説明

情報取得装置及び情報取得方法

【課題】テラヘルツパルスの時間波形への測定対象の状態変化の影響を低減できる情報取得装置及び方法を提供する。
【解決手段】情報取得装置で、光源部1は、ポンプ光と第1及び第2のプローブ光とを同期を取って生成する。発生部3は、ポンプ光の照射でテラヘルツパルス4を発生する。検出部6は、測定対象5への照射後のテラヘルツパルス50を検出する。第1の遅延部8は、検出部で、テラヘルツパルス50の時間波形上で所定点を追随して電場強度を検出すべく、ポンプ光の光路長と検出部への第1のプローブ光の光路長間の差を調整する。第2の遅延部9は、検出部6で時間波形を取得すべく、ポンプ光の光路長と検出部への第2のプローブ光の光路長間の差を、第1の遅延部で調整の光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する。補正処理部10は、測定対象の状態変化の時間波形への影響を、所定の点の電場強度又は第1の遅延部の光路長調整量を用いて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて測定対象の性状などの情報を観察する情報取得装置及び情報取得方法に関する。特に、テラヘルツ波を用いて測定対象の情報を取得する情報取得装置及び情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯からテラヘルツ帯(30GHz 以上30THz以下)までの周波数領域のうち任意の帯域を有する電磁波(本明細書において、単にテラヘルツ(THz)波などともいう)を用いた非破壊なセンシング技術が開発されてきている。この周波数帯の電磁波の応用分野について、X線に代わる安全な透視検査装置としてイメージングを行なう技術が開発されている。また、物質内部の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて、結合状態などの物性を調べる分光技術、生体分子の解析技術、キャリア濃度や移動度を評価する技術などが開発されつつある。これらの技術の応用先の一例として、医薬品製造プロセスにおける成分や粒径の検査装置が挙げられ、非破壊・インプロセス測定可能などのテラヘルツ波の特徴を生かした検査装置の開発が望まれている。
【0003】
テラヘルツ波による分光分析に使用される代表的な方法として、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS:Terahertz Time Domain Spectroscopy)と呼ばれる手法がある。THz−TDSでは、テラヘルツパルスの電場強度の時間波形を測定することができる。この時間波形をフーリエ変換することによってスペクトルを取得し、検量線などの分析手法によって測定対象の成分の同定を行なうことが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特表2006−526774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、測定対象、例えば粉粒体を搬送・供給・混合するなどの工程において、インプロセスで測定対象の成分や粒径などを測定する場合、テラヘルツパルス波形の取得時間より短い時間スケールで測定対象の厚さや密度が変化することがある。上記特許文献1に開示されている方法では、この様な厚さや密度の変化が考慮されているとは言い難い。そのため、測定したテラヘルツパルスの時間波形にそれらの変動による成分が重畳してしまう可能性があり、その結果、測定対象の成分や粒径などの分析精度の向上が容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明のテラヘルツ時間領域分光法を用いて測定対象に関する情報を取得する情報取得装置は、光源部と、発生部と、検出部と、第1の遅延部と、第2の遅延部と、補正処理部とを備える。光源部は、パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って生成する。発生部は、ポンプ光が照射されることによってテラヘルツパルスを発生する。検出部は、前記テラヘルツパルスの測定対象への照射後のテラヘルツパルスを検出する。第1の遅延部は、検出部によって、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随してその電場強度を検出できる様に、発生部に到達するポンプ光の光路長と検出部に到達する第1のプローブ光の光路長との間の光路長差を調整する。第2の遅延部は、検出部によって前記時間波形を取得できる様に、前記ポンプ光の光路長と前記検出部に到達する第2のプローブ光の光路長との間の光路長差を、第1の遅延部によって調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する。補正処理部は、測定対象の状態変化の前記時間波形への影響を、前記所定の固定点の電場強度又は第1の遅延部が調整する光路長調整量を用いて補正する。
【0006】
また、上記課題に鑑み、本発明のテラヘルツ時間領域分光法を用いて測定対象に関する情報を取得する情報取得方法は、生成ステップと、発生ステップと、検出ステップと、第1の遅延ステップと、第2の遅延ステップと、補正処理ステップとを含む。生成ステップは、パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って生成する。発生ステップは、ポンプ光を用いてテラヘルツパルスを発生する。検出ステップは、前記テラヘルツパルスの測定対象への照射後のテラヘルツパルスを検出する。第1の遅延ステップは、検出ステップで、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随してその電場強度を検出できる様に、発生ステップのポンプ光の光路長と検出ステップの第1のプローブ光の光路長との間の光路長差を調整する。第2の遅延ステップは、検出ステップで前記時間波形を取得できる様に、発生ステップのポンプ光の光路長と検出ステップの第2のプローブ光の光路長との間の光路長差を、第1の遅延ステップで調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する。補正処理ステップは、測定対象の状態変化の前記時間波形への影響を、前記所定の固定点の電場強度又は第1の遅延ステップで調整する光路長調整量を用いて補正する。
【0007】
また、別の本発明に係る測定対象に関する情報を取得するための情報取得装置は、
繰り返し周波数が同じになるように、パルス状のポンプ光、第1のプローブ光、第2のプローブ光、を発生するための光源部と、
前記ポンプ光が照射されることによって、テラヘルツパルスを発生させるための発生部と、
前記第1及び第2のプローブ光が照射されることによって、前記テラヘルツパルスの測定対象に透過或いは反射したテラヘルツパルスの電場強度を検出するための検出部と、
前記光源部から前記発生部までのポンプ光の光路長と、前記光源部から前記検出部までの前記第1のプローブ光の光路長と、の第1の光路長差を変えるための第1の遅延部と、
前記反射或いは透過したテラヘルツパルスの時間波形に対して設定された所定の固定点を追随させるように前記第1の遅延部を制御するための固定点追随部と、
