高粘度にした液体組成物であっても、使用開始直後の忌避成分の揮散は防止することができず、そのため長期に亘って忌避効果を十分に持続させることはできなかった。また、上記発明では、液体組成物を得るために高粘度の溶液を調製しなければならず、忌避剤を簡単に製造することができなかった。また、忌避成分を溶解させるためには界面活性剤を用いなければならず、環境に負荷がかかるおそれがあった。また、界面活性剤や増粘剤を使用すると、人の皮膚などに用いた場合、アレルギー反応を起すなど人体に危害を及ぼすおそれがあった。また、有害生物が発生する場所や時期などに応じて、得たいタイミングで忌避成分を発生させたいという要求もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−158457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、忌避効果が長期間に亘って持続する忌避剤、及び、忌避効果が長期間に亘って持続したり所望のタイミングで得られたりする忌避装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合されて成ることを特徴とする忌避剤である。
【0008】
この発明によれば、忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在することにより、長期に亘って忌避成分を液体中に保持することができ、また液体が大気に晒されるとナノサイズの気泡が時間の経過によって徐々に大気中に放散されて忌避成分を放散するので、持続性のある忌避剤を得ることができるものである。また、特別な成分を用いずに忌避成分を含有する気泡が安定に液体に混合されているので、界面活性剤などを用いる必要がなく、人体に安全で環境に優しい忌避剤を得ることができるものである。また、忌避成分を含むナノサイズの気泡を液体に混合することにより得ることができるので、簡単に製造することができるものである。
【0009】
請求項2の発明は、上記忌避剤において、液体が水素結合を形成する分子からなる液体であり、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いことを特徴とする忌避剤である。
【0010】
この発明によれば、気泡界面における水素結合の距離が短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことができ、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込むので、気泡同士が衝突しても崩壊することがないのと共に液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗でき、忌避成分を含有した気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく安定に存在させることができるものである。そして、この水素結合は長期間に亘って安定であるので、忌避成分を含有した気泡を長期間に亘って安定化させると共に、この気泡は大気中に徐々に放散されるので持続性のある忌避剤を得ることが可能となるものである。また、ナノオーダーサイズの気泡を、従来レベルより遙かに超えた密度で生成し液体に安定して存在させることが可能となるものである。
【0011】
請求項3の発明は、上記忌避剤において、液体が水であることを特徴とする忌避剤である。
【0012】
この発明によれば、特別な液体を用いることなく忌避剤を得ることができるものであり、また、水の蒸散と気泡の自然放出とを組み合わせて忌避成分を大気中に放散することができ、忌避性が弱くなることを防止できるものである。また、界面活性剤や有機溶剤を用いることなく忌避剤を得ることができ、人体に安全で環境に優しい忌避剤を得ることができるものである。また、水は入手が容易であり、安価であるので低コストで簡単に忌避剤を得ることができるものである。
【0013】
請求項4の発明は、上記忌避剤において、液体に含有されている気体の濃度が、液体に対する気体の飽和溶解濃度以上であることを特徴とする忌避剤である。
【0014】
この発明によれば、飽和溶解量又はそれを超える多量の気体をナノサイズの気泡として液体中に保持することにより、液体に溶解する以上の高濃度の忌避成分を液体中に含有させることができ、この高濃度の忌避成分を徐々に放散することにより、持続性の高い忌避剤を得ることができるものである。
【0015】
請求項5の発明は、上記忌避剤において、気泡を形成している気体の圧力が0.12MPa以上であることを特徴とする忌避剤である。
【0016】
この発明によれば、気泡が高い内部圧で維持されることによってより強固な界面構造を形成することができ、より多くの気体分子を閉じ込めることができる。また静置状態においては安定な気泡を形成すると共に、一旦、衝撃が加えられると、内部圧の力により気泡の界面構造が崩壊して、気泡が合体して発泡し忌避成分を外部に放出するため、この発泡を忌避成分の放散に利用することができるものである。
【0017】
請求項6の発明は、上記構成の忌避剤Aと、前記忌避剤Aを貯蔵する貯蔵部101と、前記忌避剤Aを所望の温度になるように調節する温度調節手段102とを備えて成ることを特徴とする忌避装置である。
【0018】
この発明によれば、温度により忌避成分が放散するスピードやタイミングを制御することができるものである。すなわち、上記の忌避剤は温度が高くなると内部エネルギーの増加により気泡の放出する速度が上昇するものであるが、忌避成分が放散する速度を、冷却して遅くしたり、加温して速くしたりすることができ、また、所定の条件に基づき加温や加熱して忌避成分を急速に又は一気に放散させたりすることができ、得たいスピードやタイミングで忌避成分を放出することができるものである。
【0019】
請求項7の発明は、上記構成の忌避剤Aと、前記忌避剤を貯蔵する貯蔵部101と、前記忌避剤Aに振動を与える振動手段103とを備えて成ることを特徴とする忌避装置である。
【0020】
この発明によれば、振動により忌避成分が放散するスピードやタイミングを制御することができるものである。すなわち、上記の忌避剤は振動が与えられると気泡同士の衝突や液体の撹拌作用により気泡が一時的に急激に放出されるものであるが、一時的に振動を与えて忌避成分を放散させたり、連続して振動を与えて忌避成分を急激に放散させたりして、忌避成分を放出するスピードやタイミングをコントロールすることができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在することにより、長期に亘って忌避成分を液体中に保持することができ、また液体が大気に晒されるとナノサイズの気泡は時間の経過によって徐々に大気中に放散されて忌避成分を放散するので、持続性のある忌避剤及び忌避装置を得ることができるものである。また、特別な成分を用いずに忌避成分を含有する気泡が安定に液体に混合されているので、界面活性剤などを用いる必要がなく、人体に安全で環境に優しい忌避剤を得ることができるものである。また、忌避成分を含むナノサイズの気泡を液体に混合することにより得ることができるので、簡単に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の忌避装置の一例を示す概略図である。
【図2】(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の忌避装置の他の一例を示す概略図である。
【図3】気液混合液(忌避剤)の製造装置の一例を示す概略図であり、(a)は全体の概略図、(b)は一部の概略図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ、気液混合液(忌避剤)の製造装置の一部を示す概略図である。
