情報提示装置、自動車、及び情報提示方法
【課題】情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導する。
【解決手段】運転者が車両前方を注視するときの視界下側に、所定情報を画像表示するディスプレイ2を設置し、車速や走行道路の種類に応じた理想伏角Erを設定し(ステップS1〜S4)、この理想伏角Erが小さいほど、所定情報の表示位置Dhを高くし、表示可能領域の上枠に対して所定情報を接近させる(ステップS5)。また、所定情報の表示位置Dhを高くする際には、所定情報の文字サイズDsを大きくし(ステップS6)、且つ所定情報の表示輝度Dbを高くする(ステップS7)。そして、運転者の運転技量が低いほど、表示位置Dhは高くし、文字サイズDsは大きくし、表示輝度Dbは高くする(ステップS8〜S10)。
【解決手段】運転者が車両前方を注視するときの視界下側に、所定情報を画像表示するディスプレイ2を設置し、車速や走行道路の種類に応じた理想伏角Erを設定し(ステップS1〜S4)、この理想伏角Erが小さいほど、所定情報の表示位置Dhを高くし、表示可能領域の上枠に対して所定情報を接近させる(ステップS5)。また、所定情報の表示位置Dhを高くする際には、所定情報の文字サイズDsを大きくし(ステップS6)、且つ所定情報の表示輝度Dbを高くする(ステップS7)。そして、運転者の運転技量が低いほど、表示位置Dhは高くし、文字サイズDsは大きくし、表示輝度Dbは高くする(ステップS8〜S10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報提示装置、これを備えた自動車、及び情報提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中に運転者がナビゲーション情報等を提示したモニタに見入ってしまうことを防止するために、運転者の視線移動の頻度や車両の走行状態に応じて、モニタの縁を数種類のパターンで点滅させて、車両前方の左右や更に遠方への視線移動を促すものがあった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−264689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載された従来例は、運転者がモニタを視認しているときの視線移動を促すものであって、運転者が車両前方を注視しているときの視線方向を誘導するものではない。したがって、主に運転初心者は、車両前方の遠方ではなく手前の方に視線を向けてしまうが、こうした傾向のある運転者の視線方向を遠方へと誘導することはできない。また、モニタの縁を点滅させると、そこに運転者の注意を引きつけてしまい、期待した方向に視線を誘導できるとは限らない。
本発明の課題は、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る情報提示装置は、運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、表示手段に画像表示される所定情報の少なくとも表示位置を理想視線方向に応じて上下方向に変更することを特徴とする。
すなわち、設定した理想視線方向に応じて、表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向がある。
したがって、設定した理想視線方向に応じて、所定情報の少なくとも表示位置を上下方向に変更する、つまり表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することで、運転者の視線方向を上下方向に誘導することができる。
【0006】
例えば、所定情報の表示位置を高くすると、表示可能領域の上枠に対して所定情報が接近することになるので、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があり、運転者の視線方向を上方に、つまり遠方に向けさせることができる。
このように、無意識になされる視線移動の特性を利用しているので、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
《一実施形態》
《構成》
図1は、本発明の概略構成である。自動車1の運転席には、運転者が車両前方を注視するときの視界下側に、所定情報を画像表示する例えば液晶モニタ等のディスプレイ2が設置されている。ここでは、ナビゲーション情報、スピードメータ情報、オドメータ情報、燃料計情報、水温計情報を、所定情報として画像表示している。
コントローラ3は、図2の情報提示処理を実行することにより、ディスプレイ2への所定情報の表示形態を制御する。
【0008】
次に、コントローラ3で実行する情報提示処理を、図2のフローチャートに従って説明する。
先ずステップS1では、車速、及び走行道路の種類を読込む。走行道路の種類は、『細い市街路』、『市街路』、『ワインディング路』、『幹線道路』、『高速道路』の何れであるかをナビゲーション情報から判断し、可能であればインフラストラクチャから取得してもよい。
【0009】
続くステップS2では、図3の制御マップを参照し、車速に応じた運転者の理想視線方向として理想伏角Erを設定する。伏角とは、水平面に対して見下ろす側への視線方向の角度である。制御マップは、図3に示すように、車速が高くなるほど、理想伏角Erが小さくなるように設定されている。
続くステップS3では、図4の制御マップを参照し、走行道路の種類に応じて係数Krを算出する。制御マップは、図4に示すように、『市街路』では係数Krが1となるように設定され、『細い市街路』では係数Krが1よりも大きくなるように設定され、『ワインディング路』、『幹線道路』、『高速道路』では、係数Krが順に1よりも小さくなるように設定されている。
【0010】
続くステップS4では、下記(1)式に示すように、理想伏角Erに係数Krを乗じて最終的な理想伏角Erを算出する。
Er ← Er×Kr ………(1)