前記光源部から前記発生部までのポンプ光の光路長と、前記光源部から前記検出部までの前記第2のプローブ光の光路長と、の第2の光路長差を変えるための第2の遅延部と、
前記固定点追随部が前記第1の遅延部を制御することによって調整された光路長差を、前記追随するために変えられた前記第2の光路長差に加えて調整するための補正処理部と、を備え、
前記補正処理部により調整された前記反射或いは透過したテラヘルツパルスの時間波形を取得する。
【0008】
さらに、別の本発明に係るテラヘルツ波の時間波形を取得するための装置は、
テラヘルツ波を発生させるための発生部と、
テラヘルツ波の強度情報を検出するための検出部と、
テラヘルツ波が前記検出部により検出されるタイミングを変えるための第1及び第2の遅延部と、
前記検出部により検出される前記テラヘルツ波における強度情報に関する予め設定された変化情報が取得されるように、前記第1の遅延部を制御するための第1の制御部と、
前記テラヘルツ波の時間波形が取得されるように、前記第2の遅延部を制御するための第2の制御部と、を備え
前記第1の制御部による前記第1の遅延部に対する制御に基づいて、前記時間波形を取得する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記補正処理部や補正処理ステップなどによって、測定対象の厚さや密度などの状態変化の、測定対象からのテラヘルツパルスの時間波形への影響の補正を行う。よって、テラヘルツパルスの時間波形の測定において、測定対象の厚さや密度などの変動の影響を低減できる。従って、テラヘルツ時間領域分光法を用いて取得する測定対象の情報の精度、例えば、測定対象の成分や粒径などの分析精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の原理を説明した後に、本発明の実施の形態を述べる。
本発明の情報取得装置及び情報取得方法は、上記効果を達成するために、次の基本的な構成要素ないしステップを有する。即ち、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、テラヘルツ波の時間波形を取得し、測定対象に関する情報を取得する情報取得装置は、以下の構成を備える。
【0011】
まず、光源部は、レーザ光などのパルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って(繰り返し周波数が同じになるように)生成する。
【0012】
次に、テラヘルツ波を発生させるための発生部は、パルス状のポンプ光が光伝導素子などに照射されることによってテラヘルツパルスを発生する。また、テラヘルツ波の強度情報(或いはテラヘルツ波の電界強度)を検出するための検出部は、上記テラヘルツパルスの測定対象への照射後の(或いは反射或いは透過した)テラヘルツパルスを、パルス状の上記プローブ光の光伝導素子などへの照射により検出する。
【0013】
また、テラヘルツ波が前記検出部により検出されるタイミングを変えるための第1の遅延部は、次のことを行う。すなわち、検出部で、上記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随してその電場強度を検出できる様に、発生部に到達するポンプ光の光路長と検出部に到達するパルス状の第1のプローブ光の光路長との間の光路長差を調整する。或いは、前記反射或いは透過したテラヘルツパルスの時間波形に対して設定された所定の固定点を追随させるように前記第1の遅延部を制御するための固定点追随部を備えることが好ましい。
【0014】
また、第2の遅延部は、検出部で上記時間波形を取得できる様に、上記ポンプ光の光路長と上記検出部に到達する第2のプローブ光の光路長との間の光路長差を、第1の遅延部によって調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する。
【0015】
そして、補正処理部は、測定対象の状態変化の上記時間波形への影響を、上記所定の固定点の電場強度又は第1の遅延部が調整する光路長調整量を用いて補正する。
【0016】
ここで、前記検出部により検出される前記テラヘルツ波における強度情報に関する予め設定された変化情報が取得されるように、前記第1の遅延部を制御するための第1の制御部を備えることが好ましい。さらに、前記テラヘルツ波の時間波形が取得されるように、前記第2の遅延部を制御するための第2の制御部を備えることが好ましい。そして、前記第1の制御部による前記第1の遅延部に対する制御に基づいて、前記時間波形を取得することで、上述した効果を得ることができる。すなわち、測定対象の厚さや密度などの状態変化の、測定対象からのテラヘルツパルスの時間波形への影響の補正を行うことができる。
【0017】
なお、前記影響とは、例えば、テラヘルツパルスの時間波形のピーク位置を固定点としたとき、このピーク位置がずれることを言う。また、このずれ量に基づいて第2の遅延部を制御することによって、補正された時間波形を取得することができる。
【0018】
また、テラヘルツ時間領域分光法を用いて測定対象に関する情報を取得する情報取得方法においては、生成ステップで、パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って生成する。発生ステップでは、パルス状のポンプ光を光伝導素子などに照射することによってテラヘルツパルスを発生する。検出ステップでは、上記テラヘルツパルスの測定対象への照射後のテラヘルツパルスを、パルス状の上記プローブ光の光伝導素子などへの照射によって検出する。第1の遅延ステップでは、検出ステップで、上記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随してその電場強度を検出できる様に、発生ステップのポンプ光の光路長と検出ステップの第1のプローブ光の光路長との間の第1の光路長差を調整する。第2の遅延ステップでは、検出ステップで上記時間波形を取得できる様に、発生ステップのポンプ光の光路長と検出ステップの第2のプローブ光の光路長との間の第2の光路長差を、第1の遅延ステップで調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する。補正処理ステップは、測定対象の状態変化の上記時間波形への影響を、上記所定の固定点の電場強度又は第1の遅延ステップで調整する光路長調整量を用いて補正する。上記光路長差は、時間的に言えば、光路長差を光速で割ったポンプ光とプローブ光との間の相対的な遅延時間である。また、上記所定の固定点は、少なくとも1つの点(極値など)を含み、例えば、上記照射後のテラヘルツパルスの時間波形のピーク点を含む。
【0019】
上記基本構成において、上記補正処理部や補正処理ステップによって、測定対象の厚さや密度などの状態変化の上記時間波形への影響の補正を行うので、テラヘルツ時間領域分光法を用いて取得する測定対象の情報の精度を向上することができる。即ち、測定対象からのテラヘルツパルスの時間波形から、上記発生部と上記検出部との間に置かれる測定対象の情報を精度良く取得することができる。ここで、上記時間波形の取得のために、発生部で発生するテラヘルツパルスのパルス周波数と、検出部に伝播してきたテラヘルツパルスをパルス状のプローブ光で取り込むサンプリング周波数との比はn:1(nは1以上の自然数)になっていればよい。典型的には、パルス周波数とサンプリング周波数は一致している。更に、ここでは、検出部に到達するテラヘルツパルスの時間幅は、上記サンプリングの時間幅より大きく、且つテラヘルツパルスの発生と検出サンプリングはほぼ同時に行われる様に設定される。