【図5】(a)〜(c)はそれぞれ、気液混合液(忌避剤)の製造装置の一部を示す概略図である。
【図6】(a)〜(d)はそれぞれ、気液混合液(忌避剤)の製造装置の一部を示す概略図である。
【図7】気液混合液(忌避剤)の製造装置の一部を示す概略図である。
【図8】気液混合液(忌避剤)の製造装置の他の一例を示す概略図である。
【図9】窒素と水を用いた気液混合液と窒素飽和水との赤外吸収スペクトルの差分を示すグラフである。
【図10】気液混合液中に含まれる気体容量を示すグラフである。
【図11】走査型電子顕微鏡(SEM)による気液混合液の写真である。
【図12】気液混合液(忌避剤)における気泡の気液界面の概念説明図である。
【図13】気液混合液の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
本発明の忌避剤は、忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合されているものである。この忌避成分を含有する気体は、ナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在しており、気体が即座に放出されて忌避成分が抜け出てしまうことがない。そのため、長期に亘って忌避成分を液体中に保持することができる。また、液体が大気に晒されるとナノサイズの気泡が時間の経過によって徐々に大気中に放散されて忌避成分を揮散する。これにより、持続性のある忌避剤を得ることができるものである。
【0025】
忌避成分としては、臭気成分や忌避効果のある揮発性香料などを用いることができる。このような忌避成分の多くは通常、常温常圧では液体であるが、揮発性があり、揮発した忌避成分に気体を通すなどして気体に忌避成分を含有させることができるものである。また、忌避成分を加熱によって気化させ気体と混合してもよい。そして、忌避成分は水に溶けにくい油性のものが多いが、気体に含有させて忌避剤に混合することにより、水に溶けにくい忌避成分を多量に水中に安定に保持することができる。このように、特別な成分を用いずに忌避成分を含有する気泡が安定に液体に混合されているので、界面活性剤などを用いる必要がなく、人体に安全で環境に優しい忌避剤を得ることができるものである。なお、忌避成分として臭気ガスなど気体の忌避成分を用いてもよく、その場合、忌避成分のみによりナノサイズの気泡を形成したり、気体の忌避成分を他の気体と混合して用いたりすることができる。
【0026】
忌避する対象としては、特に限定されるものではないが、例えば、細菌、カビ、シロアリ、ダニなどの有害生物や、猫やネズミ、シカ、熊、猪などの動物や、カラスなどの鳥類や、蚊、ブヨ、アブ、ムカデ、ゴキブリなどの害虫が挙げられる。
【0027】
具体的には、忌避成分としては以下のようなものを用いることができる。
【0028】
猫やネズミなどの動物を忌避するものとして、テルペン系化合物(B)、リモネン、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、リナロールなどが挙げられる。
【0029】
細菌、カビ、シロアリ、ダニなどの有害生物を忌避するものとして、ヒバ油、シトロネラール、リナロール、シトロネロール、シトラール、L−メントール、p−メンタン、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、ゲラニオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。
【0030】
カラスなどの鳥類を忌避するものとして、n−ヘキシルアルデヒド,ヘプタナール,オクタナール,ノナナール,デカナール,ウンデカナール,ドデカナール,γ−ウンデカラクトン,メチルフェニルグリシッド酸エチル及びγ−ノナラクトンなどが挙げられる。
【0031】
蚊、ブヨ、アブなどの害虫を忌避するものとして、N,N−ジエチル−m−トルアミド、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、O−ジクロルベンゼン、ジフェニル類、ペンタクロルフェノール、イソバレルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジ−n−プロピルイソシンコメロネート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、リナロルオキシド、フェニル酢酸誘導体、樟脳白油、N−オクチルビシクロヘプロテンジカルボキシイミド、ブタジエン−フルフラール共重合体などが挙げられる。
【0032】
これらの忌避成分を単独でまたは2種類以上を併用して用いることができるものであるが、2種類以上の忌避成分を含有することも好ましい。その場合、複数の忌避成分を用いて異なる種類の有害生物や動物を長期間に亘って駆除することが可能になる。
【0033】
ナノサイズの気泡を形成する気体としては、特に限定されるものではなく、種々の気体を用いることが可能である。例えば、空気、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素、オゾン、メタン、プロパン、ブタンなどの気体を単一で又は混合して用いることができる。このうち、空気を用いれば入手が容易で安価に製造でき、環境への影響がなく安全な忌避剤を得ることができるので好ましい。またオゾンを含有した気体を用いることも好ましく、この場合、オゾンによる殺菌作用、消臭作用を利用することができる。
【0034】
液体としては、水素結合を形成する分子からなる液体を用いることが好ましく、その場合、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧(25℃、1気圧(0.1013MPa))であるときの水素結合の距離よりも短いことが好ましい。水素結合とは、電気陰性度の大きい原子と水素原子とを有している分子において、水素原子が他の分子の電気陰性度の大きい原子に接近し、系が安定化する結合のことである。このように、忌避剤が常温常圧の条件で存在する場合において、気泡界面における水素結合の距離が常温常圧での通常の水素結合の距離よりも短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことになる。そして、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込む。それによって、気泡同士が衝突しても崩壊することがなくなり、また、液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗できるので、忌避成分を含む気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく保持することができるものである。そして、この保持された気泡は液体表面から大気中に徐々に放散されて忌避成分が拡散する。それにより、長期に亘って忌避成分が持続して発散する忌避剤を得ることが可能となるものである。このように、従来の表面張力で安定している気泡とは異なるものである。
【0035】
気泡との界面における液体分子の水素結合の距離としては、用いる液体により適宜設定され得るものであるが、常温常圧での水素結合の距離を100%とした場合に、99%以下であることが好ましい。水素結合の距離がこの範囲になることにより、気泡を水素結合の硬い殻で取り囲んで安定化させることができるものである。水素結合の距離がこれより長いと気泡を安定化させて存在させることができなくなるおそれがある。原子間距離を考慮すると、水素結合の距離の下限は95%である。忌避剤中の気泡界面における水素結合の距離は、例えば、後述の実施例で示すように、気泡が混合された液体の赤外吸収スペクトル(IR)を解析することにより算出することができる。