続くステップS5では、図5の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の表示位置Dhを決定する。ここで、表示位置Dhはディスプレイ2における下枠からの高さである。制御マップは、図5に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、表示位置Dhが高くなるように設定されている。
【0011】
続くステップS6では、図6の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の文字サイズDsを決定する。制御マップは、図6に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、文字サイズDsが大きくなるように設定されている。
続くステップS7では、図7の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の表示輝度Dbを決定する。制御マップは、図7に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、表示輝度Dbが高くなるように設定されている。
【0012】
続くステップS8では、運転経験や運転行動に基づいて運転者の運転技量(又は習熟度合)を推定する。先ず運転経験は、運転年数や運転頻度に基づいて判断され、運転年数は例えば運転者自らの入力情報やキーに予め登録した個人情報を利用し、運転頻度はナビゲーション装置の走行履歴情報を利用する。また運転行動は、直進走行時の操舵角のふらつき(高周波成分の多さ)や、急アクセル/急ブレーキの多さ等に基づいて判断する。
【0013】
続くステップS9では、図8の制御マップを参照し、運転者の運転技量に応じて係数Ksを算出する。制御マップは、図8に示すように、運転技量が低いほど、係数Ksが1までの範囲で大きくなるように設定されている。
続くステップS10では、下記(2)式に示すように、所定情報の表示位置Dh、文字サイズDs、表示輝度Dbの夫々に係数Ksを乗じて最終的なDh、Ds、Dbを算出する。
Dh ← Dh×Ks
Ds ← Ds×Ks
Db ← Db×Ks ………(2)
続くステップS11では、上記ステップS10で算出した最終的な表示位置Dh、文字サイズDs、表示輝度Dbに従って、所定情報をディスプレイ2に画像表示してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0014】
《作用》
運転技量の低い運転者(特に運転初心者)は、図9に示すように、車両前方の遠方ではなく手前の方に視線を向けてしまう傾向があるため、予見時間が短くなってしまい、余裕を持った運転操作がしにくくなる。そこで、こうした傾向のある運転者の視線方向を、熟達した運転者のように、車両前方の遠方へ向けられるように誘導することが望ましい。
【0015】
ところで、図10に示すように、窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向がある。
そこで、本実施形態は、車両の走行状況に応じて設定した理想伏角Erに応じて、所定情報の少なくとも表示位置Dhを変更する(ステップS5)、つまりディスプレイ2における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することにより、運転者の視線方向を上下方向に誘導する。
【0016】
すなわち、運転者の視線方向を上昇させたい場合には、図11に示すように、所定情報の表示位置Dhを高くし、表示可能領域の上枠に対して所定情報を接近させる。これにより、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があるので、運転者の視線方向は自然と上方に、つまり遠方に向くことになる。このとき、ディスプレイ2自体やインストルメントパネルごと上昇させるのではなく、あくまでも表示可能領域内での表示位置Dhを上昇させるだけなので、物理的に視界を狭めることはない。
【0017】
また、所定情報の表示位置Dhを高くする際には、所定情報の文字サイズDsを大きくし(ステップS6)、且つ所定情報の表示輝度Dbを高くする(ステップS7)。これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感を大きくして、前述した視覚効果を向上させる。
一方、運転者の視線方向を下げさせたい場合には、図12に示すように、所定情報の表示位置Dhを低くし、文字サイズDsを小さくし、表示輝度Dbを低くすることで、今度は逆に、窓枠の下枠が下降するかのような視覚効果となり、運転者の視線方向は下方に、つまり手前に向くことになる。
【0018】
このように、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導する。
また、理想伏角Erは、運転者の視線方向を、熟達した運転者のように例えば2秒程度の予見時間が得られるポイントへ向けさせるため、車速に応じて設定する(ステップS2)。すなわち、図13に示すように、車速が高くなるほど理想伏角Erを小さくし、視線方向がより遠方へ向くように設定する。
【0019】
但し、同じ車速であっても、走行道路(環境)によって運転者が注意を払うべきポイントは変化する。例えば『幹線道路』を走行している場合には、『市街路』に比べて側方からの飛び出し等に注意する必要性は低く、また相対車速の大きい車両が混走しているため、なるべく遠方を注視していた方が望ましい。したがって、走行道路の種類を判断し、これに応じて理想伏角Erを設定する(ステップS3、S4)。
【0020】
そして、運転者の運転技量が低いほど、理想伏角Erに応じた表示形態の変更度合を大きくする(ステップS8〜S10)、つまり表示位置Dhは高くし、文字サイズDsは大きくし、表示輝度Dbは高くする。これにより、運転技量の低い運転者に対しては、理想視線方向への誘導を効果的に行い、運転技量の高い運転者に対しては、不必要な視線誘導を抑制する。
【0021】
《効果》
以上より、ディスプレイ2が「表示手段」に対応し、ステップS1〜S4の処理が「設定手段」に対応し、ステップS5〜S7、S9〜S11の処理が「制御手段」に対応し、ステップS8の処理が「推定手段」に対応する。