【0020】
上記補正処理部や補正処理ステップによって上記効果を得るのであるが、上記基本構成の範囲内で、以下に示す様な種々の態様が可能である。
【0021】
後述する実施形態と実施例では、ガリウムヒ素などの半導体の光伝導素子を用い、上記テラヘルツパルスの発生はパルス状のポンプ光で光学的にゲートすることで行われ、上記サンプリングはパルス状のプローブ光で光学的にゲートすることで行われる。しかし、他の半導体結晶、量子カスケードレーザや共鳴トンネルダイオードやガンダイオードなどの様な負性抵抗素子ないし半導体素子、電気光学結晶等を用いて、光学的にゲートすることでテラヘルツパルスを発生することもできる。
【0022】
光学的にゲートするための光パルスとしても、後述する実施形態と実施例で用いるものの他に、レーザ波長が異なる二種類のレーザの差周波の光パルス等を用いることもできる。また、光伝導素子を用いる方法の他に、電気光学効果のポッケルス効果を用いるサンプリング法や、ボロメータの様な熱検出器などの検波素子を用いて、光学的にサンプリングすることもできる。発生側と検出側のゲートのタイミングも、ほぼ同時に行われる様に設定すれば、1つのパルス光を分岐してポンプ光とプローブ光を生成しゲートのタイミングを取るといった方式に限らない。
【0023】
また、テラヘルツパルスが伝播する伝播部は、後述する実施形態と実施例で用いる空間部の他に、ストリップライン伝送路などの伝送線路であってもよい。伝送線路の場合、測定対象は伝送線路上に置くことができる。
【0024】
また、後述する実施形態や実施例では、遅延部はプローブ光の光路中にあるが、ポンプ光の光路中にあってもよい。プローブ光とポンプ光との間で相対的に遅延を生じさせればよいので、少なくとも一方の光路中に遅延部を設けて遅延時間を相対的に変化させればよい。更には、光学的にゲートするタイミングを相対的に変化させることができる手段であれば如何なる手段でも用いることができ、これにより上記電界強度を検出する検出時点を調整することができる。
【0025】
以下に、本発明を実施するための実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す。図1において、レーザ部1で発生したレーザ光2は、分岐されて、発生部3と第1の遅延部8にそれぞれ入射する。発生部3では、ポンプ光としてのレーザ光2の入射によってテラヘルツパルス4を発生する。テラヘルツパルス4は測定対象5に照射される。照射後のテラヘルツパルス50は検出部6に入射する。検出部6には、テラヘルツパルス50とプローブ光としてのレーザ光2が入射し、レーザ光2が入射したタイミングにおけるテラヘルツパルス50の電場強度の瞬間値を検出する。
【0026】
固定点調整部7では、上記テラヘルツパルス50の時間波形上で少なくとも一点の固定点の第一の電場強度信号を検出部6において同期を取って検出できる様に、プローブ光としてのレーザ光2に与える光路長調整量を出力する。こうした固定点としては、例えばピーク値を取る点が挙げられる。第1の遅延部8では、固定点調整部7が出力する該光路長調整量に従ってプローブ光としてのレーザ光2の光路長を調整する。これにより、ポンプ光とプローブ光との間の相対的遅延時間(光路長差)が調整される。
【0027】
第2の遅延部9では、テラヘルツパルス50の時間波形における少なくとも一点の第2の電場強度信号を検出部6で検出できる様に、第1の遅延部8によって光路長を調整されたレーザ光2の一部に対して更に光路長を調整する。時間波形掃引制御部32は、第2の遅延部9を制御してこれによって調整されるレーザ光2の光路長を逐次変化させてテラヘルツパルス50の時間波形の少なくとも一部を掃引して検出部6で検出させる。ここで、第2の遅延部9は、第1の遅延部8によって調整される上記相対的光路長差に加えて更に相対的光路長差を調整すればよいので、第1の遅延部8を図1の破線部の所に配置してもよい。この場合の構成は図17のようになり、第2の遅延部9は、時間波形掃引制御部32と固定点調整部7からそれぞれ出力される光路長調整量の和に従って、プローブ光としてのレーザ光2の光路長を逐次変化させる。
【0028】
補正処理部10は、上記第1の電場強度信号又は第1の遅延部8がレーザ光2に与える上記光路長調整量を用いて、上記第2の電場強度信号に対する補正処理を行なう。情報取得部47では、時間波形掃引制御部32で逐次制御される第2の遅延部9により調整されるレーザ光2の光路長の変化に従って、補正処理部10で補正処理された第2の電場強度信号を並べる。こうしてテラヘルツパルス50の時間波形の少なくとも一部を再生する。また、時間波形をフーリエ変換したスペクトル情報を用いて測定対象5の成分や粒径を分析することも可能である。
【0029】
図2を参照して、テラヘルツパルス50の時間波形の測定方法について説明する。図2は、検出部6に到達するテラヘルツパルス50の電場強度を、横軸を時間軸として表したグラフである。図2のテラヘルツパルス50の波形上の黒丸は、検出部6にレーザ光2が照射されるタイミングを表している。つまり、この瞬間のテラヘルツパルス50の電場強度が検出されることになる。ここで、τは、第2の遅延部9がレーザ光2に加える遅延時間である。遅延時間とは、上記光路長調整量を時間軸上で読み替えたものである。
【0030】
τを一定の値、例えばτ1に固定すると、レーザ光2とテラヘルツパルス50の繰り返し周波数は同じなので、テラヘルツパルス50に対して同じタイミングでレーザ光2を照射させ続けることができる。つまり、テラヘルツパルス50上の同じポイントを測定することができる。図2では、時刻t1からt1’の間でτを固定しており、その時間幅の間、繰り返されるテラヘルツパルス50の信号を積算して検出する。ここで、τをτ1からτ2に変更すると、テラヘルツパルス50上の別のポイントを測定することができる。この様に、上記の測定と遅延時間τ変更を繰り返すことによって、テラヘルツパルス50の時間波形全体を掃引することが可能である。これらの測定値を、遅延時間τを横軸として時系列に並べることで、図3に示す様にテラヘルツパルス50の時間波形を再生することができる。
【0031】
ここで、補正処理部10が無い場合における、測定対象5の厚さや密度の変動の影響について図4を参照して説明する。図4は、時刻t3からt3’において測定対象5の厚さが一時的に増加した時の、検出部6に到達するテラヘルツパルス50の電場強度を、横軸を時間として模式的に示したものである。測定対象5の厚さや密度の増加は、通常、テラヘルツパルス50の検出部6への到達時間の遅れと電場強度低下をもたらし、テラヘルツパルス50は点線から実線の様に変化する。しかしながら、固定点調整部7や第1の遅延部8が無いので、レーザ光2の検出部6への到達時間は変化しない。従って、このときのテラヘルツパルス50の波形を再生すると、図5の様になる。
【0032】
次に、測定対象5の厚さや密度の変動の影響を低減して図5の様な波形を補正する手法について、図6を参照して説明する。
【0033】