【0036】
ところで、水素結合の距離が上記の距離にある液体は、通常、氷のように固体やハイドレート結晶構造になるものであるが、上記の液体においては、気泡界面において局所的に距離の短い水素結合を形成し、それ以外の液体中は通常の水素結合を形成している。すなわち、気泡界面では距離の短い水素結合により液体分子の硬い殻を形成して、気泡同士が合体することや消滅することを防止すると共に、気泡界面以外では通常の状態で液体が存在して常温常圧では流動性を確保しており、安定な気泡が存在している液体を利用しやすくするものである。
【0037】
液体に含まれる気泡はナノサイズの気泡であり、具体的には直径1〜1000nmの気泡(いわゆるナノバブル)である。気泡がナノサイズとなり微細なものになることで強固な気泡界面の構造を形成することができ、高濃度の気体を液体中に保持することができるものである。また、ナノオーダーサイズの気泡には浮力が働かないため、気泡が上昇して液体から分離することがないので気泡を長期に亘って安定に存在させることができるものである。この範囲より気泡が小さくても大きくても気泡を安定化させることができなくなるおそれがある。なお、気泡の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができ、気泡の平均粒径は、測定によって得た気泡の粒径を平均して求めることができる。ところで、マイクロバブルが混合された液体は白濁するため目視により判別可能であるが、ナノバブルが混合された液体は無色透明(あるいは液体が有色の場合は液体の色)になり目視では判別することができない。よって、ナノサイズの気泡の判別はSEMや密度測定などによって行うこととなる。
【0038】
液体として好ましく用いられるものの一つは水である。この場合、特別な液体を用いることなく忌避剤を得ることができるものである。また、水の蒸散と気泡の自然放出とを組み合わせて忌避成分を大気中に徐々に放散することができ、使用初期に忌避成分が飛んでしまって忌避効果が弱くなってしまうことを防止できるものである。また、界面活性剤や有機溶剤を用いることなく忌避剤を得ることができ、人体に安全で環境に優しい忌避剤を得ることができるものである。すなわち、揮発性香料などの忌避成分は通常、水に不溶か難溶のものが多く、忌避剤を得るにあたっては、有機溶剤や油、界面活性剤などを用いることを必須としている。そして、これらの有機溶剤や油、界面活性剤の使用は環境への負荷が大きく、またアレルギー反応を起すなど人体に有害な場合が多い。しかしながら、界面活性剤を用いる必要がなく、また液体として水を用いることで忌避剤を得ることができるので、環境への負荷を減らし、環境に優しい忌避剤にすることができるとともに、人への危害をなくし、人体に安全な忌避剤にすることができるものである。さらに、水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に水素結合を形成するものであり、忌避剤の液体として水を用いると、気泡界面において液体中のこの水素結合が強固になって、忌避成分を含む気泡をより安定化させることができる。また、水は、供給源が豊富で安定して得ることができるので特別な液体を用いることなく忌避剤を簡単に得ることができるものである。すなわち、忌避剤に用いる水としては純度の高い水に限られることはなく、水道水や地下水などあらゆる水を使用することが可能である。つまり、液体として水を含むものであれば良い。
【0039】
また、液体が、O−H結合、N−H結合、F−H結合やCl−H結合などの(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることも好ましい。これらの結合は、水素原子に対して電気陰性度が十分に大きい原子と水素原子との結合であり、O−H…O、N−H…N、F−H…FやCl−H…Clなどの(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった強い水素結合を形成し、この水素結合により気泡を取り囲んで気泡を安定化させることができるものである。O−H結合を有する代表的な液体は水であるが、その他、過酸化水素やメタノール、エタノールなどのアルコール、グリセリンなどを例示することができる。また、N−H結合を有する液体としては、アンモニアなどを例示することができる。また、(ハロゲン)−H結合を有するものとしては、F−H結合を有するHF(フッ化水素)、Cl−H結合を有するHCl(塩化水素)を挙げることができる。また、S−H結合を有するものとしてはHS(硫化水素)を挙げることができる。
【0040】
液体がカルボキシル基を有する分子からなる液体であることも好ましい。カルボキシル基には、電気陰性度が大きいカルボニルの酸素原子が存在しており、あるカルボキシル基中のカルボニルの酸素原子と他のカルボキシル基中の水素原子とが強い水素結合を形成して気泡を取り囲むので、安定に気泡が存在した忌避剤を得ることができるものである。カルボキシル基を有する分子からなる液体としては、ギ酸、酢酸などのカルボン酸などを例示することができる。
【0041】
液体に含有されている気体の濃度は、液体に対する気体の飽和溶解濃度以上であることが好ましい。飽和溶解量又はそれを超える多量の気体を液体中に保持することにより、液体に溶解する以上の高濃度の忌避成分を液体中に含有させることができ、この高濃度の忌避成分を徐々に放散することにより、持続性の高い忌避剤を得ることができるものである。すなわち、忌避成分は通常、水に不溶か難溶であるため、多量の忌避成分を含有させることができないが、ナノサイズの気泡中に忌避成分を含有させれば、界面活性剤などを用いることなく、水に溶けない忌避成分を水への飽和溶解量を超えて忌避剤に含ませることができ、この多量の忌避成分を気泡の放散と共に徐々に発散させて忌避効果を持続して得ることができる。さらに好ましくは、液体中には飽和溶解量の気体が溶解しており、その飽和溶解液に忌避成分を含有する気泡が存在しているものである。飽和溶解量で気体が溶解していれば、気泡となった気体を溶解させることなく安定化して気泡として液体中に保持することがより可能となるものである。すなわち、飽和溶解量以上に気体が存在する液体は、液体中に飽和濃度で気体が溶解しており、気泡が崩壊したり溶解したりすることがなく、より安定に気泡を液体中に存在させることができるものである。また、さらに気体の溶解濃度が、飽和溶解濃度であることが好ましい。このように液体中の気体の濃度が高くなると、水素結合の距離を短くした状態で気泡を安定化することができ、この安定化された気泡が熱や衝撃が加えられた際に気体となって放出され忌避成分を発散するので忌避効果をさらに向上することができるものである。液体中の気体量は、後述の実施例で示すように液体から気体を分離し、質量変化量から算出することができる。
【0042】
気泡を形成している気体の圧力、すなわち気泡の内圧は0.12MPa以上であることが好ましく、さらにヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることが好ましい。
【0043】
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]

気泡の内圧がこのような圧力になると気泡が高い内部圧で維持されることになり、より強固な界面構造を形成することができるので、静置状態において安定な気泡を形成することができる。一方、一旦、液体に衝撃が加えられると、内部圧の力により気泡の界面構造が崩壊して、気泡が合体し発泡して気体となって忌避成分を外部に放出するため、この発泡を忌避成分の放散に利用することができるものである。気泡の内圧は、後述の実施例で示すように液体中の気体総量と密度から計算した気体容量とを気体の状態方程式に当てはめることにより算出することができる。