(1)運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、表示手段に画像表示される所定情報の少なくとも表示位置を、設定手段で設定した理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段とを備える。
【0022】
一般に、窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向があるので、設定した理想視線方向に応じて、所定情報の少なくとも表示位置を上下方向に変更することで、運転者の視線方向を上下方向に誘導することができる。このように、無意識になされる視線移動の特性を利用しているので、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することができる。
【0023】
(2)設定手段は、理想視線方向として理想伏角を設定する。
これにより、理想的な視線方向を容易に設定することができる。
(3)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示位置を高くする。
これにより、表示可能領域の上枠に対して所定情報が接近することになるので、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があり、運転者の視線方向を上方に、つまり注視点を遠方へと向けさせることができる。
【0024】
(4)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示サイズを大きくする。
これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感が大きくなり、前述した視覚効果を向上させることができる。
(5)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示輝度を高くする。
これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感が大きくなり、前述した視覚効果を向上させることができる。
【0025】
(6)運転者の運転技量を推定する推定手段を備え、制御手段は、推定手段で推定した運転者の運転技量が低いほど、理想伏角に応じた表示形態の変更を促進する。
これにより、運転技量の低い運転者に対しては視線誘導の効果を高め、また運転技量の高い運転者に対しては不必要な視線誘導を抑制し、運転者に合わせた最適な視線誘導を行うことができる。
(7)設定手段は、車速に応じて理想視線方向を設定する。
これにより、所望の予見時間が確保できる理想視線方向を設定することができる。
(8)設定手段は、走行道路の種類に応じて理想視線方向を設定する。
これにより、走行シーンに合わせた最適な理想視線方向を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の概略構成である。
【図2】情報提示処理のフローチャートである。
【図3】理想伏角Erの算出に用いる制御マップである。
【図4】係数Krの算出に用いる制御マップである。
【図5】表示位置Dhの算出に用いる制御マップである。
【図6】文字サイズDsの算出に用いる制御マップである。
【図7】表示輝度Dbの算出に用いる制御マップである。
【図8】係数Ksの算出に用いる制御マップである。
【図9】運転技量に応じた視線方向である。
【図10】下枠の位置に応じて注視点が移動する様子である。
【図11】伏角を小さくしたいときの画像表示例である。
【図12】伏角を大きくしたいときの画像表示例である。
【図13】車速に応じた視線方向である。
【符号の説明】
【0027】
1 自動車
2 ディスプレイ
3 コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報提示装置、これを備えた自動車、及び情報提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中に運転者がナビゲーション情報等を提示したモニタに見入ってしまうことを防止するために、運転者の視線移動の頻度や車両の走行状態に応じて、モニタの縁を数種類のパターンで点滅させて、車両前方の左右や更に遠方への視線移動を促すものがあった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−264689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載された従来例は、運転者がモニタを視認しているときの視線移動を促すものであって、運転者が車両前方を注視しているときの視線方向を誘導するものではない。したがって、主に運転初心者は、車両前方の遠方ではなく手前の方に視線を向けてしまうが、こうした傾向のある運転者の視線方向を遠方へと誘導することはできない。また、モニタの縁を点滅させると、そこに運転者の注意を引きつけてしまい、期待した方向に視線を誘導できるとは限らない。
本発明の課題は、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る情報提示装置は、運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、表示手段に画像表示される所定情報の少なくとも表示位置を理想視線方向に応じて上下方向に変更することを特徴とする。
すなわち、設定した理想視線方向に応じて、表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向がある。
したがって、設定した理想視線方向に応じて、所定情報の少なくとも表示位置を上下方向に変更する、つまり表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することで、運転者の視線方向を上下方向に誘導することができる。
【0006】
例えば、所定情報の表示位置を高くすると、表示可能領域の上枠に対して所定情報が接近することになるので、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があり、運転者の視線方向を上方に、つまり遠方に向けさせることができる。