まず、測定対象5の厚さや密度の増加がもたらすテラヘルツパルス50の到達時間の遅れを補償するために、検出部6では、テラヘルツパルス50の時間波形における少なくとも一点の固定点の第1の電場強度信号、例えばピーク値を追随して検出する。ピーク値を追随するアルゴリズムとして、例えば山登り法を用いることができる。山登り法では、或る時間波形内の点で微小に遅延時間を変化させ、その変化に対する電場強度の傾きを算出する。傾きが正ならば右側に、傾きが負ならば左側にピークとなる点が存在するので、この傾きに応じてピークとなる方向に遅延時間を変化させる。この探索を続けて、傾きがゼロクロスするポイントへ近づけていく。
【0034】
図6に、このピーク値探索の概略を示す。図6(a)は、図2の時間軸t1からt1’を拡大したものである。ここで、白丸は、第1の遅延部8経由のレーザ光2が検出部6に照射されるタイミングを表している。つまり、この瞬間のテラヘルツパルス50の電場強度が検出部6において検出されることを示している。ここで、τは、第1の遅延部8がレーザ光2に加える遅延時間である。また、図6(b)は、傾きの時間変化を示している。この様に、上記のアルゴリズムを適用することにより、傾きゼロの点、例えばピーク値を追随して検出することができる。他方、黒丸は、第1及び第2の遅延部8、9経由のレーザ光2が検出部6に照射されるタイミングを表している。τは変化してτは一定であるので、これらの和の遅延時間は変化する。この変化する遅延時間を与えられたレーザ光2が照射される瞬間のテラヘルツパルス50の電場強度が検出部6で検出されることを黒丸は示している。
【0035】
補正の原理は次の様なものである。
ピーク値は測定対象5の厚さが増すにつれて、次式で示すランベルト・ベールの法則に従って減衰する。
I/I0=exp(-αL) (1)
【0036】
ここで、I0は測定対象5への入射光強度、Iは透過光強度、αは吸収係数、Lは測定対象5の光路長である。
【0037】
測定対象5の厚さLに変動がない時の、検出部6で得られるテラヘルツパルス50の第1の電場強度信号(ここではピーク値)をI10、第2の電場強度信号をI20とする。また、測定対象5の厚さがΔLだけ変動した時の、検出部6で得られるテラヘルツパルス50の第1の電場強度信号(ここではピーク値)をI1、第2の電場強度信号をI2とする。
【0038】
すると、上記のランベルト・ベールの法則から、次式(2)と(3)が導かれる。
I1/I10=exp(-αΔL) (2)
I2/I20=exp(-αΔL) (3)
式(2)、(3)より、次式(4)が導かれる。
I20=I2I10/I1 (4)
10は事前に測定、又は、一定の値にしておけばよい。従って、式(4)に基づいてI1とI2からI20を得ることができる。これらの補正値を含む測定値を、第2の遅延部9で与えられる遅延時間τを横軸として時系列に並べることで、補正されたテラヘルツパルス50の時間波形を再生することができる。測定対象の密度が経時的に変化する場合は、吸収係数αが変化するとして、同様な補正処理を行うことができる。
【0039】
上記で説明した、測定対象5の厚さや密度の変動の影響の低減の効果について、図7、図8を参照して説明する。任意の変動はフーリエ級数展開によって正弦波の重ね合せで表すことができるので、ここでは幾つかの周波数の正弦波状の変動のケースについて説明する。なお、ここでは、計算を簡単にするため、ピーク値の追随における時間遅れは考慮していない。図7のプロットの内、「リファレンス」は測定対象5が無い時における再生波形、「変動無し」は厚みや密度が変動しない場合の測定対象5を通過したテラヘルツパルス50の再生波形である。また、「10Hz、50%」、「5Hz、50%」、「1Hz、50%」は、それぞれ周波数10Hz、5Hz、1Hzで振幅変動50%の厚みや密度の変化がある場合において測定対象5を通過したテラヘルツパルス50の再生波形である。ここで、例えば周波数5Hzの厚さや密度の変動は、テラヘルツパルス50の時間波形に周期0.4ピコ秒で重畳している。上記の様な厚さや密度の変動が加わることにより、テラヘルツパルス50の再生波形においてピーク位置の変化やピーク値の変動、ピークの分裂といった現象が発生していることが確認できる。
【0040】
このテラヘルツパルス50の時間波形をFFT(高速フーリエ変換)するとスペクトルは図8の様になる。「リファレンス」データと「変動無し」データを比較すると、図8中の矢印の辺りに測定対象5の吸収帯があることが分かる。この吸収帯によって、測定対象5に含まれる成分を同定することが可能となる。しかしながら、「5Hz、50%」、「1Hz、50%」のデータでは図中矢印の位置で吸収帯を確認できないため、成分同定が不可能となる。また、「10Hz、50%」のデータでは、吸収帯における落ち込みが大きいため、成分比同定の精度が低下する。
【0041】
ここで、テラヘルツパルス50の1波形の再生の途中で厚さや密度ではなく成分が変化した場合を考える。この場合、成分の変化に起因するテラヘルツパルス50の時間遅れや強度の変化は上記の原理によって厚みや密度の変化と同様に補正される。ただし、成分の変化に起因するテラヘルツパルス50の歪みに関しては補正できず、測定のSNを低下させることになる。
【0042】
従って、本発明はテラヘルツパルス50の1波形の再生の途中での状態変化に関して、厚さや密度の影響の補償には効果が大きいが、成分変化の補償には比較的小さな効果となるといえる。
【0043】
本実施形態では、測定対象の厚さや密度の変動に関して補正することによって、測定対象5の厚さや密度の変動の影響を低減したテラヘルツパルス50の測定が可能である。また、それによってスペクトルの偽成分が低減されるので、測定対象5の成分測定を精度良く実施することができる。例えば、後述する搬送管中の粉体や液体の測定やインプロセスでの測定においては測定対象の厚さが時間的に変動するが、本実施形態によればその様な変動の影響を低減して分析精度を向上することができる。
【実施例】
【0044】
以下、より具体的な実施例を説明する。
(第1の実施例)
本発明による第1の実施例は、上記検出部6に複数の検出素子を含むことを特徴とする情報取得装置及び方法に関する。図9に本実施例による情報取得装置を示す。
【0045】
図9において、1はレーザ部であり、レーザ光2が発生する。レーザ部1には、フェムト秒パルスレーザ光源が好適に使用される。典型的には、レーザ光2の波長は780nm、パルス幅は数10フェムト秒乃至数100フェムト秒、繰り返し周波数は数10MHz、例えば76MHzである。発生したレーザ光2は、ビームスプリッタ13によって発生用レーザ光(ポンプ光)14と検出用レーザ光(プローブ光)15に分割される。
【0046】
発生部3には光伝導素子が設置されている。図10は、光伝導素子33の概略図であり、基板34に形成したガリウム砒素35の薄膜に電極36となる金属を成膜したものが好適に用いられる。電極36間にはギャップ37が設けられている。ギャップ37の幅は、例えば5μmである。基板34にはシリコンを使用することができる。ガリウム砒素35の厚さは数μmのものが多く使用される。
【0047】