【0044】
なお、ナノサイズの気泡が混合された液体は、液体として水を用いた場合、ゼータ電位がマイナスとなり、体積1cm中に存在する気泡界面の面積は0.6m程度となる。
【0045】
上記のように構成される忌避剤は、容器に充填して用いてもよく、忌避したい場所に散布してもよく、スプレーなどで噴霧してもよく、人体の皮膚に塗布してもよく、忌避の用途に合わせて適宜に用いることができる。
【0046】
図1は、本発明の忌避装置の一例を示している。この忌避装置は、上記のような構成の忌避剤Aと、この忌避剤Aを貯蔵する貯蔵部101と、この忌避剤Aを所望の温度になるように調節する温度調節手段102とを備えて形成されている。貯蔵部101は、プラスチック、PET等の樹脂性の容器や、ガラス、陶器などの容器などで形成され、貯蔵部101の中に忌避剤Aが充填されている。
【0047】
温度調節手段102は、忌避剤Aを加温又は冷却して所望の温度にするためのものである。この温度調節手段102にはヒーターなどの加熱装置や冷却装置を用いることができる。図1(a)及び(c)の温度調節手段102は、貯蔵部101に接して設けられ貯蔵部101の容器を加熱又は冷却して、容器ごと温度を調節するものである。図1(b)及び(d)の温度調節手段102は、忌避剤Aの内部に設けられ、忌避剤Aを内部から温度調節する、いわゆる投げ込み型のものである。
【0048】
貯蔵部101の上部には、貯蔵部101内の忌避剤Aの存在しない空間と外気とを連通する通気孔104が形成され、この通気孔104を通して忌避剤Aに含まれる気泡が徐々に気体となって外部に放散され、気体に含有する忌避成分が忌避装置の周囲に漂うこととなる。この通気孔104には、フィルター、メッシュ等が設けてあってもよく、図1(c)及び(d)のように、パルプ紙等、液体が浸透可能な揮散部105を設けるとともに、この揮散部105から忌避剤Aの内部に吸い上げ芯106を垂らし、吸い上げ芯106で忌避剤Aを吸い上げて揮散部105にて液体中の気体を放散して忌避成分を発散させることもできる。
【0049】
そして、この忌避装置にあっては、温度により忌避成分が放散するスピードやタイミングを制御することができる。すなわち、忌避成分を放散させたい場合に、温度調節手段102により忌避剤Aの温度を上昇させると、忌避剤Aは温度が高くなると内部エネルギーの増加により気泡の放出する速度が上昇するので、忌避成分が放散する速度が速くなり、忌避成分が急速に発生することとなる。そして、忌避成分を発生させたくない場合には、温度調節手段102により忌避剤Aの温度を低下させると、気泡が放出する速度が遅くなって忌避成分の発生がストップする。
【0050】
また、忌避成分を一気に発散させたい場合には、忌避剤Aを高温になるよう加熱すれば、急激に内部の忌避成分を放散することができる。また、忌避成分をきわめて徐々に放散させたい場合には、忌避効果の発揮する閾値か、あるいは閾値よりわずかに濃い濃度で忌避成分が放散するような温度をかけることもできる。
【0051】
したがって、周囲に有害生物が存在する場合など、忌避効果を得たいときに忌避成分を放散するようにすることができ、得たいタイミングで効率よく忌避成分を放散させて害虫や動物などを駆除することができるものである。
【0052】
図2は、本発明の忌避装置の他の一例を示している。この忌避装置は、忌避剤Aと、この忌避剤Aを貯蔵する貯蔵部101と、この忌避剤Aに振動を与える振動手段103とを備えて形成されている。貯蔵部101や通気孔104、揮散部105等は、図1の忌避装置と同様に構成することができる。
【0053】
振動手段103は、忌避剤Aに振動を与えるためのものである。図2(a)及び(c)の振動手段103は、貯蔵部101に接して設けられ貯蔵部101の容器に振動を加えて、容器ごと振動するものである。このような振動手段103としては超音波や、容器を左右に振る振とう機構などを用いることができる。また、図2(b)及び(d)の振動手段103は、忌避剤Aの内部に設けられ、忌避剤Aを内部から振動するものである。このような振動手段103としては挿入型の超音波や、撹拌翼やスタラーなどの撹拌機構などを用いることができる。
【0054】
そして、この忌避装置にあっては、振動により忌避成分が放散するスピードやタイミングを制御することができる。すなわち、忌避成分を放散させたい場合に、振動手段103により忌避剤Aに振動を加えると、忌避剤Aは振動によって内部エネルギーが増加して気泡の放出する速度が上昇するので、忌避成分が放散する速度が速くなり、忌避成分が急速に発生することとなる。そして、忌避成分を発生させたくない場合には、振動手段103の振動を停止させると、気泡が放出する速度が遅くなって忌避成分の発生がストップする。
【0055】
また、忌避成分を一気に発散させたい場合には、忌避剤Aを激しく振動すれば、急激に内部の忌避成分を放散することができる。また、忌避成分を一定のスピードで徐々に放散させたい場合には、忌避効果の発揮する閾値か、あるいは閾値よりわずかに濃い濃度で忌避成分が放散するような振動を継続してかけることもできる。
【0056】
したがって、周囲に有害生物が存在する場合など、忌避効果を得たいときに忌避成分を放散するようにすることができ、得たいタイミングで効率よく忌避成分を放散させて害虫や動物などを駆除することができるものである。なお、図2の装置に温度調節手段102を設けてもよく、その場合、温度と振動で忌避成分の発生を制御することができる。
【0057】
次に、本発明の忌避剤の製造について説明する。忌避剤は、忌避成分を含有する気体と液体とを混合して気液混合液を製造することにより得ることができる。以下、この気液混合液の製造を説明する。
【0058】
図3は、気液混合液の製造方法の一例を示す概略図であり、気液混合液を生成する装置(気液混合液製造装置)の一例が図示されている。
【0059】
この気液混合液製造装置は、液体を圧送して連続的に気液混合液を製造する装置であり、忌避成分を含有する気体を発生させる忌避気体発生部30と、液体貯留槽12から大気圧(0.1MPa)で保持されている液体を取り出し圧送して加圧する加圧部1と、加圧された液体に忌避成分を含有する気体を供給する気体供給部2と、供給された気体を微細な気泡にして液体と混合させる気液混合部3と、気液混合部3中の液体に存在する大きな気泡を除去する脱気泡部4と、脱気泡部4により大きな気泡が取り除かれた液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させる減圧部5と、減圧された液体を吐出する吐出部7とを備え、各部は流路6に接続して設けられている。
【0060】
加圧部1は気液混合部3に液体を圧送するものであり、例えば、この装置のように、液体貯留槽12から液体を吸い上げるポンプ11などで構成できるが、水道配管等、液体を加圧して送り出す配管などで構成することもできる。
【0061】
図4は、忌避気体発生部30の具体的な構成の一例を示している。図4(a)及び(b)の装置は、忌避成分が液体の揮発性香料Fであり、この液体の揮発性香料Fを気体に含有させて忌避成分を含有した気体を気体供給部2に送り込むものである。
【0062】
図4(a)の忌避気体発生部30は、液体の揮発性香料Fを貯蔵する香料容器31と、香料容器31に貯蔵された揮発性香料Fを吸い上げる香料吸上管32と、エジェクタなどの機構で気体を送り出し揮発性香料Fを微細化して噴霧する香料噴霧手段33と、噴霧された揮発性香料Fが揮散した状態で内部に漂うとともに、沈降した揮発性香料Fを下部に溜める香料揮散部34と、香料揮散部34の下部に溜められた揮発性香料Fを回収して香料容器31に戻す香料回収管35とを備えて形成され、香料揮散部34は香料気体挿入部36により気体供給部2に接続されている。この忌避気体発生部30にあっては、香料容器31に貯蔵された揮発性香料Fが香料噴霧手段33で微細化されて香料揮散部34内で揮散し、この揮散された揮発性香料Fが香料噴霧手段33から送られてきた気体とともに、香料気体挿入部36を介して気体供給部2に供給されるものである。