このように、無意識になされる視線移動の特性を利用しているので、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
《一実施形態》
《構成》
図1は、本発明の概略構成である。自動車1の運転席には、運転者が車両前方を注視するときの視界下側に、所定情報を画像表示する例えば液晶モニタ等のディスプレイ2が設置されている。ここでは、ナビゲーション情報、スピードメータ情報、オドメータ情報、燃料計情報、水温計情報を、所定情報として画像表示している。
コントローラ3は、図2の情報提示処理を実行することにより、ディスプレイ2への所定情報の表示形態を制御する。
【0008】
次に、コントローラ3で実行する情報提示処理を、図2のフローチャートに従って説明する。
先ずステップS1では、車速、及び走行道路の種類を読込む。走行道路の種類は、『細い市街路』、『市街路』、『ワインディング路』、『幹線道路』、『高速道路』の何れであるかをナビゲーション情報から判断し、可能であればインフラストラクチャから取得してもよい。
【0009】
続くステップS2では、図3の制御マップを参照し、車速に応じた運転者の理想視線方向として理想伏角Erを設定する。伏角とは、水平面に対して見下ろす側への視線方向の角度である。制御マップは、図3に示すように、車速が高くなるほど、理想伏角Erが小さくなるように設定されている。
続くステップS3では、図4の制御マップを参照し、走行道路の種類に応じて係数Krを算出する。制御マップは、図4に示すように、『市街路』では係数Krが1となるように設定され、『細い市街路』では係数Krが1よりも大きくなるように設定され、『ワインディング路』、『幹線道路』、『高速道路』では、係数Krが順に1よりも小さくなるように設定されている。
【0010】
続くステップS4では、下記(1)式に示すように、理想伏角Erに係数Krを乗じて最終的な理想伏角Erを算出する。
Er ← Er×Kr ………(1)
続くステップS5では、図5の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の表示位置Dhを決定する。ここで、表示位置Dhはディスプレイ2における下枠からの高さである。制御マップは、図5に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、表示位置Dhが高くなるように設定されている。
【0011】
続くステップS6では、図6の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の文字サイズDsを決定する。制御マップは、図6に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、文字サイズDsが大きくなるように設定されている。
続くステップS7では、図7の制御マップを参照し、理想伏角Erに応じて所定情報の表示輝度Dbを決定する。制御マップは、図7に示すように、理想伏角Erが小さくなるほど、表示輝度Dbが高くなるように設定されている。
【0012】
続くステップS8では、運転経験や運転行動に基づいて運転者の運転技量(又は習熟度合)を推定する。先ず運転経験は、運転年数や運転頻度に基づいて判断され、運転年数は例えば運転者自らの入力情報やキーに予め登録した個人情報を利用し、運転頻度はナビゲーション装置の走行履歴情報を利用する。また運転行動は、直進走行時の操舵角のふらつき(高周波成分の多さ)や、急アクセル/急ブレーキの多さ等に基づいて判断する。
【0013】
続くステップS9では、図8の制御マップを参照し、運転者の運転技量に応じて係数Ksを算出する。制御マップは、図8に示すように、運転技量が低いほど、係数Ksが1までの範囲で大きくなるように設定されている。
続くステップS10では、下記(2)式に示すように、所定情報の表示位置Dh、文字サイズDs、表示輝度Dbの夫々に係数Ksを乗じて最終的なDh、Ds、Dbを算出する。
Dh ← Dh×Ks
Ds ← Ds×Ks
Db ← Db×Ks ………(2)
続くステップS11では、上記ステップS10で算出した最終的な表示位置Dh、文字サイズDs、表示輝度Dbに従って、所定情報をディスプレイ2に画像表示してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0014】
《作用》
運転技量の低い運転者(特に運転初心者)は、図9に示すように、車両前方の遠方ではなく手前の方に視線を向けてしまう傾向があるため、予見時間が短くなってしまい、余裕を持った運転操作がしにくくなる。そこで、こうした傾向のある運転者の視線方向を、熟達した運転者のように、車両前方の遠方へ向けられるように誘導することが望ましい。
【0015】
ところで、図10に示すように、窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向がある。
そこで、本実施形態は、車両の走行状況に応じて設定した理想伏角Erに応じて、所定情報の少なくとも表示位置Dhを変更する(ステップS5)、つまりディスプレイ2における表示可能領域の上枠と、画像表示される所定情報との接近度合を変更することにより、運転者の視線方向を上下方向に誘導する。
【0016】
すなわち、運転者の視線方向を上昇させたい場合には、図11に示すように、所定情報の表示位置Dhを高くし、表示可能領域の上枠に対して所定情報を接近させる。これにより、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があるので、運転者の視線方向は自然と上方に、つまり遠方に向くことになる。このとき、ディスプレイ2自体やインストルメントパネルごと上昇させるのではなく、あくまでも表示可能領域内での表示位置Dhを上昇させるだけなので、物理的に視界を狭めることはない。
【0017】
また、所定情報の表示位置Dhを高くする際には、所定情報の文字サイズDsを大きくし(ステップS6)、且つ所定情報の表示輝度Dbを高くする(ステップS7)。これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感を大きくして、前述した視覚効果を向上させる。