電極36には電圧が印加されており、ギャップ37に発生用レーザ光14が照射されることによって、テラヘルツパルス4が発生する。発生したテラヘルツパルス4のパルス幅は、典型的には数10フェムト秒乃至数ピコ秒であり、繰返し周波数は発生用レーザ光14と同じで数10MHzである。ここで、発生用レーザ光14はチョッパ16で強度変調されているため、テラヘルツパルス4も同様な強度変調を受けている。発生部3に設置する素子としては発生用レーザ光14によってテラヘルツパルス4を発生する素子であればよい。例えば、DAST(4−dimethylamino−N−methyl−4−stilbazolium Tosylate)結晶などを使用することもできる。
【0048】
変調周波数制御部17は、例えば1kHzの変調周波数で発生用レーザ光14を強度変調する様にチョッパ16を制御する。この変調周波数の信号はロックインアンプ28にも伝送される。ここではチョッパ16によって発生用レーザ光14を変調しているが、変調方法としては、発生部3に設置された光伝導素子33のギャップ37に印加される電圧を変調してもよい。
【0049】
発生部3にて発生したテラヘルツパルス4は、レンズ18によって搬送管19の窓20を通して搬送管19の内部へと照射される。搬送管19の内部では、例えば医薬品などの粉体や液体の状態の測定対象5が図9に矢印で示す搬送方向に搬送されている。テラヘルツパルス4はこの測定対象5を透過する。透過したテラヘルツパルス50は搬送管19の窓21を通して搬送管19の外部へと出射し、レンズ22とビームスプリッタ23によって第1の検出部11と第2の検出部12の両方へ導かれる。
【0050】
一方、検出用レーザ光15は、第1の遅延部8を通過した後、ピームスプリッタ24によって第1の検出用レーザ光(第1のプローブ光)25と第2の検出用レーザ光(第2のプローブ光)26とに分岐される。第1の検出用レーザ光25は第1の検出部11へ入射する。第2の検出用レーザ光26は第2の遅延部9を通過した後、第2の検出部12へ入射する。
【0051】
第1の遅延部8は、通過する検出用レーザ光15の光路長を変化させることによって、第1の検出用レーザ光25と第2の検出用レーザ光26がそれぞれ第1の検出部11と第2の検出部12に到達する遅延時間を同時に制御するものである。第2の遅延部9は、通過する第2の検出用レーザ光26の光路長を変化させることによって、第2の検出用レーザ光26が第2の検出部12に到達する遅延時間を更に制御するものである。第1の遅延部8と第2の遅延部9には、例えば、レトロリフレクタを自動ステージ上に設置したものを使用することができる。
【0052】
第1の検出部11と第2の検出部12には、それぞれ図10に示す様な光伝導素子33が組み込まれている。第1の検出部11においてテラヘルツパルス50の電場強度を測定する原理は以下の様になる。第2の検出部12でも同様の原理で電場強度が測定される。
【0053】
第1の検出部11に設置された光伝導素子33のギャップ37には、測定対象5を透過してきたテラヘルツパルス50と、第1の検出用レーザ光25とが入射する。この入射タイミングの関係を示したものが図11である。ここで、テラヘルツパルス50のパルス幅は第1の検出用レーザ光25のパルス幅よりも大きい。テラヘルツパルス50の電場強度の検出方法は次の様になる。まず、第1の検出用レーザ光25が光伝導素子33のギャップ37に入射することによって、ギャップ37に存在するガリウム砒素35にキャリアが発生する。そこにテラヘルツパルス50が入射すると、テラヘルツパルス50の電場によってキャリアが加速されて電極36に到達し、電極36間にテラヘルツパルス50の電場強度に応じた電流が流れる。そこで、その電流を測定することによって、テラヘルツパルス50の電場強度を測定することができる。キャリアが存在する瞬間だけ電流が流れるので、図11のテラヘルツパルス50に白丸で示した部分の電場強度を測定することができる。また、測定の時間分解能は、第1の検出用レーザ光25のパルス幅が狭くなるほど、又は、キャリアのライフタイムが短くなるほど高くなる。
【0054】
第1の検出部11では、テラヘルツパルス50の時間波形におけるピーク値を追随して検出する。一方、第2の検出部12では、テラヘルツパルス50の時間波形全体の電場強度を取得する。
【0055】
補正処理部を構成する補償部27は、上記実施形態において説明した補正処理部10の補正と同様の補正を行なう。補正された第2の電場強度信号はロックインアンプ28へと伝送される。ロックインアンプ28では、チョッパ16が発生用レーザ光14に与えた変調周波数と同じ周波数を持つ成分を、補償部27から伝送された信号から抽出する。ロックインアンプ28の設定としては、典型的には、ロックイン時定数30ms、サンプリングタイム0.1sを使用できる。このとき、1000ポイントのデータを取得すると測定時間は100秒となる。この場合、100秒以下の時間スケールで起こる測定対象5の厚さや密度の変動は、取得されるテラヘルツパルス50の時間波形に重畳し、測定対象5の成分や粒径などの分析精度を低下させる。
【0056】
処理部29には、ロックインアンプ28の出力信号と時間波形掃引の遅延時間の情報が伝送され、時間波形掃引制御部32からの遅延時間に基づいてロックインアンプ28の出力信号を時系列に並べて、テラヘルツパルス50を再生する。再生されたテラヘルツパルス50の時間波形の分解能は、典型的には20フェムト秒である。ここで、テラヘルツパルス50の時間波形をフーリエ変換してスペクトルを得てもよい。スペクトルから測定対象5の成分を同定してもよい。また、スペクトルから測定対象5の粒径を同定してもよい。測定対象5を構成する物質の粒径によって、図12に示す様に透過率スペクトルのカットオフが異なるので、スペクトルから粒径を判断することが可能である。数μm乃至数1000μm程度の粒径に対してはテラヘルツ領域にこのカットオフがあるので、本装置を用いて粒径測定が可能である。
【0057】
これらのテラヘルツパルス50の時間波形やスペクトルや成分や粒径は、表示部30に伝送されて表示される。
【0058】
以下、テラヘルツパルス50の一波形を測定する時のフローチャートについて、図13を参照して説明する。
【0059】
まず、ステップ0(S0)で、測定対象5へのテラヘルツパルス列の照射を開始する。(S1)で第2の遅延部9を停止する。
【0060】
次に、(S2)から(S9)で、ピークロック動作を行なう。(S2)で、第1の検出部11において、或る遅延時間におけるテラヘルツパルス50の電場強度を検出する。(S3)で、第1の遅延部8で光路長を微小に変化させる。ここで、微小変化量としては、例えば50μm程度とする。光路長を変化させた後、第1の検出部11でテラヘルツパルス50の電場強度を検出する(S4)。(S2)と(S4)において検出した2つの電場強度と、(S3)において変化させた光路長の変化量から、ピークロック部31で傾きを算出する(S5)。このピークロック部31は、図1における固定点調整部7に対応する。
【0061】
次に、ピークロック部31で得られた傾きがゼロクロスしたかを判定する(S6)。ゼロクロスしていれば、(S10)に進む。ゼロクロスしていなければ、(S7)に進む。(S7)では、傾きが正であれば(S8)へ進んで第1の遅延部8で光路長を増加し、傾きが負であれば(S9)へ進んで第1の遅延部8で光路長を減少する。これは、ピークに近づく方向へ光路長を調整するためである。光路長変化量は典型的には6μm程度であるが、傾きが大きい時には大きく変化させるなどしてもよい。この動作の後、(S2)に戻る。ここで、(S8)又は(S9)の後に(S2)に戻らずに、(S10)に進んでもよい。測定精度が多少犠牲になっても測定速度を速めたい場合などには、こうした動作としてもよい。ピークロック動作の時定数は測定対象5の厚さや密度の変動の時定数より充分短いことが望ましい。例えば、測定対象5の厚さや密度の変動の時定数が100msである場合、ピークロック動作の時定数は10msオーダー以下であることが望ましい。