【0063】
また、図4(b)の忌避気体発生部30は、液体の揮発性香料Fを貯蔵する香料容器31と、揮発性香料Fに挿入されるとともに先端から気体をバブリングして注入するバブリング手段37と、バブリングにより揮発性香料Fから放出された気体を収容する香料気体収容部38とを備えて形成され、香料気体収容部38は香料気体挿入部36により気体供給部2に接続されている。この忌避気体発生部30にあっては、香料容器31に貯蔵された揮発性香料Fがバブリングにより気体に溶け込んで気体と共に液体中から飛び出し、揮発性香料Fを含みながら香料気体収容部38に漂っている気体が香料気体挿入部36を介して気体供給部2に供給されるものである。
【0064】
香料噴霧手段33やバブリング手段37において、気体を送り込む手段としては、気体を封入したボンベなどを用いることができる。このようにして忌避成分が含有された気体は気体供給部2に送られる。
【0065】
また、図4(c)及び(d)の装置は、忌避成分が臭気ガスなどの気体である装置である。(c)の装置は、気体の忌避成分をキャリアの気体に含有させて忌避成分を含有した気体を忌避気体挿入部39から気体供給部2に送り込むものである。(d)の装置は、気体の忌避成分の全量をそのまま忌避気体挿入部39から気体供給部2に送り込むものであり、気体として忌避成分のみからなる気液混合液を製造するものである。これらの装置にあっては、忌避気体発生部30は忌避成分を封入したボンベなどを気体経路管などの忌避気体挿入部39で気体供給部2に接続して形成することができるものである。
【0066】
気体供給部2は、流路6に接続されることにより液体に忌避成分を含有する気体を供給するものである。例えば、気体として、窒素、二酸化炭素、アルゴン等のガスを供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路6に接続して気体供給部2を形成することができる。また、気体として空気を供給する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路6に接続して気体供給部2を形成することもできる。また、気体としてオゾンを供給する場合は、オゾン発生装置を設け、ボンベや大気から送られる気体をオゾンと混合させて流路6に供給するようにしてもよい。図4(a)及び(b)では、忌避成分を含有した気体を送り出す気体経路とは別に、気体供給部2に気体を送り出す気体経路が設けられた例が図示されているが、香料気体挿入部36から送り出される気体の全量を気体供給部2を介して流路6に供給するようにしてもよい。流路6への気体供給部2の接続位置は、気液混合部3よりも上流側の位置であればよく、この装置のように加圧部1より上流側の流路6に接続するようにしても、あるいは加圧部1より下流側の流路6に接続するようにしてもいずれでもよい。
【0067】
気液混合部3は圧送された液体とこの液体に注入された気体とを混合し、加圧により気体を微細な気泡にして液体中に分散・混合させるものである。気液混合部3としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路6を流れているのであれば単に流路6で構成することもできる。この装置のように気体供給部2が加圧部1より上流側の流路6にある場合は、ポンプ11などで構成された加圧部1を気液混合部3と兼用してもよい。気液の加圧及び混合をポンプ11により行った場合、液体を急激に加圧・混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。また、気液混合部3をベンチュリ管で構成することも好ましい。その場合、簡単な構成で液体を急激に加圧・混合することができる。
【0068】
気液混合部3内においては液体と気体が高圧条件で混合される。それにより、気泡の周囲に強固な界面構造が形成され、この強固な界面構造の殻で気泡を覆うことができ、気体を微細な気泡として安定化することができるものである。
【0069】
上記のような加圧部1及び気液混合部3により、気体が注入された液体に急激に強力な圧力が加わって、液体中に存在している気泡は微細なナノサイズの気泡へと細分されて液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧になった気泡の界面には液体分子により強固な界面構造が形成される。その際、加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、気泡を細分化させて微細なナノサイズの気泡を生成することができ、気液混合部3から脱気泡部4に送り出される際の気液混合液の圧力が0.15MPa以上になることにより、気泡の界面が強固な構造となったナノサイズの気泡を生成することができるものである。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP/tの上限は167MPa/secであり、加圧された気液混合液の圧力の上限は50MPaである。
【0070】
図3(b)は、ポンプ11の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ11aは回転体21の回転により液体を加圧するものであり、回転体21に取り付けられた回転翼22が連続的に回転してポンプ入口26からポンプ流路室23を介してポンプ出口27への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図において白抜き矢印は液体の流れ方向を示し、実線矢印は回転体21の回転方向を示している。このポンプ11aでは4枚の回転翼22が備えられている。また回転体21の回転軸25は、円筒状に形成されたポンプ壁24の円筒中心よりもポンプ出口27側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸21の偏心によりポンプ流路室23の第二流路室23bの容積は、第一流路室23aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室23の容積が順次小さくなっている。
【0071】
そして、ポンプ流路室23に送り出された液体は、回転翼22で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡Bが細分化されて微細なナノサイズの気泡Bが生成される。すなわち、回転体21の回転と共に第一流路室23aから第二流路室23bに送られた液体は、ポンプ流路室23の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力によりナノサイズの気泡Bが生成される。また、図示のポンプ11aでは、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡B)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細なナノサイズの気泡(B)になる。ここで、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離Lは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体21を用いたポンプ11aによれば、回転体21で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断してナノサイズの気泡を形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0072】