一方、運転者の視線方向を下げさせたい場合には、図12に示すように、所定情報の表示位置Dhを低くし、文字サイズDsを小さくし、表示輝度Dbを低くすることで、今度は逆に、窓枠の下枠が下降するかのような視覚効果となり、運転者の視線方向は下方に、つまり手前に向くことになる。
【0018】
このように、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導する。
また、理想伏角Erは、運転者の視線方向を、熟達した運転者のように例えば2秒程度の予見時間が得られるポイントへ向けさせるため、車速に応じて設定する(ステップS2)。すなわち、図13に示すように、車速が高くなるほど理想伏角Erを小さくし、視線方向がより遠方へ向くように設定する。
【0019】
但し、同じ車速であっても、走行道路(環境)によって運転者が注意を払うべきポイントは変化する。例えば『幹線道路』を走行している場合には、『市街路』に比べて側方からの飛び出し等に注意する必要性は低く、また相対車速の大きい車両が混走しているため、なるべく遠方を注視していた方が望ましい。したがって、走行道路の種類を判断し、これに応じて理想伏角Erを設定する(ステップS3、S4)。
【0020】
そして、運転者の運転技量が低いほど、理想伏角Erに応じた表示形態の変更度合を大きくする(ステップS8〜S10)、つまり表示位置Dhは高くし、文字サイズDsは大きくし、表示輝度Dbは高くする。これにより、運転技量の低い運転者に対しては、理想視線方向への誘導を効果的に行い、運転技量の高い運転者に対しては、不必要な視線誘導を抑制する。
【0021】
《効果》
以上より、ディスプレイ2が「表示手段」に対応し、ステップS1〜S4の処理が「設定手段」に対応し、ステップS5〜S7、S9〜S11の処理が「制御手段」に対応し、ステップS8の処理が「推定手段」に対応する。
(1)運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、表示手段に画像表示される所定情報の少なくとも表示位置を、設定手段で設定した理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段とを備える。
【0022】
一般に、窓越しに前方を注視している状態で、窓枠の下辺だけ、つまり下枠だけを物理的に上昇させると、これに伴って人の注視点は上方に移動するという傾向があるので、設定した理想視線方向に応じて、所定情報の少なくとも表示位置を上下方向に変更することで、運転者の視線方向を上下方向に誘導することができる。このように、無意識になされる視線移動の特性を利用しているので、情報提示によって運転者の注意を引きつけることなく、理想的な視線方向へと誘導することができる。
【0023】
(2)設定手段は、理想視線方向として理想伏角を設定する。
これにより、理想的な視線方向を容易に設定することができる。
(3)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示位置を高くする。
これにより、表示可能領域の上枠に対して所定情報が接近することになるので、運転者からすると、あたかも窓枠の下枠が上昇するかのような視覚効果があり、運転者の視線方向を上方に、つまり注視点を遠方へと向けさせることができる。
【0024】
(4)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示サイズを大きくする。
これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感が大きくなり、前述した視覚効果を向上させることができる。
(5)制御手段は、理想伏角が小さいほど、所定情報の表示輝度を高くする。
これにより、運転者の視界に入る所定情報の存在感が大きくなり、前述した視覚効果を向上させることができる。
【0025】
(6)運転者の運転技量を推定する推定手段を備え、制御手段は、推定手段で推定した運転者の運転技量が低いほど、理想伏角に応じた表示形態の変更を促進する。
これにより、運転技量の低い運転者に対しては視線誘導の効果を高め、また運転技量の高い運転者に対しては不必要な視線誘導を抑制し、運転者に合わせた最適な視線誘導を行うことができる。
(7)設定手段は、車速に応じて理想視線方向を設定する。
これにより、所望の予見時間が確保できる理想視線方向を設定することができる。
(8)設定手段は、走行道路の種類に応じて理想視線方向を設定する。
これにより、走行シーンに合わせた最適な理想視線方向を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の概略構成である。
【図2】情報提示処理のフローチャートである。
【図3】理想伏角Erの算出に用いる制御マップである。
【図4】係数Krの算出に用いる制御マップである。
【図5】表示位置Dhの算出に用いる制御マップである。
【図6】文字サイズDsの算出に用いる制御マップである。
【図7】表示輝度Dbの算出に用いる制御マップである。
【図8】係数Ksの算出に用いる制御マップである。
【図9】運転技量に応じた視線方向である。
【図10】下枠の位置に応じて注視点が移動する様子である。
【図11】伏角を小さくしたいときの画像表示例である。
【図12】伏角を大きくしたいときの画像表示例である。
【図13】車速に応じた視線方向である。
【符号の説明】
【0027】
1 自動車
2 ディスプレイ
3 コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、前記表示手段に画像表示される前記所定情報の少なくとも表示位置を、前記設定手段で設定した前記理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段と、を備えることを特徴とする情報提示装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記理想視線方向として理想伏角を設定することを特徴とする請求項1に記載の情報提示装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示位置を高くすることを特徴とする請求項2に記載の情報提示装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示サイズを大きくすることを特徴とする請求項2又は3に記載の情報提示装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示輝度を高くすることを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項6】