【0062】
ここまででピーク値に近づいたので、次に(S10)から(S14)で、第2の検出部12におけるテラヘルツパルス50の電場強度の検出と、その補償を行なう。(S10)で、(S4)において取得された検出値をI1とする。第2の検出部12でテラヘルツパルス50の電場強度を検出し、I2とする(S11)。補償部27でI2/I1を演算する(S12)。この演算により、I2に含まれる測定対象5の厚さの変動の影響を除去することができる。演算結果はロックインアンプ28へと伝送され、チョッパ16の変調周波数をキャリア周波数として位相検波される(S13)。その後、第2の遅延部9の停止時間が0.1秒以上になったかを判定する(S14)。この停止時間はテラヘルツパルス50の時間波形中の1点における信号の積算時間となる。ここで0.1秒以上の積算時間に達していない場合は(S2)に戻り、0.1秒以上の積算時間に達している場合は(S15)に進む。
【0063】
(S15)では、テラヘルツパルス50の時間波形全体の掃引が終了したかを判定する。掃引が終了していない場合には、(S17)で第2の遅延部9によって光路長を1ステップ増加させてから(S2)に戻る。掃引が終了した場合には、(S16)に進む。
【0064】
(S16)、(S18)、(S19)は、テラヘルツパルス50の時間波形を再生し、それに基づいて測定対象5の成分を同定するステップである。(S16)において、処理部29で、ロックインアンプ28からの信号を時間波形掃引制御部32から得られる遅延時間に従って時系列に並べ、テラヘルツパルス50の時間波形を再生する。この時間波形を処理部29でFFTし、テラヘルツパルス50のスペクトルを算出する(S18)。また、処理部29でスペクトルと予め記憶してあるスペクトルテーブルとを比較して、測定対象5の成分を同定する(S19)。スペクトルテーブルとしては、例えば、測定対象5に含まれる成分の吸収帯を用いた検量線を使用することができる。
【0065】
以上の様にしてテラヘルツパルス50の1つの波形を再生し、測定対象5の成分を同定することができる。ここで、第1の検出部11にて検出されるピーク値を記憶して時系列に並べることで、測定対象5の厚さや密度の変動状況を同時に測定することも可能である。
【0066】
また、図13では、(S1)から(S9)までのピークロック動作と(S10)の検出とを交互に実施しているが、ピークロック動作は、測定対象5の厚さや密度の変動に追随できる程度に頻度を下げてもよく、例えば100ms毎に実施してもよい。また、(S12)の補償を、(S15)の掃引終了後にまとめて実施してもよい。一方、図17に示した構成においては、図13に示したフローチャートを図18のように変更したフローチャートを使用することができる。ここで、第2の遅延部9は、時間波形掃引制御部32と固定点調整部7からそれぞれ出力される光路長調整量の和に従って、プローブ光としてのレーザ光2の光路長を逐次変化させる。そこで、(S8)と(S9)において第1の遅延部における光路長の変化量と同量を第2の遅延部においても変化させる必要がある。
【0067】
以上に説明した第1の実施例では、次の様になっている。光源部は、パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを分岐して生成するためのパルス状のレーザ光を出射するためのレーザ部1を含む。第1の遅延部8は、同期を取るための検出部に到達するレーザ光の一部である第1のプローブ光25の光路長を調整する。第2の遅延部9は、第1の遅延部8によって光路長を調整されたレーザ光の一部である第1のプローブ光の一部である第2のプローブ光26を用いて更に光路長を調整する。また、第1の遅延部8が上記調整を行うための光路長調整量信号を出力するピークロック部(固定点調整部)31と、第2の遅延部9が上記調整を行うための光路長追加調整量信号を出力するための時間波形掃引制御部32とを備える。補正処理部27は、時間波形掃引制御部による第2の遅延部の制御によって、測定対象の経時的な状態変化の検出部によって取得する時間波形への影響を、所定の固定点の電場強度を用いて補正する。この状態変化は、測定対象5に照射後のテラヘルツパルス50の時間波形を取得する時間よりも短い時間スケールで起こるものである。更に、検出部は、検出素子を複数含み、少なくとも一つの検出素子11は、第1の遅延部を通過した第1のプローブ光を受光すると共に、異なる少なくとも一つの検出素子12は、第1の遅延部を通過し更に第2の遅延部を通過した第2のプローブ光を受光する。こうした本実施例でも、測定対象5の厚さや密度の変動に関して補正することによって、測定対象5の厚さや密度の変動の影響を低減したテラヘルツパルス50の測定が可能となる。特に、本実施例では、複数の検出素子11、12を用いており、第1の電場強度信号と第2の電場強度信号をそれぞれ異なる検出素子から取り出すことができるので、簡便な処理で測定を行なうことが可能となる。
【0068】
(第2の実施例)
本発明による第2の実施例は、第1の遅延部8によって検出用レーザ光15に与えられる遅延時間を用いて、第2の検出部12で検出される電場強度の値を補正することを特徴とする情報取得装置及び方法に関する。即ち、ここでは、補正処理部は、測定対象の状態変化の上記時間波形への影響を、第1の遅延部が調整する光路長調整量を用いて補正する。図14に本実施例による情報取得装置を示す。情報取得装置の他の部分は上記第1の実施例に準ずる。図14では、図9に示すものと同機能のものは、図9と同じ符号で示す。
【0069】
図14において、第1の検出部11の測定値は、ピークロック部31に送られる。ピークロック部31では、前述した様なピークロック手法を用いて、テラヘルツパルス50の時間波形のピーク値を第1の検出部11が追随する様に、第1の遅延部8が検出用レーザ光15に与える遅延時間を調整する。この遅延時間の情報は、ピークロック部31から補償部24にも伝送される。
【0070】
テラヘルツパルス50が測定対象5を厚さΔLだけ通過したときの、テラヘルツパルス50のピークの遅延時間をτD、真空中の光速をc、測定対象5の屈折率をnとしたとき、以下の式が成り立つ。
ΔL=cτp/n (5)
式(5)と、上記式(1)より、以下の関係が導かれる。
I0=I/exp(-αcτp/n) (6)
ただし、ここでは、I0は測定対象5が厚さΔL変化しない状態での透過光強度、Iは測定対象5が厚さΔL変化した状態での透過光強度である。
【0071】
補正処理部を構成する補償部27では、この式(6)に基づいて、補正された測定値I0を演算する。本実施例によると、ピーク値の変化が小さい場合でも、ピークの遅延量が大きければ、ピークの遅延量を用いることで高精度に測定を実施できる。その他の動作や効果については、第1の実施例と同様である。
【0072】
(第3の実施例)
本発明による第3の実施例は、上記検出部6に検出素子を1つのみ備えることを特徴とする情報取得装置及び方法に関する。図15に本実施例による情報取得装置を示す。情報取得装置の他の部分は上記第1の実施例に準ずる。図15でも、図9に示すものと同機能のものは、図9と同じ符号で示す。