ポンプ11の回転体21の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させて水素結合距離が短縮したナノサイズの気泡を確実に生成することができるものである。
【0073】
加圧部1及び気液混合部3による加圧は、加圧部1又は気液混合部3を複数設けて、複数回加圧することができる。液体を送りながら複数回加圧することにより、加圧を複数のポンプ11やベンチュリ管によって行うことができ、液体を強力に加圧して、気泡界面の構造が強固な気液混合液を生成することができるものである。具体的には、加圧部1を図3のようにポンプ11で構成すると共に、気液混合部3を一つ又は二つ以上のポンプ11又はベンチュリ管で構成することができるものである。
【0074】
脱気泡部4は上記のようにして気体が混合された液体から、ナノサイズを超える気泡、すなわち直径1μmを超える気泡を取り除くものであり、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにした管体などで構成することができる。取り除かれた気泡は気体となって上部に集積するので、この除去された気体を気体除去部8により取り除くことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡(マイクロサイズの気泡)は、浮力により上昇するので、このような比較的大きい気泡が取り除かれて微細な気泡であるナノサイズの気泡が液体中に存在することにより、界面構造が強固で安定な気液混合液を得ることができるものである。
【0075】
脱気泡部4としては、具体的には、図5のような構成にすることができる。(a)は、気液混合部3と連続して地表面に略水平(重力方向に対して略垂直な平面上)になるように形成し、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(b)は、気液混合部3と連続すると共に気液混合部3と合わせた形状が正面視逆L字型になるように形成し、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(c)は、気液混合部3とは別体にし、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。
【0076】
減圧部5は気体が混合された液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧により気体と混合された液体は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、気液混合液中の気泡が合体して気体になって液体から排出されるおそれがあり、またキャビテーションが発生することがある。そこで、減圧部5を設け、加圧された状態の気液混合液を送り出す際に、減圧部5で大気圧まで徐々に減圧をした後に吐出するようにしているものである。減圧部5は、気体が混合された液体を送りながら配管全域での減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして減圧するように構成されている。それにより、強固な気泡界面の構造を維持させたまま、ナノサイズの気泡を消滅させたり合体させたりすることなく気液混合液を取り出すことができるものである。
【0077】
減圧部5としては、図6のような構成にすることができ、具体的には、(a)のように流路断面積が段階的に徐々に小さくなる流路6や、(b)のように流路断面積が連続的に徐々に小さくなる流路6や、(c)のように加圧された液体が流路6内を流れる圧力損失により高圧状態(P)の気液混合液の圧力を徐々に低下させて(P、P、・・・)大気圧(P)まで減圧するように流路長さ(L)が調整された流路6や、(d)のように流路6に設けられた複数の圧力調整弁9などにより構成することができる。
【0078】
例えば図6(a)又は(b)のような減圧部5を用いた場合、減圧部5よりも上流側の流路6を内径20mmにし、減圧部5を、流路長さが約1cm〜10mで、内径が20mmから4mmにまで徐々に小さくなることにより流路断面積が小さくなる管体により構成することができる。なお、減圧部5は、入口内径/出口内径=2〜10程度に設定したり、1cmあたりの内径減少値を1〜20mm程度に設定したりすることができる。このとき、減圧部5に気液混合液を流速4×10−6m/s以上で送ると、減圧速度2000MPa/sec以下で、ナノサイズの気泡を消滅させることなく1.0MPa減圧することができ、気液混合液を大気圧にまで減圧することができるものである。
【0079】
吐出部7は、減圧された液体を吐出するものである。なお、図7のように、この吐出部7と減圧部5との間に、加圧部1における液体の押し込み圧を十分に確保するために延長流路10を設けることもできる。すなわち、減圧部5を含めた全体の圧力損失を算出し、加圧部1からの押し込み圧によって気液混合部3内で液体と気体を加圧するのに必要な圧力と、全体の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の圧力損失が生じるように流路長さを調整した延長流路10を流路6に付加するようにしてもよい。押し込み圧の確保には絞り部などを設けることも考えられるが、絞り部などで押し込み圧を調整すると急激な圧力変化により気泡が崩壊するおそれがある。しかし、このように延長流路10を設ければ気泡を安定化させたまま気液混合液を吐出することができるものである。
【0080】
上記のように構成された気液混合液製造装置にあっては、加圧部1で液体を圧送し、気体供給部2により圧送された液体に忌避成分を含有する気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、加圧部1及び気液混合部3によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、気液混合部3から脱気泡部4へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、脱気泡部4で気液混合液中のナノサイズを越える気泡を取り除いた後、該液体を減圧部5及び下流側の流路6に送りながら最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、ナノサイズの気泡が安定に存在した気液混合液を生成することができるものである。
【0081】
なお、気液混合部3よりも下流側の流路6は内径2〜50mm程度の管体などに形成することができる。それにより、比較的太い流路断面積で気液混合液を吐出することができ、細路により流路6を構成する場合のような配管の詰まりを防止して、気液混合液を利用しやすくすることができる。
【0082】
図8は、気液混合液を製造する方法の他の一例であり、気液混合液製造装置の他の一例を示す概略図が図示されている。この気液混合液製造装置は、加圧部1と気液混合部3とが兼用されて気液混合槽13として構成されており、この気液混合槽13において忌避成分を含有する気体が注入された液体を、0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)で加圧して、液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより界面構造の強固な気泡の気液混合液をバッチ式で生成し、この気液混合液から大きな気泡を脱気泡部4で取り除いた後、この気液混合液を減圧部5に送り出してその圧力を最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧し、吐出部7から気液混合液を吐出するようにしたものである。閉鎖系である気液混合槽13にはバッチ式で液体と気体とが送り出されて加圧されるとともに、気液混合槽13に設けられた撹拌翼14などにより撹拌されて液体Lqと気体とが高圧条件で混合される。それにより、気泡の周囲の界面構造を強固なものにすることができ、気体をナノサイズの気泡として安定化することができるものである。そして、生成した気液混合液を図3の装置と同じように構成された脱気泡部4、減圧部5及び吐出部7に送り出すことにより、ナノサイズの気泡が混合された気液混合液を得ることができるものである。