運転者の運転技量を推定する推定手段を備え、
前記制御手段は、前記推定手段で推定した運転者の運転技量が低いほど、前記理想伏角に応じた表示形態の変更を促進することを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項7】
前記設定手段は、車速に応じて、前記理想視線方向を設定することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項8】
前記設定手段は、走行道路の種類に応じて、前記理想視線方向を設定することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項9】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、設定した理想視線方向に応じて、前記表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される前記所定情報との接近度合を変更することを特徴とする情報提示装置。
【請求項10】
情報提示装置を備えた自動車において、
前記情報提示装置は、
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、前記表示手段に画像表示される前記所定情報の少なくとも表示位置を、前記設定手段で設定した前記理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段と、を備えることを特徴とする自動車。
【請求項11】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、設定した理想視線方向に応じて、前記表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される前記所定情報との接近度合を変更することを特徴とする情報提示方法。
【請求項1】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、前記表示手段に画像表示される前記所定情報の少なくとも表示位置を、前記設定手段で設定した前記理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段と、を備えることを特徴とする情報提示装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記理想視線方向として理想伏角を設定することを特徴とする請求項1に記載の情報提示装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示位置を高くすることを特徴とする請求項2に記載の情報提示装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示サイズを大きくすることを特徴とする請求項2又は3に記載の情報提示装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記理想伏角が小さいほど、前記所定情報の表示輝度を高くすることを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項6】
運転者の運転技量を推定する推定手段を備え、
前記制御手段は、前記推定手段で推定した運転者の運転技量が低いほど、前記理想伏角に応じた表示形態の変更を促進することを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項7】
前記設定手段は、車速に応じて、前記理想視線方向を設定することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項8】
前記設定手段は、走行道路の種類に応じて、前記理想視線方向を設定することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の情報提示装置。
【請求項9】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、設定した理想視線方向に応じて、前記表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される前記所定情報との接近度合を変更することを特徴とする情報提示装置。
【請求項10】
情報提示装置を備えた自動車において、
前記情報提示装置は、
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段と、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定する設定手段と、前記表示手段に画像表示される前記所定情報の少なくとも表示位置を、前記設定手段で設定した前記理想視線方向に応じて上下方向に変更する制御手段と、を備えることを特徴とする自動車。
【請求項11】
運転者が車両前方を注視するときの視界下側に設置され所定情報を画像表示する表示手段を備え、車両の走行状況に応じて運転者の理想視線方向を設定し、設定した理想視線方向に応じて、前記表示手段における表示可能領域の上枠と、画像表示される前記所定情報との接近度合を変更することを特徴とする情報提示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−283934(P2007−283934A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114427(P2006−114427)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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