【0073】
図15において、第1の検出用レーザ光25は第1のチョッパ38で、第2の検出用レーザ光26は第2のチョッパ39でそれぞれ光学的にチョッピングされる。ここで、第1のチョッパ38と第2のチョッパ39のチョッピング周波数は互いに異なっており、例えば第1のチョッパ38は1kHz、第2のチョッパ39は1.7kHzである。
【0074】
本実施例では、検出器12で検出された測定値は、第1のロックインアンプ40と第2のロックインアンプ41に伝送される。第1のロックインアンプ40の搬送周波数は第1のチョッパ38のチョッピング周波数、第2のロックインアンプ41の搬送周波数は第2のチョッパ39のチョッピング周波数となっている。従って、第1のロックインアンプ40では、第1の検出用レーザ光25によって誘起される測定値を検出することができる。一方、第2のロックインアンプ41では、第2の検出用レーザ光26によって誘起される測定値を検出することができる。即ち、ここでは、検出部は、上記第1のプローブ光と上記第2のプローブ光を受光する1つの検出素子12を含み、第1のプローブ光と第2のプローブ光は互いに異なる態様で変調されている。
【0075】
ここで、第1の検出用レーザ光25の検出部12への照射タイミングが常にテラヘルツパルス50のピーク値を補足していれば、第1のロックインアンプ40から出る信号は、テラヘルツパルス50のピーク値に対応する。
【0076】
第1のロックインアンプ40の出力信号と、第2のロックインアンプ41の出力信号は補償部27において、上記実施形態に示した方法で補正される。また、第1のロックインアンプ40の出力信号はピークロック部31へも送られる。
【0077】
本実施例によると、2つの検出素子の位置ずれの影響を、検出素子を1つにすることで排除できるので、より高精度な測定を実施することができる。その他の動作や効果については、第1の実施例と同様である。
【0078】
(第4の実施例)
本発明による第4の実施例は、補正処理ステップにおいて補正されたテラヘルツパルスの時間波形に基づいて、測定対象5の物性の異常値、例えば成分の変化などを検出する様に構成されていることを特徴とする情報取得装置及び方法に関する。図16に本実施例による処理部29の例を示す。情報取得装置の他の部分は上記第1の実施例に準ずる。
【0079】
図16において、時間波形再生部42にはロックインアンプ28の信号と、時間波形掃引制御部32の遅延時間情報が与えられる。時間波形再生部42では、これら2つの信号を基に、テラヘルツパルス50の時間波形を再生する。FFT部43では、再生された時間波形を高速フーリエ変換によってスペクトルに変換する。検量線強度検出部44では、検量線データベース45で指定される周波数のスペクトル強度を抽出する。検量線データベース45によって指定される周波数としては、例えば、測定対象5が正常状態である時の吸収帯や、逆に測定対象5が異常状態である時の吸収帯を用いることができる。
【0080】
比較判定部46では、検量線強度検出部44で得られたスペクトル強度を基に、測定対象5が正常状態であるか否かを判断し、表示部30に判断結果を表示する。異常と判断された場合には、例えば、測定対象5の製造を停止するなどの措置を実施してもよい。測定対象5が正常状態であるとの判断は、例えば、正常状態である時の吸収帯の強度と、異常状態である時の吸収帯の強度の比が一定値以上であることを判断基準とすることができる。
【0081】
本実施例によると、測定対象5の異常を感知して、表示部30に表示したり、測定対象5の製造を止めたりすることができるので、測定対象5の良品率を向上させることが可能である。その他の動作や効果については、第1の実施例と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明を適用できる情報取得装置及び方法の一実施形態を示す構成図である。
【図2】テラヘルツパルスのパルス列と、それに対する検出用レーザ光の入射タイミングの一例を示す図である。
【図3】再生されたテラヘルツパルスの時間波形の一例を示す図である。
【図4】測定対象の厚さが一時的に増加した場合の、テラヘルツパルスのパルス列と、それに対する検出用レーザ光の入射タイミングの一例を示す図である。
【図5】測定対象の厚さが一時的に増加した場合の、再生されたテラヘルツパルスの時間波形の一例を示す図である。
【図6】(a)は(図2)の一部を時間軸で拡大した図であり、(b)はテラヘルツパルスの時間波形上において、検出用レーザ光が照射されるタイミングでの傾きの変化の一例を示す図である。
【図7】再生されたテラヘルツパルスの時間波形の例を示す図である。
【図8】図7のテラヘルツパルスの時間波形のスペクトルの例を示す図である。
【図9】第1の実施例における情報取得装置及び方法を示す図である。
【図10】光伝導素子の一例を示す図である。
【図11】検出部に入射するテラヘルツパルスと検出用レーザ光の入射タイミングの関係の一例を示す図である。
【図12】測定対象の粒径の違いによる透過率スペクトルの差異の一例を示す図である。
【図13】テラヘルツパルスの1波形を測定して測定対象の成分を同定するフローチャートの一例を示す図である。
【図14】第2の実施例における情報取得装置及び方法を示す図である。
【図15】第3の実施例における情報取得装置及び方法を示す図である。
【図16】第4の実施例における処理部を示す図である。
【図17】本発明を適用できる情報取得装置及び方法の一実施形態を示す構成図である。
【図18】テラヘルツパルスの1波形を測定して測定対象の成分を同定するフローチャートの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 光源部(レーザ部)
2 レーザ光
3 発生部
4 テラヘルツパルス
5 測定対象
6 検出部
7 固定点調整部
8 第1の遅延部
9 第2の遅延部
10 補正処理部
11 検出部(第1の検出素子)
12 検出部(第2の検出素子)
13、24 発生部(ビームスプリッタ)
14 ポンプ光(発生用レーザ光)
15 プローブ光(検出用レーザ光)
25 第1のプローブ光(第1の検出用レーザ光)
26 第2のプローブ光(第2の検出用レーザ光)
27 補正処理部(補償部)
29 処理部
31 固定点調整部(ピークロック部)
32 時間波形掃引制御部
33 光伝導素子
47 情報取得部
50 測定対象への照射後のテラヘルツパルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って生成するための光源部と、
前記ポンプ光が照射されることによってテラヘルツパルスを発生するための発生部と、
前記テラヘルツパルスの測定対象への照射後のテラヘルツパルスを検出するための検出部と、
前記検出部によって、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随して該固定点の電場強度を検出できる様に、前記発生部に到達するポンプ光の光路長と前記検出部に到達する前記第1のプローブ光の光路長との間の光路長差を調整するための第1の遅延部と、