【0083】
このようにして得られた気液混合液は、容器に入れたり散布したりするなどして忌避剤として利用することができるものであり、図1又は図2に図示するような忌避装置に利用することができるものである。
【実施例】
【0084】
[実施例1]
[気液混合液の製造例]
次に、気液混合液の製造例及び物性等について説明する。
【0085】
図3の装置を用いて、液体として純水を用い、気体として後述する各種の気体を用い、気液混合液を製造した。なお、各気体には、図4(b)のようなバブリングにより忌避成分を含有したものを用いた。
【0086】
製造装置としては、加圧部1と気液混合部3とがポンプ11で兼用されて構成されたものを用いた。ポンプ11としては回転体21により加圧する図3(b)のようなポンプ11aを用いた。
【0087】
気体と液体の比(液体に対する気体の注入量)は、容量比(体積比)で1:1に設定した。また、ポンプ11の回転体21の回転数は1700rpmに設定した。この条件により大気圧(0.1MPa)の水に気体が注入された後、加圧速度ΔP/t=28.3MPa/secで加圧されて、気液混合部3から脱気泡部4に送り出される際の液体の圧力が0.6MPaになった。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されて水素結合距離が短くなり強固な気泡界面の構造が形成されるものと考えられる。この条件(加圧条件)は現時点における最良の条件であると考えられる。
【0088】
また、減圧部5よりも上流側の流路6を内径20mmのものにした。減圧部5としては図6(a)のような、3段階で内径が徐々に小さくなるものを用い、具体的には、内径が14mm、8mm、4mmで長さが各約3.3mm(減圧部5の全長として約1cm)の三つの流路管部からなるものを用いた。また、減圧部5よりも下流側の流路6及び延長流路10として、内径4mm(外径6mm)のホースを用い、下流側の流路6と延長流路10とを合わせた長さが2mとなるように設定した。この条件により、減圧部5において、最高減圧速度60MPa/sec、時間0.0025秒で気体が混合された液体を減圧し、さらに、下流側の流路6及び延長流路10において、1MPa/sec、時間0.5秒で気体が混合された液体を減圧し、ホース先端部である吐出部7から、大気圧(0.1MPa)まで減圧された気液混合液が得られた。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されると共に水素結合距離が短くなり気泡界面の構造が強固になった気液混合液を安定して生成することができるものと考えられる。この条件(減圧条件)は現時点における最良の条件であると考えられる。
【0089】
[気液混合液の物性]
[水素結合の距離]
図9は、気体として窒素を用い、液体として純水を用いた気液混合液(窒素混合水)と、窒素が純水に飽和溶解濃度で溶解した窒素飽和水との赤外吸収スペクトルとの差分を示すグラフである。水のOH収縮振動による赤外吸収帯としては通常3400cm−1付近に吸収極大があることが知られているが、グラフに示されるように気液混合液はOH収縮振動の吸収極大が3200cm−1付近にずれている。吸収極大が3400cm−1にある場合、水素結合の距離は0.285nmである。一方、吸収極大が3200cm−1にある場合、水素結合の距離は0.277nmであることが知られており、常温常圧下における通常の水素結合の距離よりも短くなり構造化された氷またはハイドレートに近い水と結論づけられた。
【0090】
[気体量]
液体として純水を、気体として窒素、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを用いた気液混合液中に気泡として存在する気体量を次の方法により測定した。
(1)25℃、導電率0.1μS/cmの純水に、各種の気体を混合させ気液混合液を得た。
(2)直径1μm以上の大きな気泡を水から分離するために、気液混合液を25℃で1日静置した。なお、静置時間について、ストークスの法則から
気泡上昇速度: V=d×g/(18×γ)
(d:気泡直径、g:重力加速度、γ:動粘性係数)
の式が成立し、この式より1μmの気泡の上昇速度は約2.4×10−4m/sであるので、例えば静置時の容器の水深が50mmの場合、1日静置すれば気泡を除去することができる。
(3)最小測定値1mgの分析天秤で気液混合液の質量を測定した。
(4)ガス透過度及び透湿度の低いPE+ナイロン樹脂製のビニル袋に気液混合液とスタラーの撹拌子を入れ、空気を追い出して袋に空気が無い状態でシーラーにてビニル袋を密封した。
(5)密封直後に、分析天秤で気液混合液が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(6)ホットスタラーにより25℃の気液混合液が密封されたビニル袋を45℃に昇温して気液混合液を約5時間撹拌した。この昇温と撹拌により、微細気泡や、45℃の飽和溶解濃度以上で溶解していた気体が気液混合液から分離されビニル袋の上部に集まった。
(7)室温25℃の条件でホットスタラーの設定温度を25℃にし、25℃の飽和溶解度の液体になるよう数時間撹拌を行った。
(8)分析天秤で、気体と液体が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(9)計3回の質量測定から気液混合液の質量と、昇温および撹拌によって気液混合液から分離された気体による浮力によって生じる液体の質量変化量とを得た。質量変化量は、気液混合液から分離された気体容積と同容積の空気の質量と同じであり、この値から分離された気体の容量と質量を算出することができる。
【0091】
図10は、このようにして測定された気体容量を示すグラフである。各棒グラフの下部領域は、測定された気泡として存在していた気体の量であり、上部領域はヘンリー則に従う気体の飽和溶解量である。グラフに示すように、飽和溶解量に対して気液混合液に含有する気体量は、窒素では36倍、アルゴンでは16倍、二酸化炭素では1.9倍であった。このように、気液混合液として得られる忌避剤は、飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を液体中に保持することが可能であり、この高濃度で保持された気体に含有された多量の忌避成分を有害生物や動物などの駆除に利用することができるものである。
【0092】
[気泡のサイズ]
上記と同様にして製造した気液混合液を瞬間凍結し、真空中においてカッターで割断し、その割断面にメタン・エチレンを流し放電させ、凹凸を転写した炭化水素膜(レプリカ膜)を作製した。このレプリカ膜に導電性オスミウム薄膜を張り、十分乾燥させて、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。
【0093】
図11は、窒素と純水の気液混合液について、SEMにより観測された写真の一例である。同様に写真観察することにより、気体として窒素、アルゴン、二酸化炭素を用いた場合、いずれも気液混合液の気泡サイズは、直径の分布ピークが100nmであることが確認された。なお、上記の気体と純水の気液混合液の気泡はレーザーを用いた動的散乱法等の粒子径分布測定装置では正確な検知ができなかった。
【0094】
[気泡の内圧]
気液混合液中の気体総量から気泡内部の圧力を算出した。表1は、窒素又はアルゴンと25℃の純水との気液混合液における、気体総量と、気体総量から算出した気泡の内圧を示している。
【0095】
気泡における気体の内部圧力は次の方法で算出される。
気体の状態方程式は、
PV/T=(const)
(P:内部圧力、V:容積、T:内部温度)
で表され、Tが一定の場合、特に
PV=(const)
で表される。
【0096】
そして、気液混合液の密度から気液混合液中の気泡の容積が計算でき、上式から、
大気圧 × 気体総体積量 = 気泡の内圧 × 液中の気体総体積量
の関係が成立し、この関係式に上記で測定した気体量を当てはめて気泡における気体の内圧が計算され、表1のような圧力値となる。
【0097】
例えば気体が窒素の場合、
気液混合液1リットル中における、水体積がw1リットル、水中での気体体積がw2リットルであると仮定すると、
体積については次の関係式が成り立つ。
【0098】
w1 + w2 =1リットル (式A)

また、質量については次の関係式が成り立つ。
【0099】
w1 × 水の密度 + w2÷22.4(リットル)×28(分子量)=測定質量 (式B)
水の密度 :常温常圧の純水では997.1g/L
22.4リットル :気体1モルの体積
測定質量 :表1の値で988.3

上記の2式(式A,B)の方程式を解くと、
w2=8.84×10^(-3) が算出されるので、

気体の内圧=大気圧 × 気体総体積量 ÷ 液中の気体総体積量
=0.1×(表1の値)÷w2
=0.1×0.56÷(8.84×10^(-3))
=6.3MPa
となる。
【0100】
なお、上記の計算では、気泡の内部温度が一定(常温)であるとして考えたが、実際の気泡の内部温度は大気の温度(常温)よりも高いことも予想され、その場合、気泡の内部圧は上記算出結果より更に高いことが気体の状態方程式から予測できる。
【0101】
ところで、一般には、気泡の内圧は次のようにして算出される。気泡は気液相界面間の界面張力により加圧され、この界面張力はヤングラプラスの式(下記式)で導かれる。
【0102】
ΔP=2σ/r
(ΔP:上昇圧力、σ:表面張力、r:気泡半径)
この式によれば、例えば、直径100nmのサイズの気泡の場合、気泡内部圧力は3MPaになる。
【0103】
一方、気液混合液中の内部圧力は、表1の通り、例えば窒素の場合6.3MPaであり、この気液混合液はSEM写真にて示されるように直径100nmサイズの気泡が分散しているものであることから、気液混合液の気泡は、ヤングラプラスの式から算出される値の約2倍以上の内部圧力を有していることが確認された。したがって、気液混合液においては、より強固な界面構造が気泡界面において形成されていると結論づけられた。
【0104】
【表1】

【0105】
図12は、気液混合液(忌避剤)中の気泡が安定化されるメカニズムを説明する概念説明図である。図示のように、気泡Bと液体Lqの界面には水素結合距離が通常よりも短い氷やハイドレートのような強固な水分子の結合で境膜構造(結晶構造体)の保護膜Mが形成されており、気液相互の物質移動が阻止されて気泡が安定な状態になったものと考えられる。この強固な界面構造により、忌避成分が液体に移動することなく気体中に保持される。そして、窒素、アルゴンの気液混合液内の気泡(ナノバブル)の内圧は、ヤングラプラスの式から求められる圧力よりも約2倍以上である。このように気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって、忌避成分を含有する気泡が安定して存在する忌避剤となるものである。
【0106】
[気泡の分布量]
気液混合液の気泡の分布量(個数)は表1から算出した。
【0107】
気体が窒素の場合、大気中(0.1MPa)に戻した気泡総量が0.56Lであり、気泡の内圧が6.3MPaであるので、水中での気泡総体積量V1は、等温変化と仮定し、PV=constより
V1=0.56×0.1÷6.3
となる。
【0108】
また、気泡は半径r=50nmの球体であるから、気泡1個当たりの体積V2は
V2=4/3×π×r^3
となる。
【0109】
以上より、水1L当たりの気泡の個数n=V1÷V2=1.7×10^16個と算出される。
【0110】
同じように水1L当たりの気泡の個数は、気体がアルゴンの場合は1.7×10^16個と算出される。
【0111】
[安定性及び徐放性]
図13は、空気を純水に混合させて生成した気液混合液について、ガラスビンに密封し一定温度で保管した場合の、飽和溶解濃度に対する気液混合液中の気体存在量比を過飽和度として表示するグラフである。グラフから、過飽和度は400時間経過しても6であり、ほとんど変化していないことが分かる。よって、密封状態では気体が放出されることがなく、気液混合液中の気泡が安定に存在することが確認された。また、この気液混合液を開放系で一定温度で放置すると気体が徐々に放出し、忌避成分が持続して放散されることが確認された。
【0112】
[実施例2]
忌避剤
液体を水とし、気体として、図4(b)の容器31にリモネンを入れ、空気をバブリングさせて空気に忌避成分を含ませたものを用い、気液混合液(忌避剤)を製造した。この忌避剤は、1日以上忌避成分が放散され、忌避効果の維持が確認された。
【符号の説明】
【0113】
1 加圧部
2 気体供給部
3 気液混合部
4 脱気泡部
5 減圧部
6 流路
7 吐出部
8 気体除去部
11 ポンプ
21 回転体
30 忌避気体発生部
101 貯蔵部
102 温度調節手段
103 振動手段
A 忌避剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
忌避成分を含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合されて成ることを特徴とする忌避剤。
【請求項2】
液体が水素結合を形成する分子からなる液体であり、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の忌避剤。
【請求項3】
液体が水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の忌避剤。
【請求項4】
液体に含有されている気体の濃度が、液体に対する気体の飽和溶解濃度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の忌避剤。
【請求項5】
気泡を形成している気体の圧力が0.12MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の忌避剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の忌避剤と、前記忌避剤を貯蔵する貯蔵部と、前記忌避剤を所望の温度になるように調節する温度調節手段とを備えて成ることを特徴とする忌避装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の忌避剤と、前記忌避剤を貯蔵する貯蔵部と、前記忌避剤に振動を与える振動手段とを備えて成ることを特徴とする忌避装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−6343(P2011−6343A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150161(P2009−150161)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】