前記検出部によって、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形を取得できる様に、前記発生部に到達するポンプ光の光路長と前記検出部に到達する前記第2のプローブ光の光路長との間の光路長差を、前記第1の遅延部によって調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整するための第2の遅延部と、
測定対象の状態変化の前記検出部によって取得する時間波形への影響を、前記所定の固定点の電場強度又は前記第1の遅延部が調整する光路長調整量を用いて補正するための補正処理部と、
を備えることを特徴とするテラヘルツ時間領域分光法を用いて測定対象に関する情報を取得する情報取得装置。
【請求項2】
前記光源部は、前記パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを分岐して生成するためのパルス状のレーザ光を出射するためのレーザ部を含み、
前記第1の遅延部は、同期を取るための前記検出部に到達する前記レーザ光の一部である第1のプローブ光の光路長を調整し、
前記第2の遅延部は、前記第1の遅延部によって光路長を調整された前記レーザ光の一部である第1のプローブ光の一部である第2のプローブ光を用いて更に光路長を調整し、
前記第1の遅延部が前記調整を行うための光路長調整量信号を出力する固定点調整部と、前記第2の遅延部が前記調整を行うための光路長追加調整量信号を出力するための時間波形掃引制御部とを備え、
前記補正処理部は、前記時間波形掃引制御部による前記第2の遅延部の制御によって前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形を取得する時間よりも短い時間スケールで起こる測定対象の経時的な状態変化の前記検出部によって取得する時間波形への影響を、前記所定の固定点の電場強度又は前記固定点調整部が出力する光路長調整量信号を用いて補正することを特徴とする請求項1に記載の情報取得装置。
【請求項3】
前記所定の固定点は、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形のピーク点を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報取得装置。
【請求項4】
前記検出部は、検出素子を複数含み、
少なくとも一つの前記検出素子は、前記第1の遅延部を通過した前記第1のプローブ光を受光すると共に、異なる少なくとも一つの前記検出素子は、前記第1の遅延部を通過し更に前記第2の遅延部を通過した前記第2のプローブ光を受光することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の情報取得装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記第1のプローブ光と第2のプローブ光を受光する1つの検出素子を含み、
前記第1のプローブ光と第2のプローブ光は互いに異なる態様で変調されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の情報取得装置。
【請求項6】
パルス状のポンプ光と第1のプローブ光と第2のプローブ光とを同期を取って生成する生成ステップと、
前記ポンプ光を用いてテラヘルツパルスを発生する発生ステップと、
前記テラヘルツパルスの測定対象への照射後のテラヘルツパルスを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形上で所定の固定点を追随して該固定点の電場強度を検出できる様に、前記発生ステップで用いるポンプ光の光路長と前記検出ステップで用いる前記第1のプローブ光の光路長との間の光路長差を調整する第1の遅延ステップと、
前記検出ステップにおいて、前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形を取得できる様に、前記発生ステップで用いるポンプ光の光路長と前記検出ステップで用いる前記第2のプローブ光の光路長との間の光路長差を、前記第1の遅延ステップで調整された光路長差に光路長追加調整量を加えて調整する第2の遅延ステップと、
測定対象の状態変化の前記検出ステップにおいて検出する時間波形への影響を、前記所定の固定点の電場強度又は前記第1の遅延ステップで調整する光路長調整量を用いて補正する補正処理ステップと、
を含むことを特徴とするテラヘルツ時間領域分光法を用いて測定対象に関する情報を取得する情報取得方法。
【請求項7】
前記測定対象の状態変化は、前記測定対象の厚さ又は密度の経時的な状態変化であることを特徴とする請求項6に記載の情報取得方法。
【請求項8】
前記補正処理ステップにおいて補正された前記照射後のテラヘルツパルスの時間波形に基づいて、測定対象の成分又は粒径を判断することを特徴とする請求項6又は7に記載の情報取得装置。
【請求項9】
測定対象に関する情報を取得するための情報取得装置であって、
繰り返し周波数が同じになるように、パルス状のポンプ光、第1のプローブ光、第2のプローブ光、を発生するための光源部と、
前記ポンプ光が照射されることによって、テラヘルツパルスを発生させるための発生部と、
前記第1及び第2のプローブ光が照射されることによって、前記テラヘルツパルスの測定対象に透過或いは反射したテラヘルツパルスの電場強度を検出するための検出部と、
前記光源部から前記発生部までのポンプ光の光路長と、前記光源部から前記検出部までの前記第1のプローブ光の光路長と、の第1の光路長差を変えるための第1の遅延部と、
前記反射或いは透過したテラヘルツパルスの時間波形に対して設定された所定の固定点を追随させるように前記第1の遅延部を制御するための固定点追随部と、
前記光源部から前記発生部までのポンプ光の光路長と、前記光源部から前記検出部までの前記第2のプローブ光の光路長と、の第2の光路長差を変えるための第2の遅延部と、
前記固定点追随部が前記第1の遅延部を制御することによって調整された光路長差を、前記追随するために変えられた前記第2の光路長差に加えて調整するための補正処理部と、を備え、
前記補正処理部により調整された前記反射或いは透過したテラヘルツパルスの時間波形を取得することを特徴とする情報取得装置。
【請求項10】
テラヘルツ波の時間波形を取得するための装置であって、
テラヘルツ波を発生させるための発生部と、
テラヘルツ波の強度情報を検出するための検出部と、
テラヘルツ波が前記検出部により検出されるタイミングを変えるための第1及び第2の遅延部と、
前記検出部により検出される前記テラヘルツ波における強度情報に関する予め設定された変化情報が取得されるように、前記第1の遅延部を制御するための第1の制御部と、
前記テラヘルツ波の時間波形が取得されるように、前記第2の遅延部を制御するための第2の制御部と、を備え、
前記第1の制御部による前記第1の遅延部に対する制御に基づいて、前記時間波形を取得することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−210560(P2009−210560A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324791(P2008−324791)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】